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アベノミクスと言われる安倍政権の経済政策は、「リフレ政策」である。物価目標を掲げ
て、日銀がおカネををどんどん市場にばらまき、物価を強制的にどんどん上げれば、人々
は物価が上がる前に買っておこうという行動に出て、需要が増え、景気が良くなるという
政策とのことだ。しかしこれは、お金持ちの発想だ。お金持ちではない一般の人々は、物
価をどんどん上げれば、ますます将来に不安を抱き、ますます倹約に走るのではないのか。
これでは、景気が良くなるどころか、かえって景気低迷を招くのではないのか。この政策
では、確かに株価や不動産などは上がる。しかし、実体経済には、なにももたらさない。
金融市場で資産バブルが起きて、終わりになるだけだ。そしてバブルは、必ずはじけて崩
壊する。今の天文学的な財政赤字を抱える日本において、バブルが崩壊したときにはどう
なるか。考えただけでも恐ろしい。

はじめに
・なぜ、インフレを意図的に起こすことである「リフレ政策」が悪いのか。日本経済が崩
 壊する可能性があるからだ。それは、リフレが国債を暴落させるからである。国債が暴
 落するのは、円安と名目金利上昇となるからだ。国債が暴落すれば、国債を大量に保有
 している銀行は、経営破綻に追い込まれる。このときに、国債が暴落しているから、政
 府が銀行に資本注入して救済しようとしても、その資金を調達するために発行する国債
 を買ってくれる人がいない。それを日銀に引受させようとすれば、それはさらなる国債
 暴落を招き、銀行の破綻は加速する。
・リフレ政策をとるとハイパーインフレが起こるというのは確かに極論であり、間違って
 いる。リフレ政策は、インフレをいったん起こしてしまうと、そのインフレが制御不能
 になってしまうことが問題なのではない。インフレを起こさせないのに、インフレを起
 こそうとすることが問題なのだ。インフレが起きないのに、インフレを起こそうとすれ
 ば、歪みだけが蓄積する。その歪みが副作用という言葉を越えて、日本経済を危機に追
 い込むことになる。

リフレ政策とは何か?
・米国の量的緩和は、いろいろな資産を買うという政策なのです。非常にわかりやすいで
 すが、世の中で使われるマネーが本当にこれで増えるかは、実は議論のあるところです。
 なぜなら、金融機関が、持っている国債を現金に置き換えて、貸出を増やさなければ、
 世の中のおカネの量は変わらないからです。
・インフレ期待が高まったとき、実際に、みんなお金を持っていてはインフレで損をする
 から、いろいろなモノを買っておこう、というふうに人々は行動するだろうか、という
 ことです。端的に言うと、買うなら、モノを買うのではなく、資産を買っておくのでは
 ないか、ということです。買うのは、株式や投資用不動産となるでしょう。ですから、
 インフレ期待は、金利と資産価格には反映されますが、モノの値段に反映されない。だ
 からインフレは起きないのです。
・日銀という中央銀行を、つまり、日本経済のために専門的知識を駆使して金融政策を司
 ることを目的としてつくられた組織と、その中の金融の専門家である人々を、半ば脅す
 ような形で、金融の専門家でない政治家が思いどおりに動かそうとする。さらに、その
 ような乱暴な政治家たちを、理論的に強く支持する有識者、エコノミスト、経済学者、
 そして、金融市場の投資家たち。2013年1月22日、日銀は政策決定会合で、安倍
 政権の要求をすべて受け入れました。インフレターゲットを導入し、その水準について
 も、首相が具体的に指定する2%をそのまま受け入れたのです。首相本人が個人で、水
 準を公に示して強要するというのは、世界的に見ても例のないことです。

そのとき、日本経済に何が起こるか?
