「国富」喪失  :植草一秀

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この本の筆者は、東京大学卒の超エリートの経済学者であった。小泉純一郎政権当時、筆
者は早稲田大学大学院教授の職にあって、経済コメンテーターとしてテレビにもしばしば
出演し、小泉・竹中内閣の「聖域ない構造改革」を批判し、当時の経済・金融担当大臣で
あった竹中平蔵氏と激しく対立していた。当時はまさに、飛ぶ鳥も落とす勢いのある人物
であったと記憶する。
ところが、2004年に起きたある事件で、その超エリート人生は一転する。ある事件と
は、当時「手鏡事件」とも呼ばれ、品川駅のエスカレーターで「女子高生のスカートの中
を手鏡で覗こうとした」として、鉄道警察隊員に現行犯逮捕されたのである。
しばしばテレビの出演していたこともあり、事件はメディアでセンセーショナルに報道さ
れ、世間を驚かせた。私自身も、あんな超エリートが女子高生のスカートの中を手鏡で覗
くなどという軽率な行為をほんとにしたのだろうかと、唖然とさせられたことを記憶して
いる。なんだか話が出来過ぎている。嵌められたのではないのかという思いもわき上がっ
た。しかし、この事件をきっかけに、筆者の人生は一変し、世間から姿を消した。その後
再びテレビ等に出てくることはなかった。その後、どうしているのだろうか、生きている
のだろうかと、時々気になっていたところ、この本に出会って、とても興奮した。
筆者の政権に対する批判精神は健在だった。その多くは賛同できる内容である。筆者が主
張するとおり、過去においても、そして現在においても、この国は時の権力者およびその
とりまきのよって、国富をかすめ取られて続けてきたと言えるだろう。
しかし、筆者の主張には違和感を感じる部分もある。例えば、日本政府は巨大な借金はあ
るが、その巨大な借金を上回る巨大な資産を保有しているから、財政破綻することはない、
という点である。これは一般の家庭に例えるならば、借金よりも土地と家屋の評価額が上
回っているから破産することはないと言っているようなものだ。確かにその時点で、土地
と家屋を売れば、借金は返せるかもしれない。しかし、土地と家屋を売ったら、翌日から
寝泊りするところを失ってしまう。そんな状態を、はたして大丈夫だと言えるのであろう
か。私にはとても納得できる理屈ではない。
筆者が指摘している日本の食料自給率の問題は、国の存立を危うくする問題である。日本
は食料自給率が39%しかなく、その多くを海外からの輸入に依存している。もし、日本
がなんらかの国際紛争の当事者となった場合、この食料の輸入をストップされてしまった
ら、万事休すだ。いくら防衛力を強化しても、食料が絶えたら、日本の国民は生きていく
ことはできない。戦わずして敗れてしまうことになる。
もっとも、日本のこの食料自給軽視の思想は、今に始まったことではない。先の大戦にお
いても、日本国軍は兵站を軽視した。そのために現地の兵隊の多くは、戦闘ではなく餓死
で死亡したのだ。また内地においても、農業技術者や農業従事者のほとんどを兵隊として
戦場に狩り出したので、食料生産能力が著しく低下し、内地で暮らす一般国民でさえもが
食料不足で苦しむこととなった。日本は、現代においてもこの反省はなく、食料自給につ
いて無頓着であり続けている。これはもはや、「あきれる」を通り越して「バカな国民」
だと笑うしかない。
現在、国会で野党が激しく追求している国有地が破格の安値で売却されたという「森友学
園問題」のメディア報道を目にしていると、過去においても現在においても、この国の国
民は、時の権力者たちから搾取し続けられてきているにもかかわらず、今なお「お上の言
うとおり」とばかりに、暴動を起こすでもなく、デモをするでもなく、盲従し続けている。
この国の国民は、なんと「おめでたい国民」なんだと、この本を読んでつくづく思えた。
筆者には、今後も引き続き厳しい国家批判・政権批判を期待したい。

まえがき
・2016年6月に大阪府にある不動産鑑定評価額9億5千万円の国有地が学校法人森友
 学園に1億3千万円で払い下げられた。この国有地は2011年から2012年にかけ
 て大阪音大が取得を要望して、5億8千万円の価格で購入希望を提示したが、近畿財務
 局が価格が低すぎるとの理由で排除したと伝えられている。
・森友学園が経営する幼稚園は園児に教育勅語を暗唱させることで知られており、取得し
 た国有地に開設予定の小学校の名誉校長には安倍首相夫人の安倍昭恵夫人が就任してい
 た。 
・国有財産が不当に低い価格で払い下げられることは国民に損害を与えることであり、国
 会は国政調査権を活用して事実解明する責務を負っている。
・東京電力福島第一原子力発電所が引き起こした、人類史上最悪レベルの放射能事故は、
 国土を著しく毀損しているが、津波対策の不備が専門機関から指摘されていたのにもか
 かわらず、東電と国が適切な対応を怠ったことにより発生した可能性を否定できない人
 災である。 
・政府や大資本の不適切な対応により、私たちの生活そのものが深刻な打撃を受け、さら
 に、私たちが蓄積してきた巨大な資産、富が毀損されている。アベノミクスや成長戦略
 などの言葉をメディアが装飾を施して報道するから、安倍政権の経済政策が国民生活を
 潤させているとの錯覚が生じかねないが、一人一人の国民生活の水準は確実に沈下して
 いる。
・日本政府は、国民の老後の生活を支える年金資金に、呆然とするばかりの杜撰な運用で
 巨額損失を発生させたが、責任を明らかにすることも謝罪することもない。政府が日銀
 から借金してドル資産投機を行っている外貨準備資金では、4年半で50兆円の損失を
 計上するという驚愕の現実が生じたが、この重大事実を正面から取り上げるメディアは
 存在しない。
・政治を評価する際に何よりも重要なことは、「誰のあめの政治」であるかと見極めるこ
 とである。残念なことだが、現在の日本政治は、「強欲大資本のための」、「ハゲタカ
 のための」政治に堕してしまっている。 
・「慌てず、焦らず、諦めず」で着実の王道を進めば、必ず道は拓ける。

【失われる国富】
いま、危機に瀕している日本の「国富」
・2014年、福井地方裁判所の樋口裁判長は、関西電力大飯原子力発電所の運転差し止
 めを求める住民訴訟において、「原子炉の運転をしてはならない」とする判決を示した。
 判決のなかで、樋口裁判長は「被告は、本件原発の稼働が、電力供給の安定性、コスト
 の低減につながると主張するが、当裁判所が、きわめて多数の人の生存そのものにかか
 わる権利と、電気代の高い低いの問題等とを、ならべて論じるような議論に加わったり、
 その議論に当否を判断すること自体、法的には許されないことである、と考えている。
 このコストの問題に関連して、国富の流失や喪失の議論があるが、たとえ本件原発の運
 転停止によって、多額の貿易赤字が出るとしても、これを国富の流出や喪失と言うべき
 ではなく、豊かな国土と、そこに国民が根を下ろして生活していることが国富であり、
 これを取り戻すことができなくなることが、国富の喪失であると当裁判所は考える」
・日本の裁判所は「法の番人」ではなく、「政治権力=行政検量の番人」であり、裁判所
 が法と正義に基づいて正当は判断を示すことは多くない。樋口英明裁判長が示した判断
 は、日本の司法権力のなかにおいては、稀有なものである。しかし、その正当な判断を
 堂々と国民に前に明示したことにより、樋口英明裁判長は過酷ともいうべき左遷人事に
 遭遇する。もとより樋口裁判長はそのような運命が待ち構えていることを、念頭に入れ
 たうえでの覚悟ある判断を示したものであると思われる。
・多くの人は裁判所は「法の番人」であり、「法と正義」に基づいて正当な判断を示す機
 関であると考えているだろう。しかしそれは、幻想にすぎない。日本の国の成り立ち、
 すなわち「国のかたち」は著しく歪んでいる。その歪みを正すことが求められている。
・政府は、日銀から借金をして、その資金で米国の国債を購入している。つまり、日本政
 府が日銀からお金を借りて、そのお金を米国政府に融通しているのだ。資金の又貸しと
 言っていいだろう。その金額は、150兆円もの巨額に及んでいる。
・なぜ、日本政府が日銀から借金をして、150兆円もの資金を米国政府に融通しなけれ
 ばならないのか。このような素朴な疑問を持つ人さえほとんど存在しない。しかも、そ
 の150兆円の米国への融資資金がこれまでに、1円たりとも返済されたことがない事
 実を知る人はさらに少ない。
・「日本版金融ビックバン」の基本構想は、外資系証券会社の幹部から橋本龍太郎首相の
 秘書官に手渡されたメモに記されていた。バブル崩壊に伴って不良債権が激増し、日本
 の金融機関の体力がほぼゼロに急落するそのタイミングを計るかのように、金融市場の
 全面自由化が推進された。日本の金融機関は外国資本に飲み込まれていった。
・「改革」の標語を掲げた小泉政権は、新自由主義と呼ばれる、市場原理によってすべて
 を統制する弱肉強食推進政策を導入した。同時に米国がかねてより要請していた郵政民
 営化を、政権の基本政策として前面に掲げ、強引な政治手法によってこれを強行したの
 である。     
・豊かな国土と、そこに国民が根を下ろして生活していることが国富なのであり、これを
 取り戻すことができなくなることが国富の喪失である。  
・国土、環境、伝統、文化、そして、和を以って貴しとなす、平和を重んじる、平和を愛
 するこの国の国是自身が大きな揺らぎに直面している。津々浦々に行きわたる目に染み
 るような鮮やかな田園風景、清らかな水に包まれる青々とした山岳地帯、そして万葉の
 時代から脈々と受け継がれてきた伝統と文化が、いま根底から失われようとしている。
・今しか考えぬ人々、金銭的な欲望だけに突き動かされて動く人、そして他者を顧みず自
 己の利益だけを追求する者。「いまだけ、金だけ、自分だけ」の「三だけ主義」。この
 「三だけ主義」に身も心もつかり切ってしまった私たちの同胞が、国富喪失の主役を担
 っている。 

政界のタブー、外貨準備という米国への巨額上納金
・国富の喪失という意味で、もっともわかりやすい事例は日本の外貨準備である。外貨準
 備が蓄積されるプロセスは単純である。為替市場で日本円が急騰するような局面で円高
 を抑制するためにドル買い介入が行われることがある。あるいは米国ドルが急落し、ド
 ル急落を回避するために日本政府がドルを買い支えるための介入も行われる。この為替
 介入を行うのは日本政府であり、その政策上の権利は財務省が握っている。
・安過ぎるドルを購入し、ドルが値上がりしたときに、その購入したドルを売る。これが
 本来の為替介入の姿である。ところが日本の為替介入は、まったく様相が異なる。ドル
 を購入したきり売却したことがないのである。つまり政府の外貨準備は増加の一途をた
 どってきた。 
・2003年3月からイラク戦争が始まった。イラクが大量破壊兵器を保持していると判
 断した米国が戦争を遂行した。のちにイラクは大量破壊兵器を保持していなかったこと
 が明らかになる。米国による侵略戦争のそしりを免れないものである。この侵略戦争に
 際して真っ先に支持を表明したのが小泉純一郎首相であった。その背後で日本政府は
 40兆円もの資金を米国政府に提供していたのである。
・日本政府は日銀から借金してドル資産を保有している。そして、その保有するドルが持
 つ為替リスクに対する対応を、一切講じていない、為替市場に資金を投入して利益を上
 げようとする外国為替取引、いわゆるFX取引が世間でも行われているが、日本政府自
 体が日銀から借金をして為替投機を行っているということになる。その為替投機でなん
 と4年半で54兆円という損失を生み出したのである。日本最大の投資損失事件と言う
 べきものである。 
・日本政府が54兆円もの損失を生み出したことは、まったく報じられることもなく、誰
 一人として責任を明らかにすることもなく、その結果、一切の責任追及も行なわれてい
 ない。 
・筆者は2015年4月に1ドル120円を突破した時点から日本政府が保有する外貨準
 備を全額売却すべきであると訴え続けてきた。しかし日本政府は政府保有の外貨準備資
 産をまったく売却していない。
・米国では政府の外為市場への介入に対する議会の監視の目が厳しい。単純化して言えば
 「儲かる介入は良い介入」「損する介入は悪い介入」ということになる。日本政府も当
 然のことながら、こうした外貨準備運用を行うべきである。
・外貨準備は、その規模においても国民に与える負担の視点においてもきわけて重大な問
 題である。国会もメディアも、この問題を取り上げることが、ほとんどないのが、その
 裏側に日本の外貨準備の特殊な位置づけ、問題点が存在する。
・福島原発事故が発生した際、米国は軍隊を日本に派遣した。その行動を米国がトモダチ
 作戦」と命名したが、これには重要な意味が含まれている。日本では「友達に貸した金
 は返らない」という格言がある。米国は日本の「友達」であり、日本が米国に貸した金
 は返らないことを認識しろという意味なのである。
・満期が到来した場合でも、その資金が新しく発行される米国債に乗り換えさせられてい
 る。しかも、その帳簿はニューヨーク連銀が管理しており、米国政府の許可なく日本政
 府が売却することができないのである。
・過去に、このお金を返してもらおうと取り組んだ人物がいた。1997年に橋本龍太郎
 首相は「アメリカ国債を売却しようという誘惑に、かられたことがある」と発言した。
 ニューヨーク株価は急落し、大きな騒動になった。  
・中川昭一財務相は、いわゆる「酩酊会見」の責任を取り、辞任に追い込まれた。この年
 に行われた総選挙で中川氏は落選、失意の日々を送るかな、同年10月に急逝した。自
 殺と発表されているが真相は定かではない。急激な体調の悪化はポロニウムを投与され
 た場合の状況に類似している。
・中川氏はサブプライム金融危機処理に際して、1000億ドルの資金提供を提案してい
 た。しかし、その1000億ドルの資金提供の担保として日本の外貨準備残高の活用を
 提案していたのである。
・この問題を論じた2009年2月のG7で中川氏は酩酊会見事件に巻き込まれ、大臣辞
 職に追い込まれるとともに、議員落選、そして不慮の死という命運をたどったのである。
・背後にあるのは日本の支配者、米国の意思である。日本が保有する外貨準備資産として
 の米国債の売却を口にすることは与党、政界の「タブー」となっている。
 
