下り坂社会を生きる :島田裕己、小幡績

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日本は下り坂社会となったと、よく言われる。超高齢化と少子化による人口減少が、鮮明
となってきた今の日本の現状を見れば、この下り坂社会という感覚は、避けられないこと
だろう。
しかし、「下り坂」というのは、なにを持って下り坂というのか。単にGDPだけを見て
いうのなら、確かに下り坂であると言える。でも、社会の状態をはかる指標は、GDPだ
けではないはずである。最近は、ブータン国が「世界一幸せな国」と言われるように、国
民の満足度や幸福感を指標とする考えも出てきている。
最近の調査では、日本国民の64%は「心の豊かさ」を求めているという。これは、日本
で明治維新から始まった、外国と肩を並べるために「前のめり・がむしゃらな量の成長」
を目指すということは、もう必要なくなったということだ。国際的に見ても、日本は物質
的には豊かな国になったからだろう。
これからの時代は、「量」から「質」への転換が必要であると言われる。「心の豊かさ」
という点においては、日本はまだまだ途上国のように思う。物質的な面では下り坂でも、
「心の豊かさ」の面では、まだまだこれからであり、登り坂なのだ。
「原発をゼロにすれば、日本経済は立ち行かなくなる」と経済界の重鎮の方々はおっしゃ
るが、超高齢化・少子化・人口減少の社会では、どんなことをしてもGDPが下がるのは、
避けられない。いつまでも、GDP世界何位ということに固執するのは、野暮ではないか。
価値観を転換して、新しい社会を作っていくという、時代の転換点きていると私は思う。

まえがき
・日本は、いまやすべての面で下り坂を迎えている。下り坂社会だ。高齢化、人口減少、
 成長経済の終焉、縮小する経済。政治の矮小化、官僚組織の衰退。大企業の安定雇用の
 終焉、高偏差値有名大学を頂点とする教育システムの崩壊。メディアの影響力の低下。
 しかも、出口、飯店のない、永遠の下り坂だ。
・日本の現在の停滞は、登り坂から下り、往路から復路への転換点に、戸惑っているだけ
 なのだ。ギアを切り替えれば、社会の未来は開けてくる。
・下り坂をリラックスしよう。下り坂は、無理に頑張ることはない。欧米が頂点という目
 標になぞらえ、闇雲に登る必要はない。日本社会というすばらしい環境、下り坂を下り
 続けられる、世界一長い下り坂を楽しめる、その環境を受け入れ、楽しもう。
・下り坂を生き抜いた社会は、まだない。どの社会も走り方がわからないのだ。いまこそ、
 この下り坂を研究し、日本が世界一、下り坂をうまく生き抜く社会として成立し、世界
 をリードするのもいいのではないか。
・日本は、下り坂社会。下り坂こそが幸せの局面であり、チャンスなのだ。終わりよけれ
 ばすべてよし。この永遠の下り坂、長い長い後半戦を楽しむために、我々は、まず、下
 り坂をリラックスして楽しもうではないか。

成長神話の終わり
・個々人としては自己防衛のためにやることが、全体としては自己安定化機能を失ってし
 まう。その典型的な現象が、金融市場ではバブルなんだけど、それが、実体経済でも起
 きてしまっている。
・つまり個々の会社のレベルでも、自分だけ都合よく調整しよう、しかも危機を回避する
 ために、全力で将来を織り込んで逃げ出す、という個々のレベルでの金融化。これが起
 こると同時に、社会の金融化、ここが頑張っているからこそ、それが全体になると裏目
 に出て、社会全体が不安定化する。二重の意味で、我々の世界はすべてが金融化されて
 しまっているんです。
・バブルが決定的になったのは、金利が異常に下がったからです。85年の「プラザ合意」
 以降、円高ドル安になって通称「円高不況」っていうのが起きた。もともと国内の景気
 はそれほど悪くなかったにもかかわらず、あまりに急激な円高で輸出がやられたから、
 金利をとことん緩和して、なんとかしようとしたわけです。ところが、金利を下げたと
