老いる家、崩れる街  :野澤千絵

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日本は人口減少社会に突入したと言われ、とかく人口の減少の問題だけがクローズアップ
されがちだが、問題はそれだけではない。人口減少に伴い様々な問題が引き起こりつつあ
る。この本は、それらの問題のひとつである空き家問題に焦点を当てている。
最近、少しずつ認識され始めてきた空き家問題。この本を読むと、事態は想像以上に深刻
であることがわかる。空き家問題というと、個人の相続の問題のように意識されがちだが、
根源はそれだけでなく、むしろかつての高度経済成長時代の意識をそのまま引きずってい
る、今の無計画に等しい都市計画や住宅政策に大きな問題があるようだ。
日本はすでに住宅過剰社会に突入しているというのに、経済成長のため「開発」の名の下
に、無秩序にどんどん郊外へと新築住宅が建て続けられているが、それに伴い、それらを
住環境を整備・管理するための自治体の費用はどんどん膨らんで行く一方である。しかし、
それがやがて、空き家が爆発的に増加し「負の遺産」化するという「時限爆弾」となって
いる。そのツケを支払わされるのは現在の世代ではなく、その遺産を引き継ぐ子や孫の世
代なのだ。
この対策として郊外への住宅拡散を抑制し、都市機能や居住機能を中心拠点に集約させる、
いわゆる「コンパクトシティ」政策が提唱されている。しかし、それを実施すると、その
集約拠点に既に住居を持つ人たちはいいが、そうでない人たち、これから新しく住居を所
得する人たちにとっては、新たに購入する住居が割高になるなどの副作用も予想されるた
め、結果的に既得権益者を優遇する政策のなってしまう側面も否定できないのではないか
と感じる。
しかしながら、このような現状を直視し、住宅や都市計画に対する今までの認識を改めな
いと、荒廃した住宅街や街ばかりの負の遺産を後の世代に残すことになり、我々の世代は
後の出代から恨まれることになるだろう。この空き家の問題は想像以上に深刻だというこ
とを再認識させられた。

はじめに
・住宅過剰社会とは、世帯数を大幅に超えた住宅がすでにあり、空き家が右肩上がりに増
 えているにもかかわらず、将来世代への深刻な影響を見過ごし、居住地を焼畑的に広げ
 ながら、住宅を大量につくり続ける社会のことです。
・日本は、こんな人口減少社会にあって、空き家が右肩上がりに増加しているにもかかわ
 らず、都市部では超高層マンションが林立し、郊外部や地方都市の農地エリアでは無秩
 序に戸建て住宅地の開発が続いているのです。
・日本の世帯総数は約4245万世帯ですが、現在、国内にすでに建っている住宅は約
 6093万戸です。つまり、世帯総数に対して、住宅のストック数は16%も多く、数
 の上では、住宅の量はすでに十分足りている状況にあるのです。
・住宅のストック数が増加している理由は、解体される戸数よりも新築住宅の着工戸数が
 大幅に多いからです。
・日本はここ20年間、イギリス・アメリカ・フランスの中で常にトップレベルです。
 2014年の新築住宅着工戸数は、イギリスの2.8倍、アメリカの2.3倍、フラン
 スの1.3倍であり、欧米に比べて新築住宅を大量につくり続けている国なのです。
・住宅の供給側である住宅。建設業界が、特に分譲タイプの戸建てやマンションを大量に
 建て続けている理由は、土地取得費や建築費といった初期投資が短期間で回収できるた
 めに事業性を確保しやすく、住宅を引き渡した後の維持管理の責任も購入者に移るため
 に事業リスクが低いからです。つまり、売りっぱなしで済むからです。
・住宅・建設業界というのは、「常に泳いでいないと死んでしまうマグロと同じ」と言わ
 れるように、基本的には、常に建物をつくり続けないと、収益が確保しにくいビジネス
 スタイルであることも理由の一つです。
・一方、住宅を購入する側も、「住宅は資産」と考える場合が多く、賃貸住宅で毎月、多
 額の賃料を払うよりも、住宅ローンで購入すれば、住宅ローン減税といった優遇措置も
 得られるなど、様々な点で有利など考えがちです。不動産会社の広告によるイメージ戦
 略や巧妙な営業トーク力も相まって、新築住宅の購入を決める方々が多いのです。
・住宅を購入する場合、新築住宅だけでなく、中古住宅という選択肢もあります。しかし、
 日本の中古住宅の流通シェアは約14.7%であり、欧米諸国と比べると極めて少ない
 のです。  
・空き家率は一貫して増え続けています。空き家総数は、この10年で1.2倍、20年
 で1.8倍と、まさに右肩上がりの空き家増加国家が日本という国なのです。
・2025年、人口の5%を占める団塊世代が75歳以上となり、後期高齢者の割合が一
 気に20%近くまで膨れ上がる問題があります。また、2035年前後から団塊世代の
 死亡数が一気に増えると予想されています。住宅の立地や大きさなどにもよりますが、
 団塊世代の死後、相続した世代はすでに実家を離れ、それぞれ自分の家を持っているこ
 とも多く、相続した実家に住むというケースは少なくなっています。そのため、実家の
 売却・賃貸が進まなければ、近い将来、まちのあちらことらで空き家が一気に増えると
 いう、言わば「時限爆弾」を日本は抱えているのです。
・20年度(2035年)には約2150万戸、空き家率は30.2%になると予想され
 ており、3戸に1戸が空き家という将来が待っています。
・住宅のストック数は世帯総数よりもすでに約16%も多く、あと10年もすれば大都市
 部も、世帯数の減少が予想されているのに、国は経済対策や住宅政策の一環として、
 これまでと変わらず新築住宅への金融・税制等の優遇を行い、住宅建設の後押しを続け
 ています。すなわち、日本では、住宅過剰社会の助長を喰い止めようという兆しがほと
 んど見られないのです。
・問題なのは、新築住宅が、居住地としての基盤(道路や小学校・公園)が十分に整って
 いないような地域でも、いまだに野放図につくり続けられ、居住地の拡大が止まらない
