負動産時代   :朝日新聞取材班

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日本では、少子化・高齢化に伴い、空き家問題が進行しつつある。これは、少子化による
人口減少だけが原因ではない。明らかに空き家が増えているのに、さらに新築の住宅建築
を推し進める方針のままの国の住宅政策も一因になっている。
空き家問題ばかりではない。地方では、利用されていで放置されたままの土地が増え続け
ている。所有者が死亡しても、相続登記が行なわれなかったり、利用価値がないわりに、
高い固定資産税が重くのしかかるため、相続放棄されて、宙に浮いたままとなっている。
日本では相続登記は義務ではない。しかし何代にもわかって相続未登録が続くと、子、孫、
ひ孫と相続人の数はねずみ算式に増えていき、相続未登録の土地や家は、それらの相続人
の共有資産となるので、権利関係が複雑になっていき、誰のものかがわからなくなってし
まう。このようなことは、地方ばかりではなく、大都市部においても起きている。
こうして取り残された土地や家が、誰のものかわからなくなっているため、手をつけるこ
とができず、道路拡張などのときに邪魔になったり、東日本大震災の時のような大規模災
害のときの復興の大きな妨げになる。また、山間部においては、手入れがされないまま放
置されたままの森林が、近年、毎年春先に多くの人を苦しめる花粉症の一因にもなってい
ると言われる。
日本の登記制度は、本来は所有者の権利を守るためのものであるが、相続人が複雑になっ
てしまうと、逆に祖先から受け継いだはずの資産に手をつけることができず、活かせなく
なってしまうという側面もある。
また、利用価値が少なく、相続したくないと思っても、日本の民法には「土地を捨てる」
という手続きの定めがない。利用価値がなく高い固定資産税が重くのしかかるだけの土地
を、国や自治体に寄付したいと思っても、国や自治体は基本的には寄付を受けつけてくれ
ない。
それなら相続放棄だということになるが、相続放棄された土地を直ちに国が引き取ってく
れるわけではない。相続放棄された土地は、家庭裁判所を通じて「相続財産管理人」を立
て売却が試みられるが、利用価値の少ない土地は買い手は付かない。手を尽くしても売却
できなかったときに初めて、国が引き取ることになる。そしてそこに至るまでには、長い
年月が必要となる。
日本の税収全体における固定資産税の割合は約9%と、税収全体に占める割合はそれほど
大きいとは言えないが、それでも、まったく利用価値のない土地なども必ず固定資産税が
かかるため、そういう土地を所有している人にとっては、マイナス資産でしかない。それ
を手放したいと思っても、国や自治体が簡単には引き取ってくれないとなると、相続放棄
するか、相続登記の手続きをしないまま放置するかしかない。こうして、どんどん全国に
所有者が確定できない土地が増えていく。
このような問題は土地だけではない。今後は分譲マンションでも、同様の問題が起こって
くるだろう。相続放棄や相続登記の手続きがされない、所有者不明の空き部屋を抱える老
朽化マンションが、全国に出現していくだろう。分譲マンションは区分所有者の共有資産
のため、所有者不明の空き部屋があると、荒廃して誰も住まなくなっても、取り壊すこと
が困難になる。
このようなすでに制度疲労を起こしている現行制度をこのまま放置していることは、国の
怠慢だ。国民にそのツケを押し付けたままにしていると言われても仕方がないだろう。早
急に制度の抜本的な改革が必要だろう。
「国を守る」とか「国民の安全を守る」ためと言って、憲法改正だ、防衛力強化だ、と叫
んでみても、足もとでは国内の土地がどんどん所有者不明になっていくのでは、何を守っ
ているのはわからなくなる。これは、もはや滑稽ですらある。

まえがき
・マンションのモデルルームで営業マンから「いまの家賃と同じような月々の住宅ローン
 の額で、同じ間取りの部屋に住めますよ」と言われて心が動いたら、それは不動産の維
 持管理費が重いのに、売るに売れない「負動産地獄」への第一歩になる。
・なぜなら、住宅ローンの支払い以外に、マンションを所有することによる管理費、修繕
 積立金、固定資産税などの負担があることが計算外になっているためだ。
・マンションを販売する時には、負担が少なく見えるように修繕積立金を低く設定する傾
 向がある。一方、系列会社であることが多い管理会社に支払う管理費は高い。十数年で
 やってくる最初の大規模修繕でこの構図に気づいた管理組合の中には、管理会社を変え
 て管理費を抑え、積立金を引き上げるところもある。これをせずにいると、二十数年後
 の2回目の大規模修繕で積立金が足りなくなり一時金が必要ななることがある。
・人生は長い。ところが、リストラは珍しくなく、高齢期に仕事があるとは限らない。年
 金は減り続けている。
・あなたが維持管理費を頑張って払い続けられたとしても、同じマンションの入居者がそ
 んな人ばかりとは限らない。
・負動産のもうひとつの特徴は、共有者が多くで自分の意思だけでは身動きできなくなる
 ことだ。現在は、相続があっても所有者を変える登記をせず、放置することが問題にな
 っている。子や孫の相続人が共有者になるため、売るにしても使うにしても、全員の合
 意が必要になり、身動きが取れなくなるのだ。
・マンションはもともと入居者の共有部分が多い。今後、共有者の意思統一の難しさに直
 面するマンションが増えるだろう。 
・マンションの建て替えが可能なのは、
 @駅前などの条件がよい場所にたっている
 A高層化する余裕があり、余った部屋を売って建築資金にできる
 などの条件がそろった物件でないと厳しい現実がある。
・かといって、マンションの取り壊し費用は高く、土地が売れる保証もないので、取り壊
 しも難しい。 
・子孫に相続するにしても、すでに平均寿命は80歳を超え、相続の時には、子供も50
 歳前後になり、マイホームを構えていることが多い。その時、老朽化したマンションは、
 売るに売れない可能性が高い。ところが負担は変わらない。
・日本の住宅総数は総世帯数を超え、2013年の調査で14%だった空き家率は増え続
 けている。2033年には30%になると推計されている。
・こうした負動産の問題は、主に地方都市で顕在化している。わかりやすいのは、バブル
 期に建ったリゾートマンションだ。スキーブームの時に乱立した新潟県湯沢町のリゾー
 トマンションは、いま、10万円でも買い手がつきにくい。  
・マンションの大量供給は1990年代からで、30年が経ったくらいなので、こうした
 ことが社会問題化するまでには、もう少し時間がかかる。それまでに、少子高齢化とい
 う社会の変化に合わせた負担のあり方を考える必要がある。
・今日、負動産における問題として耳目を集めているのが、サブリース問題だ。背景には、
 更地だと相続税が高く、借金があれば相続財産から減額されるという住宅供給を優先す
 る制度のひずみがある。これが、賃貸アパート建設の営業を後押しし、需要もないのに
 アパートを建ててしまう人が各地で後を絶たない。また、未だに、価値がない土地に購
