伏魔殿 菅義偉と官邸の支配者たち 
     (望月衣塑子田原総一郎前川喜平山田厚史、別冊宝島編集部)

この本は今から3年前の2020年に刊行されたものだ。
安倍・菅両氏とその取り巻きが生息する「官邸」。それはまさに伏魔殿と呼ぶにふさわし
いところだったようだ。
この本は、安倍・菅政権下の「官邸記者クラブ」の同調圧力や「詩織事件」「桜を見る会」
「森友・加計学園問題」などで、官邸内の取り巻きがどう動いたのかの記録である。
いまとなっては過去になりつつあるが、安倍・菅長期政権のなかで、このような腐敗政治
がおこなわれ今の岸田政権に引き継がれてきたことを、われわれはしっかりと記録に残し
ておく必要があるだろう。
この本の内容を見ると、いま自民党で問題になっている「政治資金パーティーをめぐる問
題」も決して驚くに足りない。政治の腐敗は極みに達している。
しかし、このような長期政権による腐敗政治をつくり出したもともとの原因は、われわれ
有権者の多くが投票にいかず、その結果として自民党に長期にわたって政権を許し続けた
結果であることを、しっかりと心にとどめておかなければならない。

過去の読んだ関連する本:
安倍政権のメディア支配
キャスターという仕事
右傾化する日本政治
国家の暴走
私物化される国家
Black Box


はじめに田原総一郎
(時代が要請する「本気」の政治リーダー)
・政権の運命を断つ可能性すらあった森友・加計学園問題を切り抜けたことは、安倍政権
 の内部に「何をやっても大丈夫だ」という緩みきった空気を送り込んだ。
 ひとことで言えば堕落である。
・「桜を見る会」の招待者名簿はなぜ廃棄されたのか。
 理屈にならない言い訳を並べ立て、その場しのぎの対応で乗り切ろうとする安倍首相や
 「菅義偉」官房長官の姿勢を見て、国民、有権者には不信感が充満している。
・しかし、それでもなお安倍政権の支持率は大きく下がらない。
 自民党の内部に、安倍政権に交代を迫る政治家がいないからだ。
・唯一、安倍政権に「ノー」と言っているのは「石破茂」さんだが、国民投票ならいざ知
 らず、総裁選で選挙権を持つ自民党の党員や議員には、石破さんを総裁にする度胸はお
 そらくないだろう。
・安倍1強状態がこれだけ長く続くことで、「忖度の時代」という弊害が生まれた。
・いま、時代が要請しているのは自ら意思表示して、イエス、ノーをはっきり言える政治
 リーダーだ。
 つまり「本気」で首相を目指している人物である。
・私が出会った「本気」の政治家に、田中角栄がいる。
 「二度と戦争を起こさない」という田中角栄の政治にはいつも信念があった。
 中曾根康弘さんも、日本という国が生き残りために、強固な日米関係の構築に政治生命
 を捧げた。 
 小泉純一郎さんにも「本気」を感じた。
 
映画「新聞記者」とジャーナリズム
(東京新聞・望月衣塑子記者が語った「官邸記者クラブ」の変貌と「同調圧力」への挑戦)
・集団のなかに1人の人間が組み込まれたとき、個が考えている、あるいは感じているお
 かしさや疑問が封印されてしまうという怖さが、テーマ、問題意識っだったのではな
 いかと私は感じています。
・2017年5月に、ジャーナリストの伊藤詩織さんが、TBSワシントン支局長だった
 「山口敬之」氏に性的暴行の被害を受けたとして、実名で記者会見しています。
 この事件では、いったん裁判所が出した山口氏の逮捕状が執行直前に取り消されるとい
 う極めて異例の事態が起き、それを決裁したのが「中村格」警視庁刑事部長(当時)で
 した。
・警察官僚の中村氏は、菅官房長官の秘書官をつとめたこともある、いわゆる元・官邸官
 僚。
 山口氏は、自身の著書でもアピールしているように安倍総理と非常に親しい。
 となれば当然、なぜ、逮捕にストップがかかったのか、追及されるのは当然ですよね。
・山口氏は刑事で不起訴となったものの、民事訴訟では2019年12月、伊藤詩織さん
 が勝訴して、山口氏側に330万円の支払いを命じる判決が出ています。
・ただし、逮捕状がなぜ取り消されたのかという件については、関係者から納得のいく説
 明がまだ引き出せていません。
・そもそも中村氏が「週刊新潮」の直撃取材に対し、「私が決裁した」などと捜査のプロ
 セスについて答えること自体が異例のことです。
 自分自身の背後にいる人物をかばおうとするあまり、つい「私が」と言ってしまったの
 ではないかという印象を持ちました。
・山口氏は「週刊新潮」の取材依頼メールを確認すると、即座に「北村」という人物にそ
 の内容を転送しようとして、誤って「週刊新潮」に返信しています。
 その「北村」さんが、当時内閣情報官で警察官僚出身の「北村滋」氏ではないかと疑わ
 れました。 
・山口氏の逮捕状が取り消された点については、いまだその理由が明らかにされていませ
 ん。
 起訴できるかをチェックする立場の検事が「証拠が揃っていないので逮捕を待て」とス
 トップをかけるケースはまれにあっても、いちど裁判所が発付した強姦や準強姦の逮捕
 状の執行を警察側が止めるというケースは、まず聞いたことがないという声がほとんど
 でしたね。
・中村氏が「証拠不十分」と判断して逮捕を止めた可能性は否定できないと思います。
 山口氏は大手メディアに所属する著名なジャーナリストであったため、証拠が脆弱なま
 ま逮捕すると「言論弾圧」のキャンペーンを張られるリスクを警戒したという可能性は
 あったかもしれません。
 しかし、それはあくまで推測にしかならないですよね。
・これまでも、菅官房長官との親密な関係で知られる広告代理店会長の横浜にある子会社
 が、TBSを退社した山口氏と顧問契約を結び、毎月42万円の顧問料を払っていたと
 いう事実が明らかになっており、官邸が山口氏を経済的にバックアップしてきた状況が
 一部で報道されています。
 森友疑惑をはじめ、安倍政権では、疑惑のキーマンと言われた国家公務員が、人事で海
 外転勤になるというケースがよく見られますが、こうした状況の不自然さを国民は十分
 感じ取っていると思います。
 
・記者に質問させない、向き合わない、ごまかすという態度は安倍政権の幹部に共通する
 特徴ですね。
 たとえば「麻生太郎」財夢相は、質問する記者に「逆質問」して恫喝し、肝心の質問に
 は答えないというスタイルを多用しています。あまりに器が小さいと私は感じます。
・伊藤詩織さんが勇気をもって実名で記者会見に臨み、真実を告白したことは、私たち女
 性記者にとっても大きな出来事でした。
 2018年4月に財務省の「福田淳一」事務次官(当時)がセクハラ問題で更迭されま
 したが、このとき福田氏のセクハラを告発したのはテレビ朝日の女性記者でした。
・実は、福田氏の度を超えたセクハラというのは以前から有名で、財務省を取材する女性
 記者たちは誰もが知っていました。
 ただ、それを告発すると、情報が取れなくなるという不安もある。
 たとえば事務次官室にいくと、女性記者はどんどん入っていくのに、部屋の前でアポを
 取れない男性記者たちがずっと張り付いている。
 女性記者が、そういう部分である種の優遇を受けているのをわかっているから、「ネタ
 優先」という部分でセクハラを黙認していたところがあったと思うんです。
 ただ、テレビ朝日の女性記者はやはり取材対象者と正常な向き合い方をしなくてはいけ
 ないという思いが強くて、告発に踏み切った。
 これは伊藤さんの勇気ある行動の波及効果でもあったし、女性記者たちの仕事の仕方に
 対するひとつの問題提起でもあったと思いますね。
・いまはSNSが世論形成に大きなウエイトを占めるようになって、かつてのように、権
 力側が「テレビと新聞を管理すればOK]という時代ではなくなりました。
 たとえば「桜を見る会」にしても、当初、共産党の「田村智子」議員がこの問題を取り
 上げた直後は、新聞、テレビの反応は薄かった。
 2019年11月の予算委員会でこの問題が出たわけですが、まず、ネットのなかで火
 がついた。 
 SNSとともにあらゆるメディアがどう連動するかによって、時代が動いていく。
 
