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「貯蓄から投資へ」とか「資産を運用しないリスク」とかという言葉に踊らされて、なんだか
「資産運用しないヤツはバカ」みたいな風潮がある。しかし、私も個人的に少し投資信託運用
を試したりしているが、その結果は、まったくもって悲惨とも言える状況である。
よく「あまり高望みしないで年率で3パーセント程度リターンを確保できるように運用すれば」
というような言葉を目にするが、実際に投資信託で運用してみると、この3パーセント運用と
いうのは、とても難しい。だいたいにおいて、投資信託会社に手数料や信託報酬で3パーセン
ト程度取られてしまうから、3パーセントの運用利益を得るには6パーセント以上のリターン
を得ないと実現できない。高度成長時代ならいざ知らず、この景気低迷の時代に6パーセント
以上のリターンを得るなんて、とてもむずかしい。
この本で述べられているように、投資信託会社の手数料や信託報酬が高すぎるのである。
これではまるで、投資信託会社のために自分の金でリスクを犯しながら資産運用をしているよ
うなものである。
しかしながら、日本の財政悪化は深刻だ。国の借金は1000兆円を超えようとしている。こ
んな悪財政の国は、世界を見渡しても日本だけのようである。いつ日本でデフォルトが起きて
もおかしくない状況である。そうなると、預金資産価値も激減する。
今、「金」の価格が高騰している。世界的な経済不安のなかで、資産の安全を求めて、世界の
資産が「金」に向かっているのだろう。
これから世界経済は、どんな状況になっていくのだろうか。そして日本経済は、どうなるのだ
ろうか。ギリシャ、スペイン、そしてイギリス、そういう国々に明日の日本の姿を見てしまう。

はじめに
・2011年3月11日に発生した東日本大地震は私たちの価値観を根こそぎ変えてしまうこと
 になるかもしれない。数年後には、「戦前、戦後」という表現と同様、「震災前、震災後」と
 いう形であらゆる事象が語られるようになるのではないか。
・私は今、すべてをリセットせざるを得ないこの時期に、生きるための原資とも言うべきお金に
 ついても、過去の価値観も常識も捨てて、セロから考え直すべきではないかと考えている。
・こんなときにも目先の金、金で、経済活動に何ら寄与しない単なるマネーゲームにうつつを抜
 かしている輩が多数いるとは!
・なぜ、このようなことが繰り返されているのかというと、実は日本が金融不況という病にさい
 なまれているからである。証券会社や銀行が本来の使命を忘れて手数料稼ぎに夢中になるのも、
 詐欺まがいの投資手法が流行るのも、金融不況ゆえなのだ。

第1章 あなたの資産が狙われる
・FXというのは、基本的にOTCといって、相対取引が中心なのである。つまり、投資家が出
 した通貨の売買注文というのは、外国為替市場という、それこそ1日あたりの売買高が何兆円
 にも達する巨大なマーケットに出されているのではなく、その投資家が口座を開き、売買注文
 を出しているFX会社との間で売買されているに過ぎないのだ。
・そもそも、システム運用というのは、裁量トレード(自分の判断で売買を行うこと)に比べて
 売買の頻度が高くなる傾向がある。頻繁に出した売買注文がきちっと約定されていくためには、
 相応の流動性を持ったマーケットでなければならない。
・いくら優れた運用システムでも、取引する先のFX会社が一定規模以上の流動性を確保できな
 ければ、シミュレーションどおりのパフォーマンスを再現するのは困難になってしまうのであ
 る。
・いかにFXでお金を殖やしたとしても、それは経済効果的にはほとんど何もないのと同じであ
 る。
 ・今まで多くのネットトレーダーを見てきたが、彼らのなかで、一時的に相場を当てて手持ち
 資金を大きく殖やしたからといって、そのお金をどんどん使っているというケースは、とんと
 お目にかかったことがない。多くのネットトレーダーは、殖えた資金を使って、さらに大きな
 相場を張ろうとする。
・いくらFXでお苗を殖やしたとしても、殖えたお金が消費に回らず、次の投資の軍資金として
 つぎ込まれている以上、日本の経済を活性化させるだけの経済効果は、期待できないのだ。
・FXはならさらそうだ。儲かった、損したというやりとりは、あきまでもFX会社と顧客との
 間で行われているに過ぎず、そこから外に資金が流れていくことはない。
・経済の活性化につながらないFXは、投資というよりも投機だ。俗な言い方をすれば、「ギャ
 ンブル(バクチ)」なのである。
・投資信託だが、これはもう非常によろしくない商品があまりにも多い。投資信託がいかに個人
 投資家にとって害毒であるかということは、かいつまんでいうと、コストが割高であり、運用
 現場のモラル低下が著しく、プロに委託している割には運用成績が芳しくない、ということが
 挙げられる。
・これだけ購入にかかる手数料が高いと、投資信託は長期保有せざるを得なくなる。
・信託報酬(平均1%強)というコストも引かれていく。これらをすべて合わせると、投資信託
 はコスト的に割高な商品と考えざるを得ない。
・投資信託の運用現場で、きちっと企業訪問を行い、自分の目で投資先企業を選別できるような
 ファンドマネジャーは、ごく一部に過ぎない。大半は大学を卒業して間もなくファンドマネジ
 ャー見習いのようになり、いつの間にか、彼らに投資情報を流す証券会社の営業担当者らから
