先送りできない日本 :池上彰

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日本は、経済大国から借金大国になってしまった。国の借金は1000兆円を超えようと
している。これに比べたら、ギリシャの借金33兆円は、まだ可愛いものだ。
今、消費税率を5%から10%へ上げることで騒ぎになっているが、イギリスやヨーロッ
パ先進国の消費税率は、すでに20%ぐらいが一般的になっている。高福祉国家とされる
北欧諸国では25%だ。それに比べたら日本の5%、10%はまだまだ低い。
そんな低い消費税率のままで、福祉の充実を叫んで見ても絵空事だ。それどころか、やれ
国会議員定数削減が先だ、やれ国家公務員給与削減が先だ、と言っているうちに、国の借
金はどんどん膨らんでしまった。
国会議員定数の削減が必要だというのは、もっともな意見だ。国家公務員給与削減という
のも、もっともな意見だ。しかし、そう言って消費税率引き上げを先送りし続けてきて、
もうまったなしの状態まできてしまっている。
もし、今回も消費税率の引き上げが先送りされたなら、日本は重大な局面を迎えることに
なるのではないか。そしてそれは、自分たち世代のツケを、自分の子供や孫たちに押し付
けることを意味する。自分の子どもや孫の世代が、親の世代のツケにより、現代よりも、
もっともっと苦しい社会を生きることになるのだ。自分たちの世代のツケを、自分たちは
苦しいからと言って、先送りしてはならない。

まえがき
・このところの日本は、いろいろな面で行き詰まっていました。行き詰まりの原因は、こ
 れまでの政治が、さまざまな課題を先送りしてきたことにあります。もう日本は先送り
 は許されなくなったのです。
・これから原子力発電所を新しく建設するということは、まず現実問題として無理でしょ
 う。仮に作るとしても、建設地として手を上げる自治体があるでしょうか。
・実はここ数年、最盛期の東京電力の供給量はずっと綱渡りの状態でした。それが、一瞬
 でも超えた瞬間に、大規模停電になります。
・東北はこれから、復興需要が見込まれます。「復興特需」で経済は火発になっていくで
 しょう。インフラを一からやり直すわけですから、言ってみれば、1960年代〜70
 年代の高度経済成長期の日本列島改造論のようなことが、東北地方で起こります。
・もしかしたら、関東以北は一足飛びに「脱原子力」の最先端に飛び出して、エコ先進国
 のトップランナーとなるかもしれない。いや、ならざるを得ない状況です。火力はもち
 ろん、風力も太陽光もどれもみんな得られるエネルギーは限られています。
・足りない中で何ができるかといえば、まさにエコな生活です。既存の産業が空洞化して
 いく地域では、電力に頼らないやり方で新しい産業が興るかもしれません。ないところ
 から、工夫を凝らして問題を解決するには、昔から日本人の得意とするところだったは
 ずです。
・経済面では、この震災を機に、日本はデフレから脱却するかもしれません。これまでの
 日本のデフレは、供給力があるのに、需要が足りないことで引き起こされていました。
 今回の震災により、供給力が大きく損なわれてしまいましたが、今後は復興需要が大幅
 に伸びます。
・普通に考えると、これほどの大災害が起これば、経済が大打撃を受けるわけですから、
 円安になるはずです。それが円高になったということは、それだけ日本の企業が海外に
 資産を持っていることを海外の投資家が知っていたということです。
・震災直後の円高現象は、我々日本人が考えている以上に日本経済が海外から高く評価さ
 れているという証拠でもあるのです。
・震災後世界のメディアは、日本人はとても辛抱強く冷静で、略奪が起きないどころか、
 被災者が整然と行列を作り、支援物資を譲り合っている姿に驚き、賞賛を日本人に送り
 ました。
・そのような私たちの精神は、世界でも稀な特質なのかもしれません。その特質こそが、
 日本を先進国へと成長させてきた原動力ではなかったでしょうか。そのことを私たちが
 もっと客観的に認識し、自覚して、自信と誇りを持ちたいものです。
 
ドアを開ければクローバル社会
・TPPでは、すべての物品について、原則として即時または10年以内の段階的関税撤
