電力危機をあおってはいけない :川島博之

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この本は、今から11年前の2011年、あの東日本大震災による福島第一原発事故が起
きた同じ年の秋に刊行されたものだ。
当時は、原発事故により日本国内の原子力発電所はすべて稼働停止となり、また火力発電
所の一部も地震と津波の被害を受けて発電ができない状況に陥っており、電力危機が叫ば
れていた時期であった。また当時は、電力不足により輪番停電という計画停電が実施され
たと記憶している。
そんな危機的状況の中で出された本書なのだが、著者の基本的な主張は、次の3点である
ようだ。
・日本は人口が減少していく国であり、それに伴い電力消費量も減少していき、今後30
 もすれば、原発を稼働しなくても、火力だけで電力を賄えるようになる。
・日本は自然エネルギーを活用しにくい国であり、自然エネルギーに期待するには無理が
 ある。 
・日本が目指すべきが、省エネ・節電の戦略である。

著者の計算によれば、日本は年率1%の電力消費量の節約をすれば、人口減少による電力
消費量の減少を加味すれば、今後30年で原発からの電力供給は不要になるという。これ
がほんとうなら、すごいことではないのかと思える。
それまで間は、一時的に原発を稼働させるにしても、徐々に原発を減らしていけば、30
年で原発をゼロにできるというわけだ。
実際、2011年3月の福島第一原発事故後に全国の原発がすべて停止となってから、
2012年7月に大飯原発が再稼働されるまで一年以上、日本の原発稼働ゼロ期間が続い
た。それでも、電力危機が叫ばれながらも、なんとか乗り越えることができたのだ。
著者の主張には、11年過ぎた現在において、少し違ってきている部分もあるが、大方、
正しかったと言えるのではなかと思えた。

あの福島第一原発事故から11年、ロシアのウクライナ侵攻で発生した石油や天然ガスの
供給不安をエネルギー危機と捉え、原発の新増設や原則40年の運転期間の延長を検討す
る方針を打ち出した。原発回帰へ向けた突然の政策転換である。
果たしてその政策が、長期的な視野で見て、果たしてほんとうに必要な政策転換なのか。
また闇で何か、大きな力が再び働き出したのではないのかと勘繰りたくなる。
これ以上未来世代に原発問題を先送りしないように、しっかり我々国民は見ていく必要が
あるのではいかと思った。

過去に読んだ関連する本:
原発のウソ
世界に広がる脱原発
日本はなぜ脱原発できないのか
原発の深い闇


はじめに
・「うろたえるな、危機のときこそ冷静に周囲を見回すべきだ」
・国家的危機を迎えると、日本では政治家も識者も目先の危機に視野が集中し、歴史的な
 視点や世界的な視点から事態を見ることができなくなる傾向があるように思います。
・「問題が起きているのは、誰か悪いやつが悪いことをしているからだ」的な発想で、危
 機の原因を特定の人や組織に求めがちです。
・危機のときこそ目の前の事件を歴史的な、そして世界的な視点の下で見直し、位置づけ
 て、冷静に最適な対処の方法を見出していくことが大切です。
・電力を含むエネルギーの問題は、国家戦略に基づいて百年単位のスケールで考えるべき
 ものであり、事故後の冷静さを失った状態で軽々に方針を決めてしまう種類のもので
 はありません。   
・日本の電力政策、エネルギー政策には、これまでも石油ショックや地球温暖化問題など、
 その時々の世論や突発的な危機に押し流され、多額の税金の無駄遣いが繰り返されてき
 た歴史があります。

「食糧危機」と「電力危機」の共通点
・原子力発電については「原発は発電コストが安い」と主張され、自然エネルギーについ
 ては、「今はコスト高だけれど、技術の進歩と普及に伴う量産効果で、やがて火力発電
 並みになる」と主張されています。私は実はこれらの主張に疑問を持っています。
・エネルギー危機到来説というのは、「世界の人口増加と新興国の工業化・経済発展によ
 って、世界の化石燃料が不足してきており、やがて日本は石油を買えなくなる。その時
 期はすぐ目の前に迫っている」というものです。
・食糧問題では「世界の人口増加と新興国の工業化・経済発展で、世界の食糧が不足する」
 という主張が繰り返されています。
・結論だけ申し上げますと、現在の世界の食糧生産力には十分な余裕があり、今後数十年
 間の人口増加と新興国の経済発展を見込んだとしても、それによって世界的な食糧危機
 が始まる恐れは全くありません。
・日本にも世界にも、石油危機をあおること、食糧危機をあおることで、利益を得る勢力
 が存在します。それは投資家であったり、生産者であったり、関係省庁であったり、世
 界的な機関の場合もあります。
・日本で電力危機が叫ばれることは、電力会社内の一部組織や関連メーカーなど、原発利
 権の維持を狙う人々に有利に働きます。同じように温室効果ガスによる地球温暖化の危
 機が叫ばれることは、自然エネルギーの利用を推進する諸団体や関連メーカーにも有利
 に働きます。 
・学問の世界でも、電力、特に原子力発電についての議論には、政治の影がついて回りま
 す。学者として「脱原発」を唱える人も、「脱原発は非現実的」と主張する人も、それ
 ぞれ中央省庁やその外郭団体からの研究費の補助や委託研究プロジェクトや各種の政府
 系審議委員会など、これまでの学者人生でさまざまなしがらみがあって、自分の置かれ
 た政治的立場を離れてオープンな議論をできるわけではないのです。
・多くの日本人が疑いもせずに「常識」と考えている主張についても、統計データと時系
 列的な推移の検証、世界の他の国々との対比により、立体的に検証していくことが必要
 です。 