 入話を持ちかけ、大金をだまし取る「原野商法」の被害者がなくならない。

捨てられる家と土地
・不動産登記が法制化されたのは、民法制定よりも早い1886年(明治19年)だ。封
 建制度が改められ、土地の利用や売買が個人の自由になったことから、国が土地の権利
 関係を証明する必要に迫られ、不動産登記制度ができた。 
・相続登記は昔も今も義務ではない。何代にもわたって相続未登記が続くと、子、孫、ひ
 孫、と相続人が増える。相続人は土地の共有者なので権利関係が複雑になり、誰のもの
 かが特定できなくなってしまう。
・相続時にきちんと登記せずに長年にわたって放置すると、法定相続人がねずみ算式に増
 えていき、どうにも動かせない「塩漬け」の状態になってしまう。
・相続登記がされていないために所有者がわからない土地は珍しくない。公共事業を進め
 ようとすると、膨れ上がった相続人を探すだけで、市は膨大な作業を強いられる。人手
 不足も悩みの種になっている。 
・登記制度は、本来は権利を守るためものだ。しかし、登記簿に所有者として名前を載せ
 られないばかりに、自分たちが祖先から受け継いだはずの資産を生かせずにいる人たち
 がいる。
・複雑に絡まった権利関係を整理し、彼らが法的にも所有者として認められれば、きっと
 空き家や自らが住むアパートは建て替えられ、家主として違った生活が送れたであろう。
・都会の一等地がろくに使われないまま「土地が死ぬ」事態は、経済的な損失だ。周囲の
 住民や歩行者にとっても危険な状態が続くという負の影響がある。
・「真」の所有者が分からない所有者不明の土地が全国に広がっている。 
・何代にもわたって相続登記されずにきた土地は、子、孫、ひ孫の代へと所有者がねずみ
 算式に増えてしまい、売るに売れない「塩漬け」の土地になる。
・名義人の死亡後も相続登記がされなかったり、住所が変わっても名義人と連絡がつかな
 くなったりしている土地は「所有者不明土地」と定義され、2016年時点で九州より
 広い約410万ヘクタールに達すると推定されている。
・これだけの土地が所有者不明とみられる背景には、都市郊外や地方を中心に、人口減少
 で土地の資産価値が下がっていることがある。資産価値が低くても管理コストや固定資
 産税などの負担がかかるため、だれも相続登記せず、長年にわたって放置される構図だ。
・将来どれくり所有者不明の土地が増えるかの推計も出ており、2040年には北海道の
 面積に迫る720万ヘクタールに達し、2016年の1.8倍近くまで広がると予想さ
 れている。 
・これは、森林の荒廃だけではなく、都市部であっても土地取引の停滞などにつながる。
 土地を使えれば得られた利益や、所有者調査のために必要な自治体職員の人件費など、
 経済損失は2040年には3100億円に膨らみ、累積に6兆円にのぼると推計されて
 いる。
・空き家対策法に基づいて行政による代執行で建物を取り壊す方法もあるが、いまは倒壊
 などの差し迫った危険がない場合、市などが税金を使って取り壊しても、その費用を所
 有者から回収できる見込みがないので、手の打ちようがない。土地の所有者さえ分かれ
 ば何らかの方法が取れるが、見守り続けるしかない。
・自治体だけでは解決できない。いまは任意の相続登記の義務化が必要だし、自治体が簡
 単な手続きで不明土地を管理・処分できるような仕組みもつくるべきだ。
・日本の土地制度は「土地神話」に支えられ、資産価値を失わない前提でつくられている。
 「捨てる」ことは想定されておらず、相続放棄しても、そのまま国や自治体が引き取っ
 てくれるわけではない。処分に困る土地が増えていることは、土地制度自体が曲がり角
 にきていることを意味する。
・資産価値が下がると、お金を払ってまで相続登記する動機がなくなり、放置されやすく
 なる。放置が何十年も続くと相続人が増え、相続や売却はますます難しくなる。こうし
 た物件の増加は、防災や街づくりに支障をきたしたり、中山間地では誰も管理をしない
 場所ができることで、鳥獣被害や森林機能の低下を招いたりする。
・空き家が周囲に危険を及ぼしたり住環境に影響を与えたりすることで、その地域から人
 口が流出していき、町内会が機能しなくなる。ゴミステーションの管理や街灯の取り換
 えなどをしなくなれば、地域はどんどん荒廃していくことになる。
・こうした現状や将来の姿を踏まえて、人口が減って地域の機能が低下しているところか
 らは、できるだけ縮退していき、駅の近くの便利なところにマンションを整備して、そ
 こに移り住んでもらうような対策を講じなければならなくなるかもしれない。
・日本は戦後の高度経済成長期から、田中角栄首相による「列島改造ブーム」、バブル景
 気と、大きな景気の波にもまれながら、地価がほとんど下がることはなく、持っている
 うちに大きく上がることを繰り返してきた。土地を持つことに憧れにも似た「土地神話」
 が育まれてきた。このため土地やマンション、アパート投資といった「おいしい話」に
 つられて失敗する人が後を絶たず、土地神話は亡霊のようにさまよっている。
・「リゾート開発計画がある」「新幹線が通る」などとだまし、山林などの原野を時価の
 数十倍から数百倍の価格で売りつける原野商法は、高度経済成長期を象徴するが、これ
 が再び注目を集めている。
・都市部で近い将来、とくに深刻化するとみられるのがマンションの問題だ。分譲マンシ
 ョンは2017年末現在で644万戸。マンションの居住人口は国民の約1割に相当す
 る約1533万人と推計される。築40年超は73万戸あり、2027年には2.5倍
 に達すると予測されている。
・建物とともに所有者の高齢化も進む。高齢になるほど、建て替えたり、壊して売却した
 りする動機は生まれにくくなる。 
・一つの建物を複数の住民で共有するマンションは、区分所有という特殊な所有形態をと
 る。このため、マンションを解体し、その跡地を売却しようとすると、耐震不足や大規
 模被災した場合を除き、所有者全員の同意が必要になる。こうした取り決めが、住民合
 意への高いハードルとなり、たった一人の反対によって解体したくてもできない状況に
 陥るケースがある。
・通常のマンションでも住民の多数決で売却できる仕組みが必要だ。それでも、実現する
 のは解体費を上回る土地の売却益が見込める場合に限られる。高齢者が多いマンション
 だと現状維持を望む声が強まる可能性がある。マンションは運命共同体の宿命を持って
 いて、抜本的な解決法はない。 
・一戸建てと違って、住民の共同所有という特殊な形態をとるマンションは、解体や建て
 替えといった建物の「終末期」だけで問題が顕在化するわけではない。マンションの建
 設から15年ほどの周期でやってくる大規模修繕や、壁や廊下などのちょっとした補修
 は、住民がつくる管理組合がお金を出して対応しなければならない。
・それに備えて、マンション住民は毎月、管理費や修繕積立金を支払っている。ところが、
 所有者が死亡したマンションの1室が相続放棄され、管理費などの滞納が積み上がり続
 けて、回りに回ってほかの所有者にも負担のしわ寄せがいきかねない管理組合もある。
・「滞納」が多いマンションは、その部屋自体に滞納がなくても買い手がつきにくいとも
