日本はなぜ脱原発できないのか :小森敦司

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あの2011年3月の福島第一原発事故から、あと半年で10年になろうとしている。事
故後の一時期は、「原発ゼロ」が世論の主流となったが、それも今ではすっかり下火にな
ってしまった感がある。
かねてから「原子力村」という言葉が囁かれてきた。福島原発事故を契機に、その「原子
力村」も崩壊するのではと思われたが、そうはならなかったようだ。「原子力村」は、日
本社会のなかに、しっかり根を張っており、そう簡単に崩壊するものではなかったのだ。
一時期は鳴りを潜めたものの、不死鳥のごとく再び息を吹き返してきているようである。
「原子力村」の力はあらゆる業界に及んでいる。政界やメディア業界ははもちろんのこと、
学会や地方自治体、建設業界などなど、「原子村」の力が及んでいないところは、むしろ
少ないのではないのかと思うほどである。そしてその力の源は「カネ」である。この「カ
ネ」の力によって「原発賛成」とは言わないまでも、「原発反対」の声が出せない状況が
つくり出されていく。「カネ」は「麻薬」と同じだ。一度その恩恵のあずかると、なかな
かそれから抜け出せない。将来、再び起こるかどうか分からない原発リスクよりも、「原
子力村」が陰でこっそり手をまわしてくる「カネ」の恩恵を選ぶのだ。
この本のタイトルにもなっている「日本はなぜ脱原発ができないか」は、私も日頃から心
に突き刺さっている疑問であり、この本を読んだら何か分かるのではないかと思い、読ん
でみた。しかし、この本の読んでみても、結局、何だかよくわからないというのが結論だ。
「原子力村」という闇がある限り、脱原発はできないということなのだろう。そして、そ
の「原子力村」は、日本社会に広く深く浸透しているために、日本という国が存在する限
り、その影響は消滅することはないということだろう。
もっとも、最近では、太陽光発電や風力発電なども徐々にでは普及してできている。この
まま普及が続けば、やがては原発への依存度をかなり低くしていけるのではないかと思え
る。現在ある原発の再稼働は仕方がないとしても、新たな原発の建設を抑えていけば、将
来的には「原発ゼロ」に近い状態になるのではないかとも思える。
しかし、原子力発電の根源的な問題は、原発の事故時の被害の影響の甚大さはもちろんの
ことだが、その使用済み核燃料の最終処分方法がないことだ。この問題が解決しない限り、
原発を続けることはできない。そして、この使用済み核燃料の最終処分の問題は、これか
ら先も解決の見通しはまったく立たないままだろう。
それは、事故が起きた福島第一原発の汚水処分の問題を見ても明らかだ。もう10年近く
も処分方法を解決できずにタンクに溜め続けている。それもあと数年で限界がくる。その
ときは、恐らくいろいろは理由をつけて、「安全だから」と海に流すことになるだろう。
原子力発電のツケはどこまでもついてくるのだ。
この本は、今から4年前の2016年に出版されたものなので、内容的にやや古い部分も
ある。それでも、「原子力村」という闇について、それがどんなものなのかが、ある程度
わかったような気がする。

はじめに
・東電福島第一原発事故は、民間の9電力体制の発足から60年、福島第一原発1号機の
 営業運転開始から40年というときに起きた。原発を抱え、総括原価や地域独占といっ
 た仕組みに、長い間、守られてきた日本の電力会社。それを中心にした「原子力村」は、
 誰にも手がつけられない存在になった。思うに、そこにたまった澱こそが、事故を起こ
 した一つの原因ではなかったか。
・日本の「原子力村」は、電力会社ばかりか、産業界・財界、官僚、政治家、学者、さら
 にメディアをも含む巨大で強力な「原子力複合体」とも言える。こんな「原子力村」は
 他国に例を見ない。
・いまの安倍政権は、原発再稼働路線を歩んでいる。脱原発を求める世論が多数を占めて
 いるのに、脱原発に舵を切ることはない。それは、強大な「原子力村」が事故後も倒れ
 ず、そこにあるからだろう。
 
事故後の反省記事
・経済産業省資源エネルギー庁の石田徹前長官が新年(2011年)早々、東京電力の顧
 問に就いたという。退任してわずか4カ月余り。いずれは副社長になるとみられる。
 畠章宏
経済産業相(当時)は記者会見で、東電側の要請に基づくので「天下りと質が違
 う」と語っている。こんな理屈が世間に通じるだろうか。
・電力業界はこの国で大きな地位を占める。発電から送電、小売りまで事実上の地域独占
 を許されているからだ。電力の自由化論議は近年進まず、経営は安定している。エアラ
 インのような倒産劇はなく、ブロードバンド料金のような価格破壊もない。
・日本は確かに停電が少ない。そこは電力会社を褒めたい。
・経産省が2010年につくった2030年までの「エネルギー基本計画」は、温暖化対
 策の中心に再生可能エネルギーはなく、原発の新増設が据えられたのだ。太陽光発電か
 ら生まれる余剰電力の買い取り制度も、消費者のエコは気持ちをなえさせるような仕組