人口が減れば、電力消費も下がる
・「全ての原発の稼働が止まったら、この夏の電力需要を賄いきれない」と声高に叫ばれ
 た目先の問題と、「長期的視野から見た日本の電力供給は、原発がなければ維持不可能」
 という長期の問題とは、別物です。
・2011年、12年といった直近の電力供給力の不足に対しては、なすべきことは決ま
 っています。
 電力会社は検査で停止した原発の再稼働が当面の間、認められない可能性が高いことを
 前提に、新たな火力発電の設備を増強し、また老朽化やコスト高などで停止中の火力発
 電機を再稼働させる準備を行なう。
 さらに企業が持っている自家発電の設備も、できるだけ稼働率を上げてもらい、自家用
 以外の余った電気は電力会社で買い取り、一般に供給する。その一方で需要側にできる
 かぎりの節電を求めていく。
 今も行われているそうした当り前の努力以外に、供給側が工夫できることはないし、
 当面の危機を乗り切るためには、火力発電に頼るしかありません。
・長期的な視点から日本の電力需要を考えたとき、私はこれから数十年間は、過去数十年
 間のように電力需要は増加しないと見ています。むしろ、これからは次第に必要な電力
 は減少していくでしょう。 
・日本の人口は明治以来、増え続けてきましたが、2000年代半ばにピークに達し、現
 在は減少に転じています。人口が減れば、電力需要も減ります。
・2050年の電力需要は、私たち日本人一人一人が今と同じ量の電気を使うとしたら、
 現在の電力需要の四分の三にまで減るはずなのです。
・日本全体の高齢化とともに、家庭内での家電製品のダウンサイジングが進行し、家電製
 品の省エネ性能の向上ともあいまって、一世帯当たりの電力消費も減少に転ずるものと
 予想します。 
・いずれにしても、この先の日本で国全体としての電力需要が、過去半世紀と同じトレン
 ドでどんどん増えていく可能性は低いと考えられます。
・日本人には「省エネ先進国ニッポン」というイメージがあります。しかし、データを見
 る限り、それは幻想です。国全体として見たとき、今の日本は決してエネルギー効率の
 よい国ではありません。こと電力消費に関しては、先進国の中でも使い過ぎの部類に入
 っています。 
・先進各国のエネルギー全体における電力依存率を見ると、各国ともに過去40年間上昇
 する傾向にありますが、中でもフランスが突出して電力依存率が高く50%に達してい
 ます。日本がそれに次いでいて約45%で、40%程度のアメリカを大きく上回ります。
・一般に国土の大きな国は、電力に限らず一人当たりのエネルギー消費全体が増える傾向
 にあります。理由ははっきりしませんが、国土が広いと家も大きくなり、集合住宅より
 戸建て住宅の割合が高まって、冷暖房の効率が落ちることが考えられます。
・フランスの場合、国策として原子力発電を推進しており、電力の八割を原発がカバーし
 ています。  
・ヨーロッパの先進国の中でもイタリアは、日本と自然条件や人口の推移などの条件が似
 ており、電力問題に限らず、ヨーロッパの中でも注目すべき国といえます。
 電気に関しては日本人はイタリア人の二倍も使っているのです。
・こうしてみると、今日の日本には節電する余地はたくさんあるはずです。
 一人当たりGDPで同じくらのヨーロッパの先進国と比べても、あるいは少し前の日本
 と比べても、明らかに電気を使い過ぎているからです。
・年率1%の節約は、家庭用電気製品のエネルギー効率の向上を考えれば、さほど努力な
 しに達成できるはずの数値です。これに毎年の人口減少の影響を加味すれば、電力消費
 量は20年ほどで1990年レベルまで下がってきます。90年代に増えすぎてしまっ
 た一人当たりの電力消費量を1990年以前の水準に戻すことができれば、それだけで
 電力需給はかなり楽になります。
 同じ程度の節電を続けると、40年ほどで日本の電力消費量は1990年の8割程度に
 まで下がってきます。   
・日本ではこれまで、電力供給の三分の一弱を原発から得ていましたが、もし年率1%の
 節電が実現できれば、今から30年ほどで原発から電力供給は必要なくなることになり
 ます。
・1972年に「ローマクラブ」という民間団体が「成長の限界」という報告書を出版し、
 「地球上の資源は有限であり、やがて枯渇する」と警鐘を鳴らしました。
 「成長の限界」では「石油の可採年数は30年しかない」と指摘されていたのですが、
 マスメディアでは「石油はあと30年で枯渇する」といった形で報道され、日本でも多
 くの人々がそれを真に受けて「子供たちの世代にももう石油は掘り尽くされているに違
 いない」と胸を痛めたものでした。
・「石油が不足して取り合いになったら、自給率ゼロの日本は大変なことになる」と心配
 しがちですが、今の市場では石油も石炭も天然ガスも、お金さえ払えば調達できます。
 足りなくなって起きる問題は、価格が上がって輸入する燃料代が高くつくということだ
 けです。価格が上がると新しい油田が開発されて生産量が増えるので、量が足りなくな
 る心配をする必要はありません。要はお金の問題なのです。

