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筆者は、非常に稀な学歴を有しているようだ。普通なら、中学校から普通高校、そして大
学へ、さらに大学院へと進むのが一般的だと思うのだが、筆者は中学校から高専(高等専
門学校)へ進み、そこを卒業後、会社を起業し、それから筑波大学へ進み、そして東京大
学大学院へと進んだようだ。こうした進路を歩んだ人は、まずいないのではなかろうか。
それに、3歳にBASIC言語によるプログラミングを学び、小学校時代は図書館にこも
ってひたすら勉強し、小学校を卒業する時には微積分を自由に操れるようになったという
のだから、まさに神童だったと言ってもいいのだろう。
日本が持つ、致命的ともいえる弱点は、大半の日本人が英会話能力を持たないということ
だろう。中国のように、巨大な数の人口と広大な国土を有していれば、中国一国だけの市
場でも十分大きいために、あえて海外進出しなくても、自国内だけで経済の発展は維持し
ていけるのだろう。しかし、それほど大きな人口やと小さな国土しか持たない日本は、ど
うしても海外進出しないと、経済の発展は維持していけない。それどころか、海外の規模
の大きい企業に飲み込まれてしまって、海外の下請け的存在の国でしか生き残れない。
日本が、諸外国に対して太刀打ちできない根本的な原因は、日本の学校教育制度に問題が
あるというのが筆者の主張らしい。日本の学校教育制度は、旧態依然として、古文や日本
史に大きな時間を割いているが、いくら古文や日本史を教育しても、お金を稼げる人材は
育たない。それよりは、英会話やプログラミングの教育に時間をかけるべきだという主張
だ。
それがよいか悪いかは別として、世界の評価基準は、お金を稼げる人であるかどうかで決
まるというのがまぎれもない現実だ。ところが日本は、いまだにお金儲けをする人は、低
俗な人という評価をする傾向が強い。世界の評価基準とは完全にズレているのだ。これで
は、諸外国に太刀打ちできない。このままでは日本は、諸外国に負け続け衰退をしていく
ばかりである。
このことを、日本の文科省も、やっと気がついたのか、最近は、英会話やプログラミング
を小学校の教科に取り入れるようになってきたようだが、これが、なんとか間に合って、
諸外国に追いつければいいのだが、物事はそうは簡単ではなさそうだ。というのも、AI
(人工知能)の世界は日々進化し続けており、近い将来、もはやプログラミング能力を必
要としないところまで来ているからである。
しかし、今後、どんな能力が必要とされるのか。どうしてAIが救国になるのか。この本
を読んでも、今一つ私には、具体的なイメージは湧いてこなかった。これは、私の能力が
筆者のレベルより、はるかに低いからなのだろう。いやはや、たいへんな世の中になった
ものだ。

しかし、この筆者は、ツイッターで虚偽の投稿をして、あのジャーナリストの伊藤詩織
んの名誉を傷つたとして、2020年1月に東京大学を懲戒解雇されたようだ。そして2021
年7月に東京地裁は、筆者に対して33万円の支払いを命じた。
筆者はAIばかりを研究し過ぎて頭がが変になってしまったのか。たいへん残念なことに
なってしまった。


日本衰退の責任は若手の実力不足にある
・米国のGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)や中国のBAT
 (バイトゥ、アリババ、テンセント)といった輝かしいIT企業は、すべて10代から
 30代の若手が起業した会社である。これらと日本の組織構造を比較し、「日本企業は
 年功序列であるから」という言い訳が当然のように使い回れて、国民による怒りの矛先
 が、実力ある若手を飼い殺しにする無能な管理職へと向けられている。確かに、高度成
 長期は、日本企業の大半は年功序列だったかもしれない。しかし、それから半世紀も経
 過し、団塊の世代が定年を迎えた今、果たして本当に日本企業は当時の伝統的な構造か
 ら脱却できていないのだろうか。
・断言しよう。今や日本企業は年功序列などではない。むしろ、旧体制の企業はイノベー
 ションを経営に取り入れられずに挫折し、市場の主戦場から退場を余儀なくされている。
 それゆえ、生き残った企業は、すべて若手に対して活躍の機会を用意している。
・これだけ若手が優遇されているのにもかかわらず、日本からGAFAのようなディスラ
 プティブ(破壊的)な巨大IT企業が出現しないのはなぜなのか。理由は明快だ。日本
 に実力ある若手がそもそも存在しないからである。
・私は東京大学の准教授。外資系IT企業であるIBMで金融システムの基礎研究を行っ
 た後、1年半で社長賞を獲得し、学生時代に師事していた松尾豊教授の研究室に戻り、
 2019年の3月まで助教として教鞭を執っていた。その後、学内での熾烈な出世争い
 を勝ち抜き、大学としては異例の飛び級昇進を実現、31歳にして准教授となった。私
 が昇進する前の東大准教授の最年少は32歳であるから、現時点での最年少である。
・私の大学での講義のテーマは人工知能である。深層強化学習という人工知能の学習アル
 ゴリズムを、格闘ゲームを使いながら、生存競争という文脈にたとえて伝えている。
・今生き残っている生物は生存競争というゲームを勝ち抜いた生物であり、脳の仕組みは
 生存競争を戦い抜くのに適した構造をしているということ、こうしたルールは、市場と
 企業との関係も同様であるということである。
・実際、脳から学ぶことは多い。時折、非合理的な行動を創発する好奇心も、実は生物が
 変化に適応し、生存競争を戦い抜くのに重要だったことが、最近は実験的に示されてい
