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安倍政権が、なぜこんなに強いのか。なぜ支持率が盤石なのか。そして、なぜ安倍政権が
憲法改正にひた走るのか。それも、日本帝国時代の明治憲法の復元とも思える内容に改正
したいのか。その背景には、「日本会議」と言われる組織の存在が大きくかかわっていた。
「日本会議」という名前から出るイメージは、ごく普通の政治活動の組織と思えるような
ものであるが、問題はその「日本会議」に背後にある組織だ。そしてその組織の内実は、
簡単には言い表せられない複雑怪奇な組織だ。かつての学生運動の「左翼」に対する「右
翼」の側面を持ち、「オウム真理教」みたいなカルト集団としての側面も持っている。安
倍首相が時々口にする「美しい日本」とは、彼らが基本理念とする明治憲法下での「戦前
の日本」のことのようだ。彼らが安倍政権を陰で支え、そして操っている。今の日本は、
彼らの組織に完全に牛耳られている。
彼らの強みは、その組織運営が、決して暴力的に行われているのではなく、極めて民主主
義的に行われていることだ。コツコツと地味に忍耐強く事を進める。彼らの思想は単なる
政治的思想ではなく、宗教的教義のようでもあるようだ。そのため、組織として盤石で寿
命が長く継続的だ。まさに「継続は力なり」を地で行く組織だ。
今の日本には、彼らの組織に対抗できるような政治的組織は、存在しないのではないだろ
うか。政治的無関心層が大勢を占めている日本においては、彼らの組織力は絶大な力を発
揮する。このままいけば、彼らの目標である明治憲法の復元という憲法改正は、安倍政権
により実現するだろう。しかし、その先にある日本という国は、どんな国、どんな社会に
なっていくのか。今はただただ、平和な社会であってほしいと、祈って見守るしかない。

はじめに
・安倍政権の暴走がとまらない。2012年に第二次安倍政権が発足して以降、特定秘密
 保護法の採択、集団的自衛権に関する閣議決定、そしていわゆる「安保法制」の強行採
 決と、傍若無人な政権運営はとどまるところを知らない。
・第一次安倍政権で、体調問題からとはいえ、代表演説直後の辞任という前代未聞の大失
 態を演じた安倍晋三の政治生命は、完全に絶たれたかのように思われた。事実、当時の
 世論調査でも7割に上る有権者が「安部の突然の辞任は無責任だ」と答えている。にも
 かかわらず、保守論壇誌には安倍晋三が登場し続ける。有権者から無責任と烙印を押さ
 れ、安倍晋三自身も鳴りを潜めて表立った動きをしなかった時期にも、なぜか、保守論
 壇の「識者」たちは、安倍晋三の名前に言及し続けた。さらには、極めて早い時期から、
 安倍晋三の再登場を熱望するかのような記事が並ぶようになる。これは奇妙なことでは
 ないか?
