通貨戦国時代 :小口幸伸

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現代は、通貨の戦国時代だとう。各国は、自国の経済に有利なような為替レートを望む。
日本は、ずっと円高に苦しめられてきている。日本の経済の低迷は、円高によるところが
大きいというのが、経済界の意見のようだ。確かに、輸出産業からすれば、円安のほうが
有利だ。しかし、円安ならばすべてよしとはいかない。輸入産業にとっては、円高のほう
が安く物を輸入できる。円安になれば、穀物やエネルギー関連などの輸入価格が上がり、
国内の物価にも大きく影響してくる。生活者にとってもは、大きな問題である。
2012年11月あたりから、ジリジリと円安となっている。これは、それまでの民主党
政権から自民党政権に替わることにより、自民党が大胆な金融緩和を行うのではないかと
の期待からだと言われている。これは喜ばしいことと受け取られている半面、円安になる
というのは、円に対する信頼の低下であるとの受取り方もある。海外のマネーが、円の価
値の低下を嫌ってドルの逃げているのだ。
どの程度の為替レートが適正なのかはわからないが、このまま円安が続けば、国債の価値
にも影響してくるのではと心配になる。国債の価値が低下して、国債の金利が上昇すれば、
それは日本の財政破綻に直結してくるからだ。
世界的に見て、今はインフレに悩まされている国が多いという。日本みたいにデフレに悩
まされているのは、日本ぐらいのものらしい。そういう面で見れば、今の円安というのは、
正常な動きなのかもしれない。

まえがき
・テールリスクという言葉がある。統計上発生する確率は非常に低いが、発生した場合は
 大きな損失につながるリスクのことだ。通常は怒り得ないと考え、備えることをしない
 ことが多い。だがサブプライムローンの証券化のリスクが顕在化したのは、このテール
 リスクであった。
・東日本を襲った大地震の震度と津波の破壊力も、テールリスクであった。福島第一原発
 が津波の影響でメルトダウンを起こしたもの想定外の出来事、つまりテールリスクと捉
 えられていた。十分な備えがなかった。
・我々はもしかして従来とは異なった世界にいるのかもしれない。グローバル化が進んだ
 世界経済で、似てくるはずの新興国と先進国の景気状況が全く異なるとは考えられなか
 った。米国など先進諸国が、日本が2001年から06年まで採用した量的規制緩和政
 策を採り入れようとは、金融危機の前までは考えられなかった。ユーロ誕生10周年を
 祝った年にユーロ危機に陥るような問題が発生するとは、各国首脳も中央銀行も思いも
 よらないことだった。
・東日本大震災後、円相場が市場最高値を更新するとは大震災前には予想されなかった。
・多くの通貨が最高値を更新する状況は普通ではない。異常だ。ではそうした異常事態を
 引き起こしている原因があるはずだ。それは世界が通過戦争を戦っているからだ。
・もはやそれは、「通過戦国時代」に入ったといってもいいレベルだ。この通過戦争は、
 今後、世界に想定外のことを次々と引き起こすかもしれない。

世界通過戦争が起きている
・もし現在が通過戦争状態ならば、歴史を繰り返さないためにも早く収束させなければな
 らない。各国政府はその責任を負っているはずだ。だがこの戦争はちょっとやそっとで
 は収まりそうにない。
・デフレとは継続的に物価が下落する状態を指すが、円高はそうした傾向に拍車をかけ、
 デフレを促進する。
・通貨戦争は米国と中国の対立を軸に進んでいるが、これはグローバルな戦いであり、多
 くの国が参戦する世界戦争だ。
・米国、英国、日本、スイスは超金融緩和策であり量的金融緩和政策にまで踏み込んだ。
 量的金融緩和政策とは、金利の低下よりも通貨の量を拡大することに重点を置き、市場
