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分譲マンションの管理というのは、マンションの日常的な管理・運営という面と建物の長
期的な視点に立った修繕管理という面の二つの面があると思う。しかし、ともすれば、日
常の軽微な事柄に目が行きがちであり、長期的視点に立った建物の修繕管理については、
あまり真剣に考えられていないというケースが多いのではないだろうか。
言わずもがなであるが、分譲マンションというのはマンション区分所有者の共有資産であ
る。この共有資産をいかに快適な生活の場として長く維持していくかがマンション管理の
要なのだと思う。そう考えると、日常的な管理・運営もさることながら、それ以上に長期
的な視点に立った建物の維持管理が重要なのだと思う。そしてそれには、何をさておき修
繕積立金の確保が最も重要なことであるだろう。
しかし、その修繕積立金が、当初マンション販売会社が販売時にとりあえず決めた金額の
まま、再検討もされずに販売から十数年後の最初の大規模修繕工事を迎えるマンションが
ほとんどではないだろうか。マンション販売会社が決めた修繕積立金は、高いとマンショ
ンの売れ行きに影響することから、適正な金額より低く設定されることが多いようだ。最
初の大規模修繕工事は、その金額でなんとか賄うことができたとしても、そのままの金額
では2回目の大規模修繕工事時には、大幅に不足するケースが大多数だと思われる。マン
ション区分所有者にとっては、できるだけ積立金は低く抑えたいというのが本音だろうが、
しかしそのままでは、後に大規模修繕工事の資金不足という大問題に直面することになる。
計画的に大規模修繕工事ができなければ、当然ながら建物の寿命が早まることとなる。
日本のマンションの平均的な寿命は30年から40年と言われている。これは意外に短い
と私は感じる。例えば自分の住んでいるマンションの寿命が35年と仮定すると、50歳
でマンションを購入すれば、自分の年齢が85歳の時にマンションの寿命が来ることにな
る。今の日本人の平均寿命を考えるとギリギリといったところである。もしこれが、40
歳の時にマンションを購入したとすれば、年齢が75歳の時にマンションのほうが先に寿
命がきてしまい、老後の年金生活まっただ中に再度マンションを購入しなければならない
という事態になってしまう。それはとても無理だ。
このような事態を避けるためには、できるだけマンションの寿命を延ばすことだ。そのた
めには現在の修繕積立金が適正なものであるかを再検討し、できるだけ早めに毎月の積立
金の額を適正な額に引き上げていく必要がある。これには反対するマンション区分所有者
が出ることも予想されるが、十分な説明と話し合いによって理解を得ていくことがマンシ
ョン管理の一番の肝ではないかと思う。マンションの区分所有者は運命共同体ということ
をお互いにしっかり認識しておかなければならない。

「管理会社」VS「マンション住民」
・たとえ新築で買ったマンションでも、いつか必ず古くなる。古くなったからと言って逃
 げ出せない。放置はできないが、補修するにも金がない。こんな窮地に陥った中古マン
 ションは、きっと日本中に、少なくないはずだ。
・筆者のマンションは寒冷地にある。冬には凍結する立地である。コンクリートにわずか
 でもヒビ割れやスキマがあると、そこから水が侵入する。ヒビ割れの中に水が入ると、
 夜には凍る。凍れば膨張する。わずかの時間でもヒビ割れは大きく成長してしまうのだ。
 寒冷地のマンションでは、ヒビ割れやスキマを放置すると、硬いはずのコンクリートで
 も数年ももたずにボロボロになってしまうのである。
・武器はニュースレターの発行だ。理事会が何かのアクションを起こしても、他の世帯と
 積極的に情報を共有しなければ、その活動は絶対に理解されないし支持されない。誤解
 から反対派も生まれるだろう。だからこそ闘いにはニュースレターは欠かせないツール
・筆者の経験から言うと、たとえどれほど面倒でも、会計帳簿と伝票類は、一枚一枚、納
 得が行くまで監査することが必要だと思う。調べると、意味不明の領収書が案外多く紛