 ころで、円高が止まるわけでもないし、そもそも円高だけでなく、世界的には、ドル安
 が大きな問題だったんです。
・低金利の結果、急激な円高に苦しんだ企業には効果がなく、影響は、国内に資金がだぶ
 ついてただけ。その資金は、当然、不動産と株にむかったっていうのが、あのときの現
 象ですね。
・高度成長期には、田舎から都会に集団就職で出てきて、生産をどんどん増やしていって、
 国内の消費も増えていったわけです。ところが、高度成長が終わる頃には、その労働力
 も枯渇してきた伸びないから、実質的に賃金水準、あるいは福利厚生を上げないといけ
 ない。だから、内需だけでは、儲けは増えなくなってくる。
・前は、故郷を離れて都会で成功することによるリターンが、すごく大きかったんです。
 でもそのリターンが、今は少なくなってきているから、故郷を捨ててまで都会に出てく
 る必要性が、本当にあるのか疑わしくなってきています。
・立身出世モデルをだんだん人々が望まなくなってきたので、いったん何を目標にして生
 きていったらいいのかが、わかりにくくなってきている。それに代わって、安定志向と
 いうか、下の方で安定するのでもかまわないと考える人が増えてきた。
・そもそも都会に出てきたときに、リターンどころか、むしろマイナスになってしまう可
 能性も出てきた。ならば、地元に残って生活した方が、かえって豊かな生活ができる。
・地方だと土地も安ければ、家も安い。そんなに給料は高くないかもしれないけど、安定
 しているし、身近に知り合いがたくさんいて、結婚することもできれば、子どもを作っ
 て教育もできる。わざわざ都会に出てきて、新しい人間関係を作る必要もない。
・今は転勤するにしても、単身赴任が主流になっていて、家族は子どもの教育や地域社会
 の人間関係が大切だから夫が転勤しても引っ越さない。
・たとえば所沢だとか、町田だとか。そういうところで生まれ育った人たちは、もう池袋
 にも出なければ新宿にも出ないで、地元で働いて、地元で遊んでいる。移動しないで同
 じところにずっといる方が、孤独にならないで済むし、コストも安いわけです。
・日本経済においては、失われた10年よりも遥か昔から、成長も景気循環も重要じゃな
 くなっているということなんです。その後、バブルがあったから、いろいろごまかされ
 てきたけど、オイルショックのときに成長は終わったんです。それなのに過去の成長の
 幻想というか、昔のように成長したらいいねっていう幻想の下に生きている人がいる。
 でも、もう成長なんかしっこないの。メディアと自民党だけが成長神話が崩れていなく
 て、民主党には成長シナリオがないって批判していたけど、国民はもう成長なんかとっ
 くに終わったじゃんと気づいている。
・成長を前提とした時代は、景気循環の下に触れる波が成長の邪魔になる。下に振れてい
 る間に何もしないでいると、成長に乗り遅れちゃうから、経済政策などで下の波をなる
 べくなだらかにして、どんどん成長しようとする。でも、もう成長はおわったんだから、
 景気循環の波を消すことにエネルギーを使うよりも、今の資源を大切に使って、これか
 らの余命を平均的に豊かに過ごそうよ、と考えたほうがいい。
・景気対策をしたって意味はない。どうせ成長しないんですから。国内の内在的な波乗り
 じゃなくて、中国でバブルが起きたり、アメリカでバブルが起きたりして、それが世界
 に波及しているだけだから、国内で対策をいくらやろうとしてもしょうがない。
・量的成長の時代は終わって、もう質的成長の時代なんです。

政治家と官僚の下り坂
・生産者サイドに金を突っ込んでも、何も意味がないということです。成長する前提だっ
 たら、生産者を支援することが経済を成長軌道に乗せることだからみんなハッピーにな
 れた。けど、もう成長しないんだったら、生産者側に金を入れても意味がない。
・もうひたすら成長を目指すという方向ではなくて、いかに安定した持続的な生活を維持
 していくかということに主眼が移ってきている。
