財政破綻に備える  :古川元久

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「この道しかない」と一億の国民を誘い込んだ安倍政権のアベノミクス。その道は、もは
や戻ってこられない道のような気がしてならない。「この道」にあるのは、「財政破綻」
という日本国民を悲惨な状況に追い込んでしまう道ではないのか。そうなれば、1000
兆円という天文学的な国の借金もご破算となりチャラになる。安倍首相は、責任を取って
退陣すれば、それで済む。尻拭いはすべて我々国民が負わせられることになる。
なるほど、確かに、もはや「この道」しかないもかもしれない。
筆者は、民主党政権時の元国家戦略担当大臣であるが、エネルギー自給率や食力自給率が
極端に低い日本が財政破綻となれば、あの終戦直後のような日々の食料の確保もままなら
ないような悲惨な状況に日本はなってしまうのではと心配している。その対策として、地
方での地域社会の自立を唱えているが、既に疲弊が始まっている地方にとって、これは簡
単なことではない。若い者のほとんどが都会に出て行ってしまい、高齢者だけが残った地
方において、自立などということは夢ではないのか。逆に、今より昔のほうが地方は自立
していたように思う。地方はずっと昔から自立を願ってきたが、結局、それは叶わず、今
の状態となってしまったのだ。日本は、もはや後戻りできない状態までになってしまって
いると言っていいだろう。

「この道」の先にあるもの
・安倍政権が進める「この道しかない」というアベノミクス。安倍総理はこの道を進むこ
 とによってデフレから脱却し、日本を世界の真ん中で再び輝く存在にすると言う。
 確かに足元を見れば、長かったデフレから日本経済は脱却しつつあり、株価は上がり、
 大企業を中心に企業業績は急回復。都市部を中心に地価も下げ止まり、賃金も上がり始
 めている。こうした状況を見ると、この道を進んでいけば、半世紀前の東京オリンピッ
 クの頃、日本が高度成長真っ只中だったあの時代に、なにかもう一度戻れるような気に
 もなってくる。しかし、それは幻想に過ぎない。考えてみてほしい。高度成長期の日本
 には若年人口が多く、さらに人口がどんどん増えて国内市場が急拡大していく状況であ
 ったが、今の日本の状況はまったく違う。むしろその正反対だ。人口の急速な減少は目
 前に迫り、高齢者の割合は増え、国内市場は縮小し始めている。このような状況にもか
 かわらず昔のような姿勢に戻ろうとすれば、それは無理をするしかない。
・1000兆円を超える規模にまで膨れ上がった財政赤字、すでに1945年の敗戦時を
 上回っている日銀のバランスシートに占める国債の割合、そして円安による輸入物価の
 上昇。近い将来の財政破綻や円暴落のリスクは、もはや回避不可能ではないかと思われ
 るぐらい高まっている。こうしたリスクが万一現実化した場合に、その被害者となり、
 塗炭の苦しみを味わうのは国民だ。その時には安倍総理は責任を取って首相を辞めるだ
 けで、それに伴って生じる被害はなんら補償してくれない。「この道」はこうした大き
 なリスクが存在しているのだ。しかし「この道しかない」と信じ込んでいる安倍政権が
 続く限り、このやり方を変えることはない。いや、もはや変えられないところにまで道
 を進んでしまっていると言ったほうが正しいかもしれない。 

迫りくる財政破綻の足音
・財政が破綻しても、目敏い金持ちや情報痛は逃げ足が速い。すでにグローバルに円を売
 って資金を動かして、リスクヘッジを進めている。逃げようがないのが、決してお金持
 ちではない、いわゆる庶民だ。それなりの預金を持ち、生命保険や年金を老後の当てに
 している、ごく普通の日本人だろう。
・財政が破綻した場合、逃げられなければ大打撃を受ける。国家財政が大量の借金を抱え
 て破綻したら、第二次世界大戦後に一度起こったようにハイパーインフレになり、お金
