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この本の筆者は、海上自衛隊出身である。自衛艦隊司令官などを歴任した人物である。そ
のためか、どうしても話が戦争容認の方向に向かってしまう傾向があるような気がする。
例えば、筆者は、米朝戦争が始まった場合、集団的自衛権を行使して自衛隊が米軍に直接
加わる形での共同作戦はないが、米艦防護や物資補給等の後方支援を行うことは可能にな
ったと述べているが、「米軍防護や物資補給」は直接戦闘に加わらないとはいっても、そ
れはもはや、米軍と一緒に軍事行動をする集団的自衛権の行使そのものと言えるのではな
いだろうか。
そしてこれは、集団的自衛権の行使の要件である「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、
自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること」を満たしていると言
えるのだろうか。
また、筆者は、「米艦防護や物資補給等の後方支援」をやらなければ、我が国に対する国
際社会の評価は急落すると出張しているが、ほんとにそうなのだろうか。確かに米国から
の評価は落ちるかもしれないが、国際社会からの評価が急落するというのは、どんな根拠
からそんなことが言えるのか、私には理解できない。
また、筆者は、北朝鮮が核武装することは、人類社会全体に対する挑戦だと主張している
が、それなら、インドやパキスタン、イスラエルが核武装するのは、人類社会全体に対す
る挑戦ではないのだろうか。なぜ北朝鮮の核武装だけが、人類社会全体に対する挑戦なの
か、私には理解できない。
筆者の主張するように、もし北朝鮮の核武装が人類社会全体に対する挑戦であるならば、
国連が主導して「国連軍」が北朝鮮の核武装を排除しなければならない。米軍単独ではな
く、国連軍と北朝鮮の戦争とならなければならない。しかし果たして、米軍以外の国がこ
の戦争に積極的に参加するだろうか。筆者は、米国が人類の代表として北朝鮮を攻撃する
のだと主張するが、あのトランプ大統領が率いる米国が人類の代表なのだろうか。私には
冗談としか思えない。
さらに筆者は続ける。日本は「ふつうの国」ではないから、北朝鮮からミサイル攻撃を受
けても、それが「組織的」かつ「計画的」な武力攻撃だという明確な根拠がない限り、自
衛隊に防衛出動を命じることができないと述べている。もし政府が自衛権を行使すれば、
国会で「従来の政府見解に違反している」と抗議されるかもしれないと述べている。いや
はや、筆者に言わせると、日本と言う国は「平和ぼけした」どうしようもない国というこ
とらしい。もう言葉がない。
しかしながら、筆者の主張にも頷ける部分も多い。特に、米国が北朝鮮と戦争するのは近
いと主張するは、残念ながら私もその可能性は非常に高いのではないかと思っている一人
である。
最近、突如として、北朝鮮の金正恩委員長とトランプ大統領の直接会談が行われることが
決まったが、果たしてこの会談は成功するだろうか。過去の経緯からみても、北朝鮮がそ
う簡単にいままでの方針を転換して核を放棄するとは思えない。おそらくトランプ大統領
も、そう思って会談に臨むだろう。もし、金正恩委員長が少しでも核放棄をしないそぶり
を見せたなら、そこで交渉は終わりになるだろう。それは米国にとっては、北朝鮮を攻撃
する明確な理由づけが得られたことになる。そうなれば、あとはすぐさま米国の奇襲攻撃
が敢行されるだろう。筆者は今年の6月がその可能性が一番高いと主張しているが、私も
そう思う。5月の金正恩委員長とトランプ大統領の首脳会談直後の6月が一番可能性が高
い気がする。かといって、何かできるわけではないが、そのことを頭に置きながら、貴い
日々を送るしかないだろう。

米朝開戦Xデー
・戦後、わが国に最も近いところで戦争が起きる可能性が高まっていることは間違いあり
 ません。言うまでもなく、アメリカと北朝鮮の戦争です。それは、戦場が距離的に「近
 い」だけではありません。時間的にも、その「開戦」は極めて近いところまで迫ってい
 ると私は見ています。
・日米の仮想敵国だったソ連(現在はロシア)は、西側諸国の常識では理解できない荒っ
 ぽい行動をとることがなかったわけではありません。しかし、アメリカとの戦争だけは
 抑止するという、最低限かつ最重要の国際ルールは、ソ連にも通用したのです。どちら
 の陣営も、核兵器使用という一線を越えれば人類全体が破滅することがよくわかってい
 ました。
・中国の歴代王朝は、自分たちこそが世界の中心であり、世界の覇権国であると考えて君
 臨してきました。いわゆる「中華思想」です。まさに自らがルールであり、従属する周
 辺国に対して自分たちのルールを押し付けるのは当然であるという発想は、ある意味彼
 らのDNAであり、生来の文化であり、政治手法でもあります。
・中国は、約2500年の間、アジアの覇権国であり続けました。そのような中国にとっ
 ては、今日定着している国際規範は、西洋列強が自らの世界支配を有利に進め、正当化
 するためにつくりあげたものにすぎません。
・北朝鮮もそれと同じです。少なくともあの国の指導者にとって、国際平和や核抑止など
 に関する、国連が主導する国際社会のルールは、西洋を中心とする国際社会が自分たち
 の価値観に基づいて勝手に決めたものに過ぎず、彼らにとっていかなる意味も持ちませ
 ん。したがって、北朝鮮もまた中国と同様に、自らの国策を遂行するにあたり、国際規
 範に準ずる必要と義務など毛頭ないと考えていることは、明白です。
・冷戦下で、最悪の熱核戦争を抑止するために、米ソ両国が共有してつくりあげた最低限
 の価値観やルールは、北朝鮮には通用しないのです。国際的なルールや常識が当てはま
 らない国。つまり自分たちの主張や要求が国際社会に受け入れられなければ武力行使も
 厭わない国が、日本の目と鼻の先にあります。その国が間もなく、核弾頭を搭載したミ
 サイルを使用できるようになる、それが、冷静に観察した日本の現状です。
・北朝鮮にとっての敵国、すなわち、自らの体制維持と生存を保障する上での最大の障害
 となる国は、日本ではなくアメリカです。もし、米朝両国のあいだで戦争が始まれば、
 アメリカの同盟国であり、地理的に北朝鮮と近い我が国にも深刻は影響が生じることは
 避けられません。
・北朝鮮は、技術的な問題を克服した後、火星14号をどこに向けて発射するかを決めか
 ねているにちがいありません。その発射実験を行わなければアメリカと対等な交渉のテ
 ーブルにはつけず、発射実験を行なえばアメリカを刺激し、下手をすれば武力攻撃を受
 けてしまう。そういう二律背反の現実によって、北朝鮮は身動きがとれなくなったので
 す。 
・アメリカに対して、そもそも北朝鮮の恐喝など効くはずもなく、アメリカは超然として、
 国際社会の動向を見極めながら、自分のペースでこの問題の解決を模索しています。
・日本のメディアは、北朝鮮の貸し絵12型の発射実験や水爆実験(2017年9月)な
 どがアメリカに対する「威嚇」や「脅迫」になっているかのように報道することが多い
 ですが、双方の軍事力の圧倒的な差を考えれば、その見方はナンセンスでしかありませ