 る。    
・自然というのは弱肉強食なので、勝った生物だけが生き残るようにできている。生き残
 れるかどうかは、環境の変化にいかに合理的に適応できるかに大きく依存する。これは
 市場原理でも同様であり、変化に適応できない企業は衰退する。    
・現在でこそ東大で教鞭をとる自分であるが、生まれはごく普通の家庭であり、周りと同
 じスタートラインからスタートしている。実家は福島県いわき市の小名浜港という漁港
 の近くであり、父は会社員、母親は美術系専門学校出身の専業主婦という家庭で育った。
・当時電気屋を経営していた祖父が事業に失敗し、多額の借金を抱えていたのと、四人兄
 弟であることも相まって、銀行の預金高は常にゼロ。中流のやや貧困層よりという形で、
 物には常に不自由しており、経済的にはむしろマイナスからスタートした。
・ただ、一つだけ周りと違った初期条件を挙げるとすれば、エンジニアであった父が、何
 を思ったのか当時3歳の私にBASICを使ったプログラミングを教えたことだった。
・小学校に上がった私は、家に帰るとすぐにNEC PC98に搭載されたBASICで
 惑星軌道の物理シミュレーションを行い、自分の仮説が合っているかを確かめる、とい
 う生活が続いていた。   
・特別な家庭に生まれたわけでもない私がいかにして今のポストに登り詰めたかというと、
 時間的・金銭的なリソースの欠乏を、テクノロジーによってカバーするという徹底的な
 省エネの術を、人生の早い段階で見つけたことが大きいように思う。お金を無駄にする
 活動は、大体時間も無駄になる。そのため、小学校時代から図書館にこもってひたすら
 勉強した。図書館で様々な著名人(経営者・研究者)のエッセイを読んでわかったこと
 は、「スキルは希少価値がないと意味がない」ということであり、苦手なことで時間を
 無駄にしないよう徹底的に取捨選択してきた。こうした選択と集中のおかげで、小学校
 を卒業するときには微分積分を自由に操れるようになっていた。成績は常にトップレベ
 ルであったが、進学校には進まず高等専門学校、いわゆる高専に入学した。
・成人式を迎え、高専から地元を離れることになったときには、既に経済産業省から最年
 少未踏ソフトウェアプログラマー/スーパークリエータの認定を受けており、高専機構
 あら表彰され、株式会社Curioという会社の創業者になっていた。その後、筑波大
 学に入り、最終的に東大大学院の博士課程に入学、そこで人工知能の第一人者とされる
 松尾豊と出会った。
・一般に、「IT系」(エンジニア、研究者、コンサルタント、起業家)と一括りにされ
 る職業は基本的には専門職に位置づけられ、高給取りというような印象があるかと思う。
 ただ、残念なことに最近ではIT系という言葉はブルーのスーツを着たSIer(シス
 テムインテグレーションを行う業者)たちの手で少し手垢が付いてしまい、「IT土方」
 というネガティブなニュアンスを含むようになってしまったので、ここではスペシャリ
 ストの意味でIT系の専門職を「テクノロジスト」と呼ぶ。
・年功序列の従来型社会には、「若手は優秀ではない(あるいは未熟である)」という、
 シニアの間で交わされる暗黙の了解が前提として存在している。もちろん、こうした傾
 向は、本来ならばテクノロジストに限らず、あらゆる職種のサラリーマンに適用される
 性質である。しかし、多くの場合スキルは経験値に比例するので、現実的にも若くて優
 秀な人間というのはなかなか存在しない。
・一方、テクノロジストの場合は、常に何らかの破壊的イノベーションが起こって新しい
 職種が生まれ続ける。言うならば、毎回新しい競技が作られるオリンピックのようなも
 のである。新しい競技では、50歳も新入社員も同じスタートラインに立ち、一からト
 レーニングをする必要がある。
・ところが、人間の脳は面白いもので、「若手は優秀ではない」という一般的なサラリー
 マンの原則をテクノロジストに対しても適用してしまう。その結果、若手にアドバンテ
 ージが生まれるという、年功序列とは逆の現象が起こる。
・もちろん、実際に若手の方が体力もあり無理もできるし、組織の色に染まっていないの
 で柔軟な考えができ、贅沢をしないので生活コストもシニアと比べて安く済むのでコス
 パも高いなど、管理職が登用する上での色々な副次的メリットもある。
・10年、20年前はまだしも、今でも日本企業が年功序列なのかどうかというと、そう
 いった旧体制の企業が今でも本当に存続できているかは疑わしい。私はIBM時代、金
 融機関や製造業など色々な日本企業のクライアントと話す機会があり、その中で分かっ
 たことは「日本季語湯でも、今や大企業は決して年功序列などではない」ということで
 ある。 
・日本企業の上層部もそれなりに賢いので、米国企業を研究し、テクノロジーの変化に追
 いつくための施策を行っている。組織構造をいきなり変えるのは難しいので、実際には
 部門の開設や、子会社化などの方法をとることが多い。そして子会社が技術に適応し自
 然と拡大する、といった傾向となる。
・IT企業の場合、こうした動きはさらに顕著である。メリカリの子会社メルペイや、ソ
 フトバンクとヤフーのジョイントベンチャーであるペイペイなど、最近のキャッシュレ
 ス社会化に適応するがごとく新しい動きが出てきている。
・新しいテクノロジーが生まれると、それに適応するための新しい組織が誕生する。そこ
 へのヘッドは優秀な若手が重用される。一方で、保守的な年功序列の企業はもはや市場
 から退場を余儀なくされ、組織構造を変革してきた企業が失われた30年を生き残って
 いる。