 ことです。居住地としての基盤が整っていない地域に新築住宅がつくり続けられると、
 局地的な人口増加に対応するために不可欠な、小学校や道路、公園などへの新たな整備
 費用が必要になるだけではありません。公共施設や道路などの維持管理費、防災対策や
 災害時の対応・ゴミ収集を行うべきエリアが増大し続け、居住地の維持管理にかかる費
 用が「永続的」に必要になります。つまり、居住地の拡大により、多額の税金が投入さ
 れざるを得なくなる無計画性こそが問題なのです。
・高度経済成長期のように、人口も経済も右肩上がりで、大都市部などで住宅が不足して
 いた時代には、居住地の拡大は必要でした。しかし、人口も世帯数も減少する現代、焼
 畑的に居住地を拡大してしまうと、限られた人口や開発需要というパイを単に近隣のエ
 リア同士で奪い合うだけにとどまり、全体として見れば、居住地を維持するために必要
 な税金の支出だけが増大していくという非効率な状況をつくり出してしまっているので
 す。  
・さらに問題なのが、人口も世帯数も減少する中で、住宅過剰社会が深刻化すると、将来、
 住宅の立地や維持管理状況によっては、売りたくても買い手がつかない、税金や管理費
 だけ払うという「負動産」になる可能性があるということです。実際、不動産の多くは、
 もはや財産ではなく、固定資産税や管理費・修繕積立金を支払うだけの「負債=負動産」
 になりつつあると警鐘を鳴らしています。現在でも、住宅の質や立地によっては、売り
 たくても買い手がつかない、貸したくても借り手が見つからない負動産が空き家になっ
 ているケースが続出しています。
・長期的に見ると、住宅を購入していた世代の寿命が尽きた時、子供世代や親族等が相続
 することになりますが、核家族化が進行し、子供世代がその住宅に住まないケースが多
 くなっています。もし、売りたくても買い手がつかず、貸したくても借り手がいないと
 いう場合、空き家の固定資産税や維持管理費が、子供世代に重くおいかかってくること
 になり、将来、その住宅を相続することとなる子供世代に多大な迷惑をかえてしまう危
 険性もあるのです。
・住宅過剰社会では、資産としての住宅の有用性が根本から揺らぎ始めており、住宅が資
 産とされたこれまでの時代とは全く異なるという事実を直視すべきなのです。
・大都市郊外や地方都市では、自治体自身が、他の自治体から人口を奪ってでも、とにか
 く人口を増やしたいという近視眼的な観点から、開発許可基準の規制緩和を行い、無秩
 序に農地をつぶしながら、インフラが不十分なまま、宅地開発や住宅の「バラ建ち」が
 郊外に散らばる事態を助長しています。
・実は、日本の都市計画は、欧米と比べて土地利用の規制が極めて緩い状況になっていま
 す。そのため、財産権の保障といった問題や住民感情を背景に、活断層の真上でも、浸
 水・土砂災害といった災害の危険が予測される区域でも、よほど特別な場合でない限り、
 住宅建設を禁止することはできないのです。
・私たちは、現時点で投票権を持たない将来世代の住宅やまちをつくっています。このま
 ま住宅過剰社会を助長すれば、将来世代に負の遺産となる住宅やまちを押し付けてしま
 うのです。最も迷惑を被るのは、私たちの子供や孫なのです。
・住宅過剰社会からの脱却に向けて、私たちは、空き家を減らす、中古住宅の流通を促進
 する、市場に依存しすぎた新築住宅中心の市場から転換することが必要不可欠です。特
 に、すでにある住宅のリノベーションや建て替えをし、住宅の質を市場性と持つレベル
 に高めたうえ、住宅市場に流通させていくことが必要です。    
 
人口減少社会でも止まぬ住宅の建設
・東京湾岸エリアではすでに、あまりにも多くの超高層マンションが建てられたために、
 居住地として必要な様々な生活関連施設が不足しており、小学校の教室不足や地下鉄の
 ホームが過密になりすぎて危険な状態になるといった問題が深刻化しています。
・近い将来、東京は地方都市に比べて、高齢者の数が圧倒的に多くなることが明らかにな
 っています。そのため、社会保障関連のコストが増大すると、超高齢社会への対応が深
 刻化するのは確実です。このため、今後、東京圏は相対的に貧しくなっていくと指摘さ
 れています。地方圏は東京圏より先に高齢化が進行しているため、高齢者は減少してい
 きますが、東京圏は今後、高齢者が激増し、生産年齢人口が減少していくからです。
・東京では、2010年から30年間で高齢者が53.7%も増えると推計されており、
 今後、老人ホームの増設や医療・介護サービスなどの社会保障関連のコストが莫大にな
 ります。さらに、住民の老いだけでなく、住環境の老いも深刻な問題になっています。
 今から40年以上も前の高度経済成長期に整備してきた大量の公共施設やインフラが、
 総じて老朽化しており、建て替え・更新の時期を迎えているからです。そのためのコス
 トも必要になってきます。 
・東京では今後、社会保障関連のコストと老朽化した大量の公共施設・インフラを更新す
 るための莫大なコストがかかってくるため、これまでと同じような感覚で、公共投資を
 続けることには慎重になるべき時期にきています。公共施設やインフラを新設すると、
 それらの維持管理や防災対策・災害時の対応など、居住地を維持管理するためのコスト
 が「永続的に」必要になることに目を向けることも求められています。 
・超高層マンションは、購入者側もデベロッパー側にも人気があるために、売れるから建
 てられるという状況が続いています。しかし、マンション専門家からは、火災・災害時
 のリスク、多種多様な居住者間の合意形式、高額な維持管理費、大規模修繕や将来の老
 朽化対応など、一般的な分譲マンションに比べて、超高層マンションであるが故に深刻
 化する様々な問題点について警鐘が鳴らされています。こうした様々な困難に直面する
 ことで、超高層マンションは、将来、不良ストック化するリスクがあるとも考えられま
 す。
・火災・災害時のリスクについては、火災時の消火活動の困難さや中高層階の高齢者等が
