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宇宙」というと、私は地球の大気の外の惑星や恒星などがある天文学的な意味でいうと
ころの世界のことだと思っていた。しかし、この本でいうところの宇宙とは、どうもそれ
だけの世界ではないらしい。宇宙とは、我々が住む「この世」、あるいは「この世界」と
でもいうような意味合いも含まれているようだ。
そう考えると、「なぜ宇宙は存在するのか」という疑問は、「なぜこの世は存在するのか」
という言い方もできる。また「宇宙が始まる前は何だったのか」という疑問は、「この世
が始まる前は何だったのか」という言い方もできる。そしてこの本のタイトル「宇宙に外
側はあるか」という疑問は、「この世以外、つまりあの世はあるのか」という言い方もで
きる。これはもはや宗教や哲学の世界である。
現在の宇宙論では、この宇宙は「ビックバン」によって始まったというのが通説のようで
ある。突然、大爆発が起こり、膨張が始まり、時間と空間がそこから始まったというので
ある。そして、膨張を続けていくに従って、元素ができ、それがもとになって星が生まれ、
現在の宇宙の姿になったというのである。
もちろんこれは、誰も見たわけではないのであるが、現在までに観測した結果と物理学的
理論から導き出すと一番説明がつくというのであるが、私のような凡人から見ると、なん
だかウソくさい。とても信じられない。こういうことを主張している人たちは、どこか頭
がおかしいんじゃない?とも思えてしまう。
そればかりではない。さらには、この宇宙は絶対唯一の存在ではなく、他にも別の宇宙が
存在するかもしれないなどと言われると、もうとてもついていけない。根本的に、どこか
で間違っているのではないかと思ってしまう。しかし、宇宙物理学者たちは、真剣にそう
考えているらしい。
さらには、この宇宙には、われわれが認識している物質のほかに、正体不明の「暗黒物質
が満ちあわれているという。そんな物質が本当に存在するのか。私には信じられない。ど
こか理論に間違えがあるのではないかと思ってしまう。
現在の宇宙論は、もはや哲学や宗教になってしまっている。天動説とか地動説が懐かしい
と思うのは私だけなのだろうか。


プロローグ
・「なぜ宇宙は存在するのか」
・「宇宙はどうして始まったのか」
・「宇宙が始まる前は何だったのか」
・「宇宙が始まる前の宇宙は宇宙ではないのか」
・「宇宙に始まるがあるなら、宇宙にも終りもあるのか」
・「宇宙に終りがあるとすると宇宙の終りの後には何があるのか。次の宇宙が始まるのか」
・「そもそも、始まったり終わったりするような宇宙はどこに存在するのか。この宇宙よ
 りももっと大きな、何か得体の知れないものの中にこの宇宙はあるのか」
・もちろん、今のところまだこれらの疑問に確実な答えはありません。しかし、現代宇宙
 論の目覚ましい進展を見ると、こうした疑問にも答えの見つかる日が遠からず来るので
 はないか、とも思えます。
・なにしろ、「この宇宙に始まりはあるのか」という、一見途方もない問いにさえ、科学
 的な答えが見つかりました。 
・幸運なことに、現代という時代は宇宙の探求にとっての黄金時代です。宇宙望遠鏡や巨
 大地上望遠鏡などが次々と建設され、活用されています。
・宇宙の謎を解き明かすための強力な道具が物理学です。現代の物理学は、この世界が想
 像もできないほど不思議なものであることを、次々と明らかにしてきました。物理学を
 通してみると、私たちが「常識」だと思っている自然の姿も、実は本当の姿ではなかっ
 たりします。
・私たちの住んでいるこの宇宙がここに確固として存在している、つまり唯一絶対の存在
 である、ということは疑いようもなく当たり前のことだと思われるでしょうが、実は、
 現代の物理学の知識をもってこの宇宙を眺めてみると、そんな基本的なことさえも疑わ
 しくなってきます。
・宇宙はもしかするとひとつだけではないかもしれないし、ことによると、その存在自体
 が私たちの思い描くような確固としたものではなく、ある意味で「幻想」のようなもの
 なのかもしれない。現代物理学の目で見るとそんな可能性があってもおかしくはありま
 せん。

初期の宇宙はどこまで解明されているか
・宇宙は今から約137億年前に「ビックバン」という大爆発によって始まり、その爆発
 の余勢でずっと膨張し続けています。
・宇宙の始まりの謎は、宇宙が始まってからの非常に短い時間の中に凝縮しています。
・宇宙からの情報は、光や電波などの形で波としてやってきます。光や電波というのは、
 どちらも「電磁波」の一種です。
・光も電波も、秒速約30万キロメートルという猛スピードで真空中を突っ走ります。
・大きな宇宙の中で考えると、地球の大きさなど取るに足りません。地球から太陽まで進
 むには、そんな猛スピードの光でも8分あまりかかります。
・地球から太陽の隣の恒星であるプロキシマ星までは光のスピードで4年あまりかかりま
 す。
・さらに地球から天の川銀河系の端までとなると、なんと10万年ほどもかかります。
・宇宙論で問題にするのは、これよりももっと大きな世界です。宇宙空間には無数の銀河
 が浮んでいます。そういう世界からやってきる光は、私たちのところまで来るのにはる
 か何千万年、何億年、さらには何十億年もかかっています。
・それでは、宇宙の最遠部を見れば宇宙の始まりの瞬間が見えるのでしょうか。残念です
 が、遠くからやってくる光をいくら見ても、宇宙のはじまりの瞬間を見ることができま
 せん。なぜなら、宇宙を昔にさかのぼっていくと、光が物質に邪魔されて、まっすぐ進
 めない時代に到達してしまうからです。その先は曇りガラスをみているようなものです。
 光はやってくるのですが、その先がどんな状態かはよくわかりません。
・つまり、光で見ることができる過去は、光がまっすぐ進めるようになった後だけです。
 それがいつのことかというと、宇宙が始まってから約38万年後、つまり宇宙が約39
 万歳だった頃のことです。 
・この約38万歳の宇宙から直接やってくる光は、実際に観測されています。それが「
 宙マイクロ波背景放射
