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2000年のミレニアムを前に、日本は超大型住宅政策を打ち出した。この政策で夢のマ
イホームを手に入れる絶好の機会と、多くの国民がマイホーム取得に走った。しかし、
この政策の裏には、アジア通貨危機による大不況の後遺症から脱出するために、意図的に
バブルを起こそうという国の隠された意図があった。つまり、国は、国民の財布を使って
の景気回復を狙ったのだ。
この住宅政策によって、本来、住宅購入は無理ではないかと思われる層まで、国によって
優遇された低金利の住宅ローンを利用して住宅購入してしまったが、そのツケが後に多く
の個人家計を破綻に追い込み、今でもなおその後遺症が続いている。このことは、国を疑
いもなく信じ、国の政策に踊らされたら、ひどい目に合うという典型例だ。

なぜ買ってしまったのか
・第2次橋本内閣のもと、国が不動産業者の活動を活発にするために、思い切った大型の
 住宅政策をとった。2000年のミレニアムを前に、国が打ち出した住宅政策の大転換
 ともいうべき政策は、主に次の3つだった。
 (1)建築基準法を改正し、建築確認や検査を民間に開放し、住宅を大量に作れるよう
    にした。
 (2)住宅金融公庫の住宅ローンの金利を2%まで下げ、大型ローンを組みやすくした。
 (3)マイホームを買ったときに税金が戻る住宅ローン控除を、過去最大に大型化した。
 ひと言で言えば、庶民に住宅を買わせるために、政府が、後先も考えずに住宅を大量供
 給し、出血大サービスで住宅ローンを組ませた。
・なぜ、この時期に、こうした積極的な住宅政策が打ち出されたのか。その背景には、リ
 ーマンショックに相当する影響を日本に与えた、「アジア通貨危機」という世界的な大
 動乱と大不況があった。日本のお隣の韓国も経済破綻した。通貨危機が伝播し、脆弱さ
 があった韓国経済から凄まじい勢いで外貨が引き上げられ、急激なウォン安に見舞われ
 た。幸いなことに、日本経済は、外貨の準備高が充分だったことと持ち前の経済の足腰
 の強さのおかげで、韓国ほどの壊滅的打撃ではなかったが、それでも被害は大きかった。
・1997年11月に北海道拓殖銀行が経営破綻し、山一證券が自主廃業に追い込まれ百
 年の歴史の幕を閉じた。1998年には、日本の超エリート銀行だったはずの日本長期
 信用銀行が経営破綻した。続いて、12月には日本債券信用銀行が破綻し、翌1999
 年には、国民銀行、幸福銀行、東京相和銀行、なみはや銀行など、潰れないはずだった
 日本の金融機関が、次々と破綻した。こうした中で、経済の落ち込みを何とか食い止め
 るためにとられた政策の柱が、住宅政策だった。家が売れると、家具や家電など、新築
 住宅に必要な設備も売れ、多くの産業に恩恵を与える効果がある。
・大きな不況を克服するためには、地道な政策ではなかなか効果が出にくい。毒には毒を
 ではないが、バブルの崩壊を食い止めるにはバブルを起こすしかないと考える為政者は、
 少なくない。日本は、かつての円高不況を、平成バブルで凌ごうとした。
・バブルで不況を制するという方策は、いまだに経済では有効だと信じられている。いま
 行われている日銀の”異次元金融緩和””ゼロ金利政策”も、発想は同じだ。現在、日
 銀がバブルを起こそうとして行っている政策は、ことごとく失敗して裏目に出てしまっ
 ているが。  
・平成バブルの後遺症から脱出するために、政府は全力を挙げて、個人住宅バブルを起こ
 そうとした。企業の中では崩壊しつつあった不動産値上がり神話が、個人の中ではまだ
 根強くあった。それを逆手にとって、政府は、庶民の財布をテコに住宅バブルを起こそ
 うとしたのだ。そのためには、住宅の大量供給が必要だった。けれど、従来のように時
 間がかかる住宅の検査をしていては間に合わない。そこで、1998年6月、建築基準
 法の要件を緩和して大量に住宅を供給できるようにする法律が施行された。それまで行
 政が行っていた建築確認や完了の検査を民間に開放し、スピーディーにより多くの家が
 建てられるようにしたのだ。結果、この改正が、その後に世間を震撼させたA元1級建
 築士の耐震偽装事件の端緒になったのだ。 
・住宅を大量に供給する一方で、国は、より低所得の人にも買いやすいように、住宅ロー