郵政民営化による国民資金の喪失
・郵政民営化は小泉純一郎元首相の代名詞とも呼ぶべき政策であるが、小泉氏が郵政民営
 化に執着した理由は三つあるとされている。第一は個人的な怨恨である。1967年の
 選挙において一部の築堤郵便局が当時、人気のあった田川誠一氏の支持に回り、小泉氏
 は落選してしまった。その結果、小泉氏は丸三年の間、福田赳夫氏の秘書として下積み
 の時代を過ごしたのである。このときの怨恨が郵政民営化の原点であるといわれている。
・第二の理由は小泉氏が、いわゆる大蔵族議員として活動を続けてきたことである。銀行
 にとって郵貯は天敵であった。銀行を傘下に持つ大蔵省にとって郵政は長きにわたって
 天敵であり、郵政民営化は旧大蔵省の悲願でもあった。
・そして決定的な理由になったのが米国の要請である。もっとも重点が置かれてきた米国
 の対日政策要求の中心が郵政民営化であった。日本の政治家は米国の命令に隷従してい
 れば身の安泰を保証される。元祖対米隷従、対米隷属の政権が吉田茂政権であり、歴代
 政権において長期政権を担ったのは安倍晋三氏、岸信介氏の親族である佐藤栄作氏を含
 め、すべてが対米従属の政権なのである。
・この郵政民営化の実務を取り仕切ったのが竹中平蔵氏である。
・郵政民営化には三つの重大な問題がある。第一は郵便貯金、簡易生命保険資金という国
 民資金の支配権が民間に譲渡されることである。郵便貯金や簡易生命保険によって集め
 られた資金は国民資金として特別な扱いを受けてきた。この国民資金は大蔵省資金運用
 部に預託され、公共的な使命をもって運用されてきた。この資金の中核として策定され
 てきたのが財政投融資という制度であった。国民の貴重な資金であるから安全な運用を
 しなければならない。そして国民の資金であるからこそ、公共の役割に適う分野に融資
 されなければならない。  
・第二に日本の郵便局が保持してきた特別な役割である。全国津々浦々に張り巡らされた
 郵便局のネットワークは、単に郵便を取り扱うだけではなく、地域の金融インフラとし
 て機能してきた。さらに、この郵便局ネットワークが地方公共団体等の公的サービスの
 拠点としても活用されてきた。
・市場原理だけに委ねれば過疎地の郵便局、そして金融サービスは排除され、消滅するこ
 とになる。市場原理では供給されないが、しかし国民生活を守るうえで必要不可欠な機
 能は国が責任を以って供給しなければならない。これを「公共財」と呼ぶが、日本の郵
 便局ネットワークはきわめて重要は公共インフラとしての役割を担ってきた。
・そして第三は、この日本の郵政が日本有数の資産保有会社であるということだ。全国大
 都市の一等地に広大な敷地を持つ日本郵政グループの資産はきわめて重要な国民資産で
 ある。   
・「民営化」と呼ぶ国民にとって有利な話のように聞こえるが、そうではない。「民営化」
 は巨大な利権である。これまで政府が運営していた事業を民営化する場合、その具体的
 な姿は株式の売却という形になって現れる。ある事業を行う、その事業全体の所有権あ
 るいは企業経営権を民間に売却するのである。これが株式の売却である。一旦、市場に
 売却すると株価は変動する。その株価がなんらかの要因で最安値をつけるような局面で
 外国資本が、これらの株式を取得し、企業の支配権を獲得すると、その事業全体、そし
 て、その事業が保有する資産全体が外国資本の所有物となる。ゆうちょ、かんぽが保有
 する300兆円の資金の支配権、そして日本郵政グループが保有する駅前一等地を含め
 た巨大な資産の所有権が外国資本の手に渡る。このとき、やはり巨大な国民資産、国富
 の所有権は海外に流出することになり、国民が保有する正味資産、すなわち国富は失わ
 れることになるのである。 
・この郵政民営化全体が、そもそも外資による日本収奪を目的に構築されたものであると
 推察される。外国資本が狙いを定めるのは、ゆうちょとかんぽの300兆円の資金と日
 本郵政グループが保有する巨大な不動産資産である。 
・ゆうちょ銀行業務とかんぽ生命事業に配分された人員は極端に少ない。膨大な人員は郵
 便局会社に配分されている。最終的に株式が売却されるのは、ゆうちょ銀行とかんぽ生
 命、そして巨大な資金を保有する持ち株会社としての日本郵政である。郵便局事業を実
 現するのに必要不可欠な不動産は郵便事業会社と郵便局会社に配分されたが、それ以外
 の活用余力がきわめて高い資産は持株会社の日本郵政に配分されたのである。
・市場で売却された株式の価格変動を見つめ、あるいは価格変動を誘導し、最安値の水準
 で、ゆうちょ銀行、かんぽ生命、そして持ち株会社としての日本郵政株式を外国資本が
 取得すれば日本国民の貴重な資金、そして国民固有の巨大な不動産資産が外資の手に渡
 る。これこそが民営化の狙いなのである。そして郵政民営化の法律のなかに簡易保険が
 保有、管理していた、かんぽの宿を売却する策略が潜り込まされていた。これをオリッ
 クスに払い下げるシナリオが用意されていたのである。
・民営化というのは、もともと公共事業として、あるいは公益事業として実施されていた
 事業を民間運営に変えることであるが、大きな特徴は基本的に必需性が極めて高いこと
 である。水道事業にしろ、電気事業にしろ、あるいは交通インフラである鉄道や飛行場
 などにしろ、私たちの生活にとってなくてはならない必要不可欠なものである。したが
 って、この事業は基本的に永続して存立可能なビジネスなのである。そのビジネスを譲
 渡されればなんの努力もなしに巨大なビジネスチャンス、つまり巨大な利益機会を享受
 できる。    
・民営化というのは新しい巨大利権である。民営化されるビジネスを払い下げてもらうこ
 とができれば苦労なく巨大ビジネスの利益を獲得する権利を確保できるのであり、その
 ような民営化会社に役員として就任すれば、巨大な利益が漏れなくついてくる。民営化
 された役員に就任すれば親類、縁者をその企業に雇用させることすら可能になる。「民
 営化」という巨大利権という現実に私たちは気づかなければならない。
・ハゲタカである外国資本は長期の視野で虎視眈々と日本収奪の機会を狙っている。そし
 て、これらの民営化を推進する人々は基本的に例外なく、それらのハゲタカからのなん
 らかの利益供与を受けている疑いが強い。利益供与があるからこそ国民に不利益である
 政策が推進されるのである。国民にとって不利益であるが自分にとって利益になる政策
 「いまだけ、金だけ、自分だけ」の政策が推進されるが、この行動を「売国行動」「売
 国政策」と呼ぶのである。
・国富とは国民全体が保有する資産から負債を差し引いた正味資産のことである。国民が
 保有する資産全体のことを指す。日本国民が海外の経済主体と取引をすれば資金を提供
 している額と資金を借り入れている額に差が出れば、その差額が国民の資産ということ
 なる。
・一般政府の資産のなかには外貨準備のような対外資産が含まれるが、仮に150兆円の
 対外資産が存在していても、その150兆円が帳簿上の資産にとどまり、決して日本政
 府に返ってくることのない資金であれば国富全体から150兆円は失われるわけで、こ
 の金額を国富から差し引くのが適正である。国富喪失を広い視点から捉える必要はある
 が、もっともわかりやすい、そしてきわめて巨額の国富喪失は政府の巨額の外貨準備で
 あると言うこともできる。
・1998年以来、多くの日本の金融機関が破綻したが、その破綻処理に際して巨額の公
 的資金が投入された。破綻した金融機関に巨額の公的資金が投入され、政府のよって救
 済される金融機関そのものが外国資本にきわめて安い価格で売り払われた。その外国資
 本の支配下で政府の公的支援を受けた金融機関が再生され、その再生された金融機関の
 株式が市場で売却されると、破綻した金融機関をきわめて安い価格で買い取った外国資
 本は濡れ手に粟の巨額利益を獲得できる。こうした一連のプロセスを政府が主導したと
 するなら、貴重な国民資本、国民の経済資源が外国資本に献上、利益供与されたという
 ことになり、国民に対しる特別背任の行為ということになる。
・日本郵政グループの株式が売却され、その株式を外国資本が保有し、これらの企業を支
 配下に置くならば、巨大な国民資金と膨大な不動産資産が外国資本の支配下に移行する
 ことになる。これも国民にとってみれば資産の喪失、国富の喪失ということになる。
・政治権力が、その権力を行使して巨大な、そして優良な国民資産の所有権を外国資本に
 法外な安値で提供するならば、これも巨大な国富喪失ということになる。
・日本長期信用銀行は1998年10月に破綻した。この長銀破綻に際し、最終的に8兆
 円もの公的資金が投入された。そのうち、3.6兆円は債務超過の穴埋めとしての損失
 として確定した。この破綻した日本長期信用銀行を日本政府が売却した。売却は見かけ
 のうえでは、「競争入札」の形態をとったが、実態は違っていた。米国系投資会社
 「リップルウッド」へ恣意的判断によって払い下げられたのである。
・日本政府は破綻した日本長期信用銀行をリップルウッドに、たったの10億円で売却し
 た。その破綻銀行にリップルウッドは1200億円の自己資金を投入したうえで、
 2004年に再上場させた。この時点での株価時価総額は1.12兆円になった。「濡
 れ手に粟」とはこのことを指す。
・2001年〜2006年まで続いた小泉政権時代の闇の一つが新生銀行の再上場認可で
 あった。上場申請から審査、承認までの手続きが異例の速さで実行された。この認可を
 異例のスピードで実行したのが竹中平蔵氏である。
・2001年から2006年にかけての小泉政権の時期には多くの日本の金融機関が破綻
 処理に追い込まれ、法外とも言える安値で、これらの銀行資産が外国資本に献上され、
 外国資本は濡れ手で粟の巨大利得を手にしていったのである。
  
りそな銀行乗っ取りと、外資への国富献上
・日本の金融市場は1996年6月に橋本龍太郎政権が消費税の増税方針を決定したとこ
 ろから株価急落に見舞われ、2万2666円の株価は2年後の1998年10月に1万
 2879円へと暴落した。
・1998年7月に登場した小渕恵三政権は政策の大転換を敢行した。財政金融政策を総
 動員すると同時に金融危機回避のための公的資金投入に踏み切った。株価は2000年
 4月に2万0833円の高値を記録した。
・2001年4月に登場した小泉純一郎政権は「改革」の看板を掲げ、財務省主導の超緊
 縮財政政策運営をさらに強化した。その結果、2000年4月の2万0833年の株価
 は2003年4月に7607円にまで大暴落を演じた。小泉首相は「改革なくして成長
 なし」と唱えたが、この「改革」政策により日本経済は大崩落してしまったのである。
・2003年3月末が過ぎた段階で、りそな銀行に対してのみ自己資本比率計算の方式変
 更が強引に仕組まれた。これによりりそな銀行は自己資本比率規制の基準をクリアでき、
 2003年3月末決算を乗り越えた。
・ところが2003年4月になって、りそな銀行の監査法人の一つである朝日監査法人が、
 りそな銀行の自己資本不足に向けて引き金を引いた。りそな銀行の繰延税金資産計上を
 否認する方向の見解を表明したのである。
・朝日監査法人で、りそな銀行を担当した公認会計士は平田聡氏であった。その平田氏は
 その後の4月24日に自宅マンションの12階から転落して死亡した。自殺とされてい
 るが、自殺に偽装した他殺であった可能性は十分にある。
・一連の経過において自己資本不足を追い込むための論理を主導したのは木村剛氏であっ
 た。 
・りそな銀行は最終的に破綻処理ではなく、公的資金による救済に誘導されたのである。
 木村剛氏が強く主張してきた論理が貫徹されるのであれば、りそな銀行は破綻処理され
 ていなければおかしかった。この時点でりそな銀行が破綻処理すれば、負の連鎖が一気
 に広がることは明白であった。日経平均株価は7607年に暴落していたが、さらに下
 落が加速し、文字通り金融恐慌に移行した可能性が高い。
・小泉・竹中金融行政は最終的に、りそな銀行を破たんではなく救済の方向に「人為的に」
 誘導した。大銀行破綻も辞さずとの脅しにより、日本株価は暴落し、日本経済は深刻な
 不況に陥ったが、最後の最後で手のひらを返し、大銀行を公的資金で救済したのである。
・政府による銀行救済を受けて株価は猛烈な反発を示した。竹中金融行政により誘導され
 た株価暴落の過程で、日本の投資家は法外な安値で株式を投げ売りに向かった。ところ
 が、この法外な安値株式を一手に買い集めた投資家が存在した。外資系ファンドである。
・竹中平蔵氏は2003年に閣議後懇談会で「ETF」について「絶対儲かる」発言を示
 して激しく批判を受けた。しかしながら考えてみれば、この時点からすでに株価暴落誘
 導後の銀行救済のシナリオは確定していたと見られる。だからこそ「絶対儲かる」だっ
 たのだと推察される。
・2003年5月の時点で、りそな銀行を破綻処理していれば、日本は金融恐慌に陥り、
 日本の金融市場は焼け野原になったはずだ。これを避けるために小泉竹中平蔵行政は繰
 延税金資産3年計上を人為的に決定し、りそな銀行を救済した。しかし政府が救済した
 のは、りそな銀行本体であり、経営者ではなかった。経営者は一掃され、小泉・竹中政
 権近親者が、りそな銀行幹部ポストに送り込まれた。そして、この救済された、りそな
 銀行は自民党に対する融資を激増させるのである。
・小泉・竹中金融行政が、りそな銀行を自己資本不足に追い込み、公的資金により救済す
 ると同時に経営陣を総入れ替えさせて以降、りそな銀行は自民党の財布として活用され
 ることになったのである。この事実を朝日新聞が2006年12月に一面トップでスク
 ープした。記事を執筆したは鈴木啓一記者であると見られる。ところが、この鈴木啓一
 氏が記事掲載の前日、東京湾で水死体として発見されたと伝えられている。
・いま疑惑の渦中にある森友学園に資金を融資しているのも、りそな銀行ではないかと見
 られている。     