 れ込んでいるものだし、一枚一枚調べることによって、結局、大きな損を防ぐことがで
 きるからだ。管理組合の姿勢を管理会社にアピールすることそれ自体も大切なことなの
 である。  
・多くのマンション管理組合では、管理会社が作ってきた会計報告に、監事が言われるま
 まにハンコを捺すことも多いと聞く。だがこれは、時に恐ろしい損害を生むかも知れな
 いのだ。ハンコを捺した瞬間に、責任が管理組合の側に移ってくるからなのである。
・どこのマンションでも積立金の管理方法には頭を痛めていることだろう。実際に筆者の
 マンションの管理組合でも、それまでは、積立金は管理会社の名義で金融機関に預けら
 れていた。しかも印鑑も通帳も管理会社が保管していたのだ。この状態では、もしも管
 理会社が倒産すると、積立金は泡と消えてしまう。管理会社の資産とみなされてしまう
 からだ。しかし通帳の名義を理事長名にすると、こんどは何億何千万というお金の誘惑
 の前で、どんな不祥事が起きないとも限らない。管理会社が倒産する事件も、理事が着
 服する事件も、現実には何件も発生している。
・筆者のマンションでは、理事長と副理事長とが印鑑を分けて持ち、理事長名で契約した
 通帳を管理会社で保管している。普通預金や定期預金の口座だけでなく、ペイオフを睨
 んで開設した国債口座も、同様の方法で管理している。マスコミでは「国債は危ない」
 というキャンペーンを耳にすることもある。だが事実に即して考えるなら、少なくとも
 国債は現金と同じ格付けだから、どんな銀行の預金よりも安心なのだ。国債とペイオフ
 は無関係だから、国債通帳の残高が何億円になろうと、国が全額保証してくれる。しか
 も案外、利回りは高いのだ。
・完全な工事を一気に済ませたほうが、数年単位で見ると圧倒的にトクだ。たとえば錆び
 やすい鉄骨階段は、多少お金は掛るが、住宅用ではく船舶用の塗料を使い、橋梁工事の
 専門業者に任せたい。住宅の塗装業者と違い、橋梁業者はおおがかりなサビ取り機械を
 持っている。そして橋梁の基準でピカピカになるまで徹底的にサビ落としをしてくれる。
 たしかに高いが、高品質だから長持ちする。結局長い目で見ればトクなのだ。
・とにかく相見積もりを取ることだ。別に難しいことはない。NTTの職業別電話帳(タ
 ウンページ)をもとに、無差別に見積もり依頼書を発送する。ただこれだけのことであ
 る。相見積もりを取ってみて、驚いた。定価のない商品というのは、ほんとうに「定価
 がない」のだ。まったく同じ仕様の伝票を作成するのに、いちばん高い会社と安い会社
 では、見積もり価格に三倍以上の差があったのである。
・火災保険についても相見積もりを実施した。そして、補償内容はそれまでの契約とほと
 んど変わらないのに、掛け金は驚くことなかれ五分の一以下になったのである。保険だ
 けでも年間100万円近い節約だ。
・いよいよ大規模修繕の開始である。ともかく、建物の状態を調べておかなければならな
 い。もちろん建築業者に一声かければ、喜んで無料で検査してくれる。だが、その「無
 料」というのは、数千万単位の契約が後で控えているからこその「無料」なのである。
 すべて相見積もりで安く調達するという精神から考えると、どの業者であれ、ここで無
 料という名の借りを作ってはいけない。そこで検査料30万円と払って、独立系の建築
 士に一日検査をお願いしたのだ。
・工事の監理ばかりは、素人の手には負えない。当たり前だが、プロの業者を相手にして、
 素人がハンパ勉強で闘って勝てるわけがないのである。現場では、常駐している業者側
 の建築士から、次々にいろいろな質問が飛び出してくる。理事会側には経験も知識もな
 いのだから、「深い知識と数多くの経験」を、金を払って購入する必要があるわけだ。
 ここにプロの建築士の監理を依頼する意味があるのである。
・多くの管理組合が、独立系の建築士をコンサルタントとして建てずに大規模修繕を行っ
 ていると聞く。その場合、工事の監理は工事を受けた業者の側で、一式料金の中に含ま
 れる。表面的には無料という提案が多いだろう。筆者のマンションでもわざわざ別立て