・退陣し、政治生命が終焉した安倍晋三を熱烈に応援し続ける保守論壇誌。その傾向は、
 安倍晋三が再び総理として返り咲いた後、さらに顕著になっていく。「たまたま、偶然、
 そうなっただけだ」「同じような性向を持った人なのだから、同じような雑誌に集まる
 のは自然なことだ」と切って捨てていいとは到底思えない。
・安倍退陣から再登板まで、5年もある。あの5年間、彼らは全く同じことをやり続けて
 いる。その間、民主党政権の誕生と瓦解、東日本大震災など、さまざまな出来事があっ
 た。にもかかわらず、彼らは変わらない。同じことを繰り返している。何かある。この
 持続性と反復姓を生む、何らかの原因があるはずだ。 
・そうして一つの答えに行き着いた。それが「日本会議」の存在だ。日本会議とは、民間
 の保守団体であり、同団体のサイトによれば「全国に草の根ネットワークを持つ国民運
 動団体」だ。彼らの主張内容は、「右翼でもあり保守だ」と自認する私から見ても奇異
 そのものであり、「保守」や「右翼」の基本的素養に欠けるものと思わざるを得ないも
 のばかりであった。
 
日本会議とは何か
・「美しい日本の憲法をつくる国民の会」のトップページにまっさきに出てくるのが3名
 の共同代表、櫻井よしこ田久保忠衛三好達という、おなじみの顔ぶれだ。
 「美しい日本の憲法をつくる国民の会」は、「新しい時代にふさわしい新憲法」の制定
 を運動目標とする日本会議が、一般市民1000万人の賛同者を集めるために作った、
 別動団体なのだ。
・自民党の衛藤晟一が、「みんなで作った安倍内閣」と日本会議の功績を讃えるのも無理
 はない。「日本会議国会議員懇談会」に所属する国会議員が第三次安倍内閣の全閣僚
 19名に占める割合は、8割を超えていた。公明党出身の閣僚以外はほぼ全員が、日本
 会議国会議員懇談会に所属しているのが、第三次安倍内閣の特徴だ。もはや、安倍内閣
 は、「日本会議お仲間内閣」といっても過言ではなかろう。  
・日本会議は、今や、内閣のほぼ全ての閣僚に所属議員を排出するまでに勢力を拡大した。
 その日本会議の目指すものは、
 ・美しい伝統の国柄を明日の日本へ
 ・新しい時代にふさわしい新憲法を
 ・国の名誉と国民の命を守る政治を
 ・日本の感性をはぐくむ教育の創造を
 ・国の安全を高め世界への平和貢献を
・皇室を中心と仰ぎ均質な社会を創造すべきではあるが、昭和憲法がその阻害要因となっ
 ているため改憲したうえで昭和憲法の副産物である行き過ぎた家族観や権利の主張を抑
 え、靖国神社参拝等で国家の名誉を最優先する政治を遂行し、国家の名誉を担う人材を
 育成する教育を実施し、国防力を強めたうえで自衛隊の積極的な海外活動を行い、もっ
 て各国との共存共栄をはかる。 
・いかに主張の内容が陳腐で新奇性のないものとはいえ、今や日本会議は、閣僚の8割以
 上を支える一大勢力である。現実に、彼らはこうした「なんら新奇性のない古臭い主張」
 を、確実に政策化し、実現化している。
・日本会議や関連団体が実施するイベントには、毎回、多数の参加者がおり、各種団体が
 連日あちこちでさまざまなイベントを開催している。そしてなにより、日本会議は多数
 の議員を通じて市町村議会から国会まで圧力をかけている。この動員力こそが、日本会
 議の特徴だ。
・こうした日本会議の活動や動員が指摘される際、必ずといっていいほど言及されるのが、
 宗教団体の関係だ。 

歴史
・今の日本会議の役員名簿からは消えている宗教団体がある。「生長の家」だ。そもそも、
 生長の家は、谷口雅春が1930年に創設した強烈な反共意識にもとづく右派的な教義
 を説く宗教団体であった。しかし、現在の「生長の家」は「エコロジー左翼」とでもい
 うべき路線を採用しており、日本会議とは基本的には一切の人的交流はない。
・「日本を守る会」と「日本を守り国民会議」が日本会議の前身団体である。
・現在の安倍政権の周囲には、「首相補佐官」「秘書」「有識者会議のメンバー」の形で、
