人類が絶滅する6のシナリオ  :フレッド・グテル

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人類は、このまま未来永劫この地球上に存在し続けるのだろうか。それとも、いつの時点
かで滅亡してしまうのだろうか。そんな遠い未来のことを考えたって、しかたがないだろ
う。それよりも今をどう生きるかが問題だ、と言う人もいるだろう。しかし、果たして、
それはそんなに遠い未来のことなのだろうか。もしかしたら、我々がまったく知らないと
ころで、着実にその危機は迫っているかもしれない。もしかしたら、政府はすでにそれを
知っているのに、パニックを恐れて、国民には知らせないようにしているだけかもしれな
い。
例えば、米国のNASAが、数ヶ月後に巨大な隕石が地球に衝突するということがわかっ
たとき、果たしてそれを公表するだろうか。それによって人類が絶滅することが避けられ
ないことが明らかになのに、それをあえて公表する必要があるのだろうか。自分だったら
公表してほしいのか。それとも、そんな事実には耐えられないので、公表してほしくない
のか。それぞれ人によって、考え方は違ってくるのではないかと思う。

この本は、人類が絶滅するとしたら、どんな理由で絶滅するのだろうかを考察した本であ
る。この本では人類絶滅6つのシナリオが考えられている。どれも起こりそうなものばか
りである。この人類絶滅6つのシナリオを、私は2つに分類できるのではないかと感じた。
それは、「自然のしわざ」によるものと「人間のしわざ」によるものの2つだ。「自然の
しわざ」によるものには、地球への巨大隕石の衝突や巨大火山の大噴火、地球の誕生から
今までの長い歴史の間に幾度となく繰り返されてきた周期的な地球環境の変動などが入る
だろう。そして「人間のしわざ」によるものには、全面核戦争やバイオテロ、人間活動に
よる環境破壊、人口爆発、AIの暴走などがあげられるのではないかと思う。
「自然のしわざ」によるものは、人間にはどうしようもないものだ。しかし、可能性とし
ては、「人間のしわざ」によるものよりはずっと低いのではないかと思える。問題は、
「人間のしわざ」によるものだ。これは、避けようと思えば避けられる問題なのだ。しか
し、これは簡単な問題ではないことも確かだ。これらの問題の根源は、すべて人間の「欲」
からきている。もっと他を支配したい。もっと豊かになりたい。もっと楽をしたい。もっ
と知りたい。そういう人間の欲望が科学技術を発展させてきた。その科学技術がよい方面
に利用されているうちは、いいのだが、中にはそれを悪用する人間も必ず出てくる。核兵
器やバイオ兵器などはそれに当たるだろう。あるいは、もっと楽をしたいとAI技術に過
度に依存すれば、人間が自分で判断することをしなくなり、すべてAIに判断を委ねてし
まう。そうなれば、最終的には、人間がAIに支配されてしまうことになるだろう。
人間の活動による地球の環境破壊も深刻だ。人間がこのまま二酸化炭素を放出し続ければ、
地球の気温がますます上昇を続け、地球の気候が変化するとともに、グリーランドをはじ
南極や北極の氷河が解け、海水面が6メートル以上に上昇するだろう。そうなれば、東京を
はじめとする主な都市は海水面の下に沈むことになる。
しかし、二酸化炭素の排出による気温上昇を認めたくない人たちも数多くいる。それは、
二酸化炭素の排出を制限することは、経済活動に大きなマイナスとなるからだ。それによ
って不利益を被る人たちは、直近の自分の利益が最優先であり、未来のことには関心が向
かない。「二酸化炭素の排出によって気温が上昇するというのはまやかしだ」という説に
すがりつく。ほんとは、心の中では、まずいかもと思っていても、自分が生きている間だ
けなんとかなればいいのだ、あとは知らない、と自分の良心を抑え込んでしまう。

人口爆発も深刻だ。この地球に住める人口の最適地は20憶人程度と言われる。しかし、
今や世界の人口は80億人近くに達し、これからもますます増加する予想だ。そんなたく
さんの人間がこの地球で生きるのはとても無理なのだ。日本の場合を考えても、この小さ
な島に1憶人以上が住んでいるが、こんなに人口が増えたのは、終戦後に異常に人口が増
えたからだ。明治初期には4千万人に満たなかった。日本の面積を考えると5,6千万人
あたりが適正な人口ではないのかと思える。今、少子化とか人口減少とか騒いでいるが、
適正な人口に戻りつつあるとも考えられるのではないか。人口減少過度期の時代はたいへ
んだが、戦後に増えた年代がいなくなった時代には、ふたたび日本は豊かな国に戻れる可
能性もあるのではないかとも思える。

このようにいろいろ考えていくと、やはり人類は、未来永劫、この地球上に存在しつづら
れるという可能性は低いような気がする。唯一、人類が生き延びる可能性があるとすれば、
やはり人類がこの地球の外で出ていくことだろう。人類が新天地を求めて、月や火星へ進
出するようになれば、そのことによって、新たな科学技術も生まれるだろう。新たな思想
も生まれるだろう。地球のこの環境がいかに貴重なものかも身に沁みてわかるのではない
だろうか。
人間同士が殺し合いをすることが、いかにばかげたことかもわかってくるかもしれない。
宇宙開発というと、今は、そんな無駄なことをやるよりも、もっと先にやることがたくさ
んあるだろう、という声も多いと思うが、人類が生き延びるためには、やはり、ぜひやら
なければならないことなのだと私はこの本を読んで感じた。

はじめに
・SARSは新型肺炎とも言われる致死率の高い感染症で、短期間で中国から他国へも拡
 大したため、一時、大きな恐怖を引き起こした。ただ、SARSの勢いは間もなく衰え
 た。その後の数年間でわかったことは、本当に怖いのは鳥インフルエンザだということ
 だ。
・鳥インフルエンザのウイルスはその時点では人間にとって大きな脅威とはなっていなか
 ったが、いつそうならないとも限らないと考えた。人間への感染が広がり、大流行すれ
 ば、恐ろしい事態になりかねなかった。鳥インフルエンザウイルスにほんの少し突然変
 異が起これば、鳥からヒト、さらにヒトからヒトへの感染も可能になるかもしれない。
 空気中に飛び散った少量の唾液から感染するようなウイルスが生まれることもあり得る
 いヒトのインフルエンザが誕生し数日で世界全体に広がるかもしれない。致死率が60
 パーセントのインフルエンザであれば、大流行すれば破滅的な結果になることは間違い
 ない。
・交通機関の発達により、人や動物や物が短時間のうちに世界中を移動するようになった
 ことは、速い感染の広がりを助ける。インフルエンザウイルスは今や、人類を脅かす存
 在となっているが、実はそれは、科学技術が発達し、人類の地球上での影響力が増した
 せいでもあるのだ。
・人類は半世紀にもわたり、核戦争の恐怖に怯えながら生きてきた。一度、核戦争が起き
 れば、悲惨な結果を招くことがわかっていたからだ。放射性物質が世界中にまき散らさ
 れる上、埃や塵が空高く舞い上がり、日光が遮られれば、急激に気温が低下することに
 なる。そうなれば、人類はもはや長くは生きられないだろう。6500万年前、地球に
 隕石が衝突したことで絶滅したとされる恐竜と同様の運命をたどるわけだ。冷戦終結後
 は、核戦争による人類滅亡を危惧する人は少なくなったが、核兵器が危険で、人類の生
 存を脅かすものであることは今も変わっていない。核ミサイルは今もなくなってはいな
 いのだ。
・冷戦終結後は、核戦争以外の危険も急激に高まっている。現代の私たちが恐れるべきな
 のは、軍事的な科学技術だけではない。民生用の科学技術も脅威になり得る時代である。
 便利で有用な技術の背後には、大きな危険が隠れている。
・人口が増え、居住地域が広がったことで、人間は以前よりも多くの生物と密に接触する
 ようになった。そのせいで、新たな病気にかかる危険性も高まってしまった。病原体と
 なる細菌やウイルスなどに、新たに広大な生息域を与えたとも言える。
・21世紀型の、まったく新しい感染症が広く蔓延する日がいつ来ても不思議はない。
 14世紀の黒死病は、ヨーロッパの人口の3分の1を奪ったが、同じくらいの致死率、
 感染力の感染症が今、発生すれば、もっと速く、広い範囲に影響が拡大するはずである。
・生命の仕組みについての研究成果が悪用される危険もある。分子の操作によって思いど
 おりの生物を合成する技術も発達している。当初は充実した設備を持つごく一部の専門
 家だけが使える技術だったが、費用も難易度も下がったために、徐々に多くの人に開放
 され始めている。人類を滅ぼしかねない技術を、ごく普通の人が手にできる時代が近づ
 いているわけだ。 
・機械の脅威も無視できない。私たちが日常生活で利用する機会は、すでに複雑すぎ、大
 半の人にとって理解不能なものになっている。インターネットは今では世界経済を支え
 る背骨のようになっている。私たちの生活だけでなく、生命までもが委ねられていると
 言っていい。今後、人間のように考え、行動する新世代の機械が誕生するようなことが
 あれば事情は変わってくるが、当面、インターネットへの依存は高まる一方だろう。
