水戦争 :柴田明夫

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人類がこのまま経済活動を続けていけば、世界の平均気温は、2100年頃には今より4
度以上上昇するとの予測が出ている。地球の気象に大きな変化をもたらす臨界点の平均気
温上昇は、2度と言われている。その臨界点2度をはるかに超える平均気温の上昇である。
平均気温が今より4度も上昇したら「温暖化の暴走」が始まり、地球の気象はどんでもな
い状態になるらしい。それはもはや、人類にとっては制御不能となってしまう。これは原
発が制御不能となってしまうこと以上に、大変な事態だ。そしてそれは、人類の食糧危機
に直結する。
石油をはじめとする資源、水、食糧は、今や各国が自国の利益のために利用する「戦略物
資」化しつつあり、各国が資源をめぐり熾烈な争奪戦を繰り広げている。この争奪戦に敗
れた国が、最初に滅んでいくことになるのだろう。
いずれにせよ、人類がいまのまま経済活動を続けるということは、人類滅亡への道を真っ
しぐらに突き進むことなのであるようだ。

はじめに
・世界の水をめぐる状況は、われわれ日本人の想像以上に深刻化している。他人事ではな
 い。水不足の影響は日本にも及びたしている。
・真に問題なのは、水不足が食糧生産に与える影響だ。
・地球は「水の惑星」と称され、地球上には14億立方キロメートルの水資源が存在する。
 ただし、地球上の水のうち淡水は2.5%に過ぎず、その大半は極地などの氷や地下水
 である。われわれが利用しやすい状態にある河川や湖に存在する地表水は、淡水のわず
 か0.3%だ。しかもその分布は、地域的・時期的に大きな偏りがある。水資源の配分
 は、石油や金属資源に増して不平等なのである。
・世界の「水ストレス」が強まるなかで、日本は必要とする食糧の6割を輸入している。
 それは海外から、穀物を育てるための水、さらにそれを食べる牛や鶏などの食肉を生産
 するための水、つまりヴァーチャルウォーター(仮想水)の形で大量の水を輸入してい
 ることでもある。
・水を資源として確保しようとする欧州企業も出始めている。つまり、水も食糧と同じ戦
 略物質として考えられており、今後水をめぐるビジネスは、活発化していくものと見ら
 れる。

世界各地で起こっている水資源戦争
・最も懸念すべき資源問題が世界的な水不足である。人類が利用できる地球の水資源は、
 おそらく一般に想像されるより遥かにすくない。しかも世界人口が増え、世界経済が急
 速に発展するとともに水需要は拡大の一途をたどっている。加えて発展途上国では工業
 化、都市化の進展にともない、水が汚染されるため、利用できる水資源はいよいよ少な
 くなっていく。
・人間が生存するには1人1日当たり最低50リットルの生活用水が必要だが、平均して
 それ以下の生活用水しか使用できない国が55ヵ国もあるという。
・世界人口の2割に当たる12億人が不衛生な水しか飲めない生活を強いられているとさ
 れるが、最近の国連の報告書によれば、「2025年までに世界人口の半分に当たる
 35億人以上が水不足に直面する」おそれがあるという。
・20世紀は「石油の時代」といわれ、貴重な資源である石油をめぐり、列強が熾烈な争
 いを繰り広げる時代だった。21世紀は「水の時代」といわれる。21世紀の戦争は、
 水をめぐるものとなるだろう、と指摘する識者は多い。

枯渇の危機に瀕する水資源
・世界の人口は毎年約1億人ずつ増え続け、2005年に65奥院に達した。このまま
 2050年を迎えれば、人口90億人の時代を迎える計算になる。わずか100年で
 25億人から90億人まで跳ね上がるのである。問題は、地球がそれだけの人口を抱え
 られるかだ。資源の制約などから、地球が最大限養える人口は最大80億人という説が
 ある。今後40年間で、人類はいったいどのような状況に直面するのだろうか。
・世界の食糧増産は地球に対して砂漠化や水資源の枯渇といった水ストレスを加え続けて
 きた歴史でもあるのだ。その結果、世界各国で砂漠化が進行し、水源の枯渇が進んでい
 る。
