読むクスリ PART7 :上前淳一郎

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この本は、「読むクスリ」のPart7であり、今から31年前の1990年に出版され
たものだ。
私がこの本のなかで興味を持ったのは、飛行船の話だ。飛行船でのんびり空の散歩ができ
たら、さぞ気持ちがいいだろうなと思ったのだ。しかし、海に浮ぶ船での遊覧や、ヘリコ
プターでの遊覧というのは聞いたことがあるが、飛行船での遊覧というのは聞かない。
調べてみると、近年では2007年に株式会社日本飛行船が東京上空を周遊する「飛行船
遊覧クルーズ」が運行を開始したようであったが、残念ながら2010年に経営破産した
ようだ。ドイツでは飛行船による遊覧は人気が高いようだが、残念ながら日本では根づか
なかったということなのだろう。ところで、この株式会社日本飛行船の社長が、この本に
出てきている飛行船の話の渡辺裕之氏と同姓同名だったことから、恐らく同一人物ではな
いかと思った。ずっと夢を追いかけていたんだと思うと、ちょっと感動した。
アメリカの訴訟の話も興味深かった。アメリカは、日本人からすると、想像以上の訴訟社
会のようだ。訴訟件数も日本とはケタ違いに多く、弁護士の数も日本の何十倍も多いよう
だ。
アメリカの弁護士というと、最近話題の秋篠宮家の長女眞子さまと結婚する小室圭さんを
どうしても思い浮かべてしまう。小室さんは2021年5月にフォーダム大学ロースクー
を卒業しニューヨークで弁護士として活躍される予定のようだ。眞子さまも小室さんと
結婚してニューヨークに移り住み、二人でニューヨークでの生活を始めたところだ。それ
はそれでおめでたいことなのだろうが、アメリカで弁護士としてやっていくには、相当競
争が激しいようだ。それに日本人の感覚とアメリカ人の感覚はまるで違う。そんな中で、
はたして小室さんはアメリカで弁護士としてやっていけるのだろうか。小室さんはたいへ
ん優秀な人物のようだが、ちょっと心配になった。


職に生きる
ダスキンという、化学雑巾やモップ・マットで奥さんがおなじみの会社がある。高度成
 長たけなわの昭和三十年代末、雑巾の宅配リースという新商売を思いついたのは鈴木精
 一という人物だった。
・鈴木さんはこの会社に「株式会社ぞうきん」という名をつけるつもりだった。いかにも、
 裏方産業に徹します、という気持ちがにじみ出ている。
・ところが、社員たちは猛反対だ。「そんな名前、かっこ悪くて、名刺が出せません。嫁
 さんももらえませんよ。なんとかしてください」
・しかし鈴木さんは一徹で、いい出したらきかない人だ。
・間に立たされて弱った営業部長の駒井さんは、英語でいいかえたらどうだろうと、調べ
 てみた。雑巾、布巾のたぐいは、ダストクロスあるいはダステックスという、とある。
 「英語には必ずダストがついて、日本語ではキンとくるわけか」
 と思った瞬間、この二つをくっつけるというアイデアがひらめいた。かくして誕生した
 のが、ダスキンという社名だった。
・「つくづくこの名前にしてよかったと思います。だって”株式会社ぞうきん”じゃ、まさ
 か食べ物には進出できなかったでしょうからね」
・ダスキンはアメリカの「ミスター・ドーナツ」の日本での営業権を買い取って、いまは
 全国百五十店でドーナツを売っている。
 
・大阪商船三井船舶に勤める渡辺裕之さんが飛行船を初めて見たのは、大阪で小学生だっ
 たちょうど二十年前。校庭で遊んでいるとき、ふわふわ上空にやってきた。みんな大騒
 ぎで空に向って手を振るのが見えたのだろう。飛行船は小学校の上をぐるり一周して見
 せてくれて、ゆっくり飛び去っていった。「それでもう、飛行船のとりこになっちゃっ
 たんです」
・慶大では文化人類学を専攻したが、そっちのけで飛行船の勉強に熱中する。
・小学生のときに見たのは、日立製作所がカラーテレビの宣伝のために西ドイツから買っ
 て飛ばした「キドカラー号」で、それが太平洋戦争後日本の空に浮んだ初の飛行船だっ
 たことも知った。
・「ヒンデンブルグ号の爆発事故の記憶が強くて、日本では飛行船はタブー視されている
 んです。しかし、それは五十年も昔の話。いまはうんと安全になっています」
・全長二百五十メートル近い巨大飛行船だったドイツのヒンデンブルグ号が爆発したのは
 一九三七(昭和十二)年。乗客、乗員九十七人中三十五人が死亡する。当時としては大
 事故だった。
・その原因は、戦隊を浮揚させるために、爆発しやすい水素ガスを使っていたところにあ
 った。いまは不活性のヘリウムガスを使うので、爆発の心配はない。人体への害もなく、
  浮揚力は大きい。
・「万一上空でガスが抜けても、ゆっくりと降りて行きます。飛行機のような急激な墜落
 はありえません。だから、かえって安全といえるんです」
・船体に直径三十センチの穴を空中であける実験では、八時間後軟着陸して、船体は無事
 だった。 
・昭和五十四年に日本で、乗組員が地上で昼食中に、繋留ミスから浮き上がり、漂流しは
