沈みゆく大国アメリカ  :堤未果
            (逃げ切れ!日本の医療)

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今の安倍政権の強引な政治手法は、あのドイツのヒトラー政権のやり方によく似ていると
言われている。それは集団的自衛権行使容認に伴う安全保障関連法案でのやり方のみなら
ず、特定秘密保護法や経済諮問会議を巧みに利用したやり方等、随所に見られる。
国民の無知や無関心が、政府やその裏でうごめく強欲資本主義者たちにやりたい放題にさ
せてしまっている。
日本の皆保険制度は、世界的に見て、非常に素晴らしい制度と言われているらしいが、そ
の素晴らしい制度も、このままでは近い将来、崩壊の危機にある。我々国民はこのことを
しっかり認識する必要がある。このまま黙っていれば、今後ますます政府にやりたい放題
にさせてしまう。
今、日本は国民皆保険制度をはじめ、集団的自衛権行使容認など、国の根幹を揺るがすよ
うな重要な決定が、一部の権力者たちだけによって行われれいる。これはとても放ってお
けない由々しき事態であるが、しかしこんな事態を招いている原因は、我々国民の無関心
さである。「政治には興味がない」とか「支持する政党がない」とか「支持する候補者が
ない」「どうせ選挙に行っても何も変わらない」とか「なんだかわからないから」とか言
って投票を棄権する。投票を棄権する人は、何の実害もないだろうと考えているかもしれ
ないが、そうではない。そうして投票を棄権する人が多ければ多いほど、一部の政権が少
ない投票数によって当選者を独占できることになる。独裁政権を生む孵化器になってしま
うのだ。政治はバランスだ。いろいろな考えの国民がいる。その国民のいろいろな考えを
なるべく忠実に政治に反映できるように当選者も一部の政党に偏るようなことがあっては
ならない。それには、支持する政党や候補者がなかったら、とりあえず現政権政党以外に
投票するということも必要だ。それによって独裁政権の誕生を阻止できるのではないか。
自分たち国民の権利を守れるのは、自分たち国民しかいない。

「臨終」の格差
・公的介護保険のないアメリカでは、65歳を過ぎた高齢者が、医療費や介護サービスも
 含めて必要な資金は、インフレを考慮すると150万ドル(1億5千万円)だと言われ
 ている。最後まで自尊心を保ち、夫婦や家族の関係を保ちながら死ぬための費用とも言
 えるだろう。
・アメリカではメディケイト(低所得者用公的医療保険)を受給するほど低所得でないた
 めに老人ホームの費用が払えず自宅介護をするケースが非常に多い。ほとんどは娘か女
 兄弟か息子の嫁が、仕事を犠牲にして引き受けることになる。
・アメリカで人工透析は「贅沢品」だ。7割以上を投資家ファンドが所有している民間の
 透析センターの費用は高額で富裕層にしか払えない。糖尿病が重症化した一般国民の多
 くは、筆舌に尽くし難い苦しみを味わって死ぬという。
・アメリカの高齢者・障害者用公的医療保険である「メディケア」では介護費用は短い期
 間しか払われない。だから大半の高齢者は、不動産や貯金などすべての資産を手放して
 施設に入る。
・投資家所有型の大型チェーン老人ホームの最大の特徴は、介護スタッフの数がぎりぎり
 かそれ以下に抑えられている。しかも時給平均5.5ドル(550円)で、最低賃金以
 下で膨大な業務量をあてがわれている。物理的に目が行き届かず、しょっちゅう不幸な
 事故が起こる。投資家ファンドが所有する老人ホームは非営利や個人経営施設と比べて
 こうしたクレームの数が群を抜いている。その一方で、収益と成長率もすごい。株主た
 ちは政府から入るメディケイドやメディケイトの交付金と利用者からの利用料で、がっ