・砂漠化は何によって引き起こされているのか。地球温暖化を原因として指摘する論者も
 いるが、多くの場合、不適切な農業活動などの人間の営みによるものといえる。
・地球を1つのシステムとしてとらえたとき、自然のままの食糧生産によって養うことの
 できる人口は5億人程度と言われる。このため65億人の人類を養うには組織的な農業
 が不可欠である。
・地球上の淡水の約7割(アジアでは8割以上)は、農業用水として使われている。言い
 換えれば、ミスは主として食糧生産にために使われており、食糧需要拡大は水の消費量
 の増大に直結する。水の危機とは、飲み水が足りなくなることだけではない。より重大
 なのは食糧の供給に不安が生じるということである。 
・現在、世界では全耕地の約2割を占める約2.7億ヘクタールの灌漑面積があり、そこ
 で食糧の約4割が生産されている。
・一方、環境面ではいえば、灌漑農業は大量の水を浪費する方法でもある。灌漑のための
 水の大半は地下水を汲み上げることで供給されるが、その結果、世界中で地下水の水位
 の低下や枯渇が懸念されるようになっている。淡水の3割を占める地下水は、地球にと
 って血液に四敵するほど重要なものなのだが、それがいまや危機的な状態に置かれてい
 るのだ。
・中国でも農業用水の総需要量に対する比率は80%を超すなか、北部は慢性的な水不足
 に悩んでおり、華北平原の北部では地下水位は年に1〜1.5メートルずつ低下してい
 る。特に1999年、北京の地下水位は1.5メートルも低下した。
・近年、世界で穀物の増産が図られてきたが、そこには化学肥料が多用され、羊や牛の放
 牧がなされていた。さらに地下水の過剰な汲み上げがあり、農業用水から必要以上の水
 が蒸発したり、水漏れが起きたり、といった不適切な灌漑施設の管理をともなう農業活
 動があった。それが過去数十年にわたって続けられた結果、エロージョン(土壌侵食)
 や塩害などの土壌劣化、砂漠化、水源の枯渇懸念といった問題が顕在化している。
・さらなる問題は、いったん砂漠化が始まれば、その土地では塩害が発生し、植物が育た
 なくなるため、砂漠化に拍車がかかることだ。
・砂漠化した土地を緑化するため、成長の速いポプラ類が盛んに植えられるようになって
 いるが、こうして造られたポプラばかりの単純林はコマダラカミキリなどの穿孔性害虫
 が発生して壊滅的な被害がもたらされることがある。 
・近年、中国やインドなどの新興国の急速な工業化によって、貴重な淡水資源が汚染され
 ている。世界では毎日、産業廃棄物や化学物質、し尿、農業廃棄物(肥料、農業および
 その残渣)などの廃棄物が河川や湖などに200万トンずつ排出されているという。
・特にアジア地域は人口が多いわりに水資源が限られている傾向があるため、汚染の問題
 が深刻だ。アジアには世界の水資源の36%しかないが、それで世界人口の60%を養
 っているのである。
・世界では、いまなお11億人もの人々が量質の上水道を利用できず、24億人が衛生的
 に整備された下水道設備を利用できない状態に置かれている。
・世界の年間水使用量は人口増や経済成長のため、この40年で倍増し、2000年現在、
 約4万立方キロメートルになった。
・日本は豊かな水の国というイメージをお持ちかもしれないが、国民1人当たりで見れば、
 決して豊かとはいえない。
・日本は地形が急峻で、河川の延長距離が短いところに降雨が梅雨期や台風の季節に集中
 するため、せっかく降った雨のかなりの量が資源として利用されないまますぐに海に流
 れ出てすまう、といった事情がある。
・食糧生産には膨大な水が必要だが、日本は食糧自給率がカロリーベースで40%しかな
 い。食糧の大半を輸入に依存している日本は、食糧生産に必要な大量の水も海外に依存
 しているため、国内の水資源を利用せず済んでいるのである。
 
地球温暖化がもとらす水と食糧の危機
・気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、地球温暖化の原因について「人為的な
 温室効果ガスである確率が90%」ときっぱりいい切っている。2100年には「気温