「かんぽの宿」不正売却未遂事案に見られる国富収奪の構図
・2008年12月、日本郵政株式会社は「かんぽの宿」79施設をオリックス不動産に
 売却する方針を決定した。しかし、この事業譲渡の前提となる会社分割においては総務
 大臣の許可が必要だった。鳩山総務相が認可しなければオリックス不動産に対する「か
 んぽの宿」一括売却は実現できなかったのである。鳩山総務相は「国民が出来レースと
 受け取る可能性がある」と発言し、問題を提起した。
・2005年4月に閣議決定された郵政民営化関連法案において、法案決定の直前に竹中
 平蔵氏の指示で「かんぽの宿」などの売却規定が法律案に盛り込まれたことを関係者が
 証言している。
・東京駅前の一等地にありながら東京中央郵便局の有効活用ができないのは郵便と貯金と
 かんぽしか、やっっちゃいけないからです。不動産事業はできなかった。しかし、民営
 化すれば、それができるようになる。実際、日本郵政は東京駅丸の内駅前の東京中央郵
 便局の建屋を、そのグレードのいい建物を残しつつ再開発し、不動産業に進出している。
・そもそもハゲタカ外国資本が日本郵政に狙いを定めた大きな理由の一つが、日本郵政が
 保有する巨大不動産資産にある。郵貯とかんぽの350兆円に上る大資本に加え、日本
 郵政が保有する全国駅前の一等地不動産を含む巨大不動産に狙いを定めて、これをかす
 め取ることが郵政民営化の大きな狙いだった。
・郵便事業に対しては郵便事業に必要不可欠な不動産しか付与していない。商業用不動産
 として再開発の価値が高い、いわゆる駅前一等地不動産は、その大部分が郵便局会社で
 はなく、持ち株会社である日本郵政への帰属とされた。ハゲタカ巨大資本がかすめ取ろ
 うとしていた対象は郵貯資金、かんぽ資金の350兆円と日本郵政グループが保有する、
 商業的開発余地の大きい巨大不動産群だったのである。
・郵政民営化法案を起案するに際して、本来の仕事、つまりコア業務でないものは資産を
 処分して撤退するとの判断を基準にするなら、「かんぽの宿」だけではく日本郵政が保
 有する巨大不動産の大部分を切り離して売却すべきだったということになる。ところが
 現実には、日本郵政が保有する駅前一等地不動産は売却されず、その再開発事業そのも
 のが新たな巨大利権になっていった。
・「かんぽの宿」不正売却未遂事案において問題となるのは、この「かんぽの宿」79施
 設を109億円という破格の安値で売却しようとしたこと、そして、その売却先に決定
 されたオリックス不動産が、あらかじめ売却先として決定されていた疑いがきわめて濃
 いことである。大阪府豊中市の時価10億円相当の国有地が安倍晋三首相夫人が名誉校
 長を務める森友学園にタダ同然の安価で売却されていた事実が明るみに出たが、期権構
 図は酷似している。
・知恵の働く民間業者は政府と特別な関係を持ち、巨大な国民資金が投入された巨大施設、
 巨大不動産を破格の安値で入手し、濡れ手で粟の利益をむさぼるのである。ここに見ら
 れるのは、国民の貴重な資源、資産、資金が、私的な欲望にまみれたハゲタカ資本やハ
 ゲタカ資本に群がる利権事業者によって、かすめ取られるという図式である。
   
GPIFによる、年金資金の巨額損失
・GPIFが2015年6月末から2016年6月末の1年間に11.4兆円もの損失を
 計上した。将来の私たちの暮らしを支える虎の子の年金資金が、たった1年で11兆円
 も損失を生んでしまったのである。損失が急膨張したのは円高の進行と株安の進行に原
 因があった。    
・GPIFの損失が急拡大した理由は安倍政権が年金運用資金の資産構成を大幅に変更し
 たことにある。      
・安倍政権誕生、そしてアベノミクス相場発生へとつながるのだが、2014年10月末
 の株価は、すでに出発点の水準と比べて2倍の水準に跳ね上がっていた。つまり、株価
 が大暴騰し、ドルが大暴騰した時点で、外貨資産を倍増させ、国内株式比率を倍増させ
 るという運用資産構成比の大転換が実施されたのだ。資金運用で大損を計上する「模範
 的」ど素人しくじり大先生の行動がとられたのである。
・GIPFがドルと株へのシフトを決定したのは、ドルが大幅に値上がりしたあと、株が
 大幅に値上がりしたあとであり、まさに、しくじり大先生そのものの運用比率変更決定
 だった。 
・国民の虎の子資金である年金資金の運用成績を挙げるために、もっとも重要なことは資
 産の運用比率を適正に設定することである。この運用比率設定で、絵に描いたような典
 型的な高値掴みの運用大失敗を実現して、1年間で11兆円もの損失を発生させた。そ
 してその巨額損失計上にもかかわらず、それぞれの資産の運用を行うハゲタカ外国資本
 を中心とする資金運用企業に対して、年間383億円もの手数料が支払われている。
・所得の蓄積である富が成長を遂げてきたのであるが、その富が大きく毀損され、果実の
 多くがハゲタカ外資によってかすめ取られようとしている。国民の生命と財産を守らね
 ばならない政府の能力が欠落しており、国民資産を守るどころか、国民資金の急激な喪
 失が進行している。   
・外貨準備では、たった1年で30兆円もの損失を計上した。こうした巨額損失を発生さ
 せている資金管理者、運用責任者の責任が、一切問われることがない。官僚は、いかな
 る失敗を積み重ねても、責任を明らかにすることがなく、したがって責任を取ることも
 ない。その帰結として世界第三位の経済大国でありながら、日本国民の暮らしは、まっ
 たく豊かになっていない。
・とりわけ政府が保障する最低保障ラインが著しく低く設定されたままである。生活保護
 は政府が保障する最低生活レベルである。これは憲法が保障する基本的人権であるにも
 かかわらず生活保護の窓口においては一介の小役人が上から目線で政府による救貧政策
 を行なっているかのような振る舞いを演じ、生活保護を受給する正当な権利を有する者
 の圧倒的多数が泣き寝入り状態に陥っている。そのために、人間として生存していくた
 めの最低条件を満たさぬホームレスの状態に置かれた国民が、寒空の下、氷点下に凍え
 る屋外で凍死を重ねるという悲劇が繰り返されている。
  
【日本収奪計画と売国の実態】 
対日経済戦略の系譜、最終兵器としてのTPP
・各種メディアが紹介する「世論調査」はきわめて信憑性の低いものだ。メディアは「世
 論調査」の数値、内容を実質的に改ざんしていると思われる。「世論調査」が中立、公
 正であるというのはフィクションにすぎない。
・メディアが実施する「世論調査」の信憑性ははきわめて低い。現在の日本では安倍政権
 の支持率が5割、6割とされているが、真実の支持率はこれよりも20%ないし30%
 程度は低いのだと思われる。
・トランプ氏が大統領選挙でメディアから総攻撃を受け続けている最大の理由が、TPP
 離脱にあったと考えられる。TPPはハゲタカ強欲資本にとって最重要の、そして最大
 の果実であった。目の前に最高のご馳走が用意され、すべてのテーブルセッティングが
 完了し、いよいよ会食が始まろうとするその瞬間に、すべての料理を放り投げてしまう
 「ちゃぶ台返し」をトランプ氏が演じようとしたのである。このためにトランプ氏は総
 攻撃を受けた。そしていまなお攻撃を受け続けている。こう考えることができる。
・TPPは「ハゲタカのハゲタカによるハゲタカのための条約」である。米国にTPPを
 否定する主張があるということは、TPPが日本にとって全面的にマイナスのものでは
 ないことを意味しているのではないか、との声がある。しかし、この見方は間違ってい
 る。TPPは一握りの巨大資本の利益を拡大させるための条約であり、日本、米国とい
 う国籍にはかかわりなく、グローバルに活動する巨大資本=ハゲタカ、いわゆる多国籍
 企業にってTPPはきわめて有利な枠組みなのである。これに対し、一般庶民、労働者、
 普通の国民はTPPによって確実に利益を損なわれる。TPPは一般個人、労働者、生
 活者、主権者に深刻なダメージを与える一方、巨大資本に巨大な利益をもたらす。
・トランプ氏が選挙戦で、過去40年間にわたり没落し続けてきた中間所得者層の立場に
 立つ主張を展開してきたのは事実である。トランプ氏はとりわけ重視したのは、中間所
 得者層の地位から没落した白人労働者層の心情である。このことはトランプ氏が経済的
 な弱者、貧困層全体の底上げを訴えたわけではなかったことを意味している。この点を
 留意する必要がある。
・TPPは一言で言えば「ハゲタカのハゲタカによるハゲタカのための条約」であり、日
 本の諸制度、諸規制を強制的に改変させる拘束力を持つ枠組みである。SII=日米構
 造協議も結果重視政策も、そして年次改革要望書も、あからさまな日本に対する内政干
 渉の手段ではあったが、最終的な決定力を欠いていた。強制権限が盛り込まれていなか
 った。これを補完するものがTPPに盛り込まれた「ISD条項」である。
・ISD条項は日本の国家主権の上に最終決定権限を与えるものであり、日本にとってみ
 れば「主権の喪失」そのものである。日本をこのTPPに引き込み、日本の諸制度、諸
 規制を強制力を持って改変する。これがTPPの目的であり、そのTPP成立の寸前ま
 でこぎつけたのが2016年であった。
・しかしながら、その巨大果実を食するその寸前に米国大統領選挙があり、TPPに対し
 て、ちゃぶ台返しをする新大統領が選出されたのである。トランプ新大統領に対する米
 国主要メディアの常軌を逸したヒステリックな攻撃の背景に、この事実があることを見
 落とすことはできない。        
・TPPで関税率を引き下げることが検討されているが、日本が輸出する工業製品の輸入
 関税率が低く、TPPが発効しても日本の輸出が増加する余地は、ほとんどない。
・他方、TPPで大きな焦点となった日本の農産品輸入関税の引き下げによって日本農業
 は壊滅的な打撃を受けることが予想されているが、結局のところ、輸出入の観点で言え
 ば米国以外の交渉参加国にとって最大のメリットは日本に対する輸出の増大、日本の輸
 入増大なのである。またTPPによって米国が獲得を目指す対象国も当然のことながら
 日本なのである。日本の農業。・医療制度あるいは日本の保険産業などに対する攻略、
 侵略が狙いであり、日本がTPPによってメリットを受ける分野は限りなくゼロに近い。
 TPPは日本の侵攻、侵略するための制度であり、これを日本政府が推進することは日
 本の国民に対する背任行為であると言わざるを得ない。  
・現在、日本の対米自動車輸出についての関税率は乗用車が2.5%、トラックやSUV
 が25%である。乗用車の関税率2.5%が14年間一切引き下げられないことが決定
 された。そして、トラックの関税率25%は29年間引き下げられないことが決まった。
・安倍政権はTPPは自由貿易をもたらすものであり、日本にとってもメリットがあり枠
 組みだと言いながら、日本にとって唯一のメリットとなると予想される自動車輸出関税
 について25%という高関税率が29年間維持されるということを決定したのがTPP  
 の実相なのである。
・TPPの交渉分野は21分野にまたがっており、TPP最終合意文書は30章によって
 構成されている。その30章によるTPP最終合意文書のなかで貿易に関わる省は、た
 った5つであり、残りはルールに関する部分、つまり各国の法律や規制を改変するため
 のものである。つまりTPPは単なる自由貿易の協定ではなくて、各国の諸制度、諸規
 制を強制力を持って改変させる枠組みなのである。そして、その紛争解決のために用い
 られる手段がISDという制度である。
・最終合意文書は6千ページを超す膨大なものでありために一般の国民にはきわめてわか
 りにくく、国会で審議されていても、質問に立つ国会議員自身も、答弁する安倍首相を
 はじめとする政府閣僚も、最終合意文書すべてに目を通すこともなく、その内容を詳細
 に把握していないという状況が広がった。しかし、TPPが発効すれば日本の諸制度、
 諸規制が根底から改変される。
・幸いなことに米国でトランプ氏が新大統領に選出され、トランプ氏が大統領就任初日に
 TPPからの永久離脱を宣言し、すでに大統領令に署名も終えているため、このTPP
 がいまのままの形で発行されるリスクは大幅に低下している。
・安倍政権は、日本の国民にとって「百害あって一利もない」TPP最終合意文書を承認
 する国会手続きを強行してしまった。日本が失うだけでなく、得るものがまったっくな
 い条約を積極的に承認するという行動自体が、国民の利益を守るという視点からは説明
 不可能のものであるが、現実のこの行動がとられてしまった。
     