 ぽりと儲けています。老人医療と介護産業は恐ろしく儲かるビジネスなのです。  
・さらに投資家所有の場合、所有形態が複雑で、遺族が訴えても組織全体に勝訴すること
 が非常に難しい。公的な介護施設の場合は、安全性関連の書類や他の行政書類をみれば、
 一発でわかるのだが。誰が施設を管理しているのか公開する義務がありますから。

オバマもびっくり!こんなにアメリカ化した日本医療
・人はいつでも、ないものねだり、あるもののありがたさを忘れてしまう。私たちが当た
 り前のように手にしている健康保険証もその一つだ。保険証さえ持っていれば、日本中
 どこでもどの病院でも、一定の窓口負担で医療が受けられる。医療費が法外に高く、医
 療破産が後を絶たないアメリカではこれは凄いことなのだ。 
・気をつけてください。どんな素晴らしいものを持っていても、その価値に気づかなけれ
 ば隙を作ることになる。そしてそれを狙っている連中がいたら、簡単にかすめ取られて
 しまう。この国(アメリカ)でたくさんの者が、大切なものを、当たり前の暮らしを、
 合法的に奪われてしまったように。 
・私たち日本人は、「いつでもどこでも平等に医療が受けられる」国民皆保険という宝を
 手に入れた。憲法25条の「生存権」を守る、社会保障制度。世界中から羨望のまなざ
 しが注がれるのも無理はない。
・日本の医療制度が世界から嫉妬される最大の理由を知っているだろうか。その名も「高
 額医療養費制度」だ。これは例えば私たちがケガや病気で病院にかかっても、自分で毎
 月負担する医療費の上限が決まっていて、その差額をあとから保険者が払い戻してくれ
 るという制度だ。盲腸1回200万円などという医療費が異常に高いアメリカ人たちは、
 まずこの制度について聞くと、信じられないと言って絶句する。医療保険に入っていて
 も医療破綻するのが日常茶飯事のアメリカ人たちからすれば、まさに「恐るべき制度」
 と言えるだろう。介護の場合も同じ制度がある。
・アメリカには公的な介護保険などというもの自体が存在しない。年をとってからの死に
 方は、事実上自己責任だ。日本は違う。65歳以上の人が介護を必要とした時に、食事
 や入浴の介助、機能訓練などのサービスを受けられる国の制度がちゃんとある。そして
 ここにも、低所得高齢者であっても必要な介護が受けられるように、自己負担額には所
 得別の限度額が設定されており、介護費用の合計が高額になった場合は「高額介護サー
 ビス費」から、保険者が差額分を払い戻してくれる。万が一、医療と介護が同時期にか
 かった場合でも、心配は無用だ。医療と介護両方の自己負担額を合計して申請すれば、
 ちゃんと差額を払い戻してくれる。
・日本で老後を過ごせる高齢者は恵まれている。医療・介護が贅沢品のアメリカでは、よ
 っぽどお金がない限り、天国に行く前にまずは地獄を通過しなければならない。
・投機ブームが生み出す若い億万長者たち、大減税と銀行の規制緩和、アメリカの黄金時
 代を支えた製造業は見捨てられ、労組は弱体化し、富める者と貧しい者の差が猛スピー
 ドで拡大してゆく。まさに「強欲資本主義」の始まりだった。
・40年前、アメリカの金融部門はGDPのわずか2パーセントにすぎなかった。それが、
 今や20倍に膨れ上がり、全体の40パーセントを占めている。金融部門は収益が株主
 配当や自社株買いなどに再投資されるため、肥大化するほどに貧富の差が広がり、実体
 経済は蝕まれてゆくだろう。     
・「保険」という名がついていても、日本の国民皆保険の本質はアメリカのような民間保
 険とは違い、れっきとした「社会保障」だ。憲法25条の生存権がベースだからこそ、
 通常の民間保険なら入れない子どもや障害者、低所得層や高齢者についても加入させ、