・官僚機構というのは、日本の大組織の象徴だと思います。完了の最大の誤謬は、財務省
 のプライドにも現れているように、自分たちは重要なことをやっていて、自分たちしか
 できないと思っているところです。ということは、世の中は自分たちが動かせる、コン
 トロールできるものだと潜在的に思っているんですね。でも、実際には、コントロール
 なんて全然できないじゃないですか。しかも、グローバル化が進んでいるから、どんど
 んコントロールできる範囲が狭まっている

経済学の下り坂
・経済学はモデル化して、数学化して暴走したけど、今回の金融危機で、なんの役にも立
 たないということが明らかになった。モデル化、数学化のバブルも崩壊しつつある。
・経済学も、要は政治学と同じです、少しだけ、よりもっともらしく見えるだけ、物理学
 からモデルを借りてきたり、心理学とか医学みたいなものに依存したりするけど、手法
 としてはかなり危うい。

大学の下り坂
・今は、大学の能力っていうのは、教員の能力じゃなくて理事長と事務スタッフの能力な
 んです。だから、従来の偏差値序列とか、伝統の有無からいったら下のほうの私立大学
 でも、経営がうまければ学生は集まる。一方、誰もが知っているけど、圧倒的人気があ
 るわけでもない中堅大学は壊滅している。
 
職業の下り坂
・本当に日本はサラリーマン社会にシフトしてしまっていますよね。サラリーマンとして
 働く人間が、日本社会の中に増えてしまって、それを基本にだいたいが成り立っている。
 でも、本当にその学生がサラリーマンに向いているのか。それを生き甲斐にできる人が、
 そのうちどの程度いるのか。現実にそういう世界の中でちゃんと生きていけるのか。そ
 ういった保証は何もないわけですよね。
・度胸も力もあればいいけど、普通はそうじゃないんだから、会社に身を寄せますよ。だ
 って才能もガッツもないんだから。才能というのは、99%の人がないし、ガッツもだ
 いたいの人はないんです。ただ、サラリーマンになれば安心で、会社に勤めれば安心と
 いうのは、ごく一部の時代のごく一部のエリアのごく一部の人に成り立ったルールであ
 って、それは例外だったんですよね。それを常に期待するのは、虫がよすぎる。
・要はみんな才能がないんですよ。自分が何に向いているのか自分探しをしたって、結局
 は「お前なんか何も向いてないんだよ」っていうことになる。与えられたものを一生懸
 命やる以外ないんですよね。そのためには、思い込みか強制か、どっちかしかないわけ
 で。
・今の日本は、たいしていいこともないけど、とりあえずなんとか生きていくことはでき
 る社会になっている。逆に、落ちちゃえば落ちちゃうほど生きやすいみたいなことも起
 きていて、生活保護のレベルまでいってしまえば、逆に働かなくても生きていける。
・お金が稼げるわけでもなければ、かといって生活保護レベルでもない、ちょっと中途半
 端な領域にいる人のほうが、生きるのが難しいという状況になってくると、ますますど
 こを目指すべきなのか、わかりにくい世の中ですよね。
・これから大量失業が生まれるし、ずっと失業している期間も長くなるし、失業者って安
 定的に多く存在するようになると思うんですよね。もちろん失業自体は辛いことだし、
 それはすごく大変なことでもあるんだけど、失業のあり方次第で、精神的な辛さは変わ
 ってくる。
・これまでは、正規雇用で人生のすべてが会社にあったから、リストラになってクビにな
 ると暴れたわけですね。これからは、失業するのが当たり前だということになれば、失
 業に対する考え方が変わってくる気がしますね。 
 
お金の下り坂
・エコノミストも内需拡大が重要だと、いろいろ言うんですが、具体的に何を拡大するの
 かを、誰も言っていないと思うんです。
・今までの消費を主導してきたのは、新しく出たものが欲しいという欲望ですよね。でも、
 新しくどんどん変わっていくことで伸びてきた消費のモデルは、これからは難しいでし
 ょうね。
・高齢者に消費させたいんだったら、年金医療改革しかないですよ。何かあったとき、お