 じめたことがある。そのとき船内には、操縦法をまったく知らないアメリカ人青年が一
 人だけ乗っていた。
・これがジェット機なら、地上からどう指示しても、青年が無地着陸することは絶望的だ。
 「しかし、飛行船の青年は、無線の指示に従って少しずつガスを抜き、かすり傷ひとつ
 せずに生還したのです」
・そういうことを知るにつけ、ますます飛行船への夢とあこがれはふくらんでいく。なん
 とか縁がありそうな会社に就職したい、と思った。
・航空会社、と考えたが、飛行船は法律的には飛行機でも、多くの点で船のほうにより近
 い。操り方が船と類似しているし、機長、ではなく、船長、という。風を利用するため
 進行方向に対して船体を斜めにして飛ぶところは、ヨットに似ている。
・「それで、船会社を受験しました。面接で、ぼくは空を飛ぶ船をやりたいです、といっ
 たら、面白がられたんでしょう。採用になりました」
・日本からアメリカ西海岸まで、ジェット機で八時間、船だと二百四十時間(十日)。飛
 行船では七十時間で着く。  
・内部は広いから客室はゆったりし、視界も広い。食堂やラウンジで客船なみのサービス
 が受けられる。 
・騒音、振動は少なく、ゆとり時代にふさわしい優雅な旅ができる。しかも、垂直に上昇、
 降下できるのだ、滑走路がいらない。空港を都心から遠くにつくる必要はなくなり、街
 で乗降できるようになる。
・イギリスではすでに飛行船によるロンドン遊覧飛行が始まっていて、大人気だそうだ。
・「キドカラー号」がそうだったように、いまの日本の空で見かける飛行船は宣伝用だ。
 最近の話題は、富士写真フィルムとコダックの空中戦である。
・ロサンゼルス五輪のとき富士写真は、アメリカでこれを飛ばしておおいにシェアを伸ば
 した。驚いたコダックが日本上空で巻返しに出、富士写真が迎え討って、はなばなしい
 空の船団合戦になったのだ。

海の向こうで
・ニューヨークのマンハッタンと近郊には、ざっと五万人の日本人が住んでいる。うち四
 万人は、進出企業などの駐在員とその家族だ。
・マンハッタンは東京の都心部と同じで家賃がべらぼうに高いから、駐在員たちのほとん
 どは郊外から電車で通勤する。通勤圏がどんどん外へ広がって、片道一時間から一時間
 半はざら、という点でも、東京とよく似ている。
・東京駅にあたるグランド・セントラル駅からニューヘブン、ハーレム、ハドソンの三線
 が出ていて、とくに前二線に日本人が多い。
・駐在員たちは真ん中のハーレム線を「中央線」と呼び、その両脇の二線を「山手線」と
 いう。ニューヘブン線とハドソン線が先に行って環状になるわけではないが、なるほど
 図で見ると、東京の中央線と山手線の関係にそっくりだ。
・もう一つのペン・セントラル駅からロング・アイランド鉄道が出ていて、この沿線にも
 日本人が多く、「横須賀線と」呼ばれる。同駅から反対方向には、ワシントンへ行く、
 メトロ・ライナーが出ている。
・山手線(ニューヘブン線)沿いのライ、グリニッチ、中央線(ハーレム線)のハーツデ
 ール、横須賀線(ロング・アイランド鉄道)のグレート・ネックあたりに、とりわけ駐
 在員が多い。
・これらの町のほとんどは、ユダヤ人がつくった高級住宅街だ。WASP(新教徒のアン
 グロサクソン人)に受入れられなかった彼らは、マンハッタンを取り巻くように自分た
 ちの町を建築した。
・そこへ、これもWASPから必ずしも歓迎されない日本人が入り込んだ。だから郊外の
 これらの町はしばしば、JJタウン、と呼ばれる。ユダヤ人と日本人の頭文字をとって。
・ユダヤ人たちは新しい街をつくるとき、厳しい規制を設け、高層ビルや庭の狭い家は建
 てられないことにした。低所得者層を寄せつけないためだった。
・だから駐在員諸氏が住んでいるのは、家賃が月二千ドル前後の豪壮な邸宅ばかり。二寝
 室のマンションでも月千五百ドルくらいする。むろん、かなりの部分まで会社で負担し
 てくれる場合が多い。
・ひところ、家賃が安いので日本人が多かった横須賀線(ロング・アイランド鉄道)のフ
 ラッシングあたりには、韓国人がどんどん入ってきて、町にハングル文字が氾濫するよ
 うになった。
・日本人駐在員のモーレツぶりは相変わらずで、アメリカ人のように夕方五時に仕事を終
 えてまっすぐ家へ帰る、というようなことはまずない。連夜残業し、八時か九時にやっ
 とオフィスを出る。
・苦労して通勤する駐在員をよそに、支店長クラスはマンハッタンの、それも一等地のマ
 ンションに住んでいることが多い。一つは、支店長住宅はマンハッタンにある、という
 格式のため、もうひとつは会社資産として投資しておくためだ。
・このところマンハッタンでは、ビルやマンションの値上がりが激しく、家賃も高騰して
 いる。そこで、ばか高い家賃を払うよりいっそ買いとって財産にしよう、という動きが
 進出企業の間でも盛んになってきた。
・招かれて行ってみると、セントラル公園を見下ろして眺望絶佳、しかも安全確実な、ア
