「永遠の0」と日本人   :小川榮太郎

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本のタイトルに興味を持って読んでみた。本書は映画・小説「永遠の0」と映画「風立ち
ぬ」、「終戦のエンペラー」について評した内容となっている。
筆者が、いわゆる「保守派」に属する人間のようだ。かなり現安倍首相の太鼓持ちとなっ
ているところがある。
筆者の価値観は、「戦争が絶対悪だという極端な思想」と言い放っている言葉に現れてい
る。この言葉から、「戦争を肯定している」として受け取られても仕方あるまい。
筆者はまた、「戦争は男性の性の本質の発露である」とも述べている。
これが筆者の価値観の根底に流れているようだ。
安倍首相を始め、保守派と言われる人々の価値観の根底には、こういう価値観があるよう
だ。だから安倍首相は、同じ価値観を持つ「永遠の0」の著者である百田尚樹氏をNHK
経営委員に選んだのだろう。
この本を読んで、筆者と自分との価値観の大きな隔たりを感じた。

過去の読んだ関連する本:
永遠の0(ゼロ)


はじめに
・開戦時の首相東条英機は、東京裁判で、自分は天皇と日本国民に対する敗戦責任は負う
 が、連合国に対する戦争責任は存在しないと主張して譲らず、アメリカ人検事キーナン
 を圧した。
・安倍政治への評価は人によって様々であっていい。肝心なことは、今、誰が政治をやる
 にせよ、日本は、大東亜戦争敗戦以来のあり方を根本から見直し、新たな日本象を描き
 直す挑戦をしなければ、立ち行かなくなっているということだ。

戦争は単なる悪なのか
・古来戦争は武人同士の単騎での戦いと、組織化された兵隊同士の大量殺戮との、二つの
 方法を往復してきた。その中で、第二次世界大戦における日米の空戦は、昔ながらの、
 武人同士の一騎打ちの20世紀バーションだったと言えよう。
・零戦の美しさは最高度に繊細な日本刀の美しさに通じる。零戦そのものが日本の武士道
 の、20政治に甦った象徴だったと言っていい。
・日本軍は、3年8ヵ月にわたって物質大国アメリカと死闘を演じ、彼らを心底恐れさせ
 た。昭和20年2月からの硫黄島での日米決戦では、装備もろくにない大戦末期の疲れ
 切った日本軍が、硫黄の噴き出す灼熱地獄の中、島全体を要塞にして戦い、死傷者数で、
 日本を上回る2万8千人余りも犠牲をアメリカに強いた。挙げ句、全2万人あまり、ほ
 ぼ全員が戦死した。 
・戦争の悲惨さ、愚かさは古来人類が身にしみて体験してきたところである。いや、戦争
 が悲惨なのではなく、人類は一旦そうと決まると、天文学的に残酷になれる動物である
 らしい。狂気そのものが、人類の本質に深く根ざしていることを信じないわけにはゆか
 なくなる。 
・戦争が絶対悪だという極端な思想は、実は新しいものなのである。第一次世界大戦が、
 本格的は反戦思想を生んだほとんど最初と言ってよいだろう。この戦争で空戦が初めて
 展開された。ロンドンやパリはどの大都市が爆撃され、東部戦線では毒ガス兵器が使わ
 れた。英雄的な戦いではなく、武装した一般市民兵が、戦場を駆けめぐり、塹壕戦を強
 いられた。大量殺戮と戦場の悲惨さのみ際立つ戦争となった。
・米ソの台頭とヨーロッパの自信喪失の中で、革命の悪が極度に過小評価される一方で、
 戦争が絶対悪とされるに至ったことは、忘れない方がいい。反戦思想は、革命の悪への
 目潰しだった側面がある。事実、第一次大戦まで、人類史を通じて、戦争は、単なる悲
 惨は絶対悪ではなかった。革命や一方的虐殺の悪はそれにはるかに勝る。
・性欲は強姦の原因になるから男性を全員去勢すべきか。性欲があるから幸福な家庭があ
