「ドイツ帝国」が世界を破滅させる :エマニュエル・トッド

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かなり刺激的な本のタイトルである。もっとも、このタイトルは読者の目を引きつけるた
めに付けたようであり、本の内容はこのタイトルとはちょっと違った内容となっており、
それほど刺激的な内容とは受け取れなかった。もっとも、筆者はフランス人であり、どう
もフランスの人々の多くは、今でもあのドイツを恐れているようである。
ドイツは日本と同じように先の戦争では敗戦国であり、東西に分断されていた国であり、
当時はヨーロッパの中で、先の戦争を反省しながら、出しゃばらないようにひっそりと国
の運営が行われていた。しかし、それがソ連の崩壊により東西が統一された後は、一時経
済的に苦しみながらも、めきめき頭角を現し、今ではヨーロッパを牛耳るほどの力を持っ
た国となっている。
過去の歴史を見ると、ドイツは一度ならず二度も、ヨーロッパ諸国を蹂躙した国でもある。
筆者は、それは偶然ではなく、ドイツ人の持つ特質から生じたものであると見ているよう
で、二度あることは三度あるのではと、ドイツを警戒しているようである。
それにしても、「市場とは、単に最富裕層のことにほかならない」という言葉は、まさに
真実を言い当てた言葉なだと思えた。「市場」は最富裕層のためにあり、さらに国家も最
富裕層のためにあると感じる今の社会である。最富裕者たちは、国家をうまく利用してさ
らに富を増やし続けている。
一方において、現在のヨーロッパではシリア難民の問題が深刻さを増している。まさに絶
望的と呼んでいい状態だ。今の時代はどこの国々も財政的には苦しい状態が続いている。
シリア難民を受け入れる余裕のある国は少ないだろう。しかし、そんな状態の中において、
大量のシリア難民を受け入れているドイツは称賛に値する。それと比べ「我が国はシリア
難民を受け入れる前にすることがたくさんある」と言い切った安倍首相の姿を見て正直言
って恥ずかしかった。確かに日本は世界最大の財政債務を抱えており、とてもシリア難民
を受け入れるような状態ではない。しかし、もう少し何らかの形で貢献できることはある
のではないのかと思う。
筆者が言っているように、「戦争が起こるぞ!」という脅しは、国の権力者が国民を自分
の思うような方向に従わせるために使われる常套手段の一つだ。今の世界情勢においては、
戦争によって国が亡びる可能性よりも、国の内部からの破綻によって国が亡びる可能性の
ほうがずっと高いのだ。近隣諸国との戦争の恐怖で国民を煽り、強引なやり方で集団的自
衛権行使容認の決定や、安全保障関連法の改定、そして憲法改正までおも目論む日本の政
治は、国際的に見てまだまだ後進国のようだ。


ドイツがヨーロッパ大陸を牛耳る
ロシアの人口はわずか1億4千5百万人。国として立ち直ったのは確かだけれども、ロ
 シアが世界全体の中で、あるいはヨーロッパに限定した中でも、ふたたび支配的な国家
 になるとは誰も想像できまい。ロシアの力は基本的に防衛的なものだ。あの巨大な領土
 を保全していくだけでも、あれほど限定された人口、ちょうど日本の人口に匹敵する程
 度の人口では容易なことではない。
・ロシアは、「自由主義万能」の道を走る西洋諸国に追随しなかった国だ。あの国では、
 国家には国家なりの役割があることが再認識されている。
・近年「西側」のメディアはあたかも1956年頃、つまり熱くなりかねない冷戦の最中
 に戻ったかのような様相を呈しているが、そのうわごとに引きずられず、発生している
 現象の地理的現実を観察するならば、ごく単純に、紛争が起こっているのは昔からドイ
 ツとロシアが衝突してきたゾーンだということに気づく。 
・ドイツが反米的にアグレッシブな態度を取るのは新しい現象だ。しっかり考慮しないと
 いけない。ドイツのやり方には凄みがある。ドイツの政治家たちがアメリカ人について
 語るのを近くで聞いたことがあるが、その様子には深い侮蔑が表れていた。ライン川の