・ところが、周りを見渡してみると、どうやら表に出てきている優秀な若手というのは非
 常に少ない。さらに面白いことに、私の周りの管理職の嘆きは、「折角ポストを作って
 も、優秀な若手が入ってこない」という点にある。まず、プログラミングができない。
 こうなると致命的で、テクノロジーが理解できない。そうすると、基本的には管理職が
 ゼロベースで勉強した方がまだよいことになる。今の企業が求めているのは、テクノロ
 ジーがわかる管理職であるが、実際には手に職を持ったIT土方タイプか、口だけ動か
 す高学歴ジェネラリストに二極化されており、その中間であるテクノロジストがほとん
 ど存在しない。   
・要するに、若手にそもそも(テクノロジストとしての)実力がないのである。日本の衰
 退の原因は、企業の組織構造にあるのではない。原因は、若手を教育するシステムのバ
 ージョンの古さにある。  
・実際に、今の高校生は、グーグルはおろか、ウィンドウズ95が登場する前に作られた
 大学入試センター試験の仕組みの上で勉強しており、テクノロジーを学べる機会は大学
 に入学した後からである。今の教育システムは、専門教育よりも学歴を重視しているの
 で、専門知識を獲得するインセンティブが親にも子供にも存在しない。
・今の日本は既にテクノロジストを優遇する実力社会であるが、残念ながらそこに若手が
 付いてこれていない。日本が年功序列なのではなく、教育が古いので若手に実力がない
 だけである。 
・私は中学時代、ほとんど首席に近い成績を収めていたが、進学校を選択しなかった理由
 は体験入学にあった。進学校では、常に大学受験が主眼に置かれており、大学に受かる
 ためにはどうしたらよいか、という観点で数学を教える。いわゆる「受験数学」である。
 小さい頃から数学の本を読んでいた自分としては、この受験数学というものがいかに意
 味のないものか、ということがすぐにわかった。一方、高専の場合、数学は常に実用が
 前提である。同じ三角関数でも、電気の交流のモデリングに使えるとか、超電導の設計
 に使えるとか、色々な応用例を見せてくれた。
・面倒な高校/大学受験をスキップして東大の肩書きだけ手にするというテクニックは、
 「学歴ロンダリング」と呼ばれることがある。高専から編入学する以外にも、たとえば
 帰国子女枠を使うとか、修士課程・博士課程から入学するなどの方法が存在する。お金
 の経歴がマネーロンダリングによって洗浄されるように、低学歴の人間が東大に入るこ
 とで洗浄され、高学歴になるという訳である。
・マネーロンダリングや裏口入学とは違って正規の手続きであり、実際のところ私を含め、
 東大教員は肩書きのために入学することを特に問題視していない。目的は人それぞれで
 あるし、単に東大が学外の優秀な人材を取り入れるために、こうしたキャリアパスも用
 意しているというだけだ。もちろん、学内では講義の評価や卒業試験、就職活動は平等
 に実施されるので、文句があれば単にそこで戦えばよいだけの話である。本当に進学校
 出身者が優秀なのであれば、学歴ロンダリングの人に勝てるはずなのだが、どうやら現
 在は、残念ながら高専出身の方が評価が高い傾向にあるようである。
・実際には高専から東大に編入する場合は、大学3年生ではなく大学2年生からのスター
 トである。つまりキャリアが1年遅れてしまう。そのため、私は3年次編入ができる筑
 波大学の情報学類に編入し、その後コンピュータサイエンスの専門知識を身につけた後、
 大学院の博士課程から東大大学院へと進学した。
・単に東大の肩書きが欲しいだけであれば、高専を通して編入学するか、大学院から入っ
 た方がはるかに容易である。大学院は専門教育を目的としているから、古文の試験はな
 い。  
・教育というと通常、年上の先生がいて、年下の若手に対して教えるというイメージがあ
 る。他方、テクノロジーの進歩やそれに伴う新市場の創出という点だけ切り取ってみれ
 ば、シニアも若手も変わらない。最先端の技術になってくると、こうした年齢の違いは
 意味をなさなくなり、むしろ年下が年上の社会人に対して教えることも多い。知識が上
 から下に流れるのではなく、下から上に流れているという現象が起こっているのだ。
  
なぜコンサルタントがエンジニアより偉いのか
・かつて技術大国として時代を謳歌した日本が、エンジニアにとってのディストピアと化
 した原因は、「大学受験のジレンマ」に他ならない。プラットフォーマーの競争力の源
 泉は、英語が話せる若手エンジニアである。他方、日本は大学受験をパスするために、
 英語会話能力やプログラミング能力よりも古文や日本史の知識が評価されるため、受験
 生側にプラットフォーマーを生み出すスキルを磨くインセンティブが生じない。いくら
 日本の義務教育制度が識字率99%以上を達成し、海外から先進的であるという評価を
 受けているとはいえ、英語については高いコストを払ってスクールに通うか留学する以
 外になく、発展途上国と同様に明らかな教育格差が生じている。
・単純労働化したエンジニアの経済的待遇は中流かそれ以下に分布するため、英語の識字
 能力を有する若手エンジニアの割合となるとダブルで少なくなり、1%にも満たなくな
 る。そのため、たとえ一部の起業家が海外プラットフォーマーのビジネスモデルを輸入
 し、一時的に日本で覇権を取ったとしても、その後は言語の壁を越えきれず、結局はコ
 スト優位性のある海外大手に規模の経済で敗北するという「タイムマシン敗北」が30
 年間にわたって続いている。
・プラットフォーマーによる高度なエンジニアの需要が生まれなければ、日本のエンジニ
 アはSIerに就職し、IT土方と同じ待遇で手を動かしながら、コンサルタントに労
