PCR検査を巡る攻防 :木村浩一郎

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2020年1月に新型コロナウイルス感染が始まって以来、日本におけるPCR検査数が
なかなか増えず、発熱などしてコロナ感染の疑いがあり、PCR検査を受けたくても、検
査が受けられない人が多くいるというニュースが流れ、ヤキモキし続けてきた。
政府は、「PCR検査数を増やします」と言うのだが、いつまでたっても、一向に増えて
いる気配が感じられない。そのうち政府は、「PCR検査数を増やせと指示を出している
のだが、どこかで目詰まりを起こしているようだ」と弁解した。
どこかで目詰まりを起こしているのなら、その目詰まり箇所を探し出して、目詰まりを解
消する対策をすればいいと思うのが、その後、そういうことをやったという話しも一向に
出てこない。
こんな状況に対して、一部のテレビのワイドナショーなどでは、「PCR検査数を増やす
べきだ。政府はどうして検査数を増やさないのか」と、動きの鈍い政府を盛んに批判し続
けた。
そのうち、「感染者数が増えるとオリンピックの開催が中止となるので、政府や東京都は
感染者数を増やさないようにPCR検査数を抑制しているんだ」とか、「政府は習近平国
家主席を国賓として招く予定があるから、感染者数が増えてそれが中止とならないように
PCR検査数を抑制しているんだ」などという話が、まことしやかに囁かれはじめた。
また、感染症の専門家と言われる人の中には、「国立感染症研究所が研究のためにデータ
を独占したいがために、PCR検査を独占してほかにやらせようとしないのだ」などと発
言する人も現れた。
その一方で、「感染症専門家の中には、やみくもにPCR検査をやっても、まったく無意
味だという人もいる。特に厚労省の下部組織の”専門家会議”のメンバーの中にはそういう
人が多い」という話も出てきた。また、「やみくもに検査を増やせば医療崩壊する」と専
門家もいるという話しも出てきた。
いったい何が本当なのか。まったくわからない。ただ、PCR検査数は、なかなか増えて
いないということだけは事実だろう。
私自身は、諸外国に比べて、日本のPCR検査数が圧倒的に少ないのを、不思議だと思っ
ていたし、「いつでも、だれでも、何度でもPCR検査が受けられるようにすべきだ」、
という極端な主張はともかく、体調に異変を感じた人が、かかりつけ医などで検査が速や
かに受けられる体制にすべきだと思っていた。
そして、ネットでこの本の存在を知り、この本を読めば、どうして日本ではPCR検査数
が増えないのかわかるのではと思って購入して読んでみたのだが、結局は、いまだに何が
なんだかわからないということが、わかっただけだった。
わかったことと言えば、「検査拡大」派と「検査抑制」派とが、メディアを使って、激し
い闘争を繰り広げていたということだけだった。そこには、公共放送が一般国民に対して
「イメージ操作」したと言われても仕方がないようなことも行なっており、これがコロナ
ではなく、もし本物の戦争だったらと思うと、ゾッとさせられた。
先の戦争では、新聞などのメディアが、国民の感情を煽って戦争へと突き進ませたとも言
われるが、それと同じことがまた行われても、まったく不思議ではないのがこの国なのだ
と改めて認識させられた。

はじめに
・2015年、マイクロソフトの共同創業者のビル・ゲイツ氏は、パンデミック対策の遅
 れに警鐘を鳴らしていた。「もし次の数十年で1千万人以上の人々が死ぬような災害が
 あるとすれば、戦争ではなく、感染性の高いウイルスが原因の可能性があります。その
 理由は、私たちは核兵器の抑制には巨額資金をつぎ込んてきましたが、伝染病について
 は、ほとんど何もやってきていないのです。エボラウイルスの場合には対策システムそ
 のものが存在しませんでした。大きな伝染病が起こると何十万のスタッフが必要ですが、
 治療の適切さや診断方法を確認する人もいませんでした。これはグローバル規模の失敗
 でした。次の伝送病ではそれ以上の危機をもたらすかもしれません」
・2019年末に中国で発生したCOVID-19新型コロナウイルスは、またたくまに全世界
 へと広がり、6月までに感染者数約7百万人、死者は約40万人に達した。欧米の各国
 の感染者、死者数もすさまじかった。世界最高レベルのCDC(疾病管理予防センター)
 を持つアメリカも対応できず、2020年の6月初旬にはすでに死者数は10万人を超
 えた。 
・日本でも当初いりPCR検査対策はかなり遅れていたことがすでに明確になっている。
 2月14日ごろから、「PCR検査拒否をし続けてきた保健所に批判殺到」などという
 訴えがインターネット上で大きな話題になった。
・1日あたり3千8百件を超える検査が可能になったと明言していた加藤厚労相は、2月
 26日の衆院予算委員会で、平均すると1日9百件しかできてきないことを報告した。
・私は、世間で言われているものとは別の話が、この「PCR検査」にはあるのではない
 かと考えるように到る。それを調べていくと疑問は募る一方だった。特に、医療現場で、
 幾度も感染疑いのある患者に接した医師らも、その患者がのちに陽性と判定されてなお、
 疫学調査では「農耕接触者」に当たらないとされ検査対象から除外された。濃厚に接触
 しているのに濃厚ではないという。なぜなのか。

ジレンマ
・「PCR検査が進まないと安心が戻らない」との声が止まらない。
・2020年2月7日、東北大学の押谷教授のインタビュー記事は「無症状感染者は普通
