「お金とモノから開放されるイギリスの知恵」 :井形慶子

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 戦後、日本はアメリカ文化や生活様式を手本にして大量生産、大量消費の社会となっ
た。でも、そんな大量消費社会に身をおいてきて、「果たしてこれでいいのだろうか?」
と今の自分の生活や社会のあり方にふと疑問を感じることが多い。
 例えば、どうでもいいような機能を追い求めて、まだまだ十分に使えるのに新しい携
帯端末に次々に替えていく。これも科学技術の発展だという見方もあるが、これによっ
て大切な地球資源を食いつぶし、大切な地球環境を破壊していく。人間の欲望はどこま
でも拡大しとどまることを知らない。それは人類破滅への道をまっしぐらに突き進んで
いるということを薄々は感じていながら止めることができない。
 日本も以前は質素、倹約を美徳としてきた国である。でも今は、そのことはすっかり
忘れさられてしまった。日本という国は、どうしてこのような国になってしまったのか。
他の先進国の国々も日本と同じなのかと思っていたら、どうもそうでもないらしい。
 この本を読むと、イギリスの一般庶民の生活の中には、今でもしっかりと質素、倹約
の精神が残っているのだと感じる。イギリスの生活には、今の日本人が見習うべきこと
がたくさんあるように感じる。
 日本人は今まで、あまりにもアメリカという国ばかりを見てきたのかもしれない。そ
ろそろアメリカから目をそらし、もっとヨーロッパの国々に目を向け見習うべきである
ような気がする。

はじめに
・本来、人として本当に欲しいのは数時間浴びる脚光よりも、生涯を貫く幸せのはずだ。

イギリス人カップルの新婚旅行にショックを受ける
・結婚すらビジネスになってしまった私たちの国。企業が考え出す暮らしやレジャー。
 その中で無意識に金を使い行動していくうちに、私たちは何かに管理され動かされて
 自分の意思を失ってしまったのではないか。

どんなに貯蓄しても安心できない日本人
・100円ショップやアウトレットは増え続け、大型ショッピングセンターは東京近郊
 に続々とオープンしている。何かを買おうと思えば、24時間コンビニでキャッシン
 グができ、若い世代は簡単に借金を重ねる。そして収拾のつかないまま物欲にほださ
 れ、日々の暮らしには粗大ゴミと徒労感だけが残っていく。
・私たちには貯金があって、住む場所があり、たとえわずかであっても一定の収入があ
 るのに、いつも「これでいいのだろうか」と不安にかられ、心から満足できない。

セールまで待って欲しい物を買う
・日本人の態度は、値打ち品や本当に必要なものを期限限定で安く買うイギリス人の考
 えとはまったく違う。買い物にイギリス人のような手間ひまをかける感覚を私たちは
 とうの昔に忘れてしまった。欲しいものはローンを使って分割払いで買えばそれです
 むと思うし、何より日本では時間をかけて考えたうえでお金を使うという感覚が、子
 供から大人まで総じて薄れているのだ。

理由なき金は使わない
・70年代、日本が大量消費時代を迎えたとき、国内最大手の広告代理店は、あるキャ
 ンペーンを担当したスタッフにこう呼びかけた。「もっと使わせろ、捨てさせろ、ム
 ダ使いさせろ、季節を忘れさせろ、贈り物をさせろ、ペアで買わせろ」どこか背筋が
 凍る話である。

古い物を売り買いするシステムが機能している
・イギリス人は通常、築100年以上経過した古い家に暮らしている。何世代かにわた
 って住み継がれた家は、その折り折りの住人のライフスタイルが色濃く投影されてい
 る。

古くても高品質な物を求める
・イギリスでジャンクショップやセカンド(古道具屋)を利用するのは以外にもミドル
 クラスの人々だという。なぜなら、彼らは高品質なものにたえず興味を持っているか
 らだ。
・日本では最新の完璧な形のものしか中古品として認めない。車も家電もそうだ、中古
 品として市場に流れるのは新品同様のものが中心だ。なぜなら日本人は、古くて質の
 良いものより新しいチープなものに価値を置くから。
・イギリスでは普通の家庭の中にあるものがレベルに応じて再び「年代もの」という付
 加価値を帯びて売られていく。そして、それを買い、改めて使う習慣が確立されてい
 る。

日本人はイギリス人から見るとみんな同じスタイル
・19歳で初めてイギリスを訪れたとき、話には聞いていたものの同世代の女性の質素
 な格好にとてもショックを受けた。

着こなしを工夫し、メンテナンスを大切にする
・日本では家の中に無意識のうちに服がたまっていく。そして、その大半は活用されな
 いままゴミとなって捨てられていくのだ。75年にブランド志向が始まって以来、わ
 が国ではおしゃれにお金をどんどんつぎ込もうという流れができた。

人間関係を円滑にするため金を使うという発想がないイギリス人
・日本ではコミュニケーションを円滑にするためお金を包み、物を贈る。こんな発想が
 イギリス人にはないのだ。プレゼントはあ思いや心が伝われば、それがどんな内容の
 ものであっても構わないとする。

結婚式のプレゼントは新郎新婦の必要なもに限る
・日本人の生活習慣は合理性だけでは割り切れないと分かっていてもムダが目に付いて
 仕方がない。人々は交際するほど金が無くなるシステムの中で暮らしている。お年玉
 にしても金の価値が分からない子どもにいきなり大金を与える。お葬式に出ればお返
 しにシーツが届き、夏と冬にはいきなりノシ付きの洗剤や缶入りの海苔がケースで届
 く。私だってこんな生活用品が、リサイクルショップやフリーマーケットでいつも叩
 き売りされているのを知っている。そろそろ日本人は誰もが嬉しがらない、負担にす
 ら思うお金のやりとりや贈り物をやめればいいのに。