原子力発電のコストは誰にも測れない
・民主党の海江田経産大臣は、2011年6月の「新成長戦略実現会議」で「国内のすべ
 ての原子力発電所運転停止した場合、火力発電で代替すると液化天然ガスや石油などの
 燃料費の負担増が年間3兆円以上になる」という試算を明らかにしました。燃料費の増
 加分は電気料金に転嫁されるため、それだけ国民の負担増につながる、という指摘です。
・日本ではウランも化石燃料と同様に資源量が限られているから、リサイクルして用いる
 べきだと考えて、核燃料サイクル計画を強行してきました。しかし、ウラン資源は当分
 枯渇しないし、価格も安いのです。国が関与するととたんに技術開発が優先しバランス
 のとれた判断ができなくなるのです。
・2011年7月の朝日新聞の記事では、日本エネルギー経済研究所は、原発が全基停止
 し、火力発電で代替した場合の燃料費の負担増を年間3.5兆円に上ると推定しました。
・海江田経産大臣の発言といい、日本エネルギー経済研究所の試算といい、この種の発表
 が全体に原発の優位性を訴える内容になっている感は否めませんが、このように一度稼
 働させた原子炉を停止させてしまうと、電力会社にとって想定外の巨額の燃料費が発生
 することは事実です。  
・原子力発電は初期投資が大きく、ランニングコストが低いエネルギー源です。長く、切
 れ目なく使うほど発電量あたりのコストが下がるという特徴があるので、電力会社とし
 てはなんとかして原発の稼働率を上げようと、「原子力は発電コストが安い」「使うほ
 どお得ですよ」という言い方で宣伝に努めるのです。
・しかし実際に原子力による電力が火力による電力より安いかどうかは、実はそう言って
 いる電力会社にもわかっていないはずです。というのも電力会社発表の原発のコストに
 は、今回の原発事故の補償費用はもちろん、これまで投入された税金や将来的に必要に
 なるさまざまな安全性向上のための費用、使用済み原子炉や核燃料などの処理コストが
 正確に見込まれていないからです。
 わかっているのはただ「一度作った原発は、止めてしまうと余計なコストがかかる」と
 いうことだけなのです。  
・政府による原発への公費投入は紛れもない事実です。
 財源となる電源開発促進税は電気事業者に対して課せられる税で、電源立地対策費、電
 源利用対策費などに使用されることになっていました。
 このうち電源利用対策費は、軽水炉の技術開発や使用済み核燃料リサイクル技術開発な
 どに充てられています。
 電源立地対策費は、もったら原子力発電所やその関連施設を持つ市町村およびその周辺
 に対する交付金、補助金、委託費などとして配布されています。
・原発のための法律によって電力会社に発電量あたりいくらで税金が課せられ、そこから
 の税収が原発関連の研究や市町村のために用いられているのですから、その税額は原発
 の発電コストに含まれると考えるべきでしょう。
・原発のコストにはこうした税金だけでなく、使用済み核燃料や原子炉本体の最終処分の
 費用も含まれます。  
 廃炉となった原子炉については、まず配管などに付着している放射性物質を除去し、そ
 の後、5年から10年ほど放置して放射能の減衰を待ち、最終的に解体撤去することに
 なっています。
・廃止に要する費用は、110万KWクラスの原発一基あたり約300億円と見積もられ
 ており、これは同じクラスの原発の建設費の10%に相当するとのことです。
・また使用済み核燃料の処理は、単に費用がかかるというだけでなく、今に至るまで解決
 の見込みの立っていない、電力会社にとって頭の痛い問題となっています。
・日本の電力会社には過去40年間の原発の運転により、使用済みとなった燃料が大量に
 貯まっています。その量は1万2840トンにも上ります。
 これは最終的には地中深く埋める「地層処分」にする予定なのですが、その処分の目処
 が立っていないのです。
・地層処分とは、使用済み燃料を再処理して使用可能なプルトニウムとウランを使用済み
 燃料から化学的に回収し、その結果生ずる高レベル放射性廃液をガラス固化して、深さ
 300メートル以上の地下の岩盤の中に埋め、そのまま半永久的に保管し、放射能の低
 減を待つという方法です。核燃料サイクルを計画していない国では、使用済み燃料から
 ウランやプルトニウムを取り出すことなく地層処分することになります。
・結局、既に1万2000トンに達し、これからも増え続けるであろう使用済み燃料を最
 終的にどう処分するのか、そのためにいくらかかるのか、現時点では全くわかりません。
・原子力発電が、廃棄物処理についてきちんとした方針のないまま続けられ、国民がそこ
 から発生する電力を安く利用しているという現状は、本来、現世代が負担すべきコスト
 を将来世代に先送りしていることに他なりません。
・これは今の日本政府が、とるべき税金をとらず、大量の国債を発行して、財政赤字や年
 金の積み立て不測のツケを将来世代に先送りしているのと同じことです。
・「絶対安全」は、科学的には不可能と言っていい概念です。仮に原子炉で「絶対安全」
 を実現しようとすれば、無限の費用が必要になります。それは現実的に不可能なので、
 どこかで割り切らなくては原子炉の設計はできません。
・もし原子力発電を放棄したとして、それによる日本経済のダメージはどの程度深刻なも
 のなのでしょうか。
小出裕章氏が「発電所は平均して最大出力の半分しか使っていない。稼働率としては平
 均で50%程度であり、たとえ全ての原発が停止したとしても、節電の工夫次第で乗り
 切ることが可能」と述べておりますが、私も同感です。
・原発をフル稼働しなければ乗り切れない期間は、一年のうちでも7,8月の二ヶ月の、
 しかもそのうち日中の酷暑の時間帯、一日のうち三分の一から四分の一程度でしょう。
 電気を使う側の工夫次第で、乗り切れないはずはありません。実際、2011年夏の電
 力危機は乗り切ることができました。   
・節電をより確実なものにするには、今の生活習慣を見直していくことが有効でしょう。
 政府主導でよりピーク分散型に変えていくことで、ピーク時の消費電力を平準化するこ
 とは、十分可能です。
・原発が本当にコストの安いエネルギー源であるなら、もっと急速に世界中に広がっても
 よさそうなものです。しかし現状では、フランスなど一部の例外を除いて発電量の半分
 以上を原発が占めている国は少数であり、世界的に見れば発電のエネルギー源の主流は
 今も石炭火力なのです。
・このことは原発の発電コストが、燃料費用については確かに安いとしても、事故の危険
 性や使用済み燃料の処分、安全対策費などさまざまな要因を含まれば、トータルコスト
 では石炭火力にかなわないことを示唆しています。
・原発を持つ理由は、脱石油やエネルギー源の多様化だけではありません。
 放射性廃棄物の処理や事故の際に危険など頭の痛い問題をいくつも抱え、真の発電コス
 トもはっきりしない原子力発電を、日本政府が強力に推進してきたのはなぜでしょうか。
・原子力の技術は、核兵器を作るための技術でもあります。特に原発の産物であるプルト
 ニウムは、扱う技術さえあれば容易に核兵器に転用できます。
・原発に関しては、現在、31の国がその技術を持っています。実際に核兵器を製造・所
 有していなかったとしても、原発の運用実績を通じて「いつでも核兵器を作れるのだぞ」
 と周辺国にアピールすることの意味は、決して小さくありません。
・北朝鮮、イラン、パキスタン、インドなどは、はっきり原発と核兵器開発をリンクさせ
 ているものと、世界的に見られています。
 同様に台湾や韓国が原発を運営していることは、中国や北朝鮮に対抗するという地政学
 的な意図を抜きにしては語れません。
・北欧の産油国であるノルウェーも、隣国のスウェーデンやフィンランドが原発を保有す
 るなかで、原発を持とうとしていません。地政学的な面で原発の必要性を感じていない
 ということがあるのでしょう。
・オーストラリアは南軟球にあって対抗すべき隣国というものは特にありませんし、ノル
 ウェーもスカンジナビア半島の西側に位置し、東側にあるフィンランドやスウェーデン
 ほどロシアの脅威に怯える必要がないのです。   
・使用済み燃料の地層処分地が決まらないという問題は、原子力発電を行っているどの国
 にとっても、厄介な問題です。ただ、フィンランド、スウェーデン、韓国では比較的ス
 ムーズに地層処分を行なう場所を選定することができたようです。
・原発を保有する大きな理由に核兵器との関連があることは、世界的には常識とされてい
 ます。日本が原子力発電を行い、また再処理によって大量のプルトニウムを保管してい
 ることは、日本政府は意識していなくとも、近隣諸国は明確に意識しています。
・クリントン政権で国防次官などを歴任したジョン・ハムレ氏は「脱原発は日本にとって
 大きな誤りとなるだろう」と警告しています。
 その理由として最初に挙げられているのは「中国は、原子力発電をやめるともりはない。
 そして改めて言うまでもなく、日本は中国の原子炉の風下にある」という指摘です。
・日本の保有するプルトニウムについては、アメリカの歴代政府からも強い危惧が表明さ
 れていました。日本政府が使用済み燃料の再処理をイギリス、フランスの核燃料会社に
 委託した際には、回収されたプルトニウムを日本に返還輸送する際にテロリストに奪わ
 れる可能性があるとして、国際的な批判を浴びています。もしテロリストがプルトニウ
 ム奪取に成功すれば、核兵器によるテロが現実になる恐れが出てくるのです。
・使用済み燃料のリサイクルに熱心なのはフランスと日本なのですが、原子力関連の技術
 では世界の先駆者であるアメリカは、「プルトニウムを利用する高速増殖炉には安全面
 でも問題が残る上、経済面でも採算が合わない」として、既に1970年代に商業用高
 速増殖炉の開発を中止しています。イギリス、ドイツもこれに倣いました。
・なぜ日本が経済合理性の見込めないプルトニウムの利用にこれほど固執するのか、アメ
 リカは疑問を持っているようです。もちろん現在の日本の政治家に聞いてもまた官僚に
 聞いても、誰も「日本が原発を持つのは周囲諸国に対抗するためだ」などとは決して言
 わないでしょう。  
・日本の原子力発電に関する行政が迷走する原因がここにあります。創成期に原子力発電
 を推進した人々や、それを引き継いだ人々、特に自民党政権において国防問題に関心の
 深かった人々は、原発が潜在的な核保有と同じであることを認識していたはずです。原
 発を保有していれば、何かの際に数ヶ月で核兵器を作ることができるのです。