 ンの金利を下げた。これにより、それまである程度の頭金がないと公庫ローンは借りら
 れなかったが、大量に家を売りたいという国の思惑もあって、頭金がゼロでも借りられ
 るようになった。
・ともあれ、住宅金融公庫が貸し出し条件を下げて、従来よりも返済能力が低い人に頭金
 ゼロでもOKという住宅ローンを貸し出しただけでなく、みんながあっと驚く史上最低
 の2%の低金利の融資を始めたのだから、金融機関倒産の嵐が吹き荒れる中でも、住宅
 市場だけでは活況を呈していた。
・こうして国や住宅金融公庫がつくりあげた住宅バブルに乗って夢を膨らませ、その後、
 バブルがはじめて個人が大きな痛手を負うことを、この時、どれだけの人が想像しただ
 ろうか。 
・国と住宅金融公庫が引き起こした住宅バブルは、その後、さまざまな後遺症を個人の家
 計に残した。特に、住宅金融公庫の無謀とも言える貸し出しは、多くの個人家計を無慈
 悲にも破綻に追い込んだ。
・当時、お金を借りたら返せなくなるような低収入の人にも家を買わせるために、「ゆと
 り返済」というととんでもない返済方法が編み出された。低金利、頭金ゼロで低所得者
 でも借りられるように出した住宅ローンは、給料が下がる中で返済に窮する人々を次々
 と生み出し、続々と住宅ローン破綻を引き起こしていった。
・2008年9月には、リーマンショックが起きている。この影響で、ボーナスカットや
 給料カット、リストラなどが大々的に起きた時期で、ここに、住宅金融公庫の支払い増
 加が重なって、家を手放さざるを得ない人が多数出てきたことは想像に難くない。さす
 が政府も、あまりに住宅ローンで破綻する人が急増したために、2000年4月にはこ
 の「ゆとり返済」を廃止した。だが、この時期に「ゆとり返済」で住宅ローンを借りて
 しまった人は、いまだにローン返済に苦しんでいる。
・この無秩序な貸し出しによって破綻した人も気の毒だが、実は、この破綻のツケは、私
 たち国民にもまわされている。なぜなら、この損失の穴埋めは、税金で行われているか
 らだ。そもそも、本来、お金を借りても返せない人に甘い融資で山のように貸付けを行
 うことは、経済を歪ませることにもつながる。アメリカでは、住宅ローンを借りてはい
 けない人にまで貸しつけ、世界中を震撼させる事件が起きた。サブプライムローン破綻
 事件だ。そういう意味では、借りられる年収を下げ、頭金なしで最初だけ低い金利にし
 て、おまけに大型ローン控除までつけて借金に借金を重ねさせた住宅金融公庫の「ゆと
 り返済」は、国が景気浮揚のためにつくった、日本版サブプライムローンと言える。
・平成26年1年間の個人の自己破産件数は6万6千件以上。このうち住宅ローン破綻の
 割合は16.1%だという。つまり、年間約1万人が、住宅ローンによって自己破産し
 ていることになる。破綻の原因は、病気や転職など、様々だが、こうしたことが原因で
 の破綻はそれほど変わらないのに、住宅購入で破綻する確率は、群を抜いて増えている
 のだ。  
・自分の”老い”マンションの”老い”。この2つおm”老い”を抱え込むだけでも憂鬱
 なのに、もしかしたら年老いた両親の介護まで引き受けなくてはならないと思うと、不
 安を抱えてネコのように丸くなるしかなくなる。 

失われる資産価値−続発する欠陥マンション
・多くの人は、住宅ローンという、生まれてはじめての大きな借金の前で戸惑いながら、
 それでも老後を考えると、住む場所を確保しておいたほうが安心だと思い、あわよくば
 そのマンションが資産になるのではないかと期待しながら家を買う。
・みんな、大手だから安心と思ってマンションを買うのでしょうが、実際に工事をしてい
 るのは、下請け、孫請け、曾孫請け。マンションを売り出すときには、建物を建てた業
 者を公表しますが、それは元請けと呼ばれる施工会社で、施工会社が、すべての工事
 をするケースはほとんどない。特に大きな物件だと、子会社、孫会社、曾孫会社、1次
 下請け、2次下請けと複雑に仕事が流れていくので、元請けでも把握しきれないケース
 もあります。
・政府は、不況から脱出するために、2000年のミレニアムを前に、建築基準法を改正
 し、建築認可を民間に開放し、大量の住宅をつくれるようにした。結果、この時期は、
 住宅バブルとなり、マンションも大量供給された。偽装が続出したのは、バブル崩壊後
