原発のウソ  :小出裕章

いのちか原発か [ 小出裕章 ]
価格:1296円(税込、送料無料) (2019/3/24時点)

小出裕章が答える原発と放射能 [ 小出裕章 ]
価格:1080円(税込、送料無料) (2019/3/24時点)

原発と憲法9条 [ 小出裕章 ]
価格:1512円(税込、送料無料) (2019/3/24時点)

100年後の人々へ (集英社新書) [ 小出裕章 ]
価格:756円(税込、送料無料) (2019/3/24時点)

原発ゼロ (幻冬舎ルネッサンス新書) [ 小出裕章 ]
価格:925円(税込、送料無料) (2019/3/24時点)

原発のない世界へ [ 小出裕章 ]
価格:1080円(税込、送料無料) (2019/3/24時点)

【POD】原発のウソ (扶桑社オンデマンド出版) [ 小出裕章 ]
価格:1404円(税込、送料無料) (2019/3/24時点)

「最悪」の核施設六ケ所再処理工場 (集英社新書) [ 小出裕章 ]
価格:756円(税込、送料無料) (2019/3/24時点)

原発のないふるさとを [ 小出裕章 ]
価格:1728円(税込、送料無料) (2019/3/24時点)

原発と戦争を推し進める愚かな国、日本 [ 小出裕章 ]
価格:1512円(税込、送料無料) (2019/3/24時点)

原子力安全問題ゼミ小出裕章最後の講演 [ 川野眞治 ]
価格:1728円(税込、送料無料) (2019/3/24時点)

ケンカ白熱教室!放射能はどこまで安全か? [ 小出裕章 ]
価格:1028円(税込、送料無料) (2019/3/24時点)

原子力村の大罪 [ 小出裕章 ]
価格:1620円(税込、送料無料) (2019/3/24時点)

意見陳述 2011年5月23日参議院行政監視委員会会議録 [ 小出裕章 ]
価格:1620円(税込、送料無料) (2019/3/24時点)

愚者が訊く [ 倉本 聰 ]
価格:669円(税込、送料無料) (2019/3/24時点)

犠牲のシステム福島・沖縄 (集英社新書) [ 高橋哲哉 ]
価格:799円(税込、送料無料) (2019/3/24時点)

人形峠ウラン鉱害裁判 核のゴミのあと始末を求めて [ 土井淑平 ]
価格:2160円(税込、送料無料) (2019/3/24時点)

日本を滅ぼす原発大災害 完全シミュレーション [ 坂昇二 ]
価格:1512円(税込、送料無料) (2019/3/24時点)

現代の“見えざる手” 19の闇 [ 元木昌彦 ]
価格:1944円(税込、送料無料) (2019/3/24時点)

3.11を心に刻んで(2016) (岩波ブックレット) [ 岩波書店 ]
価格:842円(税込、送料無料) (2019/3/24時点)

熊取六人衆の脱原発 [ 今中哲二 ]
価格:1944円(税込、送料無料) (2019/3/24時点)

それでもあなたは原発なのか [ 林田英明 ]
価格:1620円(税込、送料無料) (2019/3/24時点)

原発ゼロをあきらめない 反原発という生き方 [ 安冨歩 ]
価格:1728円(税込、送料無料) (2019/3/24時点)

熊取六人組 反原発を貫く研究者たち [ 細見周 ]
価格:2160円(税込、送料無料) (2019/3/24時点)

原子力マフィア 原発利権に群がる人びと [ 土井淑平 ]
価格:1620円(税込、送料無料) (2019/3/24時点)

脱原発社会を創る30人の提言 [ 池澤夏樹 ]
価格:1620円(税込、送料無料) (2019/3/24時点)

福島の原発事故をめぐって いくつか学び考えたこと [ 山本義隆 ]
価格:1080円(税込、送料無料) (2019/3/24時点)

福島第一原発事故が起こるまでは、私たちは原子力発電についてあまり関心を示してこな
かったのが実情だろう。改めて原子力発電について考えてみると、原子力発電はその生ま
れた経緯を考えると、原爆を開発し広島・長崎に落として、非人間的に大量の民間人を殺
戮した米国が、その後ろめたさから、「原子力は平和的な利用もできる」んだと、使用済
み核燃料の最終処分方法を未解決のまま、見切り発車させたものだと言える。
そして、「安くて経済的だ」とか「CO2を排出しないのでクリーンで環境にやさしい」
とかといって発電しながら、その裏ではプルトニウムという最悪の放射性物質を作り続け
てきたのだ。無知・無関心な国民は、原子力関係者や政府の言うことを鵜呑みに信じて、
その空恐ろしい現実を知らずに、脳天気に大量の電気をじゃぶじゃぶ使う毎日を送ってき
たのだ。
原発を止めれば、発電コストが上がり経済的に大きな影響が出るから、原発は止めるわけ
にはいかないという人たちもいるが、恐ろしい原発事故や使用済み核燃料のことを考えた
ら、経済などということはどうでもいいのではと思う。それに、経済が悪くなって一番影
響を受けるのは、金持ちや既得権者だ。庶民はもともとカスカスの生活だ。さらに経済が
悪くなっても、貧しさには慣れているから、さほど変わらない。
原子力発電の副産物として作り出される最悪の核物質プルトニウムの毒性が、1000分
の1に弱まるまでには、24万年というとほうもない年数がかかるという。未来永劫24
万年もそれを管理し続けるというのは、どう考えても不可能だ。
そんな最悪の物質を作り続けながら、我々人類は「わが世の春」を謳歌してきたのだ。
悪魔という言葉があるが、地球上の他の生き物たちから言わらせたら、そんな最悪の物質
を作り続けている人類こそまさに悪魔だ。
福島第一原発事故後、電力が不足するということでこの夏は大騒ぎになった。みんな節電
してなんとか乗り切ったものの、止まっている原子力発電所を再稼働させないと、今度は
冬も電力不足に陥ると心配されている。しかし、この本によれば、今回の災害で止まって
いる既存の火力発電所がぜんぶ復旧すれば、原子力発電所が全部止まっても何にも問題な
いということである。「電力不足」というのは、原子力発電所を稼働させたいがための、
口実ではないのかという気がしてならない。もう政府や電力会社の言うことは、信じられ
なくなった。
それにしても、恐ろしい再処理工場の建設を許した青森県の六ヶ所村の人たちは、そして
恐ろしいフルMOX原発所の建設を許した青森県の大間町の人たちは、その恐ろしさを知
って許したのだろうか。もし真のその恐ろしさを知っていたら、決して建設を許したりは
しなかったであろう。真実を知らないまま政府や電力会社の口車に、まんまと乗ってしま
ったんだと思う。今からでも遅くはない。止めさせるべきだと思う。そんな恐ろしいもの
を自分たちの子孫に押し付けるべきではない。

