日本国債  :幸田真音

ナナフシ (文春文庫) [ 幸田 真音 ]
価格:924円(税込、送料無料) (2020/3/26時点)

投資アドバイザー有利子 (角川文庫) [ 幸田真音 ]
価格:704円(税込、送料無料) (2020/3/26時点)

CC:カーボンコピー (中公文庫) [ 幸田真音 ]
価格:859円(税込、送料無料) (2020/3/26時点)

Hello,CEO. (角川文庫) [ 幸田 真音 ]
価格:817円(税込、送料無料) (2020/3/26時点)

財務省の階段 (角川文庫) [ 幸田 真音 ]
価格:616円(税込、送料無料) (2020/3/26時点)

日本国債(上) (講談社文庫) [ 幸田 真音 ]
価格:682円(税込、送料無料) (2020/3/26時点)

日本国債(下) (講談社文庫) [ 幸田 真音 ]
価格:682円(税込、送料無料) (2020/3/26時点)

人工知能 [ 幸田 真音 ]
価格:1980円(税込、送料無料) (2020/3/26時点)

国家破産で起きる36の出来事 [ 浅井隆(経済ジャーナリスト) ]
価格:1650円(税込、送料無料) (2020/3/26時点)

国債リスク 金利が上昇するとき [ 森田長太郎 ]
価格:1760円(税込、送料無料) (2020/3/26時点)

この小説が書かれたのは、1998年の小渕内閣の頃だったという。当時の小渕首相は、
自らを「世界一の借金王」と称して、景気浮揚のためには、何によりもまず財政出動が必
要だと考えた。そのためには大規模な公共事業不可欠だということで、多額の国債の発行
に踏み切った。
その結果、増大する巨額の財政赤字を一身に背負い、まるで打出の小槌のように思われて
いる国債市場の行く末に強い懸念を抱いたことが、この小説を書くきっかけだったと作者
は述べている。
現自民党政権でも、経済復活のために「財政出動」「大規模な公共事業」が不可欠と叫ば
れているが、当時と変わらない政策であることがよくわかる。
当時の国債市場は、日本の財政を支える重要な存在であるにもかかわらず、国民からの関
心は極めて低く、株式市場や為替市場の動向が日々ニュースになるなかで、国債市場のこ
となど話題にもならず、誰も振り向きもしなかったという。
最近では、変な意味で国債に対する関心が高まっている。それは国の借金が1000兆円
に迫り、国内で9割以上が消化されるという国債の買い手が、いよいよなくなるのではな
いのかという危機感からの関心である。
この小説の中にも出てくる国債の入札の「未達」が、そろそろ起きるのではないのか、と
いう話が巷ではまことしやかに語られている。毎年多量に発行される国債を、国内で消化
できる限界が近づいているらしい。
国債の入札が「未達」になるということは、どういうことなのか。「未達」になったら、
どういうことが起こるのか。この小説を読んで、国債とはどういうものなのかを、おぼろ
げながら理解できたような気がする。
しかし、この国の資金調達は、まさに薄氷の上に成り立っている。いつ氷が割れて奈落の
底に沈没してもおかしくない状況にあることをあらためて感じる。

犠牲者
・外資系の証券会社に勤務するディーラーともなると、その年俸はプロ野球選手に迫るほ
 どにもなるという。たかだか三十代ぐらいの年齢で、億を超える年俸を手にしているサ
 ラリーマンがいると言われても、想像がつかないのだ。
・そうした金銭感覚の麻痺が、さらに安易な金儲けへの野望を生み、ひいては汚職の温床
 となっているのではないのか。
・国債市場も、現在の価格で売買する現物市場と、ある一定の将来の価格を見越して売買
 する先物市場があるのは、為替市場での取引なんかと同じです。
・国際や社債に限らず、債券の市場には発行市場と流通市場があって、そこが為替市場と
 の大きな違いです。
・国債の入札に関して、アメリカなんかと違うのは、シンジケート団の存在でしょうか。
 シンジケート団(シ団)のメンバーとは、日本の金融機関のほぼ全部だと思っても間違
 いはありません。生損保、都銀、信託銀行や地銀、それに外銀の在日支店に、日系、外
 資系を含めた各証券会社、ほかには長信銀や労銀、信金、農林系など、合計二千社近く
 の金融機関ですからね。
・そういうところが、強制的に国債を買わされているわけです。十年債の発行額などは、
 その全体の二割がこのシ団が引き受けていて、各社が一定の比率で割り当てられます。
 競争入札をするのは発行総額の八割ですからね。
・クーポンとは、表面利率のことです。利付国債ですからね。要するに発行から満期まで
 の間、半年ごとに支払われる金利のことです。そもそも国債というのは、国がする借金
 の借用書みたいなものですから、クーポンというのは、国がその借金の利息を年利いく
 らで払おうと言っているかってことです。 

