不安大国ニッポン  :朝日新聞経済

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日本の現状を見ると、まさに不安いっぱいの国、日本である。生活面でも経済面でも政治面
でも、そして国際面でも問題山積で、解決のできる見通しもなく、将来に希望が持てない。
それが今の日本という国ではないだろうか。日本は、何を目指したらいいのか、それすら見
えていない。今までの延長では、もはや立ち行かないということだけは、確かなようではあ
るが。
本書では、「環境優先」を武器にすべきと結論付けている。果たして、環境ビジネスが日本
を救ってくれるのだろうか。しかし、いまのところそれ以外は見当たらない。

ニッポンって本当に豊かな国?
・競争によって活力を求める至上主義路線は、競争からこぼれ落ちる人を増やし、格差社会
 のひずみをさらに広げていく面もある。
・相次ぐ人員削減や成果主義の導入の結果、従業員の負担は増すばかりだ。不安やストレス
 で心身の健康を損ねる人も増えている。
・ピカピカの高層ビルやマンションが次々建ち、家電量販店をのぞけば薄型テレビやDVDレコ
 ーダー、携帯電話など最新のデジタル家電があふれかえる。経済成長を追い求めてきた日
 本は今、かつてないほどの「物質的な豊かさ」を手にしている。
・成長自体が目的となってしまった。それについていけない人間の不安と無力感が蔓延する
 社会がいま形成されつつあるのではないか。

就職狭き門、広がる格差
・格差拡大を後押ししている要因には「雇用形態の変化」もある。バブル崩壊後、多くの企
 業がもうけを増やそうと躍起になって大規模なリストラを進め、新規採用を抑え、契約や
 派遣といった非正社員を増やした。不安定な雇用形態で働くこうした人は10年間でほぼ
 1.5倍に増え、03年には3人に1人が非正社員となっている。
・働き方の選択肢が増えた、という見方もできなくはない。自発的にフリーターを選ぶ若者
 もいる。音楽家や作家をめざすなど将来の夢を追求するために、時間的な制約の多い正社
 員を敬遠する人もいる。実際にはフリーターの若者の多くは、正社員になることを望みな
 がら、かなえられない状態に置かれている人々だ。
・学校を出て企業に入るという、以前なら「当然」と思われていたルートはますます「狭き
 門」になり、いったんその道を外れてしまうと、将来の選択肢はさらに限られてくる。
・すべての企業が業績の好転をめざして人件費を減らそうと正社員採用を抑制すると、フリ
 ーターは増加する。ただ、そうなっては十分な職業経験を積めない人々が増えて、優秀な
 人材が不足するなど社会的に大きな損失となってしまう可能性が高い。
・一定の格差がうまれざるをえないとしても、その過程が多くの人に受け入れられるもので
 なければならない。格差を固定化させない仕組みも必要だ。
・格差のまったくない社会はない。フリーターという生き方を選べる自由がある社会もそれ
 自体は悪くない。ただ、望まないのに低賃金で不安定な雇用状態に置かれる人が増え続け
 るようでは、若者のもつ可能性を引き出せる社会は開けない。

変わる社会、貧困生む
・日本の個人金融資産の半分、700兆円が上位1割の富裕世帯に集中し、その他9割の世
 帯で残りの半分を分け合うという構造になっている。
・たとえばフランスには、「連帯老齢手当」など高齢者のために年金の不足部分を補う仕組
 みがある。英国やスウェーデンは年金と生活保護との一体改革に取り組み、低所得だった
 人でも年金だけで暮らしていける制度に切り替えた。
・日本でも、蓄えや子からの支援がない高齢者が、月6万円余りの国民年金だけで暮らすの
 は難しく、生活保護世帯の半分近くが高齢者世帯となっている。
・急速に進む高齢化、終身雇用制度の終焉による雇用の流動化、そして、ひとり親世帯の増
 加という家族像の変化。社会の形が様変わりする中で、新しい貧困が生まれる可能性はま
 すます広がっている。それにどう備えるかは、ひとごとでも特殊な問題でもなく、誰にで
 も迫りうる身近な問題となっている。

人材育成、細るパイプ
・日本は他の先進国に比べて国の教育支出が少なく、受益者の負担割合が大きすぎる。奨学
 金制度も米国に比べて貧弱だ。もっと充実すべきだと思う
・地方からも、貧しい家庭からも広く才能を集め、育て上げてきた日本の人材育成システム。
 それが戦後日本を経済大国に押し上げ、長らくアジア諸国の模範ともなってきた。そのパ
 イプを崩壊させては社会全体にとって大きなマイナスとなる。
・米国的な新自由主義が力を増し、日本社会のあり方が弱肉強食型に変化してきた。格差が
 あるのはやむを得ない。有能な人たちの勤労意欲をそいではいけない、という考え方が強
 まっている。
・格差があり過ぎる社会より格差が小さい社会のほうが、より多くの人が働く意欲を持てる
 はずだ。公平を維持しつつ効率を高めることは十分可能だ。