まえがき
・原発は差別の象徴だ。
・「たかが電気」でしかありません。そんなものより、人間の命や子供たちの未来のほう
 がずっと大事です。
 
福島第一原発はこれからどうなるのか
・問題は、原発は膨大な危険物を内包している機械であり、大きな事故が起きてしまえば
 破局的な被害を避けられないということです。
・福島県飯館村では、チェルノブイリ事故で強制移住となった地域をはるかにしのぐ汚染
 が確認されました。海にも信じがたいほど高濃度の汚染水が流されています。
・原子炉内で発生しているエネルギーには2種類あるからです。一つは核分裂そのものの
 エネルギーですが、もう一つ「崩壊熱」と呼ばれるエネルギーがあって、これがなかな
 か止まってくれないのです。「崩壊熱」とは、ウランの核分裂によって生み出された放
 射性物質が出すエネルギーで、原発を長期間運転した場合、原子炉内で発生するエネル
 ギーの約7%を占めます。事故が起きてもこの7%のエネルギーは止めることができず
 に、走り続けなければならないのです。
・核分裂反応が起きるとプルトニウムが燃料ペレットにたまっていきますが、プルトニウ
 ムは揮発性ではありませんので、ペレットが溶け出さない限りほとんど外に出てくるこ
 とはありません。逆に言えば、プルトニウムが検出されたということは、ペレットが溶
 けているということになります。燃料ペレットは2800℃ぐらいにならないと溶けま
 せん。つまり「炉心がそのぐらいの高温に達していた」ことを意味します。
・これまで私が想定してきた最悪のシナリオは「水蒸気爆発」です。水蒸気爆発が起これ
 ば、厚さ16pの鋼鉄でできた圧力容器、そしてその外側にある格納容器は吹き飛んで
 しまうでしょう。そうなれば炉心が完全に露出し、桁違いに大量の放射性物質が何の防
 壁もないまま環境に噴出すことになります。
・もしどこかひとつの原子炉で水蒸気爆発が起これば、原発敷地内の放射線量は致死量を
 超えるでしょうから、作業員は全員退避せざるをえなくなります。当然、全ての原子炉
 や使用済み燃料プールの冷却作業は続行できません。ここに至ればあとは連鎖的にメル
 トダウンが起こり、歴史上経験したことのない大惨事に突き進んでいくだけです。
・もし福島第一原発で1号機から3号機までの原子炉、そして大量の使用済み核燃料がむ
 き出しとなって溶けてしまった場合、それ以上にすさまじい汚染が全世界を襲うことは
 確実です。首都圏はおそらく壊滅してしまうでしょう。
・5月14日、1号機原子炉建屋内で毎時2000ミリシーベルトの放射線量が計測され
 ました。その場に4時間もいたら全員が死亡する危険性がある数値です。
・1号機には水素爆発の危険があるということで、それを防ぐために格納容器に窒素が注
 入されています。もし水素爆発を心配しているなら、水棺は実施してはいけない方策で
 す。なぜなら水を入れれば格納容器の空気層が狭まってしまうので、かえって水素が濃
 縮されやすくなるからです。
・燃料は格納容器の下のコンクリートを溶かして、地下にめり込んでいる状態だと思いま
 す。もうどうしようもありません。1号機原子炉建屋全体を覆い、地中深く障壁を張り
 巡らせるしかないでしょう。燃料が地下水と接触すれば海にすさまじい汚染が広がって
 しまいます。
・東京電力が3月25日に公表したデータを見る限り、1号機の原子炉が核分裂連鎖反応
 が起こっている、つまり「再臨界」が起こっているとしか考えられなくなったのです。
 私がそう推測したのは、東京電力が「クロル38」という放射性核種を検出したからで
 す。
・臨界は、ある一定量以上のウランが一か所に集まる状態を作ることで起こりますが、持
 続的に起こり続けるのは実は難しいのです。臨海が起こると熱が出ますが、熱が出ると
 その部分は必ず膨張します。膨張すると集まっているウランの密度は下がりますから、
 臨界は解消されます。でも熱が出なくなるとまたウランが集まってきて、臨界が起こる。
 また膨張して解消される。こういう繰り返しになると考えるべきでしょう。本当の破局
 は、メルトダウンが起こって水蒸気爆発が発生する時です。
・チェノブイリ事故では、事故直後、発電所の所員と駆けつけた消防士たちが、燃えさか
 る原子炉の火を消すために必死で格闘しました。そのうち特に重度の被ばくを受けた
 31人は、生きながらミイラになるようにして、短期間のうちに悲惨は死を遂げました。
・その後、放射能の拡散を防ぐために投入された人員は膨大な数にのぼりました。事故後
 数年にわたって、動員された「リクビダートル」(清掃員)と呼ばれる軍人・退役軍人
 ・労働者たちは、累計で60万人に及びます。
・チェイノブイリ原発の近くには、たくさんのヘリコプターや軍事車両が捨てられた「放
 射能の墓場」が今も残っています。そこからさらに放射性物質が風に乗って飛んで行か
 ないように、ヘリコプターや車両を使って飛散防止剤を撒いたのです。そのためにヘリ
 や車両が放射能で汚染され、乗務員も被ばくしました。そういう作業に使った機材には
 今でも大量の放射能が残っていますので、撤去することもできずに打ち捨てられたま
 まになっています。
・福島第一原発でも事故処理のためにたくさんの車両や機材が使われていますが、それは
 放射能で汚染されています。原発から20km県内に、チェイノブイリと似たような
 「放射能の墓場」を作らざるをえないことになるだろうと思います。
・チェイノブイリ事故では、食物を通して「内部被ばく」を受ける人たちが膨大な数にの
 ぼりました。特に子どもたちが放射能で汚染された牛乳を飲み、小児がんに襲われまし
 た。
・チェイノブイリ4号機は、たった2年の運転で炉内に広島型原子爆弾の約2600発分
 の放射能をため込んでいました。そのうち環境に出たのは約800発分です。
 
