「超」サラリーマン  :読売新聞経済部

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サラリーマンに限らず、組織の中で生きるのは大変なことだ。昔は「サラリーマンは気楽
な稼業ときたもんだ」という時代もあったが、今の時代はまったく違う。昔は、新入社員
で入社して、右も左も分からなくても、2,3年は大目に見てくれたものだ。しかし、今
は即戦力が期待される。仕事の仕方もろくに教えてもらえないまま、すぐに結果を出すこ
とを求められる。結果を出せなければ、ボーナスや給与をどんどん減らされていく。この
ため、新入社員は3年後には半分近くが辞めていく。ブラック企業と呼ばれる企業もある
という。厳しい競争にさらされて、心の病を患う会社員も増加し続けている。そして最近
は、パワハラも急増している。しかし、そんなサラリーマンになるのも大変だ。就活に疲
れて自殺する若者もいる。日本では、大多数の人がサラリーマンを目指すわけだが、サラ
リーマン稼業も、大変な稼業になってしまった。こんな状況を目にすると、はたしてサラ
リーマンになる道しかないのだろうかと、つくづく考え込んてしまう。

はじめに
・人間に寿命があるように、制度や慣行にも寿命があるらしい。日本固有の制度のように
 言われる年功序列や終身雇用などの雇用形態は今、終わりを迎えつつあるのではないか。
 新しい会社と個人の関係が、きしみを伴いながらも誕生しつつあるようにみえる。
・これからの時代は、「自分という商品を市場にさらして、そこでの値踏みに耐えられる
 人間になる」ことが求められるのだ。評価に値しなれば淘汰されるのを待つだけだ。
・日本のサラリーマン社会は、かなり怖い場所に足を踏み入れてしまったようだ。「市場」
 が要求する何らかの基準に合致するスキルを身につけなければ「淘汰され」「実力によ
 っては給与が減る社員が出てくる」のが当然だというのだから。
・「サラリーマンは気楽な稼業ときたもんだ」といっていた時代のなんと安気だったこと
 だろう。上司に適当にゴマをすり、会社内の人間関係に気を配れば、首になることはな
 かった。
・会社というミニ国家の序列の中に、甘えともたれあい、恩恵と服従があった。会社と個
 人の関係は乾いておらず、社長を長としたソフトな家父長的ファミリーの安楽とうっと
 うしさが共に見てとれた。これが昭和の企業世界だった。
・しかし、このような会社は今ならやっていけない。仕事の内容より社内の人事力学が優
 先されるのん気な集団が、冷戦終結後の容赦のないグローバル競争を勝ち抜けるとは思
 えない。
・我が国は世界の例のないスピードで高齢化が進み、2025年には65歳以上の高齢者
 が総人口の27%を占め、世界一になるといわれている。21世紀の日本経済は、年を
 とっても健康で、意欲のある人たちに元気に働いてもらわなければ活力が保てない構造
 を内包しているのだ。
・定年後の労働には生活費の確保という理由のほかに生きがいが絡む。しかし、生きがい
 を実現するためにも「マーケット・バリュー」が求められる世になったのである。
・それならいっそ会社人生とはさようならして全く違う価値観に生きよう、という人も出
 てくて当然だろう。
・高度成長を支えた日本のサラリーマンは、会社を愛しつつも会社を離れ、自分の足で歩
 き始めている。風向きが変わり、自分で自分の道を見つける人たちが増えたのだ。
・バブル崩壊後のヒト、モノ、カネの過剰に直面した企業は、ヒトについては、単なる要
 員の削減にとどまらず、従業員の「構成」の見直しを進めている。人件費負担が大きい
 正社員はコア業務に限定し、他の要員はパートや派遣社員にシフトしている。専門的な
 技能が必要な場合は、スキルを持っている人を中途採用する傾向が強まっている。
・定期採用で一斉に入社したあと、仕事をさせながら一人前に鍛える「日本的育成」は昔
 話になり、情報処理、経理などの技能を身に付け、就業翌日から戦力になるのが普通に
 なってきたようだ。
・日本は変われないといわれるが、戦後の高度成長期からバブル崩壊を越えて生き抜いた
 企業は、創業時の仕事の想像がつかないほど自己革新と変身を続けてきている。

