テロリストは日本の「何」を見ているのか : 伊勢崎賢治

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昔は、テロというのは非日常の世界だった。しかし、昨今の世界情勢では、テロは日常に
なってしまった。幸いにも、日本は地理的にテロの震源地から遠く離れていることもあっ
て、日本国内においては、テロはまだ「対岸の火事」として見られるている状況だ。しか
し、そんな状況も、これからもずっと続くとは限らない。それというのも、日本の現政権
が、事あるごとに、テロリストたちを刺激するような言動を繰り広げたげたため、テロリ
スたちから反感を買い、テロの「敵リスト」に名を連ねることになってしまったからであ
る。
テロというと、人の集まる街中で爆弾を爆発させたり、銃を乱射したりというイメージを
持つが、テロの恐ろしさはそれだけではない。そんなテロに対する日本の備えはというと、
まさに無防備といっていい状態だ。日本は、その沿岸に54基もの原発を抱えている。そ
して、これらの原発は、テロに対する備えというのはほとんどなされていないに等しい状
態だ。さらに、福島原発事故で露呈したように、これらの原発は、なにもミサイルなどで
外から攻撃しなくても、数人が施設内部に侵入して施設を占拠し交流電源喪失という事態
に持ち込めば、簡単に炉心溶融を起こし爆発してしまうということが明らかにしてしまっ
た。まさにテロの絶好の対象となりうるのだ。日本の原発が数か所でもテロリストたちの
攻撃に遭い爆発すれば、日本はその先何百年と、もはや人の住めない島となってしまうだ
ろう。
テロに対する最大の備えはというと、やはり「敵」をつくらないことだろう。日本は地政
学的に紛争地域から遠く離れた極東の島国だ。なにも、のこのこしゃしゃり出て行って、
テロリストたちを刺激するような言動をとらないことなのだ。それを考えると、現政権の
テロに対する危機意識というのは、甘すぎると思えてならない。

まえがき
・地政学的に仮想敵国を目の前にしながら、背中には太平洋が茫然と広がっているだけの
 「懐」のない国、日本。そこにはいま54基の「原発」が平べったい弧の形に沿ってず
 らりと並んでいます。実はこの状況、国防上は薄氷の上に国を置いているのに等しい、
 とてつもなく深刻な事態なのです。
・原子力施設への攻撃は、通常兵器に頼る必要すらありません。3・11が世界に明確に
 示したように、少人数でも可能な「電源喪失」で済むのです。
・中国や北朝鮮の脅威にかまっている暇があるのでしょうか?グローバルテロリストの出
 現で、日本をはじめとする国際社会は、いま「敵」を2つのカテゴリーでとらえなけれ
 ばならなくなりました。たとえ北朝鮮のような独裁国家であろうと、イランのような非
 民主的な監視国家であろうと、政権の正当性を、少なくとも自身の国民と、そして国連
 を中心とする国際社会に見せる意思を持っている国。これが「まともな敵」です。片や
 「まともでない敵」は、イスラム国(IS)やアルカイダなどに象徴される、いわゆる
 テロリスト。「国」を名乗っていても、どちらかというと、「非国家」な主体だ。「ま
 ともでない敵」によるテロリズムは、いま燎原の火のように地球上に広がっています。
・グローバルテロリズムは、一つの国家、一つの民族の枠内で、その社会の問題に対して、
 ある意味、純粋すぎるがゆえに情熱にかられて過激な行動をしていた一昔前の「ラジカ
 ル」とは明らかに異質なものがあります。それはさながらギリシア神話に登場する複数
 の生物が合成された怪物キメラのようです。たちの悪いことに、この現代のキメラは攻
 撃されればされるほど巨大化し、暴走を加速させます。もちろん、彼らは、何もないと
 ころから生れ落ちたわけではありません。彼らは、ある意味、経済的貧困、宗教や人種
 差別などがもたらす構造的暴力の被害者ともいえます。しかし、こうした構造駅暴力は、
 人間社会が続く限りなくなることは永久にありません。
・経済的格差は、当然ながら一国の構造的な要因のみで完結しているわけではありません。
 たとえば石油やレアメタルのような天然資源を巡るグローバルな争奪戦は、往々にして
 政治体制が不安定な国において、繰り広げられます。利潤追求の外国資本は、より優位
 な利益を求めてその国内政治に介入し、操りやすい政権を支援の名の下に腐敗させ、結
 果、内政の混乱による覇権争いが激化する。それが内戦を誘発する原因になるのです。
 すなわち、遠い名も知らぬアフリカの国々での内戦は、我々の日常の消費生活と直結し
 ているのです。 
・日本では、テロリズムはまだ対岸の火事であるという気分を抱いている人が大半でしょ
 う。しかし、日本はずでにISの「敵リスト」に入っています。グローバルテロリズム
 は、象徴的にアメリカを最大の敵としていますが、そのアメリカの軍事力を体内に深く