・景気をよくするためにインフレにしたい、ということなのですが、現実世界において、
 インフレになる、つまりモノの値段が上がるためには、景気がよくならないといけない、
 ということなのです。景気をよくするためにインフレを起こすこと、それは無理なので
 す。つまり、因果関係が逆なのです。
・所得が増加しないなかで、物価が上昇すると、買い手はお金がありませんから、物価が
 上がった分、節約して消費を減らします。それでも支出総額は同一です。使うお金は同
 じ額で、手に入るモノは減りますから、かれは不幸になります。景気は悪くなります。
・円安による原油、資源価格の上昇が今の日本で起きても、それが賃金上昇や企業の大幅
 値上げに繋がらないと思われるため、大幅なインフレは今の日本ではどうやっても実現
 しないのです。原油などの輸入品のコストが円安により直接上昇する分だけインフレに
 なると思われます。原油などのエネルギーが日本の輸入の3分の1を占めます。このほ
 か、食料や他の資源の必需品、つまり、国内で生産できず輸入でしか入手できないもの
 で、大幅に値上がりしても買うのをやめることができないものを含めると、2分の1に
 なります。

円安はどのようにして起こるのか?
・日本は貿易立国、輸出国家だと思われていますが、それも大きな間違いで、今は大きな
 貿易赤字を抱えています。つまり、輸入のほうが輸出よりもはるかに多い。しかも、輸
 出はドル建てのものより円建てのもののほうが多く、円高の影響を受けていない製品が
 多いに対し、輸入の多くは円安デメリットが直撃する。つまり、円高のほうが、経済全
 体ではるかに得なのです。
・中央銀行は歴史的には、インフレを起こさないという目的でつくられました。ですから、
 基本的にはインフレ退治が中央銀行のおもな仕事です。しかし、経済における金融市場
 の圧倒的影響力が世界的に拡大するなかで、財政政策の効果は低下し、金融緩和による
 景気浮揚に頼るようになってきました。その結果、中央銀行は、景気の加熱からのイン
 フレを抑えると同時に、金融政策による金融市場のコントロールを通じて景気回復を図
 ることも目的とするようになってきたのです。
・過去の悪い円安局面では、円安、株安、債券安のいわゆるトリプル安で、日本売りの様
 相を呈していました。現在は株高ですから、完全な日本売りではなさそうですが、債券
 が下落すると、日本経済はすぐに危機に陥る懸念が出てきますから、債券価格、つまり、
 国債価格には注視が必要です。
・円安で注意しなければならないのは、国債価格の下落、すなわち、名目金利の上昇なの
 です。逆に言えば、これさえ起こらなければ、リフレ政策でも何でもやってかまわない
 と言ってもいいくらいです。安倍政権のリフレ政策宣言以降、その名目金利が上昇して
 いるわけですから、この円安株高を手放しで喜ぶわけにはいかないのです。

円安で日本は滅ぶ
・円安は、現在の日本経済にとってはよくありません。長期的には間違いなくそうです。
 ただし、短期的には円安がいい可能性があります。
・日本政府は、今や名実ともにダントツの世界一の借金大国です。そして、その着金を金
 融商品として取引きするのが日本国債ですから、市場で暴落が起きると騒がれるのも当
 然なのです。
・日本の機関投資家たちは、豊富な資金の運用先に悩んでいます。流動性が高く、多くの
 資金を投資でき、運用の説明責任も果たしやすい国債は、非常に魅力的です。また、投
 資管理コストも低い。
・融資するとなるとリスクだけでなく、監視コストや事務コストもかかる。これは低金利
 になればなるほど、重要になってくる。事務コスト、監視コストでそれぞれ融資の1%
 かかるとすると、低金利の恩恵で資金調達コストが1%未満でも、3%の融資では利益
 がほとんど出ない。これが、国債ならば買うだけですから、利ざやが悪くても、必ずプ
 ラスになります。ですから、日本国債は運用先として、とても魅力的です。
・円安は、それ事態が国債価格の暴落を意味します。