 の接待漬けに遭い、最終的にはその言いなりになって銘柄を選別せざるを得なくなってしまう。
 まだにモラル低下だ。
・今なお純資産残高が積み上がり、購入する人がいるのは、ひとえに証券会社が吹聴している幻
 想に騙されている個人投資家が、非常に多いことを意味する。
・どうしてこうもしんなり、お金を出してしまうのだろうか。理由は二つ考えられる。ひとつは
 有名企業の名前もしくは信用力で買わせること。日本の投資家、特に年齢が高い投資家の場合、
 有名企業が発行する債券や株式だと、何の疑問も抱かずに、頭から信用してしまう傾向が見ら
 れる。これが第一の落とし穴だ。もうひとつの理由は、証券会社が投資家にある種の幻想を抱
 かせることだ。「信用できる会社が発行する債券(株式)ですよ」「これを買っておけば間違
 いないでしょう」「安定した収益が期待できますよ」など吹聴して、投資することによって何
 か非常に大きなメリットが得られるかもしれないという印象を、抱かせるのである。
・証券会社の営業担当者は、資産運用のアドバイザーだとみている個人投資家は少なくないが、
 それは間違っている。彼らは手数料ビジネスをやっているのだから、資産運用のアドバイザー
 ではない。言うなればセールスマンである。
・投資信託の運用成績というものは、表には見えないところで作り上げることができる。言うな
 れば「後出しジャンケン」が認められる世界なのだ。
・実際の運用現場を見ると、投資信託の運用には出来レース的な部分も多分にあるようだ。
・投資信託の運用成績を見ていると、特に同じ投資対象のファンドについては、大きな差ができ
 にくいという事実がある。他のファンドの運用成績が年10%なのに、ある特定のファンドは
 30%の運用成績を上げたというようなことは、まず起こらない。それは、個別ファンドの運
 用成績を上げるための努力をする前に、付け替えなどによって、非常に有利な株価で買えた株
 式については、会社側の方針によって、できるだけ優遇したいファンドに付け替えられてしま
 うからだ。
・かつて運用の世界にいた人間としては、とてもではないが投資信託などは買えない。ただ、同
 じ投資信託の一種でも、ETF(上場投資信託)であれば、まだ投資するメリットはあると思
 う。金融先進国のアメリカでは、今やETFが大流行である。こちらは投資信託でありながら、
 高額な手数料を取られることもなく、安価なコストで上場市場で売買できる。また、ファンド
 マネジャーの売買がガラス張りにされているので、その手法の巧拙を見て売買の判断をするこ
 ともできるのだ。
・金融後進国の日本の投資信託で、ファンドマネジャーに付け替えの余地があるようなアクティ
 ブ運用のファンドなどには当然、投資するべきではないと思う。
・投資信託は、仕組みとしてはなかなか優れた投資商品であるが、残念ながら我が国では、投資
 したくない商品の最右翼と言ってもよいだろう。
・未公開株式への投資は、行き先不透明感が極めて高く、個人投資家が投資するには不向きとい
 うことになる。

第2章 資産運用に魔法はない
・フリーランチというのは「ただ飯」と訳すことができるように、投資にフリーランチはあり得
 ないということを、はっきり申し上げておきたい。
・さまざまな金融技術、金融工学は、生まれてはバブル崩壊によって低迷、消滅を余儀なくされ
 るということの歴史を繰り返してきた。そして、バルブ崩壊の後には、一時的に利益を享受す
 ることができても、どこかの段階でマーケットが崩壊し、後には死屍累々の状態になるのであ
 る。
・今、個人投資家の間で最も人気の高い投資信託というと、「毎月配分型ファンド」が挙げられ
 る。これは、海外の債券などを主に組み入れて運用するタイプの投資信託で、一般には「バラ
 ンス型」という分類に属している。毎月、定期的に一定金額の分配金を受け取ることができる
 のが最大の特徴だ。この投資信託の何が問題なのかというと、購入している個人の多くが、定
 期的に金利収入を受け取ることができる定期預金の感覚で利用しているということである。
・定期預金と毎月分配型ファンドの利回りを単純に並べて比較することはできない。なぜなら、
 定期預金の場合、元本の価格は変動しないが、投資信託の基準価格は上下するからだ。いくら
 分配金額が一定だったとしても、基準価格が購入時点のそれに比べて値下がりしてしまったら、
 分配金を受け取ったとしても、その値下がり損によってトータルの収益がマイナスになってし
 まう恐れがある。
・毎月分配型ファンドを購入している個人の多くは、若い人たちよりも、どちらかというと年金
 を受給している世代が多いという。この人たちは、公的年金の不足分に、毎月分配型ファンド
 からもたらされる分配金を当てているのだ。世代的には、投資に馴染みがなく、退職金を受け
 取って、その運用先をどうすればよいのかがわからず、退職金が振り込まれた銀行の営業担当
 者から言われるまま、この手のファンドを購入している恐れがある。自分が購入した毎月分配
 型ファンドの基準価格が、購入時に比べて大幅に値下がりしていることに気づかないままとい
 うことにもなりかねない。
・グローバル・ソブリン・オープンはファンドに組み入れられている資産自体は、先進各国の国
 債が中心なので、投資対象の信頼性は高い。投資先の通貨も、米ドルやユーロなど流動性が高
 く、通貨のなかでは比較的、為替レートが安定しているものが中心だ。
・通貨選択型ファンドの場合、ファンドに組み入れられている投資対象は、ハイ・イールド債券