」と呼ばれるものです。
・この宇宙マイクロ波背景雑音が実際に発見されたのは1965年のことでした。発見し
 たのは、当時のアメリカのベル研究所にいたアルノ・ペンジアスとロバート・ウィルソ
 ンです。
・宇宙マイクロ波背景放射は、私たちが捉えることのできる最古の光であると同時に、こ
 の宇宙に始まりがあったという強力な証拠です。なぜなら、ビックバン理論では熱い火
 の玉のような状態から宇宙が始まったとされ、その火の玉のような状態には光が満ちあ
 ふれていたからです。この光が宇宙マイクロ波背景放射の起源です。
・実際、彼らの発見よりも前から、ビッグバン理論が正しければ宇宙マイクロ波背景放射
 が存在するであろう、そしてそれはいつか観測されるであろう、と予言されていました。
・その小さかった宇宙は膨張して、現在までに大きさが約1100倍になります。すると、
 空間に伝わっている波の波長も、その膨張した割合と同じだけ引き伸ばされてしまいま
 す。つまり波長も約1100倍になります。
・光は電磁波の一種であり、光の波長が1100倍になると、それは電波と呼ばれる種類
 の電磁波に変化します。このため、宇宙マイクロ波背景放射は電波として観測されると
 いうわけです。
・光や電波を使った天然のタイムマシンでは、宇宙マイクロ波背景放射が生まれた38万
 歳よりも昔の宇宙を見ることはできません。その時代には光がまっすぐ進めないからで
 す。
・宇宙の最初期では、宇宙の中にある物質の密度や温度が高く、物質はいわゆるプラズマ
 の状態になっています。プラズマ状態とは、原子から電子が引きはがされた状態になっ
 ていることを言います。宇宙初期のプラズマ状態では、光は物質に行く手を阻まれてま
 っすぐ進めません。
・その後、宇宙の膨張によって温度や密度が下がると、原子が中性化し、電子は原子の中
 に捕らえられてプラズマ状態ではなくなります。このとき、宇宙空間を漂う電子の数が
 急激に減少し、光の進路を邪魔するものがなくなります。宇宙の中で光がまっすぐ進め
 るようになった、この出来事を「宇宙の晴れ上がり」と言います。
・宇宙のマイクロ波背景放射は、空のあらゆる方向からやってきます。その電波はどの方
 向からも完璧に同じようにやってくるわけではありません。やってくる方向によって少
 しだけ異なる、つまり「ゆらいで」います。これを「温度ゆらぎ」といいます。
・一定の温度を持つ物体らは、その温度に応じた電磁波が放射されます。鉄を熱すると赤
 く光りだしたりするのも、この原理です。冷えた鉄からも電磁波が放射されていますが、
 それは目に見えない赤外線です。
・宇宙の晴れ上がり時点において、宇宙マイクロ波背景放射は、摂氏約3000度の温度
 を持つ物体から出る放射と同じであることがわかっています。
観測衛星COBEにより、初めて宇宙初期に起源をもつ温度ゆらぎが見つかったのは、
 宇宙マイクロ波背景放射の発見から27年経った1992年になってからのことでした。
・宇宙マイクロ波背景放射は天然のタイムマシンとして、宇宙の晴れ上がりの時点にまで
 さかのぼるのに使うことができました。しかし、それより昔を見ようと思ったら、光や
 電波などの電磁波ではできません。何か物質に邪魔されずにまっすぐに進む別のものが
 必要です。そんな都合のよいものがあるのでしょうか。それが実はあるのです。私たち
 にはまだ検出する技術がないのですが、将来的に検出可能になるかもしれないものが2
 つ。それは「ニュートリノ」と「重力波」です。
・ニュートリノは、「幽霊粒子」とも呼ばれているくらいの捕らえにくい粒子です。宇宙
 の初期にも大量のニュートリノが発生します。それは宇宙マイクロ波背景放射と同じよ
 うに宇宙に充満しています。これを「宇宙背景ニュートリノ」といいます。
・実は太陽からも大量のニュートリノが放出されていて、それはときたま地球上の検出器
 に痕跡を残します。すなわち、私たちの持っている現在の技術でも、太陽からのニュー
 トリノは検出することができます。しかし宇宙初期に発生したニュートリノはエネルギ
 ーが低すぎて、現在の技術では検出するのは困難です。 
・宇宙背景ニュートリノは、宇宙が始まってから約1秒後に発生したはず、というのが理
 論的に示されています。宇宙の晴れ上がりが約38万年後ですから、それに比べればは
 るかに宇宙の始まりに近い時刻です。したがって、もし宇宙の誕生後1秒の姿を見られ
 るようにならば、宇宙初期に実際に何が起きていたのかなど、計り知れないほどの宇宙
 の秘密が明らかにされると考えられています。
・ニュートンは、すべての物体に引力が働くということ、すなわち万有引力の法則を発見
 しました。この力が重力です。さらにアインシュタインは、一般相対性理論を発見する
 ことによって、重力が時空間のゆがみからも説明できることを明らかにしました。そし
 て この時空間のゆがみは波となって空間を伝わることができる、ということを予言し
 ました。この理論上の波のことを「重力波」といいます。
・重力波は、一般相対性理論が正しければ必ず存在すると予言されていますが、いまだか
 つて実際にそれを捕らえて存在を証明した人はいません。その理由は、重力波が存在す
 るとしても、それがあまりにも弱い波であるため、捕らえるのが容易ではないからです。
・重力波を捕らえようという実験は、今この瞬間にも世界中で行われていますが、今のと
 ころまだ捕らえられていません。現在地球上にある検出器の感度では足りないのです。
・重力波は天体現象などからも発生しますが、宇宙初期にも発生している可能性がありま
 す。それは宇宙マイクロ波背景放射や宇宙背景ニュートリノの発生よりもはるかに初期、
 桁外れに早い時期に発生するかもしれない、と考えられています。これを「宇宙背景重
 力波
」といいます。
・私たちの体をはじめとして、身の回りになじみのある物質はすべて、なんらかの元素か
 らできています。元素とは、化学の周期律表に出てくる物質のことです。では、これら
 の元素はいったいどこから来ているのか。なぜ、このように多様な元素ができたのでし