 ラブの王様でもなければ住めないような超高級マンションなのにびっくりする。もちろ
 ん値段も高く、三寝室、五十坪くらいで数十万ドル・日本で億ションだ。
・安全、というわけは、訪問者はまずドアマン、ついでロビーの奥で目を光らせている立
 派なヒゲの執事、最後にエレベーター・ボーイと、三重のチェックを受けるので、怪し
 い人間は絶対に入り込めないからだ。
・けっこうなご身分だが、住んでみればそれなりに苦労があります、と支店長夫人がおっ
 しゃる。 
・「近くのスーパーへ買物にまいりますでしょ。両手に紙袋を下げて帰ってきますと、ド
 アマンがそれをひったくるように取ますの」
・ドアマンは紙袋をうやうやしく捧げ持ち、エレベーターまで運んで行く。わずかな距離
 なのに、一つにつき一ドル、計二ドルのチップをやらなければならない。
・エレベーターに乗り込むとき、彼は紙袋をエレベーター・ボーイに渡す。今度はボーイ
 が持って部屋のドアまで運ぶ。はい、また二ドル。
・ニューヨークの感覚では、こんな超高級マンションに住むほどの貴婦人は、自分で荷物
 を持ち運びするようなはしたない真似をすべきではない。だから、ドアマンがひったく
 ろうとするときに、けっこうです、とはいいにくい。そこにつけ込んでのチップ稼ぎで
 ある。
・”被害”はそれだけではない。毎年クリスマスが近づくと、執事からきれいなカードが届
 く。そこに執事自身をはじめ、交代で勤務しているドアマン、エレベーター・ボーイ計
 八人の名前がずらりと並んでいる。
・全員からの季節のご挨拶、というわけだが、要するにこの全員にクリスマスの贈り物を
 下さい、という催促だ。執事に五十ドル、ドアマンには一人三十ドル、というふうに、
 封筒に入れ、カードを添えて渡す。
・おだやかでない出費だが、無視するとどんな白い眼を向けられるかわからない。なるほ
 ど、マンハッタンの億ションに住むのも楽ではない。
・見えない相手へのチップ、というのもある。欧米ではホテルに泊った翌朝、ベッドの枕
 の下に小銭を入れておく習慣があるのをご存知の方も多いだろう。部屋を掃除してくれ
 るメイドへのお礼の気持ち、つまり顔を合わせることもない相手へのチップで、ピロー・
 マネー(枕銭)という。
・日本人が戦後ようやくアメリカへ行けるようになったころ、並みのホテルでのピロー・
 マネーの”相場”は十セントだった。それでも、一ドル三百六十円の時代だから、毎朝置
 くとばかにならない気持ちがしたものだ。やがて相場は二十五セント、五十セントと上
 がり、今では一ドルがふつうだろう。
・もちろん置く義務はない。知りながらとぼける日本人も少なくないし、だからといって
 メイドのサービスが急に悪くなるわけでもない。
・ところが、ニューヨークのある駐在員が集めたデータでは、ピロー・マネーを惜しまな
 い日本人が部屋で盗難の被害に遭ったケースは皆無。やられるのは、その習慣を知らな
 いか、知っていても置かない人に限られるそうだ。
・もしこの駐在員氏の説が正しいとすると、たった一ドルで、部屋に置いて持物の安全が
 保障されることになる。安い保険だ。
 
・「アメリカ人は訴訟好き、バナナの皮ですべって転んでも、すぐ訴える」といわれる。
 たしかに、彼らは、あいまいな妥協をせず、法的手段で白黒をつけるのを当然と考えて
 いる。しかも訴えは日本人には信じられないほど簡単に認められ、賠償金はしばしば天
 文学的数字に達する。
・「契約社会であるアメリカの法理は、日本人にとって異質なものなのです」
・訴訟の実例を見ると、バナナの皮どころか、日本人ならあきれるのを通り越して、噴き
 出すようなのがある。 
・ある愛犬家が、雨に濡れたプードルを早く乾かしてやろうと、電子レンジに入れた。と
 ころが、じき熱くなりすぎて、犬が破裂してしまった。飼主は、「ひどい精神的ショッ
 クを受けた」と電子レンジのメーカーを訴えた。これがメーカーの製造物責任にあたる
 かどうか、目下真剣に係争中だ。
・自殺をはかった女性が自動車のトランクの中に入って、ばたん、とふたを閉めた。とこ
 ろが暗い中にいるうち気が変わり、出ようともがきだした。しかしトランクは、内側か
 ら開く構造にはなっていない。彼女は九日後、まだ生きているのを偶然発見されたが、
 元気を回復すると、「トランクの内側に、開くための取っ手がないのは欠陥だ」として
 メーカーのフォード社を訴えた。さすがにアメリカの裁判所もこれは認めず、敗訴にな
 った。
・ミシガン大学の学生がドイツ語の上級コースで「優」がとれると思っていたのに、「不
 可」をもらった。彼は「精神的苦痛を被った」として、教師に対して損害賠償を求める
 訴訟を起した。これも敗訴になったが、日本人には理解を絶する訴えというべきだろう。
・コロラド州の二十四歳の青年が、「子供のころ衣食住の必要を十分満たしてもらえず、
 情緒発達のために必要な心理的養護を与えられなかった」として自分の両親を損害賠償
 を求めて訴えた。係争中だが、判決しだいでは、できの悪い子を生んでしまうと将来法