伊藤詩織さん「性暴力訴訟」
(東京地裁に「却下」された元TBS記者・山口敬之氏の「合意あり」ストーリー)
・ジャーナリストの伊藤詩織さんが、山口敬之氏から性暴力を強要された事件が、男女間
 のプライベートな問題にとどまらず、ここまで大きく報道されるようになった最大の理
 由は、山口氏に「逮捕を逃れたのではないか」という疑惑がつきまとっているからであ
 る。
・山口氏はTBS時代、安倍首相ともっとも近い距離にいた記者の1人として知られ、
 「総理」「暗闘」という書籍も出版している。
・事件が起きた日から約2ヵ月後の2015年6月、詩織さんの告訴状を受理し、事件を
 捜査していた警視庁高輪署は、米国から帰国する山口を成田空港で逮捕する予定になっ
 ており、実際に裁判所から逮捕状も出ていた。
 だが、直前になって「中村格」警視庁刑事部長(当時)が逮捕状の執行を停止させたこ
 とがわかっている。 
 警察官僚の中村氏は、菅官房長官の元秘書官でもある。
・「安倍政権が、ベッタリ記者の逮捕を止めさせたのではないか」
 当然そのような疑惑が持ち上がった。
 ここで逮捕となれば、「総理親密記者が準強姦で逮捕」と悪い意味で注目され、政権の
 スキャンダルに発展していたことは想像に難くない。
・この不思議な逮捕中止については国会でも取り上げられたが、当事者たちは頑なに口を
 閉ざし、逮捕状がなぜ取り消されたのかはいまもわかっていない。
・その後、山口氏は不起訴処分となり、市民からなる検察審査会も不起訴相当と議決した
 ため、刑事事件を問われることはなかった。
 しかし、その後詩織さん側が民事訴訟を起こし、山口氏も反訴する法廷闘争に突入した。
・元TBSワシントン支局長という華麗な経歴の持ち主である山口氏だが、事件によって、
 厳しい社会的制裁を受けたことは疑いようがない。
・一時山口氏擁護に回っていた安倍首相回りの保守言論人も、一審判決後はさすがに沈黙、
 あるいは逃げ去った。
・山口氏本人は「私は犯罪者ではない」「法的な問題は何もなかった」と胸を張るが、た
 とえそうだとしても、ジャーナリストとしての山口氏が力を発揮できる場所はもはやど
 こにもない。
・山口氏はTBSを退職する直前、約1400万円の給与に加え、2つの会社の顧問を引
 き受けており、毎月数十万円の「顧問料」も受け取っていた。
 だが、すでにそれらの収入も絶たされている。
 ある意味で、刑事罰よりも重い「世間の風評」という厳しい判決がすでに下されている
 のである。 
・TBSワシントン支局長という立場にあった山口氏が、同所で働くことを切望していた
 2回り近くも年下の20代の女性に対し、さかんに好意的なメールを送り「いつでも仕
 事を紹介する」と飲みに誘っていた。
 これだけでも「就活セクハラ」に十分該当するだろう
・最大のミステイクは、性交渉を持ってしまったことだが、同意の有無にかかわらず、
 妻子ある人物が、これから支局で一緒に働く可能性があるかもしれない女生と、いきな
 りそういう関係になってしまうこと自体が山口氏の言説の「説得力」を失わせてしまっ
 ている大きな要因である。
・山口氏は裁判で、さまざまな理由を連ねて「下心」を否定しているが、それらはあまり
 にもウソ臭い。
 酩酊し、嘔吐している女性をやむなくホテルの自室に入れたとしても、そこで何もしな
 ければ問題なかった。
 職業上のモラルがない人物と批判されても仕方がない話である。
・山口氏は「48歳にもなった男は、性欲よりも疲労が先にくるもので、性的欲求はまっ
 たくなかった」という趣旨の主張をしているのだが、特に証拠があるわけでもない単な
 る言い分であり、結局は性行為に及んでいるのだから、説得力はかなり下がる。
・注目したいのは、恵比寿のすし店を出た山口氏と酩酊した詩織さんをシェラトン都ホテ
 ルまで乗せたタクシー運転手の証言だ。
 2人とはまったく利害関係のないタクシー運転手の証言には、リアリティと信憑性があ
 る。 
・運転手によれば、タクシーに乗り込んだ詩織さんは「近くの駅まで行ってください」と
 頼み、タクシーは目黒駅に向かった。
 「そろそろ(目黒駅に)着きますよ」と声をかけたとき、山口氏が「都ホテルに行って」
 と行き先を変更し、「その前に駅で降ろしてください「」と詩織さんが言ったにもかか
 わらず「仕事の話があるから。何もしないから」と山口氏が行き先を変更させている。
 その後、詩織さんは嘔吐し、降りる時もしばらく動けなかった。
・このような状態で「仕事の話」ができるとも思えないが、詩織さんがあくまで駅で降り
 たがっていたこと、山口氏が「何もしないから」と発言したことは注目に値する。
 山口氏の「何もしないから」発言は、詩織さんが「2人でホテルに入ったら何かされる」
 と警戒していることを見越した発言と推測され、そうであるならば、この先に起きる展
 開を、十分イメージしながら行動していたということになる。
・この運転手の証言によれば、詩織さんは言葉を出せなくなり、山口氏に抱きかかえられ
 るようにしてシェラトン都ホテルのなかに消えていったという。
・詩織さんは「すし店のトイレから記憶がなくなっており、体に痛みを感じ、ふと意識を
 取り戻すと、そのとき山口氏が自分の体の上にのしかかってた」という説明をしている。
・山口氏によれば、詩織さんは自ら脱衣に協力し、性交に至ったという。
 しかし、最初は勃起不完全で中断し、その後、詩織さんが勃起に協力して再度挿入、し
 かしここで詩織さんが「痛い」と声をあげたため、射精には至らないまま性行為は終了
 したというのである。
 これは山口氏の説明で、事実かどうかはわからない。
・山口氏の主張は2点あり、当初はまったく詩織さんに性的関心を持っていなかったこと
 と、結果的に誘われる形で性交渉に至ったが、それは合意のうえのものだったというこ
 とである。 
・ただし、山口氏の主張で疑問に思うのは、女性と合意があったのなら、どうして性交渉
 の直後からトラブルに発展したのかという点だ。
・山口氏の理解では、何が何でも仕事のチャンスを失いたくなかった詩織さんが、山口氏
 が心変わりしないように「体を張った」ということになる。
・もし詩織さんがそこまで考えていたのであれば、TBSのワシントン支局で働くという
 話を、その時点で山口氏が断ったわけでもないのに、警察に性被害を訴える行動に出る
 はずがない。
・女性の側が、金銭や何かしらの見返りを条件に性交渉に応じるという場合、その約束が
 守られなかったときに、相手を告発することは動機として十分考えられる。
 しかし今回のケースでは、性交渉があった日から2週間ほど、山口氏は詩織さんに採用
 に関するメールを送っており、詩織さんが仕事をゲットするために納得して山口氏と寝
 たのであれば、そのまま黙って採用の話を進めてもらうはずだろう。
・山口氏は、避妊具をつけずに性交したが、最終的に射精には至らなかったと説明してい
 る。 
 しかし、詩織さんへのメールでは、妊娠する可能性がない理由として「精子の活動が著
 しく低調だという病気です」と説明している。
 射精に至らなくても妊娠する可能性はあるが、この時点で「射精していない」という説
 明をしなかったのはなぜか。それも疑問点である。
・今回の「準強姦疑惑」のもうひとつのポイントは、山口氏への「逮捕状」が執行停止と
 なった理由についてである。 
 この問題は、ある意味、男女間の係争にとどまらない重大な意味を持っている。
・詩織さんの告訴状を受理し、事件を捜査していた警視庁高輪署は2015年6月、帰国
 する山口氏を成田空港で逮捕する予定になっていたが、直前で中村格・警視庁刑事部長
 (当時)が決裁し、逮捕状の執行を停止させた。
・中村氏は「週刊新潮」(2017年3月)の取材に対しこう答えている。
 「ありえない。(山口氏の立場に)関係なく、事件の中身として、(逮捕は必要ないと)
 私が決裁した。(捜査の中止については)指揮として当然だと思います。自分としては
 判断した覚えがあります」
・山口氏は「週刊新潮」の取材を受けたとき、致命的失態を演じている。
 同志の取材依頼メールを、ある人物に転送しようとして、誤って「週刊新潮」に送って
 しまったのだ。 
 そこにはこう書かれていた。
 「北村さま、週刊新潮より質問状がきました。伊藤の件です」
・「週刊新潮」は、この「北村」なる人物を警察官僚出身の「北村滋」内閣情報官(当時)
 と断定している。
 このメールの誤送信は、山口氏の痛恨のミスだった。
 官邸の危機管理や裏仕事を一手に担っているとされ、「首相動静」に毎日のように登場
 していた北村氏に、山口氏が即座に相談メールを送り対応を相談していたことは、不可
 解な「逮捕状執行停止」に何らかの政治力が働いたのではないかという心象をいっそう
 深める結果となった。
・権力が、逮捕状取り消しに関与していないかどうかという極めて重大なポイントである
 にもかかわらず、山口氏は「「その方に迷惑がかかる」という理由で「北村さん」の素
 性を明かさない。 
 この不自然さが、山口氏の主張の「信用性」を大きく低下させていることに、本人は気
 づいているのだろうか。
・山口氏が、官邸官僚や政治家に「逮捕を止めてほしい」と依頼していないという主張が、
 事実である可能性はある。
 山口氏が逮捕された場合の政官側のダメージを「忖度」した官僚たちが、先回りして山
 口氏に知らせず逮捕を止めたというケースも十分に考えられるからだ。