 り得、美しい恋愛が可能であり、人生の喜びが生まれる。 
・戦争の現場は悲惨だが、その悲惨な運命を引き受けて、これに打ち克つ勇者は、古来人
 間の理想像だった。書物に囲まれた貧弱な書生や札束を勘定して目を輝かせている商人
 のギリシア彫刻の傑作は想像できまい。残虐さと区別された勇者の戦いとしての戦争は、
 男性性の本質の発露であり、そうした男性性のロマン化が文学や芸術の発生そのものだ
 ということは、端的に、歴史的な事実である。  
・日本における戦争には、さらに特殊な条件が加わる。日本の歴史が、世界史の中でも突
 出して、平和だったことである。日本史では、戦争よりも平和な時代の方が圧倒的に長
 い。高度な文明圏でこれほど長期にわたって平和が維持されてきた例は他にない。古代、
 統一王朝が形成され、大陸にも植民地任那を所有していた時代の最後に、日本史では世
 界の趨勢とは逆に、戦争は例外的な事象となる。
・戦国時代が全国にわたって百年余り続いたときを除けば、戦乱は権力交代期を中心に、
 ごく短期的、局地的だった。これは、戦国時代以外日本人は戦争を前提とした生き方や
 思考法を持たなかったことを意味する。日本における戦は、大量虐殺とは無縁だ。勝敗
 は、最小限の軍事行動で、淡泊に決せられることがほとんどだった。その上戦争は、武
 家政権が成立した後になって、残酷になるどころか、かえって、美学や芸術の領域へと
 近づいてゆく。
・武器の象徴である刀剣も同様だ。日本の刀剣ほど美しい武器は世界の歴史にあるまい。
 曲線の角度から、光を帯びた刀の色、鞘、鍔の周密な彫琢に至るまで、ひたすら繊細、
 精妙である。その曲線は、できるだけ大量に人をぶち殺すための曲線ではない。刀線が
 そのまま空気に吸い込まれそうな鋭さにまで鍛えられた刃は、効率的な人殺しの道具で
 はない。    
・日本人にとっての戦は美を生きるということであった。死と一番接している戦争に、日
 本人は、敵の皆殺しを考えなかった。大量殺戮と無縁な、しかし世界一美しい強靭な刀
 を日本人は生み出した。戦は皆殺しをし、征服し、敵の所有物を奪うものではなく、日
 本男児にとって、最も美しく死に旅立つ儀式だったのである。
・零戦については、革命的な戦闘能力と、類希な美しさが共存していた。抜群の性能だっ
 たが、熟練工による膨大な工程を重ねなければ作れない。大量生産は不可能だった。大
 量生産ができなければ、大量殺戮もできない。大量生産を前提としたアメリカの軍機と
 は、全く違う思想に立脚していた。要するに、零戦とは、戦う勇士の、鍛え抜かれた心
 身の延長として構想され、実現されたものなのだ。刀剣がそうであるように、それは人
 を殺す道具であるには、あまりにも美しい繊細さに息づく。
・あの戦争には戦う意味があった。自存自衛の戦いであるばかりでなく、東亜開放の戦争
 だった。それゆえにこそ精根を込めて戦い、どれだけ優秀な戦友たちが率先して死んで
 いったか。それが、今や、日本の戦争犯罪、従軍慰安婦、南京虐殺など、なかったこと
 がまことしやかに世界中で宣伝されている。 
・あの戦争で、戦死した230万もの兵士の大半は、若い男性だった。それだけの若い命
 が、たった3年8ヵ月の間に消えた。民族のこれ以上ない酷薄な運命は、その後を生き
 延びた全日本人、全家族が、それぞれ引き受けなければならなかった。
・この映画「永遠の0」の中で裁かれているのは、一見戦争の悲惨さに思えるが、実は、
 本当にこの映画が問うているのは、戦争を完全に過去の遺物と思い込み、置き去りにし
 てきた戦後の平和が生み出した我々の人生の空疎さの方なのである。 

「戦後日本」の美しき神話
