日本経済「円」の真実   :榊原英資

【バーゲン本】どうすれば最高の仕事ができるか [ 榊原 英資 ]
価格:702円(税込、送料無料) (2019/4/13時点)

書き換えられた明治維新の真実 (詩想社新書) [ 榊原英資 ]
価格:993円(税込、送料無料) (2019/4/13時点)

幼児化する日本は内側から壊れる [ 榊原英資 ]
価格:1404円(税込、送料無料) (2019/4/13時点)

仕事に活きる教養としての「日本論」 [ 榊原英資 ]
価格:1512円(税込、送料無料) (2019/4/13時点)

見る読書 (ベスト新書) [ 榊原英資 ]
価格:961円(税込、送料無料) (2019/4/13時点)

世界を震撼させる中国経済の真実 [ 榊原英資 ]
価格:1080円(税込、送料無料) (2019/4/13時点)

日本経済「成長」の正体 どうなる?2015年 [ 榊原英資 ]
価格:1080円(税込、送料無料) (2019/4/13時点)

パラダイム・シフト(大転換) 世界を読み解く [ 榊原英資 ]
価格:2052円(税込、送料無料) (2019/4/13時点)

成長戦略が日本を滅ぼす [ 榊原英資 ]
価格:1620円(税込、送料無料) (2019/4/13時点)

榊原式シンプル思考力 [ 榊原英資 ]
価格:1028円(税込、送料無料) (2019/4/13時点)

今こそピンチをチャンスにする経済学 [ 榊原英資 ]
価格:1028円(税込、送料無料) (2019/4/13時点)

「経済交渉」から読み解く日米戦後史の真実 [ 榊原英資 ]
価格:1728円(税込、送料無料) (2019/4/13時点)

為替が動くと、世の中どうなる? [ 角川総一 ]
価格:1620円(税込、送料無料) (2019/4/13時点)

この本が出版されたのは2012年9月であり、まだ今の「アベノミクス」が始まる前で
あるため、内容に少し古さを感じるところもある。当時は、円高に悩まされていた状況で
あり、今のような円安に振れるとは、恐らく誰しも想像していなかっただろう。まだ1年
も経っていないのに、日本経済の状況がこんなにも変わるとは、「ミスター円」と呼ばれ
た筆者も、驚ろいているのではないか。
安倍政権下で新しく日銀総裁となった黒田氏は、市場に今までの2倍もの「円」を流し込
むという、かつてない大胆な量的金融緩和策を発表した。これが大きな衝撃となり、国債
市場、為替市場、そして株式市場が大きく反応した。
これはまさに劇薬なのではないのか。現実の日本社会は成熟段階に達している。人間で言
えば、中年期以降の段階に深く入り込んでいる状態である。そんな老いた身体に、カンフ
ル剤を投与して、無理矢理また若い頃のように全力疾走させようとしている。そんなこと
をすればどうなるか。これからの日本経済の行く末が、とても不安になってくる。

はじめに
・現在の為替水準は、正しい意味で「円高」ではない。為替介入には効果が見込めない。
 テレビや新聞、雑誌は「歴史的な円高」などと深刻視しているし、それを政府や日銀が
 放置していると非難する論調も少なくない。だが、これらはいずれも誤った認識である。
 世界経済に起きているパラダイムシストが念頭になく、「これまでの常識」で目の前の
 現象を語っているにすぎない。一般に流布するさまざまな「通説」の多くが、経済の実
 相からかけ離れているのだ。
・経済の流れを読み解くとき、最も頼りになる基準は、株価でも金利でもない。巨額な資
 金が動く為替マーケットこそが、経済の実体をシンプルにつかむカギだ。
・日本人がいま懸念ずべきは、円高でも、デフレでも、国債暴落でもない、本当の危機は
 別のところにある。それは「世界同時恐慌」である。
・これは脅かしでも、遠い未来のことでもない。ユーロ危機に揺れるヨーロッパ、財政赤
 字が深刻なアメリカ、インフレに翻弄される新興国と、世界はすでに「同時不況」に入
 っている。世界経済の足元はすでにぐらついており、きっかけさえあれば世界全体が恐
 慌に突入する可能性は十分に考えられる。

