ギリシャ危機の真実  :藤原章生

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この本は、ギリシャが財政危機に陥った原因を、探った現地ルポである。この本の内容か
ら察すると、ギリシャがこのような財政危機に陥った根本の原因は、公務員の多さにある
ようだ。なんと勤め人の3分の1が公務員だというのだ。政治家が、自分の当選のために
汗を流してくれた身内や仲間を、自分の地位を利用して、次つぎと公務員の職に就かせて
いくという。そして、一度公務員になれば、クビになることはないのだ。まさにコネの世
界だ。これでは、国の財政が立ち行かなくなるのも当たり前だ。
また、ギリシャ人は世襲が好きだという。政治の世界でも、血統や毛並みがものをいう国
のようだ。どこか日本と似たところがある。
そして、日本の国の借金は、世界ダントツNo.1だ。そして公務員削減の必要性が、何度も
叫ばれながらも、今回の総選挙で、政権が民主党から自民党に戻った途端、またもや公務
員削減は、当面見送られるようだ。
ギリシャが、常に世界一を維持しているものがあるという。それは性生活に関してだ。性
行為の回数が世界一であり、その満足度も世界一なのだ。ちなみに日本はというと、ギリ
シャとは対極にある。性行為の回数は世界最低であるし、満足度も世界最低らしい。なん
とも不幸せな日本民族である。
ギリシャの借金先(国債の購入者)が、自国ではなくそのほとんどが、欧州の銀行や保険
会社だったことが致命傷となったようだ。日本は、国債の購入者のほとんどが、自国だか
らギリシャのようにはならないと言われるが、果たしてそうだろうか。購入した国債は、
国のためなら国に捧げますという奇特な人が、果たしてどれだけいるだろうか。
ギリシャの財政危機を見ると、ますます「明日は我が身」という気持ちになってくる。

「最後の楽園」ギリシャ
・何事もいい面と悪い面が表裏一体となっている。すべてがうまくいくなどということは
 ない。
・欧州の片隅という世界地図の上での位置が幸いし、ギリシャはつい最近まで、よそから
 何も押し付けられず、同時に割と楽に借金ができる立場で自由にやってこれた「最後の楽
 園」だったかもしれない。
・問題はギリシャだけではない。多かれ少なかれ欧州の、特に南欧の国々はこうした「コ
 ロモ」をかぶり、生き抜いてきたところがある。ギリシャを途上国とみる、つまり監視し
 ながら付き合う相手とみなす以上、いずれ、他の欧州諸国が同じ立場になってもおかしく
 はない。

ギリシャ危機の真実
・ユーロ圏には、国が1年間に使ったお金(歳出)から、税金などで手に入れたお金(歳)
 を差し引いた赤字分を、国内総生産(GDP)の3%以内に留めよというルールがある。
・日本の国債を買う人、企業の大半は日本国内だが、ギリシャの場合は8割以上を国外に
 買ってもらっている。ギリシャ人そのものも自国の国債をあまり買いたがらない。
・国のこれまでの積もり積もった借金、政府債務が、日本もギリシャもGDPの100%を
 超えている点だけはよく似ている。ただし、ギリシャは過去十数年、ほぼ横ばいだが、日
 本は小泉時代にわずかに下がったものの、過去20年で3倍に膨らみ、ひとり借金を増や
 し続けている。上の世代がいい思いをした結果、若い世代、生まれてくる赤ちゃんにまで
 莫大な借金を背負わせるという点で両国は似ている。

アテネ暴動はガキ大将の喧嘩か
・私がそれ以前に見てきたよその大陸、さまざまな国で起きたデモや暴動、武装蜂起と比
 べると何かが欠けているからだ。そこに集まった群衆には、もうどうなってもいいとい
 う死活的な動機や、他を圧するような激しい怒り、傍観者をおののかせる力強さ、エネ
 ルギーがない。何かを変えるという差し迫ったものが彼ら自身から感じられないのだ。
 こんなことをしても、政権はおろか、政治構造や、社会のあり方、人々の意識はもちろ
 ん、時代の流れや空気を変える力にはならないのではないか、と私は感じた。