 みになった。制度を支えるための「追加負担」は家庭への電気代の請求書に書かれる。
 だが、電気代に含まれる原発の使用済み核燃料の再処理費用は書かれないままだ。
・東電の原発事故の前、この天下りを真正面から批判する新聞記事はほとんどなかった。
 記者たちは、経産省と電力会社のこんな近しい関係を知りつつも、「別にいいんじゃな
 いの」と見ていた。だが、よく考えれば、電力会社を所管する資源エネルギー庁の長官
 が、退任してわずか4カ月後に、電力会社に「お給料」をもらいにいくのは、やはりお
 かしかった。不幸なことだが、原発事故を経て、ようやく政治家や報道機関は、正常な
 感覚を少し呼び覚ました。
・「福島は首都圏の電力の3分の1を担ってきた」同県の佐藤知事(当時)はそう語った。
 顔を平手打ちされた気分だ。確かに、首都圏に住む人々の電気をたくさん使う暮らしは、
 福島県などにある発電所が発電してくれるという前提のうえに成り立っていた。    
・福島県は東北電力の供給エリアにあり、東京電力が同県内でつくった電気は、首都圏を
 中心とする東電の供給エリアで使われる。首都圏への電力供給のために立地された原発
 の事故がいま、福島の人々に域外避難などを強いているのだ。
・都市が地方に原発という迷惑施設を押し付けたままの状態を続けていいのか。使用済み
 核燃料という「原発のごみ」もまた、地方に押し付けるというのか。
   
「村」に切り込む
・2002年、村を揺るがす不祥事が起きた。原発の点検記録改ざんや虚偽報告などのト
 ラブル隠しが発覚。原子力本部長の副社長と歴代社長の4人が引責辞任に追い込まれた。
 東電は「原子力部門の閉鎖性を打破する」と、再発防止に取り組む。だが、村の根本は
 いまも変わっていない。
柏崎刈羽原発の所長だった武黒は、知らブル隠しの管理責任を問われて減給処分を受け
 たが、2005年に原子力・立地本部長に就任。村のトップは原子力技術者に戻った。
・2007年の新潟県中越沖地震。柏崎刈羽原発では変圧器で火災が発生。その後も火災
 は相次ぎ、本部長の武黒、副本部長の武藤、原子力設備管理部長の吉田は、減給処分を
 受ける。社内処分を何度受けようと、村の序列が崩れることはない。
・今回の事故から約2カ月後の5月の記者会見。責任を聞かれた原子力本部長の武藤は
 「結果として大きな事故を起こして申しわかない」と謝罪した。「結果として」の裏に
 「事故原因は想定外の地震・津波」との認識が見て取れる。6月に引責辞任するが、顧
 問として助言するという。  
・原子力村には、専門性のベールに加え、身内同士で固める殻で、社長も容易に手出しで
 きない。「原子力部門は伏魔殿。そこを東電が支え、経済会全体が支える構造になって
 いる」と経済産業省の元幹部は言う。原子力村は東電の外にも広がっている。
・非常用電源が津波で使用不能になったのは、設計に携わった米コンサルタント会社の配
 置がまずかったから。現場は気づかなかったのか。資金がかかるから言い出せなかった
 のか。 
・東電の原子力部門は、いまや約3千人の技術者を抱える。原発の運転・維持費用は年間
 約5千億円。原発を持つ9電力だと、2兆円に迫る。日本原子力産業協会の会員には、
 重電メーカーや商社など400社以上が名を連ねる。
・原発は1基あたりの建設費が、3千億円とも5千億円ともいわれる。地域独占体制のも
 とでの安定した電気料金収入が、巨額の投資を可能にしている。いくら費用がかかって
 も、コストに一定の利益を上乗せする総括原価方式で電気代を上げることができる。だ
 から、経営で大事なのは地域独占を守ること。その独占を維持できるように、各方面に
 働きかけることが本業になった。
・地域独占は、電力会社が送電網を支配しているからこそできた。90年代から2000
 年代初頭にかけ、この電力の地域独占を崩そうとする動きがあった。「東電を筆頭とす
 る9電力は現代の幕藩体制。このままでは日本は高い電気代で競争力を失う」経済産業
 省の一部官僚が、電力自由化の旗を振った。電力会社から送電部門を切り離す「発送電
 分離」を最終目標に置く。
・危機感を強めた業界は政治力を使う。衆議院議員の甘利明や参議院議員の加納時男らは、
 自民党内にエネルギー政策の小委員会を旗揚げし、議員立法によるエネルギー政策基本
 法の制定を急いだ。法案の「安定供給の確保」という言葉には、発送電分離を阻む狙い
 が込められた。甘利は国会で「原子力は基本法の方針に即した優秀なエネルギー」と説
 明した。基本法は2002年6月に成立した。 
・2007年1月、各社で原発の検査データ改ざんが発覚したが、原子力安全・保安院は、
 経営責任を事実上、不問に付した。
・経産省は、なぜエネルギー政策の主導権を求めようとするのか、背後には、電力安定的
 な供給や電力業界を取り巻く秩序の維持を求める産業界の意向がある。産業界の中で、
 電力会社の存在感は大きい。経団連の副会長ポストは、原発事故が起きるまで、東京電
 力の指定席。地域経済団体トップも、ほとんどが電力会社の会長。力の源泉は、巨額の