 に資金供給を続ける政策だ。こうした政策により作り出された豊富な低金利の資金は、
 比較的高金利で経済成長率の高い新興国に流れ込んだ。
・中国の人民元政策には二面性があるからだ。変動相場制を採用する他の新興国に通貨高
 をもたらす一方で、中国の経済発展に寄与し、巨大な市場が形成され、外国に提供され
 る点だ。アジア諸国にとって中国は、米国を抜いて最大の市場になった。
・通貨の世界ではドルが圧倒的な力を持っている。世界の外国為替市場で取引される為替
 レートの9割近くはドルが絡む。
・為替レートの変動はドルの影響が最も大きく、ドルとの関連性で他の通貨の価値が決ま
 ってくる。そしてドルの為替レートに直接影響を与える米国の経済、政治、金融財政政
 策などが、為替レートの変動を考える上で最も重要になる。
・仮に、米国と日本で経済に同じような悪い材料が出た場合、為替レートに与える影響は
 ドルの方が強いので、ドル円レートはドル安円高に動く。
・米国の政府と中央銀行が一体となってドル安政策を採っていることは、少なくとも結果
 において明らかだ。
・中国の経済成長のスピードは速い。21世紀になってから10年間のGDP成長率の平
 均は約8%の高成長だ。2010年までの3年間を見れば平均10%を超えた。
・中国では金融政策の決定において中央銀行の独立性はなく、いろいろな政治的利害関係
 を持つ国務院の承認が必要だ。もし中国が、市場の需要供給で自由に為替レートが決定
 する変動相場制を採用したら、人民元は30%以上の高い水準になっていたはずだ。だ
 から中国は為替の市場介入を毎日のように繰り返して、自由な変動を許さなかった。
・中国の通貨政策に関する方針は、一つには、改革は進めるが漸進主義で徐々に進める。
 もう一つは外国の圧力には屈しないこと。
・今回の通貨戦争では、通貨安を求める、通貨高を抑制するための戦いだが、インフレの
 進捗とともに通貨高を容認する姿勢へと変化してきた。特に経済回復をいち早く達成し
 た新興国の中にこうした変化が見られる。 
・世界の不均衡やインフレなどの問題は為替レートに反映される。為替レートは、あちら
 を立てればこちらは立たずなのだ。世界経済のグローバル化、均質化が進めば問題の解
 決方法も同じような方向になりがちだ。そこではどうしても為替レートの競い合いが始
 まる。米国の一極主義や、先進国グループのG7は、世界の問題の解決に力を発揮でき
 なくなった。それぞれの国は地域が戦いを通じて解決法を模索するしかない。

通貨戦争の背景
・一つは、米国の経済収支の赤字の拡大が引き起こす問題だ。米国は、経常収支の赤字を
 中国や産油国そして日本などの黒字国からの資本流入で賄っている。赤字が拡大すれば
 それだけ多くの資金を海外から調達しなければならない。米国の経済が強く、信用が高
 いうちは世界の資本が米国に流入する。だがそれに陰りが出て資本調達がスムーズにい
 かなくなれば、ドルの為替レートは暴落し、ドル金利は暴騰する可能性が出る。世界の
 基軸通貨であるドルが暴落するということは、黒字国の通貨は暴騰し、世界は大混乱に
 陥る。
・通貨戦争は先進国の金融緩和競争により引き起こされた面がある。金融危機は最初、欧
 米の金融機関に直接的に打撃を与え、信用危機を引き起こし経済は大きく落ち込んだ。
 こうした事態に対応するため、各国とも金融緩和を急いだ。市場にたっぷりとお金を流
 し、金利も最低水準まで下げた。
・ユーロ導入国が遵守すべき「安定と成長の協定」に規定されている。財政赤字はGDP
 の3%以内。政府累積債務はGDPの60%以内にそれぞれ抑えることが定められてい
 る。

通貨戦争の兵器と威力
・米国は4種類の兵器を保有する。第一は金融政策。金融政策は通常兵器だが強力な兵器