「デモは文化」とみなが言う
・会社が危ないとき、日本の場合、やはり労働者が弱いのか理解があるのか、いつまでも
 ストを続けない。まあ今回は仕方ないと、給与削減やボーナスの減額を渋々と受け入れ
 る。だが、ギリシャの場合は違う。ゼネストは年に数回としても、省庁や民間企業が個
 別によくストをする。自分たちだけでやる分にはいいが、ときに一般人を巻き込むのが
 面倒なところだ。
・デモはギリシャの文化だ。デモそのものはひとつの政府批判の姿で、それ自体が問題な
 のではない。問題はデモから離れ暴動、騒乱を起こす連中だ。
・「デモは文化」という言葉の根にあるのは、それは日々の出来事の延長であり、それ自
 体が何かを揺るがすことはない。こんな騒ぎには我々は慣れっこだから特に気にしてい
 ない、と住民運動を軽く見る目だ。
・とにかく、抵抗することイコール善というのが常識みないになっている。
・ギリシャが事実上、外の勢力から完全に独立し自分たちだけで民主的な国づくりができ
 るようになったのは、軍政後の70年代後半だ。
・中南米やアフリカの近年の軍政に見られるように、軍のクーデターは、政治家たちの汚
 職がひどくなり、人心が乱れ、経済の悪化で庶民の暮らしがひどくなった状態を一度ご
 破算にして、統治そのものを立て直す、世直しの意味合いが強い。
・軍人たちが、クーデターで世に出てくるのは、偶然ではない。そこには、植民地時代の
 名残、封建制的な社会という背景がある。簡単にいえば、ごく一部の富裕層だけが利権
 を握りますます富み、貧しい者には這い上がる手立てがない社会だ。
・日本ではなぜギリシャのようなデモが起きないのか、という声をときどき耳にするが、
 「デモは文化」と言えるギリシャと日本では舞台もその歴史もまったく違う。若者にギ
 リシャのように暴れろと言っても無理なのだ。それに、その必要も感じていないはずだ。

シュールなドラマ
・政治家は詐欺師みたいなもの。うまいことを言っては当選し、あとはその地位を利用し
 て身内や仲間を雇い、コネで支持者の子息に職を与えるような人たち、と政治家不信が
 底にある。ただし、不信とは言っても、新たな公務員職をつくらせたり、公務員給与、
 年金を増額させるなど、選挙のたびに政治家をうまく利用してきたのは国民である。
・公務員の数はかなり多い。特にここ数年の増え方が激しく、アテネの経済学者たちはこ
 れを「爆発」と呼んでいる。人口爆発ならぬ公務員爆発である。
・公務員は選挙のたびに増え09年は、00年に比べると3割強増えて114万人に達し
 たという。これは労働人口の21%、雇用者の3分の1に及ぶ数字だ。勤め人の3人に
 1人が公務員なのだ。
・この国の統計はどれにもあてになりません。ギリシャ政府がそもそも公務員の実数を知
 らないばかりか、それを調べたこともないという。
・数値で見るギリシャと現実のそれとはずいぶんと落差がある。正しい数字がわからない
 のに加え、GDPの3割から4割、数年前までは5割と言われた無税ど動く非公式の金、
 闇経済があるからだろう。
・公務員が副業を持つのは南欧や途上国ではよく見られることだが、ギリシャの場合、そ
 れに加えて、民間企業の社員も給与では暮して行けず、ウェイトレスや皿洗いなど飲食
 店の仕事から、企業の下請けの仕事まで、「無税」が常識の副業で食べている人が少な
 くない。
・途上国の多くがそうであるように、ギリシャは統計に表れるイメージよりもお金がよく
 回っている。そして人々が割と豊かに見えるのはやはり闇があるからだろう。
・ギリシャ人は全然働かずに要求するだけ。もらえるものは何でももらい、ずる賢く立ち
 回る人たち。
・ギリシャは欧州諸国の中で平均労働時間が最も長く、年間約1900時間で、第2位が
 スペインの約1800時間だった。
・ギリシャが世界一を維持する有名な統計がある。避妊具メーカー大手による世界26カ
 国対象の性生活調査によれば、ギリシャ人は性行為の頻度や満足度では常に世界一だ。
 イタリアやスペインなどカソリックの国は多少の貞操観念、罪の意識があるが、ギリシ
 ャ正教は性行為について厳しい戒律をしていない。