 働力として搾取される宿命を辿る他ない。
・日本の20代のエンジニアの平均給与は約400万円だが、同じ人間が外資に就職すれ
 ばそれだけで年収は1000万円を超え、ディープラーニング技術など高度な専門性を
 有するエンジニアは4000万円以上の年俸をもらい「プロスポーツ選手化」すること
 も少なくない。こうした状況は同時に、日本から外資にエンジニアが流出する現象を起
 こしている。
・技術力の流出に歯止めがかからなければ、日本からプラットフォーマーが生まれる可能
 性はより低くなるし、そこに少子高齢化による労働力人口の現象が重なり、日本は製造
 業と文化資源に依存するアジアに田園都市として、GAFAに隠れて細々と存続し続け
 るだけの牧歌的な最期を迎えることだろう。
・プラットフォーマーユーザー数が多い方が規模の経済が働いてコスト優位性を担保でき
 るため、基本的には世界的に話者人口の多い英語圏や中国圏の企業が得意としている。
 米国で時価総額の上位に占めているIT企業であるGAFAは、すべてプラフォームか
 ら得られる売上を収入源としている。
・米国GAFAに次いで、こうした傾向は中国BATでも同様に見られる。バイドゥは検
 索エンジン、アリババはECやモバイルペイメント、テンセントは通信事業をそれぞれ
 手掛けている。もともと他国と比べて人口が圧倒的に多いので、中国でプラットフォー
 ムを展開すると基本的には中国圏だけで完結するため、海外展開の必要がない。
・日本国民の大半は、英語力に関しては国民創出で壊滅的であるため、これら海外企業に
 対抗する地の利が働かず、プラットフォーム戦争においては文字通り全滅している。今
 も東大生ですら英語は読めても話せないことがデフォルトである。そのため、仮に国内
 のプラットフォーマーが一時的に日本で覇権を握れたとしても、その先の海外市場まで
 展開できず、最終的にはインターネット回線に乗ってやってきた海外企業に攻め込まれ
 るといった現象が立て続けに起こっている。対GAFAだけで見ても、ヤフーがグーグ
 ルに、ガラケーがアップルに、ミクシィがフェイスブックに、そして楽天がアマゾンに
 駆逐されたことからも日本の敗戦は明らかである。(ちなみにヤフーは米国発の企業だ
 が、日本法人は日本企業のソフトバンククループの傘下にある)
・では、日本のIT市場は軒並み絶望的なのかというとそうではなく、辛うじてSIer
 にとっての市場機会だけは常に用意されている。政府や金融、製造業といった組織に慢
 性的にテクノロジストが不足しているので、ITシステムについてはSIerのテクノ
 ロジストに用件定義から開発、サポートに至るまでのすべてのバリューチェーンを「丸
 投げ」することが常態化しているからだ。その結果、ITシステムの生み出す付加価値
 の大半が、STerに集中することになる。
・もちろん米国にもSTerは存在するが、このような丸投げはほとんど見られない。基
 本的には組織の中にテクノロジーを理解しビジネス活用できる管理職がいるので、
 SIerには必要なパッケージのみ外注し、細かいカスタマイズは社内で内製化するこ
 とが多い。  
・義務教育でははっきりと教わらないので我々日本人は強く意識しないが、二人の人間を
 比較する場合に国際社会において唯一意味を持つ評価基準はカネであり、偏差値ではな
 い。外資の給与水準は「どれだけカネを集められるか」だけで決まり、日本企業のよう
 に学歴や勤続年数には依拠しない。
・日本企業で何かと重視される学歴や人間力、勤勉だとは単に「人事権を持った上司に気
 に入られる方法」に関するヒューリスティック(経験則)にすぎず、国内だけで完結す
 るローカルルールに過ぎない。  
・資本主義の人類への最大の貢献は、あらゆる対象の価値を、自律分散的に評価する市場
 経済の発明である。市場経済は、バターやガソリンといった物だけでなく、エンジニア
 とコンサルタントといった人材や、プラットフォーマーとSTerといった企業、米国
 と日本といった国家を、すべてホワイトボードに引かれた一本の数直線上に打たれた点
 群として一律に比較することができる。労働者の生涯賃金はその会社の貢献できる売上
 を上回ることはないし、企業の時価総額も投資家が期待する利益の割引現在価格以上に
 はならない。また、国家の信用力はGDPや通貨の時価総額で決定づけられる。これら
 はそれぞれ、労働市場、株式市場、為替市場で値札が付けられる。
・労働者の場合は年収、経営者の場合は企業の時価総額、国家の場合は通貨の時価総額に
 よる比較を実施する。たとえば同じプラットフォーマーでも、アップルとアリババの時
 価総額は、日本円換算でそれぞれ約100兆円、やく50兆円であるが、ミクシィは約
 2000憶円と、まるで勝負になっていないことがわかる。日本人にしか適用できない
 偏差値と違って、資本とは極めて明快で、客観的な評価軸だと思う。
・資本主義の社会主義は対立する思想であるが、現在は資本主義が生き残っている。原理
 的に、自律分散型システムは、単一障害点を持たないため安定的に長期運用され寿命が
 長い点と、自由競争がプレイヤーの進化を促進するという点から、持続的にイノベーシ
 ョンを産むことを可能にしている。
・これは、人間を創造したのが神ではなく自然界の生存競争だったことから始まり、東イ
 ンド会社による株式会社の発明、ナチスドイツとソ連の計画経済の崩壊、ウェブによる
 グローバル資本主義の誕生、ブロックチェーンによるビットコインの台頭といった数々
 のイノベーションの歴史が証明している。
・社会主義の根幹をなす計画経済は中央集権システムであるから、基本的には運用する人