 が1990年と比較して4度、最悪の場合は6.4度上昇する」と具体的に予測してい
 るのである。
・地球温暖化という現象については、本来であれば数千年、数万年かかる緩やかな変化を
 人類の経済活動により、わずか100〜200年で変化させてしまったための大変動と
 認識することが必要だ。
・自然の変動による異常気象は30〜50年に一度というように発生の間隔が長いが、人
 間の活動による気象の変化の場合、原因が年々蓄積されていくため、発生する間隔は加
 速度的に短くなっていく。問題はこの急激な気候変動が引き起こす状況、たとえば水資
 源の確保、食糧生産、病気などに人間が十分に適応しきれていないことにある。
・量的変化が質的変化をもたらすポイントを閾値あるいは臨界点と呼ぶが、温暖化に関し
 ては平均気温1.5〜2.5度の間をとって、平均気温2度が臨界点といえる。それを
 超えれば、事態は大変なことになる。
・地球温暖化がさらなる温暖化を招き、それがさらなる温暖化を招く絶望的な連鎖反応、
 いわゆる「温暖化の暴走」という恐ろしい事態が起きるのである。いったんそうなれば、
 事態は不可逆的なものとなり、人類の力では制御不能となってしまう。
・北朝鮮の食糧生産が極度に悪化した原因として、もともと農業に厳しい自然条件のなか
 で食糧自給を達成するために、トウモロコシの栽培に角に依存したことがある。しかも、
 密植栽培や山間地の斜面を開墾するといった無理な増産計画を進めた。段々畑を作れば、
 土砂が崩れやすくなり、流失した土砂で川底が上がるため、わずかな雨でも洪水が起
 こりやすくなる。逆に、日照り続きのときは干ばつになりやすい。
・食糧の大半を軍隊に回している現在の政治体制は、もはや物心両面から維持していくこ
 とは不可能といえるだろう。今後、深刻化する地球温暖化は食糧生産へのダメージとい
 うことを通じて、北朝鮮の政治体制を一気に突き崩す可能性さえある。 
・中国で水不足が顕在化したのは1960年代、華北平原においてだった。河川の上流に
 おおくの農業用ダムを建設したため、中下流への流量が激減して、天津市が深刻な水不
 足に陥ったのだ。1980年代には黄河中下流でも水不足が発生するようになり、
 1990年代に入ると、さらなるひろがりを見せる。ついには、中国を代表する大河・
 黄河が干上がってしまう現象、いわゆる「黄河断流」が発生する。
・中国は巨大な国だ。国土は日本の26倍もあり、人口は13億人を超え、世界一である。
 ただ悩ましいのは、あまりにも人口が多いため、1人当たりで計算すると、資源量は極
 めて少なくなってしまうことだ。典型が水だ。
・中国においては工業化、都市化が進めば進むほど、工業部門や都市での水不足が顕在化
 すると同時に、農業部門においてはより増幅された形で水不足が発生する可能性を示唆
 している。すでに兆候は現れている。
・GDP1万ドルの生産に使用される水量は日本が208立方メートルだが、
 中国は5045立方メートルと日本の20倍以上も水利用効率が悪い。

巨大な利権とビジネスが動かす水
・世界平均の1人1日当たりの生活用水使用量は約170リットルとされるが、量は国に
 よって大きく異なり、米国では約500リットル、日本は約230リットル、中国やタ
 イでは約50リットルだ。このうち人間が1日に飲む水の量はせいぜい2〜3リットル
 に過ぎない。水不足の問題というとつい飲み水ばかりに注目しがちだが、先進国では炊
 事や風呂、洗濯、水洗トイレなどに使う生活用水として飲料用の数十倍、数百倍もの量
 の水を使っており、その一方で、開発途上国の中には最低限の飲み水すら得る機会のな
 い人々が数多くいるのである。
・21世紀に入り、世界中で水をめぐる問題が加速度的に深刻化すると、国連などの国際
 機関による本格的な水問題への取り組みが進むと同時に、水関連のビジネスが急拡大し
 ている。いまや世界の水資源はエネルギーや金属、食糧にも増して資源化しているとも
 いえるのだ。 
・1986年に8万キロリットルだったミネラルウォーターの国内生産と輸入を合わせた