 に外出しているので、ここから感染が広まってしまう」と警鐘を鳴らしている。だから
 多くの人は無症状感染者を放置できないと考える。
・その一方で、「なぜ国民はムダなPCR検査の大合唱をするのか、わかっていない」と
 一部の専門家たちは各所で狼煙を上げ続けてきた。確率が低すぎる。偽陽性が出る。お
 金がかかる。意味がない。中国や韓国と、日本は違うと。
・5月に入ってもその声はおさまらなかった。「必要なのは検査ではなく自宅隔離と外出
 制限だ」とある臨床医は主張する。
・さらに5月12日には、「PCR検査せよ」と叫ぶ人に知って欲しい問題、という仙台
 医療センター
の西村氏の記事も出た。これを受けたSNSでは「PCRを進めれば陽性
 者が増えて困る」「PCRを要求しているのは左翼」「「PCRが必要は非科学的」と
 いったツイートもまたたくまに広まる。
・6月2日、厚生労働省は、唾液を検体としたPCR検査を可能にする通知を出し、発熱
 などの病状発症から9日以内の有症状者に限って唾液によるPCR検査を承認、保険適
 用にするとした。 
・中国の武漢で、5月14日から6月1日までのわずか2週間余りで、人口約千百万人の
 住民のうち、9百80万人に対して検査を実施。陽性反応を示したのは約3百人で、い
 ずれも無症状だったと記者会見で発表した。
・安倍首相は、5月25日に開いた記者会見で、緊急事態宣言をすべて解除すると正式に
 発表した。その会見で、「わずか一ヵ月半で今回の流行をほぼ収束させることができた。
 日本モデルは世界の模範だ」とアピールした。だがそれは事実に反していた。収束はし
 ておらず、感染者も死者も毎日出ていた。そして「新しいやり方で日常の社会、経済活
 動を取り戻す」と言い、「世界の感染症対策をリードしなければならない」と強調し、
 「目指すのは、新たな日常をつくり上げること。ここから先は発想を変えていこう」と
 も言った。その一方で「二度目の緊急事態宣言発出の可能性もある」とも述べている。
・4月11日に放送されたNHKスペシャル「新型コロナウイルス 瀬戸際の攻防」とい
 う番組は、日本でコロナによる死者が少ない理由を解明した、と評価もあったようだが、
 私にはその番組を観ても死者が少ない理由はちっともわからず、厚労省のプロパガンダ
 にすぎないとの印象が強く残った。
・この番組の中でクラスター対策班リーダーを務める押谷氏(東北大)は、悲壮感あふれ
 る顔でこうつぶやいた。 
 「僕らの大きなチャレンジは、いかにして社会経済活動を維持したまま、この流行を収
  束方向に向かわせていくのかということなので、年の封鎖、再開、また流行が起きて
  年の封鎖ということを繰返していくと、もう世界中がとにかく経済も社会も破綻しま
  す。人の心も確実に破綻します。・・・・その先に何があるか。その先は、もう闇の
  中しかないわけです。その状態を作っちゃいけないんです」
・ショックだった。こんな未来観、悲壮感、ビジョンが。まさに日本の明日を予言してい
 るような言葉に思えた。  
・元厚生官僚で大阪大学感染制御学の森井氏も、最近こう書いていた。
 「大阪モデルに貫かれた基本的認識は、少なくとも今後数年間、もしかするとそのまま
  ずっと、我々の社会はこの新しい感染症と共存していかなければならないという認識
  である」  
・検査を進めた中国や韓国、そして欧米諸国と日本は違う。世界の専門家らは日本を危惧
 している。  
・中国の場合は、無謀ともいえるほど強引にウイルスの「種」を一応すべて刈り取ってみ
 せて「世界一安全」をアピールしている。むろん額面どおりには信じていないが徹底検
 査、徹底隔離のビジョンにゆるぎはない。少なくともそこで国民は安心を得ることがで
 きる。また第二波、第三波が来たら徹底検査、徹底隔離する。そしてワクチンや薬が機
 能するようになれば、それこそ「ウイルスとの共存」という言葉も意味を持つ。
・安心のないなかでは経済は決して戻らない。検査の進まないなかでは、飲食業に満足に
 客足はなかなか戻らない。インバウンドも復活しない。一旦は開放気分になるだろう。
 しかし感染者が増えたら不安がまた全国に広まる。そして基準を超えたら、ゆるゆるの
 不公平な自粛やアラート。自粛に応じなければ感染者は増える。
・国際ジャーナリストの高橋氏は、4月30日、日本のPCR検査数がOECD加盟国の
 36カ国のうち35位であることを「世界と比べても際立つ少なさ」と表現し、「世界
 の主要国と比べ、日本がこれまでPCR検査態勢をきちんと整えてきていなかったツケ
 が明白になってきている」と書いた。
・OECD報告書では、「感染者と接触したすべての人の70%〜90%を追跡し、検査
 で感染が確認されたら隔離する必要がある。これには大幅な検査の増加が必要になるだ
 ろう。新たなロックダウン(都市封鎖)がもたらす影響と比べれば、検査の大幅増加に
 伴う課題とコストの方がはるかに少ない」と述べられている。
・ロイターは「公衆衛生の当局者、医師、専門家など十人以上に取材。彼らの多くは、検
 査体制の拡充の遅れが日本の感染実態を覆い隠しており、再び感染が拡大した場合に国
 民が脆弱な立場に置かれかねないと懸念を示した」と伝えていた。
・日本の厚労省には、こういった疫病に対するPCR検査体制も医療体制も万全ではなく
 危機感も不足していた。
・日本感染症学会の理事長でさえ、2月10日のインタビューでは、中国で6百人以上の
 死者が出ていることに対して、「中国では医療へのアクセスが日本のようによいとは思
