フィンランド 豊かさのメソッド :堀内都喜子

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この本は、今から14年前の2008年に刊行されたものだ。
フィンランドというと、私は「ノキア」と「ムーミン」ぐらいしか思い浮かばない国だっ
たのだが、「豊かさのメソッド」という言葉に惹かれて読んでみた。
この本を読んで、フィンランドの特徴をあげると次の4つになるのではと思う。
・効率を最優先にしている。
・国際競争力で常に上位にランキングされている。
・教育に力を入れており、国際学力調査では、常にトップレベルにある。
・税金が高い福祉国家である。

フィンランドは、国土の面積や人口数、鉱産資源などを考えると、それほど恵まれた国と
は言えないと思うが、それを徹底した効率主義でカバーしているようだ。税金の多くを教
育に投資し、総合的に国民の教育レベルを高め、そして徹底的に国民の効率を高めていく。
それが国際競争力や国際学力で常に上位にランキングされるという結果となって現れてい
るのだろう。そして、その高い効率性がゆとりを生み、豊かさとなって現れていると言え
るのだろう。
フィンランドは、日本のような和やメンツや本音と建前、上下関係などで物事を決めてい
たのでは、とても国として成り立っていかないという切実な背景があるのだろう。
このことから考えると、日本もどん底まで追い込まれないと、いつまでも非効率な古い文
化はなくならない気がする。

フィンランドはでは、税金が高いのに国民からそれほど不満が出ないのは、税金が何に使
われているかが、国民に対して明確にされており、非常に透明性が高いからのようだ。
このため、政府は国民からの信頼が非常に高いという。
これに対して日本は真逆だ。日本では、税金が何に使われているのかはっきりわからない
ケースが多い。一見、もっともらしい項目があげられているが、その中身はとなると非常
に不透明だ。
その最たるものが、最近問題になっている国の補正予算などにおける「予備費」だ。
何兆円単位の予備費を計上し、その使い道は内閣の閣議だけで決定される。何兆単位の税
金の使い道が、特定の人だけの独善で決められてしまうのだ。
これでは国会の存在意味がなくなるのではないのか。国民は納得できないのは当たり前だ。

不況回復に際しての政治家の役割は、国がいかに危機に瀕しているかということを国民に
知らせ、それを克服するには大きな変化、痛みが不可欠であるということをわかってもら
えるように説くことだ。そして状況を判断し、もっともふさわしいといえる決断を迅速に
行うことだという。
日本の政治家は、どの程度この役割をはたしているのだろうか。日本の政治家は、国民へ
の説明はしないし、正しい状況判断もできないし、当然ながら迅速な決断もできていない。
そう感じるのは、私だけではないだろう。

過去に読んだ関連する本:
豊かさとは何か
お金とモノから開放されるイギリスの知恵
お金がなくても平気なフランス人
ドイツ人はなぜ、年290万円でも生活が「豊か」なのか


はじめに
・1995年の夏に旅行したときのフィンランドの印象は「なんて豊かな国なんだろう」
 であった。絵のように美しい森と湖。そしてそれをゆったりと楽しむ人々がいる。
 