 日本青年協議会のメンバーが多数存在している。そしてその顔ぶれは20年前に、当時
 の参院最高権力者であった村上正邦を恫喝し、自民党に圧力をかけたメンバーとほぼ同
 じ「一群の人々」だ。そんな状況下で、「安倍首相には侵略戦争であったと言って欲し
 い」と述べた北岡伸一。彼が相当の圧力を受けたであろうことは創造に難くない。
・参院に君臨し続け「参院のドン」と呼ばれた男、村上正邦こそが、日本会議をつくり、
 その前身である「日本を守る会」や「日本を守る国民会議のリーダーとして、国民運動
 の先頭に立ち、「日本青年協議会」を「大人の世界」に紹介した人物だ。
・安倍首相が周辺諸国を慮って参拝を取りやめるなか、ここまで一部閣僚が靖国神社にこ
 だわる様は執着心のようなものを感じずにはいられない。衛藤晟一、有村治子山谷え
 り子
高市早苗。今回も見事に「日本会議国会議員懇談会」に所属する議員たちばかり
 だ。  
・「宗教法人令」にもとづき、靖国神社をはじめとする各地の神社も、キリスト教や仏教
 の団体と同じく、宗教法人として並列の存在となり、完全に国家とのつながりをもたら
 していた根拠を失った。1946年に天皇の「人間宣言」が出され「現人神」とされた
 天皇が自ら世俗化を宣言する。法的分野のみならず思想としても神権政治の要素が完全
 に否定されたのだ。日本国憲法では明確に政教分離原則が掲げられた。この一連のプロ
 セスにより、「国家神道制度」は名実ともに解体され、その一環として、靖国神社も、
 国家との関連性を完全に失うこととなる。
・しかし、いかに憲法や政令で神社と国家の結びつきが否定されたとはいえ、靖国神社自
 身が靖国神社自身の行為として神道にのっとり、戦没者を慰霊することには変わりがな
 い。また、敗戦直後の国民、とりわけ戦没者の遺族にとっては、靖国神社こそが公的慰
 霊の場であるという認識に変わりがなかった。
・靖国神社への首相公式参拝が問題視されたのは、A級戦犯合祀が理由だ。中韓の反発が
 原因だと主張する一部保守派も少なくない。しかし、この種の主張は靖国神社問題の時
 系列を理解していない無根拠な主張と言わざるを得ない。「靖国神社国家護持法案」に
 関する紆余曲折の過程で政教一致問題が露見したことで、初めて首相の公式参拝が問題
 にされるのだ。頑なに宗教性にこだわる靖国神社こそが問題に拍車をかけた側面がある。
・「靖国神社問題」の端緒は、「政治と宗教」であり「歴史認識」や「諸外国からの反発」
 ではない。そしてその「政治と宗教」の問題の最前線における大失敗と禍根が、日本会
 議の源流の一つだ。日本会議にとっては、A級戦犯の是非という「歴史認識」より、い
 かにして宗教性を保ったまま靖国神社で慰霊行事を行いかという「政治と宗教」の問題
 こそ重要なポイントだと言えまいか。
 
憲法
・安倍首相は、民主党の大塚議員の質問に対し、「日本に対する直接的な攻撃意思を表明
 していない場合でも、集団的自衛権の発動はありうる」と答弁し、事実上、「先制攻撃」
 を容認した。おおよそ、憲法の条文をどう読んでも「集団的自衛権」も「先制攻撃」も
 容認できるはずがない。しかし、改憲を目標にしているわりには、安倍政権は全て「憲
 法解釈の変更」で乗り切った。これでは、憲法は骨抜きになってしまう。骨抜きになっ
 て否定されるのは、昭和憲法だけではない。「憲法を政府こそが守らなければならない」
 という立憲主義の根幹まで溶けてなくなってしまうだろう。
・日本会議と最高裁は、人事面で何かとつながりがある点に留意が必要だろう。
・日本会議は並々ならぬ情熱を傾けて「夫婦別姓阻止」の運動を展開し続けている。
 そして、日本会議の周辺の「一群の人々」は、「改憲の目標は、憲法9条ではなく、緊
 急事態条項と家族条項の追加だ」という主張を強めており、安倍政権は彼らのこうした
 意見と共同歩調を取っている。

草の根
・日本会議が改憲運動でもったら用いている手法は、「100万人の署名集め」と「地方
