最貧困女子  :鈴木大介

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我々はまず、「貧乏」と「貧困」が違うというところから、認識を新たにする必要があり
そうだ。どちらも低所得であることには違いないが、両者には決定的な違いがあるという。
貧乏でも幸せな人はいるが、貧困で幸せな人はいない。
アベノミクス政策で、確かに株価は上がった。大企業は潤った。大企業の正社員もボーナ
スが増えたところが多いかもしれない。
「富めるものが富めば、貧しいものにもいずれ富は滴り落ちる」とする安倍政権の政策の
下で、まったく社会から顧みられることもない人々が、社会の底辺でうごめいている。
「国民を守る」と胸を張る安倍首相にとっての「国民」とは、お金持ちの国民のであって、
社会の底辺にいる国民は、国民のうちには入らないらしい。こんな社会が、我々がめざす
社会なのか。アベノミクスを認めることは、こんな社会を認めることにもなるのではない
のか。

まえがき
・働く世代の単身女子の3人に1人が年収114万円未満である。とくに10〜20代女
 子に貧困が集中している。働く女性の貧困、特にシングルマザーに集中する困窮状態の
 数々。
・そもそも貧困とは何か。僕なりの考察では、人は低所得に加えて「三つの無縁」「三つ
 の障害」から貧困に陥ると考えている。三つの無縁とは、「家族の無縁・地域の無縁・
 制度の無縁」だ。家族の無縁とは、困ったときに支援してくれる家族・親族がいないこ
 と。地域の無縁とは友達の無縁にも置き換えられるが、苦しいときに相談したり助力を
 求められる友人がいないこと。制度の無縁とは、そもそも生活保護の捕捉率が非常に低
 いことに代表されるように、社会保障制度の不整備・認知度の低さ・実用性の低さのこ
 と。貧困とはひとつの条件で陥るものではないから、これがオーバーラップして人は貧
 困に陥るのだと考えている。一方で三つの障害については「精神障害・発達障害・知的
 障害」と考える。
・世の中には、こうした分類・分析・議論から外れたところで、目も当てられないような
 貧困の地獄の中でもがいている女性、そして未成年の少女たちがいる。セックスワーク
 (売春や性風俗産業)の中に埋没する「最貧困女子」。それが、僕が見てきた最も悲惨
 な風景だった。
・三つの無縁と三つの障害を、合わせて4つも5つも抱えているような女性もいた。にも
 かかわらず、彼女らは貧困問題の議論から除外されてきたとしか思えないばかりか、常
 に差別と無理解と糾弾の対象だった。なぜなら彼女の貧困、抱えた苦しみや痛みは、
 「可視化されていない」のだ。そしてセックスワークには、この不可視状態を作り出す
 要因、そして貧困女子を最貧困女子へと引きずり込む引力、さらには本来彼女らを救う
 べき支援者や社会制度に対する斥力までもがあった。
・見えづらい、分かりづらい、面倒くさい、そんな「最貧困女子」を、忘れないでほしい。
 見捨てないでほしい。見下さないでほしい。

貧困女子とプア充女子
・貧困と貧乏は違う。貧乏とは、単に低所得であること。低所得であっても、家族や地域
 との関係性が良好で、助け合いつつワイワイとやっていければ、決して不幸せではない。
 一方で貧困とは、低所得は当然のこととして、家族・地域・友人などあらゆる人間関係
 を失い、もう一歩も踏み出せないほど精神的に困窮している状態。貧乏で幸せな人間は
 いても、貧困で幸せな人はいない。貧乏と貧困は別ものである。
 
貧困女子と最貧困女子の違い
・「出会い系シングルマザー」たちの陥った貧困の凄まじさは、ほぼ全員に共通するもの
 だった。「三つの無縁と三つの障害」の体現者だったとも言える。まず第一に親や親族
 の支援を得ることができない、もしくは親を養っている状況にある。第二に、メンタル
 を病んでいたり、不遇な生い立ちから教育を受ける機会を逸しており、安定した職に就
 けない。そして第三に、公的・民間の支援に繋がりにくい事情を抱えていることだ。子
 供を手放すことを極度に恐れていたり、子供に対する地域の差別が怖くて生活保護など