 数量は2006年には235万キロリットルとおよそ29倍にまで増大した。市場規模
 も2006年で1860億円となり、1986年の83億円から、この20年間で22
 倍に拡大したことになる。
・かつて日本人の間にあった、「水にお金を出すなんて」といった感覚はいまやすっかり
 なくなったようで、ペットボトルを持ち歩く人もよく見かける。それでも欧米と比較す
 れば、日本人1人当たりの消費量はまだ少ない。
・ヨーロッパに多いマグネシウムやカルシウムが多く含まれる硬水は、殺菌のために加熱
 すると性質が変わってしまう。そのため、ヨーロッパには「水には物理的処理をしては
 ならない」という考え方があり、地下から組み上げたままの水こそナチュラルな良い水
 とみなされる。
・これに対して国土の狭い日本の場合、雨水が地層に浸透する時間が短いことから、地下
 水のほとんどはミネラル成分の少ない軟水で、それらは加熱してもあまり性質が変わら
 ない。また日本の消費者も衛生面で神経質なところもあり、加熱殺菌した水を容器に入
 れて販売するようになった。
・すでに、地中海などではタンカーや樹脂製の巨大な袋に淡水を詰め、船で牽引するなど
 淡水の海洋輸送の試みがされている。今のところ、採算面など困難な問題が少なくない
 が、今後、淡水という貴重な資源がいよいよ逼迫し、原油をもしのぐ戦略物質となった
 ときには、事業として十分成立すると考えられる。
・地球の淡水の供給が限られるなか、拡大を続ける水需要に対しては1度使った水を再処
 理して、徹底的に身すぉ利用し尽くすことが重要である。水資源の回収率を高め、水資
 源が多段階かつ多分野にわたって活かすことは、「造水」効果があると同時に水質改善
 にもつながるのである。実は、日本企業はこの技術においても、世界有数の存在なので
 ある。
・地球上の水資源を風呂桶1杯とすると、われわれが使用可能な淡水の量は片手ですくえ
 る量にも満たない。しかも水は毎年需要が拡大する一途のうえ、代替する物がない物質
 だ。そう考えれば、21世紀の水は、石油をもしのぐ資源ともいえ、将来、原油のよう
 に取引所で取引される商品となる可能性も否定できない。飲用水についていえば、すで
 に石油より高価なものもある。
・世界を眺めれば、飲料水と同様、工業用水でも水不足が顕在化しており、それだけでな
 く、水質汚染の危機にもさらされている。ただし、こうした危機は企業にとっては大き
 なビジネスチャンスでもある。
・日本の下水処理市場はすでに成熟化しているため今後、国内では設備更新が中心となろ
 う。世界的に見ても、汚染水や汚染土壌の処理ビジネスは注目される分野だ。
・人口の増加にともなう生活用水や工業用水の需要拡大である。世界の総人口は今後もさ
 らに増加傾向にあり、都市部への人口集中がさらに進むと見てのことだ。特に水需要の
 増大が予想されるのは、莫大な人口を抱え、かつ工業化による急速な経済発展を遂げて
 いる中国、インドなどのBRICsに代表される新興国だ。
・地球温暖化による異常気象の発生で、世界各地で水害や干ばつなどの深刻な水不足が多
 発しているが、そのようなコントロールが困難な気候変動への対応として、灌漑技術の
 導入や改良による水の効率的利用に関する取り組みを行なっている企業が投資対象とな
 る。
・世界各地で汚染物質を含む水が排出されており、地球環境への影響が懸念されるなか排
 水処理技術の世界的普及による水品質の改善が期待されている。
・先進国においては、水道事業の老朽化により今後、取り換え需要の拡大が予想される。
 ちなみに排水管の漏水などによる吸水ロスは、フィイリピンは53%に達するほか、タ
 イやエクアドル、エチオピア、スーダン、トルコ、ヨルダン、パキスタンなどで4割を
 超えている。
・水を確保している先進国でも、水道設備の老朽化による吸水ロスが起こっており、更新
 需要の拡大が見込まれる。

資源大量消費時代の到来
・世界経済の牽引役は1990年代までは日米欧の先進国が主導していたが、2000年
 代に入ると、BRICsに代表される新興国経済に移った。BRICsは、人口、経済、
