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本書が出版されたのは1012年11月初めであるが、ほぼ時期を同じくして、それまで
高止まりしていた円/ドルが円安に振れ始め、それと同時に、低迷していた日本株式も上
昇を始めた。そして、その絶妙なタイミンを捉えて、当時の安倍氏(現首相)が「私が首
相になったら輪転機で円をどんどん刷りまくる」と発言し、この発言が株価を上げたのだ
とのことから、「アベノミクス」という言葉が世間で踊り始めた。
本書は円安進行の状況を初期、中期、後期の三つのステージわけて解説している。これか
らすると、現在は円安進行初期に当たるのではないのかと思える。円安の影響を受けて株
価が急上昇、現在はまさにバブルとも言える状況である。しかしこの状況が、いつまでも
続くということはあり得ない。やがては、円安による副作用が出始める円安進行中期へと、
進行していくのだろう。そして最後には、円安進行後期へと進んでいく。この時になると、
日本経済は、破局を迎えることとなる。
現在の安倍政権は、インフレ目標を掲げ、市場に「円」を制限なく供給し続け、「円」の
絶対量をじゃぶじゃぶ状態にして「円」の価値を強引に下げ、物価を上げようとしている。
現在の「デフレ」の下手人は「円高」にあり、「円安」にすることによって、デフレを脱
却できるという考えであるようだ。
しかし、円安には当然ながら副作用もある。副作用の軽いうちに、物価上昇を止められる
か。思い通りに、円安によってデフレから脱却でき、経済が好転するのか。まさに壮大な
る「バクチ」、いや社会実験と言えるのではなかろうか。


はじめに
・日本の国の負債の多さが問題視されるのは今に始まったことではありません。小泉純一
 郎氏が首相の当時、政策の大きな柱のひとつが国の財政健全化でした。それから10年
 以上経ったにもかかわらず、今に至るまで日本は財政破綻などしていません。なぜこれ
 まで起こらなかったことが、近い将来起こるというのでしょうか。
・「日本経済は円高、デフレだから苦しんでいるのだ。円安、インフレになれば日本経済
 は復活する。日銀はもっと積極的に円安誘導策を取るべきだ」という意見をよく耳にし
 ます。そうした意見が、あたかも「収入が増えれば暮らしが楽になる」というような当
 たり前のこととして受け入れられています。円安、インフレを起こすために、手段を選
 ばず、日銀が国債を大量引き受けしてお金を大量にばらまくことができるように、日銀
 法を改正すべきだ、と主張する政治家や専門家も少なくありません。しかし、本当に、
 円安、インフレは、日本経済、ひいては国民生活にとって良いことなのでしょうか。
・インフレが行き過ぎて、ハイパーインフレが起こるかもしれない。その時に備えて株と
 不動産を持っておくべきだ、という意見も目にします。ハイパーインフレで物価が急上
 昇すると、1980年代に見られたように、株や不動産の価格が物価上昇以上のペース
 で上がる、いわゆる「資産インフレ」が起こる、ということが前提になっています。し
 かし本当に、株と不動産は将来のインフレに対する備えになるのでしょうか。
・まず為替市場で近い将来、円高基調が終焉を迎え、円安基調へと転換します。その要因
 は、おそらく米国の金融政策の転換です。
・為替レートとは絶対的な水準を表すものではなく、相手との相対関係で決まるものです。
 したがって、日本(円)に何も変化がなくても、米国(ドル)側に安くなる要因があれ
 ば、円高ドル安となるのです。
・大規模な金融緩和は、景気が回復に向かった時にインフレを引き起こすリスクがあるた
 め、近い将来、米国は政策の修正に動くでしょう。それはこれまでの逆で、ドル高要因
 となるため、結果として円安ドル高になります。
・待望の円安到来です。円安は輸入物価上昇につながり、こらまた待望のインフレも起こ
 るでしょう。しかし、インフレがすべてを解決すると思ったら大間違いなのです。
・円安・インフレになったからといって、それが即、収入の増加をもたらすことはありま
 せん。収入が増えないなかで物価だけが上昇するわけですから、当然に生活は今以上に
 苦しくなります。
・収入が増えずに費用(コスト)の上昇により物価だけが上がる、いわゆるコストプッシ
 ュ・インフレは、デフレよりもたちが悪いのです。
・インフレ発生により、市場金利は上昇します。金利が上がるということは、今ほとんど
 利息がつかない預金に利息がつくようになるのだからいいことではないか、と思うかも
 しれません。それは否定しませんが、実は、市場金利の上昇とは、国際などの債券価格
 の下落を意味します。国債を大量に保有している日本の金融機関には、市場金利の上昇
 (国債価格の落)により巨額の含み損が発生します。そうなると、含み損のために経破
 綻する金融機関も出てくるでしょう。
・国債の利払い費用も増大していきます。国債はくにから見れば借金です。その借金の金
 利負担が上がるわけですから、国家予算は今よりもさらに苦しくなります。それを埋め
 るために国債発行額はさらに増え、そのために利払い費用はさらに増え、という悪循環
 が始まります。

日本の財政の「不都合な真実」
・国家の歳出の約23%ものお金が、借金の返済に充てられているという状況なのです。
 支出全体の4分の1近くが借金の返済に充てられている状態を一般家庭に当てはめれば、
 目いっぱいに近い住宅ローンを抱えている家庭というところでしょうか。
・歳入の約半分が借金によって賄なわれいる、驚きの状況が現実なのです。これを一般家
 庭に当てはめれば、収入の4分の1が借金の返済に充てられており、その収入の約半分