・科学者、技術者という人種は一般的に、楽観的な考え方をする。彼らは、自分たちが研
 究、開発するものを愛しており、それについて楽しそうに話すのが常だ。しかし、中に
 はそうでない人もいる。科学や技術の暗い面について公然と語る人もいるのだ。気候変
 動や生物兵器に関して盛んに警告を発してる人たちであっても、その態度は普通、前向
 きであり、どうすれば被害が食い止められるか、悲惨な事態の到来をどうすれば防げる
 のか、ということを主に話す。人類にはこんなにひどい未来が待っているのだ、という
 ことばかりを話したがる人は少ない。
・中でも最も恐ろしいのは、科学技術の発達によって、あるいは人類が地球を支配した結
 果として生み出される怪物である。もちろん、過去に類を見ないほどの規模で火山が爆
 発する、巨大隕石が衝突する、太陽が超新星爆発を起こす、といったことが起きればそ
 の方がはるかに恐ろしいが、どれも起こる確率は低い。
・未来を正確に予測することは誰にもできないだろう。しかし、何が起きるかを予測する
 のではなく、「最悪の場合、何が起き得るか」」を考えてみる、ということは良いこと
 だと私は思う。     
・私の父が生まれた1924年、世界の人口は20憶人ほどだった。私が生まれる頃にな
 り、その数字は50パーセント増えて30億人になり、私の娘が生まれた頃には、55
 憶人になっていた。人口は加速度的に増加してきたわけだが、このまま永遠に増え続け
 ることはできない。 
・人類は地球に手を加え続けることで限界を超え、急速に数を増やしてきた。しかし、こ
 のまま増え続ければ、いつか破綻の時は来るはずだ。では、その時はどのように訪れる
 か、何が破綻の直接の原因になるのか。 
・最悪のことを想定する一方で、私たちには楽観的な態度も必要だ。楽観的であるという
 ことは、確かに一面では感情の問題ではある。性格的に元来、楽観的な人とそうでない
 人がいるのも事実だ。しかし、真に楽観的であるためには、論理的な思考も必要になる。
 なぜ、私たちは危機を回避できるのか、その根拠を明確に示せなくては、楽観的になど
 なれない。 
・私たちは科学技術という翼に乗って、ここまで上がってきたのだ。今さら下へ降りると
 いうのは非常に辛い選択だろう。とはいえ、科学技術が人類滅亡の原因となり得るとい
 うのも否定できないので、これはジレンマという他はない。
  
世界を滅ぼすスーパーウイルス
・エボラウイルスは、アフリカで発見された致死的なウイルスである。少なくとも、これ
 より不気味なウイルスはないだろうと思われる。ヒトの細胞膜を突き抜けて中に侵入し、
 その生化学的機構を乗っ取ってしまう、という点では、他のウイルスと同じだ。乗っ取
 られた細胞は、次々と新たなエボラウイルスを作り出す小さな工場のようになってしま
 う。ヒトのウイルスの多くは、身体の一部だけが感染する。しかし、エボラウイルスは
 あらゆる種類の細胞を攻撃する。明確な制限なしにいくらでも増殖していくのである。
・エボラウイルスは毒性が非常に強く、感染すると宿主の細胞の構造に影響を及ぼす。細
 胞膜が溶けていくのだ。つまり、その細胞から構成される組織も壊れていくことになる。
 感染者の致死率は90パーセントにも達する。消化管からも大量に出血し、細胞膜も組
 織も最後にはゼラチンのようになってしまう。 
・中国で中産階級に属する人が増え、皆が豊かになるにつれ、食肉への需要も高まってい
 る。畜産農場の規模は拡大し、工場のようになってきている。これは、新たなウイルス
 が生まれる場所も同時に拡大しているということだ。農場が大きくなればなるほど、遺
 伝子のシャッフルや突然変異により、人間に大きな損害を与えるウイルスが生まれる可
 能性が高まる。 
・ウイルスに関する限り、医療技術は過去一世紀の間、ほとんど進歩していないと言える。
 確かにインフルエンザウイルスの遺伝機構を観測することに成功したし、新型ウイルス
 の人工合成もできるようになっている。だが、個々のウイルスがどのようにふるまうの
 かは、実際に観測するまで予測できない。何よりも重要なことは、ウイルス感染症が突
 然、蔓延し始めても、それを即座に止める方法がどこにも存在しないということである。
・生物学は近年、急速に進歩したにもかかわらず、インフルエンザワクチンの製造方法は、
 その進歩から完全に取り残されている。ワクチンを作るには、まずインフルエンザウイ
 ルスを鶏卵の中で増殖させなくてはならない。これには手間と時間がかかる。新たなワ
 クチンを十分な量、生成するためには、数ヶ月という時間が必要になるのだ。したがっ
 て、突然、流行が始まっても、とても即応はできないのである。現在のところ、ワクチ
 ンを短時間で生成することはできない。
・そのため、インフルエンザウイルスはたとえ致死率が100パーセントでなくても、破
 滅的な被害をもたらす。90パーセントの致死率であっても、ほとんど対応できないま
 ま被害が広がっていくことには変わりはないのだ。仮に、60パーセントのインフルエ
 ンザウイルスであっても前触れなしに人間を襲ったとしたら、何百万という人が亡くな
 るに違いない。医師はそれを止めるための手立てを持っていない。流行がいったん始ま
 ったら終わりである。  
・私たちの周りには、鳥の中で生きるインフルエンザウイルスが数多く存在し、それが常
 に我々にとって脅威となっていることがわかってきた。そして、その脅威を完全になく
 せる可能性は、ほぼゼロだということもわかっている。
・ウイルスにとって、特にインフルエンザウイルスにとって、この世界が過去数十年の間
 に大きく変化したと感じている。それも、インフルエンザウイルスにとって都合の良い
 変化が起きているという。一つはアジアにおける畜産農家の増加だ。
・今のところわかっていることは、進化が「日和見主義」であるということ、そして、新
 たなニッチ(生態学的地位)が生じれば、いずれはそれに合う新たなウイルスが生まれ、
 それに伴う新たな病気が生じるということだ。新たなニッチに合うウイルスがどういう
 ものになるかはまったく予測がつかない。これまでに類を見ないほど致死率が高く、世
 界中の人間を殺すようなものになる可能性はあるが、どういうニッチでそれが生じるか
 を事前に知ることはできないのだ。
・致死性の高い鳥インフルエンザがヒトのインフルエンザに変わり、多くの人を殺したか
 もしれない、「危機一髪」の状況が何度かあった。その最初の例は、1997年5月の
 ものである。香港で三歳の男の子が高熱を出し、病院の集中治療室に入れられたが、さ
 らに病状は悪くなり、結局、12日後、多臓器不全で男の子は亡くなってしまった。そ
 の時点では、男の子が死亡してから約三ヶ月が経過していたため、ウイルスと患者との
 関係がわかりにくくなっていた。わかったのは、ウイルスがニワトリに由来するもので、
 ヒトからヒトへの感染能力は持っていなかったということだ。これは本当に幸運なこと
 だった。
・鳥インフルエンザが外に広がらないように常に警戒していたが、それでも2003年末
 の大流行を予見することはできなかった。東南アジア全体で何十万羽という数のニワト
 リが殺処分になった。2004年には、少なくとも44人が鳥インフルエンザに感染し、
 うち32人が亡くなっている。2003年末から2005年夏までの間に、WHOに報
 告があっただけで、人間の鳥インフルエンザへの感染例は合計で112件あり、そのう
 ち57人が死亡した。心配したのは、その中にヒトからヒトへの最初の感染例も含まれ
 ていたということだ。 
・これでわかったのは、たった一度の突然変異によって、恐ろしいウイルスが生まれるこ
 とがあり得る、ということだ。その可能性を秘めたウイルスは数多く存在している。世
 界中の無数の鳥がそれを持っているのである。人類に壊滅的な被害をもたらすインフル
 エンザウイルスが生じる可能性は決して低くはない。 
・ウイルスというのは、前触れもなく、どこからともなく現れる。どこにいつ現れるかは
 予測しようがない。だから、その存在をわかる頃には、もう流行は大きく広がってしま
 っている。 
・世界のインフルエンザウイルス監視網は高度に組織化、自動化されていると思っている
 人が多いかもしれない。すべてを指揮統制する施設がどこかにあって、どんな僻地にい
 る医師からでも、即座にそこへ情報が流れてくる、そういうイメージを抱いている人も
 いるのではなかろうか。しかし、現実にはそうではない。
・1918年のスペイン風邪は恐ろしいものだった。ウイルスは、2年に満たない期間に
 世界中に広がり、多くの人の命を奪った。現在のように飛行機で世界を旅できる時代で
 はなかったにもかかわらず、5千万人とも1憶とも言われる数の死者が出た。世界の人
 口をすべて合わせて16億人という時代の話である。現在の世界の総人口は70憶人を
 超えているので、単純計算すれば、同様のインフルエンザウイルスがりゅうこうすれば
 1憶8千マン人から3憶7千万人もの死者が出ることになる。
・インフルエンザウイルスの感染が最も広がりやすいのは学校である。つまり、すぐに学