 で建築士に500万円も払うという提案には、住民の反対意見も少なくなかった。だが、
 結果を見れば明らかだろう。実際に当初見積もりで1億3千万円を覚悟していた良質な
 工事を、建築士の代金と合わせても最終的に9千万円ほどで納めることができたのだか
 ら。 
・物品の調達でも、大規模修繕でも、何であれ、業者に談合されてしまっては元も子のな
 い。だが確実に談合を防止するコツがある。入札資格をなるべく広しく、誰が入札する
 のか予想できなくすることだ。談合とは、入札参加者の全員が集まって行うものである。
 参加業者の顔ぶれが不明なら、談合することは不可能なのだ。仮に談合をして高い値段
 に吊り上げようと思っても、知らない業者が安値で競り落として行くだろう。談合に参
 加した業者が誰も落札できないのでは、そもそも談合をする意味がない。だから工事の
 見積もり予定価格だけでなく、参加業者のリストや業者の応募総数についても秘密を厳
 守することが重要なのである。
・大規模修繕など、大きなお金が動くとき発生する不平不満は、知らないうちに業者が選
 ばれ不透明だという点が原因となると考えられるからである。そういう意味で、ある程
 度のお金が動くことを計画したなら、必ずニュースレターによって住民に説明し、住民
 を最初から巻き込むようにしなくれはいけないのだ。
・見積もり書類の受付も、郵便局の局留めとして、書留便で受け取ることにした。この方
 法なら、改札当日の朝、郵便局に受け取りに行くまでは、応募した業者名はおろか、何
 軒の業者が応募したかという点すら、誰にもわからない。誰も知らなければ秘密が漏れ
 ることもない。入札は必然的に真剣勝負になる。
・届いた見積もり書類を詳細に調べるのは、我々がコンサルタントを依頼した建築士の仕
 事である。見積もりの項目ごとに、横に金額を一覧できるサマリーが作成されると、よ
 うやくわれわれ素人でも各社の見積もり内容を、おぼろげながら比較できるようになる。
・理事会は対象を3社に絞った。すぎに1社に決定するわけでなく、ここから最終ヒアリ
 ングという作業を行うのである。業者を1社ずつ個別に呼ぶ。見積もり内容のうち、他
 社と比べて金額が飛び抜けて高かったり安かったりする項目について、どういう方針で
 見積もりをしたのか、それは設計側の意思に沿っているのかどうかを一つ一つ確認して
 いく作業である。そしてこの調整を経て、最終金額を文字通り入札してもらうのだ。
・念のために首位の会社の株価や帝国データバンクの評価も参照したが、経営的にも問題
 はないと思われた。工事の保証期間は最長七年に及ぶので、その間に倒産されては困る
 からだ。 
・建設業の冬の時代だからこそ、格安で工事ができたという面もあるだろう。そう考える
 と、大規模修繕を行うのなら、建設不況の今こそがチャンスだと思うのだ。見積もりで
 は、実費精算という項目が多く取り入れられている。これは見積もりを安くするおとに
 威力を発揮するのである。たとえば、「30センチ以下のヒビ割れが130個あると仮
 定して、1個に付きいくら」というように、単価によって見積もる方式である。この方
 式は「ヒビ割れの補修、一式いくら」という方式に比べて、良質の工事が期待でき、し
 かも安くつく。なぜなら、施工業者には、実際に工事に着手するまで、問題個所が何カ
 所あるかわからない。足場を組んで登ってみて、初めて、うわっ、ヒビ割れだらけだ、
 とわかるのである。ここで「一式いくら方式」で見積もってしまうと、予想外に状態が
 悪かった場合のリスクを業者側が負うことになる。そのリスク分を見込んで、業者は必
 然的に高めに見積もらざるを得なくなるのだ。一方実費方式では、予想以上に工事個所
 が多かった場合のリスクを、管理組合が負うという方式である。これなら、業者は喜ん
 で徹底的に問題個所を補修してくれるだろう。補修すればするほど儲かるのだから当然
 だ。一式いくら方式では、このヒビ割れは見なかったことにしよう、と放置されかねな
 いような微妙な損傷部分でも、実費方式なら、業者はどんどん補修してくれるのだ。
・工事が終了して、見違えるほど美しくなったところを見計らい、再度、積立金を値上げ