 そのものの価値がなくなってしまう可能性も否定できない。
・財政が破綻すれば、金利は高騰し、国債の価格は暴落する。最悪の場合、これも紙切れ
 になってしまう。そんな国の通貨は誰も持ちたくないから、円は投げ売られ、やはり暴
 落する。金融機関や生命保険会社は国債を大量に保有しているから、バランスシートが
 悪化し、債務超過に陥る。破綻する金融機関も出てくるだろうし、金融期間は厳しい貸
 しはがしを行うだろうし、生命保険を支払えなくなる生命保険会社も出てくるだろう。
 こうして、財政破綻は同時に金融危機を引き起こすのだ。
・預金はなくなったも同じで、生命保険も諦めるしかない。皆さんが勤める会社は、倒産
 の危機に瀕し非世紀のパートやアルバイトの人に限らず、正規雇用であっても、多くの
 人が解雇されることは必須だ。  
・日銀が大量に現金をばらまいているので狂乱物価が起きて生活はどこどん苦しくなる。
 スーパーマーケットなどでは物価が高騰するだけでなく、モノ自体が品薄になる。当然、
 住宅ローンや電気料金の負担も重くなる。トラの子の貯金も大幅に目減りしているから、
 助けにならない。 
・現在金利が低いからといって変動金利で長期のローンを組んでいる人は、金利が高騰し
 てローンが返済できなくなるだろう。中には、我が家を追い出される人も出てくるに違
 いない。 
・最も深刻なのは、国の歳出で一番大きい社会保障だ。年金や医療・介護、児童福祉・障
 害者福祉、生活保護など、これらのシステムがことごとく崩壊する。そこまでいかなく
 ても、大幅カットは免れない。医療や介護は、国の予算が出ないだけでなく、企業経営
 の悪化で企業もビジネスパーソンも保険料を払えなくなっているから、医療保険や介護
 保険財政がパンクする。病院への診療報酬の支払いが滞るので、病院経営が悪化する。
 病気で病院に行っても診てもらえず、大けがをしても必要な処置や手術をしてもらえな
 くなる。
・国家財政の破綻のツケから逃れられる国民は基本的にはいない。国は企業と違ってなく
 ならない。政府もなくなるわけではないが、国の借金は、財政破綻とともになくなる。
 もちろん、国がなくなったら大変だが、いわば政府は、国民の犠牲のもとに、国家財政
 を立て直すことができるのだ。
・国債の大部分を保有しているのは、国民だ。国民が持っている国債が紙切れになる。さ
 らに、国家財政を立て直すために、超緊縮財政、しなわち、大幅な増税と歳出削減を行
 う。こうして国民は暗くて出口の見えない長いトンネルの中に追い込まれることになる。
 結局のところ、国家財政が破綻して痛みを受けるのは、国ではなく国民だ。政府のメン
 バーも、内閣も、議員も、官僚も、みな国民ではあるが、残念ながら、責任を取ってツ
 ケを払うことはできない。すべての財政破綻によるツケは、国民に回らざるを得ないの
 だ。
・日本でも一度、財政破綻が起こっている。第二次世界大戦後のことだ。戦争直後、
 日本は極度のモノ不足であり、また日銀引き受けによる公債発行などもあり、まさにハ
 イパーインフレが生じた。このインフレ対策として、「金融緊急措置令」と「日本銀行
 券預入令」が公布され、預金封鎖が実施された。日本銀行券(旧円)が執行し、新円に
 切り替えられた。新円には銀行預金のみが引き換えられたので、旧円は手元に残せず、
 銀行へ預け入れざるを得なかった。そして、新円の引き出し金額は厳しく制限された。
 預金封鎖は2年以上続いた。
・そのインフレとはどれほど大きなものだったろうか。 1945年の物価指数は3.1、
 それが翌年には18.9、次の年には51.0と跳ね上がり続け、51年には実に
 310、0と、6年で100倍になったのである。一方、ここで皮肉な現象が起こる。
 終戦直後の国際残高は一般会計総額の5倍程度であったが、インフレによってその額は
 約4分の1にまで低下した。借金が減ったわけだ。つまり、戦時国債を保有していた国