 抱える日本を攻撃することは、彼らにとって、アメリカへの攻撃と同じ意味を持つかも
 しれません。
・仮に原発テロが日本で起こったとしても、通常戦争などと比べれば被害は限定的である
 という感覚を持つ人もいるようです。しかしながら、実際にテロが起こった時に想定さ
 れる被害は、福島原発事故の例を引くまでもありません。被害は人間の殺傷というレベ
 ルにとどまらず、金融や経済システムを激しく揺るがす強打となります。戦争だったら、
 その後に「復興」できますが、核テロは「無」をつくり出すのです。この脅威に、日本
 はどう立ち向かえばよいのか?それは、「敵をつくらない」ということです。
 
グローバルテロリズムの到来
・先進国といわれる国同士がかつえの大戦のように総力戦でぶつかるという事態は、現実
 的には、もはや想定しにくいものになっています。総力戦でなくても、陸海空で戦火を
 交えるような通常戦ですら、限りなく減少しています。
・中国がどこかの国を「侵略」するとしたら、それは中国にとっての個別的、または集団
 的自衛権の大義名分が成り立つ時のみです。このロジックを頭に置いておく限り、日本
 は「侵略」される心配はありません。
・日本の安全保障を強く脅かすかもしれない領土問題として、メディアが盛んに取り上げ
 るのが尖閣諸島です。誰も住んでいない尖閣諸島ぐらいは、もしかしたら盗られるかも
 しれませんが、中国は領有権を主張し続け、最近は艦船などを使って挑発行動を強めて
 いますが、ここで認識しておくべきポイントは、中国のこうした領土拡大主義の実行が、
 元々その「国民」が住んでいないところで行われているということです。領土の所有権
 というものは「国際慣習」上、先に占拠したもの、つまり実行支配した国が持つという
 面があります。それが、独自の歴史解釈とともに、相手国との境界線に近いところで、
 中国が領土拡大戦略を進めている一つの根拠です。
・戦争の形態が変わっていこうとも、軍事、そしてそれを支える技術力、経済力において、
 仮想敵国よりも優位に立とうとし続けるモチベーションは、人類から消えることはない
 と思います。その隙を狙うように、圧倒的な低コストのローテクで、急速に存在感を増
 しているのがグローバルテロリズムです。
・2011年の9.11.アメリカの同時多発テロ事件の報復として始まったテロとの戦
 い。「明日はわが身」ということでお友達のNATO諸国を巻き込み地上最強の通常戦
 力がアフガニスタンで戦いました。以来15年の歳月が流れましたが軍事的な勝利をあ
 げられず、アメリカ・NATOは主力部隊を撤退。後はアフガン国軍に引き継ぐとい
 う体裁を取り繕っていますが、これは事実上のアメリカの軍事的な敗北です。アメリカ
 は、ことテロとの戦いにおいては、我々日本人が思っているほど強くなく、しかも通常
 戦力の積み上げでは、勝利できないことが、歴史的に証明されたのです。
・テロ事件に使われる爆発物の威力は通常兵器ほどではありませんが、その運搬の手段は、
 画期的に進歩しています。たとえばその技術の革新がもう誰にも止められないドローン
 がテロの手段としても使われるのは時間の問題です。
    
テロリストによる核攻撃の脅威
・福島原発の事故直後に暗澹なる気持ちになった専門家や研究者は、私だけではありませ
 ん。なせか。それまで、原発へのテロにおいて想定していたのは、原子炉など核燃料が
 収納されているインフラへの爆発物、ロケット、ハイジャック機等での攻撃であり、そ
 の対策としては、そういうインフラをいかに堅固なものにするか、そして隙のない防護
 区域をいかに設置し維持するかが焦点でした。でも、福島原発では、津波によって、す
 べての交流電源が失われ、非常用の発電機も機能しなかったため、冷却機能を失った原
 子炉内でメルトダウンを引き起こしました。つまり、インフラの破壊という大掛かりな
 ことをしなくても、「電源喪失」だけでコトが済むという新たなヒントをグローバルテ
 ロリズムに与えてしまったのです。
・世界の核セキュリティの専門家たちが重視してきたのは、インサイダー(内部の人間)
 の犯行です。アメリカ国内でも、核施設内で放火を含む破壊行為を内部の人間が働く事
 件が相次ぎ、アメリカ以外でも、たとえばロシアでは、内部の複数のグループによって
 核弾頭の製造に十分な量の高濃縮ウランが盗み出される事件が発覚しました。
・核セキュリティに関して日本は、商業原発のエンベッド体制をつくる武装的民営化のた
 めの根本的な法体制がありませんし、一般市民の意識も、まだ発展途上です。グローバ
 ルテロリズムにとっては、ソフトだーゲット中のソフトターゲットといえます。加えて、
 日本の原発には、そのほとんどが海に面しているという、それもその多くが仮想敵国に
 面しているという、アメリカなど他の原発先進国にはない弱点があるのです。
      
テロリストは無限に増え続けるのか