 資源大国で潜在成長力と市場性に富むのが特徴だ
・1990年代までは、西側の先進国が世界経済を引っ張っていたが、経済の成熟化、サ
 ービス化が進んでいたため、エネルギーや資源の需要増につながらなかった。これに対
 して、近年の世界経済の成長をもたらしているのは、新興国のモノづくりであり、それ
 を支えている高速道路、発電所、港湾、情報網などインフラ整備であるため、地球規模
 でエネルギー、資源の需要が喚起されているのである。
・地球規模のエネルギーと資源の他消費型の経済発展の時代が到来した。それは、需要シ
 ョックといったかたちで世界の石油需要の急増に直結する。
・原油、銅、アルミ、ニッケル、鉄鉱石などの資源の開発は抑制されてきたが、新興国の
 台頭による需要急増により、供給不足の問題が発生した。そこに、折からの世界的カネ
 余りを背景とした市場への投機マネーの流入とがあいまって近年高騰が引き起こされた。
・1990年代前半世界経済は平均3%前後で成長していたが、2004年以降、5%前
 後の成長を見せている。この成長率の変化は、日米欧の産業構造の変化に関連している。
・1980〜1990年代は先進国経済が高度化、成熟化したことで、3%台の経済成長
 があっても資源需要に直結せず、このためエネルギー、資源市場では需給が緩和し価格
 は長期低落傾向をたどった。 
・2000年代に入ると、環境が大きく転換する。BRICsをはじめとするエマージン
 グ経済が本格的に工業化して、猛スピードで先進諸国へのキャッチアップを始めたのだ。
 世界経済も再び5%前後の成長に加速し、経済成長が資源需要に直結する時代が再度到
 来した。原油や銅などのエネルギー、資源価格はこの動きにいち早く反応して、
 1990年代の平均価格から、3〜4倍に上昇している。
・巨額のオイルマネーを手にした産油国の間で資源ナショナリズムが高まった。石油収入
 の拡大は産油国の軍拡に直結する。
・産油国では財政収入が増え、経済が活性化することで政権に対する国民の支持が強化さ
 れることを背景として、国家が石油関連産業への関与を強化しつつある。
・原油価格の高騰は非鉄や鉄鉱石、石炭、レアメタルなどの資源の価格高騰を招き、改め
 て消費国に資源の枯渇問題を突きつけた。
・石油はいつピークを迎えるのか。この問題については、2010年前後とする悲観論、
 2030年以降とする楽観論など諸説紛々である。ひとついえるのは、石油のピークが
 近づけば、原油価格が高騰するばかりではなく、限られた石油資源をめぐって国際間の
 争奪戦が激しくなり、国際情勢が不安定になるということであり、それが今まさに起こ
 りつつある現象だ。
・原油高騰は代替物としてのバイオエタノールやバイオディーゼルなどバイオ燃料の急速
 な普及をもたらし、その結果、食糧市場とエネルギー市場の競合あるいは連動性が強ま
 ったことである。
・原油や鉄鉱石、石炭などの資源の価格が上昇している。問題は、市場メカニズムが働か
 なくなりつつあることだ。通常は、資源の価格が急騰すれば、需要は抑制され、また、
 より条件の厳しい地域での生産や代替財の開発がうながされるため供給が増え、価格は
 いずれ落ち着くところに落ち着く。ところが、さまざまな資源はいまや安価に調達でき
 る「市況商品」ではなく、資源国が自国の利益のため政治的に利用する「戦略物資」の
 性格を強めているのである。限られた資源をめぐり、熾烈な争奪戦が繰り広げられる。
 そんな構図が予測されるようになり、世界中で資源ナショナリズムが勃興している。資
 源保有国が自国の地下資源は自分たちのものであり、これを「戦略物資」として国益の
 ためにより有効に利用していく、という意識が高まっているのである。
・資源ナショナリズムの高揚は、当該国にも弊害をもたらす。まず、市場メカニズムのも
 とで拡大するはずの資源開発を抑制するため、価格を一段と押し上げるのみならず、外
 国企業の投資意欲を減退させ、海外の優れた技術の導入を細らせ、有望な資源の開発を
 遮断してしまうことにより長期的な生産の低迷さえもたらしかねない。
・高資源価格の時代の到来は「資源貧国」の日本にとってのリスクともいえる。原油価格
