ドイツ人はなぜ、年290万円でも生活が「豊か」なのか 
                                   :熊谷徹

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この本は今から3年前の2019年に刊行されたものだ。
先般、「豊かさとは何か」という本を読んで、ドイツについて興味を持ち、この本を読ん
でみた。
今から33年前に書かれた「豊かさとは何か」という本の中で、ドイツには「豊かさ」が
あると紹介していたが、この本においてもドイツには「豊かさ」があると紹介している。
その「豊かさ」とは何か。それは自由時間である。自由時間とは、家族と過ごす時間や自
分の趣味に費やす時間などのことである。
ドイツでは「新しい通貨は自由時間だ」という考え方が浸透しつつあるという。つまり、
多くのドイツ人は、一番の価値を「お金」ではなく「自由時間」に置いているのだ。
お金の奴隷にならない。お金をかけずに生活を楽しむ。そこに「豊かさ」があるのだ。
それでいて、ドイツの労働生産性は日本よりも高いと言われる。その違いは何なのか。
その要因の一つが、日本の美点ともいわれる過剰なサービスにあるのではないかと思える。

2020年の東京オリンピックの誘致のとき、日本は「おもてなし」を誘致のウリにした。
たしかに、「おもてなし」は日本の美点でもあるだろうが、「欠点」でもあると思う。
ずっと以前から、日本は労働生産性が低く労働効率が悪い、と言われ続けてきた。労働生
産性が低いとか、労働効率が悪いとか言われると、日本人はなんだか仕事を怠けているの
かとか、仕事の能力が低いのかと思ってしまうのだが、そうではなく、その大きな要因は、
過剰サービスにあるのだと私は思う。サービスレベルが高すぎるがゆえに無駄が多すぎる
のだ。
また、日本の「接待文化」は世界一だと言われているようだが、今は昔ほどにはないもの
の、日本の企業などでは、いまだに営業で接待に多くのお金と労力を費やすことが多い。
「営業=接待」ではと思い違いをするほどだ。当然、その接待費用はコストとなって商品
価格に影響していく。国内だけでの競争だったら、それでもよかったかもしれないが、ヨ
ーロッパなどの接待文化のない海外との競争となると、とてもそれでは価格競争において
勝負にならない。そして、そのしわ寄せは日本企業で働く労働者のに行く。
日本の労働者は、とにかく「自由時間」が少ない。少ない自由時間で楽しみを見い出すた
めには、ショッピングなどお金に頼る手軽な楽しみ方しかできない。その結果、日本人は
お金に縛られた生活を送ることになる。しかしそれでは、「豊かさ」は感じられない。
そういうことを考えると、ドイツ人の生き方が、私にはとても共感できる部分が多い。
日本人が手本とすべきは、アメリカではなくドイツではないのか。この本を読んで、強く
そう思った。

過去に読んだ関連する本:
豊かさとは何か
お金がなくても平気なフランス人


はじめに
・ドイツの29年の定点観測で強く感じることの一つは、ドイツ人が金銭的に測ることの
 できない価値を日本よりも重視しているという点だ。ここにはお金に換算できない「豊
 かさ」がある。
・一般的にドイツ人は日本人に比べて質素であり、倹約家が多い。我々日本人ほど消費に
 重きを置かない。
・もちろん、ドイツの社会保障制度が日本よりも手厚いことは、人びとの暮らしに余裕を
 与えている。たとえば長年仕事が見つからなくても、失業者として登録し、仕事を見る
 ための努力を続ければ国が家賃を払ってくれる。サラリーマンが病気やケガで働けなく
 なっても、企業は6週間にわたって給料を支払い続けることを法律で義務付けてられて
 いる。
・ドイツの暮らしの「豊かさ」は社会保障制度だけでは説明できない。人びとの考え方や
 行動の仕方にも要因がある。
・ドイツの店や企業は日本ほど顧客へのサービスに時間をかけない。日本と違ってドイツ
 ではサービスは有料だ。このため、人びとは業者などに頼らず、なるべく自分で行った
 り、友人の手を借りたりすることによって費用を節約する。
・客は商店やレストランでも良質なサービスを期待しない。つまり人々のサービス期待度
 が低いのだ。これは一見、ホスピタリティに欠けたギスギスした社会に見えるかもしれ
 ないが、利点もある。人々の働く時間が短くなり、過重な負担がかからないようになっ
 ているからだ。 
・つまり、社会が過剰サービスを減らすことで生活コストを低くし、自由時間を増やして
 いる。このため収入が低くても「ゆとり」のある暮らしを送ることができるのだ。さら
 に彼らはお金をかけないで人生を楽しむ術を知っている。
 