これが「円高」と「世界同時恐慌」の真実だ!
・「世界同時不況」という火種が生まれていることを、多くの日本人は知らない。そして
 その先には、「世界同時恐慌」の危険性が迫っている、
・ユーロ危機が財政危機から金融危機に拡大し、それが複合して世界同時恐慌に陥る危険
 性もあるのだ。
・ユーロ危機は構造的な側面を持っており、拡大することはあっても、しばらく収まるこ
 とはなく、当然、ヨーロッパの経済は低迷する。
・世界経済の牽引役である新興国は、欧米の需要に支えられているため、欧米の景気の影
 響を受けやすく、中国やインドでも成長にブレーキがかかっている。
・日本の景気回復は「復興需要」という特需に支えられた、一時的なものである。
・すでに世界は同時不況に入っており、金融危機どころか、下手をすると恐慌になりかね
 ない。2012〜2013年は、第二次世界大戦後、「最悪の年」になる可能性もある。
・1920年代のアメリカは、株価も高騰し、好景気の中で踊って浮かれているような状
 態だった。そうして拡大してきたアメリカのバブルが崩壊し、ニューヨーク。ダウが大
 暴落。これに端を発し、世界恐慌に陥った。
・頭に入れておきたいのは、そのときのアメリカが新興市場だったことである。現在の新
 興市場と言えば中国だ。中国は過去10年程度バブル気味であり、中国経済がかつての
 アメリカのようにおかしくなると、世界恐慌の可能性が出てくる。
・中国の温家宝首相は2012年の成長目標を7%台に引き下げたと発言している。10
 %から7%になるだけでも相当が減速だが、もしそれが4〜5%に落ち込めば大不況で
 あり、世界恐慌が現実味を帯びてくる。
・中国の財政は悪くないため、しばらくは財政出動も可能であり、政府は公的投資や内需
 刺激を行うと表明しているが、どれくらいの効果があるのかは未知数である。中国の不
 動産価格と株価は、当面注視しておく必要がある。中国経済が本格的に崩れると、世界
 経済はかなり深刻な状況になる。
・1〜2年で復興需要が切れたあとは、国内需要の低迷と輸出の不振というダブルパンチ
 に見舞われる。
・中国が大きく崩れれば、中国に進出している日本企業が影響を受けるし、中国が日本の
 輸出額の20%以上、香港、台湾を入れた中華圏では30%に及んでおり、国内から中
 華圏に輸出している企業はおおきな打撃を受ける。
・日本経済と中国経済はある意味で「一体化」しており、復興需要に終わりが来れば、世
 界同時不況によって日本も不況に入る可能性が極めて高い。
・為替介入では、相手国との合意なしでは効果が得られない。
・先進国の多くでは為替取引が自由化されており、主婦でも為替取引ができる。1日5兆
 ドルもの巨額な取引がある為替市場で無数の人が売買しているのである。そのため為替
 レートは、多くの人の思惑、さまざまな要素で動くので、通貨の了だけで決まるわけで
 もないし、貿易量だけで決まるわけでもない。短期的には人々の「期待」が大きな要素
 を占めるようになってきたのが、現在の為替相場の性質である。
・日本の金利はゼロに近く、すでに相当の金融緩和が行われている。さらなる量的緩和
 も可能だが、いっそうの金融緩和をすれば円高が是正できるかといえば、それはなかな
 か難しい。
・日銀がいっそうの金融緩和をしたところで、他国がさらなる金融緩和をするかもしれず、
 一種の為替切り下げ競争になってしまう。
・国債の引受など、国の赤字を日銀が直接補填することはやってはいけないというのが各
 国中央銀行のルールであり、中央銀行がいちばん嫌うところである。金融緩和は十分し
 ており、金融政策にできることはこれ以上ないというのが、日銀の思いだろう。
・繰り返すが、日銀は十分に金融緩和をしている。むしろ問題なのは、企業に資金の需要
 がないことである。世界経済の先行きが非常に不透明なため生産の拡大や設備投資など
 の積極的な行動が取れないからである。
・日本国内にはモノが溢れて耐久消費財の需要は停滞しており、これ以上、国内需要で製
 造業お業績が伸びることは期待しにくい。

これが「通貨」と「世界経済」の真実だ!
・2050年のGDPは1位中国、2位アメリカ、3位、インド、4位日本と予測されて
 いる。今後、世界は大きく様変わりし、40年後には中国とインドが世界の大国となる。
・2012年、中国とインドの人口は計26億人弱で、世界人口の4割弱を占めている。
 この2つの国が、いずれ世界の4割弱のGDPを占めるようになっても、何ら不思議で
 はない。
・今後20〜30年、あるいは30〜40年と言ってもいいが、米ドルが基軸通貨である
 ことに変わりはない。中国のGDPがアメリカを超えるにはあと20年程度かかると見
 られ、人民元が台頭するのは少なくともそのあとだ。