 われない状況にあり、重症になって初めて受診して、助かるものも助からなくなってい
 る可能性がある」と述べ、「日本の患者さんをケアしてる医師や看護師が感染したら、
 感染力も病原性も高いとなりますが、それは今のところないわけです」などといってい
 たほどである。
・とりわけもっとも早く対策を行った台湾などをのぞき、この未知のウイルスに対して世
 界各国に危機感が欠如していたので仕方がないと言われればそれまでである。しかし、
 どこかで軌道修正して、PCR検査を進めることができたはずだ。
・日本の水際対策は、中国人観光客の入国を止められず、習近平国家主席の来日への配慮
 から判断が遅れたと指摘され、石破自民党元幹事長からも「入国をもっと早く止めるべ
 きだった」と批判されていた。 
・このウイルスで最も厚労省が頭を抱えたのはダイヤモンド・プリンセス号だったろう。
 この船には、56カ国の乗客約2千6百人と約千人の乗務員が乗っていた。感染者が次
 々と見つかるが検査ができない。経験値もない。しかも、2月18日には、岩田氏(神
 戸大学教授)による世界に向けての全体未聞の告発も出る。
・その上さらに困ったことが起きた。2月22日、厚労省の職員の多くを船内業務後に、
 ウイルス検査も受けさせずに職場に復帰させてしまっていた。このウイルスに関しては、
 すでに無症状に感染者がいることが分かっており、「見えない感染」を厚労省自らが、
 わざわざ国内に広めてしまった可能性があった。厚労省は職員41人に対しウイルス検
 査を行うと発表したものの、医療関係者や検疫官らは十分に感染予防策を取っていたと
 して検査対象から除外した。
・さらには、同船の乗客23人を、定められた期間中にウイルス検査を実施しないまま下
 船させていた。 
・船内業務をした厚労省や内閣官房の職員などの感染が次々と発表され、2月24日には
 政府職員の感染者は6人に及んだ。このことは加藤厚労相の謝罪にまで発展した。
・厚労省の援護射撃をしたのが、元厚労官僚、大阪大学感染制御学の森井氏だった。
 森井氏は、「どこで感染したかはっきりしない、疫学的リンクが追えない感染例が各地
 で確認されるようになり、国内感染期に入ったと考えられる。今後は、急激に国内の感
 染者数が増えていくと考えられる」と書いた。そして「水際対策の目的は、必ずしも海
 外で発生した新興感染症を国内に持ち込ませない」ことではないとした。つまり、すで
 に国内感染期に入っている。政府の水際対策のおかげで時間稼ぎができ、PCR検査や
 医療体制が整えられてよかったではないか、とも思われる趣旨だった。
・国立感染症研究所は1月下旬、自家調整の遺伝子検査を確立したという。
・ある業界関係者の話として、「厚労省は恐らくこれまで通り、感染研が中心となって自
 家調整の遺伝子検査を実施すれば乗り切れるだろう」と高をくくっていたのではないか」
 との批判を紹介している。
・2月26日の記事で、国内感染期に入っていると考えた森井氏は、「感染そのものを防
 ぎきることはできないとしても、取るべき対策はある。ピークを可能な限り低く、そし
 て後ろにずらすことだ」と導いてる。そして、2009年のH1N1インフルエンザの
 例を出し、「この経験から類推すると感染が落ち着くまでには半年前後かかるかもしれ
 ない」と推測していた。
・2月28日、ジャーナリストの長谷川氏は次のように書いた。
 「そもそも、厚労省は今回の新型肺炎を当初から甘く見ていた。感染拡大を防いで、国
  民の命と健康を守るどころか、せいぜい新型感染症の調査と研究が進めばいい、くら
  いの意識だった」
 「感染研は、そもそも感染の拡大防止が目的ではない。調査研究・分析するための組織
  なので、病気を治す臨床活動とは直接関係がないのに、感染研は調査のためにPCR
  検査を民間に任せず、自分自身と都道府県の配下にある地方衛生研究所に絞った」
 「発熱などが起きて、感染を疑う人が最初に頼るのは、近くの診療所やクリニックだ
  ろう。そこで保健所と感染研を知って、全員が検査を受けられればいいが、実際には
  保健所段階でハネられる人が続出した。結果、患者たちは路頭に迷い、感染が広がっ
  たのではないか」    

感染地帯
・マクロからミクロに視野を落として見えたものは、それぞれの不安や憂鬱の重さだった。
 感染者数や死亡者数では見えないものを見たいと思った。それも「見える化」だ。見え
 ないウイルスには検査も有効な手段だが、それだけでは足りない。パニックや差別を起
 こさせない配慮も必要だが、分かっていることをしっかり伝えることが「見える化」に
 つながり、それが安心を生んでいく。
・無症状の人は感染させにくいからPCR検査は無症状の人に使うのは労力とお金の無駄
 だという人もいる。それは本当だろうかと疑心暗鬼になる。では、見えないウイルスが
 水面下で広がっているということは、どう説明できるのだろうか。
・NHKが4月末に報じた番組では、自衛隊中央病院がクルーズ船内の患者について、軽
 症や無症状の人でも胸部のCTスキャン検査を行うと約半数に肺の異常が認められ、そ
 のうち3分の1は、その後、症状が悪化したとする分析結果を公開していた。この特徴
 を「サイレント肺炎」と呼んで、症状の悪化に気付きにくいおそれがあると警鐘を鳴ら
 していた。
・英国の感染症疫学者によれば、「医療従事者など、高リスクのグループを対象とした検
 査が、最も効果的であることがわかった」のだそうだ。医療従事者やその他のリスクの
 あるグループを毎週検査することで、感染率を3分の1減らすことができたと推定して
