資本主義の終焉と歴史の危機  :水野和夫

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この本は、現代社会の基盤となっている「資本主義」という社会にしくみを、地球レベル
で全体を俯瞰するという視点からみた結果、資本主義を基盤とした現代社会のしくみは、
もうそろそろ終焉を迎えようとしていること予言している。
現在、安倍政権の意向に従って行なわれている黒田日銀総裁による異次元の量的規制緩和
によるインフレ目標政策も、いくらマネーを増やしても物価上昇にはつながらないと、筆
者は予言している。
経済のグローバル化の結果として、先進国の中間層が没落してしまった。中間層が没落し
た状態では、もう二度と消費ブームは起こらない。先進国各国では、なんとかもう一度消
費ブームを起こそうと、量的緩和に躍起になっているが、それは単に「電子・金融空間」
を膨張させるだけであり、量的緩和を縮小すれば、量的緩和によって生み出されたバブル
が崩壊するだけだ。バブルが崩壊すれば、経済を支えるために、また量的緩和をせざるを
得なくなる。それも以前にも増しての量的緩和が必要になる。そしてまた、それによって
バブルを生み出すことになる。量的緩和には「完全な出口」というのはないということだ。
今まで、アメリカや日本・欧州などが行なっている量的緩和政策によって生じた、膨大な
余剰マネーが集中することにより、成長を続けてこられた中国も、それによって過剰生産
設備を抱えて、やがて日本のようにバブルが崩壊しデフレに陥って、ゼロ成長の時代がや
ってくる。中国がゼロ成長時代を迎えたときに、日本と違いところは、国内に大きな格差
を抱えたまま、ゼロ成長時代を迎えるということだ。国内に大きな格差を抱えたまま国力
が弱ったときに、何が起こるか。国内で大きな格差に対する不満による暴動が多発し、最
終的には、巨大恐竜ともいえる中国という国が、終焉を迎えることになるかもしれない。
中国という巨大な国が崩壊すれば、日本やアメリカも無傷ではいられない。日本やアメリ
カも、大きなダメージを受けることになる。それはまさに資本主義の終焉である。
資本主義の次のくるものは、どんな社会システムか。その新しい社会システム創出の可能
性にもっとも近い位置にあるのが日本だと、筆者は考えている。しかし、今の安倍政権の
取っている政策は、今までの資本主義における「成長信仰」の延長だ。古い戦中戦後の価
値観を持った亡霊に取り付かれている安倍政権では、新しい社会システムの創出の可能性
はない。このままだと日本はせっかくのチャンスを逃すことになる。

はじめに
・資本主義の死期が近づいているのではないか。資本主義は「中心」と「周辺」から構成
 され、「周辺」つまり、いわゆるフロンティアを広げることによって「中心」が利潤率
 を高め、資本の自己増殖を推進して行くシステムです。
・もう地理的なフロンティアは残っていません。
・重要な点は、中間層が資本主義を支持する理由がなくなってきていることです。自分を
 貧困層に落としてしまうかもしれない資本主義を維持しようというインセンティブがも
 はや生じないのです。

資本主義の延命策でかえって苦しむアメリカ
・私が資本主義の終焉を指摘することで警鐘を鳴らしたいのは、こうした「成長教」にし
 がみつき続けることが、かえって大勢の人々を不幸にしてしまい、その結果、近代国家
 の基盤を危うくさせてしまうからです。もはや利益をあげる空間がないところで無理や
 り利潤を追求すれば、そのしわ寄せは格差や貧困という形をとって弱者に集中します。
 現代の弱者は、圧倒的多数の中間層が没落する形となって現れるのです。
・「地理的・物的空間」が拡大してさえいれば、製品一個あたりの粗利益が減少しても販
 売数を増やすことによって、利益の総額は増やすことができるのですが、ヴェトナム戦
 争終結によって、アメリカが軍事力を背景として市場を拡大させることは難しくなりま
 した。
・本来ならば、「地理的・物的空間」での利潤低下に直面した1970年代半ばの段階で
 先進各国は資本主義に代わる新たなシステムを模索すべきでした。しかし、アメリカは、
 近代システムに代わる新たなシステムを構築するのではなく、別の「空間」を生み出
 すことで資本主義の延命を図りました。すなわち、「電子・金融空間」に利潤のチャン
 スを見つけ、「金融帝国」化していくという道でした。
・アメリカの金融帝国化は、決して中間層を豊かにすることはなく、むしろ格差拡大を推
 し進めてきました。 
・資本配分は市場に任せれば、労働分配率を下げ、資本側のリターンを増やしますから、
 富む者がより冨み、貧しい者がより貧しくなっていくのは当然です。これはつまり、中
 間層のための成長を放棄することにほかなりません。
・マネーが銀行の信用創造機能によってつくられるときの主役は労働者であり、商業銀
 行です。家計が消費を我慢して所得のなかからなるべくおおくを貯蓄することによって、
 銀行による多くの貸し出しが可能になるからです。ところが、金融・資本市場でマネー
