ドイツで、日本と東南アジアはどう報じられているか? :川口マーン恵美 |
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この本は、いまから11年前の2013年に刊行されたものだ。 ドイツは、日本や中国や北朝鮮をどのように見ているのか。また日本の皇室をどのように 見ているのか。30年以上もドイツで暮らすこの本の著者の視点で述べたものだ。 私の印象では、この著者はどちらかというと右寄りというか体制側の意識が強い人のよう に感じる。 なんとか祖国の日本を持ちあげたいようだ。外国で暮らしている人の多くは、どうしても そのような意識になるようだ。 著者は、ドイツのメディアは日本のことをよく知らないで、日本のことを批判的に書いて いると主張している。しかし、私はドイツメディアは日本の問題の核心をしっかりとらえ ているような気がした。 例えば、安倍政権により民主党から自民党が政権与党に返り咲いたとき、ドイツのメディ アは次のように発信していたようだ。 「今、自民党は再び権力の手綱を握った。何十年もの間、ほとんど絶え間なく政権を握っ ていた間に、日本を借金大国にし、原発大国にし、しかも、フクシマが示したように、そ の安全性をおろそかにしてきた政党がよりによって権力に返り咲いたのだ」 これなど、まさにドイツメディアの主張どおりだと私には思える。 また、安倍首相就任時において、ドイツ・メディアの報道はつぎの四つを指摘していた。 @日本の新政権は右翼である。 A新首相はナショナリストで、平和憲法を変え、靖国に参拝し、中国、韓国を挑発して 軍拡競争に参入し、アジアの平和を乱す可能性がある。 B自民党は無責任で、腐敗していて、ろくでもない政党である。 Cそれにもかかわらず国民は、政府が示す「外敵」に目をくらまされ、ナショナリズム 的プログラムに向かって嬉々として突き進んでいる。 このドイツのメディアが自民党に向けられた懸念は、まさに現在の日本において現実のも のとなった。 さらに、雅子さまに関するドイツメディアの報道は、われわれ一般の日本人以上に、日本 の皇室の問題点について、深く憂慮しているように感じられた。 この本の著者は、懸命に日本を擁護しているのであるが、私には、ドイツメディアの主張 のほうが、全体的に正しいように感じられのだが、どうだろうか。 過去の読んだ関連する本: ・ドイツ人はなぜ、年290万円でも生活が「豊か」なのか ・浪費が止まるドイツ節約生活の楽しみ ・ドイツ流、日本流 ・豊かさとは何か |
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ドイツメディアの種類と傾向 ・ドイツのテレビですばらしいのは、オンラインサービスの完備である。 毎日のニュースや、その他の番組のほとんどすべてを、パソコン、あるいは、スマート ファンで、そのまま視聴できる。 ・さらによいことは、すべての番組は、ライブで見逃しても、後でいつでも見られること。 ニュースなどは、20年前の放送分でも、そのまま見られる。当時の服装や世相がわか って大変興味深い。 ・オンラインで見られないテレビ番組は、テレビ局がテレビ放送権を買わなければいけな いことになっているサッカーの試合や、ウインブルドンのテニス、F1のレースなど、 わずかなものだ。 ・また、需要の多いもの、たとえば、サッカーのワールドカップの試合などは、なぜか全 試合、テレビと同じようにパソコンで見ることができる。 いずれにしても、このオンラインサービスは、過去の番組まで見られるという特典と ともに、素晴らしいものだ。 ・そもそも、NHKのニュースを見ていても、世界で何が起こっているのかがよくわから ない。視聴者をバカにしているのではないかと思う。 また、民法のニュース番組を見ても、内容は押しなべてドメスティックだ。 このグローバルな時代、視点を上げ、視野を広げなければ、日本は生き残っていけない。 ・新聞や、購読者が減っており、すでに年寄りが読むもののようだ。 若い人は、パソコンやら、スマホやら、iPadなど、いずれもディスプレイ上で読む。 だから、昨年から新聞社、および雑誌社の倒産が相次いでいる。 ・我が家にはテレビがない。しかし、ネットでニュースも他の番組も見ることができるの で、不便な思いはしていない。 娘たちも、下宿先でテレビを持っていないが、ニュースはフォローしているようだし、 ドキュメント番組などで面白かったもの、あるいは重要なものを見つけると、そのリン クを送ってくるので、皆、世の中から取り残される心配はなさそうだ。 ・私は、雑誌は広告を見て、面白そうなときにその都度購入している。 本は、読むひまがあまりないことを忘れて、時々、病気のように買い込む。 ちなみにドイツでは、本はまだ売れている。本を読む層というのが確固として存在する のだ。 読書という文化が、いまだにしっかりと生きている。売り上げの二割近くが、小説など 文学作品だというのも頼もしい。 原発事故を、ドイツはどう報じたか ・東日本大震災についてのドイツの報道は、とても矛盾したものだった。 最初は日本人の冷静さと、助け合いの精神が激賞された。 ”日本人は苦しみや悲しみに取り乱さない。困難な状況でも譲り合う。なんてすばらし い国民であろう!”云々。 ・ところが、しばらくすると、雲行きが変わりはじめた。 3月24日のニュース週刊誌が日本の厳罰事故を特集記事にした時点で、はっきりと目 に見える形となった。 ・地震があったとき、私はちょうど日本にいた。 二日もすると、ドイツから悲痛なメールが入り始めた。 「すぐに帰って来い」「チケットが取れないなら、こちらで手配する」云々。 私が日本でフォローしたかぎりでも、確かにドイツメディアは、日本列島全体が間もな く放射能の雲に包まれてしまうかのような、パニック報道をしていた。 その結果、ドイツでは医者の警告にもかかわらず、ヨードが売れ、なんと、放射測定器 まで品薄になるという現象が起こっていた。 ・そんなわけで、私がまだ日本にいたころ、捜査権を連れて到着した41名ものドイツ人 の大救援隊は、二日足らずで活動を停止し、帰り支度に入っていたし、15日にはルフ トハンザ航空は成田就航を見合わせた。 そして、多くのドイツ人は、先を争うように日本を離れており、17日にはドイツ大使 館も、一時大坂に引っ越すことに決まっていたのだから、ドイツでも私の家族や友人た ちが慌てたのは無理もない。 ・しかし、私は実際に東京にいたのだから明言できる。 私たちは慣れない節電で右往左往していたのは事実だが、放射能の怖さ啓蒙されていな い無知な人間でもなかったし、あるいは、情報操作された政府のウソ報告を丸呑みして いる愚かな市民というわけでもなかった。 そもそも、私たち全員が憂鬱になっていたのは、震災の犠牲者と被災者の不幸を思い、 原発事故にショックを受け、それら二重の悲劇の大きさに、どうしていいかわからない ほど打ちのめされていたからであった。 ・私がドイツに飛んだ日、成田空港は騒然としていた。 コペンハーゲンから直行で来るはずだった私の飛行機は、なぜか北京に寄ってきたので、 出発が大幅に遅れるとのことだった。 空港のあちこちの通路には、チェックインできない欧米の若者たちがベッタリと座り込 んでいた。予定していた飛行機が欠航になったか、遅れるかしていたのだろう。 ・驚いて腰を抜かしそうになったのは、横にきておとなしく腰かけたいかつい欧米人の若 者が、二人揃ってマスクをしていたことだ。 これまで欧米人は、日本人のマスクをバカにしたり、からかったりすることはあっても、 絶対に自分で掛けることはなかったのだ。 そこで周りを見回すと、ほかでも神妙な顔つきでマスクを掛けた欧米人がちらほら。 彼らのマスクは、日本人のそれとは目的が違う。もちろん、放射能を遮断するためのも のだ。 ・飛行機は、なぜかまた北京経由で戻るという。 日本人の客室乗務員に理由を訊いたら、北京で給油と点検、乗務員の交代、機内の清掃 をし、そしてケータリングを積むという答えだった。 乗客は一度降りて、空港で待機するのだそうだ。 他の飛行機も同じなのかと尋ねると、よくわからないが、エール・フランスはソウルに よって同じようなことをしている、という。 それから乗客は、東京の危険な放射能機内食ではなく、中国製の安全な機内食を食べた。 ・隣に座っていた若者はスウェーデン人で、交換留学で東大に行ったが、親が心配して、 とにかく帰って来いとうるさいので、勉学を中断して、いったんストックホルムに戻る のだそうだ。 スウェーデンってどう?いい国?」と訊くと、「いい国だ」と言うので、「何がいい?」 と訊いたら、「政府がいい」と答えたでびっくりした。 私も外国人に向かって、一度そう答えてみたいものだ。 ・九時間後、コペンハーゲンに着いた途端、私たちはデンマークのテレビクルーに迎えら れた。放射能の国からの生還者だ。 ・それにしても、今まで日本の地名なんて、「トウキョウ」と「ヒロシマ」ぐらいしか知 らなかった人たちが「フクシマ」と難しい単語を「ベルリン」と言うのと同じぐらいす らすら発音しているのは、驚くべきことだった。 ・なんと言っても一番驚いたのは、普段は世界の時事など一切興味を示さない友人が、突 然、口角泡を飛ばして「テプコ」の話をしたときだった。 「テプコ」た「東電」の略称だと気付くまでに、私は数秒間の時間を要したのだが、 私の知らない間に、「テプコ」は、ドイツで一番ポピュラーな日本の固有名詞となって しまっていた。 ・いずれにしても、フクシマがいかに危険な状態化を、テレビに出てくる有名な原子力学 者の解説によってちゃんと知らされているドイツ国民は、日本人よりも事情に詳しいと 思いこんでいた。 それなのに、愚かな日本国民は、報道規制のかかった発表や、改ざんされた不完全な情 報をナイーヴにも鵜呑みにしており、真実を知らないまま、不条理に黙々と耐えている のだ。 ・最初は感嘆の的だった東北の被災者の礼儀正しい態度が、あっという間に、どんな不幸 にも文句を言わず、抗議の声も上げず、我慢してばかりいるのはちょっと変じゃないか という見方に変わった。 耐えることに慣らされた従順すぎる国民・・・。 私たちが北朝鮮の国民を見る目で、ドイツ人は私たちを見るようになった。 ・ドイツ人は理解できないのだろうか。 肉親を亡くしながらも、泣き叫ぶことをしない日本人のことが。 雄弁に悲しみを語らなくても、日本人は悲しんでいる。 ドイツ人とは悲しみ方が違うだけだ。 しかし、それを理解せず、感情を出さないのは感情がないからだと決めつけるのは、そ れこそ自らの感情移入能力の欠如を暴露しているだけではないか。 ・福島で死に物狂いで働ている人たちは、”恥の文化”とは何の関係もない。 国家のために死に急ぐ「神風特攻隊」でもないし、自己犠牲に恍惚を覚えている「ハラ キリ」願望者でもない。 ・彼らは、責任感から、あえてその危険な仕事に従事しているのだ。 自分たちがやらないで、いったい誰がやるのだと思いつつ、へとへとになりながらも頑 張っているのだ。 皆で逃げるわけにはいかない。 外国人は逃げてもいいが、日本人は逃げられない。 誰かがやらなければいけない。 ドイツ人だって、こういう状況になったら、おそらく同じことをしたと思う。 ・いつも何に対しても懐疑的なくせに、何かの拍子にマイナスの方向に触れると、集団パ ニックや過激なデモなど、一丸でとんでもなくヒステリックになっていくのがドイツ人 だが、今回も例外ではなかったようだ。 そう言えば、チェルノブイリ原発の事故のときも、一番ひどい風評が怒ったのがドイツ だった。 ・当時、「どうして日本人はそんなに危険な場所に住んでいるのか」とドイツ人に言われ て、唖然としたことがあったが、潜在的な危険に次第に慣れていくのは、日本人だけで はないらしい。 ・「いやあ、それにしても、福島原発の事故のおかげでドイツの原子力政策が180度方 向転換した。あの事故なしには、こんなに早く原発禁止の方向にはいかなかっただろう ね」と彼は言った。 原発反対を唱えていた緑の党が突然票を伸ばし、50年以上続いていたCDU(キリス ト教民主同盟)の政権を覆してしまったのだ。 そんなわけで、緑の党の支持者である彼はご機嫌だったのだが、フクシマ後の緑の党の はしゃぎようも、目に余った。 ・いずれにしても、ドイツの放射能パニックは去ったが、日本のイメージは、いまだ汚染 されたままだ。 