世界に広がる脱原発 :別冊宝島編集部

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この本は、あの2011年3月の東日本大震災・福島第一原発事故後の同年11月に出版
されたものである。あれから4年が過ぎた現在、一体何が変わったのだろうか。原発事故
後、あれだけ騒がれた原発問題も、今やすっかり片隅に追いやられてしまっている。
もっとも、その間、日本は原発のほとんどは再稼働できないままとなっており、この先も
再稼働に動くのか、不透明なままだ。現安倍政権は、「集団的自衛権」ばかりに熱心で、
原発問題は眼中にないようにも見える。日本国民の大多数も、福島の原発事故など忘れて
しまったようじ感じる。日本は忘れっぽい国民だと言われているようだが、どうもそれは
本当のようだ。
エネルギーコスト面において原発が一番安価だという理由で、現政権は原発再稼働を押し
進めようとしてはいるが、この間に、米国のシェールガスの開発が進み、それに影響され
て、中東の原油価格が半分近くにまで落ち込んでおり、原発が一番安いという根拠も、す
っかり色あせてきた。
原発の問題は、その事故が起きたときの、もう回復できない甚大な被害はもちろんのこと、
原発から出る使用済み核燃料の廃棄の問題も、まったく目処の立たない問題である。この
使用済み核燃料廃棄の問題をそのままにして原発を稼働し続けることは、いずれ近い将来
破綻するのは目に見えている。使用済み核燃料廃棄の問題を解決できないならば、原発は
諦めなければならないのではないかと思う。しかし、世界の動きを見ると、原発廃止の動
きをしているのは、ドイツなどごく少数の国々だけのようだ。中国を始めとする新興国は、
これから益々原発に依存していくのではないかと思われる。以前は、核戦争によって人類
が滅びるのではと思われていたが、核戦争ではなく、原発事故のよって人類が滅びる可能
性のほうが、高くなっていくような気がしてならない。

イタリアが報じた脱原発
・イタリアは、チェルノブイリ事故を受けて実施された1987年の国民投票で、原発禁
 止を決定している。しかし、その後の電力需要量の増加、輸入に依存する電力供給の不
 安定さ、コスト高などを理由に、政府が方針転換した。
・日本では多数決が民主主義の基本と誤解されることが多いが、民主主義の基本は、市民
 の自由な意見が何者にも抑制されないことだ。自由な意見を発言するのは権利であり、
 また民主国家を運営するために発言することは、国民の義務でもある。

ドイツが報じた脱原発
・フクシマは「制御できる原子力」という夢に直ちに終わりを告げ、このエネルギーが人
 間の手では制御不可能であるという告白を決定的なものにするだろう。 
・万一事故が起これば直ちに環境や人体に重大な損傷を与え、高度で精密な技術によって
 しか制御できない原子力。ドイツ人はそれを現代文明の輝かしい頂点というより、むし
 ろ自然の摂理に反する脅威ととらえた。
・実際にドイツにまで放射能汚染をもたらしたチェルノブイリ事故が、ドイツ人の「トラ
 ウマ」になったことはメディアでも繰り返し言及されているが、それなら福島からの映
 像はさしずめ「悪夢の再現」と映ったのではないか。
・ドイツ政府は福島事故後に突然「原発推進派」から「脱原発派」に180度転換したわ
 けではない。ドイツの脱原発は、2000年に決定しており、21年〜23年の原発完
 全廃止を決めていた。
・国民が心から脱原発を望んでいたことは、福島事故のあとドイツ各地で10万〜25万
