すべての経済はバブルに通じる  :小幡績

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安倍政権は、国民の年金積立金を管理・運用しているGPIFに対して、今までの安全重
視の運用方針を変えて、リスクの高い株式への投資割合を大幅に増やすよう仕向けている。
リスクの高い株式であっても、運用をプロに任せれば大丈夫だろうという思い込みがある
からだろうが、果たしてプロならば、運用の失敗はないのだろうか。この本を読む限りに
おいては、プロであるがために落ちいってしまう失敗の危険があることがわかる。プロな
らば失敗しないだろうというのは、単なる思い込みにすぎないのである。
GPIFが国民の年金積立金をリスクの高い株式に投資して、もし失敗して大きな損失が
出た場合に、いったい誰が責任を取るのだろうか。運用を失敗したプロをクビにしたとこ
ろで、失った国民の年金積立金は戻ってはこない。首相や大臣が責任を取って退陣したと
ころで、失った国民の年民積立金は戻ってはこない。結局、それによって、ひどい目に合
わせられるのは、年金を収めている一般国民だ。今の政府は、国民のカネでギャンブルを
しているようなものだ。
政府は、デフレ対策と称して、異次元の量的金融緩和や、国民の年金積立金を株式市場に
つぎ込むことによって、バブルを作り出している。そしてそのバブルは、必ず崩壊へと向
かう。バブルが崩壊してデフレに陥ると、政府はまたさらなる国民の血税をつぎ込んで、
バブルを作り出す。その繰り返しだ。それによって、一部の投資家は大儲けするのだろう
が、我々一般国民の生活は、ますます苦しくなっていく。

まえがき
・市場経済においては、すべてのものに価格が付きますが、その価格は、需要と供給で決
 まります。つまり、価格の高いものというのは、需要が多く、供給が少ないものであり、
 そのものには希少性があることになります。
・すなわち、金融資本が自己増殖するためには、金融資本自身が希少でなくてはいけませ
 ん。経済においては、希少性がないと、お金を払ってくれる人がいなくなってしまうの
 です。金融資本は自己増殖を続けていますが、その増殖した金融資本以上に経済が拡大
 し、収益機会、投資機会が増えていないといけないのです。しかし、実体経済の成長に
 は限界があり、未開のフロンティアにも限りがあります。
・金融資本の膨張プロセスが永遠に続くことは可能なのでしょうか?当然、これが続かな
 くなり瞬間はやってきます。膨張した金融資本が、金融市場に常に再投資され続けると
 か限りません。今は高いから、もっと金融資本(株や債権などの金融商品)が安くなっ
 てから買えばよい、と考え始めた瞬間に、継続的な膨張は破綻します。

証券化の本質
・証券化のプロセスの第一段階では、様々な実物資産を集め、これらの資産から生じるキ
 ャッシュフローを権利としてまとめる。第二段階では、その権利を細かく分けて、分け
 られた権利をそれぞれ個別の証券とする。最後に、第三段階として、分けられた個別の
 証券を、それぞれ別の投資家に対して売り出す。これが証券化のプロセスである。
・金融市場に対して最も大きな影響を与えた現象としての証券化の本質とは、資産が証券
 化されると同時に「商品化」され、価格が付くということなのだ。価格が付くと、単に
 鑑定評価額などの理論的な価値が決まるのではなく、「市場価格」が付くという意味だ。
・投資家にとっての最大のリスクとは何か。たとえば、住宅ローンなどの不動産融資の場
 合を考えると、借り手が返済不能になることと思いがちだが、そうではない。投資した
 資産を売りたいときに売れない、ということであり、住宅ローン債権を他の投資家に転
 売できない、ということなのだ。 
・多数の投資家の投資対象となっている証券化商品は、リスクが極めて低い投資商品とな
 る。なぜなら、証券化前と物理的には同じ資産であっても、多数の潜在的な投資家がい
 ることにより、売りたくても売れないという状況が起きる確率が飛躍的に低下するから
 である。
・現金化したいときにできないという流動性リスクを考慮することは、投資においては極
 めて重要である。市場全体が暴落したときや、自分が財政的に破綻しそうになったとき
 に、売却価格はともかく、すぐに現金化できるということが、投資におけるリスク管理
 にとって最優先事項だ。投資した資産がいつでも売れるほど流動性が高い投資商品は、
 流動性が限定的である投資商品よりも遥かにリスクが小さく、価値が高い。
・証券化による金融市場において、資産への投資リスクを本質的に変質させたのが、証券
 化にともなって起こった「商品化」であった。そこでは、原資産がどのようなモノであ