 的責任を問われかねないと、親たちは戦々恐々としている。
・「たしかにどれも、日本人の感覚では行き過ぎでしょう。しかし基本的には、正義と合
 理性を重んじ、個人の権利、義務を明確にしようとするアメリカ社会の精神から出てい
 るのです」
・それはそれで、立派なことだ。ところが一方、すべてを契約社会のルールにのっとって
 法的に解決しようとする国民性を反映して、弁護士の数がふえる。しかもその社会的地
 位は高く、高所得者がずらりと並んでいる。
・全米の弁護士数はざっと六十五万。日本の一万三千と較べるとケタ違いだ。
・「これだけの弁護士が高収入を得ていくために、なんでも訴訟にし、かつ高額の賠償金
 を吹っかける、という傾向が出てきます」
・そのあたりに問題がある。自由な権利の行使が突っ走りすぎて、かえって社会に不自由
 をもたらす。アメリカ社会が抱えはじめた新しい悩みだ。
・たとえばアメリカには専用プールがついた家が多い。このプールの最大手メーカーが、
 たびたび訴えられてついに経営が成り立たなくなり、倒産してしまった。
・「飛び込んだら頭や首を打ち、四肢マヒになった」として損害賠償が相つぎ、しかもそ
 れが認められたのだ。  
・そこで企業は、自社製品が訴えられたときのために保険をかけるようになった。企業だ
 けでなく、医師、病院、託児所、遊園地なども、保険に入って万一に備える。最近は牧
 師さんまで、職業上の問題での賠償責任に備えて保険を手配するようになったという。
 カリフォルニアで、牧師の不適切なカウンセリングによって二十四歳の息子が自殺した、
 として両親が牧師を訴えるケースがあったためだという。
・ところが、損害賠償の額がどんどん大きくなり、かつ数もふえてきたので、保険会社が
 たまらない、いきおい保険料を引き上げる。その結果、保険をかけたくてもかけられず、
  託児所やプール、遊園地、スキー・リフト、観光地のゴンドラなどに廃止、休止の動
  きが相つぎだした。
・それどころが、ハワイのモロカイ島では五人の産婦人科医が、赤ちゃんの出産を扱うの
 をやめる、と言い出した。医療過誤賠償の保険料が高くなりすぎて、出産を扱って得ら
 れる収入を上回ってしまったのである。
・こうなるともう、正義も合理性もない。訴訟社会アメリカには保険危機が訪れ、そこか
 ら社会不安さえ生じてきた。
・「アメリカの法理が異質で日本のものと違う、と文句や泣きを言ってみても始まりませ
 ん。違いの正しい認識と、適切な対応こそが、国際化を目ざす日本企業に求められるの
 ではないでしょうか」

・「日本人は教えられるのは上手ですが”おさらい”ができません。これができないうちは
 二流にとどまって、決して一流にはなれません」とおっしゃるのはソニー常務で中央研
 究所の菊池誠さんだ。
・「日本の学生はじつに教えやすい。真面目によく聴き、丹念にノートを取ります。そこ
 へいくとアメリカの学生の態度はひどい。授業中よそ見はする、ときには出て行ってし
・「まいます」
・「しかしアメリカ人学生の中には、十五人に一人ぐらい、こいつはオレより上だ、こっ
 ちが負ける、と思わせるずば抜けたのがいます」
・授業を受ける態度では、おそらく日本人学生は世界一いい。先生が教えることをおとな
 しく筆記し、しかも個々の話をよく理解している。
・ところが、真面目ないい学生ばかりなのに、「十五人に一人の、教授を負かしそうなヤ
 ツ」がその中から出てこない」 
・これは、なぜなのだろう。「授業を忠実に受け入れることだけに専念すると、記憶の引
 き出しが整理されすぎてしまうからなのです」 
・日本の学者とはいわば、学生時代からこの引出しをできるだけたくさん、しかも中身を
 ぎっしりこしらえた人のことだ。つまり、引出しの中身を陳列して見せているにすぎな
 い。「学会での発表を見てごらんなさい。日本の学者の番になると、スライドと数式の
 洪水です」つまり、引出しの中身を陳列して見せているにすぎない。 
・反面、欧米のすぐれた学者ほど、スライドも数式もなしで、独創的な意見を述べていく。
・「これが、一流と二流の差だと私は思っています。ほんとに知識が身についていないも
 のだから、やたら引出しから数式を出して並べるしかない。これをやっているうちは二
 流なんです」
・アメリカ人は学生のうちから、頭の中に引出しをつくる習慣を持っていない。だから授
 業がいやならよそ見をするし、出て行く。ところが、ほんとによく出来る学生は、ノー
 トも取らず先生の講義を理解しながら、頭の中でミックスして考える。
・「このミックスする作業、これが、教育を受ける側にとってもっとも大切なことなので
 す」個々に整理してしまわず、混ぜ合わせて自分の側に引き入れる。これによって、教
 えられたことが血となり肉となる。知識が身につく、とはそういうことなのだ。
・「このミックス作業のことを、昔日本では”おさらい”といいました。ですからもともと
 日本にも、ほんものの知識を身につけるための教育があったはずなのです」それがいつ
