領土消失  :宮本雅史、平野秀樹
             (規制なき外国人の土地買収)

この本は、今から7年前の2018年に刊行されたものだ。
この本で問題提起されているのは、外国資本(特に中国資本)による北海道や沖縄などの
森林や農地などの買収が急速に進んでおり、このまま何の手立てもしなければ、日本領土
内に外国人による自治区が生まれかねない状況にあるということである。
特に国境に接する離島は、全島を外国資本によって買収されれば、その島は竹島のように
実質的に他国に実効支配されたことになり国土喪失に直結する。

しかし、日本には外国資本による土地買収を規制する法律が存在しない。
日本では、外国資本は目的を問わず自由に不動産を買収でき、自由に利用できるのだ。
このように規制がない国というのは世界でも日本ぐらいだという。
日本政府は、
「我が国を取り巻く安全保障環境が厳しさを増す中、適切な防衛力の整備に努める」
として、防衛費を倍増し、型落ちしたアメリカの兵器を爆買いしているが、このような軍
事力を使わない「外国からの侵略」に対してはまったく無頓着だ。
このままいけば、やがて日本全土が外国資本によって買収され、知らないうちに外国の属
国になってしまうだろう。

すでに対馬は、韓国資本により買いあさられ、韓国人だらけになっているという。
韓国の雰囲気を味わいたいなら、韓国まで行かなくても、対馬に行けば韓国に行った気分
になれる状況のようだ。
このままでは早々に対馬は韓国に乗っ取られてしまうことになる。
日本政府は、対馬を観光特区に指定し、どんどん日本人旅行客を対馬へ勧誘すべきではな
いか。いまの日本政府は無策すぎる。

今までに読んだ関連する本:
奪われる日本の森

はじめに
・中国資本が、北海道や沖縄を中心に森林や農地などを激しい勢いで購入しており、こう
 した海外からの土地買収に対し日本の法整備がまったく行われていない。
 いったい、何のために北海道の森林を買収するのか。
 外国資本、中でも目立つ中国資本による不動産買収について考えると、この疑問を持た
 ざるを得ない。
 その買収目的が「不明」「未定」のままで、公然と売買されているからだ。
 一度売買契約が成立し所有権が移れば、何に利用するか、同開発するかは所有権者の思
 いのままだ。
 日本国内でありながら、どのような開発が行われ、どのように利用されても、日本は異
 議を唱えることはできない
 日本では、外国資本は目的を問わず自由に不動産を買収でき、自由に利用できる構造に
 なっているからだ。
 このように規制がない国というのは世界を見渡しても日本くらいである。
・中国資本の買収方法を見ると、国際的リゾート地・ニセコとその周辺から水源地や資源
 が眠る場所を狙うかのように、放射状に広がっている。
 しかも、買収の規模が100ヘクタール単位と大きくなってきているところもあり、
 全道を視野に入れて買い進んでいるように感じられる。
・中国の動向を長年注視している評論家は、
 「中国はひとつの目的をもって、25年前から沖縄を、20年前から北海道を狙ってい
 ました。移民のためにこれからもどんどん北海道の土地を買っていくでしょう。
 独自の集落、自治区をつくり、病院や軍隊用の事務所も設置する可能性もあります。
 太陽光発電のための用地も購入していて、ゆくゆくはその集落で使えるようになるでし
 ょう。水源地や農地では農作物を作れます。北海道の場合、中国人はどんどん増えるか
 ら、農産物や水、エネルギーが占領される可能性が高い」
 と話した。
・平成7(1995)年、中国の李鵬首相(当時)がオーストラリアのキーティング首相
 (当時)に「日本という国は40年後にはなくなってしまうかもわからぬ」と言ったと
 される「李鵬発言」が日本の国会で報告されている。
 もし、李鵬氏の洞察が正しければ、日本は2035年にはなくなるということになる。
・繰り返しになるが、諸外国と違い、日本には外国資本による不動産買収を規制するルー
 ルや法律がなく、これまで外国資本による国土買収を受け入れてきた。
 しかも、買収された農地や森林がその後、どう活用されているのかの追跡調査もされて
 いない。  
・国家は、国民・国土・主権があって初めて成立する。
 国土が外国資本に買収され続ければ、国家そのものの存在が危うくなるというのにだ。
・対馬の海上自衛隊防備隊本部の隣接地が韓国資本に買収されたのを機に、これまで何度
 となく、外国資本から日本の国土を守るためのルール作りや法律制定を求める声が上が
 った。 
 だが、まったくと言っていいほど、政府や国による対応策は進んでおらず、具体化しな
 い。なぜなのか。
 
<止まらない国土の買収> :宮本雅史

国策VS国策
・「奄美が中国に呑み込まれそうだ。地元住民の間でちょっとした騒ぎになっている」
 平成30(2018)春、奄美大島出身の日本の情報機関に在籍経験のあるある知人男
 性から連絡が入った。
 騒動が起きているのは、大島郡瀬戸内町の西端に位置する西古地区だという。
 西古地区は当時、人口がわずか28世帯35人の小さな集落だ。
 こんな小さな集落に大型クルーズ船が寄港し外国人観光客、特に中国からの観光客を誘
 致する計画が進んでいるという。
・内海のような東シナ海の中で、奄美大島は「要塞・日本列島」の一角をなしている。
 こうした地域に外国人観光客が大挙するという。しかも、わずか28世帯ほどの小さ案
 集落に・・・。
 この話に違和感をもつのは私だけだろうか。
 現に北海道では水源地や農地などの買い占めが起きている。
 防衛施設が集中している奄美でも、土地や山林が買収されたら・・・北海道とは違う危
 機に直面する恐れがある。
・大島海峡を挟んで無人の江仁屋離島を望む。
 この島も、大正10(1921)年、砲台が着工され、昭和20(1945)年の終戦
 まで、旧日本陸軍によって運用されていたのだ。
 ただ、江仁屋離島は単に戦争遺跡というだけではない。
 平成26(2014)年5月、陸上自衛隊約500人、海上自衛隊約820人、航空自
 衛隊約10人が参加、陸海空三自衛隊統合で、日本国内初の離島を使った大規模な離島
 奪還訓練が行われている。
 訓練は、中国軍などに離島が占領された場合を想定、上陸し奪還する目的で行われた。
 さらに、武装漁民が無人島を占領するという有事手前の「グレーゾーン」事態の対処能
 力を高める狙いもあったとされる。
 グレーゾーン事態に対する訓練は、28年、29年、30年と海上保安庁と警察も自衛
 隊と共同訓練を行っている。
・後日、西古見集落出身の男性からこんな証言を聞いた。
 「昭和28(1923)年に奄美がアメリカから復帰した際、米軍は西古見地区だけは
 手放さないと反対したらしい。軍用基地として最適な場所というのが反対の理由だった
 そうです。奄美が今も島全体が要塞だということは、島民なら誰もが知っています」
 
・「苦には観光振興の一環として国策で、中国の富裕層を連れて来ようとしています。
 自然破壊につながると反対意見も多いのに、なぜこんな小さな集落の西古見になったの
 か。経緯を見ていると最初から西古見ありきという印象をぬぐえないんです。裏でいろ
 いろな利権がらみの工作があったのではないかという疑惑も出ています」
・地方議員経験者は、
 「北海道や対馬のようにならないためにも、中国人観光客誘致の前に、まず法整備を行
 い、外資による不動産買収を規制していく必要があります。まだ、買われていないから
 と言っていると手遅れるになる。絶対に島を安売りしません」

・幕末、西郷隆盛が幕府の目を逃れるために菊池源吾と名前を変え、約2年8か月にわた
 り身を潜めた奄美大島北部の瀧郷町瀧郷。現在も残る南洲流謫跡から西郷も望んだであ
 ろう瀧郷湾を挟んで反対側の笠利湾は、美しいサンゴ礁が広がる青く穏やかな内海だ。
 その一角、マリンスポーツが盛んな芦徳地区に、米大手クルーズ旅行社「ロイヤル・カ
 リビアン・クルーズ」が、中国・上海から九州に向かう大型クルーズ船の寄港地として
 リゾートパークを開発する計画を公表したのは、平成28(2016)年3月のことだ。
 「ロイヤル・カリビアン・クルーズ」社が当時、地元住民に行った説明では、毎年3月
 から11月までの間、周2〜4回寄港し、年間30万人が来島するという計画だった。
 当時の瀧郷町の人口は6028人だった。
・想像以上の多くの反対に、町は4か月後、推進を断念する。
 ところが、その後、突然、代替地を探したかのように、瀬戸内町の西古見集落への寄港
 計画が浮上したのだ。 