 間が失脚すると急速に崩壊する。かつてドイツやロシアが社会主義国だった頃、ヒトラ
 ーやレーニンがナチスドイツやソ連の指導者として計画経済を推進し、それぞれ思想が
 対立するユダヤ人やモンゴル人を粛清の名のもとに大量に虐殺したりしたが、結局はシ
 ステムを維持しきれずに第二次世界大戦や東西冷戦で失脚し、その後は急速に市場経済
 へと移行している。現存する社会主義国の北朝鮮やキューバも経済的には虫の息である。
・ちなみに、日本の義務教育は偏差値の評価基準であるカリキュラムを政府が勝手に決め
 ているため、ここだけ切り取って見ると市場経済というよりは計画経済に近い。日本の
 義務教育制度のように教育に経済格差を持ち込まない方式では、識字率は高く、ほぼ全
 員が感じを読めるようになる。ただしカリキュラムの中で英会話やプログラミングを教
 えないので、英語や資本主義の考えが日本には未だに根付かずにおり、グローバライゼ
 ーションに取り残される原因となっている。偏差値が高い日本の高学歴ジェネラリスト
 の場合、進学校に行った同級生が受験勉強せずにバイトをしたりしているし、お金儲け
 の問題はセンター試験に出ないので、「お金を集めること=低俗」という儒教的な先入
 観が根強く維持されている。
・たとえばアフィリエイトで成功した与沢翼や、ライブドアで成功した堀江貴文のような
 ネット成金は未だにイメージが悪いし、マスコミは中国人や韓国人の稼ぐ力ではなく、
 マナーの悪さにスポットを当てて仲間はずれにしたりする。その背景にあるのは、ナチ
 スがユダヤ人の賢さに嫉妬して虐殺したのと同じ構造である。
・人工知能ですら、最近は人手でプログラミングするよりも、競争原理から生み出される
 という考え方の方が支持される傾向がある。深層強化学習は、基本的には「割引現在価
 格の最大化」が基準になっている。たとえば、グーグルのアルファ・ゼロは、プロの碁
 譜を一切学習させず、囲碁という自然界でセルフプレイという自由競争を何度もさせる。
 そうするだけで、最初はランダムな手しか打てなかった素人以下の人工知能が、たった
 1カ月でプロが勝てないくらいまでに「進化」し、人間を超えるようになる。シンギュ
 ラリティも、おそらくこうした自由競争で人工知能が自己教示的に学習することで生み
 出されるだろうと思わる。  
・日本でエンジニアという職業はIT土方と同一視され、基本的には建築業と同様あまり
 人気がない。全職業の平均と比べてエンジニアの年収が何倍かであるかを国ごとに比較
 してみると、日本は2倍以下であり、エンジニアはほとんど中流に位置している。米国
 は2.3倍程度だが、これはそもそもエンジニアが人口に占める割合が多いためである。
 中国の場合は約7倍、インドに至っては約9倍であり、これらの国では「エンジニア=
 勝ち組」という図式が浸透している。平均年収が高かったり、相対年収率が高かったり
 する国ではエンジニアは人気がある一方で、日本ではエンジニアの人気はほとんどない。
・日本で理系と文系のどちらが偉いかと聞かれれば、文系の方が偉いということになる。
 コンサルタントがエンジニアよりも資金獲得力を有しており、資金獲得力こそが偉さの
 象徴であり、コンサルタントに必要なスキルが文系スキルなのであれば、こういうこと
 にならざるを得ない。   
・AIに限らず、ITの領域は学際領域と呼ばれており、工学に限らず、経済学、心理学、
 社会学、あるいは芸術など、リベラルアーツが大きく入ってくる領域である。そのため、
 これらを組み合わせることが、テクノロジストとして活躍する道であると考えている。
 エンジニアもコンサルタントも同じテクノロジストなので、エンジニアもコツさえ覚え
 れば、コンサルタントとしてAI業界を生き抜くことが可能になってくる。
 
水平思考で「意外な組み合わせ」を発見せよ
・たしかにイノベーションという言葉の響きには、何か発明したり、天才的なアイデアが
 閃いたりするといったニュアンスも含まれてる。しかし、その本質は「意外な組み合わ
 せを発見すること」にある。 
・水平思考とは一言で言えば、「意外な解を発見する発想法」である。水平思考を身につ
 けると、斬新なアイデアの企画をどんどん思いついたり、行き詰ったプロジェクトを蘇
 生させたりすることが可能になる。また、自分の生活に適用することで生活にイノベー
 ションを起こすことができるので、充実した生活を送ることが可能になる。
・水平思考は、論理思考を補完する考え方である。いくらイノベーションが研究的な思考
 の結果生まれるものとはいえ、ロジカルシンキングだけでは、残念ながらイノベーショ
 ンを生み出すことはできない。イノベーションは「意外であること」、つまり、常識に
 反することが必要条件である。
・演繹と帰納をベースとするロジカルシンキングは「垂直思考」とも呼ばれ、前提から結
 論まで一本道であるため、誰がやっても同じ結論しか得られないという性質がある。そ
 のため説得に用いることはできても、たとえば突拍子もなく非常識なアイデアが閃くと
 いった、創造的な思考には向いていない。   
・文系スキルは才能ではなく努力によって伸ばすことができる。実際、コンサルタントの
 能力は入社後に磨かれるし、ビジネス書を読むことで獲得できる能力も多い。 
・研究者の世界では、「巨人の肩に乗れ」(あるいは「巨人の上に立て」)という標語が
 よく使われるが、これは何か新しいことをするときには、先人の知恵をまず受け継ぐべ
 し、という意味である。論文には引用の考え方がある。これは、数学の定理など、一つ
 の論文の中に沢山の証明を書かないようにするために、他の論文で証明されていること
