「希望格差社会   :山田昌弘

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 今、経済格差について、いろいろ問題視されてきている。確かに、経済格差が出るこ
とは、いろいろ問題である思う。しかし、この本はその経済格差の先にある「希望」の
格差が、もっと深刻な問題であることを指摘している。
 よくこの格差の問題が出ると、「今ままでも格差はずっとあった。格差のない社会な
んてありえない。」ということを言う人がいる。確かに、今までの時代も経済格差はあ
ったと思う。でも、そこにはまだ、希望というものが残っていたように思う。
 これからの時代は、経済格差がさらに進み、それが希望格差を生み、希望のまったく
持てない社会へと、突き進んでいこうとしている。そんな社会では、一部の特権階級的
な希望いっぱいの層と、まったく希望すら持てない層とに二極化していく。それは、支
配する層と、支配される層という形にもなると思われる。
 そんな社会において、希望を持てない層に入った人々は、どんな人生を送ることにな
るだろうか。多くの人は、自分の将来に絶望し、ヤケになり、荒廃した社会となるだろ
う。 そして、やがては、上流層と下流層との対立・衝突が、起こっていくと思われる。
 それは、衝突というよりも戦争となるだろう。このようなことは、将来に初めて起こ
ることではなく、歴史的にも過去にあったことでもある。歴史は繰り返すと言われるよ
うに、過去に起こった貴族層と平民層との衝突が、未来にもまた起こるであろう。貧困
層はそれを、「革命戦争」と呼ぶだろう。過去と違うのは、そこではより強力な武器が
使われることである。金持ち層が、その資金力にモノを言わせて、核兵器を使用するか
もしれない。あるいは、貧困層が自暴自棄となり細菌兵器を使うかもしれない。
 これは、私の考え過ぎなのかもしれない。でも、今問題になっている年金問題だって、
ひとつ間違えば、暴動に発展する可能性がある。年金なんか当てにしなくてもいい金持
ち層には、年金なんてどうでもいい問題であろうが、そうでない層の人々にとっては、
まさに死活問題である。当てにしていた年金がもらえないと分かってとき、自暴自棄に
なる人が、多数出てくると思われる。厚生省や社会保険庁が襲われるかもしれない。
今の世の中の向かっている先を考えると、どうしてもそういう未来しか思い浮かんでこ
ない。

先が見えない時代に
・自分の将来の見通しがたたないから将来について考えない。将来について考えないか
 ら見通しがますますたたなくなる。このような悪循環に日本の若者がはまりつつある
 のではないだろうか。
・グローバリゼーションの影響によって、近年、世界全体に、社会から排除され、将来
 の希望がなくなり、やけになる人が増えている。
・中年世代でも、「いつリストラされるのか分からない」「果たして年金が十分にもら
 えるのか」「給料が減って住宅ローンが払いきれるのか」「子どもの教育費で生活が
 さらに苦しくなるのではないか」と不安を抱く人が増えている。
・自分が企業そして家族、いや社会から「使い捨て」されるのではないかという不安で
 ある。将来に希望が持てず、実現不可能な夢に逃げて生きる人々、いわば「負け組」
 が増えている。
・いくら成功例を出されても、そして、いくら「ひとそれぞれ輝くものを持っている」
 と言われても、フリーで成功するのは抜きん出た能力を持った少数の人々であること
 を、多くの人は知っている。今の時代、全員が「勝ち組」になることはできないのだ。
・かつて、多くの若者は、将来に希望を持つことができた。それは、「豊かな家族生活
 を築く」という夢が、多くの人にとって到達可能なものと感じられたからだ。しかし、
 多くのものは、生活の不安に晒されながら、「宝くじが当たれば」というような非現
 実的な夢をみながら、「負け組」としてその日を暮らしている。
・日本社会は、将来に希望が持てる人と将来に絶望している人に分裂していくプロセス
 に入っているのではないか。これを私は、「希望格差社会」と名付けたい。
・一見、日本社会は、今でも経済的に豊かで平等な社会に見える。フリーターでさえ、
 車やブランド・バックを持っている。しかし、豊かな生活の裏側で進行しているのが、
 希望格差の拡大なのである。