 ょうか。ビックバン宇宙論を使うと、この謎をほぼ解くことができます。
・これらの多様な元素は、宇宙のはじめから存在していたわけではありません。元素はさ
 らに小さな素粒子に分解できますが、宇宙のはじめには、そういう素粒子しか存在して
 いませんでした。宇宙が膨張して進化する過程で、素粒子を材料にして元素が作られま
 す。それは宇宙が始まってからわずか数分間の出来事でした。
・宇宙が始まってから数分間で初期の元素が作られますが、そのときの元素の種類は主に
 水素とヘリウムでした。現在の宇宙にはもっと多様な元素がありますが、それらは水素
 とヘリウムを原材料として、ずっと後の時代に星の中で作られてきたことがわかってい
 ます。
・この宇宙の中にある物質の量を元素だけで説明できないこともわかってきました。私た
 ちのよく知っている物質である元素よりも、さらにずっと多い量の物質やエネルギーが、
 この宇宙には満ちあふれています。これらは「ダークマター」および「ダークエネルギ
 ー
」と呼ばれる謎の成分です。
 
宇宙の始まりに何が起こったか
・ビックバン宇宙論に基づく、標準的な初期宇宙の理論は「標準宇宙論」と呼ばれていま
 す。標準宇宙論では、宇宙が始まってから最初のわずか1兆分の1秒のところがまた解
 明されていません。
・標準宇宙論によって明らかにされた、宇宙の始まりから1兆分の1秒以降の初期宇宙の
 様子は、「素粒子の標準モデル」と呼ばれる理論から導かれています。
・重力、強い力、弱い力、電磁気力、の4つの力をすべて統一するような架空の理論は
 「超大統一理論」もしくは「万物の理論」と呼ばれています。ただこれは、今のところ
 絵に描いた餅でしかありません。 
・大統一理論の研究の進展に伴って新しく出て来たアイディアが、「宇宙のインフレーシ
 ョン理論
」です。宇宙のごく初期に、現在とは比べものにならないほどの速さで宇宙が
 急膨張した時期があったのではないか、という驚くべきアイディアが出てきたのです。
・標準ビックバン宇宙論によると、最初に不自然なくらい大きな速度で宇宙が膨張し始め
 ました。もし最初の膨張速度が現実のものより少しでも遅いと、宇宙はすぐに膨張から
 収縮に転じてつぶれてしまい、宇宙に銀河や星を作る時間がありません。逆に、最初の
 膨張速度が少しでも速いと、すぐに宇宙の密度が薄くなってしまって、やはり星や銀河
 などが作られなくなってしまいます。
・私たちが住めるようなこの宇宙ができるために必要な条件を計算してみると、宇宙初期
 の膨張速度が、奇跡的とも呼べるくらいの精度で微調整されている必要があります。例
 えば宇宙が始まって1秒後を考えてみると、1000兆分の1の精度で膨張速度をある
 ちょうどよい値に調整しておかなければなりません。もっと初期にさかのぼれば、さら
 にこれよりも条件は厳しくなります。そんなことが偶然起こったとは考えられません。
・標準ビックバン宇宙論には、さらに不自然な点がまだあります。それは、現在の宇宙が
 どこを見ても同じ構造をしているのはなぜか、という問題です。例えば、宇宙マイクロ
 波背景放射では、どの方向からやってくる電波の温度も10万分の1の精度で同じです。
・初期の宇宙において、非常に遠く離れた場所同士が、なぜかお互いの状態を知っていて
 同じような状態から始まったことになります。はじめから宇宙のどこも同じような状態
 で始まるのは不自然です。
・膨張速度の微調整と、初期宇宙がどこも同じような状態から始まったという2つの謎は、
 この宇宙の膨張がどのように始まったのか、という謎と直結しています。インフレーシ
 ョン理論は、これらの2つの問題点を同時に解決し、現在の膨張の起源をある程度説明
 してくれる有望な理論です。
・インフレーションは、もともと「急激に膨らむ」ことを意味しています。宇宙が急激に
 膨らむこと、それが宇宙のインフレーションです。インフレーションは宇宙のごく初期
 に起きたものと考えられます。そして、その急激な膨張は突如終りを告げ、それよりは
 緩やかな膨張になって現在の宇宙膨張に繋がったのだと思われます。
・宇宙がその初期に急激に膨張すると、2つの問題点は自動的に解決してくれます。アイ
 ンシュタインの一般相対性理論に基づいて計算すると、インフレーションが終わったと
 き宇宙の膨張速度は、その後の宇宙をさらに長く生き延びさせるために必要な最小限の
 値に、自動的に調整されることが示されます。
・標準ビックバン宇宙論では、最初に大きな速度で宇宙が膨張し始めたと仮定されていま
 す。しかし、その理由は明らかにされませんでした。もし、インフレーションが起きて
 桁違いの急膨張をしたのであれば、その急膨張の余勢がインフレーション終了後にも残
 り、標準ビックバン理論で仮定されている宇宙が膨張へ繋がると説明できます。
・また、インフレーションが起こる前に情報がやりとりできるほど十分近くにある2つの
 場所は、インフレーションという急膨張でほとんど一瞬にして莫大な距離に引き離され
 てしまいます。このため、インフレーションが終わってみると、あたかも全く情報をや
 りとりできないほど離れているように見えるわけです。
・このように、インフレーションが起こると理論上、都合がよいことがわかりました。し
 かし、それがどのようなメカニズムで起されたかについての定説はありません。当初は
 大統一理論に基づいて研究されていましたが、結局インフレーションが都合よく始まっ
 たり終わったりする自然なメカニズムを見つけることができませんでした。
・多くのインフレーション理論は、その急膨張期に特徴的な背景重力波を発生させると予
 言しています。それが実際に検出されると、インフレーション理論は今までにない信憑
 性を持つことになります。
・インフレーション理論は宇宙の誕生自体を説明するものではありません。インフレーシ
 ョンの起きる前に、すでに宇宙が誕生しているものと想定されています。一方で、宇宙
 の誕生からインフレーションが起きるまでのことは、ほとんどわかっていません。
・インフレーション終了後の宇宙はどこも同じような構造になりますが、インフレーショ