ドイツ人の平均可処分所得は290万円!
・ドイツ人の服装は日本人に比べると質素だ。女性は男性に比べて身なりに気を遣ってい
 るが、多くの男性は無頓着である。
・大半のドイツ人はファッションに無関心だ。彼らは洋服にあまりお金をかけない。この
 ため紳士服の店などは、バーゲンセールなどの時を除くと客の姿は少なく、閑古鳥が鳴
 いている。 
・ドイツ人は日本人に比べると、「見た目」を気にしない。ドイツ人の国民性の一つは、
 強烈な個人主義。あくまでも「ゴーイング・マイ・ウエー」であり、他人が自分のこと
 をどう見ようが構わないという人が多いのだ。
・食事も質素だ。ほとんどのドイツ人は、夕食ではまず火を使った料理をしない。夕食は
 パンやハム、チーズだけの「アーベベントブロート」と言われる質素な食事で済ませる。
・日本人やフランス人、イタリア人には、「たまには良いレストランへ行って豪華な食事
 をしよう」という人が少なくないが、ドイツにはめったにいない。
・中層階級の上の方に位置するようなサラリーマンでも、倹約家がほとんどだ。
・日本は世界でもトップクラスの贈り物大国だ。
・ドイツ人は、日本ほど頻繁に贈り物をしない。旅行から帰ってきた時に同僚や友人にお
 土産を配る習慣もない。結婚祝いのお返しもしない。多くのドイツ人がプレゼントを贈
 るのは、彼らにとって最も重要な祭日であるクリスマスと誕生日くらいだ。
・ドイツ人の誕生日パーティーでは、「プレゼントはいらないので、料理やデザートを持
 って来てください」と言われることが多い。招待する側は飲み物だけを用意する。こう
 した持ち寄りパーティー」ならば、招待される方もプレゼントを買わなくていいのでお
 金の節約になる。
・ドイツ人は、余暇を過ごすにもあまりお金をかけない。週末や休日には自転車に乗って
 サイクリングをしたり、もりで散歩をしたり、公園の芝生や河原、自宅のベランダで本
 を読みながら日光浴をしたりする人が多い。
・つまりドイツ社会では、お金を使わない娯楽が中心である。生活の中で「消費」が占め
 る比重が日本に比べるとはるかに低い。
・したがって、持ち物も少ない。ドイツ人の家に招待されると、日本人の家のように者が
 溢れておらず、整然としていることが多い。  
・大半のドイツ人の生活が質素である理由の一つは、可処分所得が比較的低いことだ。ド
 イツの企業で働く労働者は、健康保険、年金保険、失業保険、介護保険に加入しなくて
 はならない。給料から様々な税金や社会保険料を差し引くと、手元に残るのは、約半分
 程度である。この国は社会福祉制度が手厚いぶん、公的年金保険や健康保険の保険料率
 が高いのだ。
・手取り年収290万円というと、あまり贅沢はできない水準である。しかも、日本の消
 費税にあたる付加価値税は19%と非常に高い。
・2018年の世論調査によるとドイツ人の回答者のうち「全く貯金をしていない」と答
 えた人の比率は27%に達している。市民の4人の1人は全く貯えがないのだ。
 ヨーロッパ人の間には「ドイツ人は貯蓄好き」という先入観があるが、これは虚像であ
 る。
・2017年にドイツで行われたアンケート調査で「自分の生活に満足していますか?」
 という問いに対して「非常に満足している」もしくは「かなり満足している」と答えた
 人の比率は、93%に達した。
・時間的なゆとりという面では、日独間の格差がもっとはっきり見えてくる。
 2018年にドイツで行われたアンケート調査の結果によると、就業者のうち90.7
 %が「現在の労働時間に満足している」と答えた、
・これに対し、内閣府の世論調査によると、「生活の中で時間のゆとりがある」と答えた
 日本人は68.6%にとどまっている。
・ドイツの人々の生き方を見て、「自分の時間を持つこと」や「ゆとりのある生活をする
 こと」の重要性を理解することができた。最近では、「人生の中で最も重要なのはお金
 ではなく、自分の自由になる時間だ」と思っている。