 校を閉鎖しなければ、感染を助けることになる。問題は閉鎖させる範囲だ。その決断は
 政治家の仕事になる。   
・私たちがこれから備えるべきは、国民のパニックです。病院のベッドや人口呼吸器は足
 りなくなり、医療従事者も不足するでしょう。そうして、大勢の人たちが亡くなります。
・アメリカ国防省(ペンタゴン)などはそれぞれに、最悪の惨事が起きた場合の行動計画
 を記した文書を持っている。致死的なインフルエンザウイルスが大流行した場合の対応
 についても、概要が定められている。その中では、急激に患者が増えた場合の、地域の
 病院の受け入れ能力の推定も行われている。ベッドはおよそ何台使えるか、すでに入院
 している患者を帰宅させる、緊急性のない手術を延期するなどの方法で、どのくらいの
 数のベッドを空けられるか、といったことも推定されているのだ。
・人口呼吸器は、重症のインフルエンザ患者への緊急対応には欠かせない。これがないと、
 肺に水がたまった患者は呼吸を続けられなくなってしまう。だが、1918年と同様の
 流行が起き、短期間に大量の患者が出れば、人口呼吸器は非常に貴重になるだろう。各
 病院は自由に使えず、順番を待たなければならない事態に陥るはずだ。多くの病院では、
 患者の肺に水がたまっていくのを何もせずにみているしかないということである。
・大半の病院は、普段から3分の2のベッドが埋まった状態になっている。インフルエン
 ザが流行して、国民の1パーセントほどが罹患すれば、それだけで、空いているベッド
 はすぐに埋まることになる。人口の10パーセントが一度に緊急治療室に運ばれてきた
 としたら、まさに地獄のような状態になってしまうだろう。
・地元の病院に受け入れる余裕がないからと近隣の街の病院を探しても無駄である。おそ
 らく他のどの街でも同じように対応能力を超える患者が出ているからだ。インフルエン
 ザがあらゆる地域で一斉に流行した場合には逃げ場がない。
・十分な医療を受けられずに他へ移動する「医療難民」が多く出ることで、暖房用の燃料、
 食糧、医療用品などが各地で不足するようになる。ウイルスへの感染を恐れ、誰もが人
 の集まる場所を避ける。会社を長期欠勤する人が増えたことで、あらゆるビジネスに影
 響が及ぶ。発電所の保守作業員の不足により、停電も頻発する。
・基礎的に食糧や、医療用品などの流通、死亡者の遺体の埋葬などは、軍の兵士が担うよ
 うになるだろう。 
・現代の社会で致死率の極めて高い感染症が大流行したとしたら、果たしてどういう結果
 がもたらされるのか、想像することは難しい。それはアルマゲドンの到来のように思え
 るはずだ。
・インフルエンザウイルスには現在、過去の時代とは大きく違った可能性が与えられてい
 る。以前ならあり得なかった大きな被害を人類にもたらす可能性を秘めているのだ。そ
 ういう時代になってからまだそう時間は経っていない。ウイルスの可能性は、宿主とな
 る生物の生き方に大きく影響される。 
・14世紀のペストのような感染症の流行が今、起きれば、全世界で20憶人の命が奪わ
 れるという。とても恐ろしいことだが、それは起き得る最悪のこと、とは言えない。も
 っとひどいことが起きても不思議はないからだ。
・多くの人が言っているとおり、21世紀の人間の文明は、14世紀や20世紀前半とは、
 質的に全く異なったものになっている。現代の人類は、いくつかの意味で限界に近づい
 ている、という意見もある。天然資源は近い将来、使い尽くしてしまう。生息域は世界
 各地に広がり、これ以上は広げようがない。文明の発達とともに生態系への影響が大き
 くなった。これからは積極的に管理しないと生態系を破壊してしまうが、あまりに複雑
 なため管理は非常に困難である。私たち人類は、現在、「滅亡の縁」に立たされている
 のかもしれない。そう信じる科学者は大勢いる。
・ホモ・サピエンスという種が生まれて以来、一度も体験したことがない、そして一度だ
 けしか体験できない出来事が近い将来起きるかもしれない。
  
繰り返される大量絶滅
・地球上の生命はいずれも他の生命とつながっている。多くの生命と相互依存の関係にあ
 る。どの生物とどの生物がどのようにつながっているのかをすべて知っている人はいな
 い。
・動植物、昆虫、菌類、細菌などのすべてが、他のあらゆる生物と何らかのかたちでつな
 がり、互いに依存し合っているはずだ。しかも、そこに天候や気候などの要素が加わり、
 海からの影響もある。 
・現在、地球上の生物の種がどれだけ存在するのか、それは誰にもわからない。これまで
 にすでに命名されたものだけで130万種から180万種の間だが、総数は360万種
 くらいとする人もいれば、1千万種を超えるとする人もいる。
・数百万年前には、ヒト科の生物が3種類か4種類いたが、最後にいわゆる「ネアンデル
 タール人」と、現生人類である「ホモ・サピエンス」だけが残り、ネアンデルタール人
 は数万年前に絶滅してしまった。今はホモ・サピエンスだけが生き残っている。
・現在に生きる私たちの大半は、ダーウィン後の生物観を持っている。生物の種は不変の
 ものでなく、絶えず姿を変え続けているという生物観である。新たな生物が現れる一方
 で、古い生物が滅びていく。生物は、地球上でも最も変化しやすいものと言っていいだ
 ろう。周囲から何らか圧力がかかれば、それによって容易に変わることになる。   
・環境の変化は時に、一斉に起こることがある。あまりに急速すぎ、生物がそれについて
 いけないこともある。生物学者の中には、今こそまさにそういう時だと考える人が多い。
 人間が地球の環境を急激に変えているため、多くの生物種がそれについていけなくなっ
 ているということだ。このままの状況が続けば、近い将来、突然に生物の大量絶滅が起
 きるのではないかと危惧している。多くの生物が連鎖的に絶滅していくということであ
 る。すべての生物は、他の多くの生物と複雑な相互依存の関係にあるから、一つの種が
 滅びると、それに伴って滅びる種も多くあるわけだ。
・黒板の文字をすべて消して、最初から書き直すようなことを自然がすることもある。そ
 れは、地球に生命が誕生した約40憶年前から現在までの間に、少なくとも5回は起き
 たことだ。 
・何十億年も前ならば、恐竜を滅ぼしたような隕石の衝突は珍しい出来事ではなかっただ
 ろう。太陽系には今よりもはるかに多くの小惑星が存在し、それが頻繁に地球に衝突し
 ていたと考えられるからだ。だが、時が経つにつれ、その頻度は下がり、生命には進化
 のための十分な時間が与えられるようになった。それで複雑な生物も現れるようになっ
 たのである。6500万年前の太陽系には、ほとんど大きな天体は残っていなかっただろ
 う。すでに集まって大きな惑星になっていたはずだからだ。恐竜を滅ぼした隕石は希少
 な存在になっていた。だからこそ、大惨事を招いたということである。  
・恐竜を大量絶滅は「KT絶滅」と呼ばれている。このKT絶滅について調べると、この
 地球には本当にとんでもないことが起こり得るのだということがよくわかる。KT絶滅
 は、時代が現代に最も近いだけに調査も進んでおり、具体的に何が起きたのか、まるで
 見て来たかのように詳しく話すこともできる。
・KT絶滅を引き起こした隕石は、直径が15キロメートルほどのもある非常に大きなも
 のだった。小惑星か彗星だったのだろうと思われている。これが地球に衝突すると、1
 憶メガトンもの力がかかることになる。広島に落とされた原爆の約1憶倍の威力だ。衝
 突によってできたクレーターは、幅約180キロメートルという巨大なものである。
・そのクレーターは、1970年代にユカタン半島で発見されている。元々は油田を探す
 ための調査中に偶然見つけたもので、KT絶滅の際の隕石の衝突跡であることが確認さ
 れたのは、かなりの年月が経ってからのことである。
・隕石が地球に衝突した時の衝撃は大変なものだっただろう。近づいてくる時には、数週
 間前から空に非常に明るい星として輝いていたはずだ。現代でれば、遅くともその時点
 でNASAの科学者たちが私たちに警告を発し始め、軌道を計算して地球にぶつかるの
 か、ぶつかるとすればどこかを予測するだろう。
・運河良ければ、衝突の数ヶ月前にNASAの誰かが地球に向かってくる小惑星の存在に
 気づく可能性はある。数ヶ月前ならば、核弾頭を積んだミサイルを発射して隕石を粉々
 に破壊するチャンスはあるだろう。小さく砕かれれば、地上に落下したとしても害はな
 い。破壊はできなくても、飛ぶコースを変えて地球にぶつからないようにはできるかも
 しれない。  
・6500万年前の隕石衝突では、森林火災による煙と、衝突時に舞い上がった塵が地球
 全体に広がり、太陽光線が遮られて昼間も薄暗くなったに違いない。   
・大規模な核爆発の後、地球とその上に暮らす生物にどれほど恐ろしいことが起こるか。
 気温が急激に低下することで、植物の多くが死滅し、食料が不足するといった点では、
 恐竜を襲った悪夢と共通している。ただ、一つ大きな違いがある。核の冬には、大量の
 放射線が関わってくるということだ。