 議会で「国に対し、早期に憲法改正を目指すことを求める意見書」を採択させる」とい
 うものだ。  
・日本会議の事務局が「日本青年協議会」という右翼団体である。
・宗教団体にイベントにおける1万人は何ら驚くに値しない。その数字が事前の計算通り
 であることも不思議ではない。しかし、日本会議の場合は、これを利害の大幅に異なる
 複数の宗教団体や各種団体を束ねる形で実電せねばならない。単一教団のマネジメント
 とは次元が違う。だが、日本会議は、公言通り正確な数字を叩き出した。なんたるマネ
 ジメント能力!この能力は、選挙においても発揮される。選挙に際して公言した通りの
 数字を確実に出す。これほど、政治家にとって魅力的なこともあるまい。確固たる固定
 票は得体の知れぬ「時代の風」や「無党派」なるものよりよほど頼りになる。国会議員
 たちは、改憲どうのこうのという話より、この係数管理能力にこそ魅力を感じる。
・今後ますます、「改憲」に向けて、日本会議/日本青年協議会の国民運動は苛烈さを増
 していくであろう。しかしもはや、彼らがどのような活動を裏で行い、何を目的として
 いるのかはこの証言で明らかになった。この証言を信ずるならば、彼らを「きわめてフ
 ァナティックな人々」、「特殊すぎる思想で政治運動を行う人々」と規定せざるを得な
 い。そして安倍政権は、このような人に支えられ、改憲路線を突き進んでいるのだ。
 
「一群の人々」  
・日本政策研究センター代表・伊藤哲夫
 ・一般の人になじみのある人物ではないかもしれないが、第一次安倍政権発足以前から、
  安倍晋三の周りに常に付き従い、一部では「安倍政権の生みの親」とさえいわれる、
  重要人物だ。
・安倍晋三は2015年夏には集団的自衛権を合憲とする閣議決定を行い、事実上、憲法
 を骨抜きにした。そして、安保法制を強行採決させた後、自民党総裁に再選された安倍
 は、同年9月の会見で改めて改憲への意思を強調してもいる。改憲への道を突き進み、
 「保守革命」とやらの担い手と自認する安倍晋三の後ろには、伊藤哲夫がいう「私ども」
 が控えている。
・「歴史認識」「夫婦別姓反対」「従軍慰安婦」「反ジェンダーフリー」の4点は、安倍
 内閣の「メインテーマ」でもある。
・「日本政策研究センター」が目指す憲法改正のポイントは大きく分けて以下の3つだ。
 ・緊急事態条項の追加
  非常事態に際し、「三権分立」「基本的人権」等の原則を一時無効下し、内閣総理大
  臣に一種の独裁権限を与えるというもの
 ・家族保護条項の追加
  憲法13条の「すべての国民は、個人として尊重される」文言と、憲法24条の「個
  人の尊厳」を追加するというもの
 ・自衛隊の国軍化
  憲法9条2項を見直し、明確に戦力の保持を認めるというもの
・最終的な目標は明治憲法復元にある。しかし、いきなり合意を得ることは難しい。だか
 ら、合意を得やすい条項から憲法改正を積み重ねていくのだ。
・伊藤哲夫という人物
 ・伊藤哲夫が「四人組」と呼ばれる安倍晋三のブレーン集団のなかでも、筆頭ブレーン
  と目されている。
 ・伊藤が第一次安倍政権誕生前から安倍晋三を支え続けてきた。
 ・伊藤および伊藤が率いる「日本政策研究センター」は「保守革命」とやらを標榜して
  いる。  
 ・伊藤が率いる「日本政策研究センター」の講演会で「改憲」と「明治憲法復元」が運
  動目標であることが明言されている。
・衆院平和安全法制特別委員会における質疑で、民主党の辻元清美議員から「(集団的自
 衛権を合憲とする憲法学者が)こーんなにいる、と示せなければ、法案は撤回したほう
 がいい」と指摘された菅・官房長官
 ・長尾一紘:中央大名誉教授
 ・百地章:日本大教授
 ・西修:駒沢大名誉教授
 の3名を「集団的自衛権を合憲とする憲法学者の具体名」として挙げた。菅はそれまで
 集団的自衛権を合憲とする学者はたくさんいる」と繰り返し主張してきた。その彼の口