 設備投資にある。大手電機メーカーやゼネコンに発注するだけでなく、地域経済も潤す。
・2011年夏、脱原発に動く首相官邸と、原発を維持したい経産省との関係が、最悪な
 状態に陥ったことを示す象徴的な出来事が起きる。経産省首脳陣の更迭劇だ。菅直人
 相が、事務次官の松永和夫氏、原子力安全・保安院長の寺坂信昭氏、資源エネルギー庁
 長官の細野哲弘氏の3人を更迭する内容だった。しかし、海江田経産相(当時)は、こ
 れを「人事の刷新、人心一新」と説明し、「更迭」との言葉を一度も使わなかったのだ。
 そして後に、通常の定年前の「勧奨退職」で、退職金も自ら願い出て止める場合に比べ
 て1千万円以上高いということになった。手練手管の経産省が、交代理由を巧みに「更
 迭」から、「刷新」にすり替えたのだ。これは許されるものだったのか。
・原発事故のあと、それまでの原発行政のあり方は大問題になった。原子力安全・保安院
 は2012年9月、原発推進の経済産業省から切り離され、内閣府の原子力安全委員会
 などとともに一元化した国の原子力規制委員会が発足した。しかし、その組織を動かし
 てきた官僚には、何の「おとがめ」もなかった。
・東京電力が経営破綻の瀬戸際にあった2011年3月25日、経済産業省の松永和夫事
 務次官(当時)は、「我々も責任をしっかり負う。金融機関も支えてほしい」と全国銀
 行協会会長に語った。事務次官の言葉は、東電をつき放すことはないと銀行に保証する
 ものだった。これを受け、大手銀行は巨額融資を実行した。経産省事務方トップが巨大
 電力会社を救ったのだった。  
・東電の経営がいかにお手盛りだったか、また、私たち消費者からいかに余分な電気料金
 を取っていたか、2011年10月に「東京電力に関する経営・財務調査委員会」が出
 した報告書を見ると、驚くことがたくさん出てくる。
 (1)電気料金算定のもとになる見積もりが、実際にかかった費用よりも、過去10年
    間で計6186億円高かった。私たちが払う電気料金が、不当に高く設定されて
    いた可能性がある。  
 (2)関係会社の大半が、外部との取引より東電向け取引で多くの利益を上げており、
    中には外部との取引でつくった赤字を東電の仕事で穴埋めしていた会社もあった。
    身内で甘い汁を吸っていたのかもしれない。
 (3)東電が自己申告した今後10年の合理化方針は1兆1853億円だったが、委員
    会はそれに追加して1兆3602億円できるとした。ここにいたっても東電はな
    お甘いリストラ案を出してきていた。
・私たち消費者は電力会社を選べない。しかも、電気料金は電力会社が一定程度儲かるよ
 うに設定する仕組みになっている。そのウラで、東電はこんな経営をしてきたのだ。
 
強大な利権構造
・「原子力村」は東京にだけあるのではない。約半世紀におよぶ原発の利用を経て、原発
 の立地地域の隅々まで広がっている。よく引き合いに出されるのは、原発の引き換えに
 国から出る、いわゆる「電源三法」による交付金である。それは安全と引き換えにして
 いるということで、「毒まんじゅう」とさえ言われることもあった。原発1基で、運転
 開始までの10年間に449億円が地元に落ちる。運転後も交付金は出る。
・私たちの電気代には、その交付金の原資が含まれる。「電源開発促進税」というものだ。
 東電管内の標準家庭で月電気代約6222円のうち、約108円(1.7%)が徴収さ
 れる。だが、電気代の明細書には示されない。それが「電源三法」交付金になる。
・日本原子力産業協会は、電力会社や原子力関連企業をたばねる団体で1956年に発足。
 これまで日本の原子力の推進役を担ってきた。2012年4月に東京で開いた年次大会
 で、今井敬会長は、所信表明で「節電努力を 呼びかけるだけでは不十分、原子力発電
 所の再稼働の必要性は、昨年夏に比べても一層高まっている」と原発再稼働必要論をぶ
 った。 
・2012年暮れの総選挙で、自民党は圧勝、政権に復帰する、自民党にも、脱原発を求
 める議員はいるが、「原子力村」の主要メンバーであり続けた自民党が政権を取り戻し
 た。自民党は2013年7月の参議院選挙でも大勝。原発再稼働への動きは当然、速ま
 る。 
・1957年、茨城県東海村に国内で初めて「原子の火」がともった。1966年には商
 業用原発第一号の東海原発(1998年に運転終了)が営業運転を始めた。原発ととも
 に歩んできた村は、今も日本原子力発電の東海第二原発や日本原子力研究開発機構の施
 設がある。
・しかし、1999年に核燃料加工会社のジェー・シー・オー東海事業所が臨界事故を起
 こし、原発への疑念を深めてきた。
・2011年3月隣の福島県で東京電力福島第一に原発事故が起きる。東海第二原発もあ
 と少し津波が高かったら、海水によってすべての電源が使えなくなり、福島第一と同じ
 状態になっていたおそれがある。
・「原子力村」がこの日本の中央、地方の政治に巣くっている。東電福島第一原発事故が
 あっても、まったく、変わっていない。むしろ、原発推進のため、「原子力村」は結束
 を強めているかのように見えた。  

「国策」の果てに