「放射能」とはどういうものか
・放射能に被ばくするということは、私たちの遺伝情報が切断され、遺伝子異常が引き起
 こしてしまうことを意味します。
・人間は2シーベルトという量を被ばくすると、中には「死ぬ人」が出始めます。
・今大領に環境に飛び散っているのは、「ヨウ素」という一群の放射性核種と、「セシウ
 ム」という一群の放射性核種です。なぜヨウ素とセシウムかというと、この二つは「揮
 発性」が高い、つまり飛び散りやすいからです。
・「ヨウ素131」は体内に取り込まれると「甲状腺」に蓄積され、そこで放射線を出し
 て甲状腺がんを引き起こします。チェイノブイリ事故で分かったように、幼児や子ども
 に与える被害がきわめて深刻です。
・ヨウ素131の半減期は8日です。
・セシウム137の半減期は30年と長く、1000分の1に減るまでには約300年か
 かります。土壌に長くとどまって、「外部被ばく」の原因となるほか、根から栄養を吸
 収する植物、さらにはそれを食べた動物を汚染し、「生物濃縮」が起こります。福島の
 事故では海に大量の放射能汚染水が垂れ流されていますから、海産物にも長期にわたっ
 て大きな影響を与えるでしょう。カリウムなど人体に必要な元素と性質が似ていること
 から、体内に取り込まれやすい物質です。
・セシウム137が人間の体内に取り込まれると、全身の筋肉・生殖器などに蓄積されて
 がんや遺伝子障害の原因となります。
・ストロンチウム90はセシウム137と同じように半減期が28.8年と長く、一度環
 境に出てしまうと汚染が止まらなくなる代表的核種です。
・1950年代から60年代にかけて、大気圏内の核実験がさかんに行われました。原爆
 ・水爆の爆発で大量の放射性物質が全世界にばら撒かれたのですが、その際に一番たく
 さん生命体を被ばくさせたのが、このストロンチウム90です。ストロンチウム90は
 カリウムと同じ挙動をとります。そのために人体はストロンチウムをカルシウムと勘違
 いして、骨に蓄積してしまいます。骨のがんの原因になるほか、骨は血液を作るところ
 ですから、白血病を引き起こします。
・「人類が遭遇した最凶の毒物」といわれているプルトニウム239は、特に吸入による
 肺への取り込みが危険視されており、年摂取限度は0.000052mgに設定されて
 います。なぜプルトニウムが恐れられているかというと、「毒性が高いうえに寿命があ
 まりにも長い」からです。半減期は2万4000年で、1000分の1になるまで24
 万年。原子力発電ではプルトニウムを大量に含む「使用済み核燃料」やそれを再処理し
 た際に生じる「高レベル放射性廃棄物」が毎年たくさん発生しています。何十万年もの
 間、誰がそういった危険なものをきちんと管理し続けられるでしょうか。
・プルトニウム239が出すのはアルファ線ですが、ストロンチウム90が出すのはベー
 タ線です。ヨウ素131、セシウム137はベータ線、ガンマ線の双方を出します。
・外部被ばく、つまり放射性物質が人体の外側にある場合、アルファ線は透過力が非常に
 弱いので「紙一枚」あれば遮蔽できます。またベータ線も「薄いアルミニウムの板」で
 止めることができます。一方、ガンマ線はこれらに比べて透過力が強いので「暑い鉛板
 や鉄板」のようなものでないと遮蔽することができません。ですから外部被ばくではガ
 ンマ線を出す放射性物質が恐ろしく、アルファ線を出すプルトニウムなどはさほど問題
 にならないと言えます。
・内部被ばくになると様相が変わってきます。福島原発の事故でいま問題とされているの
 は、放射線を直接浴びる外部被ばくよりも、放射性物質を体内に取り込むことによる内
 部被ばくのほうです。
・ヨウ素131やセシウム137による内部被ばくで問題になるのは、ベータ線被ばくで
 す。
・もっとも深刻なのはアルファ線です。アルファ線を放出する放射性物質を取り込んでし
 まった場合、その放射性物質が付着したごくごく近傍の細胞だけが濃密に被ばくを受け
 ます。どのぐらい危険かというと、ベータ線・ガンマ線から受けるのと同じエネルギー
 をアルファ線から受けた場合、生物的な被ばくとして20倍を見積もることになってい
 ます。つまり20倍の危険を持っているのです。
JCO事故のときに燃えた(核分裂した)ウランの量は、わすか1mgでした。広島の
 原爆で燃えたウランは800g。JCOの80万倍です。それでは100万kwの原子
 力発電所はどうかというと、1年間に1トンのウランを燃やしています。これをmgに
 なおしてみると10億mgです。チェイノブイリ4号炉は約100万kwでした。
・4月現在で福島第一原発から放出された放射性物質は「チェイノブイリの1割程度」と
 発表されています。ですが、これはきわめて膨大かつ危険な量です。チェイノブイリか
 ら出た放射性物質はセシウム137換算で広島原発の800発分に相当します。これを
 そのまま当てはめるならば、すでに原爆80発分の「死の灰」が飛び散ってしまったこ
 とになります。
 