 ん。  
・国連安全保障理事会は、過去最大の核実験を行った北朝鮮対する制裁決議を、全会一致
 で採択しました。ここでは、今まで北朝鮮への厳しい制裁に慎重な姿勢を見せていた中
 国とロシアも賛成に回っています。もちろん国連が決議したのは経済制裁ですが、アメ
 リカとしては、これによって軍事力行使のお墨付きを得たと考えているでしょう。中ロ
 を含めて全会一致となったことで、この制裁決議は、国際社会全体が北朝鮮を許さない
 という意思表示になりました。そうなれば、アメリカは自分たちの都合で、やると決め
 たらやることができます。水面下で中国やロシアなどと情報交換はしているでしょうが、
 金正恩に核開発をやめるつもりがないとアメリカ自身が最終的に判断すれば、北朝鮮は
 どんな条件を提示してこようが、軍事力を行使するはずです。
・軍事力行使の「レッドライン」を相手国の行動で設定するのは、賢い外交のやり方とは
 言えません。レッドラインを決めて相手にボールを持たせるのは国際政治や外交上、得
 策ではありません。相手がどう出るかは関係なく、自分たちにとって一番良いタイミン
 グを見計らって、実行する。それが軍事作戦の要諦です。
・トランプ氏以前の三人の大統領は、国際社会の一般的な規範にしたがって言葉を選びな
 がら、北朝鮮とコミュニケーションを図っていました。しかし相手は国際社会の常識は
 通用しません。そのためアメリカの真意は伝わらず、北朝鮮側は自分たちの常識にした
 がって、自分たちに都合よく勝手に解釈し、核とミサイルの開発活動を継続してきたの
 です。ところがトランプ大統領の言葉はあまりにもストレートなので、そういう余地が
 ありません。   
・日本ではトランプ大統領の危うさを心配する声がよく聞かれますが、少なくとも安全保
 障政策については、オバマ前大統領よりはるかにマシだと私は見ています。オバマ大統
 領は、在任中、安全保障に関してはほぼ何もしませんでした。たとえばイランとの核合
 意も、オバマ氏本人はその有効性をアピールしていましたが、ミサイル開発を合意の枠
 外にしてしまったので、イランは今も着々とそれを進めています。ミサイルに搭載する
 核弾頭はつくれなくても、金に困った北朝鮮はが、自国で開発した核弾頭をイランに売
 る可能性もあります。イランは間違いなく関連技術は入手するでしょう。相変わらず、
 世界は危機にさらされているのです。
・また、オバマ政権は中国に対して全くの無策でした。そのせいで、中国は東シナ海や南
 シナ海に既成事実をどんどんつくり、その勢力範囲を広げています。シリア問題でも、
 オバマ政権は事態を混乱させるばかりで何も結果を残せませんでした。
・米国国防長官のマティス氏や国務長官のティラーソン氏、国家安全保障問題担当大統領
 補佐官のマクマスター氏など、いずれも純粋かつ公正な視点からアメリカの国益を考え
 られる人物であり、現状でも、まっとうな意思決定のできる陣容です。
・北朝鮮が核ミサイル開発をやめ、すでに製造した兵器の廃棄を行わないかぎり、アメリ
 カの軍事力行使は現実のものになると私は思います。核開発の一時的な「凍結」のよう
 な対応では、アメリカは妥協しません。戦争を回避するには、北朝鮮が核開発の全面的
 な放棄を約束し、国際機関による強制的な査察も受け入れる必要があります。そして、
 現在までの北朝鮮の首脳や関係者の発言からは、そうなる可能性は極めて低いと言わざ
 るを得ません。
・だとすれば、米朝開戦の{Xデー」はいつのなるのでしょうか。韓国内の被害を最小限
 に食い止めたいアメリカとしては、奇襲によって北朝鮮の第二次攻撃能力を一気に無力
 化し、短期間で決着をつけることを第一に考えます。奇襲の効果が最も高まるものが、
 世界の誰もがやるとは思わないタイミングで仕掛けることでしょう。考えらえるのは、
 2017年12月から1月までのどこか、そこで踏み切らなければ、数か月、具体的に
 は4月か5月までは待つことになると思います。しかし、そこまで時間を空けてしまう
 と、北朝鮮が火星14型の試験発射を行い、アメリカ本土に到達する大陸間弾道ミサイ
 ルとして完成させてしまうかもしれません。アメリカ本土を射程に入れた核弾頭ミサイ
 ルを手に入れた瞬間に、北朝鮮は瘠せ犬ではなくなります。それだけでグリズリー熊に
 なるわけではありませんが、一発で熊に深手を負わせることができる武器を持った狂犬
 になる。私自身2018年6月いっぱいには、完成するのではないかと見ています。
・火星12型ミサイルは完成したと見ていいでしょう。ただし、こちらに搭載する核弾頭
 は、火星14型よりも小型化する必要があり、北朝鮮当局は、まだ完成したと発表して
 いません。つまり、今、北朝鮮の核弾頭ミサイル開発には、一種の「ねじれ現象」が起
 きていることになります。火星12型はミサイルが完成したものの、核弾頭がない。火
 星14型は核弾頭が完成したけれど、ミサイルが未完成ということです。両方を実戦配
 備可能にするには、火星12型用の水爆実験と、火星14型ミサイルの通常軌道での発
 射実験を成功させる必要があります。北朝鮮としては、これら二つの実験を、できるだ
 け速やかに行いたいと考えているはずです。
・ただし、グアムに届く火星12型も、アメリカ本土に届く火星14型も、アメリカの逆
 麟に触れて反撃を食らう恐れがあります。どのタイミングで実験するかは、アメリカの
 出方を観察し、慎重に見極める必要があります。しかし、それをやらなければ、アメリ
 カに対抗できないのですから、いつか必ずやるつもりでしょう。
・北朝鮮が二種類の核ミサイルを使えるようになると、アメリカも迂闊に手を出せません。
 北朝鮮を核保有国と認めた上で、新たな交渉の道を探らざるを得ない状況になる可能性
 もあります。アメリカのとってそのような展開は、絶対に避けなければいけないのです。
・アメリカにとって厄介なのは、手詰まりになった北朝鮮がしばらくのあいだ、国際社会
 を刺激する悪事を働いていないことです。国際世論が「北朝鮮はおとなしくなった」と
 感じていると、軍事力を行使しにくいからです。
・開戦するか否かは北朝鮮の出方によらず、アメリカ自身が決めることです。自らの情報
 収集によって、アメリカ本土を射程に入れる核ミサイルが完成間近であることを察知す
 れば、躊躇なく軍事行動を起こすでしょう。
・おそらく、その軍事行動は「米韓合同作戦」にはなりません。今回、北朝鮮軍に対して
 想定される攻撃のような、目標は限定するものの航空戦力を大規模に集中させる短気急
 襲作戦においては、韓国軍はかえって足手まといになるので、米軍の単独作戦となりま
 す。そして、北朝鮮が残存戦力で何らかの反撃を試みたときには、普段から演習・訓練
 している米韓合同作戦計画に基づいて、共同して侵攻排除にあたるものと考えられます。
・では、そのとき日本はどうすべきか。アメリカと北朝鮮の戦闘とはいえ、日本はアメリ
 カの同盟国ですから、単に傍観するわけにはいきません。
・平和安全法制の成立によって、日本は米軍の後方支援などをできるようになっています。
 それをやるかどうかは、政府の決断次第です。米軍の北朝鮮攻撃作戦において、集団的
 自衛権の行使を想定した、自衛隊が米軍に直接加わる形での共同作戦がないのは当然で