 が新たな借金で賄われてる、ということになります。
・今の日本の財政は一般家庭に例えると「ある家庭の年収は481万円です。これまでの
 借金の返済費用が215万円かかります。でも生活費は709万円かかるので、足りな
 い443万円を新たに借りています。」という状況なのです。どうですか。それを続け
 るのは無理だろうと思いませんか。
・1990年代に歳出の重荷となっていたのは、公共事業費でした。景気回復を図るため
 に、政府は公共事業費を全国で使いまくり、道路、橋、トンネルなどの建設費用に充て
 ました。しかし、公共事業は景気回復にはつながらず、税収の伸びないなか、国債の発
 行残高は増え続けました。
・法人利益については、景気が思ったより良くならなかったことに加え、主に利益水準の
 高い大企業が、円高対応と生産コスト削減のために、生産拠点の海外移転を進めたこと
 も大きな原因になったのではないでしょうか。
・10年前に思っていたよりも、最近の高齢者が医療費を多く使っている。年々医療技術
 は高度化しています。高度化とは、多くの場合「高額化」につながります。人間が一生
 で使う医療費の半分以上を、高額な延命治療などにより死ぬ間際の1年間で使う、とい
 う分析もあるそうです。
・景気が良くなっていないのに税率だけ上げるのでは、景気のさらなる悪化要因になって
 しまい、結局のところ将来の税収減少を引き起こしてしまうことです。したがって、景
 気回復が全体としての税収増加には不可欠なのです。
・医療費については、今後も加速度的に増加することは確実です。人口の高齢化は確実に
 進行し、あと数年もすればいわゆる団塊の世代の人たちが70歳代になっていくからで
 す。
・日本は政府債務は巨額なので格付けは低いが、日本国債のほとんどが日本国内で消化さ
 れており対外債務が少ないので、財務的に安定していると市場では見られている。
・国債の「個人」の保有比率はわずか3%に過ぎません。多くの人が「自分は国債など持
 っていない」と思っているでしょう。しかし、それは認識の誤りです。日本国民や日本
 法人のほぼすべてが銀行に預貯金を持っており、それを原資にして銀行が国債を大量に
 買っているわけです。保険や年金も同様です。すなわち、日本国民や日本法人のほぼす
 べてが、銀行や保険、年金を仲介にするという間接的な形で、知らない間に国債を「も
 た冴えて」いるのです。
・国債の「海外」の保有比率は、円高進行で円を買った外国人投資家が短期債中心に日本
 国債を買ったため、やや増加傾向にあるものの、依然として8.5%しかありません。
・国債の90%以上が日本の個人金融資産と法人金融資産で消化されている状況、これが
 「国債の国内完結」の構造です。国内の金融資産がすべて国債に置き換わってしまうま
 で、国内完結は続けることができます。逆に言うと、国債発行残高が国内の金融資産を
 超えてしまうと、海外の投資家に国債を買ってもらう以外に消化は難しくなるというこ
 とです。
・今後数年間で、いわゆる団塊お世代のほとんどが高齢者となります。このことから確実
 に予想されるのは、医療費は今後も増加を続け、しかもその増加ペースは加速していく、
 ということです。したがって、高齢者の医療費の自己負担率を大幅に引き上げない限り、
 政府部門の負債は増加を続け、しかもその増加ペースは加速していく、と予想されます。
・29歳以下の世代は金融資産も金融負債もほとんど持っていません。30歳代、40歳
 代は、金融資産はそれなりに持っていますが、ほぼ同額の金融負債(主に住宅ローン)
 を持っています。その結果、個人純金融資産のほとんどが50歳代以上の世代で保有さ
 れ、特に60歳代以上で全体の80%以上を保有しています。
・2017年には、政府債務が個人金融資産を上回り、国内完結ができなくなる見込みで
 す。もちろん、実際には多少前後するかもしれませんが、そう遠くない将来には国内完
 結ができなくなる見込みであることは、間違いないでしょう。

円高信仰継続か円安反転か
・日本の製造業各社は、円高対策と海外の安い労働コストという「一石二鳥」を狙って、
 生産の海外移転を進めてきました。その結果、輸出が減少し、今後は「貿易赤字体質」
 になりそうだということなのです。貿易赤字になった以上、貿易収支の不均衡という円
 高要因はもはやなくなった、ということです。
・米国は、QE(量的緩和)と呼ばれる手法を取ってきました。FRBが市中の米国債を
 買い取ることで、市中に資金を「量的に」供給するというものです。日本も同様の量的
 緩和をやってきてはいますが、米国の勢いに比べるとおとなしいものです。そして、こ
 の「通貨供給量の増加ペースの差」が、金利差ゼロ以降の円高ドル安要因になっていま
 す。
・米国が行なっている中央銀行(FRB)による債券買い取りは大きなリスクを伴う政策
 であるため、FRBは、できることなら可能な限り早くQE3を終わらせ(量的緩和拡
 大の終了)その後なるべく早く保有債券を市場に売却したい(量的緩和縮小の開始)、
 と思っているはずです。
・米国景気が本格回復し、金融政策を正常化させる際の順序は、このまったく逆のプロセ
 スをたどることになるでしょう。つまり、金利を引き上げる前に、量的緩和の縮小、す
 なわちFRBが保有する米国債の売却が行われるはずです。それが起こった時が、「通
 貨供給量増加ペースの差」が円高ドル安要因から円安ドル高要因へ転換する時です。
・中長期的な国の経済力は、日本に比べ米国のほうが圧倒的に強く推移すると考えられま
 す。
・日本は明らかに伝統的製造業の衰退期を迎えているにもかかわらず、「ものづくり」に
 依然としてこだわっており、その後を引き継ぐような世界を相手にビジネス展開する企
