平和のための戦争論  :植木千可子

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現在の安倍政権は、日本が攻撃されなくても他国を攻撃できるという集団的自衛権行使を
可能にする安保関連法案の成立に向けて、強引に突き進んでいる。そこには、主権者であ
るはずの国民の存在はない。安倍首相個人の信条だけがまかり通っている。
戦争をするかしないのか、それを決めるのは、主権者たる国民の総意によってのはずだが、
今の安倍政権下では、政権が勝手に決めてしまうことになる。そして、戦争で苦しむのは、
戦争を押し付けられた一般の国民だ。
今の日本に一番欠けているのは、さきの戦争についての総括だ。どうして日本は、あのよ
うな戦争に突き進んでしまったのか。それを回避するにはどうすればよかったのか。未だ
に日本は、そのような総括をしていない。そのような総括なしに、平和や安全を錦の旗に
して集団的自衛権行使に突き進むことは、先の戦争と同じ過ちを犯す可能性が高い。
もし、集団的自衛権を行使するならば、それより前に現在の憲法を改正してからにすべき
である。憲法の解釈の変更というような、国民を騙すような姑息な手段で、集団的自衛権
を行使するならば、日本はまた、その歴史に汚点を残すことになる。

まえがき
・どの戦争には介入しなければ、日本の安全と世界の安全を守れないのでしょうか?どの
 戦争は、放っておいても日本に影響がないのでしょうか?誰の命ならば救うのに値する
 ものでしょうか?誰の命は殺す必要があるのでしょうか?
・安全保障の専門家の中には、どうせ一般の人には安全保障のことがよくわかっていない、
 という考えの人もいます。「反対!」と叫ぶばかりで、日本の置かれた状況を理解して
 いない平和ボケした国民が多いので、専門家だけで決めてしまおう。その方が日本のた
 めだという議論をする人たちもいる。
・どの戦争に参加するのか?どの戦争には介入しないのか?どうせ間違えるのならば、関
 わらない方がよい、というのも一つの判断です。ただし、日本は世界の片隅で静かに生
 きるにはあまりにも大きな存在で、関わりたくないと願っても、世界各地の紛争はいや
 でも私たちの生活に影響を及ぼします。
・戦争は、突然には起こりません。必ず前兆があり、原因があります。多くの場合には、
 互いに譲れない何かめぐって争いがあり、話し合いでは解決できないところまで来て、
 戦争になります。そこに至るまでに何をするかが大事です。どうやって戦争を防ぐかを
 真剣に考えていかなくてはなりません。大切なのは、腑に落ちない疑問をそのままにし
 ないことです。各人が抱く疑問について論議することによって、正解に近づけるのだと
 思います。
・70年前に終わった戦争を始めたときには、一般の日本人には、戦争を選ぶ権利も力も
 ありませんでした。今の私たちは、豊かで平和な日本に住み、選挙権があり、発言する
 自由があります。また同時に、責任もあります。こんど、もし、日本が戦争をすること
 になれば、それは、国民主権なって初めての、国民が選ぶ戦争です。次の戦争をするか
 しないか、それを決めるのは、私たちです。

日本人は戦争を選ぶのか?
・集団的自衛権を行使すれば、日本が攻撃されていなくても戦争に加わることになる。ま
 た、紛争が起きれば、参戦するか、しないのかの判断をすることになる。「普通の国」
 に一歩近づく日本の求められることは、可能な限り誤った判断をしないことだ。
・自国が攻撃されない限り武力を行使しないという姿勢はたしかに平和的であり、武力行
 使のハードルを高く設定するものだ。しかし、それは同時に日本人の命は大事だけれど
 も、他の国の人の命は大事でないという判断にも繋がる。世界のどこかで、かつてのユ
 ダヤ人迫害のような虐殺や甚だしい人言侵害があり、多くの人命が奪われているときで
 も、日本は戦わない。日本の安全保障政策は、平和主義と言われるが、むしろ孤立主義
 であり、利己主義の一面を持っている。
・日本政府の説明は、「集団的自衛権を行使しないと日本人を守れなくなる恐れがある」
 というもので、孤立主義の枠を出ていない。私たち日本人の多くは、自分たちが国際主
 義に転換したのだという意識はないだろう。国際的な認識とのズレは大きい。そして、
 このズレは日本人が考えている以上に、諸外国から今後防衛協力の要請がある可能性を
 意味している。
・アメリカの安全保障の専門家の中には、「日本は経済的に停滞し、人口が減り続け、
 中国とも韓国とも仲良くできない。アメリカと一緒にやっていくしか道はない」と主張
 している人たちもいる。どうも日本はあまり尊重されていないようだ。また、日本には
 自分の国や東アジア地域全体の安定について主体的に考え行動する能力がないのではな
 いか、という見限り似たものも存在する。
・2014年秋、日米ガイドラインの見直しのために来日したアメリカ国務省の高官は、
 「アメリカは中国を封じ込めようと思っているわけではない」となんどもなんども繰り
 返し念を押した。日本の紛争に巻き込まれることを警戒しているのだ。
・長期的に見れば、アメリカが競争力を取り戻す可能性はある。中国や新興国が高齢化社
 会を迎えるのに対し、移民が多いアメリカの人口構成は若年層の比率が高いからだ。し
 かし、中期的には、アメリカの力が相対的に落ちていくことは、ほぼ確実な予測だ。
・中国は、近いうちに世界最大の経済大国になることが予想される。しかし、中国もその
 将来戦略については答えが出ていない。アメリカが主導する国際システムの中で成長し
 続けることを選ぶのか、別のシステムを作りそのリーダーになるのか。中国は、外へ向
 けての急速な発展と進出とはうらはらに国内には問題が山積している。政治腐敗、所得
 格差や地域間格差、農業問題などだ。 
・中国はアジアのリーダーになる道を模索する一方で、日米が他のアジア諸国と一緒に張
 り巡らす包囲網を制約だと感じている。日米の影響が強いアジアではリーダーになるこ
 とが難しいので、まず、中東、中央アジアなど、東アジア以外に進出して力をつけるべ
 きだという議論もある。
・なぜ平和のために戦争について知る必要があるのだろうか。それは、戦争がどうして起
 きるのかを知ることが、戦争を防ぐヒントになるからだ。そしてそれが安全保障を考え
 ることにつながる。
・安全保障を考える目的は2つある。1つは、脅威を特定し対処法を考えること。もう1
 つは、自国が脅威とならないようにチェックすることだ。自国が脅威になるというのは、
 何もアメリカや日本が他国を意図的に侵略することだけを意味するのではない。安全保
 障の世界においては、善意に基づいて取った行動が、その意図に反して結果的に安全を
 損ねることがある。一方的に目的を追求するあまり、その反作用が見えなくなることが
 ある。それを防ぐことが、私たち国民に課せられた責任でもある。
・「日本を取り巻く安全保障環境は厳しい」という議論をよく聞く。最大の国難、と表現
 する人もいる。だが、はたして本当にそうなのだろうか?集団的自衛権やグレーゾーン
 事態への対応で、日本の安全保障環境は完全するだろうか?日本は国際主義に転じる用
 意ができているのか?平和を守るために軍事力を行使する判断ができるか?さらには、
 自由や人権といった価値を守りために人を殺せるか?安全保障政策の転換は、判断を誤
 れば、日本の安全を損ね、地域の安定を乱し、世界の平和を危うくさせる危険を孕んで
 いる。私たち国民に政府の判断、決定を厳しく正しくチェックしていく能力と関心はあ
 るか?さらには、アメリカやフランスが判断を誤った時に止める能力と気概があるか?