「事業仕分け」を我が国に
・ギリシャには省庁や自治体、軍、警察など一般的な行政機関のほかに、5000もの公
 共機関がある。選挙のたび、そして、支持者たちにせがまれるたびに、そのときどきの
 政権は省庁や、新たな外郭団体をつくることで公務員ポストを膨らませてきた。
・官僚の仕事の量は、完成のために与えられた時間をすべて満たすまで膨張する。ギリシ
 ャに限らず、多かれ少なかれどの国にもある役所の習性なのだろうが、この国の問題は
 いくら公務員が増えても、サービスがまったく良くならないこと。つまり数が増えても、
 仕事量がその分増えるわけではない。その結果、生産性はどんどん落ちるばかりだ。
・公務員の増加が一番の理由だが、過去10年、急激に増えたのが大きい。特にアテネ五
 輪が開かれた04年の前からのここ6,7年がひどい。全公務員組合に支給される人件
 費の総額は過去6年で2倍に増えた。政治家が投票してもらうため、公務員組合の要求
 をのみ、ただ金をばら撒いただけ。こんなことは、我々と同じように経済状態が良くな
 いポルトガルでもアイルランドでも起きていない。ギリシャだけの話だ。
・人口比ではギリシャよりやや小さいが、人口5900万の役人大国イタリアには365
 万人の公務員がいる。

世襲がもたらした「全ギリシャ借金運動」
・日本人もそうだが、ギリシャ人も世襲が好きである。政治こそ本来、血統や毛並みに関
 係なく、独立した力のある人が選ばれるべきだろうし、世襲でなければ這い上がれない
 環境は、ぽっと出の才能の芽を奪うことになる。必然、活力は弱まる。
・当初は「国内の富裕層からぜいたく税をとり、それを貧困層にまわす」という左翼好み
 の公約を繰り返したが、そう簡単に金持ちはお金を出してくれない。結局、富裕層から
 の徴税はうまくいかず、あとは国債を乱発して、外国からお金を借りるしかない。
・80年に国内総生産(GDP)の30%だった政府債務は、90年には90%に膨れ上が
 っていた。これを見ただけでも、借金を膨らました張本人がこの「社会主義運動」であ
 ることは明らかだ。
・政府債務は2010年現在でGDPの約120%に達している。これはギリシャに限らず、
 日本も米国も同じだが、自分の子ども、孫の世代が返せばいいか、とつけを後にまわす。
・国際通貨基金(IMF)推計のドル建ての国内総生産(GDP)で比べるとギリシャは09
 年、世界第27位で約3300億米ドル。これは第2位の日本、約5兆ドルの66分の
 1に過ぎない。
・ギリシャは90年代末から04年にかけては、ユーロ圏入りをはさみ、本来なら緊縮財
 政を続ける時期だったが、五輪を実現させるために公共投資は絞れないという感覚が政
 府に蔓延し、無駄遣いが当たり前のようになってしまった。
・高齢化が深刻で財源は縮む一方なのに、政治家は年金支給額を減らす努力をまったくし
 てこなかった。教育費はタダだし、医療費もタダに近い、実に寛大な政府を演じてきた。
 年金を破綻させないためには、思い切った削り込みが必要になる。ほんの数年しか働い
 ていない人と、20年、30年働いた人の年金が大して変わらないという問題もある。
・すべてうまくいっても、政府債務は2014年にGDPの150%になる。比率は日本の
 方が大きいが、ギリシャの問題はその債務のほとんどが欧州の銀行や保険会社などで、
 返済期間の迫る短期の国債が多いことだ。国民が買い手の日本とは条件がまったく違う。
 債務の80年代半ばと同じ60%にまで減らすには、すべて順調にいってもあと30年
 はかかる。