 に経営状態が悪化したディベロッパーが、あの手この手でコスト削減をはかり、下請け
 への仕事の丸投げや下請けたたきをしてきたことなど、様々な要因があるが、建築認可
 が民間に開放されたこということもその要因のひとつだ。
・1999年、大量の住宅をスピーディーに建てるために、確認検査業務が民間に開放さ
 れた。「規制緩和」路線の中で、十分な審議を尽くされず、国民がその問題点に気づか
 ぬうちに進められた。「規制緩和」論者は、民間開放によって自由競争の原理が働き、
 確認のコストも下がり、審査のスピードも早くなり、質の良い住宅が大量に供給される、
 経済の活性化につながると強調した。けれど、実際は、行政とちがって営利目的で運営
 される民間検査機関のなかに、「安く」「早く」をモットーに、検査の薄利多売に走る
 ところが出てきた。  
 
建替えという高いハードル
・日本では、この50年間でマンションが623万3千戸もつくられているが、なんとそ
 の約3割に当たる約160万戸が、2000年から2007年までの8年間につくられ
 ているのだ。その後、住宅市場は急速に冷え込み、現在のマンションの年間販売戸数は
 8万戸からせいぜい10万戸のあいだ。この時期に、大量のマンション供給が行われた
 背景には、国の政策があった。そして、この政策に乗って、大量に製造されたマンショ
 ンを購入したのが、主に今の50代前後だ。しかも、それほど大きな瑕疵はなくても、
 今の50代前後の人たちが購入したマンションは、築10年を超え、中には築20年近
 くになっているものもある。当然ながら、修繕が必要であり、あと20年もすれば建替
 えも視野に入ってくる。それが資産価値を維持する方法でもある。だが、ひとくちに
 「建替え」といっても、大変な作業である。
 
あなたのマンションは再生可能か?
・管理をしっかりすれば、マンションは50年以上でも充分に耐久性を持つという。
・日本には、現在約623万3千戸のマンションがあるが、このうち築30年を超えるも
 のは162万戸。つまり、今あるマンションの約4分の1が築30年以上ということだ。
 このマンションが10年経つと築40年以上になり、20年経つと築50年以上になる。
・マンションが高齢化すると、いたる所にトラブルが発生する可能性がある。また、怖い
 のは地震に耐えられないマンションも多数存在するということだ。  
・マンションは、買ったら終わりではない。マンションにも、人間同様寿命がある。この
 寿命が来た時に、建替えという大幅な外科手術ができるマンションは再生するが、そう
 でないマンションは、手におえない状況のまま、何かのきっかけで大きな事故を引き起
 こす可能性がある。日本で、地震の際にマンション住民の生命を守れる基準としての新
 耐震基準がスタートしたのは1981年。それ以前の建物を、旧耐震基準という。現在、
 日本には623万3千戸のマンションがあり、このうち約106万戸は、この1981
 年以前に建てられた旧耐震基準の物件だ。旧耐震基準で建てられた分譲マンションのう
 ち、耐震診断を受けていないというマンションが約83%あった。不安があるけれど、
 改修する資金もないのに耐震性に疑問があるなどという診断結果だけを突きつけられて
 も、マンションが売れなくなるだけなのであえて診断は受けないと いうことだ。   
・ちなみに、旧耐震基準の分譲マンションが多いのは、港区、新宿区、大田区、世田谷区、
 渋谷区といった都心。仮に、いま恐れられている南海トラフ大地震に東京が直撃された
 ら、このあたりの旧耐震基準のマンションは軒並み倒壊し、多数の犠牲者を出す可能性
 がある。
・旧耐震基準のマンションは、一般的には人命を守る器としては新耐震基準よりも弱いと
 いわれているだけでなく、築35年以上なので老朽化している可能性があり、巨大地震
 が来たら耐えられないものが多数出てくる可能性があるといわれている。
・全国でマンションの平均建替え年数は33.4年、東京都では40年となっている。国
 土交通省が2002年に出している調査でも、建替えは平均で37年となっている。つ
 まり、マンションにとっては、築40年というのが、建替えの1つの目安と言えるだろ
 う。 
・マンション老朽化の問題で大きいのは、単にマンションが古くなっていくということだ