自然エネルギーを活用しやすい国、しにくい国
・自然エネルギーにはそもそも、原発に代わるだけの資源量があるのでしょうか。
 環境省は2011年に発表した「再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査」というレ
 ポートの中で「日本の自然エネルギーには潜在的に5兆1440億KWh/年の発電力
 がある」としています。これは日本の電力消費の6倍に相当する数値です。
 本当にそれだけの潜在的な発電の可能性があるのかは、私自身はやや疑問を持っていま
 す。
・自然エネルギーの中でも政府がもっとも力を入れて推進しているのが太陽光発電です。
・太陽光発電装置の寿命は15〜20年程度と言われています。
・実際には太陽が出ているのは昼間だけですし、曇っていれば発電量は大きく減少し、雨
 が降ればほとんど発電はできません。そうした発電できない時間を除いた実際の稼働率
 は、計算上の最大の発電能力を100%としたとき、およそ12%とされています。
・メガソーラーと呼ばれる大規模な太陽光発電施設の建設も各地で計画されています。
 その場合の問題は、メガソーラー施設には大きな面積が必要なのに、日本国内にはそう
 した施設に適した土地が少ないということです。
・太陽光発電における日本の問題は、降雨量が多いことです。雨の多い日本は本来、太陽
 光発電に適した国ではないのです。とりわけ日本海側は冬の日照時間が短く、太陽光発
 電向きではありません。  
・日本の全住宅の屋根に隙間なく太陽光発電パネルを敷き詰めれば、日本の全消費電力の
 18%を賄うことが、理屈の上ではできるということになります。
・自然エネルギーの多くがそうであるように、太陽光発電も天候や時刻により出力が刻々
 と変化する特性があるため、実際には電源構成のうちの一定割合以上を太陽光発電とし
 てしまうと、電力の安定供給に問題が出てしまうのです。
 このような観点から導入可能な発電量は、総発電量の10〜20%が限度ではないかと
 言われています。
・風力発電の魅力は潜在発電量が大きく、自然エネルギーの中ではコストが安いことです。
 しかし、ピーク時の発電容量は大きいけれども、「風任せ」なので、発電量はどうして
 もムラがあり、大容量の蓄電池と併用しなければ実用にならず、電力システム全体の安
 定性に与える影響も大きいということが、風力発電の大きな欠点です。
・風力発電にはそれ以外に環境上の問題も指摘されています。「風車の羽根に野鳥がぶつ
 かって死んでしまう」「景観が損ねる」といった指摘もありますが、設置する上で障害
 となるのが、風車の回転によって騒音が発生することです。この騒音は低周波震動が含
 まれ、人体に害を及ぼすのです。
・海上に建設する場合にも、漁業権との調整の問題があり、地形的にも遠浅の海岸が少な
 いなど、日本には不利な事情があります。 
・日本における風力発電の最大の問題は、そもそも日本はあまり風が強くなく、風力発電
 に適した国ではないということです。
・地熱発電は風力発電と並んで、自然エネルギーの中で発電コストが低く、1KWhあた
 り十数円と試算されています。しかし、潜在発電量という点から見て地熱発電の可能性
 はわずかです。   
 現実には候補地の多くが国立公園や国定公園に指定されており、温泉観光地となってい
 たりするため、景観や温泉への悪影響が心配され、開発が進みません。現在の出力は日
 本で稼働中の地熱発電所全てを合計しても約54万KWhと、中規模の火力発電所1基
 分しかありません。
・世界的に見ても、地熱発電が総発電量の中で10%を超えているのは、先進国ではアイ
 スランドぐらいです。
・不思議なことに日本では東日本大震災以降、太陽光発電や風力発電は話題になっても、
 バイオマス発電についてはほとんど聞こえてきません。
 問題は丸太の重量当たりの熱量が石油の三分の一、石炭の半分しかないことです。熱量
 当たりの価格を考えると、丸太は石炭の二倍ということになります。
・石炭が石油にとって代わられたのは、固形物のため扱い難いこと、そして重量当たりの
 熱量が石油の七割しかないことからでした。熱量当たりの価格としてはむしろ石油より
 安かったのに、使い勝手で負けたのです。  
・ところが、バイオマスはその石炭より扱い難い上に、重量当たりの熱量も石炭よりはる
 かに低く、熱量当たりの価格も石炭をはるかに上回るのです。
  