 るかはどうでもよくなり、原資産ではなく、証券化によって新しく意味出されたかに見
 えるリスクとリターンのみにより表現される投資商品となった。実体より評価されてい
 た資産が、結果としてのキャッシュフローだけで評価される商品へと変質したのである。

リスクテイクバブルとは何か
・リスクテイクバブルとは何か。それは、多くの投資家がリスクを求めてリスク資産に殺
 到し、それによりリスクがリスクでなくなり、結果的に彼らすべてが儲かることとなり、
 さらに他の投資家も含めてリスクへと殺到する状況を示す。
・投資対象は、ジャンクでも何でも構わない、ということだ。投資対象の実体に関係なく、
 ともかく「儲かれば何でもよい」という下品な真理、実はこれが投資の王道なのだ。
・「実体」などという、投資の初心者やファイナンスの教科書が囚われている要素にはこ
 だわらない。なぜなら、投資家が狙っているのはキャピタルゲインであり、彼らにとっ
 ては買った価格より高く売ることだけが目的だからだ。「実体」が優良であっても、高
 く売れなければ、投資対象としては意味がない。

リスクテイクバブルのメカニズム
・リスクを取ることがバブルになるためには、リスクテイクの価格が高騰しなくてはいけ
 ない。すなわち、投資をするということは、リターン、つまり利益を求めているのだが、
 この利益は、なんらかの犠牲なしには得られない。リターンを得る対価を払わなけれ
 ばならないのだ。その対価が、リスクである。つまり、リスクを取った者だけが、リタ
 ーンを得ることができるのだ。 
・バブルが発生するときには、ITバブルのように経済実体にかかわるきっかけがある場
 合と、分割バブルのように経済実体と関係なく起こる場合とがある。すなわち、資産価
 格の急激な高騰に必ずしも合理的な理由があるわけではない。
・何がバブルを膨張させるのか。それは、「バブルであること」である。つまり、いった
 んバブルになってしまえば、バブルとなっているそのこと自体がすべてなのだ。そこで
 は、価格の上昇が需要を呼び、これが価格の高騰をもたらす。そして、さらなる需要の
 増加につながり、価格がさらに高騰する。バブルにおいては、この循環が本質であって、
 価格高騰が起きた最初のきっかけはきっかけにすぎない。バブルに理由はいらない。バ
 ブルはバブルであることが重要なのだ。
・現在は多くの国で紙幣が貨幣として流通しているが、なぜ、紙が貨幣となり得るのか、
 その決定的な理由はない。かつては金が、あるいは、貝殻や石が貨幣として選ばれたが、
 なぜ他のモノでは駄目だったのか、という説明はできないのである。すなわち、貨幣は、
 それが貨幣であると人々が信じてしまえば、貨幣となり得るのであり、決定的な理由は
 ないのである。
・プロにとって、目先、ライバルよりも高いリターンを上げることができるかどうか、と
 いうことが最優先だ。ライバルに勝つためというのが、リスクの高い似非トリブルA債
 券を買った最も重要な理由であった。 
・プロとはどのような人々か。彼らは、他人のお金を預かって運用している、金融機関や
 ファンドにおける運用者のことである。彼らは、自分のお金で投資しているのではなく、
 顧客を説得して、他のファンドではなく自分のファンドにお金を預けてもらい、それを
 運用しているのだ。したがって、ライバルよりも高いリターンを上げて、顧客に継続的
 にお金を預けてもらうことがプロとして仕事を続けていく上で、最も重要なのである。
・なぜなら、お金をプロに預けている出資者たちは、ファンドの運用成績という結果だけ
 でしか、そのプロを評価できないからである。出資者たちは、他の同じようなファンド
 と比べて、短期であっても、低いリターンしか出せないファンドからお金を引き揚げ、
 より高いリターンを上げているファンドに資金を移すのである。
・プロのファンドマネージャーにとっては、ファンドが大きな損失を出して破綻するリス
 クも怖いが、顧客が自分のファンドからお金を全額引き揚げてしまい、ファンドが解散
 させられてしまうリスクも同じように怖い。ファンドマネージャーとして、市場から退
 場を迫られる、という点では、大きな損失を出しても、利益を出せなくても、全く同じ
 なのである。つまり、リスクを取らなければ、損失が出ていなくても、どうせ資金は出
 て行ってしまい、自分のビジネスは破綻してしまうのである。
・したがって、リスクがあろうがなかろうが、表面利回りが高いものに手を出さざるを得
 ない。そして、ライバルがそうすればするほど、自分も同じことをしなければ負けてし
 まう。悪貨が良貨を駆逐するように、愚かで向こう見ずなファンドマネージャーが、賢
 明で慎重なファンドマネージャーを駆逐するのである。そして、賢明なファンドマネー