 の高騰は、企業には大変なコストアップ要因であり、日本経済の足を引っ張りかねない
 のは事実だ。原油価格が上昇するとき、通常、企業は合理化によって高騰分を吸収しよ
 うと努めるが、「均衡点の変化」ともいえる最近の原油価格の上昇はそうした努力で吸
 収できる限界を超えている。そこで企業が価格転嫁を進めれば、インフレ圧力が高まり、
 金利が上昇し、設備投資や消費が抑制されることになる。価格転嫁ができなければ、企
 業の業績は悪化し、設備投資が減退して雇用が削減される。いずれにしても景気には悪
 材料だ。
・今後、原油価格の高騰が恒久化するということが社会的コンセンサスなのであれば、進
 むべき道はおのずから決まってくるはずだ。いち早く、資源高価格時代に対応した社会
 システム作りに注力することである。
・日本経済は、1970年代の石油ショックのときと比べ、原油高騰に対してはるかに打
 たれ強くなっている。石油危機を契機に重化学工業化による経済成長から加工組立型の
 経済成長へ、「重厚長大」から「軽薄短小」へと省エネ・省資源化を進めてきた結果だ。
・最近のエネルギー・資源価格の高騰は、日本にとっては1970年代の石油ショック以
 来、長年培ってきた省エネ・環境対応技術の商業化の道を開くものであり、投資機会で
 もあるはずだ。
・日本としては、いたずらに経済活力の低下をおそれるばかりでなく、エネルギー資源価
 格の高騰や環境問題への対応など、むしろ新たな社会システム構築のための「絶好の機
 会」ととらえるべきだろ。

穀物をめぐる3つの争奪戦と穀物メジャーの戦略
・いまや、世界経済を引っ張っているのは人口8億弱の先進国ではなく、人口30億の新
 興国経済なのだ。中国やインドなどの人口大国が本格的な工業化の過程に突入し、猛ス
 ピードで先進国へのキャッチアップを進めているが、急速な経済成長は急速な所得向上
 をもたらす。所得向上は、人々の食生活を変化させる。それは質の変化をともなう。所
 得が向上すれば、肉の消費量が増える。そのため家畜を育てるため、エサとして莫大な
 穀物が消費されるようになるのだ。
・世界経済の爆発的成長は、食糧需要の飛躍的増大を招く。この結果、再生可能資源であ
 ったはずの食糧が急速に有限資源の色彩を帯びるようになってきた。食糧生産のために
 必要な水、土壌といった資源が有限性の性格を強めてきたのである。
・これまで米国は「世界のパンかご」として世界の食糧供給を柔軟に行ってきたが、国内
 市場の拡大によって輸出余力を失う一方、成長著しん中国がすでに新たな食糧輸入大国
 となりつつある。
・米国は世界のトウモロコシ生産の4割強、輸出量の7割近くを占める「モウモロコシ大
 国」であり、問題は米国の規模に四敵する輸出大国が見当たらないことだ。それに加え、
 中国がトウモロコシの輸入国に転じた場合、限られたトウモロコシをめぐってアジア諸
 国が争奪戦を始めるのは必至である。
・急速に進む地球温暖化対策と原油価格の高騰を背景に、クリーンなガソリン代替材とし
 てのエタノールに代表されるバイオマス燃料の導入が始まった。
・こうしたエタノールブームの負の側面として、エネルギー市場と食糧市場の競合が指摘
 されるようになっている。エタノール需要の拡大は、原料であるトウモロコシの価格を
 高騰させ、貧困層の飢餓を拡大させる。また家畜の餌代にも跳ね返り、最終的には食肉
 価格を押し上げる。
・経済構造が農業中心から工業中心になれば、工業用水や生活用水、工業用地や住宅地が
 拡大する。その結果、工業に比べ付加価値生産性の低い農業は、しだいに限界地に追い
 やられていくことになる。
・ちなみに、水の総需要量に対する農業用水の比率はアメリカでは約40%であり、日本
 は約60%であるが、アジアでは約70〜80%と高い。
・急速な工業化が進む中国では、北部を中心に水不足が深刻化しているが、この背景に工
 業化と都市化により非農業用水の需要が急増していることがある。トイレを例にとって
 も、汲み取り式を水洗トイレにするだけで水の使用量は倍以上になるのだ。