 人規模の反原発デモが頻発した事実でも明らかだ。世論調査の数字もこれを裏づける。
・脱原発がタダではなく、国民みんなが(節電に)貢献しなくてはならないことは明らか
 だ。しかし、現時点で不透明なのは、政府のエネルギー政策転換に対する国民の情熱が
 いつまで続くのか、という点である。高圧送電線の鉄柱やバイオガス施設が庭の柵の向
 こうにできることを、国民は従来以上に寛容に受け入れることができるのか?何千キロ
 にもわたる新しい送電網と、原発に代わる発電施設なくしては、脱原発は停電につなが
 るだけだ。
・脱原発を単なる損失、産業への害毒、原子力に依存する世界経済での奇妙な独走だとだ
 け見るべきでない。脱原発は採算性のある自然エネルギーという新時代への船出であれ
 ば、計り知れないチャンスを提供する。きちんと取り組めば、ドイツは先駆者の役割を
 果たせる。地球の資源は有限で、いずれはすべての国が方向を転換しなければならない
 のだ。脱原発は、ただドイツの原発を閉鎖するだけの施策ではない。資源を必要とする
 エネルギー生産そのものを終わらせるものだ。
・自然エネルギの比率をさらに高めることは、何かを無理にあきらめるとか、セーター
 を厚着して省エネルギーするような(古臭い)イデオロギーでは決してなく、現代的な
 ハイテクノロジーを推進することだ。
・エネルギーを一時的に保存する技術のうち、たとえば水位に応じてエネルギーを風力発
 電施設から取り込んだり戻したりする人工湖などは、現段階ではまだ奇妙な印象を与え
 る。しかし、かつでは奇想天外なアイデアを思いつき、それを実用化するのがドイツの
 専売特許ではなかっただろうか。
・自然エネルギーにこそ未来がある。生後不可能で危険の多い原子力のような古い技術に
 あるのではない。
・福島の原発事故は、政治、経済、国民生活がすべて「環境」という部分でリンクしてい
 る事実を私たちに突きつけた。ドイツはそれを真摯に受け止め、原発を駆逐して地球と
 人類が共存共栄できる新しい枠組みの構築に乗り出したのだ。

アメリカが報じた脱原発
・アメリカは一見原子力エネルギーを積極的に推進してきたように思われているが、実際
 は反対運動が勝利を収めているようだ。東電が大手メディアを籠絡し、手練手管で国民
 をだましてきた同じ手口がアメリカでも見受けられる。
・ハーバード大学とMITが共同で行った世論調査では、3.11以前は78%のアメリ
 カ人が新規の原子力発電所建設が必要であるとしていたが、3.11以降は78%のア
 メリカ人が原子力発電そのものに反対している。それほどまでに3.11は甚大な影響
 を与えたということであろう。しかし、それは国民の話であって、政治家の話ではない。
 どこの国でもそうだが、政治家のマインドと一般人のそれにはかなりのギャップがある。
・驚くなかれ、アメリカでの反原発運動はその産業の歴史と同じくらい古い。
・実際、9.11同時多発テロ事件の実行犯のひとりは最初に飛行機10機をハイジャッ
 クして、マンハッタンから40キロ北に位置するインディアン・ポイント原子力発電所
 にぶつかる計画をしていた。
・原子力発電は、本質的に危険なテクノロジーであることが明白であるにもかかわらず、
 それに対して明確な危機管理計画がない。そのことに関して深い懸念をずっと覚えてい
 た。核廃棄物処理に関しても今でもまったく解決の道がない。
・アメリカは国としては原発を支持しているが、それはあくまでも政策として推進してい