・ユカタン半島のチクシュループ・クレーターを作った隕石の衝突は、何年もの間、太陽
 光線の大部分が遮断されることにより、影響は10年以上残っただろう。地球のオゾン
 層はほとんどなくなり、紫外線は大気を突き抜けて地表にまで到達するようになったは
 ずだ。たった5分浴びただけで真っ黒に日焼けをするほどだ。数時間浴び続ければ、皮
 膚が火傷をしてしまう。酸性雨は植物を傷めつけることになる。その状況下で生き残れ
 たものは、生物の中でも特にたくましいものだけだっただろう。科学者の推定では、そ
 の時、すべての生物種の約半分が絶滅したとされる。生物の環は大きく破壊されること
 になったわけだ。  
・同様のことが現代に起きたとしたら、被害がとれほどのものになるか、創造することも
 難しい。森林火災やエアロゾル汚染、オゾン層の消失などがどういう事態を引き起こす
 かは、まったくわからない。ただ、農作物はおそらく死滅するので、飢饉が起きる。隕
 石衝突自体では死なずに生き延びた人も、飢えや紫外線による火傷で命を落とすに違い
 ない。世界はまさに地獄のような様相になる。
・隕石の衝突は確かに恐ろしいが、それは原因が地球の外にある災厄である。起きるかも
 しれないし、起きないかもしれない。そして、実際、巨大な隕石が地球に向かってきた
 としたら、なすすべはないだろう。今のところ、核ミサイルで破壊するなどの対策が成
 功する可能性はまずないと思われる。  
・恐竜の絶滅は研究テーマとしては興味深いし、人類滅亡のシナリオを考える上で一応の
 ヒントにはなる。だが、実は、よりヒントになるのは、それ以前の3度の大量絶滅なの
 だ。2億5200万年前、6憶年前、24憶年前に起きた大量絶滅である。これらの時
 代に存在した生物は、現代の普通の人から見てあまり面白いものではない。ただ、重要
 なのは、大量絶滅の起きた原因だ。私たちも、どうやら、よく似た原因で滅ぶ危険性が
 高いからだ。過去には、微生物が引鉄を引いた大量絶滅も起きたと言われている。微生
 物の影響で、地球上で起きる化学反応に変化が起きたことが原因だという。現代の人類
 も今、まさに同じような変化を地球にもたらしている。
・2億5200万年前、ペルム紀の大量絶滅は、現代知られている中で最大規模の大量説
 滅である。この時に存在した生物のうち、約90パーセントはペルム記末に突如、絶滅
 してしまったのだ。不十分な化石記録でも、ペルム紀の大量絶滅が長くても500万年
 から1000万年という期間に起きたことは明らかだ。これは地質学的には「一瞬」と
 言ってもいいほどの短期間である。 
・最近では、ペルム紀の大量絶滅の期間は20万年以内、というところまで狭められてい
 る。世界各地の大量の化石から得られる情報を総合するとそういうことになるのだ。 
・今から約2憶5000万年前、地球に果たして何が起きたのか、大量絶滅の発端として
 考えられるのは火山の大爆発だ。大爆発が起きた証拠は、現在、シベリアのステップ地
 帯となっている場所にある。地中に何層もの凝固した溶岩が残っているのだ。
・その噴火は、過去5億年の間に陸地で起きたものとしては最大だったと考えられる。噴
 火は約100万年間続き、流れ出た溶岩の量は現在の西ヨーロッパを覆い尽くすくらい
 にまでなった。その噴火の影響で世界の気候、気象が大きく変化し、それが多くの生物
 種を絶滅させた、ということは十分に考えられることだ。
・ただ、「多くの生物種」が絶滅したことは間違いなくても、「ほとんどすべての生物種」
 が同時に滅んだかどうかまではわからない。火山の噴火だけでは、ほとんどすべての生
 物種が絶滅する理由としては弱いだろう。ペルム紀の大量絶滅では、地球上の生物種の
 90パーセントが姿を消している。それほど大規模だろうと、火山の噴火だけでそれを
 成し遂げるのは無理だ。  
・現在でもシベリアには、世界最大とされる量の石炭が埋蔵されている。チェリャビンス
 ク盆地の埋蔵量は1750憶トンにもなるが、ペルム紀末の大噴火が始まるまではもっ
 と多かっただろう。噴火が始まると、流れ出た溶岩は石炭の埋蔵地にまで到達してしま
 った。溶岩の熱は多くの石炭を挑発させ、それによって大量のメタンガスや二酸化炭素
 が発生することになった。 
・ペルム紀末、シベリアの石炭が蒸発した際に発生したメタンガスや二酸化炭素の量は、
 急激な気象変動を引き起こすのに十分なものだったに違いない。地球全体で起きる化学
 反応をそれまでとは全く変えてしまったのだ。それは、現在、我々人類が起こしている
 変化に似ている。特に大気中のメタンガスによって、気温は短い間に大きく上昇しただ
 ろう。多くの生物種をあっという間に滅ぼすほどの気温上昇だ。数年経過しても、まだ
 水蒸気や二酸化炭素の影響は残る。温室効果の大きさはメダンガスほどではないが、何
 十年と大気に残って気候に影響を与え続けたはずである。
・地球上に起きた大量絶滅は、ペルム紀末のもの(PT絶滅)と白亜期末期のもの(KT
 絶滅)だけではない。地球、生命の歴史が始まって以来、大量絶滅は5回、あるいは6
 回起きていると考えられる。
・ペルム紀末の大量絶滅について知ると、現代の人類に対する警告のように思える。地球
 温暖化が大きな原因になっている可能性が高いからだ。現在も、人間の活動によって、
 大気中には大量の温室効果化ガスが放出されている。このままの状態が続けば、そう遠
 くない将来、同様の悲劇が訪れてしまう。私たち人類は、自らの力で環境を大きく変動
 させ、生物を地球から一掃してしまうかもしれない。もしそうなったとしたら、それは
 地球の歴史上で二度目の出来事ということになる。
・二度目、と書いたのは、他にもそういう生物が過去にいたからだ。それは「シアノバク
 テリア(藍藻)」という微生物だ。今から約24憶年前に現れたシアノバクテリアは、
 地球に大量の酸素を放出し、当時の多くの生物の命を危険にさらした。当時既に存在し
 た生物は、すべて嫌気性である。つまり、生きていくのに酸素は必要としない。しかも、
 酸素は彼らにとって毒になったのだ。
・今、私たち人類はシアノバクテリアと同様のことをしている。ただし、放出しているの
 は酸素ではなく二酸化炭素だ。二酸化炭素を大量に放出し、海や大気に蓄積させている。
 それにより、地球上で起きる化学反応以前とは変わってきているのである。いずれ私た
 ち自身を含め、多くの生物が一度に絶滅するかもしれない。
 
突然起こり得る気象変動
・ティッピングポイントとは、ゆっくりと予測可能な変化をしていたシステムが、突如、
 急激な予測外の変化を始める時点のことを言う。  
・地球の気象が、はじめのうちはゆるやかに変化するのだが、突如、急激に変化をし、瞬
 時にある状態から別の状態へと移行することがあり得る。これはあくまで推論であり、
 そうであるという確かな証拠があるわけではない。ただ、科学者の間では徐々に広く認
 められるようになってきている。もし、この考えが正しいとすれば、地球の気候はそう
 遠くない将来、急激に変化をし、今とはまったく別の状態に移行してしまう恐れがある。
 その変化は、私たちの人類にとっては破滅につながる可能性が高い。そして、いったん
 変化が起きてしまえば、元に戻すことはほとんど不可能である。
・気候変動についてよく語られているが、その際、地球の気象を「動的システム」と捉え
 る視点が欠けていることが多い。地球の気候全体を一つのものとして捉え、その平均が
 どうなっているか、という話が主になされるからだ。地球の気候を動的システムだと捉
 えるとどうなるか。彼らは気候を全体で一つとは見ない。多数の部分の統計であると考
 える。どの部分もそれぞれに独自の特徴を備えている。すべての部分が他の部分と相互
 に依存し合い、影響し合っているので、次に何が起きるのか予測するのは非常に難しい。
 そう考えると、世界は、少し前には誰も考えなかったような滅び方をする恐れがあると
 わかる。 
・気温は大きく上下を繰り返している。しかも、気がかりなのは、上下どちらにしろ、常
 に一定の割合で変化するわけではないということだ。しばらくの間、徐々に変化してい
 るかと思えば、突然、急激に変わる。過去の10万年間の間でも、突然の温暖化、10
 年間で接し10度以上、温暖化したということが10回は起きているということが確認
 されている。10度くらい大したことはないと思うかもしれない。だが、平均気温10
 度の違いというのは、気候帯が変わってしまうほどのものだ。
・今から約1100年前にも、現在のメキシコなど中米地域で2世紀にわたって干ばつが
 続き、それが古代マヤ文明の滅亡の原因になったと考えられている。
・「地球温暖化」という言葉は、実は正確ではなく、誤解を招く言葉だろう。地球全体が
 一斉に同様に暖かくなるということではない。気候というのは、元来が地域的なもので
 ある。世界全体の気候がどうであるかを簡単に言うことはできない。確かに平均値を使
 った研究は多く行われているが、平均値は極端に単純化された数値である。平均値が大
 きく変化するとしても、それによってたとえば日々体験する気候がどう変わるかを知る