 皆保険を達成している。そして憲法が根っこにある以上にそれを守るのは国の責任、言
 い換えれば、この公費の源が絶たれてしまえば、「社会保障」としては成り立たたなく
 なってしまう。
・しかし、ここ数十年の間に、びっくりするほどの多くのことが、政府の手によって変え
 られた。医療費に関して言えば、いつの間にか毎月の保険料が大幅に増え、診療報酬の
 引き下げにより長期の入院が難しくなり、軽度支援を必要とする高齢者が特別養護老人
 ホームに入れなくなり、ついでに巨額の年金積立金の大半が株に投資され、混合診療や
 病院の株式会社経営を可能にする法改正や医療特区、さらには医療不動産の投資信託商
 品まで登場と、数え上げればキリがないほどの規制緩和、それもこれまで反対が多くて
 実現してこなかったものが、次々に高速で実行されているのだ。
・2001年1月に、「経済財政諮問会議」という組織が誕生した。総理自らが求める意
 見を、総理が議長を務める諮問会議で議論して、結論を出す。次の、これまた総理が議
 長を務める閣議に出すと自動的に決定、晴れて「政府の政策」となる仕組みだ。これで
 政府にとっては、うるさい野党や労働組合、国民の反対に邪魔されることなく、ものご
 とをスムーズに進められる環境が手に入る。 
・経済学者はこの経済財政諮問会議を、ヒトラーのやり方になぞらえて厳しく批判してい
 る。「これほど民主主義の政治理念に反して、リベラリズムの思想に反する制度はない。
 ちなみに、1933年に史上最高のワイマール憲法の下で、首相となったヒトラーが、
 独裁権力を掌握して史上最悪のナチ独裁制を構築していったプロセスをそのまま適用し
 たものである」と。
・「小選挙区制」では、全有権者1億人のうち、たった4分の1の得票数で議席の約75
 パーセントを獲得できる。
・大手ネット通販会社の社長が薬のネット販売を全面解禁しないなら委員を辞めるとごね
 たり、人材派遣会社の会長が労働規制を緩めよと主張したり、有名企業の経営者が社外
 取締役を義務化しろと言ったり、総理の「○○会議」に財界の人間を送り込めば、議会
 を通さずに政策に影響を与えられる。業界にとっては実に賢いやり方だ。
・国会議員に手が出せない諮問会議で骨子を決めて法律にしてしまえば、ロビイングすら
 必要ない。本来は総理に助言するだめのはずだったが、今ではこの諮問会議の決定を受
 けてから政策が決められ、政策を変えるときも、諮問会議で議論してから変更される。
 見事に事実上の政策決定機関になってしまった。
・2008年に内閣府に設置された「官民人材交流センター」。国家公務員の早期退職募
 集制度で、再就職斡旋を行う政府事業だ。規制緩和で民間に解放されたこの事業がどれ
 ほど魅力的かは、その報酬を見れば一目瞭然だろう。退職した公務員を一人転職させる
 ことで、仲介業者は転職先企業から年収の約3割を報酬として手にできる。一般公務員
 で毎年約1万人が退職するとして、年収1000万円なら300億円が転がり込む。こ
 の独占契約を勝ち取ったのが、他でもない産業競争力会議の中心的メンバーである竹中
 平蔵氏が会長を務める大手人材派遣会社である。  
・「正社員は恵まれすぎているんです。正規雇用という人たちが非正規社員を搾取してい
 るわけなんです」こうした発言を繰り返し、労働規制緩和の旗振り役をしてきた政府有
 識者メンバーで派遣会社会長の竹中民間議員。そして派遣法改正、残業代ゼロ法、裁量
 労働制拡大など、派遣業界にとって素晴らしい政策を次々と進める政府
・今の政府が日本を引っ張る方向や、ろくに審議もなくどんどん進めていくこのやり方を
 変えるためには、日本版回転ドアであるこれら「諮問会議」の存在が、大きなカギを握
 っていることに気づかなければならない。システムさえ手に入れてしまえば、神輿の上