 の間にか、教えられる内容が多くなりすぎて、学生たちは引出しの整理に追われるよう
 になった。混ぜ合わせて”おさらい”している暇がない。
・かくて日本には二流ばかりがあふれ、世界史を動かすような偉大な発明発見ができるほ
 んものの一流は出なくなった。 
・しかし、二流だから日本人は駄目だ、といっているわけではない。「世界的な視点から
 すれば、二流にも二流のよさはあります」たとえばアメリカのトランジスタの開発は、
 二十世紀最大の発明の一つだった。一流にしかできないInvention(発明)である。
・ところが、これを使ってポケットに入る小型ラジオを世界で初めてつくったのは日本人
 だった。発明を応用するInnovation(技術革新)に手腕を見せたのだ。
・一人の天才を生む欧米流の教育は、反面で極端に能力が劣る多数をもつくる。日本型は、
 個々には偉大ではないが、チームワークを組んで進める均質な人材を育てる。
・どちらがいいのか、決めるのは難しい。「しかし、一流が欠けたままでいいのか、とい
 うことをそろそろ考える時期に来ている気もするのです」
 
・天ぷらそば、寿司だねとして古くから日本人におなじみのエビは、いまではほとんど外
 国から輸入される。買付け業者は、できるだけ多くの国から少しずつ輸入しようとする。
 特定の国だけに頼っていると、その国で不漁となると供給がとだえてしまうからだ。
・台湾へ行って輸出業者に会い、「同じ値段で、向こう一年間買う契約をしたい」という
 と、台湾人は喜んで契約に応じる。向こうにしても、毎月決まった量を買ってくれるお
 得意を持つのはありがたい。「できれば、一年なんて短いことをいわず、二年の契約に
 してくれませんか」とまだいう。
・ところがフィリピンで同じ契約をしたいというと、ノーの返事が来る。「一年なんて長
 い契約はできない。途中で相場が上がったら、損をすることになる」
・同じ東南アジア、わずかに海をへだてただけの隣り同士なのに、一年が長くなったり、
 短くなったりする。 
・その理由は、ビジネスそのものに対する考え方、態度の違いにある。
・台湾人は、肌の色や身体つきが日本人に近いせいか、ビジネスの態度も日本人と似てい
 る。
・むろんお互い契約の重要性はわきまえているが、それは最大限の約束で、突発事があっ
 たときには双方で話し合ってなんとかしよう、と暗黙のうちに了解し合っているところ
 がある。だから、天候不順などの理由で相場が上がって買付けが高くなると、台湾の輸
 出業者は日本人の前で”泣き”を入れる。日本の業者も、契約だから駄目だ、とは決して
 いわない。日本人にも台湾人にも、ビジネスとは融通無碍で、ぎりぎり相手を責めるも
 のではない。お互い泣いたり泣かれたりしながら、末長くつき合って行くものなのであ
 る。
・そこへいくとフィリピン人は、スペイン、アメリカ統治時代が長かったせいもあるのだ
 ろう、完全に欧米流のビジネス態度が身についていて、契約は至上のものと考えている。
 だから、不漁の月には泣けばイロをつけてもらえる、というような発想そのものがない。
 契約してしまえば、どんなことがあっても初めに決めた値段で納めなければならないか
 ら、そんな契約をするのは馬鹿げている。それよりは、毎月相場をにらみながらいちば
 ん高く買ってくれそうな相手を探すのが、彼らにとってのビジネスだ。
・契約社会では、融通無碍にビジネスをやろうとするのは駄目な業者なのである。

知るよろこび
・「眼鏡をかけてカメラを下げていたら日本人」といわれるほど、眼鏡は日本人のイメー
 ジの一部になっているのだが、われらの先祖はいつごろからそれをかけていたのか。
・初めて入ってきたのは十六世紀の中ごろで、時計や手風琴(アコーディオン)と一緒に、
 宣教師が乗ったポルトガル船でもたらされたと考えられている。
・室町幕府の十二代将軍足利義晴のものだったといわれる象牙フレームの眼鏡が、京都大
 仙院に残っている。凸レンズの老眼用で、当時ヨーロッパにもまだほとんど近眼用はな
 かった。しかも、耳にかけるツルがなく、使うときには手で持っていなければならなか
 った。義晴は三十九歳で死んだから、まだ老眼鏡を必要とはしなかっただろう。宣教師
 から献上され”宝物”として持っていたのに違いない。
・むろん大衆は眼鏡を知らず、宣教師がそれをかけるのを見て、「バテレンは四つ目だ」
 と驚いた。
・江戸幕府を開いた徳川家康の眼鏡は、久能山東照宮にある。これも舶来の老眼用で、水
 牛フレームの手持ち式。
・やがて眼鏡の人物が浮世絵にも描かれるようになり、国産品が少しずつ町人の間にも入
 っていくが、べらぼうに高いものだった。
・明治に入ると、文明開化の象徴として眼鏡が流行する。眼が悪いわけでもないのに、知
 的に、偉そうに、あるいは金持ちに見られたいために、ファッションとしてそれをかけ
 た。
・天皇の前にかけて出るのは禁じられた。キザなファッションだから、不敬にあたるとい
 うわけだ。
