デフレの正体  :藻谷浩介

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この本のよれば、現在の日本の経済停滞は、国際競争に負けたからではなく、自国内の
「内需の縮小」にあるという。もしそうであれば、現在の安倍政権が行なっている円安誘
導による輸出拡大路線では、日本の経済は回復しないことになる。むしろ、円安による物
価上昇により内需がさらに縮小し、ますます日本の経済は悪化していく危険すらあるので
はと思えてくる。
日本が目指さなければならないのは、今までのような安価な製品を大量生産するのではな
く、フランスやイタリヤ、スイスなどのようなクオリティーとデザインとブランろ力を持
った、国際競争に勝てる製品作りに、シフトしていくべきだと説いている。

日本全国で高齢者が増加し、生産年齢人口はどんどん減少しているのに、景気対策をすれ
ば、日本の経済は再び成長するというのは、単なる幻想にすぎないような気がする。小手
先の対策で、一時的に景気が回復しても、長続きはしないであろう。それよりも、その小
手先の対策によって生じる負の副作用のほうが、大きな問題になる可能性が大ではなかろ
うか。
景気対策と称して、今までに何度も繰り返してきたムダな公共投資を行い、さらなる国の
借金を増やせば、この国の経済にとって、決定的にダメージを与える引き金となってしま
うように思えてならない。
博打のような方法で、一変に現状を変える道よりも、何でも一律という今までのやり方を
見直し、地道に国の歳出をできるだけ抑えていく方法でしか、この国の生き延びる道はな
いような気がする。

思い込みの殻にヒビを入れよう
・「景気の波」を打ち消すほど大きい「人口の波」が、日本経済を洗っているのだ、とい
 う事実を。
・「総合指標」や「平均値」に皆が右ならえする時代は終わったのです。「好景気なのに
 内需が拡大しない」とか、「不景気なのに史上最高益の企業がある」とか、全体の傾向
 には矛盾することが実際の世の中ではいろいろ起きています。