・戦争は、人間がみずからの意思で引き起こすことだ。人間が起こすものである以上、戦
 争を未然に防ぐことは可能なはずだ。戦争は防げるという信念と、不都合な現実からも
 目をそらさない冷静な分析によって、平和の可能性は高くなるだろう。
・日本政府が進めている日本の安全保障政策の変更は2つある。1つが集団的自衛権の行
 使で、もう1つが、小規模の紛争にどう対応するかという問題だ。平時でも戦争でもな
 い状態なので、グレーゾーン事態と呼ばれている。つまり、どの時点で自衛隊を動員す
 るか、という問題だ。  

世界に訪れる変化のうねり
・民主主義の方が平和的なわけではない。相手が非民主主義国だと民主主義国は好戦的に
 なり、民主主義国の方から仕掛けた戦争は多い。非民主主義国同士の戦争も多い。しか
 し、民主主義国同士の場合だけ戦争がない。そうであるならば、民主主義国家を増やせ
 ば世界はより平和になる、というのがアメリカの民主主義拡大戦略の理屈だった。
・1990年代初頭、アメリカの戦略家の多くは零戦後日本がアメリカの依存から脱却し、
 独自の安全保障政策を推し進めると予想していた。中には日本の核武装を予想していた
 専門家もいた。日本の原子力技術やロケット技術はその文脈の中で、とらえられた。
・日本が同盟を不要だと考えて独自の道を歩むこと。あるいは逆に、日本が同盟に不安を
 感じ自分で守らなくてはならないと考えて、自主防衛を進めることは、いずれも日本の
 軍事力の強化につながりアメリカは好ましくなかった。
・アメリカが世界の空と海を支配している状態は、崩れ始めている。世界中の紛争に介入
 するのではなく、優先順位をつけて介入する方向へ転換せざるを得ない。
・ピークの2003年にアメリカのGDPは世界の約33%を占めた。国防費にいたって
 は、世界の50%以上を占めた。これは、世界のアメリカ以外のすべての国の国防費を
 合わせても、アメリカの国防費の方がまだ大きいということだ。
・アメリカは軍事能力でも他の追随を許さなかった。アメリカが湾岸戦争やコソボ戦争で
 見せた戦い方は「軍事における革命」と呼ばれ、アメリカの圧倒的な強さを見せつけた。
 衛生から爆撃機に搭載したミサイルに直接信号を送り、ピンポイントで目標を破壊して
 みせた。従来の軍事能力では、目標設定から破壊までは数週間かかると言われていた。
・軍事力にはできることとできないことがある。この見極めが大事だ。軍事力が得意とす
 るのは、侵攻する敵を追い払うことなどで、社会を変革することはできない。 
・GDPで2014年に既にアメリカを抜いたと見られているのは、中国だ。他の予測で
 も2030年までには、中国がアメリカを抜いて世界第1位の経済大国になると見られ
 ている。その頃までに中国が民主化する可能性はないわけではないが、このまま行けば、
 民主主義国でない国が世界のリーダーとなることになる。
・覇権国のアメリカを止める力は、世界の他の国にはない。アメリカ政府を制御できるの
 は、アメリカ国民しかいない。アメリカ政府は、しばしば軍事的な行動で判断を誤る。
 また、アメリカ国民は私たち日本人が驚くほど世界のことを知らない。
・アメリカでは、戦争が正義を守るための戦争と位置づけられ正当化される傾向にある。
・政府が失敗したり極端な方向に偏ったりすると、それを正す力がアメリカにはある。選
 挙を通じて国民が大統領に落第点をつけることができる。過ちがすぐに正されるとは限
 らないが、世界各国が制御できないアメリカ政府は、民主主義のしくみによって国民に
 よって制御されている。
・それに対して、中国の場合は国政レベルの選挙はなく、国民に政府の戦争決定を縛る力
 はない。そうなると、中国が世界で最強の超大国になった場合、国際社会に中国を制御
 する力がないとすると、中国政府の決定を制御できるものは地球上に存在しないことに
 なる。

日本の安全保障をめぐる環境
・北朝鮮の軍事力が日本にとって脅威となるのは、破れかぶれにミサイルを発射するよう
 なケースだ。ミサイルに核弾頭が搭載されていれば、甚大な被害をもたらす。その可能
 性はゼロではないが、北朝鮮はミサイルでは戦争に勝てない。脅しや嫌がらせとしての
 攻撃でしかない。それでも攻撃される側にとっては、多大な損害を受けるので十分に安
 全保障上の脅威となるが、通常、国家は嫌がらせだけで攻撃したりはしない。北朝鮮の
 強みは、非合理に見えるイメージだ。「北朝鮮ならばやりかねない」と思わせることに
 よって、周辺諸国を抑止する可能性がある。
・集団的自衛権の行使の前提にあるのは、自国が直接攻撃されているのではない、という
 ことだ。自国が攻撃されている場合は、個別的自衛権の行使になる。「自分は攻撃され
 ていないけれども、他国が攻撃されていて、その国を守るために軍事力を使う」ことが
 集団的自衛権の行使だ。この場合の他国は同盟国など自国の安全保障に密接な関係があ