 は正しい前提で進めてよいという方法がある。
・私に知る限り、「すべてのイノベーションは水平思考の結果である」といってもいいく
 らい、水平思考はイノベーションのベースとなるツールである。もともと水平思考は研
 究者の間で使われていたロジカルシンキングを補完する考え方である。
・水平思考とは、「意外な組み合わせを見つける思考法」で、革新的なアブダクション
 (仮説形成法)とも呼ばれる。アブダクションとはリトロダクションとも呼ばれ、観察
 に基づき仮説を作る思考法を表す。
・「革新的」とは、複数存在する仮説の中から、定説を否定することを厭わないことを表
 している。 
・歴史的に見ても、イノベーションは結果論として「定説の否定」を繰り返してきた。天
 動説が地動説に、ニュートン力学が相対性理論を核とするアインシュタイン力学に置き
 換えられるように、科学の発展はこれまで常識とされてきた知識が否定され、新しい知
 識により覆されることで起こる。
・アブダクションは、意識して身につけるような高度なスキルではなく、健常な人間であ
 れば誰でも自然に行う思考である。人間はそれまでの自分が常識だと考えていたことな
 ど、自らの知識と矛盾する事象に立ち会ったとき、不快感を覚える。このとき、人間の
 頭の中では、生じた認知的不協和を解消するための説明、すなわちアブダクションが試
 みられる。次に、アブダクションの結果得られたもっともらしい説明を新たに知識に付
 け加え、自らの考えを修正し、学習するといったことがなされる。
・問題は、このアブダクションのやり方がその人物の持つ思想的な立場によって大きく二
 つに分かれる点にある。矛盾した事象は、定説か観測のいずれかが誤りであることを示
 唆している。したがって、定説を正とし観測を偽とするか、あるいはその逆かで立場が
 分かれる。ここでは前者を保守派、後者を改革派と呼ぼう。
・保守派の人間は、定説を正とするために観察を否定し、場合によっては自ら作り出した
 暗黙のルールを行為者に対しても強要する。強要された側の人間は、迎合するか反対す
 るかのいずれかの判断を迫られるが、仮にここで迎合するという判断をした場合は、
 「あのときに糾弾されたから」という理由で、同様にコンサバ(保守的)な人間として、
 他人に対して同じルールを押し付けるようになる。
・これは自らの知識を守ろうとする保守的な考え方である。このような考え方に至る理由
 は、「多数派が支持している考え方こそ正しい」というマジョリティ中心主義にある。
 多数派と意見を一致させることで自らを多数派に帰属させようという考え方は、哺乳類
 の時代から生得的に身につけた社会的な本能である。基本的に、人のふんどしで相撲を
 取るタイプの人間は、問題の真偽よりも自らの立場の方が重要であるため、権威のある
 人間に強要されればされるほど迎合しやすい傾向にある。
・一方で、観察を正とする改革派の人間は、「観察を定説が説明できないのだとしたら、
 定説が間違っているに違いない」という考えに立脚した上で、現象に対して新しい説明
 を試みる。その結果、定説は否定され、新たな理論体系が作られる。
・重要なのは、アブダクションをイノベーションの創出に活用するためには、常に革新的
 な立場に立ち、「観察こそが正である」と認めることが必要になるという点である。要
 するにイノベーションの本質は、テクノロジーの発展に立脚した徹底的な科学的思考に
 他ならない。
・水平思考を実現するためには、少なくとも、次のような姿勢が重要である。
 @手段と目的の分離
  ・本当の目的は何か再確認する。  
  ・場合によってはKPIに落とすなど、抽象化・定量化を行う。  
 A権威主義ではなく事実主義
  ・誰が言っているかではなく、ファクトは何かにフォーカスする。
 B法則化 
  ・統一的な説明を試みる

AIが製造業復権と地方創生をもたらす
・アジアの産業発展に伴い、日本の製造業立国としてのプレゼンスは既に崩壊し、今や一
 人負け・虫の息状態である。製造業の主戦場は、今や日本ではなく中国にシフトしてい
 る。秋葉原の電気街の10倍以上の規模の店が中国の深センにはオープンしており、ハ
 ードウェアに関しては1週間程度でPDCAサイクルが回るようになっている。日本は
 高度経済成長期に発展した企業が既得権益集団となり自社の利益を守るようになったの
 で、そもそも市場自体の成長が止まっている。特に「技適」と呼ばれる日本の市場に出
 回るハードウェアに対して行われる審査基準が海外基準と比べて非常に厳しいので、新
 しい電化製品を作ることが困難になってきている。
・リンバや手すら(車)に使われている技術は日本でも以前から技術者が開発してきたが、
 川上にいる人間が「大学受験のジレンマ」によって技術理解が乏しいので、こうした芽
 を摘んでしまっている現状がある。ルンバが流行したとき、「仏壇に当たって火事にな
 ったらどうするんだ」といわれてメーカーの技術者が提案をストップされた逸話は有名
 である。  
・最近の日本はむしろ、精密部品を供給する地味なサプライヤーとして海外から注目され
 ている。ソニーはaiboやプレステーションよりもイメージセンサの業績の方が高い。
 一方で、日本は今後労働者不足の問題もあり、川下産業である町工場も後継者不足に喘
 いでいることが多い。 
・産業用ロボットなど、既に一部で実用化も進められているロボットの開発は、これまで
 エンジニアが行ってきたが、今は問題が三つ存在する。一つは、人件費が莫大にかかる
 こと。日本ではデフレが進行し、どの企業も株主への説明責任のためにコスト削減を行