 ジャーは、駆逐されないように、愚かで向う見ずな振りをするのである。
・一方、投資家としても、本来は儲けを最大化したいにもかかわらず、資金を預けた運用
 者(頭脳)の本当の能力を見分けられないために、結果だけで判断することとなり、目
 的を達成できない。そして儲けを最大化できないだけでなく、資本と頭脳の間の情報ギ
 ャップにより、本来であれば取るべきでない意図せざるリスクを投資家の側でも取るこ
 とになってしまう。 
・「頭脳」たち、すなわち、ファンドマネージャーたちは、取るべきでないリスクを過大
 に取ってしまい、これにより金融市場全体で、リスクテイクが過多になってしまう。こ
 れは、まさに、個々の合理性を追求しても、全体ではおかしなことが起きてしまうとい
 う、合成の誤謬である。
・個々人におけるミクロレベルの意思決定は合理的であっても、市場全体をマクロ的に見
 ると、リスク過多となってしまっている。すなわち、合成の誤謬が起きているのであり、
 さらにリスクテイクバブルそのものが起きていることを示している。
・バブルとはねずみ講そのものであり、資産市場での売買そのものが、ねずみ講と同じ構
 造を持っているのである。バブルに最初に参加した投資家、あるいは作り上げた投資家
 は大きな利益を上げ、後からバブルに参加した投資家は、参加するのが遅れるたびごと
 に利益が減少する。そして、最後に参加し、転売を意図しない長期保有の投資家は、バ
 ブル崩壊の直撃を受けるのであった。したがって、バブルの膨張・崩壊プロセスは、
 ねずみ講の生成、破綻のプロセスと同様の形態をとるのである。

バブルの実体
・一般的なバブルのイメージを形にしてみると、
 ・バブルの最中には、皆、熱狂してしまって、誰もバブルがバブルであることに気づか
  ず投資してしまう。
 ・バブルに投資することは明らかに失敗で、後で振り返って、バブルであることに気づ
  いていれば投資しなかったのに、と後悔する。
 ・バブルは危険なものであり、賢明なプロの投資家は近づかず、素人が下手に手を出し
  て失敗するケースばかりである。したがって、バブルの疑いがあるものには決して近
  づいてはいけない。
 ・バブルは危険で、経済に大きな被害をもたらすものであるから、社会としても、政府
  としても、バブル潰し、再発防止に取り組む必要がある。
 しかし、これらは、全て誤りである。
・世界の株式市場では、同じ顔ぶれのプレーヤーたちが世界のどの市場においても主要な
 メンバーだった。したがって、ある投資家が投資資金を引き揚げるということは、それ
 は必然的に、世界中で同時に株式が売られること、すなわち株安になることを意味した。
 そう考えると、世界の株式市場が同じ方向に動くのは当然であった。
・世界が同時に暴落することには、やはり恐怖感があった。そして、恐怖感に煽られた市
 場は必ずオーバーシュートする。すなわち、極端に暴落し過ぎる。しかし、行き過ぎた
 株価は、必ず戻る日がやってくる。
・何がバブルで何がバブルでないかを厳密に線引きすることは難しい、ということだ。と
 りわけ、割高だからといってバブルとは限らない、という点に注意する必要がある。高
 すぎる水準まで株価が上昇していても、その上昇が暴落につながるとは限らない。ここ
 に、バブルのひとつの重要なポイントがある。つまり、バブルかどうか、あるいは、そ
 のバブルが崩壊するかどうかについては、その価格水準自体は関係ないということだ。
 高すぎるか、あまりに高すぎるのか、どちらであっても、それは必ずしも、直ちに下落
 することを意味しないということだ。
・逆にいうと、高すぎるからといって、それをバブルと決め付けるのは極めて危険である。
 特に投資家にとって、これは重要だ。なぜなら、明らかにバブルであり、それが直ちに
 崩壊するのであれば、空売りをしたくなるからである。
・心に留めておくべき格言は、「バブルには向かってはいけない」。つまり、バブルはバ
 ブルであっても、いつ崩壊するかわからず、非合理的な水準、説明できない水準になっ
 ても、そこからさらに上がる可能性があるので、下がると思って投資するのは危険だ、
 ということだ。 
・面白いことに、ほとんどのバブルにおいて、一度崩れかけてから、再び上昇するという
 現象が見られることが多い。そして、崩れかけた後の上昇は、むしろ以前よりも激しく
 なることが多い。この急騰の後に訪れ、真のバブル崩壊が起こる、というのが典型的な
 パターンである。
・バブルにおいては、とほんどの投資家が、そればバブルであることを認識しており、い
 つでも逃げられる態勢を整えているということだ。
・一般的に不思議なのは、暴落が始まるぎりぎりまでなぜ持つ必要があるのか、というこ
 とだろう。そんな危ない逃げ方ではなく、他の投資家がどうであろうと、先に逃げてい