 こことはできないのだ。  
・サハラ砂漠は、サヘル地域の北にある広大な砂漠である。降水量は1年間で1インチ
 (約2.5センチメートル)にも満たない。南極大陸を除けば、世界最大の砂漠である。
 過去にはそうではなかった。砂の下を掘ると、カバなど大型動物の化石が出てくる。は
 るか南のサバンナと同じような動物が多くいたことがわかる。サハラ砂漠に由来する塵
 は、絶えず海底まで運ばれて堆積する。科学者たちがその海底の一部を掘削して調べた
 結果、現在のサハラ砂漠はかつて何千年もの間、豊かな熱帯雨林だったことがわかった。
 ところが、今から約5千年前、突然、雨が降らなくなり、砂漠に変わった。天候のパタ
 ーンがそれ以前とは急に変わったのである。
・サハラ砂漠が熱帯雨林だった頃に生きていた人々は、そこが急に砂漠に変わるとは、直
 前までまったく予想もしなかっただろう。事態は目に見えないところでゆっくりと進行
 していたはずなのだが、見かけ上の変化は、突如、劇的に起きた。この突然の変化は、
 地球の軌道の微妙な変化が原因で起きたと考えられている。地球軌道の変化自体は年々
 ゆっくりと進むものであり、予測不可能ではない。ただ、サハラ砂漠の地域では、その
 影響が突然、目に見えるようになったわけだ。
・北極海の氷は近年、徐々に薄くなっており、夏の後退も年々激しくなっている。このま
 までは、近い将来、夏には北極海から完全に氷が消滅する、ということになりかねない。
 このティッピングポイントはすでに到達しているかもしれない。だとすれば、状態の移
 行は、短期間のうちに完了する。わずかな期間で、北極の氷は夏には消滅するのが当た
 り前になり、やがて、北極は冬にも氷が張らなくなる恐れもある。もし、そんなことにな
 れば、波及効果はとてつもなく大きいだろう。
・まず、北極地域では温暖化が急速に進む。氷で覆われた海よりも、氷のない海の方が、
 太陽エネルギーを多く吸収するためだ。北極地域が温暖化すれば、グリーランドも当然、
 温暖化することになる。グリーンランドには、もしすべて溶けて海に放出されれば海水
 面を6メートル以上押し上げるほどの氷河がある。
・科学者たちは、今のところ、この大規模な氷河の融解に対応する有効な手立てを持って
 いない。それは、一つには融解が非常に速いからである。最近の観測では、気候モデル
 で予測されているよりも速いことがわかった。しかも、加速が始まっていることを示す
 証拠も見つかっている・グリーンランド沿岸地域の海では氷が著しく後退していること
 から、比較的暖かい海水が陸地内に入り込むことで、さらに氷河の融解が進んでいると
 いう。
・海水面の上昇に影響するのはグリーンランドの氷床だけではない。温暖化の進行による
 南極の氷の融解など、他の要因も考えなくては、実際にどのくらい上昇するかはわから
 ない。
・グリーランドに関しても、最悪の場合は、沿岸部のフィヨルドの上の氷床が解けても、
 融解が止まらないかもしれない。融解が止まらず、最終的には氷が全くない、というと
 ころまで進むのだ。そうなれば、グリーランドの影響で海水面は6,7メートル上昇す
 る。たとえそれが300年間を要したとしても、大災害には違いない。人類のあり方が
 根本的に変わってしまう。
・海岸線は年々、変わっていく。現在の低地はすべて海に沈むので放棄せざるを得ない。
 これには、ニューヨーク、ロサンゼルス、サンフランシスコ、ロンドン、東京、香港な
 どの都市、フロリダ州全域、インドシナ半島の大部分が含まれる。
・南極大陸の氷床にもティッピングポイントがあると考えられる。グリーンランドの氷床
 よりもさらに恐ろしい。海水面を約80メートル押し上げる力があるからだ。南極の氷
 は今も解けているが、非常にゆっくりとである。今のペースのままなら、どれほど速く
 でもすべて溶けるのは何世紀もかかるだろう。だが、そうはならないかもしれない。海
 面より低い岩盤に載っている西南極氷床は、予測より早く解けて海に放出されてしまう
 可能性があるからだ。氷がある程度、縮小してからは速いだろう。それだけで海水面は
 5メートルは上昇する。要する時間は1世紀ほどだ。南極の氷床に状態の移行が起きれ
 ば、それは300年以内に完了すると見ている。移行が始まれば300年で南極の氷が
 消滅するということだ。 
・中国の経済はこの10年ほどの間、年率10パーセント近くという恐ろしいほどの速度
 で成長している。先進国が苦境に陥った2008年の金融危機の時にもほとんど減速を
 することはなかった。とはいえ、経済成長にはそれなりのコストが伴う。まずどうして
 も必要なのは電力である。中国では、電力需要急増に伴い、供給も急速に増やす必要が
 あった。そのために、石炭を使う火力発電所や、原子力発電所、水力発電所などを次々
 に建設した。大量の電力を食らう中国という獣の胃袋を満たすため、長江流域だけで5
 万ものダムが建設されたとされ、その中には世界最大規模の三峡ダムも含まれている。
・工業技術により大きく発展した国だけに、中国では当然、その技術を利用して水問題の
 解決に取り組んでいる。比較的水の豊かな南部から北部へと水を振り向ける巨大な水路
 の建設は、そうした解決策の一つだろう。しかし、2011年には、豊かだった南部ま
 で干ばつに襲われてしまった。 
・中国では穀物が凶作になる危険性が非常に高いと言える。極端な出来事に対してきわめ
 て脆弱になっている。重要なのは人口が非常に多いというこだ。普段でも食糧は何とか
 足りているという状況だ。当然、干ばつにも弱い。水利という点から見れば、誤った場
 所に人口が集中しているのも困りものだ。凶作になったからといって、すぐに飢饉が起
 きるかどうかはわからない。今の中国は30年前と同じ国ではない。高い金を出せばど
 こかから食糧を調達することは可能だろう。
・中国の凶作で中国が飢饉になることはなさそうだ。しかし、そのせいで、他の土地の誰
 かが飢饉に陥る恐れはある。

生態系の危うい均衡
・人類は繁栄し、人口は増えた。一万年近くの間、人口の増え方はゆっくりだったが、あ
 る時から急激になり、特に最近の100年間は非常に急激である。
・現代の私たちの食糧経済は、狩猟採集民のものとは正反対の性質を持っている。ある食
 材が乏しくなっても、私たちは「乏しいから」という理由で別の手に入りやすいものに
 切り替えたりはしない。ギャビアやトリュフがいくら貴重でも、食べるのをやめること
 はない。貴重な食材は価格が上がるので、むしろ余計に努力して手に入れようとする。
 また普段から多くの食材を使いわけるということはなく、いくつかのごく限られて種類
 の食材だけに頼って生活する。同じものを皆が多く食べた方が、「量の経済」で価格が
 安くなるからだ。価格が安くなれば、より多くの人が食べられる。現代の経済は、食べ
 物の切り替えとは相反する原理で動くということだ。
・世界の各地で生態系が揺らいでいるというのは、今ではもはや誰もが感じていることだ
 ろう。最新のニュースを注視していれば、それは明らかなことだからだ。異常の兆候は、
 はっきりとしたかたちで現れている。  
・恐ろしいのは、生態系が揺らぐと、食料供給が危機に陥る可能性があるということだ。
 シリアルやフライドポテト、スナック菓子などの原料になっている農作物もすべて世界
 の生態系の一部を成しているのだということを私たちはつい忘れがちになる。だが、生
 態系の一部である以上、他の生物と同様の危険にさらされていると言える。むしろ、自
 然の生物よりも脆弱かもしれない。
・世界の人口がこのまま増え続ければ、間もなく食糧の増産が追いつかなくなり、人類は
 滅亡するに違いないという悲観的な予測をする人はずっと以前からいた。  
・「緑の革命」と呼ばれた、ボーローグらによる新種の小麦の開発により、数年の間に、
 世界中の発展途上国で栽培されるようになった。そのおかげで近年、爆発的に増えた人
 にも対応できるだけの食糧増産が可能になった。「緑の革命」は、世界中の無数の人の
 命を救ってきただろう。しかし、同時に私たち人類に大きな弱さを持たせることとなっ
 た。世界中の農業が、小麦、大豆、米、トウモロコシという四つの主要な作物だけに過
 度に依存するようになったからである。 
・少ない品種に依存すると危険なのは、農業が病気や環境変化などに対して脆弱になるか
 らだ。たった一つの病気によって、食糧供給が一気に減る危険がある。地球上には、飢
 餓寸前で生きている人たちが10憶人いる。治療法のない病気によって世界中のトウモ
 ロコシが壊滅的な被害を受けるようなことがあれば、突然、さらに10憶人が飢餓寸前
 の状態に追い込まれてしまうかもしれない。経済危機の場合と同様、裕福な人間はさほ
 ど困らないが、貧困層や、貧困層より少し上の人が最も苦しむことになる。
 
迫りくるバイオテロリズム
・人間の遺伝子が近い将来、解読される。その事実は、国の軍事計画立案者を不安に陥れ
 た。すべての人間のあらゆる細胞の中心にあって、基本的にその生化学的な設計図とな
 っているヒトゲノムの内容が解明されたとしたら、軍としてはどのように対応すればよ