 るだけであって、民間の投資会社にはほとんど支持されていない。一旦事故が起きたと
 きの損失を考えると、経済的に見て安定していないからだ。
・3.11事故でも明らかになったが、原子力発電は一旦事故が起きれば、想像もつかな
 いほど莫大な補償が必要になるので、民間の保険会社では取り扱ってくれない。保険会
 社が取り扱ってくれないとなると、誰が原子力発電所を建設するだろうか。
・日本で原子力発電が推進された背景には、原子力ムラが恣意的に作られたことが大きい
 が、アメリカに比べるといかにも本らしい欺き方である。原子力ムラは、経済基盤を原
 発に頼らざるを得ないため作られたが、一旦ムラができると後戻りすることはできない。
・アメリカにはプライス・アンダーソン法があるので、3.11と同じレベルの事故がア
 メリカで起きても、事業者がもつ賠償には上限があり、守られるようにできている。原
 子力産業の人たちは、リスクと報酬を慎重に分離することを確実にした。つまり、儲か
 っているときは事業者が利益をもって去り、失敗すると納税者が責任を負うようになっ
 ていることを我々は認識すべきだ。
・アメリカは原子力と再生可能エネルギーの電源構成比は原子力が20%、再生可能エネ
 ルギーが10%であるが、今後はこれが逆になっていくであろう。日本のようにムラ全
 体を洗脳して経済的に原発に依存せざるを得ない状況に追い込むような手練手管は使わ
 ず、徐々に再生可能エネルギーへ移行していくだろう。
・現在の状況で、オバマ大統領が政策として、原発を維持する方針をどれほど熱心に示し
 ても、事実上原発依存低下は必至であろう。オバマ大統領が掲げる政策目標は、クリー
 ンエネルギーの構成比を現状の40%から35権に80%に上げることだが、その中に
 原発依存度は予想以上に減少せざるを得ないだろう。
 太陽エネルギーと風力エネルギーはコストがどんどん下がってきている一方で、原子力
 のコストはどんどん上がっている。再生可能エネルギーが手ごろなコストになり、その
 方向に向かっていくことは明らかである。
・自然が起こす事故に想定外という発想はない。3.11が世界に証明したのは、原発は
 経済的に割が合わないということだけではなく、とてつもなく危険であるということだ。
 しかも、一旦事故が起こると放射線の放出が無期限に起こり、元の安全な環境に戻るこ
 とは不可能である。これはチェルノブイリ事故で証明されたが、日本やアメリカを含む
 世界の国々は、チェルノブイリ事故は対岸の火事であると高をくくっていた。 

台湾が報じた脱原発
・日本の原子力災害が起きて、核は安全でないことが確認されました。台湾は、原子力災
 害の重大なリスクを抱えています。主要な原子力災害が起きれば、台湾は小さく、人口
 密度が高い島なので、緊急対応力や避難は福島よりさらに困難になります。台湾社会の
 崩壊につながる可能性もあるのです。 
・原発を推進する背景には、経済界の声が大きいといわれるが、その経済界からも反原発
 の声が上がっている。 
・台湾は日本と同様、地震多発地帯に位置するため、原発には向かない。福島の原発事故
 で、そんな地域に、原発を設置することがいかに危険であるかが証明された。安全技術
 が世界的に高いとされる日本でさえ、このような事態を招いたのだから、台湾はもって
 のほかだ。
・福島の原発は、巨大な地震と津波が一緒に発生することを考慮しなかったようだが、私
 たちの原発は考慮していると言えるだろうか?
