在日米軍  :梅林宏道

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日米安保条約は不要だなどという、極論を言うつもりはない。しかし、日本は在日米軍の
ために、「思いやり予算」と称して、毎年1兆円以上の血税を注ぎ込んでいる。これは、
在日米軍の駐留経費の74.5%にあたり、同盟国としては、断トツのトップの割合だと
いう。
これは米国にとっては、まさに天国だ。米国本土に軍隊を置くより、日本置いたほうが、
その経費がずっと安く済むのだからだ。米軍が日本に駐留するのは、今や軍事的理由より
も、経済的理由が主流になっているのだ。
そういうことが明白になっているにもかかわらず、日本はいまだに、米国に対して一所懸
命尻尾を振るポチ犬のままでいる。安倍政権は、お友達外交と称して、米国からF35戦
闘機を105機(総額約1兆3千億円)購入することをトランプ大統領に約束し、さらに
は、イージス・アショア2基(総額6千億以上)の導入も気前よく約束した。これらの費
用の負担はすべて、我々国民にのしかかってくる。F35戦闘機の105機の導入にして
も、イージス・アショア2基の導入にしても、それがほんとうに日本に安全にとって不可
欠ならば、それも致し方ないだろうが、どうもそうではないのは明白だ。
もし、北朝鮮が弾道ミサイルで日本を攻撃するならば、その攻撃先は大都市の東京や大阪
などになるだろう。そしてその弾道ミサイルを迎撃するには、正面から迎撃するのが一番
迎撃できる確率が高くなる。北朝鮮の弾道ミサイルから日本を守るならば、首都圏や大阪
圏の周囲に、イージス・アショアを配備するのが合理的だ。しかし、安倍政権が推し進め
ているのは、秋田と山口への配備だ。北朝鮮が、秋田や山口を弾道ミサイルで攻撃する理
由はなにもない。秋田と山口にイージス・アショアを配備するのは、北朝鮮から秋田への
延長線上にはハワイが、そして北朝鮮から山口への延長線上にはグアムがあるからだ。つ
まり、イージス・アショアの配備の目的は、米国のハワイとグアムを守るためなのは明白
だ。
在日米軍基地の削減や縮小のチャンスは過去にあった。冷戦終結時において、日本がそれ
を理由に主張すれば、在日米軍基地の削減や縮小の可能性は十分あった。にもかかわらず、
日本政府は、なんらその主張をすることはしなかった。これでは、日本は自らが在日米軍
基地の維持を望んでいると、米国に受け取られてもしかたがない。これは日本政府の怠慢
でしかない。怠慢どころか、それ以降においても、在日米軍に対して日本政府は、新たに
「思いやり予算」などという「バカか」と思えるような処遇で、血税をつぎ込んでいった。
これは米国にとっては、笑いの止まらない話だったのだろう。まさに「おバカな国、日本」
である。これでは、他国から攻め滅ぼさせる前に、自ら滅亡する国へまっしぐらである。

それにしてもこの本を読んで驚いたのが、1965年12月に起きたという空母タイコン
デロガ事件
だ。水爆1個を搭載した爆撃機が、今でも喜界島の南東約150キロメートル
の海底に沈んだままだという。この事故は、1989年5月に民間の環境保護団体グリー
ンピースによって暴露されたというが、日本で公のなったのは池上彰氏によると2009
年に自民党政権から民主党政権に交代した後、外交文書が暴露されたなかで判明したこと
だそうだ。それに、さらに驚いたのは、この事故を起こした空母は、ベトナムでの空爆任
務を終えて横須賀に寄港する途中だったことだ。ということは、ベトナム戦争当時、米国
はベトナムで水爆を使うことも視野に入れていたということだ。しかも、その水爆を搭載
した空母は横須賀に日常的に寄港していたのだ。
いやはや、世の中には、とんでもないことが秘密にされている。いったい誰を信じたらい
いのか、何を信じたらいいのか、まったくわからない、恐ろしい世の中だ。

最近、米国とイランとの関係が緊迫してきた。米国と北朝鮮の軍事衝突よりも、米国とイ
ランとの軍事衝突の可能性のほうが、ずっと現実味をおびてきている。もし、米国とイラ
ンが戦争に突入すれば、もはや日本は「遠い国の戦争」と言ってはいられなくなる。数年
前に安倍政権は、強引なやり方で集団的自衛権行使容認を決定した。これに伴って改正さ
れた新安保法制では、いままでの日本の「周辺事態」という制約が取り払われ、それまで
の地理的な制約がなくなり、地球上のいかなる場所にあっても、米軍等への後方支援が行
えるようになった。このことを知っている米国は、イランとの戦争に突入すれば、当然な
がら日本の自衛隊に後方支援を要請してくるだろう。日本の自衛隊は、米軍の後ろにのこ
のことついて行かなければならなくなる。後方支援だから直接戦闘に巻き込まれることは
ないだろうと思ったら大間違いだ。後方支援と言えば聞こえはいいが、昔流に言えばいわ
ゆる「兵站」だ。戦争では、頑丈に武装した正面の戦闘部隊よりも、手薄な兵站が真っ先
に狙われるのが常識だ。米国とイランとの戦争に自衛隊が駆り出されれば、多くの犠牲者
が出るだろう。
まさに、あのトランプのために、日本の若者が血を流すことになる。それも、米国にただ
尻尾を振るだけの能しかない日本の指導者のためにである。これは、バカげているとしか
言うようがない。


はじめに
・ブッシュ大統領が始めた対テロ戦争は米国の予想をはるかに超えて今も続いている。戦
 争の負担は財政難を招きつつ米国全体にますます重くのしかかっている。米国からの軍
 事協力の要求に特別措置立法によって対処してきた日本政府は、安保体制によって状況
 を一変させた。今や米国のみならず他の外国軍に対しても自衛隊による海外軍事支援が
 恒常的に可能になった。
・「日米同盟」という言葉が、メディアで日常的に使われるようになった。人々はこの言
 葉をあたかも「緊密で良好な日米関係」という位の意味合いで理解している。しかし、
 この言葉の本質的な意味は「日米軍事同盟」である。
・今日「日米同盟」の内実を人々が考えなくなっていることは、「日米同盟」に核心をな
 す実体、すなわち在日米軍・米軍基地や日米軍事協力に対する人々の認識が希薄である
 ことの帰結でもあるだろう。 
・2015年の安保法制反対のために国会を包囲し続けた大きな市民運動は、日本の市民
 の中に戦争を忌避し、平和憲法を擁護する根強い気持ちが幅広く存在していることを示
 した。それは戦後日本の平和主義の掛け替えのない遺産だ。私たちはこの大切な遺産を
 世界に誇る遺産として守り続けるべきだ。 

日米安保下の在日米軍 
・二国間や多国間の相互防衛条約のなかで、日米安保条約は特異な位置を占める。現在で
 も太平洋地域で有効な米国との相互防衛条約は、日米安保の他に、米比相互防衛条約、
 ANZUS条約(米国、オーストラリア、ニュージーランドの三か国間条約)、米韓相
 互防衛条約がある。すべて旧日米安保条約と同じ時期に成立したが、それらを読み比べ
 てみると日米安保条約との違いが歴然とする。その違いとは、防衛義務についてである。
・他の条約が、太平洋地域において米国が武力攻撃を受けた場合、米国を防衛する義務が
 相手国にも定められているのに対して、日米安保では「日本に施政下にある領域」にそ
 れを限定している。この防衛義務の片務性は、もちろん、戦争を放棄した憲法第九条に
 由来している。しかし、片務性を相殺する利益を、米国は日米安保条約から得ようとし
 た。つまり、米国は、在日米軍の駐留目的に別の地域概念を挿入し、それ範囲を「極東」