放射能汚染から身を守るには
・「ただちに健康に影響を及ぼす量ではありません」。この「ただちに」というのは「急
 性障害は起きない」という意味です。被ばくすることによって死んでしまったり、髪の
 毛が抜けたり、やけどをしたり、下痢になったり、吐き気がしたりすることを「急性障
 害」といいます。政府やマスコミは「すぐにそういう病状が出ることはありませんよ」
 と説明しているわけです。
・それでは、急性障害が出なかったらよいのでしょうか。実はそうではありません。たと
 え被ばく量がそんなに多くなかったとしても、後々で被害が出ることがあります。5年
 経ってから、20年経ってから、あるいは50年経ってから被ばくが原因でがんになっ
 てしまう人たちが出てくることを、広島、長崎の被爆者が教えてくれました。
・「被ばく」とは、私たちの体を作っている分子結合の何万倍、何千倍ものエネルギーの
 塊が体内に飛び込んできて、遺伝子情報を傷つけることです。
・ちょっとDNAに傷がついた程度でも、その傷が細胞分裂で増やされていくわけですか
 ら「まったく影響がない」なんてことは絶対に言えません。「人体に影響がない程度の
 被ばく」などというのは完全にウソで、どんなにわずかな被ばくでも、放射線がDNA
 を含めた分子結合を切断・破壊するという現象は起こるのです。
・広島・長崎に原爆を落とした米国は、1950年から被ばくの健康影響を調べる寿命調
 査を開始しました。半世紀にわたる調査の結果、年間50ミリシーベルトの被ばく量で
 も、がんや白血病になる確率が高くなるということが統計学的に明らかになりました。
・細胞分裂が活発な子どもたち、そして胎児は成人に比べてはるかに敏感に放射線の影響
 を受けます。「人体に影響のない被ばく」などというものは存在しないのです。
・福島第一原発から北西約40kmに位置する飯館村では、チェイノブイリ事故で強制移
 住させられた地域をはるかに上回る汚染が確認されました。それなのに、日本政府は1
 か月も住民を放置したままでした。
・少し離れたところでも雨に襲われれば濃密な汚染を受けてしまいます。放射性物質を身
 体に付着させることは非常に危険ですので、雨合羽や頭巾、帽子、それに着替えの準備
 は必至となります。また運悪く放射性物質に巻き込まれてしまった場合には、それを呼
 吸で取り込まないようにすることが大切です。マスク、あるいは濡れたタオルはそれな
 りに効果があるでしょう。
・年間1ミリシーベルトという基準は、1万人に1人ががんで死ぬ確率の数値ですが、
 「それは我慢してくれ」というのが今の法律です。これが10ミリシーベルトの被ばく
 になると、1000人に1人が死ぬことになります。
・4月19日、文部科学省は福島県内の学校の「安全基準」を提示しました。それによれ
 ば、1時間あたりの空間線量3.8マイクロシーベルト未満の学校には、通常通り校舎
 や校庭を利用させるとのことです。
・この「3.8マイクロシーベルト」とは、どのような根拠で決められた数字でしょうか。
 年間の積算被ばく量を20ミリシーベルトと定め、子どもが1日8時間屋外にいること
 を前提として、そこから3.8マイクロシーベルトという数値を導き出したと言ってい
 ます。これは正気を疑わざるをえないような高い被ばく量です。
・年間20ミリシーベルトとは、原発作業員が白血病を発病した場合に労災認定を受けら
 れるレベルです。
・除去した土を最終的にどう処理するのかという問題が未解決のまま残されています。放
 射能で汚染されたゴミの問題は今後ますます深刻になり、各地で住民同士の争いに発展
 する可能性があります。それを解決する唯一の方法は「放射能の墓場」を造ることしか
 ありません。どこに造るかといえば、福島第一原発周辺です。原発周辺の汚染はあまり
 にもひどく、恐れずに現実を直視すれば、将来にわたって無人地帯とせざるをえない状
 況です。大変言いにくいことですが、おそらく周辺住民の皆さんは元には戻れないでし
 ょう。むしろすぐに戻れるような期待を抱かせるほうが残酷です。
・最近、講演などで「原発事故で農地が汚染されていますが、再生は可能でしょうか」と
 いう質問をよくいただくようになりました。結論から先に言うと、再生できないと思い
 ます。
・今なぜ子どもや若い人の被ばくが特にクローズアップされているのかというと、被ばく
 によって受ける被害には年齢の依存性があって、若ければ若いほど放射線の影響が強く
 なるからです。同じ量の放射線を浴びるのであれば、大人よりも子どものほうが被害を
 多く受けます。
・20〜30歳代の大人に比べれば、赤ん坊の放射線感受性は4倍にも高まります。
・逆に年をとればとるほど放射線の影響は少なくなっていきます。平均的な放射線感受性
 を持つのは30歳ぐらいの人とされていますが、徐々に放射線に対して鈍感になってい
 き、50歳になると放射線によるがん死の可能性は劇的に低下します。
・私たちはエネルギーを膨大に使える社会があたかも「豊か」であるかのように思い、地
 域の農業や漁業を崩壊させてきました。その象徴が原子力だと私は思います。
・どんな汚染でも生じてしまった以上は否定してはいけない。「汚染されている事実」を
 ごまかさずに明らかにさせたうえで、野菜でも魚でもちゃんと流通させるべきだという
 こと。「子どもと妊婦にはできるだけ安全とわかっているものを食べさよう。汚染され
 たものは、放射線に対して鈍感になっている大人や高齢者が食べよう」ということです。
・都市部の人たちは圧倒的な人口と経済力を背景に、これまで過疎地に危険な施設を押し
 付け、「豊かな生活」を謳歌してきたのです。被害を福島の人たちだけに押し付けては
 ならない。
・マスコミは「暫定基準値を下回っているから大丈夫」としか言っていませんが、基準値
 以下だから安全だということは絶対にありません。
・大事なのは、「自分の被ばくを容認するかしないかは、自分で決める」ということです。
 政府や一部の専門家は「容認できるレベル」の被ばくなら何の問題もないようなことを
 言っていますが、惑わされてはいけません。
 