高齢者福祉制度に信頼を寄せる
・イギリス人が貯蓄を残そうとする考えは日本人に比べて極めて薄い。日本人一人当た
 りの貯蓄高は865万円、対するイギリス人はその四分の三の632万円と言われて
 いる。
・一般のイギリス人の年収は日本人よりはるかに低く、大卒の初任給で218万円。大
 手企業の重役や政府の要人でさえも年収は875万円と言われている。これはEUの
 中でも最低ライン。日本ではあまり報じられないが、イギリス人は所得が低いからこ
 そ夫婦共に働くワーキングカップルも常態化しているのだ。そんなイギリス人が高額
 の貯蓄を作り出すことは不可能だ。それでも歳をとり、老いていくことに日本人のよ
 うな危機感や不安感を持つ人は少ない。
・イギリス人は貯蓄があると、老人ホームに入居する時も有料になってしまう。イギリ
 ス政府はそういう施設にまず貯蓄のない者から無料で入居させていく。貯蓄高がゼロ
 だと無料で入居でき、あとは残高に応じて一定の費用を払いのだ。
・何よりイギリス国民であるかぎり、仮に政府に食べられない、住むところがないと訴
 えれば、緊急の措置がとられ、政府は国民を見殺しにせず、手をさしのべる。ホーム
 レスや移民ですら政府が自分たちの命を最終的に守ってくれることは知っている。だ
 からイギリス人は貯蓄をして自分で自分の老後を何とかしようとは思わない。
・現在17.5%が高齢者であるイギリスでは、サッチャー政権の頃から徐々に老人施
 設を作り始めた。いずれやってくる高齢化社会に向けてイギリス政府は高い税金を国
 民から徴収しながらゆっくりと老人問題に対し、環境を整備してきたのだ。その結果、
 60歳以上の高齢者には医療や住まいが保証された。

老後の心配がなく好きなことを楽しめる
・日本が「高齢化社会」「老人問題」を本格的に検討し始めたのはごく最近のことであ
 る。あわてて山積みになった問題を解決しようとしたため、老人ホームなどの施設の
 建設を急ピッチで進めなければならなくなった。ところがそれに対する十分な予算は
 なく、政府が大金を使うか、老人のことなどほとんど考えていない働きざかりの世代
 からもっと税金を取るかといった差し迫った事態になっている。その結果、老人問題
 は各家庭の問題のようにすり替えられ、ここでもまた個人が奮闘して親の面倒を見た
 り、自分の老後を心配したりするはめになっている。
・イギリス人から見れば、日本の病院はビジネスの場になってしまっている。だからこ
 んなことが起きても当然だと考える。イギリスでは病院は政府のもの、ひいては国民
 のものだから、そこで利益を追求する論理はまかり通らない。
・このような日本とは違う社会のしくみに守られ、イギリス人は国に絶対的な信頼を置
 いている。こんな土壌があってこそ、不安に駆られることもなくゆったりと老後を楽
 しむライフスタイルが生まれるのだ。
・それに加えてイギリス人は、生活できればそれで良しと考える国民性を持っている。
 精神的な充足感には生涯尽きない興味を示すものの、貯蓄高を増やすことには日本人
 ほど価値を置かない。なぜなら彼らは、金と離れたところで幸福を構築する術を長い
 歴史の中で受け継いできているからだ。
・一方、私たちは、貯蓄が1000万円近くあっても根底にはいつも不安と焦りがある。
 どこまでいっても「これでいい。もう十分だ」と思えず、齢をとるごとに新たな心配
 が湧いてくる。その根底には国や社会を信用できない日本の不透明な現実と、金に
 とらわれすぎた日本人の姿が横たわっているのだ。

家はその土地から生え育つもの
・「新築」「豪華仕様」という宣伝文句が飛び交う日本の家と違って、イギリスの家は
 いずれも築年数の経った古い家ばかりだ。築100年以上経過した建物は今なお立派
 な現役の住宅として活躍している。古い家だから当然補修も多い。床下暖房、浴室乾
 燥機など最近のハイテク設備を加えるのも難しい。けれでも、イギリス人はそんな不
 便さが住み心地の悪い家という評価につながらないと考える。お金をかけず、新しい
 物を買い揃えなくても豊かな暮らしをつむぎ出すことはできる。

魅力的な家は手をかけて完成する
・家は持った時がはじまり。家作りはオン・ゴーイング・プロジャクトだとイギリス人
 は考える。魅力的な家は住み手が手をかけていくことによってやがて完成すると。だ
 からこそ彼らは家の補修から、壁にどんな絵を何枚掛けるかまで、いつも家にかかわ
 り続けようとする。

利便性を排し、街並みを守る
・朽ちた屋根の色、石造りの外壁が統一され、どこまでも続く街並み。そこに点在する
 公園やパブリックフットバスと呼ばれる遊歩道。街の中心には中世さながらの教会が
 ありその周辺を取り巻くようにハイストリートと呼ばれる商店街が広がっている。日
 本ではとうの昔に失われた絵画のような風景がイギリスでは壊されることなく維持さ
 れているのだ。
・これは国や自治体による功績が大きい。イギリスでは街並みを統一するため、玄関ド
 アや窓など外に面した部分を勝手に改装することは禁止されている。また、ナショナ
 ルトラストなどの環境保護団体では価値のある建物のみならず、小さな町や村まで丸
 ごと買い上げ、その保存に努めている。
・こんな公的な発想に日本は長年目を向けてこなかった。その結果、私たちの暮らす街
 や住まいは、ますます貧困になっている。
・長く欧州で暮らした経験のある日本の国会議員は「日本の街をおかしくしているのは
 コンビニ、自動販売機、看板の三悪だ」と嘆いていた。
・住宅地にはタバコや飲料水の自動販売機があり、電信柱や雑居ビルの看板が醜悪な影
 を落としている。これは街並みという公的な発想をもたない日本だからこそ起きてい
 るのだ。
・変化の好きな日本人。変化が進歩だととらえる日本人の感覚は、商店一つない閑静な
 住宅街を維持しようと思うより、そこで何かが始まることを期待する。