スター記者はなぜTBSを退社したのか
(「詩織事件」が教える権力に近づきすぎたジャーナリストの「末路」)
・「山口氏は伊藤詩織さんの事件でTBSを退社した」と理解している人は多い。
 山口氏の退社は2016年5月末であり、事件が起きたのは前年の4月上旬であった。
 この間、山口氏は準強姦事件の捜査を受け、書類送検されたものの不起訴となっている。
・だが山口氏は「事件」の直前に、ある記事を「週刊文春」誌上に寄稿しており、その後、 
 TBSから懲戒処分を受け、営業局のローカルタイム営業部へ「異動」を命じられてい
 た。
・問題とされたのは、「週刊文春」(2015年3月)に掲載された山口氏のレポート
 「韓国軍にベトナム人慰安婦がいた 米機密公文書が暴く朴槿恵の急所」
 である。
・その内容は、韓国軍がベトナム戦争中にサイゴンに「慰安所」を設置していたというも
 ので、米国内で発見した公文書に「韓国軍による韓国兵専用の慰安所」の存在が明示さ
 れていたことを発掘したスクープだった。
・この記事は当時、慰安婦問題をめぐり韓国側と厳しく対立していた安倍政権にとって、
 「追い風」となる内容になっており、実際に保守系メディアはこぞってこの山口レポー
 トを取り上げ、韓国側への攻撃材料とした。
・しかし、TBSは寄稿に至る手続きを問題視し、ワシントン支局長だった山口氏を4月
 に解任。
 時期でいえば、伊藤詩織さんとの「問題の夜」の約20日後のことである。
・つまりこの時期、山口氏は「週刊文春」への寄稿問題と、詩織さんとの間で起きた問題
 を同時に抱えていたということになる。
・山口氏はTBS退社とほぼ同時に著書「総理」を出版し、ベストセラーとなった。
・結論から言えば、「山口氏は安倍首相をアシストするためにこの記事(韓国軍慰安婦)
 を書いた可能性が高いが、その中身は捏造に近いものだった」ということだ。
・山口氏のレポートの同じ資料を現地で確認した「有馬哲夫」早大社会科学部教授は、
 「週刊新潮」に次のような見解を寄せている。
 「公文書にはその施設で売春が行われていた記述はあります。しかし問題となるのは、
 それが慰安所なのか一般の売春宿(と変わらないもの)なのかという点です。
 慰安所という言葉を使うのであれば、その施設に軍医や憲兵がいるなど、きちんと軍が
 運営管理していた実態を把握する必要があります。しかし、公文書からはそうした事実
 は読み取れません。逆に一般に開かれた施設であることを文書は・証明しているので、
 一般大衆に開かれていては性病予防が徹底できず軍用にふさわしくない。
 文書にそうあり、その要旨からもあり得ないのに、山口氏は故意に無視しており、捏造
 と言われても仕方ないでしょう」
・もともと山口氏はTBSで報道番組を作るべく取材をスタートさせた。
 しかし、TBSは「報道するに足る裏づけがないと判断し報道はしません」と回答。
・この取材は「お蔵入り」になるかと思われたが、山口氏は「韓国軍に慰安婦」の取材内
 容を発表することにこだわった。
 山口氏はTBSに許可なく「週刊文春」に記事を持ち込み、発売前のゲラなどを当時の
 駐米公使や駐米大使、日本の産経新聞などに送信。
 官房長官記者会見や、米国国務長官の広報官会見でこの内容を息のかかった記者に質問
 させようとしていた。
 その目的は、安倍外交を「アシスト」するためである。
・戦時中の犯罪を検証する目的ではなく、権力者に取り入り、援護射撃するために、不正
 確な情報を「スクープ」として他社に持ち込み発表する。
 これが果たしてジャーナリストの仕事なのだろうか。
・山口氏は、太鼓持ちタイプが多いと言われる安倍首相周辺の取り巻きのなかでも、とり
 わけ「アベ友レベル」の高い記者として知られていた。
 一部雑誌では、NHKの「岩田明子」記者、産経新聞の「阿比留瑠比」記者と並び「3
 大取り巻き」などと揶揄されたこともある。
・権力の中枢に接近しすぎた山口氏は、自ら戒めた「内なる覚悟」を見失ってしまったの
 ではないだろうか。 
 スキャンダルに見舞われた山口氏を諦観する安倍首相と菅官房長官。
 自らを権力者と勘違いしてしまった人間の「残酷な末路」がここにある。
 