・福島原発事故でわかったことは、大災害が起きたとき、各種に防護系統(電力の確保な
 ど)が一緒に壊れる可能性があることである。台湾電力は、防護系統が福島の原発より
 1つ多いことだけを強調して、それも同時に失う可能性が高いことを考慮していない。
・福島原発事故は、原発のリスクは私たちの予想よりはるかに高いことを示した。   

韓国が報じた脱原発
・日本の福島での原発事故以降、主要国の中で原発の完全放棄を宣言した国はドイツが始
 めてだ。ここで注目すべきは、原発をまず諦めてこそ、原発のない世の中が表現できる
 という事実だ。ドイツは2002年に脱原子力法が制定された直後から、本格的に、エ
 ネルギー政策の中心軸を再生可能エネルギーに移した。ドイツの電力生産に占める再生
 可能エネルギーの比率は15年間で1%から17%に急増した。原発をまず捨ててこそ、
 代替策が育ち始めるのだ。
・留学や観光などで日本の冬を経験したことのある韓国人の中には、「日本は韓国よりも
 寒い」と話す人がけっこいる。 
・気温で言えば、東京よりも緯度が高く、大陸の凍てついた大地を通って風の吹き付ける
 ソウルのほうが、はるかに低い。それにもかかわらず、「日本のほうが寒い」と感じる
 韓国人が多いのは、おそらく暖房の使い方の差だ。韓国では外出して冷え切った体を温
 めるためもあって、電気式の暖房をガンガン使って室内の温度を高めに保っている。家
 庭だけでなく、オフィスや公共施設でもそうだ。つまり、韓国の「暖かい冬」は安い電
 気料金のおかげというわけだ。
・福島第一原発の原子炉建屋が次々と爆発したとき、さらには高濃度の放射能汚染水が海
 に流出したとき、韓国世論は激しく反応した。日本政府に憤る声が多かったのはもちろ
 んだが、自国政府に対しても「政府は国民に、本当のデータを開示しているのか」など
 と問い詰める論調も少なくなかった。それもこれも、放射性物質という「見えない恐怖」
 を、隣国日本の国民とともに体験したからと言える。それでも、原発利用に対して「現
 状では仕方ない」と消極的受容の姿勢を見せる人が多いのは、やはり「代案がない」か
 らでもある。温室効果ガスの排出抑制を考えると、原発にとって変わるエゲルギー源は
 再生可能エネルギーしかない。  
・日本は、原子力関連の大衆書籍がそれなりにたくさん出ている。わが国は本当に指折り
 数えられる程度なので、関連する知識が庶民に広く普及しないことが悔しい。そして日
 本がうらやましい。 
・インターネット社会である韓国では、情報の拡散するスピードは非常に速い。原発につ
 いて考える際には、ある程度の厚みのある書籍を通じて体系的な知識を共有することが
 望ましいとは思うが、韓国人自身が、「自分たちには原発について語る言葉が不足して
 いるのではないか」と感じ始めたとすれば、それはいずれ、何らかの大きな変化につな
 がる可能性がある。 
・韓国政府は30年までに、原子力の発電量を全体の59%に引き上げる目標を掲げてい
 る。それと平行して、新興国に原発を輸出するための商談も積極的に進めている。現状
 でも難しいというのに、原発に対する依存度が6割にもなってしまったら、それを代替
 する電源を確保するなど不可能になるだろう。また、韓国は原発輸出に際して、数十年
 間の運転保証を売りにしている。その契約を守るためには国内での技術継承が重要とな
 り、原発の全廃など到底できない。
・大きな転換が起きるとすれば、きっかけになるのは、やはり放射性廃棄物の問題だろう。
 韓国ではこれまで、使用済み核燃料を、各原発の敷地内にある一時的な貯蔵施設で保管
 してきた。16年以降、それらの施設が順次飽和状態になると見込まれているのだが、
 その後のことが何も決まっていないのだ。 
・韓国政府は、使用済み核燃料を再処理して核燃料サイクルに利用し、高レベル放射性廃
 棄物の量を減らしたい意向をもっている。しかし、アメリカから韓国への原子力技術が
 移転される際に交わされた原子力協定では、核兵器開発にもつながる再処理を、韓国が
 行うことを禁じているのだ。  
