性犯罪とたたかうということ  :小林美佳

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この本の著者は、かつて自分自身が性犯罪の被害者となり、大変な自己葛藤のすえ、勇気
をふりしぼってそのことを公表し、その後の二次被害とも戦ってきた人物である。また、
同じ性犯罪被害者からの声を聞き、寄り添う活動も続けている。
性犯罪被害にあった女性が声を上げるのは大変なことなのだ。それは今の社会が「声を上
げにくい社会」だからだ。このことは、男性にとっては、なかなか理解が難しいことなの
かもしれないが、現実なのだ。それは性犯罪被害を受けたことにより心も体も深く深く傷
ついた上に、声を上げたことにより、さらに社会や周囲から「好奇の目」を向けられたり、
「被害に遭ったのは自分にも隙があったからだ。自己責任だ」というバッシングを受けた
りという二次被害に遭うからだ。
最近でも性暴力被害を受けたことを公表した女性がいる。フリージャーナリストの詩織さ
だ。元TBSワシントン支局長の山口啓之氏から性犯罪の被害を受けたとしている。
女性が顔を出して会見して自分が性犯罪の被害を受けたと公表することは、並大抵のこと
ではない。よほど勇気のいるのことだと思う。しかし、この事件においても、「売名行為」
ではないかとか、所轄署がいったい逮捕状をとったにもかかわらずその後に警視庁刑事部
長の判断で逮捕が見送られたというが、それは山口氏が安倍首相に近い人物だからではな
いかと言われており、これによって安倍首相を貶めるためではないか、などというバッシ
ングを受けているらしい。これもいわゆる二次被害といっていいだろう。
性犯罪については、社会的にもようやく意識が変わりつつあり、法整備の面においても今
年(2017年)6月16日に成立した刑法改正では、「強姦罪を強制性交等罪」とし被
害者・加害者の性別を問わないことや、法定刑を「懲役3年以上から5年以上」に引き上
げた。また、これまでは被害者の告訴が必要だったものを「被害者の告訴が不要な非親告
罪とした。さらには監護者性交等罪を新設するなど110年ぶりの改革が行われた。もっ
とも、国会審議において、先に提出された法案が先に審議されるという慣例からいって、
この刑法改正法案が先に審議されるべきものであったが、安倍政権の強い意向で後に提出
された「共謀罪法案」が先に審議され強行採決されるという落ちがついたのであるが。
今までに何度も何度も言及されてきたのが「被害者の声の上げにくい社会」だった。それ
は法律面だけでなく、被害者をケアする社会の仕組みが整備されていないという点も大き
いと思う。まだまだ発展途上ではあるが、各地に性犯罪被害支援センターが整備されつつ
ある。
しかし、性犯罪の問題を解決するためには被害者の救援するだけでは、根本的な解決には
結びつかないと思う。問題は加害者側だ。男の暴力的な性欲だ。男の性欲は「種の保存」
のために男なら誰にでも備わっているものだ。普通の男は人間であるためにそれをなんと
か抑え込んで生きている。しかし、なかには性欲を抑える術を知らない男もいるのも現実
だ。性欲のおもむくままに暴力で自分の欲望を満たそうとするケダモノに近い男も少なが
らずいる。このような男たちはどうしたら減るのか。性欲を消す薬でもあるといいのだが。
義務教育の中に性欲をコントロールする術を教える教育を取り入れることも必要ではない
かと思うところである。この本を読んで、少しでも性犯罪被害を受けた女性の苦しみの理
解が深まる男性諸氏が、少しでも増えることを望まずにはえられない。

 <小林美佳さんのホームページ>
 http://www.micatsuki.com/index.html

 <全国被害者支援ネットワーク>
 http://www.nnvs.org/shien/list/

 <性暴力被害者支援情報サイト ぱーぷるラボ>
 http://purplelab.web.fc2.com/onestopcenter.html


はじめに
・私は普段は必死に働く普通の会社員です。仕事終えて帰宅すると、被害者たちから届く
 メールに返信し、休日は、取材を受けたりお話しに行ったりしています。
・前著「性犯罪被害にあうということ」が、自分でも驚くほどセンセーショナルな取り上
 げ方をされたのは、裏を返せば、多くの性犯罪被害者が自分の体験をひた隠しにし、い
 わば”ひっそりと”暮らさざるを得ない日本社会の現状を物語っているように思えます。
・性暴力犯罪の被害にあうと、それまでと同じ社会なのに、感じ方や見え方がどう変わる
 のか。被害にあってはじめて気づく、情報の少なさ。性犯罪被害者が生きる社会とは、
 どんなものなのか。  
 