 の公的支援を受けられない。手続き事が極端に苦手で、納税や各種支払いが滞りがちと
 いう共通点もある。第四の共通点は、非常に強い恋愛依存体質だ。セックスを代償に現
 金を得るという行為は売春そのものだが、彼女らの感覚では相手の男は「客」ではなく、
 その場しのぎでも生活を支えてくれる「サポーター」であり、その中からもし本当の恋
 愛に発展できる相手がいればという、一縷の希望でもあった。
・彼女らは売春ワークに関与することで、やはり自ら社会の批判の対象となってしまって
 いた。ただでさえ今も世間には貧困状態にあるシングルマザーへの無理解と糾弾が満ち
 ている。なぜ働けないのか。生活保護を受けたり、児童扶養手当や所得税の寡婦控除な
 どを受ければ、他の低所得層と比較しても暮らしにゆとりがあるのではないか。そもそ
 も他の所得があるのに生活保護を不正受給しているのではないか。離婚したのは自己責
 任であり、頼れる人がいないのは本人のパーソナリティに原因があるのではないか。な
 どの、彼女らの八方塞がりの状況を直視すれば、とても口に出せないはずの言葉が、世
 の中にはたくさん渦巻いている。
・痛みも大きさも、そもそもその存在自体も、可視化されていない。分かりづらい。一見
 すれば本人の自己責任に見えるし、差別や批判の対象となりがちである。以上が、セッ
 クスワーク周辺者となった貧困女子が、様々な支援のチャンスや接点をふいにして、
 「最貧困」へと陥っていく所以だ。
・だが、セックスワークと貧困には、さらにもっと深い闇がある。元々貧困状態になかっ
 た女性が何らかの原因で貧困女子となった場合でも、生まれ育ちからして貧困状態にあ
 った未成年の少女などの場合でも、セックスワークの世界には彼女たちを「吸引」し、
 貧困の状態の中に固定していく構造があるのだ。
 
最貧困少女と売春ワーク
・「家のない少女たち」や「援デリの少女たち」ははどの貧困やネグレクト、身体・精神
 ・性的虐待などのある劣悪な家庭環境に育ち、親元(多くはひとり親家庭)・児童養護
 施設・里親・預けられた親族などの居場所を自ら捨てて、路上生活に入り、そしてセッ
 クスワークへと吸収されていった。
・なぜ家出生活を送る少女の多くが性風俗・売春の世界に吸収されていくのか。他にも道
 はあるだろうし、結局は自ら選んだことではないのか。だいたい、そこまで過酷な環境
 で育った少女なら、その前に警察や福祉行政が捕捉しているはずではないのか。ワーク
 としての性風俗業は、一攫千金の勝ち上がりのチャンスでもあるはずだが、それで貧困
 から抜け出せないなら、稼いだお金は何に使ってしまったのか。たとえ親の貧困があっ
 ても、虐待があったり、児童養護施設育ちだったりしても、全ての少女が家出少女にな
 るわけではないし、中には施設から高校、大学に進学して一般企業へ就職するケースも
 ある。「そうまでして頑張っても結果貧困」というケースが問題化しているのに、頑張
 る前に逃げ出した少女が貧困に陥るのは自明の理だ。それは「本人が望んだ」「自己責
 任」ではないのか。少女が置かれた状況に対してまったく理解がないからこその声だが、
 こうした容赦ない指摘こそ、意味がある。
・大きな寂しさと疎外感をかかえた中、身近に似たような境遇の子が数名もいれば、彼女
 らは寄り添って集まる。そして、一番居心地がいい(親が帰ってこない・夜中まで友達
 が家にいても何も言われない)家を、たまり場にする。とはいえ、たまり場に食べ物が
 置いていなければ、空腹は満たされない。そこに万引きが発生するのは、ある意味必然
 かもしれない。 
・問題は、補導時の対応だ。基本的に、警察の少年課や地域の少年補導委員、児童相談所
 などは、万引き少年少女の補導時には親や施設の先生などの保護者を呼び出すという、
 杓子定規の対応しかしないことがほとんどだ。確かに少しは話を聞いてくれるから、少
 女としても「この人は頼れるかも」と淡い期待を抱くが、最終的な対応である「保護者
 の呼び出し」「虐待する親のいる家や居心地の悪い施設への送還」は、彼女らにとって