 いるという。   
・英国でもPCR検査の実施件数は検査キットの不足のためまだ限られている。保健相は
 4月下旬、検査数を増やしていく計画を発表した。だが、医療従事者の検査については、
 依然として「症状がみれれる人」に重点が置かれており、ケンブリッジ大学の研究者た
 ちは、無症状の感染者がウイルスを拡散するのを防ぐためには、医療施設でもっと多く
 の検査を行う必要があると指摘した。症状がある人の隔離に加えて、症状のない医療従
 事者を対象に毎週検査を行うことで、ヒトからヒトへの感染を16〜23%減らせる可
 能性があると報告書は指摘した。
・無症状の人にまで精度の低い検査をやみくもに行うのかという専門家の言い分にも、理
 にかなったものがある。しかしその裏には当事者の立場や利害もからんでくるのでいち
 いち面倒だ。 
・過言ではあるものの、消毒液でも布マスクでもフェイスシールドでも、検査でも、プラ
 セボでも、効果の大小はあるだろうがないよりはいい。マスクの効果をあれほど否定し
 ていた欧米がマスク争奪戦をしマスクを義務化するほどだ。病は気からという。日本が
 無症状患者を検査していないという不安感は日本のインバウンドを壊滅させる。
・病院三団体調査によればコロナの感染で病棟を閉鎖せざるを得なかった病院の2020
 年4月の医業利益率は東京都の病院ではマイナス29.4%、全体でもマイナス6.0
 %に落ちているそうだ。このままでは病院の安心が保たれず市民は治療ができなくなる。
 院内感染が発生しているから閉めるか、発生する前に検査して陽性が出てから閉めるか
 だ。
・もしかしたら医療関係者は濃厚接触しても検査対象から自動的に除外されるんではない
 か。そうであれば疫学調査として医療関係者への感染は分析できない。
・一人の陽性者を疫学調査で保健所の職員が、まるで捜査官のように話を聞いていく。そ
 こで、どの病院を何度、受診したかも判明する。のちの陽性者であるから当然、診察し
 た医師なり看護師に感染させていると考えられる。であれば、その医療関係者は、濃厚
 接触者としてPCR検査の対象となっているはずだと私は解釈していた。しかしPCR
 検査がもったいないから、医師や看護師、医療関係者は検査対象から除外しているかも
 しれない。
・そこで福岡県新型コロナウイルス感染症対策本部に問い合わせると「医療関係者が決め
 られた感染防護策にしたがっている場合には濃厚接触者とはみなされないだろう」との
 回答だった。
・厚労省の新型コロナウイルス対策本部やいろいろなところに聞いているが、要は、規定
 にそえば、たとえ、何百人何千人の感染者と接触していても濃厚接触者にはならないと
 の理屈らしい。   
・よく考えれば、発熱外来などの医師は相当数診ているだろうから「それをいちいち濃厚
 接触者にはできない」ということになるかもしれない。それならばそういう医師や看護
 師には定期的にPCR検査をきちんと提供すればいい。
・国立感染症研究所疫学センターが出している農耕接触者の新しい定義は、以下のように
 なっていた。 
 ・感染可能期間とは、新型コロナウイルス感染症を疑う症状を呈した2日前から隔離開
  始までの期間
 ・患者と同居あるいは長時間の接触(車内、航空機内等を含む)があった者
 ・適切な感染防護無しに患者を診察、看護もしくは介護していた者
 ・患者の気道分泌液もしくは体液等の汚染物質に直接触れた可能性が高い者
 ・その他、手で触れることのできる距離(目安として1メートル)で、必要な感染予防
  無しで、患者と15分以上の接触があった者
  
医療界とメディア
・もっと海外のように限りなく検査をすべきだという意見と、検査の行き過ぎは医療抱懐
 につながるという意見。両者はPCR検査の精度については限界があることを認めてい
 た。また医療抱懐は防ぐ必要があることも、現状ではPCR検査の体制が整っていない
 ことも。さらに新型コロナウイルスというものに無症状の感染者がいることも調査しな
 ければどの程度の感染が広がっているかはわからないことも両者に大きな食い違いはな
 かった。であればどうして大論争になっているのか。
・一つの疑いが生じた。それは表にそれほど出ていない医療界の内部事情だった。しかも
 もう一つ大きな別の懸念に突き当たった。それはNHKという公共放送が越えてはいけ
 ない最後の一線を越えていた。
・加藤厚労相が5月8日の記者会見で2月に設けた一般的な受診目安について「37.5
 度以上の発熱が4日以上続く」「強いだるさや息苦しさがある」などと示してきたこと
 について、「あくまでも基準ではなく目安のつもりだった」と発言し、のちの謝罪につ
 ながった。  
・一方、「コロナ専門家有志の会」4月8日、「37.5度以上の熱が4日以上」「高齢
 者や妊婦は2日以上」などの目安を紹介し、「持病がない64歳以下の方は、風邪の症
 状や37.5度以上の発熱でも、4日間はご自宅で回復を待つように」と記していた。
 この「コロナ専門家有志の会」には、脇田氏感染研所長ら専門家会議の全12人を含む
 21人が参加していたと報じられている。
・国としてはあくまでPCR検査を進めていると表明しているため、「監査を拡大せよ」
 という声に反論できない。PCR検査体制はまだ十分ではない。そのため、専門家会議
 の、さらに下にある「有志の会」を使って「検査を拡大せよ」という声を抑えるために、
 ウエブサイトやSNSでメッセージを出し続けたのではないか。
・なぜなら、「有志の会」が書いた「PCR検査は100%ではない」「そもそもPCR