 金しか頼りにならないと思っているから溜め込んでいるけど、その心配がなくなったら、
 溜め込んでいるのは意味がないから、すごく遣うと思いますよ。
・今の高齢者に遺産動機(遺産を残したいという欲望)はほとんどない。息子とか孫にお
 金を残してやりたいと発想する人は極めて少数派で、自分の老後が不安だから、しこた
 ま貯めているんです。生前贈与なんか、絶対しない。贈与したら、誰も面倒を見てくれ
 ないから。
・考え方としては、不安がなくなればいいんです。年金という味気ない現金ではなく、つ
 ながりのあるコミュニティが成立していて、医療サービスも受けられる住居があれば、
 充分どころか最高なんですよね。そういう新しいコミュニティに住むことが流行れば、
 とことん流行ると思うんです。安心するし、つながりもできて楽しくなる。
・今の高齢者について言えば、医療費はほとんどかからないですよね。介護保険もほとん
 どかからない。
・本当にかからないんですよ。もしガンになったとしても、公的医療保険があるから、上
 限があって、無限にお金がかかるということはあり得ない。お金の問題ではなくて、い
 い医者に出会うことはできるか、家族はサポートしてくれるか、本当はそういう問題の
 はずなのに、お金の問題にすり替えている。
・移民が入ってくるということは、仕事を奪われるということですから、それよりは観光
 客を呼んだほうがいいですよ。だって、移民は稼いだ以上の消費はしませんから。簡単
 に言うと、仕事が減るだけだということです。だから、移民を受け入れるという意味が
 まったくわからない。
・世界を見渡しても、東京でしか売っていないものがいっぱいあって、他の国、他の都市
 と比べると、その落差がまだまだものすごくある。
・ディスプレイにしても店の雰囲気にしても、東京は断然、抜けていますね。香港でロレ
 ックスを買ってもいいけど、買う雰囲気というか、買い物を楽しむということからした
 ら、東京を上回るのはかなり難しいですね。
・日本には、本当にモノが溢れているから、買うということが最優先される社会ではもう
 なくなってますよね。年輩の人たちは、やはりまだ消費が最優先ということで、内需拡
 大と言うのかもしれないですけど、そのイメージがもはや社会的に通用しない。こんな
 にモノがあふれている社会って、世界中に存在しないわけじゃないですか。こんな社会
 のなかで、いったい私たちは何を求めていけばいいのか。欲望の対象になるものがだん
 だんなくなっていて、消費を快楽とするようなことが、かえって難しくなっている。
・文明が飽和するということは、歴史の中でも繰り返されてきたことだと思うんですが、
 それは外敵にやられたり、資源が枯渇したりといった話であって、今の日本のように、
 モノがありすぎて飽和しているというのは、珍しいんじゃないでしょうか。
・日本はべつに、アメリカの金融資本主義みたいに世界中から金を集めてくる政策をとっ
 たわけじゃないんだけれど、いつの間にか、世界中からモノが集まる仕組みができあが
 っちゃてるわけですよ。他の国では四敵するところがない。もし、中国がそういう社会
 を作ろうと思ったら、何百年かかるかわからないでしょ。
・東京に来れば、それだけのモノがあるわけで、しかも値段はそんなに高くなかったりす
 る。そうすると、ますますモノが集まってくる。物流に特化した物流都市というものと
 も違うんだけど、モノ都市みたいなものが、この東京の中にできあがっているんじゃな
 いですか。
・金のあるなしじゃないんですよ。お金だったら中東の産油国のほうが持っているわけで
 すから。日本には、高いものじゃなくていいモノが集まってくる。それは他の国には、
 真似ができないことなんです。やっぱりすごいことだと思いますよ。一時のバルブみた
 いに、金にまかせて漁ってたわけじゃなくて、今や金がなくなってきたのに、みんあい
 いモノを見る目があるから、コストパフォーマンスも含めた、本当にいいモノが集まる。
