天空の蜂 :東野圭吾

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この本は、今から27年前の1995年に出版されたもので、この作家の本を読むのはこ
れが初めてなのだが、本のタイトルに興味を持ち読んでみた。
内容は、防衛庁からの要望を受けて、日本国内の工場で米国製の超大型特殊ヘリコプター
を最新の電子テクノロジーを導入して秘かに改良していたが、完成直後に無線操縦によっ
て謎のテロリストに奪われてしまう。
そして、奪われた超大型特殊ヘリコプターは、稼働中の新型原子力発電所「新陽」の真上
でホバリングを始めた。犯人からの要求は、国内の全ての原子力発電所の稼働を停止し使
用不能にすること。要求に応じなければ、超巨大特殊ヘリコプターを「新陽」に墜落させ
るという。犯人の本当の目的は何なのか。犯人の要求に対し、政府はどう対処するのか。
なかなか興味深いストーリーになっている。
この作品が書かれたのは、あの2011年3月の福島原発事故の16年前である。まだ、
原発の安全神話が何の疑いもなく信じられていた時代だった。さらには、2001年9月
アメリカ同時多発テロ事件の6年前であり、テロリストが航空機を奪ってビルに突っ込
むというようなこともまだ起きたことがなかった。だから、当然ながら原子力発電所に航
空機が突っ込むというようなリスクも、あまり真剣には考えられていなかった時代だと言
える。さらに言えば、原発そのものの脅威も、ほとんど認識されていなかった時代である。
その原発の持つ根源的な脅威をこの作品は示唆しているのだ。

またこの作品では、「安全神話のジレンマ」についても指摘している。ヘリコプターが
「新陽」に墜落する恐れがあるため、緊急時避難計画に沿って事前に地元住民を避難させ
ようとするが、地元住民には、「たとえ航空機が墜落しても、放射能漏れに繋がるような
事故にはならない」と説明してきたことから、事前避難をさせれば、原発に航空機が墜落
した場合、放射能漏れを伴う事故に発展することを認めることになってしまう。つまり原
発の安全性を自ら否定してしまうことになってしまうため、住民を緊急避難させられない
というジレンマである。これは、深刻な話であるが、なんだか滑稽な話でもある。
実際、同じようなことが福島原発事故の際に起きている。事故が起きた当初、政府は、
「ただちに健康に影響はありません」を繰り返しアナウンスし、住民に即時避難を促さな
かった。原発の安全性にこだわり、政府みずから安全神話を崩したくなかったのだろう。

この作品で、テレビのニュースキャスターが原子力の専門家の大学助教授に、原発は暴走
することがあるのかという質問をするシーンがある。これに対して大学助教授は、「冷却
材喪失事故というのが、過酷事故の代表とされています。これは何らかの原因で冷却材す
なわち水を供給できなくなった場合、炉心が溶けだしてしまう、いわゆる空焚き事故です。
スリーマイル島で起きたのが、そのケースでした」と答えている。そして、この本が出版
された16年後に、福島原発において、その冷却材喪失により炉心溶融という最悪の事故
が起きたわけである。この作品の作者も、当時はまさかそんな事故が起こるとは思ってい
なかったのだろうが、そのまさかが起きてしまったのだ。

この作品は、クライシスサスペンス小説なのだが、原発に関する闇に隠れた諸問題がいろ
いろ浮き彫りにされている。この作品が書かれた当時は、福島原発事故の16年も前であ
り、原発に関心を持っている人は、あまり多くはいなかったのではないかと思える。その
ような時代に、このように原発に関する諸問題を浮き彫りにして見せたというのは、すご
い作品だなと感じた。
なお、この作品は2015年に映画化もされているようだ。

過去に読んだ関連本:
原発のウソ
世界に広がる脱原発
日本はなぜ脱原発できないのか
国家と除染


・錦重工業小牧工場には、航空機事業本部と呼ばれる部署が配置されていた。この事業部
 の取引の殆んどは、無限に近い資産を持つ二つの組織を相手に成されていた。その組織
 は防衛庁であり、もう一つは宇宙開発事業団だった。
・湯原一彰が錦重工業に入社して十六年になる。大学で電気工学を学んだ彼は、航空機全
 般の電気系統に関する研究開発に携わってきた。特に操縦系統を器械的なものから電気
 信号に置き換えたシステム、いわゆる「フライバイワイヤ」の研究を主なテーマとして
 きた。
・「Bシステムプロジェクト」がスタートした日のことを彼は思い出していた。概念設計
 が防衛庁に提出されたその日から、自分の生活を犠牲にする日々が始まったのだ。
・「すごいや」高彦は驚きの声をあげながら近づいた。彼の目の前にあるのは、胴体三十
 三・七メートル、ローター径三十二メートルという超大型ヘリコプターだった。
・中は細長い倉庫という感じだった。中央に大型テレビほどの大きさの木箱が一つ置いて
 あるだけだ。何の木箱かわからなかった。
・男は腕時計を見た。いよいよだ、と思った。男は錦重工業試験飛行場を見下ろせる、小
 高い丘の中腹に車を停めていた。距離は五百メートルちょっとだった。そばには無線制
 御装置を置いていた。

・タイマーは正常に動作した。格納庫正面の大扉の開閉用電磁スイッチがONになった。
 モーター音が格納庫内に轟いた。格納庫の大扉が、ゆっくりと開きつつあった。
・高彦がタラップのところへ向かいかけた時だった。低く唸るような音が空気を震わせた。
 それは紛れもなくヘリが発していた。もし高彦が父親と同程度の知識があったなら、そ
 れが補助動力装置APUの音であるとわかったはずだった。
・APUは補助ギヤを介し、油圧によって主動力伝達ギヤを動かした。トランスミッショ
 ンを通じて三基のターボシャフトエンジンに力を伝えた。
・三つのターボエンジンは、ほぼ同時に点火した。今度は自ら駆動軸を回し、主動力伝達
 ギヤボックスを動かした。七枚のローターが回転を始めた
・ローターの回転が上がった。ローターはやがてわずかに前傾した。それにより前方向の
 推力を得た巨大ヘリは、じりじりと前進を始めた。
・男が溜めていた息を吐き出したのは、ヘリコプターが格納庫を無事に出た瞬間だった。
 それが最も難関であると考えていたからだ。操作を少しでも間違えると、巨大なロータ
 ーが格納庫の扉に当たってしまう。そうなればすべての計画が無に帰すところだった。
・男は双眼鏡で機体を追いながら、慎重にコントローラを操作した。ヘリは格納庫から充
 分離れたところで、一旦停止した。
・この次にすべきことは、スイッチを一つ入れることだった。それだけでヘリは浮上を始
 めるはずだった。そしてもう男の仕事はない。
・通常のヘリコプターの操縦では、単なる離陸でも独特のテクニックを要する。機体が浮
 上すると同時に、サイクリック・スティックやラダー・ぺダルの位置の影響が一気に出
 るからだ。下手をすると機体が回転したり、水平移動したりする。
・だが男が現在操っているヘリコプターは、そうしたテクニックなしでも離陸することが
 できるシステムが搭載されていた。コンピュータが、カップリングを防いでくれるのだ。
 それだけでなく、事前にプログラムさえ入れておけば、自動離陸も可能だった。
・滑走路中央まで前進したヘリは、そこでいったん停止した後、三つのターボシャフトエ
 ンジンの音を増大させた。やがて神の手に吊られるように、ゆらりと浮上した。そのま
 ま上昇し始めた。
・運輸省航空局では、民間航空機には原子力施設上空の飛行を避けるよう行政指導してい
 る。また防衛庁と米軍には、原子力施設から半径二マイル、高度三千五百フィート以内
 で訓練しないよう働きかけている。ただそれは単に指導に過ぎず、仮に飛んだところで
 何の厳罰もなく、飛んでいないかどうかチェックされることもないというのが現状だっ
 た。
 