国家の存立を危うくする農業の喪失
・政治の役割は二つあります。一つは国民を飢えさせないこと。安全な食べ物を食べさせ
 ること。もう一つは、これが、もっとも大事です。絶対に戦争をしないこと。
・国家が責任を持つべき第一のことは国民を飢えさせないこと、そして安全な食べ物を食
 べさせることである。国家安全保障の要は食料にある。日本では、この意識が著しく弱
 い。食料問題では安ければいいとの考え方が、すぐ前面に出てくる。くても国産を買
 うと答える人は多いが、現実の日本の食料自給率は39%にすぎない。TPP交渉で問
 題とされた「原産地比率」で言えば日本国民の原産地比率は39%。61%は海外から
 持ち込まれた食品によって私たちの体がつくられている。
・米国では「食料は武器」という認識が浸透している。軍事、エネルギーに並ぶ国家を支
 える三本の柱の一つが食料である。アメリカの元ブッシュ大統領は「食料需給はナショ
 ナルセキュリティの問題だ。アメリカは、これが常に保たれている。これに対して食料
 自給できない国を想像できるか。それは国際的圧力と危険にさらされている国だ」と述
 べた。米国には食料を外交上の戦略物資と明確に位置づける考え方である。食料は米国
 にとってはミサイルと同様に重要は武器である。他の国の食料を米国で賄えば、戦わず
 して支配することができる。こうした考え方が存在している。そのために独立国家は食
 料確保のための方策、すなわち農業保護政策に全力を注ぐ。
・アメリカのおけるコメの生産コストはタイやベトナムと比べて大幅に高い。しかしきわ
 めて低価格で輸出を行っている。その背景には米国政府が輸出戦略物資としてのコメの
 目標価格とコメ生産者の生産コストの差額をコメ、小麦、とうもろこしの穀物三品目だ
 けで、多い年には年1兆円もの補助金を注いでいるからである。
・他方、日本の輸出補助金はゼロである。安倍政権はTPPで日本の農業が輸出産業に生
 まれ変わるなどと寝ぼけたことを述べているが、どんなにおいしくても、圧倒的に高い
 価格で補助金ゼロであれば、輸出市場によって競争することなど不可能である。TPP
 は自由貿易の協定であるなどと言われていたが、アメリカは仮にTPPが発効したとし
 ても農業に対する補助金政策を阻止されない。米国は農業を国家安全保障上の最重要産
 業の一つと位置づけ、農業に対して手厚い保護を実行しているのである。
・安倍晋三氏が総裁を務める自民党は2012年12月の総選挙に際して「ウソつかない。
 TPP断乎反対。ブレない。日本を耕す!!自民党」と大垣したポスターを張り巡らせ
 て選挙を戦った。そしてTPPについて六項目の公約を明示した。
 @農産品目の聖域を守る
 A数値目標を受け入れない
 B国民皆保険制度を守る
 C食の安全・安心を守る
 DISD条項に合意しない
 E政府調達、金融サービスについては、わが国の特性をふまえる
 この六つの公約を明示した。
・この公約を明示した時点では自民党は野党であった。TPPを推進しようとしていたの
 は菅直人政権、野田佳彦政権であり、これに対して自民党は、みしろ民主党のTPP推
 進政策に異を唱えるとの立ち位置を占めていた。
・六項目の公約の中でとりわけ重大であるのが、「国の主権を損なうようなISD条項に
 合意しない」との公約であるが、その後に安倍政権が交渉参加を決めたTPPにISD
 条項が盛り込まれている。安倍自民党が公約を守るなら、日本はTPP交渉から撤退す
 る以外に路がなかったが、安倍政権はISD条項を盛り込んだTPPのゴウイ形成に突
 き進んでいった。背信の政権暴走としか言いようがない。
・TPP最終合意成立後の国会審議で、「聖域として、関税引き下げの対象から除外され
 た品目がいくつあるか」との質問に対して、政府が示した回答は「ゼロ」だった。重要
 五品目のなかの関税分類では、170品目で関税撤廃が決定された。重要五品目以外で
 は、実に98%の品目で関税が撤廃された。この関税撤廃により日本農業は壊滅的な打
 撃を受けることになる。TPPによる関税撤廃率は全品目で95%、農林水産品では
 81%となった。
・TPP交渉参加国は米国を含めて農産物輸出国である。これらの国の目指すところは日
 本への輸出増加であり、日本が農産品目の関税率を引き下げることにより、輸出を増加
 させることができる。安い海外製品が流入すれば国内の農林水産業者は立ち行かなくな
 る。農林水産業の雇用が海外に奪われるとともに、農林水産業の生産活動の一部または
 全部が国内から消滅する。これがTPPの貿易面における一つの側面である。
・マスメディアはTPPについてステレオタイプの報道しかしない。反対しているのは、
 これまで政府に手厚く守られてきた農林水産業者、農協、漁協であり、消費者はTPP
 によって安価な輸入製品を手にすることができるようになり、TPPはバラ色である。
 これがマスメディアの報じるTPPであるが、二つの重大な点が見落とされている。一
 つは農業は食料を供給する産業であり、安全保障の要であるということだ。私たちは食
 料なしに生存することができない。その食料の安定確保の道を確実に確立することこそ、
 政府が果たすべき第一の役割である。
・第二の盲点は食の安全・安心である。食の安全・安心は私たちの生命に直結する重大な
 問題である。米国産牛肉を使ったステーキが安く食べられるようになるとメディアは喧
 伝するが、安価な米国産牛肉を用いたステーキやハンバーガーを毎日食していくときに、
 どのような未来が待ち受けているのか、きわめて深刻は問題である。輸入農産物には国
 産農産物に含まれない成長ホルモン、成長促進剤「ラクトパミン」、遺伝子組み換え除
 草剤「グリホサート」の残留、収穫後農薬「ポストハースト」などのリスクがあり、国
 内農業の崩壊は直ちに、私たちの経済的な安全保障のみならず健康上の安全保障を揺る
 がすのである。
・米国は日本を支配するための手法として食料を位置づけている。日本人が直接食べる食
 料だけでなく畜産の餌としての穀物、さらに日本で生産される農作物の種子を支配して
 しまえば米国は日本を完全に支配し得るのである。トランプ大統領がTPP離脱を決定
 し、TPPが最終合意の形で発行する可能性は低下しているが、トランプ大統領は日米
 二国間の協定締結を提案する可能性がある。その場合には、TPPで日本政府が譲歩し
 た水準を出発点として、さらに米国にとって有利な取り決めが強要されることは確実で
 ある。
・牛肉や豚肉の関税率が引き下げられれば、国内の畜産業者は破綻し、成長ホルモンやラ
 クトパミン漬けの危険な外国産肉だけが流通することになる。しかしながら健康被害を
 もたらす「恐れ」だけで規制することが許されなくなる。健康被害がもたらされる「科
 学的証明」が規制を設けるための必要条件となり、どえほどリスクが大きくても「科学
 的証明」のない物質を規制することは許されなくなってしまう。
・現在の日本では津々浦々の中山間地にまで田園風景が広がり、兼業農家を中心とする農
 家が農業を続け、各地の農協を拠点に地産地消のネットワークが張りめぐらされている。
 農家の高齢化が進行し、農家の後継者門段など解決すべき課題は山積しているが、食料
 自給、食の安全、そして国土の保全、豊かな農村文化の継承という視点において日本農
 業の持つ存在意義はきわめて大きい。農産物の関税を撤廃し、農業における市場全面開
 放を行うことは日本の農業の大半を破滅させ一方、日本で存続する農業は大資本が支配
 する農業においては食の安全を無視した利益優先の事業体制が敷かれることになる。
・国民はリスクの高い農産物を選択する、あるいは拒絶する権利を失う。もはや安心、安
 全の食糧を入手すること自体が困難になる。その結果として前立腺がんや乳がんなどの
 発症率が急激に上昇することも予想される。
・安倍政権は農業を成長産業にし、農業輸出1兆円などという目標を掲げているが、こう
 した数字のトリックに、騙されてはならない。農産物輸出1兆円と聞くと農業は成長産
 業であり、輸出産業になるかのような印象を与えるが、いわゆる狭義の農業、生鮮農産
 物の輸出は、その10分の1にも、はるかに届かない小規模なものである。国家の存続、
 国民の生存に欠くことのできない食料は経済的安全保障上、最重要の戦略産業であるが、
 この戦略産業を自ら進んで崩壊させる愚の道を安倍政権は進んでいる。
・日本政府が日本農業を守らずに外国資本の要求を丸のみにし、聖域と呼ばれる農業生産
 分野の関税率の引き下げ撤廃の方向に進めば日本農業は壊滅的な打撃を受けるだろう。
 そのことを示唆する重要な先例がある。メキシコ農業が北米自由貿易協定(NAFTA)
 によって崩壊した歴史の事実であるからだ。メキシコではNSFTAにより、「主食で
 あるトルティーヤ(とうもろこしの粉で焼いたパン)が安く食べられるようになる」な
 どの期待が持たれたが、現実はまったく異なるものとなった。NAFTA発効後、米国
 からメキシコへ穀物輸出が激増した。米国が安い価格で穀物輸出を行なえるのは政府が
 輸出奨励のために巨大な補助金を付与しているからである。安価な穀物がメキシコ市場
 に流入したことにより、メキシコの農家は崩壊してしまった。メキシコの農家は失業者
 に転落し、この失業者が大量に米国への不法移民者として流出したのである。メキシコ
 の農業生産能力が激減し、メキシコ人の主食が米国の生産者に委ねられるようになった
 が、今度は逆に米国が供給する穀物価格が跳ね上げる。米国ではエネルギー原料として
 のとうもろこしが見直され、とうもろこしの供給が減少、価格が跳ね上がる事態が生じ
 た。その結果、メキシコでは主食おトルティーヤが食べられなくなる事態が発生し、一
 部地域では武力蜂起さえ発生したのである。そして米国から供給されるとうもろこしの
 大半が遺伝子組み換えに切り換えられた。
・メキシコがひとたび遺伝子組み換え種子による生産に依存し始めると、この構造から抜
 けることができなくなる。遺伝子組み換えの種子は知的所有権保護によって守られてお
 り、農家は高額の種子お購入を義務づけられることになる。多くの農家が壊滅し、存続
 した農家は遺伝子組み換え商法に組み込まれるという悲劇が広がった。農家から締め出
 された大量の国民が不法移民として米国に流入。米国では不法移民労働者が法外の安い
 賃金で労働を提供することにより、米国の賃金水準の引き下げがもたらされる。
・トランプ大統領はNAFTAにより米国の雇用がメキシコに奪われたことを問題にする
 が、トランプ大統領が問題にするメキシコからの不法移民の大量流入も本をただせば
 NAFTAによるメキシコ農業の壊滅が背景なのです。
・トランプ大統領があくまでも「米国第一主義」に基づいて行動していることであり、今
 後の対日行動においては米国の利益を優先するがゆえに、日本にとって、より過酷な要
 求が突きつけられる可能性が高い。トランプ大統領は自動車貿易収支の不均衡是正を最
 大の問題点として意識していると考えられるが、一方において、日本に対する輸出を拡
 大させる可能性のある分野として農林水産物産業を想定している可能性が高い。
 
必要な医療を誰もが受けられる体制の崩壊
・現在の日本では基本的には、いつでも、どこでも、誰でもが必要十分な医療を受けられ
 る体制が整えられている。それでも、とりわけ国民健康保険に加入している国民におい
 ては、その保険料支払いが過大な負担になっており、保険料を支払うことができず実質
 的に無保険の状態に陥っている国民が急増している。
・米国における自己破産の最大の要因が、医療費に基づいている。法外に高い医療費によ
 って、経済的に破綻するケースが急増している。この状態に比べれば日本の現状は、は
 るかに良好なものであるが、日本が迫られる制度変更によって、この日本の現状が激変
 することが予想される。
・2001年に樹立された小泉純一郎政権の系譜を全面的に引き継ぐ第二次以降の安倍政
 権において、日本の自主的な経済政策戦略としてTPPの基軸である、市場原理に依拠
 する経済政策、いわゆる新自由主義経済政策が推進されている。アベノミクスを特徴づ
 ける最大の基軸は、実は「成長戦略」にある。成長戦略とは「大資本(=ハゲタカ)の
 利益と成長」させる政策のことである。「国民の暮らしや国民の所得、国民の幸福を成長」
 させる政策のことではない。大資本の利益を極大化させる政策として各種の自由化政策、
 そして経済特区創設、さらに税制の改変が推進されてきた。自由化政策の中心は農業と
 医療と労働規制の自由化である。そして、これらの各分野の自由化を法律改正なしに、
 なし崩しに断行していしまう制度が「経済特区」と呼ばれるものである。
・TPPによって進行することが予想される日本の深刻な事態は、実は外圧によって発生
 しているものではなく、日本の政権が自主的に実行する政策によって推進されている。
 この点を見落としてはならない。
・財務省は日本の財政事情が深刻であることを喧伝するが、実態はまったく異なる。日本
 の一般政府の資産・負債状況は2015年末統計によれば60兆円以上もの資産超過の
 状態にある。負債から資産を差し引いた純債務はマイナス、つまり資産超過なのだ。資
 産超過の日本財政が破綻する可能性など皆無である。しかしながら財務省は財政危機を
 叫び、そのもとで社会保障支出の切り込みを強行している。
・TPPは国民の幸福追求権を侵害し、知る権利を侵害し、日本の司法主権を侵害する憲
 法違反の条約であることを理由に、TPP交渉差し止め・意見訴訟が提起されてきた。
・TPPにより日本の医薬品市場における薬価決定制度に大きな変化が生じ、そのことが
 日本の公的医療保険制度の崩壊をもたらすことを警告した。
・国民の命と健康を守るために現行制度においては、すべての国民が基本的に必要十分な
 医療を受けられることを保証する制度が確立されているが、高額薬品が保険に収載され
 る場合には、そのことが公的医療保険財政を深刻に揺るがすことも考えられる。現行の
 日本制度においては、こうした場合に国家権力が薬価の決定に介入し、一時的に、これ
 を引き下げる措置などがとられる。薬価を大幅に引き下げなければ公的医療保険財政が
 破綻してしまうからである。しかし日本がTPPに参加し、TPPが発行する場合、こ
 うした薬を開発した資本が日本政府による薬価の引き下げ決定によって損害を被ったこ
 とを提訴できることになる。そして、その訴えを審議するのは日本国外にある裁定機関
 であり、たった三人の民間人が決定を下すことになる。そして、この裁定機関が原告の
 主張を認めてしまうと日本政府といえども、これを抗弁することができない。裁定機関
 の決定は強制力を持ち、薬価の引き下げが破棄される。医療の世界において、外国資本
 の利益要求が中心に置かれることになる。日本においてこのような形で薬価が高騰すれ
 ば、公的医療保険制度は破綻してしまうだろう。
・このような事態を実は日本の財政当局が、ひそかに期待しているのである。つまり医療
 関係の価格が高騰すれば現在の保険料収入等によって日本の公的医療保険制度の基本を
 維持することが不可能になる。そうなると次の対応がとられることは、ほぼ確実である。
 それは医療サービスを二つに区分することである。公的医療保険制度によってカバーす
 る医療と、公的医療保険によってはカバーされない医療の二本立てに移行することであ
 る。
・これが、いわば混合医療の全面解禁であり、日本の公的医療保険制度は決定的な変節点
 を迎えることになる。それは、すべての国民が必要十分な医療を受けられる体制から、
 必要十分な医療を受けられるのは富裕層に限られるという状況への移行である。公的医
 療保険がカバーする医療が限定されてしまえば、日本の財務当局にとって、これ以上の
 喜びはない。つまり、この制度に移行した瞬間に公的医療保険制度によって提供が約束
 される医療の水準は、予算制約によって縛られることになるのである。つまり政府が公
 的医療保険制度で支出可能な金額はここまでであると示したとき、提供される医療サー
 ビスは、その金額に収まる範囲内のものとして決定されることになる。その公的医療保
 険制度によってカバーされない医療を求める国民は、公的医療保険以外の資金によって
 これを賄う必要が出てくる。
・そのときに公的医療保険でカバーされる医療行為は、現在の医療行為の水準から比べれ
 ば著しく低いものにならざるを得ない。その範囲外の医療を求める国民が全額これを自
 己資金で支払うことはきわめて難しい。公的医療保険でカバーされない医療を求める国
 民は民間保険会社が販売する民間医療保険商品を購入することになるだろう。最先端の
 高額治療を受ける権利をカバーする保険は超高額になるだろう。
・一般的な国民はきわめて貧困な低水準の医療しか受けられない状況が生じる。十分な医
 療を受けるためには、超高額の民間医療保険に加入することが必要となる。一般的に十
 分な医療を受けることのできる民間保険会社が提供する医療保険も、かなりの高額なも
 のになると予想される。
・官僚機構の行動原理は、それぞれの官僚機構の自己利益の極大化である。国民の幸福の
 ために官僚機構が行動しているというのは完全なるフィクション、大間違いである。官
 僚機構は自らの権限の拡大、天下り利権の拡大、各種利権の拡大だけを求めて動く。財
 務官僚機構においては、この背景により公的医療保険支出という社会保険支出を可能な
 限り切り込み、政府予算における裁量支出、利権支出の比重を高めることを目指してい
 るのである。 
 