 だ。世界で最も強力だ。米国の金融政策の変化はドルの為替レートに直接影響する。外
 為市場での為替取引の9割近くがドル絡みの取引なので、ドル価値の変化は他の通貨の
 価値を変化させる。
・この兵器には特別仕様がある。それは量的金融緩和政策だ。金利がゼロ近辺に近づいて
 からもなお国債の購入などより通貨供給を続ける政策だ。この米国製の兵器は破壊力が
 あるため、国内経済への刺激はもとより、ドルペッグや資本流入規制で防御する相手国
 に対しても、じわじわ効果を表し始めた。ついには相手国にインフレ圧力を与え、相手
 陣営の戦略を転換だせるほどの威力を示した。
・第二の兵器は為替の市場介入である。米国の為替市場への介入は、ドル中心の市場であ
 るがゆえに、他の国の介入とは威力が格段に異なる。だが米国は基本的にこの兵器の使
 用には積極的ではない。それは副作用を警戒するからだ。
・第三の兵器は外貨建ての発行である。この兵器は単独使用ではそれほど威力はないが、
 他の兵器と組み合わせると効果が期待できる。
・第四の兵器としては当局者の発言である。「口先介入」という表現があるが、当局者の
 発言により、市場の動きを牽制して、実際の市場介入と似たような効果を狙う。ちょっ
 とした局地戦なら威力は十分だ。
・中国の一番の兵器は通貨制度だ。攻撃にも防御にも使う。中国は長い間、人民元の対ド
 ル為替レートを固定的に管理してきた。輸出を伸ばすためだ。人民元の対ドルレートを
 固定的に管理することは、輸出企業にとって為替リスクがほとんどないので都合がよか
 った。こうした有利さもあり、中国は輸出を伸ばし、貿易黒字を拡大させた。
・兵器としては市場介入が最も使われる。先進国の中では、この兵器の使用頻度は最も高
 く、使う金額も群を抜いて多い。しかもその割には十分な成果を上げられないことが多
 い。兵器を使用した当初は効果があっても、効果が長続きしないのだ。
・この兵器を効果的に使うにはタイムングが重要になる。金額が大きければ威力を発揮す
 るというわけではない。
・それでもこの兵器が大好きな日本は、2000年代になっても毎年、何度も、多額の資
 金を使ってドル買い円売り介入をして円高を抑制しようとした。円高が輸出産業の競争
 力を損ね、デフレを促進すると考えたからだ。だがこの兵器の単独使用には欧米からの
 批判が根強い。
 
チキンゲーム
・通貨戦争ほど勝敗のはっきりする戦いはないように見える。為替レートは2通貨の関係
 であり、一方が上昇すれば他方は下落する。全ての国が通貨安を望んでも、それは実現
 できない。必ず通貨高になる国がある。外為市場では対ドルの為替取引が9割なので、
 ドルが上昇すると他の通貨が下落し、ドルが下落すると他の通貨が上昇するという変動
 パターンが多い。
・米国の金融緩和政策がドルの下落を促進し、その結果、その他の通貨は上昇した。経済
 構造が先進国ほど大きくなく、複雑でもない新興国にとって、為替レートが輸出入に与
 える影響は先進国よりも大きい。
・さらに先進国の金融緩和は、比較的経済成長率が高く、金利の高い新興国への資本流入
 を促進した。これも通貨高圧力を強めた。
・ある程度の通貨高による輸出競争力の低下は、かつて日本がやったようにコスト削減な
 どで克服できる。それより問題はインフレ圧力だ。これは厄介な問題だ。インフレを抑
 制しようと金利を上げれば、ますます海外からの資本が流入する。一層の通貨高とイン
 フレ圧力が増す。悪循環だ。
・新興国のインフレが進行すると金利も上昇するが、臨界点を超えると、資本が新興国か
 ら急激に流出する可能性がある。そうなると、新興国は資本不足になり、経済は不況に
 陥る。これは米国をはじめとする先進国にも大きな打撃だ。先進国の多くの企業は新興