・国際市場で、「カネさえ出せば食糧はいくらでも手に入ると思ってきた」日本人、「よ
 り高品質で安全・安心な食糧を求める」日本人が、食糧の買い付け競争で「買い負ける」
 可能性が出てきた。食糧争奪の問題は、市場メカニズムに任せるだけでは解決できない
 問題になるかもしれないのである。エネルギー・鉱物資源の高騰に続く食糧価格の高騰
 を、忍び寄る食糧危機の前触れととらえるべきではないのか。
・日本政府は無作為であってはならない。いまこそ食糧自給率の向上、農業技術、環境対
 応、人材育成など、あらゆる手段の組み合わせによる食糧の安定調達に向けた対応が急
 務である。 
・世界の穀物市場は、価格言動が激しいのが特徴だ。生産量に対して貿易量が10〜12%
 と限られるため、輸出国の国内生産の変動を増幅するような形で反映される傾向がある。
 穀物市場は「薄いマーケット」といわれるが、供給の源泉が厚くなく、供給量が変動し
 やすいことが、それのゆえだ。穀物は基礎食糧であり、基本的には国内消費が優先さ
 れ、余った分が輸出という形で国際市場に供される。このため、世界的な不作時に貿易
 量を維持しようとすれば、国際価格が一段と高騰することになる。脆弱性を抱える世界
 の穀物市場に、地球温暖化が追討ちをかけかねない。とりわけ、乾燥及び半乾燥地域の
 農業は、降水量次第になるため極めて不安定となる。
・ロシア農業は、畜産物の飼養頭数を減らすことによって輸入を含めた必要な飼料需要を
 減退させ、余力があれば輸出に回すことで全体を調整するといった構図にあるといえよ
 う。かつて社会主義体制時代、米国などから年間3000万〜4000万トンの飼料用
 穀物を輸入していたロシアにとって、こうした現状は発展といえるものなのか。将来、
 国内において畜産振興の必要が生じれば、ロシア農業の脆弱性が一気に表面化すること
 になろう。
・ロシアの穀物生産力の量的拡大は今後、干ばつなどの悪天候が重なれば、豊凶の差が拡
 大する可能性が強く、世界市場にとっては大きな攪乱要因といえそうだ。
・主要な穀物の輸出国は米国、カナダ、オーストラリア、南米のブラジル、アルゼンチン
 などだが、輸出を取り仕切っているのは大手国際穀物商社、いわゆる穀物メジャーであ
 る。 
・穀物メジャーは、加工部門にも進出している。小麦から小麦製粉、大豆からは大豆油や
 家畜の飼料、トウモロコシからコーンスターチや配合飼料の生産を行っている。
・穀物メジャーは、多くの点で石油におけるオイル・メジャーと類似しているが、決定的
 に異なる点がある。オイル・メジャーが、自ら原油の生産を手がけるのに対し、穀物メ
 ジャーの場合、自らは穀物の生産者になろうとしないことだ。これは弱点ではない。む
 しろ、価格変動や天候異変などのさまざまなリスクを回避できる意味において強くとい
 える。
・食用植物は約3000種類あるといわれるが現在、商業ベースに乗って生産されている
 ものは約150種類しかないとされている。しかも、このうちわずか5種類の作物に人
 類の食糧が大きく依存している現状は、安定しているようで実は不安定なのではないか。


水の超大量消費国・日本はどうすべきか
・農産物の貿易は今後、単に世界各国の食糧不足を補うばかりでなく、水不足をも補うか
 たち、極端にいえば「作物の水分含有量」で決定されるようになるかもしれない。いわ
 ば「農産物の貿易」イコール「水の貿易」であるというバーチャルウォーターの発想で
 ある。
・日本は水資源総量では比較的恵まれていながら、多くの水を海外に依存しているのだ。
・我が国は年間1人当たり500立方メートルもの水を、食糧の形で海外から輸入してい
 る。日本が輸入した食糧を作るため、世界で使われた水の量を踏まえて計算すれば、日
 本のAWR(年間1人当たり水資源量)は1230立方メートルとなる。 
・要するに、日本は膨大な食糧を海外から輸入しているからこそ、国内の水資源をそれほ
 ど使わずに済んでいるということだ。言い換えれば、食糧輸入を介して世界の水に依
 存しているのが我が国なのである。
・日本以外に大量の食糧を海外に依存しているのは、中近東や地中海沿岸の乾燥地帯の産