サービス砂漠のドイツ、おもてなし大国の日本
・日本に比べるとドイツは、”サービス砂漠”である。おもてなしという概念はほぼゼロ
 の国だ。ドイツでは「客扱い」されないことがしばしばある。
・ドイツには「閉店法」という法律があり、店を開ける時間が規制されている。この法律
 によると日曜日と祝日の店の営業は原則として禁止されている。午後8時から翌朝6時
 までは店を開いてはならない。ドイツには24時間営業のコンビニエンスストアや、夜
 中まで開いているスーパーマーケットはない。
・2003年の法改正によって、ようやく平日、土曜日ともに閉店時間が20時まで延長
 された。 
・ドイツでは、長年にわたってレストランや居酒屋の営業時間も法律によって規制されて
 きた。居酒屋や飲食店の営業が許されていたのは、午後11時までだった。最近では規
 制緩和のために、飲食店の営業時間の制限は徐々に減りつつある。
・ドイツでは洗面所や電気関係の修理のために職人に自宅に来てもらうのは大変だ。職人
 は常に引っ張りだこなので、なかなか電話がつながらない。
・本に紙カバーをかけるのは、なぜだろう。ドイツでは本に紙カバーをかけるサービスは
 存在しない。   
・コインに表面と裏面があるように、あらゆるものには光と影、長所と短所がある。私は
 毎年日本とドイツを行き来する間は、「日本のおもてなしは客におっては素晴らしいこ
 とだが、サービスを提供する側にとっては、過重な負担になっているのではないか。日
 本の店員や郵便局員の労働条件は、サービスの手抜きをしているドイツよりも、悪くな
 っているのではなきか」という思いを持つようになってきた。

みんなが不便を「ちょっとだけ我慢する」社会
・サービスに対する期待度を下げてしまえば、サービスが悪くてもあまり不快には思わな
 い。「自分はお客様なのだから、良いサービスを受けて当り前だ」と思い込んでいると、
 サービス悪いと頭に来る。腹を立てると、その日は損をしたような気がして楽しくない。
 いやな思いをするのは結局自分である。
・大半のドイツ市民も、この国のサービスについて「こんなものだ」と思っており、際立
 って悪いとは感じていない。多くのドイツ人は日本に行ったことがないので、日本のよ
 うな「サービス先進国」があることを知らないからだ。
・私がドイツ人から高い水準のサービスを期待しないもう一つの理由は、サービスが未発
 達である背景に、彼らの強烈な個人主義があることを知っているからだ。
・誇り高きドイツ人たちは、人に仕えること、サービスをすることが得意ではないのだ。   
・ドイツ人は日本人ほど他人の感情を重視しない。感情よりも規則や理屈を重んじる。
・大半のドイツ人のモットーは個人主義、自分中心主義だ。集団の和を重んじる社会では
 ない。このため、忖度したり空気を読んだりすることが苦手だ。
・ドイツ人はまた、「自分でできることは他人の手を借りずに、自分でやる」という原則
 を持っている。
・ドイツのアパートに引っ越すと、台所の調理台、蛇口、流しや戸棚などは付いていない。
 台所を売っている専門店に行って注文し、バラバラの部品を買ってきて組み立てなくて
 はならない。水漏れなどが起こるといやなので、台所の設置は専門業者に頼む人が多い
 が、自分で台所を組み立てて設置するドイツ人も少なくない。
・ドイツでは余暇とは働くための時間ではなく、遊んだりリラックスしたり、身体を休め
 たりするためのものだ。 
・多くのドイツ人たちは、なるべく他人の手を借りずに大工仕事などを行い、過剰包装や
 ビニールの手提げ袋を避ける「シンプル・ライフ」を実践している。このシンプル・ラ
 イフによって、彼らは不要な出費やチップを節約する。店やホテルがきめ細かいサービ
 スをするために社員の数を増やすよりは、商品の値段や宿泊料金を安くすることの方を
 望む。何事も自分で済ますという基本原則があるので、他人のサービス対する期待度が
 日本よりも低い。
・サービス砂漠・ドイツが大きな摩擦を起こさずに回っている理由は、サービスに対する 
 消費者の期待度の低さと、「原則として、他人に頼らずに自分でやる」精神なのだ。他
 人に対する甘えが少ない社会ともいえる。
・この国の人々が「お金に振り回されない」ほどほどの働き方や生活を心がけていると実
 感している。