不安定化する日本社会
・21世紀を迎えた日本社会は、大きな転換点に立っている。いや、危機的な状態とい
 ってもいいかもしれない。
・少子化の原因を調査する中で、「パラサイト・シングル」という存在を見出した。夫
 婦関係を調査する中で、できちゃった婚、セックスレス・カップル、離婚の急増など
 にみられるように、カップルの愛情関係が根本的に変容していることがわかった。
・親と同居する成人した未成年は2000年の国勢調査によると1200万人いる。離
 婚数は2002年の約29万組と史上最高を更新中である。できちゃった婚は約15
 万組となっており、第一子の四分の一を占めるまでになった。
・われわれが行った若者の調査によると、将来、自分の生活が良くなると考える割合は、
 わずか15%前後に過ぎず、40%の若者が今よりも生活程度が悪化すると考えてい
 る。
・当時の日本人は、人並みの努力をすれば報いとしてそのような生活が手に入れられた
 のだ。だから、皆が未来に希望を持ったである。
リスク化と二極化
・この生活の不安定化プロセスを「リスク化」「二極化」という二つのキーワードで捉
 えることができると考えている。「リスク化」とは、いままで安全・安心と思われて
 いたに日常生活が、リスクを伴ったものになる傾向を意味する。「二極化」とは、戦
 後縮小に向かっていた様々な格差が、拡大傾向に向かうことをいう。

生活の不安定化がもたらす「不安」意識
・高度成長期から1990年頃までの社会では、生活基盤が安定しており、予測可能性
 が高く、生活目標が明らかであり、かつ、ほとんどの人がその目標に到達可能であっ
 た。
・社会がリスク化し、二極化が明白になってくると、人々は、将来の生活破綻や、生活
 水準低下の不安を持つようになる。能力や親の資産があれば成功して豊かな生活を築
 けるかもしれないが、能力的にも経済的にも人並みでしかなければ不安定な生活を強
 いられるかもしれない、という不安である。すると、多くの人々が、苦労しても報わ
 れない、よりよい生活を求めて無駄であると諦めはじめる。
・拡大するフリーターにインタビューやアンケート調査を行った結果からみると、「組
 織に縛られず、好きなことをして楽しく生活する自由人」というよりも、「将来の不
 安におびえているが、その不安を感じないために、実現可能性のない夢にすがってい
 る」という姿が見えてくる。

世界史的転換期の中の日本
・現在日本に生じている生活の不安定化は、国際社会の枠組みや世界経済の変化に伴っ
 て生じているものである。つまり、リスク化や二極化、更には人々の不安拡大や青少
 年の希望喪失は、日本だけでなく、アメリカを始めとして多くの先進資本主義諸国に
 共通して起こっている現象である。

近代社会の構造転換
・イギリスの社会学者は、社会を秩序づけしていた確実性が失われ暴走し始めていると
 指摘した。ボーランドの社会哲学者は、社会の様々な制度が、まるで液体のようにと
 らえどころのないものになっていると説き「人生を使い捨てている」人が増えている
 と警告している。
・現代社会が向かっている方向は、社会の不確実性が増大し、生活がリスクに満ちたも
 のになり、成功者の陰で弱者が社会からはじかれて、その結果、社会秩序が不安定化
 するという方向である。