ヨーロッパ人じゃない?
・ギリシャ人はヨーロッパ人じゃない。
・ギリシャ人も平日は頑張って働くけど、週末はみな海や山で過ごしたい。そこでぜいた
 くをするわけでじゃない。ただ自然の中で短い時間でもいいからゆったりと過ごす。そ
 れがギリシャ人の本来の姿。どんなに貧しくなってもその暮らし方は変わらないと思う。
・急速に都市化はしたが、もとからの牧歌的な生活、自然を好むギリシャ人は金持ちも貧
 しい人もみな、仕事以外の時間はできるだけ、田舎で過ごしたがる。
・今回の危機でよく語られるのは、ユーロではなく自国通貨を持っていれば、2001年
 のアルゼンチンのように通貨の価値を落とし輸出力をつける策があったという声だ。し
 かし、ギリシャはユーロ圏に入ったおかげでここまで発展した。輸出できる際立ったも
 のがなく、財政管理もうまくはできないギリシャが、南欧の中で一国だけ独自通貨を持
 ち、いまと同じ程度に発展できる保障はなかった。
・パトロンを探すのに長けていながらも、そのパトロンを敵視する、実にやっかいな存在
 というのがギリシャの一つの持ち味だ。
・ギリシャ人は現状にすぐ慣れるのです。そして変化に強い。今回の危機など、長い歴史
 に中で見れば大したことではありません。周りが騒ぎすぎるのです。
・バルカン半島のはしっこと、幾つもの島々でできた土地、ギリシャは紆余曲折、数々の
 不幸を経てきた。住人たちに古代ギリシャの血を受け継いだ人はほとんどおらず、大半
 は他の地域から流れてきた人々の混成だ。あらゆる歴史を経てきたからこそ、何があっ
 ても動じない、ということを言いたいようだ。
・何を言われようと、どれだけ困ろうと、頑固に生活スタイルを変えない人々、ギリシャ
 人には、したたかで図太いところがある。

ギリシャ政府はどう改め、何を国民に強いるのか
・歳入から見ると、一番大きいのは、日本で言う消費税、付加価値税の税率を上げること
 による収入だ。すでに2010年3月に緊縮策で19%から21%に引き上げられた付
 加価値税が6月には23%になった。
・一方、支出の方を見ると、これまで支払われていた2カ月分のボーナスをカットするな
 ど公務員の給与削減で15億。年金のボーナス2カ月分のカットなど年金関係で約30
 億。公共機関の閉鎖など政府をスリム化することで97億を減らそうとしている。
・政府としては国有鉄道など公共機関を民営化し、これまで海外投資や民間企業の邪魔に
 なってきた許認可の煩雑さを思い切って緩める考えだ。
・労働市場の自由化→労働コスト減→国の生産性、競争力向上→輸出増。つまり、レイオ
 フされた公務員や本来なら公務員になるはずの若者たちを民間企業に吸い上げてもらい、
 輸出で稼いでもらい、一気に借金を減らしたいという狙いだ。
・ギリシャは輸入が極端に多い貿易赤字国で、輸出品も衣料など繊維製品やオリーブをは
 じめとした果実とその加工品、タバコ、アルミニウムや機械部品などで、急速に伸びそ
 うな分野はなさそうだ。
・借金を返すまでの30年は辛抱の時代が続く。