 という、金利は高いけれども、信用リスクの高い債券であったり、新興国の債券だったりする。
 つまり、投資対象の信用リスク自体が高いのだ。そのうえ、ブラジル・レアルや南ア・ランド
 のように高金利通貨は、外国為替市場においても流動性が非常に低く、わずかな売り買いによ
 って為替レートが乱高下する恐れがある。つまり、リスクの塊のような商品設計なのだ。
・よく考えてみるとよい。日本の長期金利は現在、1.3%程度だ。これを大きく上回る利率を
 提示している金融商品は、何か必ず裏があると考えるべきである。つまり、高い収益が期待で
 きるものは、総じて投資リスクも高いのだ。くれぐれも、通貨選択型ファンドを定期預金的な
 ものという誤解をしないようにしていただきたい。
・わざわざファンドで買わずに、直接、仕組み債を購入したほうが、投資信託の購入時にかかる
 購入手数料や、ファンドの保有期間中に差し引かれる信託報酬がかからない分、コスト的にも
 有利になる。ところが、わざわざ投資信託という商品に仕立て直しているのは、そのほうが、
 ファンドを組成している投資信託会社にとっては、より多くの手数料収入が得られるからだ。
・複雑な仕組みを用いている金融商品を購入する場合、必ずどこかに、隠れたコストが存在して
 いるということを理解するべきだろう。そして、その隠されたコストというのは、意外なほど
 割高に設定されていると考えておいたほうがよい。そして、何よりも自分自身で理解できない
 商品性を持った金融商品には、近づかないほうが無難だ。
 実は、リスク限定型ファンドを販売している金融機関の営業担当者に、どういう商品内容なの
 かということを質問したところ、売っている本人たちもロクに答えることができないというケ
 ースもあった。この手のファンドを買うくらいなら、ETFをはじめとするインデックス運用
 のファンドを購入したほうが、はるかに合理的だ。
・ステップアップ預金といって、預入機関が長くなるほど段階的に適用利率がアップしていくと
 いうものがある。しかし、この預金を利用した場合、預金者は自分の判断で解約できなくなる
 一方、銀行側の判断で勝手に満期になってしまうということなのだ。よくよく考えてみると、
 これほど銀行側にとって有利な条件の預金はない。どういう角度から見ても、預金者には不
 利で、銀行側には有利な商品が、ステップアップ預金なのだ。
・ステップアップ預金は円建てなので、為替リスクは基本的にはない。この点はまだ安心できる
 が、圧倒的に銀行側にとって有利な条件で契約を結ばされてしまうという点には注意したほう
 がよいだろう。
・新興国通貨債券には大きな落とし穴がある。それは、為替手数料があまりにも高いということ
 だ。もしこの債券の満期が1年間だったとすると、仮に1年間で7.08%の利子が得られた
 としても、為替手数料率が6.94%にもなりから、差し引き0.14%の利子しか受け取れ
 ないということになる。
・もっというと、新興国通貨は非常に変動性が高い。つまり、為替レートが連高下するリスクが
 ある。というのも、新興国通貨というのは、外国為替市場における取引高そのものが非常に少
 ないからだ。取引高が少ないということは、仮に新興国通貨に投資したいという投資家が殺到
 したら、あっという間に為替レートは冒頭し、逆に売りたいという投資家が殺到すると、暴落
 してしまう。
・これを知ってか知らずか、新興国通貨建ての債券に対する個人の人気は、すこぶる高い。新興
 国通貨投資のリスクを理解しているのであれば、おそらくここまでブームになることはないだ
 ろう。それでも、ブームになっているということは、リスクを理解せずに投資している恐れが
 ある。何度でもいうが、新興国通貨への投資は、非常にリスクが高いものであるということを、
 しっかり認識する必要があるだろう。
・全体リターンを実現できるファンドというのは、基本的にないとおもっておいたほうがよい。
・常に勝ち続けられるシステムは、あり得ない。ところが、システムトレードを実際に行ってい
 る個人のなかには、こうしたシステムが、必ず儲かる魔法の杖だと思っている人が少なからず
 いる。いくら優秀なシステムでも、ずっと利益を上げ続けるのは不可能だ。
・いくら、現状では優れたパフォーマンスを上げているシステムでも、時が移れば、徐々にその
 システムの前提条件が合わなくなっていく。合わなくなれば、そのシステムは有効に機能しな
 くなり、利益も上がりにくくなっていく。おそらく、ひとつのシステムが有効に機能できるの
 は、せいぜい2〜3年程度だろう。特に最近はマーケットを取り巻く環境が目まぐるしく変わ
 っていくだけに、その期間もどんどん短縮化していくはずだ。
・確かに、資源価格は上昇余地があるとは思う。新興国の経済発展で、これから原油などのエネ
 ルギー、食糧などに対する需要は、さらに高まっていくだろう。世界的にはインフレに対する
 懸念が浮上している。そして、インフレ懸念がさらに高まれは、インフレヘッジ機能があると
 される金に対する需要が高まる。また、保有資産のアンカーとして、金を進める意見もある。
・マスコミに掲載されている記事は、その多くがタイアップ記事といって商品先物会社から何ら
 かのお金が出て、ページを売っているようなものだ。つまり、見た目は記事でも、実体は広告
 だったりするのである。
・ただ、現状の価格水準を見ると、金にしても原油にしても、かなり高い水準まで上がってきて