 ればいいのではないか。実際、それが当然と考えるエコノミストは多い。だが、それは
 間違いである。なぜなら、他の投資家よりも早く逃げてしまえば、大きな利益を上げる
 機会を失ってしまうからだ。バブルで儲けようとする場合は、大きく設けなくては意味
 がない。したがって、大きな利益を得る機会を逸失するのは許されないのである。皆が
 乗っているときに降りるのは、宝の山を前に逃げ出すようなものだ。バブルで儲けるた
 めには、早い段階で逃げてはいけない。ぎりぎりまで頑張らないといけないのである。
・バブル崩壊という連想がすべての投資家、メディアに広がり、心理的なインパクトも大
 きくなる。バブルという言葉は、暴騰するにせよ、暴落するにせよ、皆大好きなのだ。

バブル崩壊:サブプライムショック
・株式市場の本質、とりわけバブル崩壊といった激しく市場が変動しる場合における、株
 価を動かす要因について、一体どのような要因で株価が乱高下しているのだろうか。そ
 れは、センチメントだ。「市場ムード」といったほうが的確だ。
・欧州市場や日本市場の投資家たちは、米国市場がどうなるかということだけに注目して
 いた。投資家たちは、示し合わせたわけでもないのに、全く同一の感覚、恐怖感に支配
 されている。すなわち、米国市場の動きがそのまま、個々の投資家の投資行動に直結し、
 それがそのまま市場全体のムード、流れとして確定してしまう。
・このムードの源である米国市場の株価の動きを決めるのも、ファンダメンタルではない。
 米国市場の株価の動きは、米国市場の多数派の投資家がどう考えているかにより決まる。
 世界市場の株価の動きも、それを決定付た米国市場の株価の動きも、全て市場のムード
 のよって決まっていたのだ。
・日本市場だけが、世界の中で突出して暴落したのだろうか。それは第一に、日本市場が、
 先進国で最もレベルの低い市場だからだ。常に外国人投資家の動向を窺い、流れを作っ
 てくる投資家の後追いだけをしている投資家しかいない。そのため、センチメントに大
 きく振り回される市場となり、仕掛ける側の投資家の格好のターゲットになっているの
 だ。第二の理由は為替である。日本ほど為替動向、円高に弱い市場はない。それは、経
 済が輸出依存だからではなく、輸出依存だという思い込みがあるからだ。
・暴落局面に関するまでのエピソードから、示唆される教訓は3つある。第一に、ファン
 ダメンタルは無力である、ということである。第二に、ファンダメンタルではなく、個
 々の投資家の内面の心理が株価の変動を作り出し、そして、その心理は群集化する。す
 なわち、暴落局面では、株価の変動及び市場のうねりは、群集心理により支配されるの
 である。そして第三に、この群集心理に支配された株価を動かすために、群集心裡を支
 配しようとする投資家が存在し、暴落局面では、株価はそのような投資家によって動か
 される可能性が高い。 
・なぜ、1度目の暴落は大丈夫なのに、2度目以降はだめなのか?1度目の暴落局面では、
 ほとんどの投資家は暴落前のバブルでかなり含み益を膨らませており、まだ余裕がある
 という点が挙げられる。一度の暴落ぐらいなら乗り切れるだけの含み益を残しているの
 だ。 
・含み益がある間は損をしたという感覚はない。また、ピークで売り損ねていても、それ
 ほど後悔していないから、彼らも冷静に売買し、買いチャンスを狙う可能性もある。し
 たがって、1度目の暴落においては、すべての投資家が冷静で、財務的に投げ売りを迫
 られることもなく、よってパニック的な暴落のスパイラルに陥らなくて済むだ。しかし、
 2度目の暴落、あるいは、3度目以降の暴落局面では、そうはいかない。含み損になら
 ないよう、利益が出るうちに売ろうと考える。この結果、ある程度下落トレンドが続い
 てしまうと、彼らが売りに走るため、市場全体で売りが加速し、暴落スパイラルが起こ
 ることになる。
・バブルの暴落局面において、何度目の暴落がとどめとなるのか。それは、ボクサーが何
 度目のパンチでダウンするのかわからないのと同じくらい難しい質問だ。

バブル崩壊:世界同時暴落スパイラル
・バブル崩壊における恐怖の頂点は、最後の最後にやってくる。それは突然やってくるも
 のではない。誰もバブルは崩壊した、もうだめだ、と思ったその直後にやってくる。な
 ぜなら、この2度目以降の暴落時においては、誰の目にも回復の見込みがないことは明
 らかであり、ここはむしろ買いチャンスだ、とは誰も思わないからである。
・売り手は、損が出る価格では売りたくない、とか、もう少し待てば戻る、などと考える
 余裕は全くない。破産を逃れるため、あるいは精算のために、全て資産は投げ売られる。