 避難階段で避難できない、長周期の地震動で建物が大きく揺れることで家具が凶器と化
 するなど、さまざまな点が指摘されています。また、災害時だけでなく、平常時でも、
 設備の配管が破損して水漏れが発生すると、一般のマンションに比べて、修繕工事が大
 がかりにならざるを得ません。
・超高層マンションだけではありませんが、東日本大震災後、首都圏のマンションでは停
 電の影響で、エレベーターが停まる、ポンプが停止して水道やトイレが使えない、エン
 トランスの自動ドアが聞かないといった問題が生じました。要するに、非常時、自らが
 階段で昇り降りできない場合には、高層階で身動きが取れず孤立したり、自宅に戻りた
 くても戻れなくなるという、いわゆる「高層難民」になるリスクが常につきまとうわけ
 です。  
・分譲マンションは、どのような区分所有者がいるのか、区分所有者による管理組合にど
 のような意識・能力があるかによって、将来にわたって建物の維持管理が適正に行われ
 るかどうかが未知数という、極めて不安定な仕組みで成り立っていることも認識してお
 く必要があります。
・超高層マンションについては、一般のマンションに比べて、建物の上層階、中層階、下
 層階で、購入する所得階層が分かれていたり、世代・家族構成が多様なため、管理組合
 が、様々な事情を抱えた区分所有者同士の合意形成を行い、将来にわたってマンション
 の維持管理を行うことが果たしてできるのか、専門家の間でも疑問視する声が多いの
 です。そして、マンションの維持管理を管理会社に丸投げすると、ずさんな管理を場
 当たり的な修繕をされたり、新築時に分譲会社が設定した修繕積立金だけでは大規模修
 繕ができなくなると、資産価格が大幅に下落したり、最悪の場合、管理不全状態に陥る
 危険性さえ懸念されています。
・最終的に超高層マンションの寿命が尽きた時に、区分所有権を解消して解体するという
 合意形成ができるのか、その際の解体費用は捻出できるのかなど、一般的なマンション
 ですら解決できない分譲マンションの終末期問題が、超高層マンションではさらに大き
 くなってどうしようもなくなることも懸念されています。
・分譲マンションは、購入者である区分所有者全員で構成される管理組合が、廊下やエレ
 ベーター、配管などの共有部分(占有部分以外のすべて)の維持管理や補修だけでなく、
 将らにわたって使えるようにするための大規模修繕を行うこととなります。区分所有者
 は、管理規約などを守り、管理費や修繕積立金をきちんと支払うだけでなく、区分所有
 法に基づき全員が管理組合員となるため、総会の決議に加わる「利権」を得るだけでな
 く、マンションの共有部分の維持管理を行うという「義務」が生じます。分譲マンショ
 ンを購入したら、自分は関わりたくないと思っても、管理組合から脱退することはでき
 ません。   
・管理組合の理事会メンバーとなった区分所有者は、管理会社のサポートがあるとはいえ、
 管理組合の業務に時間と労力を割く必要があります。こうした管理組合の活動は、結局
 のところ、数人の居住者のボランタリー精神に頼らざるを得ないのです。今後、入居者
 の超高齢化や多国籍化が進んでいくと、合意形成というハードルだけでなく、管理組合
 のに担い手不足が深刻化することも懸念されています。
・分譲マンションという「共同住宅」に住むということは、建物全体の区分所有者との「
 運命共同体」に加わるということです。分譲マンションの資産価値は、戸建て住宅以上
 に、居住者によって形成されるコミュニティの状況に大きく左右されるというリスクを
 踏めることが重要なのです。
・ひとり暮らしの区分所有者が死亡した後、相続人がわからない、あるいは相続人がいな
 いために、管理費が徴収できないといった問題も懸念されます。特に、超高層マンショ
 ンでは、値下がりしにくい、税金対策になるといった理由により、投資用として購入し
 ている層も多くなっており、新築当時からすでに居住していない空き住戸や賃貸にして
 いる住戸が含まれているケースも多くなっています。
・問題なのは、東京都が、「都心居住の推進」のために容積率等の緩和を可能とした区域
 があまりにも広すぎるということなのです。具体的にいうと、東京都は容積率等の緩和
 を可能にする区域として、駅周辺地区など限定して拠点的に指定するのではなく、おお
 むね首都高速中央環状線の内側と湾岸部のほとんどを含んだ極めて広大(過大)なエリ
 アを指定したのです。その結果、特に倉庫や工場跡地、埋立地の「市街地の開発」と
 「都心居住の推進」を図るためということで、容積率等の大幅な規制緩和が積極的に行
 われ、超高層マンションの林立が進んだわけです。
・特に問題なのが、「都心居住の推進」として必要な住戸タイプや住戸数の将来目標量を
 設定したうえで、その目標量をエリアごとに割り当て、都市計画規制の緩和を行っては
 いけないという点です。つまり、今の都市計画や住宅政策は、超高層マンションで供給
 される住戸数がどんどん積み上がる事態を全体的にコントロールしているわけではない
 のです。 
・所得の高い世帯しか買えない住戸が大変を占める超高層マンションの建設が主目的の市
 街地再開発事業に対して、広場等の創出や保育園の設置などの公共貢献があるとはいえ、
 大幅な容積率割り増しだけではなく、補助金として多額の税金が使われていることに、
 私自身強い違和感を持っています。
・日本はもう住宅過剰社会に突入しています。「都心居住の推進」や「市街地の再開発」
 のためという過去の残像をひきずり、個々のプロジェクトごとの視点だけで規制緩和や
 補助金をむやみに投入し、住宅総量と居住地総量を拡大する時代は終焉しているという
 ことを前提にすべきです。  
・郊外の農地エリアで新築住宅を購入するのは、子供がいる・生まれる若い世帯が多いた
 めに、自家用車を利用すれば、生活には大きな支障を感じていないでしょう。車で少し
 走れば、大型ショッピングセンターやコンビニがあり、ロードサイドには、ニトリ、ユ