リフレ派の二つの誤り:その1インフレは望ましくない
・インフレで賃金が上がるのではありません。下がるのです。名目賃金を引き下げられな
 くとも、インフレ率が上昇することにより、実質的な賃金の引き下げができます。つま
 り、賃金以外のすべてのモノの値段が上昇すれば、実質的に賃金が下がったのと同じこ
 とになるのです。だから、賃金の名目額が引き下げられない状況では、インフレ率がプ
 ラスである程度高いほうが、実質の賃金カットを進めやすい。
・今さらなんだよと思われるかもしれませんが、デフレの定義を、ほとんどの人が間違っ
 て使っています。デフレとは、「継続的な物価の下落」のことです。継続的というのは、
 一時的な下落ではないということです。物価とは普通の消費者物価を意味しますから、
 我々が日常、買うものの値段が下げり続ける、それがデフレです。物価が継続的に下落
 していても、そのこと自体は悪いことではないのです。
・なぜ人々は、物価が下がる「デフレ」が悪いと思い込んでいるのでしょうか。それは、
 価格が下げるという現象だけを意味する「デフレ」を「景気が悪い」という意味で誤解
 して使ってしまっているからです。
・不況と物価の下落については、同じものでも、同時の起こるものでもありません。不況
 という状況のなかでは、結果的に物価が下落し続けるということなのです。つまり、因
 果関係が逆で、物価が下がるから不況になるのではなく、不況の場合には、通常であれ
 ば、モノが売れないから、売る側としては、値段を下げることになる。つまり、物価が
 下がるのです。
・現在の企業の投資の減少は、将来の需要に対して悲観的であるために、設備投資などを
 手控えていることなどによるものです。おカネが借りやすいかどうか、借り入れコスト
 が安いかどうか、というのが投資の決定的な要因ではないのです。もし、投資の資金調
 達コストが下がって投資を増やすとしても、企業などへの融資は増えず、企業などへの
 融資は増えず、国際や海外の国債、社債への投資が増えるだけなのだと思われます。つ
 まり、実体経済へおカネが回らず、金融市場におカネが流れるのです。
・今、もしインフレになって、企業の収益が多少上がったとしても、企業がその分、賃金
 を上げるでしょうか。考えられません。どんなに雇用を大切にする企業であっても、せ
 いぜい雇用を維持することがやりやすくなるくらいです。つまり、解雇を減らすという
 効果がある程度で、とてもとても賃金を引き上げる環境にありません。もし余った利益
 があるならば、将来、解雇しなくてすむように貯めておくでしょう。でも、そのような
 殊勝な企業は少数派で、多くの企業は、増えた利益は利益として計上し、株主に配当す
 るか、あるいは海外への投資に回すでしょう。
・株主への配当も、海外への投資も悪くはありませんが、賃金上昇とはなりません。です
 から、インフレと賃金の上昇が完全に連動することはあり得ません。賃金が上がらない
 のです。インフレは、賃金上昇なき企業の利益増加、株価上昇ということになるだけで
 す。
・一般的なインフレーションでは、多くのモノの値段が上がるわけですから、生涯の所
 得が減るのであれば、今から少しずつ倹約しなければなりません。日本経済の将来は依
 然として不安で、公的年金の将来の支給額の減少や将来の消費税の増税などを考えると、
 さらに不安になってきます。ですから、現在、デフレに対応して広まっている節約生活
 が、一時的な不景気対応ではなく、生涯にわたるものになります。日本の消費者の大多
 数は、倹約家になり、インフレの下で景気はさらに悪化することになるのです。
・駆け込み需要を促すような役割をマイルドなインフレが果たすためには、給料、所得も、
 インフレに連動して同じ額だけ上がらないといけません。同時に、消費者は、十分に所
 得または資産があって、お金が余っている人でないと、モノの値段が上がってしまう前
 にあらかじめ買っておこうとは思いませんから、駆け込み需要があるとしても、それは、