 国に大きな投資をしているからだ。ヘッジファンドなどの投機資金も大量に流入してい
 る。したがって新興国の不況は新興国だけに留まらず、グローバル化するリスクがある。
・新興国の通貨高が進むと、これまでのように外貨準備は増えなくなる。外貨準備の多く
 は米国債の購入に向けられていた。それだけ米国債の発行も円滑に消化された。米国の
 長期金利の低下にも貢献していた。こうした状況が変化する。
 米国の財政赤字はGDPの8.3%(2011年会計年度)となる見通しで、膨大な赤
 字をどのようにファイナンスし、どのように削減していくかは、今後の米国の最大の課
 題の一つだ。
・外貨準備は本来、ある国が輸入や外貨の借入れを円滑に行うために、ある程度保有する
 必要がある。適正な額はその国の輸入額の3ヵ月分とか言われるが、決まった額がある
 わけではない。その国の対外的な信用を裏打ちできればいいわけだ。日本は年間の輸入
 額が7000億ドル(10年)なので、ほぼ1年半の輸入額に相当する外貨準備を保有
 している。
・2010年に中国が日本国債の保有者として突然現れ話題になったが、中国は日本国債
 だけをターゲットにしたのではなく、韓国やインドネシアなどアジア諸国の国債も購入
 している。中国はドルのポートフォリオ(資産構成)が多すぎることを懸念しており、
 通貨分散を進めているのだ。
・資金が入る国の通貨は上昇する。通貨の上昇の幅やスピードが大きく速くなれば、通貨
 高を防ぐための介入を頻繁に余儀なくされ、その国の外貨準備は増加する。悪循環だ。
・ドルの外貨準備高お急増はドル不信を招き、準備通貨としての地位を危うくする。ドル
 中心の外貨準備において通貨分散はドル偏重のリスクを減らす一つの方法だが、中国や
 日本のように巨額のドル資産を保有する国が、それらを売却すれば自らの資産価値を下
 げることになり、市場の混乱も招くから売るに売れないジレンマに陥る可能性がある。
 すると基軸通過ドルに対する不信だけが募る。そしてドルに代わる準備通貨を求める動
 機が強くなる。
・戦後最大の世界的金融危機(2008年)により大きく落ち込んだ経済を回復させるた
 め、多くの国で金融緩和政策と財政拡大路線が採られた。特に経済大国の先進国は、経
 済の落ち込みが異常であるため、対応する政策も通常のものでは効果が見込めないと考
 え、非常時の政策を採った。金融政策では量的金融緩和政策など、非伝統的な政策が導
 入された。国債の購入、社債の購入、住宅担保保証券の購入などにより、市場に大量の
 資金供給された。
・一口に非伝統的な金融政策、量的緩和政策と言っても中身は異なる。どの程度の量の資
 金を投入するか、どの際に購入する証券は何にするか、どのくらいの期間の証券にする
 かなど、米、英、日でも様々だ。量的緩和政策はこれまで日本が2001年に実施した
 くらいであまりデータはない。
・インフレ率が上昇すると、その抑制のため金利を上げるのが普通だ。しかし金利を上げ
 ると海外からの資本がさらに流入する。これがインフレ圧力をさらに生む悪循環に陥る。
 この循環を断ち切るには資本流入規制を導入しなければならない。だが完全に断ち切っ
 てしまっては、外資が逃げてしまい経済が立ち行かなくなる。規制を導入するにしても
 微妙な舵取りが必要になる。
・インフレが差し迫った問題にならない国は通貨安を求め、インフレ抑制に重点を置かな
 ければならない国は通貨高を許容することになる。ただ通貨高を許容する国も、通貨高
 が進み過ぎると輸出競争力を失い、経済成長にブレーキがかかってしまう。さじ加減が
 難しい。
 
通貨戦争の中の円
・2011年3月17日、ドル円は95年4月に記録したドル円の史上最安値(円の史上
 最高値)79円75銭を突破して、76円25銭まで下落した。円の史上最高値の更新