我が道を行く
・日本のサラリーマンというと、上司から無理難題を持ち掛けられても嫌とは言わず、会
 社の酷使にも耐え抜く、そんな姿が、美徳と思われてきたような感じがする。しかし、
 最近はこれを良しとせず、自分の考えを貫き通そうとする人たちも増えているようだ。
・インターネット関連を筆頭に、どんな事業が大きく成長するのかは、極めて見通しにく
 い状況だ。だが、様々な新ビジネスを大切にしていかないと、既存の事業を続けていた
 だけでは、じり貧に陥るのは確実だ。

査定が変わる
・日本企業は今、国の内外を問わない競争に生き残るために、経営の効率化と事業戦略の
 強化を目指している。これを実現するためには、「攻めに強い人間を育てなければなら
 ない」わけで、当然、給与や昇格にも成果主義を浸透させる必要がある。
・だが、成果主義が実を結ぶためには工夫がいる。公平な評価による公正な処遇が不可欠
 だ。
・個人の能力を正しく評価し、やる気を起こさせることができるか。企業にとって永遠の
 課題ともいえるこのテーマが、企業とサラリーマンの双方に実力が求められる時代を迎
 えて、一段とその重要性を増幅している。

NY駐在員
・バブル崩壊後、日本の景気が長期低迷した影響で海外拠点を整理する日本企業が増えて
 いる。各社は得意な分野に経営資源を集中させる一方で、経費のかかる駐在員の数を縮
 小している。世界最大の駐在員数を誇るニューヨークも例外ではない。
・現地で業務を続ける日本勢にも変化が起きている。駐在員をスリム化する一方、現地社
 員を増強する傾向が目立ってきた。経費削減をもちろん、即戦力の現地社員の力でアメ
 リカ市場に食い込もうという狙いだ。
・アメリカで本気で商売するには肩書だけの駐在員では通用しない。
・シェア重視の経営、成功より失敗を気にする風土、そうした日本企業の特性は人間を萎
 縮させる。

社内公募
・大企業にいても自分の能力を発揮できない。それなら、規模は小さくても魅力ある企業
 に移りたい。そんな動機から転職を目指すサラリーマンが増えている。
・日本企業にもようやく、実力主義が浸透し、給料や昇進にも反映されるようになってき
 た。ただし、それを決めるのは多くの場合、上司の評価で、いくら客観的な考課基準を
 設けても、好き嫌いなどで恣意的に運用される場合もある。

分社な人々
・企業が収益を拡大するには、他社との競争はもちろん、社内の事業部門間の競争が必要
 になる。さらに、事業部門を社内にとどめず、分社化し、新会社同士をライバル視させ
 れば、競争は一段と激しくなる。
・会社は、有望な事業分野に経営資源を集める「選択と集中」の方針を掲げ始めた。
・日本の高度経済成長を支える役割も果たした総合商社は、成熟期を迎え、今後、業務内
 容を大きく変えていかないと生き残りが難しいとの指摘がある。

外資に再就職
・ゼネラリストの志向が強い日本企業では、一か所で一つの仕事を究めることは難しい。
 日本企業には、定期的に配置換えすることで、漫然と勤務することや、不正行為を働く
 ことを防止する狙いがある。
・実力主義の外資系は、やる気に満ちた若者のニーズを満たす。一方、安定的な日本企業
 は、壮年層になって落ち着いて仕事ができる雰囲気を提供してくれる。
・家族を抱えたサラリーマンが、安定した職場で、安定した収入を望む姿は、決して否定
 することはできない。とくに、日本人にとっては、こうした職場での心のゆとりが
 「サラリーマン文化」への土壌に染み渡っている。