 の裏切り行為となる。これがいけない。
・子供にはまったく興味のない親であれば呼び出しを無視し、子供はいっそう寂しさを募
 らせることになる。虐待をする親であれば、呼び出しはさらに虐待をエスカレートさせ
 るキッカケだろう。小中学校や児童養護施設等の先生といった保護者の代理にしても、
 万引きを繰り返して呼び出しを受ければ、子供にキツく当たらざるを得ない。
・家出少女らはまず地元で近しい境遇にある者同士で同年代コミュニティを作る。その寂
 しさや欠乏状態を「地域の縁」としての同年代コミュニティで補うわけだ。だが実はこ
 こで、大きなどんでん返しがある。こうして地域の縁の中に吸引された少女らが、なぜ
 か売春ワークへと取り込まれてしまうケースがあまりに多いのだ。というのも、そうし
 たコミュニティでは年長者の中に既に売春・援交行為をしている者が少なくない。家出
 生活ほどの経済的な逼迫状態にはないものの現金には飢えているため、はじめは「売り
 子」として下着を売ったり、先輩から紹介された男相手の売春をしてみたりもする。も
 ちろん初めは怖いので「友達や先輩と一緒に」というのも典型的なケースだ。発展して
 これが、年長者が年下の少女に売春客をつける「援デリ業」となるケースもある。
・大都市の路上を彷徨ったり街角に座り込む少女には、実に様々な人々が声をかけてくる。
 一例が、明らかに買春目的の成人男性だが、他にもホスト、スカウト、ナンパ師、居酒
 屋キャッチなど路上に常駐する人々。さらに、場合によっては風俗嬢や水商売系など家
 出少女らと近しいエピソードをもった女性が、「こんなとこ居たら補導されるよ」と声
 をかけることもある。孤独と不安と混乱の只中にある少女らにとって、こうした接触者
 は一種「拾う神」に見えるかもしれない。だが、少女がここで本気で家出生活を継続し、
 地元に戻る気がないと相談したらどうか。ここに、セックスワークへの道が開ける。
・まず買春目的の男やナンパ師などだが、大前提として少女らにとって売春とは、現金を
 得ると同時に「一時の屋根の確保」する手段だ。宿泊場所として売春相手と泊まるホテ
 ル、ナンパ師や買春男や泊め男の自宅というケースが相当数あった。ラブホテルに泊ま
 るために、ほぼ365日毎日売春していたという滅茶苦茶な少女の話もあった。苦痛だ
 が、最低限「その日の宿」はここで確保できる。    
・最も善意の理解者である風俗嬢や水商売系などの女性は、少女らを一時的に自分の部屋
 に止めてくれることが多いが、実の娘や妹のように「養って」くれはしない。自らの食
 い扶持は自らで稼ぎ、少しは家賃を納めることを要求してくる場合もある。
・風俗嬢・スカウト、ホストやナンパ師で、本来の業務で十分に稼げていない者の中には、
 こうした少女と接点を持った時点で、この少女を使った援デリを開業するケースも少な
 くない。 
・路上を彷徨い、現金収入のあてもない家出少女らの側からすれば、彼らセックスワーク
 の周辺者は、いわば「路上のセーフティネット」だった。ここで忘れてはならないのは、
 本来の居所から飛び出してきて、もしかしたら保護者から捜索願を出されている可能性
 もある少女にとって、自力で賃貸住宅を契約したり、自分名義の携帯電話を入手したり、
 履歴書に住所を書かなければならない一般的なアルバイトをすることは、ほぼ不可能だ
 ということだ。彼ら「路上の支援者」はこうした少女らの状況を、よく理解している。
 そして言うまでもなく、彼らは少女を地元に強制送還しようなどとはしない。彼らは最
 終的に搾取者になろうとも、少なくともこの時点では少女らにとって非常に肌触りの良
 い、私的なセーフティネットを提供してくれているのだ。
・現代の大都市部には何も持たずに路上に出ていた未成年の少女らに対し、最低限の生活
 のインフラを整えてくれる存在がある。それはセックスワーク周辺に集中しており、そ
 の他の業界周辺で同じ光景は見られない。これは、それこそ戦後の戦災孤児少女にとっ
 て赤線などの売春産業が生き抜くための糧となった頃から、貧困と性産業が常に隣接し