 いのか。
・ゲノムを見ることで、その人の身体がどのような能力、性質を持つかがわかる。このゲ
 ノムの地図は、生物兵器、つまり人工的な病原体を作ろうとする悪意の人間にとって非
 常に便利なものになるのではないか。ヒトゲノム計画は、結果的に、バイオテロリスト
 に恰好の道具を提供することになるかもしれない。恐ろしいのは、生物兵器には、高価
 でかさばるミサイルや、ウランのような希少な物質も必要としないことである。
・生物兵器に関して強い危惧を抱くのは、民間人にも手の届きそうなものが多いからだ。
 特に恐れているのが、炭そ菌である。これはウシの牧草地にはごく普通に見られる細菌
 だが、感染すると思い呼吸不全を引き起こす。他には腺ペスト菌や野兎病菌、ブルセラ
 菌なども危険視されている。そうした生物兵器を実際に使用した集団、使用を準備して
 いた集団は現実に存在する。 
・こうした最近を使ったテロも当然、恐ろしいが、もっと恐れていることがある。それは、
 既存のウイルスを改造する技術が広く知れわたることだ。この改造技術があれば、ウイ
 ルスをより致死的で速く感染するものに作り替えることができる。自然界が今までに作
 り出したどのウイルスよりも恐ろしいものが作れる。たとえば、感染者の90パーセン
 トを殺すエボラウイルスの致死性と、世界の端から端まで驚くほどの速度で広がるイン
 フルエンザの感染力を兼ね備えたウイルスを新たに作り出すことも可能というわけだ。
・生物学は、第二次世界大戦中の物理学と同様の存在になる。パンドラの箱が開くような
 ものだ。
・生物学の生み出す新兵器、つまり新種の細菌、ウイルスは、爆発はしないが、感染をす
 る。人間は感染し、病気にしてしまう。原爆、水爆が相次いで作られ、爆弾の破壊力が
 飛躍的に高まったのと同様、生物学の兵器も短期間のうちに破壊力を大きく高めるだろ
 う。
・強力は生物兵器はいずれ生まれることになるだろう。それは、悲しくなるほど、作るの
 が簡単だからである。核兵器とは比較にならない。まず生物兵器は、濃縮ウランや濃縮
 プルトニウムといった希少な材料を必要としない。開発にも製造にもさほど高い費用は
 かからない。また、特殊な知識はいらない。あらゆる情報は公開され、詳しく解説もな
 されており、理解するのにさほど苦労はしない。現在、生物兵器を作るのに必要な知識
 能力を有している生物学者は世界に何千人といるはずだし、今後そこに加わるべく訓練
 中の人も大勢いる。特殊なインフラが必要なわけでもない。小さなテロリスト集団でも、
 きっと国家プロジェクトと変わらないレベルの生物兵器を作れるに違いない。いつか必
 ず、どこかで誰かが作ろうとする。それは防ぎようがないだろう。
・いずれ近い将来、テロリストが有害なウイルスの遺伝情報をインターネットからダウン
 ロードし、それを基に自らの手でウイルスを作り出す、という日が来ないとも限らない。
 遺伝情報に手を加えることで、過去に例がないほど凶悪なウイルスにすることもできる
 だろう。そして、いつか、まったく新種のウイルスをゼロから作るテロリストが現れて
 も不思議はない。
・人類を一度に滅亡させるような生物兵器はまだ作られていないが、それは作るのが不可
 能だからではなく、まだ作り方が十分に簡単になっていないからにすぎない。
・天然痘は、自然界がこれまでに生み出した中でも、人間に最も恐怖心を抱かせる病気だ
 ろうと思われる。また、その病原体である天然痘ウイルスは、他の多くのウイルスに比
 べ、強靭なものだ。そのタンパク質の殻のおかげで、周囲の環境が与える光や湿度など
 の試練にも耐えられる。何時間も空中を漂い、遠くまで旅をすることができる。窓のす
 き間を通り抜けるので、建物の中に入るのも自由自在だ。そうして広い範囲で新たな宿
 主となる人間を探す。急ぐ必要はない。宿主がすぐに見つからなくても生き延びられる
 からだ。期間は事実上ないと言えるだろう。何年も休眠状態でいることも可能だ。ウイ
 ルスは、誰かが呼吸とともに吸い込むと肺の中に入り、いったん柔らかい組織の中に定
 着する。そして、やがて血流に乗って身体中に広がり、細胞をハイジャックして増殖し
 ていく。2週間ほどの潜伏期間を経て、感染者は高熱を出す。皮膚に発疹ができ、それ
 が膿疱となる。これは、新たな宿主を求めて飛び出すウイルスの出口だ。飛び出したウ
 イルスは、また同じことを最初から繰り返す。
・人類がこれまでに自らの力で根絶に成功した感染症は、天然痘だけである。WHOは、
 1980年に、正式に天然痘の根絶宣言をしている。現在、自然界には天然痘ウイルス
 は存在しないが、だからと言って、天然痘に関して何も心配することがなくなったわけ
 ではない。現在もアメリカとロシアは標本を保管している。その理由は明らかだ。いつ
 また、この病気が人類を襲うかわからないからである。再び天然痘が姿を現した時には、
 保管していある標本を使って治療法の試験などを行う。
・ウイルスの標本を保管することと、生物兵器を持つことはまったく違う。標本ならわず
 かな量でいいが、兵器として使い、多数の人間に同時に感染させようとすれば、かなり
 の量のウイルスが必要になる。それほど大量のウイルスが本当に手に入れられるものな
 のか、それはわからない。とはいえ、旧ソ連は実際に大量の天然痘ウイルス製造し「兵
 器化」していた。ばらまきやすいよう、粉末の形にしていたのだ。
・FBI,CIAはソ連の科学者たちに資金を提供することで、天然痘ウイルスの兵器が
 テロリストの手に渡ることを防いできたが、テロリストが絶対に手に入れなかったとい
 う保証はない。手に入れたものがいたことが判明した時にはもう手遅れである。
・天然痘ウイルスを兵器に使った場合、攻撃は無差別的になる。標的となった人間だけで
 なく、攻撃を仕掛けた人間も被害を受けてしまう。自殺覚悟ということだ。とても正気
 とは思えない。そんなことをする人間がいるだろうか。911以前であれば、誰もがそ
 う思っただろう。しかし、あのツインタワーへの攻撃以後は違う。皆が心配したのは、
 天然痘ウイルスをアルカイダが手に入れたらどうなるのか、ということだ。アルカイダ
 であれば、自殺覚悟の無差別攻撃でも平気で実行するだろう、と思えた。
・アルカイダが天然痘ウイルスを使ったテロを実行するとしたら具体的にどうするのか、
 ほぼ想像できる。複数の実行犯がガラス瓶か何かに粉末をウイルスを入れて運び、世界
 のいくつかの地点で同時に少しずつまくのだ。数週間のうちに、天然痘の流行はニュー
 スになるはずだ。ニュースは世界の複数の地点から届く。そして、数日のうちに対規模
 なパニックが起きる。患者の隔離も行われるが、これはすぐに解除されるに違いない。
 患者の数が多すぎ、あまり広範囲にいるため、隔離しても感染の拡大を抑えるのに有効
 でないからだ。他の対策と言えば、範囲を限り、その中の全員にワクチンを接種すると
 いう方法が考えられるが、これは実行不可能である。ワクチンの備蓄量がまったく足り
 ない。用意するには何ヶ月もかかってしまう。
・恐ろしいのは、今後、インターネットから天然痘ウイルスのゲノム情報をダウンロード
 し、自分の手で改造するような人間が現れることだ。いくつもの理由から、それを阻止
 することは難しい。 
・そのほかに危険なウイルスと言えば、「ステルスウイルス」と呼ばれるものがあげられ
 る。これは、感染しても、普段は見かけ上、何の病状も引き起こさないウイルスである。
 近い将来、人工的に合成できるようになると考えられる。この種のウイルスは自然界に
 もすでに存在し、人間は皆、相当な数のステルスウイルスを体内に抱えて生きている。
 ただし、抱えていても、発熱、頭痛、鼻水といった病状が何もなく、ただそこに存在す
 るだけなので気づくことはない。
・悪意の微生物学者がステルスウイルスを合成し、密かに大勢の人間にばらまく、という
 のもあり得ないことではない。ばらまかれたウイルスは、感染者の細胞の中で眠ってい
 る。犯人がきっかけを与えるまでは何もしない。おそらく第二のウイルスがばらまかれ
 ると、それがきかっけとなって最初のウイルスが活動を始める。
     
暴走するコンピュータ
・現代の私たちは日常生活でコンピュータ、インターネットに大きく依存しており、依存
 度は高かまる一方、機械は以前に比べ、より自律的なものになってきており、私たちの
 行動の一つ一つに介入し始めている。今や、私たちの幸福は、私たちが完全には理解で
 きない物たちに委ねられていると言ってもいい。
・機械が主導権を握る、というとSFのように感じる人もいるだろう。映画「ターミネー
 ター」には、自らの目的を持ち、人間から世界の支配権を奪い取る機械が出てくる。だ
 が、現実の未来は、それほどわかりやすくはない。機械が自我を持ち、自らの決断を下
 す力を身につけることは、当分、あり得ないからだ。ただ、私たちのデジタル技術への
 依存度が高まっていること、世界とデジタル機械との間の相互関係が時とともに深まっ
 ていることは事実だ。 
・サイバー攻撃によって重要なインフラに被害を受けると、社会は世界恐慌時の10倍く