 させていただいた。節約をして浮いた管理費の余剰金も積立金に回している。

「管理費」のついて考える
・大規模修繕の予算が足りないと悩む管理組合の皆さんも、安易に借金を考える前に、ぜ
 ひとも「現金払い、ただし後払い」で払うという選択肢を検討してみてほしいと思う。
 借金をして利子や手数料を取られると、支払日まで利子を稼ぐのとでは、資金効率は往
 復ビンタで違ってくる。両者の間には大きな差が発生するだろう。
・新築マンションの管理費の水準は、景況感と連動して動いているだけで、ほとんど方向
 性がないことがわかった。管理費には相場観が形成されていないと言わざるを得ないの
 だ。要するに、ほぼ同じ立地のマンションで、たまたま景気が悪い時に分譲された物件
 の管理費は、景気が良い時に分譲された物件の半分くらいだったりするわけである。そ
 れでもなんとか管理できてしまうのがマンションというものなのだろう。好景気の時に
 付加サービスをいっぱい付けて高い管理費で分譲したマンションは、その後も慣性で高
 いお金を集め、使い続けているだけだとも言えなくもない。つまり、適正な管理費の水
 準というものは、存在しないのである。ということは、各マンションで話し合って、絞
 ろうと思えばいくらでも絞れるのが管理コストだと言えるはずだ。ただし、マンション
 の管理費というのは、たまたま自分のマンションが分譲された時の景気の状況を、その
 まま数十年間も引きずり続けるものであり、特に金額に確たる根拠があったわけではな
 いと認識しておくことは重要だと思うのだ。分譲された頃がたまたま好景気だったなら、
 そのマンションの管理費水準は、その後の景気変動とは関係なく、いつまでも好景気ム
 ードを引きずってしまいがちなのである。
・バブル絶頂期からバブル崩壊期までの間、積立金は管理費の一割という時代が長かった。
 中には高い積立金を集めるマンションもあったが、それでも平均すると15%に届くか
 届かないかという水準である。だがその後、積立金の比率は急増している。最近では、
 積立金は管理費の五割以上というマンションも当たり前になり、中には積立金の方が最
 初から管理費よりも高いというマンションも見られるようになってきた。特に90年代
 の後半から積立金に回る比率が急に高くなっている。積立金の比率が急増した背景とし
 て、日本高層住宅協会(現不動産協会)が1995年に、長期修繕計画に則った積立金
 水準にするように」と指導したことが大きいのではないかという。
・マンション業者が分譲する時、物件の売りやすさという点だけを考えるなら、月々の
 支払額は低いほうが良いに決まっている。だが、あまりにも積立金の水準が低いままで
 は、どう逆立ちしても大規模修繕を実施できない。マンションの数が増え、大規模修繕
 に直面しるマンションの数も増えたために、積立金不足の問題が放置できなくなったと
 いうのが原因ではないだろうか。
・2008年時点の新築マンションの積立金の水準は、都内立地のマンションで、平方メ
 ートル当たりの月額平均は83円。千葉や埼玉など首都圏近郊地区の平均値も、76〜
 79円となっている。けっこう狭いレンジに並んでいるように筆者には思えるのだ。積
 立金の水準は、各地方ごとに似たような数字となっており、たとえば関西圏では、58
 〜67円の範囲に納まっている。ここでも水準こそ違うものの、やはり明白な相場感形
 成されているように見えるのだ。考えてみれば、大規模修繕の工事費なんて、都心が郊
 外かの立地によって大きな差が生まれるような余地はないはずだ。同じ工事を行えば、
 材料費も工事費も似たような金額になるのが当然だし、それに備える積立金もまた似た
 ような数字になるのではないだろうか。もちろん都心物件のほうが贅沢な仕様が多いだ
 ろう。修繕コストが割高になる超高層マンションも都心に特有の存在だ。
・偏差値60点を目指すなら、都心部マンションの場合、平方メートル当たり最低でも月
 130円は積み立てておきたいということを意味する。筆者のマンションの積立金は、
 2008年現在、平方メートル当たり月額150円である。  