原発の「常識」は非常識
・なぜこんなに遠くにばかりに原発をつくるのでしょうか。理由は簡単です。原子力発電
 所で燃やしている(つまり、核分裂させている)燃料がウランだからです。ウランを燃
 やせは必ず「核分裂生成物」、つまり「死の灰」ができてしまいます。
・日本の原子力発電はこれまでどれくらい電気を作り、また同時に「死の灰」をつくって
 きたのでしょうか。それが今や積もり積もって、広島原爆の約120万発分に達するほ
 どの量になりました。放射能の減衰を考慮に入れても現在のところ80万発分を超えて
 います。福島第一原発の事故は、そのごくごく一部が飛び出してしまったものにすぎま
 せん。たったそれだけのことで、安心して水も飲めない、空気も吸えないようになって
 しまう。
・原子力損害賠償法には「異常に巨大な天災地変または社会的動乱」で事故が起こった時
 には責任を取らなくてもいいと書かれています。4月28日、東京電力の清水社長は、
 今回の原発事故が「この免責理由に当てはまりうる」との見解を述べました。暗に「自
 分たちではなく国が賠償すべきだ」と言っているのです。
・今回の大震災は確かに異常に巨大な地震、異常に巨大な津波でした。でも、東京電力の
 責任で動かした原子力発電所が事故を起こしたのに、どうして私たちの税金が使われる
 のでしょうか。もちろん被災者は必ず救わなければいけないけれども、本当に責任のあ
 るのは東京電力のはずです。
・普通の会社は汗水たらして少しでもいい商品を作り、それをたくさん買ってもらうこと
 によって儲けを出します。ところが電力会社は違います。「レートベース」というもの
 に「報酬率」という一定のパーセントを掛けて利潤を「決める」のです。では、その
 「レートベース」とはいったい何なんでしょうか。要するに電力会社が持っている「資
 産」のことです。「資産の何%かの額を自動的に利潤として上乗せしていいですよ」と
 いうことが、法律でおおっぴらに認められているわけです。
・つまり原子力発電をやればやっただけ、原発を建てれば建てただけ、電力会社は収入を
 増やすことができる。とにかく巨費を投じれば投じるほど電力会社が儲かるシステムで
 す。そのため、夢中になってこれまで原子力を推進してきました。
・当然ですが、その利潤は電気料金に上乗せされるので、私たちの支払う分はどんどん高
 くなっていきます。今や日本の電気料金は世界一高くなってしまいました。
・電力会社などが主張している原発の安いコストは、実は一定のモデルで算出された金額
 にすぎず、現実を反映していません。発電に直接要する異様に再処理などの費用、そし
 て開発や立地に投入される国の財政支出などを合わせると、実際のコストは水力や火力
 より高くなってしまうのです。
・原子力発電は小回りがきかず、一度運転し始めたら1年は稼働率100%でずっと発電
 し続けます。夜間は消費電力が減りますが、止めることができないので電気が余ってし
 まいます。
・地球温暖化が叫ばれるようになって以来、政府や電力会社は「原子力は二酸化炭素を
 出さず、環境にやさしい」「地球温暖化防止のために原子力は絶対に必要」と宣伝して
 きました。
・そもそも核分裂反応は二酸化炭素のかわりに「死の灰」を毎日生み出し続けます。「発
 電時に二酸化炭素を生まない」という点だけを強調して、二酸化炭素よりもはるかに直
 接的に私たちの生命を脅かす「死の灰」の危険性に目をつぶるような議論は、根本から
 間違っていると思います。 
・「今、原子力発電所と呼ばれているものがある。でも、あれを原子力発電所と呼ぶのは
 間違いだ。「海暖め装置」と呼びなさい」と当時の私の東京大学時代の恩師が言いまし
 た。今日の標準的な原子力発電量は100万kwですが、それは電気になった部分だけ
 の話です。実は、原子炉の中では全部で300万kwもの熱が生み出されています。そ
 のうち、わすか3分の1だけを電気に変えて残りの3分の2は捨てているのです。どこ
 に捨てているのかというと、海です。海水を原子力発電所の中に引きこんできて、それ
 を温めてまた海に戻すことで原子炉の熱を捨てているのです。どのくらの量かというと、
 1秒間に約70トン。1秒間に70トンの海水を引き込んで、その温度を7℃上げ、ま
 た海に戻しています。1秒間に70トンの流量というのは、どのぐらいでしょうか。青
 森県に岩木川という大きな川がありますが、その1秒間あたりの流量が約73トンです。
・日本の約37万8000kuの国土には、1年間で約6500億トンの雨が降ります。
 その一部分は蒸発してなくなり、一部分は地面にしみ込んで地下水になります。そして
 残りが川になって流れていくわけですが、その川の流量は約4000億トンです。では、
 日本には現在54着の原子力発電所がありますが、それから流れてくる7度温かい水が
 どれくらいあるかというと、約1000億トンです。これで「環境に何の影響もない」
 というほうが、むしろおかしいと思いませんか。
 