お金の奴隷にならない働き方
・ドイツ人はお金や消費に振り回されず、それ以外の価値を重視している印象が強い。
 つまり「お金だけが全てではない」と考える人の割合が、日本よりも多い。
・ドイツ人は静かな環境をとても大切にする。
・ドイツ人は森や公園など、自然を満喫することも日本人以上に重視している。
・もう一つ、ドイツ人がお金よりも重視しているものが「自由時間」だ。大半のドイツ人
 は「プライベートな時間を確保するためには、仕事はほとほどでいい。給料を引き上げ
 るために、家族や友人と過ごす時間を削りたくない」と考えている。
・ドイツ人は他人に多くを求めない生活、自分のことは極力自分で行う生活に慣れている。
 企業や店は過剰にサービスを提供する必要がないので、労働者や店員は負担が軽くなり
 自由時間が増える。また、過剰サービスをなくせば、企業や店は人件費を節約でき、商
 品やホテルなどの価格も割安にできるので、生活にかかるコストも小さくなる。つまり、
 サービスをあえて低水準にすることによって、お金に振りまわされない生活を可能にす
 るメカニズムがあるのだ。それによって働く者にとっては労働時間が短くなり、消費者
 にとっては物の値段が割安になるという利点が生まれる。
・もちろん、ドイツにも「ほどほどの生活」では満足できない人たちがいる。この国の大
 企業には、出世欲に燃えた野心家もいる。彼らは、部長や取締役の座に就くために自由
 時間を犠牲にして、日夜必死の努力を重ねている。しかし彼らは少数派だ。お金の奴隷
 にはならず、ほとほどの生活をすることで満足している市民の方が圧倒的に多い。
・自分の時間を好きなように使えると、心の中に全く新しい世界が出現する。
・お金の奴隷にならないための前提は、自由時間を増やし、心にゆとりを持つことだ。そ
 のためには社会全体が働き方を変え、過剰サービスを減らす必要がある。
・ドイツ人の行動パターンを理解する上で最も重要なキーワードは、効率性だ。彼らは常
 に費用対効果のバランスを考えている。端的に言えば、彼らはケチである。仕事をする
 際に使う老炉力や費用を最小限にして労働生産性を高めようとする。その傾向が日本以
 上に強いのだ。
・ドイツ人は仕事をする際に慌てて取りかからない。仕事を始める前に、注ぎ込む労力や
 費用、時間を、仕事から得られる成果や見返りと比較する。仕事から得られる成果が、
 手間や費用に比べて少ないと見られる場合には、初めからその仕事をやらない。
・ドイツ人は無理をしてまで、お金を稼ごうとはしない。ある意味で労働に対する見方が
 日本人よりもさめている。「労働によって自己実現をする」という考えている人は、日
 本より少ない。 
・大半のドイツ人は「仕事はあくまでも生活の糧を得るための手段に過ぎない。個人の生
 活を犠牲にはしない」という原則を持っている。
・ドイツ人の休暇の過ごし方は、日本人と全く違う。たくさんの観光地をあわただしく駆
 け足で回る旅ではなく、2〜3週間にわたりイタリアやスペインの海岸などのリゾート
 地に滞在しる形式の休暇を好む。物見遊山ではなく、身体を休めて仕事のストレスから
 回復するのが、休暇の最大の目的だからだ。