・日本のバイオマスエネルギーのように、税金を投入し続けなければ維持できないような
 経済合理性のない事業は、補助金が尽きたと同時に中止されることになります。そのと
 きになれば、それが税金の無駄であり、地球資源の無駄遣いであったことが誰の目にも
 明らかになります。
・後から振り返れば失敗が見に見えたプロジェクトに、なぜ多額の公金が注ぎこまれ続け
 たのでしょうか。その理由の一つが、「補助金を入れて価格を下げて普及させれば、規
 模の優位性が働いて生産コストが下がり、補助金なしでもビジネスとして成立するよう
 になる」という「規模の論理」です。
・日本の政府と省庁は、直前にバイオマスエネルギーへ助成で6兆円もの税金を無駄にし
 ておきながら、そのことに対する反省など全くないまま、今また太陽光発電について同
 じことをやり始めています。 
・しかし再生エネルギー法によって太陽光発電に税金を投入するなら、最低でもその前に
 なぜバイオマスエネルギー助成が失敗したのか、その原因をきちんと総括し、責任が誰
 にあるのかを明らかにし、同じ失敗を繰り返さないための方策を示す必要があるはずで
 す。見通しの甘さから莫大な損害を被りながら何の反省もせず、誰も責任をとらず、今
 度は太陽光発電で予算を獲得しようと走り回っている中央省庁の体質は、第二次大戦中
 の日本の軍部のそれと何ら変わるところがありません。