 をつくろうとすれば、主役は商業銀行ではなく、レバレッジを大きくかけられる投資銀
 行となります。
・3年に1度バブルは生成し、崩壊する。バブルの生成過程で富が上位1%の人に集中し、
 バブル崩壊の過程で国家が公的資金を注入し、巨大金融機関が救済される一方で、負担
 はバブル崩壊でリストラにあうなどのかたちで中間層にむけられ、彼らが貧困層に転落
 することになります。
・グローバリゼーションが加速したことで、雇用者と資本家は切り離され、資本家だけに
 利益が集中します。21世紀の「空間革命」たるグローバリゼーションの帰結とは、中
 間層を没落させる成長にほかなりません。  
・資本主義は「周辺」の存在が不可欠なのですから、途上国が成長し、新興国に転じれば、
 新たな「周辺」をつくる必要があります。それが、アメリカで言えば、サブプライム層
 であり、日本で言えば、非正規社員であり、EUで言えば、ギリシャやキプロスなので
 す。 
・国境の内側で格差を広げることも厭わない「資本のための資本主義」は、民主主義も同
 時に破壊することになります。民主主義は価値観を同じくする中間層の存在があっては
 じめて機能するのであり、多くの人の所得が減少する中間層の没落は、民主主義の基礎
 を破壊することにほかならないからです。
・マネーの膨張は、中間層を置き去りにし、富裕層のみを豊かにするバブルを醸成するも
 のだからです。そもそも、マネタリスト的な金融政策の有効性は、1995年で切れて
 います。金融緩和の有効性を主張する彼らの言い分は、貨幣数量説に基づくものです。
 貨幣数量説とは、貨幣数量を増やせば、取引量が増えるか、物価水準が上昇するという
 ものです。しかし、貨幣流通速度が一定であるという前提が、低金利のもとでは崩れて
 おり、アメリカ国内の貨幣流通速度は落ちています。グルーバルゼーションによって金
 融経済が全面化してしまった1995年以降の世界では、マネー・ストックを増やして
 も国内の物価上昇につながらないのです。
・そもそも「地理的・物的空間」がこれ以上広がらないから、利潤率が低下するという底
 流がある現代において、マネーを増やせばどうなるでしょうか。金融技術でレバレッジ
 をかければ瞬時にして実物投資10年分の利益が得られます。そんな状況では、量的緩
 和政策によってベース・マネーを増やせば増やすほど、物価ではなく資産価格の上昇、
 すなわち、バブルをもたらすだけです。しかも、グローバルゼーションの時代では、こ
 のバブルが自国内に起きるかどうかさえわかりません。量的緩和をしたところで、ドル
 も円も国内にはとどまらないからです。量的緩和政策の景気浮揚効果は、グローバルゼ
 ーションが進む以前の閉鎖経済を前提とした国民国家経済圏のなかでしか発揮されない
 のです。
・先進国が輸出主導で成長するという状況は現代では考えられません。自国通貨安政策に
 よって、輸出を増加できるのは、先進国のパワーで途上国をある程度押さえつけるよう
 な仕組み、つまり資源を安く買い叩くことができる交易条件があった1970年代まで
 の話です。
・もっと成長を欲することは、資源をもっと消費することにほかなりません。永久エネル
 ギーを見つけない限り、化石燃料は必ず枯渇することになります。枯渇する前に、たと
 え自前のエネルギーを調達できたとしても、新興国は自国で雇用を生むために現地生産
 を求めますから、輸出倍増はかなわない。
・これまでバブルが崩壊するたびに、世界経済は大混乱に陥ってきました。しかし、バブ
 ルが崩壊して起こることは、皮肉なことに、さらなる「成長信仰」の強化です。巨大バ
 ブルの後始末は、金融システム危機を伴うので、公的資金が投入され、そのツケは広く
 一般国民に及びます。つまり、バブルの崩壊は需要を急激に収縮させ、その結果、企業
 は解雇や賃下げなど大リストラを断行せざるをえないのです。まさに、「冨者と銀行に
 は国家社会主義で臨むが、中間層と貧者には新自由主義で臨む」ことになっていて、ダ
 ブルスタンダードがまかり通っているのです。
・バブル崩壊は結局、バブル期に伸びた成長分を打ち消す信用収縮をもたらします。その
 信用収縮を回復させるために、再び「成長」を目指して金融緩和や財政出動といった政
 策を総動員する。つまり、過剰な金融緩和と財政出動をおこない、そのマネーがまた投
 機マネーとなってバブルを引き起こす。先進国の国内市場はもはや飽和状態に達してい
 るため、資産や金融バブルを起こすことでしか成長できなくなったということです。こ
 うして、バブルの生成と崩壊が繰り返されていくのです。
・「バブルは3年に一度生成し、弾ける」

新興国の近代化がもたらすパラドックス
・先進国の株式市場は回復したかのように見えても、実物経済はリーマン・ショック後の
 後遺症からいまだ立ち直っておらず、消費は冷え込んだままです。正確に言えば、先進
 国の消費ブームは二度と戻ってきません。
・そもそも、グローバリゼーションとは、「中心」と「周辺」の組み替え作業なのであっ