リスク化、二極化は不可避
・この二つの流れ(リスク化と二極化)によって社会が不安定なものになっていくとい
 う傾向は止めようと思ってもなかなか止めることができないということである。
・社会が豊かになり、人々の自由度が増したからである。人々は一度味わった豊かさや
 自由を捨てることはできない。その豊かさを維持するために行う行動、そして、人々
 の自由な行動が、リスク化や二極化をもたらす原因だからである。
・現在の状況に対して、何もしないでいることは許されない。リスク化や二極化をその
 まま放置すれば、人々から希望が徐々に奪われ、社会秩序が危機に陥ることは目に見
 えている。現在起きている状況の中で最も深刻なのは、この「希望の喪失」なのであ
 る。更に悪いことに、希望の消滅は、すべての人々を一様に見舞うわけではない。
 中には、もちろん、将来に希望を持って生活できている人もいる。それは、生まれつ
 き高い能力や資産を持っていて、経済構造変換後のニューエコノミーの中で、より大
 きな成功を得られそうな人々である。
・その一方で、平凡な能力とさしたる資産をもたない多くの人々は、自己責任という名
 のもとの自由競争を強いられ、その結果、いまと同様の生活を維持するのも不安な状
 況におかれことになるだろう。つまり、ここに経済格差よりも深刻な希望の格差が生
 じるのだ。
・戦後から1990年頃までの日本社会を振りかえと、そこには極めて安定した社会と
 個人生活が築かれていたことがわかる。この時代は、仕事、家族生活、教育システム
 がうまく機能し、生活は予測可能で、格差は縮小に向かい、人々は希望を持って生活
 できていた。
・学校を出れば学歴に見合った就職先はいくらでもあった。男性なら企業に就職さえす
 れば、年功序列で収入が上がる期待がもてた。結婚なら、自分で相手を見つけること
 ができなければ、見合いという手段が用意されていた。離婚は戦前に比べ少なくなり、
 結婚さえすれば、一生続くことを前提として生活設計を立てて間違いなかった。
・男性は、あえて、独立、不安定な職業、冒険的転職などの道を選ばなければ、生涯の
 収入は予測できた。女性は、あえて結婚しない道を選ばなければ、また、あえて、遊
 び人や大酒のみのような危険な男性と結婚しなければ、生涯生活に困るとは考えれら
 れなかった。つまり、「高望み」や「冒険」という選択さえしなければ、安定した生
 活が約束された。
・現在は、リスクを取ることを強要させられる社会である。これは、いままで、安
 定であると思われていた選択肢にも、リスクが伴うことになることによって生じたも
 のである。

弱者がまとまることが難しくなる
・リスクを抱えた人々がまとまって行動することが、極めて難しくなっている。なぜな
 ら、現代の普遍化したリスクは、特定の人々に集中的に生じるのではなく、確率的に
 「ふりかかる」ものだからである。
・「弱者に転落するかもしれない」という意識だけでは、連帯することは不可能である。
 なぜなら、多くの人は「弱者に転落しなくて済む」と思っていて、実際に転落しない
 人がいるからである。

運に頼る人間の増大
・リスク化が進み、自己責任が強調されると、自由化論者が想定した結果とは、逆のこ
 とが起き始める。それは、「運頼み」の人間の出現である。リスクは誰にでも起こり
 うるが、結果的に危険な状態に陥らないで済む可能性もある。そうなると、リスクに
 備えて事前に努力をしても無駄だということにつながる。すると、多くの人々から希
 望は消滅し、やる気は失われるという訳である。そして、努力をせずに、リスクに目
 をつむり現実から逃避して生きるという、「自己責任」とは逆の人間類型を生み出す
 危険性がある。
・自分の人生自体をギャンブル化してしまう人間のことである。その典型的な例を「フ
 リーター」や「パラサイト・シングル」に見ることができる。アルバイトをしながら
 夢を追いかけるフリーターは、夢が実現しなかった時のことを考えない。

「納得」のメカニズム
・生活水準格差の存在や拡大自体が一概に悪いと言っているわけではないし、社会問題
 に直結するわけでもない。人々の能力、努力や貢献が異なっているのに、格差がつか
 ない状態は、むしろ悪平等として、人々のやる気をなくし、社会の停滞をもたらす。
 とはいえ反対に、あまりに格差が拡大し乗り越え不可能だと、やはり、やる気をなく
 す人々が増大し、社会に不安定性をもたらすであろう。

二極化の加速
・フルタイム就労の妻を持つ夫の平均収入は、専業主婦やパート主婦を持つ夫に比べて
 高いというデータがでている。これは、高収入の夫と高収入の妻がお互いに選びあっ
 て結婚しやすいことを示している。強者連合の成立と言ってもいい。その対極に、で
 きちゃった婚等で、不安定な低収入同士のカップルが形成されている。例えば、医者
 同士、弁護士同士、教員同士で結婚したカップルと、フリーター同士で結婚したカッ
 プルとでは、個人の収入格差以上に、世帯の生活水準の格差がつき、将来の生活見通
 しにいたっては、絶望的なほどの格差がつくことが予想される。
・強者(職業世界での)が強者を選び(夫婦の場合)、強者が強者を作り出す(親子の
 場合)、その対極で、弱者は弱者を選ぶ以外に選択肢がなく、弱者は弱者しか作り出
 せないという事態が生じている。