・奄美本島沿岸に、太平洋に飛び出した眺めのいい岬のような高台エリアがある。
 通称・アオン地区(瀧郷町戸口)だ。
喜界島(鹿児島県大島郡喜界町)は奄美大島の東方約25キロの太平洋上に位置する。
 この喜界島は奄美で最初に飛行場が建設されるなど、大東亜戦争では重要な軍事基地だ
 った。  
 現在も、防衛相情報本部が運用、360度の全方位から電波を受信可能な高感度アンテ
 ナを備える高性能無線電波傍受施設、喜界島通信所、いわゆる「象のオリ」を抱える要
 衝だ。
 つまり、アオン地区は、自衛隊などの動きを監視しようと思えば、最適な場所といえる。
・「あれが中国資本と見られる人物に買収され、いま、建物を建てている場所です。別荘や
 美術館を建設するらしいと聞いています」
 後で、登記簿などを確認すると、この一角町有地が平成28(2016)年9月、香港
 資本の総合商社会長で香港在住の日本人に払い下げられていた。
 会長の妻はアジアの海運王と呼ばれた香港経済界の重鎮男性の次女で、中華圏に幅広い
 人脈を持つことで知られているという。
・奄美財界の重鎮の一人は、私の不安にこう答えた。
 「観光客が日ごとに増えて不動産が買収され、いずれは島全体がチャイナタウンに・・
 という不安は、案外的はずれでないかもしれません。流れを見ていると、そんな気がし
 ます。中国だからといってすべてを否定するわけではありませんが、一国家として外国
 資本から国土を守たないと、取り返しがつかなくなってしまいます」
・外国資本に対し、何の規制もなしに国土の売買を認めることの脅威は、南の島でもじり
 じりと迫っている。 

李克強首相はなぜ北海道へ?
・外国資本による領土買収が規制されていないわが国では、買収された地域のその後につ
 いては詳細に追跡調査されていない。
 外国資本に農地や観光地などが買収されること自体問題だが、さらに、買収された後の
 使途などをフォローしないで放置することも主権国家の体をなしていないのだ。
・北海道での中国資本による不動産買収で、私が最初に注目したのは、中国と関係がある
 とされる農業生産法人にむらがほぼ丸ごと買収された平取町豊糠だ。
 豊糠地区で平成23(2011)年、56%もの農地が買収された。
 買収したのは、業務用スーパーを全国にフランチャイズ展開するK社(本社・兵庫県)
 の子会社の農業生産法人E社(北海道むかわ町)だ。
・私が初めて豊糠を訪ねたのは、この買収から5年経った平成28(2016)年3月上
 旬だった。 
 買収された農地を見て回った。一面に雑草が伸び、手入れした形跡がない。
 農作物も牧草も作っていない非耕作地がどこまでも続いていた。
 買収から5年経っているのに、である。
・農業生産法人が、道路事情が決していいとは言えない山奥のへき地を、ほぼ集落ごと買
 収するのにどのような意味があるのかと、疑問を強く感じた。
 しかも、その農地を買収した農業生産法人がなぜ、買収した農地を荒れ地や非耕作地に
 しておくのか。  
・この疑問に対して、当時、地元住民は一つの仮説を立てていた。
 「農地をそのまま荒れ地にしておいて、何年も放っておけば自然に木が生えてくる。
 相してら農業委員会に申請して、地目を「雑種地」に変更するとつもりではないか。
 農地には制約があって自由に売買できないけれど、草ぼうぼうにして農地から雑種地に
 変更すれば、誰でも自由に売買できる。それに地目を変更すれば、住宅や工場を建てら
 れる」
・取材を続けているうちに、この買収には何か特別な目的があるのではないかと、自分が
 懐疑的になってくるのを感じた。 
 気の回し過ぎであれば、それに越したことはない。
 そこで長く交流する中国人評論家に考えを聞くことにした。
 だが、豊糠の状況を聞いた彼はこう警告したのである。
 「海外で活躍する中国企業の背後には中国共産党が控えていると考えた方がいいでしょ
 う。中国と関係のある日本企業も同じことが言えます。中国はひとつの目的をもって、
 25年前から沖縄を狙い、北海道は20年前から狙ってきました。移民のために、これ
 からもどんどん北海道の土地を買っていくでしょう。独自の集落、自治区をつくり、
 病院や軍隊用の事務所を設置する可能性もあります」
・豊糠の場合、親会社が中国と関係があるからというだけで、あるいは背後に中国の影が
 ちらつくからといって、農業生産法人を中国系と断定することは危険だ。
 しかし、目的があいまいなまま買収が行われているという事実を前にすると、地元住民
 の懸念が現実味を帯びてきていると感じずにいられなかった。
・「豊糠の住民は高齢化と過疎化が進み、人口は現在12世帯23人ほどしかいません。
 もし、住民がいなくなれば、これだけ完璧に押さえられていることを考えると、中国資
 本の天下になっても不思議はありません」
・「平取に住んでいる中国人女性が、うちの親戚のところにいる帰化して嫁いでいる女性
 に『仲間に入らないか』と誘いに来たらしいのです。彼女は断ったといいますが、この
 女性は他にも数人の帰化した中国人女性に個別に訪ね、『仲間になれ』と誘っているら
 しい。『仲間にならない』というと『日本にいられなくしてやる』とすごまれたとも聞
 きました」
・中国と関係があるとされる通信会社の名前をあげ、
 「この前、豊糠に来て、中継基地を建てるといって、どこがいいかと視察していました。
 二十数人しかいないへき地で、NTTも関心を示さないのに、なぜ、通信基地を造るの
 か、これも不思議です」
 
・平成29(2017)年春、中国資本が北海道の不動産を広範囲にわたって買収してい
 た事案を取材していた私に1通の資料が届いた。
 差出人は、学校法人駒澤大学の関係者だった。
 同大学がこの年の1月に、傘下の苫小牧駒澤大学(以下苫駒大)を中国と関係が深いと
 される京都市の学校法人に無償で行かん譲渡することを決めたという内容だった。
・苫駒大は平成10(1998)年に回航された曹洞宗の宗門関係学校。
 苫小牧市が市有地を校舎敷地として10ヘクタールを無償譲渡、5ヘクタールを無償貸
 与したほか、設立資金95億円のうち総額53億円を市などが負担した「公私協力」の
 大学だ。
・移管譲渡先は「学校法人京都育英館」で、駒澤大学との間ですでに移管譲渡の協定書が
 交わされ、文科省に設置者変更を申請、認可されれば、苫駒大の名前が消えるとあった。
・「学校法人育英館」には、中国人二人が理事に名前を連ねていた。
 そのうちの一人は中国共産党員で、東北育才外国語学校の終身校監で、東北育才学校の
 顧問をしているという。
・譲渡されるのは、苫駒大の敷地15ヘクタールと校舎、図書館(蔵書数10万4千冊)、
 備品類で、すべて無償。総資産は約40送縁で雑書類や備品を加えると50億円を超え
 るという。
・苫駒大回航のために駒澤大学に市有地10ヘクタールを無償譲渡し、5ヘクタールを無
 償貸与していた市はどう考えているか。
 岩倉博文市長は、
 「東胆振・日高地方で唯一の四年制大学だから何としても存続させたいと思います。
 ですが、少子化の中で、個性的な経営者がいない大学法人はやっていけません。
 苫駒大の現状を考えると、一定に定員を確保しながら存続していくのは難しいでしょう。
 京都育英館は京都看護大学を運営しており、大学経営のノウハウはあると判断しました。
 廃校を避けたいという思いが強く、やむを得ない選択だったのです」
 と、苦しい胸の内を明かした。
・釧路は、習近平国家主席が提唱した「一帯一路」構想ではアジアの玄関口と位置づけら
 れており、改めて中国の激しい”拠点構築計画”が見える。
 知り合いの中国研究家はこう解説した。
 「釧路や苫小牧を押さえれば、太平洋沿岸の拠点になり、津軽海峡から太平洋に抜け自
 由に動けるようになる。中国は、苫小牧も釧路と同様に太平洋に出る玄関口と捉えてい
 る」
・平成30(2018)年5月、中国の李克強首相が来日した。
 その際、公賓として北海道を訪問したことにとても驚いた。
・また、中国外務省の孔鉉佑外務次官は5月の記者会見で、
 「日本の主要農畜産業基地である北海道では、農業の従事人口が少なく老齢化も進んで
 いるにもかかわらず、農業の近代化が非常に発展している」
 「中国の特色ある農業生産システムを構築するのに重要な手本となっている」
 「新エネルギー自動車開発について、中国も見習うべきだ」
 と述べ、北海道に強い関心を見せていた。
 しかし、なぜ、北海道にこうも固執するのか。
・日本に帰化した中国共産党の動向に詳しい中国ウォッチャーに意見を聞いた。彼は、
 中国政府が北海道を一帯一路構想の拠点に位置づけていること、20年前から北海道を
 狙っていることなどをあげ、日本政府が李首相を歓待、北海道に招いたこと、さらに、
 安倍首相が北海道で李首相を歓待したことに、
 「李首相が北海道に行ったということは、中国の北海道進出が本格的に動き出したとい
 うことです。李首相は滞在中、各方面に今後の方針を指示したはずです。日本政府が北
 海道訪問を歓迎したことで、北海道進出について日本政府のお墨付きを得たと受け止め
 られても仕方がありません。いまのままで行くと日本は10年から15年で侵食されて
 しまう恐れがあります。カナダやオーストラリア、マレーシアは中国の戦略をわかって
 います。気づいていないのは日本だけで、気づいた時には打つ手がなくなってしまうか
 もしれません」
 と強い口調で警告した。
  