・ テロリズムは、必ずしも自分たちの犠牲の上にあぐらをかいている国家権力や経済的
 勝者だけを攻撃するわけではありません。むしろ自分たちと同じように構造的な暴力に
 喘いでいる民衆を狙うことのほうが圧倒的に多いのです。
・テロ行為を引き起こすのは、もはや過激組織に入った人間とは限りません。今後警戒が
 必要なのが、自分が居住する国でテロを起こすというホームグロウン・テロリズムです。
・豊かな生活環境から生まれるテロリストというのは、往々にして「自分探し」という動
 機を出発点に持っているように見受けられます。日航機「よど号」を乗っ取って北朝鮮
 に亡命した日本赤軍の連中は、革命戦士を気取っていましたが、彼らもまた自分探しを
 背景に、革命の大義を引っ張ってきたのだと思います。世界最終戦争・ハルマゲドンを
 自らおこそうとしたオウム真理教もです。彼らは自分探しの到達点を教祖が掲げる理想
 の王国に見たのです。豊かな環境のなかで自分探しをした果てに過激構造の中から生ま
 れるテロリストとは、明らかにタイプが違います。彼らがテロリストとなった動機のな
 かには、社会の貧困や格差と闘うといった要素を見て取れることもあるでしょうが、そ
 れよりも成熟した社会の中で生きがいを持てず、未来に希望を抱けないというメンタリ
 ティから生まれてくるもののほうが大きいと思います。あてどもない自分探しに走り回
 った結果、革命という物語に吸い取られ、はまってしまうのです。
・ISは現在、アメリカ、カナダ、フランス、ドイツ、中国、韓国など50数カ国から若
 者がたちが参加しているといわれています。IS,そしてIS的なモノは、これからも
 巧みにプロパガンダ戦略を用いて、欧米を中心とする先進国から、絶望と諦めから再生
 をはかろうとする若者たちをリクルートしていくでしょう。日本もこうした流れからは、
 決して無縁ではいられません。経済格差が広がり、人口減少や高齢化の問題で社会のひ
 ずみが大きくなり、社会不安が増大していく一方なのが、いまの日本です。当然のよう
 に自分探しに走る若者はさらに増えていくでしょう。
・テロ組織は、ネットやSNSを通じて、自分たちの思うままに情報を発信できます。そ
 れによって誘惑した人質の交渉を有利に進めることも、組織の存在を世界に向けて強く
 アピールすることもできます。テロリスト側からインターネットやSNSによって重要
 な情報が配信されれば、大手マスコミは、それを使って追認するくらいしか、生き残る
 道はないからです。「報道の良心」といっても、マスコミは、所詮、営利組織なのです。

テロリストは日本をどう見ているのか
・身代金を払うことなく、人質を救出できる可能性は、どの程度あるのでしょうか。人質
 の交換交渉も身代金を巡る交渉も、解決への糸口をつかめなければ、残りは特殊部隊な
 どによる救出作戦しかありません。アメリカ、イギリスそしてフランスは、その帝国主
 義的歴史上の性格から、世界規模で軍事拠点のネットワークを持っています。そのよう
 な国の特殊部隊は精度の高い情報収集能力と高いスキルを持ち、救出作戦を遂行する能
 力を十分に持ち合わせているといえます。しかし、それでも成功させるのは極めて難し
 いといわれています。軍事専門家の間では、数十回に1回成功すればいいという見方も
 あります。失敗すれば、人質はおろか特殊部隊の隊員の命まで犠牲になってしまうわけ
 ですから、かなりリスクが高い賭けです。特殊部隊を使った救出作戦によるハイリスク
 を考えれば、結局は身代金を支払うか、捕虜と交換するかしか、有効な選択肢はないこ
 とになります。仕方がないとはいえ、身代金を簡単に出してしまえば、テロリスト集団
 を助長させるのは事実です。
・安倍首相がエジプトのカイロで「ISと戦っている国に2億ドルを支援する」という趣
 旨の発言をしましたが、この発言がISを刺激することは、外務省のアラビア通ならす
 ぐにわかることです。このくだりの部分は外務省が用意していた原稿にはそもそもなか
 ったそうです。それが事実なら、このくだりは安倍首相本人か、その側近筋が、即興で
 付け加えて可能性が高いということです。日本人2人がISに拘束されているという事
 実は、日本政府は随分前 から知っていたわけですから、その時点でISを不用意に刺
 激するような原稿を外務省がつくるわけがありません。その意味では、人質事件に対す
 る首相サイドの責任は重いものがありますし、日本政府の危機管理意識はかなり低いと
 言わざるを得ません。
・テロリズムは、それが巣くう場所において、大義に基づいた恐怖政治を行うのです。そ
 の大義には「こいつらが悪いんだ」という敵が必要なのです。大義上の敵がいないと、
 恐怖政治の代償を、支配する民衆に訴えられません。でも、大義上の敵への攻撃が思っ
 たような成果をあげられないとき、どうするか。それと同じ大義上の正当性が示せる新