 ていた証左であり、名残なのではないかと思う。
・実はこうした「路上の支援者」には、元々家出少女らと非常に親和性の高い特質がある
 ことだ。家出少女ら同様に生い立ちの複雑な風俗嬢や水商売系女性が家出少女の理解者
 であるのはわかりやすい理屈だが、実はスカウトやホスト、ひいては買春男までもが、
 少女らと一定の親和性を持っている。例えばスカウトやホストは、元々親の貧困や虐待
 など、複雑な家庭環境に育った者が多い。いずれも学歴や前職不問で、就業に資格条件
 はなく、本人の努力次第で自立の道筋がつけられる業種。いわば「歓楽街の肉体労働」
 だが、不遇な生い立ちを持つ少女らにとっては「初めて出会った私と同じ痛みを持った
 人」と感じさせるシーンも多い。 
・一方でホストクラブ、メンキャバ、サパーの男子従業員で典型的なのは、「病み営業」
 だ。いわゆる「メンタル病んだ男子」を装って女性客を取り組む方法だが、実際彼らの
 中には家出少女らと同じような悲惨な成育歴を持っていて、「装い」ではなく本格的に
 メンタルを病んでいる者が少なくない。手首がリストカットでザクザクだったりもする。
 家出少女からすれば、こうした男子との出会いは「運命」。同じ痛みを抱えた者同士で
 依存し合い、「一緒にいてほしい」とか「今晩一緒にいてくれないと俺死んじゃうかも
 しれない」などと言われれば、少女としてもこれ以上承認欲求が満たされる経験もない
 だろう。
・経営者側からすれば、病んだ男子と女子が惹かれ合い、そこで「会えるのは基本的に店」
 という縛りだけつけておけば、自動的に店にお金が落ちるシステムでもあり、いわばこ
 れがホストの経済学なわけだが、孤独の中にある少女にとって「今晩、私が一緒にいた
 おかげで、あなたは生きていられた」というのは、代え難い成功体験だ。
・最悪なことは実は「買春男」もまた、少女らにとって理解者になることがある。様々な
 タイプがいる買春男だが、彼らの中にはかなり高所得層で、知的にも高い水準の男が少
 なくないということだった。なぜそうしてまで未成年の買春にこだわるのか?彼らにと
 って家出少女の性を買うことは、一種の自己実現となっていた。いわば彼らは「にわか
 カウンセラー」なのだ。「これこれこういう風に女の子の話を聞いてあげたら、女の子
 は感動した」という話を自慢げにする。少女らの境遇に一定の理解を示している自分に
 も満足・陶酔している。そこには選民意識もあり、「自分らだけが彼女たちの苦しみを
 知っている」「精神的・金銭的なサポートをし、何らかの力になっていっている」「児
 童福祉の人たちより、僕たちのほうが、よっぽど子供の貧困現場を、女の子たちの本音
 を知っている」ということを平気で言うのだ。大人なら、やれることはたくさんあるは
 ずなのだ。少女らの置かれている状況をそこまでわかっているなら、なぜ金を払ってセ
 ックスするのか。少女の生い立ちを聞いて涙したという買春男もいた。そこで涙を流す
 メンタルがあるなら、なぜ涙と一緒に精液を垂れ流し、彼女らのセックスを買うのか。
 目先の性欲で動く彼らは、結局支援者などになれないし、下手をすると少女に買春相手
 を見つけてやる「援デリ彼氏」のほうがよっぽどマシな支援者に感じた。 
・家出少女が最悪の貧困状態から脱出できるケースの第一が「恋愛成就型」だ。援デリな
 ど売春ワークの中に取り込まれた少女らの中から一足先に卒業するのは、まず容姿や性
 格的に「一緒に住める彼氏がすぐできる」少女らだった。そして相手は意外にも「援デ
 リ客」ということが多い。第二「独立起業型」がある。これはいわば「自らが援デリを
 経営できる知的水準をもっている」少女らだ。元々路上生活でできた彼氏が少女に客を
 つけることで発生する「零細援デリ」では、この少女が他の少女を集めて自ら経営者に
 なるケースであった。また、援デリ業者に雇われて働いていた少女が頭の良さを見込ま
 れて「自分の部隊」を持つケース。働いていた少女にアウトロー属性の彼氏ができて、
 彼を「ケツもち」にして独立部隊を立てるケースなどがある。第三は、「夜職デビュー