変貌遂げる対馬(背後に中国の影)
対馬には陸上自衛隊と海上自衛隊、航空自衛隊が配備されているが、海自対馬防備隊本
 部は、島北部の大浦基地と南部の安神基地を統括、対馬海峡付近の情報収集に当たるな
 ど、重要な役割を担っている。
 これほど重要な自衛隊施設の隣接地がなぜ、韓国資本に買われてしまったのか。
・買収された土地は、真珠の加工工場だったが、真珠養殖業の衰退で平成14(2002)
 年に閉鎖。
 海自施設が隣接するため、自衛隊に売買交渉を持ちかけたが、先延ばししているうちに
 島民名義で韓国資本に買われ、韓国資本が100%出資するリゾートホテルになったと
 いう。 
・そのリゾートホテルはすぐ見つかった。
 門をくぐると、10棟ほどの宿泊施設が並び、平成2(1990)年、天皇、皇后両殿
 下が長崎県を行幸啓の折、真珠皇上に立ち寄られたことを記念した「行幸啓記念の碑」
 が宿泊施設に囲まれて鎮座する。
 敷地内には旧海軍ゆかりの赤煉瓦の弾薬庫が残されていた。
 想像していた以上に自衛隊の施設に近いことにも驚いた。
・取材を進めると、対馬で韓国資本に買収されているのは、この真珠の加工工場跡だけで
 はなかった。 
 民宿や釣り宿、民家などが買収されていた。
 背景には、韓国人の間で、田島は韓国の領土という思いが根強いこと、韓国人観光客の
 増加があった。
・対馬市長の財部能成市長(当時)は、
 「10年かかるか20年かかるかわからないが、ある日突然、ほとんどの不動産が韓国
 人に買い占められて、島全体が韓国色に染まってしまう可能性がないとはいえません」
 と危機感を覗かせていた。
 高齢化や過疎化という問題を抱え、韓国人観光客は経済活性化につながるという期待が
 あったが、一方、不動産が買収されることへの危機感も強かった。
・比田勝港国際ターミナルの関係者に話を聞くと、
 「韓国人観光客が来ると喜んでいる店もありますが、それでも、本音は、みんな、もっ
 と日本人に来てもらいたいんです。同じ日本人に対馬の良さを知ってもらいたい。
 それに日本人は礼儀正しいですからね・・・。日本人が来てくれないからあきらめてい
 るのです」
 といい、こう続けた。
 「釜山から航路で対馬にやって来る日本人も増えました」
・日本の領土である対馬を訪ねるのに、一度出国して韓国経由で来るのだという。
 理由は福岡や長崎経由で行くよりコストが安いことが大きい。
 個人的な感情論になるが、これでは、対馬は韓国の領土だと主張する一部の韓国人の思
 いどおりの展開ではないか。 
・対馬市の中心、厳原町に移動した。
 町の中心部にある交流センターには韓国人観光客がたむろしていて韓国語が飛び交う。
 日本語は聞こえてこない。免税店も増えている。
 「免税店はほとんど韓国資本が関係しています」
 飲食店やホテルが並ぶ川端通りも、日本人の姿はなく、闊歩するのは韓国人観光客ばか
 りだ。 
・居酒屋の店主は、
 「島民3万人のところに、年間30万人以上の韓国人が来る。おるのは韓国人だけ。
 川端通りの飲食店もほとんどは韓国人が経営していて、客も韓国人オンパレード。
 すでにアリラン通りだな」
 とあきらめ顔で話し、こうぼやいた。
 「観光バスは90台以上がるが、すべて韓国人観光客御用達。それに、韓国人観光客は、
 韓国人が経営する飲食店や免税店には行くが、日本人の店にはいかない。止まる場所も
 韓国系のホテルや民宿だ。お金を落とす先はほとんど韓国系で、対馬は場所を貸してい
 るだけだよ。その上、気に入った土地があれば買って、そこに別荘や民宿や釣り宿を建
 てていくんだ」
 「ここ3、4年を見ると、韓国資本が買っている量は半端ではない。対馬の土地が全部、
 韓国資本に買われてしまうのは時間の問題だと感じています」
・竹敷地区は元々軍港だった。
 旧海軍の施設が残る”要衝”で、戦前までは民間の土地ではなく立ち入り禁止区域だった。
 その地域が韓国資本に買収され、韓国人専用の施設が並ぶ。
・浅茅湾の民宿はすべて韓国人が経営しているという。
 しかも、いずれも自衛隊施設を監視するように建てられているだけに、住民の間からは、
 「無線が傍受されない保証はない」
 と不安の声が聞かれるという。
・取材を進めると、対馬経済がもはや、韓国抜きでは成り立たなくなっているのがわかる。
 不動産屋整備された道路や上下水道、港湾などのインフラも次々と韓国資本に呑み込ま
 れている。  
 気づいていないのは日本人だけで、これは、”合法的な経済侵略なのではないか”とすら
 思う。
・対馬の島民の多くから、
 「韓国資本に頼らないと生きていけない」
 という声を聞く。
 韓国資本の参入に本音では危機感を持ちながらも、本土に住む日本人と同じ水準で生活
 するには、韓国に頼らざるをえないというのがその理由だ。
 対馬を訪ねる度にこの現実を突きつけられる。
・対馬で国境離島の現状についてインタビューを続けると、次のような声がたくさん集ま
 る。  
 「政治家は、国境離島を守るというが、本当に国境離島対策を考えるなら、海と空の交
 通体系を考えてほしい」
・「国境の島は、日本を守る島という特区にすべきです。土地や山は売ってはいけない。
 そのかわり政府が、日本を守る島民を守るという政策が必要です」
・対馬を、粗油癩を見据えて韓国資本から解き放つ方法はただひとつ。
 対馬を国境利用特区とし、政府が真の経済復興にテコ入れをし、同時に外国資本による
 不動産買収を規制することだ。  
・対馬財界の関係者から衝撃的な話を聞いた。
 韓国人ツアーが港に着くと、ほとんどの韓国人ガイドはまず、
 「対馬は元々韓国領。今はいろいろあるが、いずれきっちり韓国の領土になる」
 と言って、観光案内を始めるのが恒例になっているというのだ。
 島民がそれに抗議すると、
 「韓国人が来るから対馬の人はご飯を食べられるでしょう」
 と表情をこわばらせるガイドもいるという。
 「対馬は韓国のもの」という意見は、いまだに韓国人に浸透しているのである。
・高速艇が釜山港を出港すると、館内放送で、対馬でのマナーなどを説明するが、思わず
 言葉を失うガイドの解説が登場する。 
 「壬辰倭乱によって、対馬には未亡人が大量に発生し、男性が不足したのです。そこに
 男性、つまり、朝鮮通信使が来たら、対馬でどんなことが起きたと思いますか? 
 対馬の女性たちが布団を抱えて、朝鮮・通信使たちを追い回した(一緒に寝ようとした)
 んですよ」
 「日本に着物というのがあるでしょう。その女性の背中に結んでいるのをオビ(帯)と
 言うんですが、これはセックスをするときにシーツのような役割を果たすんです」
・これまで私の取材に協力してくれた男性は、
 「対馬には、不動産を韓国人だけでなく、中国人に売ってもいいと考えている人もいま
 す。韓国人も中国人が不動産を売ってほしいといえば売るでしょう。中国と韓国が重な
 って対馬を買いあさり、その後、韓国が買い占めた土地を中国が買うということもじゅ
 うぶんにあり得る。そうして、中国資本が資本投下して、レジャーランドやホテルなど
 を作るようになるのではないでしょうか」
 と危ぶんだ。
・こう感じているのは、この男性だけではない。ある観光会社の経営者は、
 「対馬自体が要塞です。対馬を手に入れると、日本海を押さえることにもつながる。
 日本海を内海にして自由に航行することを目指す中国は当然、対馬を狙ってきます。
 現実的にそういう時代は来ると思います」
・通称・逆さ地図と呼ばれる「環日本海・東アジア諸国図」を見ると、対馬は日本海と東
 シナ海が接する位置にあり、個々を抑えると、日本海と東シナ海を自由に航行できるよ
 うになる。  
 加えて、島全体が要塞であることを考えると、外交上、安全保障上、重要な拠点になり
 得る。
・日本に帰化した中国ウォッチャーは、
 「要塞である対馬は、太平洋に進出したい中国にとっては喉仏のような存在で、どうし
 ても拠点にしたい場所です。既に韓国人名義や島民名義で買収している可能性は高いで
 しょう」
 と話した。
・外国資本によるわが国の不動産買収を規制する法が整うにはまだ時間がかかりそうだ。
 しかし、手をこまねいている間にも外国資本の進出は容赦がない。
 対馬から目が離せない。 