 いわれ、売値が下がる傾向にある。1部屋の「負動産化」が、ほかの所有者たちに影響
 しかねない状況だ。 
・日本の居住形態としてマンションが登場したのは1950年代だった。建物の老朽化と
 ともに住民の高齢化も進み、管理が行き届かなくなった物件が出てきつつある。こうし
 た「限界マンション」が10年後、20年後に急増する可能性がある。
・考えられる対策は三つあるとされるが、どれも簡単ではない。
 (1)大規模修繕を計画的に進めて建物の寿命を延ばす。ただ、資金計画の見通しの甘
    さから2回目以降の修繕費が足りなくなるケースは少なくない。 
 (2)マンションの建て替えだ。各戸の所有者のうち5分の4以上の同意が必要になる。
    加えて、建物の容積率に余裕があり、建て替えで部屋を増やせる前提がないと住
    民負担が大きく、費用を賄えない。要は、増やした部屋が売れるだけの立地の良
    さがないと建て替えは難しい。
 (3)建物を解体して敷地を売却する方法だ。これは被災した建物や耐震不足の建物で
    ない限り所有者全員の同意が必要で、ハードルが高くなる。
  いずれの方法も結局は「壊すとしたら誰がその費用を負担するのか」という問題に行
  き着くことになる。
・マンション購入時点から解体費用を積み立てることがひとつの解決策となる。子が相続
 する、あるいは将来誰かが買ってくれることは約束されない時代に入った。普通の大き
 さのマンションで1室、戸建てで1戸あたりの解体費は200万円くらいかかる。人口
 減の時代、購入した人が建物の最期の心配までするというのがポイントだという。
   
リゾートマンションの黙示録
・リゾートマンションは、スキーなどで使わなくなった人にとって、固定資産税や管理費
 が出て行くだけの「負動産」になった。基本的に、週末などに遊びに来る場所なので、
 都会のマンション以上に関係が希薄だ。個人情報保護の観点から、入居者名簿を持たな
 い管理組合もある。管理費などを督促する費用もかさむため、滞納が放置されやすい。
 しかし、少子化で住む人が減ると、一般のマンションにも同様のことが広がりうる。リ
 ゾートマンションを「特殊なケース」としては片付けられない現実がある。
・バブルのころ、リゾートマンションは金持ちの象徴だった。ところが、バブルが崩壊す
 ると投げ売り状態になり、価格は大きく下がる。所有者が来なくなり、管理費などを集
 められない部屋が増えているため、裁判所の「競売」で強制的に売却される物件も出て
 くる。
・競売は、住宅ローンを貸した銀行などの金融機関が、担保にとった物件を売却する最終
 手段で、期限を決めて入札する。通用の不動産取引だと、関心がある人は不動産業者が
 物件の中まで案内するが、競売はそれができないため、内部の写真も公開される。
・競売で落札した人は、住宅ローンなどの残債を引き継ぐ必要はないが、マンションの管
 理費などの滞納は支払う義務を負う。そうしないと他の入居者につけが回るためだ。と
 はいえ、落札した人にとっては、自分に関係ない滞納お支払いを求められることになる。
 そのため、マンションの評価額は滞納額を差し引いたものが設定される。
・滞納額を差し引くと価格がマイナスになる物件があるが、競売で落札した人にお金を渡
 すわけにはいなない。そのため、裁判所は最終的に最低入札価格を「1万円」と設定す
 る。これは会計用語で「備忘価格」と言われるもので、存在を否定するわけにはいかな
 いために、形だけ価格をつけている物件というわけだ。    
・最近の競売は、滞納が多くて1万円になる物件がほとんどだが、たまに滞納が少なくて
 1万円を上回る価格がつく物件がある。そういう物件は購入後に滞納分を支払ってもそ
 の価値があることを意味するため、かえって人気が集まる。
・リゾートマンションの価格は下がり続けている。2010年度には全国平均1万2千円
 余り(1平方メートル)だったが、2017年度には3612円(1平方メートル)ま
 で下がった。
・ちなみに、全国のマンション価格の平均額は2015年度には15万円余り(1平方メ
 ートル)だったが、2015年度には約11万6千円(1平方メートル)と急落した。
 これは、2015年10月に発覚したマンションの杭工事のデータ偽装問題の影響が大
 きい。
・マンションは、安くなると様々な人が買って入る。暴力団員とはっきりしていれば、警
 察の協力で暴力団対策法で追い出すことができる。ところが「半グレ」と呼ばれる連中
 はやっかいだ。もとの住民は嫌気が差して出てしまう心配がある。マンションには管理
 組合に億円単位の修繕積立金がある。こうした連中が所有者として理事になれば、管理
 組合を合法的に支配し合法的に好き放題にお金を使い、大変なことになる。
・最初から前所有者が残した滞納を引き継がなければならないリゾートマンションの競売
 物件を買う人の中には、すぐに滞納を始める人がいる可能性がある。競売は手続きを始
 めてから売却までに1年近くかかる。新たな所有者が滞納をしてもすぐに競売手続きを
 始めるわけにはいかない。そうこうするうちに2〜3年はすぐに経つ。仮に1万円で落
 札したら、管理費を滞納していても温泉の共同浴場に入り、プールなどの豪華施設を使
 うことはできる。リゾートマンションは共同施設が充実しているため、そこで生活する
 分には水道光熱費を低く抑えることができる。その分、管理費が高く見えるが、それに
 タダ乗りしながら、次の競売にかかるまで「リゾートライフ」を満喫できるのだ。
・管理組合も、その対策は考えている。競売にかけられた部屋を自ら落札するのだ。
・通常の裁判所の競売は、銀行などの金融機関が申し立てて行われることが多いが、最近
 の湯沢町のリゾートマンションは、金融機関の申し立てる競売は聞かなくなった。競売
 にかけるには、弁護士費用などで1件100万円程度かかるとされるが、売却額はそれ
 に届かない。一方、管理費などを滞納する人は固定資産税も滞納していることが多い。
 税金は、競売の落札額から優先的に引き去られる。そう考えると、競売にかけても得ら
 れるものがないどころか、ただ経費をかけるだけになってしまうのだ。  
・そもそも、最近のリゾートマンションは金融機関から借金をして買うような金額ではな
 くなったこともある。滞納を止めるために競売にかける管理組合は、費用をかけて自分
 で落札しても得をしないので、できるだけ低い価格で落札したい。ところが、誰が入札
 に参加してくるかがわからない状況になり、新たな負担増に苦しめられている。
・マンションの悩みは、管理組合役員のなり手がいないことだが、リゾートマンションは
 たまに来て使う人が多いため、いっそう深刻だ。ところが湯沢町のあるリゾートマンシ
 ョンでは、部屋を買った人が、すぐに管理組合の役員に立候補するという不思議な現象
 が起きている。新たに理事になった人たちは理事長と行動を共にして、理事会の多数派
 を形成したことから、理事長の意向が通りやすくなったという。理事長が今後、どのよ
 うな運営をするか注目されている。 
・1990年前後のバブル期には、日本人も欧米のように長期休暇を楽しむようになると