 っているので、こうしたロボットに投資できる企業は少ない。二つ目は、エンジニアに
 とってハードウェア業界は人気がなく、そもそも人が集まらないということ。三つ目は、
 少子高齢化が進み、エンジニアの数自体も減ってきているという点である。
・実際に物を作れればよいという観点に立ってみると、人間ではなくロボットによって、
 製造業を代替することはできないだろうか。ディープラーニングの技術が進化したこと
 によって、ロボットの制御をディープラーニングで実施することが可能になった。ディ
 ープラーニングの技術自体はオープンソース化が顕著で、キャッチアップすることはそ
 れほど難しくないため、技術者の数は今後どんどん増加していくはずだ。そのため、市
 場価値も安価になると考えられる。こうした人間を雇用していくことによって、企業は
 大きく成長するにちがいない。
・深層強化学習の技術は強力で、自分で自分自身をプログラミングすることができる。そ
 のため、こうした技術を進化すれば、将来プログラミングの技術自体も必要なくなるだ
 ろうと考えられる。  
・ディープラーニングの技術は、基本的にはニューラルネットワークの技術だと思って差
 し支えない。ディープラーニングは深層学習とも訳されるが、「ディープ」はニューラ
 ルネットワークの層を厚くすること、「ラーニング」は機械学習に相当しており、要す
 るに「ニューラルネットワークの層を厚くして機械学習の精度を高める試み」に等しい。
・深層強化学習というのは強化学習の技術にディープラーニングが融合したものである。
 強化学習というのは元々勝ちパターンを発見するための技術で、水平思考の考え方が含
 まれている。 
・強化学習は、「教師あり学習」や「教師なし学習」と並ぶ、機械学習における第三の学
 習法と呼ばれ、一言で言うと「勝ちパターン」を学習する技術である。教師あり学習で
 は、AIの答えに対してすぐに教師によるフィードバックが与えられるが、強化学習で
 は、エージェントへのフィードバックは一般に何手か行動した後に与えられる。
・強化学習は、環境とエージェントの相互作用を通じて、エージェントが環境で獲得する
 報酬の累積減衰和(「収益」とも呼ばれる)を最大化するような学習を行う。これは、
 生物が自然界でいかに生き残るのか、企業をいかに拡大させるかといった様々な問題に
 対して汎用的に使うことができるAI技術である。
・水平思考では革新的なアブダクションであると述べたように、強化学習でも同様のこと
 が行われる。まず知識に基づく予測を行い、一回行動してみて観測し、当初の知識が正
 しかったかどうかと照らし合わせる。もしも予測と実測に差があった場合には、アブダ
 クションを行い、自らの知識をアップデートする。こうした考えは、ロボットの制御と
 も相性が良い。たとえば、二足歩行一つとっても、一度行動してみて、転んだ場合には
 何が間違っていたのかを学習する、といったことを繰り返すことによって、いずれ自律
 的に立つことが可能になるからだ。
・ただし、深層強化学習をロボットに応用する時に問題になるのは、部品の摩耗や破損な
 どの機械的な消耗である。いくらアブダクションを繰り返せばよいとはいえ、転ぶこと
 を繰り返せば、ロボットはいずれ壊れてしまう。このため、摩耗が起こらないシミュレ
 ーション環境でまずは学習してみて、シミュレーション環境で立てるようになってから、
 知識を実世界に移行しようという考え方が提案されている。 
・こうしたことから、プログラミング能力よりもAIに対する教師としての能力が、今後
 のAI業界で生き残るためのポイントになるであろうということだ。具体的には、デー
 タの準備の仕方や、学習環境の準備の仕方などがこれに該当する。
・今後、こうした深層強化学習の技術が発展することで、自動経営を行うような企業が生
 まれてもおかしくはない。特に人間との接点がすくないほどこうした経営手法は有効に
 なるので、おそらく最初はヘッジファンドの自動取引から始まり、電力/小売の需要予
 測、保険のリスク推定といったところに応用されていくだろうと予想される。
・深層強化学習と同様に技術を用いていくことにより、近い将来、一部の分野ではプログ
 ラミングそのものが必要なくなることが予想される。
・ニューラルネットワークは人間がプログラミングする場合に必要な例外処理をゼロバー
 スで学習することを可能にするため、ニューラルネットワークを使ったものは近い将来、
 プログラミングが必要なくなることが予想される。むしろ、データをどのように用意す
 るかや、学習環境をどのように用意するかといった、AIに対するお膳立てにコストが
 集中すると考えられる。
・プログラムは仕様とセットで成立するものであるから、仕様を満たせば基本的には中身
 は何でもよいという性質がある。そのため、品質管理を行うソフトウェアさえ作ってし
 まえば、それを満たすソフトの生成は自動化できる。
・たちえば、産業用ロボットを設計する際に、人間がプログラミングしなくても自動的に
 ロボットアームを学習させ、業務を覚えさせるというやり方が考えられる。ロボットア
 ームのような汎用的な製品を用いて、食品の盛り付けを自動化したり、農業における作
 物の植え付けを自動かしたりするといった方法が考えられる。
・テクノロジーだけを切り取ってみると、人工知能はプログラミングの技術を不要にする
 までに発展してきている。問題は、これらをビジネスとしていかに日本がキャッチアッ
 プするかに他ならない。大企業は動きが遅くなってしまいがちであるから、地方の川下
 産業から改革が起こっていくだろうと考えられる。