 ニクロ、眼鏡市場、ガストなどの全国チェーン店が立ち並んでおり、郊外や地方都市の
 ライフスタイルを支える存在となっています。加えて、アマゾンをはじめとするネット
 通販やスーパーの宅配サービスを利用すれば、まちに出なくてもほとんどのものが手に
 入る時代にもなっています。むしろ、郊外エリアは地価が安く購入価格が抑えられる、
 ガーデニングもできる敷地規模がある、複数台の駐車スペースが確保できるなど、買う
 側のとっては、公害の新築戸建てだからこそのメリットが多いとも感じるでしょう。
 しかし、住民が歳をとって、車が運転できないとうになったとたん、ネットでは賄えな
 い生活の部分に様々な支障が出てきてしまうのは確実です。将来、自家用車の自動運転
 ができる時代が来ると言われていますが、交通の専門家に伺うと、身体能力や判断能力
 の衰えが進行している高齢者が、完全に自動運転で自由にまちを行き来できるようにな
 るのは、どんなに早くても何十年も先になるだろうということでした。
 それでは、高齢者になる前に住み替えたらよいと考えるかもしれません。ところが、住
 宅過剰社会にあって、住宅ローンを払い終わった時期には、売却しようとしても買い手
 がつかない可能性もあり、住み替え自体が難しくなることも懸念されます。
・今後、大都市郊外や地方都市は、空き家化・空き地化・放置化された土地がまだら状に
 点在しながら、「スカスカ」していく、つまり人口密度が低下していくこととなります。
 空いた土地に新築住宅が建てば、新規住民が入ってくるかもしれませんが、既存の住宅
 を除却して、引き続き、その敷地で住宅を建築するという再建築率が10%程度しかな
 いという現状では、あまり期待できません。
・まちに適度な人口密度がなくなると、行政のサービスである救急医療、警察の緊急対応、
 水道の提供、道路の維持管理・清掃、ゴミ回収、はたまた民間サービスである宅配、訪
 問介護、在宅医療などの生活に必要なサービスの提供が、移動時間の非効率さや財源不
 足からこれまでのようにはいかなくなる危険性があります。
・今後、さらに人口低密化が進行すると、これまであったロードサイドの大型ショッピン
 グセンターやチェーン店、地方都市や郊外の暮らしに欠かせないガソリンスタンドなど
 は採算が合わず、複数店舗の統廃合や撤退するところが増え、今よりももっと遠いとこ
 ろに車を走らせなければ暮らしが成り立たなくなるでしょう。  
・公共施設・教育・医療・福祉系施設などの施設も、人口減少・財政難により、統廃合さ
 れ、現在よりも広域エリアを対象とせざるを得なくなるでしょう。鉄道沿線やバス路線
 も、路線の縮小・廃止を迫られ、高校生以下の子供たちの通学にも支障が出てくるなど、
 車に乗れない若者や高齢者の暮らしやすさが一気に低下してしまいます。
・人口減少と人口密度の低下によって、様々な問題がじわりじわりと迫りつつあります。
 長期的に見ると、低密に拡大した郊外の住宅は、住宅単位としての話はさておき、周辺
 の街を含めた住環境として見た場合、今のように暮らしやすいのままであるかは極めて
 未知数であることについて、十分に認識する必要があるのです。
・なぜ、このような焼畑的都市計画が横行しているのでしょうか?それには、他の市町村
 がどうなろうと、自分たちのまちの人口をとにかく増やしたいという根強い人口至上主
 義が影響しています。特に自治体の首長や議員の多くは、「市街化調整区域の規制のせ
 いで人口が増えない、だから都市計画の規制緩和をして新築住宅を建てられるようにす
 れば、人口が増加するのだ」と根強く信じ込んでおられるのです。
・近年、需要が見込めると思えない場所の賃貸アパートの建設が増加するだけでなく、入
 居者がほとんどいない、空き部屋だらけの賃貸アパートも増えてきているのです。全国
 の空き家数の内訳を詳細に見ると、空き家数の52.4%が賃貸空き家となっています。
 そして、賃貸空き家は、年々増えています。その一方で、新たに建設されている賃貸住
 宅の総数は、1年間で35万戸以上もあり、減少する兆しは見えません。
・賃貸住宅がつくり続けられるのは、高齢化や後継者不足などの理由で農業をやめる農家
 の増加に伴い、相続税や固定資産税の節約を目的として、農地などを有効利用して賃貸
 アパート経営をしようという地権者が増えていることもあります。特に、大家が建てた
 物件を業者が一括で借り上げ、長期間、賃貸収入を保証するという「サブリース(転貸)
 」という仕組みを利用して、賃貸アパート経営を行う地権者も増えています。
・賃貸アパート経営は、土地を有効に活用して、相続税や固定資産税の軽減効果や家賃収
 入が得られるなどのメリットが期待されています。更地状態の場合や、マイホームを建
 てた場合よりも、相続の際の土地に評価額が下がるため、相続税の節税に有効と言われ
 ています。また、建物が賃貸される場合、持ち家などに比べて評価額が下がるために、
 固定資産税の軽減に効果的と言われています。さらに、家賃収入があれば、納税のため
 の資金として確保することも可能になります。
・しかし、「30年間一括借り上げ」などというサブリース会社の広告は、あくまでも「
 30年間契約できます」ということであり、最初に設定した家賃が30年間ずっと保証
 されるわけではありません。契約書にも(小さな字で)書かれていますが、実は数年ご
 とに家賃の見直しがなされるのです。その際に、周辺の賃貸アパートの相場状況等によ
 って、減額される可能性もあります。また、サブリース会社からの家賃の減額請求につ
 いて大家が承諾しない場合など、中途解約されてしまう場合もあります。
・サブリースのシステムでは、賃貸アパートの建設を、サブリース会社か関連する建設会
 社で行わせるのが一般的で、多くの場合、サブリース会社は賃貸アパートの建設自体で
 ほとんどの利益を出せるようになっているのです。つまり、サブリース契約は、賃貸ア
 パートの建設を請け負う契約をさせるためのツールとなっている面が大きく、サブリー
 ス会社が何らリスクを負わずに済むという極めて賢い(?)ビジネスモデルとなってい