10年前のあの日
・24歳の夏、私は見知らぬ男ふたりに強姦されました。事件から10年が経ち、今、私
 は性暴力の被害経験を持つ約3000人と交流するようになりました。
・性暴力の被害にあった人たちには家族にも友人にも話さず、いいえ、話せずにいる人た
 ちがたくさんいます。私自身、事件後は自分が汚れてしまったと思い込み、まるで自分
 は”社会の異物のようなもの”とさえ感じて、固く心を閉ざした日々を送っていました。
・性暴力が、被害当事者にもっとも深い傷を与えるのは当然です。でも、家族や恋人、友
 人など、周囲の人々の心にもまた、深い爪あとを残すのです。私がそれを理解するまで
 には、本当に長い時間が必要でした。
・私には「こうやれば早く立ち直れる」とか、「こうやって生きるべきだ」なんてことを
 言う資格も能力もありません。何しろ今でさえ、講演の前や、メディアからの取材を受
 ける際には、急に苦しくなって涙がこぼれて止められなくなり、トイレで吐いてしまう
 ことさえあるのですから。 
・強姦事件はピーク時の03年の2472件から減少傾向にあるものの、08年で年間に
 1582件も起きています。警察に届けられているだけでも1日に4件以上も発生し、
 それぞれに被害者、加害者がいます。被害当事者を取り巻く事情は千差万別で、ひとり
 として同じ人がいないのは当然のこと。みんなそれぞれの環境の中で悩み、苦しみ、葛
 藤している。
・性暴力というと、一般的には、私のように見ず知らずの男から乱暴されるというイメー
 ジが強いかもしれません。しかし実際には、加害者が知人や身内であることも同じ数ほ
 どあるのです。幼い頃から父親の性の対象になっていて、それが犯罪であることを知ら
 ずに育ち、思春期になってはじめてその異常性に気づく子。デートレイプといって、恋
 人にいやだと言えず、暴力的にセックスを迫られる若い女性。配偶者の性的嗜好に無理
 やり付き合わされる夫婦間レイプ・・・。おそらく、それらの多くは刑事事件としては
 立憲されておらず、したがって警察庁の統計には入っていないと思われます。
・加害者が知人である場合こそ、事実を誰にも打ち明けられない可能性は高くなるのでは
 ないでしょうか。家族のひとりが加害者である場合、他の家族にその事実を打ち明ける
 ことが簡単でないことは容易に想像がつきます。恋人が加害者である場合には、「自分
 が悪い」と思い込んで、誰にも打ち明けられない。実際、私にメールをくださる被害当
 事者の中には、そうしたケースが少なくありません。だからこそ、私は思うのです。性
 暴力に目をつぶり、「なかったこと」にしてしまいがちな、今の社会状況を少しでも変
 えるために、誰もが自分の被害を話せる場が必要であると。 
 