 て、ヒト・モノ・カネが国境を自由に越え世界全体を繁栄に導くなどといった表層的な
 言説に惑わされてはいけないのです。20正規までの「中心」は「北」(先進国)であ
 り、「周辺」は「南」(途上国)でしたが、21世紀に入って、「中心」はウォール街
 となり、「周辺」は自国民、具体的にはサブブライム層になるという組み替えがおこな
 われました。中間層が没落した先進国で、消費ブームが戻ってくるはずがありません。
・経済危機の後も、先進国の過剰マネーは新興国の過剰設備を積み上げてきましたが、新
 興国の過剰設備には、過剰な購買力を有した先進国の消費者の存在が不可欠です。先進
 国の国民が「周辺」となり、消費ブームが二度と起こらない以上、新興国の輸出主導モ
 デルは持続性はありません。
・2008年以降に、アメリカ、EU、そして日本がおこなった金融緩和の影響もあり、
 行き場を失った余剰マネーが莫大に存在します。そして、その余興マネーが、今まで以
 上に大量に新興国に流れ込むようになりました。先進国の量的緩和は「電子・金融空間」
 を無限に拡張するための手段だと考えることができます。その量的緩和をいつやめるの
 かんが議論され、緩和の「縮小」だけでも市場は大きく揺れていきますが、本当は量的
 緩和に「完全な出口」はないのです。なぜなら、量的緩和は「電子・金融空間」を自壊
 寸前まで膨張させるものであり、緩和を縮小しればバルブが崩壊します。そうなれば、
 量的緩和は以前にも増して強化せざるを得ないからです。
・中国、インド、ブラジルといった人口の多い国で、先進国に近い生活水準を欲して、そ
 れに近づけようとすれば、食糧価格や資源価格の高騰が起き、1960〜70年代半ば
 の日本が一億総中流に向かったとのと違って、高度成長する新興国と停滞する先進国の
 両方の国内で人々の階層の二極化を引き起こすことになります。
・近代主権国家とは資本と国民の利害が一致して中間層を生み出すシステムなのですが、
 一億総中流が実現したとたんに、資本はそれを破壊しようとするのです。過去数十年の
 間、資本主義は私たちから市民としての力を奪い、もっぱら消費者や投資家としての力
 を強化することに向けられてきました。資本主義は、中産階級を没落させ、粗暴な「資
 本のための資本主義」に変質していったのです。
・新興国お近代化は、これまでの先進国の近代化とは大きく異なる点があります。それは、
 13.6億人の中国人全員が、あるいは12.1億人のインド人全員が豊かになるわけ
 ではない、ということです。
・これから近代化する新興国の人々が先進国並みに自動車を所有すれば、ガソリンの消費
 量は増加し、電気冷蔵庫を購入しれば、発電のために原油や原子力が必要となります。
・近代化とは、電気屋ガソリンを使った快適な生活だと言うことができます。電気やガソ
 リンを使って、より遠くへ、より早く、そしてエアコンのある家、オフィスということ
 になります。その電気やガソリンは大半が化石燃料からつくられます。
・仮に中国とインドが先進国並みの近代化に成功したとすれば、この二ヵ国だけで、世
 界の電力消費量は今までの三分の二を上乗せすることになります。さらにブラジル、イ
 ンドネシア、アラブ世界といった人口の多い国々が近代化に成功すると電力消費量は現
 在の二倍になることが予想されます。 
・中国の一人当たりGDPが日本に並ぶにはおよそ20年かかると申し上げましたが、そ
 の20年で中国、インド、ブラジル、インドネシア、アラブ世界の国々が近代化し、電
 力消費量がOECD加盟国並みになるということは、過去40年間かけて達成した増加
 分と同じだけ、次の20年間で増加させることを意味します。
・資源の有限性という視点は織り込まれていません。70億人のエネルギー消費をまかな
 えるだけの化石燃料は地球上にはないのですから、全世界の近代化というのは不可能な
 シナリオです。
・この現在のグローバリゼーションで何が起きるかというと、豊かな国と貧しい国という
 二極化が、国境を越えて国家の中に現れることになります。つまり、今までは二割に先
 進国が八割の途上国を貧しくさせたままで発展してきたために、先進国に属する国では、
 国民全員が一定の豊かさを享受することができました。しかし、グローバリゼーション
 の進んだ現代では、資本はやすやすと国境を越えていきます。ゆえに、貧富の二極化が
 一国内で現れるのです。
・これから近代化を推し進めていく新興国の場合、経済成長と国内での二極化が同時に進
 行していくことになるでしょう。そこが、これまでの先進国の近代化とは大きく異なる
 点です。先進国は、曲がりなりにも成長のピークを迎えるまでは所得格差は縮小してい
 きました。対して、これからの新興国は格差拡大を伴いながら、近代化が進んでいくこ
 とになります。
・日本では1970年代に「1億総中流」が実現したようには中国で13億総中流が実現
 しないとなれば、中国に民主主義が成立しないことになり、中国内で階級闘争が激化す