 油国だ。これらの国々は、いわば石油を売って水を輸入しているようなものだ。
・実は日本も砂漠にある国々と同じようにバーチャルウォーター貿易で世界中の水資源を
 消費しながら、自国の食糧をかろうじて確保しているのが実情なのである。
・日本は昔から、水害と干ばつに苦しんできた。河川の水量が年間を通じて安定していな
 いためである。
・日本においては河川の水量変化が著しく、洪水を防ぐことと、水を利用することを両立
 させることが難しいことを意味する。
・日本では、治水、利水対策など水を安定的に供給するシステムとして過去、多くのダム
 を建設し、新規の水資源を開発してきた。
・ダムは、竣工して水が溜まり始めたその日から土砂も溜まり始め、いずれ埋没して使え
 なくなる消耗品だ。ちなみに、アメリカのダムの耐用年数が平均50年とされているの
 に対し、日本のダムは平均20年と短い。
・かつて都市にとって川は、まぎれもなく「捨て場」であった。すなわち、川は不要な水、
 洪水の処理場としての「量」の捨て場だったのである。そして、この「捨て場」として
 の川の思想のうえに発生するのが、今日の水問題、水資源の危機であるといえよう。都
 市は水を「ただひたすら使う」行為によって、水を「量」の面から奪い、その結果とし
 ての「捨て」の行為が水の「質」に対しても攻撃を仕掛ける。それが新たな「量」の略
 奪に結果するという図式で、「使い」と「捨て」の両面から水資源を奪っていくのであ
 る。
・水の利用は「使い」と「捨て」の両面からの水の略奪にほかならなかった。こうした水
 利用の倫理には「水は貴重な資源である」との概念は片鱗すらない。
・世界を見渡せば、中国やインドなどBRICsをはじめ多くの振興市場国では、経済成
 長にともなう急激な都市化によって水問題が悪化している。経済成長は、人口の都市集
 中や産業発展にともない、水資源の不足問題と同意に生活廃水、産業廃水などの増大に
 よる水質悪化をもたらすためだ。
・問題は、開発途上国のメガシティでは、あまりにも急速は都市化のスポードにインフラ
 投資が追いつかないケースが多いことだ。たとえば、インドネシアのジャカルタの場合、
 水道を使えるのは住民の半分で、周辺地域になると住民の約8割がいまだ水道が利用で
 きない状態にあるという。
・日本は1964年の東京オリンピックのときに、深刻な水不足に陥っている。高度経済
 成長によって首都圏での水需要が高まったのに加えて、水需要の構成が変わったためで
 ある。農業の高度化と季節と無関係に野菜や花卉が栽培されるようになると、年間を通
 じて水が必要になった。水道で供給されている水のうち、飲料はわずか1%に過ぎず、
 料理などの需要を加えても数%程度だが、農業すなわち食糧生産のための水需要は需要
 全体の約7割にも及ぶのである。
・日本では、地形が急峻で河川の延長距離が短いところに降雨が梅雨期や台風の季節に集
 中するため、せっかく降った水資源のうちのかなりの部分が利用されないまま海に流れ
 出てしまい、水資源賦存量に対する水資源使用率は約20%しかない。また、これは日
 本に限らないが、森林の滞水能力は伐採や鉱山採掘によってどんどん破壊されている。
・われわれ日本人は世界の水資源を使って生産された食糧で生きているという事実を忘れ
 てはならない。
・日本の食糧自給率はカロリーベースで4割に過ぎず、残りの6割を輸入でまかなってい
 る。仮に日本が輸入している食料をすべて国内生産に切り替えようとした場合、年間約
 640億トンの水資源が必要と計算されるが、これは実に、琵琶湖の貯水量の約2.5
 倍に当たるという莫大な量である。また、1日1人当たりに換算すれば、約1500リ
 ットルの水に相当するのである。世界中の水不足がいっそう深刻になれば、こうした日
 本の水の使い方に非難が集まる時代が訪れるかもしれない。
・世界の水不足を放置すれば、食糧価格の高騰、あるいは食糧の枯渇というかたちで日本
 に危機が跳ね返ってくる可能性がある。また、日本が食糧自給率を上げようとすれば、
 再び水資源の問題に直面する可能性も否定できないだろう。