 民にとっては、国債も、それこそ紙くずになってしまった。
・財政破綻には二つの様相がある。どちらもデフォルト(債務不履行)だが、対外的デフ
 ォルトと国内的デフォルトの二つだ。記憶に新しいギリシャ危機などは、対外的デフォ
 ルトである。国内デフォルトの代表例が、日本の戦後の状況である。
・終戦直後の財政破綻で政府は何をしたか。大規模課税を行った。財産税である。税率は
 なんと、最低で25%、最高は90%。この財産税、決して富裕層課税ではなく、国民
 一人一人から絞れるだけ絞るという税金であった。財政破綻は、このように間違いなく
 国民の多くの犠牲を強いる結果になる。国民は信じられないようなハイパーインフレに
 苦しみ、預金は封鎖され、国債は紙くずになり、しかも重税に苦しめられる。国債をほ
 とんど日本国内で所有しているから安全だという人もいるが、財政が行き詰まると、国
 債ももちろん、最後の調整は当然国民に覆いかぶさるということがわかる。
・ギリシャの財政危機で実際に行なわれた政策は、次のような内容であった。
 ・公務員給与35%カット
 ・定年間際の公務員3万人の給与を40%カットし1年後に解雇  
 ・公務員の年金支給開始年齢の引き上げ
 ・年金引き下げ(最大20%カット)
 ・消費税を19%から23%に
 ・不動産税の新設(1〜5%)
・日本の政府の債務残高はGDPの2倍に達しており、これほどの政府債務を抱えている
 国は、ほかにジンバブエぐらいしかないといわれている。財政危機に陥ったギリシャよ
 りも日本の債務残高のGDPのほうが悪い状況にある。 
・今や日本の借金は、GDPの2倍に達し、先進国でダントツに悪い状況にあり、いつ爆
 発してもおかしくないバルーンのようなものだ。だから通常であれば、相当な高金利と
 なってもおかしくない。しかし、日本では長期金利が1%を切る低金利状態が続いてい
 る。その大きな要因の一つは、この日銀の大量国債購入なのである。
・半ば日銀が意図的に作り出している低金利に財政破綻リスクなど反映されるはずもない。
 このことは市場の価格形成機能の崩壊を意味し、国債の金利から市場が発する警告を読
 み取ることができなくなってしまっている。  
・現在、住宅を購入して、住宅ローンを組む際、変動金利と固定金利のどちらにするか、
 選ぶことができる。本来であれば、金利は将来の金利動向も予想した上で設定されるは
 ずであり、将来の財政破綻リスクを反映すれば、今のような異常な低金利にはならない
 はずである。しかしながら、日銀の大量国債購入で金利は上がらない状況だ。このため、
 住宅ローン金利も、長期金利に引っ張られて、きわめて低い水準となっている。特に変
 動金利を選べば、現在、当面は1%を切る金利で借りることができる。しかしながら、
 財政が破綻したら金利が高騰するので、変動金利でローンを組んでいると、金利負担が
 巨額となる。中には、返済できなくなり、路頭に迷う人もおおく出てくるだろう。

財政破綻の引き金のロックはもう外れている
・勤勉で節約・倹約を旨とする日本人の国民性を反映して、家計部門は多額の金融氏さん
 を持っていた。しかしながら、高齢化の進展で状況は変わっていく。すなわち、貯蓄率
 が低い高齢者世帯の割合が高まることで、家計全体の貯蓄率が下がっていくことは容易
 に想像できるし、そもそも日本の人口も減っていくので、家計の金融資産は今後それほ
 ど増えない。むしろ取り崩し局面に入っていくのだ。政府お債務額との差は急激に縮小
 しており、数年のうちに逆転する可能性すらある。
・日本では、政府が巨額の借金を抱えていても、民間部門に多額の金融資産があるから大
 丈夫だとか、大幅な経常収支の黒字、すなわち、海外からの受け取りがあるから大丈夫
 だという神話が存在したが、それももはや崩れつつあり、日本もふつうの国になろうと
 しているのである。  