・マンションを分譲するには、月々の管理費や積立金が安いほうが客を呼びやすい。今も
 たまに「それでは積立金が大幅不足だろう」と思える新築物件を見かけることがある。
 だが積立金には管理費と違って相場がある。相場を大幅に下回ると、のちのち無用のト
 ラブルを抱えざるを得ないのだ。
・マンションの管理というと、私たちはすぐに、管理会社への丸投げか、はたまた管理組
 合による自主管理かという究極の二択を選んでしまいがちである。だが、自主管理化し
 て失敗した話を耳にするたびに、筆者は思うのだ。自主管理によって節約するというこ
 との真相は、一般住民による特定住民からの搾取なのではないかと。ある一部の住民が
 無償で提供する労力に、他の住民がタダ乗りすることが、自主管理による節約の真相で
 はないかと思うのだ。自主管理に切り替えた当初には、理事たちのモチベーションは高
 いだろう。ところがそのモチベーションの高さは、そうそう何年も続くものではない。
 管理費や積立金を安くできるその原資とは、特定の住民が無償で労働した成果なのであ
 る。誰かが勤労奉仕をしてくれて浮いたお金を全住民に還元するという構造なのだ。こ
 れでは、無償奉仕をしている特定の住民の精神と肉体を、いつか骨の髄から疲れさせて
 しまうはずである。ある失敗した自主管理組合では、浮いた金を理事長が報酬として受
 け取っていた。自主管理にすれば、理屈から言ってお金は浮くに決まっている。しかし
 その浮いたお金はどこか地面から湧いたものではない。誰かが見えない自分の時間と手
 間を膨大な労力を払って浮かせたお金なのだ。他人の努力は目には見えないものだ。目
 に見えないものを評価する時、人は誰しも他人の努力を過小評価してしまう。人間はみ
 な同じ誤りを犯すものだ。こうして自主管理組合は行き詰まるのである。
・管理組合は業務として管理を行うことによって、なるほど大きな利潤を上げている。だ
 がその利潤は、同時に数十棟、数百棟を請け負っているからこそ。規模の効果によって、
 多くの顧客に薄く広くサービスを提供できるという面も否定できないのだ。役所や業者
 と折衝したり、いろんな通知を印刷し発送したり、めったに起きない緊急時の対応をし
 たりするというように、管理にまつわる雑多な仕事は、ひとつひとつの項目について見
 積もりしなさいと言われても、見積もることも不可能なほどに軽微で雑多でアットラン
 ダムな項目の集合体である。そのようなものが、多数、しかも突発的に発生するのが管
 理という仕事の本質なのである。
・自主管理では、ピンポイントで発生する労力需要を、その都度、住民だけで解決しなけ
 ればならない。めったにない突発的な軽作業が外注されることは珍しく、たいていは住
 人の誰かの無償奉仕によって解決されなければならないのだ。だが、その住人の誰かと
 いうのは、いったい誰なのだろうか。筆者の管理組合が自主管理の代わりに選んだの
 は、管理会社にキチンと働いてもらうという道だった。管理会社が請求する「管理一式」
 という項目のモトが十二分に取れるように、とのかく働いていただくように舵を切れば
 良いと割り切ったのである。

「管理費」節約大作戦
・コストを削減するための第一歩は、すべてを管理会社に丸投げするのではなく、一部分
 だけでも、自分たちで関与することだ。火災保険の選定にしても、補修工事にしても、
 あるいは消耗品の調達にしても、管理会社に丸投げしてしまったら、格安の二文字は望
 めなくなってしまう。管理費用を低コスト化するためには、調達について理事会が常に
 関与し続けることが必要不可欠と言えるだろう。例えば火災保険。今では保険は自由化
 されている。いくつかの保険代理店から相見積もりを取ってみると、ものの見事に各社
 からバラバラの保険料が提案されて驚くだろう。
・独立系の管理会社の中には、日常管理について割安な見積もりで契約を引き受け、大規
 模修繕の際に随意契約で工事を引き受けてモトを取るというビジネスモデルの会社もあ
 るという噂を耳にする。したがって、金額的に一番有利になるのは、(管理会社には嫌
 われるが)日常管理を安い管理会社に任せつつ、大規模修繕に関しては、100%管理