「うちの隣はやめて」という考え方
・家とは敷地内の建物のことと考える日本人に比べイギリス人は住環境、街並み、そこ
 で発生する暮らしのすべてに充実感、幸福感を見出している。

友人と食事をする時はレストランではなく自宅で
・イギリスでもこの20年間で大きく社会が変わった。日本と同じ凶悪犯罪も増えてい
 る。20年前は都市部以外ではドアや窓は開けっ放して暮らしていた。が、今ではイ
 ギリスの治安を信じて育った老人ですら、安全に対して神経質になっている。
・それでも自宅の玄関ドアの鍵を見知らぬ宿泊客に手渡すイギリスのB&Bでの殺人事
 件や強盗事件を耳にしたことがない。信頼とホスピタリティーによってイギリス人の
 住まいは多くに人々に開放されている。それによって観光立国としての魅力が増して
 いることを考えると、これ以上誇れる社会資産はないと思えるのだ。
・イギリスのみならずヨーロッパでは、友人・知人と食事をする際、レストランに集う
 のではなく自宅に招くのが原則だ。これは、レストランや料亭を指定して人と食事を
 する日本人の態度とは大きく違う。そもそもイギリスの家は人と出会う場所なのだ。
・日本人は家に人を頻繁には招かず、ましてや自宅を見知らぬ他人に開放することなど
 しない。たとえそんな行為が収入につながると分かっていても他人が家に入ってくる
 ことに強い抵抗感や不安をおぼえるからだ。
イギリスに点在する個性豊かな農家の暮らし
・イギリスでは、若い時に都市で働き資金を作り、仕事を辞めたら農家を手に入れて少
 しづつ改装し、理想の住まいを作り出すことが人々の憧れとなっている。
・それでも農家を中心に展開されるであろう自然と共生する静かで平和な暮らしは、
 を愛するイギリス人にとっては理想のライフスタイルになっている。
・1980年代以降、イギリスの経済は上向きになり、誰もが小金持ちになっていく実
 感を持った。不動産は値上がりし、テクノロジーは発達していった。ところが、それ
 によって生活の質は貧しくなり、面白みにかけてきた。だからこそ自分の暮らしの中
 から何かを始めたい、生み出したいという考えが、一般の人々の中で強くなってきた。

農家の敷地にアトリエやティールームをつくる発想
・いつか農家で暮らしたいと多くのイギリス人が憧れを抱く背景には、収入や資産に踊
 らされず豊かな暮らしを維持したい地道な考えがあるのだ。

日常の食事は必要な分だけ食べる
・日常の食事は必要な分だけ食べる。イギリス人の食事に対する姿勢はこんな考えが土
 台にある。

毎日食べきれないほどのおかずは幸福の象徴?
・日本では食事は子育ての中でも優先課題だ。毎日、栄養のバランスを考え、手をかけ
 た家庭料理を作ろうと考える親は多い。これが達成できなければ、やがてわが子は栄
 養不良で正常な暮らしができなくなると考え、盲目的な努力を続けようとする。
・けれどもそれに反して、日本の保育園や小学校では食べない子どもの数がますます増
 えてきた。「あれが食べたい」を繰り返し、欲しいものが毎日食卓に並ぶ。そんな環
 境を当然と思い始めたとき、食べ物に対する感謝やおいしいと感動する心は自動的に
 失われていく。
・「食べきれないほどのごちそう」という表現があるが、私たちは日常の食事にまでこ
 んな光景を盛り込もうとしている。それが幸福な家庭の象徴だと信じる中には、食品
 すら消耗品だと考える、日本人の暮らし方の貧しい一面が色濃く投影されていると思
 えてならない。

シンプルな料理でも食事を楽しむ
・経済の変化は日本に根づいてきた街の顔を押し流してきた。街並み、文化、暮らし。
 けれども、それは戦後日本の高度経済成長だけが理由だろうか。
「うまい」「まずい」にこだりすぎる日本人
・戦前、日本人はイギリス人同様、シンプルな料理を食べ続けてきた。そして、粗食と
 呼ばれる質素な食事で育った人々は、今の高齢化社会を形成している。ところが、戦
 後の経済成長と共に続々と登場した目新しい食べ物は、高級車やブランドの服を買う
 のと同じ豊かさのサインとなった。
・一方、一般のイギリス人は日本人ほど料理の中身にこだわらない。それがパブやカフ
 ェを同じ形でとどめている最大の理由だとイギリス人は誇る。しかもこれは味覚だけ
 の問題ではない。

外出のときのみ装う日本人、家でもおしゃれなイギリス人
・イギリス人は若くて心も体もみずみずしく輝いている時には、それを最大限に生かし、
 質素なおしゃれを楽しみ、年をとるごとに化粧や服で自分に彩を添える。
・私たちはこんなていねいで自然に沿った生き方を忘れてしまい、ひたすらおしゃれに
 お金をつぎ込み満足を得ようとする。これを良しとする価値観には底なしの不安がふ
 くまれているのに、私たちはそこから逃れられないでいる。
・「自然」−ナチュラル・ビューというイギリスの美的感覚と対極のところで作り出さ
 れる日本的にきれいさには、つねに経済や暮らしに対するバランスが欠如しているよ
 うに思えてならない。

イギリスの家庭に常備されるラベンダー精油
・スポーツジムなどに頼らず、自然の原理を利用しながら健康を維持するイギリス人を
 見るにつけ、私は健康食品に依存し街中のマッサージ屋に駆け込む日本人のあり方に
 疑問を感じる。

本物の知識を大切にする
・アロマセラピーなど海外から伝わるこんな商品が日本ではたちまちブームとなり、い
 つの間にか暮らしの中に定着してしまう。身近な素材で私たちを活性化させるものは
 国内にもまだまだ残されているのに、そこに目を向けるきっかけがないまま目新しい
 情報を追い続けるのだ。
・例えば風邪を引いたらしょうが湯を飲み、みかんを食べてビタミンを補給するなど、
 ごく単純な知識ですら若い日本人は知らない。しょうがの効用に耳を傾けるより、街
 の薬局で山積みになって安売りされている栄養補助食品を信じるからだ。