変容する社会
・リストラ、成果主義の導入によって、かつて不自由だけれど安定していた正社員が、
 今では、不自由で不安定な存在になりつつある。
・リストラの結果、社員の企業に対する忠誠心が失われ、かえって生産性が下がるという影
 響が出た。

急増する「孤老族」
・日本の平均的な家族像は戦前の3世帯以上が同居する「大家族」から、高度成長期を経て、
 親と子の2世代、あるいは夫婦だけの「核家族」に変わっていった。今や1世帯の平均人
 数は2.67人、格家族は273万家族にのぼる。高度成長期の40前に比べ、同居家族
 はほぼ1.5人減り、格家族の世帯数は2倍以上になった。
・最近は未婚率、離婚率が上昇し、核家族がさらに分裂しつつある。東京では全世帯の3分
 の1が独り暮らし世帯だ。とりわけ「孤老族」とも呼べるような老人が急増している。

不安社会をなくせるか
・一人の人間の幸せを実現することが他の人間を蹴落とすことを意味しないこと。他の人間
 の幸せにもつながるような共生を求める価値観を持つこと。
・人々は強い不安社会の中にいる。自分が負け組になってしまうのではないかという「落後
 恐怖症」をあおる形で、人々はもっと働けとせき立てられている。不安社会を克服するの
 が国の役割なのに、今の日本は逆だ。その方が活力につながる、という誤った考えがある。
・特に心配なのは所得格差、資産格差が人間の生存していく権利そのものを揺るがす段階に
 進んでしまっていることだ。競争に勝ち残れない人々が、安全な食料や医療、福祉など生
 活に最低限必要なものを手に入れる権利さえ奪われつつある。
・今や日本の上位4分の1の富裕層の所得は、その他4分の3の層の総所得に匹敵する。米
 国ほどではないにしても格差拡大社会が確実に広がっている。
・努力をしたものが報われるのは当然のことだ。ただ、現実は努力したくてもその機会を十
 分に与えられない人が増え、機会の不平等が結果の不平等を拡大している。努力が報われ
 るという前提条件がすでに破綻している。
・マネー資本主義にもとづく、むき出しの市場競争の結果だけに生活をゆだねるのでは、だ
 めだ。連帯や参加、共生の仕組みが必要となる。市場を市民の手で制御しつつ、新しい循
 環型の経済や社会のシステムを作り上げなくてはならない。
・大量生産、大量消費、大量廃棄の仕組みを変え、地域の資源や人勢を活用してエネルギー
 や食糧、福祉を自給しよう。
・国は地域での新しい試みの芽を摘まないことこそが重要だ。官僚や大企業があらゆる物事
 を決めてしまうのでは、多様な人々、多様な地域が共存しにくくなる。さまざまな試みの
 積み重ねで、強いものが一人勝ちするような住みにくい社会にではなくなるだろう。

消費は美徳なのか
・日本だけでなく、世界は消費を増やし、経済成長を続けないと成り立たない経済システム
 に身を置いている。それが技術革新を促し、人々を豊かにしてきたのは間違いない。
・モノがあふれる現在のような豊かな社会では、選択肢や豊かさが増加するにつれて幸福感
 の低下を招く。

街から個性が消えた
・観光客がどう思うかということ以前に、慣れ親しんだ景観は何よりもまず地元住民の誇り
 だ。経済合理性だけにまかせていては、個性がなくなってしまい、いずれどこにでもある
 街の一つになってしまう。
・日本のこれまでの都市づくりは、「開発」に重おきが置かれ、「景観」の視点が抜け落ち
 がちだった。このため、歴史ある街並みを守ろうとする住民と、開発業者との紛争が各地
 で起きた。

急速に老いゆく東京
・日本の高度経済成長と歩調をあわせて全国から若者をのみ込み続けてきた東京が、今後数
 十年で急速に老いていく。
・東京の高齢化が急ピッチで進むのは、団塊の世代とそのすぐ下の世代、いわば「高齢者予
 備軍」の世代が集中して住んでいることが背景にある。
・「働き手の高齢化が一気に進む東京圏では、経済成長力の衰え方が地方都市より大きくな
 る。東京はもはや白地に絵を描くような大規模プロジェクトをする場所ではない。現在進
 行中のプロジェクトは、経済成長期の最後のあだ花になりかねない。
・建てては壊すスクラップ・アンド・ビルドの「使い捨て」型ではなく、既存の施設を使い
 回りながら、ゆとりのある街並みを育てていく「リサイクル」重視型へ。モノだけでなく、
 老いる巨大都市・東京にも、そんな工夫が求められる時代がきている。