不思議でとても豊かな国
・フィンランドの面積は日本から九州をとったくらいで、そこに約五百万人の人々が暮ら
 している。一平方メートル当たりの人口は、日本の340人に対し、フィンランドはな
 んとたった17人。いかに人が少ないかがわかる。日本のような人ごみ、混雑というの
 は、フィンランドではほとんど目にしない。
・首都のヘルシンキは、北海道よりもはるか北に位置していることになるが、常に氷に閉
 ざされた国というわけではなく、春もあれば夏もある。意外にも夏は平均気温20度前
 後で、ときには30度まで気温が上がることもある。でも湿度が低いので、日本の蒸し
 暑さとは違い、軽井沢のような爽やかな暑さである。冬は寒く、マイナス20度以下に
 なることもあり、まさに、鼻の穴も凍る寒さが経験できる。
・フィンランドの公用語は二つ、フィンランド語とスウェーデン語である。ただ、実際に
 スウェーデン語を母語としている人はわずかに5パーセントほどだ。
・フィンランド語は外国人にとっては「習得なんて絶対無理、不可能」と思えるほどだ。
 どうしてフィンランド語はこんなにむずかしいのだろうか。それは、他の北欧の言語が
 英語やドイツ語に似ているのに対して、フィンランド語がまったく違う語族に属してい
 るためである。  
・多くのフィンランド人は英語がはなせるので、フィンランド語が話せなくても生活でき
 る。  
・のんびりした小さな国フィンランドが、なぜか意外なところで近年世界の一位になって
 いる。その一つが国際競争力である。
・フィンランドが高く評価されたのはまず教育だった。そして国家財政の管理がうまくい
 っていることと、政治が腐敗しておらず、とてもクリーンであることだった。
 ちなみにフィンランドは、世界でもっとも政治腐敗がなく、汚職の少ないクリーンな国
 の一つによく選ばれている。
・フィンランド人の平均的な勤務時間は朝8時から午後4時まで、フレキシブルな勤務時
 間を設けているところが近頃多く、基本的に労働時間は7時間半。それ以外はあまり残
 業をしない。 
・労働者は決められた有給休暇はきちんと消化する義務があり、職場は従業員に、強制的
 にでも有給休暇をとらせなければならない。
・フィンランドは社会人でも夏休みを4週間以上取ることが当たり前ということだ。
 じつはトータルでみると、日本人もフィンランド人も有給休暇の日数はそれほど変わら
 ない。ただ、日本人は小分けして取ったり、消化せずにいる傾向があるのに対し、フィ
 ンランドではまとめてとるのが普通のため、やたらと休んでばかりいるようにみえる。
・フィンランドに住んでいて、「景気がいい」と感じたことはあまりない。その理由は、
 失業率の高さだ。フィンランド人にとっても外国人にとっても、この国で仕事を探すの
 は本当に大変である。 
・フィンランドには「新卒」という雇用枠がないため、私の友人の多くが大学を卒業して
 も「経験がない」という理由で就職先が見つからず、履歴書を50社以上送っても、ぜ
 んぜん返事が来ないなんていう話もざらにある。ましてやフィンランド語のできない外
 国人が就職するのは至難の業で、1年も2年も仕事を探している人もいる。それに仕事
 が決まっても最初は時間給で短期の契約、というのが多い。
 
・1990年代のはじめ、フィンランドは経済危機に襲われた。いわゆるフィンランド版
 バブル崩壊である。
 1993年12月、失業率はなんと約20パーセントにまで上がった。街には失業者が
 溢れ、実際、食べ物を買うお金もないという人が食糧援助に列を作って並んだり、地域
 によっては、家できちんとした食事が摂れない子どもたちのために学校が週に一度、朝
 食を用意したりするほどであった。
 また、銀行危機を受け、金利が急騰した。今は4パーセント台の住宅ローンが、当時は
 14パーセント台までになった。
・大不況に陥ったとき政府は、銀行がつぶれては経済が破綻してしまうということで銀行
 の改革・再生を行なった。銀行の統合・不良債権処理、そして政府はこれからも銀行債
 務の支払いを保証することを議会で決めた。
・その次にしたのは、フィンランドの他の国にはない強さと弱点を考えることだった。
 そしてたどり着いたのがIT産業である。すでにIT産業のよい基盤がフィンランドに
 は あったので、それをよりいっそう伸ばすために、投資を惜しみなくすることにした。
・一方、他の部分では徹底的に予算の切り詰めを行なった。それは企業であっても同じで、
 一番大切なものはなんなのかを考えながら、厳しいリストラや切り詰めを行なっていっ
 た。そしてそれが、一時は失業率が20パーセント近くまで上がる原因となった。
・不況克服のために次に必要だと考えたのは、この変化や改革を担う人材への投資だった。
 他の国と対等にわたりあえる良い人材を創るためには、国民全体の教育水準を高めるこ
 とが必須であった。   
・すべての国民に高等教育の機会が与えられるように様々な制度が整えられていった。ま
 た、教育を担う教育者の質を高めるため、教育者の再教育も盛んに行なわれていった。
・不況回復に際しての政治家の役割は、「国がいかに危機に瀕しているかということを国
 民に知らせ、それを克服するには大きな変化、痛みが不可欠であるということをわかっ
 てもらえるように説くことだし、そして状況を判断し、もっともふさわしいといえる決
 断を迅速に行うことだ」という。 
・当時、こういった改革や政府の対応に、多少の不満を国民は抱いたものの、結果的にこ
 の改革はうまくいき、フィンランドはわずか数年で不況から復活した。
・フィンランドは、気持ちや感情といったソフト面よりも、じつに「効率の良さ」が優先
 される。どこの企業も機関も徹底的にITや機械を導入し労働力を抑え、効率の向上に
 努めている。インターネットを介した授業や会議、病院のカルテの電子化も日本より早
 く普及している。
・他にお金の電子化も進んでいる。銀行は利用者にネットバンキングを盛んに勧め、窓口
 は縮小する傾向にある。 
 フィンランドではネットバンキングの普及率が高く、国民の4割以上が常にこれを利用
 している。
・機械化による効率向上に加え、無駄な労働力をできるだけ省いて効率向上に努めること
 にもフィンランドは積極的だ。
・効率の良さといえば、フィンランドの企業や学校で行われる会議のスタイルにも同じこ
 とがいえる。単刀直入に本題に入り、各自の考えや意見をストレートに述べて、その場
 で決定、解散となる。感情面や人間関係の構築といったことにはあまり時間が割かれな
 いため、一見、冷たくも見えるが、効率はとてもいい。