 検査は新型コロナの感染者を100%正確に陽性と判定することはできません」という
 フレーズが、「検査拡大に反対」する側の様々なシーンで使われてきたからである。
・そもそも、専門家会議の釜萢氏は「陰性証明を求める人に対して応じない」ことを、3
 月19日に報道機関に協力要請していた。
・ここで政府と専門家会議と有志の会や医師会の独立性の問題が出てくる。「検査拡大に
 反対」と言っていた側は、「陰性証明はできません」と言っている有志の会、専門家会
 議、クラスター対策班、感染研、感染二学会(日本感染症学会と日本環境感染学会」、
 それに加えて一部の医師会など(政府側とする)。一方、政府側に、PCR検査をさら
 に行えと言っている「検査拡大」側は、テレビ朝日の「モーニングショー」など民放の
 ワイドナショーや、野党、ジャーナリスト、医師などということであってそれほど明確
 ではない。
・分かりにくいのは、現段階では「検査拡大」の声に対して、「検査拡大に反対」すると
 いう、政府側がいわば抵抗勢力になっていたことだった。
・2020年4月15日に大きな動きがあった。京都大・京都府立医科大が「共同声明」
 という大型花火を打ち上げた。
 この声明というのは、「新型コロナとは別の入院患者や無症状であっても手術や分娩、
 内視鏡検査あるいは恐恐医療などに保険適用や公費でPCR検査を行えるように要望す
 る」というものである。
・専門家会議が「陰性証明」をさせない方針というのは、それは一般市民に訴える場合の
 戦術に見える。なぜなら「陰性証明」をさせろと問題になるほどの大騒ぎはなかった。
 当初は「検査難民」が押し寄せる状態で、とても徹底検査はできない状況だったため、
 政府側が検査抑制のための布石を打ったように見えた。
・同時にそれは「無症状」の人には「保険収載」で検査をさせない、ということだった。
 それはどんなに院内感染が心配な場合でさえも、患者と濃厚接触した医師や看護師であ
 っても、あるいは福祉施設の職員や入居者にも、無症状であれば公費でPCR検査はさ
 せないという原則だったからだ。
・つまり、京都大らに始まる「声明」というのは、この原則に反した医療界内での大きな
 反乱だった。京都大に続く「声明」は、限りない「検査拡大」というよりも、まずは院
 内感染防止という観点であるが、これまでの政府の方針と逆向きの「声明」だったと思
 われた。
・3月中旬に東京都台東区お永寿総合病院で国内最大級の院内感染起こっていた。新宿区
 にある慶応大では、すでに来院者の「無症状」の患者にも自腹で検査を行い、入院前の
 PCR検査および胸部CT検査の実施を始めていた。東大病院でも2月中旬から、外科
 手術を受ける患者に対して無症状でも手術直前に検査をしていた。
・これらの「声明」の結果、5月には「医師の判断で無症状の患者にも検査ができる」よ
 うになった。     
・4月中旬から末にかけて、日本看護協会や、日本医学連合会、日本医学会の130以上
 もの学会が、医療スタッフに対するPCR検査の公費負担」してほしいとの要望を出し
 ている。
・重症者優先としたため開業医が診る風邪症状の患者の検査がブロックされた。クラスタ
 ー対策が優先され私たちは蚊帳の外に置かれた。結局、開業医は検査体制が整わないこ
 との尻拭いをさせられ続けた。スタッフの感染も心配だった。スタッフが4日続き発熱
 で保健所に相談してときでさえPCR検査は認められなかった。医療従事者やスタッフ
 への感染は、一般人と同じ基準で判断された。
・「検査拡大に反対」する人たちは、内向きには内向きに、外向きには外向きに言葉を変
 え、「無症状者にはPCR検査を使わせない」「陰性証明はありえない」「PCR検査
 の精度の問題(偽陰陽性)がある」「膨大な費用がかかる」「検査技師が大変である」
 「検査体制には限界がある」という主張を繰り返した。これらの主張は政府側のものと
 判断された。
・「進めてます、進めてます」と安倍首相が言い、実際に急ピッチで検査体制を進めてき
 たと思われる。しかし実際は、これまでのクラスター対策、疫学調査、感染研による体
 制に固執してきた。それゆえに、政府=抑制側、すなわち「検査拡大に反対」する側で
 あるということの判別がつきにくかった。安倍首相は「進めている」としか言わないか
 らだ。 
・「陰謀論やウソにだまされないで」「本当のことを知ってほしい」というような表現を
 使用して、いくつもの媒体が「検査拡大に反対」側の主張、すなわち政府の主張をその
 まま報じた。「ワイドショーには騙されないで」などと民放を攻撃し、政府養護だけを
 してしまうという経緯も見られた。一方の民放は、政府の方針にすべて否定的であると
 いうことではなかったのにである。
・「無症状の患者にも検査を、保険適用を」との声明に、敏感に反応したのは元厚生官僚
 で、大阪大学感染制御学の森井氏だった。
 「本音では多くの医療機関は、コロナを診たくない。コロナが混じっているかもしれな
  い一群の患者も診たくない。結果として、発熱や呼吸器症状のある患者そのものの診
  療が拒否されている。まるでばい菌扱いである」といった露骨な表現も見られた。
 「原因が医療側にある」として、
 「PCR検査が足りないままここまできた。なぜか?最大の原因は、医療者がPCR検
  査をしたがらなったからだ。検査が増えないのは、国の怠慢ではない。国は、早々に
  PCR検査の保険収載を決めた。患者負担もないように配慮されている」と、検査が
  増えない責任は、国ではないと強調する。