入院した時、頼りにする相手が違う
・イギリス人は日本人ほど長く病院に入院しない。これは日本人の平均病院滞在日数が
 36日なのに対して、イギリス人は15日という数字を見ても分かる。
・発生した出来事によって、個人で解決するか、夫婦で立ち向かうか、あるいはプロの
 力を借りるか。10代から自立をうながされて育ったイギリス人は、日本人に比べ折
 り合いの付け方を心得ている。ところが、対人関係をふくめて日本人は親との決別が
 きっちりできていない。だから、何かあるとすぐ実家の延長の身内に依存するのだ。

イギリスでは金と医療の質はまったく関係ない
・イギリスでは金と医療は医者にとっても患者にとっても何の因果関係もない。日本人
 のように人の紹介で有能な医者に手術を執刀してもらおうとか、いくらか包んで有名
 大学病院の入院を優先させてもらおうという発想は、医療は金だという考えから生ま
 れているのではないか。
・こんなことは医療を人権、あるいは社会福祉という観点からとらえるイギリス人には
 理解できない。こんな発想が進めば、健康はお金で保証されるという理不尽な社会構
 造ができてしまう。それは弱者を蹴落とし、自分さえ良ければいいという自分本位の
 生き方を引き出すもとになるのだ。
・イギリス人は医療の中の人間関係において、どんなに世話になっても物をあげること
 をしない。そんな行為を必要としない国のあり方は、今の日本とは対極の価値観に支
 えられている。
・現在、日本の病院に入院している患者の半分は65歳以上の高齢者といわれている。
 職員数は2分の1から4分の1と、入院患者に対して職員が大幅に不足しているのだ。
・一方、国も税金を投入し整備すべきシステムを病院に任せ、勤労者の医療保険で処理
 しようと、この問題をずっと放置してきた。だから医療保険制度が老人医療費に圧迫
 される悪循環が起きているのだ。
・そんな状況に手が打てない国政のもとで、複数の生命保険に加入する日本人は個人の
 金で命や健康の保証を得ようと考える。
・こんな日本人のあり方は、どんな状況になっても最後は国が命を守ってくれると信じ
 ている多くのイギリス人とうらはらなのだ。

孤独な人の奇妙な習慣?
・イギリス人は金を使わず休日を楽しむ。これこそが日本人の休日の過ごし方とは決定
 的に違う点だ。私たちは休日を前にするとあわてて銀行に現金を引き出しに行き、遊
 ぶための資金を用意しないと安心できない。これは日本人が人や自然との交流を休日
 の中心に考えていないせいだ。

イギリスは「人が恋しい社会」
・都市に働く日本人は、イギリス人に比べて日々とても強いストレスを受けていると思
 う。イギリスでは夜になるとほとんどの街が眠ってしまう。ロンドンのピカデリーな
 ど都市部以外は夕方の5時以降、通りには誰もいなくなってしまうのだ。ところが日
 本は夜になっても寝静ならない。とくに東京はいつも人混みがあって、それが深夜に
 なってもとぎれない。日本人がこんな社会で一人になりたいと思うのは当然だと思う。

長期休暇をとって心身ともにリフレッシュ
・ちなみに典型的なアメリカ人が1年に2週間しか休まないのに対して、イギリス人は
 1年間に4週間以上の休暇をとるのが一般的とされている。とくに中高年以上になる
 と長期休暇をとることは健康にも良いと信じられている。これは日常から離れた休暇
 で友人や家族、自然と接触することによって、ストレスが大きく発散されるからだと
 いう。

買いたい物はすぐに手に入れなければならないのか
・イギリスではこのインターネットでショッピングをしようという人はアメリカに比べ
 てとても少ない。なぜならイギリス人は、画面ではなく実際に店に足を運んで買い物
 をすることを好むからだ。そこにはゆっくり欲しい物を探すウインドウショッピング
 も含まれている。
・一方、日本では買うと決めた物をその場ですぐに手に入れないと我慢できないと思う
 人は若い層を中心にとても増えている。だからこそ日本ではインターネットショッピ
 ングが急成長している。物欲に支配された社会システムはさらに加速しているからだ。
 けれども、そんなスタイルは確実に私たちの生活感覚をむしばんでいるのだ。

イギリス人のパブと日本人の居酒屋の違い
・日本では酒が飲みたいから、語り合いたいから飲みに行くのではなく、とりあえず憂
 さを晴らすために酒が必要だという。だから酒場は職場から直行した背広姿のサラリ
 ーマンであふれ返っている。
・日本では気が向いた時にフラリと立ち寄り、そこに仲間がいるといった場所が少ない。
 イギリスのパブのようにコミュニティーとなっている飲み屋はますます街から消えて
 いる。
・日本には斬新で刺激的な遊びのスポットが数多く存在するが、コミュニティーは見当
 たらない。私たちが人と交流を持つためには、わざわざ場所を設定し仲間を集めなけ
 ればならない。そんな行為に疲労や孤独はいっそうつのり、それが日常的なストレス
 になっていく。

上質な番組、家族そろって楽しめる番組が主流
・多くの在日イギリス人は、日本のテレビ番組は内容が粗末で面白くないとけなし、欧
 米諸国に滞在している日本人らも帰国後、「もどってきて一番腹立たしいのは、低レ
 ベルな日本のテレビ番組をこの先ずっと見続けなければいけないことだ」と口を揃え
 て批判した。