<領土保護、戦いの10年史> :平野秀樹

序章
・2008年の4月、ちょっとした騒動があった。
 北京オリンピックを控え、さまざまな政治的な思惑と複雑な国情に注目が集まるなか、
 聖火リレーのスタート地点だった長野善光寺はその役割を辞退した。
 「同じ仏教寺院として(弾圧を受けている)チベットおよびチベット仏教に対する配慮」
 からだというのが理由だったが、この発言が世界で大きく報道された。
・当時、私は長野市内で働いていて、家のすぐ前での異様な光景を目にすることになる。
 長野という訳ありの地を聖火ランナーが通過していったのだが、そこでひと悶着あった。
 巨大な五星紅旗が長野駅前近くの道路を埋め尽くし、やがてその真っ赤な旗は男女の若
 者たちによって左右に大きく振られ、数千人(4千人ともいわれる」が隊列航進をはじ
 めていた。
 警察隊の鋭い笛、小競り合い、怒号・・・。中国人留学生によるその統制された示威行
 動とそれをめぐるいざこざに、警備隊は最小限の対応で、腫れ物に触るような扱いに終
 始していた。
 どうして特別扱いなのだろう。
 驚きに加え、素朴な疑問がわいてきた。
・2008年は、日本の人口が有史以来初めて継続的に減り始めた年である。
 日本社会の潮目が変わったともいえるこの年、私はゆっくりと迫りくる隣国の圧力とい
 うものを、感じないわけにはいかなかった。 
  