 「帰国者・接触者外来でしか検査が出しにくいという難点はあるが、保健所が医療機関
  に対して帰国者・接触者外来を引き受けるよう要請しても、少なくない医療機関がこ
  れを拒否したと聞いている。また、引き受けた場合でも、それを公表することを拒ん
  でいる。公表すれば、検査を求める患者を集めることになると恐れたからだろう。自
  施設検査だけでなく、外注検査も十分に増えていない理由がここにある」と医療機関
  の問題を指摘する。
 「確かにPCR検査はどこでもできる検査ではない。しかし、大学や(国立の)研究所
  に付属する医療機関であっても、自施設内での検査を行っていないところは多い。で
  きるけどやらないところが一定数あるのだ。厚労省から直々にPCR検査を引き受け
  るように要請された医療機関も多いが、それでも検査数は国の目論見通りには増えて
  いない。理由は同じ。コロナを診たくないのだ」
・森井氏は、PCR検査の遅れは国の責任ではないと言いながら、無症状の患者に保険適
 用ないしは公費で検査することを要望した「声明」に異議を申し立てている。また、森
 井氏の文章で、「全てのケースでしかるべき防護具を付けて行えばよい」という考えは、
  実は国=感染研の考えと同じである。
・この森井氏の記事に対し、自らの疑問を投稿した放送大学教授の田城氏の声は誠実なも
 のを感じられた。
 「クラスター対策で、濃厚接触者にPCRをします。濃厚接触者の中には、症状がなく、
  自分自身で感染に気づいていない人も多くいます。この人達へのPCRも無症候性か
  ら駄目なんでしょうか。一般病棟に入院させようとしている患者に対して、患者間の
  院内感染を防ぐため、また医療者、自分の病院の職員に対して感染させることを防ぐ
  ために、確認したいと思うことは、そんなに悪いことでしょうか。手術を予定してい
  る患者さんには、B型肝炎、C型肝炎、STS、HIVなどの検査をします。これも、
  検査しては、駄目なんでしょうか」
 「PCR操作が律速段階になり、保健所の人たちが、矢面に立って、PCR検査数を抑
  えているのは、悲しく、保健所の保健師さん他の職員の皆様に同情いたします。もう
  少しPCRを増やすことは、物理的にも、人材的にも可能だと信じています。確かな
  症状のある人は、迅速診断して、できれば重症化予防の治療薬を重症化する前に処方
  すれば、少しは亡くなる人も減るのではないかと思います」
・発熱外来での診察には医療機関に支払われる診療報酬として、通常の診察料の他に1件
 3千円の加算がつくようになった。しかし「専任の医師に看護師、複数の事務職員を配
 置した上に、防護服や設備経費の支出もあり、この程度の加算では全然見合わないとい
 う。  
・厚労省は4月18日からICU入院料を通常時の2倍にし、重症者以外の新型コロナ患
 者を治療した病院への報酬も上積みし、さらに5月の終わりごろには、ICUなどの診
 療報酬を平常時の約3倍にするなども承認している。
・森井氏は、6月になっても、次のようなことを書き続けている。
 「一般市中病院にとってPCR検査はいくらやっても儲からない。それどころか、下手
  にPCR検査を出すとその検体はコロナ疑いとなるため、他の項目の検査検体もバイ
  オセーフティレベルの高いラボまで郵送することが求められる。検査全体の収益が直
  ちに赤字になる」 
 「解決策は簡単である。無症状者へのPCR検査を直ちにやめればいいのだ。それがで
  きないなら、せめて診療報酬をかなり極端に引き下げる必要がある」
・国立病院機構仙台医療センター臨床研究部ウイルスセンターの西村氏はこう書いている。
 「やみくもに数を増やすことには否定的な専門家が多いのも事実である。一方、素人の
  コメンテーター、怪しげな専門家は論外として、臨床の先生方からの要望は無視でき
  ない」  
 「議論の中で、ほかの国がああなのに、どうして日本だけこうなの、といった論調があ
  るが、それは、幼子の親へのねだりと大して変わらない。日本は、少なく抑えていた
  ポリシーを持っていたのだから、それを変えさせるためには理屈で戦うべきであろう」
・西村氏のいう幼児とは、素人のコメンテーター、怪しげな専門家というのを指すのだろ
 う。あるいは、苦しみながら電話機や携帯を握りしめて保健所に相談した約18万件も
 の人の訴えが、医師から見れば患者の「おねだり」に見えたのだろうか。しかし素人の
 コメンテーターとて、その苦しむ人の声に押されたのではなかったのか。
・西村氏は現状でPCR検査をどんどん増やしていくとしたときの考慮すべき問題点とし
 て次のような点をあげている。
 ・検査の精度、偽陰性と偽陽性
 ・検査結果の意義、解釈
 ・検査に必要な人員の不足
 ・検査キットとくにRNA抽出キットの枯渇の可能性(第二波が来た時無防備で良いか)
・西村氏は「RNA抽出キット」がないとどうなるかと懸念する。
 「無制限の検査が行われた時、キットは間違いなく枯渇する。が、その状況でもしこの
  冬流行第二波が日本で起きた時、PCR検査はできないことになるがそれで良いのか。
  いま無駄撃ちを賢く抑え、次に備えて節約するという発想はないのか。しかもRNA
  抽出キットは、国際的争奪戦が繰り広げられている可能性が高い」
・5月12日の東洋経済誌に西村氏が発表した「PCR検査せよ、と叫ぶ人に知って欲し
 い問題」というタイトルの記事は、刺激的で効果的である。ただそれゆえに危険性もあ
 る。なぜなら、実際には、PCR!、PCR!と叫んで、5千人がプラカードを掲げて