・韓国は70年代、極秘裡に核兵器開発を計画したことがあり、そのことが今でも尾を引
 いているとされる。またアメリカには、北朝鮮に核兵器開発を思いとどませるうえで、
 韓国が再処理に踏み込むのは好ましくない、との思惑があるようだ。
・原発が増えれば放射性廃棄物も増える。韓国政府はエネルギー基本計画がスケジュール
 通りに進と、30年には、韓国の放射性廃棄物は現在の2倍のペースで増える。果たし
 て、韓国政府が国民に供給する「安い電気」は、この現実をどこまで覆い隠すことがで
 きるのか。その答えが見えてくるまで、そう長くはかからないような気がする。
 
中国が報じた脱原発
・東日本大地震のニュースは中国でも詳細に伝えられた。衝撃的な津波の映像が繰り返え
 され、被害者が列を作って配給を受け取るなど、公衆マナーの良さは他国人以上に中国
 人に衝撃を与えたといってよい。
・中国はただでさえ人口が多いうえに、現在は高度経済成長の最中で、エネルギー消費量
 は01〜10年の10年間で約2倍にも増え、全世界の20%以上を占める。今後もエ
 ネルギー需要が高まる中、原発は中国においてこれまでよりもむしろ今後、飛躍的に増
 えていく趨勢である。中国政府は今後の原発建設計画を10年3月に大幅に引き上げて
 おり、2020年までの10年間を毎年6基ずつ増設して70基余りが稼働するように
 し、発電能力を現在の7倍に増やす目標を掲げている。世界で建設中の原発の4割が中
 国だというのは、中国が世界の約2割の人口を有するにしても多すぎる数字であろう。 
・原発増設に対して国内で反対意見はほとんどない。それは福島原発の事故後でも変わら
 なかった。国内での無反応に呼応するように、中国政府は原発増設路線を堅持する。確
 かに中国では過去に2級以上の原発事故が発生していないという安全性への自信のみな
 らず、エネルギーの多くを石炭に依存し、毎年のように各地で炭鉱の大事故が起き、煤
 煙の環境汚染が深刻であるなど、他国にはない事情がある。広大な国土面積から考えて
 もあまりにも多すぎる巨大人口を抱え、雇用を確保するうえで工業を主体とした高度経
 済成長を維持しなくてはならず、年々エネルギー消費が大幅な拡大を続けているのが現
 況である。
・政府に対する不信感や経済格差は、実は今の中国で最も話題になる社会テーマにほかな
 らない。今の中国では共産党一党独裁のひずみや都市・農村などの経済格差の問題がき
 わめて深刻で、国内が乱れているなか原発問題も国内の重大問題に絡めなければ人々に
 理解されないのだ。それだけ原発そのものへの関心が薄いのだとも言える。
・エネルギーは国家の根幹事業であり、日本での事情を考えても、ただでさえ報道規制の
 厳しい中国において原発について自由な意見が言えないことは想像に難くない。しかし
 近年の中国では、原発以外の分野において、規制が厳しいにもかかわらず、政府に対す
 る厳しい意見がインターネットなどで噴出していることも事実である。   
・今、中国で市民が結集すると、政府は昔のように頭ごなしに弾圧するだけでは済まなく
 なっている。もし仮に福島原発のような事態が中国にあったならば、日本よりはるかに
 大規模なデモが起きるのではないかと大連の事例を見る限り想像することができる。そ
 んな中国にあって原発批判の声は小さい。 
・原発への批判意見が少ない原因は以下の2点ではないかと思う。第1に、国家の基幹に
 関わる問題だけに言論への統制が特に厳しく、したがって原発に関する正しい知識が普
 及しない点。単に規制が厳しいだけでなく、無知がゆえにパニックを恐れて政府がひた
 隠すために、かえって無知が広がる、といった悪循環が存在し、正しい科学的知識に基
 づいた原発批判が広まりにくいことがわかる。 
・もうひとつ、原発批判が少ない理由として、エネルギー消費を拡大せざるを得ないなか、
 多くの人にとって原発反対が国益にそぐわない思いがあるのではないか。これには、原
 発汚染そのものにあまり敏感でない国民気質が働くのではないか。 