 らい悲惨な状況に陥るだろう。経済活動の80パーセントが止まった状態が長く続けば、
 その被害は第二次世界大戦中にドイツや日本が受けた以上のものになってしまう。ほと
 んどの人が考える最悪をはるかに超えてひどいに違いない。
・人工知能の技術は、かつては一般の人間からは遠いものでしかなかった。それが今では、
 私たちの生活のあらゆる部分に入り込んできている。同様のことは科学技術全般に言え
 る。はじめは国家や資金の潤沢な大企業、最高レベルの研究者だけのものでも、いずれは
 コストや利用の難易度が下がり、一般の人間にも手の届くものになる。
・機械が近い将来、人間よりも高い知能を持ち、人間を押しのけて地球を支配するように
 なるかもしれない。これは昔からSFの大きなテーマになっていたことだが、科学者た
 ちは、より現実的にその可能性を検討していたのだ。ロボットが自らの手で、自分より
 も賢いロボットを作るというシナリオも吟味された。これが繰り返されれば、理論的に
 は、いずれロボットを作った人間より高い知能を持ったロボットが誕生することになる。
・ヒューマノイドロボットが人間を押しのけて世界を支配する、というのはおそらくバカ
 げた考えなのだろう。人間のような手足を持ったロボットが人間のように道を歩き、会
 社では隣の席に座って人間と出世を競う、ということはまず、起こり得ない。だが、ロ
 ボットは必ずしも人間と同じ姿をしていなくてもいいし、人間とは全く違ったものでも
 いいと考えるならば、話は違ってくる。何らかのかたちで現実世界とやりとりする力を
 持った人工知能は、人間と似ていなくてもロボットと呼んでいいだろう。
・現在、個人情報の得られる情報源は多数存在する。多数の情報源から一気に情報を収集
 することもできるだろう。インターネットから関連情報をすべて集め、それをふるいに
 かけて特に重要度の高いものだけを取り出す、ということも瞬時にできる。インターネ
 ットの持つ情報量は圧倒的だ。他に比較し得るものはない。人間の脳が保持できる情報
 は3500兆バイトほどだと言われているが、インターネットはその約10倍の情報量
 がある。インターネットにアクセスできるロボットを作れば、それだけの大量の情報を
 いつでも利用できるロボットになるということだ。
・とても想像がつかないかもしれないが、このまま進歩が続けば、人間の言語を理解して
 話をする機械は、近いうちに家電量販店で誰でも簡単に買えるようになると考えられる。
・コンピュータの自然言語処理能力には危険な面もある。今よりも少し自然言語処理能力
 が高く、しかも安価で誰にでも買えるコンピュータが現れたとすると、新たな危険が生
 まれるかもしれない。単に口頭の命令を理解して実行してくれる、というだけならいい
 が、話し言葉のちょっとした調子から言外の意味を読み取るようになったとしたらどう
 だろう。表面的な意味ではなく、真の意図を見抜き、それに応じた対応をするようにな
 ったとしたら。そうなると、もはや機械と人間を区別することは難しくなってしまう。
・技術が進歩すると、人間社会に介入する能力を持ったロボットができる可能性もある。
 倫理的な判断のできるロボットなどはその例である。倫理的判断と言えば、通常は「良
 いか悪いか」の判断を意味する。ただ、ロボットが行なう倫理的判断はおそらくそれと
 は違う。善悪というより、「公正かどうか」が判断の基準となるだろう。
・いずれ人間の物真似をするロボットができる可能性がある。特定の誰かとそっくりに話
 すロボット、というのができてもおかしくはない。そのためには、人間の感情を察知し、
 それに応じた適切な反応をするコンピュータが必要になる。実際に今、そうしたコンピ
 ュータを開発する研究が進められていることも確かだ。
・人間の感情を模倣する技術が進歩すれば、その分だけ、人間と間違えられるような機会
 を作れる可能性が高まっていく。   
・最近は新聞などで「ドローン」(無人航空機)の軍事利用について報道されることが増
 えている。イラクやアフガニスタンなどでは、すでに実際の軍事作戦に利用され、大き
 な成果をあげているからだ。ドローンは、ありとあらゆる任務をこなすことができる。
・敵国上空を目立たないように飛行し、撮影した動画を送信してくる。特定の標的を長い
 間、監視し、刻々とデータを送り続けるということも可能だ。送られたデータは、ミサ
 イルや陸上の部隊によって標的を実際に攻撃する際に役立てられる。また、時にはドロ
 ーン自身がミサイルを発射することもある。ドローンが有用なのは、自律的に動けるか
 らだ。任務遂行にあたっては、どう動くべきか、どう対処すべきか、小さな判断が必要
 になる場面が多々、発生するのだが、ドローンはその判断を自らの力で下すことができ
 る。ドローンがメモリ内に地図を保持しているし、風に対応して空力学的な調整を行な
 うソフトウェアも備えている。  
・ドローンが誰かを殺す判断を下すことはないし、自らの判断で誰かに攻撃を加えること
 もない。人間が「攻撃せよ」と指示しない限り、攻撃はしないと決められているからだ。
 ドローンのような機械が生身の人間を攻撃することがどこまで倫理的に許されるのか、
 ということについては議論があり、結論は出ていない。ただ、これは攻撃を許可する、
 しないの問題であり、「できる、できない」の問題とは違う。許可しさえすれば、ドロ
 ーンが自らの判断で人間を攻撃することは技術的には可能である。
・今はまだ、アメリカ政府の管理下にあるので、こうした歯止めも利いている。問題は、
 ドローンを製造する技術が多くの人に開放された時だ。アメリカ軍ほどの資金や力がな
 くても、簡単に同じような飛行機が作れる時代が来たらどうなるか。多くの人がドロー
 ンを作るようになれば、その全員が同様の倫理観を持っているとは限らない。中には、
 無人機に人を攻撃させることをためらわない人間もいるだろう。大勢の人がいる都市に
 無人機を送り込み、自由に無差別攻撃をさせる、ということもあり得る。
・意思決定をコンピュータに委ねることには、当然、危険な面がある。かつて人間が独占
 していた意思決定を一部でも機会に任せるようになれば、知らない間に誤った決定を下
 される危険がつきまとう。
・コンピュータが人間の思考や感情を真に理解する能力を身につければ、人間、それも特
 定の誰かになりすませるようになるかもしれない。家族や恋人など、大事な人になりす
 ましてしまうこともあり得る。さらにコンピュータはいずれ、書き言葉を完全に理解す
 る能力や、すべての人の居場所を常時把握する能力なども持つようになるだろう。しか
 も、人類がこれまでの歴史で蓄積してきた知識はすべて持つことになるのだ。つまり、
 人間はいずれ、機械に対して非常に弱い立場に置かれてしまうということである。
   
おわりに
・私たちが今、危機に直面していることは確かだ。何か回避する方法を考えなくてはなら
 ない。こうなった原因は科学にあるが、だからといって、科学を放棄すれば問題が解決
 するというわけではない。科学を最大限に活かす、という方向でしか解決を図ることは
 できない。科学が必ずしも私たちを救ってくれるとは限らないが、科学なしではなす術
 もなく滅びるしかない。
・地球の気候はいずれ大きく変わってしまうかもれない。気温が予想以上に速く上昇し、
 氷河は解け、想定される最悪のシナリオが現実のものになってしまうこともあるだろう。
 世界は今後、一致協力して、二酸化炭素の排出量削減に取り組むことになっている。省
 エネルギー、代替エネルギーへの転換も進める。だが、そうした対策を講じても、十分
 な成果があがらない可能性亜ある。それでも最悪のシナリオが避けられない恐れはある
 のだろう。
・科学技術の中には、有用だが極めてリスクの大きいものがある。平常時には決して使う
 べきでない技術だ。だが、そういう技術でも、使わなければ確実に人類が滅ぼるとした
 らどうだろう。その場合は、ただ何もせずに滅びるのを待つよりは、リスクのある技術
 を使う方がはるかにましではないだろうか。
・まだ瀬戸際に追い詰められるかどうかわからない時点で、そんな技術の開発を進める価
 値はあるのだろうか。判断の際にまず重要なのは、その技術に本当に有用性があるのか、
 ということだ。また、使用した際にどのような結果がもたらされるかも慎重に検討する
 必要がある。最後の手段となるような技術は、すでに提案されている。「地球工学」、
 「気候工学」という名前で呼ばれているものがそれだ。しかし、リスクが大きすぎると
 いう声が強く、今のところほとんど研究が進んでいない。
・科学技術の発達を否定し、それ以前の世界が理想であるかのような発言をする人もいる。
 だが、実際に本気でそんなことを考えている人はまず、いないだろう。100億もの人
 間が科学技術なしに生きることなど不可能だ。単なる一つの生物種「ホモ・サピエンス」
 として生きることを選べば、今いる人間の多くが世界から姿を消すことになる。
・科学技術はもうこれ以上、発展する必要がないのではないか、と問う人もいれば、科学