 ます。加えて、サブリース契約期間中、リフォームや修繕などもサブリース会社が指定
 する建設会社でやらなければいけなかったり、サブリース会社の指示通りにメンテナン
 スしないと契約解除されたりするなど、サブリース会社が損をしない仕組みができあが
 っているのです。  
・サブリース会社は賃貸アパートを建てさせることが主眼であるため、人口が減少し、賃
 貸住宅の相場や入居率も低下する危険性があり、需要があまり見込めない場所であって
 も、賃貸アパートの建設は止まらないのです。
・サブリース会社で賃貸アパート完成後に偽客(さくら)を入居させ、ある程度の期間が
 経過した後、退去させます。入居者がいなくなって大家が不安に思っている隙に、サブ
 リース会社から大家に、今の賃貸ニーズに合わないようだからアパートをリフォームし
 ましょうと持ちかけ、リフォーム工事で儲けるといったことを繰り返し、アパート経営
 にノウハウのない大家から金を巻き上げるという悪徳業者もいるそうです。
・今後、全国的に、相続税対策やTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)などによる農業
 意欲の低下が懸念されることから、農地の土地活用の動きがますます加速する可能性が
 あります。そのため、自治体が、「住宅は工場みたいに害がない」ということで、誘導
 すべき住宅の形態やタイプをきちんと精査せずに、安易に都市計画や建築規制の基準を
 設定していると、需要がないようなエリアでも、たちまち賃貸アパートの建設が増えて
 しまう危険性があると言えます。
・規制緩和によって、賃貸アパートが供給過剰となり、その結果、まち全体の家賃の下落
 や空き部屋の急増といった外部不経済を引き起こす危険性はないのかといった点を十分
 に検討し、都市計画の規制緩和のあり方を抜本的に見直すべき時期に来ているのです。
    
「老いる」住宅と住環境
・大都市から遠い郊外の住宅地の多くで、まちのスポンジ化だけでなく、住宅の使い捨て
 問題、さらには所有者の不在化・不明化問題も見え始めています。そして、最もやっか
 いなのは、住宅や住宅地をつくることは「計画」できるのに対し、住宅の使い捨てとい
 うのが、まちのどこかで、どれくらい発生しているのか事前に予測できない、つまり、
 「計画」できないという点なのです。
・近年、老いた住宅の居住者の死後、相続人がその住宅を引き継いで居住するケースが少
 なくなっているため、全国のいたるところで、老いた団塊の世代の寿命が尽きてしまう
 ある時期から、空き家が爆発的増加する危険性があるわけです。
・全国的には、戸建て等については、駅から近くて便利と思われる立地のほうが、空き家
 率が高いという状況となっています。一方、共同住宅については、駅から遠いほうが空
 き家率は高い。この背景には、大都市では駅周辺から先に開発され、自家用車の普及を
 背景に、駅から遠い郊外へどんどん新たな住宅開発が広がっていった場所が多い。つま
 り、「中心部は古く、その周辺は新しい」というまちが多いことが関係していると考え
 られます。
・これまでの都市計画や住宅政策が、焼畑的に新しい住宅やまちをつくることばかりに力
 を注いできた一方で、駅から近いまちの中心部では、中古住宅として既存の住宅が流通
 したり、リノベーションしたり、古くなった住宅を解体・除却して再建築(建て替え)
 を行ったりすることに力を注いでこなかったということを如実に表しているのです。
・日本の都市計画や住宅政策が、住宅供給を市場原理に任せたままで、これまでつくって
 きたまちの新陳代謝を生み出そうという意識や意欲が不足していたのです。
・老いた住宅に老いた居住者が住んでいるまちが全国いたる所にすでにあります。高度経
 済成長期に大量に建てられた住宅は、当時、働き盛りの世代が購入した場合が多く、現
 在も引き続き、そのまま居住しているケースが多いことが関係しています。新耐震基準
 を満たしていない老いた住宅は、解体・除却して建て替えをするか、あるいは、若い世
 代のニーズに合わせて、耐震改修を伴うリノベーションをするなど、現代のニーズに合
 った良質な住宅へとよみがえらせることができれば、将来世代にツケを残さず、安心し
 て引き継いていけます。しかし、こうした対応ができなければ、居住者の死亡後に誰も
 引き継がれることなく、空き家となる可能性が高いため、老いた住宅は、放置・放棄化
 する空き家予備軍ともいえるのです。
・2035年頃には、団塊の世代の死亡数が一気に増えると予想されます。居住者の死後、
 その住宅を相続した人が引き続き居住せず、賃貸、売却をしない・できない場合、相続
 人がそのまま放置してしまうケースも多いため、「空き家」がどんどん増えていくわけ
 です。  
・親の死後に残されるのは、プラスとなる遺産だけでなく、住宅の質や立地によっては、
 売りたくても買い手がつかない「負の遺産」となるケースがすでに続出しており、「負
 動産」と揶揄されることもあるくらいです・
・思い出のたくさん残る実家を相続して、とりあえず空き家のまま置いておく場合も多い
 ですが、固定資産税などの税金、老朽化した建物等の修理費や雑草の伐採などの空き家
 の維持管理費といった金銭的負担だけでなく、ご近所に迷惑をかけないだろうか?とい
 った精神的負担も大きくなります。そのため、近年、住む予定がない実家の相続を放棄
 するケースが急増しています。この背景には、就職などで都会に出ている人が地元に帰
 らない・帰れないおとから実家の維持管理ができない、固定資産税の負担を避けたい、
 売れない「負動産」を引き継ぎたくない、最終的に必要な空き家の解体費用を負担した
 くないといったことがあります。
・相続を放棄した場合、相続財産に権利を持たないのだから、その財産の管理責任からも
 解放されると思いがちです。しかし、民法に定められているとおり、実家などの相続放
 棄をしたとしても、家庭裁判所によって相続財産管理人(弁護士や司法書士など)が正