 に誰が乗ろうと、もたらされる結果は大差ないことに。 
・アメリカ国民が新しく手に入れたと思い込んだものは二つ。史上初の黒人大統領と魅惑
 的なスローガンだった。だがモデルとパッケージが前と違っていただけで、ふたを開け
 てみたら中身は前と同じだったことに気づいた時にはすでに遅し、アメリカ国民は、た
 くさんのものを合法的に奪われ、中流層はほとんど消滅しかかっている。
・先端医療やまだ国内未承認の新薬などを使えるようにしてほしいという一部の要求を受
 け、2006年には、部分的に自由診療を自己負担でできるよう法改正が行われた。も
 っともこれは本当に一部のみ、日本医師会や厚生労働省、多くの患者団体の反対をうけ、
 最初は自由診療でも、安全性を確認できたら保険適用に入れるなど、あくまでも「国民
 皆保険」の骨子を壊さないような条件が付けられてだった。唯一ここから外れたのが歯
 科医療だ。政府は歯科を混合診療にしたとき、選択肢が増え、より多くの国民がやがて
 最新治療を保険で受けられるようになると宣伝した。だがふたを開けてみると、混合診
 療導入後、先端医療が保険に入ったケースは非常に少なく、代わりに公的保険でカバー
 されない高額治療が増えている。安全確認の申請や治験など、余分な手間とお金がかか
 った挙句に価格を安く抑えられてしまう公的保険に入れるより、自由診療でそのまま売
 ったほうが、はるかに儲かるからだ。だから混合診療にすると、だんだん公的保険枠か
 ら自由診療枠に治療や機器が移っている。そうこうしているうちに、「国民健康保険制
 度」は残っても、使える範囲がどんどん小さくなってしまう。その結果、お金がある人
 は先進医療や新薬を使えるが、お金のない人は最低限の基本治療しか使えなくなり、経
 済力イコールいのちの格差という、アメリカと同じ状況になる。
・日本の国民皆保険は、社会保障なのです。つまり、全国民が入れる条件を確保すること
 が非常に重要です。労働市場の構成が変わり、国民健康保険については加入者が自営業
 者から無職と低所得層中心になってしまった今、揺らいでしまったこの根幹を、どう守
 ってゆくかが問われているのです。
・保険料を滞納した高齢者や障害者、低所得者層などから保険証を取り上げ、窓口負担
 10割にするというのも、皆保険制度の目的と成り立ちからすると、相反する流れのひ
 とつだろう。
・今の日本では、保険適用でない新薬や治療を受けると、それ以外にかかった保険適用の
 検査などもすべて保険適用から外される仕組みになっている。そうでないと皆保険制度
 が守れなくなるため、苦肉の策が使われているのだ。混合診療にすれば、難病病患者は、
 高額な新薬に何百万円も払うことになる。命にかかわれば人間誰でも切実になるものの、
 何百万円ものお金は、すぐに続かなくなるだろう。
・ずっと前から、アメリカは日本の「国民皆保険制度」については邪魔だ邪魔だと言い続
 けてきた。政権が変わるたびに、アメリカから「医療」に関する市場開放要求が出され、
 そのたびに日本政府は少しずつ「イエス」を言い続けてきた。
・国民やジャーナリスト、憲法学者や、その他多くの団体が束になって反対し大騒ぎした
 「特定秘密保護法」採決の陰で、国家戦略特区法がひっそりと国会を通過した。日本国
 民の大半は、そんな法律の存在も、それがいつの間にか成立したことも、さっぱりわか
 っていなかった。だが国家戦略特区は、安倍総理がダボス会議で示唆したとおり、「岩
 盤規制を貫通する最強のドリル」になるだろう。今後特区内ではありとあらゆる規制が
 どんどん取り払われ、外資系企業に大きなビジネスチャンスを与えてくれる。さらに安
 倍政権は、今後これを全国に広げるための法整備をしてゆくという。戦略特区が全国に