 そこに迷いはなく、そもそも選択肢などない。ただただ売られてしまう。もはやそこに
 投資家の意思は存在しない。
・市場では、売りが殺到するというよりは、淡々と絶え間なく売りが流れ込み、静かにか
 つ大量に売りが溢れている。そこに買いはない。相場はフリーフォールとなり、底なし
 沼となる。
・悲観と楽観が揺れ動く相場というのは、極めて危険な相場である。しかし、楽観といっ
 ても、それはあまりに危うい楽観で、投資家たちは、先の見通しに対する期待や願望に、
 怯えつつもすがっているに過ぎなかった。まさに、夢から覚めるのが怖くて、目をつぶ
 り続けていたような状態だったのである。
・噂や報道で乱高下する相場というのは、最も危ない相場である。噂や報道に大きく反応
 するという事実が、たとえ株価が上がったとしても、いつ突然パニックとなるかわから
 ない。恐怖相場であることを示している。
・理由のない暴落こそが最も恐怖感をあおるのであり、どんなに理不尽であっても、理由
 がわからないよりはましなのだ。
・注意しなければいけないのは、恐怖相場では、上へ仕掛けられることも多いということ
 だ。
・仕掛けの基本は、大量に売り浴びせて恐怖を絶望に変え、心理的に打ちのめされた投資
 家の投げ売りを誘い、また、機械的なポートフォリオマネジメントをしている機関投資
 家などの、機械的な損切り売りも誘う、というやり方だ。そして、暴落後に他の投資家
 たちが投げ売りをしつくしたところで、仕掛けた側は、暴落の最初の局面で売った分を、
 暴落の底値で買い戻すのである。
・このとき、投げ売って損失を確定させた投資家は、上昇を仕掛けられると、さらに動揺
 する。かなり下がった水準で、自分があきらめて投げ売った直後に、急に反転、上昇を
 仕掛けられれば、彼らは、急反転、急上昇を目の当たりにして、投げ売ってしまったこ
 とに対する後悔と自己嫌悪で狂いそうになる。しかし、狂いそうになるということは、
 まだエネルギーがわずかに残っているということだ。彼らは、最後の力を振り絞って、
 急上昇の波に飛び乗り、買い戻しに走る。投げ売ったことによって失われた資産とプラ
 イドを取り戻し、公開の念を帳消しにしようとする。
・この買い戻しも、機敏に動き、底値で買い戻せば、多少は損失とプライドを取り戻せる
 かもしれない。しかし、打ちひしがれ、同時に、「これでさらに損失を出したら」とい
 う恐怖に怯えている投資家の場合は、市場の株価が底値から反転して上昇局面となって
 も、すぐには飛び乗れない。彼らは、急上昇を呆然と眺めた後、その急上昇が一時的で
 なく持続的になってきたとき、我に返り、最後の力を振り絞って、買い戻しをする。も
 ともとの後悔に、急反転のとき、すぎに買わなかったという後悔が加わり、二重の苦し
 みを背負いながら、あせって買い戻すことになる。しかし、これにより、三重苦を背負
 うことになるのだ。なぜなら、このときが、上昇局面の終了するときだからである。
・売りを仕掛けて利益を出し、次に、急反転の買いを仕掛けたヘッジファンドは、最後に
 買いに回った投資家が入ってきたタイミングを捉え、二度目の利益確定を狙って一気に
 売りに回り、資金を回収する。損失を取り返すために最後の力を振り絞って、ここで買
 ってしまった投資家は、損失を膨らませるだけに終わる。そして、財政的にも精神的に
 も破綻に近い状態になる投資家も続出する。これが、バブル崩壊における投資家の典型
 的な悲劇だ。 
・日本ほど、仕掛けに弱く、外国人に投資動向に左右される市場もない。他国のどの市場
 よりも揺さぶられる度合いが激しく、また、その揺さぶられ方も、より単純で乱暴であ
 った。
・米国市場が夜間で閉まっている間に、米国市場に関する様々な報道や憶測が飛び交い、
 米国以外の市場、とりわけ日本市場が、それらのニュースに反応して、株価が乱高下し
 た。あたかも、米国の金融不安が、日本市場の株価に直接反映されているようであった。
・日本市場は、米国に関する噂で揺り動かされた一方で、当の米国市場自体は噂では動か
 ず、事実を確認してから動いた。噂を利用したかどうかはわからないが、結果として、
 日本市場では異常に大きな乱高下が起こり、それを利用してヘッジファンドは利益を上
 げていたと思われる。
・日本市場は、時差により主要マーケットの中で最も早い時間から開くため、世界的金融
 危機も日本から始まるパターンが確立していた。

バブルの本質
・バブルの最中には、皆、熱狂してしまって、誰もバブルがバブルであることに気づかず、
 投資してしまう、という認識は明らかに誤りであることがわかる。投資家の誰もが世界
 の株式市場がバブルであり、また、円キャリー取引がバブルを生み出していることを認
 識していたからである。バブルであることを認識していなければ、暴落で恐怖感を覚え