・我々は「戦後」という言葉を、いまだに違和感なく現代日本を示す時代区分に使ってい
 る。なぜなのか。戦争と占領によって区切られた時代が、あまりにも強烈に戦争前の日
 本と異質であり、戦争直後に作られた国の形が、あまりにも強烈に今まで持続している
 からだ。その「戦後日本」の特質をひと言でいえば、「日本の外で起きている現実を一
 切見ず、一切ないことにして「平和国家」という閉鎖された時空に閉じ籠り続けた時代」
 だといえよう。
・「戦後日本」は、日米安全保障条約を核とするアメリカの軍事力の庇護のおかげで、平
 和と繁栄を享受してきた。もし仮に、日本の領土からアメリカの軍事力が完全に姿を消
 せば、中国を始めとする近隣諸国の野心によって、日本の独立は、ウイグルやチベット
 同様、瞬時に終わる。アメリカが、中東への関与を放棄すれば、日本のタンカーは中東
 の石油を安全に入手することは不可能になる。要するに、アメリカ抜きに「戦後日本」
 は成立し得なかった。それにもかかわらず、我々日本人は、その、自らの生存に関する
 最も本質的な事実から目を逸らし、「平和憲法」のおかげで平和が続いたというフィク
 ションを信じ込んでいる。 
・平和であることと高度な文明であることの両立が、こんなに持続した国は、日本以外に
 存在しない。対した努力もなしにこれだけ平和が基調となっている歴史は世界に類を見
 ない。日本人には、平和は、歴史的に、水や空気と同じように馴染み深く、自然なもの
 であった。それだけに、「戦後日本」の平和も、我々日本人のDNAには、むしろごく
 自然なものとして受け入れられているのであろう。
・平和はもはや努力や代償なしに守られるものではなくなっている。その現実は、既にア
 メリカの太平洋での軍事力の後退の隙をついて、中国が尖閣諸島、さらに沖縄への領土
 的野心をむき出しにしていることにはっきり表れている。中国の軍事予算は、現在では
 日本の2.4倍に達している。軍事力の我が国との逆転状態は、日本がよほど抜本的な
 政策転換をしない限り今後も拡大し続ける一方だ。
・今我々日本人が現実に立っている場所は、もはや四方を海に守られた日本ではなく、国
 際社会とりわけ軍事的野心を剥き出しにする中国に裸でさらされた日本なのだ。にもか
 かわらず、明確に日本をターゲットにしている中国の前で、日本は、ほとんど何の手も
 打たず、国民の危機の自覚は極度に希薄だ。
・我々は、冷戦の終結とアメリカの退潮、中国の日本への領土的野心を受け、再び明治日
 本と同様、国際社会での立ち位置を自ら決め直さなければならぬ時代を迎えている。実
 際大日本帝国は、この裸でさらされている実感を全身で受け止めながら、当時の帝国主
 義の世界で孤軍奮闘、独立を守るために戦争を続けたのだった。
・平和憲法という空想に立て籠もっているだけの戦後日本では、残念ながら平和という理
 想が本当の力を持つことはなかった。自分がどんな清潔な平和主義者だろうと、その平
 和を守っているのは、その清潔な平和主義とは全く関係ないアメリカの核兵器だ。そし
 て、アメリカの軍事力に信用を与えているのは、アメリカが、世界中で保安官の役割を
 担い、アメリカの若者が絶えず外地で死に続けている事実だ。つまり、邪悪な兵器であ
 るはずの核と、アメリカの若者の血が、日本の平和を支えている。これが現実なのであ
 る。
・人間は、自分の生存の内側に、どうしようもなく不条理な邪悪を抱え込まざるを得ない
 生き物なのだ。戦後の日本だけが、いくら自分だけはそうした内なる邪悪とは関係がな
 いと思い込み続けたところで、現実に、邪悪との回路を断ち切ることはできない。