 向こう側にはかなりの厚みを持った反米感情の蓄積がある。
・擡頭してきた正真正銘の強国、それはロシアである前にドイツだ。ドイツが擡頭してき
 たプロセスは驚異的だ。東西再統一の頃の経済的困難を克服し、そしてここ5年間でヨ
 ーロッパ大陸のコントロール権を握った。
・金融危機のときに証明されたのはドイツの堅固さだけではない。あれでもって、ドイツ
 には債権危機を利用してヨーロッパ大陸全体を牛耳る能力があることも明らかになった。
・ここ5年の間に、ドイツが経済的な、また政治的な面で、ヨーロッパ大陸のコントロー
 ル権を握った。
・その5年を経った今、ヨーロッパはすでにロシアと潜在的戦争状態に入っている。
・ドイツが持つ組織力と経済的規律のトテツモナイ質の高さを、そしてそれにも劣らない
 くらいのとてつもない政治的非合理性のポテンシャルがドイツには潜んでいることを、
 われわれは認めなければならない。
・フランスは平等や自由の理念、世界を魅了する生活スタイルを生み出したし、知的、芸
 術的な面で先進国でありつつ、今では隣国よりも出生率の高い国になっている。もし現
 実に判定をくださなければならないならば、結局のところフランスは人生というものに
 ついて、よりバランスがとれていて満足のいくビジョンを持っていると、たぶん認める
 べきなのだ。  
・アメリカはもはやヨーロッパの状況をコントロールしていない。アメリカはすでに、サ
 ウジアラビアから財政的協力を得ているジハード勢力に対抗するために、年来の戦略的
 敵国であるイランと協力することを余儀なくされている。アジアでは韓国が日本に対す
 る恨み辛みのゆえに、アメリカの戦略的にライバルである中国と裏で共謀し始めている。
 いたるところで、つまりヨーロッパにおいてだけでなく世界中で、アメリカのシステム
 にひびが入り、割れ目ができ、あるいはそれでも増して悪いことが起こっている。
ウクライナの危機がどのように決着するかは分かっていない。しかし、ウクライナ危機
 以後に身を置いてみる努力が必要だ。もしロシアが崩れたら、あるいは譲歩をしただけ
 でも、ウクライナまで拡がるドイツシステムとアメリカとの間の人口と産業の上での力
 の不均衡が拡大して、おそらく西洋世界の重心の大きな変更に、そしてアメリカシステ
 ムの崩壊に行き着くだろう。アメリカが最もおそれなければいけないのは今日、ロシア
 の崩壊なのである。  
・ドイツはイタリアで、ギリシャで、またたぶん南ヨーロッパ全域で、ドイツが押し付け
 る財政規律のゆえにひどく嫌われている。しかし、それらの国々は何もできない。なぜ
 なら、ドイツがその隣接空間とフランスを伴って、いっさいを支配する能力を有してい
 るからだ。
・ウクライナは二つに、あるいは三つに分かれる。崩壊途上にあるシステムなのだ。現実
 には、ウクライナは一度として、正常に機能するナショナルな塊として存在したことが
 ない。見せかけの国家であり、破綻してしまっている。
・アメリカシステムとは、ユーラシア大陸の二つの大きな産業国家、すなわち、日本とド
 イツをアメリカがコントロールすることだ。ただしそれは、アメリカ自身が産業規模に
 おいて明確に優越しているという仮定の下でのみ機能する。 
・これからの20年間は、東西の紛争とはまったく異なるものに直面しなければならない
 のだ。ドイツシステムの擡頭は、アメリカとドイツの間に紛争が起きることを示唆して
 いる。これは力の支配の関係に基づく内在的なロジックである。未来に平和的な協調関
 係を想像するのは非現実的だ。
・アメリカとドイツは同じ諸価値を共有していない。大不況の経済的ストレスに直面した
 とき、リベラルな民主主義の国であるアメリカはルーズベルトを登場させた。ところが、
 権威主義的で不平等な文化の国であるドイツはヒトラーを生み出したのだ。
・ドイツ国民だけを考察しれば、その中での経済的不平等の拡大はまだリーズナブルな程