・いまでは日本人の四〇パーセントが、眼鏡を使っている。近視が圧倒的に多い。
・ところが欧米人には遠視が多く、遠、近合わせると五五パーセントが眼鏡の世話になっ
 ていて、日本人より比率が高くなる。
・「ですから、日本人が眼鏡大好きのようにいわれるのは、間違いなのです」

・動物のオスは、二種類の勝負をする。一つは、メスの奪い合い。もう一つは、群れのリ
 ーダー争いだ。前者は種族維持のため、後者は群れの仲間全体の安全を守るためだ。
・勝ったオスは奪ったメスにすべてに愛情を注ぎ、また、リーダーになると生命を賭けて
 群れを守り抜く。 
・オスが争うのは必ずこのどちらかの目的があるときで、ふだん、つまらないケンカはし
 ない。
・「しかも、彼らの勝負には、絶対守るべきルールがあります。インチキをやるオスはあ
 りません」
・たとえばカモシカは、角と角を突き合わせてぶつかり合う。角で相手の身体のほかの場
 所を突くようなことはしない。角は、他の動物と戦うときの武器だから、相手の腹に突
 き立てれば一発で勝てる。しかし、そんな卑怯な真似は、決してやらない。
・角で激しいぶつかり合いを繰り返すうちに、おのずと力の差がわかってくる。負けたほ
 うは目をそむけ、相手に背を見せる。それで勝負は終わる。
・口惜しさのあまり、玉砕するつもりでなおも突っかかって行く、というような愚かな真
 似を、動物はしない。 
・なぜなら、それ以上戦ってかりに逆転勝ちしたとしても、そのときにはこちらも傷を負
 う違いないからです。誰も助けてくれない動物の世界で、傷を負って荒野にいたら、死
 ぬほかない。
・オオカミのように鋭い牙を持つ動物も、この武器で同類を噛むことはない。牙と牙を合
 わせて勝負する。
・キリンにも角があり、これを使って争うが、角が当たっても破れないような固い場所に
 しか攻撃を加えない。
・あくまでもフェアで、戦いの終わったあとお互いに傷つかずにすむのである。
・その動物も、家畜として人間と生活するようになると性格が一変し、フェアな戦いのル
 ールを忘れて、惨虐になる。「人間と同じものを食べ、楽をしているうちに、残酷にな
 るのだろうか」
・人間が家畜の性格を悪くしている典型的な例は、ブタだ。養豚場のブタは、尻尾を切っ
 て取ってあるのをご存知だろうか。「狭い小屋にたくさん詰め込んで運動もさせないか
 ら、ストレスがたまる。そのあげく、尻尾の食いちぎり合いを始めるのです」
 ちぎられた尻から流れる血を見てさらに興奮し、大げんかに発展する。そうならないよ
 うに、幼いうちから尻尾を切ってしまってあるのだ。
・動物園にいる動物たちを家畜にしてはならない。だから彼らを過保護にせず、ほとんど
 外に出して、厚さや寒さ、風雨に順応させる。コンクリートではなく、土の上で飼う。
 そのうえで、生きがいを感じることができる環境をつくってやる。
・彼らにとって、生きがい、とは、自然のまま食べ、繁殖し、そしてオス同士が争うこと
 なのだ。 

・作曲家の神津善行が、行進曲のルーツを調べるためにトルコへ行った。調査のあい間に、
 本物のトルコ風呂へ通った。
・イスタンブールの街にはたくさんあって、ちょっと大きいアパートならたいてい家庭用
 の風呂と別についている。
・案内されたのは、大理石造り三階建ての豪華浴場。東京駅のドームくらいの高さまで吹
 き抜けになっていて、一、二階に個室や寝台がある。
・「男女別です。女性用の入口にはこわい顔をしたおばさんが陣取っていて、男は近づけ
 ません」 
・裸になり、腰布を巻いて入る。乾燥した土地柄なので、蒸気が、むっとするより、むし
 ろ快い。
・床も天井もすべて大理石。床の下に火が通っていて、寝そべると気持ちがいい。一度火
 を消すと、あらためて全体を暖めるのに一カ月かかるそうで、ここの風呂は三百年間火
 を絶やしたことがない。
・「しばらく寝ころんでいると、うとうとしてくるぐらい快適に汗をかきます」
・やがて、プロレスラーみたいな男が来て、アカを取ってくれる。マッサージし、ヘラの
 ようなので身体をこすると、両手いっぱいアカが出る。ソープなんて使わない。
・そのあと、薬草の束のようなので身体じゅうを叩く。「これがいい。すっ、として、じ
 つに気分爽快になるんです」 
・現地人たちは五時間もかけて入る。
・「ぼくは一時間半くらいで、我慢できなくなりました。時間がもったいない、と思いは
 じめたんです。日本人は貧乏性なんですねえ」
・一時間半でも、蒸され、揉まれ、叩かれて出てくると、もう身体がくたくた。風呂場か
 ら出て少し休まなければ歩けない。「それでも二、三日すると、また行きたくなってく
 る。身体が求めはじめるのですね。だからよほど健康にいいのだと思います」
・これほど健康的な風呂の名前が、なぜ日本であやしげな場所に使われるようになったの
 か、理解に苦しんだそうだ。
 
・日本人の場合、とくに女性は、「少し太った人のほうが長生きすることがわかっていま
 す」 
・女性は標準体重より八パーセント重い人がいちばん長生きする。