 国家は、人間の属する最大の利益集団だ。国家がなければ人間は途方もなく不安定な空
 間に投げ出される。「万人の万人に対する闘争」状態になる。力と欲望がむき出しにな
 る。そうした状況を適度の抑制する上で、結果として最善の単位が調整され、徐々に形
 成されたのが国家である。人間が人間らしく生存する基本的な集合体として、国家以上
 に合理的な単位を考案することは、まず不可能であろう。だが、同時のそれは、醜悪な
 ものも内包している。国家は、貧困の差を生み、権力の集中を生み、内にも外にもしば
 しば不条理な情念を掻き立て、革命や戦争が生じる母体でもある。 
・日本人は確かに貧しかった。技術の後進性も一面の事実である。だが、一方で、零戦開
 発時、昭和10年代の日本の総合的な軍事力は、国そのものの貧しさからは考えられな
 いほど高かった。日本は、三大海軍国、五大陸軍国と言われるほどの、軍事大国だった
 のである。 
・確かに、当時の日本の国家としての戦略構想は無謀だった。支那事変を打開するため、
 太平洋というさらなる大きな海で、アメリカと戦争をせざるを得なくなるなどというこ
 とは、日本の政治・外交力の非力を指摘しないわけにはゆかない。 
・貧しい後進国日本は、政治・外交に弱く、戦争には滅法強かった。これが事実だった。
 自然に恵まれた島国の中で、日本人は、長年、政治・外交上の駆け引きをあまり必要と
 してこなかった。善良で直情径行な民族性が育まれた。外交力は一朝一夕で身につかな
 かったが、世界一優秀で勇気ある兵隊には一瞬でなった。

偽りと不信の日米関係
・広島・長崎への原爆投下や東京大空襲は、言うまでもなく一般市民の無差別殺戮であり、
 アメリカが犯した最大の戦時国際法違反だ。その殺戮の容赦なさと非人道性とは、ナチ
 スのホロコーストに匹敵する。
・近衛文麿元首相が、「我々はあなたがた白人と同じことをやっただけだ。一方的に裁か
 れることは納得できない。我々が中国を侵略したと言う。だがスペインがフィリピンを
 侵略し、それをアメリカが奪い、次に日本が奪った。あなたがたの真似をしただけだ」
 と言ったという。
・支那事変が4年も膠着していた日本にとっては、その上、資源大国アメリカ相手の全面
 戦争など馬鹿げ切った話だった。何しろ、開戦当時のアメリカのGDPは日本の約13
 倍、鉄の保有量は20倍、石油に至っては100倍以上の差がある。いや、実はそれ以
 前の問題なのである。支那事変で消費する石油や鉄鋼など重要資源の約7割を、日本は
 アメリカから輸入していた。今現に戦っている戦争の資源を輸入している相手に戦争を
 仕掛ける馬鹿がどこにいるだろう。要するに、日米開戦は、日本側の利害判断や、まし
 て軍国主義的野望から出てくるはずのない戦いだった。 
・日清・日露戦争で戦勝国となった日本は、その瞬間から、アイア太平洋地域で最強の海
 洋国家となった。アメリカはこれを脅威と見た。当時アメリカは大西洋には艦隊を展開
 していたが、太平洋は無防備だった。ほとんど丸腰のまま、ライバルのいない太平洋上
 で、ハワイ王国を滅ぼし、さらにフィリピンをスペインから奪っていた。インド洋伝い
 に中国に進出したイギリスの向こうを張って、太平洋の島を伝って中国へと進出するの
 が、アメリカの当時の野心だった。
・その頃日本は日本で、支那事変の膠着、混乱の拡大を収拾する能力を自ら失っていた。
 本国政府の方針に反して現地の軍部である関東軍が事変を拡大し続けるなど、国家とし
 ての外交上の統一は失われ、明治以来手堅く積み上げてきた国際的な信用も失墜しつつ
 あった。 
・国内政治においても、伊藤博文、桂太郎、山縣有朋らが次々に死去すると、内閣の規定