 る必要はない。いつバブルが終わるか常に怯えていたために売りに走ったのだ。
・バブル終焉のプロセスにおいて、投資家の誰もが、その状況がバブルであることを認識
 しており、それがいつかは終焉を迎え、崩壊することも、当然、知っていたのだ。バブ
 ルに投資することは、明らかに失敗で、後で振り返って、バブルであることに気づいて
 いれば投資しなかったのに、と後悔する、ということもあり得ない。バブルとわかって
 投資しているからだ。正確にいうと、バブルだからこそ投資しているのである。
・バブルが儲かるからである。実際、これほど短期間に資産価格が上昇するイベントもな
 い。だから、みんなバブルが大好きなのである。バブルを批判したり、バブルが崩壊し
 たと騒いだりする人々は、バブルで儲けた人々を妬んでいるか、自分が参加できなかっ
 たことを後悔しているに過ぎない。だから、バブルは膨らんでも崩壊しても騒ぎになる。
・投資家にとっては、バブルで儲けるのが仕事である。だから、バブルとわかっているも
 のに、わざわざ「バブルだ」と騒いだりせずに、黙って、バブルに乗って儲けるのであ
 る。 
・リスクを取った者だけが、リターンを得ることができるが、皆がリスクを取るようにな
 れば、リスクがリスクでなくなり、確実に利益を上げることができる。このため、投資
 家たちはリスクに殺到し、その結果、リスクを取ることに対する対価が安くなってしま
 う。
・まともな投資家は、バブルをバブルと認識せずに投資することなどあり得ない。バブル
 とわかっているからこそ投資するのである。だから、投資したことに後悔することもな
 い。
・彼らは利益を最大化するためにぎりぎりの瞬間までバブルの波に乗ろうとした。しかし、
 ぎりぎりの瞬間まで乗っていれば、降りるタイミングはピンポイントでしかない。バブ
 ルが崩壊するまさに直前の瞬間に、要りなければならないのである。だが、これは理論
 的に不可能である。
・ライバルである他の投資家を出し抜いて抜け駆けしたいと、全員が思っているのだ。し
 かし、全員の抜け駆けは、抜け駆けにはならない。結局、誰もうまく降りることができ
 ないまま、バブルは崩壊してしまうことになる。その結果、バブルに乗っていた全員が
 全てを失うことになるのである。
・バブルは危険なものであり、賢明なプロの投資家は近づかない、素人が下手に手を出し
 て失敗するケースばかりである。したがって、バブルの疑いがあるものには決して近づ
 いてはいけない、というのも誤りである。真実は、投資のプロであればあるほどバブル
 を探し歩き、あるいは、自分でバブルを作り、そして膨らませて、そのバブルに最大限
 乗ろうとするのである。したがって、金融市場の参加者がプロであればあるほど、バブ
 ルは頻繁に起こり、そして激しく膨らみ、最後には、崩壊して、金融市場の傷は深くな
 るのである。
・したたかなヘッジファンドも、その多くが、バブル崩壊で大きな損失を出した。なぜ、
 プロ中のプロであるヘッジファンドが、バブル崩壊から逃げきれなかったのだろうか。
 それは、プロであればこそ、ぎりぎりまでバブルに乗らなくてはいけなかったからだ。
 ライバルである他のプロがバブルに乗っているときに、自分だけ降りてしまえば、利益
 が減り、ライバルの負けてしまう。プロとして、出資者からの資金獲得競争に勝つため
 には、バブルの間だけのことであっても、ライバルより多くの利益を上げなければなら
 なかったのである。
・運用者としては、何が何でも結果を出さなければならない。しかも、ただ儲かればよい
 のではない。ライバルにどれだけ勝ったか、これに尽きる。なぜなら、出資者は、限ら
 れた資金で少しでもリターンを求めているからだ。
・バブルが発生しているとき、運用者はバブルに乗らざるを得ない。そうしなければ、バ
 ブルに乗っているライバルに必ず負けてしまうからである。バブルに乗るといっても、
 ただ乗るだけでは意味がない。目いっぱい乗らないと意味がないのである。
・100%バブルに投資しても十分ではない。つまり、勝てない。なぜなら、ほとんどの
 ヘッジファンドが、出資者から預託された出資金以外に、借金をして、さらに投資額を
 膨らませているからだ。いわゆるレバレッジを効かせているのである。
・運用の利回りがプラスのときは、レバレッジを効かせた分だけリターンが倍増するから
 いいのだが、バブルが崩壊し、利回りがマイナスあるいは金利を下回った瞬間に地獄
 となる。レバレッジを効かせた分だけ、マイナス幅が倍増するからだ。しかも、それだ
 けでは済まない。運用利回りがマイナスになった瞬間に、ほぼ破綻することになるのだ。
 なぜなら、借金をするときの担保に提供した証券も同時に値下がりするからだ。つまり、