そして誰もいなくなった
・元来、領土と国境に神経を使わない国はない。
 すべての活動の基盤は国土である。
 国土から、食も水もエネルギーも生み出される。
 ソの拠り所たる国土がこの10年で次々と国外化(グローバル化)していることに、
 もっとも多くの人が関心を持ってよい。
 土地は重要な財産、富であり、社会の信頼の基盤となっている。
 土地は家計資産のトップに位置し、家計の中で53%を占める。
 預貯金の30%よりも大きい。
 それゆえ、土地問題に利害は万人の利害に大きく、そして複雑に入り込む。
 それらの侵害は、社会及び国民生活への影響が少なくない。
 だから無関心であってはならないはずだ。
・私たちは、平和な社会がいつまでもつづき、国土や地域がハイジャックされるなどあり
 得ないと信じ込んでいる。 
 国際化といえば、学校では「世界はひとつ。外国と仲よくしていくことが何よりも大切
 です」と教わる。
 どの先生も急に地主が現れ、自分たちが小作になり下がっていくなどとは教えてくれな
 い。
 戦後日本の視野と関心は経済偏向でもともと狭かったけれど、ここにきてさらに狭くな
 り、先読みのスパンも以前より短くなってきているように思われる。
・それにしても、どうして日本不動産が外国から狙われるのか。
 その理由は簡単だ。
 誰でも買えて、まったく自由に転売することができるからだ。
 しかも、工夫次第で外国人なら保有税を支払わなくても済む。
 不動産売買が世界一フリーで、かつ所有者・使用者の権利が国内外差別なく保障されて
 いることは、国際的に見れば非常に特殊であり、このことは国外でかなり知れわたって
 いる。 
・この国では、他人に知られることなく、誰であろうとも土地を手に入れ、そのまま黙っ
 て持ち続けることもできる。
 国民以外の者が土地を所有することを想定していない法律(憲法を含む)が目白押しだ。
 現に、日本の土地関連法に外国人や外国資本という文字は一言も見当たらない。
・土地所有者にとって日本は、楽園のような国家(不動産ヘブン)だろう。
 しかし、諸外国ではこうはいかない。
 外国人の土地所有に対し、多くの国では防衛策を講じている。
・要は、(買われてしまうと国益を損なうモノ)や(買い戻せないモノ)は売ってはいけ
 ないという視点が徹底されているのだが、いまの日本にその視点は弱い。
 自由貿易、規制緩和がこの国の繁栄のすべてだと信じて疑わない。
・2010年9月、尖閣の衝突事件が起こった日である。
 時の政権は民主党。
 同日、NHKは「クローズアップ現代」で『日本の森林が買われていく』を放映した。
 この番組づくりに東京財団プロジェクトチームはずっと協力してきた。
 実は2年前、本テーマの研究会がはじまったときから、マスコミ各社に対し、問題提起
 をお願いしていたのだが、各媒体の反応は「噂だけではねえ」。
 その後の研究成果について記者懇談会を何度か催したが、「ファクト(事実)がつかめ
 ていないから取り上げるのは無理」との慎重論がやはり大勢だった。
・そんな中、気長にこのテーマを見守っていたNHK関係者がおり、ファクトが出てくれ
 ば放映という計画で、その関係者との接点を持ち続けていた。
 取材先の紹介、データの提供など、本テーマの社会的な認知の広がりを期待し、私たち
 は取材陣に加勢していた。 
 放映にこぎ着けたNHKの英断に感謝したい。
・一方で尖閣事件により、この日を境に日中両国の関係は一気に冷え込んだ。
 民主党政権内のゴタゴタは続いていたが、降ってわいたように安全保障問題が国政問題
 として関心を集めた時期でもあった。
 国土の外資買収に関する規制論も、ここ10年では最も盛り上がった時期であったと思
 う。 
 「提灯買いの国土買収も交じっているだろうが、各地で始まった国土買収の背後には隠
 れたもう一つの狙いがあるのではないか」
 「海洋侵略と国土侵略が同時にはじまったのはひとつの意味を持つ・・・」
 度重なる国会質疑も行われたが、そのことをよしとしないセクターもあった。
・「国会は雰囲気で動くものなんですよ」
 ある政務官は訳知りにそうコメントしたが、2010年秋ごろの政府は、外資の国土買
 収に対し、程度はともあれ、まともに向き合わざるを得なくなっていたのだろう。
 いつまでも「そんな事例などない」「知らない」「わずかである」と言い続けるわけに
 はいかなくなっていた。 
・2010年12月、国交省と林野庁は初めて買収数値を公表した。
 外資による買収件数は、全国で43件。
 総面積は831ヘクタール。
・これを境に、いくつかの具体的な事例、それに対する世間やマスコミの反応が報道され
 るようになった。
 さすがに無関心でスルーというわけにはいかなくなったからだろうが、誇っていいもの
 ではない。
・2010年冬に臨時国会中、これだけの買収事実(証拠)が並べられても、「さして問
 題はない」とする楽観論はまだ優勢だった。
 多くのマスコミにあっては、
 「騒ぐべきではない」
 「通常の経済活動の範囲内だ」
 「心配してもしかたがない」
 とする論調が続けられた。
・規制不要論者の声はこうである。
 「グローバル化抜きでは経済は成り立たない」
 「規制の見返りに請求される多額の補償料をどうするつもりか」
 「信託受益権化されたファンドがらみの不動産の場合、転売と多国籍化は当たり前でし
 ょう」 
・永田町の関係者にヒアリングすると、政府中枢、政権幹部の意向は祈誓反対が主流であ
 るらしい。 
・これに対する私の反論はこうだ。
 「諸外国の場合はブレーキをかける仕組みがどこかにあります。所有規制がない場合に
 は新たに制度をつくったりして規制強化に向かっていますし、利用面ではそもそもコン
 トロールできる管理システムを持っています。英国やドイツがそうです」
・買収例がつぎつぎと出てきて、事実が明らかになってくると、今度は事実の否定と過小
 評価である。 
 「面積がまだ少ない」
 「その程度なら大したことはない」
 「無意味な心配などするな」
 「いざとなったら大丈夫」
・そして、無視と無策を奨励しているように思われた。
 「その買収目的はリゾートだ」
 「買収目的は健全で問題を含むものではない」
 「上乗せ条例など必要ない」
・北海道のある町、(有名な国際スキーリゾート地)も、2008〜11年の3年にわた
 って、アジア系外資に買収された上水道の水源地を買い戻すべく交渉を続けたが、結局、
 町民は2018年の今もこの外資が所有する水源の水を、日々不可欠な生活用水として
 暮らしている。 
 町はこの外資に頭が上がらない。
 かつての買戻し努力は、
 何のためになされたのか。
 もう一度、思い返したほうがよいだろう。
・総じて、一連の外資買収についていえる問題点は、連絡がつく相手(買収者)は限られ
 ており、しかも買収した法人がペーパーカンパニーかどうかがよくわからず、国外居住
 者に対しては不明なままで、ほぼお手上げの状態であるということだ。
 買収後、それらの地とはほとんどがそのまま放置であり、しかも、これまで国や行政に
 よる買戻しが成功した例を筆者は知らない。 
・マニアックな報道番組「新報道2001」(フジテレビ系列)内の人気シリーズ
 「日本の国土を守れ!」が、2011年、有力スポンサーの事情などで一部がカットさ
 れ、放映できなくなったことを知った。
 これ以降、外資の国土買収を継続的に取り上げるテレビ番組は鳴りを潜めた。
・外資・外資系に限らず、いずれおスポンサーも社のイメージを損なったり、不利益をも
 たらす内容の報道は控える。 
 当たり前の話だが、クライアント(企業や宗教法人)から大きな広告発注を受ける報道
 機関(テレビや各紙、各雑誌等)がその意向を受けずとも、忖度していく可能性がある
 ことは否定できない。
 クライアントの機関新聞の印刷を委託されている新聞社も同様だ。
・人間、変化が一巡し、時間が経って皆が知るようになると、言わなくなるものがある。
 私たちの感覚は徐々にマヒし、1券や2件買われたとて、またそれが200ヘクタール
 を超える大面積の買収になったとしても、さほど反応しなくなってしまうようだ。
・慣れが感覚を鈍らせるという意味で、尖閣諸島海域への中国公船の侵入も似たような類
 の話かもしれない。