 型」だ。18歳未満の状態では、アンダー店やミテコOKのキャバクラなどにもぐり込
 む。そして18歳の誕生日と同時に風俗店やキャバクラなどのナイトワークの世界に正
 式デビューするというもの。これは少女らにとっても自然な成り行きで、彼女らを支援
 するセックスワーク周辺者も望むことだろう。こうして路上生活者だった少女らは、
 「最貧困少女」から脱出していく。しかし、おうした勝ち抜けをしていける少女らは、
 ほんのひと握りに過ぎなかった。
・売春からの脱出先を合法の性風俗を求めようとも、そこで問われるのは「顔お良し悪し、
 胸の大小、体重の重い軽い」。ここで彼女らはセックスワークの現実に直面することに
 なる。飲食ではコミュ力の強弱も問われるし、本番行為を伴わない性風俗業では「挿入
 をせずに男を射精させるための技術」も求められる。ハナからこうした自己資産を持た
 ない少女には、セックスワーク・ナイトワークの中で貧困から抜け出せるルートは閉ざ
 されていく。となれば、路上のセーフティネットにも疑問は湧く。
・どれほど悲惨な生い立ちを抱えていようと、「デブで不細工で性格がゆがんだ少女」は、
 初めから彼らの救済対象にはならない。まだ見てくれが幼いうちは、援デリ業者などに
 斡旋したり、自ら小遣い稼ぎで買春男をつけてやるぐらいのことはするかもしれないが、
 彼らは商品価値のない少女に対しては、あくまでドライである。結局のところ、こうし
 た条件に当てはならない少女の多くは、最底辺を彷徨い続けることとなる。18歳を過
 ぎて風俗ワークに就けたとしても、労働対価と待遇の最悪な「激安店」中心。未成年だ
 からというだけで一定の客がつく援デリも、少女らが大人びた容姿になるに従って見放
 されがちになる。何の支援もない中で家出し売春ワークに取り込まれ、一時は「私には
 売れる身体があるんだ!」という矜持を育てることができた少女も、「売れない自分」
 に病み、貧困の中に埋没していく。  
・「貧困女子」、配偶者などからのDV被害、家庭問題、多重債務、様々な事情から大都
 市部の繁華街に飛び出してきて半ば路上生活に入る女性にとっても、セックスワークは
 一定の吸引力と、不確かなセーフティネットという意味合いを持っている。そして一歩
 その世界に足を踏み入れたが最後、容姿やパーソナリティで残酷な仕分けをされる。そ
 の痛みは不可視となり、貧困は固定化されていく。だが昨今、この「不可視状態」をさ
 らに見えづらくする状況が生まれてきている。それが「セックスワーカーの新勢力」の
 台頭だ。 

最貧困女子の可視化
・貧困女子というキーワードが広まるにつれ、地方都市を中心として、昼には一般職を持
 ち週に数回だけ性風俗業でバイトをする女性が増えているという。  
・本当に普通の子が風俗に来るようになったと言いますが、今も昔もある程度抵抗はあり
 ますよ。でも、求人のかけ方とスタッフの腕も上がっていますからね。媒体の段階では、
 「エステです」「手こきのみです」で募集して、まず面接に来る分母を増やします。さ
 らに入店直後は店の身内の客を打ち込んでもらうんですよ。それで楽だし優しい客ばか
 りだし、夜職悪くないじゃんて思わせて、ここで、じゃあデリヘルだったら給料倍つく
 よって提案する。  
・ついに日本もそこまで来たかだ。拡大する低所得層の中、昼の正職だけでは生活できず、
 風俗に副収入を求める女性が増えている。それは悲壮な風景ではないか。
・しかし彼女たちは「選ばれた人たち」でもある。面接で聞く昼職のほうは、それこそ飲
 食、美容、派遣、介護から製造業まで、どの職種が多いってありませんが、少なくとも
 容姿とメンタルの部分で、面接を通ってるわけですからね。いま地方都市は、箱の風俗
 店は完全に閑古鳥で、都心から進出してきた全国規模のグループもほぼ撤退の状況。ア
 ベノミクスなにそれ?ですよ。デリヘリも大型チェーンでないかぎり採算とれませんし、
 何より「美人揃いで全員本番OK」っていう韓国系デリヘリが台頭してきていますから、
 対抗するこちらも容赦なく面接落とします。