 組合側で主導権を取ることなのだ。とはいえ、こういう経営方針の監理会社に日常管理
 を任せた場合、いざ大規模修繕という時に、理事会が他の業者を選択しようとすると、
 十分にサポートしてもらえないとも考えられる。
・組合の役員は公務員ではない。業者が談合したところで違法でもなんでもない。このこ
 とは心に留めておきたい。談合ができないように入札制度を改革したら、公共事業のコ
 ストが二割も三割も安くなったというニュースをよく目にする。逆に言うと、談合を許
 してしまうと、コストはどんどん割高になるということだ。業者に談合を許すとは、す
 なわり理事会が楽をすることの代償を、役員一人一人を含む区分所有者全員に押し付け
 ることを意味するのである。
・格安で調達するには、管理組合として見積もり募集を行う旨の手紙を発送するのだ。何
 月何日を締切とし、入札書類は理事長宅に郵送すること、と明記する。何社の応募があ
 ったかという事実は、見積もり合わせで業者が知りたいトップ級の情報である。もしも
 郵便受けを誰か他人に覗かれる危険がある場合には、「郵便局留」扱いで送ってもらえ
 ば良いだろう。下見は歓迎するが、入札件数や応募者についてはいっさい問い合わせに
 応じないと明記しておくのも大切だ。見積もり募集の際には、あらかじめ必ず入居者に
 も入札を行うことを知らせるべきである。もしも入居者の知らないところで業者の選定
 が行われると、不満が噴出する危険があるし、なにより入居者が数十人もいれば、電器
 業界につながりがある世帯もあるかも知れず、その線から入札者が現れないとも限らな
 いからだ。入札者が多く、しかも誰が入札するかが分からない状態をキチンと維持でき
 れば、談合は防げるのだ。募集要項には、向こう何年間かの独占納入をお願いしたい旨
 を明記しておく。これぐれも入札の募集には、入居者全体を巻き込むこと。そしてマン
 ション全体で、これだけ安くなったぞ、と、結果を皆で喜び合うことだ。
・やってはいけないこと。それは、どんな作業であれ、単純作業を役員が自分たちの力だ
 けで全部やろうとすることだ。これをやり始めてしまうと、責任を背負った役員が、精
 神的に急激に燃え尽きてしまう危険があるからだ。役員はやがて自問自答をはじめる。
 なぜ自分ひとりだけが、住民全員のために犠牲にならなきゃいけないのだろうか、と。
・まともな業者なら、だいたいどこでも似たような金額が出てくるはずだという。見積書
 が何枚もあれば、その数字を横並びに並べて見ることにより、そこから相場勘が出来上
 がるというわけである。ただし、発注する前に、必ずその業者さんのところに行って、
 相手の顔を見てからにしてほしい。なんらかの欠陥があって安いのか、安くできる根拠
 があるから安いのか。そのことだけは、発注する前に直接相手を訪問して、自分の目で
 確かめて見なければわからない。

「困った住民たち」との闘い
・マンションの法律は、善意の人間だけが寄り集まって管理するという前提になっている。
 同じ居住という目的を持った善意の人間の集合だと。ところが現実の人間の社会には、
 必ず一定の割合で、罪の意識のカケラも持ち合わせていない人間が混ざっている。他人
 が担ぐおみこしにタダ乗りすることを、まるで頭がいいことの証明だとでも勘違いして
 いるような連中。警察に捕まらなければ、何をやっても罪ではないと思い込んでいる連
 中だ。そういう連中が混じっていても、なお管理組合がキチンと公平に動けるようでな
 ければならないのだが、法律が管理組合に許した強制力は、哀しいほど弱々しい。 管
 理費を払わないのに図々しいと文句をブツブツ言ったところで何の解決にもならない。
 かと言って、裁判所の面倒臭い手続きを経て、ようやく「エレベーターに乗ってはいけ
 ない」みたいな判決を勝ち取ったところで、エレベーターに乗る奴は乗るのである。裁
 判所がエレベーター前に監視員を派遣してくれるわけじゃあるまいし、悪い奴らが本気
 でズルしようと思えば、いくらでもズルし放題なのが、今の日本の法律なのだ。
・原始規約というものをご存じだろうか。新築のマンションを購入した時には、規約集の