原子力は「未来のエネルギー」か?
・「化石燃料はいずれ枯渇するので、原子力こそが未来のエネルギー源になる」という見
 通しは今も語られ続けられていますし、多くの日本人もそれを信じ込んでいます。「資
 源枯渇の恐怖」が原発を推進してきたと言っていいでしょう。
・それでは、私たちが依存している石油はいつ枯渇するのでしょうか。今から80年前、
 1930年における「石油可採年数推定値」は18年です。ところが、それから10年
 経った1940年には23年に延びました。戦争が終わった1950年になっても、石
 油の可採数は20年でした。それから10年経った1960年、35年に延びました。
 さらに30年後の1990年には45年に延び、最近の推定値では50年とされていま
 す。
・とはいえ、石油も使い続ければいつかは必ずなくなります。だとすれば未来のエネルギ
 ー源はやはり原子力しかないのでしょうか。ところがどうも、石油より先に原子力の
 「寿命」が尽きてしまいそうなのです。
・私たちは、使えばなくなる資源を「再生不能資源」と呼んでいます。石油、石炭などの
 化石燃料がそうですし、原子力の燃料であるウランもまた再生不能資源です。
・このうち圧倒的な埋蔵量を誇っているのが石炭です。今のもエネルギー資源が枯渇する
 ように宣伝されていますが、石炭を使い切るまでには1000年かかります。
・一方、多くの人たちが「未来のエネルギー」との幻想を抱いているウランは、利用でき
 るエネルギー量換算で石油の数分の一、石炭に比べれば数十分の一しか地球上に存在し
 ていません。石油よりかなり前にウランが枯渇してしまうことはもはや明らかです。
 「化石燃料が枯渇するから未来のエネルギーは原子力しかない」という宣伝は、全くの
 誤りでした。太陽光や風力、波力、地熱といった新エネルギーを推進しつつ、それまで
 は上手に化石燃料を利用していかざるをえないというのが現実のところなのです。
・日本には高速増殖炉がすぐに実現する前提で使用済み核燃料の再処理をイギリス、フラ
 ンスに委託し、すでに45トンにのぼるプルトニウムを分離してため込んでしまいまし
 た。このプルトニウムで長崎型原爆を作れば4000発もできてしまいます。
・日本はなにがなんでもこおプルトニウムを始末しなくてはならなくなりました。そこで
 苦し紛れに考えられたのが、普通の原子力発電所で使われている原子炉、つまり「熱
 (サーマル)中性子炉」でプルトニウムを燃やす「プルサーマル」計画です。
・プルサーマルは原発の危険性を飛躍的に増大させます。福島第一原発では3号機がプル
 サーマル運転で、原理力発電の多少の知識のある人々はこの炉の動向を固唾を飲んで見
 守ってきました。
・現在、政府と電力会社はプルトニウム入りの「MOX燃料」(ウランとプルトニウムの
 混合酸化燃料)を「全炉心の3分の1まで入れても安全だ」と説明していますが、それ
 はもともと危険な原子炉をさらに危険にする行為です。
・青森県六ケ所村で使用済み核燃料からウランとプルトニウムを取り出す再処理工場の計
 画が進められています。そこで高速増殖炉やプルサーマルで使う燃料を製造するつもり
 でしたが、核燃料サイクル計画自体があちこちで破綻しているのに操業をはじめてどう
 するつもりでしょうか。
・六ヶ所再処理工場で取り出したプルトニウムはどこかで燃やさなければなりません。そ
 の処理のために造ろうとしているのが、全炉心にMOX燃料を装荷する世界初のフルM
 OX原発・大間原子力発電所です。実施主体は電源開発株式会社で、本州の最北端、マ
 グロ魚で有名な青森県大間町で建設が進められています。
・高速増殖炉を中心とした核燃料サイクル計画の破綻によってプルトニウムが大量に余り、
 それを消費するためにさらに危険な原発を建てていることになります。愚かな行為のた
 めにさらに愚かな選択を迫られる「悪循環」に陥っているのが、日本の原子力の本当の
 姿です。
 