・標準体重は、身長から百を引いたものに〇.九を掛けて出す。
・男性でもっとも長生きするのは、一パーセント多い人。標準体重より心もち太目を維持
 しているのが理想になる。 
・従来は、標準体重より少し軽目、つまりやせているほうが健康的、というのが常識だっ
 た。事実アメリカ人は、少し軽目のほうが男女とも長生きする。
・ところが日本人は逆であることが、現実のデータから立証されたことになる。
・「ふだんから便秘ぎみの人、腸内ガスが多い人は、飛行機に乗ったら苦しくなるものと
 覚悟してください」 
・旅客機は高度六千ないし一万メートルを飛ぶので、そのままでは客室内の気圧が下がっ
 て、機体が危険になったり、乗客が不快を感じたりする。そこで、客室内の気圧を人工
 的に上げてやる。これが与圧だ。
・ただ、上げるといっても、地上と同じにはできない。あまり与圧を高くするとその圧力
 で隔壁が破壊されて、日航機事故とまさに同じ惨事になる。だから、客室の気圧は、地
 上の四分の三程度に調節してある。これなら乗客もさして不快を感じない。
・ところが、ボイルの法則というのがあって、気体の体積は圧力に反比例する。すなわち、
 圧力が四分の三に減ると、機体は三分の四倍、約一.三倍にふくれる。
・「これが問題でね。腸内のガスも一.三倍にふくらみ、いろいろいたずらをやり始める
 のです」  
・膨張した腸内ガスは出口を求め、おならとなってつぎつぎに放出される。この生理的要
 求を、前後左右の乗客の手前、理性で抑圧しようとすると、目を白黒させて苦しむ結果
 になる。
・また、便秘の人は、たださえふだんお腹が苦しいのに、腸内ガスの圧迫でいっそう苦し
 くなる。膨らんだガスが押し出してくれすっきり、といけばいいのだが、どっこいそう
 話はうまくない。
・胃腸の手術を受けて間もない人や、下痢をしている人には、ガス膨張が激しい腹痛をも
 たらすことがある。こうなると笑いごとではすまない。
・妊娠後期の女性だと、ガスの移動で庁が激しく動くため、急に産気づくことさえある。
・要は、腸内ガスの量が多くならないよう、飛行機に乗る前から気をつけておけばいいの
 だが、このガスのほとんどは、じつは食物と一緒に呑み込まれる空気だ。「大口をあけ、
  急いで掻き込むように食べる人は、ふだんからガスが多いものです」
・口を開けて眠る癖のある人、いびきをかく人も、空気を呑むのでガスがふえる。「これ
 がひどくなると、呑気病というほんとの病気になりますから、気をつけてください」
・幸い、空気だから、おならとして再び体外へ出るときもほとんど臭くない。鼻が曲がり
 そうに臭いのは、ふだん腸内ガスの少ない人が、ここ一発出したやつだそうだ。
 
・航空機が着陸のため高度を下げて行くとき、耳が詰まるような不快感を覚えた経験を持
 つ人は多いだろう。これは、地上に近づいて気圧が高くなってくるのに、耳の鼓膜の奥
 の鼓室の圧力がまだ低いままのため、鼓膜が外から押されるからだ。「このときには、
 唾を呑み込むと、耳がすっと軽くなります」
・唾を呑むと、咽喉の筋肉が動く。それによって耳管に通じる弁が開き、空気が鼓室に流
 れ込んで、気圧のバランスが戻る。
・このごろはサービスが悪くなったが、かつては着陸前になるとスチュワーデスがキャン
 ディを配ったものだった。あれには、しゃぶって唾を呑み咽喉を動かすことで、耳詰ま
 りを楽にしてください、という意味があった。なぜ、やめたのだろう。
・赤ちゃんは、唾を呑めばいい、などということは知らないから、旅客機が着陸態勢に入
 ると耳が不快でぐずり始める。叱らず、しばらく泣かせておくことだ。泣けば咽喉の筋
 肉が動き、自然に耳管へ空気が入って、不快感は消える。したがって、すぐ泣きやむ。
・風邪で咽喉が腫れていたり、中耳炎で耳管がつまっている人は、唾を呑んでも鼓室への
 空気の出入りがうまくいかない。だから、普通の人より不快感がひどく、ときとして激
 痛を覚える。ほかの人がなんでもない上昇時にも、いやな耳詰まりを感じる。
・虫歯も上空で急に痛み出すことがある。気圧の低下で、歯が浮いてくるのだ。治療中の
 人、歯根に慢性の膿瘍があってふだんから歯が浮きぎみの人はご用心。
・世界で最初のスチュワーデスは、ヘレン・チャーチというアメリカの看護婦だった。客
 船に船医や看護婦が乗っているからには、旅客機にも必要ではないか、と考えて航空会
 社へ手紙を書き、自分を売り込んだのである。
・気分が悪くなる乗客が多いことに手を焼いていた航空会社はこれに飛びつき、彼女に
 続いて看護婦ばかり五人を採用して、旅客機に乗せた。これがスチュワーデスの始まり
 だ。
・いまは、美人かどうか、教養があるか、といったことばかりが条件で、看護能力は問題
 にもならなくなった。

・「仕事に行き詰ったら、毎朝十五分間自宅の周りを早足で歩きなさい。きっといい知恵
 が出ます」
・そのわけは、歩くことで足から血液が心臓に送られ、脳へも新鮮な酸素を含んだ血液が
 送り込まれることになって、頭の働きがよくなるのだ。