 から出てきたのがたった3名なのだから、おのニュースが流れた当時、大方の反応は、
 「あれだけ「たくさんいる」と豪語していたのに、たった3名とは・・・・」というも
 のであった。だが、問題は、数ではない。その顔ぶれだ。
・百地章が「美しい日本の憲法をつくる国民の会」の幹事長、「「二十一世紀の日本と憲
 法」有識者懇談会」の事務局長を務めているのに目を引く。日本会議がもっとも力をい
 れる改憲運動のための複数の組織で要職を占めているのだからただごとではないだろう。
 アガデミズムの世界で百地章はさほど有名な学者ではない。しかし「保守論壇人」とし
 ての露出度は近年とりわけ高い。百地章は、日本会議をとりまく「一群の人々」の中で
 は重きをなす人物だ。
・百地章のみならず、長尾一紘と西修も、日本会議フロント団体の役員という特殊な背景
 を持つ。このように特定の組織に属する特殊な学者の意見を「集団的自衛権は合憲と主
 張する学者」の傍証として挙げる菅および安倍政権は、もはや日本会議系の人脈に頼ら
 ざるを得なくなっていると見るほかない。言うまでもなく、集団的自衛権は、日本の将
 来を左右する重大な課題だ。このような課題を議論するにあたって、特殊な政治意図を
 もった特殊な人々の主張に依拠することが、果たして許されるのだろうか。
高橋史朗は、「日本会議と親密」ところが、「日本会議の推進母体」たる「日本青年協
 議会」の幹部だったのだ。確かに、高橋は2005年に埼玉県の教育委員に選任された
 際、日本青年協議会の人物は教育委員に相応しくない」と市民団体から指摘を受け、
 「日本青年協議会」からの脱退を表明してはいる。しかしその後も、高橋は、「日本青
 年協議会」の幹部たちと行動を共にしており、脱退表明後も、それ以前と同じような場
 所で活動を続けている。
・高橋が「生長の家」の信徒であることは措くとしても、彼が「日本会議」の運営母体で
 ある「日本青年協議会」の幹部だという事実は揺るがない。つまり、右翼団体の幹部で
 あり、かつまた正規の歴史学の教育を受けたことのない人物を、外務省は「バランスの
 取れた研究者」と評価していることとなる。これは、どう考えてもおかしい。
・「日本会議」を支える「日本青年協議会」は、「生長の家」の学生運動からスタートし
 たものだ。「日本青年協議会」代表であり、「日本会議」の事務総長である椛島有三が、
 生長の家の学生信徒たちと共に長崎大学でスタートした「学園正常化運動」こそが、
 「日本青年協議会」のルーツである。さらに「安倍晋三の筆頭ブレーン」と呼ばれる伊
 藤哲夫も、「生長の家政治運動」と切っても切れない関係にある。こうした事実からは、
 安倍政権が「生長の家」政治運動の関係者という「インナーサークル」の強い影響下に
 あるという、由々しき事態が見えてくる。
・2016年夏の参院選の後を見越し、改憲を求める1000万人規模の署名運動を展開
 している「日本会議」も、支持者向けの講演会とはいえ「本音は明治憲法復元だ」と主
 張する「日本政策研究センター」も、もとをただせば、「生長の家学生運動」に行き着
 くわけだ。まさにここが安倍政権を取り巻く「改憲戦力」の淵源と言っていいだろう。
・「安倍政権の反動ぶりも、路上で巻き起こるヘイトの嵐も、「社会全体の右傾化」によ
 ってもたらされるものではなく、実は、ごくごく一握りの一部の人々が長年にわたって
 続けてきた「市民運動」の結実なのではないか。
・安倍政権を支える「日本会議」の事務総長・椛島有三も、安倍の筆頭ブレーンと目され
 る伊藤哲夫も、内閣総理大臣補佐官である衛藤晟一も、政府が南京事件の記憶遺産登録
 を阻止すべく頼った高橋史朗も、全員が「生長の家」から出た人々だ。だが、椛島有三
 や伊藤哲夫を排出した宗教法人「生長の家」本体は、1983年に政治運動から撤退し
 ている。 
  
淵源
・閣僚の三か議連等を見ていると、現在の安倍政権は、日本会議の影響を色濃く受けてい
 る様子がうかがえる。