資本の移行に沿う労働規制の撤廃
・安倍政権の経済政策の柱であるアベノミクスの中核は「成長戦略」だが、その目的は、
 「資本の利益」の成長である。「労働者、主権者、国民、生活者、消費者の利益」の成
 長ではない。アベノミクスの中核である成長戦略の柱は農業の自由化、医療の自由化、
 そして労働規制の撤廃であり、これを法改正なくして強行実施してしまう経済特区が創
 設され、国家財政の財源調達における法人負担を減少させ、一般庶民負担に押し付ける
 税制改定が強行されている。安倍政権は「働き方改革」なる言葉を掲げて生後の味方を
 装うが、日本の主権者、国民は、こうした言葉によるまやかしに騙されてはならない。
・労働者の4割が非正規労働者である。正規労働者は給料も高く福利厚生にかかる処遇も
 優れている。企業から見れば、まさに高コスト労働である正規労働を削減し、非正規労
 働を拡大することに血道をあげてきたのが過去25年である。フルタイムで汗水流して
 働いているのに、年間所得が2百万円に届かない低所得労働者が激増している。出生率
 の低下が問題だとされているが、とても結婚、出産などを考える経済的な余裕などない
 というのが多数の国民の声である。
・この状況の中で「同一労働・同一賃金」を推進するとか「賃金引き上げ」を推進すると
 か、あるいは時間外労働の上限を厳しく設定するなどの項目が示されれば、一見すると
 労働者側に立つ政策が進められているのではないかとの錯覚も生まれてしまう。
・電通に就職した女性が長時間労働の過酷な処遇に直面し続け、自らの命を絶つという悲
 劇が伝えられた。メディアは、このケースを大々的に報道し続けたが、その狙いは安倍
 政権が推進する「働き方改革」を全面支援することにあると推察される。働き方改革で
 は時間外労働の上限規制を厳しく設定することなどが謳われているが、政府が示した新
 しい上限規制の基準は月100時間」というものである。この100時間労働は過労死
 の判定基準であり、言い方を変えれば、過労死をしてしまうかどうかのぎりぎりのライ
 ンまで残業を認めるというようなものである。表に掲げる看板と具体的に示される施策
 との間に決定的な落差がある。批判が噴出して月平均60いかんを上限とすることにな
 ったが、これもまやかしである。年間720時間を上限として月次の上限は100時間
 まで容認する方向で決着する見通しだからだ。
・同一労働・同一賃金についても政府の本音は、非正規労働者の処遇を正規労働者の処遇
 に引き上げることにあるわけではない。正規労働者の処遇を引き下げて、非正規労働者
 の処遇まで近づけるのが狙いだ。こうしれば同一労働・同一賃金になるわけだが、結局
 のところ、労働コストを1円でも減らしたい資本の意向に従う制度改革を、推進しよう
 というだけのことなのである。    
・電通での過労死・自死事件という悲劇が喧伝されているが、こうしたメディア報道を利
 用して、労働規制の改変を強行しようとしているのが安倍政権である。安倍政権が実現
 を目指し得居る本当の目的は、以下の四点であると推察される。第一は残業代を支払わ
 ない人事制度の創設、第二は金銭解雇の実現、第三が外国人労働力の活用、そして第四
 は所得税算出における配偶者控除などの税軽減措置の廃止である。
・安倍政権は、日本の名目GDPを600兆円にすることを目標に掲げているが、その実
 現は容易ではない。安倍政権が取り組んでいるのは統計数値の計算方法に改変であり、
 この計算方法の改変によって2015年度の名目GDPは32兆円もかさ上げされて
 532兆円になった。計算方法を変えて見かけのGDPの数値を変えたところで何の意
 味もない。このような、愚もつかない政策が大手を振って進行していることも問題だ。
・しかしながら一方で安倍政権の下で、労働者一人当たりの賃金は減少し続けている。そ
 れもそのはずだ。安倍政権は企業の労働コスト削減を全面支援しているのである。派遣
 労働法も改定され、3年を上限としていた派遣労働の期限の無期延長が可能になった。
 企業は労働コストの低い派遣労働をさらに活用しやすくなっている。就職して退職する
 まで生涯を派遣労働で過ごさねばならぬ労働者が激増することは明白である。このよう
 な形で安倍政権は賃金所得の停滞を推進している。企業は1円でも安い労働コストを求
 めているが、安倍政権が、その労働コスト削減を全面的に支援している。
・一方で働く人数だけは増やそうとしているわけで、これを「一億総活躍」と表現してい
 るが、その実態は「一億総低賃金労働」であり、働きたくないという人も労働市場に駆
 りだし、高齢者も女性も、すべて働けという政策は「一億総低賃金強制労働」でしかな
 い。
・生産年齢に達していない子どもは就業できないし、生産年齢を超す高齢者も仕事できな
 いし、その分が差し引かれて「一億総活躍」なのであるが、高齢者については働ける間
 は低賃金で強制労働させる。そして働けなくなった高齢者には速やかに、この世から退
 出してもらうことを目指しているのではないかと考えられる。
・安倍政権に財政運営において、もっとも力を注いでいるのが高齢者に対する支出のカッ
 トである。高齢者に対する負担を増加させ、一方で給付を漸次、削減し続けている。日
 本の公的医療保険制度は将来、限定的な医療サービスしか提供できないものに改変され
 るだろう。一握りの富裕層は高額の民間医療保険に加入し、必要十分な医療を受けるこ
 とが可能だが、公的医療保険にしか加入していない一般国民は、高齢になり、病気にな
 っても必要十分な医療を受けられない制度に移行する。こうした国民には速やかに、こ
 の世から退出してもらうということが期待されているわけである。
・安倍政権は裁判で解雇が無効とされた場合でも、お金を払えば退職させることができる
 「解雇の金銭解決制度」を構築しようとしているが、これは労働者の身分を守るための
 解雇に関する法制度を空洞化させるものである。企業は、必要でない人材を放り出す、
 すなわち解雇する自由が喉から手が出るほど欲しい。安倍政権はそれを認める方向で動
 いている。 
・長時間労働を強制され、健康を害し、自死に追い込まれる過労死問題が深刻化している。
 労働者を消耗品として扱い、死まで追い込む、いわゆるブラック企業が激増している。
 これを防ぐために長時間労働の上限を設定したり、長時間労働を強要している企業の摘
 発をするなどの行動が示されているようにメディアが伝える。しかし他方で、企業が支
 払う給与と労働時間をリンクさせない、人件費を抑制するための制度の導入が図られて
 いる。出来高払いの雇用制度である。労働の成果に見合う所得は保証するが、このため
 に費やされる時間については、これを労働者に委ねる制度である。問題は労働者が請け
 負う仕事量である。過大な仕事が強制されれば、そのノルマを達成するために労働者が
 自発的に長時間労働をしなければならなくなる。現在の長時間労働による過労死と変わ
 らぬ深刻な過労死が多発することは目に見えている。
・「一億総活躍」や「働き方改革」などの言葉の響きで国民は騙されてしまうが、一連の
 施策のなかに盛り込まれている核心部分を見落としてはならない。すべてを貫く通奏低
 音は「資本のための労働コストの削減」である。労働コストの削減を推進するには、さ
 らに、最低賃金制度の撤廃も必要になる。外国人労働力を活用し、これをテコに労働コ
 スト削減を一気に進めるためには最低賃金制度そのものを撤廃することがきわめて有効
 である。    
・私たちの命と暮らしの根幹を支えている三つが食料、医療、労働である。その食料、医
 療、労働の精度を根底から改変することが安倍政権によって推進されている。その理由
 はただ一つ。グローバルな利益極大化を目指す強欲な巨大資本の意向に沿うことである。
   