先週、割とおいしい魚のファーストフードのお店で何か食べようかと思って、ふと見る と「当店では、日本近海の魚は一切使っていません」という看板。 思わず気を削がれ、入らずに帰ってきた。 ・福島事故は、危機管理があらゆる点で緩かったから起こったのだ。 もちろん、それは取り返しのつかない汚点だが、しかし、日本の原発技術が劣悪だった のではない。 ・日本のエネルギー問題については、まだ何も決定していない。 昨年末、安倍政権が成立した途端、早速ドイツのメディアは「日本が原発再稼働か?!」 と非難がましく書き立てた。 ドイツ人は自分たちの脱原発の決定に誇りを持っている。 しかし、実際のところ、ドイツの原発はまだ止まっているわけではない。 17基のうち9基は、今でも稼働している。 これを2023年には止めようと言っているだけだ。 ・ドイツは電力ネットワークでヨーロッパの隣国と密接に結びついているし、天然ガスも ロシアから直接パイプラインで輸入できる。 エネルギーに関しては、日本とは比較ならないほど、恵まれている。 ただ、それでも脱原発の実行には様々な問題が立ちはだかり、現在すでに、いずれ止め なければいけない原発を補うために火力発電所を新設したりしている。 ・一方、日本の原発はすでに全部止まっており、そのために、やはり様々な問題にぶち当 たっている。 だから、将来の原発全廃を前提に、安全確認のできた原発の再稼働を視野に入れながら、 徐々に再生可能エネルギーを増やす算段をしようとしているのだ。 ・だいたい、原発が好きな日本人など、どこにいる? 本当に再生可能エネルギーだけでやっていけるなら、どんなに良いことかと、皆が思っ ている。 ただ、それがまだ不可能だから、困っているのではないか。 適正価格の電器の安定供給なくして、私たちは一体どうやって暮らして行けばいいのだ。 ・しかし、それを言うとたいていのドイツ人は、人間の命や自然環境よりも物質文明を優 先する愚かな人間と言うような目で私を見る。 「お金よりも大切なものがある。日本人はそれが見えないのか」と。 ・おおかたのドイツ人にとっては、脱原発は「自然に戻ろう!」という感覚なのだろう。 質素な生活は、いまや斬新で、理想的な生活なのだ。 もちろん、私たちだって、冷蔵庫と洗濯機が無くなるぐらいなら、我慢しよう。 しかし、電気がなくなるということはそんな簡単なことではない。産業もなくなるのだ。 それが、環境保護かぶれのドイツ人にはなかなか理解できない。 ・いずれにしても、軍事力を持たない日本が、我経済力も失い、唯一の財産であるハイテ クとそのノウハウを放棄せざるを得なくなったら、私たちは、自国の主権さえ行使でき なくなってしまうだろう。 原発はなくても、そんな植民地のようになった国を子供たちに残してよいものか。 ・ドイツは自分たちの脱原発の決定に、大いに誇りを持っている。 ドイツの脱原発計画は、どこを見ても、うまくいっているところはない。 それほど難航している。 しかし、なぜかドイツ人は、それを完璧に無視する。 ・いつもはあれほど冷静な人たちなのに、ときに盲目となり、超党派で、老いも若きも固 く団結して、猪突猛進で突き進むのがドイツ人だ。 それにしても、ほとんど不可能に見える計画を、ここまで可能だと信じられる国民は珍 しい。 そのうえ、そこにはいつも必ず、自分たちへの礼賛というおまけがつく。 ・ドイツの脱原発と言うのは、壮大な実験だ。 ほとんど正気の沙汰とは思えない。 とはいえ、もしも世界で脱原発に成功する国があるなら、それはドイツだろうと思う。 技術もあるしいざとなると助けてくれる隣国もあり、比較的お金もある。 そして何より、国民の意志がある。 それも、強情で頑固な国民の、盲目的なまでに強靭な意志だ。 ・評論家によると、保守右派、安倍のカムバックは、自民党の腐敗した政治システムの復 活を意味しているという。 この党は、安倍が絶えず言っているような新生の党ではなく、過去三年間も、まったく 変わっていない。 エネルギー政策でも、この永続政党は、原発に固執している。 ・フクシマ後、初の総選挙。予想通り、保守の自民党が圧勝。 日本人は古いテーマ、見慣れた顔、そして、極東の権力闘争を選んだ。 ・国家主義と軍国主義が選挙戦中、論争の中心を占めていた。 原発のテーマではなく、夏の間中、日本人の話題は一つ、彼らがどうやって節電の世界 チャンピオンになれるかということだった。 しかし、「誰が日本の海を守れるか?誰が領土と人命を守れるか?」と安倍は、選挙演 説で国民に向かって叫んだ。 原発かエネルギー転換かについては、彼は言わなかった。 ・衆議院選挙は、フクシマ後、初の選挙だった。 安倍とともに、原発賛成者が政権の重要なポストに戻ってきた。 辞任した野田は、2040年までに徐々に脱原発をすることを提唱していた。 自民党は、この計画を引っ込めるだろう。 国民の多くは、脱原発を支持しているというのに。 ・フクシマの原発の大惨事のほぼ二年後、保守新政権の安倍首相は、安全と認定された原 発の再稼働を宣言した。 安倍の自民党は、選挙運動中も、日本は様々な経済的な理由により、脱原発を貫徹する ことはできないという考えを表明していた。 選挙の勝利が決まった途端に、原子力産業界はその圧力を強めている。 エネルギー政策は、経済にとって重要な要素であり、よって、原発も再稼働されなけれ ばいけないと。 ・”日本人は何も知らない”という認識は、たいていのドイツ人が持っているイメージで、 日本人としては、否定したいが、否定するのがなかなか難しい。 たしかに、政府は都合の悪いことを隠してきたし、これからもやんわり包み隠すかもし れない。 大手のメディアが必ずしもすべてを報道しないこともありうる。 そして、口コミで漏れ出す情報に真実が含まれている可能性は、大いにある。 つまり、魚は危険かもしれないし、危険でないかもしれないのだ。 ・ドイツでは、”きっと安全だろう”と考える人間は、”きっと危険だろう”と疑ってか かる人間よりも、頭が悪いと思われる。彼らは上から与えられた情報は正しくなく、真 実は探して見つけるものだと信じている。 疑い、探す人間は自分で考えることのできる人間で、信じやすい人間よりも偉いという のは、ドイツ人の共有する認識である。 ・日本人があまり人を疑わない理由は簡単。それはドイツ人が思うように、頭が悪いから ではなく、騙された経験が格段に少ないからだ。太古の昔より、他人を信じてもそれほ ど損もせずに暮らしてこられたので、物事をあまり悪い方向に考えない。 ほぼ単一民族で暮らしてきた事情もあり、日本人同士の信頼感というのは射たく篤い。 いつも「いくら何でも、そんな悪い人はいないでしょう」と無意識のうちに思っている。 ・そんな日本人が、今回の選挙で自民党を選んだ。 しかし、私たちは自民党に騙されて選んだわけではない。 自民党が原発を再稼働させるだろうことはちゃんと知りながら、それでも自民党を選ん だのだ。 別に、原発が良いものだ、できるだけたくさん稼働させたいなどと思っているわけでは ない。 ただ、日本という国が生き残っていくために、今のところ、原発を稼働させるほかに方 法はないと考えたから、敢えて自民党を選んだのだ。 冷静で、現実的な選択といえる。 ・ところが、ドイツメディアの理屈でいくと、日本人が冷静に原発稼働を選択したなどと いうことは、絶対に認められない。 日本国民は反原発でなければならない。 ・彼らの理屈は次のようになる。 ”日本国民は、あくまでも脱原発を望んでいるが、安倍政権は国民の意に反して、再び 原発推進の道を歩もうとしている”と。 その理由は、 @日本国民は、政府の行なってきた洗脳で、放射能の脅威を未だに軽視している。 A安倍政権は、不景気や中国の脅威で日本人の恐怖を煽ったので、国民は強い国をつく るためには原発が必要だと考えるに至った。 B日本国民は意識が低く、単に、便利でおカネの儲かる生活を選んだ。 ・実は、私は、ドイツの脱原発は、ドイツ人が最初に想像したような形で成就するとは思 っていない。 後10年足らずで原発をゼロにしなくてはいけないのに、見通しは暗い。 ただ、ドイツ人はその現実を見ようとしない。 冷静な彼らが、なぜここまでスッキリ無視できるのか不思議なくらいだ。 ・何がうまく進んでいないかということを数え上げれば、長いリストができる。 例えば、北ドイツの風力発電で作った電気を南ドイツの工業地帯に運ぶための送電線の 建設工事が、遅々として進まない。 理由は、住民の反対だ。 脱原発を決めたときには、送電線が家の近くを通ってもやむを得ないという模範的な答 弁をした人々が、いざ青写真ができ上り、本当に送電線が家の近くを通るとなると大反 対をし始める。そして訴訟になる。 ・ドイツは、原発をなくすに当たって、今、火力発電を強化している。 自然のエネルギーで電力の需要を賄うのはまだ無理であるばかりか、自然エネルギーの 生産が増えれば増えたで、それをバックアップする火力発電所も増やさなければならな い。 どいつにおけるCO2の排出はこれからも増えると思われる。 しかし、そういう情報は国民に嫌われるためか、あまり聞こえてこない。 ・最も深刻なのは、脱原発の頼みの綱、洋上風力発電だ。あまりの投資の大きさに採算が 取れないため、投資かが手を引いてしまい、建設が進んでいない。 ・洋上でも地上でも、送電線が追い付かないようなら、どのみち、いくら風が吹いても何 の役にも立たない。 しかし、実際問題として、脱原発の成否を決めるのは、送電線が敷設できるかどうかな のである。 ・なお、日本が真似をしようとしている「再生可能エネルギーの全量固定価格買い取り制 度」も、あまりにもお金がかかりすぎて、暗礁に乗り上げている。 しかし、20年間、固定価格で買い取るという約束をしてしまったのだから、値切るわ けにもいかず、その助成金の分は、すべて電気代に乗せられて、一般消費者が負担して いる次第だ。 日本が、このような失敗モデルをなぜ真似るのか、わたしにはそれがわからない。 ・ドイツ人の編み出すリスクはまだある。 電子レンジは、マイクロ波の体に及ぼす影響が不明だということで使わない人がたくさ んいるし、携帯電話やワイヤサレスLANの電波が脳に与える悪影響も恐れられている。 実際、夜には、電波の出るものをすべて止めてから寝る人も、私は知っている。 ・先日は、薬の飲み合わせがニュースになっていた。 高齢者が複数の医者にかかっているときなど、大量の薬を処方されている場合が多い。 しかし、どの医者からどんな薬を処方してもらっているかを、ほかの医者に正確に伝え ていないことがしばしばある。 そういう場合、複数の処方が危険な薬の組み合わせになっている可能性があり、すべて 服用すると命にかかわるというのだ。 しかし、その後すぐ、「だからと言ってパニックになる必要はない」というので、聞い ていた私はわからなくなった。 パニックになるなというなら、命にかかわるなど脅かすようなことは言わないでほしい。 ・福島の原発事故の後、一番大騒ぎしたのはドイツ人だった。 それも、日本からドイツへ放射性物質が飛んできて、ドイツ人の健康が害される可能性 を、メディアは執拗に報道した。 福島原発建屋が水蒸気による爆発を起こす映像は、何度も繰り返されたが、そのうち、 これでは迫力が足りないと思ったのだろう、もっと怖くするために、ドカーン!という 不気味な爆発音までつけ加えてくれた。 こうなるとメディアの目的は明らかだ。皆を怖がらせることである。 ・ただ一つ、私が今でもわからないのは、福島の事故の後、ドイツ人は脱原発を決めて、 それですっかり安心しているところだ。 周辺国の原発のことはほとんどテーマにならない。 ロシアや東欧には原発がたくさんあるばかりでなく、これからもどんどん増やす意向だ。 フランスやオランダも原発国なので、ドイツは言うなれば、原発国のど真ん中に位置し ている。 どこかで事故が起これば、福島どころの騒ぎではないはずなのに、メディアはその不安 は煽らない。メディアはどういう基準で怖い出来事を選んでいるのだろう。 尖閣と慰安婦を、ドイツはどう報じたか ・ドイツ人は海とはあまり縁がないので、島を軽視している。 島というのはイングランドとか、少なくともコルシカくらいの大きさがなくてはいけな いと思っているかもしれない。 ・そもそも日本にとっては、島はすべて財産だ。 沖ノ鳥島だって、れっきとした島である、というか、島でなければならない。 もっとも、うっかりしていると風化して、満潮時でも沈んだままになってしまう危険性 は認めている。 