 だ。ドル円が79円75銭を割ってわずか20分ほどで76円25銭まで落ちた。
・1995年1月の阪神・淡路大震災の後も、ドル円が急落して4月に79円75銭の円
 の最高値を付けた。
・東日本大震災後の83年前後から80円割れまでは神戸の震災のときと同じシナリオ、
 そして後の76円25銭までの変動はストップロスを付けるための銀行の仕掛け、これ
 が史上最高値更新の真相だ。
・介入の効果とはどんなものだろうか。介入で円高は止められるのか。結論から言えば、
 介入は効果的な場合もあれば、効果がない場合もある。だから介入をする側は効果的に
 なるように介入の方法を考える必要がある。
・介入を効果的にするには、市場のトレンドを後押しするような局面で介入することだ。
 逆にトレンドに逆らう介入は、巨額を投じても効果が現敵的なことが多い。日本の単独
 ドル買い介入の多くがこの例だ。
・中央銀行といえども巨大な外為市場では一つの市場参加者にすぎない。市場の力を利用
 するような介入をしなければ効果は期待できない。市場に利用されるような介入は投機
 筋を利するだけで、資金の無駄遣いになる。
・介入は短期で見ればほとんど成功する。だがドル買い介入をやって、数時間、数日間、
 数週間だけドルが上昇してもあまり意味はない。
・円高デフレ論では円高がデフレの主因であり、日銀の金融政策を変えれば円安になり、
 景気は回復すると考える。そこでは円高円安が日銀の政策によって変わるとの認識があ
 る。だがこれは間違いだ。日銀の金融政策は円の為替レートを決める一つの要因ではあ
 るが、決定的な要因ではない。それどころか円高円安を決定する最大の要因は、米国の
 金融政策をはじめとする米国要因なのだ。世界の中で自国の為替レートの決定を、自国
 の政策で左右できるのは米国だけなのだ。
・日本はこんなに状況が悪いのになぜ円高になるのだろう。景気は一向によくならない。
 金利は世界で一番低い。政府の累積債務はGDP比は断トツで世界一なのに、だ。その
 答えの一つはドル安にある。
・世界中の為替市場でディーラーが見ているのは米国の経済指標だ。
・一般的には円高円安要因の90%近くは、ドルの側の要因であると言っても過言ではな
 い。
・米国の金融緩和政策で、ドルは他の多くの通貨に対しても下落した。つまり米国の金融
 緩和政策は、多くの通貨高の要因になった。
・さらに何よりも影響が大きいのは、市場参加者の認識に変化だ。外為市場ではその9割
 が投機的取引である。こうした取引を担う人びとの米国とドルに対する見方が、金融危
 機を通じて変化した。金融危機は米国を牽引してきた投資銀行が引き起こしたし、その
 後の経済回復も新興国が先進国をリードした。世界でただ一つの帝国だった米国の政治
 的、経済的地位の低下は、米国とドルの相対化を促進した。市場参加者の見方にもこう
 した変化が反映するようになった。
・通常、マネーは高いリターンを求めて移動する。経済成長の高い国や金利の高い国の通
 貨に惹かれるのは、高い収益が見込まれるからだ。だが、通常ではい事態が発生し、市
 場のリスクが高まると、マネーは安全を求めて移動する。とりあえず安全と考えられる
 通貨に避難する。通常でない事態とは、戦争や金融危機など政治や経済の混乱だ。
・金融危機を通じての円高のもう一つの要因として、円の避難通貨(安全通貨とも言う)
 としての役割があった。金融危機の際に円が避難通貨として買われる契機になったのは、
 2007年のサブプライムローンの問題が表面化したことだ。
・市場リスクが高まると、市場参加者は安全を求め、リスクを取る度合い(リスク許容度)
 を低下させる。したがってリスク許容度が低下すると、円が買われる。逆にリスク許容
 度が高まると、高金利通貨が買われ円が売られる。