 この証券が値下がりすると、運用利回りがマイナスになると同時に、担保価格自体が目
 減りしてしまうので、即座に借金返済を迫られるのである。現金を追加の担保として入
 れられれば問題はないが、運用者は利回りを上げるために目一杯投資しているから、そ
 んな余裕はない。追加の現金がなければ、投資した証券を売却してポジションを減らす
 しかない。しかし、それは投資した証券の投売りを意味する。
・レバレッジをかけて、運用者同士が同種の資産に投資し、競争している場合には、資産
 が少し値下がりしただけで、構造的にこの負のスパイラルが作動する。すなわち、どん
 な市場でも、負のスパイラルによる暴落が起きてしまう可能性がある。さらに、このと
 き、ある特定の証券に関する負のスパイラルによる暴落は、他の証券や資産の市場に波
 及する。つまり、暴落スパイラルは伝播するのである。
・流動性のない資産は売ろうとしても売れないので、流動性のある他の資産を売ることに
 なる。その祭、借金をしているために、精算させられてしまうという危機があり、つま
 り破綻の危機が迫っているから、価格は関係ない。いくらでもいいから売れればいい。
 このとき、どの運用者も同じ状況に陥っているから、流動性のある証券までが投売りさ
 れる。
・その結果、もともとバブルでなかった。まともな証券の市場までもが暴落に見舞われる。
 流動性のあるものほど売られるから、健全な資産であったものほど値下がりし、流動性
 のないものが、全く取引がなされないから、値が付かず、場合によっては、価値がゼロ
 と判定される。こうして、負のスパイラルは、健全な資産の市場にまで伝播し、世界の
 金融市場全体が同時多発的に暴落に見舞われる。すなわち、世界金融恐慌となるのであ
 る。現代の金融市場は、金融恐慌が簡単に起き得る構造となっているのである。
・投売りによって確保した現金は、安全な資産に変えておく必要があった。従来であれば、
 それは米ドル資産であり、米国債であった。しかし、今回の大暴落は米国国内経済のバ
 ブル崩壊であり、それは必然的に米ドルの暴落をもたらしたため、米国内の投資家以外
 は、米ドル資産をできるだけ減らそうとした。それがさらに米ドルの価格を下落させた
 のだ。
・金融資産が信頼できないとなれば、信じられるのは、実体のあるものだ。そこで、投資
 家たちは、原油や金、穀物、その他の資源、商品に殺到した。それによって、原油や金、
 穀物の異常な高値がもたらされ、この高値がこれらの市場へのさらなる資金の殺到を引
 き起こした。さらに、これらの資源や商品が米ドルベースで価格付けされていることか
 ら、ドルの暴落により、さらにこれらの資源や商品、穀物の米ドルベースでの価格が暴
 騰した。こうしたことが、米国にインフレをもたらした。一方で、欧州や日本では、ド
 ルの下落がこれら資源や商品、穀物の暴騰の影響を緩和した。
 
21世紀型バブル:キャンサーキャピタリズムの発現
・金融資本は、あたかも意志を持つかのように自己増殖し、当初は経済を活性化するよう
 に見える。しかし、一旦増えすぎると、それは、さらに過剰に増殖し、激しく機能しす
 ぎることになる。増殖した金融資本は、投資機会を求めて世界中をさまよう。そして、
 発見した投資機会において利益を実現し、投資機会を食いつくす。利益を得た金融資本
 は、さらに増殖することになるが、一方、求める投資機会は食いつくされていることか
 ら、枯渇する。
・自己増殖を止めない金融資本は、投資機会を自ら作り出すことを求める。その成功によ
 り、金融資本はさらに増殖するが、実体経済には過度の負担がかかり、金融資本に振り
 回されることになる。ここに、本来、実体経済の発展を支える存在であった金融資本が、
 自己増殖のために実体経済を利用するという主客逆転が起こる。そして、これが最終的
 には、実体経済を破壊し、金融資本自身も破壊させる結果をもたらす。
・バブルはバブルであるからバブルである。バブルでなくなった瞬間にバブルでなくなり、
 崩壊する。バブルがバブルとして発生する理由は、ケースバイケースであり、何の理屈
 もないのだ。 
・多くのバブルに、個別の背景はあるが、構造的な発生メカニズムは存在しない。その構
 造を解明しようとすれば、バブルの本質をかえって見誤る。バブルには理由がないと考
 えたほうがよく、ほぼ偶発的にである。
・プロの運用者であれば、このバブルに乗らないわけにはいかない。なぜならば、資本家
 から金融資本の運用を委託されている以上、他の運用者がバブルで儲けているのに、自
 分が乗らなければ、資本家は資金を引き揚げて、他のファンドに移してしまうからであ
 る。運用者にとっては、投資先のバブルが崩壊しようが、資金が引き上げられようが、