 すが、米艦防護や物資補給等の後方支援などは実行可能です。もしそれをやらなければ、
 我が国に対する国際社会の評価は急落するにちがいありません。
・北朝鮮の主敵は確かにアメリカですが、あの国が核武装することは、人類社会全体に対
 する朝鮮だからです。もし国際社会が北朝鮮の核兵器保有を許してしまえば、核の拡散
 はそこでとどまりません。次はイラン、さらにサウジアラビアやエジプトなどの中東諸
 国が核武装に踏み出すでしょう。
・世界が制御不能な核兵器拡散の地獄を見る「負の連鎖」を早い段階で食い止めるのが、
 この戦争の最大の眼目です。言い換えれば、唯一、北朝鮮の悪だくみを食い止める意図
 と能力を有するアメリカが、人類社会の代表として行う作戦が、北朝鮮攻撃なのです。
・アメリカの戦いを日本が黙って座視していたのでは、国際社会の理解を得られません。
・北朝鮮が、アメリカとの戦争を優位に進めるために必要だと判断すれば、日本を攻撃す
 るかもしれません。しかし、その可能性は極めて低いと私は考えます。日本を核攻撃す
 れば、北朝鮮はアメリカからの反撃、それも核反撃のリスクを負うことになるからです。   
・たとえば東京や大阪のような大都市、あるいは全国各地の原子力発電所などのような戦
 略目標に、北朝鮮の核弾頭ミサイルが撃ち込まれれば、日本は大きな損害を受け、大混
 乱に陥ります。でも、それが北朝鮮に何のメリットをもたらすのか。それによって得ら
 れるのは、せいぜん精神的な爽快感のようなものに過ぎません。
・重要なのは、日本近海へのミサイル発射や、メディアを通じた威嚇は、北朝鮮の我が国
 に対する心理作戦であるということです。この心理作戦により、米軍への支援を躊躇す
 るムードが国内で高まり、最終的に日米同盟が弱体化すること、これこそが北朝鮮の狙
 いであることを、一時も忘れてはなりません。
・アメリカにとって在日米軍基地は、世界戦略上、グアムの何倍も重要な拠点です。そこ
 が北朝鮮の攻撃を受ければ、自国の本土を攻撃されたときと全く同じように反撃するで
 しょうし、その反撃が徹底したものになることも明白です。たとえば在日米軍基地が攻
 撃によって機能不全に陥ったとしても、アメリカは愛や本土からいくらでも北朝鮮に反
 撃できます。 
・北朝鮮の最終的な目的は、金正恩をトップとする国家体制存続の保障にあるからです。
 それにつながらない軍事作戦は、基本的にはありません。米軍の本気の反撃を受け入れ
 れば、国家体制どころか国家そのものが消え去ってしまうのです。
・軍事的な合理性のない作戦を実施する可能性はゼロではありません。それは、北朝鮮が
 全てを諦めて自暴自棄になったときです。
・北朝鮮が東京都ソウルに核攻撃を行なった場合、約210万人の死者が出るという推計
 をアメリカのウエブサイトの発表があります。しかしこの数字も、根拠となる条件を正
 確に理解しないと、現実を踏まえたものとは言えにくくなります。確かに、アメリカや
 日本が何も手を打たずに一方的に核攻撃を受ければ、多大な被害が生じるでしょう。し
 かしアメリカは、すでにTHAADミサイルを韓国に配備しました。日本も、イージス
 艦による弾道ミサイル防衛(BMD)と、地上配備型迎撃ミサイル・PAC3によるミ
 サイル防衛体制を整備しています。
・仮に北朝鮮が日本攻撃用の100発のノドンミサイルを用意していたとしても、それを
 一度にまとめて発射するのは不可能です。北朝鮮には、ノドンの発射基が10基しかあ
 りません。稼働率等を考慮すれば、一度に撃つことが可能なのはせいぜい8発までです。
 北朝鮮により先制攻撃の直後に、米軍が反撃して発射基を破壊すれば、弾薬庫に残って
 いる92発は、以後発射することができなくなります。
・米朝間の戦争が始まる前に、北朝鮮が日本を攻撃のターゲットにする可能性もないわけ
 ではありません。日本を攻撃しても北朝鮮にはメリットがないですが、一つだけ例外が
 あります。「日米同盟の分断」です。北朝鮮の主敵はアメリカであって日本ではありま
 せんが、日米安保条約で結びついている以上、北朝鮮にとっては日本は「アメリカの一
 部」です。その「一部」を攻撃することで、アメリカへの支援体制を崩壊させることが
 できれば、自分たちの戦いを有利に進めることができます。とはいえ下手に日本を攻撃
 して、自衛隊が個別的自衛権の発動としての防衛出動を行う事態になれば、当然、米軍
 も日米安保条約に基づき、北朝鮮への反撃を行います。
・たとえば北朝鮮から飛来したミサイルが一発、日本の都市に落ちても、これまでの政府
 解釈や国会での論議の内容を厳密に適用すると、それだけでは自衛隊の防衛出動を下命
 できない可能性があるのです。憲法九条を持つ日本は、自衛権の発動に対して厳しい制
 約を課しているからです。   
・しかし日本は、どんな攻撃に対しても自衛権を発動できるわけではありません。国連憲
 章51条の「武力攻撃」を、日本政府は「一国に対する組織的計画的な武力の行使」と
 解釈しています。つまり、受けた攻撃が「組織的」で「計画的」なものであることが明
 らかにならないかぎり、日本は個別的自衛権を行使できず、それが証明できない間は、
 自衛隊に防衛出動を命じることもできないのです。
・もし、相手国の政府による宣戦布告も事前通知もなしに、突如としてミサイル攻撃を受
 けた場合、ただちにそれが相手国による「組織的」かつ「計画的」ば武力攻撃と見なせ
 るでしょうか。常識的には誰もがそうだと思っても、厳密に考えれば、そして今までの
 国会論議の内容も加味すれば、それは不可能となります。明確な根拠なしに政府が「こ
 れは組織的計画的な攻撃だ」とみなして自衛権を行使すれば、国会で「従来の政府見解
 に違反している」と抗議されるかもしれません。
・現実に日本に向けてミサイルが発射されれば、自衛隊は持てるミサイル防衛システムを
 駆使してそれを撃ち落とすでしょう。しかし、それは自衛権の発動としての防衛出動で
 はありません。法的には、間近に迫った危機に対する「緊急避難」「正当防衛」として
 の破壊措置になります。  
・日米安保条約によって、米軍が出動するのは、常識的には日本が個別的自衛権を行使す
 るときだけでしょう。日本が緊急避難的に対応した場合、自衛権行使のために自衛隊さ
 え防衛出動はしていないのですから、米軍の出番はないと考えます。
・もし北朝鮮が日本の首都である東京にミサイルを撃ち込んだなら、どうなるか。当然、
 大変な被害を受けた国民は戦争の恐怖におののき、日本国内は大混乱に陥ります。北朝
 鮮の主敵が日本ではなくアメリカであることはわかっていますから、一部のマスコミや
 世論は、「アメリカの戦争に巻き込まれてひどい目に遭った」とアメリカを悪者にし、
 「そもそも日米同盟がいけない」と日米安保体制自体を否定するかもしれません。
・東京の中心部が攻撃されれば、首都官邸をはじめとする日本の政府そのものが、攻撃と
 その余波という戦争に直接巻き込まれる、あるいは至近距離にミサイルが着弾すれば、
 官邸機能も混乱は避けられません。一種のパニックに陥った政府が、混乱し、「アメリ
 カの戦争への巻き込まれ論」や「アメリカ悪者論」に押しまくられ、一時的にせよ米軍
 への支援などを中止する決定を下す可能性はゼロではありません。