・原発のコスト問題。東電福島第一原発事故の隊悪費用が膨らんでいく中で、原発の発電
 コストがどれほど上がったのか、また、その費用負担はどうなっているのか。
・運転を止めている全国の原子力発電所が2015年に再稼働し、稼働40年で廃炉にす
 る場合、原発の発電コストは11.4円(1キロワット時あたり)となり、10円台の
 火力発電より割高となることが、専門家の分析でわかった。東電福島第一原末の事故対
 策費が膨らんでいるためだ。「コストが安い」という理屈は崩れつつある。
・電力会社の経営分析で著名な大学教授が、政府や東電などの最新資料を分析したところ、
 福島第一原発の事故対策費は約11兆円1千億円に達した。政府が2013年12月に
 示した「11兆円超」という見積もりを裏づけた。
・問題は原発のコストが高いというだけでなく、11兆円にのぼる東電の事故対応費用の
 国民への転嫁も進められようとしていたことだった。
・東電の原発事故対策費約11兆1千億円は、原発が放射性物質をまき散らす大事故をい
 ったん起こすと、火力などとはけた違いの甚大な経済被害をもたらすことを示す。原発
 はコストが安いと言われたのは、こうした事故対策費などをコストに含めてこなかった
 からだ。   
・損害賠償の費用は、国が必要な資金を東電に用意し、この大部分を業界全体が「一般負
 担金」として返す仕組みになっている。除染費用も、本来国庫に戻すべき政府の東電株
 の売却益が充てられることになった。
・「一般負担金」は、原子力損害賠償支援機構が東電に用意した賠償金を賄うため、東電
 と他の電力会社が機構に返すお金だ。関西電力は2013年5月の値上げの際に、一般
 負担金を原価に算入。平均的な家庭の月額電気料金7301円のうち、65円になる。
 同様に、他の電力各社も、次々と負担金を原価に算入していった。
・その一方で、東電をつぶさなかったことで株主や社債権者、金融機関が守られる、とい
 うゆがんだ構図が続く。
・東電福島第一原発事故の対策費用は誰が負担すべきだろうか。東電福島第一原発事故は
 「人災」ではなかったか。国会の事故調査委員会は、「何度も地震・津波のリスクに対
 応する機会があった」と東電の対策の不備を厳しく指摘している。
・東電の経営幹部らが地震や津波への対策を先送りした結果とされる事故の代償を、なぜ
 私たちが追わないといけないのか。
・安倍政権は2013年11月、事故対策で「国が前に出る」と、東電任せの対応の転換
 を表明した。費用負担という面から見ると、国庫に入れるべき機構保有の東電株の売却
 益を除染にあて、電気料金に上乗せした税金を原資とする特別会計を中間貯蔵施設の建
 設に使う、というものだ。
・適切な指導や監督ができなかったという国の責任を認めたうえで国費を投入するという
 のならまだ理解できる。だが、そんな説明を政府から聞いた記憶はない。結局、「取り
 やすいところから取る」ということだったのだろう。
・安倍内閣が2014年4月に閣議決定したエネルギー基本計画をつくる際、国民の意見
 を募った「パブリックコメント」で、脱原発を求める意見が9割を超えていたことがわ
 かった。しかし、経産省は基本計画で原発を「重要なベースロード電源」と位置づけた
 が、そうして民意をくみ取らなかった。
・経産省が13年12月に示した基本計画の原案に対して、メールやファックスなどで、
 約1万9千件の意見が集まった。
 ・廃炉や再稼働反対を求める「脱原発」は1万7665件で94.4%
 ・再稼働を求めるなどした「原発維持・推進」は213件で1.1%
 ・賛否の判断が難しいなどの「その他」が833件で4.5%
 だった。
・「脱原発」の理由では
 ・原案は民意を反映していない
 ・使用済み核燃料を処分する場所がない
 などが多かった。
・「原発維持・推進」の理由では
 ・電力の安定供給
 ・温暖化対策に原発が必要
 との意見があった。
・「脱原発」が9割超、「原発維持・推進」は1%。安倍政権はそうした原発の賛否割合
 という重要な情報を国民の前に示さなかった。   
・民主党の野田内閣は2012年夏、2030年代の原発の依存度をめぐって、「国民的
 議論」としてパブリックコメントや各地での公聴会などを実施した。このパブリックコ
 メントでは、約8マン9千件のうち87%が、「依存度0%」を選んだ。野田内閣は、
 さらに公聴会やマスメディアの世論調査なども参考にして、国民の過半数が原発に依存
 しない社会を望んでいると判断し、「2030年代に原発稼働ゼロ」の方針を決めた。
 この民意を政策に反映させようとした試みは、もっと評価されていいと思う。
・1951年、電力の国家管理が終わり、9電力体制が成立した。9電力会社は民営路線
 の定着のために合理化に励んだが、1973年の石油危機で行き詰った。「脱石油」と
 して原発が選ばれ、立地促進に電源三法交付金が使われた。国の力を借りたそのとき、
 原発は明確に「国策」になり、官と民は次第に一体化していった。事故に対する東京電
 力の謝罪は当然だが、「国策」なのだから、官僚や政治家も同罪のはずだ。