 はやされ、各地が別荘地やマンションの開発・分譲ラッシュに沸いた。政府もその開発
 を後押しした。当時の「土地神話」とあいまって、値上がりに乗り遅れないようにとあ
 おるような販売もあった。
・そんな時代に手に入れた「夢の別荘地」も、いまでは子供に残したくない「負動産」に
 なっている。こうした売るに売れない「負動産」を、お金を払ってでも処分したいとい
 う動きがでてきた。
・かつて土地は、持っているだけで値上がりする大切な「資産」だったが、いまや持って
 いるだけで税金や管理費がのしかかる「お荷物」だと感じる人が増えている。
・五輪を控えた東京など大都市の都心部の不動産市場は活況だが、リゾート地や地方都市
 は地価の下落が止まらない。
・1970年代に開発が始まった別荘地一帯は、別荘として利用する人もいれば定住者も
 いるが、空き家や、雑草が生い茂ったまま放置された区画も目立つ。
・静岡県内の別荘地では、10万円や20万円など格安の売買が珍しくなったという。格
 安で買った人たちは、ガレージにしたり、ドッグランにたり、畑にしたりしているとい
 う。格安だという理由で、目的はなくても土地を所有することに満足を覚える人は、今
 でもいる。
・不動産は、誰かが所有していることになっている。所有者が亡くなり、相続で手に入る
 ものならと、よく調べもせずに所有者になった人は、しばらくすると使わないのに維持
 費がかかるだけと気づく。そうなると、ただでもいいから手放したいと思いつつ、自分
 が所有者であることは確かなので、ほかの所有者に迷惑がかかることを考えると、無責
 任にも放置もできない。
・不動産は、きちんと調べないと何があるかわからない。契約書の面積と実際が違ってい
 たり、雨漏りがしたり、場合によっては登記簿に載っていない権利が設定されていて、
 あとから怖い人が現れるかもしれない。競売は裁判所が入ることでそうした問題がなく
 なるが、費用と時間がかかりすぎて、価格が下がり過ぎた不動産では使われない。この
 ままでは、地方の物件を取り扱う業者がいなくなり、物件が動かず、価格が下がる悪循
 環になる。
・マンションは運命共同体だ。リゾートマンションは、ブームが去り、所有者の高齢化も
 進み、利用する人が減ったことで、管理費や修繕積立金が思うように集まらない危機に
 直面している。これは、普通のマンションにとっても他人事ではない。人口減少と都心
 回帰で大都市の周辺部では空き家が増え、管理費や修繕積立金、固定資産税は、プール
 や共同浴場を備えるリゾートマンションほど高くはないが、収入が減った年金生活者に
 は重くのしかかる。滞納との戦いは始まっている。
・住宅の競売は、住宅ローンお返済が滞ったことを受け、金融機関が債権者として裁判所
 に申し立てるのが一般的だ。リゾートマンションでは、管理組合による競売がおこなわ
 れるところもあったが、一般マンションでは難しい。なぜなら、物件価格が「1万円」
 のリゾートマンションと違い、一般マンションは滞納額より物件価格の方が明らかに高
 いため、滞納金を理由に競売にかけるのは権利の乱用にあたるとの判断があり得るため
 だ。共用部分が豪華で維持費がかさむリゾートマンションの管理費は、一般マンション
 に比べて高くなりがちという事情もある。 
・しかし、こうした管理費の滞納が、ほかの住民に損害を与える悪質なものと認定されれ
 ば、マンションの権利や管理などについて定めた「区分所有法」の59条で競売にかけ
 ることが認められている。ただし、59条を使うためには、管理組合ではなく、滞納者
 と同じマンション棟の所有者が、損害を受けていると訴え、競売の手続きをしなければ
 ならない。
・滞納の原因は無理な住宅ローンにある。マンションを売る側は毎月の支払いが家賃並み
 の額で買えるなんて言うが、実際に買ったら管理費も修繕積立金もずっとかかる。それ
 をわからずに買っているから行き詰るのだ。 
・古いマンションは大規模修繕のための積立金負担が増えるのに、所有者は高齢化して収
 入が減る。マンション住民の高齢化で滞納問題は全国的に深刻化しているはずだ。認知
 症や孤独死で滞納になるケースも増えているが、そういう人のなかには親族と連絡が取
 れず、管理組合が対応に困るケースも出てきている。
・リゾートマンションで起きていることは、今後、都市部のマンションでも起こりえる。
 少子化の一方で住宅の新築は続いているので、空き家は増え続けている。今後、不便な
 場所にあるマンションから、価格は下がっていく可能性がある。入居者は高齢化して管
 理費などの経費を払い続けることが難しい人が出てくる。一方、建物も老朽化して、修
 繕費はかかるようになる。では、建て替えができるかというと、それには多額の資金が
 必要で、入居者の合意形成も欠かせない。
・確かに管理組合の運営は大変だが、自分が住んでいるマンションは入居者同士がよく理
 解しあっていて、負担能力がある人なかりだといえる人がどれだけいるだろう。マンシ
 ョンは運命共同体だ。自分がしっかりしていても、管理組合の運営がうまくいかないと
 エレベーターさえ動かなくなる。特に、管理費や修繕積立金などの滞納は、放置すると
 手がつけられなくなる。

サブリースの罠
・人口減が進む日本で、賃貸アパートは増え続けている。賃貸アパートの経営者は古くか
 ら「大家さん」と呼ばれ、所有するアパートを自ら管理・運営することも多かった。
・近年はこうした「大家さん」という存在は減り、管理会社が入居者の募集からアパート
 の管理、修繕などを一括して請け負う形態が増えている。 
・その中でも、地主のオーナーが建てたアパートを不動産業者が一括で借り上げ、入居者
 にまた貸しする契約のことをサブリース契約と呼ぶ。
・今ではサブリースでなければ新規の建設はほとんどできないと言われるほど広がってい
 る。 
・空室の有無にかかわらず、オーナーには家賃が支払われる。入居者募集や物件の管理な
 どは業者側が行う。一見すると手軽に思える手法で、オーナーも安心してアパート経営
 に乗り出せそうな手法だが、ここに「負動産」を生む落とし穴がある。
・男性は市街地から離れており、農地も多いためアパート経営には不向きと考えていたが、
 足繁く通ってくる営業の社員から「家賃を30年間保証します」と言われて飛びついた。
 男性の両親は反対したが、広い土地を持っているから、借金を作って相続税を減らさな
 いと遺産相続ができないと言って説得し、両親と共同名義でアパートを建てた。
・だが、男性が建設した時期と相前後して、その地区には次々とアパートが建てられた。
 男性がアパートの名称などから調べたところ、レオパレス21の物件が多くを占めてい
 るが、他の不動産業者もこの地区の地主を回り、アパートを建てていた。
・30年保証と言われていたはずの家賃も、築10年で約2割の引き下げを求められた。
・オーナーが建てたアパートを不動産業者が一括で借り上げ、入居者にまた貸しするサブ
 リース契約は、一定の家賃保証期間は決まった家賃が入るが、その保証期間が切れると
 家賃の引き下げを業者から提示されることがある。   