そして、そうなると日本の国土面積を上回る排他的経済水域が失われ、取り返しのつか ないことになることも知っている。 だからこそ、コンクリートやらチタン製のネットでケアしながら、島の安泰や鳥八百万 の神に祈っているのだ。 ただ、そんなことをドイツ人に言うと、かれらはまた正義の味方ぶって、「それは正し いことではない!」などと口角泡を飛ばずだろうから、絶対に言わない。 ・東シナ海のちっぽけな島をめぐって、中北と日本がもうそこ紙で武力抗争というところ まで来ているのだ。 しかも、それは日本国のものではなく、ある個人の所有のものに過ぎないというのに。 ・日本人は、この諸島を尖閣と呼ぶ。中国ではディアオユ。 管理は日本がしているが、中国も台湾もそれを認めていない。 中国は、明時代の古文書により、自分たちの主張を確立しようとしている。 ・日本の主張では、かれらがこの諸島を884年に発見したとき、中国人がこの島にいた という形跡は何もなかったという。 ところが1895年、日清戦争の間に、日本はこの諸島を領土に加えた。 1945年の降伏の後、島はアメリカの管理下に入り、1971年になって日本に返還 された。しかし、そのとき主権が明確にされなかったらしい。 この海域に原油やガスの埋蔵が推定されていることを考えれば、曖昧な措置であった。 ところが当時、東京と北京の意見は、この解決していない領土問題が、両国の関係を悪 化させてはならないということにおいて、すぐさま一致し、それは守られた。 ・ただし、(棚上げが守られたのは)2010年に、中国の漁船が尖閣諸島の近くで日本 の巡視船二隻に衝突するまでだ 漁船の船長がどれだけ酔っぱらっていたのかは、いまだに意見の分かれるところだ。 いずれにしても、この衝突事件は外交上の問題にまでエスカレートした。 日本は漁船を拘束し、中国の釈放の要請を拒否した。 そのため、北京は日本との政治的に断交し、ハイテク産業で欠かせないレアメタルの日 本への輸出を停止した。 ・先週、ついに日本政府は、島の後主から島を買い取った。 これは実は、超右翼の東京都知事がこの島を買うことを阻止するための措置であった。 しかし、これにより、北京と中国メディアはいきり立ち、なだめることは不可能となっ た。 ・そもそも日本政府は、まったくの誠意をもってことに臨んだに過ぎない。 問題の尖閣諸島の購入は、国粋主義的保守の東京都知事の機先を制するために起こった ことだった。 既存の取り決めに基づき、日本政府はこれまで、この諸島に上陸することを禁じていた。 これにより、1972年より、日本が実効支配している尖閣諸島の領有を主張し始めた 中国との紛争が、先鋭化することを避けようとしていたのである。 ・しかし、東京都知事は、尖閣諸島を購入した暁には、そこに漁民のための小さな港を建 設することを宣言した。 これが実現していたなら、日中関係は、一段と悪化していたことだろう。 そこで、日本政府は自ら島を買うことにしたのであった。 ・日本が常に冷静に、思慮深い行動を取っているとは言えない。 こと尖閣諸島に関しては、尖閣は紛れもなく日本の領土であり、日中の間に領土問題は 存在しないという公式の見解一つとってみても、この問題がなぜ起こったかという現実 政治からひどくかけ離れている。 ・また、二年前の中国漁船の船長の訴え、または、最近起こった台湾や香港の活動家の拘 束も、無為に事を荒立てた。 ・もちろん、中国政府が問題を抱えており、わざと尖閣問題をエスカレートさせたという こともありうる。 しかし、日本政府の外交が稚拙で、自らの欠点を見抜けず、うまく対応することができ なかったというのも事実だ。 なんと言っても中国は、日本にとって一番重要な貿易相手で、両国は経済的に深く絡み い合っているのだ。 本来なら、どちらの国も、本当に深刻な紛争に持ち込む気がなかったはずである。 ・ただ、アメリカの(中国に対する)圧力は、次のような結果をもたらした。 中国人が中国において繰り広げた無法行為に対し、日本人が驚くほど冷静に対応し得た のである。 ・八月初め、日本の外交は、図らずも同様の失敗を起こしていた。 韓国との間の竹島、あるいは、独島をめぐる領土問題がエスカレートしていた。 ・もしも、この韓国、そして、中国との争いをよく見るなら、日本人が怠ってきた歴史問 題の総括が重要な意味を持っているということに気がつくはずだ。 韓国の大統領は、領土問題は、いわゆる従軍慰安婦問題において、日本が謝罪に踏み切 れないことが原因となっていると、明確に指摘している。 従軍慰安婦というのは、第二次世界大戦中に日本の軍隊の売春所で売春を強要された韓 国人女性のことである。 多くの韓国人が、日本の占領下で味わわなければならなかった苦しみについて、納得の いく謝罪はいまだになされないままだ。 これは中国人に対しても当てはまる。 もっとも、日本人の天皇が1992年に中国を訪問し、遺憾の意を表明したとはいえ。 ・つい最近の中国での反日デモは、満州事変の記念日に最高潮に達した。 満州事変は、日本軍が自作自演した事件で、それが日本軍の満州への侵攻、そして、 それに続く中国全土での数々の残虐行為につながった。 この事実の一部は、今日においても、一部の日本人によって否定されており、教科書に もほとんど記述がない。 そして、日本の子どもたちは徹底的に竹島と尖閣諸島の領有について”啓蒙”されている。 ・日本はドイツと同じく、第二次世界大戦の暴力国家であった。 しかし、この困難な時期の歴史の解明は行われていない。 徹底的で自省的な過去の総括なしには、日本は、現在起きている領土問題を解決するこ とはできないだろう。 ・ここに挙げた記事は、たしかにお粗末きわまりないものだが、実のところ尖閣や竹島、 日中・日韓の歴史問題に関する記事は、どれも大差ない。 ほとんどが中国・韓国の言い分の鵜呑み、日本側の主張の完全無視、しかも著しい事実 誤認から出来上がっていると言っても過言ではない。 ・また、遺憾なことに、ほとんどのドイツ人にとって、こうした記事の過誤を判断するだ けの基礎知識もなければ関心もない。 したがって、読めば必ず書かれていることをそのまま信じることになる。 いつもは疑い深いドイツ人も、この問題については、疑うことをしない。 ・したがって、大方のドイツ人にとって、尖閣は本来中国のものであったのを日本が掠め 取ったもので、悪いのは日本だというのが常識となっている。 日本政府と日本人は、この事態を放っておいてよいものだろうか。 ・2012年2月、「『慰安婦』の苦しみの承認と補償」というタイトルの決議案が、 SPD(ドイツ社会民主党)議員団の連名で、ドイツ連邦議会に提出された。 1997年にアメリカの下院で採択された「従軍慰安婦問題の対日謝罪要求決議」を見 習おうというものである。 決議案の内容は、慰安婦制度という第二次世界大戦の日本の「皇軍」による阪大を日本 政府に認めさせ、謝罪、および補償を促すこと。 ・「慰安婦」という言葉は、国際的に使われている。 第二次世界大戦中に日本軍の売春所などで売春を強制された婦人、および少女を美化し た呼び方である。 これらの売春をさせられたのは、主に韓国、中国、台湾、ビルマ、ベトナム、フィリピ ン、オランダ領インド、ポルトガル領ティモール、インドネシアの出身者だ。 ・拉致され、売春を強要された女性の数は、日本が記録を公表しないこともあり、今日で も推定が難しい。 慎重な推定によると、一番多かった韓国の女性が20万人であるという。 この数字は韓国の推定で、中国の推定によれば14万人、強制売春の結果、生き延びら れた被害者の数は全体の30パーセント。 数えきれないほど多くの女性は、戦地に置き去りにされ、多くの女性は自殺をした。 また、大変多くの女性が不妊症となった。 ・このテーマについての社会的、そして、政治的な総括は、過去も現在も遅々として進ん でいない。 なぜなら、被害者の国では、売春は、それがたとえ強制された者であってもタブーであ り、女性の恥であるからだ。 売春を強制された多くの女性は、解放された後も自殺するか、あるいは、今日まで沈黙 を保っている。 ・「金学順」は、1991年、記者会見で事故の運命を公表した最初の勇気ある韓国女性 だ。彼女にならって、800人の女性が、ほかの国々からも名乗り出た。 ・日本では1991年、戦争犯罪としての強制売春の調査が始まった。 1992年には、日本はその調査報告の中で、軍と官庁が売春所をつくり、女性を徴集 したという事実は認めたものの、女性は自分の意思で働いていたと主張した。 この主張と、売春を強要された女性を無視した報告により、当時、日本政府は国の内外 において大きな非難を浴びた。 そこで、政府は第二の調査を実施したが、この調査報告もまた非難された。 というのも、この報告は、秘密にされていた多くの資料を取り上げることがなかったう え、強制、および聴衆という性質を曖昧にしか表現しておらず、当時の日本政府や官庁 や企業の責任が明確でないからだ。 しかし、金学順の例は、ゆっくりながらも意識の変化をもたらした。 ・日本政府も、1993年には内閣官房長官、「河野洋平」を通じて、拉致と売春の強制 の事実を認める声明を発表し、犠牲者の受けた肉体的、精神的な傷について謝罪をした。 それでも議会では、慰安婦の問題についての法案が14回も否決された。 ・「橋本龍太郎」という当時の首相は、2009年に開かれた女性差別撤廃委員会の交渉 において、要求されている賠償は講和条約で既に片づいていると根拠づけ、今後、政府 が犠牲者に賠償を払うことは決してないとした。 ・その代わり、日本政府は「アジア女性基金」を設立することを決めた。 これは、国家でなく企業の主導で賠償が行われるため、国家を賠償から解放するための ものだと、強く非難された。 アメリカ合衆国は、すでに1998年、日本政府には法的に謝罪義務があり、企業が出 資する基金に責任を持たせるのは正しくないと認識している。 とりわけ、台湾と韓国の犠牲者は、今日まで企業からの賠償を拒否している。 また、日本政府が北朝鮮、中国、マレーシア、東ティモール、ミャンマータイ、パプア ニューギニアの政府と交渉していないので、それらの国の慰安婦の犠牲者たちは、賠償 を受け取るチャンスがない。 ・日本では、その他の法律的な総括も、まったく機能しない。 日本の司法は、これまで10件の個人の訴えを却下した。 そのうち3件は最高裁まで行ったが、却下の理由は常に、この案件は日本の民事で既に 時効である、そして個人が国家を訴えることはできない、また、要求はすでに二国間の 条約により片づいているというものだった。 ・しかし、それは正しくない。 ある国際的な法律委員会は、すでに1993年、慰安婦のシステムは、人間の尊厳に対 する犯罪であり、よって、法的な処罰に値するということを明らかにしている。 この慰安婦システムは、1921年の「婦人及び児童の売買禁止に関する国際条約」と、 1926年の「奴隷制と奴隷の売買の禁止」と、1907年の「市民の扱いと家族の保 護に関するハーグ陸戦協定」に違反している。 また、個人の訴えも、1956年に日本が批准した「人権に対する声明(8条)」と、 「市民的及び政治的権利に関する国際規約」により、日本国内での提訴、および日本に 対する訴えも、共に有効であるとされた。 ・これらは、アメリカの議会で起こった「日本非難決議」の後を追ったもののようだが、 よくもまあ、こんなことが言えたものだと思う。 慰安所の運営が良いことだとはもちろん思わないが、同じ時期、ドイツ国防軍も同様の ことを行っていたことを思えば、この非難は、正に泥棒が泥棒を交番に引っ張っていこ うというようなものだ。 ・彼らが問題にしているのは、日本軍がか弱い婦女を拉致して売春させたこと、そして、 その女性たちを残虐に扱ったことのようだが、それらはすべて韓国人の生き残り自称 「慰安婦」の証言に拠ったもので、つまり,検証はされていない。 したがって、証拠もない。 ・しかし、日本側がそれを指摘すると「証拠は日本政府が隠滅したからないのだ」と言わ れるし、元日本兵が日本軍に少しでも有利になるような証言をすれば袋叩きにあうし、 要するに、われわれは反証を試みることさえできない。 日本を徹底的に悪者にしようとするところが、構図として東京裁判に似ているが、ドイ ツ人がこれを嬉々として日本に対して行うというのが解せない。 国際社会というのは、げに恐ろしいところである。 ・ごく個人的な意見を述べるなら、従軍慰安婦にしろ、普通の売春婦にしろ、私は売春を している女性に深い同情を禁じ得ない。 彼女たちは自発的にやっているというような意見も目にするが、要は、貧困、その他の 理由で、ほかの選択肢がなかったということだろう。 たくさんの選択肢がありながら、自発的に売春婦になろうという女性は、よほど異常な 趣味でない限り、あり得ないのではないか。 ・文学作品にときどき、売春婦との甘く、切なく、悲しい物語があるが、作者は皆、男性 だ。 売春行為は女性が書けば、反吐の出そうな忍従の時間の描写となり、私は、売春婦の心 理の真実はこちらにあると思っている。 それは、江戸時代の遊郭など、教養やお金のある男性が遊んだ場所でさえ、大して変わ らないはずだ。 ただ、こちらでは、売春する女性に、少し夢を見る余地は残されていたかもしれない。 ・しかし、従軍慰安婦は違う。 女性が、性欲の排泄場所として利用されるこの施設のどこに、夢を見る余地があっただ ろう。 知らない男性、それも、お風呂にも入っていない汚い男性にいじくり回されて喜ぶ女性 がいるなら、教えてほしいものである。 彼ら兵隊が売春宿の前で、嬉々として自分の順番を待っている写真を、健康的でほほえ ましいと見るのは、男の身勝手も甚だしい。 ・そうはいっても、現在進行中のドイツ人の日本攻撃は看過できない。 要は、生存者に賠償を払えということだが、ドイツ人はそもそも、国防軍が戦時中に行 った虐殺などの戦争犯罪にも賠償はしていない。 賠償を払ったのは、ホロコーストの犠牲者にだけである。 ギリシャやイタリアで住民を村ごと皆殺しにしたような事件は、戦後、訴えられても、 賠償はすべて拒否している。 理由は、「個人が国家を訴えることはできない」という、まさに、それによって彼らが 日本政府を非難しているのと同じものだ。 議員たちがそれを知らないはずはない。 ドイツ人は、厚顔という点ではアメリカ人よりずっとましだと思っていたが、これでは 似たようなものだ。 ・売春婦は遠く古代の昔より、戦地であろうがどこであろうが、常に軍にくっついて移動 していた。 小説を読んでも、遠征中の軍と売春婦はいつも一緒だ。 そして、仙峡が本当に危険となり、軍の潰滅が近づくと、売春婦はあっという間に消え たのである。 ・現代史家の秦郁彦氏によると、「第二次大戦中の日本とドイツは、軍が管理する慰安所 型、アメリカ、イギリスは民間経営の売春宿利用型、そしてソ連はレイプ黙認型でした」 とのことだ。 また、「日本軍の従軍慰安婦問題を最も激しく非難し続ける韓国にも、もちろん、朝鮮 戦争当時、慰安婦が存在した」という。 ・ヒトラー政権下のドイツ国防軍は、ドイツ国内、紛争地、および占領地全域に、大規模 な売春所を運営していた。 売春施設は、兵士用、将校用、親英隊員用、外国からの徴用労働者用などに分かれ、驚 くべきことに、それは強制収容所、絶滅収容所にまであった。 ・占領地で兵士たちが女性を強姦したり、地元の売春宿を訪れたりしたなら、統制が取れ なくなるばかりか、性病が蔓延し、軍の能力が削がれる。 それを防ぐため、軍は売春施設を必要とした。 また、軍の中に蔓延していた兵士の同性愛を押さえる意味もあったと言われている。 ・徴用された売春婦は、ポーランド人、ロシア人、ギリシャ人、フランス人、ユーゴスラ ビア人の、ユダヤ系ではない女性であった。 「娼婦が酷使されようがされまいが、われわれには関係ないことだ。ドンドン酷使し、 できるだけ早く除去できれば、なおよい」というのが、ナチの方針だった。 ・兵隊の売春が合法化されたことにより、1940年10月からは、ドイツ兵による強姦 事件は親告罪となった。 つまり、被害者が告訴しない限り、取り締まる必要のない行為となり、強姦はあっても ないと同様になった。 ・私は、これらを今さら非難するつもりはない。 ただい、わからないのは、これほど組織的な売春施設を運営していたドイツ人が、なぜ、 それをいっさいがっさい棚に上げて日本を非難するのか、その心理である。 潜在していた日本人に対する嫌悪感が噴出したのだとしたら、何だか悲しい。 ・アメリカと違って、ドイツでは、この決議案は結局否決されたが、かれらの目的が、 日本人は卑劣な国民だというイメージを広めることだったなら、それは充分達成された と言えよう。 ・また、日本軍の従軍慰安婦問題の糺弾に熱心なアメリカも、あまり深入りすると墓穴を 掘るのではないか。 例えば、アメリカ軍の命令で戦後の日本で運営したレクレーション・センターは証拠が 出せる。 それに、アメリカ軍による日本人女性のレイプの被害状況も、ちゃんと数字が残ってい る。それも、”氷山の一角”としての数字だ。 ・2013年5月、そうこうしているうちに「橋下徹」大阪市長のデリカシーにかけた発 言が飛び出した。 「日本の政治家が強制売春を擁護」 アジアでは、20万人の慰安婦が30年代、40年代に、日本兵のために売春を強制さ れた。それを、日本の政治家が「秩序を保つために」必要なシステムだったと擁護。 ・ある有名な政治家が、第二次世界大戦中にアジアで行われた強制売春を擁護した。 それは、軍の秩序を守るため、そして、命を賭けた任務に就いている兵隊たちに休養を 与えるために必要であったという。 「そんなことは、誰にもわかることではないか」と大阪の市長である橋下徹氏。 橋下市長は、国家主義的な党の党首である。 ・ひどい展開だ。ドイツに住む日本人としては、いたたまれない。 ドイツの新聞は、日本糺弾の手を緩めない。 日本軍の従軍慰安婦制度を「奴隷制」と決めつけ、挿絵には、台湾の年配の女性が泣い ている写真を付けた。 ・慰安婦問題が国難になろうとしているのは、いまや現実だ。 すでに雰囲気として、何を言っても受け入れられない状況ができ上っている。 そして、われわれに誠意があろうとなかろうと、結論としては、日本人は反省のない傲 慢な国民で、アジア諸国に対しては、未だに侵略者根性が抜けていないということにな るようである。 ・ここらへんで、ドイツのメディアの優れていると思われるところも書かなくてはいけな い。 というのも、ドイツのジャーナリストの根性は、なかなか見上げたものであるからだ。 まず、紛争地帯の戦火をものともしない。 ニュース番組では、すぐ後ろで銃声が聞こえたり、次々と火の手が上がっているような 騒然とした中で、記者がマイクを握りしめ、大声で中継していることも珍しくない。 しかも彼らの多くは、傭兵のように一獲千金を狙った命知らずの冒険夜郎ではなく、 ジャーナリズムや政治の勉強をし、それなりの経験を積んだれっきとした特派員だ。 報道をしている姿に知性と勇気の両方が垣間見え、頭が下がる思いをすることも多い。 ・それに引き換え、日本の放送局が自前の社員を紛争地域に送ることは少ない。 危険だから行きたがる人がいないのか、会社が派遣しないのか。 火が恐い人は消防士にならなければいいのと同じく、危険が嫌ならジャーナリストにな るべきではなかった。 そして、危険地域に特派員を派遣したくないなら、ニュース番組などつくるべきではな い。今、世界の多くの場所は危険なのだ。 危険そうなものは、外信から買えばいいというのは、何だかみっともない。 安全なところに留まり、しかも、偏向記事を書くなら、ドイツのジャーナリストよりず っと悪質ではないか。 ・昨年一番危険だったのはソマリアとシリアで、どちらも内戦が続いている。 ソマリアは1991年に分解したまま、以来、国として機能していない。 法律も警察も戸籍も何もない無法地帯で、何百もの部族が縦横無尽に殺し合い、力のあ る者が生き延びるという条理がすでに定着している。 米軍部隊やその他の援助機関は入っているが、治安の回復からは程遠い。 ・そのソマリアの様子が、ドイツではしばしば報道される。 こういう地域での取材活動が命がけであろうことは想像に難くないが、それでもドイツ 人のジャーナリストは律儀に出かけていく。 ・ニュースの主な内容は、飢餓、特に子供逃がしと病死、それに対する国連やNGOの救 援活動、そして、もう一つの重要事項であるソマリア沖を通る商船と海賊の衝突。 安全な航路を確保するため、EUとNATOは共同でソマリア海峡に軍隊を派遣し、海 賊と戦っている。 ・日本への原油もこの海峡を通って運ばれる。 年間2000隻もの日本の商船が通過するため、自衛隊も護衛艦を出してはいるが、海 賊を見つけても、豊水やらマイクでの警告ぐらいしかできない。 日本商船が攻撃されたときは、他国の軍隊に守ってもらっているらしい。 ・そもそも日本人は、ソマリアの状況にもっと関心を持ってもいいはずだ。 人道的な救援活動や、航路の安全確保のための作戦の経費を、日本は国連などを通じて 大いに負担しているし、実際にソマリア海峡も航行している。 なのに、日本のメディアは興味を示さない。 だから、ソマリアで起きていることを日本人は知らない。 ・一方、シリアはソマリアよりもっと危険だ。 2012年中の殉職ジャーナリストの数も、一番多かった。 シリアは現在、特別の許可が出る場合を除いては、外国人ジャーナリストが入れない状 況が続いている。 ドイツのテレビニュースで使われる映像も、たいてい誰かが携帯電話で撮影して送って きたと思われる粗雑なものだ。 日本人のフリーの女性ジャーナリストも、2012年8月、シリアで銃撃戦に巻き込ま れ命を落とした。 またここでは、政府側も反政府側も、知腰でも批判的な報道を黙認することはないので、 ジャーナリストにスパイの疑いがかかることも多く、その命は戦火のみならず、常に粛 清の危険に晒されている。 ・シリア、ソマリアに続く危険国が、パキスタンとメキシコとブラジル。 パキスタンはすでにタリバンの独裁のようになっており、反イスラムと思われる人物は どんどん殺されている。 メキシコとブラジルでは、麻薬マフィアが警察よりも何よりも強く、その犯罪を取材し ようと思っただけでジャーナリストは命を落とす。 しかも屍体は、見せしめのためだろう、残酷に拷問された跡があるという。 ・世界には、表現の自由が保障されていない国がたくさんある。 そういう国で体制批判を書けば、殺されないまでも抑圧されることは確かだ。 ・ジャーナリスト迫害のトップを競っているのがトルコと中国で、人権活動家や、環境保 護活動家、反体制の学者、作家、芸術家なども含めれば、脅迫されたり、拘束されたり している人の数は膨大なものになるだろう。 気に入らない人間は脅迫し、あるいは、捕まえて牢屋に入れてしまうというのは、あま りにも安易なやり方だが、効果はてきめんだ。 ・あまり知られていないが、報道の自由がまったくない世界一のジャーナリスト弾圧国は、 「エリトリア」だそうだ。 2001年より大ぜいのジャーナリストが地下牢に入れられて、拷問やら自殺やらで何 人残っているかもわからない。 北朝鮮は「国境なき記者団」のリストには載っていないが、おそらく言論弾圧が徹底し ていて、ジャーナリストという職業がないのだろう。 ・さて、ドイツのメディアに勇敢な記者が大勢いるのは確かだが、その報道が一方に肩入 れし過ぎと思われるときもある。 たとえば、民衆が独裁政権に刃向かって立ち上がると、ドイツメディアそれをすぐさま 絶対善にしてしまう。 ”民衆が悪代官を征伐しようと立ち上がったのだ。革命は民主主義への道であり、その 成就にドイツは手を過早”という意図がはっきり見える。 ・しかし実際には、リビアもチュニジアもエジプトも、革命後の成り行きは失望以外の何 者でもない。 世俗勢力の独裁者が消えたと思う間もなく、権力を握ったのはイスラム原理派の独裁者 だ。 ・ところが、それに関してはドイツのメディアはフォローが少ない。 いや、フォローはしているが、事実を淡々と述べるだけで、かつて世俗の独裁者を槍玉 に挙げたような勢いはない。 つまり、革命が失敗だったとは、ドイツのメディアは決して言わない。 その代わりに、”革命に失望した民衆”というような言い方はよく見る。 ・ドイツ人はホロコーストの強いトラウマがあるため、外国人相手に下手なことをすると、 また、とんでもないことになるかもしれないという用心が先に立つというのもわかる。 もちろん、戦争など金輪際、絶対にしたくない。 アメリカのブッシュ元大統領が、同時多発テロの後、イラク、イラン、北朝鮮を”悪の 枢軸”と非難したときも、ドイツはその尻馬には乗らなかった。 NATOの同盟国として、アメリカやイギリスの戦闘機がドイツの領空を飛ぶ権利を与 え、輸送に協力し、ドイツ内にあるアメリカ軍基地の安全確保に、7千人の兵隊を提供 しただけだ。 ・アフガニスタンには仕方なく兵を出したが、最初は頑なに、治安維持と地元の警察の養 成など、戦闘以外のことに従事していた。 とはいえ、タリバンに挑発され、攻撃を受けたため、次第に戦闘に巻き込まれ、武器を 手にせざるを得なくなったが、それでも、ドイツ国が戦闘状態にあるという事実を認め るまで長い時間がかかった。 今ではアフガニスタンは泥沼で、誰もが撤退したがっているが、それさえうまくいかな い。 そして、つぶすはずだったイスラム過激派の勢力は、以前よりも強くなっている。 ・口をつぐむ理由はそれだけではない。 ドイツのイスラム教徒を怒らせると、世界中のイスラム原理主義者をたちまち敵に回す ことになり、テロ攻撃が起こる可能性が高くなる。 アメリカがイスラムのテロリストと戦争を始めたとき、ヨーロッパで何が起こったか。 アメリカに協力した国がすべてテロの恐怖におびえたのだ。 ・飛躍するようだが、これらの状況は、日本と中国の関係とよく似ているように思う。 中国の過激さに辟易しながらも、日本はいつも遠慮している。 中国人は、イスラム過激派と違ってテロは起こさないが、反日運動として行ったことは、 ほとんど紙一重だ。 また、世界中で次第に権益を伸ばし、どんどん力を増していくところも、考え方があま りにも違い、手を結びにくいところも、よく似ている。 そして、そのおかげで一番迷惑しているのは、おそらく日本で平和に暮らしている良識 ある中国人であるところもそっくりだ。 ・ただ、一つだけ違うのは、イスラム原理派はメディアに与える栄養が少ないこと。 それに比べて中国は、巧みに広報活動で全世界のメディアを籠絡し、しっかりと自分た ちの味方につけ、自国の利益と日本の不利益を世界に広めていってくれる。 安倍政権の政策を、ドイツはどう報じたか ・安倍は自民党党首で、次期首相だ。 彼は中国との領土問題、そして、北朝鮮の行動、まあ、これは日本が脅されているとも 解釈できるため、それらを上手く自らのアジェンダに利用した。 ・日本は景気の停滞に悩んでいる。 日本の負債はギリシャよりも多い。 社会的問題もどんどん膨れている。 故に国民は、安倍のナショナリズム的プログラムに喜んで逃避する。 ・西側では、ヨーロッパの危機や、アメリカの財政破綻に気をとられ、極東で起こり始め ていることにわずかの人しか気づいていない。 中国の国力はどんどん伸びている。 北朝鮮は各方面からの警告や国連の決議にもかかわらず、人工衛星を打ち上げた。 韓国は怒り狂い、日本は、中国が東シナ海の問題の諸島に偵察機を展開したことに対し、 戦闘機を発進している。 ・たった三年前、日本のすべてが政治の刷新に向かおうとしていた。 経済的な不安、終わりのないスキャンダル、癒着、そして政治的惰性に対する欲求不満 のため、国民は初めて50年以上続いた自民党に背を向けたのだ。 ・今、自民党は再び権力の手綱を握った。 何十年もの間、ほとんど絶え間なく政権を握っていた間に、日本を借金大国にし、原発 大国にし、しかも、フクシマが示したように、その安全性をおろそかにしてきた政党が、 寄りによって権力に返り咲いたのだ。 ・自民党の安倍晋三は、日本が今後、北朝鮮の挑発にどのように対応すべきかということ を明確に言っている。 「われわれはこのような攻撃に対抗することが可能なように武装しなければならない」 ・安倍は、すでに2006年、1年だけだが首相を務めた。 党内ではタカ派といわれているが、当時は穏健で現実的な政治家だった。今回は違って いる。 ・この地域での緊張は、日本のタカ派の下で、さらに高まるかもしれない。 靖国参拝など、またましな挑発だ。 とくに、東シナ海の島をめぐる中国との闘争は先鋭化している。 韓国とも、日本は島をめぐって争っている。 安倍晋三は、日本の自衛隊と海上保安庁の沿岸警備を強化することを宣言した。 また、平和憲法の改変にも臨む意向だ。 彼は、日本を極東のリーダーとして位置づけようとしている。 つまり、それにより、中国の要求と自ずと衝突することになる。 ・安倍首相就任の報道が言いたいことは四つ。 @日本の新政権は右翼である。 A新首相はナショナリストで、平和憲法を変え、靖国に参拝し、中国、韓国を挑発して 軍拡競争に参入し、アジアの平和を乱す可能性がある。 B自民党は無責任で、腐敗していて、ろくでもない政党である。 Cそれにもかかわらず国民は、政府が示す「外敵」に目をくらまされ、ナショナリズム 的プログラムに向かって嬉々として突き進んでいる。 ・このCなどは、第一次大戦後の、景気が悪かったワイマール時代に、意気消沈していた ドイツ国民が、ヒトラーとナチス擡頭に興奮する様子の描写に瓜二つだ。 日本でも、この後国会議事堂が炎上するのだろうか。 ヒトラーのときは、放火は”共産党員”の仕業だったが、日本の場合は誰が犯人になるの だろう。 ・しかし、すべてが説明不足ではないだろうか。 一体、「平和憲法」とは何物で、それを改変するとどうなるのか。 「平和でない憲法」になるのか。 戦争のできる憲法にするということか。 そこら辺の説明が一切ない。 伝わってくるのは、”民主主義やら平和主義に反する、悪いことが行われようとしてい るのではないか”という漠然とした懸念だ。 ・もちろん、安倍首相が言おうが言うまいが、憲法改正が必要だという意見は確かにある。 しかし、それは今始まったことではなく、三島由紀夫が生きていた時代からすでにあっ た。 つまり、50年も前から今日まで、連綿と言われ続けているのだ。 ・憲法改正の中核は、もちろん軍隊の整備だ。 しかし、軍隊を持ったから戦争をするということでもない。 日本の健保ヒ海棲を槍玉にあげようとしているドイツは、やはり連合軍からいやいや押 しつけられた自国の憲法を、すでに今まで60回近く変更している。 1955年には軍隊も作った。 しかし、ドイツの憲法が「平和でない憲法」とは言えない。 その証拠に、ドイツはこの47年間、戦争は一度もしていない。 ・つまり、ドイツが好戦的であるなどとは、間違っても言えない。 ドイツ国民の大部分は、常に、戦争には絶対反対という意見を貫いている。 ただ、それでもドイツが軍隊を持っているという事実は、ドイツに大きな力をもたらす。 なぜなら、軍事力は政治力を裏打ちするからだ。 今の世の中、国際舞台において政治力より貴重なものはない。 ・さらに言えば、ドイツは軍隊だけでなく、優秀な軍事産業も持っている。 しかも、アメリカとロシアに次ぐ世界第三番目の武器輸出国であり、これが無言の軍事 力となっている。 ・そういう事実にもかかわらず、常に平和の使者のような顔をしているところがすごいと 思うが、今それには深入りしない。 私の言いたいのは、軍事力のない国は、絶対に政治力を持てないということだ。 それは北朝鮮を見ればよく分かる。 あの国を世界の強国が気に掛ける理由はただ一つ、核を持っているからだ。 ・ドイツは現在、世界で有数の、政治力のある国だ。 しかし、これは、政治家がうまく外交をし、経済がうまく機能し、産業界が四方八方と うまく商売をしているからだけではない。 ドイツが「口先だけの国」ではないことを、皆が知っているからだ。 ・自分の国民を守るため、そして、他国に食い物にされないため、必要なだけの政治力を 持とうとするならば、必ず軍事力の裏打ちがいる。それを持っているのがドイツだ。 ・ところが、ドイツの報道を見ていると、かれらはその当たり前のことを、日本にだけは させまいとしているように思える。 日本が軍事力を持たず、故に政治力を蓄えないことは、ほかの大国にとって、これ幸い なのである。 ・今、安倍は、老け込み、弱気になっているアジアの経済大国を、かつての偉大な姿に戻 し、何よりも人気のない”戦後レジーム”からの脱却を図ろうとしている。 これは、日本の敗戦後、アメリカの占領軍に押しつけられたものを意味する。 つまり、平和憲法であり、ほかと比較してリベラルな教育システムであり、そして、 1948年に東京裁判で連合軍が形成した、安倍が完全に違和感を持つ歴史認識である。 これによると、日本はドイツと同様に、永遠に制御しなければいけない侵略国なのだ。 ・安倍首相は、日本を再び”美しい国”にしようとしている。 彼はこの国の未来の姿を描いた自著をそう命名している。 この(美しい)日本は、すでに彼の父親、「安倍晋太郎」外相が求めていたような、 そして、また、安倍の尊敬する祖父、「岸信介」が範を示したような、そんな価値観を 思い出させるべきなのである。 ・岸は、日本の「アルベルト・シュペアー」だ。 1930年代、満州の占領地で中国征服を推し進め、そのあとは、戦争に向けての複雑 な機構の準備に尽力した。 1945年の降伏の後は、逮捕されたが、1957年には、再び首相の地位に就き、中 国との和解の芽を潰した。 そして、アメリカの同盟国として反共を掲げ、その利によって、日本に新たな影響を及 ぼすことに成功した。 ・安倍が新しい首相になって以来、日本の過去が突然、現在にとって再び重要なことにな ってきた。 新内閣の19人のメンバーの知の14人を、靖国神社への参拝を推進するグループが占 めている。 この英雄の記念館では、日本の主要な戦争犯罪人たちも、神道の神々として祀られてい る。 ・「多くの日本人は、祖国を加害者としてではなく、戦争の犠牲者として見ている」 この国民は、自分たちの犯した戦争犯罪を思い出すことよりも、自分たちの苦しみ、 特に、広島原爆投下後のそれを思い出すことのほうが好きなのだ。 ・おずおずとした後悔の徴候さえ、この新しい支配者は駆逐してしまいたいと思っている。 それは、1993年に日本政府が、少なくとも20万人のアジア人を強制的に売春婦と して連行したことに対して公式に謝罪したことを意味する。 安倍はこの、いわゆる慰安婦が、本当に軍隊によってセックスを強制されたものかどう かということに、公式に疑問を呈している。 ・この修正主義者のルネッサンスを不信の目で見ているのは、中国と韓国といった隣国だ けではない。 保護者アメリカも、安倍の時代遅れの内閣が、東アジア地域の緊張を増幅させかねない ことを懸念している。 ・安倍首相のデフレの脱却、経済再建に向けて打ち出した新政策、アベノミクスは、日本 国内でも評価が分かれているが、ドイツの見方はどうだろう。 確かに、新政策以降、日本の株価は上昇し、円もぐっと安くなった ・だが、そもそも、円が安くなったと言っても、はっきり言って、今までが異常に高すぎ た。それを相応のところに戻そうとしているに過ぎない、ともいえる。 なのに、アベノミクスについて、ドイツのメディアの書き方は、かなり辛辣だ。 ・1980年代、マルク高に悩んでいたのは西ドイツであった。 他の通貨が弱すぎたということもあるが、マルクが上がると、ヨーロッパ向けだけでな く、アメリカへの輸出も滞った。 輸出大国としては由々しき事態であったが、しかし、西ドイツは金融緩和はしなかった。 ・1920年にハイパーインフレで悩んだドイツは、インフレに対するトラウマがある。 恐怖感と嫌悪感の入り混じったような感情だ。 連邦銀行も、インフレを防ぐことを自らの天命のように思っている。 ・しかも、当時の西ドイツマルクは常に強く、西ドイツ製品は高いにもかかわらず売れた。 まだグローバリズムが始まっておらず、西ドイツ国内の企業が、それによって海外へ逃 走することもなかった。 要するに、西ドイツの経済はマルク高でも安定しており、余力もあった。 そして、ドイツ人はメイド・イン・ジャーマニーに絶大な自信を持っていた。 ・しかし、今は違う。世界中で壮絶な競争の起こっている現在、できることならライバル は少ないほうがよい。 そんな折、長い間海の向こうで霞んでいたはずの日本が、動き出した。 金融緩和の効果は著しく、途端に、株価は上がり、輸出業は息を吹き返し始めた。 そのおかげで、ドイツのダックス(株価指数)も好調だ。 しかし、ドイツ人は、先行きが不安なのだ。 日本が復活すると、これからどうなるのか。 できるなら、勇み足で転んで、鼻の骨を折ってほしい。 ・安倍首相は、少なくとも物価が2パーセント上がるまで紙幣を印刷するようにと中央銀 行に指示した。 これが革命でないとしたら何だ。 通貨を守るべき機関がインフレを抑えず、それを誘導する。 ・景気回復が論議されている。 しかし実際は、ハラキリの危険がある。 すでに過去に数年、ほとんどすべての先進国が紙幣の印刷を試みた。 しかし、あまり役に立ったとは言えない。 