 廃を定めています。また人の移動やサービス、その他も含んでいるので、内容的には
 EPAと同じです。
・政府は、TPPに参加すること、つまり「国を開く」ことで、日本経済を活性化するた
 めの起爆剤にしたいと考えています。
・20世紀は、アメリカの世紀でした。国際社会のルールは、アメリカに都合の良いもの
 ばかりでした。しかしこれからは、「自由で開かれた国際秩序」を作る時代です。日本
 もこの国際社会の中で、影響力のある大国となることを目指さなければなりません。

TPPでどうなる、日本の農業
・日本の食料自給率は約40%。これは、カロリーベースの計算です。
・他の商品は国際競争にさらされてどんどん安くなっている中で、農業だけは「守らなけ
 ればいけない」と、日本人はずっと我慢をしてきたと言えます。なぜ日本人は、農家に
 対してこれほど寛容だったのでしょうか。それは、買い手である都市部の消費者が、み
 んなかつては農村出身だったからです。
・ところがその子ども代、さらにその次の世代になると、もう都会で生まれ育っている割
 合が増えて、農村がふるさとではなくなります。そうなると、「なんで農業ばかり保護
 されて」と否定的に見る人が増えるのは自然なことです。
・大事な産業は、なんとか保護したい。誰でも考えることです。ところが、その温情が仇
 になることがあるのです。国の保護を受けた産業が衰退する。そんな例をたくさん見て
 きました。
・農家の大多数は、法律に違反することなく、お上の言うことを忠実に守ってきました。
 真面目な人たちだったのですが、これでは、なかなか「農家を経営していく」という発
 想は育ちません。コメ作り農家は、いつの間にか国の発注する農作業を行う行政の下請
 けのような存在になていったのです。
・みんな平等主義の農政は残念ながら公を奏さず、気が付けば日本の農家の多くは、専業
 農家でやっていけなくなっていました。若い人は、コメを作らないことで減反の補助金
 を受け、平日はサラリーマン。土日だけ、狭い田んぼでコメ作り。田んぼや畑を守るの
 はお年寄りばかりになりました。機械化が進んだので、年配者でも農業ができるように
 なったとも言えるのですが、こうした農業機械を農協から資金を借りて購入し、農協へ
 の借金返済に追われる有様です。
・若手の農業家は育たず、基幹的農業従事者の平均年齢は66歳。60歳以上の割合は全
 体の7割にも上ります。このままの状況が続けば、あと10年もすれば、日本の農業の
 支え手は消滅。農業は壊滅状態になります。
・いまの日本に必要なのは、そのような「農協と、自立できない農家」の集合体としての
 農村を維持するための政策せはありません。TPPによって開国し、日本の農業が国際
 競争にさらされれば、現状の零細農家は確かに太刀打ちできないでしょう。しかし、あ
 えて言うなら、そのような農家の多くは、近い将来、自主的に農業から引退していく人
 々です。
・日本の農家でも起業家精神あふれる人たちは大勢います。特に対規模農家の中には、
 TPPを追い風と受け止めている人たちもいます。そんな農業家の意欲をかき立てるよ
 うな農政の転換を図ることができれば、結果として強い農家が生き延び、大きくなれま
 す。
 
国が変わるということ
・日本はこれから人口が減少し、購買力もそれに合わせて減っていきます。資源国でもあ
 りません。このまま状況が変わらなければ、日本国内のマーケットは縮小していくので
 す。いま何もしないでいれば、それは静かに衰退の道を進むことになりかねません。海
 外ではまだまだ人口が増え続け、購買を急激に伸ばしていく国々がたくさんあります。
 そうした海外のライバルに立ち向かっていくためには、国を開かねばなりません。海外
 に有望なマーケットを見つけなければ、今後の一段の成長は見込めないのです。いまだ
 けを見て、いまの国内の有権者の反応だけを見ていると、立ち遅れは決定的なものにな
 るでしょう。
・放っておけば確実に倒産してしまう企業を見ながら、助けの手を差し伸べないのは辛い
 ものです。中小企業の経営者個人を思い浮かべれば、なんとか救済したいと思うのが人
 情です。しかし、延命のために税金を使ってもいいのか、自由経済市場の原理に任せて