 る国の場合が多い。日本の場合は、アメリカが攻撃されている時に、アメリカを守るた
 めに戦うことが集団的自衛権の行使にあたる。
・日本国憲法は、もともと、国連の集団安全保障が機能していることを前提にしている。
 国連の安全保障の考え方は、加盟国間で相互不侵略を誓約し、どこかの国がそれに違反
 して侵略行為を行った場合、加盟国全体で被侵略国を助け、侵略国を制裁するというも
 のだ。だから、個別の国は独自の軍備を持つ必要がない。ところが、国連常備軍は存在
 せず、国連の集団安全保障機能は限定的だ。前提が崩れ、日本の防衛政策は今日まで憲
 法の拡大解釈を重ねて綱渡りのような状態が続けてきた。世界は、結局、集団安全保障
 はではなく、同盟などの勢力均衡によって安定を保ってきた。
・集団的自衛権を行使する目的の1つは、同盟相手からの防衛義務を確固たるものにする
 ことだ。アメリカからの要請を断るとアメリカの日本への防衛気義務を強化できない可
 能性がある。これまではアメリカからの要請に対して、「残念だができない」お回答し
 ていたが、集団的自衛権を行使できるようにすると「できるけれど、しない」という回
 答をすることになり、日米関係を良好で強固なものにする、という目的とは逆の結果に
 なる恐れもある。
・中国の変化は目覚しいが、アメリカにとって直接の脅威ではない。中国は、冷戦時代の
 ソ連とは違って、世界を二分して勢力圏を争う存在ではない。中国の力は、まだまだア
 メリカに劣る。日本が共産化しソ連の勢力圏内に入ることは、アメリカにとって大きな
 脅威で、なんとしても阻止せざるを得ないことだった。連戦が終わり、ソ連が崩壊し、
 アメリカに日本を守る理由はなくなっている。
・日本人にとって中国は、歴史問題で非難を繰り返すし、尖閣諸島周辺に出没し続けるの
 で、その高圧的な態度が、驚異だと見えるかもしれない。しかし、この驚異感は必ずし
 も多くの国には共有されていない。 
・アメリカは徐々に中国との戦略的不信に陥っているものの、中国を直接的な脅威だと見
 ているわけではない。アメリカにとって東アジアが重要な第1の理由は経済だ。世界の
 成長を引っぱり、アメリカにとってビジネスチャンスがあるのは東アジアだからだ。
・経済のために東アジアが安定していること、そして東アジア地域に関与し、地域の共同
 体形成から疎外されないことは、アメリカにとって重要な利益だ。 
・アメリカにとっての課題は、地域の他の国が中国になびかないようにすることだ。他の
 国々が中国の経済的な魅力と軍事的な脅しに屈しないためには、アメリカが成長を続け
 ること、いざとなったら中国を牽制する軍事能力を保持することだ。それを可能にする
 には、軍事介入のコストを低く抑えられる態勢を維持することだ。
・その他の世界各国も、中国の台頭とその得体の知れない様子に不安を感じているものの、
 主眼は中国との良い関係の維持にある。中国は、2013年現在日本の最大の貿易相手
 国だ。世界の約120カ国にとっても最大の貿易相手だという。中でも、韓国とオース
 トラリアは中国への依存度が高い。韓国は輸出の約25%が、オーストラリアは約30%
 が中国相手だ。 
・ある戦争に参加するかどうかは、日本が参加することによって、その戦争の原因となっ
 ている脅威を取り除き、事態を改善できるかどうかに基づいて判断する必要がある。そ
 もそも脅威を取り除くために、問題を解決するために、軍事行動が効果的なのかどうか
 が重要だ。つまり、アメリカが戦争している国が日本にとって脅威でない場合や、日本
 の参加が問題の解決に効果をもたらさない場合には参加すべきではないだろう。他国の
 戦争への参加が、自国の次の戦争に役立つ手段だと考えることは、安全保障の環境の改
 善にはつながらない可能性があるからだ。そして、戦う前に軍事的な効果を査定するの
 は、そんなに簡単なことではない。軍事力にできることは限られているのだ。
・私たちが考えておかないといけないのは、集団的自衛権の行使によって、これまでより
 も日本が安全になるのか、ということだ。例えばこんなことだ。湾岸戦争の時に、集団
 的自衛権行使やグレーゾーン事態への対応ができていたら、日本は何をしていたのだろ
 うか?そしてそれは、日本の安全にどのようにプラスになっていだのだろうか。外交的
 には、プラスはあっただろう。クウェートの感謝広告に名前を連ねられただろう。外交
 的な立場が良くなることは、日本の国益にとってプラスも多いと思う。しかし、日本の
 安全にとってはどうだろう。日本が参加していたとしたら、参加しなかった場合に比べ
 て、イラクと中東が安定していただろうか。2003年のイラク戦争の時に日本は安全
 な地域を探して水を供給し復興支援に参加した。もし、もっと危険な場所で、別の活動
 ができていたら、イラクは今日、もっと安定していただろうか。
  
戦争はなぜ起こるのか?