・哲学者のカントは散歩好きで、歩きながら考えた。 
ベートーベンは、作曲にとりつかれているときは狂ったように歩き回った。
・血液は心臓のポンプ作用で全身を循環しているが、その力が足にまでは及ばない。だか
 ら、じっとしていると足には血液がとどこおって、心臓へ還流する量がうんと減ってし
 まう。
・ところが人間の身体はよく出来ていて、歩いて足を動かせばちゃんと血液が心臓へ戻る
 仕組みになっている。足の静脈には心臓への血流をうながす弁があり、歩行によって筋
 肉が収縮するポンプ作用に応じて、さあっと、血液が戻って行く。ですから、足は第二
 の心臓、といわれます。
・椅子に坐っている人と、早足で歩いている人とでは、身体への酸素の供給量に三倍もの
 差が出る。”第二の心臓”の力がいかに大きいかわかるだろう。
・とりわけ脳は酸素が不可欠の栄養源にしているから、三倍供給されたとたん、いきいき
 と活動を始めるのである。 
・ゆっくり歩き始めて二、三分たつと、酸素を十分含んだ血液が脳へ届きます。それから
 一分間に七十〜八十メートルの早足ペースに上げると、考えごとにもっとも適した状態
 になるのです。
・それも、朝がいい。夜は身体が休息状態になっているので、早足はかえって疲労を招く。
・また、身体のトレーニングではなく、思考に適した脳の状態をつくるのが目的だから、
 歩きすぎたり、走ったりしてはいけない。十五分から二十分で切り上げる。
・慣れないうちは、せっかく脳に酸素がみなぎってきても、なかなか一つの考えごとに集
 中できない。しかし、かまわず毎朝続ける。そのうち散歩コースに慣れて、周りの目新
 しさが薄れてくると、思考に集中できるようになってくる。
・出てきたアイデアは、メモしたり、テープレコーダーに吹き込んだりしないほうがいい。
 そのために考えることを一時止めると、思考のダイナミックさが失われるからだ。あく
 までも手ぶらで、一つのテーマを頭の中で転がすのを楽しみながら歩く。
・家へ帰ってきたときには、ある程度考えがまとまっているだろうから、そこでメモすれ
 ばいい。 
・足に限らず筋肉には、筋紡錘という感覚器官があって、ここで得た情報を脳に伝えてい
 る。送られる情報が多くなるほど、脳は刺戟を受けて活発になる。
・足にたくさん情報を集めさせるためには、裸足で歩くのがいい。せめて家へ帰ったとき
 には、靴下も脱いで歩き回ることだ。
・散歩は下駄にかぎる。足の筋肉がもっともよく働くからだ。サンダルはきでだらだら歩
 いても、あまり効果はない。
・どうせ歩くなら、形よくやりたいものだ。「腰で歩いてください。足を意識すると腰が
 落ちて、不格好になります」
・腰、ついでに胸も、斜め前に押しだす感じを保つ。これで、上体の伸びた美しい歩き方
 になり、ピッチも上がる。
・二日酔いのようにコンディションが悪いときには、この姿勢では歩けない。だから、体
 調の良し悪しを判断するメドにもなる。
・「ゴリラ歩きは醜いうえ、腰痛になりがちですから、絶対にやめてください」
・前かがみで腰が落ち、お腹を突き出して外股になったのを、ゴリラ歩きという。足が衰
 えた人に多い。  
・「若い女性の内股は、膝が弱いからです。膝を鍛えてください」
・畳みに坐ると、カカトがお尻にくっつくので百八十度膝が曲がって、膝の代謝がよく行
 なわれ、鍛えられていく。
・ところが椅子生活では、膝はその半分の九十度までしか曲がらず、怠けて弱くなる。そ
 の結果、膝が変形して内股になるという。
・「ためには昔の日本人の生活に戻り、畳みに坐って食事するといい。一週間に一回でも、
 ずいぶん違ってきますよ」 

・「歯並び、噛み合わせの悪い子供が、年々ふえてきています」
・かつては、歯並びや噛み合わせの悪い子には、その子たちなりの原因があった。赤ちゃ
 んのころ、哺乳瓶をくわえている期間が長すぎた。鼻づまりで口呼吸の癖がついている。
 どれも、歯がきれいに生えそろうのを妨げる。
・ところが最近は、悪い癖ではなく、哺乳瓶離れも早くて正常に育ってきている子どもに、
 この傾向が見られるようになってきた。
・「柔かいものしか食べないので、アゴの骨が発達せず、アゴが小さくなって、歯が生え
 る場所が窮屈になってきているのです」  
・邪馬台国の女王卑弥呼に較べて、現代人は六分の一しか噛んでいない。それだけ食事が
 柔かくなっているわけで、その分アゴの発達が衰え、力も弱くなっている。
・その小さくなったアゴに、歯は古代と同じ数だけ生えてこようとする。狭い場所の奪い
 合いで、あっちこっち向いた歯になってしまうのだ。
・よく噛んでアゴを発達させようにも、歯並び、噛み合わせが悪いと噛めなくなる。
・「幼児は赤ちゃんのことから、吸うことには本能的な能力を持っています。しかし、噛
 む、呑み込む能力は、訓練で習得しなければなりません」
・ソフト・フードの氾濫が訓練の機会を奪い、後天的能力の習得を妨げている。この能力
 がないまま成長していくと、新しい食べ物を見たとき硬そうだと、それだけで嫌いにな
 ってしまう。