 がなく、したがって、内閣と議会と軍との最終的な責任関係が不明確な明治憲法体制の
 欠陥が露呈し始める。それが、統帥権干犯問題に端を発して、議会の事実上の停止、軍
 の政治介入による内閣の無力化を生んだ。
・アメリカから、外交交渉拒絶に等しいハルノートが交付された。ハルノートは、半世紀
 以上にわたって日本が積み上げてきたアジアでの利権の全面放棄、中国大陸安定のため
 に日本が支援してきた汪兆銘政権の否定、日独伊三国軍事同盟の廃棄のみならず、日本
 の外交政策の自主性の否定を要求していた。
・米ソ冷戦の終結により、アメリカは、西側のみならず、世界そのものの警察官の役割を
 引き受けざるを得なくなり、軍事力の維持に膨大な国力を消費し続けることになった。
 その限界を受けて、急激に内向きに転向を始めた現在のオバマ政権の国際的な維新低下
 は著しい。ロシアがソ連崩壊後、最も強気でアメリカを揺さぶり、中国は、米中で太平
 洋を二分する新たな覇権主義を提唱し始めている。従順な属国にしたはずの日本は、ア
 メリカが作った憲法の制約のために、まともな同盟国としての役割を果たせない。
・もし、戦前昭和、アメリカが、仮想敵国を日本だと思い誤ることなく、日本を信頼し、
 日米協調により、共産主義防衛に国家戦略を絞り、アジア太平洋の安全保障と利害を分
 け合うことにしていれば、ソ連の膨張も、中国の共産化も防げた可能性は充分あるだろ
 う。
・日本は大東亜共栄圏というアジアの成長経済圏を主張し、日本の利益のみならず、有色
 人種の白人からの解放を理念として掲げた。自国防衛とこの大義とに、帝国主義的な国
 力膨張欲が複合したのが、当時の日本の国策だった。白人の植民地政策は完全な収奪と
 弾圧だった。そこに何ら弁解の余地はない。その収奪合戦に巻き込まれた日本が、過酷
 なゲームの中で、利益と理念のギリギリの妥協点としての解答を出そうとした。それが
 大東亜共栄圏構想だった。
・アメリカ側からすれば、あの大空襲で日本一面に広がる焼け野原、二発もの原爆投下、
 このアメリカの軍事行動を正当化するには、日本の狂信的な軍国主義を正義のアメリカ
 が断罪するというストーリーを信じ込むほかないからだ。 
・一般市民を緻密な爆撃計画のもと殺し続け、二発の原爆を投下して、一瞬で14万人、
 7万人を抹殺する。これこそ狂気ではなかったのか。このアメリカの狂気の前に、日本
 の軍国主義など通常の戦意高揚の域を出まい。日本軍の軍規は一般に厳しく、無差別殺
 人は強く戒められた。国策として無差別殺人が計画されたこともない。原爆投下の正当
 化のために持ち出された南京虐殺や重慶空爆はその後、中国や日本国内の反日左翼が主
 導する反日プロパガンダにより極度に歪められてきた。
・この焼け野原は無論、自然にできたものでのなければ、日本の軍国主義という狂気が招
 いたのでもない。アメリカの狂気が招いたものである。日本人を人と思わぬ人種差別的
 人間観が招いたのである。冷静に殺戮を計画・敢行できてしまうアメリカ人の根深い凶
 暴さ、野蛮さ、そして、キリスト教の神が実在するならば、これはキリスト教の神が創
 った焼け野原であり、死体の群れでないとしたら、どう説明するのか。
・そもそも戦争犯罪とは何なのか。GHQは占領直後から、戦争犯罪人には、保著虐待の
 ような通常の戦争法規違反者と、戦争を国家の政策の手段とした「政治的戦争犯罪人」
 の二種類があるとした。だが、無論、国際社会に広く認知された近代法国家が外交手続
 きを積み重ねた上、宣戦布告を伴って始めた通常の戦争で、開戦や戦争遂行が「政治的
 戦争犯罪」などにされたら、たまったものではない。戦場における戦時国際法違反以外