 ることになるでしょう。このことは、中国共産党一党独裁体制を大きくゆさぶることに
 なると予想されます。
・アメリカは「電子・金融区間」築き上げ、わずか十数年で140兆ドルを超えるマネー
 を創出しました。リーマン・ショックと欧州危機によって、そうした余剰マネーの行き
 場は新興国に集中するのですが、これを新興国で吸収できるはずがありません。28兆
 ドル規模の経済をもつ新興国にとって近代化に必要な資本は、おそらくもっとも必要な
 ときで、3割強の9.3兆ドルあれば十分ということになります。しかし、これでは、
 とても余剰マネー140兆ドルを吸収できるはずがありません。それでも余剰マネーは
 少しでも利潤の多く得られるところを目指して世界中を駆け巡りますから、どうしても
 新興国に過剰な投資が集まります。
・中国に国内外の余剰マネーが一斉に集まってくる。そこで過剰生産となれば、中国の外
 側に中国の過剰設備を受け入れることのできる国はないので日本以上のバブル崩壊が起
 こるのは必然だと思います。 
・輸出主導の経済が終わり、中国が内需主導の経済に転換できないのなら、過剰設備の使
 い道はなくなります。投資に見合う市場が見つからない、「生産能力過剰時代」を迎え
 ることになります。そのとき、中国もデフレに陥り、ゼロ金利、ゼロ成長になっている
 でしょう。
・日本はバブル崩壊後、いわゆる「失われた20年」に突入しましたが、成長率が高い中
 国のバブル崩壊が世界経済に与える影響は日本の比ではないでしょう。中国のバブル崩
 壊の影響は甚大です。だから、ほんとうは、G20でブレーキをかけるような議論がお
 こなわれてしかるべきなのですが、そういった気配はあまり感じられません。リーマン
 ・ショックや欧州危機にも有効な対処ができていないことを踏まえると、もはやグロー
 バル資本主義に対して、国民国家は対応不全に陥っている状況なのです。  
・中国バブル崩壊までを見据えて考えたとき、中国が世界経済の新たな覇権国になる可能
 性は低いと私は考えています。  
・資本が健全な投資先を失い、利潤が下がると、金融拡大の局面に入っていくといいます。
 そして、それと同時にその国の覇権が終わる。つまり、世界経済の覇権を取った国はい
 ずれも、実物経済がうまくいかなくなって、金融化に走るわけです。  
・非常に興味深い点があります。それは、ある国が覇権を確立する段階では、それ以前の
 覇権国の金利を下回り、世界でもっとも低い金利になるということです。  
・近代の延長上で成長を続けている限りは、新興国もいずれ現在の先進国と同じ課題に直
 面していきます。むしろ、グローバリゼーションによって成長が加速している分、遠く
 ない将来に同様の危機が訪れるでしょう。だとすれば、もはや近代資本主義の土俵のう
 えで、覇権交替があるとは考えられません。次の覇権は、資本主義とは異なるシステム
 を構築した国が握ることになります。そして、その可能性をもっとも秘めている国が
 近代のピークを極めて最先端を走る日本なのです。しかし、日本は第三の矢である「成
 長戦略」をもっとも重視するアベノミクスに固執している限り、残念ながらそのチャン
 スを逃すことになりかねません。
 
日本の未来をつくる脱成長モデル
・資本主義を延命させる「空間」はもうほとんど残されていません。中国が一時的に経済
 成長のトップに躍り出ても、そう遠くない将来、現在の先進国と同じように「利潤率の
 低下」という課題に直面することになります。その時点で、21世紀の「空間革命」は
 終焉を迎え、近代資本主義は臨界点に達することでしょう。   
・金融バブルの発生には、次のふたつの条件を満たすことが必要です。第一条件とは貯蓄
 が豊かであることに加えて、時代が大きく変わるようなユーフォリア(陶酔)があるこ
 と、そして第二の条件は、「地理的、物的空間」拡大が限界を迎えてしまうことです。
・金融の自由化や貿易の自由化はグローバリゼーション礼讃者がよく言う「ウィン・ウィ
 ン」の関係にあるわけではありません。元来、自由貿易からして貿易がお互いに利益を
 もたらすというのはごく限られた条件でしか成立しないのです。
・自由貿易は、じっさい、もうひとつの保護主義でしかなかった。つまり、それは、その
 時点で経済効率に勝っていた国のための保護主義だったのである。自由主義は、最弱の
 者と自由に競争でき、抗争の主役ではなく、犠牲者であるにすぎないか弱い大衆を搾取
 できる完璧な力を、最強の者に与えたかったのである。最弱の貧者は自己責任で住宅を
 奪われ、最強の富者は公的資金で財産は保護されたのです。
・バブルが崩壊すれば2年間分のGDPの成長を打ち消して有り余るぐらいに信用収縮が
 起き、名目GDPが縮小します。そして、バブル崩壊の後に待っているのが、貸金の減
 少や失業です。それに対処するという名目で国債の増発とゼロ金利政策が行われ、超低
 金利時代と国家債務膨張の時代へと突入していきます。  
・「雇用なき経済成長」でしか資本主義を維持できなくなった現在、経済成長を目的とす