 業や業種が見られません。

円安進行がもたらすこと
・たしかに、多くの製造業企業の経営者や外貨投資、株式投資をしている投資家は、円高
 にはさんざん苦しめられてきたという思いが強いでしょう。ただ、一般消費者は円高で
 何か困ったことがあったでしょうか。個人輸出でもしていなければ、何もなかったはず
 です。むしろ、日本経済は円高のせいで給与水準が増えないなか、デフレのおかげで何
 とかやってこれたのです。
・日本は、エネルギーや食糧、衣料品の多くを輸入に依存しています。このため、景気が
 なかなか本格回復せず、給与がじわじわと減っても、円高進行により輸入価格が下落し、
 安い輸入品を買うことで対応できたのです。つまり、給料が減っても、円高のおかげで
 輸入物価が下落してデフレになり、何とかやってこられたのです。
・円安は輸入物価の高騰を招くのです。そして、日本はエネルギーや生活必需品の多くを
 輸入に依存しています。これまでは、景気低迷ゆえに給与水準は上がらないどころか徐
 々に減少しているものの、円高のおかげ、デフレのおかげで何とかやってきた、という
 状態が相当長期間続いているのです。 
・円安になったらストレートにガソリン販売価格も跳ね上がることになります。これは輸
 送コストの増加に直結しますし、輸入エネルギー価格上昇は電力料金上昇にもつながり
 ます。こうして、エネルギーコストすべてが上昇するのですから、随所に悪影響が出て
 くることは言うまでもありません。
・消費者にとってみれば、給与水準が上がらないなかで、物価が上昇するのです。コスト
 上昇によるインフレ、コストプッシュ。インフレです。給料が増えないのに物価が上昇
 するわけですから、さらなる節約が必要となり、景気のさらなる悪化につながります。
・21世紀に入って、中国、インドなど多くの人口を抱える新興国では、生活水準の飛躍
 的な向上が見られています。いったん快適な生活を経験してしまえば、以前の不便な生
 活には決して戻れません。需要は今後も確実に増加が続くということです。
・石油、石炭などの化石燃料も、金属資源も、穀物や肉など食料も、供給増加には限界が
 あります。供給の増加をはるかに上回る需要増加が続けば、当然ですが価格は上昇しま
 す。経済発展により給与水準が上昇し、購買力が上がることによって起こるディマンド
 プル・インフレです。
・さらに、将来この資源インフレに拍車をかけると思われるのが、ここ数年の世界的な金
 融緩和政策です。世界的に通貨供給量を増やしてきたわけですが、現在までのところで
 は欧州諸国の財政問題、米国の景気減速や中国の経済成長減速など懸念材料がたくさん
 あるため、投資家は株式や資源にするリスクを取らず、資金を財政優良国の国債に避難
 させています。その結果、財政優良国の国債利回りは、かつてみられなかった水準にな
 っています。
・しかし、現在のような極端な「リスク・オフ」の状態が長期にわたって続くとは思えま
 せん。ひとたびさまざまな懸念が後退すれば、財政優良国の国債に避難させている大量
 の待機資金で、株式や資源への投資を積極化するでしょう。
・さまざまな懸念が後退する時には、当然世界の中央銀行は将来のインフレ・リスクに備
 えるために、異常なまでの金融緩和から金融引き締めの方向に政策転換するでしょう。
 米国も同様です。そうなると、ドル高になり、必然的に円安になります。日本は、米ド
 ルベースでの資源価格上昇に加えて、円安からの円ベースの価格上昇が重なり、まさに
 ダブルパンチで輸入価格上昇が進む事態に直面するのです。
・円安進行が続くとなれば、円での保有は海外投資をする際にどんどん不利になりますか
 ら、すべてとは思えませんが少なくとも一部を外貨で保有しようとする動きが出てくる
 と思われます。その際には、円を売ってドルを買うということになりますので、円安進
 行を加速させるばかりでなく、国内金融機関に置いていた円の一部が海外金融機関に移
 転することになります。つまり、国内金融機関の預かり残高が減少することになります。
・個人富裕層も同様な行動に出るでしょう。個人の場合、資産を円で保有する理由が企業
 以上になくなる人が多いはずで、企業よりももっと大胆な資産の海外移転を行うこと
 も予想されます。日本で生活する強い理由がなければ、資産移転だけでなく、税率の低
 い国への海外移住も増えるでしょう。この動きも、やはり国内金融機関の預かり残高減
 少につながります。
・国内金融期間は預金を原資にして国債を買っています。しただって、国内金融機関の預
 金預かり残高の減少は、国債の国内完結構造の限界に大きく近づいていく、ということ
 を意味します。ひとたび国内完結構造の限界に市場が注目してしまったら、国債価格の
 大幅下落(金利の大幅上昇)が起こるのです。
・国内生産して輸出する場合、売り上げがドルなのに対して生産コストは円ですから、円
 安になると円換算した売り上げは膨らむ一方で製造コストはかわらないため、利益は急
 拡大します。
・海外生産・海外販売ですと、売り上げも生産コストもドルなので、円安になっても売り
 上げとともに生産コストも円換算で膨らみ、利益率上昇とならないのです。
・輸出比率が減少したことにより、円安による利益率拡大のポテンシャルはかなりそぎ落
 とされてしまった、と言えるでしょう。
・80年代終わりのバブル景気までは、物価はインフレでしたから、名目給料が上がらな
 ければ実質的には給料は減ってしまう、という状況もあり、各企業はインフレ以上に毎
 年昇給させていました。同時期に、株価や不動産価格の上昇という資産インフレも起こ
 っていましたので、多くの企業は大量の資金を借り入れ、株式や不動産に投資しました。