これが「新興国通貨」の真実だ!
・中国の政府系ファンドが日本企業を買う動きも目立ってきているが、そう恐れることは
 ない。ただ不動産を買われるのは問題である。外国人の所有を禁止するなど、そこは国
 が断固とした対応をしなければいけないのではないだろうか。
・韓国の人口は日本の5分の2程度で、GDPは日本の5分の1程度である。日本は国内
 に巨大な市場があるため、国内が第一で、海外、特にアジアをはじめとした新興国への
 進出は二の次だが、韓国は国内市場が小さいため、主要な戦場は国外である。
・日本がTPPに参加すればアメリカに押し切られそうな分野もあるし、何より、TPP
 不参加の中国が日本への反発を強めるだろう。TPPへの早期参加は日本にとっていい
 ことはない。反対する必要もないが、泰然と構え、黙って見ていればいい、日本が腐心
 すべきなのは、むしろ中国との関係をよくしていくことだ。

これが「日本経済」と「日本企業」の真実だ!
・たしかに一部の業界では業績が悪化しているが、それは為替レートのせいだけではない。
 本当は別のところに要因があるのだが、円高のせいにして誤魔化している。円高の影響
 はゼロではないだろうが、実際の影響以上に誇張されている。
・株価は低迷しているが、円高が要因なっている部分はそれほど大きくない。株価は世界
 的に下がっており、これは世界同時不況によるものである。いま、日本経済は復興需要
 のおかげで必ずしも悪くはない状況だが、いずれ世界的は不況に巻き込まれると予想さ
 れてるからだ。
・通貨が高くなる(強くなる)ということは、国の価値が上がるということであり、強い
 円はまさに日本の国益である。もちろん通貨高は輸入にはメリットである代わりに、輸
 出でデメリットが生じる。これをどうプラスに転じさせるか、円高をどう生かし、メリ
 ットにするか。日本企業も日本政府もそれを考え、実行に移すべきである。
・デフレーションという言葉は、景気が悪いということを示唆する。日本の消費者物価指
 数はこの十数年下がっており、景気がよかった2001〜2007年ごろも、物価は下
 がっていた。それを踏まえても、「物価が下がっていること=デフレ」ではなく、「物
 価の安定」として理解すべきだろう。
・昔はマネーをどんどんつぎ込めばインフレになるし、金融緩和が足りなければデフレに
 なるなど、国の金融政策によってインフレやデフレが決定づけられたが、これは過去の
 ことである。いまは一国の金融政策だけでは経済がコントロールできないが、多くの金
 融論議は、昔のセオリーで止まっており、そこから抜け出せていない。
・日本銀行はゼロ金利を続けているし、相当量の量的緩和をしており、日銀の金融政策の
 せいで日本がデフレ下に置かれているわけではないのだ。
・コストが低い新興国の商品に対する需要は世界的に増えているが、新興国の生産はそれ
 に追いついておらず、需要が供給を上回っているために中国やインドの製品価格が上昇
 している。その結果、物価が上昇している新興市場国はインフレ、先進国はデフレ、あ
 るいはディスインフレという状態になっているのだ。
・たしかに日本政府の累積債務は約900兆円近くあり、いずれもGDPの200%を超
 えていると言われている。しかし一方で、日本の家計の金融資産は約1400兆円前後
 あり、国債の9割以上は日本国民が保有している。日本の国債は大量に発行され累積残
 高は大きいが、それに対応できるだけの需要もあるということであり、日本国債の暴落
 ということは当面考えられない。10年先、20年先はわからないが、少なくとも5年
 単位で考えると暴落はありえず、10年国債の金利が1%を下回り、価格が上昇する傾
 向が続くだろう。
・私自身、金融資産のほとんどは日本国債の形で保有している。金利はそれほど高くはな
 いが、事実上ゼロ金利の銀行預金よりはましである。
・一部で「銀行は国債を持ちすぎている」との指摘があるが、問題はない。日本の銀行の
 債務のほとんどが個人預金で、元本を保証しなければならない。元本を払い戻すために、
 額面が保証されている国債を保有するのは非常に合理的で、ごく自然なことである。
・インフレの時代であれば、実質価格が下がって損をする可能性がある債券を持つよりも、
 株や不動産のほうが有利かもしれないが、デフレ、あるいは物価が安定している時代に
 は、額面が保証されている国債などの債券を持ったほうが有利である。
・アメリカの格付け機関に対しては、日本の国債の格下げをするより、先にアメリカの国
 債を格下げすべきだと言いたいが、アメリカの格付け機関だからなのか、なかなかアメ
 リカの格下げはしない。
・アメリカ国債の7割以上は国外で保有されており、日本の公的セクターはアメリカの国
 債を1兆ドル程度、中国はそれ以上の額を保有している。日本お外貨準備のほとんどは
 アメリカ国債であり、金融機関も持っている。
・もしも日本や中国がアメリカ国債を売れば、アメリカ国債が暴落する可能性はあるが、
 暴落によってダメージを受けるのは、保有額が多い日本や中国である。したがって、実
 際にはアメリカ国債を売るとは考えにくい。
・アメリカは基軸通貨国であるため、国債の価格が下がってもあまり影響を受けず、むし
 ろ債権者(保有者)のほうが影響を受ける。このような構図にあることから、アメリカ
 の国債はなかなか暴落しないのである。
・これまでに、海外のヘッジファンドが売りを仕掛けてきたことが何度かある。日本国債
 の10%弱は海外の投資家が保有しており、これを売って暴落させ、安値で買い戻して
 儲けようとしているのである。売りが出ても日本の機関投資家などがそれを買ってしま
 うため、これまでのところその試みは失敗してきた。
・もし国債が暴落しても、日本政府が破綻するということは考えにくく、少なくとも満期
 まで持てば額面金額が償還される可能性が高い。
・少なくとも今後5年程度は、毎年50〜60兆円の国債を発行しても、日本の財政に問
 題はない。まずは景気回復を優先させるべきであり、消費税率アップを先に決めてしま
 う野田氏のやり方は間違いだったと思う。
・当面はむしろ減税であり、消費税減税や所得税減税は難しいにせよ、法人税減税をした
 上で、国債を発行して、景気の回復を図る。あるいは、震災で被害を受けたようなとこ
 ろは、特別に減税をするといった方向でなくてはならない。
・フランスのように出産や育児、教育に、十分な給付をするのであれば、20%程度は必
 要だろう。そうではなく、現行の年金制度と健康保険制度を維持するだけであれば、
 10〜15%で足りるだろう。
・海外が「財政再建せよ」と言ってくるというのは、にほんが財政破綻をすると、日本国
 債を保有している国にも影響が出るからである。
・50〜60年代の日本の平均成長率は約9%、80年代は約4%だったが、90年代か
 ら20年間は約0.9%である。「失われた10年」とか「失われた20年」と言われ
 ているが、そうではない。日本は成長段階から成熟段階に入ったのだ。
・成熟段階に入った日本経済では、成長率1%弱は日本の平常な状態であり、それを前提
 に何をするかを考えなければいけない。1%前後の成長を前提にどういう社会にするか
 というビジョンが必要になってくるわけだ。 
・「成長したい。ダイナミックに何かをやりたい」と思えば、企業も、個人も海外に活路
 を見出せばいい。国内で高成長を狙う成長戦略は、全体としては間違っている。いま必
 要なのは成熟戦略だ。日本人は成長神話から抜けきれず、「再び成長を」というような
 ことを言う人が多いので、「もういいじゃないか」と政治家が言わなくてはいけない。
 むしろ1〜2%の成長率を維持していくことのほうが重要である。国民の関心は安全・
 環境などに移っており、これが成熟社会のキーコンセプトなのである。
・ものづくりが終わるわけではないが、これからは量ではなく、クオリティが重要であり、
 現在言われている「ものづくり日本の再興」のような話は論点がずれている。
・日本企業の多くは、海外へ出て行かなければ成長を維持できない。雇用は海外に移り、
 かつてのような全面的な正規雇用、終身雇用の維持は難しく、この傾向は変わらないだ
 ろう。 
・成長性の高い国は福祉が小さくていいが、成熟してくると高福祉に切り替えざるを得な
 い。