 度であって、アングロサクソンの世界で見られる格差よりもはるかに程度が低い。しか
 し、ドイツシステムを、そのヨーロッパ的全体性の中で観察すれば、つまり東ヨーロッ
 パの低賃金や南ヨーロッパにおける給与の抑制を加味して考察すれば、現在米英に見ら
 れるよりも断然著しく不平等な支配のシステムが生まれつつあると認めることができる。
 平等性は残っているのだが、それは支配する側の国民の間、つまりドイツ人の間だけの
 ことなのだ。 
・今日、政治的不平等はアメリカシステムの中でよりも、ドイツシステムの中での方が明
 らかに大きい。ギリシャ人やその他の国民は、ドイツ連邦議会の選挙では投票できない。
 一方、アメリカの黒人やラテン系市民は、大統領選挙および連邦議会選挙での投票でき
 る。ヨーロッパ議会は見せかけだ。アメリカ連邦議会はそんなことはない。
・ドイツの権威主義的文化は、ドイツの指導者たちが支配的立場に立つとき、彼らに固有
 の精神的不安定性を生み出す。歴史的に確認できるとおり、支配的状況にあるとき、彼
 らは非常にしばしば、みんなにとって平和でリーズナブルな未来を構築することができ
 なくなる。この傾向が今日、輸出への偏執として再浮上してきている。
・ドイツの社会文化は不平等的で、平等な世界を受け入れることを困難にする性質がある。
 自分たちがいちばん強いと感じるときには、ドイツ人たちは、より弱い者による服従の
 拒否を受け入れることが非常に不得意だ。そういう服従拒否は自然ではない。常軌を逸
 している、と感じるのである。
・日本は今後どうするのだろうか?今のところ、日本はドイツよりもアメリカに対して忠
 誠的である。しかしながら、日本は西洋諸国間の昔からの諍いにうんざりするかもしれ
 ない。現在起こっている衝突が日本のロシアとの接近を停止させている。ところが、エ
 ネルギー的、軍事的観点から見て、日本にとってロシアとの接近はまったく論理的なの
 であって、安倍首相が選択した新たな政治方針の重要な要素でもある。

ロシアを見くびってはいけない
・2009年以来、ロシアの人口は増加に転じて、すべてのコメンテーターや専門家を驚
 かせています。これは、ロシア社会が、ソビエトシステム崩壊による激しい動揺と、
 1990年代のエリツィン統治を経て、今、再生の真っ最中だということを示していま
 す。ロシアのこの状況は、数多くの点で、中央ヨーロッパの国々や、底知れない実存的
 危機に沈んだウクライナに比べればいうまでもないですが、西欧の多くの国々と比べて
 も、より良好な状況だと言えます。  

ウクライナと戦争の誘惑
・われわれの西洋社会を特徴づけるもの、それは、個人主義や自由の肯定・拡大に適した
 核家族構造と、個々人のさまざまな熱望を自らの周辺に結晶させる強い国家の組み合わ
 せです。ところがウクライナは、強い国家というものを経験したことがない。そしてこ
 の特徴を中央ヨーロッパの隣国、ポーランドルーマニアと共有している。ポーランド
 やルーマニアは伝統的に核家族構造を持っています。黒海からバルト海へと長く伸びて
 いるこの「中間ヨーロッパ」では、少なくとも18世紀以来、国家が機能していない。
 しかも、不幸なことに、二つの強い国家、すなわち、プロシアとロシアの間に挟まれて
 いて、そのぶん近代へのアクセスが遅れました。
・私が心配しているのは、ウクライナのペテロ・ポロチェンコ大統領と新しい指導者たち
 が、ウクライナ社会がバラバラになっていくことに途方に暮れるあまり、むやみに先を
 急ぐというやり方で事態の打開を図りたくなるのではないかということです。いったい
 誰なら、彼らを止めることができるのでしょうか。
  
ユーロを打ち砕くことができる唯一の国、フランス
ウクライナ危機におけるロシアの外交的観点は文化主義的ではなく、非常にシンプルで
 す。つまり、ロシアの指導者はウクライナにNATOの基地を望まない。そんなところ
 に基地を作られたのでは、バルト三国とポーランドから成る包囲網がいっそう強化され