二極化の社会心理的影響
・現在起こっている二極化は、仕事能力による格差拡大という点で、能力のある人のや
 るきを引き出すかもしれない。一方、能力がないと自覚する人のやる気を失わせる逆
 効果がある。

リスク化と二極化の相互連関
・二極化の勝ち組は、稼いだお金やその知的能力で、リスクに遭遇することを避けるこ
 とができる。一方、負け組に分類される人はリスクを事前にヘッジするコストが払え
 ないのである。

リスクなく家族生活
・伝統的な日本社会では、離婚は宗教的罪ではなかった。江戸時代から明治時代初期の
 離婚率は、現在のアメリカ並みに高かったと言われている。それが高度成長期に離婚
 率が低下した。まず、経済的に、女性は離婚後生活できる条件になかったと言われて
 いる。しかし、それよりも、夫の収入が上昇するために、生活が徐々に豊かになると
 いう条件が大きかったと思われる。つまり、生活満足度の上昇が、夫婦関係をよくす
 る方向に働いたというのが、ほんとうのところではなかろうか。

受験競争の効用
・客観的に眺めてみれば、受験競争は、青少年を職業にリスクなく振り分けるための極
 めて優れた制度である。ある職業に就きたければ、その職業に就くための学校に入る
 必要があるということは、ある職業に就きたくても、その職に就くことが見込める学
 校に「合格」できなければ、あきらめざるをえないということである。学校システム
 の効用は、実はここにあるのだ。青少年は、学校システム、そして、受験の中で、過
 大な希望を「あきらめ」させられ、結果的に自分の能力に見合った職業に就くように
 振り分けられる。

安心と希望と合理的「あきらめ」のシステム
・戦後日本の教育システムの特徴は、ゆるやかな選抜にある。中学から大学まで、受験
 を間に挟むことによって、あきらめが徐々にもたらされるのである。

二つの大きな誤解
・若者の職業の不安定化、そして、「自分のやりたいことをやる」といった若者の意識
 変化は、アメリカを始めとして多くの先進国で共通に生じている現象である。好況と
 いわれる国であれ、不況に陥っている国であれ、若者の職業の状況は厳しいのである。

人間にとって職業(仕事)のもつ意味
・近代社会においては、仕事は、人間にとって二つの意味を持っている。一つは、経済
 的に生活をするために不可欠なものとしての仕事である。働かなければ収入が得られ
 ず、まともな生活はできなくなるという意味での仕事であり、これは、人間史上共有
 の理解であろう。それに加えて、近代社会になると、仕事のもう一つの意味がクロー
 ズアップされてくる。それは、仕事が「アイデンティティ(存在証明)の一つになっ
 ているということである。
・宗教が衰退した近代社会では、「自分が社会の中で必要とされない」と思うほど、つ
 らい状態はない。仕事をすることを通じて何か社会の役に立っている(これから役に
 立つ、役に立っていた)ことが、一つの「生きがい」の感覚を与えるのである。
・「自分が何者なのだろう」と思うのは、フリーターだけに留まらず、契約社員などコ
 アから外れた人々にも広がっている。つまり、社会から見捨てられているという感覚
 に陥るのである。その中から反社会的行動に走る人が出てきてもおかしくない。そし
 て、現在その兆候が見られるのである。

求められる能力の変化
・もう一通りモノを持っている現代社会の消費者は、ただの「モノ」では満足しない。
 そこでは、他人との差異を消費したり、美的感覚を求めることになる。
・今後企業によって求められる能力として、「変人」と「精神分析家」という二つの資
 質をあげた。前者は、オタク的に物事の可能性を追求する能力、後者は、人々が何を
 望んでいるのかを的確に把握する能力である。
・今後企業によって求められる能力として、「変人」と「精神分析」という二つの資質
 がある。前者は、オタク的に可能性を追求する能力、後者は、人々が何を望んでいる
 かを的確に把握する能力である。