ドイツ人はお金をかけずに生活を楽しむ達人
・日本人の間には、消費を娯楽としている人が少なくない。なぜ、日本では消費を娯楽と
 している人が多いのだろうか。
・我々日本人はまとまった休みを取れないこと、労働時間が長いことによって溜まるスト
 レスを、パーッとお金をつかうことで発散しているのではないだろうか。
・ドイツで最も人気のある余暇の過ごし方の一つは、サイクリングだ。
・ドイツではサイクリングのための自転車専用レーンが日本よりも整備されている。
・ドイツでは、毎日自転車で会社に通勤する人も少なくない。
・ドイツ人は週末に森の中を歩くのが大好きである。深い森の中を歩いていると、平日の
 仕事や人間関係のために心の中に沈殿したストレスがみるみるうちに洗い落とされてい
 くのを感じる。
・ほとんどのドイツ人は海外旅行をする際に多くの都市を回るのではなく、1ヶ所に長期
 滞在しゆっくり休むというバカンスを好む。大半のドイツ人は海辺やプールサイドに一
 日中寝ころんで、日光浴をする。時々読書をしたり、泳いだりする以外には、何もしな
 い。日本人のように休む間もなく遺跡や美術館を巡るようなことはせず、休養に重きを
 置く。   
・ドイツの大都市の住民の間では、お金がかかるので車は持たないという人も増えている。
 車を持たずに必要な時だけ分刻みで車を借りるカーシェアリングが急速に普及してきて
 いる。
・ドイツには19世紀末から20世紀初頭に建てられたアパートが数多く残っている。こ
 うした歴史的建築物は天井が高く、新築のアパートに比べるとゆったりとした造りなの
 で人気がある。老朽化したアパートの部屋を安く買い取り、修繕して付加価値を高めて
 自分で住んだり、他人に売ったりするドイツ人も少なくない。
・ドイツでは商品には日本の消費税に相当する付加価値税がかけられている。その税率は
 19%であり、日本をはるかに上回る。ただドイツ政府は、牛乳やバター、パンなどの
 生活必需品については、付加価値税を7%と大幅に低くしている。

世界最大のリサイクル国家・ドイツ
・ドイツ人は時間のゆとりがあることもあり、消費意欲が日本人に比べ低い。新しい製品
 が出ても、すぐには飛びつかない。むしろ、古い物でも大事に使ったり、中古品を買っ
 て使うことに慣れている。
・さらにドイツ人は環境保護に関心を持っている人が多い。このためドイツは世界で有数
 のリサイクル国家となっている。
・ドイツ人は一度何かを始めると、とことん行う傾向がある。どちらかというと、猪突猛
 進型なのだ。
・ドイツがリサイクル大国であるという事実は、ドイツ人が物欲という鎖に、そして、大
 量消費・大量破棄という鎖に束縛されることなく、比較的少ない所得でも「豊か」な生
 活を送れることと表裏一体の関係にあるのだ。 

過剰な消費をしなくても経済成長は可能だ
・過剰なサービスや消費は、エネルギーの浪費にもつながる。残業時間が長くなったり、
 消費されないでゴミとして捨てられる製品や商品を作ったりすれば、電力やガスが不必
 要に多く消費されるからだ。
・ドイツ人は過剰なサービスや長い労働時間、週末のオフィスワークなどを避けることに
 よって、間接的にエネルギーの節約に貢献していることになる。
・イタリア人やフランス人に比べて、ドイツ人の間にはファッションやブランド製品に関
 心がなく、服装に無頓着で質素な身なりの人が多い。日本で一時流行した「清貧の思想」
 とも通じるものがある。
・過剰なサービスや過度の消費を避け、お金に振り回されないというドイツ人のライフス
 タイルは、消費至上主義を拒否する緑の党の路線と重なる部分が多い。ドイツ人が好む
 「マイペースでほとほどの生活」「奢侈や華美を嫌う生き方」は、エコロジーに通じる。
・ドイツ人たちは何事においても、費用対効果を天秤にかける。その結果、「これだけの
 お金を除染など原発の負の遺産の清算にかけるよりも、自然エネルギーの助成に注ぎ込
 んだ方が合理的だ」という結論に達したのだ。
・興味深いのは、倹約家であるドイツ人たちが、再生可能エネルギー拡大について莫大な
 費用の負担を受け入れていることだ。
・現在でも、ドイツ国民の半数以上が脱原子力と再生可能エネルギーの拡大政策、つまり、
 エネルギー転換は正しいと考えている。「莫大なコストがかかるから、エネルギー転換
 をやめよう」という抗議デモなどは全く起きていない。
・ドイツ人たちがエネルギー転換を始めたのは、経済的理由ではなく持続可能性が高い社
 会を作るという政治思想的な動機からなのである。いわばエネルギー政策のエコロジー
 化である。
・興味深いのは、エネルギー消費量が減っているにもかかわらず、ドイツの実質国内生産
 (GDP)が1990年から2017年までに49.6%も増えたことだ。つまり、ド
 イツはエネルギー消費量を減らしながら、経済成長を実現することに成功しているのだ。
・ドイツ人がエネルギー消費を減らすことに熱心だといっても、彼らも人間である。その
 スタンスには様々な矛盾がある。たとえばドイツ人の多くは、車の話になると目の色が
 変わる。
・ドイツの高速自動車専用道路(アウトバーン)には、スピード制限がない区間がある。
 ここでは、時速200キロでも、300キロでも出していい。高速道路にスピード制限
 がない場所がある国は、世界でもドイツだけだ。
・ドイツ人はエネルギー転換によって原子力と化石燃料への依存から脱却することが、今
 を生きる人間の未来に世代に対する責務であると考えている。ドイツ人たちは過剰なサ
 ービスや物への依存、エネルギー消費を減らしても経済的な成長は可能であり、真の意
 味で「豊かさ」を持続可能なものにすると信じているからだ。