・戦争は、ある日突然には起こらない。戦争は、双方が重要だと思うモノをめぐる争いだ。
 それは領土だったり、偶発的な出来事の処理方法だったり、自由や人権という価値の場
 合もある。戦争に至るまでは、外交交渉が続く。その国にとって死活的な重要なモノ、
 つまり重要な国益を争っている場合、譲歩するのは難しい。交渉が行き詰まったときに
 は、そのモノを守るために戦うか、譲歩するしかない。 
・戦争の原因の1つに勝敗予測の不一致がある。A国が「自分が勝つ」と思い、B国も
 「A国が勝つ」と思えば、A国とB国の戦争は回避される。だがA国が「自分が勝つ」
 と思い、B国も「自分が勝つ」と思うとき、戦争が起こる蓋然性は高くなる。戦争の結
 末があらかじめ明らかであれば、多大な犠牲を払って戦う必要はなく、交渉で解決でき
 るはずだ。
・過去の歴史を見ると、指導者たちはしばしば戦争が短く、楽勝だという見込みの下に戦
 争に突入していく。長期間に及ぶ戦争は人的損害と戦費を増す。戦争を支える国民の士
 気にも影響する。
・短期楽勝の誘惑に負けて開戦する例は歴史上少なくない。日露戦争では、ロシアの戦争
 大臣が日本に短期間に勝つと皇帝を説得した。大臣の見立ては、ロシア軍が日本を満州
 と朝鮮から速やかに追い出し、日本に上陸して日本軍を殲滅し天皇を捕らえることがで
 きる、というものだった。第1次世界大戦が勃発した1914年、3国同盟(英仏ロ)
 と中央同盟国(ドイツ、オーストリア)は双方とも短期間の勝利を予想していた。
・楽観は、日本の戦争決定にも影響した。1937年7月、盧溝橋事件後の陸軍参謀本部
 の情勢判断は、一撃を与えれば中国はたやすく屈服するだろうというものだった。
・アメリカが2003年3月にイラク攻撃を決定したとき、ブッシュ政権の予測は短期楽
 勝だった。しかし、実際に戦闘任務が集結し撤退が完了したのは、2011年12月の
 ことだった。1ヵ月半で終わったかに見えた戦争は、7年9ヵ月続いたことになる。こ
 れは、3年半続いたあの太平洋戦争の倍以上だ。
・楽勝だという見通しだけが戦争の原因ではないが、戦争の見通しが間違っていることが
 事前にわかっていたら、開戦に踏み切らなかった可能性は高い。  
・早い者勝ちの状態の特徴は、時間的な制約があるという点だ。予測の不一致も楽勝の誘
 惑も戦争の誘因になるが、時間的な制約はない。しかし、早い者勝ちの場合は、今、攻
 撃する動機を与える。時間的な制約があるので、政策決定者らはすべての選択肢を検
 討せずに戦争を選ぶ可能性がある。戦争は他の策が失敗した後に最後の手段として検討
 されれるべきものだが、時間的制約の下ではその猶予はないかもしれない。外交交渉に
 ゆっくりと時間をかける余裕もなくなる。いつ相手に出し抜かれるかもしれないからだ。
 手の内を見せないで、交渉は進みにくい。また、不信感が助長される。これらのことが
 戦争を起こりやすくする。
・早い者勝ちの状態とは、先に攻撃すること、あるいは先に兵力を動員することによって
 勝利の可能性を高められることを指す。力が拮抗していて、奇襲によって最初に相手の
 軍事力を破壊できるような場合もそうだ。

抑止力とは何か
・抑止力について、まず最初に言えることは、「非常に複雑」ということだ。「抑止が増
 す」と軽々に言えるようなしくみではない。また、抑止力というのは効いているかどう
 かを知ることはできない。効いているだろう、と推測するだけである。
・今日の世界では、大国間の核戦争、全面戦争の可能性は低いと見られている。むしろ、
 安全保障上、注意すべきことは、小規模の軍事衝突が戦争に激化(エスカレート)しな
 いようにすることだ。そのためには、一方で紛争を激化させることも辞さない態度を取
 りながら、他方で激化を防ぐ、という至難の業を成功させないといけない。
・現代の戦争は、武器の殺傷力が高くなったため、大国同士の全面戦争の場合、勝ったと
 してもその代償はあまりにも大きい。とくに核兵器の出現以降、戦争に勝利するよりも、
 いかに抑止するかが安全保障の重要な課題になった。抑止は、実際の軍事力講師を伴わ
 ない。相手が攻撃を仕掛ける意図を断つことによって攻撃を未然に止めることが目的だ。
・抑止が成功するためには、つまり、相手を思いとどませるためには、戦わずして、負け
 ること、あるいは苦戦することを認識させないといけない。  
・敵の攻撃があって初めて抑止が失敗したとわかる。抑止が効いている間は、効いている
 のかどうかはわからない。敵が諦めたのか、それとも、もともと敵には攻撃の意図がな
 かったのかの区別がつかない。また、事前に抑止が効いているのかどうかもわからない。
 したがって、抑止力が増加したかどうかも、実は、検証のしようがない。
・日本が戦後70年間、平和だったのは日米同盟があったおかげだ、という見方がある。
 つまり、日米同盟が潜在的な攻撃を抑止していたという理屈だ。この理屈に従えば、日
 米同盟を維持することによって抑止は保たれる。 
・これに対して、戦後70年間にわたって日本が平和だったのは平和憲法があったからだ、
 という反論もある。この主張によれば、憲法解釈を変更することによって日本は戦争を
 する国になるので、平和が損なわれるという。集団的自衛権容認への意見が、賛成、反
 対に二分されている基にある考え方がもの2つだ。
・抑止力が成功するための条件として挙げられるものは3つある。第1に相手の攻撃に対
 して報復する能力。あるいは拒否する能力を保有していて、それを使う意図があること。
 第2に能力と意図があることを相手に正しく伝達できること。第3に、状況に対する認
 識を共有していることだ、と考えられている。
・抑止の成功のためには、能力と意図を持っているだけでは不十分で、それを相手に認識
 させなくてはならない。そのためには、正しくシグナルを送る方法が確保されているこ
 ととシグナルの信ぴょう性が高いことが重要だと考えられている。
・抑止は、威嚇と安心供与の2つの部分が組み合わさっている。攻撃を思いとどまらない
 と多大な損害が待っている、という脅し、そして、思いとどまれば、防御側からは攻撃
 することはない、という安心供与だ。
・日中に限れば、外交パイプも太くない。また、これまで正しいシグナルのやりとりがで