二極化する雇用
・企業は、ニューエコノミーの中で生き残るために、クリエイティブな能力、専門的知
 識を持った労働者を必要とする。それと同時に、マニュアルどおりに働く単純労働者
 も必要とするのである。
・実力があり人気がある人は、広範囲な人々の文化的欲求を満たすことにより、超高所
 得を得ることができる。一方、中途半端な実力のものは、有名人の下働きやアシスタ
 ントとしてしか、生き残ることができない。

企業の雇用行動の変化
・専門的・創造的労働者は、企業に必要な中核的労働者として、自社で育て、抱え込み、
 長時間働かせようとする。しかも、他の企業にとられないように、給与を上げざるを
 得ない。一方、代わりが利き、マニュアルどおりに働けばよい単純労働者、サポート
 労働者は、コストを下げるために、派遣社員、アルバイトに置き換えようとする。

仕事間の「裂け目」の出現
・クリエイティブな才能は、訓練でなかなか身に付かない。大器晩成という例もあるが、
 文化的な才能に関しては、幼少期から天才的な才能を発揮する人がいる中で、努力で
 追いつくことは無理である。天賦の才能と努力と運、全てが揃って、初めて、「売れ
 る」世界なのである。

二極化する若者たち
・例えば、大学院博士課程修了者は、日本全国で毎年1万人以上いる。しかし、毎年、
 新たに発生する大学の教員や研究所の常勤研究員のポスト数は3000人程度であり、
 大学倒産時代を迎えていることもあり、今後、増える見込みはない。一生大学の教員
 になれない博士課程修了者が毎年7000人以上出現する計算になる。
「夢見る」使い捨て労働者
・フリーター問題の核心は、使い捨て単純労働という自分が現に仕方なしに行っている
 仕事と自分が就きたい仕事、ステイタスのギャップにある。
・フリーターをしながら「自分の理想的な仕事や立場」に就くまで待っている状態が、
 フリーターの真の姿なのである。

フリーターの夢を支える親たち
・欧米では、定職に就きたくても就けない若者たちは社会的大問題となっている。経済
 的に不安定な若者が大量に出現し、生活自体がなりたたなく危険と隣り合わせている。
 そして、ホームレスに転落する若者も増大している。
・しかし、現代日本社会では、欧米とは異なって、いまだ大問題とは考えられていない。
 なぜなら、若者がホームレスに転落せず、夢を見ていられる三つの条件、@親に生活
 を支えてもらう、Aアルバイトには困らない、B家族責任から免れている、があるか
 らである。

フリーターの不良債権化
・現状はもちこたえられても、将来を見据えると状況は明るくない。このままだと、昇
 進のない単純労働に従事し、仕事能力がつかないまま、いつか、夢は実現すると夢想
 して、年齢だけを重ねる元若者が大量に出現する。
・夢に向かって努力すればその夢は必ず実現するというのは「ウソ」である。全ての人
 が希望通りの職に就けることはあり得ない。
・いつかは受かるといって公務員試験を受け続けても、30歳を過ぎれば年齢制限に引
 っかかる。どうせ正社員として雇ってくれないからと就職をあきらめ、単純作業のア
 ルバイトをしていた高卒者は、仕事経験や能力が身につかないまま、歳だけをとり続
 ける。
・より良い結婚相手に巡り会えないからと結婚を先延ばしにしてきた女性は、40歳を
 過ぎれば見合いの口もかからなくなる。当の若者は、考えると暗くなるから考えない。
 若者自身が、不良債権化するのだ。
・そして、いずれ、生活を支えていた親が弱ったり亡くなったりする。彼らは自分自身
 の生活を自分で支えられるのだろうか。生活が破綻する人が増え、その結果、社会福
 祉費が増大する。何より、年金掛け金や税金を納めず、子供も育てない中高年者が増
 えれば、それだけ、まともに働いている人やきちんと子育てをしている人にしわ寄せ
 が来るはずある。
・単に、職業的に不安定な人々の増大によって引き起こされる影響は、経済の領域に留
 まるものではない。人々の「希望」という心理的問題とも直結している。