・民主党政権は2010年に策定した「食料・農業・農村基本計画」で「2020年度ま
 でに食料自給率を50%に引き上げる」という目標を掲げましたが、ここでも言ってい
 ることとやっていることが逆であったようです。
・鳴り物入りで始められた個別補償政策は、少なくとも日本の食料自給率向上のためには
 全く役に立たなかったことは明らかです。しかしこの明確な政策の失敗に対しても、誰
 も何も言わず、反省する声もなければ、責任を取る政治家もいません。
・政治家も政治家なら、メディアもメディアだと私は思います。過去の政策の失敗を反省
 することなく積み重ねられてきた新たな失敗により、日本国民は自分たちの知らないと
 ころで莫大な借金を積み上げられています。70年前の戦争の歴史が現代の私たちに教
 えてくれるのは、このようなでたらめな国家運営を続けていれば、やがて日本は滅びて
 しまうということです。 
・エネルギー問題に切る込むことができなかった背景の一つには、日本国民に広がった
 「科学技術信仰」があると私は感じています。「科学技術がエネルギー問題を解決して
 くれる」という信仰にも似た人々の思いがエネルギー特会の研究予算を後押ししている
 のです。そこに大きな無駄が生じています。
・これには高度成長期以来、というより明治維新以来の日本人の「優れた技術で豊かな国
 になるのだ」という国造りの発想が根底にあるのだと思います。
・「どんなことでも科学が解決してくれる」と考えるなら、戦略的思考など必要ありませ
 ん。その意味で日本人の科学技術信仰は、人々が戦略の重要性を言い合いながら、日本
 でなかなか戦略的思考が定着しない原因にもなっています。戦略的思考とは単純な科学
 技術を信仰することではなく、どこまで科学技術で可能であり、どこから先は無理なの
 か、限界を冷静に考えることなのです。 