 ンが起きる前の宇宙ではどこも同じような構造をしている必要がないことに注目してく
 ださい。ということは、宇宙全体で見れば、インフレーションが起こった場所とそうで
 ない場所が混在することも考えられます。
・インフレーションが起こらなかった場所もあるかもしれませんし、いまだにインフレー
 ションを続けている場所もあるかもしれません。私たちに見える範囲よりもずっと大き
 な観点から見ると、宇宙は極めてでこぼこした奇妙なきてれつなものになっている可能
 性があります。
・現在では、まだインフレーションの起きるしくみもよくわかっておらず、また、多くの
 宇宙が生まれるような状況に適用できる物理法則に至っては全くといっていいほどわか
 っていないので、このようなことが本当にあり得るのかどうかは、現状ではまさに神の
 みぞ知る、というところです。
・最初のインフレーション理論が提案された後、素粒子論の理論的研究には大きな変化が
 ありました。万物の理論の候補になるかもしれない理論が登場してきたのです。それが、
 世界の根源はすべてストリング(ひも)のようなものでできているという「ストリング
 理論
」です。
・現在では、初期に研究されたいくつかのストリング理論を包み込む、さらに大きな枠組
 みの理論があるかもしれない、と予想されています。まだ未知のベールに包まれている
 その理論は、「M理論」と名付けられています。
・ただ、ストリング理論が最初に流行してからすでに35年異常も経過し、数学的に興味
 深い断片的な結果はいろいろと得られているものの、まだ万物の理論としての見通しは
 立っておらず、完成する気配もありません。
・ストリング理論に取って代わる対抗馬になるかもしれない理論がいくつか提案されてい
 ます。その代表例は、2001年に提案された「エクピロティック宇宙論」です。
・宇宙が繰り返し生まれては消えている、という考えは昔からありました。これを「循環
 宇宙論」もしくは「サイクリック宇宙論」といいます。それまでにも巡回宇宙論にはい
 ろいろは種類のものが提案されていましたが、どれも実際の宇宙を十分説明するまでに
 は至っていませんでした。しかし、このエクピロティック宇宙論は、膜宇宙論という新
 しい考え方を取り入れた、巡回宇宙論の再来とも呼ばれるべきものです。
・一般相対性理論が明らかにしたことは、時間や空間はその中にある物質などと相互に関
 係し合って非一様にゆがみ、変化するものだ、ということでした。地球の周りの時空間
 は、地球があることによってゆがみます。ゆがんだ時空間に粒子が置かれると、そのゆ
 がみを感じて地球の中心へ自然に動いていってしまいます。これが万有引力の正体でし
 た。
・量子論で明らかになったことは、原子や分子ほどの小さな世界では、ものの存在に対す
 る考えを改めなければならない、ということでした。小さな世界では、観測が行われる
 まで物体の性質は決まりません。そこには観測者の存在が大きく関わっています。
 
宇宙の形はどうなっているのだろうか
宇宙ステーションがある場所というのは、地面から300〜400キロメートルのとこ
 ろにすぎません。地球の直径は1万3000キロメートル近くありますから、それに比
 べると数百キロメートルの距離など取るに足りません。
・月は地球から約38万キロメートルも離れています。宇宙ステーションなどとはわけが
 違い、かなり遠いです。 
・これが太陽までの距離となると、さらに遠くなって、約1億5000万キロメートルに
 なります。太陽の大きさも、直径にして地球の100倍以上もあります。体積にすると
 100万倍以上です。
・太陽に最も近い恒星は、ケンタウルス座アルファ星という三重星の中のひとつ、プロキ
 シマ星という暗い星です。地球からプロキシマ星までの距離は約4光年です。
・天の川は薄い光の帯のように見えます。この光の帯は、とても多くの星からの光が合わ
 さったものです。 
・天の川は、天の川銀河系という私たちの住んでいる銀河を、内部から見た姿です。天の
 川銀河系は円盤状の形をしているので、内部から見ると細長い帯に見えるというわけで
 す。
・天の川銀河系全体では、約2000億個以上もの星があると言われています。円盤状の
 天の川銀河系の大きさは、実に10万光年以上になります。
・天の川銀河系は、中心部分が太った円盤のような形をしています。円盤状の部分には渦
 巻き模様が広がっています。中心部分の太った部分は棒状の形をしていると考えられて
 います。 
・私たちの太陽系は円盤状の部分にあります。天の川銀河系の中心からは、少し外れた部
 分になります。日本から見られる天の川は、銀河系の円盤を太陽系から外向きの方向へ
 見た姿です。日本は地球の北半球にあるので、南側の空には一部見えない部分がありま
 す。銀河の中心方向は、その見えない部分にあります。銀河の中心は天の川の太った部
 分になっていて、オーストラリアなど南半球へ行くと見ることができます。
・私たちの銀河は比較的大きな銀河のひとつです。銀河の円盤の部分には渦を巻いたよう
 な模様があります。このような銀河は宇宙にあふれています。「渦巻銀河」と呼ばれる
 種類の銀河です。
・これに対して、「楕円銀河」という種類の銀河も宇宙にあふれています。これは渦巻状
 の模様を持たず、文字通り楕円形をした星の集まりです。
・大きな銀河の多くは渦巻銀河か楕円銀河のどちらかに分類できます。どちらともつかな
 い中間的な形状をしたものもありますが、それは「レンズ状銀河」と呼ばれます。
・他にも、決まった形を持たない不規則な形の銀河もあり、それらは「不規則銀河」と呼
 ばれています。 
・私たちの天の川銀河系の近くには、小さな銀河がいくつかあります。小マゼラン雲
 マゼラン雲
は、天の川銀河系のお隣さんです。これは地球上では南半球からしか見られ
 ないので日本からは見えません。2つとも不規則銀河で、大きさは天の川銀河系の10
 分の1ほどです。大マゼラン雲は地球から約15万光年、小マゼラン雲は約20万光年
 の距離にあります。
・大きな渦巻銀河で、私たちの一番近くにあるのが「アンドロメダ銀河」です。地球から