国債経済競争の勝者・日本
・要するに日本製品の相対的な国債競争力は衰えておらず、海外のお客さんの懐具合が悪
 くなったり良くなったりするのに、売上=輸出が連動しているだけなのです。
・日本には天然資源もなければ、食糧生産も十分ではありません。ですが加工貿易国であ
 る上に内需不振ですので、製品が売れないのであれば原材料も輸入しない構造です。
・食料輸入の絶対額はといえば九兆円台。輸入のごく一部にすぎません。
・つまり輸入のほとんどはどうしても使わなければならない固定費ではなくて、売上に連
 動して上下する変動費ですから、輸出が減っているのに輸入だけを増やすというような
 ことは起きません。そのため、日本が貿易赤字になるのは構造的に難しいのです。
・日本企業の生産性が低いのは「生産能力が過剰な中で多年ディスカウント競争を続けて
 る結果、生産性の分子=付加価値額の、主要な部分である内部留保と人件費が構造的に
 低水準になっている」からであり、分母=労働者数が過剰なためではありません。つま
 り、「コストダウンを重ね利益の低下を甘受して体力勝負で低価格大量生産を続ける」
 というのが得意技になって染み付いてしまっている状態ですので、いくら生産性が低く
 とも国際的なコスト競争は失われておらず、輸出が減っていくという状況にはならない
 のです。その分までツケが回る国内関係者は苦しんでいますが。
・日本の国際競争力を論じるすべての人は、ムードに乗って良い悪いを騒ぐため、客観的
 で議論お余地のない絶対数、すなわち輸出額、輸入額、貿易収支の額を冷静に眺め、そ
 こから構造を把握するようにしていただきたい。 
・外国から稼ぐ金利配当が、外国に支払う金利配当を超えた分を所得黒字といいます。こ
 の所得黒字はバブルの頃は3兆円程度でした。それが07年には16.3兆円と5倍以
 上に増えたのです。我々庶民には実感しにくいですが、世界ら見れば日本は、モノを売
 りつけるだけでなく金利配当も大量にむしりとっていく、商売上手の金貸しなのです。
・現実には中国が繁栄すればするほど、日本製品が売れて日本が儲かるのです。中国経済
 がクラッシュすれば、お得意さんを失う日本経済にはそれこそ100年に1度の大打撃
 です。
・もちろん、GDPの合計額に関しては中国が日本を抜くでしょう、向こうの方が人口が
 10倍上も多い国なのだから。日本の方がまだGDPが大きいという現状は、つまり一
 人当たりGDPに日中で10倍以上も差がついているということです。
・人口の8割弱が華人で、いわば中国の進化型と言ってよいシンガポールでは、車の過半
 数は日本製ですし、機械に食品、マンガなども大いに売れています。 人口は中国の
 0.3%なのに、ここから日本に流れ込む経常黒字は年間2兆円超と、中国+香港から
 の黒字近い水準にまで達しています。中国がシンガポールのような発展にちょっと向か
 うだけで、日本からの輸出が増えるだけでなく中国に投資した日本企業ももっと儲かり、
 日本の所得黒字もさらに増えます。
・中国が今後さらに発展したとして、韓国のように一致団結してモノづくりにいそしむよ
 うなところまで行くのでしょうかね。私は難しいのではないかと思います。
・日本は中国(+香港)からだけでなく、韓国、台湾からも、07年、08年と続けてそ
 れぞれ3兆円戦後の貿易黒字をいただいているのです。貿易黒字の合計は、00年に比
 べれば2倍上に膨らんでいて、この2年間はアメリカからの黒字を上回っています。つ
 まり、アメリカに匹敵する輸出市場が、今世紀になっての中・韓・台の経済的な擡頭
 のおかげで出現したわけです。
・中国の経済発展はあと10ー20年ほどで人口面から大きな壁に突き当たります。これ
 は日本経済にとっては致命的な逆風になる話なのです。でも原因が人口なので、人為で
 有効な対策をとるのは難しいでしょうね。
・韓国・台湾は、日本からモノづくりのためのハイテク部材や機械だけを買っているわけ
 ではありません。豊かになった向こうの国民が、日本製品の中でもブランド価値の高い
 ものを買い始めているのです。車や電気製品はもちろんですが、安心安全が売りの食材
 や、お菓子なども人気です。日本人の一部が韓国直輸入の高級キムチや陶磁器を買うよ
 うに、韓国人お一部が消費する日本直輸入の高級品も年々増えているのです。だからこ
 そ、先方の技術力がいくら高くなろうとも、いやそのおかげで国民が豊かになって行け
 ば行くほど、日本の貿易黒字は増えていく。技術ではなく「ブランド」が日本の商品に
 備わっている限り。
・日本の経済規模は10年以上も停滞しているのではないかとのご指摘は、まったくその
 通りですが、これからは国際競争に負けた結果ではありません。国際競争にいくら勝っ
 ても、それとまったく無関係に進む日本の国内経済の病気、「内需の縮小」の結果です。
 これはいわば経済の老化現象でして、企業のせいでも政治のせいでも霞ヶ関のせいでも
 ない。従って、日本が国際競争に勝ち続けることは、実は対策になってきませんでした
 し、これからも対策にはならないのです。
・フランスとイタリアは、近年一貫して対日貿易黒字なのです。彼らは天然資源輸出国で
 もなければ、ハイテク製造業立国ともいえませんが、そんなものを跳ね飛ばすくらい強
 力な資源を持っているのです。何でしょうか。「自国製」の「高級ブランド品」です。
・日本の一部男性の大好きなハイテク製品よりも、日本女性の大好きなブランド付き軽工
 業製品の方が、バックでもショールでも、申し訳ないけれども値段が高いのです。 
・我々が目指すべきなのは、フランスやイタリアやスイスの製品、それも食品、繊維、皮
 革工芸品、家具という「軽工業」製品に「ブランド力」で勝つことなのです。今の不景
 気を克服してもう一回アジアが伸びてきたときに、今の日本人並みに豊かな階層が大量
 に出現したときに、彼らがフランス、イタリア、スイスの製品を買うのか、日本製品を
 買うのか、日本の置かれている国際競争はそういう競争なのです。フランス、イタリア、
 スイスの製品に勝てるクオリティーとデザインとブランド力を獲得できるか、ここに日
 本経済の将来がかかっています。
・世界中から本当の金持ちの文化人が集まって住んで消費しているのはパリやスイス、
 カルフォルニアなどの低層の高級住宅街、ショッピング街であるわけです。100年後
 も200年後も文化的価値を放ち続け商業を引き寄せる都市インフラ、日本で言えば京
 都の東山周辺みたいなものをつくれるか、そこに世界中の金持ちの上品な投資を呼び込
 めるか、これが日本の課題です。
・中国でも十分作れるものを人件費の高い日本で作り続けようとして、結局ワーキングプ
 アーを大量発生させている。挙げ句の果てには安価な労働力を移民させてこいと騒ぐ。
 そうではなく日本は、中国に任せるものは任せ、フランス、イタリア、スイスを追って
 高級品分野にシストしていくべきなのです。 
・ハイテク分野では日本にかないっこないフランスやイタリアが、人口でも日本の半分ほ
 どしかない彼らが、ブランドの食料品と繊維と皮革工芸品を作ることで、日本から貿易
 黒字を稼いでいるんですよ。
・とっくに日本に抜かされた英独仏伊や、最初から小さいスイスが、世界からないがしろ
 にされているだろうか。先進国の国力は量ではなく質で測られるのです。残念ながら今
 のままでは、中国でもインドでも、アジアが豊かになったら、日本人と同じようにフラ
 ンスやイタリアの製品を買い始めます。そうではなくて、最高級品は日本、という分野
 を増やさなくては。化粧品はかなりそのあたりができている。同じように水だとか、ワ
 インに日本酒にお米に果物に肉、そして装飾品、服飾雑貨についても、日本製品は世界
 最高だと、車がやってきたのと同じようにアジアの金持ちに言わせることができるか、
 そこが本当に命をかけてやるべき競争なのです。