 る経済政策は、危機の濃度をさらに高めることにしか寄与しないでしょう。その格好の
 事例を今まさに現在進行形で展開しているアベノミクスに見て取ることができます。 
・アベノミクスの第一の矢、金融緩和によるデフレ脱却はできないと私は考えています。
 アベノミクスが拠り所にしている貨幣数量説従った金融緩和政策は、国際資本の完全移
 動性が実現する1995年以前であれば、一定の説得力がありました。しかし、グロー
 バリゼーションが進み、資本が国境を越えて自由に移動できるようになった1995年
 以降は、そのようにいくらマネーを増やしても物価上昇にはつながらないつまり、貨幣
 数量説から導かれる「インフレ」は貨幣現象である」というテーゼは、国民国家という
 閉じた経済の枠内でしか成立しないのです。貨幣が増加しても、それは金融・資本市場
 で吸収され、資産バブルの生成を加速させるだけです。そしてバブルが崩壊すれば、巨
 大な信用収縮が起こり、そのしわ寄せが雇用に集中するのはすでに見たとおりです。
・アベノミクスの第二の矢である積極的な財政出動は有効でしょうか。それも無意味であ
 ることは、90年代以降の日本が実証しています。歴代政権が切れ目のない総需要対策
 で200兆円以上も外生需要を追加しても、日本経済を内需中心の持続的成長軌道に乗
 せることができませんでした。理由は明らかで、すでに経済が需要の飽和点に達してい
 たからです。 
・財政出動は「雇用なき経済成長」の元凶にもなってしまいます。というのは、公共投資
 を増やす積極財政政策は、過剰設備を維持するために固定資本減耗を一層膨らまし、ひ
 いては賃金を圧迫することになるからです。 
・かつての日本経済の姿と異なり、21世紀の日本では、景気回復は株主のためのものと
 なり、雇用者のためのものではなくなったのです。そして、雇用者報酬の減少のそもそ
 もの原因は、過剰設備の維持のためだったということになります。
・現在の日本では、財政出動によって設備投資を拡大させると、その撤退に大きな代償を
 払わざるをえない。企業設備は本来、付加価値(名目GDP)を生み出すためのもので
 すが、自らの設備を維持・補修するための費用の増加分が名目GDPの増加の半分以上
 を占め、わずかな利潤しか生み出しません。「日本株式会社」の経営は失敗していると
 言ってよいでしょう。
・量的緩和政策は実物経済に反映されず、資産価格を上昇させてバブルをもたらすだけで
 す。一方、公共投資を増やす積極財政政策は、過剰設備を維持するために固定資本減耗
 を一層膨らますことになります。そしてこのふたつの経済政策はどちらも雇用者の賃金
 を犠牲にすることになります。量的緩和のあとバブルが崩壊すれば、企業リストラと称
 して急激な賃金引き下げや大量失業招きますし、積極財政のあと景気回復すると、固定
 資本減耗と営業余剰を合わせた増加額が、付加価値増加を上回ってしまい、賃金が抑制
 されることになるからです。
・だとしたら、日本の得意分野である「モノづくり」で実物経済をもう一度立て直せばい
 いじゃないかという反論も聞こえそうですが、それも時代の逆行にすぎません。グロー
 バリゼーションによって、新興国が成長を追い求めている現在の状況では、先進国が製
 造業を復活させることはとほんど不可能なのです。それを無理やりにでも改革しようと
 するのが、構造改革と呼ばれるものです。
・しかし、大構造改革もまた失敗するのが歴史の常です。既存のシステムはこれ以上「膨
 張」できないために機能不全に陥っています。それにもかかわらず、既存のシステムを
 強化したところで新しい「空間」は見つかりません。改革者の意に反して、既存のシス
 テムの寿命を縮め、時代の歯車をいっそう早回しすることになります。つまり、アベノ
 ミクスの積極財政政策は、過剰な資本ストックを一層過剰にするだけなのです。
・現在の先進国は、成長信仰をそのまま強化したあげく、財政危機に陥っています。成長
 を信奉する限り、それは近代システムの枠内にとどまっており、近代システムが機能不
 全に陥っているときにそれを強化する成長戦略はどのような構造改革であっても、近代
 の危機を乗り越えることはできません。
・成長に期待をかければかけるほど、すなわち資本が前進しようとすればするほど、雇用
 を犠牲にするのです。過去の成長イデオロギーにすがりついたまま猛進すれば、日本の
 中間層はこぞって没落せざるをえません。  
・金利を下げられない国も、金利が下げっても不平・不満がなくならない国も、どちらも
 文明が破綻するとケインズは指摘しています。 
・デフレよりも雇用改善のない景気回復のほうが大問題です。雇用の荒廃は、民主的な資
 本の分配ができなくなったことを意味しますから、民主主義の崩壊を加速させます。 
・デフレよりも雇用改善のない景気回復のほうが大問題です。雇用の荒廃は、民主的な資
 本の分配ができなくなったことを意味しますから、民主主義の崩壊を加速させます。雇
 用なき経済成長は、結果として日本そのものの地番沈下を引き起こし、日本を政治的・