・日本経済の構造改革が求められた1990年代、電力業界は通産省(現経産省)が進め
 る「電力自由化」で原発を持てなくなるのでは、と恐れるようになる。原発は、巨大な
 建設費が必要で、廃炉まで数十年という長期事業だ。投資を確実に回収できる総括原価
 方式や地域独占があってできたが、自由化でその根幹が揺らぐというのだった。これに
 電力業界に近いとされる議員らが動く。2001年、議員立法でエネルギー政策基本法
 案を国会に提出したのだ。提出者には後に経産相になる甘利明や官房長官になる細田博
 之
らが名を連ね、元東電副社長の加納時男も作成に加わった。
・基本法は「安定供給」と「環境保全」を掲げた。原発なら、石油のように中東に依存し
 ないし、温室効果ガスも出さないとの理屈だった。
・原発の存在感が増していくなかで、東京電力福島第一原発事故が起きた。当時、経産官
 僚だった「古賀茂明」は直後の2011年4月、「銀行や株主、経産省幹部らの責任を
 不問にしたまま国民に負担が押しつけられてはならない」と、東電を破綻処理する提言
 を発表しようとした。ところが、経産省幹部から「大変なことになる」と止められる。
 経産省は当時の民主党政権の中枢に、大停電や市場の混乱を理由に東電の生き残りを説
 得したようだった。古賀はその後、同省を去る。

4人の経産官僚
・一人目:原発事故のあと、インサイダー取引で起訴された元資源エネルギー庁次長・木
     村雅昭氏
・二人目:元資源エネルギー庁原子力政策課長・柳瀬唯夫
・三人目:野田政権のもと、原発のコスト計算や「2030年代原発ゼロ」方針づくりに
     関わった伊原智人氏
・四人目:原子力安全・保安院次長から資源エネルギー庁長官、さらに経産事務次官に登
     り詰めた望月晴文
・「止めるなど、ありえません」「国のため、原発はなんとしても維持しなければならな
 い」2011年3月の大震災後、経済産業省で原発維持の最初のシナリオを書いたのは、
 資源エネルギー庁次長の木村雅昭だった。
・「原発を全部止めるなど、国民生活と経済を考えたらありえません」「日本の電力のう
 ち再生可能エネルギーはわずか1%です。5年や10年で代替できるはずがない」原発
 の維持こそが国のためである。彼の理論だった。
・「1979年に米スリーマイル島原発の事故が起きたが、米国は事故後も100基以上
 を継続稼働させ、着工済み10基以上を稼働させた。米国もそうなんだから、日本だっ
 て既存の原発の運転を続けていってもいいではないか」「国が安全審査をしてここまで
 持ってきた以上、止めるなら国家損害賠償の話になる。ムードで原発を止めるべきでは
 ありません」木村はそう言った。
・1990年代後半、経産省内には電気代を安くしないと日本は欧米との競争に負けてし
 まうという危機感があった。そのためには電力に競争を持ち込む必要がある。業者が電
 気料金の安さを競い合うような仕組み、つまり電力の自由化だ。その動きは、電力会社
 の政治力を使った巻き返しで止まっていた。
・「事故と自由化は関係ありません。それに電力が足りないとき、自由化しても電気代は
 下がりません」原発事故で明らかになったのは一電力会社では事故の全責任を負えない
 ということだった。賠償など、国が前に出て支える体制こそ議論すべきだと木村は思っ
 た。 
  
・もともと原子力発電は、始まったときから「核燃料サイクルあっての原子力」とされて
 きた。原発で使い終えた核燃料を再処理し、再び原発で燃やす。そのサイクルがあるか
 らこそ、原子力は「夢」だった。  
・再処理工場は2006年稼働をめざし、青森県六ケ所村で建設が進んでいた。だが、核
 燃料サイクルには経済性がないなどの理由で、経産省内や識者の間で疑問の声が出てい
 た。多くの先進国も路線の変更をしている。
・再処理工場の建設費は、構想が打ち出された1979年ごろは6900億円だった。そ
 れが2004年には2兆2千億円に増大していた。核燃料サイクル路線をとって工場を
 40年間動かすと19兆円のコストがかかる。再処理工場の建設費が予定の3倍に膨ら
 んだという例を見れば、50兆円を超えるコストになるかもしれない。にもかかわらず、
 誰もストップを言い出せないのはなぜか。
・国が政策を変えれば電力会社から再処理工場の建設費の賠償を求められる。電力会社は、
 電気代で集める再処理費用を返せと利用者から言われる。政治家は電力関連の企業や労
 組から支援を受けている。  
・2004年、原子力委員会は核燃料サイクル継続に向かって動き始めた。現行の政策を
 変更したらコストがかかるという議論だ。
 (1)使用済み燃料の再処理をやめ、地中に埋める直接処分の路線に切り替えると、再
    処理工場にかけた2兆円以上の金が無駄になる。
 (2)各地の原発は、使用済み燃料を青森県六ケ所村に運び込めなくなり、運転停止に
    追い込まれる。   
 (3)そうなると火力発電所の新たな建設などに、12兆〜23兆円の追加費用が必要
    になる。 
・2004年11月の策定会議で、再処理路線がベストという方針が、大多数の賛成で決