国際競争とは無関係に進む内需の不振
・ファイナンスの基本原理である、「物事の価値は会計帳簿上の簿価ではなく、時価でみ
 なくてはならない。そして時価とは、将来期待される収益の割引現在価格である」とい
 うことはとても納得的でした。
・アメリカのファイナンスの世界で実際に行われていたやり方には、仮定に立った机上の
 計算が多いこともとてもよくわかりました。その中でも最大に間違った仮定が、「投資
 先の商品や会社が生む収益は、平均すれば長期的に一定の成長率で増加していく」とい
 うものです。実際にはそんなことがあるはずはない。
・ビジネススクールで教えられていた米国流のファイナンスの世界全体が、怪しい投資話
 に投資家を誘うための甘いふぉクションに貫かれていたのです。その後すっかり日本に
 も広まった米国流のファイナンスですが、本当は関係者だって構造的に無理があること
 をわかっていないはずはない。でも事実がどうであるかは短期的投資の世界ではどうで
 もいいのです。倒産やリストラお前に「自分だけは売り抜ければいい」わけですから。
 倒産間際の会社であっても、市場で「成長企業」という噂が流れていれば、株を買って
 くれる人はいます。「事実は何か」ということよりも「皆がどう思っているか」、その
 結果売りと買いどっちに動くかが重要になる。

首都圏のジリ貧に気づかない「地域間格差」論の無意味
・なんとバブル以降16年間の個人所得をモノ消費で見る限り、青森の方が首都圏より少
 々ましな水準で推移しているのです。大同小異とは言えても、世間で言われるように
 「青森がド不況で東京は一人勝ち」ということだけは一切ありません。「首都圏の方が
 消費も所得も一人当たりの数字はずっと大きいだろう」と反論されることがありますが、
 所得も物価も高い首都圏と、所得も物価も低い青森、どちらの生活が豊かなのかは、物
 価の差を考えない一人当たり所得だけの比較ではわかりません。家賃の差を考えれば、
 持ち家がなく低所得の人の暮らしは首都圏の方が苦しいのではないでしょうか。
・そしてこの観点からの結果は明らかで、地域間格差が拡大しているのではありません。
「都会も田舎も同じように低迷している」というのが日本経済の実態なのです。そうでな
 かったら、こんなに日本全体が所得低下、内需低下に見舞われたりなどしていません。
 首都圏が元気なら、日本人の四人一人は首都圏民ですので、日本経済はもっと元気なは
 ずです。
・つまり青森県のみならず首都圏でも、一般の勤労者世帯はまったく、自分が「格差の勝
 ち組」であるというような実感は得ていません。日本には個人所得が消費に回らない構
 造があり、そのために首都圏ですら日本の内需を牽引できていないのです。
・皆さん地域間格差とおっしゃいますが、青森県よりもはるかに地下が高い東京の都心部
 において、青森県の二倍ちょっとの床効率しか挙がらないのでは、東京都心で土地を買
 って商業施設を新設するのは極めて難しいということになります。実際にも、東京都心
 で土地を新たに買って大規模商業開発うぃしている事例はもう存在しません。
・06年度の沖縄は、個人所得が1.44倍、小売販売額が1.23倍、所得の上昇に売
 上の上昇がついてきています。 
・そもそも沖縄は、就業者数が日本の都道府県で唯一順調に増加を続けてきた県なので
 す。だから個人所得が増え、モノが売れる。経済の当たり前の姿が、沖縄だけにあるわ
 けです。それに対して首都圏では、実は就業者数は増えていません。個人所得が増えた
 といっても高齢者富裕層の不労所得が中心で、従ってそれが消費に回らない。