 経済的な焦土と化してしまう危険性すらあるのです。 
・アベノミクスのごとく過剰な金融緩和と財政出動、さらに規制緩和によって成長を追い
 求めることは、危険を加速させるだけであり、バブル崩壊と過剰設備によって国民の賃
 金はさらに削減されてしまうことになります。もう資本主義というシステムは老朽化し
 て、賞味期限が切れかかっています。国民経済は崩壊して、先進国のみならず新興国に
 おいてもグローバル・エリートと称される一部の特権階級だけが富を独占することにな
 るはずです。 
・このような危機を免れるためには、日米独仏英をはじめとした先進国は、「より速く、
 いり遠くへ、より合理的に」を行動原理とした近代資本主義とは異なるシステムを構築
 しなければなりません。 
・私たちは「破壊」を回避しなければなりません。そのためには、当面、資本主義の「強
 欲」と「過剰」にブレーキをかけることに専念する必要があります。このように言うと、
 ひたすら現状維持をするように聞こえるかもしれませんが、現在の先進国の状況を考え
 ると、現状維持すら指南の業なのです。なぜなら、成長を求めてもバブルが崩壊すれば、
 莫大な債務を抱え込み、経済はバブル以前に比べて後退してしまいます。日本もアメリ
 カも膨大な国家債務を抱えていますが、それは成長を過剰に追い求めた結果なのです。
・新興国の成長によって、世界的にはエネルギー多消費型の経済になり、資源価格が企業
 の収益をこれまで以上に圧迫するようになります。現在のデフレは交易条件の悪化によ
 ってもたらされているものであり、これを放置したままではゼロ成長どころか、極端な
 マイナス成長にもなりかねません。名目GDPを定常状態で維持するためには、国内で
 安いエネルギーを自給することが必要です。 

資本主義はいかにして終わるのか
・グローバル資本主義とは、国家の内側にある社会の均質性を消滅させ、国家の内側に
 「中心/周辺」を生み出していくシステムだといえます。そもそも資本主義自体、その
 誕生以来、少数の人間が利益を独占するシステムでした。この資本主義により、地球の
 全人口のうつ約15%が豊かな生活を享受することができました。
・20世紀までの130年間は、先進国の15&の人々が、残りの85%から資源を安く
 輸入して、その利益を享受してきたわけです。
・私たちはそろそろ、資本主義が生き延びるという前提で説かれる「長期停滞論」にも決
 別しなければならない時期に差し掛かっています。資本の自己増殖と利潤の極大化を求
 めるために「周辺」を必要とする資本主義は、暴走するか否か、停滞が長期か短期かに
 かかわらず、いずれ必ず終焉を迎えます。
・おそらく「アフリカのグローバリゼーション」という言葉がささやかれるようになった
 時点で、資本主義が地球上を覆い尽くす日が遠くないことが明らかになってきました。
 資本主義が地球を覆い尽くすということは地球上のどの場所においても、もはや投資に
 対してリターンが見込めなくなることを意味します。すなわち地球上が現在の日本のよ
 うに、ゼロ金利、ゼロ成長、ゼロインフレになるということです。
・人類は数億年前に堆積した化石燃料を18世紀後半の産業革命以降、わずか2世紀で消
 費し尽くそうとしています。もし我々が、これまでと同様の発想で右肩上がりの豊かさ
 を求めて人間圏を営むとすれば、人間圏の存続時間は100年ほどだろうと考えられて
 いる。
・資本主義は、未来世代が受け取るべき利益もエネルギーもことごとく食いつぶし、巨大
 な債務とともに、エネルギー危機や環境危機という人類の存続を脅かす負債も残そうと
 しているのです。
・すでに資本主義は、永続型資本主義からバブル精算型資本主義へと変質しています。
 13〜15世紀の地中海世界の事業精算型資本主義は失敗すれば、その責任はものでし
 た。ところが、21世紀のバブル精算型資本主義になると、利益は少数の資本家に還元
 される一方で、公的資金の注入などの救済による費用は税負担というかたちで広く国民
 に及びます。資本家のモラルという点では、21世紀のバブル精算型資本主義は事業精
 算型資本主義と比べて明らかに後退しているのです。
・日本の土地バブル、アジア通貨危機、アメリカのネット・バブル、住宅バブル、そして
 ユーロのバブル、おそらくそれに続く巨大なバブルは、中国の過剰バブルになるでしょ
 う。
・中国でバブルが崩壊した場合、海外資本、国内資本いずれも海外に逃避していきます。
 そこで中国は外貨準備として保存しているアメリカ国債を売る。中国の外貨準備高は世
 界一ですから、その中国がアメリカ国債を手放すならば、ドルの終焉をも招く可能性す
 らあると言えるでしょう。
・この中国バブルの崩壊後、新興国も現在の先進国同様、低成長、低金利の経済に変化し
 ていきます。つまり世界全体のデフレが深刻化、永続化していくということです。
・中国バブル崩壊が人々の生活に与える影響は甚大です。その規模はリーマン・ショック