 きていないことが露呈している。2012年9月、日本が尖閣諸島の国有化に踏み切る
 直前、日本は、中国側が国有化を承認しているというシグナルを受けていると認識して
 いた。
・一方、中国は日本には国有化すれば日中関係が悪化するというシグナルを送り理解を得
 ていると思っていたという。
・冷戦後、多くの国が積極的に軍隊同士の交流に取り組むようになった。その目的は、互
 の意図を読み違えないようにするためだ。軍備の実態や意図について透明性を上げるこ
 とが、不信感の払拭に役立つとともに、誤認による戦争を予防すると考えられた。
・自衛隊も多くの国と防衛交流を進めている。自衛隊は約40カ国の軍隊と交流している。
 東アジアだけでも、豪韓印中ロとASEAN加盟国などと交流がある。その内容は、艦
 艇訪問からスポーツ交流、互の学校への派遣や会議参加などさまざまだ。
・問題は、日中の場合、政治的な問題が起きると防衛交流が止ってしまうことだ。危機が
 起こる危険がある時にこそ、意思疎通ができ、交流を続ける方法が確保されている必要
 があるのに、これが遮断される。 
・国内に政府から独立した勢力が存在することも信憑性を高めることに効果的だと考えら
 れている。野党やマスメディアの存在だ。政府の指導者が「報復する」と強い態度に出
 ても、野党や世論が戦争に反対したら、ハッタリにすぎないと相手に思われるため、弱
 いシグナルにしかならない。他方、政府の意見と野党の世論が一致していたらそれだけ
 信憑性は高くなる。
・抑止力の考え方はもともと核兵器による抑止を念頭に冷戦時代に発達した。核兵器を使
 った抑止戦略の考え方に相互確証破壊がある。どちらかが攻撃を仕掛けると報復を招き、
 双方とも確実に破壊されることになるので、攻撃が抑止される状態だ。
・日本は核兵器を保有していない。核抑止は、アメリカに依存することになる。いわゆる
 「核の傘」だ。日本に対する核攻撃を抑止する場合、アメリカが直接狙われているわけ
 ではないので、これを「拡大抑止」という。ロシアが日本を攻撃しようとする場合、日
 本を攻撃したら日本に代わってアメリカがロシアを核で報復攻撃する、という能力と意
 図を示して抑止する。 
・中国の核戦略は最小限抑止と言われ、アメリカに1発でも多大な損害を与える報復攻撃
 ができれば、抑止できる、というものだ。報復するための核戦力が、ひょっとしたら1
 発どこかに残っているかもしれない、とアメリカに思わせることによって抑止を目指す。
・核兵器の残存性を高めるためには、破壊されないように隠す必要がある。最も有効な方
 法は原子力潜水艦に搭載することだ。例えば、イギリスはすべての核兵器を潜水艦に積
 んでいる。フランスも核兵器を潜水艦と戦闘機に積んでいる。4隻の原潜のうちの少な
 くとも1隻が常時大西洋のどこかにいることで、フランスは核抑止力を維持している。
・核の傘は本当に掲げられているのか。つまり、アメリカは日本のために本当に核兵器で
 報復してくれるのか、という疑問はしばしば議論される。日本人が核の傘に疑問を抱い
 ているということは、潜在的な攻撃国にとっても同様で、それだけ信憑性にほころびが
 あり、抑止力が弱くなっている可能性がある。
・日本が増強しようと考えている抑止力は、主に通常兵器による攻撃に対する通常兵器に
 よる抑止力だ。しかも、本格的な侵攻ではなく、当面は、南西諸島、とくに尖閣諸島へ
 の不法行為・侵攻を目的にしている。ここで問題となるのは、小規模な侵害を抑止する
 ことが大変に難しいということだ。小規模な侵略を抑止することが、なぜ難しいかとい
 うと、多大な損害が見込まれないからだ。例えば、本格な侵攻の場合は、防御反撃しな
 いことは考えられない。ところが、小規模の侵害の場合は、被害な少ない分、反撃の度合
 いが不明瞭だ。また、同盟国が防衛に参加するかどうか、も曖昧だ。不確実なため、攻
 撃側に疑いが生じ、反撃しないのではないか、という楽観論が起こる余地が生じる。
 「あんな領土のために、まさか、戦争まではしないだろう」という疑いが抑止を難しく
 する。
・中国の世界観は被害意識が強い。1840年のアヘン戦争以来、中国はヨーロッパの列
 強と日本に占領され国辱の歴史だった。その中国は、もはや貧しく弱い国ではなく、世
 界第1位か第2位の大国となった。中国は、昔は弱かったが今は大国なので他国の言い
 なりにはならない、という多くの中国人の考え方だ。
・日中両国とも、他国の言いなりにはならない、と考えている。そのような状況の下、日
 中のどちらかが紛争激化を止める行動に主導権を取るのは容易ではないと予想される。
・日中両国は、キチンゲームの最中かのようだ。先に譲歩すると立場が弱くなると考えて
 いるようだ。競っているものはいくつかある。それが大きければ大きいほど妥協は困難
 になる。
・尖閣諸島は、最も大きな魚釣島でも面積が3.82平方キロ。小さな領土だ。土地に大
 きさからすると、尖閣そのものは大きな価値がある不動産ではない。海洋権益を含めて
 も、なかなかアメリカ国民が納得するような価値とはならない。アメリカ政府高官らも、
 実際問題、無人の岩を守るために議会の承認を得るのは難しいだろう、と話す。
・日本にとっては、主権に関わる問題なので、主権をめぐる争いだと考えれば、領土の面
 積の大小は関係ない。尖閣諸島で中国に譲歩すれば、他の主権や重要な国益でも譲歩を
 強いられる弱い立場になる恐れがあると、考えている人は少なくない。 
・領有権の主張を確立するためには、実効支配を継続することが有利だとされている。そ
 のため、諸島周辺の海域で活動することや、領有権の主張を弱めないことが重要だと考
 えられている。危険を回避するために行動を抑制したり、話し合いを持つことは領有権
 の主張を弱める恐れがあると見られている。その結果、キチンゲームの状態が続くこと
 になる。アメリカは、島の領有権については、当事者は任せるという立場なので、中立
 を保ち、日本の領土だとは認めていない。これは、尖閣諸島に限らず世界各地の領土問
 題についてアメリカが一般的にとる立場だ。
・中国は、アメリカが中国へ接近することを阻止しようとしている。中国が現在抱えてい