 にまで拡大したのである。  
・旧安保条約の締結時において、米国の極東戦略下における在日米軍の役割は明白であっ
 た。米国は、反共防衛ラインをアリューシャン列島、日本、琉球、フィリピンと設定し
 ていた。 
・50年代、東西冷戦はヨーロッパを中心に尖鋭化した。アジアでも、1950年に朝鮮
 戦争が勃発し、53年の休戦協定によって、かろうじて休戦状態を維持しているにすぎ
 ない。したがって、1960年の安保改定時、米国のアジアにおける前線基地の必要性
 は明らかであり、日本を米国の軍事拠点として確保する必要があった。その結果、新安
 保条約においても「極東における国際の平和及び安全」(第六条」といういわゆる「極
 東条項」が存続し、在日米軍の駐留目的が、共同防衛の地理的範囲(第五条)を超えて
 設定されたのである。 
・在日米軍はフィリピン以北の「極東」の防衛のためにしか出動できないわけである。に
 もかかわらず、在日米軍のベトナム戦争への関与については、第3項の牽強付会の解釈
 によって政府・与党はこれを強行した。 
・その後、湾岸戦争やイラク戦争において、日本を母港とする米国の航空母艦(空母)や
 巡航ミサイル搭載艦が日本から出撃し、アラビア海さらにペルシャ湾に入って攻撃を行
 う事態にまで米軍の活動がエスカレートした。この場合は、ベトナム戦争に適用した極
 東防衛のための「行動の範囲」論ではもはや説明できない。しかし、日本政府は「極東」
 に関する統一見解を変える必要はなく、在日米軍が遠く離れた場所で戦闘を行っても、
 日米安保条約上何ら問題がないとの見解を示すようになった。 
・安保条約第六条で規定されている「施設及び地域」(いわゆる米軍基地や訓練地域)と
 「合衆国軍隊」の日本国内の法的地位を定めるために、日米安保条約と同時に「地位協
 定」が結ばれた。 
・米軍基地の総面積は、263.6平方キロメートルを占め、これは東京都の総面積の
 約12%、大阪府の約14%に相当する。都道府県別の面積では、沖縄が日本全体の約
 71%と圧倒的に多く、青森9%、神奈川6%、東京5%の順となる。
・冷戦後、対ソ戦略上の必要が大幅に減り、米国内やグアムなどで米軍基地が大幅に減っ
 た時期においても、在日米軍基地に大きな削減はなかった。その主要な原因は日本政府
 の主張の弱さにあった。  
・冷戦終結のような大きな緊張緩和の情勢を受けて、日本政府にその意思があれば、日米
 合同委員会において基地削減を求める理由は十分に存在し、強力な交渉が可能であった。
・そうした医師の欠如はまた、個々の基地を提供する理由や期間において明示的な記述が
 ないという、地位協定そのものの弱点を是正する努力も欠如させている。  
・冷戦時代、日米安保体制は米国の対ソ核戦略の一部であった。その実態の深刻さは、米
 国の情報公開法を使った研究者の調査によって、80年代以降、次々と明らかになって
 きた。もっとも象徴的な事実は、ソ連と全面戦争になったときの米国核戦争計画のアジ
 ア部分の実行プランが、当時在日米軍司令部のあった府中空軍基地において作成されて
 いるとともに、プランが実行されるときの作戦支部の役割を府中が担っていたという事
 実であろう。まさに、在日米軍は世界核戦争の実行部隊だったのである。
・1967年、府中基地に「太平洋作戦連絡事務所(POLO)が設置された。POLO
 は、SIOPの下での太平洋軍の核戦争時における偵察計画を立案する組織であった。
 またそれは、「指揮センター・核作戦」太平洋支部の副支部として、核戦争においても
 生き残って作戦指揮にあたる空中司令ポストを確保する任務ももっていた。
・ベトナム戦争は、日本の基地なしにはなし得なかった戦争であった。日米安保体制は、
 「極東条項」を事実上反古にして、米軍支援の後方基地としてフルに使用された。米軍
 支配下にあった本土復帰前の沖縄は言うに及ばず、本土の米軍基地も戦局に直結し、生
 々しい後方基地となった。 
・ベトナムで負傷した米兵の70%は、日本に運び込まれ、10万人以上が米陸軍王子病
 院(東京都北区)、米陸軍ドレイク病院(朝霞市)、米陸軍岸根病院(横浜市)、米陸
 軍座間病院(相模原市)のベッドを埋めた。沖縄の牧港補給地区には、米国に移送され
 るまでの中間処理場として死体安置所が設けられた。 
・78年ガイドラインの内容は、日米両軍が、
 @侵略の未然の帽子
 A日本への武力攻撃がなされる恐れのある場合の対処
 B日本への武力攻撃がなされた場合の対処
 C極東における事態に対する協力
 など具体的状況を想定して、日米防衛協力の基本的指針を述べたものである。
・実際に武力攻撃が発生したとき、「自衛隊は日本の領域及びその周辺海空域において防
 勢作戦」を行い、米軍はそれを支援するとともに「自衛隊の能力の及ばない機能を補完
 するために作戦」を実施するという、軍事的役割分担を行なうこと、自衛隊と米軍はそ
 れぞれの指揮系統で行動するが、あらかじめ調整の手続きを定めておくこと、を確認し
 た。一口で言えば指針は、「自衛隊は盾、米軍は槍」の役割分担を明記したのである。
・地位協定では、基地の地代や地主への補償費を日本が負担する以外は、すべて基地維持
 費用を米軍が負担するという約束がなされているのである。しかし、1978年以降、
 日本政府はこの条項を空洞化させていった。当時の金丸防衛庁長官が口にした文言から
 命名された「思いやり予算」の登場である。   
・最初は、基地に働く日本人従業員の労務経費の一部負担に始まり、代替施設建設費、軍
 人・家族の生活改善施設(そのなかにはエアロビクス教室、ビリヤード場、映画館など
 がある)、そして、作戦施設とも言うべき滑走路や戦闘機格納庫の建設費まで、日本の
 予算、つまり私たちの税金で支払われるように拡大されていった。 
・1987年からは、新たに「地位協定第二四条についての特別措置協定」という枠組み
 が設けられた。この中身も87年、91年、95年と協定が改められるごとに、基地従
 業員労務費から、光熱水料、訓練移転費へと「思いやり」の適用範囲が拡大していった。
・トランプ大統領は、事情を知らぬまま、選挙キャンペーン中に在日米軍駐留経費を全額
 払えと発言したが、大統領就任後の安倍首相との最初の首脳会談では、「日本はお手本
 だ」と前言を翻した。実際、米軍基地天国となった日本の姿は米国内でも周知の事実で
 あった。  
・日本の駐留経費負担率は74.5%で、同盟国トップと算定され、韓国の40.0%、
 ドイツの32.6%、イタリアの41.0%を大きく上回っている。
・つまり、日米安保体制とは、締結時に意図した対ソ防衛体制ではもはやなく、米軍の全
 地球的(超地域的)な展開を支える体制であるというのが、米国の認識となり、公然と
 語られるようになっていたのである。  
・日米安保再定義の予定進路を修正させたのは、沖縄で歴史的な高揚を見せた、島ぐるみ
 の基地反対闘争であった。これは、95年9月に起こった米海兵隊員による12歳の少
 女に対するレイプ事件
が直接のきっかけとなった。 
・普天間飛行場の返還は基地のない場所に新たな基地を建設する提案であった。SACO
 (沖縄に関する特別行動委員会)合意がすべて実行されても、沖縄の基地面積は2割減
 るだけであり、当時日本全体の75%の基地が沖縄に集中しているという数字は71%
 に減るだけである。 