日本やヨーロッパやアメリカは、ほとんどゼロ金利になり、市場が流動資産の洪水にな ったにもかかわらず、流通過剰な貨幣は、おおむね金融資産のシステムの中で留まった きりだ。 危機に陥った西側の国民経済において、投資に値するような機会が少ないため、銀行は ほとんど貸し付けをしない。 ・日本の金融の革新は、ほかの産業国ではあまり歓迎されていない。 日本の貨幣の洪水で利益を得るのは、政府と資本家と投資家だけだ。 ・日本は、今では時限爆弾だ。 それと同時に、日本の劇的な借金は、ヨーロッパにとっての教材として適している。 かつて経済の奇跡を起こしたこの国は、1990年代に株の暴落とバブルの崩壊で衝撃 を受けて以来、二度と復活することはなかった。 銀行は援助されなければならず、保険会社は倒産した。 経済成長率はしばしば惨めなものとなり、国家支出の半分を税収で賄うことさえできな くなった。 それによって、どんどん借款が増える。悪循環だ。 ・この悲劇がこれまであまり話題にならなかったのは、ある奇抜な現象のためだ。 それは何か。 日本は、ほかのEUの破綻国と違い、今も昔も、借入金に利子をほとんど払わないため だ。 ・その理由は簡単だ。 EUの破綻国は違い、日本の政府は、これまで自国の国民から借金していたのだ。 国際の95パーセントは、日本の銀行と保険会社によって買われている。 つまり、国民の貯金だ。 そして、おそらく国民は鉄のように固い意志で、日本政府は、いつの日か、その借金を 返すことができると信じているのである、 ・しかし、これが続きわけがないと、専門家は言う。 「政府が対策を撃たなければ、日本は次のギリシャになる」と、東京大学の経済学者。 「伊藤隆敏」教授。 ・日銀総裁の「白川方明」は、ドイツの連邦総裁ら、西側の同僚たちがいつも説いている 金融政策の鉄則を守ろうとさえしない。 それどころか、白川は、景気回復のために、紙幣を印刷している。 彼の日銀は、2011年より、緊急プログラムを敷いている。 ・安倍首相は、新しく、巨大な景気対策プログラムをスタートさせようとしている。 特に、建設部門での国家投資による景気回復が狙いだ。 それと並行して安倍は、白川が際限なくお金を産業に回すよう、すでに命じた。 もしも日銀が協力しなければ、法律を変え、日銀を政府の支配下に置くようにするつも りだ。 ・経済学者たちは、そのようなアイデアをよいとは思わない。 「これは、壁に向かって進んでいる車の運転手が、ぶつかる前に、もう一度アクセルを 踏むようなものだ」と言う。 ・アベノミクスについては、米連邦準備制度理事会(FRB)の「バーナンキ」議長や、 ノーベル経済学賞受賞者である「クルーグマン」教授が、一応支持しているが、もちろ んそれには触れていない。 引用は、アベノミクス批判の意見ばかりだ。 ・そもそも、日本はアジアのギリシャであるという論には、かなり無理がある。 純粋に借金だけを見れば、日本の経済状況は非常に不健康であり、このままではよくな いことも確かだが、だからと言ってギリシャと同じとは言い難い。 日本の国債は、投機のために外国の資本家が所有しているわけではない。 大部分は日本人の手の中にあるから、李氏は国内に保たれる。 ・日本が通貨の洪水で、円を谷底につき落ちしてからすでに久しい。 各国の批評家は、日本の輸出に有利なように、競争が歪められていることを非難してい る。 黒田が日銀の舵を握ることになったら、日銀は四月にも、しつこく居座っているデフレ に対する戦いに、さらに果敢に臨むだろうと専門家は見ている。 ・安倍は2011年末に、蔓延しているデフレに、紙幣の印刷という方法で過激に対抗す るという目的を持って現れた。 この国は、何年もの間、価格下落と投資の鈍化という悪循環に陥っていた。 資金の洪水にもかかわらず、日本政府は、自分たちが国際的に為替操作で非難されてい るとは思っていない。 ・この国は、先進国と新興工業国は、自由な為替レートを定めることができ、この原則に 対する具体的な違反が罰せられることはないという、最近の20カ国サミットでの声明 により、自分たちのやり方を認められたと感じている。 すでに黒田は、財務官の時代より、円を弱くし、輸出産業を助けるため、為替市場に攻 撃的な介入をしてきた。 ・黒田が日銀を仕切ることになれば、デフレに対する戦いにおける日銀の方針は、間もな くはっきりと先鋭化するだろう。 政府の圧力の下、日銀は、インフレの目標をすでに1パーセントから2パーセントに上 げた。 来年からは、無制限に公債を買うつもりだ。 おそらく、黒田はこの金の洪水をさらに前倒しするだろうと、通貨の専門家はコメント している。また、有価証券の購入も広がるだろう。 ・2パーセントのインフレ目標が、途方もなく悪いことのように書いてあるが、ほとんど 10年近く物価上昇がなかったのは、先進国では日本だけだ。 ドイツは少なくともここ7年間、毎年、2パーセント前後の物価上昇率を保っているし、 フランスもそうだ。 イギリスはもっとひどく、2011年では5.2パーセントという月もあった。 アメリカも3パーセント前後だ。 3パーセントや5パーセントというのはよくないが、しかし、景気が良くなると、物価 が上昇するのは自然の成り行きだ。 物価の値上がりなしで好景気になることはあり得ない。 それにしても、なぜ、日本が2パーセントといっただけで、これほど悪者にされるのか がわからない。 ・日本は、キプロスなどはるかに凌駕するほどの借金の山を抱えている。 そして、政府は節約をしない。 しかし、この国が、この泥沼状態を制御できなければ、経済への影響はユーロ危機など よりもずっと大きいものになるだろう。 ・輪転機は用意された。 巨大な借款にもかかわらず、日本政府は景気を上向きにするつもりだ。 その一つが新しいプロジェクト。 しかし、人口が減っているというのに、誰がその新しい道路を走るのか。 ・「デフレからの解放」、というのが安倍晋三首相のマントラだ。 子の新首相は、インフラ改善のため、不振の景気を上昇させるため、そして、経済にと って危険なデフレを止めるため、手に一杯の金を持っている。 これと同じような金額をドイツ政府は、ユーロ危機の二度目の救済のために使った。 ・とはいえ、日本の抱えている借金の額はもっと大きい。 経済規模を考慮に入れて比べれば、3倍だ。 この国は。再考の借金を抱えた先進国である。 専門家は、歯止めが利かなくなることを警告している。「最高に問題である」と。 ・日本の不景気は、この世紀になって、すでに四度目だ。 何十億を掛けても、日本政府は自国を不景気の泥沼から救いたいと思っている。 長期的には、企業と自治体の投資を促し、それによって雇用を促進したい意向だ。 ・しかし専門家は、警告するように指先を上げる。 「これほど大量の資金を投資するのは、非常に問題である。日本は、凄い借金を抱えた 国なのだから」とハンブルクの世界経済研究所のミヒャエル・ブロイニンガーは言う。 そのうえ、このような景気上昇のための措置は、経済停滞と長期にわたる価格低下とい う危険な悪循環に対する対策としては、あまり効果的ではない。 「インフレへの投資に効果は限られており、その金が長期的に実を結ぶことはないだろ う」 ・日本の経済学者たちも、このような方法で経済成長が起こるとは思っていない。 その反対で、借金がさらに増えることを警告している。 しかし、新しく就任した、保守中道出身の政府の長は、違う意見を持っている。 彼は、超緩和の金融政策をアジェンダにしたのだ。 新しい日銀総裁・黒田東彦は、緩和政策の擁護者として知られている。 彼の下では、輪転機の回転速度は、おそらくもっと上がるだろう。 ・しかし、なぜ安倍は、景気づけにインフラを選んだだろう。 2011年の地震と津波の災害の後、インフラというものが頑強な基礎とならなければ いけないと、安倍は述べている。 日本の交通網は、しかし、よく発達していることで有名だ。 この国は、面積でいえば、世界で61番目の小さな国だ。 そこに敬20万キロの道路が走っている。これは世界で第5位だ。 ドイツはその半分しかない。 それに加えて、6万8千の橋梁、1万近くのトンネル、250の高速鉄道と98の空港 がある。 ・しかも、次第に人口が減っていくのに、なぜ交通網を広げるのかと、専門家は疑問視し ている。 日本社会は、慢性的な高齢化のプロセスに入っている。 「国民が高齢化し、人口が減っていく時代に、道路や運フラの整備という、昔通りのこ とをやっていくことはできない」と、法政大学の政治学者、「五十嵐敬喜」教授は警告 する。 彼は、津波の後の復興でコンサルタントをした。 中国・北朝鮮を、ドイツはどう報じたか ・2013年5月、李克強首相がドイツを訪れた。 ここ数年、ドイツと中国の二国関係は、蜜月ともいえるものだ。 ・今回、李克強の待遇は、国賓としては最高のものだった。 メルケル首相は、軍隊の儀仗兵で李克強を迎え、48時間ほどの滞在中に3度も会った。 忙しい彼女のスケジュールでは異例のことだ。 なぜ会談を3回に分けたかというと、抗争中のテーマと、平和的なテーマを別々に持ち 出せることで、中国の面目をつぶさないように配慮したからだという。 ・一方、独中関係は、バラ色のことばかりではない。 今回、テーマの一つとなっていたのが、中国の格安ソーラーパネルである。 中国は凄い勢いでソーラーパネルの生産を伸ばし、現在、ドイツ市場のシェアは70パ ーセント。 一方、ドイツ製は15パーセントに追いやられ、倒産が相次いでいる。 中国のソーラーパネルのメーカーは、政府から手厚い補助を受けており、ヨーロッパの 製品に比べると30パーセントも安い価格でうることができる。 EUは、これをダンピングと見ており、アンチ・ダンピング委員会はすでに今年6月か ら、中国製のソーラーパネルに11.8パーセントの制裁的関税をかけている。 8月からはその税率を47.6パーセントに引き上げる協議も進んでいた。 ・しかし、その制裁に強く反対しているのが、ドイツである。 ドイツは中国との関係を傷つけないように必死だ。 ・ドイツと中国の関係は片思いではなく、互いが互いを必要としている冷静な利害関係に 見える。 純粋な愛情で結ばれていなくても、理想的とはいえるパートナシップは存在するのだ。 つまり、ドイツ人は中国のことを、絶対的に好きではないかもしれないが、少なくとも 嫌いではない。 ・日本人の中には、「なぜ、ドイツ人には中国の本質が見えなのか」と思う人も多いが、 私は、中国は多面的であり、ドイツに対する中国の態度は、日本に対する態度とは根本 的に違うものであると思っている。 ・中国は、おそらくドイツは利用できると思うと同時に、ドイツ人と中国人は本当にウマ が合うのだろう。 つまり、同じ利害関係でも、好意に根付いた利害関係なのだ。 だから、独中関係がうまくいくのは、不思議でも何でもないし、日中関係と比べること はできない。 中国には、「反独」という忌まわしい言葉はない。 ・ただ、残念なのは、ドイツが、中国市場を重視するあまり、中国を嫌がることは一切し ないという態度を取り始めていることだ。 以前は、ダライ・ラマを迎え、中国の反感を大いに買っていたメルケル首相も2009 年よりは、中国に対する公式な批判からは、一切距離を置いている。 ・メルケル首相は、2012年8月、北京での記者会見で、「中国はドイツとって、アジ アで一番重要なパートナーです」とはっきり言った。 日本はいまだに、1940年に結ばれた日独伊軍事同盟などという埃を被った昔話を根 拠に、日本とドイツの堅固な関係を語る人がいるが、日独関係が精神的にとても堅固だ ったのは、ビスマルクと伊藤博文のころで、ヒトラーの時代の話ではない。 そして、戦後も、その関係が再び緊密になることは、決してなかった。 それに比して、ドイツと中国の古くて深い縁は、今日までずっと繋がっている。 ・ドイツでは、中国ファンは増えこそすれ、減ってはいないように見受けられる。 昔は、街を歩いていると、よく「日本人ですか?」と声をかけられたが、今では「中国 人ですか?」と言われる。 喫茶店などで、ウェーターが得意そうに、「ニーハオ!」などと挨拶してくれることも ある。 ・2013年12月、北朝鮮が核実験を行った。 日頃、ドイツのニュースにあまり出てこない北朝鮮が、さすがに大きく登場した。 ・北朝鮮政府は、当初、声明を発表しなかった。 この孤立した国は、国連の決議によると、核とミサイルの技術開発を禁じられている。 