・憲法九条を改めただけで自衛隊の「使い方」が変わるわけではありません。実際に自衛
 隊の行動を決めるのは、憲法の下に位置する自衛隊法をはじめとした法令です。改憲が
 なされたとしても、自衛権に関する政府解釈や自衛隊法が変わらない限り、防衛出動の
 条件も変わりません。 

核・ミサイル開発への執念
・北朝鮮は自国の存続のために、米本土に届く核ミサイルを開発することで、アメリカを
 交渉の場に引きずり出そうとした。アメリカは、多数の自国民が核ミサイルによって死
 ぬ事態だけは、絶対に避けなければならないと考えた。
・なぜ北朝鮮は、ここまでリスクを冒して、核ミサイル開発にこだわってきたのでしょう
 か。それは、北朝鮮の現在の国内体制を存続させることについて、アメリカの保障を取
 りつけるためです。今の北朝鮮の国家目標は、金正恩を中心とする国家体制の確立と維
 持です。どんなに自国民が窮乏しても、金正恩体制を守ることが第一の国家目標である
 ことは、明らかなことです。     
・北朝鮮は、朝鮮戦争で、緒戦での優勢の後、攻守ところを変えるきっかけとなった仁川
 上陸作戦以降、米軍により一度は敗北霧桐まで追い詰められました。当時の指揮者、金
 日成は、自分たちではなすすべもないまま、中国とソ連の参戦と支援によってかろうじ
 て戦勢を回復し、休戦に持ち込みました。それによって金体制は生き永らえることがで
 きました。  
・冷戦期に入り、米ソの核均衡時代になっても、北朝鮮は軍事的に存在を保障さらたとは
 言えませんでした。韓国に米軍が駐留したのに対し、ソ連も中国も北朝鮮に大規模な駐
 留軍を置くことがなかったからです。
・今日、北朝鮮は、各種の軍事装備を保有し、量的には世界有数の大規模な軍事力を有し
 ています。同時に、約25年にわたり核と弾道ミサイルに偏って国家資源を過重に投資
 し続けた結果、米艦合同軍に対して真に有効な通常戦力は、決して十分ではありません。
 38度線からさほど離れていないソウルを「火の海にすることができる」と豪語する長
 距離砲兵隊と、韓国軍や米軍でも完全な封殺が困難な、特殊部隊による奇襲やゲリラ戦
 及びサイバー戦の能力だけが北朝鮮の頼みとなる存在です。
・北朝鮮の総人口2千500万人に対して、正規軍は120万人、準軍隊は20万人です。
・アメリカから国家体制の存続について保障を取りつけるたけの唯一の手段が、核兵器と
 アメリカに直接到達するICBMなのです。もし核弾頭と米本土に届くICBMがあれ
 ば、たとえその数は少なくとも、北朝鮮は、アメリカの一般市民を大量に殺傷し得る能
 力を、アメリカに示すことができます。この能力は、アメリカに対する巨大な脅威にな
 るので、それを引き換えに、現在の金一族を中心とする超中央集権・独裁全体主義国家
 体制に対する保障を引き出せる。それが北朝鮮の論理なのです。
・北朝鮮は、朝鮮戦争の教訓から、初代指導者の金日成の時代に、核ミサイル開発を構想
 したと見られています。物的資源といい、核やロケット技術者などの人的資源といい、
 文字どおり「ゼロ」から出発した北朝鮮に核ミサイル開発の余裕はありません。特に、
 当時の北朝鮮の技術水準から考えて、弾道ミサイル・核兵器の両者とも、その実現はま
 ったくの夢物語でした。    
・1980年代末に、冷戦が終わったことで、図らずも事態が好転することとなりました。
 ソ連の崩壊によって、同国の核及びミサイル技術のノウハウと技術者が国外に流出を始
 めるという、いわゆる大量破壊兵器の拡散が始まったのです。これによって、それまで
 はとても核兵器など持てるはずもなかったパキスタンやイランと同様、北朝鮮も、これ
 らの技術者の助力を得て、核開発を本格的に行うことが可能になりました。
・北朝鮮の核問題が顕在化して以来24年間、クリントン、ブッシュ・ジュニア、オバマ
 の3人の歴代大統領は、北朝鮮に核を放棄させるための手段の一つである軍事力の使用
 をためらい、事実、使用しませんでした。そして軍事力行使とは逆に、国連による経済
 制裁と六カ国協議における対話による核放棄を期待してきたのです。  
・一時的な開発停止でいったん合意して制裁解除と各種援助再開という利益をとると、約
 束を実質的に反故にしてきたことは周知の事実です。これは、よく言われる北朝鮮の
 「瀬戸際外交」ならぬ「食い逃げ外交」であり、関係国は繰り返し、その術中にはまっ
 たのです。 
・クリントン大統領は、いったんは北朝鮮の爆撃と地上軍による攻撃も計画しながら、北
 朝鮮の反撃による大被害を極度に恐れた韓国の強い反対もあり、結局は実行に至りませ
 んでした。
・通常戦力はもとより、アメリカの核戦力は圧倒的です。北朝鮮が日本・韓国という同盟
 国、あるいはアメリカそのものに対して一度でも核を使えば、その結果、アメリカによ
 り激しく報復されることは明白です。そうなれば、北朝鮮は国家ごと蒸発してしまいま
 す。それでは、北朝鮮の国家目標である現体制の保障そのものが吹っ飛んでしまうこと
 は、北朝鮮の指導者も明確に認識しているものと考えられます。
・北朝鮮にとって重要なのは、あくまでも、米本土を攻撃し、アメリカ国民を大量に殺す
 「能力を持つ」ということです。これがアメリカに対する抑止力と脅威になり、アメリ
 カのよる体制存続の保障を引き出す手段になると、彼らは考えているのです。
・アメリカは、イラクやリビアのような「ならず者国家」よりもはるかにひどい超中央集
 権・独裁全体主義国家である北朝鮮に体制保障を与える交渉など、決してしたくありま
 せん。実際、トランプ大統領政権は、北朝鮮との交渉を拒否する姿勢を示し、強硬姿勢
 を取り続けています。
・アメリカが、金日成、金正日、金正恩という独裁者が支配するうえ、政策遂行の際に、
 国際規範を完全に無視して強圧的かつ独善的に振る舞い、自国の言い分を国際社会に押
 し付ける北朝鮮を、まともな国家として認められないのは当然のことです。
・アメリカからすれば、北朝鮮は、人類史上例を見ない危険国家であり、自国の言い分を
 一方的に国際社会に押し付ける手段である核ミサイル開発は人類への挑戦でもあるので
 す。    
・まずアメリカが最優先に攻撃対象として考えるのは、韓国・ソウルを火の海にしようと
 する北朝鮮の長距離砲兵隊であるはずです。長距離砲兵隊を攻撃すれば、当然、北から
 反撃を受け、韓国内を中心に被害が出るでしょう。その被害が許容できる範囲内で、砲
 兵隊の攻撃力を減殺できることが可能であると見積もれば、アメリカは躊躇なく攻撃す
 るでしょう。それが戦争というものです。
・北朝鮮の保有戦力は、戦車3500両、火砲は8500門に上ります。韓国、在韓米軍
 とりわけソウルにとって、長距離砲兵隊の脅威は決して小さくないことは、指摘してお
 く必要があるでしょう。   
・次に考えられる攻撃対象は、やはり同盟国日本と韓国を直接攻撃できる、北朝鮮の核兵
 器とミサイル部隊でしょう。核とミサイルの開発施設は直接の軍事的脅威ではないため、
 その後の作戦として攻撃が実施される公算が大です。攻撃決断に際しての最大の問題は、
 こうした部隊などの所在場所について、諜報などでどれだけ情報が集められているかで
 す。これが作戦成功の鍵を握ります。