・離陸してからはずっと、恵太は機体の壁際に座り込み、折り畳まれた状態の兵員用座席
 のパイプにしがみついていた。左右合わせて最大五十五名が座れる座席だった。だが今
 このヘリコプターに乗っているのは彼一人だった。ほかには誰もいない。
・恵太がいるのは貨物室だった。床のほぼ中央に木箱が固定されている以外には、何も見
 当たらなかった。彼は四つん這いのまま、ゆっくりと手と足を動かした。操縦室に向か
 って進みだした。それは彼にとってとてつもなく勇気の要する行動だった。
・一歩一歩確実に、彼は操縦室に近づいていった。そこへ行って何をするか、そこまでは 
 考えていなかった。だがそこに達することが、今の彼にできる最大のことだった。
・やがて彼は操縦室への入り口に到達した。操縦室の内部が目の前に広がった。二つの操
 縦席の間に、黒い筐体に入った計器がずらりと並んでいた。何が何なのか、もちろん恵
 太にはわからない。
・しかしこの瞬間彼の脳裏に、一つの単語が浮んだ。それは無線という言葉だった。

・「Bシステムプロジェクト」は防衛庁内のいびつで、「トラックの電飾」と呼ばれてい
 た。もちろん肯定的な綽名ではない。この計画の基礎には、防衛庁による、ある大型ヘ
 リコプターの導入がある。
・海上自衛隊の掃海ヘリとして導入された、そのCH−5XJという機体は、様々な面で
 これまでのヘリコプターとは異なる点を持っていた。その最大の特徴は、本格的にフラ
 イバイワイヤが導入されたヘリコプターということである。
・フライバイワイヤというのは、機械的な操縦系統をケーブルに置き換え、パイロットの
 動作を電気信号にしてコンピュータを介した後に、核アクチュエーターに伝えようとす
 るものである。F16戦闘機などには、すでに導入されている技術だが、ヘリコプター
 に関しては、まだ世界でも殆んど例がなかった。
・フライバイワイヤのメリットは、大別して二つある。その第一は軽量化である。これか
 らのヘリコプターには、自動安定装置をはじめ、コンピュータを用いた数々の航行制御
 システムが搭載されることになる。となると操縦士の動作を初めから電気信号に置き換
 えてしまったほうが、システム全体をシンプルにできるのだ。
・メリットの二つ目は、操縦が従来よりも簡単になるということだ。ヘリコプターは航空
 機の中でも、極めて操縦性が悪い乗り物である。フライバイワイヤを使ってコンピュー
 タに支援させれば、新人でもベテラン同様の操縦が可能になるはずだった。
・だが当初防衛庁内では、フライバイワイヤ化されたヘリコプターの導入には否定的な意
 見が多かった。その理由はいくつかある。まず信頼性の問題、力学的に情報を伝える機
 械式に比べ、電気式が信頼性の面で劣ることは否定できない。単純な断線故障や接触不
 良だけでなく、電磁誘導による雑音や雷の影響のことも考慮しなければならなかった。
 それに対応するため、システムを多重化したり、自己診断装置を組み込んだり、一部光
 ファイバーを用いたりしているわけだが、いかんせん実績が少ない分、不安を唱える意
 見が出るのは仕方なかった。
・それでもCH−5XJの導入が決まった背景には、この機体の場合だと、単純なライセ
 ンス国産にはならないということがあった。
 ・ライセンス国産とは、日本の民間企業が外国企業と技術導入契約を結び、工業所有権
 の使用料払って、許諾を得たうえで生産することをいう。戦闘機をはじめ多くの航空機
 に、この方式が適用されている。その理由は単純で、要するにこの分野ではさすがの技
 術立国日本も、世界的に見れば後進国なのだ。
・しかしCH−5XJの場合、従来のライセンス国産とは少し事情が異なるのだった。と
 いうのは、錦重工業は、まだ戦闘機のフライバイワイヤ化も実現していなかった頃から、
 FWH開発プロジェクトを作り、長年にわたってこの分野の研究を世界に魁て行なって
 きたからである。
・こうした事情から、CH−5XJを錦工業がライセンス生産する場合、少なくともフラ
 イバイワイヤに関する部分ではライセンス使用料を払う必要がないのだ。
・ただこの導入決定に先駆けて、防衛庁と錦工業との間で、ある話し合いが行なわれた。
 それは導入開始から五年をめどに、ある新技術を錦工業が開発し、CH−5XJに反映
 させるというものだった。 
・その新技術とは、フライバイワイヤ方式の長所を最大限に生かす方式として、錦重工業
 側が提案したものだ。もしかしたらこの提案がなければ、CH−5XJの導入は見送ら
 れていたかもしれない。こうして始まったのが、「Bシステムプロジェクト」であった。
 そしてその心臓部のリーダーに任命されたのは、湯原一彰だった。
・そして本日、めでたく領収飛行が行なわれる予定であった。領収飛行とは、防衛庁関係
 者の前で飛行し、不備がないことをチェックしてもらう最終手続きのことである。
 
高速増殖炉「新陽」があるのは、敦賀半島北端の灰木という場所だ。「新陽」から約一
 キロのところには、二十世帯九十六人が住む灰木村がある。漁業と海水浴客相手の民宿
 で生計をたてている小さな村である。
・「新陽」発電所総合管理棟で、一台のファックス機が受信を開始した。この機械は、主
 に送信を目的として設置されているものだった。発電所内で、少しでもトラブルが生じ
 た場合、その内容や周辺環境への影響などを、各方面に一斉にファックスを送って知ら
 せるわけである。送り先は、炉燃本社は無論のこと、地元の役場や消防組合、福井県原
 子力安全対策課、敦賀労働基準監督署、敦賀海上保安部にいたるまで、二十箇所以上あ
 った。
・福井県知事金山滋は、ワイシャツ姿でカーペットに座り込み、柔軟体操をしているとこ
 ろだった。「知事、これを」と一枚の紙が金山の前に差し出された。
 関係各位
 我々は自衛隊ヘリ「ビックB」を奪った。ヘリは現在高速増殖原型炉「新陽」の上空約
 八百メートルの位置でホバリングを行なっているはずである。
 ヘリの操縦は、完全に我々の手の中にある。そして今のところ我々に、ヘリの位置を動
 かす予定はない。動かすのは高度だけである。段階的にホバリング高度を上昇させる。
 最終的には二千メートル近くになると予想される。
 ただしそのまま時間が経てば、当然のことながら燃料はゼロになり、ヘリは墜落するこ
 とになるだろう。ヘリには大量の爆発物が積まれている。もし墜落ということになれば、
 「新陽」も無事ではすまないだろう。
 この危険を回避する方法はただ一つである。次にあげる要求をのみ、大至急実行に移し
 ていただきたい。要求が通ったことを確認した後、ヘリを安全な場所に移動させる。
 ・現在稼働中、点検中の原発をすべて使用不能にすること。具体的には、加圧水型原発
  は蒸気発生器を、沸騰水型原発は再循環ポンプを破壊せよ。
 ・建設中の原発は、すべて建設を中止せよ。
 ・上記作業を全国ネットでテレビ中継せよ。
 ただし、「新陽」だけは停止させてはならない。もし停止させれば、その瞬間にヘリを
 墜落させる。
 そして、一番最後に、「天空の蜂より」とあった。

・「とにかくうちとしては、防災に努めるしかないな。緊急時避難計画にのっとって、各
 方面に手配しよう」と金山知事は言った。
・「緊急時避難計画というのは、原発で事故が起きて、放射能漏れのおそれがある時のも
 のです。でも、まだ事故なんか起きていません」
・「起きてからより、その前に避難させるほうがいいだろう」
・「しかしそれじゃ、事故になると予想したことになります」
・「ヘリコプターが落ちるかもしれんのだろう。事故になると予想するのが当然じゃない
 か」 
・「いや、でも、たとえ航空機事故が起きても、放射能漏れに繋がるような事故にならな
 いというのが、地元への説明だったんですけど」
・「もしここで避難させるとなると、原発に航空機が墜落した場合、放射能漏れを伴う事
 故に発展することを、県が認めるということになります」
 