 自分のファンドがなくなってしまうことに変わりはない。したがって、バブルに怯える
 理由はひとつもない。
・これは、とりわけ、新規に参入してきたヘッジファンドの運用者に見られる現象である。
 彼らにとっては、有名な老舗ファンドとの資金の獲得競争に勝つことが何よりも重要で
 あった。よって、短期にパフォーマンスを上げる必要があり、ライバルに一時的にも決
 して負けてはいけなかった。彼ら新参者は信用されていないため、その代わりに、いつ
 でも資金を引き揚げてよいという条件で出資者から資金を得ていた。したがって、一時
 的にせよ、ライバルに負けたときには、資金が引き揚げられ、ファンドマネージャー人
 生は終わってしまうのである。
・金融工学とは、金融市場を極めて合理的な存在と捉え、金融市場で成立する株価や債券
 の価格が、通常はファンダメンタルズを反映した価格になっているという考え方である。
 ファンダメンタルズとは、企業収益やマクロ経済の将来見通しといった実体経済に関す
 る要因のことである。 
・このような合理的な金融市場も、現実にはほんの少し乱れることがある。つまり、この
 ファンダメンタルズを理解していない投資家が売買を行なうことにより、株価や債券の
 価格が理論価格からずれることがあるのだ。これが裁定取引のチャンスとなる。裁定取
 引とは、価格がずれて相対的に割安になったものを買い、割高なものを売ることによっ
 て、この価格差を利用して、リスクなしで儲けるということである。
・この裁定取引による投資は、ノーリスクローリターンであったから、レバレッジを効か
 せることによって、ノーリスクハイリターンにすることができた。これは、理想的な運
 用手法であるように見えた。そして、実際の運用でも、98年初頭までは、リターンが
 年率40%にもなっており、まさに理想を実現していたのである。
・金融資本の自己増殖及び投資機会の減少により、低いリターンを得るために極端に高い
 リスクを取る、リスクテイクバブルが発生した。そして、これは、金融工学とノーベル
 賞経済学者という理論的、数学的説得力、そして過去の高いリターンという実績により
 サポートされた。投資家は、そのサポートを受けて出資を増大させ、運用者は、レバレ
 ッジを極端に膨らませ、低いリターンを無理やり高いリターンに増幅したのである。 
・新興国・移行国市場バブルおよび金融工学バブルの2つに発現が見られたキャンサーキ
 ャピタリズムは、21世紀、リスクティバブルとなって、本格的に発病した。キャンサ
 ーキャピタリズムにおいては、バブルの膨張、崩壊のメカニズムは、構造的に市場内部
 に組み込まれた。そして、金融資本の増殖に比例して、バブルの膨張はより激しくなり、
 そして、崩壊はさらに激しいものとなった。
・世界中の金融資本は、世界市場全体で、ともかくリスクがあれば何にでも投資した。あ
 りとあらゆるリスクを投資機会に変えて、投資を行った。この資金投入総量は、レバレ
 ッジとして利用された負債を含めて、異常なレベルに達した。短期的には、投入量が増
 えれば増えるほど、これらの資産価格が上昇したから、増殖はとどまるところを知らな
 いように見えた。世界中でリスク資産の価格が異常に高騰した。株式、債券だけでなく、
 不動産はもちろん、原油も金も穀物も異常に高騰したのだ。そこでは、本来、実体経済
 の発展を支える存在であった金融資本が自己増殖し、この金融資本の自己増殖のために、
 実体経済を利用するという主客逆転の現象が起きていた。
・21世紀においては、キャンサーキャピタリズムが形を変え、品を変え、次々と発病す
 るだろう。その発病がわかっていても、それは社会的に制御できるものではなく、金融
 資本が自己増殖を続ける限り、それは止まらないであろう。
・20正規までの古典的なバブルにおいては、中央銀行が通貨をコントロールすることに
 より、発熱した子供のおでこに氷を当ててやるくらいのことはできた。しかし、21世
 紀のリスクテイクバブルをはじめとするキャンサーキャピタリズムは、金融資本市場に
 構造的に埋め込まれてしまっているから、これを除去することは不可能である。キャン
 サーキャピタリズムにおける金融資本の自己増殖願望を根絶しない限り、発病および増
 殖をとめることはできないのだ。
・キャンサーキャピタリズムの病が癒えるのは、この病に蝕まれた既存の金融資本が一度
 消滅してからとなろう。いくつかの投資銀行の破綻などにその兆候が現れているが、さ
 らなる発病が続くであろう。
・キャンサーキャピタリズムの完治はいつか。それは意外と遠いようで近い気もする。し
 かし、しれまでには、これまで以上の激痛と悶絶を経なければならないだろう。少なく
 とも、その覚悟だけは、我々は今からしておかねければならない。