外資や官僚、政治屋が国民の富をかすめ取る「官業払下げ」
・日本政府の資産と負債を比較すれば資産が負債を上回っている。巨大な借金があるのは
 事実だが、その巨大な借金を上回る巨大な資産を日本政府は保有している。負債から資
 産を差し引いた純債務、本当の意味での借金はゼロどころかマイナスである。そのよう
 な財務状況にある主体が破綻することはない。
・人々の生存権を守るための社会保障支出を冷酷にカットする一方で、レストランビジネ
 スに税金を投入するのは優先順位が間違っている。財政事情が悪いなら、政府支出を本
 当に必要なものに絞るべきである。本当に必要なものとは、社会保障に関する支出、教
 育、子育てに関する支出などである、国家レベルで言えば、外交、警察、国防などが必
 要だろうが、それ以外のことに巨大な税金を投入する必要性は乏しい。
・すべての市民が楽しむことのできる公園を整備することは有益だが、巨大建造物を建設
 し、巨大な運転資金を投下して、巨大な税金を垂れ流す必要はない。
・政府が全力を挙げて取り組むべき課題が、国民に対する生存権の保障である。「健康で
 文化的な最低限度の生活を営む権利」を日本国憲法は日本国民に保障している。しかし
 政府が保障する最低水準はきわめて貧困である。健康で文化的な最低限度の生活が現実
 には保障されていない。財政支出をここに集中させるべきだ。そのためには、これ以外
 の不要不急の無駄な支出をカットすべきである。民間にできることは民間に委ねるのが
 基本ではあるが、公共部門が担うべきものもある。その中心が公益事業で、市場メカニ
 ズムが適正に働きにくい事業、あるいは市場原理が働くと供給が途絶えてしまうような
 事業は、公的に運営するほうが良い。
・バブルの時代、日本全国に巨大なリゾート施設が建造された。バブル景気に沸いた時代
 の遺跡として、これらのリゾート施設は「バブルの塔」などと呼ばれることになった。
・1998年の株価暴落、そして2003年の株価暴落などの局面で、破綻企業の「バブ
 ルの塔」は二束三文の低価格に転じた。これこそが、ハゲタカの獲物なのだ。相場変動
 の最安値のタイミングで、これらの実物資産を取得すれば巨大な利得になる。こうした
 形で日本の資産価格変動の波を捉え、最安値で資産を買い集めた中心が外資のファンド
 だった。ハゲタカ勢力はバブルに沸き立った後に崩壊した日本経済を、まさに草刈り場
 としてかすめ取った。生命保険会社を次々に買収し、かつては手を出すことのできなか
 った銀行まで、二束三文の安値で取得したのである。
・一代で事業を打ち立てて成功に導いたような経営者が存在する。名経営者として後世に
 名を残すが、現代におけるビジネスの成功者は、この種の創業者ではない。現代におけ
 る成金のキーワードは「ハゲタカメソッド」だ。破綻した優良事業・資産を安価で買収
 することにより、巨大な利得を手にするのだ。この意味でバブルの生成とバブル崩壊は
 ハゲタカにとって最大のビジネスチャンスである。
・民営化といえば聞こえはいいが、実態は「官業払い下げ」である。国民の税金を投入し
 た巨大な事業の効率を高めるべきことは当然だが、その手法として民営化が適切である
 とは言えない。公的管理の下で、その事業のスリム化や効率化を図ることが本来は適正
 である。       
・国鉄が分割され、民営化された。もっとも手っ取り早く儲かる旧国鉄会社はJR東海で
 ある。JR東海には東海道新幹線が存在し、誰が運営しても自動的に儲かる構造になっ
 ている。分割された国鉄のなかで、もっとも経営が容易で、しかも収益性が高いのが
 JR東海である。JR東日本は広大な領域を事業エリアとしており、当然のことながら
 採算がとれない地域が広範囲を占めている。しかしJR東日本には首都圏という巨大な
 マーケットが含まれているため、事業全体として黒字化させやすい。JR西日本も同様
 である。これに対し、JR北海道、JR四国、IR九州は経営を黒字化させることが困
 難である。これは経営者の能力の問題ではなく、事業環境の問題である。こうしてなか
 でJR九州は不動産事業などに取り組むことにより事業の黒字化を果たし、株式上陽を
 実現させた。JR北海道が黒字化することは不可能である。そのJR北海道の経常収支
 の体質が悪化していることからJR北海道の路線を廃止することは、そもそもの鉄道事
 業の公益性を無視した判断である。
・郵便局事業に巨大な人員が投下されたが、この体制で収益を上げることは困難である。
 郵便事業会社と郵便局会社は全国津々浦々の人々に郵便事業および郵便局事業の便益を
 提供するために赤字になることを前提にビジネスモデルが構築される必要がある。公益
 性が高いために採算を度外視しても地域に住む人々の生活を支えるために、これらの事
 業を維持しなければならないのだ。これがユニバーサルサービスの考え方であるが、こ
 うした郵便事業、郵便局事業にも事業の採算性、市場原理という基準が持ち込まれれば
 過疎地域の郵便局は閉鎖され、郵便事業でさえ制約を受けることになる。このような事
 業は民営化すべきではない。
・採算上の理由でJR北海道のローカル線を廃止するのも、民営化の際の約束に反する背
 信行為である。他方、JR東海のように何もしなくても利益が転がり込んでくるような
 事業環境を得れば、そこには当然、超過利潤が発生してくる。
・国家公務員にしろ、旧三公社事業にしろ、職員の給与が、突出して高いわけではない。
 最高幹部に上り詰めたとしても、その報酬は限定的である。しかし民営化され、それぞ
 れの企業が勝手に役員報酬を決めることが許されることにより、巨大な報酬を手にでき
 ることになる。この意味で官僚や旧公営事業の幹部候補生にとって民営化の旨味は限り
 なく大きい。民営化された事業は株主からの監視を受けるが利用者の監視を受けない。
 本来、公営事業は消費者、生活者、主権者、納税者、国民のものである。国民の利益の
 ために存在する企業であり、独占を許されている限り、超過利益が私服を肥やすことに
 向かわぬようチェックする必要がある。
・ハゲタカにとって重要なことは、巨大な資金が投下された巨大な事業の経営権あるいは
 資産の所有権が市場で売買されることである。つまり株式が市場に放出され、市場で株
 式を取得することにより、こうした事業の経営権および企業の所有権を手にすることが
 できる。   
・株式市場の変動を誘導し、株価暴落を誘導するのは、こうした超優良企業の所有権を取
 得するためであると考えることができる。ハゲタカファンドにとって何よりも重要な利
 益の源泉は株価暴落である。株価暴落の局面こそ、巨大利益を獲得する千載一隅のチャ
 ンスになる。  
・2001年に発足して小泉・竹中政権は銀行破綻を示唆することによって株価暴落を誘
 導した。優良企業の株主は金融恐慌が発生し、保有株式が紙屑になってしまうことを恐
 れ、暴落した株価を保有する株式の一斉処分に走った。この局面で暴落株価を一手に買
 い集めたのが外資系ファンドである。外資系ファンドにいっても、すべての外資系ファ
 ンドではない。株価暴落を誘導した後に公的資金により銀行を救済するという予定され
 たシナリオを事前に入手したものだけが暴落株式を買い集めたのだと考えられる。
・日本政策投資銀行は財務省の最重要の天下り機関である。日本たばこ産業株式会社には
 いまなお財務省の天下り役人が最高幹部を占有している。日本政策投資銀行、国債協力
 銀行、日本政策金融公庫、そして横浜銀行、西日本シティ銀行は財務省が天下りポスト
 を握って離さない機関である。
・民営化を行う場合には、その民営化企業への天下りを全面禁止すべきである。そして、
 こうした企業の役員利権を規制する制度を設けるべきだ。  
・日本ではいま、空港事業の民営化、さらには刑務所事業の民営化などが行われているが、
 これらの事業は破綻する懸念がない。誰がやっても必ず儲かる事業である。この事業権
 を得ること自体が巨大な利権そのものである。
・日本では蛇口をひねれば飲用可能な水を無尽蔵に飲むことができる。しかし、このよう
 な国は世界のなかでもきわめて限られた国である。大半の国では水道水をそのまま飲む
 ことができない。
・2013年4月、麻生太郎副総理は米国での講演で「日本の水道事業は、すべて民営化
 します」とはっきり述べた。
・私たちが私たちの貴重な水を守るために立ちあがらねばならぬ日が近未来に来ることを
 否定し切れない。水道事業はハゲタカファンドが狙いを定める次の巨大な利権であり、
 私たちのかけがえのない貴重な水資源がハゲタカにかすめ取られようとしている。
・国民の富、国富がハゲタカ、私利私欲に走る官僚、そして利権政治屋によって、かすめ
 取られるという現実が存在するのだ。民営化されてしまうと、その民営化企業の支配権
 は基本的に株主に移る。国民資金が投下されて打ち立てられた事業であるにもかかわら
 ず、国民は何も言えない立場に捨て置かれてしまう。巨大な事業を構築するために投下
 された巨大資金の債務だけが国民に押し付けられ、巨大資金が生み出す利益は株主と役
 員だけが享受する。これが民営化の実相であることに気がつかなければならない。

日本の国土そのものを危険にさらす原発政策
・安倍首相は「汚染水による影響は福島第一原発の港湾内0.3平方キロメートルの範囲
 内で完全にブロックされています」と述べた。しかしこれはウソである。福島原発の港
 湾は0.3平方キロメートル範囲の内と外で完全に遮断されているわけではない。
・世界に向けてウソの情報を発信し、オリンピックを開催しようとする。そして、そのオ
 リンピックの際に自分が首相の座にいることだけを目論む。私的な利益を求める行動と
 言われてやむを得ないだろう。
・小出裕章氏は東電福島第一原発の一号機から三号機の核燃料はメルトダウンからメルト
 スルーの状態に移行し、原発の地下、地中にむき出しのまま、もぐってしまっている。
 大量の地下水が陸地から海洋に流れており、いまも毎日、放射能に汚染された水が海洋
 に垂れ流されていることを指摘している。
・2011年3月11日に発生した東日本大震災と原発事故、この原発事故によって日本
 は崩壊の危機に直面した。東電は原発からの撤退を具体的に検討したと見られる。福島
 原発から撤退し、原発制御不能の状態に陥っていたなら日本は、すでに存在していない
 かもしれない。
・東日本大震災クラスの揺れにより原発が電源喪失に陥り、重大な原発事故を引き起こし
 た可能性も否定されていない。その後に津波が福島原発を襲ったのは事実であるが、原
 発事故発生の主因が地震に伴う揺れであったのか、それとも津波であったのかについて
 は現時点では明らかになっていない。原発敷地内で記録された揺れの最大加速度448
 ガルは、この時点での耐震安全基準600ガルの、4分の3の値であった。しかし、こ
 の規模の揺れによって、あの人類史上最悪レベルの原発事故が発生した可能性がある。
 この原発事故が、福井県や愛媛県、あるいは佐賀県、鹿児島県などの原発で発生すれば、
 日本全土が高濃度放射線汚染地域になる可能性がきわめて高い。原発は文字通り日本そ
 のものを喪失するリスクを伴う設備である。
・日本では2008年に4022ガルの揺れが観測されている。この揺れは原理上、日本
 列島のすべての地点において発生し得るものである。したがって原発の規制基準は、最
 低でもこの4022ガル以上であるべきだ。
・日本においては真実の指摘は時に激しい攻撃を受ける。真実を人々に知らせることによ
 って利益を損なわれると考える勢力が存在するのだ。福島で原発事故以降、鼻血が出る
 という 症状を訴える人が多数存在したことは事実である。しかし、その事実を指摘す
 ることすら許さない。そのような空気がつくられている。
・日本政府および福島県は現在、年間線量20ミリシーベルトを許容しているが、年間線
 量20ミリシーベルトの数値は、わずか5年で健康への影響が明確に発生するというも
 のである。こうした人命を無視した恐ろしい行政が、まかり通っている。さらに重要は
 点は放射線被爆に対する感受性が胎児や乳幼児において突出して高いとされていること
 である。年間線量20ミリシーベルトの水準は重大なリスクを伴うものである。
・日本は第二次世界大戦で広島と長崎に原爆を投下された。すでに日本の敗戦は動かぬも
 のになっていたが、米国は開発が完了した核兵器を対日戦争で使用するとの目的を有し
 ていた疑いが濃厚である。日本の大都市に対する無差別爆撃、無差別殺戮と並び、原爆
 投下は一般市民に対する大量虐殺行為であり、文字通り戦争犯罪である。そして第二次
 世界大戦後、世界は核兵器保有に関して不平等な状態を固定化する制度を採用し、現在
 に至っている。米ソ英仏中の五カ国のみに核保有を認め、他国には核兵器保有を許さな
 いとの制度が構築されたのである 
・原子力産業の規模は、日本国内だけでみても年間2兆円の巨大産業である。巨大産業で
 あり、かつ利潤率の高い産業であるからこそ、原子力利用をやめることができないのだ。
 原子力ムラは日本を代表する癒着経済領域の一つである。
・日本においては、いつでも、どこでも巨大地震が発生し得る。そして巨大地震は活断層
 のずれによって発生するが、活断層の存在はすべてが事前に把握されているわけではな
 い。巨大地震が発生して初めて活断層の存在が確認されるケースがきわめて多い。日本
 の原発の多くが、存在が確認されている活断層に隣接して地域に立地しており、なかに
 は原発原子炉の直下に活断層の存在が確認されているケースすらある。さらに日本列島
 を縦断する日本最大の活断層である中央構造線と呼ばれる断層の真上に愛媛県伊方原発
 や鹿児島県川内原発が位置しているとの見方も有力なのである。安全性を確保できてい
 ない原発を稼働させることは、一種のテロ行為と言っても過言ではない。
    
【国富を守るために いま、なすべきこと】
明治維新から連なる日本政治の正体
・義務教育の教科書には「戦後民主化」により日本の制度は民主化されたと、記述されて
 いる。日本国憲法は国民主権を定めており、民主主義の制度によって政治権力が樹立さ
 れていることになっている。ところが現実には、主権者である国民の意思に沿う政治は
 実現していない。特定の勢力が政治の実権を握り、特定の勢力のための政治が行われ続
 けてきた。  
・「この国のかたち」は「米・官・業・政・電」利権複合体である。日本の支配者とは、
 この五者である。より正確に表現するならば三次元のピラミッド構造である。頂点に位
 置するのは米国である。米国の支配下に、官僚機構、大資本、利益政治勢力、そして電
 波産業=メディアが位置する。ここで言う米国とは米国民のことではない。米国を支配
 する勢力のことである。米国もきわめて少数の勢力によって支配されている。
・トランプ氏は選挙戦の最中も選挙戦も後も、そして新政権が発足した後もメディアの集
 中砲火を浴び続けている。このことはトランプ氏が、依然として米国を支配する支配者
 の支配下に移行していないことを意味する。日本のメディアがトランプ新大統領に対す
 る攻撃を続けているのは、日本のメディアが米国の政権ではなく、米国を支配する支配
 者の支配下にあるからであると理解できる。
・日本の権力者は行政権力、時の政権であると考えやすいが、実はそうではない。日本の
 支配者は、米国を支配する支配勢力であり、その米国の支配勢力の支配下に日本の官僚
 機構、大資本、利権政治勢力、そして電波産業=メディアが位置するのである。日本の
 メディアは米国の支配者に従属する政権でなければ、日本の政権であれ、米国の政権で
 あれ、激しい攻撃を展開する。米国の現実の行政権力が支配者ではない。米国を支配す
 る特定勢力が存在するのである。それは世界制覇を目論む巨大金融資本であると考える。
・そもそも私たちは明治維新の意味を再考する必要がある。この明治維新こそ現代日本に
 つながる出発点に位置するものであり、それは主権者国家のための政体ではなく、特定
 勢力の利益極大化を目指す政体である。
・明治維新とは世界分割に進んだ欧米列強が日本の植民地化を目論むなかで、日本の植民
 地化措置を目的に日本全国の志士が欧米列強と対峙し、日本の政治体制を刷新した日本
 国内における政治革命であるとの説明がしばしば観察される。しかし現実は違う。明治
 維新の背後には世界の大きなパワーポリティックスが存在した。英国、フランスが日本
 に実質支配、ないし開国による利権確立を目指して策謀をめぐらしたのである。フラン
 スは徳川幕府に接近し、英国は薩摩、長州との衝突含みの接触を重ねながら薩摩、長州
 を軸とする倒幕路線を裏で操った。尊皇攘夷を掲げていたはずの倒幕の志士が尊皇開国
 論者に転換した。
・江戸時代末期、徳川政権と孝明天皇による皇室は公武合体による事態の打開を模索した。
 この平和解決を破壊したのが倒幕勢力である。そして欧州金融資本は常に資金と武器で
 利益を上げる。敵対する二つの勢力に資金と武器を供与し、戦争を誘導して、巨大な利
 益を獲得するのである。江戸幕府と倒幕勢力による戦争は、ビジネス戦略として必要不
 可欠なものであった。 
・尊皇開国勢力の倒幕勢力において必要なのは、天皇そのものではなく「天皇の権威」で
 あった。天皇を替え玉に入れ替えてでも、その権威を必要としたと考えられる。そして、
 こうした謀略行為により幕府軍と倒幕勢力による内戦が勃発したと考えられる。江戸を
 舞台に巨大な内戦が発生していたならば、その戦乱により日本は欧州資本の植民地に転
 落した可能性がある。しかし江戸城は勝海舟と西郷隆盛との談判により無血開城され、
 首都江戸における対規模内戦は阻止された。
・明治新政権が発足し、政権が安定するまでの過程で大きな権力闘争が発生した。それが
 明治六年政変である。明治以降の日本の歴史上の最大の分岐点が、明治六年政変である
 と判断する。
・明治六年政変の本質は大久保利通と江藤新平の対立を軸に発生したものである。明治六
 年政変は三つの意味で日本政治史上の分岐点になった。第一は政変の背景に維新の元勲
 による巨大汚職事件が存在したことである。第二は政変の結果、大久保利通が残り、江
 藤新平が消えたことである。大久保が一種の謀略によって江藤新平を抹殺したのである。
 官僚権利、権力が、民衆の権利、権力に優越するという日本特有の権力構造は、大久保
 が江藤を排除した明治六年政変に源があると言っていい。第三は、この政変により、政
 治の清冽さ、透明性、清潔さを追求する勢力が消滅し、濁を含む勢力が存命した。その
 延長線上に現代日本政治がある。明治政府は維新後、対馬藩を介して朝鮮に対して新政
 府発足を通告し、あわせて国交樹立を望む交渉を行ったが、朝鮮側に拒否された。朝鮮
 は大院君の治世下にあり、鎖国攘夷の策がとられていた。
・大久保は人民の権利に対する国権の優越を唱え、実行した。人権の尊重、司法権の独立
 を唱えた江藤は抹殺され、これが現代に至る日本の警察、検察、裁判所制度の前近代性
 の淵源となったが、日本の命運を決定的に左右したのが日露戦争後の桂・ハリマン覚書
 の廃棄であった。
・日露戦争当時、米国の巨大資本が、南満州鉄道事業に共同参画することは当時の日本に
 とって渡りに船であったはずであるが、ポーツマス講和交渉から帰国した小村外相が、
 この桂・ハリマン覚書を廃棄させてしまう。米国は、そもそも中国の権益に強い関心を
 示していたのである。日本の行為は米国の介入を全面排除するものであり、その後、米
 国は、日英同盟を破棄する方向に動き、最終的に日本に対する対米戦争に誘導していっ
 たのである。世界情勢の大きなパワーポリティックスを見失い、暴走の決定を行ったの
 が桂・ハリマン覚書の廃棄であったと言える。その延長線上に日本は無謀な第二次世界
 大戦に突入し、日本国民に人類史上最悪レベルの苦しみを与えることになったのである。
・GHQ・G2の工作活動により樹立された政権が吉田茂政権であり、米国が支配する
 「非民主化路線」が構築された。吉田茂首相は対米隷属の父と呼ぶべき存在であり、米
 国の命令従うことが、政治家としての地位を確保し、権力を維持する要諦となったので
 ある。その後の日本において米国に対し言うべきことを言おうとした政権が何度か誕生
 した。石橋政権、田中角栄政権、細川護煕政権、鳩山由紀夫政権、そして1954年に
 誕生した鳩山一郎政権も、その傾向を強く保持する政権であった。しかしながら、米国
 に隷属しない政権は、必ず米国によって破壊される。ここで言う米国とは米国を支配す
 る勢力のことである。
・米国を支配する勢力は、現在の米国のトランプ政権をも正統政権として、まだ認知して
 いない。トランプ大統領が物理的に消去されてしまうのか、それともトランプ大統領が
 米国を支配する勢力の軍門に下るのか。まだ帰趨は定まっていない。
・制度的に日本は民主主義制度を採用しているが、民主主義制度を通じて樹立された政権
 であっても、日本の支配者である米国を支配する者の意向に反する行動をとれば、あら
 ゆる手段が駆使されて殲滅される。この構造の打破が現時点では、まだ実現していない。
      