 を超えるでしょうから、日本においても相当な数の企業が倒産するでしょうし、賃金も
 劇的に下がるでしょう。
・バブルが弾け、経済が冷え込めば、国債債務は膨れ上がりますから、財政破綻に追い込
 まれる国も出てくるに違いありません。日本はその筆頭候補です。
・これまでの歴史では、国家債務が危機に瀕すると、国家は戦争とインフレで帳消しにし
 ようとしました。つまり力ずくで「周辺」をつくろうとしてきたわけです。しかし現代
 の戦争は、核兵器の使用まで想定されますから、国家間の大規模戦争というカードを切
 ることはおそらくないと思います。けれども、国内では、行き場を失った労働者の抵抗
 が高まり、内乱の様相を呈するかもしれません。資本家対労働者の暴力的な闘争、そし
 て資本主義の終焉というマルクスの予言にも似た状況が生まれるのではないでしょうか。
・現在の国家と資本の関係を考えると、資本主義にとって国家は足手まといのような存在
 になっています。にもかかわらず、バブルが崩壊すると、国家は資本の後始末をさせら
 れる。資産価格の上昇で巨額の富を得た企業や人間が、バブルが弾けると公的資金で救
 われます。その公的資金は税という形で国民にしわ寄せが行きますから、今や資本が主
 人で、国家が使用人のような関係です。
・グローバル資本主義の暴走にブレーキをかけるとしたら、それは世界国家のようなもの
 を想定せざるをえません。金融機関をはじめとした企業があまりにも巨大であるのに対
 して、現在の国民国家はあまりにも無料です。
・いまだ資本主義の次なるシステムが見えていない以上、このように資本の暴走を食い止
 めながら、資本主義のソフト・ランディングを模索することが、現状では最優先されな
 けばなりません。
・日本は現在、ストックとして1000兆円の借金があり、フローでは毎年40兆円の財
 政赤字をつくっています。GDPに対する債務残高が2倍を超えるほどの赤字国家であ
 るのに、なぜ破綻しないのか。
・まずフローの資金繰りに関して言えば、現在の金融機関はマネー・ストックとしてある
 800兆円の預金が年3%、約24兆円ずつ増えています。その多くは年金です。さら
 に企業は、1999年以降恒常的に資金余剰の状態が定着しており、家計部門を合わせ
 た資金余剰は48兆円、対GDP比で10.1%と高水準を維持しています。これが、
 近郊や生保などの金融期間を通して、国債の購入費に当てることのできる金額で、毎年
 40兆円発行される国債が消化できているというわけです。
・一方、ストックの1000兆円の借金については、民間の実物資産や個人の金融資産が
 それを大きく上回っているため、市場から信頼を失わずに済んでいます。しかし、こう
 した辻褄合わせがいつまでも続くわけがありません。
・年3%で増えている銀行のマネー・ストックが純減したとき、現在同様に年40兆〜
 50兆円の財政赤字を重ねていれば、いずれ国内の資金だけでは、国債の消化ができな
 くなります。日銀の試算では、2017年には預金の増加が終わると予想されていて、
 そうなると外国人に国債をかってもらわなければならなくなります。しかし、外国人は
 他国の国際金利と比較しますから、金利の動きも不安定化します。現実的には金利は上
 昇するでしょう。金利が上昇ずれば利払いが膨らみますから、日本の財政はあっという
 間にクラッシュしてしまうのです。
・今は増え続けている預金も、2017年あたりを境に減少に転じることが予想されてい
 ます。おそらく今後は、団塊世代が貯蓄を取り崩したり、相続した子供世代が貯蓄にお
 金を回さないことで、減少圧力は少しずつ強まっていきます。残された時間はあと3、
 4年しかありません。その間に、基礎的財政収支を均衡させることが日本の喫緊の課題
 なのです。
・財政均衡を実現するうえで、増税はやむをえません。消費税も最終的には20%近くの
 税率にせざるをえないでしょう。しかし、問題は法人税や金融資産課税を増税して、も
 てる者により負担をしてもらうべきなのに、逆累進性の強い消費税の増税ばかり議論さ
 れているところです。
・法人税に至っては、財界は下げろの一点張りで、新自由主義者は実はリバタリアンかあ
 るいは無政府主義者なのかと皮肉りたくもなります。法人税を下げたところで、利益は
 資本家が独占してしまい、賃金には反映されないのですから、国家の財政を健全にして、
 分配の機能を強めていくことのほうが多くの人々に益をもたらすはずです。
・多くの人は、ゼロ成長というと非常に後ろ向きで、何もしないことのように考えがちで
 すが、それは大きな誤解です。1000兆円の借金も高騰する資源価格も、それを放置
 したままではマイナス成長になってしまいます。マイナス成長社会は、最終的には貧困
 社会にしかなりません。ゼロ成長の維持には、成長の誘惑を断って借金を均衡させ、さ
 らに人口問題、エネルギー問題、格差問題など、さまざまな問題に対処していくには、
 旧態依然の金融緩和や積極財政に比べて、高度な構想力が必要とされます。