テレビは買わずにレンタルが多い
・イギリス人の一見質素な余暇の過ごし方を見ていると、逆にあまりにも余暇を充実さ
 せようと、そこに資金と労力を使い続けてきた日本人の奮闘ぶりが実は本当に必要な
 ものだったのかと疑問に思う。人が豊かさ、幸せを感じるときに、「余暇」は欠かせ
 ないキーワードだからこそ、日本とは違う流れに沿ったイギリスのテレビやパブの根
 底に何が含まれているのだろうと探りたくなる。
・私たちは、余暇に対しても斬新で刺激的なものを捜し求めて走り回っている。だが、
 その一方で日本人の幸福感や充実感はますます消耗してきた感がある。それは今、私
 たちがこれしかないと思っていたスタイルに実は限界があると、多くの人が気づき始
 めたせいではないだろうか。むしろ身近な暮らしに中に私たちが再び輝きはじめるき
 っかけがあるはずだ。

家庭の中心は親子ではなく夫婦
・結局、日本の夫婦は男と女ではなく子供の父親、母親として成り立っている。そこが
 結婚しても男と女の側面を喪失しないイギリス人との違いだ。イギリス人は結婚して
 も夫婦で一緒に遊ぶ。子供から離れて夫婦が向き合うことで結婚生活をリフレッシュ
 することは何より大切だと考えるからだ。しかも親と子はわずかな時間、定期的に離
 れることによって大人になった時、親離れが自然にできるようになる。

結婚とは一生を賭けた挑戦
・イギリスで年配の夫婦が手をつないで散歩したりショッピングをする姿に感動する日
 本人は多いが、あれは幸福な夫婦関係を周囲にはっきり証明するためだといわれてい
 る。あるイギリス人のビジネスマンは、「結婚は永遠な挑戦だ」と言った。
・ちなみに英コンドームメーカーのデュレックス社のアンケートによると、意外にもイ
 ギリス人は不倫にかけてはヨーロッパ一であることが分かった。不倫体験をしたこと
 があると答えた人は、フランスの36%、イタリアの38%を抜いてイギリスでは
 42%に達した。また、低学歴の人より大卒者が浮気をする傾向にあり、社会的地位
 の高さや経済力が女性に強くアピールすると見られている。

離婚率が高いのは、愛が冷めれば同居する意味がないから
・日常レベルの小さな努力を積み重ね、男と女であり続けるイギリス人の結婚は、日本
 に比べるとはるかに離婚率が高い。互いの愛がなくなれば一緒に居続けることは無意
 味となり、仮に家のローンや子供がいても結婚は終了するからだ。そんなハイリスク
 を抱えればこそ、愛情表現を積み重ね、言葉や態度で相手への思いを告げるのだ。

労働の多様化にスムーズに対応するアイデア
・毎年、収穫期になるとワーキングキャンプに参加する友人夫婦は、大学卒業後1年間
 だけロンドンの不動産会社で働いていたことがあったという。夫婦はそこで「シック
 ・ビルディング・シンドローム」になってしまった。これはエアコンのため、機密性
 を高くしたオフィスに長時間いると、勤労者が病気にかかりやすくなるというもので、
 イギリスのメディアはしばしばその危険性を指摘してきた。
・「シック・ビルディング・シンドローム」と診断された友人夫婦は、精神的・肉体的
 ダメージを受け続けながらオフィスビルの中で働き続ける人生より、わずかな金銀で
 あっても自然の中で農作業にいそしみ、多くの友人を作る楽しみに満ちた生き方を選
 んだ。
・実は、イギリスには彼らのような生き方を選ぶ層が確固として存在する。パターン化
 した人生からはずれ、オリジナルな家庭や仕事のスタイルを維持する人々だ。
・彼らは定職に就かないことがアウトロー的生き方とは少しも思っていない。そんな自
 覚を突きつけられる土壌がイギリスにはないからだ。「結婚したから」「子どもがで
 きたから」「いい年になったから」と日本のような外的条件で自分の人生を律したり、
 望まぬ方向転換を押し付けられることはない。たとえ夫婦であっても個人と個人が折
 り合いをつけながら共存するイギリスと日本との大きな違いがここにある。
・日本では3Kと呼ばれる嫌がられる肉体労働を担う外国人就労者に対しても厳しい締
 め出し政策を貫いてきた。彼らこそが日本の土木、製造業の人手不足をおぎなってい
 る現実があっても雇用主である経営者は違法だと訴えられる。外国人を働かせたから
 と罰せられ、労働者たちは母国へ強制送還される。彼らは日本人が嫌がる仕事を真剣
 に欲しているのに、それを需要と供給のバランスだと認めた対策を講じない。どんな
 に雇用したい事業主がいても、そんな状況に国が手を貸すどころか罰則で締め出して
 いくのはいったい誰にとって有益なのだろうか。
・イギリスでは農場の人手不足にワーキングキャンプというエンターテイメント性を持
 たせ、正当なビザを発給することで公的な意味づけをしている。国内外から働き手を
 集めるこんな発想には、私たちが思いつくもしないオリジナリティが隠されているの
 ではないか。

今も生きる階級差別が生んだ言葉
・今だに階級制度が残るイギリスだが、100年以上前は上流階級と労働階級の差は社
 会の中で絶対的だった。たとえば肉屋の店員は労働階級だから、気安く顧客である上
 流階級、中流階級の人たちに話しかけることができない。

毎日を楽しく生きていく知恵
・イギリスの階級制度は現在のところ同じ制度を持たない日本人から見ると理解しがた
 い面が多い。

幼年時から徹底して「自己責任」をしつける
・日本とイギリスでは子育てのポイントが違うから、子どもの態度も違う。10歳と6
 歳の子どもを持つ母親である彼女は他のイギリス人の親同様子どもが7歳になる頃か
 ら家庭の中で責任を与え、それをやりとげさせることで独立心を育てている。
・イギリスの子どもたちの一般的なマナーは日本人よりはるかにいい。日本の子どもは
 学校の成績が優秀ならたいていのことは大目に見られる。親もとにかくいい成績をと
 るように子どもを助ける。そこが教育のポイントとなっている。
・ところがイギリスの親は、他人にどう接するか、家の中や外でどう振舞うのか、マナ
 ーにかなりのポイントを置く。その結果、たとえ子どもであっても、街中で欲しい物
 を前にしても自制できるし、人間としてのバランスを欠くことなく成長できるのかも
 しれない。