 てしまうというわけです。それだけのことなのです。ロシアが望んでいるのは平和と安
 全です。自国の復興を完遂するためにロシアは平和と安全を必要としていて、クルミア
 半島で見られたとおり、今ではそれを獲得する手段を持っているのです。 
・自分たちの道徳観を地球全体に押し付けようとするアグレッシブな西洋人は、自分たち
 のほうがどうしようもなく少数派であり、量的に見れば父系制文化のほうが支配的だと
 いうことを知ったほうがよろしい。
・世界的経済危機を通してわれわれの目に明らかになったことの一つは、ホワイトハウス
 がベルリンに倒して強制力を発揮することができず、その結果、緊縮経済政策を放棄さ
 せる、ユーロの通過政策を変更させる、そしてより広くいえば世界経済再活性化のため
 の措置に参加させる、といったことに成功しなかったという事実です。今日、アメリカ
 はドイツに対するコントロールを失ってしまって、そのことが露見しないようにウクラ
 イナでドイツに追随しているのです。
・アメリカのパワーの後退は本当に憂慮されるほどになってきています。世界の安定性は
 したがって、アメリカのパワーだけに依存するわけにはいかないのです。
・中国はおそらく経済成長の瓦解と大きな危機の寸前にいます。ロシアは一つの大きな現
 状維持勢力です。アメリカとロシアの新たなパートナーシップこそ、我々人類が「世界
 的無秩序」の中に沈没するという、現実となる可能性が日々増大している事態を回避す
 るための鍵だろうと思います。
・フランスはウクライナ危機に過度に関与すべきではないと思います。自国の歴史と地理
 から見て、フランスはもともとウクライナから遠いのです。フランスが具体的に果たす
 ことのできる唯一の役割は、ドイツ政府の右腕となることでしょうが、「カール大帝
 線」は、ドイツ外交の新たな方向性が持っている不安定化への潜在力を増大させてしま
 うだけです。
・今日西洋人は自分たちが何者であるかが分からなくて四苦八苦しています。ドイツ人た
 ちは平和主義と経済的膨張主義の間で迷っている。アメリカ人たちは帝国路線とネイシ
 ョン路線の間で揺れている。そしてフランス人たちは、この混迷の中でどこに身を置け
 ばよいか本当にわからなくなってしまっている。
・西ヨーロッパの人口は高齢で、今なお非常に富裕で、失うものをたくさん持っています。
 それに対してロシア人たちは、多くの被害をもたらした経済的衰退の年月の後、やっと
 「一息つく」ことができ始めたばかりです。死亡率の傾向が逆転し、経済が安定し、農
 業が再び伸び始めてきた。ですから、ロシア人たちはネイションへの帰属に正真正銘の
 誇りを持っているとはいえ、今日、コントロールの利かない好戦的妄想に突然陥るよう
 な状態にありません。

オランドよ、さらば!:銀行に支配されるフランス国家
・政府への貸し付けは、カール・マルクスが見抜いたとおり、富裕層の持つ金の安全化だ。
 政府債務は民間金融機関の発明なのだ。緊縮、しなわち「政府債務を立て直す」という
 やつは、国家を死敵利益に奉仕する立場に拘束し、いつの日か不可避的にやらなければ
 ならない唯一のことをできないようにすることだ。やらなければならないこととは、借
 金のデフォルトさ。支払いを拒否することだ。
・ドイツは、すでに二度にわたってヨーロッパ大陸を決定的な危機に晒した国であり、人
 間の非合理性の集積地の一つだ。ドイツの「例外的」に素晴らしい経済的パフォーマン
 スは、あの国がつねに「例外的」であることの証拠ではないか。ドイツというのは、計
 り知れないほどの巨大な文化だが、人間存在の複雑さを視野から失いがちで、アンバラ
 ンスであるがゆえに恐ろしい文化でもある。ドイツが頑固に緊縮経済を押しつけ、その
 結果ヨーロッパが世界経済の中で見通しのつかぬ黒い穴のようになったのを見るにつけ、
 問わないわけにはいかない。ヨーロッパは、20世紀の初め以来、ドイツのリーダーシ
 ップの下で定期的に自殺する大陸なのではないか、と。 

ドイツとは何か?