 「財テク」と呼ばれた行為です。バブルが崩壊するまでは、企業は本業に加えて財テク
 でも収益を上げ、従業員もインフレ率を上回る安定的な昇給を享受でき、大変幸福な状
 況でした。
・バブルは崩壊と向かい、1990年代に企業業績は低迷を続けました。株価や不動産価
 格も大幅下落し、多くの企業は財テクの損失と多額の借入金返済に追われました。その
 時期に「必要以上の借入金はしない」「必要のない投資はしない」「利益はできる限り
 内部留保に回して蓄える」という現在の多くの日本企業の経営理念が確率されたと思い
 ます。
・2000年ころになり、終身雇用制度の崩壊とともに昇給制度もなくなり、企業は利益
 なるべく多く内部保留に回し、業績が悪い時にも給料を大きく下げない代わりに、業績
 が良い時にも給料を上げないという、いわば完全にデフレに合わせたシステムが構築さ
 れました。
・給与制度を変更するには相当な時間がかかります。円安進行で業績が良くなったとして
 も、給与制度の変更は少なくとも数年はかかり、すぐに給料が増やされるとは思えない
 のです。その結果、円安によるコストプッシュ・インフレに国民生活は苦しめられるで
 しょう。

国債価格下落(金利上昇)が日本の金融システムに与える影響
・国債の発行残高は、2010年末の878兆円、11年末で920兆円です。この先も
 少なくとも毎年40~50兆円増えていくとすれば、10年経過後の国債発行残高は
 1400兆円には達する見込みで、この3.5%が利払い費用だとすれば49兆円にな
 るのです。現在の利払い費用が約10兆円ですから、5倍です。税収が変わらないとす
 ると、税収は約45兆円ですから、利払い費用だけで税収を上回るということになり、
 国債発行を今よりも大幅に増やさなければ財政は回らなくなるでしょう。
・ご理解いただきたいのは、流通利回りが上昇すると債券価格は下落する、ということで
 す。三菱東京UFJ銀行は、国債を約50兆円保有しています。金利が1%上昇するご
 とに1.5兆円の損失が発生します。自己資本は約10兆円ですから、金利が3%程度
 になると自己資本の3分の1がなくなり、金利が7%程度に上昇すると自己資本がすべ
 てなくなるほどの損失が発生することになります。 
・現在は、国内銀行は国債の買い手です。買い手が大量にいるおかげで、流通市場は流動
 性が豊富なのです。そして、どこの銀行も似たようなリスク管理をしているはずです。
 ということは、国債の流通利回りがある程度のところまで上昇すると、すべて銀行が国
 債を大量に売却しようとすることになります。結果がどうなるのかはおわかりでしょう。
 大量の買い手がいきなり大量の売り手に変わるわけですから、すぐに買い手が見つかる
 はずがありません。
・その段階になると、市場は「もはや日本国債は健全な国内完結とは言い難い」とみなし、
 国債の格付けも下げられ、国債の流通利回りはさらに上昇し、銀行の保有国債の含み損
 はさらに増加して、国はさらなる資本注入の必要に迫られる、という悪循環となるでし
 ょう。
・過去、財政的に行き詰まり、中央銀行が新発国債を引き受けた例がいくつかありますが、
 例外なく通貨は暴落、急激なインフレから金利が急上昇しました。日銀法が改正され、
 日銀が新発国債の引き受けや、銀行が売却する国債の買い切りを行ったら、まず間違い
 なく円は大暴落し、それは急激なインフレと金利の急上昇につながるでしょう。

そして円安が始まる
・円高が進行するとはどういうことでしょうか。まず日本株ですが、世界的な景気懸念に
 基づく要因に加え、円高進行は輸出関連業種を中心とした企業業績の悪化要因ですから、
 輸出関連業種が主導するかたちで日本株は下落するでしょう。リーマン・ショックの前
 年の2007年ごろから、円高になると日本株が下がり、円安になると日本株が上げる
 という関係が続いており、それが続くということです。 
・米国株も下落するでしょう。ただし、米国株には為替要因はなく、また米国内の米国株
 への投資家層が日本国内の日本株への投資家層に比べてはるかに厚く、積極的な金融緩
 和策を通じて市場に一定の安心感を与えているため、日本株に比べると下落は限定的で
 しょう。
・円安進行初期は、米国景気がようやく落ち着いてきて、米国が量的緩和拡大の終了を経
 て量的緩和の縮小に動き始める、ということによってもたらされます。この時、世界の
 通貨のなかでドルが上昇し、結果として円安ドル高になります。そのタイミングでは、
 世界的な景気懸念も薄らぐ方向に向かっていると思われます。日本では、「やっと待ち
 に待った円安がきた」と円安大歓迎ムードになるでしょう。ドル/円の為替ルートで言
 うと、70円台から90円程度までの円安進行です。
・日経平均は半年から1年で安値から最大50%程度の上昇(日経平均7000円から1
 万500円というイメージ)すると思います。為替要因が追い風になるため、日本株が
 世界の株式市場のなかでもっとも上昇する可能性があります。 
・日本国債は、国内の銀行をはじめとする国内機関投資家は債券から株への資金移動を大
 規模にするとは思えないため、10年国債の流通利回りはせいぜい1%台程度への上昇
 にとどまるでしょう。
・円安進行中期は、米国景気は順調な回復を続け、FRBが保有する米国債はすべて売却
 され、短期金利をいつ引き上げるか、という論調がなされるはずです。この時期には、
 日米の短期金利差拡大が円安進行要因となります。
・日本では、円安進行による輸入物価上昇がそこかしこに表れ始め、円安大歓迎ムードか
 ら、このまま円安が進行し続けて大丈夫か、という懐疑的ムードが徐々に台頭している