「通貨」を見れば、経済がわかる!
・海外と取引のある企業では、為替レートの変動によって為替差損が生じるリスクを回避
 するために「為替予約」という取引を行うことが少なくない。為替予約をすれば、予約
 したレートで取引ができるため、為替変動による影響は受けずに済む。しかし、リスク
 を回避するということは、場合によっては為替差益が得られなくなるというデメリット
 も生じる。
・投機は必ずしも悪いものではなく、必要なものなのである。投機を制限し、実需を持っ
 ている人たちだけが取引をするという時代はもう終わっている。
・投機家を含む多くの人が参加すれば、特定の人が相場を左右することはできなくなる。
 その結果、理論的に乱高下が減ることになる。一時的な流れが一方的に偏り、急激に変
 動することはあるが、一時的な乱高下は放っておけばいい。結局はその国の国力が反映
 されたレートに収斂していく。
・「危機に備えて外貨資産を保有せよ」と言う人がいるが、日本人はヨーロッパの人のよ
 うに外国を転々とすることが少なく、日本国内で日本円を使う人がほとんどだろう。な
 らば為替リスクをとらず、円で持っているほうがいちばんいい。銀行預金でも、国債で
 も、安全性の高い資産を保有するのが最も望ましい。実際、私は金融資産はほとんどを
 日本国債で持っている。インフレの時代には株や不動産を保有するのもいいが、当面、
 インフレにはまずならない。
・日本国債をずっと持っていられたら証券会社は商売にならないので、外貨建ての資産や
 株を勧めてくるが、下手に海外資産を持っていると為替差損を被る可能性があるし、株
 価は下落する危険性がある。証券会社に言いくるめられてはいけない。
・中長期で投資するなら新興国通貨だろう。中国元、インドルピーは、5年、10年保有
 すれば、為替差益が得られる可能性が高い。ただし短期的にはぶれが大きく、1年程度
 で儲けるのは難しい。投資するなら中長期を視野に入れてやったほうがいい。
・新興国通貨は短期的には乱高下するものであり、短期で儲けるのは非常に難しい。ブラ
 ジルやロシアは資源を持っているから中長期的に期待できるという側面があるが、それ
 は資源だけでの話であり、経済政策など、さまざまな要素がからむため、そう単純では
 ない。 
・とくに世界経済が悪いときは、先進国より新興国のほうが大きく下落しやすい。新興国
 通貨で、投資をするのであれば、いいときは大幅に上がるが、悪いときは落ち込みがよ
 り大きくなりやすいことを念頭に置きたい。
・」有事の金」と言われるが、「有事」の定義がドルが安くなることや、基軸通貨として
 のステータスを次第に失うということを意味するなら、それは成立する。ただし、有事
 =世界経済の悪化ということであれば、経済の悪化で商品価格は下がり、金も下がると
 いうことになる。したがって、必ずしも金がいいということにはなく、世界恐慌に備え
 て金を持つという選択肢は必ずしも適切とは言えない。円で使うなら円で持てばいいの
 である。私は外貨も金もそれほど持とうとは思わない。
・経済の状態を総合的かつリアルタイムに反映しているのは、為替レートである。通貨に
 は、すべてを総合してレートが決まる、という性質があるのだ。ただしそれは、「通貨
 の取引が完全に自由になっている国の通貨であれば」の話である。経済の統制が強い国
 や、通貨がコントロールされている中国のような国では、通貨が経済のすべてを反映す
 ることにはなっていない。
・為替市場は株式市場や債券市場と比べても、最も大きい金融のマーケットである。規模
 が大きいということは、すなわち、特定の個人や特定のグループではコントロールでき
 ないということだ。そういう意味でも、為替市場は、世界経済の動向を見る上でも最も
 信頼でき、重要な指針が得られる市場だと思う。
・規模が大きければ大きいほど、市場に合理性があり、適正水準に収斂させる機能が利き
 やすい。 