・さらには、米軍が得意とする航空作戦の安全性を確保するため、北朝鮮の防空能力を無
 力化するための攻撃が行われることも明白です。すべての条件が満たされ攻撃を実施す
 る場合、第一次攻撃は、最初の5〜6時間で、北朝鮮東西両岸に配備した艦艇・潜水艦
 からの巡航ミサイル・トマホークと、グアムから出撃するB1やB52爆撃機の発射す
 る航空機発射型の巡航ミサイルなどを使って行われると見られます。
・今日までアメリカは、同盟国日本の協力はもとより、中国・ロシアの理解も得ようとし
 て、盛んに外交努力を行ってきました。しかし、ことここに至っては、軍事行動の開始
 に際し、国連決議や中国の同意が必要だとは、本質的に考えないはずです。アメリカに
 とっては、北朝鮮の核とミサイル開発の進捗により、2017年10月時点で、自国の
 領土と多数の自国民が脅かされていることは明白です。それ自体が自国への直接的な脅
 威であり、国益を防護する個別的自衛権の発動の対象であるからです。
・アメリカの一方的な攻撃で終わることはありません。当然、北朝鮮からの反撃は受けま
 す。だからといって、アメリカは必要であると判断すれば、北朝鮮への攻撃を決して厭
 わないでしょう。なぜならば、今北朝鮮の核ミサイルを容認してしまえば、アメリカは
 子孫の時代までも、北朝鮮から脅迫され続けると認識しているからです。
・北朝鮮の朝鮮人民軍は38度線へと押し寄せますが、これを押しとどめるのは、第一義
 的には韓国軍の任務でしょう。もちろんここでは、北朝鮮が激しく非難してきた米韓合
 演習を通じて、日頃から訓練してきた韓国防衛作戦が発動されます。艦艇の数や作戦機
 の数を見ても、北朝鮮の軍事力はかなり大きいですが、その装備はほとんどが旧式です。
 旧式というより超旧式と言ったほうがいいかもしれません。
・ただ、特殊部隊による奇襲・ゲリラ攻撃を全て防ぐことはできませんし、韓国側にもか
 なりの被害が出ることは否定できないでしょう。当然、化学兵器、生物兵器が使用され
 ることも考えておくべきです。38度線で米韓連合軍と戦わなければならない北朝鮮と
 しては、我が国への攻撃は実施するものの、それに割り当て得る兵力には限界がありま
 す。しかし、日本に対して一定規模のミサイルやゲリラ攻撃が行われることもまた確実
 で、これに対して備える必要があります。
・一部で、アメリカが金正恩や北朝鮮指導部をピンポイントで攻撃し、現体制を排除する
 「斬首作戦」が報じられています。これはオプションの一つではありますが、実行は難
 しく、優先度は低いと私は見ています。対立しているとはいえ、独立した主権国家であ
 る北朝鮮の政治体制を軍事力により一方的に転覆することは、仮に主目的が核とミサイ
 ル排除だったとしても、国際社会において許されるものではありません。同時に、これ
 が、中国に北朝鮮へ介入する絶好の口実と機会を与えることになることも、アメリカは
 確実に考慮に入れているでしょう。特に中国としては、アメリカ主導の民主主義国家が
 朝鮮半島北部に出現することは、国益上受容できないことです。したがって、それにつ
 ながる体制変換を伴う「斬首作戦」は絶対に認められないということは、考慮に入れる
 必要があります。
・逆に金正恩を殺害することによって、北朝鮮国内が大混乱に陥り、生き残った北朝鮮の
 指導者層が自暴自棄になる状況こそ、アメリカにとって最悪のシナリオだと言えます。
・北朝鮮が日本を核攻撃する可能性は低いですが、北朝鮮が何らかの形で日本を攻撃する
 可能性は、もちろんあります。北朝鮮は、自らのミサイルが日本を射程に収めているの
 は在日米軍を標的としているからだと述べていますが、同時にそれが、日本への脅しに
 なっていることも、また事実です。
・今後の推移として、次に打つ手の手詰まり感から、アメリカ・北朝鮮両国が、強硬な挑
 発を控える結果、米軍の攻撃が行われない公算もあります。この事態は、戦争を望まな
 い各国や各種勢力にとって、短期的には最良の結果と映るでしょう。しかし、これは過
 去24年間と同じく、北朝鮮の核ミサイル開発が一時的に中断そたということしか意味
 しません。米朝の直接戦闘回避という見かけ上の最良の結果が、皮肉にも最悪の結果、
 すなわち制御不能の超中央集権・独裁全体主義国家である北朝鮮が、核兵器と世界のど
 の地点も攻撃可能なICBMを保有するという事態を招くことを、我々は忘れてはなり
 ません。   
・北朝鮮にそのことが許されるとすれば、中東や南米の、核・ミサイル保有候補国も、堰
 を切ったようにその道を驀進することとなるでしょう。そうなったら、もはや誰の手で
 も止められません。
 
北朝鮮VSアメリカ70年
・朝鮮戦争は現在も休戦状態が続いています。これについては、アメリカが動かないこと
 には進みません。最終的に戦争を終結させて北朝鮮の現体制を「保障」できるのは、中
 国でも当時のソ連、現在のロシアでもなく、ましてや韓国や日本でもありません。それ
 ができるのはアメリカだけです。したがって北朝鮮は、平和条約の締結を求めて、アメ
 リカに無視されず、同時に本気に怒らせない程度に、韓国相手に散発的な挑発を繰り返
 してきたわけです。
・クリントン大統領の、必ず北朝鮮の核開発を停止させるという決意の薄弱さ、金日成主
 席の老獪な外交戦術を読み来ることのできなかった未熟さ、双方の産物としての根拠な
 き安易な妥協であり、失策であったと言えます。
・2003年から、アメリカ・韓国・北朝鮮・中国・ロシア・日本による六カ国協議での
 「対話」が続きました。しかし戦略的に見れば、残念ながら、北朝鮮核・ミサイル開発
 の「時間稼ぎ」に利用されたというのが私の評価です。
・六カ国協議の当初は、議長国であり、北朝鮮に影響力を持つ中国に対して、高い期待が
 寄せられました。しかし、中国としては、自国が関与することなく米朝だけで議論が進
 むことに大きな不安と不満があり、何とか自国を北朝鮮との対話構造に組み込ませて発
 言権と影響力を確保したかったのです。それが、中国にとっての六カ国協議の意義でし
 た。    
・他方、韓国は北朝鮮に対して特別な心情を持ち、同法もいます。日本は核・ミサイル以
 外に拉致問題を重視しています。ロシアはアメリカ主導の動きはことごとく反対です。
 このように、各国がそれぞれの国益と事情を抱えた六カ国協議だったのです。
・米朝二国間でさえ難しい交渉を、それぞれ国益が異なる六カ国が参加する枠組みにまで
 広げても、うまくいくはずがないことは明らかです。
 危機を誘発することによりアメリカなどのメンバー国を対話に引きずり出し、合意の結
 果として何らかの見返りを得た途端、次のステップとしてその合意を無視して新たな危
 機をつくり出すという、北朝鮮の手法がまかり通ったのです。このような外交を「瀬戸
 際外交」と言う人がいますが、私は「食い逃げ外交」だと思います。それが四半世紀続
 いてきたのです。
・北朝鮮にとっては、アメリカのような誤差約80メートルの精度は必要ない、というこ
 とです。米ロのICBMは、お互いのサイロ(ICBM格納庫兼発射筒)をピンポイン
 トで破壊するために、命中精度の高さが求められます。しかし北朝鮮が狙うのはサイロ