・中国の国内総生産は、2008年には世界第二位の日本に肩を並べ始め2009年には
 日本を抜いて第二位に浮上した。それ以後、世界第二位の経済大国の地位を占めている。
 ストックホルム平和研究所SIPRI)の統計によると、中国の軍事費は1979年か
 ら20年間、毎年2桁台の伸びを記録し続けた。その結果、2000年には日本に次ぐ
 第六番目に位置していたが、2001年には日本、ドイツを抜き、米、仏、英に次ぐ世
 界第四位となった。さらに2003年以降はフランスを抜いて米国に次ぐ世界第二位の
 軍事費消費国となった。 
・北朝鮮の弾道ミサイル能力は多様化するとともに高度化している。2017年にはスカ
 ッドER数発を同時に発射する訓練が行われており、北朝鮮が数か所からこのような複
 数発の同時発射を行なえば、日米のイージス艦による弾道ミサイル防衛はほとんど無力
 になると思われる。 
・核弾頭を小型化して弾道ミサイルに搭載する努力が行われているが、開発がどの程度進
 んでいるのかについては定説はない。いずれにしても技術的に近い将来達成されると予
 想される。軍事的な手段によって一時的に遅らせることはできても、それを阻止する方
 法はなく、政治・外交的な努力が必要である。 
 
在日米軍の全体像
・在日米軍を正しくとらえるには、組織や制度上の問題を明確にするとともに、その実態
 を「惑星・アメリカ」を支配する米軍システム全体のなかでとらえる必要がある。そう
 することによって、実際の「在日米軍」とは、米軍が地球の裏側まで展開する際の活動
 拠点を日本に置いているという概念に過ぎず、日本の防衛を主眼とする米軍を示す概念
 ではないというのが、より明確になる。 
・在日米軍の上部組織である米太平洋軍は、米国の九つの統合戦闘軍の一つである。九つ
 のうち六つが地域的統合軍であるが、太平洋軍は地域的統合軍の中で最大の責任区域を
 持っている。 
・在日米軍の司令部は、横田基地に置かれている。横田基地は太平洋空軍に属する第5空
 軍の司令部があり、第5空軍司令官が在日米軍司令官を兼務している。
・太平洋艦隊は在日米軍と横並びの組織である。第7艦隊は、日本を拠点とするが太平洋
 艦隊に属する。
・米国の大型航空母艦(空母)を近くで見た者はだれもが、その巨大さに圧倒される。飛
 行滑走路のある甲板が頭上にせり出し、覆い被さってくる感じを受ける。甲板上の人物
 が小さく見える。現在の米海軍が保有する空母は、すべてミニッツ級の原子力空母であ
 る。最大排水量10万2千トン、艦の全長330メートル。世界で建造された最大の軍
 艦である。乗組員6千人であるから、さながら動く小都市である。
・横須賀への空母の母港化は、1973年に始まった。その後、これまでミッドウェー、
 インデペンデンス、キティホーク、ジョージ・ワシントン、ロナルド・レーガンと空母
 が交替し、五代にわたっている。  
・随伴艦として現在、11隻の洋上艦が横須賀を母港にしている。すべてがイージス・シ
 ステムを備えたイージス艦と呼ばれる種類の軍艦である。 
・第5空母打撃群の空母には、艦載機として第5空母航空団が搭乗する。この航空団には、
 最新の装備を持ちさまざまな役割を担う、九個の航空隊が含まれる。各航空隊は、最新
 の戦闘攻撃ホーネットFA18E11機で編成されている。
・冷戦後の空母艦載機の戦闘能力は、制空権確保の空中戦闘能力よりも地上攻撃能力が重
 視され、最新鋭のFA18Eに置き換わった。
・横須賀を母港にする11隻の空母随伴艦はすべてイージス艦である。イージス艦とは、
 軍艦を防衛するためのイージス戦闘システムを搭載している軍艦の総称である。敵の対
 艦ミサイルを撃ち落とす防空システムとして開発されたが、現在では敵の潜水艦、洋上
 艦を攻撃したり、別の標的に向かう敵の弾道ミサイルを撃ち落とす(弾道ミサイル防衛)
 能力など、広範囲の戦闘任務をこなす複雑な電子戦闘システムになっている。最新のも
 のは、約200キロメートルの範囲になる100に達する攻撃目標を同時に処理する能
 力があるとされている。
・核巡航ミサイルは射程約2200キロメートルであり、日本周辺海域からソ連の極東基
 地をピンポイント攻撃できた。    
・2017年現在、4隻の原潜と2隻の潜水艦空母がグアムを母港にして第7潜水艦群に
 所属している。日本では、横須賀、佐世保、ホワイトビーチ(沖縄県うるま市)の三つ
 の米海軍基地に原潜の寄港が許されている。 
・掃海艦を含めると、佐世保を母港とする米軍艦は合計8隻となる。横須賀のものを合わ
 せると、日本を母港とする米軍艦は実に21隻にも及ぶ。日本以外への米軍艦の海外母
 港は、バーレーンに8隻、スペインに4隻、イタリアの1隻のみである。この世界の現
 状と比較すると、ここでも日米安保体制の突出した姿を確認することができるであろう。
・2007年11月以後、朝鮮国連軍後方司令官も、横田基地に常駐することになった。
 朝鮮戦争の一方の当事者であった朝鮮国連軍司令部は米軍占領下の東京第一ビルにあっ
 た。朝鮮戦争停戦後、1957年に司令部がソウルに移ったとき後方司令部がキャンプ
 座間に置かれていたが、それが2007年に横田基地に移転したためである。横田基地
 の司令部には日米の国旗とともに国連旗が掲揚されている。
・在日米空軍/第5空軍の指揮下には三つの主要基地とそれを拠点とする三つの航空団が
 ある。横田基地の第374空輸航空団、三沢基地の第35戦闘機航空団、嘉手納基地の
 第18航空団である。  
・三沢基地の北方約20キロメートルに対地射爆場である天ケ森射爆場がある。F16の
 日常的な激しい対地攻撃訓練はここを中心に行なわれている。本州唯一の対地射爆場で
 あり、自衛隊もここを射爆訓練に使っている。  
・このような精鋭部隊が三沢にいるのは、もちろん日本に戦争が近いからではない。たと
 えば、湾岸戦争以降から2003年のイラク戦争開始まで継続された。イラク南方の飛
 行禁止地域のパトロール飛行を行う米軍の「サザン・ウォッチ作戦」には三沢のF16
 が交替で派遣された。その後の「イラクの自由作戦」、アフガニスタンの「不朽の自由
 作戦」、イラクの「新しい夜明け作戦」などにも三沢からの戦闘機航空隊が繰り返し派
 遣された。 
三沢基地については、戦闘機部隊の他に「三沢セキュリティ・オペレーション・センタ
 ー(MSOC)」と呼ばれる情報活動センターの存在を忘れてはならない。電子的な情
 報収集や通信の暗号化、暗号解読、他国の通信妨害からの防護などをリアルタイムに行
 う部署である。 
・三沢基地には2014年に日本初めての米空軍のグローバルホーク無人偵察機がグアム
 から飛来し、2015年も飛来した。台風回避が理由とされたが、北朝鮮との関係では
 三沢基地からの展開が地理的に有利であると思われている。 
・中国や北朝鮮が発射する弾道ミサイルを追跡するXバンド・レーダー基地が、日本にす
 でに二か所建設された。車力通信所(青森県つがる市)と経ケ岬通信所(京都府京丹後
 市)である。車力通信所には2006年に第10ミサイル防衛中隊が設置され、経ケ岬
 通信所には2013年に第14ミサイル防衛中隊が設置された。イージス艦による日米
 共同のミサイル防衛体制と一体となって運用されている。
  
在日米軍の活動を見る
・湾岸危機が発生し、海兵隊の急派が行われたとき、沖縄の海兵隊は重要な役割をほとん