 中にとじ込まれた用紙に購入者が署名捺印をして、売り主に提出するが、あの書類を束
 ねたもののことである。購入者が全員、承認して初めて、法律的には規約が成立するの
 だ。みなさんのマンションでは、原始規約は、ちゃんと保管されているだろうか。   
・理事会というのは、予備知識がない人たちで結成された集団だ。原始規約なるものに対
 して知識がなくても不思議はない。かくて原始規約は知られぬまま行方不明になってし
 まうのであろう。 
・積立金の値上げとは管理規約の変更なのだから、4分の3以上の賛成を集める必要があ
 る。  
・管理組合は無限責任である。一般に言えば、足りない分は理事が身銭を切ってでも返還
 すべき義務がある。
・管理費等の改定に4分の3の賛成が必要だという主張。もしそれが正しいのなら、多く
 のマンションで、管理費の改定決議が無効になりかねないはずだ。肝を冷やしておられ
 る読者も多いのではないだろうか。
・神戸地裁平成14年第90号の判決で、「総会において管理費および修繕積立金の額を
 決定することは規約の変更に当たらず、特別決議を要しないものと解するのが相当であ
 る」との判例がある。
・読者の管理組合でも、原始規約が行方不明になっているところがきっとあるだろう。し
 かし、たとえ原始規約がどこに紛失したかわからなくても、規約通りに長年管理がなさ
 れてきて、住民から特に異議もでていなかったなら、黙示的に規約が成立したとみなす
 という判例もある(京都地裁平成9年第1044号)。本当に困った場合には、こうし
 た判例の番号をメモした上で、弁護士に相談に行くとよいだろう。裁判官も弁護士も全
 能の神様ではない。あらゆる分野のすべての判例を把握しているはずはない。しかし判
 例が存在していることが分かったなら、つまり武器が用意されているのなら、武器の使
 い方を十分に熟知しているのが弁護士というプロなのである。
 
ホントに必要なの?コンサルタント
・対規模修繕をする時に、外部のコンサルタントを入れずに工事を行うマンションが、全
 体の9割を越えていると言われている。実際、筆者のマンションで2000年に行った
 外装の大規模修繕の時には、最終的な設計見積もりが8672万円だったのに対し、実
 際の工事は7854万円で契約したので、コンサルタント料、約500万円を払っても
 なお黒字になったのだが、黒字になったという点が最大のメリットだったわけではない。
 専門知識のあるプロが、管理組合の側に立って、工事を常にチェックし続けてくれたこ
 とこそが最大のメリットだったと言えるのだ。
・独立したコンサルタントに工事の監理を任せることの最大のメリットは、きっと建物の
 悪いところを見つけ出して直せるという点に尽きると思います。施工業者さんだけで工
 事すると、工事を始めてから、思っていた以上の劣化が見つかっても、最適な修繕工事
 を実施してくれるとは限りません。当初の見積もりも予算がるために、ある程度のとこ
 ろで歯止めが掛ってしまうからです。施工業者も、いつでも手を抜きたいと思っている
 わけではありません。ただ知識や経験の不足によって、うっかりミスを犯すこともあり
 ますし、彼らもビジネスですから、利益を削って余計なことまでやろうとはしません。
・管理組合には予算がある。その中で、工事に優先順位をつけなければならない。どの工
 事は削ってもよいが、どの工事は今すぐ追加しておかないと危ないという判断は、素人
 には不可能だ。ここにこそ、良いコンサルタントにお願いする理由があるのだ。
・良いコンサルタントをどうやって選べば良いのか。相見積もりでコンサルタントを選ぶ
 時、私たち素人に直感的に理解できるのは、金額の安さという一点だけだ。そこで、金
 額だけでコンサルタントを選ぶとなると、えてしてそういう割安な、しかし実態は危な
 いコンサルタントを選んでしまうことにもなりかねない。
・コンサルタントを金額で選ぶのは危険です。現に今では、施工業者にバックマージンを
 要求することで収支を合わせるコンサルタントがいるようです。そういう話は、実際に
 金を要求された施工業者の社長などがボヤきますから、マンション修繕工事の世界にい