 いつのまにか1面トップのニュースからベタ記事扱いとなり、最近は接続水域への侵入
 はおろか、領海侵犯でも同じベタ記事扱いにしかならない。
 軍艦(病院船)が領海に入って来ても1面を飾ることはない。
・「ああ、またか」
 ニュース性は薄らぎ、慣れっこになってしまっている。
 領海侵犯については、そのタイミングが計られながら頻度が高まってきている一方、
 「無害通航権があるから、相手国に対し、抗議はできないのですよ」と、侵入侵犯の正
 当化(言い訳)をわざわざ説明してくれる日本マスコミも現れている。
・私たちは知らず知らずのうち、こうして馴化され、教化されていくのだろう。
 外資の国土買収に対する国民の反応についても、近いうちだれもが慣れて一般化してい
 き、フツーの出来事として受け入れられるようになっていくのではないか。
 ちょうど、生体でいえば気づかないうちに悪化していく慢性疾患のような状態である。
・10年の時を経て、粛々着々と国土買収は進んでいる。
 この10年で現況を把握することはさらに困難になっている。
 どの地目でどれだけ買収されたのか。
 土の省庁も押さえておらず、驚くべきことに国家として不明のままである。
・右肩下がりになった国家の宿命なのだが、子供たちは仕事がないからと街に出ていき、
 一度出たらもう戻ることはない。
 全国どの地区を見てみても人口減と過疎に喘いでいる。
 田舎に残された高齢の親たちは、所有する田舎の土地を手放したい。
 はやく売って現金収入を得たいから、買収話を歓迎する。
 これはもう特定エリアに限らず、どこの地方にあっても共通して言えることである。
・「先祖代々の土地を売るなんて」
 そんなふうに土地売却に躊躇するのは後期高齢者達くらいだ。
 60代以下ならほとんど躊躇しない。
 「値段がついて、売れるなら売る」と、割り切る。
・「買い手があるなら売りたい」
 「子供たちはもう戻ってこないし、その方が喜んでくれるだろう。固定資産税もかから
 なくなるし…」  
 「先立つものはまずお金だから」
 売り先は誰だってよい。こだわらなくなっている。
 結果、個人や法人からの売地があふれ、さらに値段が下がったものを買いたたく動きが
 全国で進んでいる。
 静かに進んでいくから気づかない。
・これに対して有効な手立てが見つからない。
 自治体は不動産の値段がゼロ(寄付)でも引き取りを拒否する。
 細切れや飛び地の小区画を受け入れたとしても維持管理にお金がかかるし、固定資産税
 が入ってこなくなる。 
 失火やごみ投棄など、何か問題が生じたときの管理責任も問われる。
 それより民間に持たせていた方が、コストがかからず有利なのだろう。
・各地では、外資による買収実態を知らされない人たちが大半である一方、事態の成り行
 きを見てきた人たちの間には、「諦め」に似た空気が蔓延しはじめ、発信力も失せてき
 ている。 
 日常の視野に入らないこうした外資買収の動きに対し、私たちは騒ぐこともなく、静か
 にしみゆく侵出を受け入れている。
 そして、今日なお、リゾートや再生エネルギー名目で売買が進み、山も離島も農地もほ
 とんど草刈り場状態なのだが、私たちは反応できていない。
・魚は頭から腐る。生体的に見ると、中枢(頭)の病理は、手や足の機能障害や疾患とな
 って表れるといわれるが、マズいと気がつくときがいずれは来るはずだ。
 しかし、その時の余命はそう長くはない。 
・不思議と思えてしかたがないことが、学問分野である。
 学問研究テーマとして、この外資の乳問題はまったく人気がない。
 なぜか専門の研究者が登場してこないのだ。
 どうしてこのテーマをやる人がいないのか。
 何人かの知人研究者に聞いてみたことがある。
 彼らから得た答えは散々だった。
 「せっかく留学したのに、国際センスを疑われてしまいますよ」
 「ナショナリズムの色を出したりすると研究に支障をきたします。右寄りとみられます」
 「そのテーマだと就職できません。マイナスにしかなりません」
 シンクタンク研究員をしている元官僚(国交省)はこう返答した。
・「今どき外資を責めるテーマをやるなんてバランス悪すぎるよ。日本はもうグローバル
 化していないと食べていけないんだから。そんな切り口で研究しても、何のアウトプッ
 トも出て来ないし、何年やっても同じでしょ」
 国難や天下国家論など説いてみてところで喰ってはいけない(生活していけない)とい
 うのである。 
・つい先日も、気心の知れた国交省所管の全国組織の職員に訊いてみた。
 「このテーマ、どうして研究者が出て来ないの?」
 やや困ったような顔になったが、ニヤリと小さく笑い、
 「触らぬ神に祟りなし、ではないですかぁ」
 戸惑って意味を探ろうとしていたら、こっそり耳元に近づいてきて、ひと言、
 「・・・アブないですから・・・」
 どこぞ祟りでもあるというのだろうか。
・わが国はすべての土地を自由に売買の対象としてすでに開いてしまっている。
 1994年のGATS(サービスの貿易に関する一般協定)の交渉において、世界を相
 手に、そう言った扱いにすることをセット(約束)してしまっている。
 どうしてこういうことになってしまったのか。
 端的に言うなら、国家の安全保障と国土の所有権というものが関連づけられていなかっ
 たことが一因だったろう。
 こうした来歴を無視し、今になって時計の針を巻き戻し、規制を再開しようとするのは、
 「ちゃぶ台返しになるから無理」というのが、外務省はじめ政府の全般的な見立てであ
 ると思われる。
・このほかわが国は、協約のみならず憲法の問題もからみ、外国人土地法の改正は相当難
 しい。
 その難しい交渉を始めるメリットがこの国にあるかどうかの見極めが必要だろう。
 伝家の宝刀の扱いは簡単ではない。
・確証はないのだが、外資問題の法制化を阻止したり、ブレーキをかける役割を担う何か
 特別な事情かにある者が、政界やマスコミに出没しているとしか思えない事例を私は何
 度か経験した。 
 気概のある議員の主張が、不思議なことだが、何だか次第にマイルドになり、現状を肯
 定するだけの平凡な議員になり変わっていくのである。
・外資買収の気勢を進めたい代議士たちへ、さりげなく落選議員の事例が伝達されていく。
 異性スキャンダル、風俗通い・・・などはわかりやすく、タブロイド判受けすることだ
 ろう。 
 どの議員も、それが不気味な安定感を持つ側からの働きかけだとうすうす自覚しながら
 も、いまの立場を守っていくために、その方面への配慮の度合いを強め、転向していく
 のではないか。
 時に大臣の椅子をちらつかされたりすると、条件反射でわかりやすい動きをやらかして
 しまう。
 長いものに巻かれろ方式の無難な線へ・・・。
 議員のパフォーマンスもいい手のマスコミ論調も、すでにそういった主流になりかけて
 いる路線に押し流され、抗しきれなくなっているようだ。
・陥落である。
 こうした光景は、進度や段階に差こそあれその先例を豪州、台湾、香港などで見ること
 ができる。
 静かなる侵略、傀儡政権という呼び名で、特に豪州が話題になっているが、この日本に
 もいよいよそういった兆候が表れ始めている。
・事情は万人共通で、「明後日の理想より、今日明日の飯のタネ」。
 いまの生活、目先の利益がどうしても先になってしまう。
 食い扶持がなくなってしまっては困る。
 皆それぞれが経済活動をやっているから、外資批判はやりづらい。
 経済侵略はそこを衝いてくる。
・「何を今さら」と、該買いを相手に事業展開する業種の方からはきっと一蹴されるだろ
 うし、現地に製造拠点をもったり、日本国内で企業や外国人労働者を抱えている経営者
 の方からは呆れられるだろう。
・やはり、遠い未来の不安より、目の前の利益確保の方が先決である。
 不動産業界について言えば、この国の土地価格を押し上げる力はもう外資以外にはない。
 人口減の縮小社会では、外資が頼みの綱だ。
 外資歓迎、経済第一は揺るがない活動原理で、これから先も第一であり続ける。
・しかし、分野を問わず、どこまでもこの流れだけでよいのだろうか。
 いまのようなすがたで生き永らえるのはせいぜい一世代。
 国土売却によって手にした金銭対価など、すぐ消費で消えてしまう。
 本当にこのままでよいのだろうか・・・。
    