・ドイツはグローバリゼーションに対して特殊なやり方で適応しました。部品製造を部分
 的にユーロ圏の外の東ヨーロッパへ移転して、非常に易い労働力を利用したのです。国
 内では競争的なディスインフレ政策を採り、給与総額を抑制しました。ドイツの平均給
 与はここ10年で4.2%低下したのです。ドイツは、中国に対してではなく、社会文
 化的要因ゆえに賃金抑制策など考えられないユーロ圏の他の国々に対して、競走上有利
 な立場を獲得しました。
・ユーロのせいでスペイン、フランス、イタリアその他のEU諸国は平価切り下げを構造
 的に妨げられ、ユーロ圏はドイツからの輸出だけが一方的に伸びる空間となりました。
 ユーロ創設以来、ドイツとそのパートナーの国々との間の貿易不均衡が顕著化してきた
 のです。
・ドイツに対するフランス側のノイローゼ、すなわち、ドイツをあるがままに見ることの
 できない精神状態が現実に存在します。その精神状態のせいで、ドイツがヨーロッパの
 連帯といった考えから隔絶した特異な戦略を相当なところまで作り上げているのを直視
 できなくなっています。
・日本社会とドイツ社会は、元来の家族構造も似ており、経済面でも非常に類似していま
 す。産業力が逞しく、貿易収支が黒字だということですね。差異もあります。日本の文
 化が他人を傷つけないようにする、遠慮するという願望に取り憑かれているのに対し、
 ドイツ文化はむき出しの率直さを価値付ます。この二国は世界で最も高齢化した人口の
 国です。人口構成の中央値が44歳なのです。フランスではそれが40歳なのですが。
 出生率は、フランスで女性1名あたり2人ですが、1.3から1.4人の間で揺れ動い
 ています。出生率のこのような差の背景にはもちろん、女性の地位の差があります。
 フランスでは女性は仕事と子供の育児を両立させることができますが、ドイツや日本で
 はどちらかを選ばなければならないことが多い。
・フランスとドイツのそれぞれの指導層の間には、かなり新しい何かが発生しています。
 世界のすべての先進国社会に共通する特徴の一つは、人口の1%を占める最富裕層が、
 銀行システムと金融活動に強く結びついたグループとして出現しているということです。
 ひとつの新しい関係がフランスの1%とドイツの1%の間に定着しつつあります。単一
 通貨とヨーロッパ中央銀行の設置によって、フランスの寡占支配者たちに対するドイツ
 の寡占支配者たちの支配が確立されつつあるのです。これは歴史上初めてのことです。
・フランスにおける不平等の推移は矛盾しているというか、独特です。2000年代以来、
 フランス人のうちの1%が著しく富裕化していること、そしてその内でも特に富裕な
 0.1%が一層著しく富を蓄積していることが確認できます。しかし他方、1%の富裕
 層にすぐ続いて富裕な9%と、人口の残りの90%の間の格差はさほど拡大していない
 のです。そこが他の先進国で起こっていることと異なります。この事実を踏まえると、
 フランスの寡頭支配者たちが今日なお、まるで熱に浮かされたように福祉国家を倒せと
 煽るのがなぜなのか、よりよくわかりますね。フランス社会を規制する平等の原則が機
 能し続けているのです。今後この0.1%の超富裕層が権力を掌握し続けるか、それと
 も、国外へでなければならなくなるのか、フランスは今この危機に直面して、その元々
 の性質である力であるもの、すなわち自由と平等の価値を立ち帰る寸前なのではないで
 しょうか。 
  
富裕層に仕える国家
・少額預金者の預金を保護するという口実を掲げていますが、市場と呼ばれているのは単
 に、国家を玩具にする最富裕層のことにほかなりません。金持ちたちは国家を敵に回し
 て戦いはしません。彼らが戦うのは、国家を従来以上によくコントロールするためです。
・昔、モンゴル民族は方々の町を征服しに行くとき、人質を人間の楯のように使っ
 ていました。最富裕者たちのグループは正確に同じことをしています。彼らの人質、そ
 れはコツコツと貯金する庶民たちなのです。 
・社会の上層部への金銭の過剰な蓄積はこの時代の特徴の一つなのです。一般人の所得の
 低下ないし停滞は、最富裕1%と、その中でもとりわけ富裕な0.01%の所得の上昇
 と対になっているのです。  
・国家は、一般意志の体現にもなれば、支配階級の表現にもなるのです。第二次世界大戦
 後の社会的国家、ドゴール主義の国家は、統治共産党がおこなっていた批判に反して、
 何よりも一般意志の実現のために行動していました。経済成長をみんなのために管理し