 ではなく、アメリカの都市そのものです。半径10キロメートル程度の誤差で、ロサン
 ゼルス市民が大被害を受ける状況をつくれれば、それでよいのです。
・もし、北朝鮮の核兵器開発あるいは核弾頭を搭載できる弾道ミサイルを、結果的に追認
 することになれば、それを前例として、核兵器の拡散が世界的に起こるということなの
 です。アジア、中東、南米、アフリカ大陸には、核兵器を開発する能力のある、あるい
 は核兵器をすでに保有していると言われている国家が複数あります。ある一定の地域内
 で大きな影響力を持ち、地域大国と呼ばれるような国の多くは、その力を持っています。
 国際社会が、「制御できない核拡散の連鎖」と、それに伴う「核戦争という地獄」を見
 ることになりかねない恐れは極めて大きいのです。
・現在のところグアム方向への発射はありません。代わりに日本の襟裳岬沖に撃っている
 わけですが、もし実際に北朝鮮がグアム付近に火星12型を4発撃ったらアメリカはど
 うするか。第一に、アメリカは弾着地点にかかわらずミサイル4発を迎撃、撃墜するで
 しょう。着弾位置が領海内であるか領海外であるかに関係なく、アメリカ自身が脅威を
 感じるという理由で撃墜するものと思われます。まず、これによって北朝鮮のメンツを
 潰そうとするのです。
・次に何をするか。北朝鮮がしたことへの「お返し」として、危険海域を事前告知した上
 で、ICBM4発を北朝鮮の東西両岸沖40キロメートル程度の公海に撃ち込むでしょ
 う。公海に着弾するのであれば、少なくとも北朝鮮と同じことをやり返しただけで、国
 際法上も問題ありません。これによってアメリカの意思が鮮明に世界に知らしめられま
 す。また、アメリカにより逆包囲攻撃をされた金正恩政権の権威は、一気に失墜するで
 しょう。   
・北朝鮮は、アメリカの先制攻撃により、自国が地上に配備した核弾頭ミサイルの攻撃能
 力が無力化されてしまう場合に備え、生存性の高い潜水艦に搭載するSLBMによる、
 日韓両国に対する二次攻撃能力の確保を企画しています。この目的を具現するのが、す
 でに配備されている北極星1型であり、試験発射が近いとされる北極星3型なのです。
 この北朝鮮潜水艦を公海上で正確に追尾し、もし日本に対してSLBMが発射された場
 合には直ちに迎撃し、発射潜水艦に反撃できる態勢を整える必要があります。
・米韓同盟は北朝鮮のみが対象で、米軍の朝鮮半島以外への展開は不可能であることから、
 これまたアメリカの世界戦略にとって付加価値はありません。その点、わが国は防衛任
 務を専ら自衛隊が担います。その任務から解放された在日米軍は、同盟により全世界に
 展開する米軍の中で、アメリカの世界戦略を唯一直接支える重要なツールとなっていま
 す。このことから、日米同盟に基づく在日米軍は、日本海から中東まで世界のホットス
 ポットに米軍を展開させる際に不可欠な、重要拠点となっているのです。
・日本を無視して、核が維持させる形でアメリカが北朝鮮と手を結ぶことは、核問題だけ
 に焦点を絞った解決策としては理論上あり得ます。しかし、実際にそうなれば、日本の
 安全保障環境が一気に悪化することは明白です。
・北朝鮮の核を認める結果として、日本を失うことに起因するアメリカの国益上の損失が、
 北朝鮮と手を握ることによる局部的かつ短期的な利益よりもはるかに大きいことは自明
 の理です。日米安保は言うに及ばず、我が国そのものが、アメリカの生存と世界戦略に
 とって最大の国益と言えるのです。このことが、今回の危機に際し、アメリカは北朝鮮
 への軍事力行使という最終決断を先延ばししないだろうと私が想定する、根拠の一つに
 もなっています。  
・軍事オプションの発動は、時限爆弾にたとえられることがあります。その意味で言えば、
 アメリカは対話を無期限に続ける気はなく、時限爆弾のタイマーはすでにスイッチが押
 されているのです。今回の問題の特徴は、時間が経過すればするほど、北朝鮮の核・ミ
 サイル開発が進み、実用化に近づくということです。北朝鮮の目標達成を許さないとす
 るなら、アメリカは、どこかでストップをかけねばなりません。私はそのリミットは、
 今から最大で約1年と見ています。
・この一年で北朝鮮の核弾頭とミサイルの開発スピードが急激に上がった結果、脅威は加
 速度的に強まりました。私も含め、世界中の専門家がこの点は見誤っていたと言えます。
・アフガニスタンやイラクの教訓として、地上軍の派遣は避けるオプションを選ぶでしょ
 う。そして、空爆と巡航ミサイルに集中した、核・ミサイル部隊及び施設などへの攻撃
 が主体となるでしょう。目的は、核とミサイル戦力の無力化と、ソウル砲撃も含めた南
 進能力の除去に限定し、米軍あるいは米韓合同軍が38度線を越えるような行動、すな
 わち北朝鮮の体制崩壊は目指しません。ここは中国への配慮でもあります。
・巡航ミサイルを大量搭載した潜水艦の投入。最初の攻撃の柱となる巡航ミサイル・トマ
 ホークの所要数は、最低でも1500発程度と見積もられます。   
・在韓アメリカ人退避を行わないケースもあります。1990年のクウェートでも、
 2003年のイラクでも、アメリカ人退避は行なっていません。
・米軍の戦い方である「衝撃と畏怖」の特徴は、完全な奇襲と、相手に反撃する暇を与え
 ない徹底した連続集中攻撃にあります。
・米軍が先制攻撃で撃ち漏らした北朝鮮部隊の第二撃により、韓国や我が国にも被害が出
 るかもしれません。
 
アメリカによる北朝鮮攻撃はこう行われる
・アメリカは、自国の安全が直接脅かされても敵地攻撃すらできない日本とは違います。
 北朝鮮が核ミサイルを保有するのであれば、時機が来れば、何の前触れもなく、静かに、
 しかし電撃的に北朝鮮に対する攻撃を始める。アメリカは、ただ、その時機を待ってい
 るだけなのである。
・米軍は、アメリカ本土から北朝鮮を射程に収めるICBMミニットマンVの発射実験を、
 2016年から17年にかけて、5回以上実施しています。ミニットマンVは、射程1
 万キロメートルの弾着制度が約80メートルと言われています。必要な場合は、北朝鮮
 が誇る地下基地も、ピンポイント核攻撃により容易に破壊することができます。その威
 力は、通常の、地中貫通型爆弾であるバンカーバスターをはるかに上回ることは当然で
 す。通常、ミニットマンの発射実験は、性能や動作確認及び練度の維持のため、年に1
 〜2回程度しか実験しません。この時期の連続発射は、北朝鮮のミサイル発射阻止のた
 めには核の使用も辞さないという、アメリカの毅然とした意非表示であることは明白で
 す。   
・北朝鮮に核ミサイル開発をやめさせる最終手段がアメリカの北朝鮮攻撃であることは、
 アメリカ国民が最もよくわかっています。
・最終決断するのは、福大統領以下の閣僚や上級スタッフの補佐を得たトランプ大統領で
 す。もちろん彼らの目的は戦争ではありません。目的は北朝鮮の非核化です。彼らは、
 北朝鮮という国家を、中国やロシアとは質の違う、理屈や国際慣行の通じない国家と見
 なしています。それは、条約や外交交渉で制御できない異質な国家と見ているというこ
 とです。このような国家を、いったん核保有国として認めてしまえば、今後長期間にわ
 たり、人類の敵かつ国際社会の害毒になることは確実です。それゆえに、北朝鮮が核と