 つぶれるところは仕方がないとするか。この大原則を考えなければなりません。
・もちろん、国に助ける余力があるのなら、助ければいいでしょう。しかし、いまの日本
 はそれをする力を失いつうtあるということを、私たちは冷静に認識するべきでしょう。
・「格差」は、現代を考える上で重要な問題です。国と国の格差、国の中での所得格差、
 地域間の格差、教育の格差、いくらでも挙げられるほど、さまざまな格差が社会に広が
 っています。この問題をどう考えるか、その切り口のひとつに「スタートの平等・結果
 の平等」があります。スタートの段階を平等にして結果的に格差が出るのを認めるのか、
 スタートはそれぞれ違っても結果をなるべく平等になるようにするのかということです。  
・日本は資本主義の国ですから、スタートを平等にして結果として出てくる格差はある程
 度容認するのが本来の姿でしょう。それによって生活が行きづまったり、やっていけな
 くなったりする人たちが出てきたら、そのような人たちを救済するのは「社会福祉政策」
 であって、「経済政策」で救済するのは筋が違うのではないでしょうか。
・政治は、なるべく市場の競争には干渉せず、自分の会社が倒産してしまった中小企業の
 社長さんが行き詰まって首をくくらなくてもいいように社会福祉で手を差し伸べ、また
 再起するチャンスをつかんで社会へと送り返す、そんな社会が健全だと思うのです。
・韓国もスウェーデンも、明確に国家の舵を切った国です。日本も切ろうと思えば、同じ
 ような舵を切ることができるはずです。ただ日本の政治家に、それをする覚悟がなかっ
 たと言わざるをえません。
・毎年スウェーデンの社会福祉を見学するために、日本から政治家も、地方公共団体から
 もたくさんの視察団が訪れます。で、日本はどのように変わったんですか? 
 
世界が知恵を絞る巨龍との付き合い方
・中国は、いざとなれば経済を犠牲にしてでも、自国を守る行動に出る国だ。
・中国との取引には、それなりのリスクがある。それは明白な事実です。中国は、かなり
 異質な国だからです。いまや世界第二の経済大国であるというのに、共産党による事実
 上の一党独裁の国家であり、内実は発展途上国であり、国内にさまざまな問題を抱えて
 いる不安定国家なのです。
・インドは、かつて中国の侵略を受け、いまも国境線が画定していません。それだけに、
 インドは中国を脅威に感じているのです。
・中国に強烈なライバル意識を持っている国、インド。中国から10年ほど遅れて経済開
 放政策に踏み切り、いまは後を追う形ですが、インドは中国同様近年の経済発展が目覚
 しく、これからさらに人口が増えます。すでに12億人を突破しました。一人っ子政策
 の影響で人口増に歯止めがかかる中国を、2030年には抜くと言われています。
・インドと中国の決定的な違いは、インドはかつて宗主国だったイギリス譲りの民主主義
 という同じ価値観を持っていることでしょう。そこが先進国にとっては大きな魅力です。
・スーパーには中国製の食品がいっぱい。手頃な価格の衣料品はすべて中国製。高級ブテ
 ィックやデパート、ドラッグストアに家電量販店、みんあ中国人が上得意客です。会社
 からもらう給料は、中国相手に利益を上げたものかもしれません。 
・中国を見る場合、民族ではなく国家体制を問題視すべきです。中国の現代史は中国共産
 党によって人々が翻弄された歴史でした。
・共産党が中国を支配し、新中国が建国された際には、反革命活動の鎮圧と称し、3年間
 で70万人が処刑されました。処刑は広場で群集をを集めて行われました。共産党に逆
 らうとこうなるぞ、という見せしめです。1950年のことでした。
・中国共産党は、最初に農民に土地を分け与えて支持を獲得し、政権を取ってしまうと、
 今度は土地を取り上げたのです。しかし、人民公社で農民たちを待っていたのは、科学
 的根拠のない農業技術でした。自然を無視した農業政策によって自然破壊が進み、大飢
 饉が襲います。「こうすれば経済は発展する」と言われ、人々は、その通りに取り組ん
 だ結果が、なんと3000万人の餓死でした。
・中国の民衆にとっての現代史は、お上に従って多くの民が命を落とす一方で、お上を信
 用せず他人を信用しないで裏切った者が、結果的に生き延びられた歴史でもありました。