・賃貸住宅建設大手の大東建託グループやレオパレス21がこれまで手がけてきたサブリ
 ース物件の多くは、家賃の固定期間が10年に設定されている。 
・アパートを建てるのはあくまでオーナー自身のため、建設費を負担するのはサブリース
 業者ではなくオーナーだ。家賃保証期間が過ぎて空室が多いと家賃の引き下げを求めら
 れたり、金利が上昇した場合に返済額が増えるリスクを負ったりするのはオーナー側だ。
・オーナーは一定期間家賃が保証されるので、「損をしない」、「リスクが少ない」と思
 い込みがちだが、貸家として需要が少なければ、大きなリスクを背負うことになる。地
 方都市などで、オーナー自身は賃貸経営ができるような場所ではないと思っていたとし
 ても、当初の家賃を業者が保証してくれるため、リスクを軽く考えてアパートを建てて
 しまい、保証期間が過ぎて家賃を大幅に下げられると、借金返済に窮する事態が起こる。
・アパート建設が相次ぐと、供給過剰により賃貸アパートの空室率は高まる傾向にある。
 首都圏のアパートの空室率は2015年半ばの30%前後から上昇し、2018年は
 35%を超える地域が多い。   
・アパートの供給過剰は、オーナーたちの将来の借金返済に影を落とす。お金を借りてい
 るのはサブリース業者ではなく、オーナーなのだ。空室が増えれば業者は家賃引き下げ
 でしのげるが、オーナーは家賃収入が減っても決められた額の返済を続けなければなら
 ない。 
・物件が古くなるほど、アパート経営は苦しくなるというデータもある。新築から5年経
 るごとに空室率が上がり、築20年では11.6%に達していた。家賃水準は、築15
 年までは新築の90%超を維持するが、築20年では75.1%に急落していた。家賃
 収入だけでは修繕費や返済金をまかなえない赤字物件の割合は築15年と20年でいず
 れも20%前後となっていた。
・いまは問題が表面化していなくても、サブリースは時限爆弾になり得る。団塊の世代が
 全員75歳以上になる2025年くらいから大量相続の時代に突入する。それに伴い、
 大量の空き家が生まれ、土地余りが顕著になる可能性がある。
・相続税が節税になる仕組みはこうだ。地主が亡くなると、その人が持っていた土地の固
 定資産税評価額や路線価などをもとに父の価額が決まり、預金や株式などその他の資産
 を合わせた相続財産額から、相続人の数なので決まる控除額を引いた金額に係数を掛け
 た額が課税される。ただ、地主に借金があれば相続財産を減らすことができるため、借
 金してアパートを建てることが節税につながる
・さらに、不動産を持つ人が毎年支払わなければならない固定資産税も、同じ住宅地であ
 れば、駐車場などの更地にしておくよりも、家やアパートを建てた方が安くなる。
・かつての日本は人口増加に対して住宅が足りなかったため、住宅建築を促してきた。現
 在は人口減少社会となり、家余りの時代になっているが、それでも住宅建設を促す税制
 を引きずったままといえる。これらがアパート建築に地主が心動かされる要因になって
 いる。こうした相続税対策を強調した営業が展開される。
・家賃保証期間はオーナーに一定の家賃が入ってくるが、その後は空室の多さなどに応じ
 て家賃を引き下げられることがある。しかしオーナーの多くは数十年先まで借金を抱え
 ることになり、家賃下落や想定外の修繕費で返済に行き詰ることがある。
・契約を取るため、オーナーにあえてリスクを説明しないという業者側の証言もある。オ
 ーナーにリスクがあることをいちいち説明するようなことはしないという。契約が取れ
 るかどうかはぎりぎりということもあり、そうした中でリスクを細かく説明しだすと取
 れる契約もとれなくなってしまうという。安い資材で作ったおもちゃみたいないアパー
トを高く売る。オーナーには家賃保証を全面に打ち出して営業をする。もはや金融商品
として売っているという。  
・地主の中でもねらい目なのが、人付き合いが少なく、相談しないプライドの高い人だと
 いう。公務員や学校の先生、農家らがそれにあたるという。土地や経営の知識はないも
 のの、プライドが高いため人に相談することもできず、独断で物事を決めてしまうよう
 な人が「上客」になるという。 
・オーナーとはまずアパート建築の契約を結び、建物が完成してからサブリース契約を結
 ぶ。この契約の順番もポイントだ。途中でおかしいと気づいても、建物を建ててしまっ
 ているので後にはもう戻れない。 
・業者側のもう一つの側面も気づいた。見えてきたのは昼夜を問わない飛び込み営業など
 過酷な労働実態だ。無理な営業を社員に強いることにより、賃貸物件として需要の少な
 い場所にもアパートを建てさせているという構図が浮かんでくる。
・賃貸アパートが増え続ける理由として、相続税増税に伴なう節税対策とともに指摘され
 るのが2013年から日本銀行が実施している大規模金融緩和だ。アパート建設はアベ
 ノミクスを背景に勢いづいた。
・2017年度末の個人賃貸業向けの融資残高は6年連続で増えた。金融緩和前に比べて
 12%増えている。金融緩和によって、担保を取りやすい不動産市場に大量のマネーが
 流れ込んだ。とりわけ、企業向け貸し出しが伸びずに困っていた地方銀行がサブリース
 物件に積極的に融資し、個人の賃貸業向け融資残高全体の6割を地銀が占めている。
・オーナーが営業社員から楽観的な収支見通しを示されれば、リスクの説明を受けたとし
 ても、「甘い見通し」に引きずられやすい。サブリース契約の営業は相続対策に比重が
 置かれているが、賃貸住宅は需要のある場所に建てるのが本来の姿だ。業者の説明をう
 のみにせず、近隣の不動産情報や人口推計などのデータは自分で集めて検証しなければ
 ならない。誰かに相談するのとも大切だ。
・賃貸アパートなどを業者が一括で借り上げ、家賃もオーナーに一括で支払わられるサブ
 リース契約により、都市郊外などに続々と建ったアパート。「「需要」とかけ離れた建
 築ラッシュは、まちづくりにも影を落としている。 
・賃貸アパート建設を後押ししたのが規制緩和だ。市街化調整区域では、農地などに土地
 利用が限定され、アパート建築などは原則認められなかったが、2000年の都市計画
 法改正を機に、自治体が条例を定めれば市街化調整区域にアパートが建てられるように
 なった。だが、もともと住宅が建つことを想定していない地域で、道路や下水道整備な
 どに多額のコストが生じた。 
・市の中心部がかえってさびれる恐れや、空き家が増えすぎる懸念も強まった。
・2000年以降、市街化調整区域の規制緩和に踏み切る自治体が相次いだ。住宅を建て
 て人口を増やしたい自治体、農地を有効活用したい農家、物件で稼ぎたい業者の思惑が
 一致し、そこに住みたい人がどれほどいるかという「需要」を無視した建築ラッシュが
 起きた。日本銀行が対規模な金融緩和に踏み切った2013年からは、不動産市場に緩
 和マネーが流入し、建築をあおった。
・人口減の日本で調整区域の規制緩和をすると、道路や下水道などのインフラが整った市
 街化区域から、未整備の調整区域に人口が移る結果になる懸念がある。サブリースは、
 これを加速させる仕組みといえる。
・人口減で住宅は明らかに余っている。各市町村が都市計画をきちんと運用して、住宅の