親に世話を焼かれ、管理されて育つ日本の子ども
・長い間放置してきた無自覚な日本の子どもたちに、たとえば家の仕事を手伝えと言っ
 たところで、子どもたちは何もしないのではないか。そもそも母親は家族の召使いじ
 ゃないのに日本では多くの夫や子どもが家事を手伝わない。仕事が忙しい、勉強が忙
 しい、バイトが大変だ。妻や母親に対する言い訳をいくらでも作り出す。それでも良
 しとされてしまうのが日本の社会なのだ。その結果、日本の子どもたちは責任感や我
 慢の感覚を身につけないまま大きくなってゆく。
・日本では仕事や自分の付き合いが忙しいからと、小さな頃から子どもと遊ぶ父親がと
 ても少ない。父親は家庭のビジターになっている。これでは父親として子どもを教育
 できるはずがない。
・かつてはイギリスでも、子どもと父親の関係は希薄だった。だが、そんな親子関係は
 戦後大きく変わらざるを得なくなった。なぜなら、家庭から精神的に遠ざかっていっ
 た父親は家庭の一員という自覚が持てず、帰宅しても何をしていいのか分からなくな
 ったからだ。その結果、自分の居場所が見つからないと家族に対して責任放棄する父
 親に多くの家庭が破綻していった。この反省から、イギリスでは戦後、父親と母親の
 あり方が再び見直された。
・ロンドンでは夕方4時以降帰路につく車で幹線道路は大渋滞を起こす。イギリスでは
 社会的に責任が重かろうが、一般の会社員だろうが、仕事が終わったら一目散に家に
 帰る。日本で夕方の4時と言えば、これから本腰を入れて仕事をするかという時間帯
 だろう。

社会人になった子どもが親によりかかるのは許されない
・イギリスに限らず、欧米では18歳になると子どもたちは親の家を出て独立をしてい
 く。
・イギリスでは多くの大学生が奨学金等を利用して自力で大学を卒業する。
・日本でもたまに自力で大学を卒業した若者に出会うが、まだ数少ないためか本人も周
 囲も美談の人としてそんな若者を必要以上に褒め称えている。
・問題は大学を卒業し社会に出てからだ。イギリスでは社会に出て仕事を持ったら、親
 と食事に行っても子どもがお金を支払うのは普通のこととされている。逆に言えば、
 毎回子どもが食事代を親に支払ってもらっているとなれば、これは問題になる。イギ
 リス人は我が子であっても、親によりかかるのは真っ当な大人にすることではないと
 認めないからだ。
・何もしないでは何も得られないイギリスの親子関係。小さい頃から家族の一員として
 の責任の自覚と働きを求められ、成人してからは親に迷惑をかけない金銭感覚が当然
 とされる。日本のような「子ども天国」では、こんな感覚は冷淡だと思われるのかも
 しれない。日本では子どもに物を買い与え、干渉する行為が子どもをケアすることに
 なっているから、親が子どもと対等に渡り合うのはどこかで非情だと思われている。
・そのため、日本の親はイギリスの良識では考えられない接し方に歯止めをかけられな
 い。たとえば成績が上がったら欲しい物を買ってやるといった交換条件を親子関係の
 中で頻繁に使うことは、その顕著な表れだ。時間や気持ちにゆとりがなく、気ぜわし
 いと思えば、子どもとの対話も面倒になり手短に交渉が成立する方法を選ぶ。金や物
 をちらつかせないと子どもは親の言うことを聞かず、親も形のあるものを使ってしか
 威厳や意思を示せなくなってしまった。

スーパーエリートには学問以外に高い人間性が要求される
・オックスフォード大学やケンブリッジ大学は中世における修道院から発展し形成され
 た大学である。何よりもキリスト教的な倫理観を持った人間教育を目的に掲げ、その
 ために哲学、神学、古典学を学ぶことが基本となっている。
・一方、日本の大学では明治以降、近代化を急ぐあまり経済学、法学、工学などの実学
 に力を注ぎ過ぎてしまった。その結果、東大など有名大学では肝心の人間教育がおろ
 そかになり、まるで官僚養成大学もどきになってしまった。世間を騒がすニュースを
 見ていると、こんな日本の大学は倫理観や社会通念がきわめて薄く、実社会に対応で
 きない人間を作る温床のものだとも思える。そんな画一的な教育の流れを受けて、民
 間会社でも官庁でも政界でも、意思決定する判断力すらなく、ビジョンもなく、責任
 もとろうとしないリーダーが続々と誕生したのだ。本物の知性が養われないまま肩書
 きだけは与えられた人々だ。

大学教育が実社会で生かされるイギリス
・世界中のアメリカンスクール、インターナショナルスクールでアジアの子どもたちは
 総じて成績が良い。たいてい韓国人の生徒が一番で日本人は二番目だ。イギリス人や
 アメリカ人の子どもの成績は下の方である。ただし、アジアの子どもたちはナチュラ
 ルインテリではないと言われる。授業態度、宿題、テストの成績は良いのだが、エッ
 セイを書かせたり、スピーチをさせるとなかなか力を発揮できない。
・多くの日本人は子どもの頃から大学入試を目指して時間を費やすのか。その上、日本
 の大学は今や本物の学問とはほど遠く、在学時間の4年間は社会に出るまでの時間稼
 ぎの一時待避所となっている。
・それでも多くの日本企業は大卒という肩書きを持った学生が中卒、高卒の生徒より優
 れた働きぶりを見せてくれると信じている。