 いくら急激に経済成長して国際社会の仲間入りをしたからといって、骨身に染み込んだ
 人生観は、そうそう変えられるものではありません。
・中国は国内に、激しい貧富の格差や、戸籍差別、税制の問題、高齢化、民族問題などの
 難問をいくつも抱えています。いつ反乱が起きるとも限りません。
・たとえ中国が今のペースで今後10年発展しても、世界的な覇権国家にはなれません。
 米国が弱体化しても、中国以外にも多くのパワーが存在しているからです。
 
ものづくり太大国日本、新ステージへ
・ガラパゴス化の一番の問題は、必要な機能にプラスする付加価値の選択に問題があると
 いう点でしょう。もちろん、それは重大な欠点かもしれません。しかしいま、日本のも
 のづくりが抱えている困難の根本にあるのは、「高品質過ぎること」ではないように思
 えるのです。
・携帯でいえば、韓国は日本製品から、その国のニーズに合わない不要な機能を削って、
 必要な機能は備えつつ価格は半分という商品を生み出しています。
・韓国の手法は極めてシンプルです。日本製品というお手本を徹底的に模倣し、ターゲッ
 ト層のニーズをこれまた徹底的に調べ上げて、「あなたの好み」のスパイスをまぶして
 魅力的に演出するのです。日本がジャパン・ブランドの人気に慢心している間に、韓国
 はマーケティングにいそしんでいました。その結果がいま見えてきているということで
 しょう。
・日本では、韓国のK-POPが大人気ですが、そのアイドルの作り方、見せ方は徹底して
 いて、日本をしのぐほどのレベルまで育て上げています。それは製造業の構図ととても
 よく似ています。
・日本も小さな島国ですが、GDP世界三位の経済力と1億2700万人という、なまじ
 っかな人口があるゆえに、国内向けだけでもある程度はやっていけます。内需に頼れる
 からこそ、国内に特化した携帯電話が誕生し、十分商売になったわけです。しかし、グ
 ローバル化した市場では、半年の決断の遅れが致命傷になりかねません。薄型テレビを
 いち早く安く量産できる態勢に持って行ってあまりか市場を攻略した。
・日本企業の出足の遅さは気になります。その原因は何なのでしょうか。まず、サラリー
 マン社長が多いのが理由の一つと言われています。雇われ社長だと、トップダウンによ
 るすばやい意思決定ができない。巨大な投資をして決算書の習字が悪くなるのを嫌う。
 まずは安全に国内で試してから海外に出ようとする。そうした決断力不足と過小投資の
 せいで、日本企業が海外での生産量や価格競争に豆ているという図式です。
・新幹線といえば、「一番中枢の技術まで丸ごとよこせ」という中国の要請に対して、
 JR東海は「それはできない」と拒否して降りています。ところがJR東日本は「はや
 て」の技術を供与しました。中国がいま持っている最先端の技術は、そうやって海外の
 先進国から供出させたものです。
・どうしても見せたくない技術は、ブラックボックス化して売るという方法を考えるべき
 でしょう。ビジネスは力関係なのです。 
・日本がこれから目指すべきは、ガラパゴス携帯をどううるかといった商品マーケティン
 グではなく、開発した新技術を使うことで実現するシステムから丸ごと売るという発想
 でしょう。と同時に、そrてを実現するプロモーション能力ではないでしょうか。
・世界的に国が企業の国際競争を支援する傾向が強まる中、日本が国際商戦で、なかなか
 いい評価を得られないのは、日本企業のPRベタと通じる何かがありそうです。政治家
 に求められる資質も、時代と共に変わってきています。ビジネス感覚を持つ政治家の登
 場が待たれます。
 
今か、未来か? 明日を決めるのはあなた
・ギリシャはたった33兆円の借金で破綻しかけました。日本は現在900兆円です。ギ
 リシャどころではありません。日本人は赤ちゃんから高齢者まで、まんべんなくならす
 と1人約700万円もの借金をしている計算になります。
・日本の場合、日本国債の95%は国内投資家が保有しています。言うなれば身内から借
 りているわけで、海外が大騒ぎする必要がありません。その一方、日本には豊富な金融
 資産があります。個人が持っているお金を全部ひっくるめると、ざっと1400兆円と