 そのものの是非を問う人もいる。科学を選ぶか、それとも科学を捨てて自然とともに生
 きることを選ぶか、という具合に。だが、これは問い自体が間違っている。
・特にバイオテクノロジーの関係者たちは、自分たちの研究成果を広く知らせることを嫌
 がる傾向がある。科学技術に反感を持つ一部の人たちを刺激すると面倒だという意識が
 あるからだろう。新技術を開発しても、それがあまり注目を集めてしまうと、強い反発
 を受ける恐れがある。だが、合成生物学が非常に有望な分野で、人類に大きな恩恵をも
 たらす可能性が高いのも一方で事実だ。  
・できる限り少ない資源で生きる、という姿勢が今後、私たちに求められるのは確かだろ
 う。ただし、それだけでは問題は解決にはならない。第一、そのような姿勢は短期間で
 はとても根づかない。急いで対処するには、どうしても科学技術に頼らざるを得ない。
・大気中への炭素の排出を抑えるという観点からは、特に石炭が重要な問題になる。石炭
 は埋蔵量も多く、安価なのに、アメリカや中国だけでなく、多くの国にとって魅力的な
 エネルギー資源となっている。それを排除しようと主張することは政治的に難しい。だ
 が、石炭は間違いなく、環境には優しくないエネルギー源である。炭素だけでなく、以
 前から問題とされていた煤煙や硫黄などの汚染物質も出すからだ。
・すでにアメリカを抜いて世界最大の炭素排出国となった中国は、石炭ガス化など、石炭
 をクリーンにする技術の開発に取り組んでいる。石炭をガスに変え、燃焼した時の二酸
 化炭素等の排出量を減らす技術である。ただ、その一方で、中国は新たな石炭火力発電
 所の数を急激に増やしてもいるのだ。石炭ガス化の技術が完成するには、まだ長い年月
 がかかるだろうし、技術が導入され、効果が出始めるのは相当先と考えられる。
・石炭火力発電所の排気から二酸化炭素を取り除く技術を真剣に検討する科学者も増えて
 いる。これは、安全、確実な方法を用いて排気から二酸化炭素を隔離した後、地中、海
 底に埋める、あるいは不活性な物質に変えるなどの方法で処理する技術だ。この技術に
 は、まだ乗り越えなくてはならない問題も数多い。
・エネルギーは人類の生存にとって大きな要素だが、同じくらいに大きいのが食糧だ。世
 界人口がこの先100億人になった時、それだけの人に食糧をどう行き渡らせるかとい
 うのは重要な問題である。
・もし世界の農業を完全に生まれ変わらせることができるとしたら、現在とはまったく違
 ったものにすべきだろう。今は、同じ種類の作物を一箇所で大量に育てる大規模農業が
 主流になっている。この単式農法は非常に効率的だが、脆いところがある。同じ害虫や
 病気の被害を一斉に受けてしまうからだ。それを考えるとあまり賢明な方法とは言えな
 い。ここまで広まってしまったのは、「歴史の過ち」ではないだろうか。今後は是非と
 も改めるべきだが、そう簡単なことではない。
・「緑の革命」は確かに偉業だ。これによって生産性は劇的に向上し、飢えていたはずの
 大勢の人に食糧を供給することができた。だが、弱点もある。その一つは、大量の石化
 燃料を必要とするということだ。化学肥料と農薬も大量に必要とする。土壌を耕し、作
 物を植え替えるという作業を頻繁に行わなくてはならない。つまり、トラクターなどの
 ディーゼルエンジンで動く耕作機械を頻繁に動かすということだ。それだと、大気中に
 大量の二酸化炭素を放出することになる。保守管理にエネルギーと労力を要する農法で
 ある。2005年には国連から「農業は、人間の活動の中でも、生物多様性、生態系に
 とって最も大きな脅威となっている」という見解が出されている。
・世界の人口は今世紀の末頃にピークに達し、101憶人ほどにもなると予想されている。
 つまり、今の中国があと二つ増えるようなものだ。これから増える人々の大半はアフリ
 カに住むことになる。実のところ、今世紀の半ば頃に約90憶人でピークに達するとし
 ていた予測を国連が訂正したのも、アフリカの人口の伸びが予想以上だったからである。
 現在のアフリカの人口は10憶人ほどだが、21世紀の終わりには26憶人にまで増加
 すると見られている。アフリカ大陸は、10憶人の人口ですら十分に支えられていると
 は言えないのに、さらに人口が3倍以上にもなってしまう。しかも困ったことに、人口
 が増えるのは主にサヘル地域の諸国を中心とした貧しい国々である。
・今、切実に必要なのは、そしてこの先数十年間にさらに切実に必要なのは、アフリカの
 農業の生産性を大幅に向上することである。
・エネルギーと同様、食糧に関しても、私たち人類は今、急激な変革を迫られている。積
 極的に新しい技術を取り入れない限り、これから先、生き延びることは難しいだろう。
・「人工食肉」の製造技術などは、破壊的な技術と言える。現在食肉を供給するには、家
 畜に飼料を与えて育てることが必要である。つまり、飼料になる作物を育て、それをま
 た家畜に与える、ということで畜産は非常に「エネルギー集約的」な産業になっている。
 だが人間が肉を食べることをやめられないのだとしたら、環境に大きな影響を与えずに
 供給するためには、人工的にそれを作るのも一つの方法ということになる。すでに、食
 肉を合成する研究を進めている科学者はいる。農作物のように食肉を育てる技術だ。外
 見と味を肉そっくりにした豆腐というのも作られているが、それとは違う。本物の動物
 の筋細胞を育てる。ただし、育つのは動物の中ではなく、培地の中である。ステーキに
 合う食感と風味を持つよう人間の手で調整する。
・私たちは、世界人口が最大でどのくらいまでならば、人類が絶滅の危機に直面せずに済
 むか。誰もがいわゆる現代風の生活を望むとしたら、世界人口は最大何人くらいまで増
 やせるかを考えた。過去のエネルギー消費のデータを調べ、科学技術にどの程度の可能
 性があるかも考えた。この先、エネルギーの消費効率が向上し、貧富の差は大幅に縮ま
 ると仮定したが、答えは「世界人口は約20憶人が最適」というものだった。
・20憶人と言えば、1920年頃の世界人口である。70億人を20憶人に減らず、
 というのは簡単なことではないだろう。本当にそこまで減らすとしても、ゆっくりと減
 らしていけばと思う。自らの意志で。何らかの理由で強制的に減らされるようなことが
 あれば、悲劇である。 
・人類の滅亡の日が近いうちに来る危険性はどのくらなのだろうか。科学者、あるいは科
 学の関係者のほとんどは、ウイルスこそが人類にとって最も切実な脅威だと信じていた。
 多くの科学者が心配しているのは、鳥インフルエンザが種の壁を越え、人間のインフル
 エンザウイルスになることである。
・マルウェアが困るのは、体系的に対処する方法がないということである。特に、未知の
 マルウェアの場合、確実に見つける方法は存在しないし、どういう動作をするか予測す
 ることもまず不可能だ。マルウェアの問題を簡単に解決できると思うのは危険だ。あら
 ゆるコンピュータに合法的に侵入し、データやソフトウェアを調べる権限を政府やセキ
 ュリティ企業に与えればそれでどうにかなる、と安易に考えている人もいるが、実際に
 はそうはいかない。たとえ、コンピュータの中をくまなく調べることができたとしても、
 マルウェアの攻撃から私たちを守ることができるとは限らない。
・数ある問題の中で、おそらく最も重要なのが気候変動である。気候は私たちの存在の基
 盤を成すものだからだ。文明のすべてを動かすエネルギーの供給にも影響を与える。そ
 して、さしあたって何が脅威なのかよくわからない、という点も厄介だ。近い将来、あ
 る時点から地球のあらゆる地域の気候が一気に別のものに変わってしまうのか。あるい
 は、その急激な変化はすでに始まっているのか。それとも、そういう考え方そのものが
 間違っているのか。まったく何もわかっていない。すでに起きた変動を元に戻す方法が
 あるのかもわからないのだ。       
・果たして人類は気候変動によって絶滅するのか。その問いに答えるのは極めて難しい。
 気候には太陽や大気、海など多数の要素が関わっている。詳しく調べるほど、それがい
 かに複雑なシステムかということがわかる。そこに生物という要素が加わると、さらに
 複雑さを増す。短い時間ではとてもその仕組みは解明できないだろう。一つ確かなこと
 は、一つの生物種が絶滅すれば、必ず他にも影響が及ぶということだ。それは地球から
 一つの生物種が姿を消したというだけでは済まない。生物種が一つ消えれば、捕食され
 ていた生物が急激に増えることもあるし、依存していた生物が連鎖的に絶滅することも
 ある。その連鎖の中に我々人類が含まれる可能性もあるだろう。すでにそういう事態が
 進行中かもしれない。
・まず、私たちは大気への二酸化炭素の排出量を減らさなくてはならない。そして、科学
 技術を駆使してエネルギーの使い方を変えていく必要がある。その科学技術の中には、
 危険な副作用を持ったものが含まれている恐れもある。危険性を含む技術の研究にはつ
 い消極的になりがちだが、有効だったかもしれないのに確証がなくて使えなかった、と
 いう事態にならないよう、むしろ積極的に研究を進めるべきである。