・反対運動が盛り上がらない一因に情報不足があり、原発情報がもっと知られることによ
 って市民社会化の形成もあり大規模な反対の声が上がることが予想されるが、事故が起
 きない限り、格差拡大などの国内重要問題の延長線上の問題にとどまるに違いない。
 
ロシア・東欧が報じた脱原発
・原発の割合を増やそうとしている国にとって、コストをどう抑えるかが大きな問題とな
 っており、これが米日韓国仏露などの企業の技術やサービスの競争を招いている。福島
 事故をきっかけに、原子力の未来を危ぶむ声やより高い安全性を求める声が高まってお
 り、これもまたコストの上昇につながる。専門家は福島事故後、世界の原発建設が4割
 縮小すると見てもり、ドイツでも脱原発の方針が打ち出された。しかし、そこで生じる
 電力不足を補うため周辺国にとっては電力輸出のチャンスとなる可能性がある。
・脱原発への動きを支持するロシア人の割合は57%に上り、反対と答えたのはわずか
 20%だった。脱原発支持の主な理由は、「生命の安全と環境改善」(68%)、「代
 替エネルギーがより安全なで経済的」(24%)などとなっており、脱原発反対の理由
 としては、「ロシアは原子力なしではやっていけない」(38%)、「代替エネルギー
 だけでは今のところ不十分」(16%)、「適切な使用の下では原発は安全」(13%)
 となっている。
・ロシアでは、32基の原子炉中、22基は30年前の設計で、古い原子炉の半数近くは
 チェルノブイリで爆発して原子炉と同じ型である。   
・日本の原発事故後、世界中で原子力の未来についての議論が始まった。事故が世界の原
 発に反対する人々を活気づけたことは紛れもない事実だ。ドイツ以外の国でも、計画が
 見直しされ始め、多くの原発建設が凍結された。しかし、ロシアを含むいくつかの国は
 推進の方針を堅持したまま、さらなる原発建設を進めている。ロシアは自国向け以外に
 海外輸出にも取り組んでいる。
・未来の電力産業は天然ガスが主流となる。地球の天然ガス埋蔵量は50から100年分
 はあると見られ、天然ガス発電はこの20年のうちにトップに出てくるに違いない。日
 本の事故はこのシフトを加速させるはずだ。  
・原子炉事故リスク評価では10万年に1回と想定されているが、65年にわたる原子力
 産業の実績で400以上もの平和および軍事関連の原子力施設で事故が発生、つまり年
 に6.5件だ。 
・ウクライナの原発は、国内電力のほぼ半分の47.4%、残りを火力(45.7%)と
 水力(6.9%)により賄われています。専門家の多くは、原発が最も安価であり、そ
 の代替エネルギーはない、と考えている傾向があります。代替エネルギー源を開発する
 明らかな必要性があることは認めなければならないが、今それで国の電力需要を満たす
 ことはできません。先進国ですら、そのシェアが10%を超えることはありません。 
・送電網からすべての原発を切り離すことは可能ですが、物理学はごまかせません。核反
 応のプロセスは続行し、いずれにしても原子炉は作動し続けます。その保全には莫大な
 コストがかかります。 
・地震多発国のアルメニアでは、格納容器のない老朽化した原発が稼働中で「世界で最も
 危険な原発」と呼ばれている。周辺国から閉鎖要求が高まっているが、発電シェアが半
 分近くあり、代替案もないため、止めるに止められないのが実情だ。
・概観すると、ロシアは原発輸出で外貨を獲得したい、東欧諸国はロシアというエネルギ
 −大国の思惑に左右されたくない、という意向があるため、今のところ、東ヨーロッパ
 で脱原発を表明している国はない。ただ、国としての方針はともかく、一般国民は原発
 に頼らずに済むなら、そうしたい、という気持ちを持っているようである。こうした厳
 しい現状を見るにつけ、日本のように経済的に見ても十分脱原発が可能で、さらに世界
 有数の地震多発地帯に位置し、脱原発を表明するのに十分すぎるほどの理由があるのに
 できないでいる、という現状はなんとも歯がゆい。 

EU諸国が報じた脱原発