・「いいかね。地元から問い合わせがあるだろうが、避難の必要があるなんてことは、軽
 率にいわんでくれよ。今ここであわてて避難させたりしたら、原発の安全性を自ら否定
 することになるんだからな」と炉燃本社の筒井理事長は言った。
・航空機が落ちても放射能漏れなどが起こる事故には発展しない。「新陽」のみならず、
 日本全国の原発についてこのようにPRされている。それだけに今回の事態であわてふ
 ためくのは、そうした宣伝と矛盾することになるわけだった。
・しかも青森の問題があった。六カ所村に建設されている再処理工場の近くには三沢基地
 があり、毎日のように自衛隊機や米軍機が飛行訓練を行なっている。それらの航空機が
 墜落する危険性を指摘する声は、現在でも消えていない。今ここで住民を避難させると
 なると、その議論が再燃するのは明らかだった。

・「犯人はおそらく、AFCS(自動航行制御システム)のプログラムをいじったんです」
・「予めプログラムしておけば、自動離陸がまず可能です。その後、指定された航路を自
 動的に飛行することができます。指定されたポイントでのホバリングへの移行も、前も
 ってプログラムしておけば自動的に行なわれます。ふつうに巡航するだけなら、パイロ
 ットの仕事はほとんどありません。ただし着陸は別です。あれだけは、まだ自動化は難
 しいものですから」
・AFCSの搭載、じつはそれが「Bシステムプロジェクト」の内容だった。
・「犯人に告げる。諸君が奪ったヘリコプターには、九歳の子供が閉じ込められている。
 政府は、諸君が速やかにヘリコプターを安全な場所に着陸させ、子供の命を救ってくれ
 ることを期待していると」テレビで芦田警察庁長官が犯人に呼びかけた。
・重々しく語ってはいるが、要するにヘリコプターを降ろせという命令に過ぎなかった。
 そして脅迫状に書かれた要求には触れないということは、この要求は呑めないと意思表
 示していることになる。
・「総理を中心に協議していただいておりますが、要求には従えないというのが政府首脳
 の考えです」と記者団からの質問に答えた。
・「仮にヘリコプターが落ちたとしても、大量に放射能が大気中に放出されるといった事
 故には決してなりません」と科学技術庁原子力局長が答えた。
・「その根拠は何ですか」
・「日本の原発には、多重防護システムというものが備えられています。安全装置が何層
 にも重なっていて、一つ破れても、次の安全装置で防げるというものです。このシステ
 ムが正常に機能すると信じています」

・テレビで事件のことは報道されたが、街の中を広報車が走っている様子はない。走らせ
 ないつもりだろうかと思った。原発に大事故が起きれば、あらゆる方法で周辺の住民に
 情報を伝えるのが行政の義務のはずだ。
・役人たちも迷っているのかもしれないと想像した。広報車を走らせて、どうアナウンス
 するか。大丈夫だからパニックを起こさないでくれというか、危険な状態だから指示が
 あるまで待機してくれというか。
・危険だとは口が腐ってもいわんだろうと思った。そんなことを一度でも口にしたら、原
 発の安全神話を否定することになる。

・室伏刑事はファイルを開いた。ざっと見たところ数百人の名前が並んでいる。名前はい
 くつかのグループに分かれていて、そのグループには名称がついていた。そこにリスト
 アップされているのは、福井県下を活動拠点にしている反原発グループのメンバーたち
 だった。もちろん全員を網羅したのでは数百人程度で済むわけがないので、グループの
 中心人物であるとか、電力会社との談判に参加した陣源とかをピックアップしてあるの
 だろう。

・現在の状況は、かつて茨城工学センターで「新陽」の安全性を確認するために行なった
 様々なシミュレーションの条件と、パラメータが全く違っていた。たとえば爆発物が投
 下されることがわかっているにもかかわらず、原子炉を運転し続けなければならないな
 どという事態を、一体誰が予想するのだろう。
・いやそもそも、航空機が落ちてくることすら想定したことがなかった。原子力発電所及
 び関連施設の上空には、航空機は飛ばないことになっている。飛ばないのだから墜落を
 想定する必要はない。これが今までの原子力行政の考え方だったのだ。誰かがわざと墜
 落させるなってことは想定外だった。
・全国の原発を使用不能にせよ、と脅迫状でいってきているということは、「新陽」だけ
 を目の敵にしているのではなさそうだ。むしろ国の原子力政策全体を攻撃対象にしてい
 るという印象を受ける。その中で「新陽」をターゲットに選んだのはなぜか。やはり日
 本の原子力政策のシンボル的存在だからかもしれない。
・高速増殖炉は、現在日本の商業用原発で採用されている軽水炉とは、あらゆる面で大き
 く違っている。その最も大きな違いは燃料だろう。軽水炉で使われるのはウラン235
 という物質であり、高速増殖炉ではプルトニウム239というものが使われる。
・なぜプルトニウムを使おうとするのか。それはウラン235は天然ウランの中に0.7
 パーセントしか含まれておらず、恒久的に必要な量を確保できる保証がないからである。
 今のままで世界的に原発が増え、そこでウラン235が燃やされ続ければ、75年ほど
 で枯渇するというのが科学技術庁での試算結果である。
・ではプルトニウム239なら大量にあるのかというと、実はそうではない。それどころ
 かこの物質は、自然界には全く存在しない。プルトニウム239は、ウラン238が中
 性子を吸収した時に、成り変わる物質である。そしてこのプルトニウム239ならば、
 燃料として使うことができるのだ。
・軽水炉では、燃料は水の中に浸されている。ウラン235を核分裂させるためには、燃
 料間と飛び交う中性子の速度を落としてやる必要があるからだ。だからこの場合、水は
 減速材とも呼ばれる。
・一方プルトニウム239を核分裂させるのに、中性子の速度は落とさない。だから水の
 代わりに、液体ナトリウムが入れられている。飛び交う中性子は高速のままだ。高速炉、
 といわれるのは、ここからきている。
・「では「増殖」とはどういうことか。これは燃料を燃やすと同時に、それ以上に多くの
 燃料を得ようとすることである。
 具体的には、プルトニウム239の周りにウラン238を並べた状態で、原子炉の中に
 入れて核反応を起させる。すると、プルトニウム239は核分裂し、熱と高速中性子を
 出す。その中性子をウラン238が受け取って、プルトニウム239に変身する。最初
 にセットしておくウラン238の量を増やせば、消費した以上のプルトニウム239が
 生み出されるわけだ。この方式を使えば、向こう数千年は原子炉燃料には困らないはず
 だった。
・ただし素晴らしい仕組みには複雑さもつきまとう。この技術が軽水炉ほど確立されてい
 ないのは事実だった。核兵器の材料となるプルトニウムを燃料とすることや、極めて扱
 いが難しい液体ナトリウムを使いことから、以前より危険性を主張する声はあった。最
 近になって、それが特に強くなったと感じている。
・その背景には、これまで高速増殖炉の研究を続けてきた諸外国が、次々に撤退していっ
 たことが挙げられる。たとえばイギリスは原型炉PFRを1994年に閉鎖しており、
 ドイツのカルカー高速増殖炉は、18年の歳月をかけて建設されたにもかかわらず、
 1991年に計画を中止している。またフランスのスーパーフェニックスは燃料・研究
 炉に方向転換され、スーパーフェニックス2は計画中止された。
 ロシアの実証炉BN800も計画が凍結されたままである。そしてアメリカにいたって
 は、1977年にカーター大統領が「再処理施設の商業化を無期限に延期する」と宣言
 して以来、プルトニウム路線そのものを否定している。
・他の国がやめたのは高速増殖炉が危険だからではなく、それぞれに思惑があるからだ。
 アメリカが反プルトニウム路線を進めるのは、核不拡散政策の一環にほかならない。イ
 ギリスの場合は北海油田が見つかったことが大きく影響しているだろう。それであわて
 て高速炉の研究をする必要がなくなった。ドイツやロシアが中止したのは、多分に政治
 的な事情からで、安全性とは関係がない。そしてフランスは、当面増殖をやめるだけで、
 スーパーフェニックスを動かさないとはいっていないのだ。
・日本にはこれらの国のように、研究を中止するだけの理由がない。言い方をかえるなら、
 中止している余裕がない。石油ショックのようなエネルギー不足になってから、あわて
 て核燃料サイクルの研究を始めても遅いのだ。
 