家族とは何か
・近代社会においては、家族は、長期的に信頼できる関係性、つまり、心のよりどこ
 ろを意味している。これを「絆」の感覚と呼んでおこう。人間が前向きに生きていく
 ためには、絆の感覚が必要である。

家族の不安定化
・現代日本で起こっていることは、家族の不安定化である。それは、高度成長期の家族
 安定の条件であった「家族関係」と「夫の収入」がリスク化することによってもたら
 される。その結果、「サラリーマン−主婦型家族」がうまく機能しなくなり、家族の
 絆、および、家族生活がリスク化するという事態が生じることになる。
・未婚化が進む理由は、様々考えらる。男あまり、女あまりと言われるが、男女双方で
 未婚化が進行しているのである。つまり、未婚の男性、女性とも増えているから「結
 婚するなら誰でもよい」となれ未婚化は起きないはずである。
・日本では、未婚者は親元に居住するために生活水準が高い。結婚後の生活水準を下げ
 たくないために、結婚を先送りしているのが、未婚化の大きな要因である。

離婚の増大−結婚のリスク化?
・男性の収入基盤が不安定化している現在、「妻子を豊かに養うことができる収入をも
 たらす」という妻の期待に応えられない夫が増大し、「夫がいやになる」ケースが増
 えていることが予想される。
・また、社会が豊かになり、仕事や趣味の世界で既婚女性の社会進出が進むと、既婚男
 性だけでなく、既婚女性も配偶者以外の異性と出会う機会が増える。

「強者連合」と漏れおちた弱者
・この傾向はアメリカでは顕著で、近年年収の高い夫の妻の就労率が高い一方で、年収
 の低い夫の妻の就労率は低いままである。これは、二極化した職の専門職同士で結婚
 して、リッチな生活を送る傾向が強い一方、不安定就労者同士で結婚して、夫も妻も
 低収入で失業率が高い夫婦が増えていることを意味する。つまり、個人収入の格差が、
 結婚によって拡大し、家族生活の二極化を加速しているのである。

パートナーがいない人の増大
・性的魅力に関しても二極化が進行している。男女交際が活発化すると、魅力のあるも
 の同士が出会う確率が増え、彼ら同士で結婚することとなる。性的魅力のないもの同
 士ではなかなか結婚が成立しない。

教育システムの「ドミノ崩壊」
・学力低下は、決して教師の教え方が著しく下手になったせいではなく、親が勉強させ
 ないためでもなく、受験の詰め込みのせいでもない。学校で勉強しても就職に結びつ
 かない、つまり、「勉強しても仕方がない」という事実が厳然と姿を現わしているか
 らである。
・登校という努力が将来報われないと分かれば、不登校やひきこもりを誘発する。将来
 を設計できない青少年は、学校以外の楽しみにふける。無力感を埋めるため、自己肥
 大感が発達し、非現実的な「夢」にふける若者が増大する。そして、将来に絶望すれ
 ば、やけになり、非行や犯罪などに手を染める者も出てくる。

近代社会−現世での報いという希望
・資本主義社会では、「たとえ、貧しくものでも、努力さえすれば、金持ちになれる」 
 という物語が必要になっている。現在行っている苦労が将来報われないと考えれば、
 人々は、苦労をきらうようになる。また、どんなに頑張っても、楽しいことが将来待
 っていることはないと感じられれば生きていく気力を失うであろう。
・実際には、努力してもなかなか報われないという現実がある。特に、貧しい親の元に
 生まれた人、それほど能力がない人は、「努力しても」、なかなか豊かな暮らしには
 到達できない。そこで出てきたのが、マルクス主義に代表される革命思想である。
・中国が「社会主義」という看板を捨てられないのは、革命によって前近代的宗教を廃
 止した後に、社会主義を放棄すれば、貧しい人々に心理的救いがなくなってしまうこ
 とに指導者たちが気づいているからなのだ。ソ連が崩壊した後、ロシアをはじめとし
 た旧ソ連構成国は、宗教や民族を基盤とした数々のテロに悩まされているではないか。