・「緊急事態条項の創設」「憲法21条を改変し家族条項を追加すること」「憲法9条2
 項を改廃すること」という、最近にわかに活発化した改憲議論は、その内容と優先順位
 ともに、日本会議周辺、とりわけ「日本政策研究センター」の年来の主張と全く同じで
 ある。    
・日本会議が展開する広範な「国民運動」の推進役を担っているのは、神社本庁でも神道
 政治連盟でも、また、その他の日本会議に参加する宗教団体でもなく、「日本青年協議
 会」である。 
・「谷口雅春先生を学ぶ会」が「生長の家原理主義」の中心団体であり「学ぶ会」には、
 稲田朋美や衛藤晟一などの安倍首相周辺の政治家をはじめ、百地章、高橋史朗など「保
 守論壇人」「保守派言論人」が参加している。
・彼らは、いまだに学生運動を続けている。70年安保の時代の空気をまとったまま、運
 動を続けている。そしてその出発点が、長崎大学正門前で、苦心して刷ったガリ版刷り
 のビラを踏みにじられ、左翼に殴り飛ばされたときに安藤巌と椛島有三が誓った「左翼
 打倒」の誓いにあることを、我々は直視すべきであろう。そしてその誓いは、今、阿部
 政権を支え、「改憲」という彼らの悲願に結実しようとしている。彼らは悲願達成に向
 け、50年近い歳月を経て培ってきた運動ノウハウの総力を挙げ、「左翼打倒」の誓い
 を成就する最後の戦いに挑んでくるであろう。
  
むずびにかえて
・常に「なぜメディアはこれまで日本会議のことを書かなかったのだ」という憤りが取材
 や執筆のモチベーションだった。とりわけ、2015年夏は、安保法制の審議を横目に
 見つつの作業であったため、その憤りは高まる一方だった。しかし、今ならわかる。こ
 れはメディアには書けない。何も、メディアに能力がないというのではない。速報性と
 正確性が何よりも必要とされる大手メディアの仕事の範疇ではないのだ。調査・報告は
 やはり新聞やテレビ以外の仕事だ。また、学問の範疇でもないだろう。学問の対象にす
 るには、生々しすぎる。テレビ・新聞の報道がカバーするには歴史が長過ぎ、学問の対
 象にするには歴史が短すぎる。そういう間に、「日本会議」は存在している。
・「巨大組織・日本会議」というイメージを私も抱いていた。しかし、事実を積み重ねて
 いけば、自ずと、日本会議の小ささ・弱さが目に付くようになった。活動資金が潤沢な
 わけでも、財界に強力なスポンサーがいるわけでもない。ほんの一握りの人々が有象無
 象の集団を束ね上げているにすぎない。この程度の団体は、80年代以前であれば、単
 なる「圧力団体の一つ」として扱われていただろう。往時の、農協・土建業組合・医師
 会・各種業界団体などと比べると、今の日本会議は、その規模も小さく、統一性にも欠
 ける。だが、そうした諸団体は、高齢化と長引く不況のせいで、その力を失った。不況
 に影響されず、世代交代も自然と進む宗教団体だけが、その数は減少傾向だというもの
 の、かろうじて圧力団体としての規模を維持し得たのだ。日本会議が大きいわけでも強
 いわけでもない。他が小さく弱くなっただけのことだ。
・彼らが奉じる改憲プランは、「緊急事態条項」しかり「家族保護条項」しかり、おおよ
 そ民主的とも近代的とも呼べる代物ではない。むしろ本音には「明治憲法復元」を隠し
 た、古色蒼然たるものだ。しかし彼らの手法は間違いなく、民主的だ。私には、日本の
 現状は、民主主義にしっぺ返しを食らわされているように見える。
・日本社会が寄ってたかってさんざんバカにし、嘲笑し、足蹴にしてきた、デモ・陳情・
 署名・抗議・集会・勉強会といった「民主的な市民運動」をやり続けていたのは、極め
 て非民主的な思想を持つ人々だったのだ。そして大方の「民主的な市民運動」に対する
 認識に反し、その運動は確実に効果を生み、安倍政権を支えるまでに成長し、国憲を改
 変するまでの勢力となった。このままいけば、「民主的な市民運動」は日本の民主主義
 を殺すだろう。なんたる皮肉。