 しい敵、それも、よりソフトなターゲットを見つけようとするのは理の当然です。そう
 いうソフトターゲットに、うまく当てはまるのが日本なのです。
・安倍首相の発言は、ISにとっては、横から「喧嘩を売られた」ととれるでしょうし、
 その後のアメリカ軍を支援する安保法の成立は、日本をより明白な大義上の敵にする論
 理の構築を後押ししたはずです。
・穏健なイスラム教徒もテロリストになうるという心理は、アメリカが広島と長崎に原
 爆を落とした心理に通じるものがあります。大多数の静かな日本の民間人も、仮面をか
 ぶったモンスターである。だからすべての日本人が攻撃対象になると。こういうふうに、
 当時のアメリカ人は、無差別攻撃を否定する戦時国際法と良心の呵責を、心理的に乗り
 越えたのだと思います。現在でも大多数のアメリカ人は、太平洋戦争を早く終結させた
 ものとして原爆投下を正当化します。一般のイスラム教徒をテロリストと同類と見なす
 心理は、核兵器お使用を決断した当時のアメリカの指導者、そしてそれを支援したアメ
 リカの一般民衆と同じです。
・イスラム恐怖症は、「職が奪われる」とか、「一夫多妻制で子だくさんだから放ってお
 くと白人が少数派になる」とかの被害妄想です。さらに、日常の平和を突然壊す過激な
 テロ事件が頻発すれば、ムスリムを見ればテロリストを連想するという被害妄想も膨ら
 みます。しかし、イスラム恐怖症は、結果として、イスラム教徒を追い詰め、テロリズ
 ムへの引き金になる。この堂々巡りをどうするかが問題なのです。
・核セキュリティという点で、日本ほど脆弱な国はないのです。福島原発の廃炉作業には
 全国から作業員が集められていますが、毎日新聞の指摘以降も、何も変わっていません。
 使用済み燃料を取り出す廃炉作業というのは、テロリストの目線で見ると格好の攻撃対
 象です。より少数の爆発物さえあれば破壊できるわけですから、特に危ないのは、使用
 済み燃料プールです。
・日本の政局や世論は、一種の概念論争に陥り、袋小路の状態です。「原発反対」には時
 間の余裕があるでしょうが、核セキュリティはいますぐ対応すべ喫緊の問題なのです。
・反原発派が望むように国内の原子力発電所の稼働が止まり廃炉になっても、使用済み核
 燃料、廃棄物を含む放射性物質は、半永久的に残ります。原発がすべて廃炉になっても、
 核セキュリティの問題は、そのまま残ります。ソ連崩壊後の核施設の「管理放棄状態」
 が生んだあの恐怖のように、核セキュリティにとっては、「管理されない」ことが最大
 の脅威なのです。
・武器ではありませんが、紛争国の内戦やテロリズムを助長する資金源になっているため、
 売買流通規制の対象になっているものがあります。アフリカで産出されるダイヤモンド
 やレアメタルです。紛争地域では、反政府組織がダイヤモンドを売って得た外貨を武器
 の購入に充て、内戦を長引かせる要因にもなってきました。
・自衛隊が派遣されている南スーダンとその隣にある、今世紀最大の人道的危機といわれ
 るコンゴ民主共和国。この辺一帯はすべてレアメタルなどの資源国です。私が知り限り、
 日本は、韓国と並んで、そういう資源国からの資源を無批判に消費続ける、先進国の唯
 一の国です。コンゴ民主共和国で採れるレアメタルの一つである「コルタン」は、我々
 が日常的に使う携帯電話やスマホの小型化に必要不可欠となっています。日本が使って
 いるコルタンのほとんどすべては、コンゴ民主共和国から中国を通って国内に入ってい
 ます。   
・多くの日本人は、「紛争レアメタル」という名称さえ知りません。メディアは、実態を
 を伝えることすらしません。なぜ紛争が起こるのか?一番敏感にならなければならない
 のは護憲派でしょう。憲法9条の条文さえ守れば、それでいいと思っているのでしょう
 か。結局、原因は、「資源」の消費を可能にする「グローバル経済」なのです。自由主
 義経済は、必ず格差を生みます。それが国内で完結していれば、構造の犠牲となる下層
 は容易に可視化でき、福祉政策等のセーフティネットの整備へと向かうのでしょうが、
 グローバル経済下では、その下層は可視化するには広すぎるのです居心地のいい生活を
 守りたい消費者の防衛意識は、彼らを都合の悪い現実から目を背けさせてしまう。

テロリストにどう向き合うか
・多くの住民のなかに紛れ込んでいるISのメンバーだけをピンポイントで攻撃するなど
 というのは不可能です。たくさんの住民が巻き添えになるのは当然です。でも、テロリ
 ストが使ったよりも格段に強大な攻撃力を用い、テロ事件よりも格段に多くの民衆の犠
 牲者を生む報復敵空爆、我々の目を背けさせるものは、いったい何なのでしょうか。フ
 ランス国内で起こるのは「犯罪事件」で、空爆先で起こっているのは「戦争」だから、
 なのでしょうか。でも、その「戦争」は、「犯罪事件」に対する報復なのです。人権に
 ついてはかまびすしい欧米のメディアは、このようなテロリストへの報復措置に対して