 められた。

・2007年、電力12社のトラブル隠しやデータ改ざんが相次いで発覚し、大問題とな
 った。経産省は、うち50事案を「悪質な法令違反」と認定した。にもかかわらず、電
 力各社の経営者の責任をきびしく問わなかった。経産省内で皮肉まじりに「平成の徳政
 令」と呼ばれた事件だ。当時は第一次安倍信三内閣で、経済産業相は甘利明。資源エネ
 ルギー庁長官は望月晴文だった。経産省幹部OBは「あれでモラルは完璧に崩壊した」
 と振り返る。
・「原子力ルネッサンス懇談会」2011年2月、そんな名前の組織が誕生した。原発関
 連企業や電力会社のトップでつくる提言機関だ。1カ月後、原発事故が起きた。名前は
 「エネルギー・原子力政策懇談会」に変わった。ルネッサンス(再生)はまずいと考え
 たようだ。

残る原発のごみ
・「トイレなきマンション」に例えられる原発。使用済み核燃料をどうするか、という原
 発の大問題が未解決のままだ。原発を維持する、止める、どちらでも、日本は、過去お
 よび半世紀にわたり原子力を利用してしまった結果、原発のごみ問題から逃げるわけに
 はいかなくなった。
・日本の埋める場所がない。だから、モンゴルに。そんな理屈が通るのだろうか。地方に
 原発を押しつけたように、カネで解決するというのだろうか。
・2011年5月だった。日本で一つのニュースが流れた。「日米が共同で、モンゴルに
 使用済み核燃料などの貯蔵・処分場をつくる計画を立てている」モンゴルでは「わが国
 が原発のごみ捨て場になる」と報じられた。  
・モンゴルにはウラン鉱山がいくつかある。旧ソ連時代に開発されたが、ソ連崩壊後にさ
 びれた。坑道は地下深く何キロも続き、使用済み核燃料の保管にも使えそうだった。
・モンゴルに処分場をつくる計画は、まだ終わったわけではないと感じる。ねらいは「コ
 ンプリヘンシブ・フューエル・サービス」のシステムづくりなのではないか。「包括的
 燃料サービス」と訳される。原発の導入国に、ウラン燃料の調達から使用済み核燃料の
 引き取りまでセットで提供するものだ。例えば、日本がA国に原発を輸出する。そのA
 国にモンゴルがウラン燃料を輸出する。使用済み核燃料は再びモンゴルに戻す。それを
 継続的なシステムにしようとしているのではないか。モンゴルがウラン輸出と引き換え
 に、使用済み各燃料を引き取る役目を引き受けたら日本の原子炉メーカーは原発を輸出
 しやすくなる。日本の動きはそれがねらいなのではないか。
・映画監督の鎌仲ひとみは、2002年湾岸戦争での劣化ウラン弾によるイラクの人々の
 被害を撮った。劣化ウラン弾は、原発の燃料用に濃縮ウランをつくるときに出る「ごみ」
 が原料だった。
・それがきっかけで日本の「原発のごみ」に目を向けた。日本には青森県の六ケ所村に、
 使用済み核燃料からウランとプルトニウムを取り出す再処理工場など核燃料サイクル施
 設がある。  
・2004年、鎌仲は2年間にわたって六ケ所村を訪ね撮影し、ドキュメンタリー映画
 「六ケ所村ラブソディー」を2006年に公開した。撮影の最初のころ、鎌仲は戸惑っ
 た。「嫌なもの」であるはずの原発のごみが「村を豊にするお宝」とされ、それを「そ
 うだ」と言わないと生きていけない社会があった。
・村内の道路は舗装され、日本原燃などのきれいな社宅がならぶ。コンサート会場では人
 気歌手の歌を格安で聴ける。家を建てると村から多額の助成金が出る。村の財政が核燃
 料サイクルの立地に伴う国からの交付金や原燃からの税収で豊かだからできる。
・かつて、村議会をはじめ村は、核燃料サイクルについて真っ二つだった。いまは核燃料
 サイクル推進の一色だ。    
・そんな村議会が2012年、民主党の核燃料サイクルを見直すとの方針をひっくりかえ
 した。民主党のエネルギー環境調査会は、「203年代に原発稼働をゼロにする」「核
 燃料サイクルを見直す」との提言をまとめた。
・村議会は、核燃撤退の場合の国への8項目の意見書を可決した。「英仏から返還される
 新たな廃棄物の搬入は認めない」「一時貯蔵されている使用済み燃料を村外へ搬出する」
 これで民主党は腰砕けになった。野田内閣が決めた「革新的エネルギー・環境戦略」に、
 核燃サイクルの「見直し」の文字はなかった。英仏から搬入ができないとなると国際問
 題になる。村議会の意見書は大きな効果があった。
・六ケ所村は最近では「最終処分地」を受け入れてもいいという声が村議会で出始めてい
 る。「最終処分前の貯蔵ということで200年置いておけばいいんだ。それで200年
 後の技術で処分しればいい。宇宙へエレベーターができたら、それで宇宙に持っていっ
 てしまえばいい」
・核燃料サイクル施設を運営する日本原燃の企業城下町と言っていい六ケ所村にとって、
 核燃料サイクル抜きでは村の将来図は描けない。六ケ所村だけではない。原発ごみの送
 り先をめぐり、国や電力会社が狙いを定めるのは、つねに過疎地である。
・元首相の小泉純一郎は2013年11月の日本記者クラブの会見で、「核のごみの最終
 処分場ののメドをつけられると思う方が楽観的で無責任すぎる」と言った。