・国債の発行残高の9割以上を日本人が保有しており、これまでは安定的な国債の消化に
 貢献してきたとされているわけだが、このことは、仮に財政が破綻したら、その痛手は
 ほとんどすべて日本国民に降りかかるということを意味している。  
・海外投資家、たとえばヘッジファンドなどから見れば、自分たちはほとんど保有してい
 ないので、たとえ暴落しても痛みはない。日本人だけが困る。だから、我が国の財政危
 機が顕在化しようとしたときに、欧米各国や国際機関が日本国債のデフォルトを、無理
 してでも止めようという力は働きにくい。海外勢はむしろ、円安になって、あるいは株
 価も下がって、日本の資産がまとめて買い得になる。バーゲン状態になるわけだから、
 坐してそのチャンスを待つ、いやそれ以上に時期を見て仕掛けてくるということさえも
 十分に考えられる。 
・海外投資家が債券を売って円を売れば、国債は下がり、為替は円安が進むだろう。ドル
 建ての日本国債の価格はどんどん下がっていくので、海外投資家は日本国債を売って海
 外に資金を移す動きを加速させるだろう。国債価格の下落が続けば、国内投資家ももは
 や静観することはできずに競って国債を売り、下げを加速させることになるだろう。
・消費税率の10%への引き上げを一度は延期した政府である。ムーディーズも日本国債
 の格付けを引き下げた。マーケットは、この政府の財政健全化に対する姿勢を疑い始め
 ている。財政健全化目標に政府が真剣に取り組まなければ、もはや政府に対する信認
 は容易に失われ、いつマーケットにショックが起きてもおかしくない状況になるだろう。
・日銀が国債購入額を減らせば、今のような高値では誰も国債を買わない。だから、政府
 が市場で国債を売却しようとすれば、他の投資家はより低い価格でないと購入しないの
 で金利は上昇することになる。したがって、仮に日銀が出口戦略を実施した場合には、
 皮肉ではあるが、それが金利上昇のトリガーとなるのである。
・専門家や関係者と話をすると、多くの人が同じ懸念を持っていることがわかる。それは、
 「もはや、どう考えても出口はないのではないか」ということだ。つまりは、日本は戻
 ってこられない道に入り込んでしまったのではないかという心配だ。 
・先進国を中心に幅広く広がっている大規模な金融緩和策。これにより膨大な量のお金が
 市場に流れ込んでおり、それがさまざまなマネーゲームやバブルを引き起こしている。
 この状況はあたかも「ババ抜き」のゲームのようなものだ。異次元の金融緩和策に打っ
 て出た日本は、いま急速な勢いてカードを取りにいっている。量的緩和策を始めたEU
 もこれを参入してきた。その一方で、このゲームの「危うさ」に気づいている米国は、
 いち早くこのゲームから抜け出ようと、カードを日本や欧州に切り始めた。そしていま
 や米国は真っ先にこのゲームから抜け出す寸前まで来つつある。このままだと日本と欧
 州、どちらかが最後にババをつかまされることになりかねない。
・日銀は、引き戻せない道を進んでしまった。しかも、必ず負ける道を進んでいる。財政
 破綻の芽を摘むためには、まずは政府の支出をコントロールして増加を抑えていないと
 いけない。しかし安倍政権になってから、政府の支出は増え続けている。それどころか
 減らそうと真剣に努力しようとする気配すら見られない。
・資産として価値の高いところだけが地価が上がっている背景のひとつには、お金持ちの
 人たちが万一の危機への備えをし始めたことがあるのではないかと考えている。つまり、
 万一、お金が紙切れになってしまったときに備えて、お金の代わりの資産として土地を
 購入しているのだ。
・お金持ちの人たちは万一に備えて、着々と準備を進め始めているのだ。財政破綻のよう
 な危機に個人のレベルでできる防衛策を説明する評論家や解説本などが多く出てきてい
 る。しかし、個人である程度は対応できるとしてもそれは根本的な危機回避策にはなら