区分「60」をめぐる攻防
(「桜を見る会」の焦点 安倍首相と「ジャパンライフ」 知られざる「点と線」) 
・「桜を見る会」において、招待者名簿の区分「60」の特定がひとつの焦点となった理
 由は、マルチ商法で知られた「ジャパンライフ」(2017年倒産)の「山口隆祥」元
 社長との関連性である。
・山口氏は2015年、「桜を見る会」の招待状を誇示するかのような宣伝チラシを作成。
 そこには「安倍晋三内閣総理大臣から山口会長に「桜を見る会」のご招待状が届きまし
 た」という文言とともに、「60−2357」という番号が印刷された受付票が明示さ
 れていた。
・もし「60」が綜理枠であれば、安倍首相自身が全国に被害者を生み出し社会問題化し
 た企業のトップを「桜を見る会」に招待したということになるわけである。
・内閣府が招待者名簿を「すぐさま破棄」したと言い張るのも、ひとえに安倍首相と山口
 氏の接点を断ち切るための工作と見られている。
・「桜を見る会」の問題を隠すために「文書破棄」「資料陰蔽」というはるかに重大な
 「罪」に手を染めたのは、あの森友・加計学園問題のときとまったく同じ手口だ。
・各所で指摘されていることではあるが、政治家を守るために、官僚たちが平気で文書を
 破棄する世の中にしてしまった政権は罪深い。
・安倍首相が隠したい「ジャパンライフ」との関係性とはいったいどのようなものだった
 のか。 
・安倍首相はこれまで、野党の追及に対し「山口氏との個人的関係は一切ない」「妻も山
 口氏とは面識はない」という説明をしてきた。
 そうであるならば、どうして「総理枠」から招待状が発送されたのかという疑問は残る。
・ジャパンライフは、1980年代の時点で8億円だった売上高が、1983年になると
 450億円に達したという。
 この急成長の背景にあったとされるのが政財界への献金による「太いパイプ」であった。
 当時を知る記者は語る。
 「献金先は、中曽根康弘首相(当時)や石原慎太郎、安倍晋太郎、山口敏夫ら多岐にわ
 たりました」 
・山口氏は、監督官庁のOBをジャパンライフに招き入れることで、事業を円滑に進める
 日本の「流儀」に長けていた。
・ジャパンライフの名前が再び取りざたされるようになったのは2015年のことだった。
 このころから、ジャパンライフに対する高齢者の「苦情」が急増。
 事態を重く見た消費者庁が調査に入り、2016年12月と2017年3月にそれぞれ
 業務停止命令を出した。
・ジャパンライフの顧客は70代以上の高齢女性が8割を占めていたが、彼女たちは
 「磁気治療器を購入し、委託するだけで年利6%」  
 といった謳い文句にだまされ、資金を回収できなくなっていた。
 高齢者を狙った典型的な「現物まがい商法」である。
・この過程で、行政処分の前の2014年に消費者庁幹部がジャパンライフに天下ってい
 たことも判明したが、この不適切な天下りについては、なぜか不問に付されている。
・この問題をいち早く指摘していたのは共産党の「大門実紀史」議員だった。
 2017年の段階で、ジャパンライフの「お中元リスト」に安倍首相や麻生太郎財務相
 の名前があることや、「下村博文」元文科相への政治献金、さらには「加藤勝信」氏が、
 消費者庁から1回目の営業停止処分が出た直後の2017年1月、山口氏と会食してい
 たことも明らかにしたのである。
・この問題が当時、さほど大きく取り上げられなかった理由ははっきりしている。
 森友問題だ。
 当時のメディアは「森友シフト」で動いており、ジャパンライフを攻める余裕がなかっ
 たのだ。 
・大門氏は、2015年に同社の被害の認定事実が増加したことを紹介。
 山口隆祥元会長に「桜を見る会」の招待状が送付されたのが2015年2月で、この招
 待状を利用し経営悪化で追い詰められた同社が”最後の荒稼ぎ”で強引な勧誘をすすめて
 いたのではないかと指摘しました。
・2014年5月段階ではジャパンライフ問題に厳しく対処する姿勢を示していた消費者
 庁だったが、その後の人事異動で担当課長が交代すると、とたんに態度を軟化させる。
・ジャパンライフ側の息のかかった政治家、官僚が動き、2015年2月に「総理枠」
 から招待状が発送されたのではないか。
 安倍首相がそれを知らなかった可能性はあるが、もしそうであったとしても責任は免れ
 ない
・山口氏は、招待状を受けただけで「桜を見る会」は欠席したという。
 もちろん、目的は「招待状がきた」と親密関係を宣伝することだから、実際に参加する
 必要はないのである。
・こうした疑惑の構図は、まさに政治を私物化して「お友達」を救うという、これまで何
 度となく繰り返されてきた政権の「病巣」そのものである。
・桜を見る会については、公私混同や招待者数の増加、不適切な文書破棄など、あらゆる
 視点からの「ダメ出し」がなされているが、もしジャパンライフの「最後の荒稼ぎ」に
 政権が加担していたとすれば、次元の違うスキャンダルとなる。
・この重大性を認識しているからこそ、官邸は文書を破棄させ、区分「60」の意味を隠
 し、必死で言い訳を考えている。
 この「異様な必死さ」が、逆に疑惑の重みを感じさせるのである。
  
2019年「官房長官記者会見」ハイライト
(「なぜ会見を打ち切るんだ!」「桜を見る会」追及記者たちの白熱「官邸記者会見」)
・官房長官として長期にわたり、定例会見に臨んでいる菅氏であるが、「桜を見る会」
 に関する質問については、苦慮している様子が明らかだ。
・2019年12月4日の会見では、朝日新聞、毎日新聞、東京新聞、北海道新聞から
 「桜を見る会」について総攻撃を受け、答えに窮した官房長官に事務方から10回以上
 も「お助けメモ」が差し入れられた。
・また同年12月25日の会計では、やはり「桜を見る会」についての質問が続くなか、
 途中で会見を打ち切ろうとした官邸報道室長に対し、幹事社や挙手していた社の記者が
 抗議。
 紛糾した挙句にそのまま「延長戦」に突入するという異例の展開となった。