・今回の金融危機で円が避難通貨とみなされたのは、主に日本の市場の流動性と信頼性が
 高い点にある。法の整備がされ、首相は頻繁に交代するものの政治的にも安定している。
 つまり大きな金額をいつでも出し入れできる市場であり、投資した資金が安全に保管さ
 れ、要求に基づいて返却されることに不安がないからだ。 
・円はこのように時々避難通貨としての役割を演じるが、この役割を最も多く演じてきた
 のはスイスフランだ。
・ドルも避難通貨として買われることがあるが、経済力、軍事力、資本市場規模において
 総体的な優位性は低下しているが依然として世界一に変わりないからだ。
・世界の外為市場での円の取引高は全体の19%で第3位。ドルが断トツのシェア(85
 %)を占め、次にユーロ(39%)が来る。
・為替レートがどのように決まるかについての考え方はいくつかあるが、その中で現在も
 度々言及されるのが購買力平価説だ。各国で物価が同水準になるように為替レートが決
 まるとの考え方だ。
・適正なレートはどうなるのか。そもそも適正レートとは何なのか。適正なレートがある
 としたら、多様な市場参加者の購買の総和である現在の市場レートになる。そう考える
 のが筋である。
・日本が通貨安競争をするための現実的は手段は、市場介入と金融政策だ。ただ円安にす
 るためだけなら、財政規律を放棄するとか、日銀券を制限なく増発するとかすれば簡単
 に実現できる。だがそれらは政府や中央銀行の信用を失墜させ、日本から資本が流出し、
 経済が破壊される。したがってそれらは現実的な手段にはならない。
・市場介入はどうか。日銀の単独介入で円安にできる可能性は少ない。円高傾向を止める
 ことも難しく、過去の事例はその効果が短期間に留まることを示している。介入で効果
 が見込めるとすれば協調介入だが、大震災のような特別な要因のときを除き、日本サイ
 ドの事情だけで円売り協調介入お合意を得るのは難しい。協調介入が実現するとすれば、
 ドル安を抑制することが米国の方針に適う場合だ。
・米国がドル安を抑制したいときとは、米国でインフレ懸念が強まる状況か、ドル下落見
 通しの強まりから米国への資本流入が円滑に進まない状況だ。
・金融政策はどうか。米国が金融緩和政策を続けている限り、日本が通貨安競争で勝てる
 見込みはない。
・円高が大きく進むたびに、日本は不況に陥る、日本経済は沈没する、との大合唱が経済
 界やメディアで湧き上がった。日銀は巨額のドル買い円売り介入を繰り返した。それで
 も円高の進行は止められなかった。
・円高は突然降ってわいた災難ではなく、この40年間の長いトレンドなのだから、それ
 に企業が対処するのは当然だ。企業は様々なリスクを抱えながら、投資や売買の決断を
 する。その中で為替だけが企業努力を超えた管理不能のリスクと考えるのはおかし。そ
 れは企業の甘えだ。政府も輸出企業の代弁者として安易に介入を繰り返し甘えの構造に
 組み込まれてきた。十分なヘッジ手段を持たない中小企業の場合はともかく、大企業が
 円高に対応できないのは、経営判断によるところが大きい。
・そもそも通貨高は、経済力が発達した証でもある。そこには通貨高に耐えられる競争力
 を持つ企業と、多様な為替リスクヘッジ手段を提供できる金融機関が育まれているはず
 だ。通貨高は信用を生み出す。海外からの投資環境は改善する。海外からの人材も集め
 やすくなる。コスト的に無理だった海外企業の買収も可能になる。
・通貨戦争で円が勝たなければならない相手は、はっきりしている。ドルと人民元だ。ま
 ず、ドルだが、この相手には勝たなければならないというよりも、大敗を喫しないよう
 にすることが大事だ。この相手と戦うには単独を避けて多くの同盟国と連携して戦うこ
 とが肝心だ。そして相手の自滅を待つ。それ以外に活路を見出すのは難しい。通貨戦争