 の距離は約230万光年です。直径は天の川銀河系の2倍以上あり、約26万光年もあ
 ります。
・アンドロメダ銀河のそばには、「さんかく座銀河」という渦巻銀河もあります。大きさ
 はアンドロメダ銀河に比べると5分の1ほど、直径5万光年程度の銀河です。
 ・天の川銀河系、大小マゼラン雲、アンドロメダ銀河、そしてさんかく座銀河の5つの
 銀河は、「局所銀河群」と呼ばれる銀河の群れの主要なメンバーになっています。これ
 らの5つの銀河の他にも、40個以上の小さな銀河がこの局所銀河群の中に存在します。
・私たちのいる局所銀河群の外にも、他の銀河群があります。私たちの局所銀河群は「り
 ょうけん座銀河群」の端のあたりに位置していて、その一部をなしています。
・銀河群は多くても50個程度までの銀河の集団で、大きさは約500万光年程度です。
 それよりも大規模な銀河の集団は「銀河団」と呼ばれています。銀河団は50個から数
 千個ぐらいまでの銀河の集団で、大きさは約2000万光年程度です。
・銀河団よりもさらに大きな銀河の集団は「超銀河団」と呼ばれています。超銀河団は、
 銀河群や銀河団をその中に含んでいます。大きさは数億光年にも及びますが、はっきり
 した形を持たない不規則な構造をしています。どちらかというと、天体というよりはむ
 しろ、大きなスケールで宇宙空間を眺めたときに、比較的銀河が多く存在している場所
 を超銀河団と呼んでいると言ったほうがよいようなものです。
・私たちは「おとめ座超銀河団」の中にいます。おとめ座超銀河団は「局所超銀河団」と
 も呼ばれています。 
・多数ある銀河は、宇宙の中で完全にバラバラと配置されているわけではありません。銀
 河団や超銀河団のように、銀河同士が群れ集まっている場所があるかと思えば、逆にあ
 まり銀河の見られない場所というのもあります。
・銀河がほとんど見られない場所は、「空洞領域」、あるいは「ボイド領域」と呼ばれて
 います。
・宇宙にある数多くの銀河は、このようなボイド領域を取り囲むように存在しています。
 多数のボイド領域を、さらに多数の銀河が取り囲む様子は、「泡構造」と呼ばれていま
 す。
・今のところは、泡構造を超えるさらに大きな構造というものは見つかっていません。ど
 こまでも泡構造とした宇宙がずっと広がっていると考えられています。
・しかし、いったい宇宙は無限に広がっているのでしょうか。その答えはまだ誰も知りま
 せん。
・宇宙というのは今から約137億年前に、「ビックバン」という大爆発によって始まり、
 その爆発の余勢でずっと大きくなり続けています。この137億年間に光が進むことの
 できる距離は137億年です。私たちは光を使って宇宙を調べるため、宇宙が始まって
 から現在まで光が進むことができるこの距離よりも、さらに向こう側のことは知ること
 はできません。
・実際には宇宙は膨張しています。すると、光が最初に出発した場所は現在、この膨張で
 引き伸ばされた分だけ遠くにあるので、実際の現在の距離にすると、もう少し大きくな
 ります。それでもたかだが470億光年くらい先までしか見えません。つまり、私たち
 の見える宇宙の半径は、どう頑張っても470億光年だけです。
・宇宙全体がどうなっているのか。直接観測では確かめられませんが、理論的に推測する
 ことはできます。もし、私たちに見える宇宙と同じような宇宙がずっと広がっている、
 つまり宇宙が一様であるとすると、宇宙の全体の形はだいたい3種類に分類できます。
・現在の宇宙は平坦な3次元空間にとても近い、ということが観測によりわかっています。
 しかし、完全に平坦なのかどうかについては結論は出ていません。とても平坦に近いが、
 観測できないほどわずかだけ曲がっているかもしれません。
・この宇宙が開いた宇宙なのか、あるいは厳密に平坦な宇宙なのか、はたまた非自明なト
 ポロジーを持った形をしているのか、今のところはまだどの可能性もあります。
 
宇宙を満たす未知なるものと宇宙の未来
・現在の宇宙にある物質のエネルギーは、そのほとんどが「質量エネルギー」という形を
 とっています。私たちになじみのあるエネルギーといえば、電気エネルギーや石油エネ
 ルギー、また運動エネルギーなどですが、これらは質量エネルギーに比べると、宇宙の
 中では微々たるものでしかありません。
・質量エネルギーとは、質量を持った物体なら、すべてが持っているエネルギーです。こ
 のエネルギーの存在もアインシュタインの特殊相対性理論で明らかになりました。その
 エネルギーの量は半端のない大きさです。
・もしこの質量エネルギーを効率よく取り出すことができれば、地球上のエネルギー問題
 は解決するのですが、それは簡単なことではありません。
・原子力発電は、ある意味で質量エネルギーを電力に変換しています。すなわち、ウラン
 の質量エネルギーを1パーセントだけ取り出しているにすぎないのですが、それで
 もかなり強力に電力を作り出します。
・宇宙にあるエネルギーは宇宙の曲率を正の方向へ大きくしようとします。もし十分なエ
 ネルギーが宇宙に含まれていると、正定曲率の宇宙になります。逆にエネルギーが少な
 すぎると、不定曲率の宇宙になります。そして、ある「ちょうどよい量」のときに、宇
 宙の曲率はゼロになって平坦になります。
・宇宙マイクロ波背景放射の温度ゆらぎを解析すると、宇宙の曲率はゼロに近いことがわ
 かりました。
・ビックバン理論を元にした計算と観測とを比較すれば、現在の宇宙にどれくらいの量の
 元素が存在しているかを見積もることができます。その質量をエネルギーに換算すると、
 宇宙に存在するはずのエネルギー量のうち、わずか4パーセント分しかないことがわか
 ります。つまり、宇宙の形を説明するには、宇宙にある元素の質量エネルギーだけでは
 足りないということです。
・残りの質量、もしくは残りのエネルギーは宇宙のどこにあり、その正体は何だというの
 でしょうか。 
・宇宙のエネルギー不足を埋め合わせるものの一部は「ダークマター」もしくは「暗黒物
 質」と呼ばれる物質だと考えられています。
・一見なにもないように見える宇宙空間にも、実は大量の見えない質量が存在しているの