 言われています。この1400腸炎のうち400兆円は借金なので残りの1000兆円
 までは、いざとなれば、この金融資産を使えば、国の借金は返済可能です。借金しても
 国民のお金で返済できる金額とみなされているのです。また、政府が持っている米国債
 も、いざとなれば売ることができる金融資産。
・深刻なのは、世界に誇る日本の貯蓄率が低下していることです。しかも、かなり急激に。
 それはなざでしょう。貯蓄額が多いのは言うまでもなく高齢者です。日本では団塊の世
 代が現役を引退する時期を迎え、一気に無職の世帯が増えました。その人たちが家計の
 足しにするために、老後資金として貯めていた預金を切り崩し始めたのです。
 この先の労働人口の減少や、企業部門で予測される黒字の減少などを考えると、楽観的
 な予測はあまりありません。海外から資金流入がなければ、新規国債の資金調達は難し
 くなります。いまのペースでゆくと、10年以内に日本の銀行は新たに国際が買えなく
 なる見通しという計算もあります。
・アメリカの格付け会社として有名なスタンダート・アンド・プアーズはついに日本の国
 債をスペインよりも低く格下げしました。しれでも海外各国より平静を保っていられる
 のは、ただただ国債の買い手が国民であるから。日本国内で消化しきれなくなれば、日
 本の国際は暴落し破綻の道を走り出してしまいます。
・いまもすでに家計が苦しく、福祉による救済を求める人が増えています。しかし、この
 ままでは10年後の自分や子どもたちはいま以上の負担を抱えることになります。みん
 なで痛みを分ち合うのなら、未来より今のほうがまだラクなはずです。
・子ども手当の目的は、ヨーロッパの先進国に比べて非常に低い日本の子育て世代への支
 援を是正して、次世代の社会を担う子ども一人ひとりの育ちを社会全体で応援すること。
 また、安心して出産し、子どもが育てられる社会を作ることです。その理念は画期的で
 した。しかし、子ども手当は、その財源も覚悟されていないのに、毎年2兆円を超える
 政策です。そもそも子ども手当は、社会保障なのか経済援助なのか、はたまた景気対策
 なのか、政策の狙いがはっきりしない点にも批判が集まっています。
・イギリスでは消費税率が17.5%から上がって20%になりました。イタリア20%、
 フランス19.6%、ドイツ19%、高福祉高負担の代表とされる北欧諸国では、スウ
 ェーデン、ノルウェー、デンマークなど軒並み25%です。こうしたヨーロッパ諸国の
 消費税率は、各国の政治家や国民が現実から逃げずに立ち向かってきた結果です。日本
 はいま消費税を5%から210%に引きあげることに賛否両論ですが、こうした高い消
 費税率をみれば、日本が消費税を10%に引き上げても、本当は焼け石に水なのだとい
 うことがわかるはずです。
・実は、消費税の10%引き上げを前提として、現在の日本の年金制度は設計されていま
 す。これを決めたのは2004年。当時の自民党・公明党の連立政権は、「これで年金
 制度は百年安心」と宣伝しました。このとき、財源はどうするということになり、5年
 後に財政の手当てをすると約束しました。つまり、「5年後に消費税を上げて、年金の
 財源にします」と確約したのです。そのとき、これを決めた総理大臣や厚生労働大臣は
 いない。これこそが先送りの構造です。年金制度というのは、まさに先送りの典型なの
 です。
・老大国イギリスは、危機に直面すると、若いリーダーを選んで危機を乗り越えようとす
 るのです。アメリカのオバマ大統領も40代、あの溌溂した働きぶりは、若いからこそ
 できるものです。カナダやスペインの首相も40代、フランスのサルコジ大統領は52
 歳で大統領に就任しました。これに対して、日本の総理大臣は、ご存知のとおりです。
 60代、70代の人が総理大臣になるのでは、政治家としては、もはや「上がり」です。
 最後のお務めが無事に終われば万々歳です。自分の首相在任中さえつつがなく過ごせれ
 ばいい。そんな守りの姿勢にもなろうというもの。新しい政策や大胆な改革は、生まれ
 にくくなります。
・民主党が掲げた「政治主導」、考えてみると、不思議な言葉です。政治家が、ものごと
 を決めるのは当たり前。それが政治家の仕事だからです。当たり前のことを、わざわざ