 街を練り歩いたという事実はなく、また「陰性証明」なるものを求めた労働者はいたと
 の報告はあったが、抗議行動を繰り広げたり数百人の行列ができたとは聞かなかった。
 あったのは3月13日までの、約80万件もの相談だった。
・そういうタイトルをつけて、西村氏が訴えたことは「PCR検査の現場をよく知り立場
 からの問題提起である」とした上で、「感染者数をごまかしたいから、政府は検査しな
 いという話がSNSなどでは広まっている」という。これには驚いた。ほとんど似たこ
 の手法を使って何本も同様の報道が出ていたからだった。
 ・毎日新聞:「政府は患者数を少なく見せようとして、ウイルス検査を増やさないので
        はないか。インターネット上では陰謀論が渦巻いている」(4月15日)
・西村氏の記事は、無症状の人への検査、研究者と現場の技師との関係、検査ばかりして
 偽陽性も含めて全部治療に回すことへの警鐘を行う、といったことに否定的であるから、
 これが「検査拡大に反対」する側(=政府側)の主張と一致する。
・さらに西村氏は、テレビのコメンテーターになっている医師たちが、「(簡単ですよ、
 はいわないまでも)私も研究で何百回となくやりましたが」とか、「人をかき集めて訓
 練すればできますよ」などと言っているのを聞いて、正直、腹が立ちますと述べている。
・この西村氏の訴えは、実は一般読者だけではなく、国の機関や厚労省、あるいは医師会
 や医師らに向けた、何かのメッセージなのではないかという疑問も抱かせた。
・さらに西村氏はこの記事で次のように言っている。
 「発症前の感染者がどんどんうつしているという話をする人も、そうしたデータを示し
  ていない。データがない中で誰がどういう根拠で決めているのかわからない。一般の
  人たちに対してドアノブに触るなとかいうけれど、ドアノブで感染している証拠なん
  かない。手洗いが一般論として大事なのは間違いないが、細菌とコロナウイルスとは
  違うのに、コロナウイルスを細菌のように語る間違った情報が拡散して変な方向で”
  怖れすぎ”が跋扈している」     
・しかし、厚労省の「事務連絡 令和2年3月31日」には、「手洗いを丁寧に行うこと
 や、食器・手すり・ドアノブなど身近な物の消毒には、熱水や塩素系漂白剤で行ってい
 ただくことを徹底いただくようお願いいたします」との記述がある。また首相官邸のウ
 エブサイトにもある。確かに西村氏の言うようにデータは示されていない。
・そうすると国民は、厚労省や首相官邸などと、西村氏のどちらを信じたらいいのだろう
 か。 
・西村氏の記事のように、「PCR検査せよ、と叫ぶ人に知って欲しい問題」とタイトル
 を入れると、「検査拡大」を主張している人が感情的に叫んでいるという印象が形成さ
 れる。
・3月13日の文春オンラインでは、「PCR検査の拡充を妨害しているという”陰謀論”
 まで飛び出しました」というふうに「陰謀論」という表現を使った。  
 「1日5千件以上も検査をしている韓国に比べ検査数が増えないのは、政府が感染者を
  少なく見せかけるために抑えているからだ」
 「感染研(国立感染症研究所)がデータを把握しようとPCR検査の拡充を妨害してい
  るという”陰謀論”まで飛び出しました」
・4月15日には、毎日新聞も同じように「陰謀論」という言葉を使った。
・「政府に対する陰謀論」という印象を植え付ければ、政府に賛同することに受け手を誘
 導できる。むろん逆の場合、政府ではない側に対する陰謀論とすることもできる。
・これらのマスコミにおいて確認される数々の奇妙な現象は、もちろんPCR検査の是非
 ではなく、保守とかリベラルの対立軸で語られているものでない。
・4月17日の「INFACT」では、
 「政府の専門家会議はメディアなどで、検査数を抑制することで人々が病院に押しかけ
  る事態が避けられ、その結果、医療崩壊を回避することができたと説明している。つ
  まり、医療崩壊を招かないために検査数を抑制してきたという説明だ。しかし、大規
  模な検査が行われているドイツや韓国で医療崩壊が起きているという報告はない」
・2月28日のテレ朝の「モーニングショー」に出演した元感染研の岡田晴恵氏が、
 「これはテリトリー争い。このデータはすごく貴重で、地方衛生研究所から上がってき
  たデータは感染研が掌握しており、このデータは自分で持っていたいと言っている感
  染研のOBがいるという話を、ある中枢の先生から聞いた」と発言した。岡田氏の発
  言は立証されていない。
・2月28日のブルームバーグに次のような記事が掲載された。
 「国民民主党の原口一博国会対策委員長は、安倍政権は国内感染の拡大について、五輪
  を控えているので極小化しとうとしている、との見方を示す。民間でのウイルス検査
  が広がらず、国立感染症研究所や保健所といった公的機関が検査の拡大を阻む関所と
  なっているのが現状であり、日本だけが世界の標準から大幅に遅れているし、ずれて
  いる、と政府の対応を批判した」
・何度か想像したことがある。もし有事になったときに、一斉に、マスコミが自国政府の
 都合のいいことしか発表しなくなる。独裁国家の報道のように。そのようなことはあり
 得るのだろうかと。  
・日ごろは、戦争反対と平和は大事など、様々に言っているマスコミが、有事の際には、
 どんなふうに変化するのだろうか。有事の際に必要なのは、強い指導力だろう。だから
 言論統制が始まる可能性もあり。有事の際には必ず政府への批判も高まる。それを封じ
 ようとする政府の力に大きな言論機関が協力し始めると、徐々に言論統制が進み国民は