 ど担わなかったというのが真相である。ペルシャ湾にもっとも近く配備されている海兵
 隊は沖縄の海兵隊であるが、緊急展開には、別の部隊が駆り出された。前進配備の重要
 性を強調するためにしばしば口にされる「距離の要素」は決定的な重要性をもたないこ
 とを示している。 
・朝鮮半島に関していえば、暴発的あるいは暴走的軍事衝突の可能性が仮にあったとして
 も、長期的戦争になる可能性は極めて少ない。いずれの場合も、圧倒的な軍事的優位を
 持つ米韓合同軍が十分に初期対応できる。必要ならば米本土から応援が来る体制を見せ
 ることで抑止力を強化できる。 
・台湾海峡に関していえば、上陸作戦を任務とする海兵隊が必要とされるような局面が緒
 戦に起こることはない。たとえば、1996年3月から4月に台湾海峡の緊張に対応し
 て、米軍は大規模な軍事作戦を展開した。空母インデペンデンスと空母ミニッツの二個
 空母戦闘団を投入した極めて政治的な示威と、地域ミサイル防衛体制のための訓練とい
 う軍事的な実利を狙った作戦であった。しかし、海兵隊の関与はなかった。
・南沙諸島に関しては、日米安保体制でカバーすべき領域ではないという問題がまずある。
 それを別としても、米国と中国の間での軍事衝突を避けるための外交がもっとも現実的
 な対応にならざるをえない。不幸にも軍事的なエスカレーションがあったとしても、米
 国は南沙諸島の領土問題には関与できず、航行の自由の観点からの対応に限定せざるを
 えない。海兵隊の出る幕は想定しにくく、抑止力にもならない。 
・東アジア地域の軍事的バランス要因として米軍が沖縄に前進配備しているという議論は、
 本末転倒である。米軍がいる結果、中国や北朝鮮の軍拡を促進してきたという側面が大
 きいからである。最近の安倍内閣による日米防衛協力のための新ガイドラインや集団的
 自衛権にまで踏み出した安保法制に対する両国の反応を見ても、日本の軍拡を抑えると
 いうような中立的存在として在日米軍を考えてはいない。日米両軍が一体となって地域
 的軍事力を強める存在としてとらえている。  
・一方、中国の軍事力強化やスプラトリー諸島を核心的利益とする主張に対抗するため、
 米軍のプレゼンスを歓迎する東南アジアの国々があることは事実である。これらの国々
 を安心させる方法は、地域全体を縮小均衡へとむかわせる発想であり、米軍のプレゼン
 ス強化は逆の効果を生む。 
・在日米軍に日本の軍拡を抑制する役割を託すという認識が米国内にあることは確かであ
 る。この場合、二つの意味合いが含まれている。一つは在日米軍が撤退すると、周辺諸
 国との軍事バランスが崩れるので、日本自身が軍拡をしてそれを埋めようとする。その
 結果、日本が軍事強国となって米国への脅威となる、という危惧である。もう一つは、
 日本に根強く存続している過去の戦争を賛美する歴史修正主義とそれに結びつく軍国主
 義論の台頭を抑えるという立場である。 
・だが、このような理由による在日米軍の駐留は、日本の軍拡を抑える効果よりもナショ
 ナリズムを刺激して逆の効果を生むだけである。 
・いわゆる「思いやり予算」をはじめとする日本の「受け入れ国支援の魅力」は、米軍に
 とって極めて大きなものである。日本のサポート金額は、年額約6千億円であり、それ
 は米軍駐留経費の70%以上をカバーし、「米国内に置くよりも日本に軍隊を駐留させ
 る方が安上がりになる」状況を生み出している。 
・トランプ政権に「日本の受け入れ国支援はお手本」と言わせた。毎年の「受け入れ支援」
 に加えて、合計1兆円以上の基地資産を米海兵隊は日本に確保しているのである。
・沖縄に海兵隊を前進配備する軍事的理由はない。本質は財政的理由であり、それと絡む
 日米関係にかかわる政治的理由である。  
・第7艦隊の役割は、1980年代の後半以降、重要な一つの変化を遂げた。それは、巡
 航ミサイル・トマホークの対地攻撃能力の導入によるものであった。トマホークの実戦
 配備以前は、内陸の目標を攻撃する唯一の海軍兵器は空母から飛び立つ攻撃機であった。
 しかし、無人特攻機とも言える巡航ミサイルが導入されることによって状況は変り、そ
 の有効性が湾岸戦争において初めて立証された。そして、第7艦隊は巡航ミサイルによ
 る対地攻撃を主要任務の一つとする艦隊となった。 
・歴史上初めてトマホークが実戦使用されたのは、「砂漠の嵐」作戦が始まった1991
 年1月であった。当時、横須賀には4隻のトマホーク発射能力艦が母港にされていた。
 そのうちの1隻は横須賀に母港を定めたばかりで湾岸派遣のタイミングにはなかった。
 それを例外とすると、3隻すべてが湾岸に派遣されトマホーク発射艦として使われた。
・最初の攻撃目標には、レーダー基地、対空砲火基地、指揮管制基地などとともにバグダ
 ッドのサダム・フセイン宮殿が含まれていた。湾岸戦争では18隻の軍艦から288発
 のトマホークが発射された。 
・空母の日本への母港化は、ニクソン・ドクトリンによる米軍の大再編のなかで行われた。
 しかし、米国内の厳しい財政事情を反映して米国防総省は混乱し、その再編方針は首尾
 一貫性のないものであった。日本外交がもう少ししっかりしていれば、空母の母港化は
 なく、第7艦隊の様相も大きく変わっていたであろう。 
・1970年8月末、当時のマイヤー駐日大使から愛知揆一外務大臣に、大規模な在日米
 軍活動の削減と基地の整理統合を予告する覚書が手渡された。一口で言うと、横須賀基
 地からの米海軍の事実上の撤退、佐世保への集約という大方針が合意されたのである。
・米国側の最初の提案は、合意内容よりももっと劇的なものであった。つまり、
 @横須賀の6個のドッグすべてを日本に返還し、民間、自衛隊いずれかが艦船修理施設
 (SRF)を経営する。 
 A米軍艦寄港時には米軍艦の修理をそこで行う契約を結ぶ。
 B第7艦隊の旗艦オクラホマシティの母港を佐世保に移し、第7潜水艦群司令部も縮小
  して佐世保に移転する。
 C横須賀には縮小した在日米海軍司令部と兵站業務が残る。
 D71年6月末までにこれらを実行する。
 などである。
・大々的に新聞報道されたこのSCC合意の下では、空母の日本母港などあり得なかった。
 しかも、日本外交がしっかりしておれば、安全保障のために最小限の基地を維持すると
 いう精神をもった地位協定第二条を、米国に恩を売る形で具体化するルール作りが可能
 であった。なぜならば、米国側は、最初の提案に見てとれるように、一日も早く基地を
 手放したいと思っていたからである。にもかかわらず、日本はその機会を逸してしまっ
 た。わずか一か月後には、米国は強引にこの合意をひっくり返す方針に転じ、日本は易
 々とそれに従ったのである。
・米軍は財政の好転の兆しをとらえて、71年1月中旬には日本への空母母港を検討し始
 めた。それと並行して、米軍は、横須賀基地の重要さに言及した佐藤首相の発言を利用
 した。日本政府が米軍による横須賀の継続使用を望んでいるというシナリオを作って米
 国内の了解を取り付け、横須賀撤退方針の撤回に動き出したのである。
・SRF返還の話はすべて御破算となり、横須賀撤退どころか世界に類例のない空母母港
 が米国の都合で強引に実現することになった。   
・外務省官僚は、その過程で日本市民の代表というよりは米国国務省の出先として、日本
 を説得する方策を米国側に進言する役割を果たした。 
・当時、米国はアテネ、ナポリ、シンガポールにも空母母港を検討していると日本政府に