 ミサイルの廃棄を応じないならば、武力でこれを放棄させるしかない、というのが武力
 行使についてのアメリカの考え方です。
・また、アメリカは、北朝鮮に核武装を認めれば、それが悪しき先例となり、他国も核ミ
 サイル開発の流れが広がることも懸念しています。核不拡散の立場からも、北朝鮮の核
 武装は、決して認めることはできないのです。
・現在、韓国には、20万人強のアメリカ民間人や在韓米軍人の家族が滞在しています。
 そのことを理由に、米軍の攻撃開始はないという見方をする向きも少なくありません。
 私は、彼らの退避はなくとも、攻撃は始まり得ると考えています。退避させなくても、
 人的被害を最小限に抑えるための手段があるからです。簡単に言えば、それは奇襲攻撃
 です。前触れもなく、突然始める可能性も十分にあり得るのです。具体的には、北朝鮮
 近くに展開した艦艇・潜水艦からのトマホークと、グアムから出撃するB1やB52爆
 撃機などが発射する、圧倒的多数の巡航ミサイルの集中攻撃です。まずこれで、ソウル
 狙う北朝鮮の長距離砲兵隊や、日韓を攻撃する弾道ミサイルの発射基地、レーダーや対
 空ミサイル基地、飛行場などの防空拠点を攻撃・殲滅します。次の段階は、核兵器、ミ
 サイル関連施設の無力化です。
・米軍は直近3回の戦争で、最初の同様の奇襲作戦をとり、航空戦力のみで相手の戦闘能
 力をほぼ無力化しているからです。1990年の湾岸戦争、2001年のアフガニスタ
 ン紛争、2003年のイラク戦争です。韓国との境界線である38度線には、北朝鮮の
 朝鮮人民軍の戦車・砲兵や歩兵が押し寄せるでしょう。これを持ちこたえるのは米韓合
 同軍の任務です。
・朝鮮人民軍の装備は多くは旧式です。先制攻撃によるミサイルと長距離砲兵隊撃滅の効
 果もあり、米韓合同軍が38度線を持ちこたえる結果、韓国全土が泥沼の戦場になる公
 算は少ないと考えられます。     
・こうした米軍の奇襲能力が十分に発揮されるならば、民間人の事前退避を必要としない
 作戦も成り立ちます。逆に言えば、アメリカはこの条件が整うまで、攻撃は行なわず何
 事もなかったように振る舞いつつ、退避不要な作戦の準備を着実に進めるわけです。
・民間人退避は極秘に進めるわけにはいきません。攻撃前に必ず北朝鮮に気づかれること
 から、逆に北朝鮮の先制攻撃を招く、あるいは米軍の攻撃が犠牲を大きい強襲攻撃とな
 るリスクが極めて大きいです。それを考えると、奇襲攻撃案が採用される可能性が最も
 高いと言えます。
・北朝鮮の核ミサイルの格納基地は、硬い岩盤の地中に設置されています。これは、
 ICBM ミニットマンVに核弾頭を装着して核地中攻撃を行わない限り、通常兵器で
 一気に無力化するのは難しいでしょう。
・地下トンネル基地には、人や物の出入り口、空気や電気や水を外部から取入れる露出開
 口部が必ずあります。それらを徹底的に破壊すれば、当分の間、使用が不可能になりま
 す。そのような攻撃であれば、通常弾頭のレーザー誘導の精密爆弾や巡航ミサイルで十
 分可能です。 
・確かに、アメリカの北朝鮮に対する軍事行動は、中国やロシアの反発を招きます。特に
 中国は、北朝鮮を、台湾やチベットと同様に「核心的利益」ととらえています。したが
 って、アメリカが金正恩による全体主義的な支配体制を崩壊させることを望んでいませ
 ん。自国と国境を接する朝鮮半島北部に、自由主義、民主主義国家が誕生することを、
 中国は本質的かつ極端に嫌がっています。
・しかし、注意すべきは、アメリカの目的はあくまで北朝鮮の核ミサイルの排除だという
 点です。北朝鮮が核兵器と弾道ミサイルを保有することは、中国もまた望んでいません。
 アメリカが攻撃目的を、核と弾道ミサイル能力の破棄ならびに、ソウルを火の海にする
 長距離砲兵隊能力の無力化に限定し、金体制の崩壊まで踏み込まないとすれば、それを
 中国にとってもギリギリ許容範囲内でしょう。
・ロシアもアメリカの軍事行動は嫌がるでしょうが、現在の金体制を存続させる限り、ア
 メリカの攻撃を黙認する公算が大きいと思われます。
・日本人が認識すべき重要なことは、アメリカの究極的な目的は戦争を回避することでは
 なく、国際ルールを無視して傍若無人に振る舞う北朝鮮から、核兵器と弾道ミサイル、
 そしてその開発・生産能力を奪うことにある、ということ。そして、それによって、大
 量破壊兵器の国際的拡散に歯止めをかけなければならない、ということです。
・一部の日本人が、本質的な視点を欠き冷静は判断を避けた感情論をよりどころとして、
 いかに表面的かつ近視眼的に平和的解決を主張しようとも、アメリカは、自らの国益と
 価値観に基づき行動します。
・アメリカは、同盟国としての日本に最大の配慮をするでしょう。しかし、我が国に対す
 る核ミサイル脅威の排除こそが、最大の配慮なのです。その観点からも、最後の手段と
 しての武力攻撃の実施を躊躇しないことは当然と言えます。
・核武装した北朝鮮が我が国のすぐ近くに存在し、我が国をすでに中距離弾道ミサイルの
 射程内に収めているという現実。そして最近のICBMの開発の進捗により、核ミサイ
 ルがアメリカ本土を射程に収めようとしている新たな現実をどのようにとらえるのか。
 「戦争を避けたい」と唱える者は、この現実に対する具体的な解決策を示さなければ、
 無責任です。仮に、外交交渉などの非軍事的手段により、北朝鮮が核ミサイル開発と使
 用を一時的に中止することに合意したとします。その場合、続く核ミサイル放棄交渉に
 おいて、北朝鮮が全面放棄に同意すれば、本件は一件落着で、まさに万人の望む結果と
 なります。        
・しかし、問題は、核ミサイル廃棄に北朝鮮が同意しない場合です。交渉にはこぎつけた
 ものの、核ミサイル廃棄交渉が決裂した場合、あるいは、現在の状況である、北朝鮮と
 の対立が続き、問題解決の糸口が見つからない場合はどうでしょうか。この両ケースに
 おいて、アメリカをはじめとする国際社会が何もしない場合には、「ズルズル」と北朝
 鮮の核ミサイル開発と実戦化を黙認してしまうこととなります。その結果、現在の我々
 の世代だけでなく、孫子の代まで、国際社会を混乱させ恐怖に陥れる核ミサイル保有国
 としての北朝鮮が、我が国の隣国として存在するのです。
・目前の一時的平和を追い求めて、未来に目を閉ざすとき、その先に待つのは、より大き
 な戦争の悲劇か、あるいは永遠の恐怖です。
  
中国の脅威・ロシアの思惑
・中国共産党は、過去に中国大陸を支配してきた数々の「王朝」の一つと見なすことがで
 きます。そして、あえて極端な言い方をすれば、少なくとも周辺諸国との接し方に関し
 ては、冊封体制の宗主国として多くの朝貢国に接した歴代王国と変わらない性質を備え
 ています。 
・1840年に始まったアヘン戦争で清国がイギリスに敗北し、それ以降、列強の侵入を
 許すまでは、中国は長きにわたって、アジアにおける圧倒的ない覇権国でした。自分た
 ちのルールに、周辺国を一方的にしたがわせることができる立場だったと言えるでしょ
 う。
・中国の政治指導者が、「我々は国際ルールに基づいて行動する」などと発言すれば、
 「中国は自分たちと同じルールを受け入れている」と受け止める人が多いかもしれませ