・政府が子供を見殺しにするとは思えない。だが犯人の要求を飲むこともないだろう。
・「飛んでいるヘリコプターから子供を救い出すなんてことは物理的に不可能だと思いま
 す」 
・「中央制御室に八人残っています。彼等には、いつでも原子炉を緊急停止させられるよ
 う準備してもらっています。ヘリコプターが墜落しそうな気配を見せたら、停止を命じ
 るつもりです」
・現在ヘリコプターは、最初の時点より少し高度を上げ、千メートル近くのところにいる
 ようだった。仮にヘリコプターの最終高度を二千メートルとして、地面に到着するには、
 空気抵抗を無視したとしても二十秒ほどかかる。対して、制御棒を挿入するのに必要な
 時間は一秒以内。連絡に手間取りさえしなければ何とか間に合うと計算していた。
・万一の場合を考慮して、八人の運転員を四人ずつのグループ二つに分けようかと思って
 いるところです」
・「これはあまり公けにはされていないことなんですが、非常停止操作が可能な制御盤が、
 中央制御室とは別の部屋にもあるんです。テロリストなどに、中央制御室を占拠された
 場合のことを考えての設備です」
・こういった設備は、「新陽」かぎらず、日本全国すべての原発に備えられているといっ
 てよかった。ただそその秘密の制御盤がどこにあるのかは、その目的からして当然のこ
 とであるが、公表されていない。
・「ヘリが落ちる直前に原子炉を止めた場合と、落ちてから自動停止させた場合で、何か
 大きな違いがあるんですか」 
・「違いなんかありませんよ。数秒の差なんですから」
・「何かあっても勝手に止まるから、制御室には誰もいなくていい、そういうわけにはい
 かないんです。危機回避のために、まず運転員が停止操作を行なう。それが万一うまく
 機能しなかった場合に、様々な自動停止が働く。それが原子炉を守る多重防護に考え方
 なんです」
・「原子炉そのものは、まず影響はないと思います。ヘリコプターが落ちてどこかが破壊
 された時には、必ず原子炉は止まります。止まれば原子炉というのは、安全なものなん
 です」
・「格納容器は壊れるかもしれません。特に天井部は薄いですから。しかし原子炉容器の
 上には、二メートル近い厚みを持った床があるんです。どんな重量物を落下させても、
 またどんな爆発物を使っても、壊せるものじゃありません」
・「燃料缶詰室、燃料洗浄室、燃料検査機器室、そして炉外燃料貯蔵槽、すべて地下に収
 納されています。しかも一番肝腎の炉外燃料貯蔵槽などは、二メートル近いコンクリー
 ト壁で包まれています」
 
・「犯人からです」
 「警察庁長官の会見で、ヘリコプターに子供が乗っていることを知った。罪のない子供
  を苦しめることは本意ではない。したがって子供を救出することを許可する。ただし
  次の要求が満たされた場合にかぎられる。
  「新陽」を除く、国内のすべての原子炉を停止せよ
  この要求が受け入れられたとこちらが判断した時、子供の救出に協力しよう
  また救出活動には、次の条件が付帯する。
  ・救出方法をテレビで発表すること。
  ・救出者はヘリコプター内部には決して入らないこと。
  ・ヘリコプターの高度、位置の変更を求めないこと。
  ・ヘリコプターを牽引等の方法で強制的に移動させないこと。
  ・子供にヘリコプター内部のものを持出させないこと。
  以上のうち、どれか一つでも違反があった場合には、極めて残念であるがヘリコプタ
  ーを墜落させる」
  
・「国内のすべての原子炉を止めるというのがどういうことか、君は理解しているのかね」
・「全国のそう発電量の三十パーセント以上だ。いや、四十パーセントに手が届こうとし
 ている。それがカットされるわけだ。日本中が混乱することは必至じゃないか」
・「これが今の季節でなければね、まだ何とかなったかもしれませんが」
・「最も電気が使われないのは四月とか十月の気候がいい頃なんですが、その時期に比べ
 ると今は約五千万キロワット余計に使われます」「少ない時期の1・5倍だと思ってく
 ださい」
・「原発の定期点検も、なるべく夏には行なわないように指導しています」
・「原発を止めたら大パニックになります」
・「一旦原子炉を停止させれば、今度元の出力を得るには約八時間かかります。二十五パ
 ーセントまで上げるだけでも一時間は必要です」
・「原子力は常に百パーセントの出力で運転を続けるのが、最も効率的なんです」
・「出力の変動に最も適しているのは火力発電でしょうね。だから夜間電力消費量が落ち
 ている時なんかは、火力の出力を絞るんです」
・原発の稼働状況をリアルタイムで集中的にチェックしている場所ということであれば、
 各電力会社の給電指令所ですね。すべての発電所から運転状況に関するデータが入って
 きます」
・「もし原発をすべて止めたにもかかわらず、それまでと変わらず電気を使えるというこ
 とになるとどうだ。全ての原発を破壊しろという犯人の本来の要求に、正当性を与えて
 しまうことにならないか」
・「一度原発を全部止めてしまって、それで本当に電気が足りないのかどうか実験してみ
 ろというのは、原発反対派が時々口にすることだからなあ」
 
・「関係者各位
  子供救出への取引に関して、指示を捕捉させていただく
  ・原発停止の際には、地元のテレビ局スタッフをそれぞれ制御室に入れ、停止手順を
   すべて生中継すること。
  ・停止方法はスクラム停止とする。
  ・スクラムスイッチONの後、制御盤モニターを最低三十秒間テレビ放送すること。
  すべての原発について、上記手順が踏まれた場合にかぎり、子供の救出を許可する。」
・この文書を送った時点では、犯人は一つの覚悟をしていた。それは、仮に政府がこちら
 の条件をのんで原発を止めると発表したとしても、全国の原子炉が本当に停止したかど
 うかを確認することはできない、ということだった。たとえば各電力会社に給電情報を
 公表するよう命じたところで、偽情報を流すことなどいくらでもできる。確実なのは、
 原発や変電所から発信される情報をすべて傍受することだろうが、現実的には不可能と
 いってよかった。通産省や電力会社が、そのことに気づかぬはずはない。おそらく実際
 に原子炉を止めることはないだろう、というのが冷静な判断に基づく彼の読みだった。
 しかし、それでもいい、というのが彼の考えだった。国は自分ひとりを騙そうとするの
 ではない、同時に国民全員を騙すことにもなるのだ。ならば目的を達することができる。
・犯人のこの考えを変えさせたのは、その「国民」の声だった。その声は電子の黒板、つ
 まりパソコンネットから拾うことができた。
 彼が目をひいたのは、犯人からの要求について政府はどう対応するかを予想した内容の
 ものだった。一般人たちはどうかんがえているのか、彼は知りたかった。
 そして彼が知ったのは、彼等の大部分が、原発というものの実体を把握していないらし
 いということだった。どこにどれだけの原発があるかも知らず、それが止まるとはどう
 いうことかイメージできない様子だった。原発が止まっても大して困らないんじゃない
 かという意見もあれば、そうろくを買うべきだろうかと異常に心配している声もあった。
・この国の電力需要について多少の知識を持っている者は、国が完全に要求をのむことは
 ないだろうと冷静に分析していた。要求をのむようなふりをして、そのじつ原発を止め
 たりはしないだろうと、犯人と同じ予想を展開していた。
・これらの意見を読むうちに、彼は考えを変えた。何としてでも、原発が停止するところ
 を国民に見せつけねばと思った。
 