 いるのは事実だ。上がった相場は必ず下落に転じる。それも、上昇のスピードが速ければ早い
 ほど、落ちるスピードも速くなる。特にコモディティのマーケットは、債券市場や株式市場な
 どに比べると、非常に規模が小さい。コモディティの代表格である金にしても、債券市場など
 の足元にも及ばないくらいの規模にすぎない。そこに大量の投資資金が入ってきているのだか
 ら、大きく上昇するのは当然のことなのだ。でも、これが何かの拍子に逆転したら、コモディ
 ティ価格は急落することになる。
・一定の資産を保有している富裕層にとって、今の日本の財政事情は、自分の資産の安全性を脅
 かす不安材料になる。財産税が課せられなかったとしても、日本の財政事業が悪化すれば、日
 本国際が売られるだけでなく、円も売られる。円安が急激に進んだら、日本国内においてある
 円建ての資産の価格は、大幅に減額することになる。少しでも海外に資産の逃がしておこうと
 考えるのは、自然だろう。ただ、注意しなければならない点がある。それは、海外口座の開設
 を手伝う仲介業者のなかに、非常に高額な手数料を取るものがいることだ。こうした仲介業者
 は、顧客の投資に対する知識不足、語学力不足につけ込んで、自分たちのいいように、割高な
 手数料を請求してくるケースが非常に多いのだ。
・海外の銀行に口座を開設した後、その資金を海外ファンドで運用することになるが、問題は、
 顧客にとって非常に不利な条件の契約を結ばされてしまうケースが多いことである。「海外フ
 ァンド」といっても、日本でいう投資信託とはちょっと違う。香港で販売されているファンド
 というのは、変額年金保険の仕組みを用いているのが普通だ。
・この手の仲介業者は、子人で経営しているような小さな規模の会社が多い。日本の銀行や証券
 会社ですら担当者が転勤してしまい、責任をとらないケースがあるのだが、仲介業者は金融機
 関とはまったく違うのだ。当然、資本自体も脆弱であり、長期の保険期間が満了するまで、そ
 の仲介業者の経営が続いているかどうかというと、非常に疑問が残る。もし、すべての契約を
 仲介業者にまかせて海外の銀行に口座を開設し、海外ファンドを購入していたとしたら、それ
 こそ大変なことになる。保険期間が満了になり、保険金を受け取ろうとしても、その仲介業者
 がいなくなっていたら、自分でさまざまな手続きを取らなければならない。語学力がなかった
 ら、お手上げ状態になってしまう。特にここ数年、海外投資ブームになり、海外の銀行や証券
 会社に直接、口座を開いて投資を行う人が増えている。
・日本の財政赤字を材料にして個人の不安感をあおり、海外口座の開設を勧める仲介業者も後を
 絶たない。この手の口車に乗せられて、安易な気持ちで海外ファンドを購入すると、後になっ
 て解約もできず、満期保険を引き出すこともできないという、とんでもない状態に追い込まれ
 る恐れがある。
・海外ファンドというと、日本の投資信託がとうしようもない体らくのせいか、少なくとも日本
 の投資信託に比べ高い運用成績が期待できるのではないかという幻想を抱く個人投資家も少な
 くないようだが、このような考えを持っていると、仲介業者の思うつぼである。
・海外ファンドが、日本の金融商品に比べて有利な運用が期待できるというような幻想は、捨て
 るべきだろう。それが、この手の海外ファンドで泣きを見ないための防御策である。
・不景気になると、詐欺事件が流行ると言われるが、まさにリーマンショック後の不況下で、利
 殖詐欺が急増したことになる。この手の犯罪は、これからもなくなることはないので、個々人
 が自衛するしかない。その際に、ひとつだけ頭に入れておいてもらいたいのは、「おいしい話
 には近づかない」ということだ。
・利殖詐欺に登場してくる運用商品には、いくつかの共通点がある。まず、元本確保と高利回り
 を提示してくることだ。かつては元本保証を謳ったものが多かったが、最近、元本保証を謳っ
 て資金を集めるのは出資法違反であるということが、世の中に徐々に知られてきたので、詐欺
 を目論む連中の頭を使って、「元本確保」という言い方に切り替えているようだ。そのうえで、
 預貯金金利に比べて高い利率を提示してくる。しかし、ここでよく考えてもらいたいのだが、
 この低金利下において、元本確保の上で高い金利を提示できる運用手段など、皆無である。
・名前をよく聞いたことがないような会社が扱っている運用商品で、ある程度名の知れているタ
 レントなどが広告塔になっているものがあったら、まず疑ってかかったほうがよい。ちなみに、
 著名人といっても、まさに今が旬の著名人よりも、かつて一時代を築き、今は一線から退いて
 いるようなタレントが、この手の広告塔になりやすい。
・これからは海外投資をネタにした詐欺事件が、増えていく恐れもある。日本の財政難で、日本
 国内に資産を置いておくことのリスクが高まっているという謳い文句を用いて、実体のない海
 外ファンドを買わされる個人が増えるのではないかと危惧している。
・海外ファンドというスキームを駆使した詐欺というのは、詐欺を行う側にとって、非常に都合
 の良い面がある。何しろ、海外に本店があるということで、疑い深い個人が、わざわざ事務所
 を見にくる心配がない。
・投資の世界では、「あなただけに教える有利な話」などというものは、絶対に存在しない。も
 し、そのいう話があったら、人にいう前に、自分でその投資をする。自分自身が大きく儲け
 るチャンスを、みすみす人に教えるようなお人よしは、少なくとも投資の世界では一人たりと