 る安全保障上の問題は、台湾、尖閣、南シナ海など、紛争になればアメリカが軍事的に
 介入する可能性がある。中国とすれば、アメリカの介入を阻止することができれば、あ
 るいは、躊躇させることができれば、成功の確率が高くなる。
・日米が尖閣を守っているのは、日米同盟の信頼性でもある。尖閣で同盟が機能しなけれ
 ば、他の紛争でも機能しないのではないかと思われ、抑止力が低下することが考えられ
 る。アメリカにとっては、同盟国としての威信がかかっている。日本はアメリカにとっ
 て重要な同盟国で、その日本を守らなければ、アメリカの威信が傷つく。
・アメリカの覇権に対する挑戦者だと見られている中国の攻撃に対して日本を守らなけれ
 ばアメリカは国際安全保障を提供する大国としての役割を自ら放棄することになる。オ
 バマ大統領は、尖閣が日米同盟の範囲内にあることを明言しており、この防衛義務を履
 行しないということは、「守りが堅いから諦めろ」という威嚇がただのハッタリに過ぎ
 ないことを示すことになり、アメリカの抑止力が大きく低下することになる。
・双方に譲歩する意思がないとすると、緊張は高まり、問題の解決は難しい。対立状態が
 長期間にわたって続くことになる。また、偶発的な出来事が紛争に激化する可能性も高
 くなる。さらには、これまで見てきたように紛争が始まったら、途中で譲歩することが
 困難になる。脅しが強固で、軍事能力が高いことは、抑止を可能にするが、逆に対立を
 深める事にもつながる。
・どこに超えてはいけない一線が引かれているかという認識を共有していないと抑止は機
 能しない。一線を越えたのに武力行使がなければ、脅しはハッタリだ、という認識につ
 ながり、抑止が損なわれる。明確な一線を引くことは、明確なシグナルに通じる。
・アメリカのアジア政策は、いくつかの問題で曖昧戦略をとっている。一線を引くとは逆
 だ。意図を明確にしないのは、問題に関わる当事者双方を抑止しようとする狙いがある。
 曖昧戦略をとることによって、アメリカ自身が戦争に巻き込まれるリスクを減らそうと
 している。しかし、一線を引かないことによって、抑止効果を弱めている面がある。
・アメリカは主権に関する問題は、一般的に中立の立場を取っている。尖閣諸島について
 も、南シナ海の島々に関しても、また、中国と台湾の問題にしてもそうだ。武力を使っ
 ての現状変更や、問題解決には反対するが、領土問題などについては片方が同盟国であ
 っても中立を守っている。同盟国からすると不満に思うこともあるが、アメリカは立場
 を変えない。  
・アメリカは行動の自由を確保しておきたいので、曖昧戦略をとる。また、アメリカの研
 究者の中には、アメリカがアジア諸国を「子供扱い」している表れだと考える人たちも
 いる。同盟国は自分では、正しい判断ができないので、アメリカが判断し行動する必要
 がある、という考え方だ。 
 
グレーゾーン事態の危険
・離島防衛では紛争を局地的に押さえることが重要だ。そのためには、速やかに対抗でき
 る態勢をとることが得策のようにも見える。対応が遅いと既成事実を作られてしまうか
 らだ。例えば尖閣で衝突が起こった場合、現在の日本の関心事は、いかに速やかに対処
 できるか、海上保安庁から海上自衛隊への移行をいかに切れ目なく行いか、だという。
・上陸は戦争を意味するのかしないのか。何が起こったら戦争を意味するのか。この点を
 平時から考え、議論しておくことは重要だ。軍事的な効率性は、しばしば、政治や外交
 の手間暇と両立しない。紛争がスピードアップされ、外交がおいてきぼりになる、とい
 う例は歴史上少なくない。   
・どの時点で有事だと見るかということは、政治的な判断になる。これまでの平時を、新
 たに平時とグレーゾーンに分けても、有事との線引きは残る。どの段階で有事だと判断
 するかについての判断が難しいという状況は解決されないだろう。何をもって有事と判
 断するかについて事前に議論しることは重要だ。しかし、政治的な判断にある程度の時
 間がかかることは必要だと考えるべきだろう。戦争かどうかの決定になるまで、事が起
 こってからも悩み抜いて出す性質のものだろう。隙間を埋め、手続きを迅速にすること
 と、紛争の激化を抑えることは、相反する場合があることは、認識しておく必要がある。
    
強い軍備の落とし穴
・軍は、相手の意図を読み違えるならば被害が少ない方で、と考える傾向がある。「防衛
 用だと思っていたのに自分たちを攻撃する準備だったのか!」と狼狽えるよりも、攻撃
 に備えていたけれど、友好的だったのか」と予想が外れる方が安全だからだ。   
・加えて、軍は攻撃型の作戦を一般的に好むと言われている。組織の行動を研究する、組
 
 い。防御は他国の行動に合わせなくてはならず、受け身で不確実だ。どこから攻めてく
 るかもわからないし、いつどのように来るかもわからない。それに比べて、攻撃は自分
 たちで計画を立て訓練できるから不確実性が減る。   
・日米中は、1990年代後半から安全保障のジレンマに陥っていると言われる。日米が
 同盟を強くすれば、中国はそれに応じて自国の軍備を強くしようとする。その結果、日
 米が軍備増強した最初の時点よりも結果として安全保障環境が悪化してしまうことがあ
 る。中国にとっても同じことが言える。今や、対立の構図が顕著に見える日米中だが、
 この対立のスタートは誤認と偶然が重なり合い、安全保障のジレンマが起きたのだ。   
・日米ガイドラインの見直しの目的は、日米関係の修復であり、直接の課題を提供したの
 は中国ではなく、背景にあったのは、94年の北朝鮮核危機だった。この時、アメリカ
 は朝鮮半島における戦争の可能性を覚悟していた。日本に防衛協力を要請し、いくつか
 の検討事項がリストにされた。日本側はアメリカの要望に答えられるかどうか検討した
 が、その結果、できないことがほとんどだった。戦争は回避されたが、もし実際に戦争
 が起きていたら、日本が同盟国として役に立たないことが明らかになり、米国議会の批
 判に耐えれなくなる。同盟が試され、日本は試験に落第する可能性が高い。
 これが1994年の核危機が日本の安全保障担当者たちに突き付けた現実だった。