ポスト安倍「圏外」に去った”令和おじさん”
(「陰謀論」まで渦巻く菅義偉官房長官「急失速」の深層)
・2019年9月の内閣改造後、菅氏の周辺で、まるで狙い打ちにされたかのようなスキ
 ャンダルが続発した。
 「河井克行」法相(当時)、「菅原一秀」経産相(当時)の大臣辞任と、河井氏の妻・
 「案里」参議院議員の公選法違反疑惑。
 河井氏、菅原氏はいずれも菅氏の側近で、入閣は「菅人事」と呼ばれた。
・また、同時に入閣した「小泉進次郎」環境相についても、就任以降の発言が「意味不明」
 と酷評され、私生活上のスキャンダルも報じられている。
 小泉氏もまた”菅派”の1人だ。
・さらに、菅氏の懐刀と呼ばれる「和泉洋人」首相補佐官と、厚労省の女性幹部官僚
大坪寛子)の「京都不倫旅行」が週刊誌に報じられた。
・2019年12月には、IRをめぐる汚職事件で「秋元司」衆議院議員が逮捕されたが、
 IRの旗振り役をつとめていた菅氏にも「火の粉」が降りかかる可能性は十分にある。
・菅氏の求心力がここにきて失速した原因の1つに、以前のように官僚とメディアをうま
 くコントロールできなくなってきたことがあげられる。
・これまで安倍政権を支えてきた菅氏の危機管理能力とは、言い換えれば「官僚支配力」
 でもあった。
 内閣人事局を仕切り、霞が関の人事を掌握することで官僚たちに睨みを利かせ、いわゆ
 る「官邸官僚」たちを操縦して不祥事をもみ消し、封じ込める。
・だが、その手法をあまりに長く繰り返したあと、同じ官邸官僚たちがいつまでも幅を利
 かせていることに対し、国民、現役官僚たちの「不満」が抑えきれないところまで増幅
 しているのだ。 
・野党の合同ヒアリングに駆り出され、苦しい言い訳と官僚答弁に終始する国家公務員の
 姿を、これまで何度見せられたかわからない。
 政治の私物化をはっきり批判したのは「前川喜平」元文科省事務次官など極めて少数で、
 多くの官僚たちが「政権の闇」の陰蔽工作に加担させられている。
・2019年12月、かんぽ生命の保険の不適切な販売問題で、日本郵政グループ3社長
 と、「鈴木康雄」上級副社長が辞任した。
 鈴木氏は、第一次安倍内閣において総務相だった菅氏に仕え、2007年に成立した改
 正放送法を、菅氏の意向に沿って作り上げた人物として知られている。
・その鈴木氏は2018年、かんぽ商品の不正販売を報じたNHKの「クローズアップ現
 代+」に対し、強硬に抗議した。
 鈴木氏の背後に菅官房長官の影を見たNHKは震え上がり、続編の放送がいったん延期
 となったこともある。
・だが、そんな鈴木氏も辞任に追い込まれた。
 総務省が日本郵船グループへの処分を検討したところ、その情報が総務省事務次官から
 鈴木氏に筒抜けになっていたことがわかったからである。
 いまなお総務省に影響力を持っていたと言われる菅氏も、子飼いの元官僚への懲戒処分
 を撤回させることはできなかった。
 「高市早苗総務相は、菅官房長官に根回しせず次官と副社長を更迭した」とも囁かれて
 いる。
 これも、菅氏の政治力低下を象徴するような事件であった。
 
・「安倍1強」時代が長期化するとともに、「政」の慢心と驕りが、官僚の側にも伝播す
 るようになった。
 内閣府にあらゆる権限を集中させた結果、総理や官房長官の「側用人」たちが増え、官
 邸官僚たちが政権の「スキャンダル隠し」に暗躍するようになった。
 出現するのは究極の「忖度社会」である。
・「桜を見る会」問題に関して、「ブレまくり答弁」の失態を演じた菅官房長官。
 政界関係者の間でも「これまで危機管理能力が高かったわけではなく、厳しく追及され
 ていなかっただけではないか」と言われて始めている。
  
「ドミノ辞任」で始まった悲劇
(わずか3カ月で「天国から地獄」!悪夢のスイッチを押した「菅原7・河井・新次郎」
 の馬脚)
・201910月、相次いで報じられた「河井案里」参院議員と「菅原一秀」経産相(当
 時)の公選法違反疑惑。
 入閣直後だった河井氏の夫、河井克行と菅原氏はそれぞれ法相と経産相を辞任し、内閣
 改造は大失敗に終わった。
・この「ドミノ辞任」を機に、菅氏は一気に閣内における影響力を落とし、ここから政権
 の負の連鎖が始まることになる。
・河井氏がポイントを挙げたのは、「鳩山邦夫」氏の死去にともなう2016年10月の
 衆院補欠選(福岡6区)である。
 菅官房長官と「二階俊博」幹事長は、邦夫氏の息子である二郎氏を立てたが、福岡を地
 盤とする麻生財務相は常県連会長の息子である蔵内謙氏を強行出馬させた。
 結果は二郎氏が圧勝したが、この選挙で汗をかいたのが河井氏だったのである。  
・ライバルの麻生氏に打ち勝った菅氏は河井氏を高く評価し、それが2019年参院選の
 「河井案里」擁立につながっていく。
 器用な立ち回りと忖度度で、河井氏は「首相の参謀の参謀」というポジションを固めて
 いった。
 だが、参院選で案里氏を無理に出馬させ、結果的に岸田派の溝手氏を落選させたことは、
 地元と執行部に大きな禍根を残すことになった。
・菅氏にとって、もうひとつ不運だったのは小泉進次郎環境相の意外な失速だ。
 2019年9月の内閣改造で、環境相としてサプライズ入閣を果たした小泉氏。
 前月にはアナウンサーの滝川クリステルと結婚を発表し、一気に「進次郎ブームが再燃
 したが、これも菅氏の仕掛けだった。
・もともと安倍首相が、かつて自民党総裁選で石破氏に投票した小泉氏を快く思っていな
 いことは周知の事実。
 だが、当時は消費増税を前にし、何とか政権支持率浮揚の土台をつくりたいという事情
 もあった。
・「クリステルとの結婚報告も最初は菅氏で次が首相。手駒になった進次郎を最善のタイ
 ミングで入閣させた菅氏ですが、あまりにそのインパクトが強く、あらゆるメディアに
 ”菅人事”と書かれたため、党内の警戒感が急激に増すことになってしまった」
・「キジも鳴かずば撃たれまい」という言葉もあるが、目立てば反動があるのが政界の常。
 最強の「進次郎カード」を切ったものの、誤算はフィーバーが長続きしなかったことだ
 った。 
・大臣ともなれば、口先だけではなく、実行力が問われる。
 だが、これまでの評価が過大すぎたせいか、進次郎語録は「ポエム」「お花畑」「中身
 なし」と酷評された。
 しまいには独身時代の不倫疑惑まで飛び出し、その株価は「ストップ安」となってしま
 ったのである。