 式に選任され、実家の管理を開始するまでは、適切な管理を継続しなければならないの
 です。もし、相続放棄した空き家において、何か事故があれば法的責任を追及される可
 能性もあるのです。ただ、相続財産管理人の選任申し立てには、数十万円もの予納金を
 負担しなくてはいけないため、実際には相続財産管理人が選任されずに放置されてしま
 うことも多いのです。
・購入時、夢のマイホームだった住宅でも、居住者の死後、売りたくても売れなければ、
 最終的に空き家の維持管理・解体費用を誰が負担するでしょうか?そこに待ち受けるの
 は、負担する人を決める「ババ抜き」が始まるという悲しい現実です。住宅は、不要に
 なってからといって、消費財のように大型ごみとして捨てることはできません。
・2015年5月、空き家対策特別措置法」が施行され、自治体は、一定の要件・手続き
 を行えば、倒壊の恐れのある危険な空き家を行政代執行で強制的に解体・除却できるよ
 うになりました。こうした解体・除却にかかる費用は、当然、所有者に請求することに
 なりますが、相続人全員が相続放棄すれば、自治体が負担するしかありません。つまり、
 「空き家」の増加と相続放棄の増加は、自治体の財政圧迫につながる危険性が高いので
 す。
・なお、自治体が行政代執行を行う場合というのは、周囲に危険を及ぼしたり、衛生上の
 問題があるなど、よほどひどい状態のものしか対象にはなりません。また、本来は、所
 有者が負担するはずの空き家の解体・除却費用を税金でまかなうことには住民の批判も
 強く、空き家所有者のモラルハザードを招きかねません。
・今後、居住者も住宅そのものも老いが深刻化してゆくにもかかわらず、老いた住宅を引
 き継ぐ人口自治体が減っていくことから、空き家の解体・除却への税金投入など、社会
 的コストが膨らみ続けることが懸念されます。   
・一般的に、マンションに使用されているコンクリートの寿命は通常であれば60年程度、
 良好な状態を維持管理できれば100年保つと言われていますが、配管などの内部設備
 は30年程度で交換する必要があると言われています。しかし、日本で実際に建て替え
 を実現したマンションの平均寿命は、全国平均で33.4年となっています。つまり、
 日本で初期に建てられたマンションの寿命は、コンクリートの寿命から想定されるより
 もかなり短く、住み続けるためには、築30〜40年で建て替えが必要となる場合が多
 くなんているのです。
・2020年の東京オリンピック後あたりから老いたマンションが続出する可能性が指摘
 されており、特に大都市圏では、耐用年数を超えたマンションが急増することは確実で
 す。 
・首都圏でマグニチュード7クラスの地震が今後30年以内に発生する確率は約70%で
 あると予測されており、旧耐震基準の老いたマンションの多くに、全壊・半壊といった
 多大な被害が出る危険性もあります。
・分譲マンションの居住者が亡くなった後、相続人は相続したマンション住戸に住まなく
 ても、固定資産税や管理費等を支払う義務が生じます。そのため、マンション住戸を相
 続しても自分は住まずに賃貸にする場合も多く、実際に、老いた分譲マンションの賃貸
 化が増加しています。
・分譲マンションの管理組合として厄介なのが、住み予定がない住戸を相続放棄されるこ
 とです。相続人全員が相続放棄をした場合、管理組合は相続財産管理人の選任を家庭裁
 判所に申し立てる必要があり、最終的に専任された相続財産管理人が、その住戸の処分
 することとなります。しかし、この申し立てには、数十万もの高額な予納金に加えて、
 司法書士などの申請代行費も必要となり、たとえ物件を売却しても、管理費滞納分すら
 回収できない可能性もあるのです。特に老いたマンションで居住者の高齢化が深刻化し
 ている中で、管理組合にこのような厳しい対応ができるのかという問題もあります。
 仮に、管理組合が相続財産管理人の選任といった難しい手続きや対応ができない場合、
 管理費が徴収できない相続放棄された住戸が増加し、分譲マンション全体の維持管理費、
 修繕積立金が不足するなど、マンション全体の適正ない維持管理に影響を与えかねませ
 ん。  
・老いた分譲マンションの急増は、空き室増・滞納者増→管理不全→管理不能→建て替え
 もできずスラム→まち全体への悪影響という、負のスパイラルに陥ってしまう危険性が
 高いのです。
・老いた分譲マンションは、いずれ建築物や配管などの内部設備の物理的な耐用年数を超
 えてくることから、マンションの区分所有者は、マンションを建て替えるのか、それと
 もマンションの区分所有権を解消して敷地を売却するのか、といった終末期問題から逃
 れられなくなる時期が必ずやってきます。しかし、分譲マンションの場合、解体するに
 しても費用が億単位になり、多数の区分所有者の合意形成という高いハードルがあるた
 め、戸建て住宅に比べて、かなり問題が深刻になります。
・分譲マンションを建て替えるにしても、建て替え後に余剰の住戸を生み出せない場合や、
 仮に余剰住戸を生み出せても、立地が悪くてデベロッパーの協力が得られない可能性が
 ある場合、老いた分譲マンションは、解体費用も捻出できないために放置され、スラム
 化の一途を辿っていくのです。
・日本は高度経済成長期・急激な都市化に対応するために、小・中学校、公民館などの公
 共施設や、道路・公園、高速道路、トンネル・橋、上下水道施設などのインフラが集中
 的に整備されてきました。これらは建設されて30〜50年経っていることから、老朽
 化しているものが多いのです。そして、古くなった設備が次々と故障したり、修繕箇所
 が増えたりと、維持管理だけでもどんどん費用がかさんでいきます。要するに、住まい
 や居住者が老いているだけでなく、公共施設やインフラなど、住宅と密接に関わる住環
 境自体もおいて崩れてゆくのです。
・このまま自治体が公共施設・インフラの老朽化問題を放置すると、老朽化した公共施設。
 インフラはやがて崩壊し、市民の命が危なくなってしまいます。一方で、公共施設の新