・「原子力の専門家である先生は、原理力発電所に航空機が墜落するといった状況につい
 て想定されたことはおありですか?」(ニュースキャスター)
 ・「考えたことはないですね。原子力施設の付近には、航空機は飛んではいかんという
 きまりになっていますから」(原子力専門家の大学助教授)
・「要するに発電所を作っている側の人間も、航空機が落ちることは考えていない、上を
 何も飛ばないんですから落ちてくることもない、という発想なんですね」
・「高速増殖炉はこれまでの原発に比べて、その暴走事故が起きやすいということなんで
 すが、それは本当でしょうか」(ニュースキャスター)
・「現在国内にある軽水炉は、すねて最適条件の下で稼働しています。これは元々は経済
 性を考えた工夫なのですが、じつは安全装置にもなっているのです。常に最適条件で最
 大効率を出しているわけでから、事故などのせいで何か少しでも条件に変化があると、
 とりあえず効率が低下する方向に向かうのです」(原子力専門家の大学助教授)
・「じゃあ一般の原発では、暴走するということはありえないんですね」
・「いえ、全くないということではないんです。非常に稀な状況下では、それまでの通常
 運転中よりも、さらい核分裂が起きやすくなることもあります。ただそれは本当にレア
 ケースでしてね。むしろ軽水炉の場合には冷却材喪失事故というのが、過酷事故の代表
 とされています。これは何らかの原因で冷却材すなわち水を供給できなくなった場合、
 炉心が溶けだしてしまう、いわゆる空焚き事故です。スリーマイル島で起きたのが、そ
 のケースでした」(原子力専門家の大学助教授)
・「高速増殖炉が暴走しやすいというのは?」(ニュースキャスター)
・「高速増殖炉の場合は、核分裂反応の効率を優先したものになっていないんです。じゃ
 あ何を優先しているかというと、それが増殖なわけです。発電のほかにウラン238を
 プルトニウム239に変えるという仕事もあります。こちらを優先しなきゃならない。
 というわけで高速増殖炉の場合、燃料の配置や冷却材の流量など、発電効率を考えた合
 は、最適条件になっているとはいえないわけです。むしろあまりよくない条件の下で運
 転させられているといえるでしょう。高速増殖炉の場合、いつもは悪い条件で稼働して
 いますから、変化が起きた場合、反応度が上昇する方向に転ぶ可能性が極めて高いので
 す」(原子力専門家の大学助教授)
・「それがすなわち暴走ですね」(ニュースキャスター)
・「しかも高速増殖炉は、もう一つ危険な性質を抱えています。こうして起こった暴走が、
 さらに大きな暴走を引き起こすというものです。それは正のボイド反応度を持っている
 ということです。ボイドとは泡のことです。核分裂反応が盛んになると、液体である冷
 却材が沸騰し、泡が出ます。そうなると中性子にとっては、邪魔な冷却材が少なくなる
 わけですから、ますます大きなスピードで飛び交うことになります。正のボイド反応度
 を持っていたために、大きな事故に発展していった例が、旧ソ連のチェルノブイリ原発
 です」(原子力専門家の大学助教授)
・「例のヘリコプターが墜落し、大爆発を起こした場合、「新陽」が暴走を起こすという
 ことは考えられるんでしょうか」(ニュースキャスター)
・「まず問題になるのは、ヘリコプターがドームの屋根と格納容器を突き破って、建物内
 に入って爆発なり何なりするとどうなるかということだと思います。屋根はコンクリー
 ト製で、一番薄いところの厚さは45センチです。格納容器は鉄板で出来ていまいて、
 厚みは38ミリとなっています。ヘリコプターのエンジン部分が当たれば、この天井は
 もたないんじゃないかと私は思います」
・「原子炉容器の上部には制御棒駆動装置があるんですが、最悪の場合、爆発の衝撃でそ
 れが壊れることもありうるかもしれません。一応制御棒駆動装置というのは、事故のこ
 とを考えてバックアップ機構を備えてはいるんですがね。自重すなわち制御棒自身の重
 さに加えてガス圧で挿入する方式と、自重とスプリングで挿入する方式の二種類です」
・「その両方の駆動システムが同時に機能しなくなるというのは、確率的には低いことに
 はなっています。しかし、機械というのは、何がどうなるかわかりませんから、不運が
 重なった場合には、両方のシステムが壊れて制御棒が入らなくなることもあると思いま
 す」
・「軽水炉の出力は、制御棒のほかに、冷却材中のホウ酸濃度を変えるという方法でコン
 トロールできます。いわは二つの停止スイッチを持っているのですが、高速増殖炉には
 それが制御棒しかありません。それが壊れると、どうしようもないのです」
・「暴走以外にも、危険な要素はいくつかあります。その一つが、蒸気発生器に関するも
 のです。「新陽」では、ナトリウムが直接蒸気発生器のほうに行くのではなく、原子炉
 の横にあります中間熱交換器の中を通ります。この中間熱交換器で、別のナトリウムを
 暖めます。原子炉の中を通ってくるほうを一次系ナトリウム、それによって加熱される
 ほうを二次系ナトリウムと呼びます。そして、水を蒸気に変える蒸気発生器に行くのは、
 二次系ナトリウムのほうなんです。つまりこの二次系ナトリウムは放射性物質は含まれ
 ていないことになります。たしかにここを流れているナトリウムには放射能はないんで
 すが、蒸気発生器が壊れると、ナトリウムと水が混じるということになります。これが
 極めて危険なんです。ナトリウムには水と触れると爆発的な反応をするという性質があ
 るからなんです。単なる火災で済めばまだいいと思いますが、何しろ千七百トンという
 大量のナトリウムを使っていますから、一度反応が始まれば、手のつけられない状態に
 発展することも考えられると思います」(原子力専門家の大学助教授)
・「どうやら今回狙われた原発が軽水炉ではなく、高速増殖炉だったという点が、かなり
 事態を深刻化させているように思われますね」(ニュースキャスター)
 
「町議会の人間は、原発が来たら他の企業も来てくれると、夢みたいなことを思っていた
 ようですが、そんなことは絶対にない。発電所のそばに事務所や工場を建てたところで、
 多少の電気料金割引が望める程度で、ほかには何のメリットもありませんから。むしろ
 交通の便が悪いとか、デメリットだらけです。そもそも一般企業が来てくれないような
 土地やから、原発を呼ぼうということになったんです。活性化どころか、ますます外か
 ら人が入ってこなくなってしまう」
・電源三法交付金とは、電源開発促進税法によって電力会社から徴収した税金を、電源開
 発促進対策特別会計法にしたがって特別会計に入れ、発電用施設周辺地域整備法に基づ
 いて発電用施設の立地市町村やその周辺地域に配分されるものだ。
・「そういった金をせいぜい地域振興に役立ててくれ、という建前にはなっています。と
 ころがその金で田舎が都会に生まれ変わったなんていう話は、ただの一度も聞いたこと
 がない。誰が使うのかもわからないような最新式の体育館や、田舎に不似合いな鉄筋コ
 ンクリートの町役場を作るのが関の山なんです。で、結局こういうふうになるというこ
 とは、国にもわかっています」
・「結局一度原発を受け入れた土地は、原発なしではやっていけなくなってしまう。悪循
 環の見本みたいなものです。だからといって、受け入れた側が愚かだとはいいたくあり
 ません。過疎が進む村や町の人間は、それはもう必死なんです。腹をたてるのは、そう
 いう人間の心理につけこむやり方です。国や電力会社は一種のトリックを使っているん
 です」
・「そういう連中にそんなトリックを使わせているのは、都会の人間です。都会の人間は
 自分たちが快楽を得るために、田舎の人間に原発を押し付けて、その代わりに金を払っ
 ているということになります」
・「地元の人たちは、もとろんそういうトリックに気づいてますが、気づかないふりをし
 ているんです。きっとまだ幻想を抱いていたいんでしょうね。原発から仕事を貰ってい
 る人間がたくさん住んでいるところでは、こういう話をするだけで白い目で見られます」
・政府の発表によると、電力消費量の大きい企業に、今日の昼間の操業分を夜間に回して
 もらうよう申し入れるということだった。またこの発表の最後に官房長官は、各家庭で
 も特にエアコンなどの使用は控えてもらいたいと付け足した。裏を返せば、そういう工
 夫と我慢をするだけで、すべての原発を停止させることも可能になるということらしい。
・犯人の狙いは、それを国民にわからせることにあるかもしれないと思った。もしそうで
 あるならば、やり方には反対だが、主張には同意できると思った。国はエネルギーの需
 要を予測し、それに見合うように供給力を備えようとする。そのために原発も必要にな
 る。しかしエネルギーの需要を減らす政策もあっていいのではないか。
 
・犯人が出している救出条件の中で、最も厳しい条件は、ヘリコプターの高度や位置を変
 えないという点だ。つまりどういう救出方法をとるにせよ、その作業は高度千メートル
 以上の上空で行なわなければならない。救出側もヘリコプターを使用するしかないだろ
 う。相手が空中に浮んでいる以上、こちらもそれができなければならない。