地震列島・日本に原発を建ててはいけない
・米国には100基を超える原発がありますが、その多くは東海岸で、大地震が起こる可
 能性のある地域はきれいに避けて建てられています。150基の原発があるヨーロッパ
 は非常に地盤が強い場所で、ほとんど地震が起こりません。
・日本はどうでしょう。大地震が頻発している場所なのに、すでに54基もの原発が建っ
 ています。地球上の地震地帯に原発をたくさん建てているのは「日本だけ」と言ってい
 いでしょう。
・原子力発電所は「機械」です。機械は必ず壊れます。運転しているのは「人間」です。
 人間は必ずミスをします。だから「事故は必ず起きるもの」と、常に想定しなくてはい
 けません。
・さらに4月下旬、衝撃的な事実が発覚しました。福島の事故を受けて「もんじゅ」を含
 む全国の原発に非常用の電源車や発電機が配備されましたが、マスコミの取材でこれか
 らの対策が全く役に立たないことが分かったのです。配備された非常用電源では容量が
 少なすぎて装置の一部しか動かせず「ほとんどの原子炉を冷やせない」とのことでした。
・福島第一原発の事故が起こってすぐ、各電力会社はあわてて非常用電源を準備し「うち
 は大丈夫です」と言い張りました。それらは全部、原発を止めないためのウソだったの
 です。
・今、いちばん警戒しなければならないのは東海地震です。静岡県御前崎市にある中部電
 力浜岡原子力発電所はその想定震源域のど真ん中に建っています。この地域では100
 年〜150年周期で必ず巨大地震が起こることが科学定期裏付けられていますから、私
 たちが望もうと望むまいと東海地震は起こります。
・ところが安政東海地震以来、浜岡原発のあたりだけは150年以上も巨大地震が起きて
 いません。世界中の地震学者が「いつ起きても不思議ではない」と見ているのが東海地
 震です。今日来るかもしれないし、明日来るかもしれません。浜岡原発は間違いなくこ
 の東海地震の直撃を受けます。
・現在、中国電力は瀬戸内海に面した山口県上関町に上関原子力発電所の建設計画を進め
 ています。予定されている原発は2基、1基あたりの電気出力は約137万kwと国内
 最大級です。
・すでに六ケ所村には使用済み核燃料が約3000トンも運び込まれています。一つの原
 子力発電所が生み出す使用済み核燃料は1年間に約30トン。つまり原発100年分の
 放射能がため込まれていることになるわけです。
・再処理工場ではこの燃料棒を細かく切り裂き、硝酸に溶かした上で化学的にプルトニウ
 ムを分離する作業を行います。当然、環境に放出する放射能の量は段違いに多く、原子
 力発電所が1年で放出する放射能をたったの1日で出してしまうと言われています。
・日本は使用済み核燃料をイギリスのウィンズケール再処理工場とフランスのラ・アーグ
 再処理工場に送って処理してもらってきたのです。そのウィンズケール再処理工場は、
 約120万キューリー(広島原爆の400倍)を超えるセシウム137をアイリッシュ
 海に流しました。ウィンズケール再処理工場は平常運転として計画的にセシウムを海に
 流したのです。
・六ヶ所村の再処理工場も本稼働すれば、事故が起きなくても日常的に大量の放射能を放
 出することは間違いありません。周辺住民は、原発以上の被ばくを受けることになりま
 す。
六ヶ所再処理工場から放出される予定の放射性物質の一つに、トリチウムがあります。
 その海への放出予定量は年間約1万8000テラベクレルで、1日当たり約60テラベ
 クレルになります。ところが、原子炉等規制法で許される濃度(1pあたり60ベクレ
 ル)までトリチウムを薄めようとすれば、毎日100万トンの水を使って薄めなくては
 なりません。それは不可能なので、猛毒をそのまま海に流すことを許しているのです。
・六ヶ所再処理工場から放出される放射性物質のうち、住民に被ばくを与えるものは「ク
 リプトン85」「トリチウム3」「炭素14」の三種類で、全体の被ばく量の7割を占
 めています。これらは排気筒や排水口から全量放出されます。排水口は沖合3km、深
 さ44mの海底に造っていますが、そうでもしなければこの膨大な毒物は危なくて排出
 できません。
・もし現在の計画のまま放出し続けるとすれば、毎年740人、40年の操業で約3万人
 が放射能の影響によるがんで死亡する計算になります。六ヶ所再処理工場は、安全性、
 経済性、あらゆる意味で有害無益な施設であることは明らか、完全に断念され、放棄さ
 れるべきです。
・高速増殖炉「もんじゅ」は暗礁に乗り上げている状態ですが、ここで大事故が起こると
 すぐに破局が到来してしまうという意味で、非常に恐ろしい原子炉です。高速増殖炉と
 は、ウランからプルトニウムを効率的に作り出すための特殊な原子炉で、その作業をや
 ろうとすると原子炉を冷やすために水を使うことができません。もんじゅではナトリウ
 ムで冷却します。
・ナトリウムという物質は「水に触れると爆発する」「空気に触れると火災を起こす」と
 いう、化学活性が非常に強い物質です。そんな期限なもので原子炉を冷やしながらプル
 トニウムを作ろうとしているわけですが、すでに1995年にナトリウム漏れで火事が
 起きたことからも分かるように、もしも地震などが起きて配管が大きく壊れれば大火災
 になります。しかも鋼鉄を溶かすような大火災です。それでは福島の事故と同じように
 消防や自衛隊が出動して水をかけることができるかというと、それもできません。水を
 かけたらナトリウムと反応して大爆発が起きてしまいます。事故が起きた場合の被害は
 原発よりもずっと大きく、今回のような規模の地震に直撃されたら、恐らく何の対処も
 できないまま破局を迎えてしまうことになるでしょう。本当に恐ろしいものを造ってし
 まったものです。
 