・欧州連合国27加盟国のうち、福島前は、原発に非好意的な国が12か国、原発に好意
 的な国が15か国と、好意的な国が数の上では勝っていた。そこに起こったのが、ドイ
 ツの脱原発宣言だ。大きな将棋の駒が、反対側に動いたことになる。さらにイタ
 リアの国民投票だ。これで、原発に非好意的な国が14か国で多数派になった。国の数
 がすべてではないが、このことはじわじわと欧州の、ひいては世界の原発情勢に大きな
 影響を与えるに違いない。 
・右派と左派が対立し譲り合わないスペインだが、ドイツの脱原発宣言については、その
 裏にある政治的な駆け引きを見抜こうとする態度で一致している。駆け引きと利害が渦
 巻く人間関係の中で生き抜くこの国の人々は、簡単に人の言葉を信じない。肩書きも学
 歴も見ない。人知を超えた行動のみが、彼らの心を捉えるのだ。
・フランスは、原発超大国である。電力の約75%を原発に頼っており、依存率は先進国
 では1位、58基の原発保有数は世界2位である。  
・フランスは、ドゴール将軍の時代から「核を保有することが国の力に繋がる」という戦
 略をもってきだのだ。フランスは世界中で唯一、エネルギーの独立性を保持していると
 の政府の認識である。
・現代フランスは、核兵器と原発を保持し続けることが、国是といってもいい。ドイツの
 占領から祖国を解放した将軍、シャルル・ドゴールが作った基本戦略となっている。
 なので、核を否定することは、国家そのものを否定することになってしまう。
・世界を見渡すと、先進国は原発をもっていて、発展する途上国は先進国になるべく、原
 発を持とうとしているイメージがある。しかし、「脱」原発ではなく、最初から市民の
 意志によって、原発を使うことを拒否した国が西欧にはある。その代表的な国が、オー
 ストリアだ。オーストリア政府は原発を推進した。実際に建設された。しかし、78年、
 国民投票で反対が過半数を獲得したために、出来上がった原発を稼働することなく放棄
 したのだ。86年のチェルノブイリ事故はおろか、79年のスリーマイルよりも前のこ
 とである。 
・欧州を見渡すと、大事故が脱原発に大きな役割を果たしていることがわかる。スリーマ
 イル島事故の後、スウェーデンが国民投票によって脱原発を決め、デンマークは、建設
 する計画はあったものの、結局一度も商業原発を建設することなく原発エネルギーを禁
 止した。チェルノブイリ後は、イタリアが国民投票により原発廃止を決め、ドイツとベ
 ルギーが脱原発を決定。福島後は、スイスと、政策を変えたドイツが再び核エネルギー
 の廃止を決めた。
・どの国の市民も、自分の国の運命は自分で決めた。広島・長崎を経験した国が、なぜ世
 界最高レベルの核事故をひき起こし、再び放射能に苦しむ事態になったのだろうか。欧
 州で危機意識を持つ人たちは問いかけていると思う。日本人よ、あなた方は今、何を考
 えているのか、どうしたいのか、と。日本の静けさは、顔の見えない人間のようで、不
 気味ですらある。
・最高レベル7の原発事故を起こした国は、ソ連と日本しかない。民主主義世界では、日
 本がトップ中のトップである。今、日本がしていることが、今後起きる原発事故のモデ
 ルケースとなるのだ。世界が日本の真似をすることになる。


<参考 世界の原発保有数>
 
順位   現保有数 建設中 将来の建設予定数
アメリカ  104   1     32
フランス   58   1      1
日本     54   2     11
ロシア    32  10     24
韓国     21   5     11
インド    20   5     58
イギリス   19   0     10
カナダ    18   0     10
ドイツ    17   0      0
ウクライナ  15   0      3
中国     13  27      57
スエーデン  10   0       7
スペイン    8   0       0
ベルギー    7   0       0
台湾      6   2      2