 ない。実際に財政破綻などの危機が起きれば、ハイパーインフレなど、私たちのこれま
 での常識では考えられないような事態が次々と起こる。

円高トレンドから円安トレンドへ
・アベノミクスによって急激に進んだ円安によって日本はこれまで国内の資産を知らず知
 らずのうちに守ってきた「円高」というシールをしだいに失いつつある。このまま円安
 がされに進んでいくことになると、今後、技術力はあるが後継者のいない中小企業など
 は格好の標的となる可能性が高い。こうしたリスクは中小企業ばかりでなく、大企業と
 て例外ではない。なぜなら日本企業がこれまでに買収してきた海外の企業も、現地では
 いわゆる「大企業」であり、誰もまさか海外企業に買収されるとは考えていなかったよ
 うな企業はいくつもある。今後円安が進めば、日本の大企業も「まさか」の買収の憂き
 目にあう可能性が十二分にあるのだ。
・日本と海外とでは、「お金持ち」といっても、その意味するところは大きく異なる。海
 外のお金持ちが持つ資産の規模は桁違いだ。中国の恐ろしいところは、その桁違いのお
 金持ちが日本とは桁違いの数いることだ。したがっていくら大企業であっても安穏とし
 てはいられない。今後は、気がついたら名だたる企業のオーナーが中国人や中国企業に
 なっていたということも、あながち絵空事とは言えないのだ。
・安倍総理やアベノミクスをありがたがる人たちの発言を聞いていると、根本的に「円安
 は善、円高は悪」という発想があるように感じられる。しかし今の日本経済はそんな画
 一的な発想では、現実を正しく理解できない時代になっている。安倍総理のいうように、
 「輸出」という観点で考えれば円安は好ましいが、逆に言えば円安は「輸入」の際には
 日本が弱い立場に追いやられることを意味している。また輸出企業といっても、国内の
 原材料を調達して国内だけで生産をしている企業が今どれだけあるだろうか。だからこ
 そこれだけ円安が進んでも輸出はほとんど増えていないのだ。
・アベノミクスが目指す円安による輸出増は、確かに国内で生産して海外に輸出すること
 が主だった昭和の時代、それこそ高度経済成長の時代であれば、大幅に円安が進めば、
 それより大幅に輸出も増加することを期待することができるだろう。しかし、時代は大
 きく変わったのだ。
・通過の価値は国家の信用力や国力を示しているということが言える。したがって国家と
 して考えれば、基本的に通貨の価値は少しでも高いほうがよいと考えるのが国家の指導
 者としては当然だと私は思う。目先の輸出や海外からの観光客の増加は確かに魅力的に
 見えるかもしれないが、通過安は長い目で見ればじわじわと国力を落としていることに
 ほかならないのだ。
・貿易収支の赤字化は日本経済の構造変化と成熟化によって必然的に起きたものだ。今後、
 この貿易赤字は定着し、今は黒字の経常収支もいつかは赤字になる時がやってくる。そ
 の上、今後、急速に人口減少と高齢化が進むことを考えれば、ドルに対する信認が大き
 く揺らぐなどの外的な要因でもない限り、一時的には再び円高に揺れることはあっても、
 長期的にはこれから再び円高トレンドへと転換することは考えにくいのではないだろう
 か。
・輸入品にその多くを頼る私たちの生活は徐々に苦しくなっていき、気づいた時にはいま
 の途上国のように日本国内で幅を利かせるのは外国企業や外国資本、そしてぜいたくな
 暮らしをしているのは外国人で、日本人の生活は今よりずっと貧しくなって、海外旅行
 に行くことができるのは一部のお金持ちだけという、一昔前の状況に戻ってしまう可能
 性がある。円安が進んだことによって、足元でちょっと景気が回復したことを、喜んで
 いる場合ではないのだ。アベノミクスは結果的にこの潜在的に存在した円安トレンドを
 顕在化させ、いずれは円安トレンドに向かう流れだったのを前倒しにし、一気に加速さ
 せることにつながっているのだ。