 相当のお金持ちだけの話なのです。
・インフレを起こしても駆け込み需要は起こらず、景気がよくならないだけでなく、かえ
 って景気を悪くします。駆け込み需要の刺激を狙うインフレは、実は景気には大きくマ
 イナスなのです。
・エコポイントという制度がありました。エコに資する家電を購入すると、非常に多額の
 ポイントがもらえるというものです。エコポイントは政府の予算で補助金的につけたも
 のですから、人気がありすぎて、予定よりも早く予算が尽きてしまい、打ち切りになっ
 てしまいました。そもそも企業のビジネスモデルがグローバル競争のなかで通用しなく
 なっていたのに、下手にエコポイントなどで需要を政策的に持ち上げてもらったために、
 危機への対応が遅れ、取り返しのつかないことになってしまいました。もし、エコポイ
 ントなどによる救済がなければ、危機が顕在化し、改革や再編への動きが2年早く起き
 た可能性がありました。政策により、企業の衰退が早まってしまった可能性があるので
 す。エコポイントを導入し、自画自賛している政治家がいるとすると、その人は、まっ
 たく経済も経済政策も理解しておらず、最も危険な人物ということになります。
・駆け込み需要は、単なる先食いです。将来必ず買うと決めている人が、今買ったほうが
 将来買うよりも安い、あるいは得ならば、今買うということです。ですから、その分、
 将来の需要は減ります。
・物価が下落するには理由が必要です。そして、それは需要不足です。マクロレベルでも、
 ミクロレベルでもそれは同じです。企業は売れないから、価格を下げる。経済全体で需
 要が弱いから売れないので、すべての企業は価格を下げる。だから、全体的な価格が下
 落し始める。つまり、物価が下落する結果、景気が悪くなるのではなく、景気が悪いの
 で、需要が弱く、その結果が物価の下落となるのです。ですから、デフレスパイラルと
 いうのは存在しないのです。
・物価が下がるから景気が悪くなるのでも、価格破壊競争が起きるのでもなく、所得が下
 がり、景気が悪くなっているので、需要が弱く、価格競争が厳しくなり、物価も結果と
 して下がるのです。ですから、デフレスパイラルは起きないのです。そして、不況の継
 続を止めたいのであれば、所得を増やして、需要を増やす以外に方法はありません。そ
 の結果、売り上げも増えます。
 
リフレ派の二つの誤り その2:やはりインフレは起きない
・インフレが起きないようにするための知恵として中央銀行が生まれました。政府が勝手
 におカネを発行しすぎないようにするためです。政府が支出するために、増税も国債発
 行による借金もままならないときに、簡単におカネを入手する方法として、単におカネ
 を大量に発行してしまうという誘惑は昔から存在しました。
・貨幣を信用できない。貨幣を保有しているのは危険だ。貨幣を発行している政府の勝手
 な都合で、資産の目減りがいつ起こるかわからない。そういう状況では、経済的取引を
 貨幣で行うことはできませんし、貨幣がなくなると基準がなくなるので、借金も融資も
 投資も何もできなくなってしまい、経済は衰退します。紙幣の場合は、さらに悪い。物
 理的には無限に刷ることができますから、起こるインフレも激しくなります。
・政府が勝手に、貨幣を大量発行してしまう。そうするとすごいインフレになってしまっ
 て困るから、それを抑えるために、中央銀行をつくった。それでも、貨幣を安易に増や
 してしまう誘惑に負けないのはなかなか難しい。そこで、中央銀行の独立性という難し
 い概念を確立して、ようやく一世紀をかけて、なんとか機能する機構をつくり上げた。
・日銀の独立性とは何か。それは、政治、あるいは政府からの独立性ということです。政
 府に貨幣の発行を任せると発行しすぎてしまうということから、あえて、別の組織とし
 て政府の外につくったのが中央銀行。政府の意向の影響を中央銀行が直接受けては意味
 がない。それで、政府の意思決定プロセスとは独立の組織となるようにしたのです。し