 説明したが、日本以外のどこにおいても空母の母港化は実現しなかった。
・ジョージ・ワシントン、ロナルド・レーガンを含め、米国の10隻の現役原子力空母
 (CVN)はすべてミニッツ級に所属する船である。ミニッツ級CVNは、熱出力が約
 60万キロワットとされる加圧水型軽水炉2基で動力を賄っている。電気出力100万
 キロワットの商業用発電炉の約5分の1の熱出力の原発が2基、東京湾に浮かんでいる
 ことになる。  
・東京湾に原発が浮かんでいることのリスクは極めて大きい。2011年の3.11東日
 本大震災による福島第一原発の事故は、発生確率が少ない事故であっても、原子炉の放
 射能放出は計り知れない被害と社会的影響を生み出すことを示した。米海軍は空母の原
 子炉の絶対的安全性を主張するが安全性は絶対はない。 
・3.11のとき、ジョージ・ワシントン母港横須賀に係留されていた。津波の引き潮に
 よって水位が下がり、揺れは非常に強くて船を埠頭岸壁から離すほどだったという乗務
 員の証言が新聞に載っている。震源が東京湾に近かったとしたら、あるいは原子炉がま
 だ取水し冷却が必要な状態で津波によって横転したら、など、考えられる悪夢のシナリ
 オは数多い。人口密集地に近い原子力空母の母港など選択肢になりえないことであろう。
・それとは別の観点から、原子力空母は戦争任務を第一義とするプラットホームであるこ
 とを思い出しておきたい。3.11の地震発生の瞬間、後に横須賀を母港とすることに
 なる空母ロナルド・レーガンは太平洋を西に向かって航海していた。米韓合同軍事演習
 に参加するための移動であった。大地震を知ったロナルド・レーガンは12日に行き先
 を日本の本州に変え「トモダチ作戦」と呼ばれる救援活動に従事することになった。こ
 の活動によって救われた多くの命があることを思うとき、トモダチ作戦に感謝する気持
 ちを忘れてはならないだろう。
・一方で、筆者にはひっかかる疑問点が残った。空母には数千人の乗組員が生活をしてる。
 船の運航や救援活動に従事する水兵や兵士を除く、戦闘機など艦載機のパイロットは整
 備士、武器弾薬の維持管理など戦闘任務に直結する2千人は下らないと思われる乗組員
 は3週間余りのトモダチ作戦の期間何をしていたのだろう。格納デッキに納まらない艦
 載機は甲板の相当な面積を塞いでいたのではないか。艦載機をどこか陸上の飛行場に移
 した形跡はなかったし、実際それは技術的に不可能なことであっただろう。疑問がすべ
 て解決したわけではないが、調査の結果、重要な事実を確認できた。トモダチ作戦に従
 事していたとされる期間においても、ある時期から戦闘機の離発着訓練が始まった。
・トモダチ作戦を終えたロナルド・レーガンはアラビア海に直行して「不朽の自由作戦」
 に参加して空から地上戦闘を支援した。「トモダチ作戦」に従事している期間も、半数
 以上の乗組員は戦闘準備を行っていたのである。    
・米軍艦による日本への核兵器持ち込みの事実が、もっとも直接的に形で明るみになった
 のが、1965年12月の空母タイコンデロガ事件であった。事件というのは、空母タ
 イコンデロガがベトナムでの空爆任務を終えて横須賀に一時寄港する途中、水素爆弾1
 個を攻撃機もとろも水中に落下・紛失したものである。この事件は、1989年5月に
 民間の環境保護団体グリーンピースによって暴露された。 
・核兵器1発を積んだA4スカイホーク攻撃機が空母のエレベーターから滑り落ち、海中
 に連絡した。乗員、機体、核兵器は回収できなかった。事故は、陸地から800キロメ
 ートル離れた海上で起こった。航海記録を突きつけられた国防総省は、すぎに記録が水
 爆水没事故であったことを認め、国防総省発表の位置は中国大陸からの距離であると白
 状した。 
・事故のあのタイコンデロガは行方不明のパイロットの捜索を他艦に委ねたうえで約1時
 間後現場を出発し、真っ直ぐ北上して一路横須賀に向かった。そして約39時間後東京
 湾に入り、横須賀の12号バースに接岸した。
・事故当時、空母上では核爆弾の航空機への取り付け訓練が行われていた。飛行甲板の一
 階下にある整備甲板でカートに積んだ核兵器を移動し、攻撃機の腹に装着し、エレベー
 ターで飛行甲板まで上げ、さらに飛行機の発信予定位置まで移動させているのである。
・空母が核兵器を搭載したまま横須賀を母港にすることを、日本政府が容認していた事実
 が、筆者が行った米外交公文書の調査で明らかになり、2000年4月に新聞にも大き
 く報道された。これは一時寄港ではなく、常駐する在日米軍そのものの核兵器装備を日
 本政府が許していたという次元の話である。空母の母港受け入れ時の主体性のない日本
 外交については、そのなかでも、核兵器の扱いがもっとも深刻な問題であった。
・米海軍の空母に搭載された核兵器は、1991年9月のジョージ・ブッシュ大統領のイ
 ニシャチブによってすべて撤去されることになった。大統領は、地上配備の戦術核を全
 廃するとともに、平時においては艦船、航空機に戦術核兵器を搭載することを中止する
 と一方的に発表したのである。  
・ブッシュ大統領は、1992年7月に戦術核の撤去が完了したことを発表した。さらに、
 クリントン政権下で1994年9月に発表された「核態勢見直し(NPR)」は、空母
 を含むすべての水上艦は、単に核兵器が撤去されただけではなく、核兵器を扱う「核兵
 器能力」そのものを失うことになると発表した。その結果、巡航ミサイル発射能力のあ
 る駆逐艦や巡洋艦の核能力はなくなった。米海軍では、攻撃型潜水艦のみが継続して核
 巡航ミサイル・トマホークを発射する核能力を維持することになった。しかし、その核
 巡航ミサイル・トマホークも、オバマ大統領によって2013年に退役し、米海軍の戦
 術核兵器はすべてなくなった。
 
脅される市民生活−基地がもたらす被害
・ベトナム戦争のとき、ベトナムで破壊された戦車や装甲兵員輸送車を大量に在日米軍基
 地に運び込み、修理して前線に送り返す活動が行われた。ベトナムで起こった民族解放
 闘争を抑圧し、空爆と非人道的な介入を続ける米国に対して、世界的なベトナム反戦運
 動が高揚してきたときである。 
・1995年9月、沖縄本島北部でお使い帰りの女子小学生が、待ち伏せをしていた3人
 の米海兵隊にレイプされるという兇悪事件が発生した。計画的な犯行であったこと、拉
 致しレンタ・カーでビーチへ連れ去ったあとのレイプであったことなど、より詳しい情
 報が報道されるにつれて、沖縄県民の怒りは増幅した。 
・沖縄県民の怒りの背景には、繰り返される米軍犯罪に対して募っていた住民の苛立ちが
 あった。「沖縄のマグマ」と呼ばれたその感情のなかには、国土面積0.6%を占める
 に過ぎない沖縄に、日本全体の75%もの広さの米軍基地を押しつけている差別構造へ
 の怒り、米兵の犯罪に対して日本の司法権が制約されていることなど占領時代の記憶に
 つながる反米感情、そして戦争暴力と二重写しになる女性への性暴力に対する憎しみ、
 などが重なっていた。沖縄における女性へのレイプや強制わいせつ犯罪に限ってみたも、
 その後もほぼ1年に1件の割合で犯罪は繰り返されている。 
・米兵の犯罪についての裁判権問題には、軍隊駐留がはらむ極めて本質的な問題が潜んで
 いる。兵士が「敵を殺せ」という国家の命令に服し、命令によって「死ぬ」ことを厭わ
 ないようにするために、国家は絶えず兵士の精神と技術の訓練を継続しなければならな