学力一位のフィンランド方式
・フィンランドと日本の義務教育の違いを聞かれるが、全体的な制度はそれほど変わらな
 い。日本と同じで小学校は6年間、中学は3年間。新学期は秋に始まる。ただ日本とは
 違い、型にはまっておらず、柔軟性がある。
・日本との大きな違いの一つはクラスの規模である。一クラス平均25人ほどで、少し田
 舎に行けば複式学級が当たり前だ。
・フィンランドの時間割には日本にない科目もある。それは「宗教」だ。ただ、宗教とい
 っても、これは「道徳」の意味も含まれている。自分の属する宗教を深く知り、中学に
 なると世界の宗教について基本的なことを学ぶ。
・ちなみにフィンランド人の8割はルーテル派キリスト教徒だが、イスラム教や仏教など、
 他の宗教に属する子どもたちは、その自分たちの「宗教」の授業を受ける権利がある。
・フィンランドの高校進学率は日本に比べると低い。というのも、高校には、本当に勉強
 をしたくて、将来さらに進学したい人だけが通うところという意識があるためだ。
・フィンランドは総合読解力で、常にトップレベルだ。しかし、学力調査でトップになっ
 たフィンランドは、日本より、どの国よりも授業時間が少ないのだ。
・フィンランドの「教師の質の高さ」は、どの教育研究者、教師たちに聞いてみても、必
 ず一番に返ってくる答えだ。
・フィンランドでは、教師は伝統的に人気の高い職業だ。給料は仕事の大変さ、責任の重
 さに比べれば、けっして高いとはいえない。
・フィンランドでは、詰込み式の勉強ではだめだという考えがあり、できる限り自分たち
 が問題意識をもって勉強に取り組むように子どもたちを教育している。
・フィンランドの試験は、日本でよくある穴埋め式や選択式というのはなく、基本的には
 論述式である。
・教師の質の高さの次にフィンランドの教育の良さとしてあげられるのは、生徒間、学校
 間の学力差がないということだ。私立の学校は存在せず、どこの学校もほぼ一律に同じ
 レベルとなるよう努めている。
・授業に遅れ気味の生徒は、「特別授業」を受けることができる。これは普通の授業中、
 同じ教室、または他の教室で、ほぼマンツーマンで勉強をみてもらうというもの。他に
 も放課後に受けることができる特別補習授業もある。どの子に特別授業が必要かという
 ことは、子どもたち自身または教師の判断で決められる。
・生徒間の学力差が小さいといっても、男女間は多少の差がある。どこの国でもそうだろ
 うが、基本的に女子のほうが男子よりもできるようだ。とくにフィンランドでは女子が
 好成績だ。どうして女子のほうが成績が良く、向学心が強いのか、その理由はよくわか
 らない。こういった男女の差は読書量からも見て取れる。フィンランドの女の子はとに
 かく本をたくさん読む。 
・もともとフィンランド人は老若男女問わず読書好きで、図書館の利用率は世界一といわ
 れる。フィンランド人の80パーセントが図書館に足を運び、1年に借りる本は一人当
 たり平均20冊である。
・フィンランドの教育の素晴らしさで、外国人の私が身に染みて感じるのは、フィンラン
 ド人の語学力の高さである。基本的に二、三十代の人たちは、ほぼ全員英語が話せる。
 英語以外にも、フィンランド人は、スウェーデン語、さらに他の言語ができるのが当た
 り前だ。 
・どうしてこんなにフィンランド人は外国語が話せるのか。それはなんといっても教育だ。
 小学校二、三年生から第一外国語として多くが英語を学び、小学校六年生ともなると、
 英語で簡単な日常会話ができるようにまでになっている。
・フィンランドでは、大学といわれるものに総合大学と高等職業専門学校がある。高等職
 業専門学校は、日本の専門学校に近い感じだ。入学試験はそれほど難しくなく、そこで
 実用的で専門的な知識を学び、三年から五年で卒業すると、日本でいう学士の学位が得
 られる。 
・総合大学は、学科によっては日本以上に入るのがむずかしい。合格率も1割以下が当た
 り前。一浪、二浪というものもよくある話だし、逆にすぐには大学受験をせずに、海外
 に留学してから、あるいは一度社会人を少し経験してから大学に入る人も多い。
・ちなみに、フィンランドで大学に入学する学生の平均年齢は23歳。またフィンランド
 には徴兵制があるので、普通は高校を卒業すると男子は軍隊に行き、最低半年をそこで
 過ごす。フィンランドの大学生の平均年齢は25歳。けっこう年をとっている。
・大学の授業料はすべて無料なので、中には10年以上かけてゆっくり修士を取る人もい
 れば、効率良く勉強して3年で修士を取得する人もいる。
・大学内の医療が無料になり、公共交通機関の運賃や学内での食費が半額になる。
・だがフィンランドには、もっと驚くべきサービスがある。それは、政府がフィンランド
 人の学生に与えている生活援助だ。17歳以上の学生であれば、一人暮らしであろうと
 親と住んでいようと、海外に住んでいようと援助が受けられる。その額は状況によって
 違うが一人暮らしの大学生であれば、勉強援助金、住居手当あわせて月額平均約500
 ユーロの生活援助が受けられる。この援助は、人数に制限もなければ、返済義務もない。
 親の収入も関係ないので、ほとんどの学生が利用している。フィンランドの学生用アパ
 ートの家賃は約3万円ほどだし、ほかに贅沢な生活をしていなければ、この生活援助だ
 けでなんとか生活していける。一応、援助が受けられるのは最高55ヵ月間と制限があ
 るものの、学生ローンや他の援助システムが整っているので、こちらの学生は金銭面で
 親にまったく頼っていないのが実情である。