 ではないか、ということです。
・その後、宇宙のあらゆる場所に、なにか見えない物質のようなものが存在しているとい
 う証拠が数多くあがってきました。
・1970年代、女性天文学者ベラ・ルーピンたちは、渦巻銀河の回転の様子を調べるこ
 とによって、銀河中にどのような質量が分布しているかを見積りました。すると、銀河
 円盤のずっと外側、星がほとんど存在していないところにまで質量が広がっていると考
 えないとつじつまが合わなくなりました。そして、その見えない質量は、銀河中にある
 星やガスをあわせた質量の10倍以上にものぼることがわかりました。現在では、渦巻
 銀河だけでなく楕円銀河などの銀河でも同じような傾向が見られることがわかっていま
 す。
・とくに最近ではダークマターが宇宙空間にどのように分布しているかをもっとはっきり
 調べることもできます。それには一般相対性理論の効果により、重力のある場所で光の
 進路が曲げられるという事実を利用します。これを「重力レンズ効果」といいます。
・ダークマターは通常の物質ともお互い同士とも相互作用することなくすり抜けてしまい、
 それは単に重力だけしか感じていない存在だということを意味します。
・ニュートリノはごく弱い相互作用しか行わない点で、昔はダークマターの有力候補でし
 た。ニュートリノが十分な質量を持っていれば、それがダークマターの正体なのではな
 いかと考えられたこともありました。しかしその後、もしニュートリノがダークマター
 だとすると、現在観測されているような宇宙構造が作られない、ということが判明し、
 今では通常のニュートリノはダークマターの候補から外されています。
・ニュートリノがダークマターの正体でなければ、素粒子の標準モデルにはもう候補とな
 る素粒子がありません。 
・もちろん、ダークマターという物質的なものは実は存在していない、という可能性もあ
 ります。この可能性を考える場合、ダークマターで説明される銀河運動などの観測を、
 他の手段で説明しなければなりません。
・重力の標準理論である一般相対性理論が、実は銀河スケールで成り立っていないとする
 などの理論です。そのような試みは修正重力理論と呼ばれ、これまでにも数多く考えら
 れてきました。しかし一般相対性理論を修正しようとすると、それが本来持っていた美
 しさや自然さを台なしにしてしまい、恣意的な理論になるなどが避けられない運命にあ
 ります。
・宇宙全体にあるダークマターの量を見積もる方法はいくつかあります。ダークマターの
 量によって、宇宙マイクロ波背景放射の温度ゆらぎの性質が変わります。宇宙の大規模
 構造の特徴もまた変わります。それを理論的に求めて観測と比較すると、宇宙にどれく
 らいのダークマターがあるかを求められます。
・しかし、どの方法で見積もっても、ダークマターだけでは宇宙にあるべき総エネルギー
 量の不足分にまあ足りないことが明らかになっています。ダークマターの持つ質量エネ
 ルギーは、宇宙の総得エネルギー量のうち23パーセントしか占めていないことがわか
 っています。元素の質量エネルギーと合計しても27パーセントにしかなりません。
・では、残りの73パーセントはいったいどこへ消えてしまったのでしょうか。元素では
 なく、ダークマターですらもないエネルギー、そんなものが宇宙にあるとでもいうので
 しょうか。これは現在でも大きな謎です。
 とりあえずその不足分を埋めるエネルギーの名前だけは付けられています。それは「
 ークエネルギー
」もしくは「暗黒エネルギー」と呼ばれています。
・宇宙の膨張は徐々に遅くなっていくというのが、以前の標準的な宇宙論の考え方でした。
 通常、重力というものはお互いに引き合うだけで、反発力にはなりません。宇宙の膨張
 は重力によって支配されているので、お互いに引き合う力は膨張を遅くしようとします。
 つまり、通常の重力を考えている限り、宇宙膨張は減速します。これを「宇宙の減速膨
 張」といいます。
・しかし、ダークエネルギーは通常の物質が持つエネルギーとは違います。ダークエネル
 ギーに作用する重力は、通常とは反対の向きに働きます。すなわり、引力ではなく斥力
 になってしまいます。このため、ダークエネルギーがあると宇宙の膨張は減速するどこ
 ろか、逆に速くなっていきます。これを「宇宙の加速膨張」といいます。
・遠方の宇宙で起こる超新星爆発を解析することで、宇宙膨張がどう時間変化するかを直
 接的に調べる方法が開発されてきました。この画期的な観測手法により、宇宙が実際に
 加速膨張していることが示されました。1998年のことです。異なる2つの遠方超新
 星観測チームが、それぞれ独立に観測と解析をした結果、どちらも同じように宇宙の加
 速膨張を示したのです。
・その結果がほぼ確実だとわかると、宇宙論の分野だけでなく物理学の広い分野の研究者
 たちを震撼させました。宇宙が加速膨張するという結果を自然に説明できる物理理論が
 存在しないからです。
・宇宙にはなにか奇妙なエネルギーの成分があるかもしれないと言われ出したのは、なに
 も宇宙の加速膨張が発見されてからではありません。理論的には、それよりもはるか昔
 からその問題が取り沙汰されてきました。なかでも古くから知られていた問題は、真空
 エネルギーの問題です。物質の存在しない真空の空間に一定の密度を持つエネルギーが
 蓄えられているとき、それは反重力の働きをして、自然に宇宙を加速膨張させようとし
 ます。このように真空に存在する一定密度のエネルギーは「真空エネルギー」と呼ばれ
 ます。真空エネルギーはダークエネルギーの一種です。
・ダークエネルギーは宇宙のエネルギー全体の中で主要な成分ですから、宇宙が将来どう
 なるかという運命のカギを握っています。他のエネルギー成分は、宇宙が膨張すればそ
 れだけ薄まってしまいますが、ダークエネルギーはほとんど薄まりません。現在よりさ
 らに膨張の進んだ将来の宇宙では、宇宙にあるエネルギーのうち、ほぼ100パーセン
 ト近くをダークエネルギーが占めるようになります。そんな宇宙の運命とはどういうも
 のになるのか。