 もいない。
・どうして騙されるか。実はいくつかの共通点がある。まず、リターンしか見ていない。したが
 って、リスクの開示も求めないし、商品の説明も求めないという人が多い。これは非常
 に問題だ。というのも、何の知識もないままに、リスクの高い商品に手を出すことになるから
 である。
・普通に、銀行や証券会社の金融商品を購入し、大損を被って「騙された!」と言ってくる人が
 けっこういる。そういう人に、改めてどのような商品を購入したのかと質問すると、なかなか
 答えられないというケースもある。つまり、自分がどういう商品を購入しているのかというこ
 とさえ、わかっていないのだ。
・また、「優遇されていない人生」を送ってきた人ほど騙される という側面もある。そういう
 人に対して、表面的に有利なリターンをちらつかせて商品への勧誘を行うと、免疫がないだけ
 に、簡単にお金を引く出すことができる。
・ある程度、年齢が上の世代でも、何となく自分は周りから優遇されていないという気持ちを抱
 えて生きている人は大勢いるだろう。お年寄りなどは、もう子どもは独立して家を出て行って
 しまった。自宅には年老いた夫と二人。特に話し相手もいなければ、自分のことを特別に心配
 してくれる人もいない。心にはちょっとした隙間風が吹いている。そんなときに、誰だかよく
 わからないけれども、毎日のように話し相手になってくれる人がきてくれる。自分の健康のこ
 とも気遣ってくれる。ああ、本当に良い人だ。そのような気持ちになったところを、詐欺を目
 論んでいる連中や、あるいは投資信託や仕組み債を売りつけようとしている金融機関の営業担
 当者が見逃すはずがない。すかさず、「ところで、老後のお金の心配はありませんか?もし良
 かったら、安全にお金を運用して、大きく殖やせる金融商品があるのですが、どうですか?」
 とくるのだ。このお年寄りは、それまで自分が貯めたお金を解約して、何だかわからない投資
 標品を購入してしまう。詐欺事件でも、あるいはリスクを知らされずに買った金融商品で大損
 を被ったケースでも、いちばん被害に遭っているのは、やはりお年寄りだ。

第3章 正しい投資姿勢を身につける方法
・日本企業の商圏は、国内外の両面で、もうこれ以上の拡大は期待できないところまできている
 恐れがあるのだ。いや、拡大うんぬんというレベルの問題ではない。どちらかというと、日本
 企業の商圏はこの先、国内外ともに縮小を余儀なくされるかもしれない。近い将来、そうなる
 危険性があるとするならば、いつまでもモノ作り大国日本という幻想を抱き続けたままだと、
 後で取り返しのつかないところに追い込まれてしまう恐れもある。
・本格的な高齢社会に入り、日本経済は大きな転換点を迎えているが、昔から変わらない良い点
 もある。それは、個人金融資産が今の時点でも豊富にあるということだ。何しろ、全体で
 1400 兆円もの個人金融資産があるのだ。このストックがある限り、日本経済が簡単に落
 ちていくことはない。そして、この1400兆円の一部を証券市場に導入できれば、日本の
 株式市場は復 活への橋頭保を築くことができる。ただし、そのためにまず、日本人の株式投
 資に対するアレ ルギーを取り除く必要がある。
・はっきり言っておこう。株式市場、日本経済の発展にとって本当に必要なのは、発行市場の改
 革である。これを行わない限り、日本の金融立国化は夢物語で終わってしますのである。いく
 ら流通市場での売買が盛り上がったところで、企業の成長にはほとんど関係がないのだ。でも、
 発行市場は違う。企業が発行市場を通じて新株を発行し、それによって調達した資金は、その
 企業の成長に必要な設備投資資金に回ったり、あるいは研究開発を行ったりするために必要な
 資金になる。発行市場が盛り上がれば、企業の成長にもつながるし、それがひいては日本経済
 の発展にもつながっていく。だからこそ、発行市場を整備し、多くの企業が成長するために必
 要な資金をスムーズに調達できる環境を整える必要があるのだ。
・しかし現状、銀行が金融業務をきちっと行っているかと言われれば、その答えはノーだろう。
 貸しはがし、貸し渋りという言葉があるように、今の銀行はリスクを負うことを必要以上に恐
 れ、企業に対する融資業務は積極的に行っていない。融資を行わないということになれば、当
 然、彼らは預金として預かっている資金をほかの運用先に回す必要がある。その運用先が、国
 債への投資だ。もちろん、集めた預金を全額、国債投資に回すわけにもいかないので、最近は
 不動産投資信託への投資も積極的に行っている。
・こうして、銀行がリスク回避行動を強めれば強めるほど、運用先は限られたものになってしま
 う。つまり、集めた預金の運用先がなくなっているのだ。結果、銀行は預金をあまり集めたが
 らなくなる。その代わりとして、投資信託など手数料が稼げる金融商品を積極的に販売して、
 収益を上げている、これが今の銀行の実態だ。
・手数料ビジネスに走っているのは銀行だけではない。本来、発行市場の発展に尽力しなければ
 ならないはずの証券会社も、もっぱら手数料ビジネスに血道をあげている。株式の売買手数料
 は、手数料自由化によって大幅に下がっているため、最近は株式の売買仲介はあまり行わない。
 こちらもその代わりとして、投資信託や変額年金保険の販売にばかり力を入れている。最近の
 若手証券マンは、株式の営業を行ったことがないという話もあるくらいだ。
・このままの状態が続くと、日本の資本市場は間違いなく潮流から取り残されてします。私たち