努力が報われない機会の増大
・現在の日本は、「努力が報われない機会」が増大する社会となってしまった。
・「いままで努力してやったことが無駄になるかも知れない」という状況は、平均的能
 力 を持つもののやり気をなくさせるのだ。
・能力・実績を考慮しないで、地位や収入が決まるシステムは、逆に、能力のあるもの
 のやる気を削ぐという側面もある。
・いま、日本で生じつつある社会変化は、能力あるものの「やる気」を引き出すかもし
 れないが、能力がそこそこのものの「やる気」を削ぐという側面がある。

希望なき人の絶望と逃避
・つらいことに出会ったとき、それに耐え、更なる努力をして乗り越えることができる
 のは、それが報われる見通し、つまり、希望あるからである。報われる見通しなきま
 ま、「苦労」を強いられると、あるものは反発し、あるものは絶望する。またあるも
 のは、そもそも報われない苦労を強いられる状況から逃れようとする。
・具体的に言えば、嗜癖に「はまる人」が多くなる。嗜癖とは、これさえやっていれば、
 現実の苦労を一時的に忘れることができる活動をいう。軽い嗜癖としては、たばこ、
 酒、買い物、セックスなどが挙げられよう。
・これらの活動を、時たま行って、日常生活にストレスを解消するという程度なら問題
 はない。嗜癖が自己目的化して、日常生活を破壊するケースも出始めている。なぜな
 ら、嗜癖は、ある刺激に慣れてしまうと、より強い刺激を求めるものだからである。
 それが、アルコール中毒、ドラッグ中毒や性風俗産業・買春の増加などに現れる。

犯罪の質的変化
・男性は、職業的な将来の見通しがなければ、結婚相手とみなされないことが多い。そ
 れゆえ、非合法的手段によって、女性、特に、無抵抗の未成年女性との関係を持とう
 とする無職男性が増えるのである。
・IT化、モータリゼーション、郊外化によって、犯罪が発生しやすい環境になってい
 る。携帯電話の使用、車の使用によって、時間や空間に縛られないで行動できるよう
 になり、匿名性の空間が地方にも広がっているからである。

嫉妬の変貌
・もうこの世で努力しても報われないという絶望感に陥ると、他人の幸福がうらやまし
 くなる。
・他人が自分と同じ不幸になることを願う気持ちとなるタイプの嫉妬が近年増えている。

現実からの撤退
・社会からの撤退傾向の日本に固有の形態が「社会的ひきこもり」である。これは、病
 的な理由がなく、家の自室などにこもり、家族を含めた周囲の人々との社会的な接触
 を断っている人々をいう。自室などにひきこもり、インターネットなどコミュニケー
 ションを楽しんでいる若者はタダの出不精であり、ひきこもりとは言わない。

苦労に耐える力の衰退
・これらの問題行動が増加した原因は、個人主義が進んだからでも、家庭が崩壊したか
 らでもない。刑罰が軽いからでもない。苦労や大変さに耐える力が持ちにくくなって
 いるからなのである。一見、家庭の教育力が低下や個人主義の浸透の結果起きたよう
 に見えるのは、実は希望なき社会の結果として生じたものと解釈できる。

苦労免疫の消失
・現代の日本の状況は、青少年に対し、苦労やつらさに対する免疫をつけるという機能
 を失っている
・日本では、子供に楽をさせることが親の愛情と考える傾向がある。そのため、子供に
 対しては、手伝いを要求せず、個室を与え、なるべく苦労を取り除こうとする。
 いきなり苦労に晒される若者
・このような親の元や学校で育った青少年は、苦労に対する免疫を持っていない。する
 と、社会に出て、多少困難な状況に出会うと、苦労に耐えられなかったり、苦労に直
 面するのを避けようとする人が多くなる。

自己責任の強調−希望の剥奪
・ニューエコノミーの「負け組」とは、単に生活ができなくて、住居がなくなったり飢
 えに苦しむ人ではない。「生活に希望が持てなくなっている人」である。相対的に豊
 かな社会では、人間はパンのみで生きるわけではない。希望でもって生きるのである。
・ニューエコノミーが生み出す格差は、希望の格差なのである。一部の人は、努力がオ
 ールドエコノミーの時代以上に報われるが、その反対側では、努力が報われないと感
 じる人を産むのである。ニューエコノミーが平凡な能力を持ち主から奪っているのは、
 「希望」なのである。