 広がり、日本全体で外資系企業がしっかり稼げるよう十分に規制が取り払われたところ
 で、TPPを締結させる。そうすれば、一度広げた規制は元に戻せないという「ラチェ
 ット条項」が、総仕上げとして規制緩和を永久に固定化してくれるという寸法だ。アメ
 リカの財界にとって何よりも都合がいいことは、TPPと国家戦略特区が双子の兄弟だ
 ということに、日本国民がまったく気づいていないことだった。
・「2025年問題」という言葉を聞いたことがあるだろうか。団塊の世代がいっせいに
 75歳以上となり、高齢者が3千5百万人(およそ3.5人に1人)になる年だ。その
 時、「介護職員」は30万人不足する。介護職員は離職率が高い。現在、資格を持って
 いる介護福祉士の約半数が介護現場で働いていない最大の理由は、低賃金、看護師のよ
 うな夜勤時間制限すらない過酷な勤務体系、そして激務の中での人間関係だという。い
 ったい国は2025年になったら、あふれかえる高齢者をどうするつもりなのか。
・法務省は、日本で介護福祉士の国家資格を取った外国人が、そのまま日本で介護士とし
 て長期間働ける法整備をすることに決めた。在留期間は5年以内で検討しているが、更
 新できるので事実上の永住資格、言い換えれば移民政策だ。
・さらに2016年度から、今までは農業や製造業などに限られていた「外国人技能実習
 制度」を介護分野にまで広げ、外国人実習生は2ヵ月の研修と一定の日本語ができれば、
 介護現場で採用できることになった。この制度は、途上国の学生に日本で技術を学ばせ
 る国際貢献という建前だが、実際はブラック企業化してしまっている。実態は、中小企
 業が低賃金で使える労働力として扱われてしまっている。ここでは、憲法も労働法も機
 能していない。彼らを雇っている経営者の多くは、法律にしたがって残業代を支払った
 ら、実習生を使う意味がないと言う。実習生たちも、本国に送金するから、と言われて
 通帳やパスポートを取り上げられて、ピンハネされたりしている。保証金や違約金があ
 るから身動きがとれず、さらに職場は期間中一か所とのみ契約するので転職したり逃げ
 出すこともできない。  
・人手不足を埋めるために彼らを受け入れれば、介護業界の賃金水準は確実に下がってゆ
 くだろう。介護現場の報酬を下げ続ければ、日本人の介護職員はますますなり手がいな
 くなり、やがて日本で高齢者の介護をするのは低賃金の外国人という状態が定着する。
 そうなれば政府は、「介護報酬はもっと下げられる」と、ほくそ笑むことだろう。日本
 と同様に高齢化するアメリカでも、介護はビックビジネスだ。 

(株)アメリカに学ぶ、大衆のだまし方
・結局国民の無知と無関心が、政治の裏側にいる強欲資本主義の面々に、やりたい放題さ
 せるのだ。「法案の都合の悪い部分は国民に伏せる」「法律を成立させるには、有権者
 の愚かさが不可欠」そして、一番肝心な部分を取り除いた形で、法案の素晴らしい部分
 ばかりを繰り返し宣伝する、政府と利害関係のある御用学者と大手マスコミ。
・世界一高いアメリカの医療費を毎年ぐんぐん押し上げている最大の原因は、何と言って
 も「薬代」。アメリカは日本と違い政府が薬価交渉権を持っていないため、製薬会社は
 自社の薬に好きな値段をつけ放題、まったくの一人勝ちだ。    
・巨額の利権が発生する分野については、まず疑いの目を持ってみるべきだろう。だが、
 一般国民がにせものと本物を、そう簡単に見分けられるだろうか。とりわけ日本人は世
 界でも、「大手マスコミを鵜呑みにするランキング」でトップの座を維持している国民
 だ。   
・アメリカでも日本でも、テレビCMには絶大な効果がある。私たちは普段何気なく観る