・ダークエネルギーがとり得ると考えられる性質はおおまかに3種類に分けることができ、
 それぞれ異なる将来の可能性を予言します。
・一つ目の可能性は、ダークエネルギーが一定の真空エネルギー、もしくはそれに同等な
 場合です。このケースでは、体積あたりのダークエネルギーの量が変化しません。ダー
 クエネルギーが宇宙の膨張を加速し続けるので、宇宙は際限なくいくらでも大きくなり
 続けます。そして、宇宙は永遠に存在し続けます。宇宙が加速的に膨張し続けると、遠
 くの銀河までの距離はどこまでも大きくなり続けます。そのうち宇宙の地平線を超えて
 しまい、それらの宇宙の存在さえわからなくなります。一方、比較的近傍にある銀河は、
 合体して一つの超巨大銀河になると考えられています。アンドロメダ銀河は今から数十
 億年後に天の川の銀河系と衝突、合体して巨大な銀河になると言われています。
・ただしその前に、太陽系は百数十億程度で燃え尽きてしまいます。そして他の恒星や、
 これからできる恒星も、次々と燃え尽きたり超新星爆発を起したりした後、輝きを失っ
 ていきます。はるか数十兆年後には、新しく星を作る材料が宇宙空間に枯渇し、そして
 ほとんど輝かない天体ばかりが残されるでしょう。それらは褐色矮星白色矮星中性
 子星
、そしてブラックホールと呼ばれる天体などになります。超巨大銀河全体は輝きを
 失い、星の墓場のようになってしまうでしょう。
・比較的大きな銀河の中心部には巨大ブラックホールがあると考えられています。ブラッ
 クホールは、あまりに重力が強くなりすぎて、なにものもそこから抜け出せないという
 恐ろしい天体です。銀河が合体すると、この巨大ブラックホールも合体して、超巨大ブ
 ラックホールになっているでしょう。超巨大銀河系にある天体たちは、その周りを回る
 ことで吸い込まれずにいます。しかし、それらの天体が永遠に安定して回り続けること
 はできません。超巨大ブラックホールの重力から逃れて遠くへ飛び去っていく天体もあ
 れば、中心部へ落ち込んで超巨大ブラックホールに飲み込まれてしまうものもあります。
 そしてこのブラックホールの周りには天体がなくなってしまいます。
・一方、ブラックホールも永遠に存在はできません。ブラックホールはなんでも吸い込ん
 でしまう存在ですが、それには例外があります。実は量子効果により極めてわずかずつ
 光や電子などを表面から放射しています。これはブラックホールの「ホーキング放射
 と呼ばれています。
・宇宙の膨張が進んで宇宙マイクロ波背景放射が十分弱くなると、周りからブラックホー
 ルに流入するエネルギー源がなくなってしまいます。するとブラックホールはホーキン
 グ放射によってエネルギーを失う一方になり、その質量は減少します。そしてながい時
 間の後にはブラックホールが蒸発して消滅してしまうと考えられています。
・ブラックホール蒸発後の宇宙には、光や電子、ニュートリノなどといった素粒子が、非
 常に希薄が状態で存在する宇宙になります。
・いずれにしても宇宙の膨張が極限まで進めば、何の活動性もない希薄な宇宙がただただ
 膨張し続けるだけという、事実上の死を迎えます。
・宇宙の将来についての二つ目の可能性は、ダークエネルギーから宇宙を加速させる力が
 失われていく場合です。ダークエネルギーは一種の反重力を持っていると言いましたが、
 その性質が時間とともに変化して、通常の重力を持つエネルギーになってしまう可能性
 があります。この場合には宇宙は加速するのを途中でやめ、昔から考えられていたよう
 な減速膨張する宇宙になります。減速膨張する宇宙の運命は2つあります。永遠に膨張
 が続くか、あるいは膨張が途中で止まりその後収縮に転ずるか、の2つです。
・永遠に膨張が続く場合は、先に述べた場合とあまり変わらない運命になります。ただ、
 膨張はそれほど速くないので、銀河同士が完全に孤立することがないだけです。
・収縮に転ずる宇宙の運命はこれとは全く異なります。いったん膨張が止まって収縮する
 宇宙になると、今度は銀河と銀河の間の距離が縮まっていきます。あちらこちらで銀河
 が衝突して合体します。このときの衝撃で星がたくさん生まれます。銀河の中心にある
 ブラックホールも合体するでしょう。さらに収縮が進むと銀河は重なり合って、独立し
 て存在できなくなります。宇宙全体がひとつの銀河のようになってしまうでしょう。さ
 らにずっと収縮が進めば、宇宙全体が非常に高温の状態になります。このため星は表面
 から蒸発していきます。そして宇宙全体の密度が大きくなって、ダークマターや通常物
 質およびブラックホールで満たされます。そしてビックバン宇宙の運命を逆にたどりま
 す。際限なく密度が高くなって、宇宙の温度は高くなっていきます。元素は壊されて素
 粒子に分解します。こうして収縮する宇宙は終りを迎えます。この終わりの時点は「
 ッグランチ
」と呼ばれています。爆発の逆なので「爆縮」です。
・その先は私たちの物理学ではよくわからない領域に突入していきます。空間がなくなる
 とともに時間もなくなって「その後」自体が消滅してしまうかもしれません。
・一説には、爆縮の後で宇宙が跳ね返り、またビックバンになるという考えもあります。
 これは昔からある「振動宇宙論」であり、宇宙は永遠に膨張したり収縮したりを繰返し
 ているという仮説です。ただし、そうしてできる次回のビックバン宇宙は、私たちの宇
 宙のように生命が住みやしぃ宇宙にはならないだろうという研究もあります。
・宇宙の将来について三つ目の可能性は、宇宙を加速する力が将来さらに大きくなってい
 き、最終的に宇宙の膨張速度が無限大になってしまうという破滅的な場合です。
・宇宙が加速が行きすぎると、これまで考えてきた場合と異なり、銀河自体が膨張し始め
 ます。銀河は、その中にある星やダークマターの重力によってひとまとまりになってい
 ますが、その重力を上回る力をダークエネルギーが持ち始めることになります。銀河の
 中にある星々はバラバラと宇宙空間にばらまかれてしまい、銀河は宇宙に存在しなくな
 ります。そんな状態がしばらく続いた後、ダークエネルギーの支配力は星自体にも及び