「共育て」社会、遠く
・子どもを産む、産まないは個人の選択の問題に過ぎず、誰もが子育てと仕事を両立させな
 ければいけないわけではない。ただ、妻が子育てと仕事との両立を望んだ時、あるいは、
 経済的事業から共働きせざるを得ないときに、妻がそれをどう両立させるかという問題だ
 けではなく、生き方や働き方をより強く問われるのは、むしろ男性のほうだ。
・女性が暮らし方や働き方を柔軟に選べる社会。それを可能にする制度づくり、風土づくり
 は、女性の可能性をひらくだけではない。男性がより幸せな社会をつくるためにも意味
 がある。

団塊、どんな定年後
・団塊世代自身は、働く意欲が衰えていない。東京都の調査によると、60歳を超えても何
 らかの形で働きたいという団塊世代の男性は8割を超す。「老後の安定のため」「社会貢
 献、生きがいとして」などが理由だ。
・働く希望が強いのは、厚生年金の定額部分の支給開始年齢(男性)が段階的に引き上げら
 れていることも影響している。団塊世代の大半の人にとって、年金定額部分の支給開始は
 64歳からになる。退職してから受給までの空白期間の収入を自ら稼がなくてはならない
 と考える人も多い。

再挑戦容易な社会に
・人間の寿命が延びる一方で、企業の浮き沈みは激しくなっている。一昔前のように一つの
 企業が一人の職業人生を保証するのはますます難しくなっていく。能力や意欲のある人が、
 労働市場を通じてスムーズに転職したり、独立したりできる環境をつくることが最大の安
 全網になる。
・働き手の選択肢や、やり直しの機会を増やすことは、社会全体にとっても、埋もれてきか
 ねない経験や技術を生かすことにつながる。「失敗」もひとつの経験として認め、再挑戦
 の門戸を広げる。そういう社会を創り上げていくことが「人の時代」を切り開いていくこ
 とになる。

バブル〜デフレ 宴の跡で
・今、一番したいことはなにか、将来、どんな暮らしをするのか。自分の夢を自覚し、突き
 詰めて考えてこそ、それぞれの生活設計が具体化できる。
・バブル時代までの私たちは、ひたすら所得を増やし、たくさんのモノを持つことに熱狂し
 てきた。その欲求がなくなることは、これからもないだろう。ただ、熱狂の時代へと後戻
 りすることが本当の「生活大国」への近道とは言えない。

環境と資源、迫る危機
・まだ豊かさを手にしていない途上国は、成長する権利を主張している。いまの世界は20%の
 豊かな人々が、80%の自然資源を消費する構図だからだ。
・今のままでは資源はいずれ足りなくなる。資源が十分にあれば需要にこたえられるが、今
 度は環境汚染が自然の浄化能力を上回るまで進む。いずれにしても世界システムは行き詰
 まる。
・30年前はSFの世界の小道具だった携帯電話やインターネット、ロボットという技術が、
 今や私たちの日常にある。資源と環境を巡る破局シナリオも、SFの話ではなくなり、い
 ま目の前にある危機として迫る。

地球環境に警告
・温暖化が一つの原因となって世界中で穀物が不足する事態が数年もしないうちに訪れるだ
 ろう。気温が1度上昇すれば、穀物生産は1割減少するという研究結果もある。世界の人
 口は増えていくのに、それを食べさせるのに十分な麦、米、大豆を生産できなくなる可能
 性がある。
・穀物の一大輸出国だった中国の穀物生産量が頭打ちになりつつある。中国は工業化で農地
 を転用しており、近いうちに穀物の一大輸入国になりそうだ。となると世界の穀物価格は
 上昇する。米国や日本のような裕福な国は対応できても、貧しい国には死活問題だ。新た
 な南北問題、紛争の火種になるだろう。

「環境優先」を武器に
・50年代からの高度経済成長時代に、モノを作って壊すことが経済成長の原動力だと国民
 が誤って刷り込まれてしまった。
・同じモノづくり大国でも、ドイツでは乗用車の使用年数は日本より数年長い。少々高くて
 も長く使える商品を作り、修理して使いまわす。