官から民へ
・これまで何をやってきたかではなく、これからの人生をどうやって過ごすか。

新たな刺激剤
・しょせん、大企業では自分は組織の歯車でしかない。
・ストックオプションを採用する経営者は、社員が仕事に熱中し、この結果、業績が上が
 ることを狙っている。また、今後の成長を目指す企業が外部から優秀な社員を集めるた
 めの手段として、使われることもある。
・ストックオプション制度で、社員が何億円もの資産を手に入れるケースが中小。中堅規
 模の企業に多い背景には、これらの企業の発行株式数が少ないため、株価が跳ね上がり
 やすい事情がある。また、未公開企業の場合には株式公開によって株価が高騰する例も
 ある。
・大手の場合、未公開企業のように株価急騰による「ぬれ手に泡」の利益確保はあまり期
 待できないが、社員の意識を変えるきっかけにはなるようだ。
・アメリカでは、ストックオプションの導入によって、社員が電気をこまめに消すように
 なったり、株価が上がれば給料が下がってもいいと言う社員まで出てきた。
・ストックオプションは会社の業績に対する社員の関心を高め、働くインセンティブとな
 る。さらに進んで、学生や転職を狙うサラリーマンたちが、企業を選ぶ際に、給料より
 も、ストックオプション制度の有無や、株価の成長性の方を気にする時代がやって来る
 かもしれない。 
・ストックオプション制度は株価の値上がりを前提に効果を発揮する仕組みだ。逆に言え
 ば、権利を行使して、株式を買った後で売り時を間違え、株価が下がってしまえば、何
 の役にも立たない。株式の売却益を見込んで、人生設計を立ててしまった人の運命を狂
 わせる結果も招く。

長期休暇
・戦後、「モーレツ社員」ぶりが世界的に知られてきた日本のサラリーマンの意識が徐々
 に変わりつつある。一企業に強烈な忠誠心を抱くよりも魅力的は職場を別に探したり、
 家庭のぬくもりを大切にしたり、社会に関心を示す人たちが確実に増えている。
・高齢化や女性の社会進出が進む一方で、企業間競争は激化し、人材のつなぎとめの必死
 だ。こうした時代には、長期休暇制度が不可欠な仕組みになっている。
・日本人の平均寿命が長くなる中で、在職中から退職後の過ごし方に頭を巡らせるのは、
 人生に重要なことだ。
・どこまで社員に休暇を与えるが、企業の活性化に有効なのかは、極めて難しい問題だ。
 だが、少なくとも、社員を仕事で疲れさせることだけでは何も生まれないという意識が
 日本企業に芽生えてきたのは事実のようだ。

定年を超えて
・長寿時代を迎えて、どれだけの蓄えがあれば老後を過ごせるのかお計算が立ちにくくな
 っている。働けるうちは仕事に就いていたいと望む人は多い。さらに、厚生年金などの
 支給開始年齢が段階的に65歳に引き上げられると、退職後から年金支給を受けるまで
 の間の収入を確保する必要も生まれる。
・退職後に、サラリーマン時代には果たせなかった趣味や社会活動に目を向ける人も増え
 ているが、やはり、仕事を続けることに「生きがい」を感じる社員の数が多いのも事実
 だろう。

農を選ぶ
・勤めていた会社を辞め、ベンチャービジネスなどに転身を図るサラリーマンが増えてい
 る。仕事の面白さや給料に魅力を感じて、会社の規模は小さくても自分を試そうとする
 人たちが若い人を中心に拡大している。その傍らで、ちょっと異なる分野に夢を求める
 サラリーマンもいる。
・組織の中で働くことの窮屈さ。そんな状況を「不自然」と感じ、そこから抜け出したい
 欲望が次第に募ってくる。
・自然の中で体を動かくことが、一番人間らしい。
・サラリーマンから農業を目指す人には、農業にロマンを抱く人が多い。特に有機農産物
 作りには、安全な食べ物を消費者に届けられるという強い使命感も漂う。しかし、その
 道は簡単ではない。
・農家出身でない人が農業を始めるためには、農地の確保に加えて、資金や技術も必要に
 なる。こうしたハードルを超える手段として、自営で農業を行うのではなく、「農業生
 産法人」という会社組織に就職する道もある。
・サラリーマンを辞めて、様々な理由から「農を選ぶ」人が増えている。受け入れ側にと
 っても、こうした人材は魅力になっている。そんな需給関係がある以上、就農の流れは
 今後さらに広がり、「珍しくない転職先や就職先」として認知される時代がやってくる
 かもしれない。