原子力に未来はない
・すでに世界の先進国は続々と原子力から撤退をはじめていました。貧弱なウラン資源、
 成り立たない経済性、破局的事故の恐れ、見通しのつかない放射性廃棄物の処分などが
 大きな負担となってきたからです。
・確かに日本の電気の約30%は原子力ですが、発電設備全体の量からみると実は18%
 にすぎません。なぜその原子力が発電量では約30%に上昇しているかというと、原子
 力発電所の「設備利用率」だけを上げて、火力発電所を休ませているからです。
・2005年の統計によれば、原子力発電所の設備利用率は約70%です。一方、火力発
 電所は48%です。つまり半分以上は止まっていたということになります。
・それでは、原子力発電を全部止めてみたとしましょう。ところが、何も困りません。壊
 れた火力発電所が復旧し、その稼働率を7割まで上げたとすれば、十分それで間に合っ
 てしまいます。原子力を止めたとしても、火力発電所の3割をまだ止めておけるほどの
 余力があるのです。それだけ多くの発電所が日本にはあるのです。
・日本の水力発電所、火力発電所、原子力発電所、自家発電を合わせた発電設備の総量は、
 100万kwの発電所に換算すると、現在270基分ほどあります。それでは、ピーク
 時にいったいどれだけの電気を使っていたのかというと、これまで水力発電と火力発電
 でまかなえる電力の合計以上になったことはほとんどありません。1990年代の一時
 期、確かにわずかに足りなくなったことはありましたが、企業などの自家発電で吸収で
 きる範囲です。しかも、最も多く電気を使う「ピーク時」というのは、真夏の数日間、
 さらにその午後の数時間にすぎません。
・日本は、ほんの少し前まで太陽光発電の分野で世界のトップでした。それが、国をあげ
 て原子力にしがみついたばかりに、今や中国やドイツに追い越されてしまいました。原
 子力にかける労力をもし太陽光発電に注いでいれば、今も世界のトップを走っていたは
 ずだし、太陽光発電もよりコストが安く優れたものになっていたでしょう。
・原子力発電はすでに膨大な「核のゴミ」を生み出しています。まず、ウラン鉱山からウ
 ランを掘ってくる段階でゴミが生まれます。次にウランの濃縮、加工の過程でゴミが出
 ます。さらに原子炉を動かせば、放射性物質を大量に含んだ使用済み核燃料が背負いき
 れない負債となって出てきます。
・現在、あらゆるところに放射能のゴミが捨てられています。ウラン鉱山も、製錬所でも、
 濃縮・加工施設でも、原発そのものでも、そして再処理工場でも捨てられています。
・一番大きな問題は「廃炉」です。原子力発電所は「機械」ですから、何十年か動けば最
 後には動かなくなります。原発自体が巨大な「核のゴミ」と化すわけです。これを未来
 にわてってどう管理すればいいのかという問題が出てきますが、実のところさっぱりわ
 かっていません。
・原子力発電所で毎日大量に生み出されている「低レベル放射性物質」は、放射能の汚染
 度合いがそれほど高くないゴミのことで、放射性物質が付着してしまった使用済みペー
 パータオル、作業着などが例としてあげられるでしょう。1年間原発を動かすとこの
 「低レベル放射性廃棄物」がドラム缶で約1000本出ます。
・1980年の時点でそれらのドラム缶は約25万本。それぞれの原発の敷地の中にドラ
 ム缶置き場があって、低レベル放射性廃棄物はそこで保管されていました。
・2005年の段階でとうとう70万本に達するドラム缶ができてしまいました。「これ
 はもうダメだ」ということで、六ヶ所村に押し付けることにしました。すでに20万本
 近いドラム缶が六ヶ所村に送られています。
・しかし、ご存じのとおりドラム缶は鉄でできています。そこら辺に置いておいたら、1
 年もたでば錆びてボロボロです。ドラム缶置き場は地下にありますから、ものすごく湿
 度の高い環境にあるわけで、非常に簡単にドラム缶に穴が開いてしまいます。放ってお
 けば放射能が漏れ出てくるので、脇に「点検路」を作ってずっと監視することになって
 います。
・それでは「いったい何年監視するつもりか」と聞いてみると、なんと300年だそうで
 す。300年監視続けて、漏れてきたらそれを押さえこんで・・・という作業をやり続
 けていけば、やがて放射能は少しずつ減ってくれるから「なんとかなろだろう」という
 のが、政府の説明です。
・政府は高レベル放射性廃棄物を「ガラス固化体」に詰めて地面に埋めてしまうことを考
 えています。地上に廃棄物の受け入れ施設を造って、300〜1000mの深い縦穴を
 掘ります。そお底にさらに横穴を掘って、そこに埋めてしまうのです。今、こういう廃
 棄物埋め捨て地の引き受け先を探しています。それでは、その自治体の住民は何年この
 放射性廃棄物と付き合っていかなくてはならないのかというと、なんと100万年だそ
 うです。
・だった60年の歴史しか持っていない会社が原子力を推進して「死の灰」を生み出し、
 それを300年間管理するなんてことが、本当に約束できるのでしょうか。当然、電力
 会社は「一企業の時間の長さからすれば300年は長すぎるから、国が責任を持ってく
 れ」と言っています。そりゃあ、そうだろうと思います。電力会社が責任を取れる道理
 がない
・このような途方もない作業にかかるエネルギーは、原子力発電で得たエネルギーをはる
 かに上回ってしまうでしょう。二酸化炭素の放出も膨大になるでしょう。なにより、見
 知らぬ子孫たちが100万年間汚染の危険を背負いながら、また膨大なコストを支払い
 続けながら、「核のゴミ」を監視しなくてはならないのです。はるか未来の子孫にすべ
 ての負債を押し付けることで原子力発電が成り立っているということだけは、忘れない
 でいただきたいと思います。
・産業革命以後の200年間で私たちが使ったエネルギーはどのぐらいの量でしょうか。
 人類という生き物が地球上に誕生したのは、400万年前と言われています。
 その400万年で人間が使ったエネルギーの総量のうち、産業革命以後の200年間で
 消費された分は全体の6割を超えます。
・そして私たちは「便利な生活を維持したい」という一念に駆られて、原子力発電という
 人間の能力では処理しきれない技術を進めるようになりました。福島の事故は、それが
 いかに恐ろしいことなのかを見せつけてくれています。
・いったい、私たちはどれほどのものに囲まれて生きれば幸せといえるのでしょうか。人
 工衛星から夜の地球を見てみると、日本は不夜城のごとく煌々と夜の闇に浮かび上がり
 ます。建物に入ろうとすれば自動ドアが開き、人々は階段ではなくエスカレーターやエ
 レベーターに群がります。冷房を効かせて、夏だというのに長袖のスーツで働きます。
 そして、電気をふんだんに投入して作られる野菜や果物が、季節感のなくなった食卓を
 彩ります。
・日本を含め「先進国」と自称している国々の人間が、生きることに関係ないエネルギー
 を膨大に消費する一方で、生きるために必要最小限のエネルギーすら使えない人々も
 存在しています。 
・残念ではありますが、人間とは愚かにも欲深い生き物のようです。豊かさや便利さを追
 い求めながら、地球温暖化、大気・海洋汚染、森林破壊、酸性雨、砂漠化、産業・生活
 廃棄物、環境ホルモン、放射能汚染、さらには貧困、戦争など、多くの「人災」を引き
 起こして、地球の生命環境を破壊しています。種としての人類が生き延びることに価値
 があるかどうかは、私にはわかりません。しかし、もし安全な地球環境を子どもや孫に
 引き渡したいのであれば、そのみちはただ一つ。「知足」しかありません。代替エネル
 ギーを開発することも大事ですが、まずはエネルギー消費の抑制にこそ目を向けなけれ
 ばなりません。
・一度手にいれてしまった贅沢な生活を棄てるには、苦痛が伴う場合もあるでしょう。こ
 れまで当然とされてきた消費社会の価値観を変えるには長い時間がかかります。しかし、
 世界全体が持続的に平和に暮らす道がそれしかないとすれば、私たちが人類としての新
 たな叡智を手に入れる以外にありません。