 に「政治的戦争犯罪」を、時の勝者が敗者に対して恣意的に押し付ける慣行ができあが
 れば、逆に、核時代の今日、戦争も国際社会もむしろ力のみが支配する危険極まる野蛮
 状態に退行しよう。 
・東京裁判では、裁判官も検事も戦勝国だけから選ばれた。A級戦犯容疑に問われた戦時
 指導者らには、「人道に対する罪」と、世界征服のための「共同謀議」が問われた。こ
 れは、ナチスドイツを裁くニュルンベルク裁判から借りてきたものだ。日本政府とナチ
 スドイツは同質であるという前提で全てを進めようとした。だが、ナチスが事実の問題
 として、世界征服やユダヤ人抹殺を企図したのに対し、日本は通常の戦争を戦い、敗れ
 ただけなのである。 
・東条英機が、この東京裁判に死をもって臨み、二つの鉄則を守ることに人生の最後を集
 中した。その第一が、天皇に訴追を及ばぬよう、全戦争責任を自らが引き受け、天皇の
 楯となることである。第二が、日本国民に対する敗戦責任は負うが、連合国に対する戦
 争犯罪はもとより存在しないし、戦争開始の判断はあくまで正しかったという、「勝者
 の裁き」への断乎たる拒否である。 

「戦後」からの決別
・映画「風立ちぬ」は零戦設計者である堀越二郎の回想録「零戦」の歴史観や戦争観を全
 く裏切っていた。完全に別人の堀越次郎を創作していた。「終戦のエンペラー」も、歴
 史の完全な塗り替えだった。クライマックスでの昭和天皇とマッカーサーの会見が、史
 実と逆にマッカーサーの指示で設定されていたり、天皇が英語で話かけられるなど歴史
 表現に関する根本的がルールを逸脱した映画だと言っていい。
・映画「永遠の0」は、戦後的ヒューマンドラマの科白を多用し、原作に多数見られる、
 主人公・宮部久蔵の軍人らしい科白や、作者本来の戦争観を示す言葉を、注意深く全て
 省いている。 
・われわれは義務教育であらゆる科目を習いますが、欠けているのが近代史の知識です。
 とくに大東亜戦争については、まったく教えられていない。あの戦争は、明治維新より
 もはるかに重大な意味をもつ「歴史的事件」です。わずか4年の戦争で日本は300万
 人もの人命を失った。アメリカの空襲で東京、大阪、名古屋、北九州などの国土が一面
 の焼け野原になった。まさに国が滅ぶかどうかの大事件だったのです。これをしっかり
 学ばないでどうしますか。
・皆が盗みをしなければ鍵はいらない。皆が人殺しをしなければ警察はいらない。鍵も警
 察もない世界で生きる勇気が本当にあるのか。平和を気軽に口にする現代日本人が、マ
 ンションのセキュリティを異常に気にし、何か言われればセクシャルハラスメントやパ
 ワーハラスメントではないかと神経質になり、人間の善性など全く信用していない。そ
 れなのに「平和」だけはただで手に入ると思っている。 
・残念ながら、国際社会では、「人間相互の関係を支配する」のは、「崇高な理想」では
 ないのである。少なくとも、このような「崇高な理想」と正反対の振る舞いをする国を、
 わが国は周囲に何カ国か持っている。
・本当に「平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去し」たいなら、
 それを妨げる要因を正確に見極め、現実を摘み取らねばならない。
・平和な日本国内で、「平和」を叫ぶ人はいくらでも見るが、日本に牙をむく相手に対し
 てこの論理を本気でぶつけて現実化しようとした人を、私は見たことがない。彼らは理
 想を愛しているのではない。空疎なきれいごとに胡座をかいて、威張り腐っているだけ
 だ。  

特別攻撃隊とは何だったのか
・特攻隊とは何だったのか。重すぎる問である。世界の戦史に全く例を見ない。