派遣社員
・中高年を対象としてリストラの加速は、一家の大黒柱が職を失うことにつながるため、
 社会問題化しているが、派遣という人材流動化の仕組みが、今後、社会に広く浸透して
 けば、再就職も現在よりスムーズに決まる可能性がある。ベテランの能力をフルに活用
 することは、社会にとっても大きなプラスになると見られる。
・人材派遣が男女を問わない幅広い年齢層で一般的になる時代を迎えている。派遣社員に
 対する偏見や、身分の不安定さ、さらに派遣社員を多用する結果、正社員のリストラが
 加速する、などの弊害も根強く指摘されているが、総論としては人材派遣の重要性を否
 定する意見は少ない。それだけ日本の雇用環境には、海外などに比べて、ゆがんでいた
 り、不十分な点がある。こうした面を人材派遣の拡大などを通じて、直していかないと
 社会問題化している「雇用のミスマッチ」は解消せず、労働の流動化は実現しないと見
 られている。
・欧米では人材派遣は、主に自分に合った職業に正社員として就くための「橋渡し役」と
 しての機能を果たしている。アメリカの場合、派遣社員の7割が、その後、正規雇用に
 就いている。学生のうちから目指す業界で派遣やアルバイトで働くことも一般化してい
 る。
・企業の求人活動は活発化して来てはいるが、年齢や職種の厚い壁に阻まれている例は多
 い。子育てを終えた主婦が職場復帰するシステムも幅広い企業で整っているとは言えな
 い。
・人材派遣も、単純に人を企業に送り込もうとするだけでは、労働者のだぶつきを新たに
 生み出すだけになる。これからの人材派遣は、企業と働く側の要望をマッチングする機
 能が大切だ。
 
伝承ー匠の技
・角メーカーは「自動化」と呼ばれる生産工程の機械化を加速している。自動化はもちろ
 ん、コストダウンを実現し、経営効率化につなげるために推進される戦略だが、それを
 あまりに進め過ぎると、今度は自動車を始めとする、あらゆる産業をこれまで支えてき
 た人の手による「ものづくり」がおろそかになる。現代の生産現場は、そんあジレンマ
 の中に存在している。

フレックス制
・フレックスタイム制度は法律上、出退社時間は自由に決められても、労使で決めた労働
 時間以上に働いた場合は、その残業時間通りの手当を支払わなければならないことにな
 っている。 
・企業の経営戦略が社によって異なると同様のサラリーマンのライフスタイルは個人個人
 によって多様化している。その中で、フレックスタイムに感謝する人もいれば、好意的
 でない人もいるようだ。 
・小規模なベンチャー企業は、まず自社が生き残ることが重要だ。そのために必要なのは
 勤務時間を始めとする堅苦しい規制ではなく、社員のやる気を引き出すことなのだろう。
 だが、会社設立後、何年かがたち、社の規模も拡大し、事業が軌道に乗ってきた時には
 創設期の自由な雰囲気を残しながらも、社員を管理する必要も出てくる。そんな問題に
 直面した企業がフレックス制を選ぶことも考えられる。 

資格ゲッター
・自分を磨くため資格を目指すサラリーマンが増える中で、資格を取るための様々な講座
 を巡るトラブルも相次いでいる。国民生活センターによると、99年度に全国各地の消
 費生活センターの寄せられた電話勧誘販売に関するトラブルは、役5万7千件あったが、
 そのうち、4割以上を占めていたのが滋賀区講座だ。
・国民生活センターは「セールストークはうのみにしない。契約する意思がなければ、契
 約する意思はないことをときっぱり断ることが大事だ」と助言するが、実力主義の浸透
 などを背景に、サラリーマンを取り巻く環境が厳しくなる中で、資格を巡る悲劇はすぐ
 にはなくなりそうにない。 
・仕事に生かす資格だけでなく趣味を広げる資格に挑戦して、生活を充実させようという
 会社員も女性を中心に増えている。 
・職場での自分の能力アップを図ることを目的にした資格とは違って、趣味に生かせる資
 格はサラリーマン生活の幅を広げる意味を持つ。そこでリフレッシュできれば仕事にも
 良い刺激を与える可能性がある。そんな資格に魅力を感じるサラリーマンの潜在人口は
 多そうだ。