「求めすぎない」ことから始めよう
・大半のドイツ人の暮らしは質素であり、日本人ほど消費活動に重きを置かない。それで
 も私は、全体として見るとドイツが「豊かな」国だと感じている。その最大の理由は、
 全ての人が仕事だけに束縛されずに、自由時間を楽しんでいるからだ。日本に比べると、
 「会社の都合」だけではなく「労働者の都合」が配慮されてる社会だと言ってもいい。
・そのゆとりを生んでいるのは、法律や規則だけではない。むしろ重要なのは、人々の意
 識だと思う。たとえば、この国の人々は自分でできることは自分で行い、他人に頼らな
 い。サービスへの期待度が低くなっているので、サービスを提供する側には心の余裕が
 生まれる。 
・日本では企業、他人に対する依存心や過度の期待感が、知らず知らずのうちに社会の中
 で過剰なサービスを増やし、労働者の負担を重くしているのではないだろうか。過度な
 期待感は、「自分はお金を払うのだから、客として手厚いサービスを受けて当然だ」と
 いう甘えでもある。
・世界的に見てもトップクラスにある日本のサービスの水準を低くすべきだと言っている
 わけではない。客に不快な気持ちを与えるような、ドイツの悪いサービスを日本に持ち
 込む必要もない。提案しているのは、行き過ぎと思えるサービスをなくすことだ。
・日本で、収入が少なくても生活のゆとりを楽しめる社会を作るための第一歩は、過剰サ
 ービスをなくすことだと思う。 
・企業や商店が過剰サービスをやめることによって商品の価格を引き下げ、労働者の負担
 を減らすことは、政治が変わらなくても可能なはずだ。これは民間レベルで行うことが
 できる改革だ。
・我々は客として自分の都合ばかり考えていて、従業員の休む権利についてはほとんど考
 えていない。これも一種の甘えである。本来、客は決まった営業時間の中で買い物を楽
 しむべきであり、従業員が休み権利も尊重すべきではないだろうか。
・我々日本人は、会社に就職する時、人生という上演時間を会社のための仕事と、プライ
 ベートな生活との間でどのように割り振るかについて真剣に考えていない。「会社」と
 「自分」のどちらに多く時間とエネルギーを割くかについて、じっくり考えてみるべき
 ではないだろうか。 

おわりに
・金銭では測れない価値とは何か。それは穏やかな生活や自由時間が不当に制限されない
 こと、豊かな自然環境をいつでも享受できること、言論の自由などだ。
・ドイツでは法律や規則が厳しいが、他方で市民に多くの権利と自由を与えている。この
 国は日本のように信頼や人間関係に基づく社会ではなく契約社会なので、政府や企業は
 法律で保障された市民の権利や自由を侵すことが許されない。したがって、市民はお金
 では買えない「豊かさ」を守ることができるのだ。
・日本は契約社会ではないので、「お客さんの要望」とか「他社との競争に負ける」など
 の理由で経営者側が働く者の権利や自由を少しずつ狭めているような気がする。
・ドイツでは、「身体を壊したり家庭生活のリズムを乱したりしてまで、お金を稼ごうと
 は思わない。ほどほどでいい」と考える人が多い。お金だけでなく、金銭的に測れない
 豊かさを重視する社会なのだ。
・この「頑張り過ぎない、ほどほどの暮らし」を社会が肯定することが、収入がそこそこ
 であっても精神的な豊かさを持つことにつながると思う。