・特攻の非人道性や狂気。それを言うならば、戦争がそもそも狂気なのである。殺しあわ
 ねば解決がつかぬほど重大な問題が人間社会にそうあるものではない。
・特攻は、有為の若者に死を要求する。それも国として組織的にである。また、若者は自
 ら志願して、命を敵艦にぶつけ、自爆する。作戦としてこれを国が採用するとすれば、
 無論、正道とは言えない。禁じ手だ。だが、これはいかなる意味でも狂気ではない。
・人類の集団狂気は、忘我の残虐さと、殺意な気大量殺人として現れる。特攻作戦は、立
 案者にも志願者にも、静かな理性と諦念と勇気があるだけだった。作戦遂行の過程の全
 てが、狂的なものから最も遠かった。逆に、微塵でも狂的なものを残していては、特攻
 は作戦として成立し得なかったであろう。 
・さらに、作戦の全体を通じでも、特攻は、無差別な拷問、強姦、殺戮という人間的狂気
 の、最も対極にあったとも言える。第一に、特攻は敵を絞り込む。非戦闘員への無差別
 攻撃ではなく、最大の戦果を求めて、叩くべき極点を限定した戦術だった。第二に、ほ
 とんど戦力を失いならが、終戦工作に入らざる得なかった戦争末期にあって、最大効果
 が見込める作戦だった。第三に、その効果を上げるために、事前の研究と実験が短時日
 のうちに重ねられ、出撃者は、特攻に特化した訓練や作戦方針を立ててから出撃した。
 彼らは任務遂行の自覚を持って出撃したので、闇雲に死にに出たのではない。
・戦国時代を除けば、わが国は明治以前にほとんど戦争の経験がなかった。
・われわれは勝つと信ずればこそ、いままで一生懸命戦ってきたんだ。負けるとわかった
 ら潔く降伏すべきだ。そうして開戦の責任者は全員、腹を切って責任を取るべきだ。こ
 んなことをしていれば応和の時期は延びるばかりで、犠牲はますます多くなる。 
・確かに腹を切るべきだったのである。終戦に際して腹を切った指導者の少なさは、戦後
 の日本の恥の始まりであった。だが、腹を切っても戦争は止まらない。戦争は止むかも
 しれないが、日本はどこまで国家の尊厳を失うか、それが見えないうちは戦争をやめて
 はならない。それもまた確かなことだ。
・特攻隊の捨て身の敢闘精神があまりにも凄まじく、アメリカ側の戦闘員は大きな精神的
 衝撃を受け、戦争ノイローゼを多発した。この問題はアメリカ軍にとって重大だった。
・自分が犠牲にならずともアメリカの勝利は決まっており、日本がさっさと敗北してくれ
 れば、華やかな青春が待っている。日本の死に物狂いの抵抗はアメリカ兵にとってこそ
 無駄死にの恐怖と悪夢以外の何物でもなかったろう。
・それに輪をかけての特攻である。搭乗している船が狙われれば逃げ場がない。船は短時
 間に逃げ隠れできない。船から充分な距離のうちに撃墜し切らねば、炎上しながらも爆
 弾を抱えた飛行機がまるごと船に突っ込んでくる。情け容赦ない恐怖である。アメリカ
 兵の間にあまりにも心理的動揺が広がれば、戦争遂行は厳しくなったであろう。事実沖
 縄戦からの撤退さえ検討されていたのである。日本の限界が先に来るかアメリカ兵の心
 の限界が先に来るかは、アメリカ軍指導部にとっては深刻な問題だった。 
・普通の国が相手の普通の戦争であれば、アメリカはガダルカナルを制圧した段階で、太
 平洋の制空制海権を得たと見てよかったはずである。ところが戦いは、日本に近づくに
 つれて熾烈になり続けた。アメリカの船団と兵員に絶えず甚大な被害が出続けた。日本
 軍は、最末期の硫黄島、沖縄に至ってさえ、ボロボロのまま長時間持ちこたえた。アメ
 リカは、陸上戦で死闘を繰り広げ、空からの特攻の脅威を頭上に絶えず抱えて前進せね
 ばならなかった。