・「政府は、「新陽」事件の犯人の要求にしたがい、国内にあるすべての原子力発電所の
 原子炉を一次停止することを決定いたしました。これにより総発電量は通常の六割から
 七割に減少いたしますので、各企業はもちろんのこと、国民の方一人一人に、徹底した
 節電を心掛けてもらいたいとのことです」(テレビのアナウンサー)
 
・原発がどういうものなのか、彼女はこれまで考えたことがなかった。だがとにかく嫌な
 ものだというイメージだけは持っていた。しかし自分とは縁のないものだと思い、安心
 していた。神奈川県には原発がなくてよかったと思っていた。じつは全国の沸騰水型原
 子力発電所の燃料が、横須賀市の久里浜にある工場で作られ、先導者や警備者にガード
 された積載車によって、深夜秘かに運び出されているということを知らなかった。また、
 「新陽」で使われるプルトニウム燃料の輸送車両が、川崎や横浜を通過するということ
 も知らなかった。

・あれもやはり暑い日だったな、と三島は回想する。その訃報が届いたのが週間会議の途
 中だった。電話をかけてきたのは茨城県警の交通課の人間だった。その相手が沈みきっ
 た口調で三島に伝えた内容は、息子の智弘が踏切で轢死した、というものだった。
・「息子さんの遺体は、現在まだ回収中なんです」
・回収、という言葉を聞いた途端、三島の脳裏に一つのイメージが鮮やかに浮んだ。それ
 は智弘の小さな肉体が、鉄の塊に激突され、リンゴが踏み潰されたように飛び散る光景
 だった。彼は獣のように咆哮した。
・その踏切は、智弘が通っていた小学校と自宅のほぼ中間にあった。学校では、その道を
 通学路としては認めていなかった。正式に通学路として認められなかった最大の原
 因は、遮断機が下りている時でも、その下をくぐって通る事もが跡を絶たなかったから
 である。それで学校側では、時折その踏切のそばに見張りをたて、下校時に通る者がい
 ないかどうかをチェックしていた。
・だが智弘が死んだ日、見張りは立っていなかった。わかっているのは、遮断機が下りて
 いるにもかかわらず、智弘は踏切に侵入したということである。警報機や遮断機が壊れ
 ていたという事実はなかった。
・電車が接近していることも気づかず、他の子供たちがよくやるように遮断機の下をくぐ
 り抜けようとして轢かれたのだろう、というのが警察の見解だった。
・こうした場合に世の中の男がそうであるように、三島もまた妻の秋代を責めた。息子の
 悲惨な死で半ばノイローゼ状態だった秋代は、初七日の夜に自殺を図った。カッターナ
 イフで手首を切ったのだ。三島がすぐに気づいて大事には至らなかったが、夫婦の間に
 生じた深い溝は、どうすることもできなかった。秋代は間もなく実家に帰り、その後三
 島のところに戻ってくることはなかった。約三カ月後に、正式に離婚した。
・智弘の死は、多くの啓示に満ちていたのだ。それに気づくことなく、見当外れなことに
 秋代に責任を押し付けた。本当は力を合わせて、息子の死の意味を考えるべきだったの
 だ。

・中塚の頭の中では、何度も何度もシミュレーションが行なわれていた。ヘリコプターが
 原子炉建物に落ちた場合、補助建物に落ちた場合、タービン建物に落ちた場合、ディー
 ゼル建物に落ちた場合、そしてメンテナンス・廃棄物処理建物に落ちた場合についてだ。
 そして空は、どこに墜落しても過酷事故などには発展しないという結論を出していた。
 一番起きる危険性が高いのがナトリウム火災であったから、消火剤があるのは心強かっ
 た。ナトリウム火災は、水では鎮火できないからだ。
・しかし中塚はまだ迷っていた。天井が特に堅牢でもない補助建物の最上階にある中法制
 御室にヘリコプターが直撃するようなことになれば、室内が壊滅状態になることはまず
 間違いなかった。全員を、また比較的安全と思える非常用制御室に移したようがいいの
 ではないか。
・現在のヘリコプターの高度からして、墜落に要する時間は数十秒と考えられた。ヘリの
 技術者や自衛隊員らが、墜落の前兆を察知できるなら、あと数秒は延ばせるかもしれな
 い。がそれにしても二十秒ほどある。
・いくら巨大ヘリといっても、一瞬にして補助建物を貫通するなんてことはありません。
 それに爆発物を積んでいても、爆発が起きるまでにも、少し時間があるでしょう。その
 時にはもう安全なところに入っています」
・「格納容器の中ですよ。下の階に下りたら、そのまま格納容器の中へ逃げ込みます」
・格納容器の中といっても、原子炉に近づくわけではない。人が入れるのは、格納容器の
 上部である。厚さ1.6メートルの床の下に、原子炉や液体ナトリウムの配管がある。
・格納容器の入り口は二重ドアになっている。その第一ドアを開けるには、手前に設置さ
 れているハンドルを回さなければならない。ドアが完全に開くまでには十秒ほどかかる。
・第一ドアを通るとすぐ前に第二ドアがある。そしてその手前にやはり第二ドアを開ける
 ためのハンドルがある。ところがこのハンドルを回しても、すぐに第二ドアは開かない。
 まず後ろの第一ドアがゆっくりと閉じていき、完全に閉まった後で、ようやく第二ドア
 が開き始めるのだ。つまり安全上、二つのドアを同時に解放することは不可能なように
 できているのである。

・「あのヘリは、どうやって今の位置を検出しているんですか」
・「基本的にはGPSを使っています」
・「そのGPSですが、どのぐらいの精度で、位置を確保できるものなんですか」
・「たとえば車に使われているようなものですと、平面内で最大百メートル、高度でいう
 と百五十メートルの誤差があります」
・「民間用は、意図的に精度を劣化させてあるんです。軍事用のほうは、水平で十八メー
 トル、垂直方向で二十八メートルというのが公称精度です。一応軍事機密ということに
 なっていますので」
・「原発に航空機が墜落した例というのは、過去にあるんですか」
・「津恪に墜落した例ならあるぜ」
・「四国の伊方原発ですよ。1988年です。原発から約1.5キロの地点に落ちた。米
 軍の、やはりヘリコプターだった。ヘリの型式はCH−53」
・その影響を一番受けたのは六ケ所村だ。ウラン濃縮工場の建設を前に、安全審査が行な
 われるところだった。青森には三沢基地がある。いつ演習中に航空機が墜落してくるか
 わからない。それで商業用原子施設としては初めて、墜落による本格的な被害想定が行
 なわれた。
・想定した条件は、満タンにしたF16戦闘機が失速して、時速540キロで建屋のコン
 クリート壁に激突する、というものだった。その結果は、濃縮建屋のほうは壁の厚さが
 90センチあるので中の施設には異常なし。壁の厚さが20センチしかない貯蔵建屋は
 壊れてしまう。ただしこの場合でも被ばく線量は0.06レムに過ぎず、どちらにして
 も安全は確保しうるというのが原子力安全委員会の結論だった。
・ただその時の想定は、F16は爆弾は全く積んでいないという想定だった。あのあたり
 に墜落するとすれば、訓練中の飛行機だから、爆弾は積んでいないだろうということで、
 そのように想定したようだ。
 
・「我々のほうでは、耐爆実験というものやっておりまして、TNT火薬百キロでも「新陽」
  の炉が壊れないことを確認しております」(炉燃本社企画部長)
・「しれは炉の中で爆破が起きた時のことでしょう。今回は、どこで爆発が起きるかわか
 らない。それでも大丈夫だといい切れるんですか」
・「大丈夫だと確認しております」(炉燃本社企画部長)
・「もし深刻な被害が出たら、どのように対応するつもりですか」
・「ですから、深刻な被害などは出ないということです」(炉燃本社企画部長)
・「もし出たら、という話です」
・そういう話には、今はお答えできません」(炉燃本社企画部長)