 番組に、大きな影響を受けているからだ。国や社会や暮らしの形を、いつの間にか変え
 られてしまわないために、広告予算の動きくらいはチェックすべきだ。   
・2015年度予算をみると、安倍政権は「政府広告予算」をどーんと大きく増やしてい
 る。前年2014年度から3割アップの83億4百万円。すごい大盤振る舞いだ。この
 予算のほとんどは、テレビのCMや新聞広告となって、大手マスコミの懐に入る
 のだ。
・私たち日本人は、世界でもっとも大手マスコミの情報を信頼する国民だが、情報の出所
 であるマスコミの台所情報と政府広報予算の動きはしっかりチェックして、割り引いて
 情報に対するべきだろう。私たちから集めたお金を国が何に使うのか無関心な国民ほど、
 政府にとって都合がいい。特に、10億円以上政府広告費が増やされる一方で、社会保
 障費は削減され、医療や介護の自己負担が次々にあげられている今、私たちが黙ってい
 れば、今後ますます政府にやりたい放題をさせてしまう。

マネーゲームから逃げ出すアメリカ人
・患者から出てくる不満のなかで圧倒的に多いのは、待ち時間ではなくいざ自分の番が来
 た時に医師と十分に話す時間が取れないことだという。日本の診療報酬体系もまた、じ
 っくり患者と話してもお金にならない仕組みだからだ。皆保険が患者を甘やかしている
 からだという人たちは、最大の理由は検査や投薬をしないとお金が支払われないという
 制度上の欠陥をまず直視すべきだ。診療10分、無駄な検査や大量の薬というケースが
 蔓延する原因は、実はこっちにあるのだ。医療費抑制のために医師や病院を締め付けた
 り、患者負担をあげて病院へのアクセスを制限したりすれば、結局医療の質は下がり、
 全体の医療費は上がる。
・金があろうがなかろうが、人間は誰でも病気になるし、いつかは死ぬのです。それを儲
 けの道具にしたことで、アメリカは医療先進国ではなくなった。
・この国(アメリカ)の医療システムは、弱い立場の者からできるだけお金をむしり取る
 ために全力を尽くしている。俺たちが法外な保険料や医療費を払っても、それは自分た
 ち患者の命を救うためではなく、保険会社と製薬会社、投資銀行の株主や幹部の懐に入
 る。 
・金をたくさん稼ぐことが何よりも一番いいことだという風潮になって、病院や診療所に
 も、工場と同じように無駄をなくして利益をあげろと圧力がかかるようになった。でも
 人間は工業製品ではないし、医療は効率をあげて経費を下げれば質が落ちるから、金儲
 けの道具には向かない。目先の金に眼がくらんでそんな無理なやり方を進めた結果が、
 世界一医療費も薬も高いのに、寿命は短く、国民は医療費で苦しめられている今のアメ
 リカなのです。
・ここまで拝金主義が暴走して、国民が耐え切れなくなったからこそ、原点に戻ろうとい
 う動きが出てきたのでしょう。間違った欲望は私たちを呑み込み、人間性を壊してしま
 います。アメリカは国家レベルでそれを体現しているとも言えます。人間は人間らしく
 いられない社会では、生きられないのです。
・アメリカの富裕層上位400人の所得は平均労働者の2260倍となり、上位1パーセ
 ントは全米の約19パーセントを、上位10パーセントは全体の約45パーセントの所
 得を得るほど、経済格差が広がった。ちなみに彼らの所得には、株や有価証券、不動産
 を売って得た利益は含まれていない。彼らの膨れ上げる資金力を、ますます政治家への
 献金やロビイング費用につぎ込むため、一般の有権者はまったく手が出せない状態だ。
 
逃げ切れ!日本
・高齢化を医療技術でなんとかできる、という時代はすでに終わっています。認知症をは
 じめ、今後も治せない病気がどんどん出てきますから。医療技術の専門家である医師に
 は、残念ながら、超高齢社会の実像は見ていない。高齢化が急速に進む地方では、特殊