 でドルはそれほど強敵だ。正面からぶつかって勝てる相手ではない。
・人民元に対してはどうか。人民元と戦うときは、ドルと共闘してその力を利用しながら
 戦いを進めるのがベストだ。
・早い団塊の人民元の大幅な切り上げと柔軟な為替制度の採用は、中国も懸念するように
 失業率の悪化から政治体制の混乱につながりかねない。これまで順調に進んできた改革
 開放体制にブレーキがかかる可能性がある。
・この点から見れば今後は、人民元切り上げ圧力に加わらない方が円にとってはいい。円
 のアジアでの利用拡大を図る作戦に早急に取り組むべきだ。韓国のウォンとの通貨安争
 いをしている暇はない。
・人民元も円も欧米の投資家から見れば、アジアの通貨だ。中国経済の発展、市場の拡大
 は、日本も含めたアジアの各国の利益である。この捉え方において人民元の上昇は円高
 につながる。逆に人民元の下落は円の下落を引き起こす。 
・中国は貿易だけでなく、最終的には金融でも人民元をアジアの中心に据えることを狙っ
 ている。経済も軍事も戦略的に動く中国は金融でも同様だ。
・一方の日本は金融のアジア戦略を持たない。戦略なしに場当たり的に出来事に対応して
 も人民元には勝てるわけがない。神風が吹くことを願っているだけでは円は悲しい。ま
 だ間に合う。アジアでは、信用の面で日本の方が中国に勝てるからだ。日本が築いてき
 た信用を資本としてアジアの金融戦略を展開すれば勝算は生まれる。
 
通貨戦争の法則
・米国にとってドルは国内通貨で、必要ならいくらでも発行できる。米国にとって為替は
 基本的に関係ないのだ。本当は長期金利や輸出入に影響するので関係があるのだが、他
 国ほど気にはしない。
・大半の通過戦争は、直接的か間接的かの違いはあるにせよ。米国によって引き起こされ、
 拡大されるという法則を持つ。
・再びドル危機が発生する可能性がある。財政赤字やドルの基軸通貨の問題など、歴史的
 に最大級の激震が襲ってきてもおかしくない状況にある。 
・現在はドルが全ての中心になっている。貿易取引の決済もドルが圧倒的に多く、外貨準
 備の通貨としてもドルが6割以上を占めている。外為市場でもドルの取引が9割近くあ
 る。このように国債取引で中心になる通貨を基軸通貨と呼び。
・基軸通貨の条件としては、金の裏付けがなくなった現在、通貨に高い信用力が備わって
 いることだ。高い信用を得るには、通貨を発行する国の経済力や軍事力が圧倒的に優位
 にあるだけでなく、法の整備や政策の透明性なども必要になる。 
・東日本大震災が起きたとき(2011年3月)、一週間後にドル円が76円台まで下落
 するとどれほどの人が見通しただろうか。95年1月に阪神・淡路大震災が発生したと
 き、その3ヵ月後にドル円が80円を割ると誰が思っただろう。
・発達した経済国の通貨制度は変動相場制というのが一般的な考え方だ。だが、この通説
 は正しいだろうか。中国を見ていると、それが100%正しいかは定かではなくなる。
・既に中国のGDPは日本を抜いて世界第2位の規模まで発達した。IMFの見通しによ
 れば、2016年には購買力平価で計ったGDPは米国を抜いて世界一になる。紛れも
 ない経済大国だ。そうした国が変動相場制を採用しない。
 
円はどうなるか
・円高は企業収益に打撃を与える。株価が下落し、日本経済は不況に陥る。メディアには
 日本沈没の見出しが飛び交い、財界は政府に円売り市場介入を催促した。だがこれは正
 しい判断だろうか。
・むしろ現地生産したものを日本が輸入すれば、円高は有利になる。
・外貨預金にせよ、外貨債券にせよ、リスク面から最も注意しなければならないのは為替
 のリスクだ。為替レートの動向が収益を左右する。外貨の投資信託も、組み入れ商品に
 もよるが、為替レートの影響が大きいことに変わりない。