・日本企業はGAFAに比べてデータが著しく不足しているという。日本企業の場合は
 「大学受験のジレンマ」によってユーザ企業のITリテラシーが不足しているので、デ
 ータ共有化に対するプライバシーリスクの推定が海外と比較して必要以上に高い。多く
 の日本企業はデータを外に出したくないと考えるあまり、業界全体としてデータが不足
 するという、部分最適を追求するあまり全体最適が満たされなくなる悪しきジレンマが
 発生している。ユーザー企業にはデータを外部に出すことの重要性を浸透していない。
 日本企業のプライバシーリスクの考え方は、合理的なものというよりも、「未知への恐
 怖」に近い。
・日本人はハードウェア中心主義が国民性として根差しているので、データやクラウドの
 価値をあまり高く見積もらないという問題が発生している。 
・日本が199年代に政府主導で行った「第五世代コンピュータプロジェクト」も、数百
 憶円を投入して行われた大規模なAI開発プロジェクトだったが、ビッグデータが話題
 になるより10年以上前なので、凄い処理能力のスーパーコンピュータはできたものの、
 「これってデータはどうやって用意するんだっけ?」というところで突破口が見いだせ
 ず頓挫してしまった。日本がこれまでITの投資に対して消極的だったのも、こうした
 苦い経験によるところが大きい。
・基本的に、AIの理論はソフトウェアの理論であり、十分な入力(データ)の存在を暗
 黙の前提にしている。海外のCyc(サイク)プロジェクトは、人間が常識として備え
 ている知識を一つ一つ記述していくプロジェクトだが、1984年に立ち上がって以降、
 未だ完成の目途は立っていない。それだけ人間の知識は膨大なのである。
・アブダクションには保守的なものと、革新的なものの二つが存在し、どちらの立場を取
 るのかは設計者の理念に依存する。それだけ、「正しい知識とは何か」というのは深淵
 な課題である。 
・GAFAにデータが集約され、情報量が爆発的に増えているという状況と、AI業界で
 言われる慢性的なデータ不足の課題も、一見両立し得ない矛盾する事象のように思える。
 そこから導出されるのは、「人間が解釈できる情報をAIが認識できない」、「日本企
 業にAIのためのデータが蓄積されない」という要因であり、どちらも正しい。
・日本の場合、ユーザ側のプライバシーリスクの許容度が低いだけでなく、グローバルな
 プラットフォームが誕生していないゆえに、GAFAと比較すると集められているデー
 タ量は乏しい。
・日本において海外よりデータが集まりにくい問題の背景にあるのは、インセンティブの
 欠如である。データを公開するか秘匿するかという意思決定はデータの保有者側に委ね
 られているが、データを集めたい人間が保有者側に適切なインセンティブを与えられて
 おらず、結果的に秘匿した方が得な状況が作られている。
・GAFAがうまくデータを集められているのは、検索エンジンやSNSといったユース
 ケースをプラットフォームにおいて無料で与えることによって、ユーザからデータを引
 き出しているからである。一時的に流行したサービスが海外勢にリプレースされるとい
 う現象が日本ではここ30年間にわたり続いている。
・たしかに日本でも、プラットフォーム型のユニコーン企業は生まれており、世界的にも
 革新的なビジネスモデルを有している。しかし、これらの企業は世界的に覇権を取るこ
 とがなく、基本的に成長が日本止まりになっている。
・日本でブレイクした企業が海外進出した際に成功できないのは、ひとえに国際的に見た
 場合の日本という国家のガラパゴス性が大きい。中でも致命的なのは言語と送金の問題
 である。
・一般に、プラットフォーマーの成功にはネットワーク外部性の貢献が大きい。これは、
 ユーザが増えれば増えるほど、サービスの価値が増えるというものである。メリカリの
 場合、売りに出した商品を買ってくれる相手が居なければ成立しないが、一度ユーザが
 付いてしまえば、高いユーザ体験を作り出すことができるばかりでなく、ユーザが他の
 ユーザを紹介によって連れてきてくれるという効果がある。
・ウェブ2.0は集合知の仕組みによって個人の専門家よりも高度な知識がウェブに集約
 されるような現象を指し、集合知の有名な事例にウィキペティアの共同編集システムが
 挙げられる。ウィキペディアは基本的にオープンな仕組みであるから、ウェブにアクセ
 スできる人間であれば誰でも編集することができる。このように編集権限をオープンに
 与えると記事の質が低下するのではないか、ということが懸念されるが、実際には誤っ
 た書き込みがあった場合は他のユーザが編集するという自浄作用が働くので、記事の質
 が維持される。 
・AI2.0では、AIに必要だったデータ・マシン・モデルの3要素が、ウェブに接続
 した多くのユーザによって拠出されるようになる。
 
「文理融合型教育」でシナジーを創出せよ
・本来ITシステムは人間の課題解決という面と、計算機技術という面の二つの上に成り
 立っているから、これらについて教育するためには新しい領域を作る必要がある。特に、
 ディープラーニングやブロックチェーンは、人間の認知や経済といった社会の本質に切
 り込んだ技術であることから、理系的な考え方によらず、文系的なものの見方というの
 が必要である。
・最近では小学校からプログラミング教育を始める動きも文科省主導で行われており、日
 本人のエンジニアをはじめとする人間のプログラミング能力は、早くて小学校から中学
 校の段階で発達する動きも出てくると考えられる。それゆえ、こうした能力を当然のも
 のとして捉え、今後どのように生かしていくかを考える必要がある。