・フィンランドでは、勉強するのは何も子供や大学生だけではない。日本と違って、大人
 になってからも、しかもが家庭を持ってからも、勉強する人は多い。
・こういったフィンランド人の勉強熱心な背景には、超がつくほど学歴社会という現実が
 ある。この学歴社会というのは日本とは少し意味合いが違い、出身校の名前や偏差値が
 重要だというわけではなく、フィンランドではどこで何を勉強したかというのがとても
 重要視される。 
・職場でも即戦力を求められるので、大学の名前よりも、専攻や経験がものをいう。逆に
 いえばその勉強をしていないと、その分野の仕事が得られない。
・失業率が高く、就職がむずかしく、リストラの不安が常につきまとうという厳しい現実
 があるフィンランドでは、今ある仕事を守り、ステップアップしていくにはいやが上に
 も自分の能力を磨き、知識を身につけていくしかない。

税金で支えられた手厚い社会
・フィンランドは、ヨーロッパの中でも物価が高いことは有名だ。ただ、じつはこれらの
 値段は税金の占める率がかなり高い。食品であれな17パーセント、他の商品サービス
 では22パーセントの消費税がかかっている。たばこ、お酒はそれ以上、ガソリンにお
 いては値段の約60パーセントは税金だ。
・所得税の税率もかなりのものである。税率は20パーセント、少し給料が増えると30
 パーセント。手元に残るお金はわずかだ。
・でも税金はたしかに高いと皆、思っているが、不満の声はあまり聞こえてこない。
 税金がいったいどこに使われているのかわかりにくい日本に比べれば、フィンランドの
 システムは、目に見える形で税金が自分の生活に戻ってくる。
・フィンランドでは子育てをしながら男性と同じように仕事をしている女性も多い。夫婦
 共稼ぎが当たり前なフィンランドでは、なんと就学前の子どもを持つ母親のうち80パ
 ーセントがフルタイムで働いており、パートタイムで働く母親はわずかに12パーセン
 トにすぎない。   
・子育て支援が手厚く、女性が強く、経済的にも精神的にも自立しているフィンランドで
 は、その反動なのか離婚が多い。結婚にとても慎重で、結婚の前に同棲をして様子をみ
 るのは当たり前になっている。それに異議を唱える人はほとんどいない。
・フィンランドの人口密度は日本の何十分の一だ。田舎では森林業や農業に従事していて、
 職場にあまり女性との交流がない男性も大勢いる。さらに、フィンランドにはお見合い
 や結婚紹介所といったシステムはないので、相手は身分で見つけなくてはいけない。し
 かし、私のみる限り「深刻な嫁不足」というのはあまり感じられない。 
・ではどうやって知り合うのか。フィンランドで、男女が出会う場所の一番人気は「ディ
 スコ」「パーティー」、または「バー」だ。こういった場所はどんな田舎に行ってもか
 ならず見つかる。ディスコやソーシャルダンス場には、ダンスを楽しむだけではなく、
 相手を探すために来る人で週末はいつも一杯だ。
・また、少し古い方法だが、新聞や雑誌に友人募集の広告を載せるというのもフィンラン
 ドではいまだによく使われている。「女性の友人募集・・・」こんなメッセージは、毎
 週、新聞や雑誌でよく目にする。とくに農業、園芸関連の雑誌には、田舎や農業に憧れ
 て、「田舎の男性、農家の男性の恋人募集」といった女性の広告がよく載っている。農
 業や畜産ではけっして女性の人気職業ではないが、田舎の生活に憧れる女性は少なくな
 い。 