 日本企業に強さもそこにしかないんですよね。
・昔だったら、アメリカに行けば物質文明が栄えていて、日本にはないものがいくらでも
 あったけど、今、アメリカに日本以上に豊かな物質文明があるなんて思っている人はい
 ない。そこまで日本社会が成熟し、飽和してしまったということを前提にものを考えな
 いといけないいんじゃないですか。
・なんでアメリカ人がいっぱい買うかというと、いいものが売っていないからなんですよ。
 だから、量で満足するしかない。アメリカの料理と一緒。お腹いっぱい食べないと、満
 足感が得られない。にほんはなんでもうまいから、ちょっと食べれば満足できる。
・フランスのミッシュランが日本に進出してきて、いろいろと格付けをしていますが、星
 のつく店が多くて、日本が世界で一番美食の国だということが、明らかになっている。
 
脱成長を生きる発想
・今の社会は、先を読むということがすごく難しい。とんでもなく大変な状況に来ている
 と思います。
・貨幣がなぜ魅力的かというと、権力と一緒だからです。貨幣はなんでも買えるという無
 限の可能性にみんな興奮する。何を買おうかと考えているときが、一番楽しい。買っち
 ゃてモノになったら全然つまらないんです。
・権力もそうで、権力を取ったら思いのままに国を動かせるんじゃないかと思うんだけで、
 いざ取ってみても、あまり大したことはできない。
・だから、無限の可能性というのに興奮するんですよ。貨幣の魔力というのは、貨幣が何
 物でもないところから来ていて、なんにでも変われるところから来ている。
・逆に言えば、そういうふうに固定化されないように生きていくことが、必要なんじゃな
 いですかね。自我なり、アイデンティティなりも定めないというのか。
・将来の夢を、ずっと見るのが一番いいわけです。スターになってやるとか、有名になっ
 てらどうしようとか。無限の可能性を残したままというのが一番幸せ。
・電子マネーの一番の問題は、誰でも発行できるのでインフレが起きやすいということで
 すね。
 貨幣は無限の力を生み出す存在なんだけど、実はその貨幣がなくなる可能性があるんで
 すよね。一番怖いのはインフレで、持っているだけで価値がどんどん目減りしちゃう。
 資本主義の恐怖はデフレではなくインフレなんです。大恐慌は資本主義をびくともさせ
 ない、みんなお金を持っているわけだから、超ハイパーインフレションこそが、お金を
 無価値にし、資本主義を危機に陥れる。
・日本は、明らかにあらゆる面で下り坂なわけです。日本ではもう人口は増えなくて、減
 っていくのは決定的ですよね。子ども手当を出したからといって、人口がそんなに増え
 るようにはならない。そういう意味で、今まで経験したことがない決定的な下り坂と思
 うんです。
・下り坂というのは、そういうエネルギーがもう頂点に達しちゃったということなんだと
 思います。地方から都会に出てくるという生活のおおきな変化を経験できる人が、もう
 いなくなっている。都市に出てきても、一旗揚げることがなかなか難しい。
・経済成長していれば、都市に出てきたらいい生活ができるけれども、今は反対になって
 いて、都会では経費もかかるから、そういう豊かな生活もできない。
・セックスということで言えば、日本の江戸時代というのは、セックスに対する禁止とか、
 それをダブー視することがなかったんですよね。日本の社会の中では、性的なものをタ
 ブーとして禁止するというキリスト教的な考え方が、明治になるまでない。
・日本の社会の歴史をずっと見ても、登り坂のときもあるし、下り坂のときもあるし、平
 坦な時代もあるしということの繰り返しです。
・ただ、なんとなくずっとみんな右肩上がりというのが前提になってきてしまっているか
 ら、この下り坂をどうやって生きていったらいいのかわからない。
・今生きている人はみんな、死ぬまでの間下り坂ですよ。その事実を受け入れないといけ
 ない。
・個人レベルで考えると、身の丈以上の借金を背負っていなければ、下り坂でも何とかや
 っていけるんじゃないでしょうか。