 と思います。ドル/円の為替ルートで言うと、90円から100円を超え、110円に
 迫ろうかという段階です。 
・日本株は、円安進行初期に大幅上昇後、円安進行中期では全体としてはもみ合いとなる
 と思います。それまで日本経済や日本の企業業績にとって「神の救い手」と捉えられた
 円安進行が、実は輸入物価上昇により、エネルギーコスト上昇や輸入原材料価格上昇と
 いう、日本経済や日本企業業績にとっての悪化要因も引き起こすことが注目され始めま
 す。
・円安進行後期は、日本でのコストプッシュ・インフレ、国債の流通利回り上昇による国
 内銀行の保有国債における含み損拡大と、それに伴う自己資本の減少、国債の国内完結
 構造の行き詰まりなど、日本にとって「不都合なこと」に市場は完全に注目します。ド
 ル/円の為替レートは110円、120円と節目を次々と超え、円安進行が加速し
 ていきます。世界通貨の中での、円の独歩安です。
・日本株は大幅下落です。この段階になると日本国債は大幅下落しているわけですから、
 そこに大量の含み損を抱える日本の金融期間は間違いなく経営不安が出てきます。その
 ため市場からの短期資金調達や決済業務に支障が出る可能性が高く、日本発の世界的金
 融危機も意識され始めるでしょう。
・外国人投資家は、「円資産」全体に対しリスクを感じ始め、その売却に動きます。円資
 産には当然、日本株も含まれます。外国人持ち株比率の高い、おそらくそれまで株価の
 値持ちが良かった優良大型輸出関連銘柄の株価が最も下落するでしょう。保有する日本
 国債の含み損を大量に抱えているであろう日本の機関投資家に、株式の買い余力がある
 はずもありません。含み損拡大によりリスク許容度は大幅に低下し、国内機関投資家も
 日本株売却を余儀なくさえるでしょう。日経平均は5000円を割るかもしれません。
・米国株も下落です。日本の経済規模を考えれば、その影響はギリシャ、スペインの比で
 はありません。
・日本国債は大幅下落(流通利回り大幅上昇)でしょう。日本の10年国債の流通利回り
 も5%を軽く超えるでしょう。
・円安進行中期から円安進行後期は、円安進行が続いたことで、輸入物価が高騰し、コス
 トプッシュ・インフレが加速し、金利が上昇基調にある、といい状況になります。
・まず日本株です。これまで「円高&デフレだから日本株は下落した。円安&インフレに
 なれば日本株は大幅上昇する」という意見が賞式として刷り込まれてきたため、円安進
 行初期にはいったんは大幅上昇するでしょう。外国人投資家も、円安による日本の製造
 業の業績回復期待から日本株を積極的に買ってくると思います。しかし円安進行が止ま
 らず、輸入物価上昇をはじめ円安の弊害が議論され始めるようになったとき、問題は表
 面化します。
・円安と金利上昇は、エネルギーコストや輸入材料コストの上昇に加えて、企業の資金調
 達コストの上昇を引き起こします。企業は資金調達に消極的にならざるを得なくなり、
 設備投資や研究開発が削減され、それが業績の中期的な成長力を低下させます。
・金利上昇がさらなる通貨安進行を加速させることを、これまで外国人投資家はさまざま
 な国で経験してきていますので、彼らは円安による収益拡大のポテンシャルよりも円資
 産を保有するリスクを重んじるようになり、日本株式の売却が始まるでしょう。 
・機関投資家は、これまで株式(特に日本株式)を減らし日本国債を増やしてきて、今や
 大量に保有しています。金利上昇となれば、保有している日本国債から大量の含み損が
 発生し、リスク許容度はさらに低下し日本株を買うどころではないはずです。むしろ日
 本株をさらに減らさざるを得ない機関投資家も、少なからず出てくるでしょう。
・個人投資家はどうでしょう。大多数の個人投資家は円安によってもたらされるコストプ
 ッシュ・インフレにより、生活は一層苦しくなっているはずで、株を買うどころの状態
 ではないでしょう。少しでも余裕のある個人投資家は、円の預金を引き出し、円安継続
 に備えてドルを買うのではないでしょうか。買い手不在で、外国人投資家と一部の国内
 機関投資家が売りに回る状況で、日本株が上昇するわけがありません。円安が止まり、
 通貨安リスクを外国人が感じなくなるまで、日本株は大幅下落が続くでしょう。
・世界的に不動産価格は「賃貸利回り」で決まります。現在なら賃貸利回りは5~10%
 という水準です。国債の下落により金利が上昇すると、賃貸利回りも金利上昇に合わせ
 て上昇します。賃料が変わらなければ、賃貸利回りが高くなるほど物件価格は下落する
 のです。
・人々の生活が日に日に苦しくなるなかで、家賃の値上げなど受け入れられるのでしょう
 か。むしろ、家賃には今にも増して値下げ圧力がかかることはあっても、値上げなど受
 け入れられるはずがありません。生活防衛のために、多少立地が不便になっても、狭く
 なっても、家賃の安いところへ転居する人も出てくるでしょう。 
・そもそも日本は既に人口減少段階に入っています。極めて立地の良い物件はその限りで
 はないかもしれませんが、そのような状態では不動産に対する需要は、日本全体でみれ
 ば落ち込みを続けると考えるのが妥当だと思います。
・結局、インフレ=株価&不動産価格上昇というのは思い込みに過ぎず、最終的には株価
 も不動産価格も大幅下落すると思われます。
・「デフレは良くないからインフレにしろ」「円高は良くないから円安にしろ」という世
 論のポピュリズムを単に代弁するに過ぎない政治家からの圧力や、自社の業績のみを考
 える大規模製造業各社の経営者を代弁する経済団体からの圧力で、日銀法改正が実現し、
 日銀が新発国債の引き受けや国債の買い切りに踏み切らされる可能性は小さくないと思