・セックスワークの「上層」を見ると、その中にある貧困が見えなくなる。低所得層の拡
 大によって「地方週一デリヘル嬢」などが市民権を得ていけば、より一層その底にある
 貧困に苦しむ女性は可視化されてなくなってしまう。この傾向は、今後一層格差社会が
 進行していく中で、より強くなっていくだろう。そして何より、プロ意識の高い風俗ワ
 ーカーからすれば、売春ワークに固定された最貧困女子は、攻撃対象・差別対象になっ
 てしまう。いよいよどん詰りだ。
・実は少女を取り巻くセックスワークは、大人のセックスワークよりも複雑怪奇なのだ。
 いわば「性の売り方の多様化・複雑性」が半端ではない。その理由は、未成年の性風俗
 が違法であることで、法を逃れる業態が多様化していること。加えて順法意識や倫理観
 の未発達、その他の収入手段が少ないことから、参入障壁が低いことが挙げられる。
・苦言を呈せば、メディアの責任も大きい。例えば目立つ買春事件や「セックスワーク」
 に絡む少女の被害」などが事件化して、各種メディアが当事者取材をしたとすればどう
 か。短期間の当事者取材でヒットするのは、「大多数」の中の誰かという可能性が高い。
 そこに明確な困窮状態がなければ、「なるほどこれは性の秩序崩壊だ」という結論付け
 られてしまう。最後に「インターネットや携帯サイトなどが子供の性被害の入り口にな
 っているんですよ」的な訳知り顔の識者のコメントがくっついて、コメンテーターが
 「怖いですね、他人事じゃないですね」とまとめて、はい終了。これでは「最貧困女子」
 は埋没化・不可視化するばかりだ。
・セックスワーカーをモチベーションで分類すると
 ・サバイブ系:生き抜くため、貧困の中で生きるため
 ・ワーク系 :女を売るため、職人的意識
 ・財布系  :単に財布の中身が寂しいときの副業として
・未成年のセックスワークをそこに参入する少女のモチベーションで分類すると
  ・援デリ業(独立系):彼氏経営、カップル経営、地元同世代経営など
  ・路上売春:繁華街での座り待ち、深夜営業飲食店での声かけ待ち
  ・援デリ業(組織系):大都市部外縁エリアに発達
  ・出会い系フリー:出会い系サイトやLINE、SNSなどのツールを使い個人的に
  ・愛人契約:個人売春だが相手の男と定期的に会う契約
  ・出会い喫茶:出会い系喫茶の入店し売春相手を見つける
  ・売り子:ネットの無料掲示板で使用済み下着などを売る物販系援交
  ・個撮モデル:ネットの「個人撮影モデル掲示板」などを自ら書き込みカラオケボッ
   クスやホテルなどでヌード撮影
  ・チャトレ:ネットの会員制チャットで性的なやり取り
  ・アンダー店:未成年と分かっていても雇用する風俗店
  ・亜風俗店:JKリフレ、JKお散歩などのアキバ系風俗など
 ・サバイブ系に近いほど、彼女らのセックスワークは売春そのものとなっていく。理由
  は明白で、貧困と困窮の度合いが高ければ高いほど、少女らは短期間に大きなお金を
  必要としているからだ。家出少女の場合は補導を免れて安心して泊まれる場所の確保
  に、まずお金がかかる。三食外食、服は着潰せば洗濯ではなく買い換える。お金を払
  わなくとも住む家がある少女らとは、置かれた環境が根本的に違う。
・一方ワーク系に近いほど、彼女らは「業」の中に取り込まれている。財布系については
 全体の景色を曖昧にしてしまうので「遊びなら止めてください」と思ったりもするが、
 「三つの障害」には当てはまる少女が多い傾向もあるので、単に批判もできない。ワー
 ク系は農業社会、サバイブ系は狩猟採集社会に置き換えることもできるような気がする。
   
彼女らの求めるもの
・彼女らが共有するのは、貧しさよりも「寂しさ」ということだった。ひとり親世帯がこ
 れほどまでに増え、共稼ぎ世帯が当たり前となった昨今では、「家に帰っても誰もいな
 いし、食事の用意ができていない」という状況は、もはや一般的なものとなってきた。
 子どもたちにとって、寂しさはもう当たり前のものだ。まず必要なのは、ひとり親世帯
 の経済的支援、これは言うまでもない。経済的余裕とは、すなわち子供と過ごす時間そ