・「絶対に落ちない飛行機があるかい?ないよな。毎年、多くの死者が出ている。それに
 対して、お前たちのできることは何だ?落ちる確率を下げていくことだろう。だけどそ
 の確率をゼロにはできない。乗客はそれを承知で、その確率なら自分は大丈夫だろうと
 都合よく解釈して乗り込むわけだ。それと同じなんだ。俺たちにできることは、原発が
 大事故を起こす確率を下げることだけだ。そしてやっぱりゼロにはできない。あとはそ
 の確率を評価してもらうしかない」
・「その説明で納得できる人間は少ないだろうな。飛行機は、乗りたくなければ乗らない
 で済む」
・「原発が大事故を起こしたら、関係のない人間も被害に遭う。いってみれば国全体が、
 原発という飛行機に乗っているようなものだ。搭乗券を買った覚えなんか、誰もないの
 にさ。だけどじつは、この飛行機を飛ばさないことだって不可能じゃないんだ。その意
 思さえあれば。ところがその意思が見えない。乗客たちの考えがわからないからだ。一
 部の反対派を除いてほとんどの人間は無言で座席に座っているだけだ。腰を浮かせよう
 ともしない。だから飛行機はやっぱり飛び続ける。

・その日三島は岐阜市の労働会館で行なわれた、ある集会に参加した。原発の末端労働に
 ついている人々の、被爆の危険性について訴えたものだった。当時、三島はわけあって、
 反原発に関する集まりがあると、機会を見つけて足を運ぶようにしていた。その集会で
 は白血病で死んだ作業員の兄と母親が、息子の死が労災に認められるよう署名を求めて
 いた。田辺佳之というのが、その作業員の名前だった。
・「田辺が働いていた原発で、これまで働いた人数は約十万人。その中で白血病で死んだ
 のは田辺一人だけ。一方、白血病の自然発生率が十万人に四、五人ってことだから、発
 生率はそれよりも低い。だから田辺の白血病と仕事とは、何の因果関係もない」という
 のが田辺佳之に関する近畿電力言い分だった。
・「その働いていた人数十万人というのは延べ人数だ。実際はもっと少ない。それに浴び
 た」放射線の量によって分類しなきゃ、何の意味もない」
・田辺佳之の被ばく量が、「五ミリシーベルト×従事年数」と決められている労災認定基
 準を上回っていた。
・「労災基準を越えているのは、全国で五千人強いる。だけど、その五千人がいなきゃ、
 日本の原発は動かないぜ」
・労災認定基準は「五ミリシーベルト×従事年数」だが、原子炉等規制法など他の法令の
 限度量は、年間五十シーベルトとなっており、現実にはこちらの枠の中で原発労働者は
 働いている。この範囲内なら、法定限度内といえるわけなのだ。田辺佳之の件に関して、
 「会社には責任はない」と電力会社が主張しているのは、被ばく量がこの範囲を越えて
 いないからだった。
・だが、この逃げ道となる基準のおかげで、原発が計画通りに運転できるというのが現実
 だった。もし労災認定基準を法的な限度量にしてしまうと、労働者たちのアラームメー
 ターは鳴りっぱなしで、仕事にならないだろう。三カ月で定期点検を終えることなど、
 到底無理だ。
 
・届けられた装置を、湯原は山下と共に仔細に観察した。
 「犯人が使ったものに間違いないと思います。非常によくできています。素人の仕事じ
 ゃありません」 
・「この装置にできることは三つです。エンジンを起動させること、主ローターとテール
 ローターの動きを操作すること、それから自動操縦に切り替えることです」
・「それだけできるなら、なんとかなるんじゃないですか。もう一度自動操縦からマニュ
 アル操作に戻して、それから舵をとればいいだけのことでしょう?」
・「問題はそこです。この装置では、自動操縦を解除できないんです」
・「マニュアルから自動への切り替えはできます。しかし、自動操縦に状態からマニュア
 ル操作に戻すために、わざわざ手順などは設けていないということです」
・「すると、犯人はもし要求が通ったら、どうやってヘリを動かすつもりだったんです」
・「考えられることは二つあります。一つは、別のコントローラを犯人が持っているとい
 うことです」 
・「もしかしたら、犯人にもヘリを移動させる手段がないのではないか、という気もする
 のです。つまり、自分たちの要求が受け入れられないことを予期していて、最初から落
 とす気だったというわけです」
・たしかに国は一度として、犯人の要求を飲むことは考えなかった。またそれが当然だと
 いうのが、万人の感じるところであった。ならば犯人が最初からそう考えていたとして
 も不思議ではない。
・「ヘリを移動させる手段はなくても、落とす手段は持っているかもしれません」

・「結局のところ、ヘリが墜落した後でどういうことになるか、国としても見当がつかん
 のと違うか。何も起こらへんかもしれんし、ひょっとしたらすごい惨事になるかもしれ
 ん。そういうことやないのかな」
・「重大事故になった場合を考えて、テレビに映さないということですか」
・「今の世の中、テレビの力は大きいからな。逆に言うと、テレビで流しさえせえへんか
 ったら、後でなんとでもごまかしようがあるということや。大惨事になったら、さすが
 に隠すのは無理やろうけど、原発がちょっとおかしなことになった程度のことやったら、
 国としては公表したくはないやろうな」
 
・「子供を救出するために、国が犯人の要求を飲んだことについてだが、たしかに多少の
 損失はあったかもしれないし、節電を強いられた国民の中には迷惑だと思った者も多い
 だろう。だけど政府としては犠牲を払った意識はない。おそらく賭けに勝った心境だろ
 うな」
・「あれはトリックだ。実際に止めたのはたった四基だけだ。しかもすべて発電量の少な
 い原発だった」
・「難しいことじゃない。シミュレータを使ったんだ」
・「犯人から子供救出のための交換条件を出された時、政府が一番気にしたのは国民の目
 だ。原発を止めなかったら、人の命を何だと思っているんだと非難されるだろう。
 だが原発は止めたくなかった。それは威信とかの問題ではない。一度でもすべての原発
 を解けたという実績を作ってしまうと、これからの原発政策に影響が出てくるおそれが
 あるからだ」
・「まず国民には要求を飲むと発表して、実際に止めずにトリック映像を流す。それでう
 まくいったら、事件が解決した後で、あれはトリックだったと鼻高々に発表すればいい。
 原発の力なしに過ごした一日など現実には存在しなかったのだと、大きな声でいうこと
 ができる」
・「もし万一犯人がトリックに気づいてヘリを墜落させたとしたら、その時はトリックだ
 ったことは隠して、とにかく犯人を悪者にしてしまえばいい。そういう仕掛けだった。
 すべては周到に計算されていたんだ」
 