 小泉は2013年8月、フィンランドの核廃棄物の最終処分施設「オンカロ」を訪れた。
 放射能が無害になる10万年後まで、その危険性をどう伝えていくか。フィンランドの
 地盤は安定しているが、日本は地震が多く、掘ればすぐに水が出る。
・2011年夏、東京・永田町に匿名文書が出回った。タイトルは「原子力発電のバック
 エンド(後始末)問題について。「もう核燃料サイクルはやめ、使用済み核燃料は例え
 ば各都道府県で引き取って保管してはどうか。引き取りが嫌なら必要な対価を払って他
 地域に引き取ってもらう。後世に負の遺産を残すという事態を避ける努力をすることが
 我々の責務だ」  
・2012年9月、日本学術会議の「高レベル放射性廃棄物の処分に関する検討委員会」
 も、地震や火山活動が活発な日本では、万年単位で安定した地層を見つけるのは限界が
 あるとして、いつでも廃棄物を取り出せる施設を造り、数十〜数百年間暫定保管すべき
 だ、との提言をまとめた。  

買われたメディア
・電力10社は近年、広告宣伝に年1千億円前後を費やした。ほかに国や業界団体も独自
 の広報予算を組んでいた。
・東京電力の情報雑誌「SOLA」の編集には朝日新聞の元論説主幹もかかわっていた。
 朝日新聞時代の肩書を使って、東電の経営者らと原発推進を語り合う記事を書き、東電
 からお金をもらう。「SOLA」に対する一般の認識度はそう高いものではなかった。
 東電の広告宣伝のための普及開発関係費269億円(2011年3月期)の中では、発
 行にかかった費用は取るに足らない額と見られる。だが、もともとは利用者が支払う電
 気代だ。
・残念ながら、朝日新聞の記者が退職後、電力業界の誘いにのって「再就職」したケース
 はほかにもあった。ある論説主幹・岸田は1985年、65歳で退社後、関西電力の隔
 月の広報誌の監修者になった。岸田は、1992年〜2012年の間、「原子力安全シ
 ステム研究所」の最高顧問でもあった。朝日新聞経済部OBの志村は、2001年〜
 2003年、「電力中央研究所」の研究顧問をしていた。研究者の原稿を分かりやすく
 書き直す仕事だった。出勤は週2〜3回、報酬は月20万円。同研究所の研究顧問には、
 読売や毎日の元論説委員らも就いていた時期がある。
・2011年3月11日、この日、「愛華訪中団」と称する電力会社幹部とマスコミ人ら
 約20人は北京市内を移動していた。今回は10回目。団長の東京電力会長・勝俣恒久
 は10日に合流。週刊現代の元編集長・元木が大地震発生を伝えるニュースのiPad
 をバス最後部の会長・勝俣に渡すと、「じーっと見ていた」という。勝俣は震災を受け
 てすぐに帰国しようとしたが、飛行機に乗れたのは翌12日早朝だった。のちに東京電
 力社長の清水正孝が奈良にいたこともわかり、問題は原発を持つ電力会社首脳の危機管
 理に広がった。 
・東電の広告宣伝のための「普及開発関係費」は、1986年のチェルノブイリ原発事故
 の影響などで急増。2010年度の269送園の内訳については、2012年4月にな
 って初めてテレビ・ラジオ放送70億円、広告・広報掲載46億円などと示された。
・「原子力村」は、原発の黎明期から、メディアを取り込もうとしていた。現代の「原子
 力村」は、戦前の「大政翼賛会」に似ていた。戦争遂行に異論を許さない体制は、原発
 推進に異論を許さない体制と言い換えられるし、そのどちらの体制づくりにおいても、
 メディア・報道機関が協力していた。   
・「原子力村」の中心的な組織が誕生したとき、まさに戦前の大政翼賛会の残滓を引き継
 いでいたことが明らかになった。「日本原子力界の陰のプロデューサー」と評される橋
 本清之助は、戦前、大政翼賛会の創立にかかわり、1942年には翼賛政治会の事務局
 長となる。「原子力の父」と称される読売新聞社社主・正力松太郎とは1944年にと
 もに貴族院議員になった仲だ。正力に原子力の知識を伝授したのは、橋本だったとされ
 ている。
・橋本は「(広島、長崎に落ちた)爆弾を電力にして平和利用できるなら、エネルギーと
 してのより広い利用の道が開けるはずだ」と、産業界に日本原子力産業会議(現・日本
 原子力産業協会)の創設を働きかけた。
・2012年6月末、フジテレビの親会社「フジ・メディア・ホールディングス」の株主
 総会で、福島の原発事故を見れば、監査役なんてできない」ある株主が社外監査役・南
 信哉の辞任を求めた。南は元東京電力社長。複数の原発の自主点検データを改ざんした
 2002年の「トラブル隠し」を受け、社長を辞任。その後、フジ・メディア・ホール
 ディングスの監査役に就いていた。
・フジだけではない。テレビ朝日は原発事故後の2011年5月まで、東電会長だった勝
 俣恒久を放送番組審議会の委員に迎えていた。愛知の主要5局のうち4局は役員、残る
 1局は放送番組審議会の委員を中部電力から受け入れている。
・電力会社が巧妙なのは、こうした上層部のつながりだけでなく、取材記者が詰める「記
 者グラブ」を、他の業界より上手に使いこなしていたこともある。電力・エネルギーの