 始めます。今度は星自体を膨張させ始めるのです。星を構成している物質は宇宙空間に
 ばらまかれます。この連鎖は止まりません。物質も膨張して原子に分解され、さらにこ
 れ以上分解できないという素粒子にまでバラバラにされてしまいます。ブラックホール
 は分解されないかもしれませんが、ダークエネルギーが流入することで質量を失い、消
 えてしまうかもしれないという研究もあります。
・最終的に宇宙膨張の加速が行き過ぎると、宇宙の膨張速度が無限大になってしまいます。
 これは宇宙時代の破壊です。有限の空間が無限に大きくなると、もはや時空間が存在で
 きなくなるからです。 
 
宇宙に外側はあるか
・自転するブラックホールの中心部にはリング状になった時空の特異点があります。この
 ようなブラックホールは「カー・ブラックホール」と呼ばれています。この特異点は魔
 法のリングです。このリングを抜けると、そこはまったく別の空間に繋がっているから
 です。
・この「別の空間」というのが何なのかはよくわかっていません。私たちの宇宙のどこか
 遠くの場所なのかもしれませんし、もしかすると、私たちの住む宇宙とは別の宇宙に繋
 がっているのかもしれません。とにかく時空がねじれていて、他の場所へ出るトンネル
 が繋がっています。このような時空のトンネルのことを「ワームホール」といいます。
 このワームホールの抜け出たところは、ブラックホールの出口と考えられます。物質を
 吸い込むブラックホールに対して、物質を放出するその天体はホワイトホールと呼ばれ
 ますが、あくまで理論的な可能性であって、実際のそのようなものが発見されたことは
 ありません。
・宇宙は英語で「ユニバース」です。ユニというのは「ひとつの」という意味なので、こ
 れを「多数の」のとう意味の「マルチ」に変えた「マルチバース」という言葉が多宇宙
 を表します。マルチバースの中のひとつの部分が私たちのユニバースです。
・永久インフレーションの仮説では、ひとつの親宇宙から無数の子宇宙や孫宇宙などが作
 られます。無からの宇宙創世の仮説では、無の中にいくらでも宇宙ができる余地があり
 ます。ワームホールを通じて過去へ戻る経路ができてしまった場合、そこから平行宇宙
 へ分岐する可能性があります。
・マルチバースは一見、万物の理論の考え方と相容れないように見えます。万物の理論が
 あるならば、それは単純な基本原理から出発して、この宇宙の性質を曖昧さなしにすべ
 て導きだすようなものと考えられます。マルチバースはそのような期待を打ち砕きます。
 この宇宙は唯一絶対のものではなくなるので、数学的に関係性だけからこの宇宙の性質
 をすべて導き出すことはできなくなります。
・万物の理論の候補であるストリング理論/M理論も、当初はこの宇宙を唯一絶対の存在
 として導くという明確な目的を持って研究されていました。しかし、その試みには現在
 まで誰も成功していません。逆に、唯一の宇宙どころか膨大な種類の宇宙があり得ると
 いう可能性が導あれてしまいました。このため、ストリング理論/M理論の研究者の中
 には、この宇宙を唯一絶対の存在とみなさない人も増えてきました。
・しかし、マルチバースの考え方には欠点もあります。まず、それがあるかどうかを確か
 める手段が、今のところ見当たらないことです。いくらマルチバースを考えたほうが都
 合がよいといっても、それでマルチバースがあるという証拠にはなりません。マルチバ
 ースが本当に存在するというなら、科学としてそれを実証することが不可欠です。その
 ような手段があり得るのでしょうか。
・また、マルチバースを考えることで、この宇宙の姿があまりにも複雑になってしまいま
 す。 
・遠い将来には、さらに進んだ理論が発見されて、もしかするとタイムマシンや遠方へ一
 瞬で移動できる装置が発明されているかもしれません。さらには平行世界を自由に行っ
 たり来たりできたり、別の宇宙の住人と交信したり貿易したり、などと想像は膨らみま
 す。100年後やそこらでは難しいかもしれませんが、もし人類が何百万年も存続して
 この文明を発展させていくことができるのなら、そんな常識はずれの技術がいつか開発
 されてもおかしくはありません。
・私たち人類はこれまで20万年も栄えてきました。しかし、人類が今後何億年も栄え続
 けることはきわめてありそうもない、と言われています。なぜなら、何億年も栄え続け
 る人類の歴史の中で、私たちがその最初のわずか20万年に生きている確率は極めて小
 さいから、という論理です。
・プリンストン大学のリチャード・ゴットは、一般的に考えて、今あるものが今後も存続
 し続ける時間は、95パーセントの確率でこれまでに存続した時間の39分の1と39
 倍の間にある、と計算しました。
・これを人類の存続期間に当てはめてみると、95パーセントの確率で、あと5100年
 以上780万年以下である、ということになります。
・この確率の議論に基づくと、地球人よりもはるかに多くの人口を持つ知的生命が他に存
 在する可能性も、かなり低くなります。もし過去から未来のどこかで、何千兆人もの宇
 宙人を含んだ文明がこの宇宙のどこかで栄えるとすると、私たちにとってそちらの文明
 の一員として生まれる可能性のほうが、この地球上に生まれる確率よりもはるかに高く
 なります。そうではなく、私たちがこの地球上の人間として生まれたという事実は、こ
 れまでに地球上に生まれた人間の数よりも大幅に多くの知的生命生む文明が存在する確
 率が極めて低いということを意味します。
・人類が永遠に続いてほしいと誰もが願うと思いますが、この確率の議論が正しいとする
 と、それは極めてありそうにない、ということになります。
 
エピローグ
・筆者の考える「宇宙論の十大疑問」
 @何がこの宇宙を始めたのか
 Aインフレーションは本当に起きたのか
 B時間と空間の本質とは何か
 C宇宙にはなぜ構造があるのか
 D宇宙全体に量子論の原理を適用できるのか
 Eダークマターの正体は何か
 Fダークエネルギーの正体は何か
 G人間原理に意味はあるのか
 Hこの宇宙の他にも宇宙が存在するのか
 I人間は真の宇宙の姿を理解できるのか