 独裁国家への暴走を止められなくなる。そのときインターネット世論を封じ込めるとき
 の口実は何だろうか。
・4月28日、NHK「ほかよう日本」は、まったく「ずるい」ことをやった。それは
 「ほんとうのことを知ってください!」とセンセーショナルなタイトルをつけたニュー
 スを放送したのである。それは神奈川県医師会の発信する「かながわコロナ通信」に書
 いてあることを取り上げ、その流れで番組は構成されていた。
  この記事のポインン 
  ・メディア報道への警鐘から始まったメッセージ
  ・「今すぐにPCR検査を増やせ」の風潮に疑問
  ・「正しい情報で冷静な行動を」 差別とも闘う医療現場
  ・医療資材が不足 医療現場の状況を示す動画
  ・”医療崩壊”を防ぐために
 「専門家でもないコメンテーターが、まるでエンターテインメントのように同じような
  主張を繰り返しているテレビ報道があります。視聴者の不安に寄り添うコメンテータ
  ーは、聞いてきても視聴者の心情に心地よく響くものです。不安や苛立ちが多い時こ
  そ、慎重に考えてください」
 「正しい考えが、市民や県民に反映されないと不安だけが広まってしまいます。危機感
  だけをあおり、感情的に的外れのお話を展開しているその時に」
 「出演している医療関係者も長時間メディアに出てくる時間があれば、出来るだけ早く
  第一線の医療現場に戻ってきて、今現場で戦っている医療従事者と一緒に奮闘すべき
  だろうと思います」   
・「本当のことを知ってください!」と冒頭で訴える。すると神奈川県医師会の言うこと
 が本当のことで、テレビ報道に出てくる「非専門家ら」=「危機感だけをあおり、感情
 的に的外れのお話を展開している」人たちに騙されている、という印象を視聴者は持っ
 てしまわないだろうか。
・長時間メディアに出演している医療関係者も相応の仕事をしているわけである。もし医
 療関係者をテレビに出すなということになれば、番組はそれこそ素人のコメンテーター
 のみになるからだ。    
・「医療現場で起きている実情や、一部のメディアなどで繰り返される主張に対する疑問」
 という表現を挿入すれば、「ああ、この医師会が言っていることのほうが、ワイドショ
 ーより正しんだ、一部のメディアで言っていることはウソなんだ」と思わせることがで
 きる。 
・このNHKの「おはよう日本」でも、「PCR検査の精度の問題、つまり偽陰性のこと
 をどのように考えなくてはならないかということです」と伝えることにより、検査を抑
 制する側の主張を「ほんとうのこと」として伝えているのだ。これはフェアな報道とは
 言えない。せめて、その偽陰性のあるPCR検査によって、疫学調査で、当該指定感染
 症の法的な隔離措置を行っていることの課題も伝える必要があったのではないか。
・このNHKの「おはよう日本」の番組に対する私の見解はこうだ。
 ・公平性に欠ける
 ・検証不能な抽象的な表現が多い
 ・一つの主張を事実として報道する偏向方小津である
 ・放送内容を正しいとし、恣意的に論争のある他方の側を間違いという印象を持たせる
  「印象操作」の疑いがある
 ・議論がある内容が含まれていることが分かりやすくされていない
 ・公共放送により、民放への悪質な攻撃が行われている
 ・事実ではない表現が含まれている
 ・一連の報道を検証し経緯を明らかにする必要性がある
 ・政府政策に対する発信の機会を奪い、議論を委縮させる可能性がある
 ・大きな力を持つ公共放送が、このような形で民放を攻撃するのは問題である
・このNHKの番組は、神奈川県医師会の口を借りた民放攻撃であり、政府政策を検証し
 ようとする側への言論封殺と言われても仕方がない。これはしっかり記録され論文によ
 って分析されるべき、いわばベガトン級の放送事故で、PCR検査をどうするかとは別
 の問題だった。
・これまで見てきた民放の報道は、相撲で言えば物言い程度かもしれない。しかしNHK
 は反則負けである。サッカーで言えばレッドカードだろう。これは言論の閉ざされた近
 くの国、北朝鮮の、あるいはそのお隣の国、言論に規制のある中国などの国営メディア
 にNHKが近づいていく、いわば序曲なのかもしれない。
・米国のトランプ大統領は「戦時大統領」と名乗り、中国の習近平国家主席はこの闘いを
 「人民戦争」と称し、フランスのマクロン大統領も「我々は戦争状態にある」と述べた。
・安倍首相は、けっして脅しはしない。他国と違って日本は人権を守っていると言う。日
 本の感染症への対応は世界において卓越した模範でグテーレス国連事務総長もそう評価
 してくれた。人口当たりの感染者数や死亡者数を、主要先進国の中でも圧倒的に少なく
 抑え込むことができ、世界の期待と注目を集めている、とスピーチしていた。
・本当のところ自粛がいいのか、ロックダウンがいいのか、何もしないほうがいいのかな
 ど、まだ世界のだれにもわからないのだということがわかってきた。
 
エピローグ
・日本のニュースにおいては、皮肉っぽく書くならば、「偏見やえこひいきをすることを
 当たり前だと思っている」ケースさえ見受けられる。その根底には、例えば、新聞がい
 わば良識であり、確かな取材にもとづいて発信しているという自負があるからなのでは
 ないかと感じることもある。 
・テレビや新聞、週刊誌などの記者が、裏を取りながら懸命に取材をしていることは事実
 であるとしてもなお、少なくとも白熱している今回のPCR論争で、対立する両者の意
 見がフェアに議論され報じられたイメージはなかった。