無抵抗のまま消滅する国
・わが国の場合、不動産所有のグローバル化と所有者不明はある意味必然で、避けて通れ
 ない。
 外国人所有に由来する土地の所有者不明は制度的(外為法等)には、もはや追いようが
 ないが、しかし、このことが政府の所有者不明対策に出てくることはない。
 長野の聖火リレー騒ぎと同じで、不動産所有のグローバル化は、なぜか腫れ物扱いとな
 って10年過ぎた。
 言いたくはないが、もう手に負えない段階に入っている。
・「日本列島は日本人だけの所有物じゃない」
 この発言はある意味で歴史に残る名言(2009年4月、鳩山由紀夫)になるだろうが、
 列島の大半が外国人所有で所有者不明、という図式も、この先の日本では十分あり得る
 と心得なければならないだろう。
・固定資産税はきちんと徴税できているのだろうか。
 徴税できているかどうかが個人情報だとして明らかにされず、自治体の議会も自らの権
 限で不能欠損処理(税の存在が否定される事実上のトバシ)を連発すれば、表沙汰にな
 らない。  
 実態上、その土地はなきものとして扱われ、そのまま素通りされつづけることになる。
 これまた合法だから、これでいいというわけか。
・しかし固定資産税は、市町村税のなかの最有力税目で、全体の41%を占める。
 その主たる税源が、課税も徴税も出来ず消えてしまうことになるとすれば、真面目に税
 や国民保険料(税)を払い続ける人たちはたまったものではない。 
 マインナンバーを登録されてしまった人たちは逃げられないわけで、結局、「国内外逆
 差別」という話に発展してしまいかねない。
・そうなってしまっても、日本人はおとなしいから不払いの人には文句も言えず、行政側
 としても騒ぎを起こしたくないからそのままスルーするのだろうか。 
・外資の国土買収に伴う税務上、管理上の諸問題は、こうした地方行政の統治力や主権の
 存続問題に行き着く。
 固定資産税を徴収する自治体の徴税吏員は、マインナンバーで縛られた私たちには矢の
 ような催促を繰り返す無敵の存在だが、こと海外の外国法人や外国人には弱い。
 言葉のハンディもあるが、国内で有効な権限(質問検査権)が海外では通用しないから
 だ。
 海外で転売が繰り返されたとき、捕捉はできなくなる。
・こうした問題が頻繁化していくと、やがて納税などの重要な決まり事(義務)が守られ
 ず、おしなべて国内法の順守意識が低い、もう一つの別の社会が登場してくることにな
 る。 
 それは統治する主体が見えないカオス的な社会だが、そういった将来の日本の姿が少な
 からず読み取れるにもかかわらず、現状の把握、分析を怠り、制度改正の議論に踏み出
 せていない。
 皆が見て見ぬふりをして先送りを続け、課題の解決は基礎自治体などの運用側に押し付
 けられている。
・来るべき外国人との混住社会に備えるための動きも鈍い。
 財界主導の経済原理ばかりを追い求めて、外国人労働者の入り口だけを緩め、後は現場
 で・・・。
 これだと、住民間の不和と不安は避けられず、声を上げない者は泣き寝入りするしかな
 い。
・税務面、治安面での懸念を抱えたまま、「国土と人」の組成が国外化していくという実
 態がどこまでも進みつけば、実質的には主権喪失という事態につながるわけで、その土
 地は形式的には領土ではあるが、日本という国や自治体の関与は、公的支援(生活保護、
 医療負担等)や公共サービスの提供(ゴミ収集等)といった出費分野だけになりかねな
 い。
 相変わらず律義に納税し、再生エネルギーの上乗せ電力料金を払い続けるのは、おとな
 しい人たちだけということになるのだろうか。
・2017年6月、日本政府は、一帯一路に協力することを表明したが、足元の国土の買
 収の状況についてもっと関心を持ち、その全貌を知った上で、本来ならば慎重なスタン
 スを決めていくべきではないか。
 しかし、これも遠吠えにすぎない。
・國津が買収され続けていることについて、国民の多くは無関心のまま、「心配してもし
 かたがない」と傍観するにとどまっており、政府も寝た子を起こさない対応が大人の対
 応、冷静な対応だとして謙抑的な反応を続けている。
 財界と政府との区分が見えなくなっており、目先の経済的繁栄を追うことばかりに関心
 が向き、政府でなければできない重要な長期的施策の検討と結論を導き出す努力を怠っ
 ている。 
・本来、マズいと気づいたなら、何がしかの修正を試み、一連の動きを止めたり方針変更
 を始めるものだが、そういった良識やセンスも投げ出してしまったかのようだ。
 問題そのものが見えなくなっているのだろうか。
・今から150年前の極東。
 1860〜70年代は、列強が極東でしのぎを削り、領土支配を競っていた時代である。
 最大の餌食にされたのが眠れる獅子で、香港を英国に、アムール州、沿岸州をロシアに
 奪われてしまう。
 琉球も日本に合併されてしまう。
 当時の清国は、従来の官僚システムが機能せず、自然災害と人口問題に直面していた・
 ・・。
・未来が読めず、目の前のことしか目が行き届かず、次第に無気力になっていく時代の雰
 囲気がいまの日本にすこぶる似ているように思われる。
 政界、官界、学界、そして知らしむべきマスコミ界まで、今はそういった時代の気配に
 支配されかかっている。
 30年後の世代の話がどこを探しても出て来ない。
・いつの間に、これほどまでに弛緩し、目の前のことしか語れない社会になってしかった
 のだろう。 
 一帯一路は清国時代の意趣返しと見る向きもあるが、この調子だと東洋の奥座敷だった
 日本が中華圏の仲間入りを果していく未来も、そう遠くはないかもしれない。
・世界史を概観すると、各国の領土は武力によって獲得されたものばかりではない。
 一括買収したものも少なくない。
 アラスカ買収が有名だが、19世紀のアメリカは先住民を駆逐しつつ、一方で北アメリ
 カ大陸を先に支配していた諸国からその保有地を次々に買収し、領土を増やしていった。
 ルイジアナ、フロリダ、などがそうだ。
・領土と国境に神経を使わない国はなく、ガバナンスの維持のために必ずどこかにグリッ
 プを利かせている。  
 領土保全は国家成立の基本的事項であるからだ。
・英独では土地売買において国内外差別はなく、外国人も自由に売買できる。
 「売買面」だけを見れはそうである。
 だが、かつて多数の植民地支配を手がけてきたこの2国に抜かりはない。
 「利用規制」と「現況は悪」の分野で盤石な体制が敷かれており、外国人所有→所有者
 不明化→ガバナンス不可という流れを許さない仕組みがある。
 統治構造に彼我の差を感じる。
 とくにイギリスでは、土地売買後の登記は義務である。
 それ故主勇者は特定されており、外国人所有→所有者不明ということにはならない。
 対する日本は、冬季は任意となっているため所有者が特定できない。
・ドイツも英国同様、土地の売買に外資規制はない。
 しかし、地籍調査が100%完璧に終わっており、基点を管理するのはやはり軍だ。
 所有権譲渡の登記も義務である。
 それに利用規制の機能が日本とはまるで違う。
 「定められた以外はつくってはならない」という徹底ぶりで、日本のように「してはな
 らないことを限定列挙」しただけの法律ルールとはわけがちがう。
・わが国が民法制定でお手本にしたフランスの土地売買はどうか。
 フランスでは、150ユーロ(約2億円)以上の土地やワインのうちの外国人による取
 得には事前届出が必要で、かつ地元市町村長には土地を前もって取得できる権利(先買
 権)がある。
・オーストラリアにはここ10年、海外(特に中国)からの国土買収が急速に入り、「静
 かなる侵蝕」に対して難しい対応を迫られている。
 狙われたのは、港湾、農地、鉱山である。
 豪州の地方政府が国家の安全保障を顧みず、ダーウィン港の港湾エリアについて、中国
 企業と99年間の貸与契約を締結してしまったのだ。
 これには米国も驚いた。
 この港湾は米海兵隊の駐留拠点にほど近く、この契約によって部隊の出入りは中国の監
 視下に置かれることになってしまったからだ。
 あり得ない顛末は他にもある。
 2016年、上海CREDは豪州国内において、1件で実に773万ヘクタールに及ぶ
 農地を実質的に買収した。
 この面積は、韓国の全国土面積に8割に相当する広さで、当地は軍当局の戦略的兵器試
 験場にも隣接する。
 豪州はこれまで中国に寛容だったが、さすがにここまで来てそういうわけにはいかなく
 なったようで、本格的な規制に乗り出したようだ。
・ニュージーランドは、2005年に海外投資法を定め、すでに「センシティブな土地」
 (非都市部、島、沿岸部、自然保護地等)にかかる外資の買収については、海外投資局
 による許可制としている。 
・アメリカは州当局ごとに独自の規制法を有しており、外国人土地所有に制限をかけてい
 る州が50州のうち23州に見られる。
・2008年、対馬の海上自衛隊隣接地が韓国系企業に買われたとき、時の「麻生太郎」
 総理は「(バブルのとき日本もマンハッタンのビルを買ったが、)自分が買ったときに
 はよくて、人が買ったら悪いとは言えない・・・」と語り、
 日本の外務省も「政府として言う立場にない」としかコメントしなかった。
 しかし、ニューヨーク州に外資の売買規制がなかったから、三菱地所はロックフェラー
 ・センターを買収できたわけで、ほかの州ではこうはいかない。
 ましてや(防衛施設隣接地)と{都心ビル)の買収を同列に論じることはいただけない。
 彼我の差を痛感する出来事であった。
・韓国の外国人土地法は、重要な一定エリア(規制区域)の土地買収を許可制に、その他
 の区域は届出制にしている。 
・ひとりわが国は置いてけぼりだ。
 国土買収については開放するばかりで、世界とは真逆の方向に走っている。
 2018年、所有者不明地の利用についても、国内外を問わず開放する制度を創設した。
 所有も利用も規制が緩い日本の際立ちぶりは、おそらく世界一だろう。
 不動産登記に外資規制が皆無なのは日本だけである。
 「どんどん買ってください」
 「日本の不動産はまだ安いです」
 「欧米並びで、日本の不動産取引もいよいよグローバル化の時代になりました」
 依然として、外資による国土買収についてはオールフリーを容認し続け、成長戦略の柱
 としてインバウンドと外国人労働者を挙げ続けている。
・日本だけがなぜ、外資の国土買収に何ら対策を講じられないのか。
 なぜいつまでも放置したままなのか。
 できない理由を整理していくと、どうしても外せない二つのタガが、まるで村の掟のよ
 うにこの国を制し、身動きできないようにしているのがわかる。
・一つ目のタガは条約である。
 もし日本が今後、「外国人や外資を限定し、国土の買収を制限する」としたならば、
 それはWTOのGATSや、韓国、メキシコとの二国間投資協定に違反する可能性が出
 てくるのである。 
・このうちGATSにおいては、日本は中韓を含めた160を超える国々を相手に、
 「外国人等による土地取引に関し、国籍を理由とした差別的規制を課すことは認められ
 ない」
 という約束を交わしている。
・一念発起して突然、
 「日本は、外資に国土を買われないように制限をはじめます」と決めたとすると、
 どんな作業が待っているのか。
 まず、GATSの協定内容を変更するため、「30近い条約を改正」するとともに、
 各国との個別交渉において、新たな規制の見返りとして追加的な自由化が別途求められ
 るはずだ。 
 土地以外の別の分野での自由化の約束や補償金調達など、各国との個別交渉を乗り越え
 ていくには、国内各界との利害調整も避けられない。
 無理難題、課題山積のこの作業には何年かかるかわからないし、堪えられないというの
 が外務省はじめ政府のご簿一致する見解とみられる。
・それにしても、こうした問題がなぜ起こってしまったのか。
 振り返って考えてみると、それは1994年までの交渉だけの問題ではなく、戦後の日
 本が長い期間、領土保全などの国家の安全保障にかかる諸問題について、無思考なまま、
 何ら身構えることなく、やり過ごしてしまったツケが回ってきたということでもあるの