 けでなく、そこに住んでいる人たちも高齢化していくということである。つまり、マン
 ションと住民の「ダブル高齢化」の中で、建替えもままならない状況が出てくるという
 ことだ。 
・中には、住民全員がいっせいに住まいを売却し、これを引き取った会社が新しいマンシ
 ョンに建替えた例もある。住民みんなで相談し、不動産会社にみんながいっせいに自宅
 を売却し、売却された業者はそこに新しいマンションを建設するという方式をとった。
 こうすると、それぞれ古びたマンションを戸別に売るよりも数段高く売れる。そのお金
 で、それぞれ新しいマンションに移ろうということになったのだ。業者にとっても、バ
 ラバラな中古マンションには魅力はないが、建替えて新築として販売できるとすれば魅
 力がある。
・マンションを建替えるには5分の4以上の賛成が必要だが、新たに「マンション敷地売
 却制度」を創設し、5分の4以上の賛成があればマンションを一括売却できるようにし
 た。これまでも、住民の合意でマンションを一括売却することは可能だったが、民法の
 原則を適用して全員の合意が必要だった。これを、「マンション敷地売却制度」という
 新しい制度を創設することで、5分の4の合意でできるようにしたのだ。
・古いマンションは、住民が高齢化していたり賃貸にまわされていたりするケースが多く、
 全員一致というのはなかなか難しくなっている。ただ、5分の4の賛成でよくなれば、
 みんなで話し合って賛同者が多数なら、そのマンションを一括売却してそれぞれが他に
 移り住むことが容易になる。
・マンションの寿命は、日頃からの手入れにあると言われている。しっかりした長期修繕
 計画の元に行き届いたメンテナンスがなされれば、マンションの寿命は飛躍的に延びる。
     
資産価値を守るーマンションのメンテナンスの最前線
・マンションは、基本的にはみんなで住むことが前提の建物で、共有部分はみんなのもの。
 管理の責任も、みんなで共有しなくてはならない。つまり、マンションが老朽化して壁
 がはがれ落ち、通行人に当たってケガをさせたら、その賠償責任は、マンション住民み
 んなで負わなくてはならないということだ。老朽化したマンションは、住んでいる住民
 にとっても危険と隣り合わせだ。老朽化したガス管からガス漏れが起きたり、ガスの換
 気がうまくいかず風呂場で不完全燃焼して、死亡事故も起きている。また、水漏れして、
 死亡事故も起きている。
・都市型の快適な住まいだったはずのマンションも、放置しておけば、老朽化によって様
 々な事件を引き起こす可能性がある。しかも、マンション価格の下落で、バブルの頃の
 ような、古くなったら新しいマンションに買い替えればいいといった方法は、すでに通
 用しなくなっている。
・建替えるとなると、民間のマンションでは、新築で買うのと同じくらいの費用がかかる
 ケースが少なくないので、細々とした年金暮らしの人が多く住む築年数の古いマンショ
 ンほど難しい。
・マンションは、ある意味便利さがポイントとなる商品なので、立地条件のよい場所に建
 つ物件には、常にそれなりのニーズがある。だが、大量にマンションが建設された都市
 郊外のベッドタウンで、しかも不便なバス便となれば、空室も目立ちスラム化の兆しが
 見えるところも出てきている。こうした郊外のマンションは、売っても借金だけが残る
 ことになってしまうので、売るに売れない。しかも、古いマンションの場合、長期修繕
 計画などもなく、修繕積立金の徴収なども充分に行われないケースもある。    
・阪神・淡路大震災、東日本大震災という大きな震災をいくつか経て、マンションへの認
 識が大きくかわった。 共同で使っていく大きな家であり、マンション住民は運命共同
 体だということを自覚せざるを得なくなっている。マンションンの敷地に一歩足を踏み
 入れれば、そこはみんなで共同管理する共有施設。玄関に入り、エレベーターに乗って
 廊下を歩いて我が家にたどり着く。この間は、すべて個人のものではなく、みんなで共
 有しているものだ。玄関の前に立っても、目の前に見えるドアは共有物。気に食わない
 からと、やたらに替えることはできない。部屋に入っても、自分のものと言えるのは、
 手に触れる部屋の内部だけ。建物の躯体は、共有部分なので、隣り合わせた部屋を購入
 したからといって、勝手に部屋と部屋の間の壁に穴をあけて行き来できるドアをつける