 新規立地を誘導する地区をはっきりさせるべきだ。相続税対策と言うが、中長期的に需
 要が低いエリアに賃貸住宅を相続した後のことを考えると、本当に対策が必要なのか、
 対策が必要と思い込んでいるのではないか考える必要がある。単に建物が立っているこ
 とで、固定資産税や相続税の評価が低くなる制度では、空き部屋が問題になりにくい。
 「焼き畑農業」のような住宅開発を生み原因になっている。
 
高すぎる固定資産税、相続税
・国の税金として始まった地租は、戦後に税の枠組みを大きく変えたシャウプ勧告によっ
 て、自治体の基幹的な税である固定資産税に引き継がれ、景気に左右されにくい安定財
 源として、自治体財政を支えてきた。
・しかし、少子化と同時に進む東京一極集中で激変する地価に制度が追い付かず、高齢化
 で現金収入がある人が減った地方にその負担は重くのしかかっている。その負担は「負
 動産化」が進む大きな要素として、深刻な影を落としている。
・土地の評価は、毎年1月1日現在で計算され、3月に公表される公示地価が元になる。
 いずれも日本中の道路に評価額をつけうr「路線価」が算出されるが、固定資産税は公
 示地価の7割、相続税は同8割が目安と決まっている。公示地価が決まると相続税も固
 定資産税も決まる関係だ。
・毎年公表される公示地価は、最高価格がよく話題になるが、上がったら景気が良いのだ
 と単純に喜べるものではない。固定資産税や相続税などに跳ね返るからだ。
・その値段の決まり方も、実勢価格に比べたとき、地方は割高で、都市部は割安になる傾
 向があり、客観的に決められているとは言えない面がある。 
・路線価は公示地価の8割が目安で、時価は公示地価の1割増し程度と言われている。
・銀行から不動産向けの貸出金残高は、2018年3月末で過去最高を更新した。産業向
 け全体に占める不動産向けの割合は15.5%と最も高い。超低金利で行き場を失った
 資金がリートなどを通じて不動産に流れ込み、地価を押し上げる構図がはっきり見て取
 れる。
・1980年代後半からのバブル経済は、銀行をはじめとした金融機関が従来の企業向け
 融資に行き詰まり、不動産向け融資に活路を求めたために発生した。バブル崩壊で地価
 が暴落すると、融資を受けた不動産業者が経営破綻し、不良債権の山ができた。当時と
 今の違いは、不動産に投資するリートという金融商品があることだ。不動産を買うため
 のファンドを小口化した「株」を投資家に売ることで、不動産業者は不動産を活用しな
 がら価格が下がるリスクを避けることができる。銀行も、リートが株を売った時点で資
 金を回収するので、不良債権化の心配がない。
・2008年のリーマン・ショックでJリートは暴落したが、日本銀行がリートを買い始
 めて「お墨付き」を与えたことで、投資家にも安心感が広がっている。日銀は、バブル
 のころに不動産向けの総量規制でブレーキをかけたが、今はインフレ目標の達成が最優
 先で、金融緩和の一環としてJリートの購入を始め、2014年には年300億円の購
 入額を900億円に増やした。
・都市部では急騰する地価に追いつけない固定資産税や相続税だが、地方では下がった実
 勢価格に比べて高く見える評価に基づいた課税が行われている現実がある。このため、
 不動産を相続する場合、物件によっては、かつてのような「ありがたい」存在ばかりで
 はなくなっている。もともと利用したい人がいない土地なのに、利用価格に比べて税負
 担が重いために「負動産」化を加速させている。
・自治体は、一定以上の評価をした不動産については、固定資産税の請求先を把握してい
 る。所得者が亡くなって名義変更をしなくても、自治体は相続した人の中から代表者を
 指定し、固定資産税の納付を求め続ける。税務関係者の間ではこれを「死亡者課税」と
 呼ぶ。そのため、相続争いなどで相続登記ができなくても、相続人代表には重い負担が
 のしかかる。
・名義人が亡くなったからといって、固定資産税が免除されるわけではない。自治体は亡
 くなった名義人に代わり、法定相続人の「代表者」に納税を求める「死亡者課税」とい
 う裏ワザを持っている。
・このままでは日本中に売るに売れない土地があふれ、「相続自殺」や「不動産自殺」が
 問題になる時代がくるのではないか。
・過疎の町では、死亡者課税さえ行われなくなり、不動産登記制度そのものも存在価値を
 失いつつある。
・固定資産税は、土地や建物の評価の基づいた「課税標準額が一定より下がると支払う必
 要がない。
・自治体を維持しるために固定資産税への依存を増やすことは、ただでさえ魅力がなくな
 った不動産の価値をさらに落として、地方の衰退に拍車をかけている。
・建あ人通りの多い大都会に建っていようが、ほとんど人が来ない山中に建っていようが、
 同じ建物であれば原則同じ税金がかかることになる。 
・この固定資産税への依存は、地価の評価にも影響している。固定資産税の算出根拠とな
 る公示地価は、国土交通省の土地官邸委員会が毎年1月1日時点で評価をして3月に公
 表する。
・全国2万5千地点の評価は、全国で約2500人の鑑定士が参加して、1地点について
 二人の不動産鑑定士が担当する形で算出されていく。
・「鑑定評価見込額」は「幹事」と呼ばれる影響力が強い鑑定士の意向が忖度される。
 「幹事」は行政との付き合いが長く、あうんの呼吸で意向をくんでいるという。鑑定士
 の仕事は、地方に行くと行政の発注がほとんどなので、行政の意向は絶対なのだという。
・こうして地方の不動産事情とかけ離れた公示地価が作られ、相続する気もならないよう
 な「負動産」にも高い固定資産評価額つき、固定資産税や相続税につがなっていく。
  
負動産は生き返るか
・日本では、マンションの修繕や建て替えはオーナーたちの話し合いのもとで行われ、行
 政が介入することはまずない。一方、フランスでは、住民の安全確保や公衆衛生のため
 に介入することは行政の義務とされている。
・フランスでは、自治体と連携し、住宅の収用や改築などを担う公的機関の「老朽化地区
 再生会社」が2010年に設立された。住宅のことだけでなく住民にも目を配るのが活
 動の特長だ。人はだれでも文化的、衛生的な環境で暮らす権利がある。そのために、自
 治体、建築関係者や弁護士ら専門家、民間団体などと協力しながら、街全体を再生させ、
 住民の生活再建を支援するという。
・フランスでは、市民の安全の確保が行政に義務付けられており、荒廃マンション対策も
 その権限の行使として使われる。さらに、建物の危険の除去だけでなく、居住者に対す
 る家賃補助や公共住宅への入居支援など、それぞれの住民の生活の実情に応じた施策を
 組み合わせることができる。日本も、行政介入のあり方について議論を始める必要があ
 るのではないか。
・日本では土地を「捨てる」精度が存在しない。ただでも買い手がつかないような土地を
 運悪く抱えてしまうと、売ることも捨てることもできず、管理コストや固定思案税の負
 担だけが残る。しかし、ドイツでは、土地は捨てることができると法律に明記されてい
 るという。
・ドイツの民法には「所有者が放棄の意思を土地登記所に表示し、土地登記簿に登記され