裁判員裁判を通して
・「強姦致傷」「強姦致死」「強盗強姦」などの場合は、裁判員裁判で審理が行われるこ
 とになりました。ここでひとつの疑問。これらの犯罪は裁判員裁判の対象になるのに、
 「強姦」や「強制わいせつ」だけだと裁判員の参加しない従来の法廷で審理されるので
 す。裁判員裁判は、人を傷つけたり死に至らしめるような重大犯罪に適用されることに
 なっています。だから「強姦致傷」は対象になって、「強姦」は対象にならない。怪我
 があるかないかでその「重大性」が変わるというのはなんとなく理解できます。でも、
 心に負う傷の深さは測れない。こんなところにも、法律の専門家や、法律を作った国会
 議員たちの、「性犯罪」に対する無理解が存在しているような気がするのです。
・私の元にメールをくれる被害経験者のうち、警察に届けを出せた人が50人にひとりく
 らい。私のように犯人が見つからない場合や、せっかく犯人が逮捕されても、証拠不十
 分だったり、被害者と加害者の関係が密接なことなどで起訴猶予あ不起訴になることも
 少なくありません。これまで私が知り合ったおよそ3000人の被害者の中で、刑事裁
 判まで進んだ人はたったの30人しかいません。   
・裁判員制度導入にあたって、裁判所や国会では、性犯罪被害者については「とくに考え
 ていなかった」そうです。つまり、専門家たちは、その特殊性についてはほとんど考慮
 することなく、性犯罪をも裁判員制度の対象としたわけです。
・専門家の中には、裁判員制度によって、性犯罪を憎む気持ちを国民が共有することが重
 要ではないか、という話をする人もいます。それでも、私は性犯罪が裁判員裁判の対象
 とされることに違和感を抱かざるを得ません。「一般の人から選ばれる6人の裁判員が
 加わることによって、加害者が増えてしまう気さえするのです」これはある被害者から
 の言葉です。裁判員の方には申し訳なく思うのですが、被害者がそう感じてしまうのは
 無理もないのです。私が加害者に何をされたのかを、詳細に知っている一般の人が少な
 くとも6人はいる・・・・そう考えたら、気持ちが悪い。守秘義務が課せられている云
 々の問題ではなく、自分のもっとも明かしたくないプライバシーについて、見ず知らず
 の他人が知っていることの不気味さといったらない。それに加え、性暴力は、それこそ
 他人には見せないような場所に傷を残すことだって少なくない。その傷の存在を知られ
 ることだけだって耐えられないという被害者は少なくないはずです。
・私は法律の専門家ではないし、裁判員制度について熟知しているわけでもない。私がや
 っているのは性暴力の被害者たちの苦しみや悲しみが少しでも小さくなるようにと、み
 んなの声を受け取っているだけに過ぎません。被害当事者の現実を伝える活動を続けて
 いるのは、あくまでその延長線上で、少しでも多くの人たちが被害当事者の声に耳を傾
 けてくれるようになってほしいと思っているからです。
・被害者が怪我を負っている場合、被告人は「強姦罪」ではなく「強姦致致傷罪」に問わ
 れます。「強姦罪」が親告罪、つまり被告者の告訴がないと起訴できないのに対し、
 「強姦致傷罪」は親告罪ではないため、警察は被害届が出されずとも、容疑者を逮捕す
 ることができます。一方、法律上「強姦罪」は3年以上20年以下の有期刑のため裁判
 員制度の対象にはなりませんが、「豪快致傷罪」は最高刑が無期懲役であるため、裁判
 員制度の対象になります。
・裁判員裁判のほうが、性犯罪に対してより重い判決を下す結果になっていることも事実
 でしょう。量刑が重ければ、つまり、犯人が刑務所に入っている時間が長ければ長いほ
 ど、被害者にとっては、犯人のことを忘れて、自分を立て直す時間を稼ぐことができる。
 それは一面、犯人の更生のための時間でもありますが、被害者の側から言えば、あくま
 で立ち直りのための時間なのです。
・なにしろ刑法では、強姦より、強盗のほうがずっと罪が重いことになっています。被害
 当事者にとってはなかなか納得しがたい事実ですが、これはつまり、法律の専門家がそ
 う見ているということです。したがって、法律の専門家でない裁判員が、被害者の目線
 に立って量刑を決めてくれることには、確かに意味がありそうです。
・生々しい犯行の様子についての朗読は概要のみにとどめるようにしたり、被害者の身元
 については、裁判員に対しても居住する市区町村と年齢だけを明らかにするにとどめる
 など、プライバシー保護には徐々に配慮が払われるようになっています。とはいえ、性
 暴力が、「性」という人間ももっともプライベートな部分にかかわる犯罪である以上、
 それを他に犯罪と同様に扱うことに、違和感を拭えない私がいます。たとえば性暴力の
 被害と加害の実態を知る検察官と裁判官がいる、性犯罪専門の裁判所を、まずは東京や
 大阪などの大都市につくることはできないか、などと考えたりもします。被害者が相談
 できる弁護士やカウンセラーを置き、被告人の弁護にも、性犯罪に詳しい弁護士があた
 る。被害者のプライバシーが守られるうえ、きちんと相談にも乗ってもらえる制度があ
 れば、今より被害を届けやすくなるかもしれません。