 います。そうなった場合は、米国をはじめ世界景気に対する懸念が依然として存在する
 なかで円安進行が始まるわけです。米国株の上昇が期待できないなかで、円安進行初期
 は日本株はやや上昇し、日本国債の流通利回りは10年国債で一気に2%台への上昇と
 なるでしょう。日銀の新発国債の引き受けや国債の買い切りは、外国人投資家に」もは
 やそれしか国債消化の手段がなくなった=日本も最後の段階を迎え、危険性はユーロと
 かわらない」と受け止められると思います。その結果、円を避難通貨として使う外国人
 投資家は減少し、円安進行要因となるでしょう。日銀の新発国債の引き受けと国債の買
 い切りという劇薬を、日本が自ら処方するわけですから、円安進行、国債価格下落
 (流通利回り上昇}のスピードは、メインシナリオと比べても早くなると考えられます。
・2001年にIMFが以下の状況から日本の財政悪化を懸念して財政再検索をまとめた
 「ネバタレポート」が発表された。 
 ・10年まえよりもさらに政府債務が増加し、国債の国内完結構造の限界により近づい
  た。
 ・米国が近年、過去に見られなかったほどの大規模な金融緩和策をとり、それがためド
  ル安が牽引する形で円高となった。現在米国が行なっているQE(中央銀行である
  FRBが自国の国債を買い切りの形で保有する量的緩和策)は将来のリスクの高い政
  策で、売国景気が持ち直し次第、量的緩和策は拡大終了し、そして縮小へと向かい、
  ドル高にけん引されるかたちで円安となる。
 ・米国に限らず世界的に近年、過去にみられない大規模金融緩和策をとっており、世界
  経済が正常化した際には大きなインフレ・リスクにつながる。
 ・日銀が国債の買い切りや新発国債の引き受けをできるようにするために、日銀法の改
  正論が高まっている。

日本発の世界金融危機を回避するには
・円安進行後期に、日本政府はどのような策を講じるのでしょうか。おそらく、消費税を
 はじめとする各種の増税、日銀法改正を通じた日銀による新発国債の引き受けおよび国
 債の買い切り開始、となるでしょう。しかし、それはほとんど効果がないことは、もう
 おわかりだと思います。
・危機の時の国民の対応には、国民性がよく現れます。欧州危機で注目されたギリシャ、
 スペイン、イタリアなど南欧諸国のラテン民族の国民性は、危機の時には暴動です。
 国家財政危機の時に日本人はどう対応するのでしょうか。ひたすら耐え忍、それが日本
 人です。
・東日本大震災後の東北地方の対応も同様です。地震と津波により、生活基盤を失ったば
 かりでなく、家族も奪われた人がたくさん出ました。ラテン民族であれば大暴動が起こ
 っていたかもしれません。ところが、東北地方の人々は秩序と品格を失うことなく、ひ
 たすら耐え忍びました。その姿は世界中から尊敬の眼差しを向けられました。
・日本が財政危機に瀕した時にも、日本国民は耐え忍び、政治家や官僚も決して自ら海外
 に向け支援要請などしないでしょう。しかし、それは世界にとって大変困ったことなの
 です。
・日本は米国をはじめとする主要国から圧力をかけられて、IMFへの支援要請をさせ
 られる、という事態が想定されます。
・近代になってからの過去2回、日本は制度の大変革を経験しました。明治維新と第2次
 世界大戦敗戦です。明治維新のきっかけはペリー来航であり、第2次世界大戦敗戦後の
 変革はマッカーサーが行いました。日本は、自らは制度の大変革を行うことはできず、
 外圧によってのみそれを実行できたという歴史があり、将来直面する国家財政危機の際
 にも同様になるのではないでしょうか。
・IMFは将来の日本の財政危機を予想して、2001年にその対処方法として「ネバタ
 レポート」と呼ばれる提言を発表しています。その内容は、
 ・公務員の総数30%削減、および給料30%削減、ボーナス全額削減
 ・公務員の退職金全額削減
 ・公務員年金一律30%削減
 ・国債利払いを5~10年停止
 ・消費税率を20%に引き上げ
 ・課税最低限度年収を100万円まで引き下げ
 ・資産税の導入(不動産は公示価格の5%、債券は5~15%、株式は取得金額の1%
  を課税)
 ・銀行破綻の場合はペイオフ(預金保険機構で保護される上限金額1000万円を超え
  る預金は保護しない)を実施
・かつて金融危機に陥った韓国とアルゼンチンの例を見ると、資金への海外流出とそれに
 伴う通貨の下落を防ぐ目的で貿易以外の海外送金の禁止、自国通貨売り・外貨買い取引
 も禁止あるいは厳しく制限されました。アルゼンチンでは、国内預金口座が凍結され、
 現金引き出しは毎週250ペソ(当時の為替レートで換算すると約3万円)までに制限
 されました。 
・日本の金融機関は、日本政府が決めた規制には当然、従わざるを得ません。たとえそれ
 がどんなに理不尽に思えるものであってもです。すなわち、円が危なそうだから日本の
 銀行で外貨預金をしている、ということでは理不尽な規制にさらされるリスクがあり、
 万全な資産防衛とは言えません。悪質なコストプッシュ・インフレにより物価上昇する
 なかで、円安、株安、債券安(金利上昇)が進み、何かしようとした時には理不尽な規
 制がかけられていてできない。すなわち、何もしていないのに自分の資産がむしばまれ
 ていく状況になってしまう可能性を相当程度覚悟しておかなければならない、というこ
 とになります。
・今後加速的な増加が見込まれる医療費を中心とする社会保障費は、間違いなく大幅削減
 の対象となるでしょう。現在公的年金の積立金が約140兆円あり、将来の年金給付を
 削減することにより、この積立金の一部を取り崩すことにもなるでしょう。
