「小説ヘッジファンド」 :幸田真音

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現代社会は、金融市場を中心に世の中が回っているといった感じである。株式市場とか金
融市場とかファンドとかという言葉は、日常的に出てきている。でも、その実態はどうい
うものなのかということについては、金融にはまったく疎い私には、全然分らない。ヘッ
ジファンドという言葉もよく目にするが、それがどういうものなのか、いまひとつわから
ないというのが実態である。
この小説は、そのヘッジファンドの世界を描いたものである。ちなみに、ヘッジファンド
とは、「規制を免れるために、投資家から私募形式で巨額の資金を集め、為替、債券、株
式などの金融市場で、空売りや裁定取引、デリバティブといった高度な手法を駆使して高
利回りの運用を狙う投機的な投資信託の一種」とのことである。でも、私は、なんだかピ
ンとこないのが悲しい。
物語は、子供の頃から金融に興味を持つひとりの青年が、自分の希望どおり都市銀行に入
社して、為替ディーラーとしての仕事を始めるところから始まる。為替ディーラーは、短
時間に何億円、何十億円というような巨額の取引をする仕事のため、非常な緊張を強いら
れる。その青年も初めての取引で、緊張のあまり頭がパニックになってしまい、32億円
も損失を出す取引をしてしまう。
そんな青年も、元々優秀なこともあって、徐々に為替ディーラーとしての頭角を現してく
る。そういう状況の中において、金融市場においてDファンドと言われるファンド会社が、
数年で金融市場の風雲児となって世界の金融市場に大きな影響を与え始める。
ある日、その青年は、そのDファンドからヘッドハンティングされる。Dファンドは当初、
アメリカの会社と思われていたが、その実態は日本のお台場のビルを本拠とする会社であ
った。そしてそれを指揮するのは、とてもそんなファンド会社の社長とは思えない華奢で
綺麗な独身の日本女性であった。
彼女はかつて、日本人としては初めての女性ディーラーであった。完全な男社会である金
融社会において頑張ったのであるが、やがては女性であるということによる限界を感じで
一旦は金融社会を去った。しかし、金融社会での仕事がどうしても忘れられずに、自分で
ファンド会社を立ち上げたのである。
Dファンドは、世界中から才能あるディーラーを集めた組織であった。彼女の指揮の元、
Dファンドは世界市場に大きな挑戦を仕掛け、いろいろな困難な状況もあったが、3日間
で1600億円の巨額の利益を得るのである。
このようなヘッジファンドというのは、アメリカが発祥地のようであるが、私にはどうし
ても、競輪や競馬といったいわゆるバクチにして思えない。金融市場の動きを予想して利
益を得る。場合によっては、自分の持つ巨額の資金を利用して金融市場を操作して巨額の
利益を得る。そこには、なにも生産はなく、お互いに利益というパイを奪い合う、損をす
る者と利益を得る者とが、必ず出る弱肉強食の世界である。
今の世の中は、「ホリエモン事件」にも現れているように、虚業が利益をむさぼる社会で
ある。ホリエモンが逮捕されるまでは、子どもたちは「ホリエモンのようになりたい」と
ホリエモンを目指し、政治家は「私の弟です。私の息子です」とホリエモンをもてはやし
た。
小説の中の青年は、自分のやっているファンドの仕事に疑問を感じ始めたが、女社長は
「ファンド会社は投資家のために利益を上げるのが使命。それ以外のことは考えてはなら
ない」と一括する。ホリエモンの「私は株主のためにこんなに頑張っているんだ」と涙し
たのに似ている。 最後に、この女社長が、Dファンドで得た利益を自分のために使うの
ではなく、こっそり別に起こした慈善会社で世界の恵まれない人のために使っていたとい
うのが、救いになっている。
現代の金融市場が良いか悪いとか言っても仕方がないのかもしれない。それが現実である
のだから。しかし、お金とはなんなのか。仕事とはなんなのか。経済活動とはなんなのか。
考えされられる。
なお、この作者である「幸田真音」は男性なのかと思っていたら、女性のようである。彼
女自身、米国系銀行や米国系証券会社においてディーラーの経験を持つみたいである。も
しかしたら、この小説に出てくるDファンドの女社長は、彼女自身なのかもしれない。