 は日本の資本市場が低迷した場合、どのような経済的デメリットが生じるのかということを、
 今こそ真剣に考える必要がある。
・日本の証券市場が機能停止に追い込まれたら、私たちの生活は着実に窮することになるだろう。
 このことに気づいていない人が非常に多い。だが、それは事実だ。
・将来的に日本の金利水準が上昇したら、どうなるだろうか。社債発行による資金調達も、銀行
 融資を受けるにしても、それらの資金には返済義務があるだけでなく、高い金利を支払わなけ
 ればならない。日本の金利水準が上昇すれば、企業の資金調達コストが跳ね上がるということ
 だ。
・しかも、日本の金利には今後、間違いなく上昇圧力がかかってくる。言うまでもなく、日本国
 債の格付けが低下しているからだ。そうなれば、企業の資金調達コストは上昇傾向をたどり、
 それが企業業績の悪化要因になる。
・今の日本の資本市場は、完全な片翼飛行状態になっている。つまり、発行市場が機能停止して
 いるのに、流通市場だけに鞭を打って、何とか飛行を続けているような状態だ。このような状
 態がいつまでも続くはずがない。
・では、どうすれば良いのか。日本に「資本家」ともいうべき人間を育てていくことが大切だ。
 いや、1400兆円という巨大な個人金融資産の持ち主である私たち一人ひとりが、資本家の
 感覚を持って投資することが肝心なのではないだろうか。
・資本家とはどういう存在だろうか。それは、短期的なときではなく、長期に企業の成長のため
 に取る人たちのことではないか。そして、その資本家が満たすべき欲望というのは、投資した
 資本の価値の極大化に他ならない。
・残念ながら今の日本に、莫大な資産を持ち、それを元手にして資本家としての行動を取ること
 ができる人間が何人いるのかといえば、ほとんどいない。大企業の社長を見ても、資本家と呼
 べるような人はいない。新入社員時代からの努力の積み重ねとゴマスリで、どうにかこうにか
 社長になれたという人が大半だろう。
・発行済株式の大半は、保険会社や銀行、あるいは海外の年金基金といった機関投資家に牛耳ら
 れている。経営判断を下すにしても、こうした機関投資家の顔色をうかがわなければならない。
 これでは、とても資本家とは言えない。
・東京電力の某社長ではないが、日本の大企業経営者の多くは、自らリスクを取って経営判断を
 下すということができない。そういう道を歩いてきていないのだから、仕方がない話である。
・では、いったい誰に資本家精神を植え付ければ良いだろうか。実はひとつだけ希望の星がある。
 14500兆円もの巨額の資産を持ている個人がそうだ。もちろん、一人ひとりが持っている
 資産の額は、非常に少ないものだが、それがひとつに組み合わされば、巨額の資本になる。本
 当の意味での資本家になることはできないまでも、個々人が資本家精神を持って投資行動を取
 ることこそ、これからの日本がめざさなければならない道なのである。
・ひとつ確実に言えることは、資本家は、投資しても、投機はしないということだ。FXなんて
 とんでもない話である。
・投資と投機の違いは何か。両者とも、投下した資本を殖やすといういみでは同じことのように
 思えるだろう。でも、根本的に違う点がある。それは、私利私欲が優先されるか、それとも社
 会的貢献に基軸を置くかの違いだろう。つまり、単にお金を殖やすというだけでなく、企業を
 育てていくという思いがあるかどうかという違いだ。
・投機というものは、単にお金を殖やすということだけが目的である。「外貨投資」などという
 言葉があるが、外貨を買って儲けるというのは、投資でもなんでもない。単なる投機に過ぎな
 い。
・その国の通貨を買ったからといって、その国の企業にとってメリットになるようなことは、何
 ひとつしていないはずだ。また株式投資でも、デイトレーダーのように、チャートを眺めて売
 ったり買ったりを繰り返しているような連中も、資本家からは遠い存在である。単なる株式投
 機家に過ぎない。
・本当の資本家というのは、株式の上場時や公募増資などに応じて資本を投じ、それをすぐに市
 場で売却するのではなく、あくまでも長期的に保有し続ける投資家のことを指している。自分
 の資本を使って、会社という自分の子どもをじっくり育てていくというイメージを浮かべてい
 ただければ良いだろう。それが本当の投資家である。
・日本の企業家のなかで、今、最も有名な人といえば、ソフトバンクの孫正義氏が筆頭に挙げら
 えるだろう。私は、孫氏の行動に、資本家の片鱗を見た気がする。
・孫氏は「エンジェル投資家」の役割を担ってくれるのだという。エンジェル投資家というのは、
 創業まもない企業に対して、個人として資金を提供してくれる投資家のことを指している。資
 金を提供する代わりに、その会社の株資などを保有するというのが一般的な仕組みだ。孫氏は、
 ソフトバンクという会社とは別に、あくまでも個人ベースで、このような投資を行っている。
・おそらく資金を提供したとことで、10社のうち9社はうまくいかずに消えてしまうだろう。
 つまり孫氏が行っている投資というのは、優れた技術や発想を持った人々を、世の中に送り出
 すことを手伝うためのものである。これこそ、まさに次世代のための投資であり、本来、資本
 家が持っていなければならない精神なのだ。
・個人が資本家精神学び、そこから正しい投資のあり方を身につけていくのと同様、金融機関も