・したがって外貨建ての金融資産を獲得するときには、最初に為替の動向を判断する必要
 がある。今後円安方向に動くと判断できるときに投資する。そしてある程度利益が出る
 ようになったら売却するか、為替リスクをヘッジする。
・円高のメリットは大別すると四つある。まず海外からの輸入品が安くなる。二つ目のメ
 リットは、円高にインフレ抑制の効果があることだ。
・不況下で物価が上昇しれば、スタグフレーションになってしまう。最悪のシナリオだ。
 現在はインフレよりもデフレ懸念が強い日本だが、世界を見れば新興国は既にインフレ
 懸念が増して政策の重点はインフレ対策に移っている。いずれ日本もインフレ懸念が強
 まると考えたほうがいい。
・三つ目は、円資産保有のインセンティブ(誘因)になることだ。日本から見れば海外か
 らの資金調達がしやすくなる。基本的に弱い通貨には資金が集まりにくい。
・中国が外貨準備の資金を日本国債に投資するのは、日本政府や円に信用力があるからで、
 外国人が日本の国債の保有を増やすと、債務比率の高い日本は欧州のような債務危機に
 陥ると見るのではなく、もっとポジティブに捉えるべきである。正すべきは外国からの
 投資ではなく、高い債務比率の放だ。
・四つ目は、海外投資がしやすくなりことだ。
・人民元の金利が上昇傾向にあり、人民元の対ドル為替レートも上昇傾向にある中で、中
 国の外貨準備の為替と金利の両面でのリスクは拡大している。中国が積極的な運用で十
 分な運用益を確保している間はいいが、行き詰まるおそれがある。そうなれば外貨準備
 の縮小に動かざるを得ない。米国債などの売却も考えられる。そうなった場合、日本が
 米国債を売るのは難しくなる。中国が売り始めれば米国債の価格は下落し、日本に不利
 になる。したがって中国がアクションを起こす前に、外貨準備を徐々に減らすべきだ。
 つまり米国債の売却を静かに進める方がいい。 
・FX取引の個人や銀行ディーラーは、それぞれが自分のシナリオを描いてリスクを取る。
 そのシナリオに強い自信を持つときと、それほどでもないときがある。シナリオに強い
 自信を持つときは、自分の限度額一杯のポジションを持つ。だが、そんなときでも20%
 くらいは逆のシナリオを頭に入れておいた方がいい。 
・人はポジションを持つと、自分のポジションに有利なことばかりを考え、そればかり話
 すようになる。これはポジショントークと言われ、個人が陥りやすい罠だ。ポジション
 を持った時点で市場を客観的に見られなくなってしまう。こうした罠に陥らないために
 も、逆のシナリオも頭の片隅に入れておいた方がいい。
・ドル円は100円には戻らないだろう。

世界はどこに行くのか
・通貨高が輸出競争力を弱めたこともあり、金融機関の経営悪化など一つのつまづきをき
 っかけに、資金の国外流出が始まると、連鎖反応的に資金が短期間に流出し続けた。そ
 の結果、株、債券、通貨のトリプル安になり、経済、社会が大混乱した。それがメキシ
 コ通過危機(94年)、アジア通過危機(97年)、ロシア通過危機(98年)であっ
 た。
・ドル高の力が当時は強かったが、現在は弱い。仮にアジア諸国から資本が流出する事態
 になればまずドルに向かうが、ドルが継続してそれらの資金を吸収し続けられるか疑問
 だ。
・アジア通過危機のような危機の伝染は、アジア諸国に関する考えにくい。危機の発生し
 にくい体質になり、多くのリスクは管理され小さくなっているからだ。だが拡大したリ
 スクがある。中国リスクだ。中国の存在がアジア諸国の抱えるリスクを封じ込めている
 ことは確かだが、それは逆から見れば中国に異変があったときにはリスクが想像以上い
 広がるということだ。そのときにはアジアだけにとどまらずグローバルな通過危機に発
 展する。