 設・改修・建て替えを場当たり的に繰り返すと、将来的に財政が破綻してしまい、市民
 の暮らしが立ち行かないまちになりかねません。
・今後、生産年齢人口も減少し、超高齢化が進展していくため、自治体の財政はさらに厳
 しい状況になっていきます。そのため、今ある公共施設・インフラのすべてを更新する
 ことは不可能な状況にあることがわかります。
・戦後では右肩上がりを前提としたインクリメンタリズム、日本語になおすと「増分主義」
 によって制度が作られてきました。これは、新しく増えた所得の分配だけを決めればよ
 く、過去の分配は考えなくてもいいという仕組みである。そして「行政の可能性は無限
 である」という考え方、つまり「満足化の追究」であった。これからはディクリメンタ
 リズム(「減分主義」)という考え方を採る必要がある。行政には限界があるというこ
 とを市民も共有する必要がある。

住宅の立地を誘導できない都市計画・住宅政策
・日本では、災害が起こる前には、住宅の新築を禁止するという規制的な手法をとること
 がほとんどでいない。たとえ活断層の上であっても、また土砂災害や津波被害の危険性
 が想定されるような区域にあっても、財産権へのこだわりが強く国民性や、憲法にある
 財産権の保障といった問題を背景に、住宅の新築を禁止するのが難しいのです。こうし
 た現状は、土地利用の規制的な手法によって、住宅の立地を誘導することが、どれほど
 難しいことなのかを物語っていると言えます。
・現在の自治体の財政状況では、老朽化した公共施設やインフラすべてを更新することは
 不可能であるということがわかっています。にもかかわらず、無計画な居住地の拡大に
 つながる住宅のバラ建ちが、いまだに続いているのです。まちにまとまりがないまま、
 人口減少と居住者の高齢化が進行していくと、移動距離・移動時間の非効率さと深刻な
 財源不足から、各住宅への戸別サービスが提供されない、あるいは追加料金を支払わな
 いと提供されない地域が増えることが懸念されています。
・今後はサービスを提供できる労働者世代の減少が顕著になるため、今以上に効率性・採
 算性を求めざるを得なくなり、サービス提供網が粗くなっていく危険性が高いのです。
 また、人口の低密化が進行すると、ロードサイドの大型ショッピングセンターやチェー
 ン店、地方都市の暮らしに欠かせないガソリンスタンドなどの統廃合や撤退によって、
 今よりもはるか遠方にまで移動しなくてはならなくなります。
・まちとしてのまとまりを形成せずに低密に拡大し続けるまちは、住宅単体としての話は
 さておき、住環境として見た場合に、今のように暮らしやすいまちのままであるかは、
 極めて疑問なのです。
・私たちのライフスタイルや社会経済が大きく変化しているにもかかわらず、現行の都市
 計画法は、1968年に制定された当時の枠組みを引きずったまま、抜本的に見直され
 ていません。そのため、農地関係等の他の法令が許せば、まちのどこにでも住宅がつく
 り続けられることを止められないわけです。
・住宅過剰社会においては、「開発規制の緩さ」必要なのではなく、まちのまとまりを形
 成・維持できるような「立地誘導」こそが、必要不可欠なのです。
・人口をとにかく増やしたい市町村は、必然的に示談たちだけの視点・論理で、開発規制
 を緩和する方向に流れる傾向にあります。その結果、隣の市町村同士で、限られた人口、
 開発需要の奪い合いが起こり、さらなる規制緩和を繰り返すといった悪循環極まりない
 「規制緩和合戦」が繰り広げられているのです。そしてその規制緩和合戦によって、近
 隣同士でお互いに人口の低密化を進行させながら、居住地の面積は拡大するという、非
 効率なまちへと作り替えられているのです。
・人口増加の勝ち組を目指した市町村ごとの論理だけで、開発の規制緩和合戦が繰り広げ
 られ、規制の緩いほうへと人口や開発需要が流れた結果、土地利用コントロールという
 本来の都市計画の重要な責務に実直に取り組む市町村が、人口や開発需要を奪われて損
 をしているのです。これはなんとも理不尽な状況ではないでしょうか。
・そもそも、標準的な住宅の耐用年数は、イギリスが約77年、アメリカが約55年なの
 に比べ、日本は約30年程度と極めて短くなっています。
・2011年4月、「高齢者の居住の安全確保に関する法律(高齢者住まい法)」が改定
 され、これを受けて国は「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」への取り組みをス
 タートさせました。「サ高住」とは、高齢者が安心して生活できる住まいづくりを推進
 するために創設されたもので、居室の広さや設備、バリアフリーといったハード面の条
 件を整えるとともに、ケアの専門家のよる安否確認や生活相談サービスを提供する高齢
 者向けの賃貸住宅です。入浴・排泄・食事等の介護、健康管理などのサービスは別途、
 入居者の希望により有料にて提供されますが、その提供内容・状況はサ高住の事業者に
 よって千差万別です。
・サ高住は、地価の安さも手伝って、鉄道やバスといった交通機関や医療機関へのアクセ
 スが悪い郊外にも建てられ、高齢者のニーズが高い利便性のよい地域では、サ高住の整
 備が進んでいないという問題が指摘されています。地価が安いほど、高齢者人口に対す
 るサ高住の供給が多い傾向にあることが指摘されています。
・こうした立地にあるサ高住に高齢者が入居しても、周辺に生活利便施設など何もないた、
 めに、引きこもりがちになることが懸念されます。サ高住は、自宅と同じように住み慣
 れた環境で必要なサービスを受けながら、高齢者が自由に自立して暮らし続ける、とい
 う方針のもとに創設された賃貸住宅です。そのため、コンビニやスーパー、病院や介護
 機関等の施設といった周辺のまちとの関係が重要となり、高齢者が安心して住み続けら
 れる立地を重視すべき住宅です。
・コンパクトシティとは、郊外へのスプロールを抑制し、公共施設や病院などの都市機能
 や居住機能を中心拠点や生活拠点に集約させることによって、中心市街地の活性化、公