報じられない被害の現実
・性暴力は被害者にとって、最大の「裏切り」であり、尊厳を踏みにじられる行為なので
 す。私のように、見ず知らずの男に襲われた場合でも、「人から裏切られた」という事
 実がとても重くのしかかってきました。それは性行為を強要されたことによって抱いた
 「自分が汚されてしまった」という思いとは別のものでした。「人は人を平気で裏切る
 ことができる」ということを知ってしまったことに、とても深く傷ついたのです。恋人
 (だと思っていた人)に性暴力をふるわれる。それはまさしく裏切りであり、信頼して
 きた人が、実は人の信頼を平気で踏みにじることのできる人間だったと知ることなので
 す。やっかいなのは、客観的に見れば性暴力であることが明白なのに、恋人の要求だか
 らと、誰にも相談できず、我慢している人が実に多いということです。
・どこに相談に行ったらいいのかわからないのはもちろんですが、性暴力にはそもそも、
 「言わせない」という支配と威嚇の圧力が含まれています。性暴力は一般に、「聞いて
 はいけない」し、「言いにくいもの」「触れてはいけないこと」としてとらえられてい
 ます。だから性暴力を受けた被害者は、「言ってはいけないくて言えないこと」なんだ
 と自然と感じてしまうのが、今の社会ではないでしょうか。一方、加害者の側もそのこ
 とを知っていて、その行為や被害者の写真をビデオやカメラに撮ったりする場合もある
 ようです。「恥ずかしい」ことだから、「言ったらバカを見るのはお前だ」という圧力
 を用いて「言わせない」ことを強いるし、「言えないだろうから自分が罰せられること
 はない」とタカをくくった考え方をするのかもしれません。
・まして、加害者の半数が、被害者の「顔見知り」であるという現実。誰かに相談してく
 ても、相談相手もまた加害者を知っていれば、「まさかあの人がそんなことをするわけ
 がない」と思われるかもしれない。加害者が身内であれば、自分のほうが異常だという
 扱いを受けるかもしれない・・・・。加害者が、本来なら相談に乗ってくれるはずの親
 や兄弟、友人、恋人だったら・・・。被害者の苦悩ははかりしれません。とくに幼少期
 に被害の場合には、その行為の異常性にさえ気づかないことも多のです。自分にとって
 は「当たり前のこと」として、周囲に話すことなく、思春期を迎えていく。そうして被
 害者に植え付けられた「言えない」という思いは、それを抱えた人の葛藤と孤独をどん
 どん大きくしていきます。
 
秘密を抱える人たち
・性暴力の問題に真剣に取り組み、被害者にきちんと向き合ってくれる専門家が足りな過
 ぎるほど足りないのが現実です。「この人なら」「ここなら」と思える人や場所が、本
 当に少ないのです。その少ない場所、方々を紹介すれば、あっという間に相談者であふ
 れ、その少ない専門家が疲弊し、倒れてしまう。するとその周辺で助けを求めている人
 を救うことができなくなってしまう。少しでも多くの人を支援したいのに、助けられる
 人が限られているという理由で手を差し伸べられないというジレンマ。それを突き崩す
 には、少しでも多くの人々に、性暴力の実態について知ってもらうところから始めるし
 かないのではないか。それも、私が皆さんの声を聞き、できるだけお伝えしている理由
 です。
・相談する場所として、皆さんが思いつくのが警察だと思います。私が被害にあった10
 年前に比べると、警察を窓口とした横のつながりがずいぶん整ってきているようです。
 警察はDVの被害者を一時的に保護する「シェルター」という保護施設につながる情報
 を持っています。シェルターは、被害者を加害者から隔離することが目的であるため、
 その場所や連絡先は厳重に伏せられています。したがって、ネットでいくら検索しても、
 見つかることはまずありません。
・私のように、警察の方から病院に連れて行ったもらったっていいし、「この後どうした
 らいいの?だれに相談したらいいの?」と警察に聞いたっていいのです。10年前とは
 違い、警察も多くの情報を持ち合わせているはずです。全国に犯罪被害者支援センター
 もあるし、警察に「犯罪被害者支援室」なり部署や臨床心理士がいるところもあるので
 す。
・支援を受けるには、どうしてもどこかの機関に届けることが前提になります。ただ、そ
 うなると、これまで見てきたような「言えない」という壁が立ちはだかってしまいます。
 本当はひとりひとりの被害に沿ったコーディネートができるアドボケーター(付添人)
 がいたら・・・と私は思っています。でも現状はまだそうできる人がいないから、24
 時間対応の警察や病院を窓口として必要な支援とつなげてもらうしかないのです。
・また、ほとんどの市区町村には、「女性相談センター」のような窓口が設けられていて、
 性暴力被害の相談にも乗ってくれることになっています。ただし、自治体によっては、
 役所の人であってもその存在を知っている人が少なくて、窓口で聞いてもちんぷんかん
 ぷんな対応をさえたり、あるいは相談員が、DVについては詳しくても、性暴力につい
 ては経験が浅いなどという場合もあるようです。
・そのほか、ほとんどが期間限定ではありますが、地域の弁護士会などが電話相談に応じ
 るホットラインを設けることがあり、そうした機会を利用するのもひとつの手だと思い
 ます。
・性暴力の被害者支援の情報はとても少ない。私自身、理解してくれる第三者とめぐり合
 うまでには何年もかかっています。ときには「なぜ、わかってくれないの?」という、
 怒りと悲しみに落ち込むこともありました。
・事実、簡単には出会えないかもしれません。でも、被害者を支えようとしている人は、
 確実にいます。自分に合った支援の方法を持っている人と出会えることを信じ、探すこ
 とを、続けてほしいと思います。私はそうした情報が、できるだけ早く、被害当事者に
 届くよう、活動を続けていきたいと思っています。同時に、「打ち明けられる社会」が、
 一日も早くくるよう、教育機関をはじめとする関係諸機関への働きかけも、仲間ととも
 にやっていきたいと考えています。