・公務員の絶対数とその人件費の大幅削減も避けられません。警察や消防署員、自衛隊員
 といった治安や安全にかかわる公務員を大幅削減するわけにはいきませんから、それ以
 外の公務員は「ネバタレポート」のいう30%どころでは済まないくらい削減されると
 思います。
・日本が財政危機を迎えた時に、政策の企画・立案をリードするのは、やはり米国になる
 と考えられます。米国は世界中で「自由資本主義化」を推し進めており、一度制菌を払
 って気づいた保有資産に再び課税するという資産課税の導入を主張するとは思えない。
 米国の所得税は、最低税率が10%(日本は5%)、最高税率が35%(日本は40%)
 です。日本から見たら金持ち優遇ということになるのでしょうが、米国からみれば日本
 の税制は金持ち冷遇なのです。日本はとかく、機会の平等よりも結果の平等に力点を置
 きがちですが、米国の考え方は結果の格差を尊重し、低所得者から高所得者までフェア
 に扱うということです。だから、日本は低所得者や高齢者を厚遇し過ぎ、高所得者を冷
 遇し過ぎているので、結果として貧富の差が広がらず国力が弱まる一方だ、と思ってい
 るに違いありません。したがって、米国主導で日本の構造改革が行われる時は、日本の
 貧富の差を積極的に拡大させるような方向に向かうでしょう。

円安時代の日本の復活シナリオ
・日本が財政危機に直面するリスクが高まったら、外圧によりIMFに救済要請させられ、
 これまた外圧によって財務規律の回復を要求されて、医療費負担は大幅増加、消費税率
 は大幅引き上げとなることが予想されます。
・もし、IMFの要請により予想外のスピードで「小さな政府」が実現されそうだという
 ことになったら、外国人投資家は日本に対する投資姿勢を一変させるでしょう。円安進
 行もとまると思います。
・IMFが介入するまでの円安進行後期には、外国人投資家は日本おカントリーリスクか
 ら日本株を中心に円資産を売却することになります。しかしひとたび構造改革の道筋が
 見えたら、大幅に下落した円資産に「絶好の買い場」として積極的に投資してくること
 が予想されます。円安進行が止まり、為替に大きなリスクがなくなっているはずですか
 ら、なおさらです。
・日本は、「人口減少傾向」「高齢化傾向」という問題はありますが、「1億2000万
 人以上の民度の高い国民」「島国であるため治安を保ちやすい」「高度なインフラが完
 備」「独特の食文化」「(国のかたちができあがってから少なくとも}1500年以上
 の歴史」など、投資家でなくても、外国の人から見た魅力はたくさんあります。
・円高進行が続くうちは、円高対策と海外の安い労働力活用のため生産拠点の海外移転が
 進みました。円安となれば、生産拠点の海外から国内への回帰は起こらなくとも、製造
 業各社は、ある程度時間をかけて国内生産を増加させ、輸出を増加させるでしょう。通
 貨下落による輸出競争力の向上が、国家財政危機の後に国家を復活に導く、ということ
 は韓国でもアルゼンチンでも実際に見られたことです。
・企業業績の大幅増益は、法人税収の大幅増だけでなく、従業員の給料増を通じて、所得
 税収の増加、消費税収の増加にもつながります。
・2010年から2035年に、全国では人口が13%減少し、東京圏外での労働者人口
 増加を図らなければ、地方財政は行き詰まるか、国の地方交付金負担が増えるかのいず
 れかです。この問題を解決する方法として、東京圏以外での積極的な海外移民受け入れ
 が挙げられます。
・問題は、雇用をどこで創出するかです。この点、高齢者人口が大幅に増加するわけです
 から介護など高齢者関連事業における雇用需要は増える一方でしょう。 
・円高進行が続いているにもかかわらず、海外の物価は円換算で考えても、もはや安くは
 ありません。日本を訪れる観光客がもっと増えていい環境になってきたと思います。
・円安進行となれば、海外からの観光客はどうなるでしょうか。いくら通貨が安くても、
 暴動、略奪など治安に不安があったら、海外から観光客などこないでしょう。しかし、
 日本の場合は、円安進行によるコストプッシュ・インフレ、IMFの要請の一環で医療
 費自己負担率大幅増加、消費税率大幅上昇など、生活が相当苦しくなっても、おそらく
 国民性から治安にはそれほど問題は生じないでしょう。だとすれば、海外からの観光客
 数は大幅に増加するはずです。
・日本には、奈良、京都、鎌倉などの歴史的都市、全国にある温泉、食文化など、海外
 の人々にちって魅力的な要素が豊富にあります。また、鉄道網、地下鉄網は十分に整備
 され、移動も容易です。海外からの観光客が大幅に増えれば、それに比例して彼らが日
 本国内で使うお金も増え、経済活性化、税収増につながります。
・海外に向けてあらゆる意味で開かれた日本にするために、英語教育は根本から見直され
 る必要があります。
・日本人は、いわゆる「空気を読む」ことを重視しがちですが、外国人にその感覚は希薄
 です。「たしかに違法行為ではないが、空気を読んでその行為は謹んでほしい」という
 理屈を捨てなければ、部外から相手にされないままです。
・日本は、あるいは日本人は、とかく外国人との接触に消極的です。その国民性の原点は、
 江戸時代の鎖国政策にあるのかもしれません。しかし、現在の根本的原因は「英語でコ
 ミュニケーションができないこと」にあるように思います。
・日本人には、文書だけでなく口調で論理的に議論することを苦手とする人が多いように
 思います。自分とは違う意見を言われると感情的に反論する人も少なくないため、意見
 をいうことが自体が「失礼なこと」と感じられているのではないかとすら思います。
・しっかりと自分の意見を、聞き手にきちんと伝わるように言えるようにすることは非常