 な高度医療よりも「すきな人とすきな所で暮らし続けること、この願いを支える医療と
 仕組み」が大切なのです。 
・今の政府の中には、全国に28万人の患者を持ち、年間1兆円の医療費がかかる人工透
 析を公的医療から外し、自己負担にせよという話が出ている。この計画に誰よりも胸を
 熱くさせているのは、1兆円市場の新ビジネスに参入したいアメリカの透析産業とその
 株主である投資家群だ。
・日本の国民健康保険は「社会保障」なので、皆保険体制を維持するために保険料を払え
 ない人への保障をするのは本来国の責任だ。だが政府はそこに対応する代わりに国保負
 担をどんどん減らし、責任を各自治体に押し付けて「もっと取立てを強化しろ」などと
 指示している。自治体側は仕方なく一般会計から国保財源不足を穴埋めしている状態だ。
・国民健康保険は地方自治体が保険者として運営しているため、保険料の決め方はそれぞ
 れの地域によって結構違う。同制度の核である「憲法25条の精神」に沿って保険料を
 払えない人に対し極力減免措置をとろうとする自治体もあれば、保険料を滞納する人に
 窓口負担10割の「資格証明書」(国保負担分は申請しないと払い戻されない)をどん
 どん発行するところもあり、地域によって温度差があるのだ。 
・内側から国民皆保険制度を切り崩す「国家戦略特区」。これを放置すれば完全に外資系
 企業や投資家に日本が食い尽くされること間違いなしだが、実はまだやりようがある制
 度でもある。国家戦略特別区域法という法律自体は国会で成立したものだが、実施する
 のはそれぞれの地方自治体だからだ。
・国家戦略特区は、国民皆保険制度を形骸化させ一儲けしたい人々にとって強力なツール
 だ。だが、自治体レベルで実施する制度のため、まだストップさせるチャンスはある。
 今、世界中を見渡せば、同じように1パーセントの拝金主義と地域レベルで闘う99パ
 ーセントの人々が見えるだろう。
・いまの日本は、国民皆保険制度をはじめ、貴いものを守る代わりに、ないがしろにして
 外国に安く売り飛ばすような、間違った方向に進んでいます。そして一部の者たちの権
 力や金銭欲のために国を誤った方向に引っ張ろうとしている連中が、政策決定の中枢に
 いる。でも何より危惧するのは、ごく普通の人々の無関心です。これが変わらなければ、
 いくら権力側に働きかけても国は動かない、そして普通の人々の無関心こそが、放って
 おけば国を滅ぼしてしまうのです。
・世界を舞台に加速するマネーゲームは、私たちから人間性や想像力、他者への思いやり
 や、人とのつながりをいとも簡単に奪ってしまう。拝金主義にかられたひと握りの人々
 によって、あらゆるものがその価値を数字で測られ、画一化された市場の「商品」にさ
 れてゆく世界に、私たちは生きている。効率よく利益を生まないものが平気で切り捨て
 られるなか、繁栄と幸福をもたらすはずだったグローバル化の下で、なぜ医師たちが、
 次々に心身を病んでしまうのか。その核である精神を忘れ、現場からの声なき声に耳を
 傾けずにいれば、世界が羨む日本の皆保険制度もまた、持続できず滅んでゆくだろう。
 すでに命が「商品」にされたアメリカの医師たちも、日本で取材した医師たちも、医療
 ・介護に携わる大勢の人々からも、聞こえてくるSOSは共通している。「人間として、
 人間を助けたいのです」どれだけ他国が羨む制度を持っていても、その価値に気づかな
 ければ簡単に取られてしまうこと。そして、失うにはあまりにも惜しい宝物が、ここ日
 本にはまだたくさんあることだ。無知と無関心が、手の中に負けのカードを増やしてゆ
 く。だが日本はまだ間に合う。貴いものを守ろうと決めた瞬間から、私たちの未来は未
 知数になるからだ。