未達
・相場の原則はなにごとも需給関係が基本である。新発国債の発行量が多いということは、
 市場への債券の供給過多になり、それだけ買い手の意欲をそぐことになる。
・債券というのは、利回りが上がるほど価格が下落し、利回りが下がるほど価格が上がる。
 設定された表面金利が、実勢の市場金利より若干高めのほうが当然魅力的だが、逆に低
 いと価格が額面を割り込むことになり、買い手によっては買いやすくなる場合もある。
・実勢を離れてあまり低めのクーポン設定をされると、市場に失望感が出て応札が消極的
 になり、順調な消化ができなくなります。大量発行をひかえて、最近は財務省のほうも
 クーポン設定には慎重になってきました。
・金融機関の業務には、すべてダブル:チェックのシステムが採用されている。入力する
 人間と、それを再度チェックする人間は同一の人間であってはならなのである。そうや
 って、人間のあやふやな目による見間違いを最大限防ぐ仕組みになっているのだ。さら
 に、端末機の入力のチェックは、決して画面上では行わないことになっている。必ず紙
 の上にプリント・アウトし、その習字を入力指示書とつきあわせることが義務づけられ
 ている。

財務省理財局国債課
・この国の資金調達は薄氷の上に成り立っているんだ。いつその氷が割れても不思議では
 ない。
・歳入不足を補うために、この国が安易に選んだ国債大量増発という手段。発行市場や発
 行機構の改善はそれなりに進んではきたが、国際への依存度は高まる一方だ。年ごとに
 増加の一途をたどる大量発行も、これまではなんとか無事に消化できている。そんな現
 状に甘んじて、この国の危機的な財政をいかに建て直すかという根本的な議論について
 は、いつまでたっても進展がない。
・一方では市場に頼りきっていながら、もう一方では市場を支配下に置きたがる。そして
 最悪なのは、そんなこの国の矛盾に、業者も投資家もみんな尻尾を振って付き合ってい
 ることだ。
・未達の波紋は、際限なくひろがりを見せていた。日本という国の資金調達に発生したト
 ラブルが、私企業の資金調達を困難にし、ひいては金融業界全体の資金調達問題まで波
 及している。短期資金調達にかたよりすぎたこの国全体の弱点が、最悪のシナリオの前
 に露呈したかたちとなった。
・日本が破綻する。人々の連想のなかに生まれたその発想が、市場参加者らの不安心理を
 煽り、さらに大きな売りを呼んだのである。国債の順調な発行と消化が、この国の健
 全な経済をいかに支えてきたかを、いまさらながら考えさせられる
・だいたい日本人というのは、金利の上昇に関して鈍感なんですよ。アメリカ人なんかと
 違って、個人の金融資産をいっぱい抱えた貯蓄型の民族ですからね。鈍感というより、
 むしろ金利が上昇するのを歓迎するぐらいでしょう。なんといっても、利子生活者には
 ありがたいことですから。
・国債市場が値崩れしても、その分金利が上げれば、預貯金の利息収入が増えるだろうと
 いう発想も、ちょっと怖いものがあますが、まあ、日本の国債入札がたった一回ぐらい
 失敗しに終わったからといって、日本が即座に潰れるわけではないですから。
・世界一の借金王だなんて嬉しそうに言っていた首相もいたぐらいですからね。言ってみ
 れば、これまで続けてきた自転車操業が、ついにまわっていかなくなり始めた。会社で
 言えば倒産間近ということですかね。
・まだまだ、これからもっといっぱい出てきますよ。ここ数年間続いたデフレ不況で、超
 低金利に慣れきっていましたからね。金利の上昇に対してはみんな無防備です。民間セ
 クターはこれまでかなりのリストラを敢行して、ようやく体力を取り戻しかけていたの
 ですが、その矢先の国債暴落ですからね。生保も危ないところがありますし、商社は潰
 れるところも一社ぐらいでは済むわけありませんしね。流通もデパート関係もそうだし、
 それに地銀が何行かまとめて、一気にいってしまうでしょうしね。信託銀行だって、内
 側では資金調達でいまごろ四苦八苦しているところがありますから、それに、そうなる
 と次は連鎖倒産が起きないわけがない。そうやって中小企業にまで来る頃には、もう日
 本中がボロボロでしょうしね。 
・日本の国債の先物が売られただけでなくて、アメリカの国債まで暴落しましたよ。
 なんといってもアメリカは最大の債務国ですからね。国が勝っているというだけでなく、
 日本の投資家たちもずいぶん買って保有していますからね。つまりはわが国が彼らの借
 金を肩代わりしてやっているわけです。要するに、金の貸し手である日本が危ないとな
 れば、きっとこれまで保有してきたアメリカの国債は、もうこれ以上持っていられなく
 て、売るに違いないと発想するんですよ。
・アメリカの国債も売られて、その結果金利が上がり、金利が上がると、当然資金の調達
 コストが上がるので、その影響で今度はニューヨーク株まで昨日は急落しました。株が
 売られると、次はアメリカの市場自体に不安感が出てきて、通貨も売られ、やっぱりア
 メリカもいわゆるトリブル安というわけです。
 