自立した地域社会が日本を救う
・万一、財政破綻が起きたら国はどうするだろうか?戦後に財政破綻状態に陥った時、政
 府は預金封鎖をし、国民の預金引き出しを大きく制限した。突然の封鎖に手持ちのお金
 が不足した多くの市民が困窮し、食料を手に入れることもままならなくなった。もし今
 度、また財政破綻が起きれば、国は同じように預金封鎖に踏み切る可能性は高い。「い
 ざとなれば国が助けてくれる」と高をくくっている人がいるかもしれないが、よく考え
 てほしい。その「いざ」となったときには、国は国民を助けるどころか、むしろ混乱を
 収拾し国益を守るために国民生活を犠牲にする政策を取らざるを得なくなってしまうの
 だ。
・日本は社会システム自体が機能不全に陥る危機が起きるリスクが高まっている。いつ何
 時、危機が起きて、社会のメインシステムが機能不全に陥るかわからない。それによる
 被害を最小限に抑えるためには、メインシステムを補完するサブシステムを構築するこ
 とだ。サブシステムを構築するためのカギは、これまで集中していたものをできるだけ
 分散させること、分散したものをバラバラにしておくことではなく、すべてネットワー
 クでつなげることだ。
・現在の政府が行っている商店街の商品券配布のようなやり方は地域の力の強化にはつな
 がらず、単なるバラマキにすぎない。そうではなく、サブシステムの構築で地域のヒト、
 企業が仕事を作って盛り上がっていくことによってはじめて、真の意味で日本全体が元
 気になるのだ。 
・地産地消のシステムがあれば、万一財政破綻などが起きてハイパーインフレとなり、税
 活に必要な物資の調達をすることが難しくなった場合でも、その地域社会の最低限の生
 活だけは維持することができることにつながる「方舟」になり得ると思うからだ。
・日本は、資源の乏しい島国だ。「資源」とは、かつては石炭や石油のエネルギー資源を
 示していたが、食料自給率の低下が問題視されている今は食料も含めて考えるべきだろ
 う。エネルギーを大量に使用している国々に比べても、日本のエネルギー自給率はきわ
 めて低水準だ。お隣の中国は8割以上を自給し、米国は7割以上を自国でまかなってい
 る。これに比べ日本のエネルギーの自給率は危機的な状況と言えるだろう。食料自給率
 も同じく日本は最低水準だ。日本はエネルギーや食料という生活に欠かすことのできな
 い重要な資源の多くを輸入に頼っているのだ。  
・財政破綻などの危機が現実化した場合、ハイパーインフレになるので、海外から輸入し
 ている資源の価格は急激に値上がりし、必要な量のエネルギーや食料を輸入できなくな
 る恐れがある。そうなれば、私たち日本人は最低限の日常生活を送ることさえ困難にな
 りかねない。しかし生活に最低限必要なエネルギーや食料を地産地消できるような地域
 経済を日頃から作っておくことができれば、こうしたいざというときでも生活すること
 ができる。生活に最低限必要なものはすべて自分たちの手で作って供給することができ
 れば、輸入資源の急激な値上がりという外部要因に影響されることなく、地域経済をま
 わしていくことができるからだ。
・これから日本が直面するかもしれない財政破綻などの危機を考えると、そのような危機
 が起きた場合には都会よりもむしろ田舎のほうが生きていきやすい。最近、駅前など便
 利な場所に新しいマンションができること、郊外に住んでいた高齢者が郊外の家を売っ
 て、そのお金でマンションを購入して住む人が増えていると言われている。マンション
 は鍵を一つ掛けるだけで安心だし、エレベーターがあるから高層階でも問題はない。ま
 た都心部は便利だ。車を持たなくとも、駅は近いし、必要に応じてタクシーに乗っても
 それほどお金はかからないし、ご飯をいちいち作らなくても、いくらでも近所にお店が
 あるので、そこで食べればよい。だからこそお金をある高齢者の人たちが郊外から都心