 たがって、政府の短期的な意図、意向、願望から独立でなければいけないいのです。
・日本は議院内閣制という極めて権限が集中しやすい制度を採っています。誤解が多いの
 ですが、議院内閣制のほうが、大統領制よりも権力がトップに集中しており、いわゆる
 決められる政治が実現しやすいのです。なぜなら、大統領制の場合、米国に見られるよ
 うに、選挙で選ばれた大統領と、選挙で選ばれた議会の多数派とが、異なった政党にな
 る可能性が高いからです。日本では、衆議院と参議院の多数派が異なった政党になる、
 いわゆるねじれが問題になっていますが、米国はいつもねじれています。
・日本では、衆議院の多数派をとった政党が内閣総理大臣という政府のトップを決め、そ
 のトップが自分で、内閣を構成するすべての大臣を選ぶわけですから、すべての権力が
 首相に集中します。日本の首相は米国の大統領よりも偉い、いや権力が強いのです。
・インフレが起きるかどうかは、需要が強いかどうかにかかっています。そして、需要の
 強さは、所得に応じます。ですから、雇用が増え、給料が上げれば、需要が増え、その
 結果、物価も上がってきますが、そうでない限り、物価は上がりません。所得が上げる
 とは思えない環境のなか、物価上昇などあり得ないのです。唯一、物価が上げる可能性
 があるのは、輸入インフレです。そして、この輸入インフレは、国内の要因とは関係あ
 りません。唯一関係があるのは、為替安、つまり、円安誘導を金融政策によって行う可
 能性です。 

それでもリフレを主張するリフレ派の謎
・インフレにしていいことはひとつもありません。給料が上げらないのに、インフレにな
 ったら、生活できません。インフレになって、円安になったら、ガソリンも上げるし、
 パンもパスタも、イタリアやフランスのブランド物も高くなってしまいます。株式など
 の資産も名目では上がっているような気がしますが、ドルで見れば暴落している、とい
 うことになります。
・自宅の資産価格も下がります。一瞬、名目資産価格が上がって喜んだのも束の間、実際
 に売ろうとしても、売れなくなってしまっていることに気づきます。金利が高くなりま
 すから、買い手がつきにくい。
・それだけではありません。企業も買収され尽くされるかもしれません。すべて奪われる
 かもしれません。円安で、大バーゲンになってしまいます。
・企業どころか、人も流出するでしょう。海外の企業がドルベースで給料を払ってくれれ
 ば、円建ての国内の給料の何倍にもなるでしょう。メーカーの技術者は引く手あまたで
 すあら、日本社会、日本の街が好きでも、給料の高さに負けて、海外に行く人が増える
 でしょう。優秀な人ほど出て行くでしょう。
・政治家の一部は、他人のせいにするのが好きなんです。日本が悪いのは官僚のせいだ。
 とくに財務省が悪い。日本を支配して悪くしている。経済が悪いのは日銀のせいだ。
 官僚が自分たちの権限を守るためや責任逃れをするために改革を阻む。このロジックは
 単純でわかりやすく、経済も金融も何もわからなくても、主張できる議論です。
・同時に、政治家の多くは、日本が好きです。何もわかっていませんが、日本が好きです。
 日本はすごいはずだ。過去の素晴らしい日本を取り戻さないといけない。しかし、現在
 はそれを誰かが阻んでいる。それは官僚や日銀だ。このロジックはわかりやすいうえに、
 自分の日本への愛を確かめるべく気合を込めて攻撃できるので、充実感もあります。
・安倍首相は、純粋に経済学を勉強してみて、たまたまリフレ派の人から金融政策を教え
 てもらって、新鮮だったのだと思います。その教えを素直に信じた。そして、その教え
 がわかりやすかった。デフレで物価が下がっている。それはおカネが足りないからだ。
 それならおカネを刷ればいい。そのおカネをぐるぐる経済で回せば、景気が戻ってくる。
 そのシンブルなロジックに感動したのだと思います。わかりやすい。そして、米国もや