・三島は今から九カ月ほど前のことを思い出した。その日彼は智弘の遺品の整理をしてい
 た。それまでは目にするのも辛く、まとめてダンボール箱に入れてあったのだ。これは
 残しておこうか、三島がそんなふうに考えている時、そのノートは見つかった。
・突然こんな書き込みがあったのだ。”原発屋出て行け”。筆跡が智弘のものではなかった。
 三島は胸に杭を打たれたような衝撃を覚え、次に不吉な思いが広がってくるのを感じた。
 彼の予感を裏づける証拠は、それらの中のいくつかから見つかった。
・”放射能をまくな”という悪戯書きがあった。”チェルノブイリにするな”、というものも
 あった。ごく単純に”死ね”、というものもところどころに見られた。
・これらを目にして初めて、三島は真実に気づいたのだった。智弘が死んでから何日か経
 った頃、奇妙な噂を耳にしたことはあったのだ。三島君はいじめに遭っていたのではな
 いか、というものだった。教えてくれたのは、智弘とクラスの違う同級生の母親だった。
・この時に、もっとよく調べておくべきだったのだ。しかし彼も彼の妻も、積極的には動
 かなかった。小学校五年の智弘が自殺するなどというのは想定外だったし、何より気力
 がなかった。事故死と考えておくほうが自分たちの気が楽だという、防衛本能も働いた
 かもしれない。
・だがいくつかの悪意に満ちた悪戯書きを見て、三島は自分の愚かさを呪った。父親が原
 発の仕事をしていることを種に、息子がいじめに遭うというのは充分にありうることで
 あった。智弘は口には出さなかったが、きっと様々な形で、自分の苦闘を伝えるメッセ
 ージを発していたに違いないのだ。それに気づかず、彼に最悪の道を選ばせてしまった。
 それだけでなく、彼の死後も何も知ろうとしなかった。
・三島は智弘が死んだ時の担任教師に会った。教師は次のようなことを話した。
 「両親が原発反対運動をしているという子供がクラスに一人いましてね。そういう子が
 リーダーになっていますから、どうしても原発についても反対という感じになってしま
 ったことは否めませんねえ」
・その九谷良介という少年は、家庭の事情でここしばらく学校を休んでいるということだ
 った。
・この後、三島は、当時智弘と同じクラスだった子供たちの家を、何軒か訪ねて回った。
 だがどの子供も、三島智弘の父親だと知ると、会うのを拒否するか、会っても何もしゃ
 べらないという態度をとった。三島は彼等の表情から、なんとか真実を読み取ろうとし
 た。しかし子供の顔という仮面をつけた彼等は、どんな些細な感情の変化をも漏らした
 りはしなかった。三島は何度か彼等を痛めつけたい衝動にかられたが、小悪魔たちはそ
 んな彼の内心を嘲笑っているようでもあった。
・九谷良介のアパートを訪れた。だが九谷家は留守であった。隣の主婦らしき女性が教え
 てくれたとろでは、九谷家は母親の安恵が入院中で、良介は安恵の実家に預けられてい
 るということだった。
・三島は九谷良介の担任教師に会うことにした。若い女性教師は、最初なぜかひどく警戒
 していた。その理由は、やがて彼女が話してくれた驚くべき内容によって理解すること
 ができた。
・その話とは、九谷家がここ一年以上、何者かによってひどい嫌がらせを受け続けている
 というものだった。それは最初無言電話という、世間でよくある形から始まった。その
 うちに注文していない通信販売の品が届くことが多くなった。
・ある時は全国の反核反原発運動グループから抗議の手紙が殺到した。どうやら彼等のも
 とへ、九谷賢次と安恵の名前を使って、運動家たちを非難する手紙が出されていたらし
 い。
・嫌がらせはエスカレートする一方だった。九谷一家のプライバシーを冒とくするような
 ビラが、何度なく近所に撒かれた。安恵が他の反原発運動家の男性とラブホテルに入っ
 たという内容の文書が、かなり広範囲にわたって一般家庭の郵便受けに入れられたこと
 もあった。
・度重なる精神的苦痛から、遂に安恵は心身症で入院する羽目になった。
・犯人が夫婦の反原発運動に反感を持っている人間だということは明らかだった。
・三島は、良介の苦痛も智弘の死も、同じところに原因があるのではないかと思えてきた
 のだった。彼等はどちらも被害者なのだ。ではその害の根拠はどこにあるのか。そして
 彼は思い出すのだった。いじめの有無を確認するために、かつてのクラスメートたちに
 会った時のことだ。彼等のあの仮面のような顔が瞼に蘇った。
・あの顔は子供だけのものではないのだ、と気づいた。大人になってからも、多くの者は
 あの仮面を手放さない。やがて彼等は「沈黙する群衆」を形成する。答えを得たと三島
 は思った。もはや疑いの余地はない。智弘は彼等に殺されたのだ。

・「やはり犯人が見張っているわけじゃなかったんです。放水口の水の温度が変わったら、
 赤外線熱画像装置から信号が出て、自動的にヘリが墜落するように仕組んであるようで
 す」
・「ヘリを動かせるかもしれません。いや、動かせます」
・「放水口で温度が下がると、自動的にエンジンストップの指示が出されます。この瞬間、
 自動操縦も解除されます。つまり操縦モードがマニュアルになるわけです。自動操縦が
 解除された瞬間、犯人が残していったコントローラでローターを操作できます」
・「オートローテーションをするんです。ヘリコプターは空中でエンジンがストップして
 も、墜落せず着陸することができるんです」

・スクラムスイッチは、二つのボタンを同時に押す方式だった。誤操作を防ぐためだ。
 停止っ」という声が届いたその瞬間、二つのボタンが押された。スクラム停止を告げる
 ブザーが鳴り出した。
・機首に取り付けられたカメラと解析装置は、犯人たちの期待通りの働きを今も続けてい
 た。 
・解析装置による放水口と取水口の温度差の演算結果は、急激にゼロに近づいていた。そ
 の数値はやがて、最初に設定された数字を下まわった。この瞬間解析装置から、一つの
 信号が出された。その信号は自動送給装置のエンジン制御回路に送られた。コンピュー
 タはその外部信号に従い、エンジンを停止させた。
・変化は急激に訪れた。ビックBのローターの回転数が変わったと思った次の瞬間には、
 その巨大な機体が急激に降下を始めた。
・エンジンが止まった、そう声に出していう暇もなく、湯原は即座に、ただ慎重にコント
 ローラのレバーを動かした。 
・ビッグBの機体が、みるみる巨大になっていく。落ちてきているのだ。だが、それだけ
 ではなかった。その降下は真下に向かってではなく、ある角度を持っていた。
・激しい衝撃音が聞えた。これまでとは比較にならないスピードで降下、いや落下してく
 るブッグBの姿だった。機体はバランスを崩し、機首を下にしていた。
・ビッグBが海に吸い込まれていくのが見えた。「新陽」発電所から、数十メートル離れ
 ている。その後、爆発音が起こった。海の表面が砕け、水の大砲が三百六十度、あらゆ
 る方向に向かって発射された。爆発は一度では終わらなかった。二度三度と繰り返され
 た。
・「オートローテーションの働きでヘリの落下速度が鈍るのを、犯人は嫌がったんですよ。
 エンジンが止まった時点で、ローターが壊れるように小さな爆弾を仕掛けておいたんで
 しょう」  
  
・「関係者各位
 今回の試みは、我々からの忠告である。
 沈黙する群衆に、原子炉のことを忘れさせてはならない。その存在に気づかぬふりをさ
 せてはならない。自分たちのすぐそばにあることをいつも意識させ、そのことの意味を
 考えさせねばならない。そして彼等に道を選ばせねばならない。
 今回我々が「新陽」を狙ったのは、それが最も危険桿を与える効果があると思ったから
 だが、じつはもう一つ理由がある。それは、世界最大のヘリを千数百メートル上空から
 落下させた場合、他の原発では放射能漏れのおそれがあったからである。
 それは原子炉建物の堅牢さとは無関係だ。
 我々が恐れたのは、何かの狂いで、ヘリが使用済み燃料プールに墜落することであった。
 プールの天井は、原子炉建物のように頑丈ではない。薄い板一枚である。その下に、プ
 ルトニウムを大量に含んだ使用済み燃料が、ずらりと並んでいる。そこへヘリが突っ込
 み、たとえ十本のダイナマイトでも爆発するとどうなるか。
 プルトニウムは水に混じりだすだろう。そしてやがて浴槽の垢のように、プールの壁面
 に付着するだろう。中には乾燥し、細かな粒子となって浮遊し、どこまでも飛んでいく
 ものもあるだろう。その粒子が人の肺に入り、定着し、そこで放射能を発し続けること
 もあるかもしれない。
 確率は低い話である。しかしゼロではない。そしてゼロでない以上、我々としてはそう
 した原発を狙うわけにはいかなかった。現在日本中の原発は、どこも皆、使用済み燃料
 を大量に抱えている。
 それが少ないのは、稼働して間もない「新陽」だけであった。また「新陽」はプールを
 地下に設置してある。ヘリからの被害を免れるだろうと我々は予測した。
 皮肉なものである。危険だと思われている高速増殖原型炉が、我々の計画の前では、最
 も安全だと判断されたのだ。
 我々の周りの存在している原子炉が、ひとつの顔だけを持っているわけではないことの
 証であろう。彼等は様々な顔を持っている。人類に対して、微笑むこともあれば、牙を
 剥くこともある。微笑みだけを求めるのは、傲慢である。
 繰り返す。沈黙する群衆に、原子炉のことを忘れさせてはならない。常に意識させ、そ
 して自らの道を選択させるのだ」
・「「新陽」に落ちたほうがよかった。そのことにいずれみんな気がつく」