 い。そのような軍隊を、利害が完全に一致するわけではない外国の領土に常駐させ、外
 国の社会での暮らしを強いるという状況は、極めて特異な状況である。 
・嘉手納基地におけるPCB汚染というのもあった。米空軍は汚染の回復に20万ドルを
 要するという具体的な数字が示されていた。PCBは、日本ではカネミ油症事件を引き
 起こして有名になったが、人体に蓄積してガンを誘発するなど毒性の強い化合物である。
・問題の汚染は、1986〜88年に嘉手納基地六号倉庫の屋外貯蔵場で発生した。推定
 3回の変圧器のPCB液漏出事故によるものであった。いずれの事故も、最初はささい
 な事故として、限られた範囲で汚染土壌を30センチメートル掘り返して処理を終えた。
 しかし、後の測定によって、処理が不十分であったために汚染面積が87平方メートル
 から約5倍の446平方メートルに広がっていることが判明した。結果的には、55ガ
 ロンのドラム缶約500個の土壌の除去が必要であった。
・1993年10月には、米軍横田基地で演習中に推定68キロリットルという大量のジ
 ェット燃料が漏洩し、地面を汚染するという事故が発生した。   
・米海軍横須賀基地の空母用バース(12号バース)の汚染が問題となった。海岸浚渫の
 ために掘削した土壌がPCBや重金属によってひどく汚染されていたため、埋め立て処
 分地用の土壌として合法的に使うことができなかった。契約はやくなく中止され、汚染
 土はもとの穴に埋め戻された。
・かつては嘉手納飛行場の一角であった土地が、現在は沖縄市ゴザ運動公園サッカー場に
 なっている。2013年6月、サッカー場の改修工事が始まり、作業員が古い芝生を掘
 り起こして新しい芝生に張り替えるために作業をしていた。コールライン付近を掘って
 いた作業員が、約1メートルの深さのところにドラム缶が埋まっているのを発見した。
 ドラム缶の数は22本に達した。ドラム缶の多くは崩れて原形をとどめていなかったが、
 数本の側面には白ペンキで「ダウ・ケミカル」という会社名と「ミシガン・ミッドラン
 ド」という同社の工場名が判読できた。この工場はベトナム戦争で使われた枯れ葉剤の
 製造で知られている工場だ。枯れ葉剤は猛毒のダイオキシンを高濃度に含む除草剤で、
 米軍はゲリラの隠れ場所になるジャングルを枯死させるために用いた。人体に入るとガ
 ンや出産異常をもたらし、今もベトナムの人々を苦しめている。
・2014年1月にサッカー場では追加して61本ドラム缶が見つかったほか、2015
 年2月にはさらに17本が発見された。合計すると100本になる。これがすべてであ
 るという保証はない。  
・在日米軍の活動で、日本の市民の日常生活にもっとも身近に生じている被害は、軍用機
 の騒音であろう。海軍の厚木、三沢、嘉手納基地、空軍の横田、三沢、嘉手納基地、海
 兵隊の岩国、普天間基地が代表的な在日米軍の航空基地であり、いずれにおいても深刻
 な騒音被害が発生している。とくに、横須賀を母港とする空母艦載機の夜間離着陸訓練
 (NLP)は、周辺住民にとって耐え難い苦しみを与えてきた。 
・横田基地においても、1976年4月に第一次横田基地公害訴訟が提訴されて以来、
「静かな空」と「静かな夜」を求めてさまざまな形で訴訟が繰り返され、現在まで大きな
 くくりでの訴訟は5回、提訴数は12回を数え、現在も継続している。
・米軍機の低空飛行訓練もまた、市民生活に深刻な被害を生み出している。地域紛争が主
 たる戦場と想定される現在、敵のレーダーと対空ミサイルによる防空能力を叩くことが、
 米軍航空機の重要な任務の一つとなった。巡航ミサイルが得意とする分野であるが、航
 空機がやるとすれば、その防空網をかいくぐるH飛行が必要となる。  
・1991年、米海軍がグリーンルート、ピンクルート、ブルールート、オレンジルート
 などと命名された低空飛行訓練ルートをもっていることが明らかになった。それ以後、
 さらに多くの山間部や海上に、米軍が勝手に定めた訓練ルートや訓練区域があることが
 明らかになっている。 
・低空飛行訓練は、墜落事故、林業ワイヤーの切断、衝撃波による振動、騒音、家畜への
 被害など、思いがけない場所で思いがけない被害を生み出している。 
・まさに日本国中をわがもの顔に米軍機が飛び回っているのである。地位協定がそれを許
 し、航空法特例法で高度規制ができないという法体系に問題があることはもちろんであ
 る。しかし、日本政府に意思があれば、低空飛行は、地位協定五条で許している「基地
 間の移動」とは言えないものであり、訓練行為としての制約を加えるおkとができるの
 であろう。 
・問題の背後には日本の安保政策の根本問題が存在している。自衛隊は盾、米軍は槍、と
 いう防衛役割分担を日本政府が選択している以上、槍として危険な攻撃任務を負わされ
 ている米軍が任務遂行に不可欠な訓練だと主張したとき、日本政府は反論できない。
・2016年12月、沖縄県民の反対を圧して導入したばかりの傾斜ローター型垂直離発
 着機オスプレイの大事故が発生した。米軍普天間基地に所属する1機である。オスプレ
 イは沖縄本島の当方約20キロメートル沖合で空中給油機から給油を受ける夜間訓練を
 していた。そのとき給油ホースが切れてオスプレイのローターの羽に当たり、羽を損傷
 した。パイロットは市街地上空を飛ばさなければならないので普天間基地に帰還するこ
 とを諦めて沿岸のキャンプ・シュワブに行き先を変えた。それもかなわず途中で浅瀬へ
 の着水を試みたが失敗して機体は大破した。幸い人命は失われなかったが、胴体は真っ
 二つに折れ、主翼部と機首、尾翼部分がバラバラになった。
・オスプレイは開発段階からその安全性に問題があるとされ、沖縄配備には自治体挙げて
 の強い反対があった。垂直離発着時には2個のプロペラのヘリコプターのように水平に
 回転させ、水平飛行のときには双発プロペラ機のように垂直に回転して最大時速520
 キロメートルで航行する。見るからにバランスの悪い大きな羽をもった新型機の設計そ
 のものについての不安が付きまとっていた。全体的な揚力不足やヘリコプターが備えて
 いるオート・ローテーション機能の欠如などである。オート・ローテーション機能とは、
 空中でエンジンが停止したヘリコプターが落下時の対抗気流によってローターを回転さ
 せ、揚力を得て軟着陸する機能である。さらに開発に予想以上の時間と費用をかけた軍
 産一体の事業が無理に実績を得ようとする弊害への懸念もそれに加わった。   
・日本への配備前にもさまざまな事故や変調が報告されていた。2012年、日本配備の
 直前にモロッコと米フロリダ州で相次いで墜落事故が発生した。2013年には米ネバ
 タ州で訓練中に墜落炎上の事故を起こした。 
・2020年から空軍特殊作戦部隊が横田基地に特殊作戦用のオスプレイCV22を配備
 する予定であるが、それに対しても「環境レビュー」が発行された。これらによると、
 日本全国の広い地域での訓練飛行が計画されている。実際、普天間に配備されたオスプ
 レイは、すでに岩国、厚木、横田、佐世保などへの飛来が恒常化している。 
 
在日米軍の将来を考える−非軍事の選択にむけて
・2001年9月11日の同時多発テロ事件から始まった米軍の「不朽の自由作戦」では、 
 2001年10月7日の軍事攻撃開始から、アフガニスタンのタリバン政権が完全に崩