本の評価が「面白かった」だけでいいのか
・日本では神田に代表されるような古書の町はあるものの、一般には古本といえば古紙
 と同意語であり、ゴミ当然と考える人が増えている。だから人に見向きもされない古
 本で町おこしをする発想が生まれてこないのだ。
・出版不況と騒がれる日本では、古本を即現金に換金できる大型古本チェーン店だけが
 業績を伸ばしている。
・本を読み捨てる私たちは、貴重な読書体験を人と分かち合うことなく葬り去っている。
 使い捨て社会の恐ろしさは家庭にある本までもが簡単に捨てられることだ。日本では
 家庭でも社会でも教育費に莫大なお金をかけているのに、一冊の本すら大切に扱われ
 ない矛盾がある。そして、そんな社会のツケは確実に後世に引き継がれているのだ。

桜の開花に関心があるからといって花好きとはいえない
・日本では、自然があまりにも暮らしとかけ離れた場所にある。だから私たちは遠足、
 ピクニック、ドライブと自然と触れ合うためにわざわざ計画を練ってどこかに出かけ
 なければならない。
・街中の公園は狭く、汚く、遊歩道といっても自転車が人を突き飛ばすように走ってく
 るため、のんびり散歩もできない。結局、日本では街の中に人が心から落ち着き、癒
 される場所がなくなってしまったのだ。だから親が子どもに自然界のことを伝えたり、
 外遊びの楽しさを教えるのは困難を極める。その結果、にわかアウトドア派に転向す
 るより方法がなくなる。
・日本は花粉症情報から紅葉情報まで自然界のすべてをスケジューリングしようとする。
 イギリスではいちいち花が咲きます、葉が色づきますと人々にアナウンスする必要は
 ない。イギリス人は花や木のわずかな変化を楽しみに毎日を生きているからだ。たと
 えば6月にはイギリス全土でバラ園のバラが咲き始める。でも花は咲く時に咲く。だ
 から去年の開花時期より今年のバラの開花が1週間早かろうが1ヶ月遅れようがそん
 なことはどうでもいいのだ。そもそも、ニュースにして報じないと自然に目を向けな
 い、日本のそんな習慣がおかしいと思う。
・日本で働くイギリス人ビジネスマンが、一度だけ同僚に誘われ上野公園の花見を体験
 した時のことだ。同僚は口々に「桜の下でビールを飲むのはうまい。これこそ日本文
 化だ」と得意になって自慢したという。普段、花には何の興味もないサラリーマンが、
 桜の時期になると花見をしようと躍起になる。だが、このイギリス人が見回すかぎり、
 公園にいる人々は泥酔するほど酒を飲み、大声で歌い、そんな見物客をアルバイトの
 売り子が、「ビールはいかがですか」とウロウロするのみだったという。
・花見に集まった日本人の中のどれだけの人が、桜の美しさを堪能していたかわからな
 い。前日からシートを持ってきて場所まで必死に確保するのに、公園に着くやいなや
 桜には見向きもせず飲めや歌えの大騒ぎをする。
・桜の開花宣言が日本列島を縦断する日程をチェックしては公園に繰る出す日本人の暮
 らしは、ますます自然と縁遠くなっている。
・花が咲く、葉が紅葉するといったスケジュールまで報じられなければ自然に目を向け
 ない私たちは、とっくに自然界という大切な学習の場を失ってしまったのではないか。
・日本の学校は生徒を評価する祭にテストの成績が半分、残りの半分は「態度」「関心」
 「意欲」で測ろうとする。だから授業中、「分からない」「面白くない」といった様
 子をなるべく教師に見せないよう、子どもたちは本当は不思議に思っていること、聞
 くべきことを隠すことを見につけていく。

自分の損得ではなく、社会や他人に目を向ける姿勢を
・イギリス全土に点在するチャリティショップを運営しているのは、主に経済的にもゆ
 とりのあるミドルクラスの女性たちだと言われている。結婚して、家庭の主婦として
 暮らす女性たちは、毎週わずかな時間をチャリティショップの店員として働くことに
 ささげる。
・かつてイギリスのミドルクラスの主婦たちは、「金のために働くのはいやしいこと」
 という理念に縛られていた。「見返りを求めず働く」、これこそがミドルクラス、ア
 ッパーミドルクラスの人たちの責任と誇りだったのだ。
・ただし今一度強調したいのは、いかにミドルクラスといえども、イギリス人の年収は
 日本人のそれと比べるときわめて低いということだ。イギリス人の平均月収は税金や
 保険料を差し引くと手取りにして約20万円である。オックスフォード大学の教授ク
 ラスでも手取額は年収400万円前後である。それでも彼らは提供できる労力や時間
 を惜しまずささげ、そこに喜びを感じでいる。
・不正なことをした場合、大人社会がそれをただす力を持っていれば、日本の学校で教
 師たちが教えている道徳教育も本物になる。けれど、自分さえよければいいと大人た
 ちが好き勝手なことをして、何の処罰も受けず放置されている現実を子どもたちは知
 っている。だからすべてがうそっぱちになってしまう。日本では大人が子どもに善い
 行いを見せていないし、そんな環境も不十分だ。
・イギリスのみならず、ヨーロッパは長い歴史の中で日本に比べゆったりと金を蓄えて
 きた。その中でチャリティも育った。ところがもともと貧しかった日本は第二次世界
 大戦後いきなり金持ち国になった。裕福に慣れていない国民がいきなり大金をつかん
 だら、二度と手放せなくなる。金がなくて貧しくみじめだった体験が根本にある日本
 人は、金さえあれば何でも手に入り、何でもまかり通る社会を作ってしまったのだ。
 他人を蹴落としても自分がのし上がろうとする社会。弱い者はいつも切り捨てられ、
 誰も他人をかえりみない。だからこそ日本人はいつも空しく人生に深い満足感を得ら
 れないのではないか。
・日本の基本はいつでも個人の得になるように世の中が動くことであって、決して社会
 や自分以外の他人に目を向けない。そこが問題なのだ。
・青少年の凶暴な事件に驚愕させられるニュースが相次ぐ日本は、物や金とひきかえに
 他人とのかかわり、共に生きる社会おn豊かさを捨ててしまったのかもしれない。