・この国には親との同居とか、三世代同じ屋根の下で暮らすという考えがほとんどない。
 18歳を過ぎて家を出てからは、よほどの事情がない限り親との同居はしないし、親の
 ほうも同居したいとは思っていない。たとえ同じ街に住んでいても親とは同居しないの
 が当たり前だ。その後は結婚しても、どちらかの親が亡くなっても、親が病気になって
 も基本的に「同居」という考えはフィンランド人にはない。
・「いくら自分の親でも自分の生活に口出してほしくないし、ましてや結婚相手の親だっ
 たら、たとえいい人たちでもうまくいきっこない」と皆言う。親も親で、早く子どもが
 独立して家を出て、夫婦二人だけ、自分たちだけの静かな時間を過ごすことを望んでい
 る。それに住み慣れた家を離れてまで子どもと同居しようとは思わないらしい。 
 介護が必要になったらその道のプロがすればいいこと、たとえ親子であっても親には親
 の、子どもには子どもの人生があると、フィンランド人は驚くほど割り切って考えてい
 る。そしてそれぞれ独立した人間として、お互いそれほど干渉せず、つかず離れずの関
 係を維持しようとしている。
・フィンランドでも社会の高齢化が進んでいる。移民の少ないフィンランドでは、いずれ
 労働力不足に陥る可能性があり、また年金も問題の種となる。
・じつはフィンランドは以前、早期退職を奨励していた。とくに1990年代はじめ、深
 刻な不況に直面したフィンランドは失業率が上昇し、九にも不況を乗り切るために早期
 退職措置や若年層の雇用促進を図った。その結果、高齢者の就業率が減少したのだった。
 当時の平均退職年齢は58歳であった。
・しかし、近年、経済が安定しているフィンランドでは、よりいっそうの成長には経験豊
 富な高齢者の力が必要だと感じはじめたようだ。
 年金制度を見直し早期退職の奨励金を減らし、高齢者の労働力の活用に関して様々な取
 り組みがなされた。  
・しかし、そうはいっても人々の意識は簡単には変わらない。これまで早期退職を奨励し
 てきたせいか、私の知る30代、40代の人々は、早期退職を夢見ている。日本人に比
 べるとそれほど仕事人間でないフィンランド人は、ずっと働き続けるよりは、時期がき
 たらやめて、自分の好きなことに時間を費やしたいと感じているようだ。それぞれ定年
 後の夢を持っていて、「退職したら、好きな園芸をしたい」「大学院で博士論文を書き
 たい」「別荘を建てたい」など、様々だ。
・福祉国家のなせる業なのか、社会保障制度を絶大に信頼しているのか、老後のお金の心
 配をする人は少ない。ただでさえ、将来のためにお金を貯めるという感覚がフィンラン
 ド人には欠如しているが、退職後、お金のためにどこかに再就職、という考えは毛頭な
 いようだ。 