・新たな潮目は、2012年の尖閣諸島国有化だ。
・中国は、台湾の独立宣言を阻止するために、武力行使を否定していない。そして、アメ
 リカの介入を思いとどませるために、軍備を増強する。日米の同盟強化と軍事力強化は、
 中国の警戒感を高める。たとえ、中国の目的が「国内」問題であろうとも、アメリカの
 軍事介入を阻止するためには、衛星の破壊までも視野に入れなくてはならない。世界最
 強の軍隊を相手にしているので、日本を含め周辺国に影響を及ぼす。
・安全保障、もっというならば、平和にとって大切なのは、戦争をする代償が大きいとい
 う状況を保つことだ。その1つが、これまで見てきた軍事力による損害だ。しかし、こ
 れだけでは不十分だ。そこに必要なのは、平和の方が得だという損得計算と、平和が保
 たれるという安心感だ。これを人為的にどうやって作るかが課題となる。
  
リベラル抑止
・戦争を選ばすに、平和だったらこんなに良いことがたくさんあったのに、という状況を
 作ることによって、軍事力による損害だけでなく、戦争の代償を大きくする。失いもの
 が大きければ、戦争は割に合わないものになる。戦争が抑止され、平和が保たれる。
・2013年の日中間の貿易額は、約30兆3千億円で、日本にとって中国は最大の貿易
 相手国だ。2位のアメリカは約19兆7千億円で、大きく水を開けられている。中国に
 とっての最大の貿易相手国はアメリカでその額は約5210億ドル、2位が香港で、日
 本は3位で約3125億ドルだ。日中は世界3位と2位の経済大国だ。これにアメリカ
 が加われば世界1位、2位、3位の経済が戦うことになる。中国と日米両国との貿易の
 総額は約8300億ドルに上る。     
・北朝鮮の核兵器開発問題を解決するには、中国の協力が必要だ。北朝鮮に圧力をかける
 にしても、安心を供与するにしても中国の役割が不可欠だ。また、もし、北朝鮮が内部
 崩壊した場合、北朝鮮を安定させる必要がある。安全保障上は、核兵器を安全に確保す
 ることが重要になる。もし、補足されない核弾頭がテロリストらの手に渡ったならば世
 界の安全に大きな脅威となるからだ。日本にとって、朝鮮半島の安定は大事だ。長期的
 に見れば、統一された朝鮮半島が韓国のように民主的で世界に開かれた地域であること
 が、日本にとっても地域にとっても望ましい。現在、北朝鮮と韓国の両方と安定した外
 交関係にあるのは、中国だけだ。朝鮮半島の将来には中国の影響が大きい。
・2国間関係の将来見通しが暗い、と認識すれば、短期的な利益だけで費用便益の計算を
 する。逆に、将来の利益が保障されていたらその利益を失うことも考慮して戦争を仕掛
 けるか、しないのかの判断をする。そうすると、戦争による損害が多いということを事
 前に認識させるためには、現在だけでなく将来にわたって利益があるが、それが戦争を
 すれば失われてしまう、という景色を水晶玉に映す必要がある。    
・「あの国はけしからん。断固として譲らず、軍備を増強して正義を守ろう!」と言った
 方がわかりやすく、支持も集めやすい。「あの国は悪いけれど、敵対的な行動を取らせ
 ないためには、軍備も増強するけど、同時に仲良くやろう」というのは、矛盾している
 ように聞こえる。しかし、この政策を実行することが、平和と戦争の景色の違いを際立
 たせ抑止を実効的なものにする。

日本の選択
・これまでの日本の安全保障政策は、攻撃されて初めて軍事力を使って防衛するという専
 守防衛だった。日本はアメリカと同盟を結び、日本はアメリカに本格的な侵略に対する
 防御と核兵器による報復を頼ってきた。アメリカには日本を防衛する義務があるが、日
 本にはアメリカを防衛する義務はなく、その代わりに日本国内に基地を提供してきた。
 在日駐留米軍は、約5万人で米軍の海外駐留としては世界的にも多く、在韓米軍の約
 2倍の規模だ。日本が負担している在日米軍関係経費は約4700億円にのぼる。
・もし、日本がアメリカと同盟を結ばず自前で同じだけの軍事力を持とうとしたならば、
 周辺国の警戒を呼び、日本包囲網ができていただろう。さらに、先の戦争に対する日本
 人自身による総括がないままに平和を享受することも、周辺諸国と良好な関係を築くこ
 とも難しかっただろう。専守防衛と日米同盟は、日本に自分の過去と正面から向き合い
 ことを強いることなく、安全の確保を可能にした。その結果、戦後70年間、戦争につ
 いて悩むことなく平和を甘受して来られた。
・これから世界は大きな転換点を迎える可能性がある。いままで世界をひっぱってきたア
 メリカが今後も1国でその役割を担うことは難しくなってきている。アメリカが世界の
 紛争に介入しないと、世界のあちこちで安全環境が悪化することが予想される。アジア
 においても同様だ。アメリカは、自国の利益に照らして重要な問題には介入するが、そ
 れ以外の紛争には選択的に関与することが予想される。アメリカにとって必要な戦争は
 減るだろう。 
・同様に日本の戦略的な重要性が下がっている。冷戦終結は、日本の戦略的な価値を下げ
 た。さらに過去約20年の経済低迷は日本の魅力を半減させた。加えて、沖縄の在日米
 軍基地は、かつてのような軍事的な聖域ではない。中国に近すぎるのだ。中国のミサイ
 ルと戦闘機の射程に入るため、戦時下では、在日米軍基地は脆弱だという指摘がある。
 もし、これが本当だとすると、基地使用の代わりに日本を防衛する、という「契約」は
 成り立たなくなる。
・このままでは、今までの安全保障体制は維持できるかどうか不確実だ。集団的自衛権の容
 認は、このような情勢認識に基づいて行われた。集団的自衛権の行使は、同盟国アメリ
 カを繋ぎ止めておく効果がある。これまでのように日本を防衛することが自明の理でな
 い以上、日本の側から同盟を強化する努力をする必要がある。また、アメリカの総体的
 な低下を日本が補填する意味合いもある。さらに、集団的自衛権行使を容認すれば、オ
 ーストラリア、フィリピン、というアメリカの同盟国と戦時の協力を想定した演習がで
 きる。
・政府が集団的自衛権容認を決定した具体的な理由の1つは対中国の抑止力強化だろう。
 そうであるならば、中国との意思疎通の方法の確立、信頼関係強化、安心供与のシステ
 ムに多くの力を注ぐことが必要だ。 