 ということはできない。壁の中が共有物になっているのは、壁に穴をあけると躯体の耐
 久性が損なわれるからだ。また、バルコニーに出たら、バルコニーに面したサッシも手
 すりも、すべて共有部分。勝手に手すりの色をカラフルにするということは許されない。
・マンション内で起きた水漏れなどの事故についても、共有部分の老朽化などが原因で起
 きた事故は、マンションの管理組合が専用の保険に入っていない限り、みんなに支払い
 の責任が生じる。 
・今のマンションは、たとえ築50年になっても、しっかりメンテナンスをすれば技術的
 に老朽化を食い止めることは充分にできるという。そのためには、管理組合でしっかり
 長期修繕計画を立て、定期的にマンションの建物診断を行い、チェックをおこたらない
 ことが必要だ。
・2011年に国土交通省が出した「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」を
 見ると、10階建てで建築延床面積が8千u、占有床面積80uのマンションの場合、
 目安となる修繕積立金の平均値は1万6千円強。このガイドラインでは、30年間均等
 に積み立てていく「均等積み立て方式」。
    
マンション管理の経営的視点ー「勝ち組マンション」になるために
・マンションは古くなると資産価値が落ち、安くなった中古マンションを購入して新たに
 入ってくる人たちは、それなりの所得レベルになる。また、入居者も高齢化し、年金生
 活ともなればメンテナンスにそれほどお金をかけられない。お金をかけられないから、
 マンションの老朽化が進み、老朽化によって資産価値が落ちるから入居者の経済状況も
 落ちるという悪循環が、いたるところで起きている。
・10年、20年と何もしないままでいると、それが当然のことになるので、理事会や管
 理会社のモチベーションは下がる。理事会のモチベーションが下がると、当然ながら理
 事会参加率や主体的な活動も減っていく。そして、管理は管理会社にお任せの状況にな
 り、そうなれば、徴収する管理費の金額に合わせたおざなりな管理しか期待できなくな
 る。そうした中では、住民の満足度も下がる。管理に対する満足度が下がれば、当然な
 がら、管理やメンテナンスに多額のお金は払いたくないという人が増える。マンション
 の管理費は、物価が上がっていたら値上げしなくてはならないが、住民の満足度が下が
 っていくと、管理費や修繕積立金を値上げすることは難しくなり、相対的にマンション
 の維持・管理にかけられる費用は減っていく。かけられる費用が減っていけば、住民へ
 のサービスは低下する。さらに、管理やメンテナンスに期待できないマンションだと、
 管理費や修繕積立金の滞納も増え、マンションの財政状況は悪化する。財政状況が悪化
 すると、新たな補修や計画的な修繕なども進まなくなり、現状維持さえも難しくなる。
   
築41年の中古物件なのに資産価値が上がり続ける秘密
・ほとんどのマンションは、修繕にかかる費用を、コンサルタントや管理会社に見積もら
 せ、そのプランで請求された額を支払う。表向きは組合が業者選定をしていることにな
 っているが、ほとんどはコンサルタントや管理会社の言うがまま丸投げしているケース
 が多い。そうなると、工事は、コンサルタントや管理会社の息のかかったところに決ま
 りやすい。中にはそこでバックマージンが発生し、それが工事費に上乗せされて工事費
 が割高になるケースもある。さらに、追加工事が出てきても、業者のいい値ですすめら
 れるケースも多い。こうしたことを避けるために、すべての工事をインターネットでの
 公募にした。公募し、組合の内規で工事ごとに何社も見積もりを取り、その中で最低価
 格を提示した業者に委託することにした。
・大規模な工事の場合、名前が通った企業に発注されるケースが多い。何かあった時に、
 名前のある企業のほうが、組合の責任を回避しやすいからだ。だが、大手が受注した仕
 事は、大手が直接工事するのではなく、子会社、孫会社、曾孫会社に丸投げされていく
 ケースが多く、そのたびに中間マージンが抜かれていくケースが多い。だとしたら、イ
 ンターネットで孫会社、曾孫会社に直接見積もりを出してもらって工事をしてもらおう
 ということだ。結果、なんと今までかかっていた費用の7割ほどで工事ができることが
 わかった。