 声を上げることは、ほぼありません。人権団体やNGOも、その犠牲の大きさに見合う
 取り上げ方をしていません。
・ビンラディンの殺害は、犯罪者としての捕獲を目的としたものではなく、そして暗殺で
 もなく、アメリカの正式の軍事作戦として「殺害」を目的に実行されたものです。それ
 も国際法上、交戦主体であるアメリカの「戦場」とは考えられないパキスタンで実行さ
 れたものですから、ビンラディンにとっての明らかな人権侵害だけでなく、戦時国際法、
 国際人道法にも抵触する行為です。しかし、その違法性を厳しく糾弾する人権団体を、
 私は目にしたことがありません。ビンラディンというアメリカの敵、いや、世界の敵を
 仕留めたという熱狂。オバマ大統領の「正義が遂行された」というあの演説の後の熱狂
 に、水を差すのをためらったのでしょうか。つまり、人権とは、普遍的な価値ではなく、
 時と場合によって都合よく使われるものだということです。これが思想としての、人権
 の限界なのかもしえません。
・イスラム系の国々では、実際に人間が粗末に扱われているかといえば、決してそうでは
 ないと思います。西欧流のものではなくても、人間を大事にする独自の価値観があるは
 ずだからです。いかなる文化・宗教においても、「人間は大事でない」という価値観は
 ないはずです。ただ「人間は大事」という考えのなかに、「子供はこうあるべきだ」
 「女性はこうすべきだ」「こんなことをすれば倫理に悖る」といった各論が微妙に違う
 だけです。  
・「まっすぐな」人権思想を押し通すには、地球はもう狭すぎます。無理をすれば(もう
 していますが)、それは、もう破滅的な「文明の衝突」しかありません。そして、まっ
 すぐな人権は、逆に、その破滅的な衝突を仕組む勢力に政治利用されてしまいます。
 9.11後のブッシュ政権が、アフガニスタン、イラクに軍事侵攻の口実にそれを使っ
 たように。狭い地球の上で私たちが生き延びていくには、たとえ軸になる価値観を共有
 できない人間が隣にいても、それを認める必要があります。
・戦争を悪として糾弾し、真正面から対抗することが、本当に戦争の予防につながるのか。
 もしかしたら、そうすることが、戦争につきものの「武勇」を刺激し、逆に戦争を煽っ
 ていることだってあるかもしれません。これが本当に戦争の予防につながるのか。
・侵略的な性質を帯が「武力の行使」に対して義憤を感じ、その反動で戦争を起こすこと
 だってあるでしょう。一方で、紛争を起こしている国家や民族を単に悪として断罪して
 しまえば、紛争が起こった本質的な原因の追究や背景への理解が及ばず、紛争を起こす
 土壌は温存され続けてしまう危険があります。
・実はたいていの戦争は好んで始められたわけではなく、自国や民族の平和を守るために、
 少なくとも、それを口実に始められることのほうが圧倒的に多いのです。すなわち、戦
 争をする多くの動機は「平和」なのです。あまりに「平和」、平和と騒いでいると、い
 つの間にか、その熱狂が、戦争を起こしてしまうかもしれません。
・健康とは決して病気の不在ではないのです。病気でなくても体には絶えず何らかの病原
 菌やウイルスが存在しています。それでも病気にならないのは、体に免疫力や抗体が備
 わっているからです。しかし。免疫力が低下し、抗体がなくなったら、病気になってし
 まいます。テロリズムや戦争も同じです。それを引き起こす構造的暴力や排他思想とい
 ったものは、人間社会から完全になくなることはありません。ただ、貧困問題に対する
 セーフティネットを工夫したり、社会的不公正やマイノリティの問題に常に人々の眼が
 注がれるようにメディアの自由を確保したり、不可抗力の武力衝突が起きてそれぞれの
 国で極端な排他思想が蔓延しそうな時に、この状況は俯瞰するとちょっと滑稽・・・み
 たいな客観視できる「胆力」を社会が持てるようにすることは可能です。それがテロリ
 ズムや戦争に対する「抗体」です。
・なぜ人間は戦争をするのか。人間とは本能的にそういうものなのだという人もいます。
 単に女に格好いいところを見せたいというような男の欲望が、戦場で実際に戦う兵士を
 はじめ、口ばかりの政治家までを支配していると。 
・戦争が起きる時、戦争をやりたいと考える政府は、自国民に向けて「事実」を伝えるの
 ですが、そういうメッセージには次のような歴史的なパターンがあると、まとめられて
 います。 
 ・私たちは戦争をしたくない
 ・しかし、敵側が一方的に戦争を望んだ
 ・敵の指導者は悪魔のような人間だ
 ・私たちは領土や覇権のためではなく、偉大な使命のために戦う
 ・私たちも誤って犠牲を出すことがある。だが、敵はそれを目的に残虐行為におよんで
  いる
 ・敵は卑劣な兵器や戦略を用いている
 ・私たちの受けた被害は小さく、敵に与えた被害は甚大
 ・芸術家や知識人も正義の戦いを支持している