 壊し、アルカイダ残存勢力のしらみ潰しの掃討作戦に入った2002年初めに至る三か
 月の間に、米軍の死亡者は、わずか18人であった。しかもほとんどが事故死であり、
 交戦による死者はたった1人しかいない。それと比較すべきタリバン・アルカイダ側の
 死者を数える正確な統計はない。しかし、直接の米軍の空爆や特殊部隊の作戦による死
 者は数千人に達すると推定される。民間人の「巻き添え」の死者だけでも4千人を超え
 るという分析もある。
・対テロ戦争というのは、このように戦闘員の死者を比較するだけでも極めて一方的で非
 対称な戦争である。対テロ戦争の参戦国と戦闘地域の一般市民や社会的破壊を含めて比
 較したときには、その非対称性はさらに際立ったものになる。にもかかわらず、長引く
 対テロ戦争は参戦国にも大きな重圧としてのしかかってきた。
・対テロ戦争は米国の戦争の無人化を加速させた。動く標的をとらえる能力において、赤
 道上空数万キロメートルにある静止衛星に比較して、洗浄の20キロメートル上空の無
 人機は格段に高い精度をもっている。アフガニスタンとイラクでは、米空軍の無人偵察
 機グローバルホークが3機交代で常時飛行する体制がとられているという。無人機の役
 割は偵察だけではない。攻撃能力を備えた無人攻撃機も実用に投入されている。
・いまや、米ネバタ州にあるクリーチ空軍基地は、無人攻撃機を操作する対テロ戦争の聖
 地となった。そこには操作パイロットの養成から攻撃の実行まで無人機戦争のすべてが
 行われている。無人攻撃パイロットはリアルな至近距離の残虐映像に接するため戦闘攻
 撃機のパイロットよりも強い心的外傷後ストレス障害(PTSD)を受けるという研究
 報告が出るほど、無人機が新しい戦争の一部を占めるようになった。
・情報技術(IT)など技術の進歩によって戦争の様態が変わるという考えは、米国では
 1995年頃から強く意識され、「軍事における革命」(RMA)という概念が流布し
 た。米国防総省の説明によれば、「歴史的には、新技術の軍事システムへの導入が、革
 新的な作戦概念や組織再編と結合し、軍事作戦の性格や運営の根本的転換にいたるとき、
 RMAが起こる。   
・すでに情報技術は、情報のほとんどリアルタイム収集、処理、配信の能力を劇的に向上
 させている。これらの情報技術は、通常兵器による精密攻撃能力の向上と結合し、攻撃、
 防衛両面における軍事作戦のあり方に影響を与えている。 
・予測不可能な時場所において、さまざまな形の武力紛争が発生する。しかも米国の圧倒
 的軍事力の前で、敵対勢力はテロリズムなどの「非正規攻撃」に頼らざるをえない。英
 国はそれに対して機敏で精密な対応を迫られることになる。このような変化に対応する
 軍事体制の変化が求められているのである。
・情報技術(IT)の急速な進歩によって、軍事における「指揮、統制、通信、コンピュ
 ーター、情報、監視、偵察」(C4ISR)が、飛躍的に向上した。その結果、戦争の
 様式が一変する。長距離の精密攻撃兵器が、有効なセンサーと指揮・統制システムと結
 合して戦争の大部分を占めるようになるだろう。敵と接近するのではなく、望ましい作
 戦様式は敵を遠方から破壊することになるだろう。信頼性の高いロボット戦争も可能に
 なった。  
・情報技術に依存するRMAは、かつてない形で強く宇宙に依存する。軍がリアルタイム
 で統合作戦を展開しうるのは、人工衛星の役割なしには考えられない。単に情報に伝達
 のみならず、C4ISRのすべてにわたって宇宙配備の装置を使わねばならない。そし
 て、宇宙に依存すればするほど、そこを弱点と考え、宇宙活動を阻害する敵が現れるこ
 とを、米国は心配しなければならなくなる。情報RMAが論じられたのと同じ時期に米
 国においては宇宙における優位の維持が強調された。 
・米国が何を考えているのかよく分かる。まさに宇宙戦争の準備である。宇宙の軍事利用
 に関して言うと、宇宙における破壊行為を伴わない軍事利用はすでに高度に進んでいる。
 しかし、ここで構想されているのは宇宙を戦場とする破壊行為を視野に入れた議論であ
 り、新しい次元の宇宙武装に踏み出す構想である。幸い宇宙武装での分野での軍備競争
 は、弾道ミサイル防衛以外では抑制されている。しかし、2017年になってからも米
 軍においては宇宙戦争準備の主張が繰り返されている。 
・冷戦時代、米国もソ連も敵の衛星を破壊する実験を行ったが、1985年の米国の実験
 を最後に、それ以後は行われていなかった。しかし、ブッシュ政権が弾道ミサイル防衛
 に乗り出すことによって状況が変わった。2007年1月、中国が地上から発射した弾
 道ミサイルによって高度約850キロメートルで周回する自国の古い人工衛星を破壊す
 る実験に成功した。 
・中国は2010年、2013年、2014年にも同様な実験を行った。一方、米国もま
 た2008年2月、ハワイ沖のイージス艦が迎撃ミサイルSM3によって、落下しつつ
 あった自国の人工衛星を高度約250キロメートルで迎撃、破壊することに成功した。
・軌道が分かっている宇宙物体を地上から破壊する能力があることを両国がお互いに示し
 合ったのである。
・相手の電子システムにワームを送り込んで、敵国の政治的、軍事的損害を引き起こすサ
 イバー攻撃、あるいはサイバー・テロは、IT依存時代において無視することのできな
 い安全保障の課題になっている。国家間でサイバー攻撃が行われたと考えられている明
 白な例は必ずしも存在しない。しかし、2009年〜10年にイランの核兵器関連施設
 が集中的に「スタクスネット」を呼ばれるワームで攻撃された事件は、その技術力の高
 さ、攻撃準備の周到さ、経過の洗練度から考えて国家規模の組織によるものだと推定さ
 れた。  
・飛んでくる弾道ミサイルを迎撃ミサイルで撃ち落とすという、BMDの考え方そのもの
 は、決して新しいものではない。しかし、ICBMのような長距離ミサイルを現実世界
 の戦争において撃ち落とすことはほとんど不可能であると、権威ある科学者たちは断言
 している。敵側が「おとり」などの簡単な対抗技術を開発できることも一つの理由であ
 る。にもかかわらず、巨額の費用を投じて進行している事態は奇怪としか言いようがな
 い。 
・日米協力が決定的に重要な意味を持つのはイージス艦搭載のSM3によるBMDである。
 日本は2017年現在、6隻のイージス艦を持ち、やがて8隻に増やす計画である。米
 国はBMD能力をもったイージス艦7隻を横須賀を母港にしているが、2017年には
 8隻になる。米国はこれらのイージス艦によって、ハワイや米本土を弾道ミサイル攻撃
 から守ることを目指している。もちろんがグアムなどの防衛もあるであろうが本命は本
 土防衛である。中国や北朝鮮の弾道ミサイル攻撃が念頭にあるが、市民向けには北朝鮮
 の脅威を強調している。
・日本はもちろん同じ敵から日本を守ろうとしている。弾道ミサイルの発射を最初に検出
 するのは赤外線センターを搭載した人工衛星であるが、現在はこの検出能力は全面的に
 米国に依存している。検出した情報は車力や経ケ岬の米軍通信基地、あるいは米軍が近
 海に展開していれば海上移動基地に送られ、Xバンド・レーダーによる追跡が始まる。
 同時に、検出情報は海上に展開中のイージス艦にも送られ、イージス・システムの中心
 をなすSPYレーダーによる追跡も始まる。Xバンド・レーダーはSPYレーダーより