怪文書
・シ団のメンバーが、いや、国債市場に関わる業者たちのすべてが、従順に当局の条件を
 鵜呑みにしていてくれたからこそ、昨日まで順調に進んで来られただけだ。言うなれば
 彼らの忍耐の上に、大過なく、それゆえ改革もなく、今日まで来た。そしてそのことは、
 両者にとって不幸なことであり、ことなかれ主義という名の怠慢が生んだ歴史だった。
 税制の不備にしても、事務手続きの煩雑さにしても、市場参加者の伸び悩みにしても、
 なにひとつとして満足のいく改善がなされないままこのまま放置してきたのだ。そんな
 状態で問題なく消化できてきたということのほうがおかしいのに、誰も指摘すらしなか
 った。
・まるで薄氷の上に、それと知りながら立っていたようなものだ。いや、気づいていなが
 らその事実に目を背け、そのうち感覚が麻痺して座り込んでしまった。しかも、歳入不
 足をいいことに発行額を盲目的に増やし、氷の上に体重が増えていくままにまかせてい
 た。
・氷が割れて当然だった。割れなければ誰も気づかなかった。そして、気づいたときには
 もう遅かった。今回の市場のパニックは、これまでの当局の怠慢に対する当然のブーイ
 ングなのだ。 
 
首相官邸
・金融不安が起こり、資金調達が思うようにできなくなったところは、たとえ金利を上げ
 てでも資金調達に走る。いつも資金の出し手側だった地銀においても、金融不安が降り
 かかってくるため、資金を十分に保有していても、放出せず、抱え込む行動に出る。そ
 れが短期金利の上昇要因となるわけだ。
 
六十三銭の会
・この国の国債市場は化け物だ。発行量から言えば、これだけの供給過多ですからね。も
 うとっくに暴落して、8パーセントぐらいになってもおかしくないんだ。
・売っても売っても相場は下がらない。市場の条件からみると絶対崩れて当然なんだ。だ
 けど空売りをしかけると、かならず踏み上げにあう。こんな不可解なマーケットは世界
 中に存在しません。誰も信用しないですよ。
・国債が発行できないとなると、どうなります?当然、国債市場は大暴落。それを受けて
 為替市場もすぐに反応する。まずは円の暴落だね。もちろん日本株も急降下ですよね。
・なんとかしようとあがいても、誰も動かない。何も変わらない。日常生活の灰汁みない
 な、社会の澱みたいなものからみんな簡単には抜け出せないのですよね。正義なんて弱
 いものです。人間にとって、いちばん痛いものかもしれない。悪に立ち向かいたいと思
 ったら、自分が悪になるしかないのかな。
 
債券先物市場
・未達が起きた結果、この国の国債市場が暴落し、金利は高騰。株式市場がかつてないま
 での値崩れを起こし、為替市場が大混乱に陥った。その影響は世界中に飛び火し、ニュ
 ーヨーク株や欧州株までもかつてないまでに売られた。
・国が歳入不足を、ますます国債発行のワン・パターンに依存しすぎるようになっている
 ことも、感じないわけではない。だが、死守しなければならない責務は、決められた額
 の国債発行を、なんとかうまく配分し、市場で消化させることだ。
・当局が市場を力で管理しようとするから無理が生じるのだと思います。業者の健全な競
 争に委ねれば、必ず自然な秩序を生むはずです。業者の得になるように考えてやれば、
 彼らだって動きます。かえって、賢く管理できる結果になるはずです。
・この国の無計画な歳出増加や、それによる歳入不足が、あまりに簡単に国債の発行に依
 存している。
・国債は、国の借金です。その借金をわれわれ国民が担わなくて、誰に担わせるのです。
 この国を一番心配しているのは、この国に住んでいて、これからもずっと住み続けなけ
 ればならない国民でしょう。その国民が、この国の借金に強力できないとしたら、そこ
 にこそ問題があると思います。  
・この国の国債市場は化け物だ。これだけ乱発される国債の発行量がありながら、なぜ価
 格は下がらない?金利はどうして正常に反応して上がらないのか?この国独特の未整備
 な税制や決済制度が、これだけ海外からの買いを制限し、発行量のほぼ全額を日本人だ
 けで消化しているという現状を適切に認識させ、その理不尽なまでのシステムと、それ
 を放置している怠惰な金融当局に、早急に改革の必要性をはっきりと自覚させなければ
 ならない。
・この世で我が身に起きるどんな事も、ひとつとして無駄なものはない。自己険悪に陥り、
 無力感にさいなやなされた日々のなかでも、光は必ず自分のためにも用意されていた。
・日本国債の発行が、日本が将来に先送りするツケなのだとしたら、そのツケを払わされ
 るのは、次代の日本を担ういまの子供たちである。その子どもたちのためにも、この国
 の国債市場を見据え、行く末を見届けていかなければならないのだ。