 ・私たちの大義は神聖なものである
 ・この正義に疑問を投げかけるものは裏切り者である
 
グローバルテロリズムの震源地
・法を破った者に対処する装置が「警察」であるなら、国内しか有効でないこの法空間を
 侵そうとする外敵に対処する装置が「国軍」です。国民の一人ひとりが、その安全を国
 家に委ねる。これで国家が国家たることができるのです。
・ちなみにアフガニスタンは、世界で流通するケシの実の9割以上を一国で生産するとい
 う、人類史上最大の麻薬国家になりました。
・国際支援を受けた国は数あれど、そして「腐敗認識指数」を糾弾される国は数あれど、
 アフガニスタンとイラクは、国際支援を史上、最も支援を受けながら、最も腐敗した国
 家という称号を与えられる国家に成り下がったのです。占領者が、その国際支援の主体
 だったからです。  
・アフガン戦はアメリカ・NATOの「個別的自衛権」と「集団的自衛権」に基づく立派
 な「戦争」ですが、どういうわけか、当時の小泉政権は、護憲派の、目立った反対もな
 く、「給油活動」と称して、海上自衛隊を護衛艦付きで出したのです。

アメリカの試行錯誤と日本
・「日本は戦争をしない安全で平和な国である」日本人の大半がこう思っているはずです。
 そう思う理由に筆頭は、戦争の放棄を謳った平和憲法の存在があるからでしょう。一方
 で、他の追随を許さない突出した軍事超大国アメリカを体内に宿し、自身も軍事力世界
 4位の日本を襲うという勇気ある「国」はそうそうあるものではありません。しかし、
 ここで認識しておくべきは、「平和憲法」は日本の「軍事化」に無力だったということ
 です・
・「憲法9条のおかげで日本は戦争をしないで済んだ」といっても、これは単なる事実誤
 認です。国際法で許された3つの「戦争の口実」において、日本は立派に「集団的自衛
 権」を行使してきました。一つは、「インド洋の海上阻止作戦」においてです。小泉政
 権の時に、海上自衛隊を護衛艦付きで出しました。これは、アフガニスタンにおけるア
 メリカとNATOの「不朽の自由作戦」の下部作戦で、NATO加盟国でもない極東の
 島国がわざわざ参戦したことになります。二つ目は、イラクへの陸上自衛隊派遣です。
 これは最悪です。なにしろ後でガセネタとわかるのですが、フセイン政権は大量破壊兵
 器を持っているとアメリカがイチャモンをつけでの開戦だったのですから。フランス、
 ドイツをはじめNATO諸国はそれに納得せず、離脱しました。そこに極東の島国であ
 る日本が参加したのです。世界が正当性がないと認識したアメリカの戦争に、わざわざ
 参戦したのです。三つ目は、ソマリア沖への自衛隊派遣です。これはれっきとした国連
 安全保障理事会決議を根拠とした「集団安全保障」であり、「海賊」対策の国際海洋警
 備作戦です。個別的自衛権の行使でも、集団的自衛権の行使でもありません。この自衛
 隊派遣を巡っては、当然憲法9条の観点から反対の意見があがりましたが、これを制し
 た国会のやりとりは「日本人を「海賊」から守る」でした。この時の政権与党は自民党
 ではありません。元社民党議員も政府にいた民主党でした。
・歴史をひもとけば、自国民保護に名を借りた出兵が侵略に連なった例は数多くあります。
 少なくとも、この反省から、日本の戦後は始まったはずです。日本はソマリア沖への自
 衛隊派遣後、海賊退治のためジブチに半永久的な自衛隊の拠点をつくり、いまに至って
 います。ジブチは紛争国ではありません。海賊問題とは関係ない、平和な国です。平和
 な国に軍事拠点を持つというのは、日本に軍事基地を持っているアメリカと同じです。
 しかもジブチはイスラムのスンニ派の国であり、タリバン、アルカイダ、ISの世界の
 一部なのです。日本は、スンニ派の世界では、占領者になってしまったのです。
・インド洋給油活動、イラク陸自派遣、ソマリア沖海賊対策派遣は、すべて「特措法」で
 国会承認されています。今回の安倍政権の安保法制は、これを恒久的にできるようにし
 ただけです。特措法であろうがなかろうが、戦争は戦争なのです。 
・「憲法9条のおかげで日本は戦争をしないで済んだ」「憲法9条のおかげで日本はこの
 ぐらいの戦争ですんだ」というのがありますが、私は、これは、沖縄県民に対する最大
 の侮辱だと思います。世界で一番戦争をし、ISをはじめグローバルテロリズムの象徴
 的な敵であるのがアメリカです。そのアメリカを体内に宿すこともリスクに対する思考
 の欠落と、それを沖縄に押し付け続ける状況の追認でしかありません。
・アメリカを体内に宿す国は、日本だけではありません。日本と同じような境遇なのは、
 韓国、フィリピン、イタリア、ドイツ、アフガニスタン、イラクなのです。しかし、日
 本政府がアメリカに対して支払っている思いやり予算を含む在日アメリカ軍関係費は、
 1978年度から2015年度までの38年間で約20兆円のぼり、これは、アメリカ