 記者クラブに籍を置く記者は、電力会社の広報部員らとの付き合いを通じて、次第に原
 発を推進する側の思考回路を持つようになる。
・電力業界を取材する記者が入る「エネルギー記者会」は2009年に完成した23階建
 ての経団連会館の18階にある。電力会社10社でつくる電気事業連合会の広報部の隣
 だ。建て替え前も同じフロアに「同居」していた。
・反原発の科学者・高木仁三郎は、1992年の講演会での体験を自著に書いた。「演壇
 一杯に花束、花籠。送り主をみて驚いた。女性の名前がずらっと並んでいた」明らかに
 高木の言動に批判的な側からの嫌がらせだった。
・電力業界がメディアとの親密な関係をつくるにあたって武器としたのは、もちろん広告
 宣伝費というカネの力である。自動車や携帯電話と違って地域独占で競争のない電力会
 社に、総括原価方式で巨額の広告費用を電気代で徴収することが認められていた。
・「素晴らしすぎて発売出来ません」1998年6月の朝日新聞に不思議な広告が載った。  
 人気ロックグループのレコードの発売中止について、東芝EMI(当時)がそんな言葉
 で明らかにした。
 「何言ってんだ!ふざけんじゃねぇ!核などいらねえ」
 「放射能はいらねえ、牛乳飲みてえ」
 「たくみな言葉で、一般庶民をだまそうとしても、ほんの少しバレてる、その黒い腹」
 「人気のない所で泳いでいたら、原子力発電所が建っていた」
 「東海地震もそこまで来ている、だけどもまだまだ増えていく、原子力発電所が建って
  いく」 
 「それでもテレビは言っている「日本の原発は安全です」さっぱりわかんねえ、根拠が
  ねえ」
・電力会社や国は福島の原発事故が起きる前、著名人を起用した広告を数多く出してきた。
 発推進を直接PRするのではなく、原発の専門家に質問したり、原発を訪問して学んだ
 り、といった演出の仕方もあった。
・評論家の佐高信は、2011年4月の雑誌で「電力会社に群がった原発文化人25人へ
 の論告求刑」と題し、原発のいわば「広告塔」となった著名人の実名を列挙した。
 「(電力業界は)巨額のカネを使って世論を買い占めてきた」と指摘し、高額ギャラに
 よる著名人の利用を「札束で頬をたたくやり方」と書いた。
・2011年11月、電気料金制度・運用の見直しに向けた経済産業省の有識者会議で、
 学習院大学特別客員教授の八田達夫は「メディアは広告費をもらうことで電力会社に依
 存し、原発批判ができなくなってきました。電気料金の算定の元となる原価に広告費を
 認めるべきではない」と主張した。
・原発を持つ大手電力9社が1970年度からの42年間で、計2兆4千億円を超える普
 及開発関係費(広告宣伝費)を支出していたことが朝日新聞の調べでわかった。米国・
 スリーマイル島で原発事故が起きた1970年代後半から急増。メディアに巨費を投じ、
 原発の推進や安全性をPRしてきた実態が浮き彫りになった。
    
あとがき
・日本の「原子力村」は世界の中でもっとも強く大きい。およそ半世紀にわたり原発の
 「安全神話」に寄りかかって、福島第一原発を含め50基を超す商業炉をつくった日本。
 この過程で原発を中心に置いた利益共同体「原子力村」という「化け物」を生み出して
 しまった。
・それは、あの苛酷事故を経ても、崩壊することはなかった。だから、民主党政権の「原
 発ゼロ」方針は、2012年末の安倍政権発足であっさり白紙に戻されてしまい、原発
 再稼働へと動いている。
・世界を見渡せば、国民の声を受けて脱原発にかじを切った先進国は少なくない。ドイツ
 はメルケル政権が東電の原発事故のあと、すぐさま脱原発への転換を表明。イタリアも
 東電の原発事故のあとの2011年6月、国民投票で政権の原発再開方針を多数で否決
 した。
・東電の原発事故のあと、節電が進んだ。震災後の2011年発から2014年夏は、十
 数パーセント減った。家庭や企業で証明をLEDに替えたり冷房の設定を高めにしたり
 する取り組みが広がった。
・一方、再生可能エネルギーは著しく拡大している。とりわけ、太陽光発電の導入量は、
 2015年3月末時点で、原発十数基分に相当するまで拡大した。
・「原子力村」が以前、盛んに吹聴していた「100万キロワットの原発と同じ電気を太
 陽光発電でつくるには、東京にある山手線内側ぐらいの広さが必要だ」という主張は消
 えてしまった。世界的には、風力発電がぐんぐん伸びている。
・原発が「安い」電源だとも言えなくなった。東電の原発事故の対策費用を含めて原発の
 発電コストを分析・試算すると、少なくとも11.4円(1キロワット時あたり)とな
 り、10円台の火力発電より割高になった。
・電力自由化が進んだ先進国では原発の新規投資がほとんどない。巨額の建設費用を確保
 するのが困難なためだ。しかも、建設・維持費用は安全規制の強化で増える一方だ。
・国内の各原発にある燃料プールの容量は限界に近づいている。原発を再稼働させると、
 再び使用済み核燃料が増えてしまう。
・あれほど強大だった徳川幕府も、あっけなく崩壊した。「原子力村」は、そんな悪夢に
 おびえ、かたくなに原発にしがみついているのではないか。