 っているのに、やっていないのは日本だけだ。日銀だけだ。その議論も心強いです。
 このロジックは勇ましいし、日本への愛にもあふれています。自分は責任感もあるし、
 責任をとる、かれら、日銀を動かすのは俺の責任だ。わくわくしますよね。政治家とし
 て。リーダーとして、男として。
・経済理論についても金融政策についても深い見識のない政治家たちが、いわば呪術的な
 政策、日銀批判、リフレに飛びついたのは、しかたがない面もあると思いますが、エコ
 ノミストと言われる有識者と思われる人々の間でも支持している人が多いのです。これ
 はいったいどういうことでしょうか。それは株価が上がるから。株だけではありません。
 不動産も盛り上げります。金融資産はみんな上がるんです。国債および安全性の高い債
 券以外は全部上がる。ですから、金融市場、とりわけリスクのある資産の市場に依存し
 ているいわゆる市場関係者は大喜びです。
・おカネがあふれることはいいことじゃないか。おカネをあふれさせる。それはリフレそ
 のもので、やはりリフレはいいんじゃないか。そう思われるかもしれません。しかしそ
 れは誤りです。経済がよくなるため、という点からすると、経済は悪くなります。なぜ
 か?おカネが金融資産市場にしか行かなくなるからです。金融緩和の効果は、資産市場
 にしか及ばない。資産バブルが起きて終わりです。
・これは、実体経済への融資や投資よりも、金融商品への投資が有利になるので、あふれ
 たおカネをすべてこちらにつぎ込みます。しかし、それは金融市場だけのバブルですか
 ら、何も実体経済にはもたらさない。設備投資も消費も増えません。そして、バブルが
 崩壊すれば、またたいへんなことが起こるだけです。 
・現役の米国の有力な研究者で、リフレを支持する人はいません。金融緩和を支持する人
 はいますが、インフレをあえて起こすリフレを支持する人などいないのです。

リフレ派の理論的な誤り
・公共事業をやみくもにやると。補正予算も、多少無駄なものでも、とにかく十兆円以上、
 思い切った規模で財政を支出すること。景気は気から、気分を前向きに高揚させる政策
 をとること。これらにより、景気がよくなると思っている人が多いようです。典型は、
 麻生大臣ですが、そこまで極端でなくても、多くのエコノミストも、景気を刺激すれば、
 経済は再び成長軌道に戻ると思っているようです。これは根本的に誤りです。これらの
 政策は、伝統的なケインズ政策だと思われており、みなが信じていますが、今の日本で
 は逆効果、長期的には日本経済にマイナスです。
・今は、人口減少、経済の成熟化で、成長力自体が落ちていますから、将来成長しない、
 という見通しは変わりません。したがって、消費も投資も動きません。そしてそれが正
 しい行動なのです。金融政策も同じです。おカネのやり取りが活発になれば、気分が変
 わってお金を使うようになる。いったん、みんなが使い始めれば、縮小均衡から抜け出
 し、成長率の高い正しい均衡に戻る。そういう発想でやっていますが、それは起きませ
 ん。将来の所得が伸びないから、今の無駄遣いをしない状況が正しいからなのです。だ
 から、孫に資産を移しても、景気はよくなりません。消費してしまったり、無駄な公共
 事業をしてしまったら、無駄なものと借金が残るだけです。

円安戦略はもう古い
・経済学的には、通貨は高いほうが基本的にその経済にはプラスなのです。自国の資産は
 ほとんどが自国通貨に連動していますから、国富の増大とは、通貨価値の上昇にほかな
 らないのです。 
・弱い通貨を持つと、その国の金融市場は、さらにたいへんなことになります。海外から
 借り入れをする場合は、ドルやユーロで借りることになりますが、弱い自国通貨ですと、
 返済の実質額がどんどん膨らんでいきます。自国通貨が安くなっていくので、いくら稼
 いでも、通貨の下落に追いつかず、返済は不可能になってしまいます。
・ギリシャのように実質破綻して、過去の国債を返済できなくなった場合には、過去の借