自分の頭で考え、自分の価値観で判断しよう
・ヨーロッパやアメリカには優先席というシステムはない。人々は席に座っていても、
 高齢者や妊婦が乗ってくると自然に席を譲る。こんな国で優先席というシステムは必
 要ない。

消費文化が日本人を快楽主義に駆り立てた
・かつてわが国では60年代の高いGNP成長を保証するために、生産した物を国民に
 買わせて消費を立ち遅れさせまいと国を上げて啓蒙した。
・「給料はそのうち倍になるから、新しい商品をどんどん買おう。そうすればあなたも
 豊かになれる」こんなキャンペーンに踊らされ、人々はまず、テレビ、冷蔵庫、洗濯
 機といった耐久消費財の神器にとりつかれ、70年代に入ると家電産業をGNPの3%
 に達する2兆円産業にのし上げた。
・こんな一連の成功に端を発した消費文化は、現代に至るまで日本人を自分のためだけ
 の喜びを追及する快楽主義へ駆り立てていったのだ。物欲や所有欲には終わりがない。
・しかも金がたまれば、欲しい物が買えれば満足できる暮らしは、いったん質素でつま
 しい生活を余儀なくされた時、見事に人間を混乱させる。貧相な服、古い家、金を自
 由にできない暮らしは、あたかも自分が風変わりなアウトローか低所得者にでもなっ
 たような敗北感を抱くきっかけとなる。そんな呪縛から逃れるためには、さらに金を
 ためて経済の基盤をもっと強固なものにしなければならない。
・ところが、どれだけ金をためても深い満足に到達できないジレンマや疲労感が現代に
 生きる日本人を襲っている。その上、面倒なことは避け、便利でスピーディーなもの
 が良しとされる社会では、自分の頭でじっくり考える行為すら簡略化しようと、分か
 りやすいガイダンスや表示が無限に必要になってくる。それにならって暮らしていけ
 ば、自分の意思は必要なくなる。だからこそ日本人は、人間も社会も薄っぺらで面白
 みがなくなってしまったのだ。

物にまみれてダメにならないために
・考える力、判断力に重点を置かない日本の教育システムは責任感や同情感を持たない
 リーダーたちを輩出してきた。問題意識を持たず要職につき、ガイダンスや規制にの
 っとって緊急事態にも対応できない。ケースバイケースはこの時も死語になっていた
 のだ。こんな事態に直面するたびに「平和ぼけ」と揶揄される日本人の心は粉砕され、
 平和とはほど遠い現実にいつも混乱していく。
・イギリスでは行政のトップが個人の暮らしを最優先に考える。物や経済だけでは満た
 されない、人間が豊かに暮らせる一番大切なポイントをイギリスのリーダーたちは決
 してはずさない。その底流には人に目を向け、人を助け、共に生きる社会の慣習がイ
 ギリスでは今でも崩せずゆるやかに継承されている伝統がある。
・「お金とモノから解放される」は、現在に生きる私たちの潜在的な願望であることは
 疑いない。裏を返せば、質素で上質な暮らしの実態を多くの人が垣間見たいと思って
 いるのだ。
・人との比較やブームへの追従ではなく、自分の考えで作り出す暮らしには経済や社会
 情勢に左右されない深い満足がある。そこに新しい活路を見出し、形あるものに振り
 回されない生き方を、今こそ始めていきたいものだ。
・豊かな社会というのは突き詰めれば、家庭、そして一人一人、個人の集合体なのだと
 いうこと。
・「シンプルライフ」とは単に整理することではなく、自分の価値観を一本化すること
 なのだ。
・自らのベクトルを定めるなら、お金をモノはその後に必要なだけついてくる。私たち
 が様々なしがらみから解放されるか否かは、一人ひとりが明瞭な価値観を持っている
 かどうかにかかっている。
・ビジネスの世界に身を置いていると、バブル崩壊以降15年の間に活動のリズムが変
 わってきたことがよくわかる。何よりも俊敏さが求められるようになり、ビジネスス
 ピードが格段に上がってきた。その要因をたどれば、この間に新たなグローバル化に
 波が押し寄せ、競争が一段と激しくなったことがあると思われる。競争に勝つために
 は他社よりも早く新製品を世に出し、市場を制しなければならない。本来時間のかか
 る製品開発も出来るだけ期間を短縮する。工場でのもの作りは、できるだけ間をおか
 ずに市場に出せるようにする。必然的に社員はどこの職場でも期限に追われ、余裕に
 ない仕事の進め方となる。そしてある時にふっと振り返ってみると、何かおかしいの
 ではという気持ちと共に、こんなことをしていて本当にいいのだろうかという疑問が
 湧く。
・人間は、本来個人ごとに望ましい生活のリズムを持っている。時間に追われ、自らの
 持つリズムと異なる生活パターンを長年続けていると、いずれは肉体の疲労のみなら
 ず、精神にも異常をきたす。実際、ビジネスの世界で心の病を持つ人が増えているこ
 ともその一つの現われと見ることができる。
・科学技術の進歩は本当に人々に幸せをもたらしていたかといえば、どうもそうではな
 いような気がする。科学技術が大きく進歩したこの百年を見ても、地球上で飢餓に苦
 しむ人の割合は大幅に増加していることが報告されている。物的な豊かさが格段に増
 大した反面、失ったものも大きかったと思う。まず精神的なゆとりを失った。また使
 い捨て文化を生み出した結果、資源の大量消費と自然の還元能力を上回る廃棄物や公
 害をもたらした。こうしたことが人々の生活に大きな変化をもたらし、これまでの生
 活パターンを見直さなければならないという反省にもつながってきている。田舎暮ら
 しを紹介したり、シンプルでお金のかからない生活を伝えるテレビ番組が人気を集め、
 地球環境保護や資源の再利用に向けて法律が整備されつつあることも、その現われと
 思う。「幸せとは何か」「豊かさとは何か」ということを、改めて問い直す時がきた
 ということだ。