 の宿主としては、他と比較ができないほどダントツの負担額です。
・日米に関して、両国の関係は、「双務性」であるとよくいわれます。日本はアメリカを
 守る義務がない代わりに、基地を提供しているから対等というわけです。しかし、基地
 の内部は日本の領土ではありながら、その管理権が及ばない、そこに何が持ち込まれる
 のか、何をするのか、一切注文はつけられない。日本の主権が及ばないのです。日本の
 空ではない「横田空域」もそうです。これは、イタリア、ドイツ、フィリピン、アフガ
 ニスタン、イラクではありえません。駐留の歴史のなかで交渉の末、主権を回復してい
 るのです。この日本の現状を、「軍事占領下」といわず何というのでしょう。
・グローバルテロリズムとは、アメリカ・NATOという世界最大の軍事力が勝利できな
 い敵なのです。この敵に関しては、アメリカが日本の安全を保障することはできません。
 それどころか「アメリカの代わりに狙われる」可能性があるのです。我々はこれを脅威
 の一つとして、真正面に見据えなければなりません 
・政府が強引な形で成立させた安全保障関連法の背景には、緊張が高まっている日本を取
 り巻く東アジア情勢の姿が見え隠れしています。無理をして法案を通そうとした理由は
 一体何なのか。それは、中国の海洋進出です。日本人の目は、南沙諸島での人工島建設、
 そしてフィリピン、ベトナム、マレーシア、周辺国との軍事緊張に向けられています。
 南沙諸島の利益は日本には直接関係はありませんが、尖閣付近の日本との直接攻防と相
 まって、日本国民に大いなる危機感を醸成しています。
・確かに、中国は「脅威です・一党独裁ですから、世界戦略を見据えられるのです。1年
 おきに首相が替わっているような日本はハナから勝負になりません。現在、アフリカ、
 特に中央・東アフリカの資源・経済市場は、中国の独壇場です。チベットをはじめとす
 る少数民族問題は、中国にとって国家の統一に関わる頭の遺体問題です。一つの民族独
 立運動が勃興して他の民族に飛び火していくことを、中国政府は非常に警戒しています。
 「タリバンとの政治的和解」において、タリバンを支援してきたパキスタンは依然大き
 なカードを握っています。そのためにパキスタンの首根っこをどう押さえるかは、アメ
 リカの頭痛の種でした。パキスタンと関係の深い中国は、アメリカのグローバルテロリ
 ズム戦略が頼らなければならない相手なのです。現在、和解に向けてタリバンと対峙す
 る枠組みは、アフガン政府、パキスタン政府、アメリカ、そして中国の「四者会議」な
 のです。
・別に中国を讃えているわけではありませんが、中国をスーパーパワーとして認識せよ、
 といっているのです。中国がくしゃみをするだけで、アフリカ大陸が風邪を引く、つま
 り地球規模の人道的危機を引き起こす、それくらいの影響力を持っているのです。中国
 の脅威を尖閣から見るだけではダメなのです。歴史的な経緯もあり、「中国だけには負
 けたくない」「癪にさわる」と思うのは仕方がないことかもしれませんが、ここは冷静
 に見る必要があります。問題は、中国の脅威過度に煽ることで、逆に日本が被る国防上
 のリスクです。インド洋やアラビア海、フィリピン、マレーシアなどの東南アジアのイ
 スラム系過激派組織が蔓延する地域まで出かけて行って、アメリカと一緒に軍事力を見
 せびらかす。この行為によって、日本の国防に跳ね返ってくるリスクです。グローバル
 テロリズムの時代に、このリスクを「中国への牽制の代償」として深刻にとらえない安
 全保障専門家は、単なる煽動家です。 
・安倍首相は「軍事同盟というのは血の同盟であって、日本人も血を流さなければアメリ
 カと対等な関係にはなれない」ということを述べています。しかし、私が日常的に接し
 た、現場のアメリカやNATOの首脳部には、血の絆というようなウエットな関係は、
 存在していませんでした。そもそも「対等な関係」を望むなら、他のアメリカの宿主な
 らやっているように地位協定を改定し、空域を含む米軍基地の「主権」を取り戻すこと
 から始めるべきだと思うのです。
・NATO各国が、軍事作戦に参加するかどうかの基準は、自国の利益という非常にドラ
 イなものです。その国益の議論を占めるのは、経済的そして人的損害を伴うその参戦の
 正義をどう国民に納得させるかです。アフガン戦においてフランス、ドイツは全面参戦
 しましたが、イラクでは離脱しています。主従関係ではないのだから当たり前です。こ
 のことは、グローバルテロリズムという、単純に皆の兵力を合わせてガンガンやればい
 いわけではない敵の出現で、より顕著になっています。
・今回の安保法制の国会審議のなかで、当時の民主党の辻本清美議員が、テロとの戦いに
 自衛隊が出かけていって、もしISに捕まったらどうなるのか?と質問しました。する
 と岸田外務大臣はこう答えました。「自衛隊員は紛争当事国の軍隊の構成員ではない。