 ることによって、放棄することができる」と明記されている。放棄された土地をまず先
 占する権利は「州に帰属する」。
・放棄された物件は公的団体が一括で管理している。需要なありそうな物件の情報をホー
 ムページに公開し、希望者がいれば売却する。
・放棄された土地は、どこかに所有させなければならない義務もないため、ほとんどは
「無主地」として管理されるが、そのコストは行政が負担せざるをえない。 
・ドイツでは、不動産は管理する人もいないまま放置されるよりも、放棄された方が有効
 利用できると考えられている。一方で、自治体は、事故防止や景観保全など土地の管理
 責任が生じる。放棄地が増えれば、そこに多額の税金を投入して良いのかという議論も
 当然出てくる。国の方でも、制度を改正すべきか、たびたび議論があるが、なかなか進
 んでいないという。
・日本の中山間地では、農地や山林の固定資産税が重すぎて、こんな土地を持っていても、
 管理が大変なだけで、売れないし、引き取り手もない、という話を耳にする。
・ドイツでは、不動産税を滞納した時には、行政は通常、その対象の不動産を差し押さえ
 る。不動産税の支払いを免れたい場合でも、土地の放棄はできる。通常の土地の放棄の
 手続きと変わらず、登記所に不動産を放棄する意思を伝えて、登記簿を書き換えてもら
 う。また、相続登記が長年なされない不動産は、登記官が職権で相続人を調査し、登記
 簿を書き換えることもできる。 
・日本の「負動産」の問題は、人口減少と高齢化に伴なって、諸外国と比べても、急速に
 深刻化している。フランスと違って、日本のマンションは修繕積み立てや建て替えなど
 の意思決定は区分所有するオーナーたちの合意のもとに行われ、行政が介入する仕組み
 はない。このため、老朽化対策を決められないまま「負動産化」を止められなくなる事
 態が懸念されている。
・所有者不明地の解消についても、日本では、増えた所有者を整理し、解消に向かわせる
 抜本的な対策は手つかずのままだ。
・日本のいらない土地を国に引き受けさせるのは、国民全体の負担になるという懸念はわ
 からなくはないが、かといって、現在の所有者やその子孫に未来永劫抱えさせるのも、
 正しい方法ではない。粗大ゴミは処分費さえ払えば捨てられるが、土地はそうはいかな
 い。現行制度でも、相続放棄された土地は国が引け受けている。国民が必要としなくな
 った土地とどう向き合うか。国は検討を急ぐべきだ。このままでは、荒れ果てた山野が
 広がることになりかねない。
 
国の怠慢、ツケを払う国民
・日本の民法には「土地を捨てる」ための手続きを定めていない。明治時代につくられた
 民法は、日本の人口が減少して土地の価値がなくなり、いずれ所有者の負担になること
 を想定していなかった。
・民法には「所有者のない不動産は、国庫に帰属する」との規定がある。だが、どんな場
 合に国庫に帰属するかという基準は、ずっと曖昧だ。
・持て余している土地を国や自治体に寄付したいというお年寄りの相談が出ている。子や
 孫が地元から出ていき、このまま土地を持ち続けて大丈夫なのかなど、多くの人が不安
 を感じている。しかし、寄付を受けるかどうかは行政側の判断で、利用価値がなければ
 受けてもらえないケースがほとんどだ。
・財務省では、行政目的で使用する予定のない土地等の寄付については、維持・管理コス
 ト(国民負担)が増大する可能性等が考えられるため、受け入れることはできないとし
 て、原則認めない方針を掲げている。地方自治体もそれにならっている。
・土地の所有権を、放棄したい時い放棄できる制度は日本にはない。一方で、土地の所有
 者が亡くなり、相続人全員が相続を放棄すれば、事実上、「土地の所有者がいない」と
 いう事態は起きうる。それでも国が直ちに引き取ってくれるわけではない。
・制度上、利害関係者は相続放棄された土地には家庭裁判所を通じて「相続財産管理人」
 を立てることができる。手を尽くしても売却できなかった時に初めて、国が引き取るこ
 とになる。しかし、相続財産管理人選任の申立件数が年間約2万件程度であるのに対し
 て、こうした手続きを経て国が引き取った土地は、年間30〜50件台とのことだ。  
・相続財産の管理は、亡くなった人が残した現預金で賄う。管理人は、雑草を刈るなどの
 管理をし、固定資産税も払う。土地などが売却できれば、その代金の中から手数料をも
 らって、残りを国庫に納める。
・しかし、引き取り手がいない場合は、家庭裁判所も管理人に持ち出しを求めることはな
 い。あうんの呼吸で業務を終結する。
・そもそも、お金がない人の相続財産は、管理人がつくこともない。
・財務省は2017年6月、相続放棄された土地を国が引き取る際の手続きを改めて通知
 する「事務連絡」を各財務局に送った。そこには、これまで国庫帰属を事実上拒んでき
 た諸手続きが省略できると書いてある。実質的に国庫帰属を拒否するような難しい条件
 をつけていたのをやめて、積極的に受け入れようというものだ。
・今までは、財務省の出先事務所に国庫帰属の相談に行くと、建物を壊して、境界線を確
 定した上で持ち込まないと受け取れない、と言われたという。しかし、そういうところ
 は、隣地も所有者不明であったり、いても境界なんてわからない場所であったりする。
 それを確定して測量もしてとなると多額の費用がかかる。故人が残したお金でできるこ
 とではない。これまでは国庫帰属を事実上否定していたわけで、この方針転換は大歓迎
 だ。 
・法務省では2017年10月に「登記制度・土地所有権のあり方等に関する研究会」を
 立ち上げた。土地を放棄できる仕組みの検討が始まった。放棄のルールをつくるとすれ
 ば、どんな土地が該当するのか、所有者に何らかの費用負担を求めるべきか。受け皿を
 どうするのかといったことが議論される見通しで、2019年2月に論点を整理すると
 いう。 
・2025年に団塊の世代が全員75歳以上になり、亡くなる人が増えていくなかで深刻
 化しそうなのが相続に関わる「実家」問題だ。将来実家には戻るつもはない。このため、
 相続が発生しても実家の相続はしないまま、という事態は十分予想される。それでも固
 定資産税などは毎年誰かが払わなければならず、空き家として放置された実家は、草や
 木が伸び放題になり、周辺住民に迷惑をかける。誰も実家を管理しない親族間での「負
 担の押し付け合い」は、もうすでに起きている現実でもある。
・土地の名義人が亡くなった後、相続登記をしないまま長年放置されると、子や孫の代に
 なると相続人が増えていき、いずれ売ることも、だれかが相続することもできない「塩
 漬け」状態の土地になりがちだ。相続登記は義務ではないため、解決への道は遠い。
・現在、相続登記は義務ではない。土地には必ず価値があるという前提で、「相続人が登
 記したがらない」という事態を想定していないためだ。登記を相続人の義務にすれば、
 所有者不明土地の拡大に歯止めをかけられる可能性が出てくる。
・いまの登記の仕組みは、所有者が自分であることを他者に主張するときの手段で、義務
 化されていない。義務化となれば明治時代に不動産登記法が制定されて依頼の大改革と