 ていました。今日、国家はその主要は性格から見て、何よりもまず階級国家です。金融
 資本主義が改めて諸国家をコントロールするようになっています。  
・1990年以降、金融取引の開放と、その金融フローの自由化が実際に不平等を信じら
 れないほど増大させました。システムがどんなに不透明に見えても、あるグループがど
 のようにして富の大きな部分をコントロールしているかを分析すれば、システムの実態
 に近づくことができます。そうだとすれば、本質的な問題は、市場自体の問題ではあり
 ません。寡頭支配層こそが、そして寡頭支配者が国家との間に持っている関係こそが、
 本当の問題なのです。したがって、この寡頭支配層を特定し、その構造、その生活様式、
 その構成を分析する必要があるのです。  
・フランスの寡頭支配層の特異性は中央官庁上層部との近さにあります。そのメンバーは
 必ずしも資産家の子女ではないが、しばしばエリートの高等教育機関であるグランゼコ
 ールの出身者であり、一般にひどい英語を話し、その生活様態において信じがたいまで
 に典型的フランス人で、そして本物の主人たち、つまりアメリカの寡頭支配者たちに騙
 され続けている。スタンダオード&プアーズ、ムーディーズといった大手格付け会社へ
 の服従は、アメリカの寡頭支配層への服従にほかなりません。  
・人は政府債務というものをたいてい借りる側に目をつけて眺め、借りる側が見境もなく
 支出したのが悪いと判断します。諸国民は支払う義務を負っている、なぜなら掛け買い
 で暮らしてくだのだから、というわけです。ところが、債務の出発点のところにいるの
 は、これはもう基本的に借り手ではなく、自分たちの余剰資金をどこかに預託したい貸
 し手たちです。金持ちたちは政府債務が大好きなのですよ。借金をする国家は、法的拘
 束の専有のおかげで、金持ちたちが彼らのお金を最大限安全に保有し、蓄積できるよう
 にしてやる国家なのです。  
・毎年、フランス人は付加価値税と直接税という形で2500億ユーロを持っていかれ、
 そのうちから500億近くが利子として、すでに過剰にお金を持っている人々の手に渡
 るのです。そのうえその人々の3分の2は外国人です。なにしろこれはグローバルな浮
 かれ騒ぎで、富裕なフランス人は最優先の待遇は受けられないとしても、その代償とし
 て、諸国家と諸国民の服従をたらふく詰め込むことができるのです。このような現実が
 あるのですよ。この現実を隠す機能を果たしているのが、底知れぬ債務だの、国の破産
 の可能性だの、トリプルAを失わないようにする必要性だのを振り回し、人々を不安に
 陥れると同時に好んでモラルをとくタイプの言説です。現行システムの論理的でリベラ
 ルな外観の背後で、国家が、最富裕層の利益のために人々から金を脅し取るマシーンに
 なっています。
・周りがギリシャ人に借金するように仕向け、彼らの首を従来以上にうまく締めようとし
 たのです。テレビをご覧なさい。絶え間もなしにCMが、われわれに融資を受けろと
 教唆しているではありませんか。銀行は、いや、金持ちたちは、貸すことを好むのです。
 そして、高利貸したちは返済のできない人の財を差し押さえるのが好きなのです。たと
 えば、ギリシャの国家財産を私有化したがっているのです。   
・ギリシャの国家が会計をごまかすのを助けたゴールドマン・サックスは高利貸しのよう
 な振る舞いをしました。今、人々がギリシャ人を「助ける」と言っていますが、それは
 お金を脅し取られる立場に彼らを止め置くということです。ユーロ層の危機を創り出し
 たのは基本的に、借り手の呑気さではなく、貸し手の攻撃的な態度です。寡頭支配者た
 ちはひとつの社会階級のように振る舞います。しかし同時に、彼らの内には非合理性や、
 さらには集団的な狂躁のようなものさえも感じられます。
・民主主義的にコントロールされていない官僚支配を経験したか、あるいはそうなりかね
 なかった国としてギリシャ、イタリア、スペイン、ポルトガルがあり、これらの国々は
 デモクラシーの歴史が浅いのです。そもそもこの諸国をヨーロッパとユーロ圏に統合し
 たのは、民主主義的な空間の中で安定させたいためでした。ところが今日、ヨーロッパ
 の官僚的・通貨制度的なメカニズムは、まだ土台が堅固とはいえないこれらの国のデモ
 クラシーに安定をもたらすどころか、この諸国を過去の不安定期のうちでも最悪だった
 時期に似た状況の中へ加速的に追い込んでいる。 
・喫緊の問題はユーロではなく、債務危機です。主権国家の政府債務が返済されることは