統制は停滞を産む
・今、豊かでグローバル化している社会の中で、安心社会をめざし、規制を強化すれば、
 やる気のある企業や才能のある人々は、必ず、海外に出て行ってしまうだろう。優良
 な企業や能力のある人々が、国を選ぶ自由を得る時代になったのだ。残った人も、職
 業・家族・教育にまったく心配がなくなってしまえば、かえって逆に安穏としてしま
 い、人々は豊かな社会に埋没して、活き活きと暮らせなくなってしまうだろう。つま
 り、「希望なき安心」は停滞をもたらす。いや、もう既にその兆候が現れている。そ
 れゆえ、日本社会のグローバル化への適応を心配している人々は、規制緩和や構造改
 革を早急に進めることを求めているのである。

努力の限界
・社会が二極化、リスク化によって不安定になること、その不安定に適応するための個
 人的対処自体が二極化、リスク化するのである。ある若者にインタビューすると、
 「努力を要求されることに疲れ果てた」とい答えが返ってきた。努力すればなんとか
 なると言われ続け勉強してきたが、結局、職や生活の見通しもつかない状態になり、
 それも「努力しなかったからだろう」と言われるのがもっと辛いと語った。

考え方の転換
・確かに、職業が二極化していても、そこそこの努力しさえすれば、ほとんどの人は年
 収300万円を稼げるだろう。夫婦で共働きして年収600万円あれば、子供を育て
 ながらある程度の生活を送ることができる。そこで、分相応の生活をして、お金のか
 からない趣味や家族の団欒を楽しめば、幸せな生活を送ることができる。
・最近、スローライフやローカルライフなど、あくせく働くことを是とせず、マイペー
 スで働いて、時間的、精神的ゆとりを得るというライフスタイルも支持を集め始めて
 いる。
・しかし、現代の日本人に、高度成長期に得た豊かな生活、子供の高学歴、目標として
 の郊外の持ち家などを諦めさせることができるだろうか。日本人は、横並び志向が強
 い。特に、高度成長期は、中流意識が広がって、他人と「消費生活」において、差が
 つくことを嫌う意識が形成されてしまった。
・このようなライフスタイルを実践できる人といのは、他人の目を気にしないでいられ
 るよほどの「自信家」に限られる。そのような自信をつけるためには、相当のインテ
 リジェンスとお金が必要である。結局、この方策も、そのままでは、勝ち組の「もう
 一つのライフスタイル」になってしまう公算が大きいのだ。

個人的対処の公共的支援
・では、何をすればよいか。「個人的対処への公共的支援」が必要であるということで
 ある。私は、リスク化や二極化に耐えうる個人を、公共的支援によって作り出せるか
 どうかが、今後の日本社会の活性化の鍵となると信じている。
・能力をつけたくても資力のないものには、様々な形での能力開発の機会を、そして、
 努力したらそれだけ報われることが実感できる仕組みを作ることである。
・あまりに「やりたいこと」が強調されすぎているゆえに、フリーターは過大な期待を
 抱かざるを得ない状況に追い込まれている。といって、「諦めろ」と直接言ったので
 は、いままで行ってきた努力を無にしろ、というのに等しい。それゆえ、カウンセリ
 ングなどを導入して、自分の能力といままでしてきた努力と期待との調整を行い、納
 得して諦めさせ転進させることが必要である。
・考え方の転換に関しても、公的支援が必要である。収入は低くてよいからのんびりと
 農業をやりたい、テレワークで暮らしたい、一生一人で生活したいなど、新しいライ
 フスタイルを目指す人は、今後ますます増えると思われる。彼らに対する具体的な実
 現支援を用意する必要がある。

速やかなる総合対策を
・自活して生活できない高齢者に年金があるように、若者にも「逆年金」制度ができな
 いだろうか。世代間の助け合いを最も必要としているのは、若者なのである。これは、
 自活できるようになるまでお金を貸し出し、後で返済させる制度である。