・このところの世界は、人が溢れ、モノが溢れ、情報が溢れてきたんですよね。それをう
 まく処理するやつが勝つ。拡大が急速に進み、時間が常に不足する時代。そう、唯一増
 えないものは時間だったんです。時間だけがどんどん減っていった。相対的に。だから、
 時間をかけるものは負けだったんです。
・今後はそうじゃない。モノが増えず、人も増えなければ、相対的に時間が余ってくる。
 人生も長くなる。だから、時間を長期的な戦略でゆったり使ったやつが勝つ。時間をか
 けたやつが勝つ。そういう時代なのでは。時間が余るんだけど、その時間こそが貴重で、
 この時間投入が勝負を分ける。そういう時代ではないでしょうか。
・恋愛もゆっくり育てる。セックスにもあきてから、第二の恋愛が始まる。すごく深い愛
 が生まれてくるのではないでしょうか。
・相手を力任せに倒すのではない、本当の柔道みたいな熟練の技が必要とされるのかもし
 れません。老いてからでないと生み出せないものがあるはずで、それはすでにあるはず
 なんだけど、その価値に世界中でみんなでもう一度気づくような世界になるんでははい
 でしょうか。「枯れ専」と呼ばれるような老人好きの若い女の子は、下心でなくて、こ
 の新しい時代を感じて動いているのではないでしょうか。

あとがき
・社会が下り坂にあるという認識が生まれるのは、これまでの日本が右肩上がりの経済成
 長を遂げてきたという認識があるからである。経済成長は、戦後の高度経済成長時代以
 降に勢いを増したが、さらに遡れば、日本が近代社会に突入して以来、経済の飛躍的な
 発展が続いてきた。ところが、その発展にも限界が訪れ、これからは下っていく一方だ
 というわけである。
・確かに日本経済は、そして日本社会は、今、長い登り坂をのぼりつめたあと、下り坂に
 さしかかっているように見える。だが、私たちがそれを意識するのは、経済や社会の実
 態を見てのことというよりも、経済指標によるところが大きい。
・GDPがプラスなら登り坂にあり、それがマイナスなら下り坂にある。今の私たちは、
 そう判断している。もし、こいした経済指標がなかったとしたら、はたして私たちのな
 かに登り坂や下り坂といった認識が生まれるだろうか。
・今の私たちは、偏差値に振り回され、経済指標に振り回されている。実態を確かめる前
 に、数値で判断し、それに強く影響されている。そして、その数値が下り坂を示してい
 ると、ものすごい不況に見舞われているような気分になり、それで現実と戦う意欲まで
 失ってしまっている。
・さらに、「100年に一度の経済危機」などという言葉にも振り回されている。本当に、
 それが1世紀に一度しか起こらない深刻なのかどうか、充分な検討を加えないまま、断
 定的な表現をそのまま鵜呑みにし、それでうろたえている。
・今私たちは、本当に下り坂にさしかかっているのだろうか。そもそも下り坂とは何を意
 味するのか。私たちはまず、その天を再検討する必要がある。経済指標を絶対的な前提
 とすることなく、それを疑い、生活の実態を見なおすことで、今の私たちが、今の日本
 社会がどういった状況にあるのかを、改めて見つめてみる必要がある。
・現在の日本の社会は、間違いなく豊かである。もちろん、豊かな人間もいれば、貧しい
 人間もいる。それは否定できないことだが、社会全体を見回してみたとき、これほど豊
 かな社会がほかに存在するのか、歴史的にも存在したのか、それは相当に疑問である。
・日本の社会にはモノが溢れている。しかも、世界中から優れたモノが集まっている。世
 界と一周して凄れたモノを探すよりも、東京にいて探したほうが、はるかに簡単に、ま
 たはるかに優れたものを探すことができる。
・希に見る豊かな社会が実現してしまったことで、私たちはその先を思い描いたり、さら
 なる夢を見ることが難しくなっている。これ以上どうやって豊かさを実現すればいいの
 か。それを考えられなくなっている。それは、それほどまでに、私たちの社会が進んで
 しまった証拠でもある。