 金をすべて帳消しにして、借金ゼロからのスタートとする手もあります。しかしギリシ
 ャの場合であっても、元本40%程度は返済することにしました。なぜなら、借金帳消
 しだけでは駄目で、さらに新しいお金、将来のための資金を今借り入れる必要があるか
 らです。ところが、元本をまったく返済しない国、そういう姿勢すら見せない国など、
 どこの国も、どこの投資家も相手にしてくれません。こうなると、将来への投資がまっ
 たくできなくなってしまいます。再スタートすら切れなくなってしまうのです。
・通貨が安いほうがいい、というのは古いのです。時代は変わりました。1980年代か
 ら世界経済の構造は変わったのです。右肩上がりの時代は終わり、低成長時代に入りま
 した。通貨安競争、輸出競争こそが、21世紀の今も日本の戦うツールと戦場だと思っ
 ている人が多いのですが、それは現実とはまったく異なります。
・世界の先進国は低成長時代を迎え、低成長、つまり年々所得の伸びに限度があるのであ
 れば、これまでに蓄積した国富を有効活用しよう、膨らませよう、という時代に入りま
 した。
・戦後成長を続けてきた先進国は十分に蓄積を行い、国富が非常に大きくなりました。こ
 うなると、日々フローで稼ぐよりも、ストックをどれだけ有効に活用するかのほうが、
 所得にも生活にも大きく影響してきます。
・1500兆円の個人金融資産があるのなら、これらの利回り、つまり、投資による利益
 率が1%から3%に増えれば、利益額は15兆円から45兆円へ30兆円も増えます。
 名目GDPは480兆円程度ですから、30兆円増えるということは、GDP成長率で
 言えば6%以上の成長となります。成長率を1%上げることもほぼ不可能な現状ですか
 ら、これはたいへんなことです。貿易で日銭を稼ぐ時代から、蓄積した資産を運用、活
 用の時代に入ったのです。
・いまや、金融市場、資産、ストックの時代なのです。今、格差社会が話題になるほど格
 差が目につくようになったのも、所得格差よりも資産格差が大きくなり、しかもそれが、
 貴族などではなく、ふつうの人々お間で大きくなって、日常的に目に入るようになった
 からです。金融市場で儲ければ、日本一素晴らしい住居が誰にでも買える。それは、普
 通の人が資産を持ち、同じふつうの人である我々と圧倒的な経済格差を持ち、それが日
 常にあふれるようになったということです。資産市場が発達し、資産が流動化すること
 により、固定された階層の貴族、名家から金融投資の成功者へと、超富裕層も流動化し
 たのです。時代は変わったのです。通貨は安いほうがいいというのは、1970年代ま
 での古い常識なのです。 
・日本はもはや超成熟経済国家です。高齢化ばかりに話題がふられますが、これまでのノ
 ウハウなど蓄積がものすごい。経済にとって大きな財産が蓄積されています。同時に、
 日本文化やライフスタイルが、世界的に貴重で価値のあるものだと思われています。今
 や、日本そのものの価値、社会の価値はものすごいものなのです。つまり、ノウハウと
 いう、ビジネスにそのまま役立つものだけでなく、文化や社会というものも、実は極め
 て重要な経済的資産なのです。ライフスタイルも含めて、それは、日本の企業の底力、
 消費者の能力の高さ、労働力としての人的資本の価値に繋がっています。そして、これ
 らの貴重な資産は、経済的には、円またはドルで金銭的に評価されます。ですから、こ
 の評価をグローバルには下げることになる通貨安というのは、問題外なのです。通貨を
 安くして韓国と競争するという発想自体が時代遅れであり、おかしいのです。
・日本の問題点は、韓国と同じ土俵で勝負していること。あるいは、勝負をしていると勘
 違いをしていること。そこにあります。そして、韓国のような国は世界中にたくさんあ
 ります。それらすべての国と戦うのは、美学としてはいいかもしれませんが、無理です。
 本来日本が有利な土俵ではありません。日本のよさが最大限発揮できる、きちんと利益