・アジアでは多くの国が日本の集団的自衛権行使を支持している。アメリカを始め、オー
 ストラリア、タイもフィリピンも歓迎している。日本が集団的自衛権を行使することに
 よって自国の安全に利益があるかもしれない、と考えている国からは日本の決定に支持
 が表明されている。 
 重要なのは集団的自衛権行使容認に懸念を表明している国々との関係だ。集団的自衛権
 行使を容認するならば、それらの国との関係が改善し、紛争を予防するという目的が達
 成されないと意味がない。 
・作用には反作用が起きる。日本が取る行動が他国にどのように受け止められ、どのよう
 な反作用を起こすのかを予測して、行動することが安全保障には重要だ。自分たちの行
 動によって、結果として、より安全になるかどうかが肝心だ。
・南シナ海で中国が拡張主義的な行動を取り、フィリピンと武力衝突したと仮定しよう。
 海洋の安全航行の確保は日本にとってもアメリカにとっても重大関心事だ。また、日本
 は武力による現状変更にも反対の立場を取っている。中国の武力行使に対して、日本は
 静観することを選択するのだろうか。あるいは、集団的自衛権を行使してフィリピンと
 ともに応戦するのだろうか。静観すれば、自由航行の重要性を訴える主張が弱まり、中
 国に対する強制力、抑止力は低下するかもしれない。 
・中国が自国の利益を守るために他国を軍事力で排除しようとする可能性もある。そのと
 き、日本はどう行動するのか?日本は南シナ海の紛争には関わらないほうが、日本の安
 全と地域の安定にプラスになるのか、あるいは、紛争に関わった方が平和が保たれるの
 か。今から考えておく必要がある。
 集団的自衛権の行使容認を含めて、今、日本政府が進めていることは仲間作りだが、他
 国との協力は双方向に義務が生じることを覚悟しないといけない。今は、中国と一番仲
 が悪いのは日本なので、日本が困っている時に他国が協力してくれる、というイメージ
 が強いかもしれないが、その逆もあり得る。しかも、中国との紛争で協力を要請される
 だけでなく、他の第3国との紛争で協力を求められることもあるだろう。その国との関
 係を損ねることは日本の本意ではないかもしれない。グローバル化した世界では、利害
 関係が複雑に絡んでいて、1国に対してしたことが、回り回って自分の利益に害するこ
 とが考えられる。風が吹けば桶屋が儲かる、あるいは損する、ということが、国際政治
 でもある。
・集団的自衛権の行使に向かって動くのであれば、3つのことが不可欠だ。これらをしな
 いで集団的自衛権行使に踏み切ることは、安全を損ねることになりかねず、賛成できな
 い。1つめは、どのような場合に集団的自衛権を行使するかについて、国内で幅広い議
 論をする必要がある。どのような場合に集団的自衛権を行使するのかが明確でないと、
 抑止は成功しにくい。現状は私たち国民だけでなく、潜在的な攻撃国に対しても明ら
 かではなく、明確なシグナルになっていない。
・集団的自衛権はあくまでも手段でしかない。何を守り、どのような世界を作り維持する
 のか、安全保障の目的についての議論が重要だ。 
・安倍政権が掲げる積極的平和主義は、国際主義的な安全保障目標を掲げているが、これ
 が、日本を守るために他国の協力を取り付けるための方策にすぎないのか、あるいは、
 世界の他の地域で起こっている問題が日本にとっても驚異だと認識し、本当に解決して
 いこうと考えているのかについては、明確でない。政府の説明が専ら日本自身の防衛に
 とって必要だという説明に終始したからだ。
・尖閣諸島を強調しすぎることは、中国に誤ったシグナルを送ることになると同時に、日
 本国民に誤ったメッセージを送る。日本政府は、一方では日本への脅威と位置づけなが
 ら、その実、尖閣の問題を軽んじているようにも見える。尖閣諸島の問題は、意図せぬ
 不測の事態から戦争に激化する危険がある。火を扱うような細心の注意が必要だ。
・2つめは、中国との関係改善と関係強化に全力を傾けることだ。失いものが大きい関係
 を築く必要がある。そのためには、外交努力だけでなく、アジアにおける安全保証制度
 の確立を目指さないといけない。 
・3つめは、先の戦争に対する日本人による検証だ。なぜあの戦争が始まり、拡大したの
 か。なぜ、負けたのか。あるいは、なぜ負ける戦争を始めたのか。この問いに答えが出
 せないと、新たな道に進むのは難しい。過去の戦争の原因について検証し、私たち自ら
 が総括できないのであれば、次の戦争の判断をすることはできないのではないかと思う。
・戦後60年の2005年に読売新聞が行った調査によると、68.1%が中国との戦争
 が侵略戦争だったと考えていた。他方、日本の政治指導者、軍事指導者の戦争責任につ
 いて、十分に議論されていない、と感じている人は57.9%いた。これまで、安倍首
 相も含めて何人もの首相が、侵略戦争だったかどうかについて明言を避けているが、一
 般国民の認識とは一致していないようだ。 
・日本政府が、つまり日本が国家として、どう戦争の歴史を認識しているのか、また、ど
 のような認識を持っていると世界各国に訴えたいのか、明確な政策は見えない。日本が、
 新しい1歩を踏み出すのならば、先の戦争の総括が必要だ。どの判断が誤りだったのか、
 なぜ誤った判断に至ったのか、そしてどの行動が間違っていたのか、を明らかにするこ
 とによって、日本は過去の失敗を正すことができる。個人の資質などに落とし込む犯人
 探しではなく、国家や社会の仕組みとして検証する必要がある。

あとがき
・日本はまだ、戦争の歴史を過去のものにできていません。長く、日本では戦争のことを
 語ることを避けてきました。にもかかわらず、日本の安全保証政策が大きく転換しよう
 としています。
・保守であっても、戦争の恐ろしさを知っていた世代の政治家は、安全保障に関してはリ
 ベラルな面を多く持ち、集団的自衛権については慎重でした。安倍首相には、戦争への
 畏れが感じられません。そこに不安を感じます。
・安倍首相を始め、日本政府が戦争をしようと思っているとは思いません。ただ、これま
 での多くの戦争が、戦争をしようと思って起こったわけではないことを忘れてはならな
 いと思います。