進行するNHKの「官邸植民地」計画
(前田晃伸・新NHK会長の知られざるルーツと「富士銀行行員顧客殺人事件」
・NHK会長に元みずほフィナンシャルグループ(MFG)社長の「前田晃伸」氏が就任
 した。(2020年)
・ゴルフはしない、休日は自宅で読書と庭いじり。出勤は誰よりも早く、暗いうちに自宅
 を出て、猛烈に仕事をする。
 その一方で、周りを見下すような自信家で、頭を下げるのは苦手。
 スマートな行員が多かった富士銀行で、その泥臭さは異色だった。
・前田氏がライバルを押しのけてトップに立つきっかけとなったのは、富士銀行で起きた
 「殺人事件」である。
・1998年7月、埼玉県・春日部支店の富士銀行行員が、顧客の老夫婦を殺害し埼玉県
 警に逮捕された。 
・事件は、銀行の仕事の中で起きた。
 動機など細かな解明はこれからだが、特殊な行員の非常識な犯罪、として済ますわけに
 はいまない。
 不良債権や貸し渋り、という今の銀行が抱えている問題と無関係とは思えない。
・市民社会は小さな約束事が折り重なってできている。
 サラ金にはドアを閉ざしても、銀行には開かれる。
 富士のような「立派な銀行」では行員のモラルも高いはずだ。
 盗まない、ごまかさない、だから大切なカネを預ける。
 その了解の上に銀行の仕事は成り立ってきた。
 その信頼関係を銀行の側が崩している。
・バブルのころ富士銀行に「しもたや作戦」と呼ばれる営業があった。
 老人世帯に「相続対策」と称して多額の融資をしたのだ。
 バブルはじけて老人家庭が債務の重圧にあえぐ結果となった。
・富士銀行だけではない。
 全国的に広がりを持つ変額保険の訴訟では「被害者」の多くは老人である。
 銀行を信用しきっている老人は、ノルマに追われる営業マンにとって、手早く業績を上
 げられる顧客だった。  
 収益競争の中で高齢者をおろそかにしてきた銀行の姿勢が、今回の事件に重なって見え
 る。
・過剰な貸し出しで不良債権の山ができると、一転して銀行は「貸し渋り」に走っている。
 富士銀行は「2兆円の圧縮計画」に沿って全支店で資金回収に必死だ。
 かつての融資ノルマは回収ノルマに変わった。
 資金を引き揚げられる顧客はとまどい、怒る。
 まじめにお客と接してきた担当者ほど、本部の方針と客の苦情の間で板挟みになり、
 苦しんでいる。
・捜査当局のよると、老夫婦からだまし取った1600万円は、資金繰りに困った運輸業
 者に渡ったという。 
 この業者は、前の担当者から引き継いだ大事な取引先だったという。
・山一証券や北海道拓殖銀行を引くまでもなく、経営の失敗で犠牲になるのは現場の人た
 ちだ。 
 本店の意向が絶対視される閉鎖社会で、しわ寄せは懸命に仕事をする人ほど受けやすい。
・手厚く保護されてきた銀行は、経営の失敗が表面化されにくい。
 市場による淘汰が働かず、病状は内部に広がる。
 兆単位の不良債権が発生してもだれも責任をとらない。
 都合のいい数字を発表して実態を隠す。 
 強い者と癒着し弱者は見捨てる。
 そういう経営モラルの崩壊が、不正につながる芽を早めに摘む、という基本をおろそか
 にしてこなかったか。
 頭取がきちんと釈明しないのが不思議である。
・当時の富士銀行の頭取は、後にみずほホールディング会長になる「山本恵朗」氏だった。
 事件が起きても山本氏は最後まで記者の前に現れず、企画・広報担当の取締役だった前
 田氏が防波堤となった。
・頭取が表に出て謝れば、経営責任が問われるのは必至だった。
 カメラのフラッシュを浴び、会見で頭取が詫びる姿が報道されれば、世間の目は「銀行
 の責任」へと向かう。
 庶民が預金引き上げへと動くかもしれない。
 富士銀行は存亡の危機に晒される恐れがあった。
・そこで「頭取を、絶対に世間の前に出さない」という広報戦略の指揮をとったのが前田
 氏だった。 
・前田氏は、埼玉県警や金融庁に頭を下げてまわり、頭取が記者会見をしないで済むよう
 に画策した。
 広報部員をメディア各社に接触させ、事件が「経営問題」として取り上げられないよう
 防戦に当たったのである。
・春日部の事件は「危機管理ができる男」として前田氏の評価を高めた。
 喜んだのは首がつながった山本恵朗頭取である。
 翌年の人事で、前田氏は常務に昇進する。
・春日部事件を乗り切ったものの、富士銀行は輝きを失い、自力で存続することさえ危う
 くなった。  
 行き着いた先が日本興業銀行、第一勧業銀行との経営統合である。
・当時、「都市銀行の雄」とされる富士と「産業金融の主役」である興銀の合併構想があ
 った。 
 2つの銀行は、大蔵省銀行局が頼りにする優等生で、石を投げれば東大卒に当たるとい
 う行風も似ていた。
 大量の不良債権を抱えることも共通していた。
 そこで比較的不良債権が少なく、預金と店舗が圧倒的に多い第一勧銀を取り込むことで、
 3行統合へと動いた。
・持ち株会社のみずほホールディング(当時)に社長に第一勧銀頭取の「杉田力之」氏を
 据え、富士の山本氏と興銀の「西村正雄」頭取が会長に就いた。
・20年後、前田氏がNHK会長に推挙される伏線はここに始まる。
 西村氏は安倍晋三首相の父・安倍晋太郎氏の異父兄。つまり「首相の叔父さん」である。
・2000年に3行は統合され巨大銀行が誕生したが、そこで始まったのが「陣取り合戦」
 だった。
 主導権とポストをめぐる「冷たい内戦」が日常化する。
 富士銀行副頭取だった前田氏は、3頭取を支える「実務部隊の富士代表とあった。
 2002年、経営陣は代替わりし、前田氏はグループの持ち株会社であるみずほホール
 ディングス(後にみずほフィナンシャルグループ)の社長になる。
・社長に就任した2002年4月1日、みずほグループのシステムがダウンした。
 準備が不十分のまま、3行のシステムを統合したため、大規模な誤動作が起こった。
 ATMが止まり、送金・入金など「勘定系システム」で異常が発生。
 給与が振り込まれないなど大混乱になった。
 復旧までに2週間以上がかかり、金融庁から業務改善命令が出された。
・グループの総帥であった前田氏は、稼働2日前にシステムに不具合が生じることを知ら
 されていた。
 だが、統合を先送りすることはできないと運用開始に踏み切った。

・前田氏は有能だが大将の器ではない。
 参謀タイプだ。
 頭取を補佐して策略を巡らすことには長けているが、部下に慕われるような人望はない。
 他人の話に耳を傾けるより、自分の言いたいことが先に出る。
・巨大組織のNHKに舞い降りて何をしたいのか。
 権謀術数が渦巻く組織である。
 再任と見られていた「上田良一」前会長が外された一因は「官邸の不評を買ったから」
 といわれている。
・NHKは政治部に「安倍首相べったり」が目立つが、政策部門が手がけるドキュメンタ
 リー番組は独自の視点で描かれ、政権への忖度は感じられない。
 製作者じゃ記者クラブに属さず、時間と予算をふんだんにかけてさまざまな問題を世に
 問う。
 それを「政権批判」と受け取る首相官邸側から「現場を抑えられる会長を」という声が
 上がっているという。
・その動きが表面化したのが「かんぽ生命の不正販売」を描いた2018年4月の「クロ
 ーズアップ現代+」にまつわる騒動だった。
・視聴者に情報提供を呼びかけた動画に日本郵政が噛み付いた。
 「犯罪的営業を組織ぐるみでやっている印象を与える」
 この抗議に対し、番組関係者が「制作の責任はNHK会長にない」と説明したところ、
 今度はNHK経営委員会に対し「会長は協会(NHK)を代表し、経営委員会の定める
 ところに従い、その業務を総理する」とする放送法51条を持ち出した。
・NHKに限らず「報道と経営の分離」はジャーナリズムの大原則だが、放送法を楯にと
 って「会長に責任がないとはなにごとか」と詰め寄る日本郵政に同調した経営委員会は、
 2018年10月、上田会長に「ガバナンス体制の強化」を求め厳重注意した。
・官邸には「現場から力がないとみられるような会長でいいのか」という声が上がり、
 上田会長の再任の道が絶たれたというのである。 
・記者会見で前田氏は首相を囲む財界人の集まりである「四季の会」(主宰「葛西敬之
 JR東海名誉会長)のメンバーであることは認めたが「私はどこかの政権とべったりで
 はない」と語った。
・2019年4月、NHK職員を唖然とさせる人事があった。
 関連会社のNHKエンタープライズの社長に収まっていた「板野裕爾」氏が、専務とし
 て本体に戻ってきたのである。 
・20年以上続いた報道番組「クルーズアップ現代」は権力に比較的厳しい姿勢で臨むこ
 とで知られたが、2016年に終わった際、板野氏は番組制作のトップである放送総局
 長。
 現場は当初、番組の継続を決めていたが「最終的に板野氏の意向で事実上の打ち切りが
 決まった」と当時の複数の幹部は証言する。
・板野氏をかつて放送総局長に登用したのは「籾井勝人」前会長だ。
 だが、その籾井氏までもが、板野氏と政権の関係が強すぎるとして、1期2年で総局長
 を退任させ「彼を絶対に戻してはいけない。NHKの独立性が失われてしまう」と当時
 の朝日新聞の取材に対して口にするようになった。
・その板野氏がNHKの中枢に戻り、前田会長を支える。
 実権は板野氏が2握り、官邸の意に沿った筋書きを前田氏に振り付けることになるだろ
 う。
 たった1人、落下傘で降りた「よそ者」がNHKのなかでできることは限界がある。
  