主権者・国民の権利が失われる自民党の憲法改定
・第二次世界大戦後のマッカーサーが主導するGHQの意向を強く反映して制定された日
 本国憲法には三つの骨格がある。国民主権、基本的人権の尊重、平和主義である。新し
 い憲法は基本的人権を確固たるものとして確立するとともに、戦争をしない平和主義と
 いう基本的支柱を確立した。
・日本国憲法の基本的な発想は、国民のための国家を確立することである。国民の人権、
 国民に利益が、すべてに優先される。この基本精神に基づく政治が実現しているならば、
 国民が富を失うこと、国民の富が奪われることは生じない。ところがいま、日本では、
 その国民の権利が、ないがしろにされ、国民の利益が失われ、国民の富が奪われようと
 している。その重大な変化を、さらに形を持って成し遂げようとする試みがある。これ
 が2012年4月に公表された自民党による日本国憲法改正法案である。改正は正しく
 改めることだが、自民党憲法改正法案は、日本国憲法を正しく改めるものではない。改
 正というよりは改悪と表現すべきである。
・日本国憲法を変える、憲法改正と言っているが、憲法の根本事項を改定するのであるか
 ら、憲法の廃棄に等しい。現行憲法を廃棄し、これとは、まったく別の新しい憲法を制
 定するというものである。自民党の示した憲法改定案の基本性格を一言で表現するなら
 「国民のための国家」を「国家のための国民」に改変するものである。現行憲法の根本
 原理を否定し、これと正反対の新しい根本原理を据えるものである。三つの原理を示す
 ことができる。第一は国家の優越である。「国民のための国家」をやめて、「国家のた
 めの国民」とする。国民は国家のための道具になる。そしてその国家は、国民の利益を
 追従する存在ではなく、何かしら別の目的、別の行動原理で動く存在になる。
・日本の支配者は誰か。現在の日本支配者は、米国を支配する者である。米国を支配する
 者はグローバルな統一市場を樹立し、利益の極大化を求める強欲な巨大資本=多国籍企
 業である。自民党憲法改定法案は、日本の国民を、この巨大資本の利益のための存在と
 位置づけるものであると言ってもいいだろう。自民党憲法改定法案の基本原理となる第
 一は「国家のための国民」であり、第二の基本原理は「基本的人権の制限」である。そ
 して、第三の原理として「戦争する国への移行」を挙げることができる。もはや、日本
 が日本ではなくなると言って過言ではない。
 しかし、現在の安倍政権の下では、実態上の変化として、このような国体、国政の基本
 原理の転換が、すでになし崩しで強行されていると言っても過言ではない。憲法に反す
 る多くの法令や条約が強行制定されていのからだ。集団的自衛権の行使を認める安保法
 制、いわゆる戦争法制も、その一つである。国民主権、そして、国民の知る権利を封じ
 込める特定秘密保護法も、その一つである。さらにTPPは国家の主権を自ら放棄する
 内容を含んでいる。これらのすべてに共通することは、日本の支配者が主権者国民から
 強欲な巨大資本に、名実ともに転換するということに収斂すると言っていいだろう。
・自民党憲法改定法案の、見落としてはならない四つの重大事項がある。四つの基本事項
 とは、「国家のための国民」「基本的人権の制限」「戦争する国への転換」に加え、独
 裁政治を創出するための「緊急事態条項」の制定である。
・現行憲法では、憲法の尊重、擁護義務が国民でなく、天皇および摂政および公務員に課
 せられている。憲法は国民を縛るための基本法ではなく、権力が暴走しないよう、権力
 を縛るための存在である。
・自民党憲法改定草案の最大の特徴は第102条の冒頭に、国民がこの憲法を尊重しなけ
 ればならない、と記述されていることである。つまり新しい憲法は国民を縛るための存
 在になる。国民のための国家であるなら、権力者が暴走しないように憲法によって権力
 に縛りをかける。これが現行憲法の考え方である。ところが自民党憲法改定草案では国
 家が国民を縛るために憲法を制定するのである。完全な天地の逆転である。
・自民党憲法改定草案は日本国憲法から大日本帝国憲法への回帰を意味している。このこ
 とが「国民のための国家」から「国家のための国民」への転換を如実に物語っている。
・日本国憲法の二つの支柱は、基本的人権の尊重と平和主義である。その基本的人権につ
 き、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であることを明記し、現代および将来の
 国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものであると規定してい
 る。絶対不可侵の神聖なる領域が、この基本的人権なのである。ところが自民党憲法改
 定草案においては、この第97条が完全に削除される。
・国民の基本的人権が、自民党憲法改定法案では、「公益及び公の秩序に反しない限り」
 においてしか認められない。現行憲法における「公共の福祉に反しない限り」とは、
 各個人の基本的人権を尊重するに際し、他の個人の基本的人権とのとの調整が必要であ
 るとの観点に立った表現であり、基本的人権を制限するものではない。そして、この条
 文の特徴的なのは、「個人として尊重」が「人として尊重」に置き換えられていること
 だ。
 思想および良心を持つ人格としての個人の尊重が、単なる生物としての人の尊重に置き
 換えられている。 
・自民党憲法改定案では、基本的人権の尊重に明確な制限を設けている。「常に公益及び
 公の秩序に反してはならない」と明記されている。つまり、基本的人権の尊重は、制限
 付きのものである。基本的人権よりも上位の価値として「公益及び公の秩序」が置かれ
 ることになる。つまり基本的人権は「公益及び公の秩序」に反しない限りにおいて認め
 られるということになる。
・自民党憲法改定法案では、集会、結社および言論、出版その他一切の表現の自由につい
 ては、制限付きで認めるということになる。制限付きで認めるということは、認めた範
 囲外の自由は認めない、ということである。
・我が国は憲法第九条の規定に従い、自国が攻撃されていないのに他国が武力攻撃を受け
 た場合に武力行使をする、いわゆる集団的自衛権は、憲法解釈としてこれを認めないと
 する見解が政府から明示され、40年以上にわたって維持されてきた。集団的自衛権行
 使に関する政府見解は「わが憲法のもとで武力行使を行うことが許されるのは、わが国
 に対する急迫、不正の侵害に対処する場合に限られるのであって、したがって、他国に
 加えられた武力攻撃を阻止することをその内容とする、いわゆる集団的自衛権の行使は
 憲法上許されないと言わざるを得ない」とされてきた。これが日本国憲法第九条の解釈
 の基づく集団的自衛権行使を禁ずる政府見解である。
・それにもかかわらず安倍政権は、この憲法解釈を憲法改定の手続きを経ずに変更した。
 そして、その変更に基づいて、安保法制、いわゆる戦争法制を強行制定してしまったの
 である。 
・現代の戦争は、「必然」によって生じるものではない。現代の戦争は「必要」によって
 創作されている。誰が戦争を必要としているか、それは巨大な軍産複合体である。
・米国の軍産産業が産業維持の必要性から恣意的に創作しているものであると考えられる
 が、日本において憲法を改定し「戦争をしない国」から「戦争する国」へ転換する方針
 も、この米国軍事産業、すなわち強欲巨大資本の利益追求の一環であるという意味合い
 がきわめて大きいと考えられる。
・自民党憲法改定法案においては、新たに第九章として緊急事態の章が設けられている。
 ここで重要なのは緊急事態の宣言を発することができるための要件であるが、わが国に
 対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然
 災害の言葉が明記されているが、内乱「等」による社会秩序の混乱および「その他の法
 で定める緊急事態」という、緊急事態の宣言を発するための要件は、きわめてあいまい
 に、かつ幅広く設定されている。つまり、いつでも屁理屈をつけて緊急事態を宣言でき
 る条文になっているわけだ。
・緊急事態の宣言が発せられると内閣に独裁権限が付与される。選挙も行わず、議員と政
 権は永久の存在になり得るのである。さらに内閣は法律と同一の効力を有する政令を制
 定することができ、財政支出も行うことができる。さらに国民の基本的人権が制限され
 ることになる。
・1933年、ドイツ・ナチ党は全権委任法を制定し、これ以降、ナチ党によるドイツ独
 裁が成立し、ドイツは悲劇の道を突進していった。これとまったく同じことが日本で、
 再び発生する可能性が高まるのである。
・緊急事態条項の制定については、憲法改定に消極的な野党陣営のなかでも賛成論がある。
 この緊急事態条項を憲法改定の突破口として制定してしまう場合、この規定に基づき緊
 急事態が宣言され、その下で各種の人権が制限され、言論の自由が奪われるなかで憲法
 全体の全面改訂が強行されてしまうというシナリオも考えられる。おとぎ話ではなく、
 現実の悲劇的実話として、近未来に発生する危険があることを銘記しておかなければな
 らない。