 だろう。
 「貿易立国として、経済だけを考えていればそれでよい」
 「不確定な未来を云々するより、経済だ。戦後はそれで回ってきたのだから・・・」
 そういった戦後日本の特異な成功体験が仇となり、今日まで判断を鈍らせてきたのかも
 しれない。
・二つ目のタガは、日本国憲法である。
 この憲法の問題が土地問題の原点なのかもしれない。
 とにかく個人権利(土地所有権)が強すぎる。
・如何ともしがたいが、現行の日本国憲法は他国からの侵略に対して、どのように国民を
 守らなければならないかという発想が欠落したままなのかもしれない。  
 (何人(外国人含む)であれ、個人の権利を侵害する国家(日本国)は、たとえそれが
 公衆の秩序の維持、安全保障に支障をきたすといえども、まかりならん)という読み方
 も現行憲法はできてしまうのである。
・憲法第9条の戦争放棄は有名だが、武器を持たない戦争、「経済侵略」「国土侵略」に
 際しても、憲法第29条は事実上の自衛放棄を諸外国に対し、約束してしまっている。
・この先、対馬や北海道に見られるように、外国人によってしずかにかつ合法的に既得権
 益が積み上げられ、実効支配というものが進んでいったとき、突然、外国人によって自
 治の宣言がなされてしまっても、政府は手をこまねいて見守るだけ・・・そんな不幸な
 事態も近い将来起こり得るのではないだろうか。 
・かつて国家と土地(領土)の関係について、憲法学者の「美濃部達吉」はこう定義した。
 「国家は・・・土地を基礎とする国民の集合体である。国家存立の基礎を為す土地の区
 域を領土と謂う」
・国家にとっての領土は、それほど不可分の要素であったはずである。
 しかし、戦後70年。これほどまでにこの国が自国の領土も主権も主張しようとしない
 国となり、国民の多くもまた冷めた傍観者に変わり果ててしまうとは、美濃部達吉も含
 めて、誰も予測できなかったのではないか。
・どんな組織でも、波風立てず、現状維持を繰り返すほうが仕事は少なくて楽である。
 とりわけ倒産の心配がない組織はおのずとそうなっていく。
 立法府も行政府も例外ではない。
 いまがとにかく回っているなら、汗はかきたくない。
 しかし、それでは国は沈んでしまう。
 少々の壁があろうとも、先送りせず不作為を許さないリーダーはもう現れ出ないものだ
 ろうか。 
・自民党は2013年秋、与党(第二次安倍内閣)となって10か月後にようやく「安全
 保障と土地合成に関する特別委員会」(佐藤正久委員長)を自民党政務調査会に設置し
 た。
 しかし、与党内で合意に至らず、そのまま不発に終わってしまったというのが顛末のよ
 うだ。
・2016年秋、非公式だが、2014年に一度流れてしまった「重要施設周辺区域調査
 法」のさらにエリアを絞った法案が浮上した。
 「重要施設」を「防衛施設」に置き換えたもので、「防衛施設周辺区域調査法」である。
 「重要施設」だと、国境離島、原発施設なども含まれる可能性があり、複数省庁にまた
 がっていくが、「防衛施設」というエリアに絞り込めば、基本的には防衛省のみとなる。
 ただ、これも本格的な検討には至らず、いつしか立ち消えていった。
・そして2017年秋、自民党政務調査会の「安全保障と土地法制に関する特命委員会」
 が再開された。
・考えてみれば、30余年にわたる日本の新自由主義路線は変わっていない。
 例外なき規制緩和が優先で、廉価であることが最良であるとの流儀が隅々まで浸透した。
 守旧派を排除し、規制緩和を加速させてことこそ、生き残り策だといわれ続けている。
・電力自由化、所有者不明土地法、総合型リゾート・・・とグローバル化を見据えた開放
 路線はまだまだ続いている。   
 今後期待されるお目当ての顧客は、日本に関心を持つ外国人や、低金利効果が期待でき
 る日本での投資を考える海外投資家たちである。
 確かに、地方奏請と東京の生き残りをかけるには、この開国・開放路線の策しか残され
 ていないのだろう。
・それゆえに日本発のメッセージはストレートだ。
 「ぜひ日本に来てください」
 「どうか国土も買ってください」
 「私たちは不動産をお金に変えて豊かになり、グローバルな国家になっていきます」
 国を挙げての連呼である。
 遠い未来は考えない。
 私たちは歌をうたい続けるキリギリスのように、目の前のことしか考えておらず、その
 先の未来や次世代以降の生活プランにまで考え及んでいない。
・一方で、住民が疎となって薄まっていくエリアでは、外国人が国土や建物を占有し、
 旧住民が押されて減少していくという現象が見られはじめている。
 大都市近郊では西川口などが顕著だが、北海道や対馬のリゾート地、そして全国の過疎
 地にも出現してきている。
・やがて、それらの土地の所有権者(地主)、経営者、従業員、入込客・・・がつぎつぎ
 と外国人に入れ替わり、住民の過半を占めるようになっていったとき、地名や国名こそ
 日本だが、そこで目にする光景は、言葉も文化も、語られる歴史も価値観も日本の者で
 はない世界がひろがっていく可能性がある。
・近い将来、二重国籍の多数の住民たちが日本以外の所属国の法に従って暮らす可能性が
 あるが、その二国間の利害が相反(矛盾)するとき、その人たちはどう動くのだろう。
 強い国の法に従い、弱い国の法はないがしろにする。
 それは生き抜くために当然の選択であろう。
・日本がやがて辺境部、国境域から順に放棄せざるを得なくなっていくのではないか。
 私にはそういう未来がひたひたと近づいているように思えてならない。
・大英帝国は最盛期に本国の120倍以上の植民地を保有していたが、アメリカの独立以
 降は、「小英国主義」へ方針変更していった。
 植民地や自治領をイギリス連邦化していくなど、段階的に手放していった。
・同じようにこれからの日本も、すべての国土(領土)の維持がしだいに難しくなり、近
 未来は、「小日本主義」の名のもとに、国境域の北海道や対馬、沖縄などから、実質的
 に撤退を始めていく可能性も否定できない。
 土地に所有権変更、定住住民の入れ家がそういった方向性を後押しするだろう。
 外国化である。  
・もちろん政府が公言することはなく、なし崩し的に他者による実効支配と主権の入れ替
 わりが進んでいき、後追い的、結果的に領土喪失を認めざるを得なくなるのではないか。
・隣国は隣人、友好、交流・・・の相手として大切な存在である一方、国境問題という決
 してなくならない難題を共有しなければならない存在でもある。
 いずれ私たちは、仲よくするだけの国際感覚でしか海外を見ていなかった戦後70年余
 りを恥じる時代を生きなければならなくなるだろう。
 そして、国家間の相互の善意だけで友好関係が築けると信じていた時代を悔いるにちが
 いない。 
・領土境界は本来、動くものであってはならないものだが、わが国の場合、買収した者の
 国籍によって、日々刻々と買われた分が将来の国土ではなくなっていく可能性があるこ
 とを、すみやかに自覚すべきだと私は思う。
・これに対して、楽観論者はまだまだ多い。
 「買収そのものは、単に所有権の移動に過ぎず、領有権とは別です。買収されても領土
 としては何ら変わりありません」 
 安全保障を専門とする
 シンクタンク研究員でさえそういうが、本当に安穏としたままでいいのだろうか。
 繰り返し言うが、財産権は憲法第29条で保障されている。
 (外国人も含め)何人であっても保障されている。
・平和は「祈ってさえいれば手にすることができる」という思いには、相手国も同様であ
 ってほしいという厳某的な要素がたぶん含まれているが、それは日本側の希望でしかな
 い。 
 相手国が二国間の平和を乱す行為を段階的に進めていったとしても、日本政府はやはり
 お決まりの「遺憾である」との抗議を相手国に対してただただ繰り返すばかりであろう
 か。
・私たちは法を守ることが物事の基本中の基本だと小さい頃から教化され、今日まで至っ
 ているが、時代環境は変わり続けている。
 人口・経済の拡大期、成長期の時代はすでに終わっている。
 いまの時代変化に合わせたルールを再確認し、変更していくことを忘れていまいか。
 「グロー張り化の一環だから、神経過敏になる必要はありません」
 「買収の用途が別荘用や資産保有などで、脅威論的な捉え方をしていません」
 こんな呑気なコメントを言い続けられるのも、あと2、3年だろう。
・一般多数はもとより、マスコミ、研究者、政治家も含め、皆が遠い将来を考えることを
 厭い、多少の不安や、不幸の兆しが現実世界に見えていても、見て見ぬふりを決め込み、
 やり過ごそうとしている。
 豊かさ(ストック)を享受するのに夢中で、既得権益を守るための保守的投資と、
 上(権力)への忖度や空気読みに精を出す。
 ハードなこと、汗をかくこと、面倒なことは、できれば避けて先送りし、面倒なことに
 はサボタージュを決め込む。 
・この国は老いたモラトリアム国家のように、危機が目の前に現れるまで、いや目の前に
 証拠を突きつけられても、なお眼をそむけ、耳をふさいでやり過ごそうとしているので
 はないか。 
 そうやって呑み込まれていくのであろう。
・ただ考えてみれば、一方的に国土買収が始まったわけではない。
 売り物があるから、買い手が登場する。
 なぜ、売り物がこれほどまでに出てきたのか。
 単純に経済原理のせいだけにするわけにはいかない。
 国土の均衡ある発展という課題にあれほどこだわり、投資をしてきた戦後数十年の営為
 にもかかわらず、今日の人口減と消滅地域の出現が避けられなかったわけだが、ここに
 至るまでの政策が問われなければなるまい。
 正しかったのだろうか。
 そしてまた、追い詰められた中で始めた国是、見境もなく続けられている規制緩和とい
 う開国は、もっと総括されなければならないだろう。
・今年生まれた人が老齢になるころ、2100年の日本の人口は5千万人程度と予想され
 ている。 
 外国人住民は2017年のペースで増えていくと、2100年には1千万人を超えてい
 るはずだ。
 そのような混住社会を予想した準備と覚悟が教育面では必要だし、そういった変化を見
 通したあらゆる分野での枠組みの再編と法整備が不可欠だ。
・そして近い将来、各地には租借地に似たエリアや実質日本ではない地区が登場するだろ
 う。 
 それらがやがて広がりゆき、自治区、自治領(属国、植民地)へと変貌していくことは
 時間の問題だ。
 今言えることは、この国が間違いなくそういったらせん階段を緩やかに下りはじめてい
 るということである。
・望んではいないだろうが、これを是とする流れは覆せなくなっている。
 海も含め、国土は徐々に狭まり、縮み続けている。
 戦争によって領土を失うのではなく、一筆一筆、買いたいという国の人の手に渡ってい
 る。
 合法的だからと、問題視されることもなく。
・もう一度言う。
 いうまでもなく土地は家計資産のトップに位置する。
 家計経済の中で53%を占め、預金より大きい。
 それゆえ、土地問題の利害は複雑に入り込む。
 手に負えないから、大変だからと正視することなく、放ったままにしておいていいもの
 ではない。 
・土地を手放し、領土を喪失していくことによって、社会の公正さや公平さを揺るがしか
 ねない未来が見通せるなら、国民利益をまずは慮り、すみやかに対応していくべきでは
 ないか。 
 そして後出しジャンケンだと言われぬよう、はやい段階で面倒くさがらずに手を打って
 いきたいものだ。
・何年か後、この国はどんな人たちが暮らし、どんな言葉を使って子供たちに教育を施し
 ているだろう。
 どんなものを食べ、どこからエネルギーを得て、どのような産業活動を営んでいるのだ
 ろうか。
・お金や資産を持っているうちは、持ち上げられ大切にされる。
 でもそれらを失ったとき、レストランの上客は給仕に変わらなければならない。
 「世代間不平等と国内外不平等」。
 そのツケを被ってしまうのは、今の若い世代以降である。
 国土買収問題を放置することは、この二つの不平等を呼び込んでしまうだろう。
 だから今一度、考え直してみてほしい。