 絶対にないのです。ドイツ国債でさえ怪しまれ始めているのですよ。われわれには二つ
 の可能性があります。「輪転機を回す」か、債務のデフォルトを宣言するかです。私は
 後者のほうがいいと思います。債務デフォルトは、民主主義的な理想によって国家を再
 征服する端緒となるでしょう。現状では、国家は金融寡頭支配層によって掠奪され、金
 を脅し取られています。   
・フランスの政府債務の3分の2を握っているのは少額年金所有者ではありません。加え
 て、フランスが政府債務のデフォルトをやれば、他の国々の連鎖的デフォルトにつなが
 るでしょう。この全般的再配分の中で、デフォルトの大部分は相殺されるでしょう。む
 ろん、いくつかの国は損をするでしょうね。そうして最終的には、国にせよ、個人にせ
 よ、この債務危機の発生に対して最も大きな責任のある者が最も厳しく罰せられますよ。
   
ユーロが崩壊する日
・ある国は直系家族、これは子供のうちの一人だけを相続者にする権威主義的な家族シス
 テムなのですが、直系家族を中心とするひとつの特殊な文化に基づいています。そこに、
 ドイツの産業上の効率性、ヨーロッパにおける支配的なポジション、同時にメンタルな
 硬直性が起因しています。ドイツは歴史上、支配的なポジションについたときに変調し
 ました。特に第一次世界大戦前、ヴィルヘルム二世の統治下でビスマルク的理性から離
 れ、ヨーロッパでヘゲモニーを握ったときがそうだった。今日の状況は、ナチス勃興の
 頃よりも、あのヴェルヘルム時代のほうに類似しています。  
・ドイツは高齢化しており、8000万人の人口の若返りがうまくいっていません。文化
 的にも十全ではありません。産業力もとどのまつりは中級レベルのものであって、輸出
 力がとてつもないとはいえ、技術の面で、たとえば日本のレベルには遠く及ばない。要
 するに、ドイツを理性へと導くのは難しくないのです。  
・近年追い詰められた国は主にギリシャとイタリア、そして遠からずスペインとポルトガ
 ルも同じ運命にあるわけですが、これらの国々の民主主義的伝統は比較的最近始まった
 のであり、脆弱です。一見、指導的立場に立っているドイツは、フランスよりも健全な
 デモクラシー国家であるように見えます。ドイツでは、労働組合が労働者たちを代表と
 する機能を今日でも果たしているし、極右や極左の勢力も他の国々に比べればさほど目
 立っていません。全体としてうまく回っているように見える。
・しかしながら、ヨーロッパという空間の中でドイツの経済的スーパーパワーを検討すれ
 ば、それが、半製品の生産拠点をユーロ圏外の東ヨーロッパへと移転するといった利己
 主義的な経済政策を手段として形成されることが発見されます。ドイツではここ数年、
 賃金が据え置かれたり、引き下げられたりしています。ドイツの社会文化には権威主義
 的なメカニズムがあって、国民が相対的な低賃金を甘受するので、ドイツの政府と経済
 界はその面を活用し、ユーロ圏の各国への輸出を政治的に優先したのです。ベルリンが
 最大の貿易黒字を実現しているのはユーロ圏内においてです。   
・戦争が起こるぞという脅かしは、システムが振り回すさまざまな武具おうちの一つです。
 この疲れ果てた大陸で起こりようのないものがあるとすれば、それは戦争ですよ。誰も
 この地域を侵略しては来ません。危険は、生活水準の低下や教育システムの内部破裂や
 公共サービスの破壊から来るのです。  
・社会構造がすでに個人単位となり、いわば原子化されているため、集団行動にブレーキ
 がかかるのです。集団的な異議申し立ての持つパワーを私は信じません。われわれに必
 要なのは強力な意識化であって、社会全般にわたる革命的な転覆ではありません。私は
 エリートたち(指導的階層)が理性に立ち返るように闘っているのであって、彼らの地
 位の転覆を狙っているのではないのです。
・私はエリートたちに対し、何ら含むところはありません。しかし、彼らが自分たちの任
 務を裏切るのは我慢ならない。階級闘争が現実の存在していることは認めたほうがよい。
 将来も、上層階級がなくなることはありません。上層階級が私にとって許しがたいのは、
 その階級の連中が発狂し、無責任になるときです。偉大なデモクラシーはすべからく、
 エリートの一部分が自らの任務を果たすという契約を受け入れ、ときには民衆の側につ
 くという仕組みに基づいて成立するのです。ところが、われわれの前には今や、猛り狂
 う寡頭支配者たちが現れてきており、彼らの姿は劇画的なマルキシズムがおこなう権力
 の定義にマッチしているのです。