 なる。
・だが、「登記されたかどうかを監視できるのか」「科料を設けても、登記費用より安けれ
 ば登記は進まない。かといって重罰にはできない」など、義務化の実効性を疑問視する
 声もある。
・東日本大震災の復旧・復興では、新たな住宅を造るのに適して平地が少なく、高台の造
 成工事をする時に、所有者不明の土地が多く、買収が難航した。今後、首都圏直下地震
 や南海トラフ巨大地震が発生することが予想されており、その備えとして所有者不明土
 地を解消したり、使いやすくしたりする仕組みが求められる。
・所有者不明地が防災や街づくりを妨げる事例が相次いでいることを受け、所有者不明地
 を公共事業や防災などの公共目的のために利用しやすくする特別措置法が2018年6
 月に成立した。 
・この特別措置法では、都道府県知事が公益性などを確認した上で、最大10年、民間業
 者やNPOなどに土地の利用権を与えるのが柱だ。対象は建物が立っていない所有者不
 明地で、公園や直売所、防災用の空き地などに使うことを想定している。
・利用権を与えた後に土地の所有者が現れて明け渡しを求めた場合、権利が切れた段階で
 元の状態に戻して返さなければならない。利用権は延長もできる。
・埼玉県毛呂山町では、戦後の高度成長期に開発された武洲長瀬駅周辺をはじめとした地
 域の人口が高齢化して世代交代が進まず、空き家率は10年で倍近くに増えた。しかし、
 2017年に埼玉県内で初めて、住居区域と、医療、子育て、買い物などの生活サービ
 スを誘導する区域などを決める「立地適正化計画」とまとめた。居住区域で20年後に
 一定以上の人口密度を保つコンパクトで利便性が高い町づくりを進める。全国でも5番
 目で、町村では一番乗りした。空き家対策を「町おこし」にする勢いだ。
・北海道室蘭市では、特に危険な空き家を近隣住民に解体してもらい、更地になった土地
 を無償で譲る取り組みを2017年度から始めた。もともと管理する意思がない空き家
 の所有者に解体費を助成するよりも、その土地を引き取ってくれる住民を行政で支援し
 た方が効率的で、その後の管理が持続的にものになるとの発想に基づいている。解体費
 は譲り受ける人が負担するが、9割までは市が助成する。無償で土地を手放す所有者へ
 の説得も市が担う。住環境の安全確保が目的のため、新たな所有者は取得から10年間
 は宅地や営利目的の駐車場なるとして使えないルールになっている。
・マンションの場合、年を取るのは建物だけでなく、住民も一緒に高齢化していくという
 特徴がある。大規模修繕をするにしても建て替えをするにしても、それぞれの資産状況
 や思惑は異なり、合意を得るのはより難しくなるとされる。  
・「マンション35年の壁」とは、大規模修繕時期を迎え、建て替えや延命工事で多額の
 資金が必要となり、高齢化した住民の負担能力が問われる状況を指す。  
・東京都住宅供給公社が分譲した団地にでは、管理会社を使わない「自主管理」を行って
 いるところがあるが、住民の高齢化で自主管理が続けられなくなってきている。総会の
 資料作り、管理費などの経理、漏水から不審者への対応まで、管理組合の役員が担う自
 主管理で、管理費は安くなる。仕事との両立は若くても大変だが、高齢者にはいっそう
 きつい。
・マンションの建て替えには大きな決断が必要だ。給排水管の補強と屋上防水工事をすれ
 ば、当面は建物の延命ができる。
・古いマンションには、管理組合がなくて管理費も集めていないこともある。そういうマ
 ンションは安く売られているので、数年住めばもとが取れると思って買った人は、管理
 のことを考えない。高齢者は高齢者で、自分が死ぬまで住めばいいと思っている。マン
 ションの代金のうち、自分の部屋である専有部分のために払うのは3割で、残りは土地
 や共用部分で費やされる。管理に無関心ということは、7割を放棄しているようなもの
 だ。
・さまざまな「負動産」問題の根っこにあるのは、「新築主義」ともいうべきゆがんだ住宅
 政策と、焼き畑農業のような土地政策である。「土地神話」時代の政策の骨格をひきず
 ったまま噴出するさまざまな問題に対して場当たり的に対応しているように映る。
・高度成長期、人々は新築のマイホームにあこがれ、国や自治体も住宅購入を後押しした。
 宅地は郊外へ郊外へと広がっていった。バブル崩壊で「土地神話」は揺らぎ、宅地の膨
 張にはいったん歯止めがかかったものの、土地・住宅政策の方向性が変ることはなかっ
 た。郊外の自治体は、わが街に人口を呼び込もうと、農地などに利用が限定されていた
 「市街化調整区域」に住宅を建てられる規制緩和に踏み切り、国は、「景気対策」の名
 のもとに住宅ローン減税を繰り出し、人々の住宅購入意欲を刺激し続けた。タワーマン
 ションの建設を後押しする規制緩和も相次いだ。
・つくるだけつくって、あとは知らないとでも言わんばかりに、建てた住宅や開発した土
 地の「後始末」について、日本はことごとく無策だった。日本の土地・住宅制度は、不
 動産はだれかが欲しがるものであって、「無用の長物」と化すことを想定してこなかっ
 たからだ。だれも相続登記しないまま相続人が何十人にも増えて所有者不明になる問題、
 相続人全員が相続放棄したものの国庫にも帰属せず宙に浮いた土地の増加、放置された
 空き家の管理不全問題などは、時代に合わせた土地、住宅制度の見直しをしてこなかっ
 た政府の怠慢による副産物なのだ。
・土地基本法は、投機的な取引を抑制するため、土地についての基本理念や、国の責務な
 どを定めているが、人口減少によって土地の価値が下落し、利用する意欲が低くなるな
 かで、単に所有されている場合の規律が明確でない。こうして点を補い、土地が適切に
 管理され、利用されるために、所有者が負うべき責務を規定しようとしている。
・日本では、土地の所有権が強く、土地の管理や利用について、所有者の裁量に委ねすぎ
 るとの指摘がある。しかし、国による土地の所有権の過度な侵害を招くようなことがな
 いように、所有者の責務については慎重な議論が必要だ。 
・土地の所有者に責務を課すなら放棄もできるようにすべきだ。いまは土地を捨てたい時
 に捨てられる仕組みはない。国や自治体への土地の寄付も、利用価値があれば引き取っ
 てもらえる可能性はあるが、原則として受け付けてくれない。売りたくても売れずに処
 分に困る土地が増えていく中で、少なくとも一定のお金を支払えば放棄できたり寄付で
 きたりする制度は必要だろう。
・政府は、相続登記の義務化の是非を含めたこれらの制度見直しについて、2020年の
 法改正を目指している。しかし、土地や建物の価値の下落に比べて、負担が重いとされ
 る固定資産税のあり方や、合意が取りにくい老朽マンションの解体・売却・相続放棄へ
 の対応といった問題については、見直しに向けた検討がされておらず不十分といえる。
・団塊時代が80代に突入する2020年代、日本は「多死社会」を迎える。親を亡くし
 た後、欲しくもない土地や空き家を引き継ぐ子の世代が、処分コストや税負担に苦しむ
 ことが目に見えている。2020年代を「大負動産時代」にしないため、住宅・土地制
 度の見直しは待ったなしだ。