 へと移動し始めている。確かに、お金があれば、こうした高齢者にかかわらず、都会の
 暮らしはまさに毎日が快適だ。しかし、財政破綻が起きてお金に価値がなくなった途端
 に、こうした人たちの生活は苦しいものになる。 
・もし本当に財政破綻が起きて、ハイパーインフレになれば、お金の価値はあっという間
 になくなってしまう。「お金」に価値がなくなった途端、お金に頼る都会の生活は機能
 不全となり、自分たちで食べるものさえも調達が難しくなる。一方、自分で食べるもの
 ぐらいは自分で作っていれば、なんとか生きてはいける。そう考えると、実は田舎で自
 給自足的な生活をしているほうが、都会で生活しているよりも、いざというときには強
 いのだ。そしてこのような事態に陥った際には、都会に住む田舎を頼るしかない。その
 意味で都会の生活というものは、実にもろい。
・都会が田舎に頼るのは、実際にはこうした危機のときだけではない。都会の人たちがふ
 だん使う電力や食べるものの多くは田舎でつくられている。またそもそも、都会がこれ
 まで繁栄を続けることができたのは、田舎から人をどんどん引き寄せてくることができ
 たからだ。つまり都会は、都会だけでは生きていけないのだ。もちろん田舎も、田舎だ
 けでは生きていけない。都会と田舎は、両者が共に共存して初めて、互いに繁栄できる。
 いま「消滅自治体」などという言葉に象徴されるように、日本の中から田舎が消滅し始
 めているが、こうした状況がこのまま進めば、それはいつか都会の衰退にもつながって
 いくのだ。
・都会の人たちに危機感はいかほどだろうか。ほとんど危機感を感じていないというのが
 実際のところではないだろうか。都会の人たちは、自分たちは田舎などに頼らなくても
 生きていけると高をくくっているかもしれない。しかし、都会の人たちの生活は、実は
 田舎に依存している。しかも財政破綻などの危機が起きたときには、当面の食料確保な
 どでは田舎の助けを求めなくてはならなくなる。その意味では地方からどんどん人がい
 なくなっていくことに対する危機感は、都会の人たちも等しく持つべきなのだ。無人と
 なる地域が全国のあちこちにできてしまってから気がついても遅い。元気な田舎が日本
 のあちこちに存在していれば、万一、財政破綻のような危機が起きた場合には、都会の
 人たちを助けてくれることにもつながる。
・都会での生活は刺激が強く、スピードが早く、ストレスも大きい。もちろんそれが都会
 の魅力なのだが、人間、それだけでは身体を壊しかねないし、疲れてしまう。たまには
 自然が豊かで時間の進み方がゆっくりしている、田舎で過ごしてみたいという気持ちに
 なる。
・いま日本は本格的な人口減少時代に入り、これから全国で集落が消滅したり、島から人
 がいなくなったりすると言われている。これは都会に住む人たちにとっても深刻な問題
 だ。都会の人たちにとって癒しを得られる場所、そしてその気になれば移住することも
 できる場所が、どんどん減っていってしまうことを意味するからだ。またそれはいざと
 いうときに生活に必要な最低限のものぐらいは地産地消で自給自足できる、地域経済圏
 を作れる可能性のある場所が消えていくことを意味する。

「足るを知る」ことが第一歩
・02年から12年の10年間で、世界全体のGDPは2倍以上に拡大した。日本の
 GDPも1.5倍となっている。それではこの経済的な発展が、本当に私たちが心身と
 もに豊かと感じられることにつながっているだろうか?と考えると、そこには大きな溝
 があるのではと思われる。
・私たちがあたかも、経済的な発展そのものを「豊かさ」であるかのように考えてきた。
 国の豊かさを表す基本的な指標は、今でもGDPである。経済的な成長のために各国は
 しのぎを削り、戦争までも繰り広げてきた。日本は「エコノミック・アニマル」と呼ば
 れて、一時は米国をはじめ世界から恐れられる存在にまでまった。しかし、それではそ