 に大事です。言語表現教育の強化なしに語学能力だけを見に付けても、国際社会での活
 躍には結びつきません。自分の意見をただ言うだけでなく、聞き手に伝わるようにいう
 ことが重要なのです。
・的確に自分の意見を言うためには、論理的思考訓練が欠かせません。

激変を乗り切る資産運用
・どのように円の最高値、別の言い方をする円高から円安への転換点を判断すればいいで
 しょうか。それは、米国のQE3の終了が発表された時、またはQE4が発表された時
 です。
・2012年9月に発表されたQE3は、「労働市場が改善」するまで住宅ローン担保債
 券を毎月400億ドル買い続けるという、QE1、QE2と違い明確な期限を設けない
 ものです。 
・FRBとしてはQE4は何としても避け、できることならなるべく早くQE3を終了さ
 せたいと考えていると思います。QE3の終了は、FRBが労働市場が改善したと判断
 したことを示すものであり、これまでの米国の異常と言える規模の量的緩和策お修正開
 始を明らかに示唆するものになります。 
・個人金融資産の相当な部分が米国株になっている米国経済の株式資産効果を考えると、
 米国株が高値圏にあるうちは、QE4の可能性はないと思います。QE4が実施される
 とすれば、NYダウが1万ドルを割り込みそうな時だと思います。QE4の実施は最後
 の量的緩和策となる可能性が極めて高く、そこで円高圧力はピークに達するはずです。
・QE4が実施されるためには、米国株の大幅下落が必要であり、米国株が大幅下落する
 ということは、世界的に景気減速懸念が台頭しているということです。その時には投資
 家はリスクを極限まで避けてきて、円の「避難通貨」としての機能もその時に頂点を迎
 える。その時のドル/円の為替レートはがいくらかですが、70~75円の間のどこか
 だと予想します。 
・円の最高値のレートがいくらになるかはそれほど重要ではありません。大事なのは、
 QE3終了というドル安(=円高)圧力のピークアウトが示唆された際か、QE4実施
 という最後の円高圧力がかかった際に「円売りドル買いを実行する」ということです。 
・国内FX業者の口座は国内金融機関にあり、円安が相当進行してIMFなどが介入した
 場合には、国内金融機関は理不尽な規制に縛られるリスクがあります。したがって、理
 想的には海外口座で円売りドル買いのポジションを持つべきでしょう。ただ、重要なの
 は円売りドル買いのポジションを持つということですから、海外口座を使うのが難しい
 場合は、最悪規制リスクがあることを覚悟で、国内FX業者を使うのでも構わないでし
 ょう。大混乱を招くような理不尽な規制が入るリスクは、全くないとは言えませんが、
 限定的だと思われるからです。 
・日本国債は円とともにピークを付け、円高進行から円安進行にトレンドが転換したら、
 後は下落する(利回りは上昇する)一方です。 
・為替や日本国債と違い、日本株式は複雑です。円高進行局面では下落、円安進行初期で
 は大幅上昇、円安進行中期ではもみ合い、円安進行後期では大幅下落が予想されるため、
 売りでリターンを出す局面と買いでリターンを出す局面のどちらも存在するからです。
・円安進行初期には状況は一変し、日本株式は大幅上昇が予想されます。円安進行がトレ
 ンドとし定着するためには、米国が量的緩和の縮小に動く必要があります。そこで、目
 先の多少の損は覚悟で、カラ売りポジションを一気に買いに転換するか、まずかカラ売
 りを閉じて、米国が量的緩和の縮小に動いてきたことを確認してから買いにポジション
 を取るか、どちらにするかはリスク許容度と好み次第です。
・円安進行中期には、また状況が変わります。輸入物価の上昇を中心に円安進行の弊害が
 現れ始め、円安を手放しで喜べなくなりからです。この時期になると日本株式全体は上
 昇が止まり、もみ合いとなります。この時期になったら、買いポジションはすべて解消
 すべきだと思います。一般の投資家は、この時期は何もしないのが無難でしょう。リス
 ク許容度の高い投資家は、円高進行期と同様の手法で徐々にカラ売りポジションをとっ
 ていくのもいいでしょう。 
・円安進行後期には、またしても状況が変わります。日本のカントリーリスクを市場が織
 り込み始め、外国人投資家は株式、債券ともに円資産の売却を始めると予想されます。
 
 利回りが最もわかり易いと思います。利回りが2.0%を超えたら黄色信号、3.0%
 を超えたら赤信号で、完全に円安進行後期に入ったと判断されます。2.0%を明確に
 超えたら、円安進行中期には何もせずに「休んでいた」一般投資家も、カラ売りポジシ
 ョンを撮り始めるべきです。 
・とにかく重要なことは「株価下落でリターンの出る」ポジションを取るということです。
・利回りの大幅な上昇は債券価格の下落を意味しますので、せっかく外貨投資が円安で利
 益になっても、細菌価格下落による損失で相殺されてしまいます。したがって、外国債
 券は効率的な投資対象ではないと言えます。 
・現在は特別措置(2013年12月末まで)で株式での売却益、配当金は両方とも税率
 10%です。特別措置がなければ、税率は売却益、配当金とも20%になります。売却
 益については申告分離課税が原則ですが、証券会社で特定口座を選択すれば自分で申告
 する必要はありません。配当金については源泉徴収されます。
・投資信託の場合、公募投資信託は国内投資信託でも外国投資信託でも株式投資信託は上
 場株式と同様、公社債投資信託の場合は債券と同様の課税になります。 
・日本の居住者である人は、たとえ口座が海外にある場合でも所得があった場合には日本
 医納税義務があります。