 共共益サービスの効率化、財政支出の縮減などを目指したまちのことです。ここで目指
 されている典型的なまちの姿は、公共交通を軸に、拠点となる駅やバス停から徒歩圏に
 住宅、商店、公共施設等が集約したものです。  

住宅過剰社会から脱却するための7つの方策
・住宅がすでに供給過剰であるなら、新築住宅の総量を規制していくべきだという指摘を
 される方も多いかと思います。しかし、総量規制については住宅産業等の経済への影響
 が大きいとして、業界団体等からの大反対も予想され、すぐに導入するのは明らかに難
 しいと私は考えています。
・今後、労働力に余裕がなくなる中で、新築住宅による経済波及効果がどの程度あるのか
 をきちんと検証する必要があります。そして、空き家急増に伴う社会的費用の増加や居
 住地拡大に伴う非効率な税負担なども、総合的に検討する時期にきていると言えます。
・「住宅過剰社会」から脱却するために、新築住宅の総合規制以外に、私たちが取り組む
 べき7つの方策を提案します。
 (1)自分たちのまちへの無関心・無意識をやめる
    市町村が、近視眼的な観点から過度な都市計画の緩和を行って人口を増やそうと
    するよりも、長期的な観点から、人口はある程度減少することを前提に、次世代
    に負担を残さない施策を行うこと最も重要です。
    私たちは、都市計画や住宅政策は行政がするものと考えがちですが、まちや住ま
    いの維持管理などには関わりたくないからといって、無関心をきめこんだり、行
    政任せ・他人任せにしたりせず、首長や自治体の都市計画行政にきちんと目を向
    けることが必要不可欠です。
    自分たちの住宅やまちでの暮らしが、長期的に見て、大幅に悪化せずに成り立ち、
    将来世代に負の遺産となる住宅やまちを押し付けてしまわないように、「権利」
    だけを主張するのではなく、まちや住まいの維持管理にかかわる「義務」がある
    という意識を持たなければいけないのです。
 (2)住宅総量と居住地面積をこれ以上増やさない
    せめて「規制緩和で生み出しうる新築住宅部分だけ」でも総量抑制を行うなど、
    過度な規制緩和を抑制する方向に、まずは舵を切ることが必要です。高度経済成
    長期以来の増分主義を引きずった古い枠組みからの脱却に向け、減分主義のはじ
    めての一歩として、過度な規制緩和の見直しに着手するのです。
 (3)「それなりの」暮らしが成り立つ「まちのまとまり」をつくる
    自家用車での移動がすでにライフスタイルとなっている大都市郊外や地方都市で
    は、人口が減るから、超高齢化するからといって、公共交通の徒歩圏に居住地を
    「集約する」「縮小する」といったハイレベルなコンパクトシティ政策を極端に
    目指すには無理があるのではないかと思います。大事なのは、市街化区域、市街
    化調整区域、非引き区域といった既存の都市計画の枠組みを問わずに、それぞれ
    に地域が抱える枠組みを問わずに、それぞれの地域が抱える実情をふまえながら、
    農村集落を含めて、行政サービス・生活利便・支援サービスを効率的に行うため
    のネットワークを維持する、形成するという観点から、まちのまとまりを設定し
    ていくことだと考えています。
    そのためには長い時間がかかるかもしれませんが、まちのまとまりと設定した区
    域だけでも、ある程度の人口密度を維持し、広域的な各種サービスのネットワー
    クの拠点として、暮らしに必要なサービスの提供が比較的、効率的に提供できる
    ように、「それなりに」暮らしていけるまちとして維持していこうということで
    す。   
 (4)住宅の立地誘導のための実効性ある仕組みをつくる
 (5)今ある住宅・居住地の再生や更新を重視する
    既存の居住地の穴を埋めるように、まちのまとまり内にある賞味期限切れとなっ
    た空き家をよみがえらせ、利活用するためのリノベーションに取り組み、中古住
    宅市場に流通させるための支援や、利活用の可能性が低い空き家が円滑に解体・
    除却できるようにするための支援を行い、まちのまとまりでの建て替えを重点的
    に支援していくなど、今ある住宅・居住地の再生や更新を重視した枠組みへと軸
    足を移し、中古住宅市場を成熟させる必要があります。
 (6)住宅の終末期への対応策を早急に構築する
    家電リサイクル法のように新築住宅の購入時に解体・除却費用のための費用を別
    途徴収する、住宅メンテナンス保険といった住宅の維持管理がまかなえる新たな
    保険の商品などを開発し、インセンティブとして税控除などの優遇措置を盛り込
    むなど、住宅の終末期への対応策に向けて、これまでにはない新たな仕組みを検
    討しなくてはなりません。
    急増する老いた分譲マンションの終末期問題への対応については、相続放棄され
    た空き部屋の維持管理費や処分を円滑に行うための仕組み、空き部屋急増で管理
    組合の担い手がいなくなった場合でも対応できる仕組み、巨額な解体費用を税金
    に頼らず確実に捻出する仕組み、老いた分譲マンションの建て替えや解体後、区
    分所有解消を円滑に進めるための仕組みを構築することも急務です。
 (7)もいう一歩先の将来リスクを見極める
    いったん購入した住宅は、家具や家電製品のように、古くなったから、不要にな
    ったからといって、ゴミとして捨てることはできません。住宅過剰社会の今、私
    たちが住宅を購入する際には、次世代への影響を考慮する必要があるのです。す
    なわち、その住宅や立地が大幅に悪化せずにそれなりに暮らしが維持される見込
    みがあるか、そして、もし将来、相続した子供たち世代が売るとなった場合に、
    買い手がつく可能性があるのかといった、これまでよりも「さらにもう一歩先の
    将来リスク」まで考えることが必要です。