 れに伴って私たちは世界一の幸せな国民になったかというとそうではない。経済発展と
 は裏腹に、私たちの幸福度は貧しかった時代よりもむしろ、低下してしまったのである。
 私たちは経済成長をめざしてがむしゃらにがんばってきたけれども、それを実現する過
 程でなにか大事なことを忘れてしまったのではないだろうか。
・そもそも私たちはなんのために経済成長をめざしてきたのか。それは成長することによ
 って幸せになりたいと思ったからだろう。経済成長をすること、そのものが目的ではな
 かったはずだ。つまり私たちの目的は「幸せになること」であり、あくまでもそのため
 の手段として経済成長をめざしたはずなのだ。私たちがしなければならないことは、こ
 のことにまず気づくことである。
・今こそもう一度原点に立ち返り、目的である幸福度の向上につながる手段としての経済
 成長としては、どういう成長がふさわしいのか、これまでのひたすら量的な拡大・充実
 をめざしてきた成長とは異なる、「新しい成長」の姿を見いだして、その実現をめざさ
 なければならない。
・物質的に貧しかった私たちの先人たちの時代には、物質的な豊かさはそのまま幸福度の
 向上につながった。しかし物質的な豊かさを達成した今、私たちはそれとは違う形の豊
 かさを探していかなければ、いくら物質的に豊かであっても、それは幸福度の向上につ
 ながる真の豊かさにはつながらなくなってきている。
・日本人は、世界の中でも「不幸せ」な国民だ。世界の幸福度調査では、日本は世界159
 カ国中43位だった。物質的に満ち足りて、お金も持ってはいるが、幸せを感じられな
 い。それが今の日本人の姿なのだ。
・人々が幸せと感じられる状況とは、一人一人に社会の中でなんらかの「居場所」が与え
 られて、皆が社会に参加できる。そのことにより、自分がこの社会の中で必要とされて
 いると自らの価値を感じることができ、孤独に陥ることなく、社会と自分とがなんらか
 の形でつながっていると感じられる、そういう状況ではないか。すべての人に社会の中
 で各々の「居場所と出番」を用意することこそ、「次の豊かさ」を実現することにつな
 がると考える。
・お金というものは、そもそもは物々交換では不便だからと、その代わりの介在手段とし
 て生まれたものだった。それが今や、お金そのものに価値が生まれてしまい、それがと
 きに実物経済を大混乱に陥れるような力を持つようになっている。  
・経済は人が生活を営むための行為である以上、そこには幸福な人生を送るという目的が
 実現されなければならないはずだが、現実の経済活動はそうはなっていない。 
・もはやこれまでと同じような豊かさをめざすやり方は、私たちを本当には豊かにはして
 くれない。安倍総理のいう、かつての元気な日本を取り戻すという「この道」の先には、
 私たちが本当に望む豊かな社会はないのだ。これまでの豊かさとは異なる、私たちの幸
 福度の向上につながる「次の豊かさ」を実現する「新しい成長」のあり方を模索し、そ
 れをひとつひとつを実行していくことの先にこそ、私たちが望む本当に豊かな社会は
 ある。
・「足るを知る」こと、それはまず、今自分がこうして生きていられるのは自分一人の力
 ではなく、自分を生んでくれた両親をはじめとする他の人の存在のおかげであることを
 理解し、そのことに感謝の気持ちを持つということだ。つまり「他人に対する思いやり
 の気持ちをもつこと」、これこそが、私の考える「足るを知る」ことである。
・私たちが「足るを知る」ことの大切さに気づいて、みんながその思いを持って行動する
 ようになることができれば、日本がいま直面している、いつ起きるかわからない大きな
 危機の発生を回避し得るかもしれない。またもしそれができなくて、残念ながらそうし
 た危機が実際に起きてしまったとしても、それによる被害を最小限に食い止め、その危
 機から1日も早く私たちが抜け出すことには間違いなくつながるはずだ。