 今の手数料ビジネスを見直し、金融立国に相応しいビジネスモデルを模索する必要がある。つ
 まり、手数料ビジネスからの脱却だ。
・日本の証券会社は、顧客に設けてもらう前に、まず自分たちの利益が最優先で、その結果、手
 数料ビジネスに狂奔することになる。

第4章 ジャパンバブルの隆盛と崩壊に何を学ぶか
・裁定取引とは、先物取引と現物取引の価格差を利用して利益を得る取引のことだ。先物取引と
 現物取引は別個の取引であるため、それぞれ異なる思惑で価格が推移する。つまり、両者の価
 格には乖離が生じる。その乖離を狙って、割高なほうの指数を売り、割安な指数を買うことに
 よって利益を確定させ、最終取引日であるSQ(特別清算指数)算出日に差益を決済する。こ
 の取引では、日経平均株価厚生銘柄の中で品薄である銘柄だけをバスケットで操作することに
 より、いくらでも株価を操作することができた。
・個人投資家は、よもやそのような取引が行われていることなど露知らず、日経平均株価の上昇
 にただ浮かれていた。すでに品薄銘柄の株価しか上昇しない状況だったのにもかかわらず、日
 経平均株価がひたすら最高値に向かって上昇していくのを見て、自分の保有株も上昇を続ける
 ものと思い込み、日経平均株価がピークを迎えるまで、ひたすら株式のポーションを高めてい
 った。言うなれば、3万89215円という日経平均株価の過去最高値は、単なる数字上のか
 らくりに過ぎなかったのだ。
・バブル期にあれだけ積極的に融資を行ってきた銀行が、一転して融資の回収に動き出した。こ
 の影響をモロに受けたのが、銀行から融資を受けて運転資金を回していた一般事業法人である。
 資金繰りに窮した企業は次々に倒産し、それが株価の下落に追い打ちをかけた。こうなると、
 株価下落は底なしの様相を呈することになる。
・バブル期には、わが世の春を謳歌していた証券会社は、株価の下落で顧客に罵倒され、銀行は
 融資の回収で顧客から恨みを買うことになった。こうして、日本の証券市場は実質、機能停止
 に追い込まれることになった。
・バブル崩壊で借り入れ資金の返済に窮した企業が続出する一方、担保として押さえられていた
 不動産の価格も急落したため、担保を売却して貸し出しを回収しようとしても担保割れの状態
 になってしまい、それらが不良債権化してしまったのだ。
・北海道拓殖銀行、日本長期信用銀行、山一証券、三洋証券など、大手金融機関が次々に倒産し、
 金融業界の再編が加速した。
・さらに、戦後日本の優良なビジネスモデルとされた「年功序列賃金」「修身雇用制度」も崩壊
 し、リストラや人材の流動化とともに、特に若者たちの士気の低下、失業が増えることになっ
 た。
・90年代後半から新たなバブルが醸成された。ITバブルである。しかし、この時期の新興企
 業は、銀行融資よりもベンチャーキャピタルからの出資に資金源を頼り、経験よりもビジネス
 モデルという名のアイデアひとつで、多額の資金を引き出し、短期間のうちに株式を上場させ
 た。問題は、こうした新興企業の若き経営者に対して、親身になって経営の相談、指南に乗っ
 てくれる人が、どこにもいなかったということだ。
・ベンキャキャピタルは、株式を上場すれば、その時点で出資によって得た株式を売却し、利益
 を確定させてしまうから、もはや相談相手にはならない。そして、誰にも頼ることができなく
 なった新興企業の経営者に、甘い言葉で闇金融業者などの反社会的勢力が近づいてくる。何し
 ろ、新興企業の経営者はたくさんの持ち株を保有している。
・どれだけ優秀な人間が考え、構築した優秀なモデルでも、その基本ベースは契約に立脚してい
 るのであるから、不確実性のあるマーケットの前には無力であることを思い知らされた。
・資産運用の経験が少ない人、あるいは初めて投資するという人は、ついこうした「特別な何か」
 に過大な期待を抱いてしまいがちだが、私の過去の経験から言っても、そういうものはいっさ
 い存在しないのである。
・倒産しそうな企業の株式に投資して、事業再生を行って利益を上げる投資法のことを「イベン
 トドリブン」という。これまで、個別株式への投資から、ヘッジファンド運用を始めとする高
 度な金融工学を用いた投資まで、いろいろな投資手法に関わってきたが、結局、投資家にとっ
 て最も利益を上げられる投資法は、このイベントドリブン投資であると考えている。
・もちろん、イベントドリブン投資にも欠点がないわけではない。たとえば、投資先企業が経営
 破たんしてしまうといったケースや、投資を受けた企業側が、投資事業組合の提案に従わずに
 経営を悪化させてしまうというケースだ。しかし、こうしたアクシデントに近い状況が生じな
 い限り、かなり高い確率で利益を享受できる仕組みなのだ。

第5章 金融不況に負けない5つの心構え
・投資信託のなかには、ローコストで運用できるものもある。ETFがそれだ。ETFとは、上
 場投資信託のことで、日経平均株式をはじめとする日本の株価指数、MSCIコクサイといっ
 た海外の物価指数、あるいは金価格などのコモディティ価格に対して、運用成績が連動するイ
 ンデックスタイプの投資信託で、ファンドは株式と同じように、証券取引所に上場されている。
 ETFの場合、非上場の投資信託に比べ、コストは格段に安い。
・今、個人投資家が買っても損のない投資商品は、ETFということになる。賢明な投資家は、
 証券会社の店頭で、毎月配分型ファンドなどを勧められたとしても、そのセールスに乗っては
 いけない。その前に、自分でしっかりとETFがほしいという意思表示を行い、証券会社から