文科相発言が破壊した「大学入試改革」前川喜平
(萩生田文科相の”身の丈”発言を引き出した現役高校生の価値ある「抗議でも」)
・2020年度より導入される新試験「大学入試共通テスト」をめぐり、混迷が深まって
 いる。
 予定されていた英語民間試験の活用が土壇場で延期され、国語と数学の記述式問題につ
 いても、導入見送りが正式に発表された。
・一連の大学入試改革の象徴でもあった「英語民間試験」「記述式導入」はいずれも頓挫
 した格好となったが、その直後のきっかけとなったのが「萩生田光一」文科相の「身の
 丈」発言である。
・2019年10月、BSフジ「プライムニュース」に出演した萩生田氏は、教育評論家
 の「尾木直樹」氏らと議論するなかで、
 「裕福な家庭の子どもが回数を受けてウォーミングアップできるというようなことがあ
 るかもしれないが、自分の身の丈に合わせて2回をきちんと選んで頑張ってもらえれば」
 と語った。「
・萩生田光一文科大臣の「身の丈」発言について「前川喜平」氏は、
 「教育基本法に対する基本的な理解が欠如しており、文部科学大臣の資格があるのだろ
 うかと思いました。「教育の機会均等」の理念を本当に理解していれば、「身の丈」と
 いう言葉を使うはずはないと思います」
 「法で定められた「境域の機会均等」には、単に公平、平等であるべきだという意味を
 こえて、積極的に教育機会を平等に享受できる環境を作り出していかなくてはならない
 という意味が込められています」
・憲法にはない「経済的地位」という文言が、教育基本法には入っている。
 裕福が、貧困かで教育機会に差があってはならないという考えは、教育行政の根幹であ
 り、文科省のレゾンデートル(存在価値)でもある。
 それを大臣が「身の丈に合わせて」などと、経済格差を甘んじろとばかりに上から目線
 で発言してしまっては、批判されても当然ではないでしょうか。
・今回の大学入試制度改革の発端は第2次安倍政権で文部科学大臣に就任した「下村博文
 氏が、既存の大学入試センター試験の廃止を打ち出したのがきっかけです。
 安倍政権発足後に官邸主導で「教育再生実行会議」が設置され、下村大臣が「現行のセ
 ンター試験は知識偏重。1点刻みのマークシート方式を改める」という方針を打ち出し
 たのです。
・下村大臣が退任した後、馳浩さん、松野博一さん、林芳正さんが文部科学大臣に就任し
 ていますが、そのときに方針転換を求めるチャンスはあったと思います。
 だが、それができないまま現在に至ってしまった。
 最初に作られた工程表を覆すことができなかった。
・「とにかく現行のセンター試験をやめろ」という命題だけが先に決まってしまい、現実
 からかけ離れた制度設計が進んでしまった。
 政治家には常に、改革を成し遂げたいという思いがあって、実際には小さな改革、マイ
 ナーチェンジであっても、フルモデルチェンジのように見せたがる傾向があります。
 まず廃止あるきでスタートしてしまったのが、結果的に今回の導入延期につながったの
 ではないでしょうか。
・記述式テストの導入について言えば、現在のセンター試験というのは50万人が受ける
 テストで、採点期間は約20日間しかかけられないという制約がある。
 その制約が残る以上、マークシート方式以外の方法を導入するのは、最初から無理があ
 ったのです。
・この入試改革については2019年8月から、現役高校生らが中止を求め、文部科学省
 の前でデモを繰り広げたことが話題となりました。
・あのデモは、政権に少なからぬインパクトを与えたと思います。
 いまは18歳になれば選挙権がありますし、若い世代における安倍政権の支持率は高い
 ことがわかっていますから、この抗議活動が大きく広がってはまずいとの思いが政権側
 にあったのではないでしょうか。
・高校は大学受験のためにあるものではないというのが基本的な考えです。
 4技能や記述式を導入するとなったとき、採点に時間がかかるため共通テストの期日を
 前倒しするという案が浮上したことがありました。
 そのとき、高校関係者はいっせいに反発したんです。
 お正月より前に共通テストを実施するとなると、それだけ受験シフトが前倒しされるこ
 とになる。 
 そうすると、高校3年生の生活は大きく変わってしまいます。
・共通テストを前倒しすると、クラブ活動にも多大な影響が出て、たとえば夏休みの終
 わりまでスポーツの大会に出ていられないという状況にもなってくる。
 これでは高校生の生活が激変してしまうということで、現場は猛反対したわけです。
・記述式の採点業務は通信教育大手のベネッセが約61億円で落札し、利権の大きさが指
 摘されました。 
・記述式の採点をアルバイトが行うことがわかり、受験生の間に不安が広がりましたが、
 問題はそれだけではない。そもそも記述式といっても、試行調査の問題を見ると、数十
 字の文字数で、書き出しの言葉も指定され、実質的には穴埋め問題に近い。
 これをもって「知識偏重ではなく、創造的な力を問う」ことにはならないというのが、
 関係者の共通認識ではないでしょうか。記述式、論述式のテストは、各大学の個別入試
 でやればいいわけですからね。そこでは、大学ごとに採点基準があっていいと思います。
・ほど政治がゴリ押しする教育改革不毛なものはありません。
 それが、今回の新テスト導入における大きな教訓であると思います。

「五輪前解散」の条件とその実現度
(悲願の「憲法改正」実現に向け安倍首相が思い描く「4選」と「再登板」
・安倍首相の歴史的偉業(レガシー)は何かと問われたとき、いまのところ特筆できるも
 のがない。
 歴代の大宰相に真の意味で肩を並べるためには、やはり「憲法改正」を成し遂げるしか
 ない。
・第2次安倍内閣が発足して約2年が経過した2014年12月、安倍首相は有力支持者
 であるJR東海の「葛西敬之」名誉会長と昼食をともにした際、1冊の本を推薦されて
 いる。
 それは葛西氏の東京大学時代の師である「岡義武」氏の「山県有朋−明治日本の象徴」
 であった。
・「山県有朋」は、明治・大正期の「元老政治」の象徴的存在として歴史家からマイナス
 の評価を受ける一方、官僚制度を確立し「近代国家日本」の制度設計を担った人物とし
 ても知られている。 
・究極の政治目標を達成するために、「元老」として自身の影響力を維持し続けた山県有
 朋の人生に、安倍首相は自らを重ね合わせたはずである。
 