韓国の報道によると、平壌は中国とアメリカに、すでに月曜日に核実験を行う旨を通告 していたという。 国連の安全保障理事会は、北朝鮮が12月に行ったミサイルの打ち上 げ実験のため、北朝鮮に対する制裁を強めた。同盟国中国も、この決定に同意している。 ・北朝鮮の指導者は、制裁に対し、アメリカに対する脅しという形で対応した。 核とミサイルのプログラムは、将来、アメリカの仮想敵国として行われたそうだ。 そのうえ北朝鮮は、1992年に韓国と結んだ、朝鮮半島の非核化の取り決めも破棄し た。 ・北朝鮮の若い指導者・金正恩は、今回の核実験で度を越したのだろうか。 最後の同盟者中国にも見放されるのか。 この疑問は、この孤立した政府を考え直させるために国際的な制裁が議論されている今、 まるで見当違いというわけではない。 ・平壌は、陸路や回路の封鎖を緩和するために、北京を頼ることはもうできない。 ただ、北京の外務省は北朝鮮の核実験を決然と批判したものの、まだ、完全に指揮棒を 折ることは躊躇している。 そして、ほかの国々に、冷静な対処と、交渉による解決をアピールした。 ・ただ、多くの傍観者は、中国の回答の重要なニュアンスを聞き逃している。 今回は、これ下での核やミサイル実験のときと異なり、「北京はそのために努力するだ ろう」という最後の一文が欠けている。 平壌としては、この文章にとっては、この文章こそが、制裁がそれほどひどいものには ならないだろう言う保証の意味を持っているのだ。 だが、どうも今回は、北朝鮮の最大のエネルギー供給国、かつ最大の通商相手である中 国は、北朝鮮を泥沼から救い出すつもりはないらしい。 ・中国政府が北朝鮮を庇わないのは、国際的な圧力があるからだけではない。 中国の国内でも、核実験で中国国民の利益や健康を弄ぶ北朝鮮の指導者に対して、中国 政府が寛容な態度をとりすぎていることに、怒りや苛立ちが増しているからだ。 ・北朝鮮の作戦は、核実験の精で激しく横にそれてしまっている。 それは、イランでさえも距離を置き、中国のような同盟国がそっぽを向くほどだ。 中国の、検閲のできないツィッターなどでは、北朝鮮政府への怒りだけでなく、虚偽の 連帯を装う中国政府に対しても、不満が爆発している。 ・北朝鮮の核実験により、アジア太平洋地域で武装合戦に火がつく恐れがある。 特に韓国は、何をするかわからない隣国に対する武装を強化しようとしている。 核兵器が発射された 24時間後、韓国政府は、巡航ミサイルを北の国境に配置させた。 ・「朝鮮戦争」以来、韓国とアメリカは援助協定を結んでおり、アメリカは今でも韓国に 2万8千5百人 野兵隊を駐留させている。 新たに起こった核の脅威は、この二国をさらに強く結びつける。 ・極東地域ではほかにも多くの紛争が存在しており、今まで、北朝鮮問題について周辺各 国が共同で対処することが妨げられてきた。 日中関係は、目下のところ、危急の紛争を抱えている。 全面に出ているのが無人の諸島である。 この諸島は、日本が事実上は管理しており、中国が領有を主張している。 そして、この紛争地域の海を両国の船が行きかっている。 ・武力闘争にはまだ至っていないが、かわされている言葉は、非常に攻撃的である。 この紛争の背景には、将来、中国が担う世界政治での役割が関わっている。 日本と周辺地域の国々は、中国が経済だけではなく、政治的、軍事的にも伸長すること を怖れている。 そうなると、各国の利害に大きく関わってくるからである。 これらの国々は、アジア地域の状況展開に不安を感じ、ゆえに、アジアで強い存在感を 示そうとしているアメリカの援助を受けている。 そして、中国はそれを脅威に感じている。 ・ただ、中国に対するアジアの共同の政策も、ほかの紛争に邪魔されている。 日本と韓国は、やはりあの島を争っている。 これは韓国が実効支配しており、日本が死の領有を主張している。 さらに、この両国の関係は、今なお、植民地の歴史による負荷がかかっている。 日本は韓国を1910年から45年まで支配していた。 この時期に行われた残虐な行為は、韓国ではまだ忘れられていない。 現在、その状況は、当時の兵隊や役人の犯罪を認めようとしない多くの日本人の態度に より、さらに悪化している。 ・ドイツの特派員が北朝鮮を見ている目は、まだまだ甘い気がする。 あるいは、真実を伝えることを躊躇しているのか。 ・膨大な資金をかけて行っている核とミサイルの開発と並行して、この国は大勢の餓死し かけている人間がいる。 しかも、一般の人間は、世界の情勢を知る術を持たない。 正に孤立しているのだが、その度合いの甚だしさが、これらの報道からは一切伝わって こない。 ・しかし、それを指摘すると、「東ドイツもそうだったわ」というような見当はずれのこ とを言いだすドイツ人は多い。 もちろん東ドイツは共産主義の独裁国家で、自由がなく、人人は貧乏だった。 ただ、教育程度は高く、音楽、芸術、スポーツなどの文化は発達し、社会福祉はしっか りと機能し、贅沢さえ言わなければ衣食住は満たされており、餓死する人も凍える人も いなかった。 何より、西側の情報は十分に入っており、国民にはそれを分析する能力もあった。 ・そういえば、今回の一連のニュースで一番驚いたのは、ミサイル発射のニュースで見た、 北朝鮮の指令室の映像だった。 私たちがニュースで見慣れているNASAの宇宙センターは、数えきれないほどのコン ピューターが並び、壁一面にもびっしりモニターが張りついている。 ところが、北朝鮮のはというと、近代的とはお世辞にも言えない。 スッキリした田舎の学校の教室のような部屋に、机が並んでいる。 そして、そこに数人の技術者たちが、これも学校の授業よろしくお行儀良く座っていて、 各自の前にコンピューターが一台ずつ並んでいた。 そして、その他には何もなかった。 ・まさか、箇々が本当に北朝鮮の宇宙センターだとは思わないが、いずれにしても、そう いう写真が公開されていたのだ。 この整然とした様子が、北朝鮮の国内では受けるかもしれない。 若い、美しい女性がすくっと背筋を伸ばして、コンピューターの前に座っている映像は、 確かに印象的だったが、彼らは研究者ではなく、皆、俳優と女優ではないかと、私は思 っている。 ・中国人が、北朝鮮の核実験の後、放射能漏れを疑い、大騒ぎをしたという話は、日本で は小さな記事にしかならなかったようだ。 中国人は放射能をとても恐れる。 それは福島の後、あれほど大勢の中国人が、一目散で帰国したのを見てもよくわかる。 ちなみに当時は、ドイツ人と中国人が日本脱出を競っていた。 ・ドイツ人は極端なナチュラル派が多く、とかくなんでも危険だとみなす用心深い人たち なので、福島原発事故の後、我先にだ出したのも無理はない。 しかし、不可解なのは中国人だ。 それほど危険に敏感ならば、なぜ、国内の数々の危険をここまで放置したのか。 ・北朝鮮や日本からの放射能の心配よりも、彼らはもっと喫緊な心配をしなくてはいけな い。 現在の水源や大気の汚染は、放射能よりも絶対に即効性があるはずだ。 ここまで重度に大気や水を汚染してしまっては、何十年後に白血病が出る心配ではなく、 明日には癌になると思ったほうがよい。 ・ドイツ人の中国人に対する視線は、常に同情的だ。 日本人の目が、反日教育に熱心な共産党政府と、環境のことも労働者のことも考えずに 金儲けに明け暮れている支配層に向かっていて、そこから中国人全般を批判的に捉えて いるのに比べ、ドイツ人の視線は、搾取され、健康まで犠牲にしている可哀そうな労働 者にぴったりと張りついている。 ・たしかに、何の力も持たず、低賃金と劣悪な労働条件の下、健康を外資ながら働く人々 は気の毒である。 そのきもちは、私たち日本人にもないわけでもないが、しかし、一方、そういう可哀そ うなはずの労働者が、反日デモで立ち上げり、日本の工場に火を放ち、日の丸を焼いたり、 略奪をしたりしているのを見ると、私たちの同情心は水を掛けられたように消えてしま う。 そもそも私たちは、必ずしも経営者が悪で、労働者が然というステレオタイプの考え方 をしない。 善良な経営者がいても可笑しくないと、どこかで思っている。 と同時に、労働者が悪いということもありうる。 ・ところが、西ヨーロッパ人の体の中には、権利闘争のDNAがしっかりと埋め込まれて いる。 ヨーロッパ人の視点は常に民衆の視点で、民衆は善で、国家権力は悪なのだ。 ・近代の西ヨーロッパ人は、基本的に考え方が左寄りだ。 そして、その傾向は、現在どんどん強まっているような気がする。 自然志向も、家族の崩壊も、ストの頻発も、結局は、自由思想と「民衆は善で国家権力 は悪」という考え方からきている。 だから、ドイツ人が中国人を見ると、すべては横暴な国家権力に抗う善良な民衆という 見方になるのは、当然と言えば当然かもしれない。 その善良な民衆が権利闘争をするならば、ドイツ人は力を貸さなければいけないのであ る。 ・ところで、今回の核実験で、中国が北朝鮮を見放したという見方は、はたして正しいの だろうか。 中国は、もう、とっくの昔から北朝鮮を見限っており、アメリカや日本相手に、北朝鮮 カードとして仕えるかぎりは、利用しようとしていただけではないか。 ・しかし、いまや、その北朝鮮カードが使えない。 北朝鮮が中国に従順ではなくなったことを、世界中が知ってしまったとなると、中国の メンツは丸つぶれだ。 しかも、下手に脅すこともできない。 相手も核を飛ばせるとなると、日本を脅すのとは勝手が違ってくる。 ・韓国が、アメリカと先制攻撃について協議しているというのは、おそらく本当だろう。 そして中国も、北朝鮮の若い独裁者が血迷って攻撃を仕掛けてくる前に、いかにして機 先を制するか、真剣に考えているに違いない。 アジアのプロブレムメーカーは、無視できないリスクに膨れ上がりつつある。 ・しかし、ドイツ人にとって北朝鮮は遠い。 中国とは歴史的な付き合いも長いし、現在は市場として巨大であり、その関係は深い。 しかし、ドイツ人にとっての北朝鮮は、私たちにとってのナイジェリアのようなもので、 資源はあるかもしれないが、あまり関係のない国だ。 そして何より、北朝鮮の核はドイツまでは届かない。 雅子さま報道をめぐって ・雅子皇太子妃殿下に対しては、ドイツ雄メディアはとてもやさしい。 これは、近代のヨーロッパ男性の女性に対する敬意であるのか、それとも、彼らが信じ ている日本の男性優位の風潮に対する非難であるのか、そこらへんはわからない。 ・世界中から貴族たちがアムステルダムの王権交代にやってくる。 特に注目されたのは、日本からの来賓だ。 皇太子妃殿下、雅子は心の病気で苦しんで、孤独な生活を送っている。 今、かのじょは11年ぶりに初めて公務瀬外国の旅に出る勇気を持った。 ・日本の皇太子妃殿下雅子が待ち受けられていた。世界の貴族の中で、一番悲劇の人物だ。 すでに何年もの間、この外交官の娘は引きこもっている。 彼女は、宮内庁がストレスによる環境適応障害と名づけた何ものかに苦しんでいる。 多くの傍観者は、それはうつ病を上品に言い換えたものだと思っている。 アムステルダムへの旅は、雅子の公務として11年ぶりの外遊だ。 ・ていていのヨーロッパの王室のやっているようなラフなスタイルとは、日本の皇族は縁 がない。 古くさい、厳しい規則が生活を縛っている。 1100人の宮内庁の職員が皇族に一挙一動と発言を監視している。 ・幼稚園をモスクワで、学校をニューヨークと東京とボストンで、そして、大学をハーバ ードで過ごした。 まさに世界を股にかけていたキャリアウーマン雅子は、まったく正反対の世界に舞い込 んでしまった。 ・五カ国語をこなすコスモポリタン雅子にとって、この結婚は彼女の人生を劇的に変える ものだった。 皇太子妃には、クレジットカードも免許証もあっても役に立たず、思いついて散歩に行 くことも、メディアとの接触も一切できなくなった。 公式の行事では、彼女は皇太子より散歩後ろをちょこちょこと歩かなくてはいけない。 ・特に、国民は跡継ぎの誕生を待ち望んでいた。 しかし、雅子は1999年、最初の子供を流産した。 2001年に生まれたのは女の子、愛子だった。 愛子には天皇の継承権がない。 少なくともこの時点より、雅子は日本の大衆週刊誌の攻撃を受けるようになった。 ・ちょうどこのころ、雅子に精神的な問題が起こったと見られている。 噂によれば、鬱が出始めたのは、1996年だともいう。 2003年、帯状疱疹の診断が下った。 それ以来、彼女は公務に就かなくなった。 2004年、宮内庁は、雅子が、うつ病と恐怖症に関連した適応障害に罹患し、心理的、 薬物的の両方からの治療を受けていると発表した。 ・それ以来、雅子はめったに公式の場に姿を現していない。 数年間、彼女は全く引きこもって生活をしていた。 近年は、時々国内の行事には現れる。 しかし、外国での公務は2002年以来、務めることがなかった。 昨年一年は、彼女は東京を離れることさえなかった。 ・日本のメディアは、この明らかに病気である彼女に、ひどく意地悪く毒づいてきた。 日本国民は、彼女が皇太子妃としての義務をきちんと行使していないことに対して、不 快に思っているのだ。 すでに2004年から、皇太子徳仁は、彼の妻の人格を否定するような動きのあること を公式に抗議している。 彼は、メディアに対しても個人的に、雅子をそっとしてやってほしいと訴えている。 皇室の歴史上、いまだかつてなかったことである。 ・ この49歳の女性が、「ウィレム・アレクサンダー」の戴冠式を初めての旅に選んだ のは、決して偶然ではない。 すでに2006年に、彼女はオランダ女王「ベアトリクス」の招待で、徳仁とともに二 週間の予定でオランダへ飛んだ。 彼女は、心のこもった関係をオランダ王室と結んだのだという。 今回のオランダ訪問は六日間だ。 そして、彼女の一挙一動が日本のメディアに観察される。 これこそが、雅子にとって、本来の生活への復帰であるかもしれない。 ・皇室の日常生活は、雅子にとって自分の限界を試す恐ろしい克服を意味した。 息の詰まる公式行事が2004年のストレス性の適応障害と名づけられた苦しみの原因 だ。 皇太子妃の心の病を、多くの人は悲劇のダイアナ妃と比べた。 そして、幾人かは、ダイアナ妃のほうが幸せだったという。 なぜなら、彼女は生から解放されたから。 ・19913年、それまで生き生きと世界で活躍していた東京人、かつ外交官であった小 和田雅子が、七年間の躊躇の末に皇室に嫁いだ。 その彼女が不安に苛まれた幽霊のような囚人に変わってしまうとは、これ以上の悲劇的 なことは想像することさえ難しい。 それは、まるで、公開で窒息の拷問がなされているかのようだ。 外交官の娘として モスクワニューヨークで育ち、東京で法律を学び、ハーバードでは、 最高の成績で経済学の博士号をとった。 そして、若い外交官として、さらにオックスフォードで養成を受けた。 雅子の魅力と優雅さは皇太子を魅了するに十分なものだった。 ・今年49歳になるこの女性が予測できなかった、あるいは、予測したくなかったことは、 この重荷と閉所恐怖症になりそうな数々の規制に対して、自分がいかに準備不足であっ たかということだった。 雅子がこの任務に就くということは、彼女の夫の願いを共に実現するということであり、 同時にそれは、膠着した宮内庁の不文律と共にある義理の両親の願いであり、また、 雅子妃殿下が男の子を生むことを待ち望む、天皇家に忠実な日本国民のよかれと思う願 いでもあった。 ・日本の菊の御紋の天皇の座は、ウィンザー家のように大衆紙にゴシップ材料を与えたり はしない。 それは、遅くとも敗戦の後の、天皇が神であることをやめたとき以来、謙虚になった。 華やかなショーもなく、式典だけである。 美智子皇后は、白髪を染めることさえ認められていない。 ・ダイアナ妃がしたような抵抗は、ここでは考えられない。 離婚は法的には可能だが、不名誉は甚だしく、おそらく彼女の父親が切腹で償わなけれ ばいけないほどだ。 ・かつて小和田雅子であった女性は、純金製の厳戒の宮殿で終身刑に服している。 この圧力が、正確にはいつ、彼女の病気を誘発したのか、誰もわからない。 1999年12月、彼女は最初の子供を流産した。 2001年12月に生まれた子供は、愛らしい女の子だった。愛子という名だ。 ・愛子の唯一の欠点、それは、天皇の後継の規則により、父親の後を継げないことだ。 女性の天皇は過去の歴史上存在したが、その寛容な日本の伝統は無視され、また、 法律を変えようという激しい論争にもかかわらず、雅子は過ちを犯したとして、次第に 保守派の間で人望を失い始めた。 宮殿内からは、雅子妃に対する無慈悲な噂が外に向かって発信され、メディアも文句を つけ始めた。 ・大衆紙が、宮殿内の醜い話を次々と報道した。 雅子は皇太子を振り回し、自らの義務を果たさない。 すでに婚約の記者会見のとき、多くの新聞は、そして、宮内庁までもが、雅子が皇太子 よりも長く話をしたことを非難したのだ。 これで彼女はうつ病にならないほうがおかしい。 ・皇太子徳仁は、無条件に妻の言うことを聞いてあげているようだ。 彼は何度も世間と報道陣に向かって、彼の妻を、忍耐強く、同情心を持って見守ってほ しいということを訴えている。 彼は、雅子の手を取ったとき、宮内庁や世間から押し寄せるすべての干渉や不快なこと から彼女を守ると約束したと言われている。 徳仁の礼儀正しく、愛情に満ちた行動は、尊敬されている。 ・何年もの間に、たわいない女性週刊誌でさえ、心配ではなく、意地悪な陰口を書くよう になった。 ある情報筋によると、五年間の間に皇太子と雅子妃殿下に仕えていた人が13人も辞め ていった。 雅子は内に向かって権勢欲が強く、外に向かっては公務不履行がすぎるためであると。 ・芸術的ともいえる行儀作法や、目上や目下の区別に重きを置く日本文化が、病人に対し てどれほどしつこい意地悪をするかということは、なかなかわかりづらい。 メディアに対する皇太子の呼びかけは、何も役に立たなかった。 彼らは、雅子が公務を拒否しているにもかかわらず、厚かましくも、ブルガリのチェー ンや、高価なスキーの旅で皇室の経費を無駄に使っていると繰り返した。 ・すべてが彼女にとって公務より大切なのだ。 とりわけ、娘の愛子。 雅子は、愛子がハイソサエティーな私立学校で、級友たちから酷いいじめを受けたとし て、何週間もの間、毎日愛子に同伴して通学し、それどころか、数カ月、家に置いてお いたこともあった ・雅子は、何をしても非難される。 2012年、彼女が東宮を離れたのはたった30回だった。 東条の外には一度も出なかった。 あるブロガーは、三月の終わりに、雅子が夫と子供とお忍で外出した際、駅で60代の 男に、「仮病を使い税金泥棒、皇室から去れ!」と悪態をつかれたと書いた。 警官がその男を押しのけた。 しかし、後続の屈辱はもう罪にはならない。 ・雅子が、2011年3月11日の津波で被害を受けた海岸地域を慰問したとき、記者た ちは、彼女の来るのが遅すぎたと叱責した。 天皇皇后両殿下は四月に慰問している。 またもや、娘のほうが公務より大事であったのだと。 ・このごろでは、皇太子に離婚を勧めることを躊躇しない人たちもいるほどだ。 あるいは、「妻を幸せにするために」天皇の座の辞退を勧める偽善家もいる。 皇太子の弟、秋篠宮文仁は、体力の落ちている天皇のために代理の公務を務めている。 より大事なのは、彼には二人の娘の他に、息子が一人いることだ。 ・これら外国の記事から感じられることは、彼らが日本の皇室の非常に封建的な面を強調 しながら、その伝統保持のエネルギーに驚嘆しつつ、一方では人権無視であると非難し ていることだ。 たしかに日本の皇室は、人権という意味では例外だ。 そもそも、皇室と人権という言葉は合わない。 皇室は、人権などという概念が、影も形もなかったことから存在したのであり、今さら そのような概念をあてがっても、あまり意味がない。次元が違う。 天皇家の人々は人権がなくても、敬われ、愛され、国民の心の支えとなって下されば、 よいのである。 ・では、雅子さまのように、そういう人権のない世界に適応できない人はどうなるかとい うと、これが難しい。 私の考えでは、そうっとしておいて差し上げるのが、一番良いことだと思う。 ・そのかわり、雅子さまのほうでも、皇室の伝統的なやり方を改善しようなどというリベ ラルな試みはなさらないようにお願いしたい。 今の世の中では、伝統は残す努力をしなければどんどん消えてゆく。 ましてや、外務からさらに壊そうという力が加わると、瞬く間に崩れてしまうだろう。 皇室が消えてしまうと、取り返しがつかない。 それとともに貴重な伝統が、すべからく消えてしまう。 ・現在の日本で、お正月に晴れ着をまとい、百人一首をする家族が、いったいなん家族あ るだろう。 おそらく一昔前までは、日本の一般の家庭でも、様々な伝統行事が残されていたはずだ。 しかし、今、日本の伝統を、博物館的な過去のものとしてではなく、実際に実践してい るのは、ほとんど皇族の人々だけだ。 和歌を詠み、年中行事のたびに古式に則り、何千年も受け継がれてきた行事を粛々と営 んでいるのは皇室だけなのだ。 そんなものは必要ないという人はいるかもしれないが、私は、皇室自体の重要性ととも に、貴重な文化遺産の実践者としての皇室の存在を、とても大切に思っている。 ・もう一つ、ドイツでの報道から感じたことは、安倍内閣のことを国粋主義者のように書 き立てる彼らが、日本の皇室に関しては、一切そういう書き方をしないことだ。 日本では、皇室を敬う者は右翼であるとし、皇室の存在を帝国主義や国粋主義に結びつ ける風潮がまだまだ強いが、ドイツ人はそうは見てはいないらしい。 ・イギリス人や北欧の人々が自国の王家に夢中になっているのは、ほほえましいことであ り、かつ、当たり前で、日本の皇室も、彼らの頭の中ではその延長線上にあるのだろう。 日本の皇室を右翼と結びつけるのは、おそらく中国と韓国だけだ。 そして、それに日本人の一部が与するのは、考えてみれば奇妙なことである。 ・ドイツ人は、第一次世界大戦の後、カイザーを引きずり降ろしてしまった。 しかし、今ではカイザーの子孫は、結構優雅に暮らしている。 ロイヤル・ブライダルに夢中になっているドイツ人の友人に、「王家を弾劾したのはあ たたたちよ。後悔している?」と訊いたら、彼らは「えっ?」という顔をした。 ドイツ人は皆、かつて自分たちの国に皇帝や王様がいたことを、あまり思い出さないか もしれない。 ・そんなとき、ふと思った。 「日本人は、世界で一番古い皇室を保っていることをもっと誇りに思ってもいいのでは か」と。 あとがき ・ドイツ人は、個人的に近しくなると、とても親切な人たちだ。 親切なドイツ人は私にとって、いかにも身近な存在となった。 「ドイツ人と日本人はウマが合う」。 そう思いながら、私はいつしか、この国でその昔、自分が無我夢中で奮闘したことなど、 すっかり忘れてしまった。 ・しかし、本当にドイツ人と日本人はウマが合うのだろうか? そんな疑問を持ち始めたのは、この15年ぐらい、私が、一般のドイツ人と同じく、毎 日、熱心にドイツのニュースを聞き、ドイツの新聞を読むようになってからだ。 そこには、何と、反日の空気が満ち溢れていた。 それに気づいたとき、私の友人たるドイツ人たちも、日夜、このような反日情報に接し ていたのかと思い、まず、それが一番ショックだった。 ・ドイツ文学者、評論家である「西尾幹二」氏によると、ドイツの反日報道は、彼がドイ ツにいた1960年代も同様だったそうだ。 その後、日本の経済成長に伴い、日本バッシングは最高潮に達した。 今、私が接している反日報道は、それが静かに定着したもので、いうなれば、すでに当 たり前の日本観なのかもしれない。 ・個人レベルでは、日独親善はちゃんと機能する。 親切なドイツ人のイメージは、転勤や留学でドイツに暮らした日本人の、おそらく共通 の思い出だと思う。 特に、ドイツに長く住んでも、新聞もテレビも日本語だけという環境にいて、英語で仕 事を済ませ、 ドイツのメディアなどにはあまり接していない日本人の場合、やさしい親日ドイツ人の イメージは、彼らの一生の宝物となる。 ・ただ、ドイツ人の中に、深く入り込み過ぎた私の認識では、ドイツ人は、日本人が思っ ていろほど、親日的ではない。 始終、反日報道に接しているのだから、当然のことだ。 ・ほどんどのドイツ人は、日本人の知り合いなど持たない。 メディアの作り上げる日本人観が、そのまま彼らのそれとなる。由々しきことである。 ・間違った日本のイメージを矯正していくためには、ドイツ人と日本人が接する機会を増 やせばよい。 日本に来た途端、それまで日本を懐疑的に見ていたドイツ人が、日本の大ファンになる 例を、私はいくつも知っている。 本当の日本は、外国で流されているイメージより何倍もよい証拠だ。 つまり、私たちにプロパガンダは必要ない。 粛々と、普段通りの姿を示す機会さえあれば、歪められた日本のイメージは、あっとい う間に消えていく。 要は、その機会をどうやって作るかということだ。 |