「世界同時恐慌の時代」を生き抜くために知っておきたいこと
・「成長率1%の低成長」に慣れる
 高成長を無理に追うのではなく、1%程度成長すればいいのだという意識に変える。そ
 して、1%の成長を維持するために、新しい需要を掘り起こし、世界経済が悪くなって
 も1%の成長ができる仕組みをつくっていくことが重要である。
・借金をせず、心の充実を求める
 恐慌の危険が潜んでいる時代には、借金をするのはよくない。今後は非常に低いインフ
 レ率が続くため、借金をすればその実質額は上がっていく。恐慌になれば収入も影響し
 て返済負担が重くなるので、できるだけ借金をしないことが重要である。
 国は持ち家政策を続けているが、住宅ローンを本当に返せるかどうかわからない時代で
 ある。今後は、家は「買う」より「借りる」という方向に変わっていくべきだろう。家
 族構成や家族の年齢に応じて有効に賃貸を住み替えていくのが、これからの時代に合う
 考え方だと思う。 
 成熟社会をどうやってエンジョイするか、そこに意識を向けるといい。楽しみながら運
 動をすれば金をかけずとも健康を維持することができるし、本を読んだり、音楽を聴い
 たり、といった趣味を楽しむ分には、あまり金はかからない。そういう文化的な方向に
 自分の生活を変え、モノではなく、心の充実を図る。それが成熟社会での生き方である。
・日本のよさを見直す
 私は海外に移住しようとはまったく思わない。留学もしたし、海外で働いたこともある
 し、旅行もしているが、日本ほど住みやすい国はない。
 日本にすみたいと思う外国人も少なくないだろう。気候はいいし、安全だし、食べ物も
 おいしい。人々も親切だ。こんなにいい国はない。