「振り出しに戻った改憲議論」
(政権悲願の「憲法改正」を阻んだA級戦犯「下村博文」の罪と罰)
・「レガシーなき史上最長政権」、人は安倍政権をそう揶揄する。
 消費税率だけは上がったが、拉致問題の解決、北方領土返還など、重要課題は何一つ前
 に進んでいない。
 そんな安倍首相にとって、憲法改正はどうしても譲ることのできない「宿願」であるが、
 現実はあまりにも厳しい。
・国政選挙で6連勝しながら、ここまで何ひとつ憲法改正に向けて駒を進められなかった
 のはどうしてなのか。
 その問題について考えるとき、多くの関係者が「責任は重い」と指摘する人物がいる。
 元文部科学大臣で、憲法改正推進本部長をつとめた「下村博文」氏だ。
・文教族として知られる下村氏は、第2次安倍政権発足直後から、憲法改正と教育改革の
 2大政策について、その旗振り役を担ってきた。
・悲願の「改憲」に向け、下村氏は首相以上の意気込みを表明したが、その前のめりで極
 端な保守思想が、かえって普通の国民に敬遠されるという皮肉な現象を起こしてしまっ
 た。  
・あえて側近を投入し、改憲に意欲を見せた安倍首相。
 だが、野党に人望もパイプもない下村氏の不手際には、自民党内からも批判が相次いだ。
・結局、2019年9月になって安倍首相は憲法改正推進本部長だった下村氏を事実上更
 迭し、後任には調整力のある細田派の会長、「細田博之」氏を起用した。
・下村氏は、一連の「加計学園問題」にも深く関わっている。
 加計学園の「加計幸太郎」理事長が、安倍首相の「腹心の友」であることは誰もが知っ
 ているが、加計氏は下村夫妻とも極めて親しく、加計学園は下村氏の支援政治団体「博
 友会」に、2013年から2014年までの間、200万円の献金をしていることもわ
 かっている。
・下村氏が政治家になる前、小学生向けの学習塾を経営していたが、そのとき、ともに仕
 事を手伝っていた大学時代の知人の妹が、現在の下村夫人である。
 加計学園と加計幸太郎理事長が、実は安倍夫妻以上に親しくしていたのが、文科相をつ
 とめていた下村氏とその夫人だったというわけである。
・2015年4月、当時の首相秘書官だった経済産業省出身の「柳瀬唯夫」と、加計学園
 幹部、愛媛県及び今治市職員が官邸で面談し、柳瀬氏が「本件(獣医学部新設)は首相
 案件」と説明した。
 このとき愛媛県の職員が作成した「文書」がそれを証明したが、柳瀬氏は最後までのら
 りくらりと「記憶がない」とシラを切り通し、官邸における面会の事実を最後まで認め
 なかった。 
・実はこのとき、加計学園に獣医学部を作らせようとしていちばん熱心に動きまわってい
 たのが文化相の下村氏である。
・下村氏はなぜここまで安倍首相の手足となってポイントを稼ぎ続けたのか。
 それは、教育ひと筋に生きてきた政治家として、文部科学大臣というポストに1日でも
 長くとどまりたかったからであろう。
・実は当時の自民党内において、自民党文教族の大物である「森喜朗」元首相は、下村氏
 を快く思っていなかった。
 森氏は子飼いの馳浩氏を文科相にさせたがっており、下村氏を別のポスト打診し、馳氏
 を文科相として入閣させようと動いたこともあったという。
 だが下村氏はその要請を頑として譲らず、結局、森氏とはいがみあいながらも文科相の
 座に居座り続けた。
・このとき下村氏にとって最大の後ろ盾はほかならぬ安倍首相であり、首相に「下村さん
 を交代させることはできない」と思わせるように、忖度しまくりの「安倍風味」教育改
 革やアベ友への便宜供与を実行して、アピールを続けなければならない事情があったの
 だろう。つまり最後は「自分のため」である。

ほとぼりさめたら「出世」「天下り」
(森友・加計学園問題ほか「アベ友官僚」たちの優雅な「論功行賞」ライフ)
・森友事件に関係し、公文書改ざんを強いられ、2018年3月に自殺した近畿財務局職
 員。
 近畿財務局は同年冬、この男性について公務員の労災にあたる「公務災害」と認定し、
 過重な精神的負担があったことが公式に認められた。
・後から何を言おうと、亡くなった人間が戻ってくることはない。
 権力者の小さな保身のために、1人の人間が命を失った。
・いまもこの森友事件について、取材を継続する記者が多い。
 事件で人命が失われたことに対する「納得できない思い」がその根底にある。
・改ざんを指示したものの、証人喚問では何も語らず、表舞台から消えた「佐川宣寿」元
 国税庁長官。
 辞職後は一切、メディアの取材には対応せず現在に至るまで雲隠れを続けている。
・佐川氏の下で改ざんの「中核的役割」を担ったと認定された当時の理財局総務課長、
 「中村稔」氏は、2019年夏、駐英公使に栄転。
 安倍政権得意の「疑惑官僚の海外避難措置」、あるいは「忖度への論功行賞」と見られ
 ているが、職員が自殺した責任を何と考えているのか」と現場職員たちの不満は、いま
 なおくすぶり続けている。
・蓮池夫婦逮捕の指揮をとった元大阪地検特捜部長の「山本真千子」氏も、函館地検検事
 正を経て大阪地検次席検事に「栄転」した。
・加計学園問題で、獣医学部新設をめぐり便宜供与を受けた疑惑を追及された「安倍首相
 の腹心の友」加計幸太郎理事長。
 2018年にとってつけたような記者会見を開いたあとはひたすら沈黙を守っているも
 のの、いまなお加計学園理事長のままである。   
・加計学園問題に関連し、「前川喜平」元文部科学省事務次官を呼び出し、
 「総理は自分の口から言えないから、私が代わって言う」
 と獣医学部新設に動くよう迫ったのは「和泉洋人」内閣補佐官である。
・官邸官僚のなかでも、多岐にわたる象徴に影響力を及ぼし「菅官房長官の懐刀」と目さ
 れていた和泉氏だが、2019年12月、厚労省の「美人官僚」「大坪寛子」大臣官房
 審議官との不倫京都旅行を「週刊文春」に報道された。
・内閣補佐官の信用を著しく失墜させる不祥事にも、お咎めなし。
 かわいそうなのは、気色悪い不倫上司の下で働かなければいけない職員たちである。
・大坪氏は2019年夏の人事では、課長も経験していないのに審議官となっている。
 この「異例の出世」の背景には、和泉氏の「プッシュ」があったというのが暗黙の了解
 だった。  
・大坪氏は「首相補佐官」の威光をバックに尊大な態度を取ることが多かったと報じられ
 ている。  
 「山中伸弥」教授が所長をつとめる京都大学iPS細胞研究所に対し、予算削減を通告。
 だが、その際、あまりに横柄な印象を周囲に与えたことが、ブーメランとなって自分の
 戻ってきた。
・森友問題時の財務省理財局長で、文書改ざん疑惑の突き上げを一身に受け、国会で疑惑
 拡大を防ぐ「守りの答弁」を続けた「太田充」氏は現在、財務省主計局長。
 主計局長は次官待機ポストであり、「次の次官」は間違いないと見られる。
・「官邸のアイヒマン」と呼ばれ、内閣情報官として「首相動静登場ランキング1位」
 の座を不動のものとしていた警察官僚の「北村滋」氏は、国家安全保障局長に就任し、
 外交や安全政策のキーマンに昇格している。
・先の詩織さん事件で、山口氏の逮捕と直前で中止させた「中村格」氏は現在、警視庁ナ
 ンバー3の官房長で、将来の長官候補だ。
 中村氏は菅官房長官の元秘書官。
 2015年、「報道ステーション(テレビ朝日)に出演した元経産官僚の「古賀茂明
 氏が安倍首相を批判した際、即座にテレビ朝日幹部に抗議のメールを送りつけたのが、
 当時官房長官秘書官だった中村氏だった。
 その後、古賀氏は「報道ステーション」を降板させられている。
・戦後、長期政権を築いた首相たちはみな、程度の差はあっても「ブレーン政治」を体現
 し、適材適所の人事を断行してきた。
 だが、ここまで極端な偏重人事が長く続くのは、安倍政権だけである。