 が出る土俵で戦うべきなのです。
・日本の土俵とは、今から大規模投資して、コスト競争、品質競争をするような分野、ス
 タイルではなく、ソフトの戦いとなる土俵。つまり、人間のアイデアや文化、ライフス
 タイルの厚み、歴史、独自性が発揮されるような分野です。そういう分野に力を入れて
 稼ぐべきなのです。
・大事なことは、通貨安競争をすれば日本は負ける、ということです。日本よりも成熟度
 の低い国、資本蓄積の低い国は資産が少ないですから、通貨安で失うものが、その分少
 ないので、思い切って通貨安競争ができる。日本の場合は違います。下手に通貨を安く
 したら、上場企業がドル建てで見たら割安になってしまう。あとから追いかけてくる国、
 時分たちではとうてい日本が築き上げたノウハウを生み出せない国が、カネでノウハウ
 の詰まった企業を買ったり、優秀な技術者を高い年俸で雇ってしまったりするのです。
 ですから、日本は通貨安競争などするべきではない。日本以外の成熟国で通貨安競争を
 している国はありません。
・グルーバル企業とは何か。グローバル企業とは、ドルで経営戦略を考える企業。そうい
 う企業のことです。米国だけが、世界ではありません。しかし、通貨においては、ユー
 ロの登場により相対化が進んだといってもやはり基軸通貨はドルなのです。とりわけ金
 融市場においては、すべてはドルです。そうであれば、ドルをどれだけ増やすか。それ
 を軸に据えた企業。それがグローバル企業なのです。
・コストが安いという理由だけで、生産拠点を移すのは、実はよくありません。なぜなら、
 為替レートは変動するので、一時的なレートの安さでそこを選んでも、高くなってしま
 う可能性があるからです。日本とそれ以外で考えてもそうですが、日本以外の多くの国
 のなかのどこに置くか、と考えれば、すぐにこれは気づきます。生産コストが安いとい
 うだけでは、その国の賃金が上がってしまったら、また拠点を移さないといけません。
 それなのに、労働コストよりもはるかに変動の激しい為替などというものに基づいて、
 生産拠点を新たにつくるというのは明らかに間違いです。
・中国にコストが安いということだけで工場をつくった場合には、中国の労働コストが上
 がったら、ベトナムに移し、そこも上がったらカンボジア、ラオスに移し、次はミャン
 マーに、と永遠に移し続けなければいけなくなります。 

おわりに
・リフレ派の主張する政策では、日本経済をよくするどころか、破綻の危機に追い込んで
 しまう可能性がある。リフレ派の政策が人気がある理由のひとつに、一挙解決願望があ
 るのだと思います。神風が吹くのを願うのが大好きな国民性と言ってもいいですし、政
 治家の大好きな、ガラガラポンが必要という意味不明の幼児言葉で語られる焼け野原願
 望、ゼロからやり直すことに対する憧れ、あるいは、破滅の美学かもしれません。リフ
 レ派をなんとなく支持する人々は、こういった、まったく理不尽な願望が入り混じった
 ものを持っているのかもしれません。何事も、一挙解決の実現は安っぽいドラマのなか
 だけの話で、現実には、困難な問題は地道に解決するしかないのです。
・日本経済にとって必要なのは、雇用です。それ以外はありません。なぜなら、人間こそ
 が、経済を動かす力であり、社会を豊かにするものだからです。
・人的資本の蓄積をもたらす雇用。そういう雇用を増やす。これが唯一の日本経済の改善
 策です。人的資本の蓄積をもたらす雇用とは、働くことによって学ぶ機会があり、やり
 がいを持って働くことができる仕事です。その学びとは、仕事上の蓄積もあれば、人間
 としての成長ということもあります。個人は成長し、充実感を得ることによって幸福を
 感じ、そして何より、働き手として、価値のある労働力になっていくのです。これで日
 本経済は成長します。
・価値ある労働力が増えていけば、その価値が実体化した商品は、今までよりも高く、日
 本でも海外でも売れ、多くの人に受け入れられるようになり、所得も増えていくでしょ
 う。