・自然エネルギーによるコストの高い電気を、経済性を無視した高価格で電力会社に買い
 取らせる制度は、経済合理性という観点からは歪んだものといえます
 富裕層はこうした制度を利用して、自宅の電気代を節約し、また売電によって収入を得
 て、設置のための補助投資を10年程度で償却することができます。その後は発電すれ
 ばしただけ、所有者の儲けになるわけです。
・現状では、売電制度による電力会社の負担はまだ小さく、電気を使用する各家庭に負担
 費用を転嫁したとして、一家庭当たり月に2円程度に留まっているという試算がありま
 す。しかし太陽光発電システムが普及していけば、それを所有していない家庭の負担も
 徐々に大きくなっていくことになります。これでは「貧乏人からお金をとって、お金持
 ちに渡している」のと同じことです。
・経済的に不合理な制度で無理やり自然エネルギーの普及を進めても、スペインのケース
 を見てもわかるように、いずれ反動が来ます。現在の太陽光発電に対する補助制度も、
 再生エネルギー法によって実施されることになる自然エネルギー由来の電力の固定価格
 買取制度も、結局は多くの国費の無駄遣いした上に民間経済に不要な混乱を残すだけの
 結果に終るのではないかと、私は強い懸念を抱いています。

・現在、日本で行われている「原発を維持すべきか、再生エネルギーを推進すべきか」と
 いう論争に大きく欠けている視点の一つが、「石油価格の高騰がこれからも続くかどう
 か」というポイントです。
・今日の原発の多くは二度の石油ショックの後に建設されています。太陽光発電もバイオ
 マスエネルギーも地熱発電も風力発電も、今から40年も前からずっと研究されてきた
 のです。ただ、その研究が盛り上げっていたのも石油が高かった間だけでした。
・自然エネルギーブームが去ると同時に原発の増加も止まりました。1990年代に入っ
 て原発が建設されなくなった理由にはいくつかありますが、最大の要因は石油価格が低
 迷したことでしょう。  
・今後、世界経済が減速して石油価格が低落すれば、代替エネルギーに対する関心は遠の
 くでしょう。それは過去の歴史を見れば明らかです。原発擁護派や再生エネルギー推進
 派の議論には、そうした歴史観が欠けています。
・私見ですが、自然エネルギーの普及と脱原発のために負担を国民に求めたとしても、結
 果的に自然エネルギーが低コストの電力源に成長し、補助金なしで原発の代わりを担え
 るほどのシェアを獲得・維持できる可能性はほとんどないでしょう。

電力はどこで消費されているのか
・日本の工業部門の一人当たり電力消費量は過去40年間、傾向としてはほぼ横ばいです。
・逆に家庭部門では、日本は1970年頃にはヨーロッパ先進国より少なめの電力しか使
 っていなかったのですが、1990年頃に逆転し、今ではヨーロッパより一人当たりの
 電力消費が多くなっています。
・過去20年の推移で目を引くのは、エアコンの消費電力が大きく増えていることです。
 エアコンはこの期間にエネルギー効率の上昇が進んだ商品の一つですが、それ以上に全
 体の設置台数が増えているようです。また初期の冷房用に加え、近年は暖房用の消費電
 力が増加していることも特徴です。
・エアコン以外のテレビや冷蔵庫なども消費電力が増えており、また温水洗浄便座や食器
 洗浄乾燥機、衣類乾燥機など比較的新顔の家電製品も伸びています。
・ここから見てくるのは、家庭の電力消費は確実に拡大しているけれども、それは何か特
 定の電化製品が原因というわけではない、ということです。全体に贅沢になってきたと
 いう印象です。 
・家庭での電力消費の増加は、私たち日本人が利便性と快適性を追求し、エアコン、温水
 洗浄便座、オール電化住宅など、年とともに電気をたくさん使うライフスタイルに変わ
 ってきた結果と考えられます。ここでもバブル崩壊後、日本社会が省エネとは逆方向に
 進んできたことが見てとれます。
・商業部門についていえば、「過剰サービスがエネルギーの無駄遣いを生んでいる」とい
 う批判があります。
 考えられるのは、コンビニなどによる24時間営業の普及です。これは確実に照明や空
 調への電力消費を増加させます。
 また同様に日本特有の現象として、自動販売機の増加も考えられます。

「電力消費量」と「CO2排出量」
・ヨーロッパの国々は政策的にCO2の排出量削減に取り組んでおり、議定書を採択しな
 かったアメリカでもそれを無視しませんでした。ところが日本は、議定書を採択したに
 も関わらず、CO2削減のための実効的な政策を何も実施しませんでした。それどころ
 か公共投資による不要不急の土木建築工事の拡大、高速道路の無料化実験など、明らか
 にCO2削減に逆行するようなことをやっています。
・この点は電力についても同様です。発電燃料に占める石炭の割合が増加しているのです。
 石炭は熱量あたりのCO2が天然ガスの二倍近くもあり、CO2排出量削減のためには
 避けなければならないエネルギー源とされます。そんなことは電力会社もよくわかって
 いるはずですが、全く無視して石炭の使用量を増やし続けています。
 しかも、日本ではオールでんか住宅を推進するなどして、そのCO2排出量を増やして
 いる電力に、国全体としてのエネルギーをシフトしていきました。
・京都議定書の採択後、日本政府はCO2排出量削減のために原発の割合を増やすという
 目標を立てています。CO2排出量削減が、原発推進の新たな大義名分となったのです。
 ところが、現実には原発の稼働率は向上せず、増設も進みませんでした。その状況の中
 で各電力会社は利益率の向上のため、発電コストの高い石油を減らす一方で、安価な石
 炭の使用量を増やしていきました。
・日本は過去20年で発電による一人当たりのCO2の排出量を1.6倍にも増やしたの
 です。これでは日本が非難されても仕方のないところでしょう。
・日本の場合、過去20年の名目GDPは低下傾向にあり、国民もこの間に生活が豊かに
 なったという実感は乏しいでしょう。にも関わらず電力消費量は大きく伸び、CO2排
 出量も増えています。いわば、豊かになっていないのにエネルギーを余分に使うように
 なっているのが、今の日本です。
・その典型が公共投資でした。バブル崩壊以降の景気対策としての公共投資の増加は、い
 たずらに消費電力を増やすばかりで、国民の生活の豊かさの向上には何も結びつかなか
 ったのです。   
  