 ETFの取り扱いリストを入手するようにすべきだろう。
・現状において公募増資はお勧めできない。それは、証券市場は、発行市場と流通市場から成り
 立ち、両者が両輪として機能して初めて意味するものであるにもかかわらず、引き受け証券会
 社は公募増資で得られる手数料に目がくらみ、市場で消化不調を起こすことがわかっていなが
 ら公募増資を実行し、案の定、多くの投資家を損させているからである。しかも、株式市場が
 絶好調であれば、多額の公募増資を行ったとしても、マーケットにはそれを吸収するだけの力
 があるが、昨今の株式市場を見る限りにおいて、マーケットが多額の資金調達を行う公募増資
 に耐えられるとは思えない。株式市場の需給バラランスが崩れ、株価の下落につながるだけだ。
 また、未公開株もしかりである。つまり、マーケットが低迷している局面での、多額の公募増
 資は、それに応じて株式を手にしたとたん、株価が急落して、いきなりキャピタルロスを被る
 恐れがある。「この公募増資や新規公開はとても有利な条件です」などと言ってきても、マー
 ケット環境が悪いときの公募増資は決して応じてはならない。
・多くの人が、元本割れリスクがないため、安全な金融商品であると思い込んでいる預貯金も、
 これからはどうなるかわからない。いや、すくなくとも現状を冷静に考えれば、預貯金は極め
 て危険な金融商品であるということが、言えるのではないだろうか。最大の根拠は、預貯金を
 通じて集めたお金を、銀行などの金融機関が何で運用しているかということだ。今の銀行は、
 預金を通じて集めたお金を、企業向けの融資に回しているわけではない。多少は融資に回して
 いるのだろうが、実はその多くは国債の購入に回っているのである。
・仮に、日本国債の格付けが一段階低下したら、新しい格付けは「Aプラス」になる。このシン
 グルAという格付けは、日本の国債発行に大きな影響を及ぼす恐れがある。
・格付けがシングルA格になると、銀行預金を通じての資金調達が、困難な状況に陥るリスクが
 浮上してくるのだ。国債の格付けがダブルA以上の場合は、それを資産として保有していたと
 しても、基本的にリスクはないと判断される。つまり国債を大量に保有していたとしても、自
 己資本比率が低下する心配はない。しかし、その格付けがシングルAになると、リスクウェイ
 トといって、日本国際を保有することによるリスクを20%加える必要が生じてくる。
・もし日本国債がもう一段の格下げという事態になれば、メガバンク系は確実に日本国債を買わ
 なくなる。
・国債を大量に保有している金融機関のなかには、さらに価格が下落する前に、それを手放して
 しまおうと考えるところも出てくるだろう。そうなれば、債券価格は暴落し、長期金利が跳ね
 上がることになる。
・日本の場合、発行された国債の買い手としては、銀行だけでなく年金基金なども含まれている。
 ところが、少子高齢社会の到来で、高齢者が預貯金を取り崩し、さらに年金の受給者がどんど
 ん増えていくと、これまで国債を買ってきた原資が、どんどん目減りすることになる。こうな
 ると、さらに日本国債の元利金支払いが滞る、デフォルトリスク(信用リスク)が高まってく
 る。その先にあるのは、日本国債のソブリンクライシス(国家債務危機)だ。日本国債がデフ
 ォルトということになったら、これまで日本国債を大量に購入していた金融機関は、大損害を
 被ることになる。なかには、経営破綻に陥る銀行なども、出てくるかもしれない。そうなった
 ら、預金の元本の安全を確保するということの前に、銀行の経営に対する信頼感そのものが、
 大きく揺らぐことになる。

終わりに
・ここしばらく、日本は不況だ不況だと言われているが、突き詰めれば不況の元凶は金融にある
 のだ。そう、日本は金融不況なのである。
・この不況の演出者は誰かというと、証券会社と銀行である。彼らはこの20年以上、金融とい
 う本来の公的使命、役割をほとんど放棄して、手数料稼ぎに邁進してきた。だから日本は長い
 闇から抜け切れないでいるのだ。人災による金融不況と言ってもいいだろう。
・ほんとうに日本の将来を考えるのであれば、今この金融不況の深刻さを認識し、各自が、責任
 のある真の投資家へと育つことが大切なのである。
・投資手法には限界がある。投資手法の腕を磨くというのは、資産を上手に運用することではな
 く、自分の運用のリスクを把握することなのである。
・21世紀に日本が生き残る道はまさに金融立国しかない。日本が金融後進国から金融先進国に
 ステップアップする方策が必要なのである。
・日本の製造業の拠点はすでに、同じアジアでも中国、インド、ベトナムといった国々に移りつ
 つある。日本だけが、これらの国々に大きく後れをとっているのだが、多くの日本人はその事
 実を知らない。
・日本の人口が減少し続け、成長の限界がささやかれるなか、さらなる資金不足から日本の根幹
 を握る大事な技術さえも容易に海外に流出せざるを得ない現象すら起きようとしているのであ
 る。
・そんななかで、日本が生き残るための答えはただ一つ、日本にアジアを代表とする金融市場を
 創ることである。
・金を殖やすことは決して悪いことではない。それが社会から必要とされ多くの人々に支持され
 るものならばなおさらである。しかし、日本ではそのような資本家精神や金融機能が完全に壊
 死しているのだ。我々が早くその問題に気づいて手を打たなければ、取り返しのつかないこと
 になるだろう。