日本と似ている?フィンランド文化
・フィンランド人の主食はジャガイモとパンだが、彼らに好まれるパンは独特なもので、
 日本のものとはかなり違う。黒くて、少し固くて、味のあまりない、どちらかというと
 少し酸っぱいライ麦のパンが主流なのである。日本人を含め外国人は普通その味があま
 り好きではない。
・そしてもう一つのフィンランド人の大好物は「サルミアッキ」だ。これは黒く、グミの
 ようなもので甘しょっぱい、なんともいえない味のお菓子だ。日本の某番組で「世界一
 まずいお菓子」として紹介されていたという。
・フィンランドでは歴史的にみて他のヨーロッパ諸国のような宮廷文化といえるものがな
 かったためか、食文化はそれほど重要視されてこなかったのだろう。例えばフィンラン
 ドでは学校や職場のランチは30分ほどと短いし、外食もあまりしない。きちんとした
 食事は1日1度だけで、あとはパンやおかゆ、ヨーグルトですませる人も多い。とにか
 く胃の中に何か入れればいい、といった感じである。
・フィンランドはコーヒー消費量世界一を誇る。1日、6,7杯、コーヒーを飲むのは普
 通らしい。フィンランド人にとって、コーヒーメーカーはどこの家にも職場にもある生
 活必需品である。インスタントコーヒーはまったく使わない。
・フィンランドには酔っ払いがたくさんいる。けっして人に強要したり、イッキ飲みなど
 といった習慣はこちらにはないが、お酒を飲むとなると、皆、ただひたすら食事なしで
 飲み続ける。フィンランドのバーには日本の居酒屋のようなつまみはほとんど用意され
 ていない。食事はないし、おつまみもないし。皆ただひたすらビールを飲んでいるだけ。
 
・フィンランドでは、一年中、よっぽど寒いとき以外は毎日、赤ちゃんは外でお昼寝をす
 る。これはれっきとしたフィンランドの伝統的な赤ちゃんの育て方である。
 赤ちゃんにたくさん服を着せ、帽子をかぶせ、手袋をはめさせ、そして厚着でもこもこ
 になっている赤ちゃんを寝袋にくるみ、乳母車の中に入れてそのまま軒先に出す。
・そんなに寒いのにどうして外でお昼寝させるのか。その理由は、外のほうが空気がきれ
 いなためだという。   
 とくに冬は室内で暖房などを使うため、空気がよどみがちになる。外は常に空気が新鮮
 なので、肺が鍛えられ、赤ちゃんのためいいいのだそうだ。
   
・フィンランド人はある程度の収入を得るようになるとすぐにアパート、または一戸建て
 を購入、リフォームにとりかかる。しかもリフォームは自分達でするのがフィンランド
 流だ。また、自分でするのはリフォームだけではない。フィンランド人は家さえ自分た
 ちで建ててしまう。
 
・自然の近くで過ごすためにフィンランド人は別荘によく行く。別荘というとお金持ちが
 持つもの、とわれわれ日本人は思いがちだが、フィンランドで別荘を持っているのはご
 く普通の人々だ。最低4週間ある夏休みのうち、数日、中にはまるまる一ヵ月を別荘で
 過ごす、というのは典型的なフィンランド人のライフスタイルといえる。
 都会の忙しい生活、仕事から離れて自然の原始的な生活に戻ると、すべてが忘れられて、
 リラックスできるらしい。
 
・密接な関係、そしてより高いサービスを要求している日本に対し、フィンランドはビジ
 ネスはビジネスという、さらっとした関係を理想としている。農耕民族で常に周りの多
 くの人々との関係を重視してきたせいか、「皆」を大切にし、相手がこうしてくれるだ
 ろう、という甘えや、白黒ではなくグレーな部分をもつ日本とは違い、フィンランドは
 冷たいほどに白黒がはっきりしていて、各自のテリトリーが明確である。
・損得や人間関係においても古い過去から遠い将来まで視野に入れている日本に比べ、今
 を大切にするフィンランド。日本では今は損をしてまでも、後々のためにお客様のため
 の「サービス」を重視するが、フィンランドにはその感覚があまりない。それに全員の
 意見の一致や和を大切にする日本独特の意思決定の方法、メンツ、本音と建前、上下関
 係といった日本の文化がフィンランドにはわかりにくい。

おわりに
・たっぷりの自然とゆったりとした時間の流れ。これがフィンランドの良さである。
・社会福祉制度が整っていて、日本ほど労働時間が長くなく、職場と家が近いフィンラン
 ドでは生活にゆとりがある。 
・それに、治安もいいし、仕事がなくても何とか生活ができ、将来のためにお金をあくせ
 く貯めなくても路頭に迷う心配はない。仕事の成功や昇進よりも、家族の生活や自分の
 時間が大切だと思っている。
・ただ、見方を変えると、競争心に欠けていて、のんびりしすぎ、と思えるふしもある。
・最近、フィンランド人の若者は海外に飛び出したり、移住したりする人が増えている。
 その理由は「フィンランドは静かすぎて、刺激がなく退屈」とのことだ。