・新自由主義やリフレ論者たちは、せっかくゼロ金利、ゼロ成長、ゼロインフレという定
 常状態を迎える資格が整っているというのに、今なお近代資本主義にしがみついており、
 それが結果として多大な犠牲とともに資本主義の死亡を早めてしまうことに気づかない。
 成長至上主義から脱却しないかぎり、日本の沈没は避けることができないのです。
・日本の利子率は世界でもっとも低く、史上に例をみないほど長期にわたって超低金利の
 時代が続いています。利子率がもっとも低いということは、資本がもっとも過剰にある
 ことと同義です。もはや投資をしても、それに見合うだけのリターンを得ることができ
 ないという意味では、資本主義の成熟した姿が現在の日本だと考えることもできます。
 しかし、その日本で、およそ3割強の世帯が金融資産をまったくもたずにいるという状
 況が現出しているのです。 
・アベノミクスの浮かれ声とは裏腹に、今なお生活保護世帯や低所得者層も増加傾向のま
 まです。2013年の非正規雇用者数は1906万人、2012年の年収200万円以
 下の給与所得者は1090万人、生活保護受給者も200万を超えています。
・こうした格差拡大の処方箋としては、まず生活保護受給者は働く場所がないわけですか
 ら、労働時間の規制を強化して、ワークシェアリングの方向に舵を切らなければなりま
 せん。過剰労働、超過勤務をなくすように規制を強化すれば、単純にその減少分だけで
 も相当数の雇用が確保されるはずです。
・労働規制の緩和は資本家の利益のための規制緩和にすぎないのです。労働規制を強化し
 て、原則的に正社員としての雇用を義務づけるべきだと考えます。
・危機に瀕するのは、単に経済的な生活水準だけではありません。グローバル資本主義は、
 社会の基盤である民主主義をも破壊しようとしています。市民革命以降、資本主義と民
 主主義が両輪となって主権国家システムを発展させてきました。民主主義の経済的な意
 味とは、適切な労働配分率を維持するということです。しかし、1999年以降、企業
 の利益と所得とは分離していきます。政府はそれを食い止めるどころか、新自由主義的
 な政策を推し進めることで、中産階級の没落を加速させていきました。
・同様に、国家が資本の使用人になってしまっている状況は、国民国家の存在意義にも疑
 問符を突きつけていきます。18世紀から築き上げてきた市民社会、民主主義、国民主
 権という理念までもが、グローバル資本主義に蹂躙されているのです。
・資本主義の凶暴性に比べれば、市民社会や国民主権、民主主義といった理念は、軽々と
 手放すにはもったいないものです。実際、今すぐに革命や戦争を起こして市民社会を倒
 すべきだと主張する人はほとんどいないはずです。もちろん民主主義の空洞化は進んで
 います。しかし、その機能不全を引き起こしているものが資本主義だとすれば、現在取
 りうる選択肢は、グローバル資本主義にブレーキをかけることしかありません。 
・ゼロ金利は、財政を均衡させ、資本主義を飼い慣らすサインであるのに、それと逆行し
 てインフレ目標や成長戦略に猛進するのは、薬物中毒のごとく自らの体を蝕んていくだ
 けです。
・誕生時から過剰利潤を求めた資本主義は、欠陥のある仕組みだったとそろそろ認める
 ほうがいいのではないでしょうか。もはや地球上に「周辺」はなく、無理やり「周辺」
 を求めれば、中産階級を没落させ、民主主義の土壌を腐敗させることにしかならない資
 本主義は、静かに終末期に入ってもらうべきでしょう。
・セロインフレであるということは、今必要でないものは、値上がりがないのだから購入
 する必要がないということです。消費するかどうかの決定は消費者にあります。豊かさ
 を「必要な物が必要なときに、必要な場所で手に入る」と定義すれば、セロ金利・ゼロ
 インフレの社会である日本は、いち早く定常状態を実現することで、この豊かさを手に
 入れることができるのです。

おわりに
・いくら資本を再投資しようとも、利潤を上げるフロンティアが消滅すれば、資本お増殖
 はストップします。そのサインが利子率ゼロということです。利子率がゼロに近づいた
 ということは、資本の自己増殖が臨界点に達していること、すなわち資本主義が終焉期
 に入っていることを意味しています。
・この「歴史の危機」を直視して、資本主義からソフト・ランディングを求めるか、それ
 とも「強欲」資本主義をさらに純化させて成長にしがみつくのか。後者の先にあるのは、
 破局的なバブル崩壊というハード・ランディングであるにもかかわらず、先進諸国はい
 まなお成長の病に取り憑かれてしまっています。その代償は、遠くない将来、経済危機
 のみならず、国民国家の危機、民主主義の危機、地球持続可能性の危機という形で顕在
 化してくるでしょう。
・定常化社会、ゼロ成長社会は、貧困化社会とは異なります。拡大再生産のために「禁欲」
 し、余剰をストックし続けることに固執しない社会です。資本の蓄積と増殖のための
 「強欲」な資本主義を手放すことによって、人々の豊かさを取り戻すプロセスでもあり
 ます。