 ん。しかし彼らの言う「国際ルール」とは、基本的に自分たちのつくるルールのことで
 す。
・2016年7月に、南シナ海問題に関する国際仲介裁判所の裁定を完全に否定したこと
 が示すように、都合が悪くなれば、国際ルールを平気で無視するのが中国なのです。
・中国の人民解放軍は230万人もの人員を抱えており、そのうちおよそ160万人は陸
 軍です。しかし、ちょっと考えてみてください。今の中国に、そんな規模の陸軍が必要
 でしょうか。では何のために大きな陸軍が存在するのかといえば、主目的は外国と戦う
 ことではなく、13億人の人民を抑えつけることにほかなりません。「人民解放軍」と
 いう名称とは反対の役目を担っているわけです。
・ところが中国には、数字は公表されていないものの、陸軍とは別に150万人もの治安
 警察が存在すると言われています。人民の反乱や暴動などを抑えるのは、それだけで十
 分でしょう。160万人もの陸軍の存在は、極めて非効率です。
・習近平首席は、米軍と比べて人民解放軍がはるかに遅れていることを、深刻かつ敏感に
 察知しています。本心では、急速な近代化を強く願い、その足かせとなっている非効率
 な陸軍と空軍を大幅に削減し、質を向上させたいはずです。無駄飯を食っている兵隊を
 どんなにたくさん雇っていても、最後に米軍と戦う際の戦力にはなりません。
・習近平首席は、人民解放軍をアメリカとまともに戦える軍隊にするために、今後もさら
 に人員削減を進めようとするでしょう。今、習近平首席が軍関係者などの汚職追放を積
 極的に行なっているのは、そのための布石でもあるのです。
・中国は、海を介して外に出ることが簡単にはできません。これは中国が世界戦略を構築
 する上で、大変な重荷になっています。逆に言えば、日本やアメリカが中国を封じ込め
 ておくには、この「天然の防波堤」をしっかり防御することが重要になります。日米が、
 台湾、フィイリピン、インドネシア、マレーシア、ベトナムなどと連携して「蓋」をし
 ておけば、中国海軍が空母を多数建造しても、大きな脅威にはなりません。
・中国は資源をアメリカ、オーストラリア、南米などに依存していますが、いざ有事にな
 れば敵対国に周辺海域を完全にふさがれて、それらの海上輸送もできなくなるでしょう。
・陸上交通は、海上輸送と比べると極めて非効率です。海上と違って、陸路はISのよう
 なテロリストにトンネルや橋を破壊されればすぐに機能不全に陥ります。そもそも古代
 のシルクロードが廃れたのも、インド航路の発見と利用拡大によります。
・「一帯一路」のプロジェクトの一環として、中国はインドを包囲するためにスリランカ
 やモルジブに投資して港湾などをつくっています。しかし、どんなに良い港をつくった
 ところで、スリランカやモリジブの市場規模を考えれば、そこに立ち寄る商船はそれほ
 どないでしょう。日本の横浜港だけでも、購買力はその何十倍にもなると思われます。
 中国はそれも承知の上で、インド洋各国の港湾や空港建設に投資しているわけですが、
 その結果各国に残るのは、ほとんど使用されない施設と、償還の見込みのない膨大な対
 中負債です。いずれにしろ、中国の一帯一路プロジェクトは、いささかピントがずれて
 いると言わざるを得ません。
・再びロシアと戦争をして勝たない限り、北方領土が返還されることはないと思います。
 というのも、北方領土の領有は、ロシア人のメンタリティからすると、論争の余地のな
 い「正義」だからです。
・1945年8月9日のソ連の対日戦争は、日本からすれば、これは日ソ中立条約を一方
 的に破棄して始められた国際法違反の戦争にほかなりません。しかし、ロシア人の理屈
 では、軍国主義の日本こそが国際秩序を破壊しようとした悪しきチャレンジャーです。
 その日本を成敗するのに、条約も何も関係ありません。世界の正義のために戦ったのだ
 から、その勝利で手にした領土を日本に返す必要がなぜあるのか、という話になるわけ
 です。
・大戦争に送り込まれた自国の若者が血を流して奪い取った土地を、戦争もせずに元の持
 ち主に返した例は、人類史上、硫黄島や沖縄しか例がないでしょう。
・軍事的にも、北方領土はロシアにとって極めて重要です。
・ロシアに対する経済援助などをどんなに行なっても、それによって北方領土返還交渉が
 日本に有利になることはないと覚悟すべきです。領土返還を主目的として経済援助をす
 るなら、それは無駄遣いにしかならないでしょう。経済援助を検討するなら、領土問題
 とは切り離しして、それによる経済的になメリット(国益)があるかどうかだけをクー
 ルに計算しなければ、意味がないと思います。
・中国は、国連の経済制裁によって北朝鮮からの繊維製品や海産物の輸入が止まることで、
 それを食べている多くの中国人が失業することを恐れています。北朝鮮から買えなくな
 った繊維製品や海産物をアメリカが代わりに輸出して、彼らの生業を支えてくれるわけ
 ではないのです。したがって、たとえ北朝鮮問題に介入するとしても、アメリカが大き
 く得をするようなことを中国がやるとは思えません。
・長期的な視野では、アメリカが疲弊してくれることが中国の国益になりますから、米軍
 が北朝鮮に軍事力を行使することに文句は言わないでしょう。自分たちでやるつもりは
 ないので、中国が許容できる条件を満たす範囲内でアメリカが汚れ役を引き受けてくれ
 るなら、「どうそおやりください」という話です。北朝鮮が核保有国として存続するの
 は、中国にとっても歓迎できません。
・ロシアも、北朝鮮に対する国連制裁には同意したものの、それ以上の役割を引き受ける
 つもりはないでしょう。我々がそれを期待するのも無理です。むしろロシアは、アメリ
 カや日本の足を引っ張る「負」の要因になり得る存在と考えておくべきです。
    
米艦防護と日本の国益
・肝心なのは、自衛隊の一番大切な任務は、日本の国益を守ることであって、日米安保を
 守ることではない。日米安保を堅持、強化するのは、国益に資すると判断した上での手
 段であって、目的ではありません。
・日米軍事同盟を置き換えられない価値として大切に思っているのは、日本よりアメリカ
 です。残念なことに、これは公言されず、アメリカが「密かに」思っている内容ですが。
 日米安保の維持がアメリカの国益であり、世界戦略上、不可欠だからです。
・大多数の国民は、日米安保でアメリカは日本を守ってくれると思っていますが、守ると
 いう意味が直截的な防衛作戦ということであれば、これは違います。日本を守るのは自
 衛隊です。米軍の守り方は、日本への侵略を抑止する、戦争が起きたら侵略国を攻撃し
 て早期に終結させる、日本の被害を最小限にするために相手国を攻撃する、というもの
 です。物理的に日本を守ることではありません。例えば尖閣諸島程度の小島を米軍が守
 るはずがないわけです。    
・なぜアメリカは自国の若者の血を流してまで、日米安保を維持して日本を守り、相手国
 を攻めるのか。それは、日米安保と日本の存在自体が、アメリカの国益そのものだから
 です。 沖縄より西に本格的な米軍基地はありません。太平洋から中東までのアメリカ
 の軍事プレゼンスを維持するために、日本の総合力に支えられた在日米軍はアメリカの
 世界戦略にとって死活関わるほど重要なのです。