 ると、自然と聞こえてくるのです。  
・素人の私たちが良いコンサルタントをどのように選択するべきかというのは、ものすご
 く難しい問題だ。私たちは素人、コンサルタントはプロだからである。良いコンサルタ
 ントを選ぶ上で、まずは何より大切なのは、コンサルタント本人の人柄なんです。その
 建築士の所属する事務所が何人の建築士を抱えていようと、実際に工事の設計監理を行
 う建築士本人の人柄こそが、工事が成功するか失敗に終わるかの最大のポイントだと思
 います。ですから、面接の際には、実際に監理するコンサルタント本人に来てもらうこ
 とが、とても大切なのです。大きな事務所でも、実際に一人の建築士が設計をし、その
 人自身が現場にも来て監理を行うところなら良いでしょう。しかし、業務をアウトソー
 シングして、修繕工事の知識や経験の少ないコンサルタントが流れ作業で監理をすると
 ころは危険だと思います。
・マンション修繕の設計監理の業界で信頼できる建築士は、昔から勉強会を開いて、たえ
 ず勉強を続け、情報交換もしています。そういう自然発生的な勉強会が、日本にはいく
 つかありますが、そういう仲間の間では、おかしなコンサルタントがいれば、すぐに噂
 に上がります。
・金額は選択の理由にはならない。現場に来る回数を減らせばコンサルト代も簡単に減ら
 せるのだが、それは自分たちが求めるものとは正反対のはずである。安さを追求するの
 は、自分で自分の首を絞めるみたいなものなのだ。その人がいったいどのような仕事の
 経験を積んできた人なのかを確かめることです。工事監理を行えば、必ず物件ごとに監
 理日誌や打つ合わせ記録を付けています。工事の点検・指導や打ち合わせ内容について
 、記録するのは基本だからです。コンサルタントは、自分が設計監理を行ったマンショ
 ンの実績表を提出しているでしょうから、その中から管理組合の側でいくつかのマンシ
 ョンを指定し、監理日誌や打ち合わせ記録を持ってきてもらうのです。一人の建築士の
 監理日誌を見ただけではわからないかも知れませんが、何人もの監理日誌や打ち合わせ
 記録を見比べると、それぞれのコンサルタントがどういう仕事をして来たかが分かるよ
 うになります。その中でも、特に築年数の古いマンションの設計監理の記録を見せても
 らうと良いでしょう。古い建物はいろいろなトラブルが出てきますから、それに対して
 一つ一つどのように取り組んだのかということを見ることによって、その建築士がキチ
 ンと仕事をしているのか、していないのか、素人でも手に取るようにわかるようになる
 はずです。
・よくコンサルタントが、ちゃんと塗布量をチェックし、テスト施工もちゃんとやるので
 大丈夫ですよと言いますが、そういうコンサルタントは信用しないほうがいい。途中途
 中できちんとチェックする。どういうチェックをするかという点が大事なんです。建築
 現場では、間違えやすいポイントは何なのかということを、経験で知っていなければチ
 ェックできません。たいてい現場でいつも同じような間違いをしてしまうというポイン
 トもあるんです。それはやはり実体験がないと、チェックできないことだろうと思いま
 す。  
 
「競売」を楽しむ
・ご存じのように、株式のバブルは1989年の年末が頂点だった。このことはまでも多
 くの人脳裏に焼き付いていることだろう。しかし1989年には、東京の地価バブル」
 は、まだ頂上に達していなかった。地価がピークを付けたのは1991年頃。株価の頂
 点から2年遅れのことである。さらに遅れて地方の不動産がバブル化した。地方がバブ
 ル化を始めたのは東京のバブルよりもほぼ1年遅れており、バブルの崩壊もまた、東京
 から遅れること、さらに1年後のことだった。バブルの変動は、東京の都心から周辺部
 へ、そして地方都市へと、あたかも沖のうねりが浅瀬で急激に立ち上がり、白波ととも
 に崩れ落ちるごとく、激しく三角波のようなピークを付けたのである。バブルは決して
 全国で同時発生したわけではない。バブルの津波は東京都心を震源として発生し、周辺
 へと時間とともに拡散して行ったのだ。