 のものだし、余裕のなさが虐待や育児放棄の大きな要因なのは、これまた言うまでもな
 い子供の抱える寂しさは、ある程度制度で補填できるものだと思うのだ。加えて求めら
 れるのは、「居場所ケア」とでも言うべき支援だろう。例えば現状では放課後の小学生
 の居場所作りとして学童保育があるが、昨今少子化にもかかわらずこれの満員問題が噴
 出している。また、小学校低学年を対象としていて、小学4年生で通えなくなるという
 ケースも多い。委託時間が17時までと限られている場合が多く、おやつ以外に「夕食
 サービス」があるところは少ない。結局、親が夜の職業をしていれば閉館後の孤独は変
 わらない。
 ・路上生活状態にある少女が何よりも求めているのは、ひと時でも良いから何者にも怯
 えず何者にも自由を奪われずに「ゆっくり寝ることができる場所」。実はこれしかない。
 もう、余計な指導・詮索は受けたくないし、相談すらしたくない。ただ何も言われずに
 自由に休める場所が欲しい。これが家出少女らから聞き取った、彼女らの最大の希望だ
 った。  
・多くの家出売春少女を取材した中では感じたのは、彼女らが常に「自由とリスク」を天
 秤にかけているということだった。劣悪な環境の親元を飛び出して売春ワークに入り、
 日々の売春は苦痛だし危険だが、元の環境に戻るよりは自由がある。どこまで苦痛に我
 慢できるのか、彼女らはそんな限界チャレンジを続けながら、次第に消耗していき、抜
 け出せない貧困の中に固定化さいれていくように見えたのだ。
・警察や補導員によって彼女らが捕捉された場合について、昨今聞かれる「売る側の少女
 にも罰則を」といった言説はあまりに無理解で無意味のため論ずる価値もないと思うが、
 願わくは「補導はチャンス」と言えるようになってほしい。地元児童福祉も何もかも振
 り払って逃げてきた少女らにとって、補導は最悪の事態であったとしても、制度との再
 接近に他ならないからだ。現状は「地元児童相談所」に連絡→親権者・保護者の元に戻
 す」が大前提であり、歩道が重なったり他に窃盗や障害など余罪があったり、他の少女
 に対する使役関係があれば、児童自立支援施設や家庭裁判所への送致もある。これでは
 一層彼女らは社会から遠いところに追いやられ、孤立し、その痛みや貧困は不可視化し
 てしまう。確かに彼女らは手に負えない非行少女なのかもしれないが、本質的には被害
 者なのだ。 
・現状の性風俗業は許可制ではなく届出制であり、開業のための審査や「欠格事由」が存
 在しない。これもそもそもいかがわしい業である性風俗業は規制こそすれ管理監督する
 必要はないという判断か。だからこそ、現状では明らかに劣悪な環境で女性を働かせた
 り「性被害」と言っていいような現場に女性を送り込んだりといった無法状態がなくな
 らないわけだ。
・家出少女らが総じて恋愛に対して非常に貧欲であるのは、愛情や触れ合いを渇望しなが
 ら育ったという背景以前に、少女らが「恋愛や結婚に成功すれば、おの状態から抜け出
 せる」と本能的に察しているからかもしれない。それは決して経済的な依存願望などで
 はなく、孤立無支援という戦場のような日常を送る彼女らの危機回避行動のように思え
 るのだ。

あとがき
・世の中で、最も残酷なこととはなんだろうか?それは、大きな痛みや苦しみを抱えた人
 間に対して、誰も振り返らず誰も助けないことだと思う。そんな残酷は誰もが見たくは
 ない。道端で倒れて七転八倒している女性がいれば、多くの人が手を差し伸べるだろう。
 だが、その女性が脂汗を拭きながらも平然を装っていたら?声をかけても「大丈夫です
 から」と遮ってきたら?睨み返してきたら?その女性との間に一枚の壁があったら?人
 々は通り過ぎるだろう。さらにその女性が何か意味不明なことを喚き散らしでもしてい
 れば、人は目を背けて足早に歩き去るかもしれない。助けてくださいと言える人と言え
 ない人、助けたくなるような見た目の人とそうでない人、抱えている痛みは同じでも、
 後者の痛みは放置される。これが、最大の残酷だと思う。