 もはるかに精度がよくミサイルの形状を捉えることができる。しかし、イージス・シス
 テムは追跡がそのまま迎撃ミサイルSM3の発射に連動する点において優れている。
・米軍と日本のイージス艦は一体となって一つのネットワークを組むのが実際の日米BM
 D協力の姿である。発射された敵の弾道ミサイルが日本を向いているか米国を向いてい
 るかに関わりなく情報はネットワーク全体に共有されなくてはならず、迎撃が可能であ
 るときには、迎撃に最も適した位置にある複数のイージス艦が迎撃することになるだろ
 う。この姿は集団的自衛権の姿以外の何物でもない。
・新安保体制は、憲法との表面的整合性を保つために「存立危機事態」という新しい概念
 を創り出した。それは「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権
 利が根底から覆される明白な危険がある」事態と定義された。そのうえで、自衛隊が米
 軍など外国軍に対して集団的自衛権を行使できることを含むような「武力の行使」に関
 する新三要件を明らかにした。    
 (1)我が国に対する武力攻撃が発生したこと、または我が国と密接な関係にある国に
    対する武力攻撃が発生し、これにより存立危機事態が生じたこと
 (2)これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がない
    こと
 (3)必要最小限の実力行使にとどまるべきこと
 の三要件である。
・文言を読むと「存立危機事態」はほとんど現実にあり得ないような極端な状況であり、
 その意味では「歯止めがかかっている」と安心する読者も多いかもしれない。しかし、
 実はこの法制化によって日米にはすぐに新しい変化が始まらざるを得ない。なぜならば、
 極めてまれなケースであっても、米軍が攻撃を受けたときに自衛隊が同じ敵に対して反
 撃をしなければならないという場面があるということが法に書かれた瞬間に、自衛隊と
 米軍はその事態に備えた訓練を始めなければならないからである。軍とはそのような組
 織である。これまでは踏み込めなかったお互いの交戦規則や指揮系統に踏み込んで、制
 度上の調整と共同訓練が必要になる。日米軍事協力とその演習はかつてない領域に踏み
 込むことになる。その姿は周辺国に脅威を与え地域の緊張を高めることにもなる。
・新安保法制は「重要影響事態」という概念も生み出した。かつての「周辺事態」に代わ
 る地理的な制約がない概念であり、地球上のいかなる場所にあっても、放置すると日本
 への武力攻撃の恐れがあるなど日本の平和と安全に重要な影響を与えるような事態と定
 義されている。このような事態においては、自衛隊は日本が攻撃を受けていなくても、
 米軍のみならず他国の軍隊に対する後方支援を行うことができるようになった。後方支
 援には武器弾薬を含む物資や人員の輸送、補給が含まれる。戦闘に向けて発進準備中の
 他国の航空機の給油も含まれる。これによって、自衛隊の活動範囲は世界中に広がると
 ともに、軍事協力の相手は米軍のみならず、オーストラリア、イギリスなどに広がって
 いる。重要影響事態の定義はあいまいであり、さまざまな場面で米軍は自衛隊を活用す
 ることが可能になるであろう。 
・新安保法制はさらに「国際平和共同対処事態」を定義した。「存立危機事態」も「重要
 影響事態」も日本の安全に直接の影響はなくても国際社会が共同で取り組むことに合意
 した事態である。そのような事態に対して、「重要影響事態」の場合と同じような自衛
 隊による後方支援が可能になった。これまでは「対テロ特措法」のように特別立法で対
 処していた事態に対して恒久法を制定したものである。自衛隊の活動場所を「現に戦闘
 行為が行われている場所以外」と場所的にも時間的にも従来の「非戦闘地域」という概
 念もよりも拡大した。自衛隊の海外における戦闘参加に限りなく近い状況が出現する。
 憲法が禁じる「武力行使との一体化」の危険や自衛隊員の戦死の危険が危惧される。
・自衛隊法の改正によって自衛艦が平時武器をもって米艦を護衛することができる条項が
 新設された。米軍にとっては、同盟国の分担を増やし米軍自身の負担を軽減し、その分
 だけ先端部門における米軍の優位を確保するために人的資源も財政資源も投入できるこ
 とになる。  
・2011年以来微減を始めていた世界の軍事費は、2015年に再び増加傾向に転じた。
 トランプ政権が国防費予算の10%増を宣言し、NATO諸国にはGDP陽%まで軍事
 費を増やすことが義務付けられた状況の中で、世界の軍事費は増加を続けると予想され
 る。日本においてもあげ政権は軍事費のGNP1%枠にこだわらないと表明した。世界
 はさらなる軍拡時代に入っている。 
・2015年時点において、1日1.25ドル以下で暮らしている極貧人口は開発途上国
 の人口の14%である8億3千6百万人に上る。飲料水と下水の標準を満たしている国
 は、世界の国の4割に満たず77か国に過ぎない。 
・軍事費削減と貧困の問題に取り組んできたNGOによると、ミレニアム開発目標の一つ
 であった初等教育の普遍化の目標達成には毎年160億ドル必要であったが、これは米
 国でペット・フードに費やされる183億ドルより少なく、世界の年間軍事費のわずか
 1%に過ぎない。 
・戦争に費やされる費用は軍需産業の利益以外に富を生み出さない。戦争難民を増やし続
 け、政情と治安を不安定化して、それがまた紛争を生む負のサイクルを作り出す。
・一方で、飢饉が貧しい国々を襲って新たな紛争の原因を作り出している。イェーメン、
 ソマリア、南スーダン、ナイジェリアを襲った飢饉は2千万人の人たちを危機に追い込
 んだ。  
・起こっている現象はさらに腹立たしい。軍事費の投入は世界の「安定」のためであると
 いう大義を掲げて行われているが、その「安定」のもとで回っている経済の仕組みは、
 世界を少しずつ金持ちにしながら貧富の格差を容赦なく広げている。
・2015年、世界の人口の貧しい側の半分(36億人)の富の総計は金持ち62人の個
 人の富の合計に等しいという。2010年には金持ち388年の個人の富と匹敵してい
 たが、富の偏在はさらに拡大した。 
・この5年間に上位62任の金持ちの富は約1兆7千6百億ドルに増加した(約44%増)
 のに対して、下半分の36億人の富は約1兆ドル減少した(41%減)。
・富の偏在を加速させている世界の仕組みの根底には、世界の天然資源とエネルギーを収
 奪するシステムがあり、このようなシステムを維持する道具に軍事力が貢献しているこ
 とは間違いない。より公正な分配のためには、富を生まないのみならず、富の偏在を拡
 大する道具になっている軍隊の影響力を弱める方向を確立することが不可欠である、す
 なわち、「軍縮」あるいは「脱軍備」が不動の価値として改めて標榜されなければなら
 ない。 
・在日米軍の必要性を訴えるために、「もしも武力攻撃があったら」から始まる安保論議
 も多くの市民が曝されている。軍事的な衝突を想定したシナリオが巷には溢れている。
 新安保体制の議論はほとんどそのように仕組まれたていた。それに対して、軍事シナリ
 オにたいこうすべき平和構築の議論は残念ながら極めて少ない。そのために、多くの市
 民が「存立危機事態」、「重要影響事態」などの軍事的危機のシナリオの虜となって、
 普通の国へと向かう道に「仕方がない」と分別を見い出してしまう。