被害者同士がつながる意味
・被害経験を持った者同士は、共有できる思いがある・・・というより、被害にあったこ
 とを特別視せずに「自然」でいられるという意味で、被害当事者同士のつながり合うこ
 とはとても重要だと私は感じています。自分と似た経験を持った人を安心して話すこと
 で、鏡のように、自分を少しだけ客観的に見ることができ、受け入れるきっかけにもな
 ると思うからです。
・性暴力の被害にあって、孤独や自責にさいなまれ、自分の存在を認められない被害者た
 ちが、お互いの存在を認めることで、「存在していていい」と思えるきっかけにもなる
 はずです。 
・性暴力被害にあった自分を自然に受け入れてくれるような存在に出会えることや、そう
 いう出会いがあると信じられるかどうかが、当事者には大きな影響を及ぼします。現状
 はまだ、そういう出会いを信じられなかったり、出会えていない被害者が圧倒的に多い
 のです。  

あとがき
・性犯罪・性暴力被害者のための「ワンストップ支援センター」の設置も、全国で広がり
 つつあります。ワンストップ支援センターとは、被害者が被害を受けた直後に駆け込め
 る「安全な場所」として、この1か所が窓口となって病院、警察、弁護士などと連携し、
 被害者の総合的な支援をまとめて行う場所のことです。被害者の負担を減らすことを目
 的に、12年に内閣府が各都道府県に最低1か所の開設・運営を目指した「手引き」を
 作成し、地方公共団体や民間団体などによる設置を促進しました。  
・支援センターによって特色があるということです。病院内に設置され、「急性期対応」
 といわれる、被害からの経過時間が短い人に対して、妊娠や性感染症の予防など体のケ
 アを得意とするところや、相談専門のスタッフがいて、24時間対応で、経過時間や被
 害者の性別など問わず幅広い相談を得意とするところ、また、県外の被害者にも対応す
 るところ、情報提供や専門電話相談のみを行うところなど、さまざまです。利用者がこ
 うした特色を知っておけば、いざ相談したときに自分のイメージと違うと憤ったり、望
 んだ支援を受けられずに「自分は誰にも助けてもらえない人間なんだ」と絶望したりす
 るようなことも避けられるのではないかと思います。
・「ワンストップ支援センター」はまだまだ認知度が低く、病院や弁護士との連携がうま
 くいっていなかったり、資金や人手不足のために24時間体制が取れなかったり、さま
 ざまな課題を抱えています。ですが、最初からパーファクトなものは存在しません。な
 かったものが新たにできあがっていくのは喜ぶべきことですし、これからの発展を応援
 していきたいと思います。
・性暴力という行為がどれほど卑劣で、卑怯で、被害者がその後の人生で、精神的にも肉
 体的にもどんな苦しみを背負わされるのか、私は知っています。そんな経験をした被害
 者たちが「ありがとう」という言葉を発する力は、きっと加害者たちには決して持つこ
 とのできない、美しくて大きな力だと思います。どんなに理不尽でひどい目にあっても、
 人は汚されるなんてことはないし、美しさや優しさを失わない。性暴力で人は支配なん
 かされない。尊厳をぶち壊されたくりしない。真の強さを人は持っているのだというこ
 とを、たくさんの人に知ってほしいと思います。