 目標として掲げたことで、とんでもない勘違いが生まれたような気がします。政権を撮
 った後、「政治主導」という言葉に縛られて、大臣たちは、本来官僚が担当するべき細
 かい仕事まで、すべて自力で解決しようと動いたからです。その結果、本来すべき大事
 な決断を考える時期が失われ、急いで判断しなければならないはずの課題が、次々に先
 送りされてしまいました。
・官僚たちに、ある程度の自由度を与えて、さまざまな方針や対策を考えさせる。つまり、
 知恵を出させるのです。その上で、政治家が決断する。これが本来の政治主導のはずで
 す。官僚を使うこなすのが、本来の政治主導なのです。
・日本に消費税を導入したのは、竹下登元首相です。竹下首相は、総理大臣の座を賭して
 消費税を導入し、ボロボロになって官邸を去って行きました。自民党の支持率はがた落
 ちでしたが、もしあのとき消費税を導入していなかったら、いまの日本の財政はもっと
 大変なことになっていたはずです。当時は厳しく批判された彼も、いまでは高く評価さ
 れるようになっています。
・国民が、そこまで見て政治家の資質を判断することは難しいものです。政治家のダメだ、
 役人がダメだと批判するのは簡単ですが、実際にその当人と会って話をしてみると、な
 るほどと納得させられることも多いもの。そこで問われるのがメディアの報道です。政
 治家や官僚を批判するのはたやすいこと。しかし、それが往々にして、批判のために批
 判になっています。批判するのはいいけれど、では、どのようにすべきなのか。それが
 見えないまま批判したところで、解決には結びつきません。実は、批判いている記者自
 身がとうすべきなのかわかっていないことが大半です。記者が勉強不足で全体を把握で
 きないまま、個別の瑣末な出来事を批判する、よくある光景です。
・単なる政局報道なら、簡単に面白おかしく報道することが可能です。でも、対立する政
 策の違いをわかりやすくことは面倒です。記者がしっかり勉強しておかないと、記事が
 書けません。かくして、安易な政局報道ばかり流れて、国民は政治家の言動に失望しま
 す。今後の日本がどちらの道に進むべきかという政策に関する論争をきちんとわかりや
 すく伝えること。それが、政治家の資質を見分けることのできる国民を育てることにな
 るのです。
 
あとがき
・私たちはすでに、あらかじめ決まっている答えを探すのではなく、正解のない答えを自
 分なりに考えて見つけていく時代に入っています。日本がかつて貧しかった時代、アメ
 リカやイギリスなどの先進国の政治や経済の仕組みを導入すれば、それなりに国づくり
 ができました。先進国の大企業の経営方式を学び、その手法を真似していれば、それな
 りに企業は発展しました。
・しかし、日本が先進国のトップにたどり着いたことで、日本より先を進むお手本の国の
 姿は見えなくなりました。お手本がない時代に突入したのです。これからは、私たちが、
 模索しながらお手本を作っていかなければなりません。
・社会が大きく変化しているときには、何が正義なのか、それが分からなくなるときもあ
 るでしょう。正解は、人によって違うはずです。しかし問題提起をすることに意味があ
 ります。自分の頭で問題を咀嚼し、足りないパズルのピースを探す過程で、いろいろな
 立場の人の、いろんな意見と出合います。そのことが大事なのです。そして、確信は得
 られないとしても、そのときの自分なりの答えを出して見ることが大事なのだと思いま
 す。
・自分に余裕のあるときに他人に親切にすることは、そう難しいことではありません。
 問題は、限られたものの中でやっていかねければならないときに、誰が、何を、どれだ
 け得るのか、大変厳しい配分をせざるを得なくなります。
・「お前の肩で荷車を支え、牛を追い立てなさい。そして、じれが肝心だ。自分で何もし
 ないで、神頼みなどしてはならない。今後はそのような祈りは一切無駄であることを肝
 に銘じなさい。」
・国民が税金を出し合ってお互いを守り合い、あるいは税金以外の面で助け合い、国が弱
 者をしっかり守る日本であるためには、まずは一人ひとりが荷車を支えて牛を追い立て
 るしかありません。いまの私たちにそれができなければ、この先の日本人には、より一
 層の負担をかけるだけです。