 つまり交戦主体にはれないので、ジュネーブ条約上、つまり戦時交際法上の「捕虜」と
 はなれない」。日本とは、未来の敵に向かって、「自衛隊員を捕まえても捕虜として扱
 わなくてもいいよ」という国なのです。自衛隊員の命を何だと思っているのでしょうか。
      
テロに対峙するための新9条
・アメリカの宿主は数あれど、その地位協定が60年以上も変わらないのは日本だけです。
 地位協定も変えられないのに、どうやってアメリカを出ていかせられるのでしょうか。
・NATOのなかのイタリアとドイツは、敗戦国という意味においては日本と同じです。
 しかし、地位協定におけるアメリカとの関係は互恵的なのです。つまり、地位協定で、
 「受け入れ国」が「派遣国」に認める裁判権などの「特権」について、アメリカはイタ
 リア、ドイツにも同じ特権を認めるのです。現実的には、世界で突出した軍事力のアメ
 リカが派遣国になる場合がほとんどですが、少なくとも法的な議論では、その「逆」も
 ありうるのです。ですから、NATO地位協定の文面の主語は、日米地位協定のように
 アメリカとか日本ではなく、あくまで「受け入れ国」と「派遣国」なのです。同じ敗戦
 国のドイツとイタリアは、日本とは違い、アメリカと「対等」な立場にあるのです。こ
 こがポイントなのです。しかし、互恵性のない日米地位協定では、何を「公務外」とす
 るか決めるのもアメリカ側なんです。条文だけ見ると特段不利とはいえませんが、そも
 そも土台が違うのです。
・日米地位協定は「変わっていないこと」が問題なのです。日本政府は「運用」で対処す
 るといっていますが、それを決める日米合同委員会の構成は、日本側は軍事に疎い官僚、
 あちら側はすべて軍人で占められ、政治家も入れない密室なので、基本的にアメリカ側
 がイエスといわなければ、何も変わらない仕組みです。非互恵的な地位協定では、アメ
 リカ側に主導権がある構造は変わらず、「運用」には限界があります。
・なぜ自衛隊はISが活動するエリア近くに、フル武装で行けるようにまでなってしまっ
 たのでしょうか。簡単です。それは、自衛隊が「交戦主体」ではないと思い込んでいる
 「交戦主体」だからです。だから、「交戦主体」ではないのに、「交戦」が支配する戦
 場にフラフラと入り込めるのです。簡単にいうと、自衛隊が「海外に出れば軍事組織と
 見なされるが、日本国内ではそうではない」ことをなんとか説明するために理屈を積み
 重ねてきたから、つまり、自衛隊をきちんと憲法で定義していないから、ISの近くま
 で行けるようになってしまったのです。戦力の保持を禁止する憲法9条ですが、自衛隊
 を戦力と見なさないという理屈を積み上げてきたおかげで、いつの間にか軍事大国にな
 ってしまった。     
・よって、私が提案する新しい9条は、自衛隊を、戦時国際法・国際人道法で厳しく規定
 される「交戦主体」として明確に定義し、絶対に外に出さないという日本独自の制限を
 それに被せる。グローバルテロリズムの震源地近くで軍事力を見せびらかしては、即、
 日本の国防の脅威として跳ね返ってくるからです。明確に定義された主体だからこそ、
 その行動を明確に制限できるのです。
・「9条下の戦争」を含めて本当に戦争をしないため、そして軍事力をみせびらかさない
 ための「新9条」は次の通りです。
 1 日本国民は、国際連合憲章を基調とする集団安全保障を誠実に希求する。
 2 前項の行動において想定される国際紛争の解決にあたっては、その手段として、一
   切の武力による威嚇又は武力の行使を永久に放棄する。
 3 自衛権の行使は、国際連合憲章(51条)の規定に限定し、個別的自衛権のみを行
   使し、集団的自衛権は行使しない。
 4 前項の個別的自衛権を行使するため、陸海空の自衛戦力を保持し、民主主義体制下
   で行動する軍事組織にあるべき厳格な特別法によってこれを統制する。個別的自衛
   権の行使は、日本の施政下の領域に限定する。
       
おわりに
・日本は、核兵器被害、そして原発事故の両方を経験した世界で唯一の存在でありながら、
 何でも「想定外」にする幻想の文化があって初めて国防が成り立ってきた。
・日本はいつの間にか人類の非戦の営みの結晶である「交戦規定」を内包しない、唯一の
 世界五指に入る軍事国家になったばかりでなく、グローバルテレリズムの温床近くまで
 「軍事力であるという自覚のない軍事力」を拡散させるまでになった現実。
・もうこれらに目を閉ざすことなく真正面から受け入れ、「敵をつくらない」ための方策
 として、日米地位協定の改定と新しい9条を提案した。
・戦後70年を経て、そして安倍政権の出現を経て、アメリカの手のひらで日本人が右と
 左に分かれて争っている「戦後レジーム」の実態と、グローバルテロリズムがその手の
 ひらごとぶき飛ばしかねない近未来を少しでも認識していただきたい。