日本を支配するための五つの技法
・自民党憲法改定案が、国民を支配するための基本単位として新たに重視するのが「家族」
 である。自民党憲法改定案の発想は「家族による個人に対する縛り」によって国民を国
 家のために活用するというものだと思われる。
・既得権勢力が、既得権勢力による支配を維持するための技法が五つあると考えられる。
 列挙すると「教育」「洗脳」「弾圧」「堕落」「買収」である。長期的な視点で、もっ
 とも重要かつ有効であるのが「教育」である。そしていま、安倍政権は、この「教育」
 をさらに改悪しようとしている。教育における主眼は「国家のための国民」の創出であ
 る。日本の教育の特徴は「覚えろ」「従え」である。本来、教育が設定すべき目標は
 「考える」「主張する」である。あらゆる物事に対し、それを客観的に考察し、論理的
 に思考する能力を養うこと。そして、あらゆる事項について、付与される教養に基づき、
 自分の思考方法、自分の判断力によって理解して、意見を形成すること。そして、その
 判断および思考および主張を、外に向かって発信すること。この能力を養うことが教育
 の本来の目的であるべきだ。つまり「考える」「主張する」能力の育成こそ、教育の本
 来の目的である。 
・朝礼における整列、授業の開始と終了にあたっての起立・礼・着席、運動における行進、
 着座などにおいては戦時中の軍事教練の方式がいまなお引き継がれている。
・良い子どもは上からの命令に従順に従う子どもであり、上からの命令と齟齬する発言を
 自己抑制する生徒である。これが、良き生徒、優等生であって、上からの命令に反する
 ことを「考え」、そして、それを「主張する」生徒は、問題児とされる。学校内で、い
 じめが発生しても、そのいじめを指摘して、教師に訴える生徒は「面倒な生徒」として
 取り扱われる。虐めの問題が顕在化しても学校は事実を隠蔽し、その鋳実隠蔽に協力す
 る「従順な生徒」が「良い生徒」として評価を受けるのである。
・安倍政権は、「家庭教育支援法案」を提出する見通しである。家庭教育支援法は国家が
 家庭教育に介入するための法案であり、戦時下に発令された「戦時家庭教育移動要綱」
 と重なるものである。家庭教育の重要性を唱え、家庭の教育力低下を指摘し、国家が家
 庭教育を支えなければならないとする考え方は、この「戦時家庭教育指導要綱」と完全
 に共通するものだと指摘されている。
・そもそも家庭教育は「親の権限」「親権」で行われるものであり、親の子どもに対する
 「教育権」に基づくものである。親以外の第三者が決定し、強制するものではない。
・家庭での教育方針の決定は思想および良心の自由に委ねられるべきもので、家庭教育へ
 の国家の介入は重大な基本的人権侵害である。
・戦前の「愛国婦人会」「大日本連合婦人会」「大日本国防婦人会」の婦人団体は、互い
 に競い合いながら、軍事援護、愛国貯金などに乗り出した。千人針集めや前線への慰問
 袋を送る運動だけでなく、街頭に立って洋髪の女性に「パーマネントは止めましょう」
 のビラを渡してプレッシャーをかけたり、和服の長い袂をハサミで切り落とす実力行使
 も見られ、お上の威光をカサにきての振る舞いが多くなり、「泣く子も黙る婦人会」と
 も言われるようになった。
・新聞、雑誌、ラジオも、また国を護るための死を美化し、母を聖化した。「家の光」や
 「主婦之友」は座談会で「今まで大事に育ててきた子供に「死ね」と一言いって送り出
 す強さが日本を支えている」と述べさせ、戦争協力に躍起となった。
・安倍首相が進める家庭教育への国家権力の介入は、家族は互いに助け合わなければな
 らないという規定で個人を「家」という単位のなかに縛り込み、家庭に「国家のための
 人材育成」を強要し、国家権力によって教育御を統制するというものであり、これが思
 想及び良心の自由を保障する基本的人権の方向とは真逆であることは明白だ。
・日本のマスメディアは、ごく少数の企業体および事業体によって占拠されている。これ
 を16社体制と呼ぶ。読売、朝日、毎日、産経、日経の五大紙は、それぞれに全国放送
 のキー局を保有している。日テレ、テレビ朝日、TBS、フジテレビ、テレビ東京であ
 る。そして全国の地方紙にニュースを配信しているのが共同通信社である。さらに公共
 放送としてのNHKがある。大きな地方ブロック紙は北海道新聞、中日新聞、西日本新
 聞であり、これら16社を合わせて16社体制と呼んでいる。
・政治権力に対する批判的な見解が時折、朝日、毎日、中日、北海道の紙面に掲載される
 傾向がある。これらの一部のメディアに、かすかな良識が残されているとも言えるが、
 権力を牽制する論評は、むしろ権力の存続を支えるための「ガス抜き」効果を狙ったも
 のであるとも理解できる。
・NHKの最高意思決定機関は経営委員会であるが、経営委員の人事権を内閣が有する。
 経営委員会はNHK会長を選出し、NHK会長は経営委員会の同意を得て副会長および
 NHK理事を任命する。NHKの事業運営は理事会によってコントロールされている。
 内閣が経営委員会の人事権を恣意的に行使すればNHKの支配が可能である。
・2001年発足の小泉純一郎政権以降の自民党政権ではNHK支配が鮮明になり、現在
 の安倍政権はその頂点にあると言える。
・NHKの事業予算については、総務省に提出する予算案が国会で承認されねばならない。
 他方、放送受信料については、放送法がテレビを設置した個人にNHKとの受信契約締
 結を義務づけており、NHKは放送受信契約者の威光を尊重する必要がない。「みなさ
 まのNHK」と表現しているが「みなさま」の意向を尊重する理由が存在しない。重要
 なのは「安倍さま」の意向であり、現状のNHKは「あべさまのNHK」になっている。
・事態を是正するには放送法の改正が必要である。放送受信契約を、任意制に移行させる
 べきだ。家庭にテレビを設置しただけでNHKとの受信締結義務を負わせるのは財産権
 の侵害に当たる。     
・民間メディアの支配権は民間メディアの資金源であるスポンサー企業=巨大資本にある。
 このために、民間放送の流布する情報が巨大資本の利益に沿うものになり、強欲巨大資
 本=ハゲタカ資本のための政治を側面支援する情報だけが流布されることになる。とり
 わけ政治経済問題における報道の偏向は深刻であり、大多数の国民が権力迎合のメディ
 ア情報による「洗脳状態」に置かれている。
・安倍政権の支持率が50%、60%だのと流布されているが、まったく信用できない。
 世論調査など質問の文言により、どのようにでも結果を誘導できる。それにもかかわら
 ず、大多数の国民が世論調査数値を鵜呑みにしてしまっている。
・欧米では政治的敵対者に対し、社会的生命を奪うための「人物破壊工作」が広範囲に実
 行されており、小沢一郎氏のケースは、その典型事例だと指摘されている。政治的な敵
 対者の社会的生命を抹殺する行動は近年になって日本でも多用されている。鳩山由紀夫
 元首相もその標的にされたし、筆者も、政治的な敵対者として巨大な冤罪事件を捏造さ
 れ、社会的声明を抹殺された一人である。
・日本の警察・検察・裁判所制度は、前近代の状態に置かれたままである。政治権力と司
 法権力、警察・検察権力は一体化しており、さらに日本の支配者である米国の支配者と
 も通じている。       
・日本の警察・検察・裁判所制度には三つの重大な欠陥がある。第一は警察・検察権力に
 不当に巨大な裁量権が付与されていること。第二は日本の警察・検察行政、さらに司法
 の運営において、基本的人権尊重のための諸原則が、ことごとく踏みにじられているこ
 と。第三は日本の裁判所制度が政治権力によって支配されていることである。
・私が巻き込まれた冤罪事案では筆者の無罪潔白を証明する防犯カメラ映像が確実に存在
 していた。筆者は、この防犯カメラ映像の提出を訴え続けたが、警察・検察当局が、こ
 の防犯カメラ映像を破棄し、無罪の証拠を隠滅したのである。
・刑事司法の鉄則は「無辜の不処罰」といわれる。すなわち「10人の真犯人を逃しても
 1人の無辜を処罰するなかれ」が刑事司法の鉄則なのである。無辜とは無実の人間のこ
 とである。冤罪ほど深刻な犯罪はない。「国家にしかできない犯罪、それは戦争と冤罪
 である」という言葉があるが、冤罪ほど人権を侵害する犯罪はない。その冤罪を生み出
 さないためには「疑わしきは罰せず」の原則をとるしかない。
・ところが、日本の現実は必罰主義である。必罰とは「たとえ10人の冤罪被害者を生み
 出しても1人の真犯人を逃すな」である。1人の真犯人も逃さぬためには10人の冤罪
 を生み出してもかまわないとの考え方、「国家のための国民」の考え方に基づくものだ。
 国家にとっては、たった一人でも真犯人を逃すことの損失が、10人の冤罪被害者を生
 む損失に勝ると考えるのだ。
・日本の裁判所の政治性を問題にする必要がある。最高裁判官および最高判事の人事権は
 内閣にある。そして下級っ裁判所の裁判官は最高裁が提出する名簿に基づいて内閣が任
 命することになっている。すなわち、裁判所の人事権を内閣が濁っているわけだ。そし
 て、下級裁判所裁判官の人事権は最高裁事務総局が握っている。大半の裁判官は出世を
 目指しており、出世を目指す以上、人事権保持者の意向に逆らえない。したがって大半
 の裁判官は政治権力に従属することになる。
・すべての裁判官は政治権力から常に監視されており、これを意識に置いて、判決を書い
 ている。このために政治権力の意向に反する判決を示さないのである。例外的に、法と
 良心に基づいて判決を書いく裁判官が現れる。しかし、こうした裁判官は最高裁事務総
 局および内閣の人事権行使によって必ず左遷させられる。したがって、こうした法の正
 義と良心に基づく判決を示す裁判官は例外的にしか存在しないし、最高裁判判事になら
 ない。     
・さらに安倍政権はいま、共謀罪を創設しようとしている。犯罪を実行していないにもか
 かわらず、犯罪を想定しただけで犯罪者に仕立て上げられる罪である。さらに刑事訴訟
 は改悪され、取り調べの可視化を実現せずに、通信傍受や司法取引などの取引手法の拡
 大だけが実行された。この改定刑事訴訟法と共謀罪創設によって事実上の「新治安維持
 法」が成立するのである。日本は本格的に暗い時代に突入する。
         
資本主義対民主主義
・資本主義と民主主義とが並立しがたいのは、資本主義が必ず格差を拡大させるからだ。
 そして、資本主義のなかで主導権を握るのは一握りの巨大資本である。強き者はより強
 くなり、弱き者はより弱くなる。市場原理によって資本を蓄積できない多数の労働者と、
 この労働者を支配する一握りの資本家の分化が進む。支配するのは少数の資本家だが、
 少数の資本家は少数であるがゆえに数による優位を保つことができない。これに対し、
 民主主義において支配権を握るのは多数勢力である。多数の労働者と少数の資本家が民
 主主義の領域で対立すれば、必ず圧倒的多数の労働者が主導権を握る。
・アベノミクスと呼ばれる経済政策は、金融緩和、財政拡大、成長戦略を三つの柱として
 いるが、安倍政治の本質を端的に示しているのは、そのなかの成長戦略である。成長戦
 略の中核は農業の自由化、医療の自由化、解雇の自由化、経済特区の創設、法人税減税
 の五つである。いずれの施策も、少数の巨大資本の利益を極大化させるための施策であ
 る。    
・税制において法人税減税を推進する一方で消費税大増税を強行してきた。所得税が「能
 力に応じた課税」であるのに対し、消費税は富裕者と貧困者の税率が同一の、きわめて
 逆進性が強い税制である。   
・2012年度以降、大規模な法人税減税が実施されてきた。他方で、逆進性の強い消費
 税は、1989年度との比較で五倍以上の激増を示している。こうした市場原理基軸の
 資本主義政策の水深により、かつては「一億総中流」といわれた日本の所得分布の構造
 が「正解有数の格差大国」に転じている。
・資本主義は市場原理を基軸に置く制度であるが故に必然的に劣敗、弱肉強食、格差拡大
 の結果をもたらす。 
・民主主義は社会を構成する個人に格差なく一人一票を保証する制度である。これに対し
 資本主義の世界では、少数の巨大資本が経済運営全体の支配権を握る。資本主義の矛盾
 を修正するには民主主義の原理による、公権力による経済活動への介入が必要になる。
・政治権力を多数の主権者国民が奪還するためには、権力闘争に勝利しなければならない。
 その勝利の原則は「彼を知り己を知る」ことだ。少数の大資本勢力の戦略と戦術を知る
 ことが、まず第一である。その一方で己を知ることも必要である。己の勢力は、敵の謀
 略工作に絡め取られ、教育、洗脳、弾圧、堕落、買収によって目を曇らされている。現
 状を打破するには、敵の戦略、戦術を知ると当同時に、己の勢力が目を覚まさなければ
 ならない。     
・情報の誘導による「洗脳」状態にある自分の判断に対して疑いを持つこと。自分の目で
 見て自分の頭で考えること。このことによって人々が覚醒し、新しい時代の扉が開かさ
 せるのである。    
・資本主義がもたらす矛盾を解消するために必要なことは民主主義を活用することである。
 多数の労働者勢力=市民が連帯し、共闘すれば必ず勝利する。
・総選挙で自民党が大勝してしまう大きな理由の一つは、投票率の低さだ。投票率は50
 %代前半しかない。政治の決定権を持つのが主権者である。しかし、政治の決定権を持
 つ主権者の半分が政治の決定権を行使せずに放棄してしまっているのだ。
 
日本政治を死に至らしめる二党独裁
・衆議院の議席の大半を決定する小選挙区制度は、一つの選挙区に当選者を一人しか生み
 出さない制度である。最大の問題点は敗北した候補者への投票が議席に反映されないこ
 とだ。これを「死票」と呼ぶ。とりわけ小規模政党は小選挙区制度において当選者を出
 すことがきわめて困難である。   
・他方、日本の現状では自民党議席が圧倒的に多く、他の政党が小規模に分立している。
 この状態で各政党が独自に候補者を選挙区に擁立すれば、自民党圧倒的優位が継続して
 しまう可能性が高い。この意味で、現在の政治状況を踏まえると、小選挙区制度の維持
 が自民党支配の政治構造を長期化させてしまうとの懸念も強い。

政策選択選挙と日本版五つ星運動
・主権者にとって重要なのは政策であって政党ではない。どの政党であろうと、良い政策
 は、良い政策であり、悪い政策は悪い政策なのである。
・具体的に「政策選択選挙」を実現することが重要だ。いま、私たちの目の前にある重要
 な政治課題のうち、象徴的に重要なものを三つ掲げる。それが原発、戦争、格差・貧困
 である。  
・メディアは「アベノミクスの是非」や、「政権を委ねる勢力の選択」を選挙争点に掲げ
 るだろうが、主権者国民にとって一番大事なのは政策だ。その政策を選択する権利が主
 権者にある。政治の現状を刷新するための最大の武器が民主主義である。この民主主義
 の特性を生かして日本政治を変える。
・原発を稼働させない。戦争をしない。これに加えて、「国民の生活を良くする」こと。
 これが、一番大事なのだと痛感する。そのために、消費税率を5%に戻し、「能力に応
 じた課税」を実現する。「能力に応じた課税」とは、具体的には「資産課税」の強化で
 ある。富裕層の資産の一部に課税を課す。これで消費税減税の財源を賄い。さらに社会
 保障制度を強化する。そして、すべての国民に保証する最低レインの所得水準・生活水
 準を引き上げる。大学までの教育費を無償化する。現在の公的胃腸保険制度を確実に推
 進する。
  
あとがき
・私たちの命と未来を支える根源的なものを三つあげるとすれば、「水」「種子」「教育」
 ということになるだろう。日本では、水を「湯水のように」扱うが、飲用可能な水資源
 は世界的に希少になっている。水は命の源であり、いま、世界における最重要の戦略物
 資のひとつになっている。ハゲタカが、この水に狙いをつけると同時に、ハゲタカにこ
 の水を献上する愚かな行動が現実のものになり始めている。
・すべてを含めて何よりも重要なことは、私たち主権者国民の意思を正しく反映する政府
 を樹立することだ。私たちの未来は、私たちが決める。これがなによりも大事なことだ。