・地球温暖化については、まずはアメリカや中国といったCO2排出大国の貢献を明確化
 すべきです。日本よりも人口大国であり、急速に経済発展しつつある中国やインド、そ
 して既に経済大国でもあるアメリカのほうが、はるかに大きな負荷を地球環境に対して
 かけています。  

いかに省エネ・節電をはかればよいか
・日本も韓国も燃料コストは同じであり、発電効率もほぼ同じ。なのに、なぜか日本の電
 気料金は韓国の1.5倍から1.8倍にもなっているのです。
・ひとつの違いとして韓国では発電に占める原子力の比率が36%と日本より高く、かつ
 原発の稼働率でも日本を大きく上回っており、それが電気料金にも反映されている可能
 性があります。 
・韓国の安い電気料金は、政府の選挙対策であり、また輸出企業支援のための国策でもあ
 ります。

・石炭火力発電の割合を抑えると同時に、国全体のエネルギー利用において、過度な電力
 依存を転換し、電力消費量を抑える必要があります。
・家庭や公共・商業部門における節電のポイントの一つは電灯です。家庭では電灯の電力
 消費が全体の16%を占めています。これを全てLED化すれば、それだけで電灯の電
 力消費は五分の一、3%まで下がります。全体の消費量が13%減るのです。
・ハイブリットカーは、電気による駆動機関とガソリンエンジンによる駆動機関の両方を
 備えなければならず、電池が大きな容量と重量を占めていることもあった、全体として
 複雑で重くなってしまうという弱点があります。
・日本の都市部のように渋滞が多く、発進と停止を繰り返すような乗り方では燃費の向上
 が見込めるのですが、アメリカのように広大なフリーウェイを高速で走り続けるといっ
 た使い方では、単純な低燃費のガソリンカーのほうが有利な場合もあると言われます。
 その意味では「ガラパゴス化」の怖れもなくはありません。
・電気自動車に関しても、現状では搭載電池の容量と重量、価格がネックになって、普及
 が遅れています。    
 電池に関する大きなイノベーションがない限り、電気自動車の価格を同程度の性能のガ
 ソリン自動車並みにすることは難しいでしょう。
・もしイノベーションにより大容量の電池が安く生産できるようになれば、電気自動車だ
 けでなく風力発電などの自然エネルギーの利用も大きく拡大することが可能になります。
 ただ電池の歴史は長く、性能を一変させるようなイノベーションが近い将来に起きる可
 能性はそう大きくないと考えるほうが自然でしょう。
・当面の電力危機も、原発がなくなった場合の将来的な電力供給も、日本が世界に約束し
 たCO2排出量削減も、まだ実現していない大きな技術革新をあてにしなくても、なす
 べきことをきちんと実行していけば、いずれも無理なく解決できる問題です。あわてふ
 ためく必要はまったくありません。

エネルギー政策に戦略的思考を
・原発は増え続ける一方の使用済み燃料の最終処理の方法が確立できないことを考えても、
 減らしていかざるを得ないと思います。
・原発の稼働率低下によって不足する電力については、一時的には石炭と天然ガスを燃料
 とする火力発電で補わざるを得ないと思います。
 海外から排出権を買うのは税金や企業の資本の無駄遣いであり、行なうべきではないと
 考えます。 
 電力だけ見ても人口の減少と省エネの推進で、日本は無理なくCO2排出量を減らすこ
 とができるのです。省エネ技術の推進こそが、日本が世界に対して貢献できる道です。
・水力発電を除く自然エネルギーは当面、コスト的に見合うものにはなりません。
 原発事故の反動で経済的合理性を無視して自然エネルギーを推進しようとする政府の現
 在の姿勢は、日本の国土の成り立ちを無視するものであり、莫大な国費の浪費を招くこ
 とになります。 
・電力政策においては、電力事業における発送電の分離とエネルギー対策特別会計の見直
 しが必要です。