地方も大都市も等しく襲う「現役世代の減少」と「高齢者の激増」
・日本を蝕む「内需不振」という病気。犯人は国際競争でも「地域間格差」でもありませ
 ん。
・このペースでいくと、40数年で青森から子供はいなくなります。90年後には現役も
 いなくなる。では誰が残るのか。もちろん65歳以上です。
・納税者がどんどん減って、福祉・医療のお世話になる可能性の高い世代だけが増えてい
 るわけですから、財政は厳しくなるに決まっています。
・モノの売上が年々落ちているのは当然です。働いてモノを買う年齢の人が年々減少し始
 めたのですから。勤労者の頭数が減るので個人所得も減らざるを得ませんね。 
・今世紀になっての不振の背後には失業者の増加ペースや若者の流出ペースを大きく上回
 る就業者数の減少があり、その背景には総人口減少のペースを大きく上回る生産年齢人
 口の減少がある。同時に高齢者の激増も進行している。この事実を踏まえてこそ、日本
 で何が起きているのか、本当のところがわかってくるのです。
・「少子高齢化」というのは、少子化=子供の減少と、高齢化=高齢者の激増という、全
 然独立の事象を一緒くたにしているというとんでもない表現であり、「子どもさえ増や
 せば高齢化は防げる」というまったくの誤解の元凶にもなってしまっています。さらに
 は最も重大な問題である「生産年齢減少」を隠してしまってもいますね。
・高齢者の激増、子供の減少、現役世代の減少、いずれも首都圏の真ん中で起きている、
 首都圏住民自身の問題なのです。
・なぜ首都圏の病院がこうも混んでいるのか、なぜ救急車のたらい回しといった事件が首
 都圏で増えているのか、こうした現場の実態も、首都圏での高齢者の激増という数字と
 明確に一致します。
・高齢者の彼らは特に買いたいモノ、買わなければならないモノがない。逆に「何歳まで
 生きるのかわからない、その間にどのような病気や身体障害に見舞われるかわからな
 い」というリスクに備えて、「禁輸資産を保全しておかねければならない」というウォ
 ンツだけは甚大である。
・彼ら高齢者の貯蓄の多くは、通常の貯蓄と違って流動性は0%、もう他の消費には回り
 ません。これが個人所得とモノ消費が切断された理由です。
・実数で現役世代の減少が日本一なのは大阪府です。その次が北海道で、次が埼玉。それ
 から兵庫、千葉と続きます。
・日本にはもう現役世代が増えている都道府県はないのか。一つだけあります。沖縄です
 ね。先ほど個人所得も小売販売額も、バブル崩壊以降に一番伸びたのは沖縄だというこ
 とを申し上げました。沖縄だけで何で経済が好調なのか。現役世代がまだ増えているか
 らです。
・「高齢化」というのは「高齢者の絶対数の激増」のことなのですが、そうでなく高齢化
 =「高齢化率」の上昇である、というわけのわからない抽象化が世の中では普通に行わ
 れています。そもそも高齢者は増えるのか減るのかさえ理解していない人もいますよ。
 「高齢化率」が上がるのは「少子化」のせいだ(つかり子供の減少で総人口が減ってい
 るからだ)と決め付けて、子供さえ増やせば高齢化に対応できると勘違いしている人が。
 「高齢化率」はどうでもいいから「高齢者の絶対数」が増えていることこそ問題だとい
 う、当たり前の認識ができないと、現実への対処も始まりません。
・現在「100年に一度の不況」のせいにされている現象の多くが、実は景気循環とは関
 係ないところで、このような住民の加齢によって起きているものなのです。「100年
 に一度」どころの騒ぎではない、今起きているのは日本始まって以来の、「二千年に一
 度」の生産年齢の人口減少なのですから。
・100年間に首都圏の65歳以上の数はどうなると思いますか。10年間で45%増で
 す。青森県のような「二割増」なんてレベルでは済みません。
・それでは75歳以上はどうでしょう。青森県ではなんと四割近くも増えるそうですが、
 首都圏ではどうなんでしょうか。社会研の予測は65%増、154満員の増加です。こ
 の154万人の増加分のうち一割が収容型の老人施設に入るとすると、定員を15万人
 以上も増やさなければいけない。施設数で言えば数千箇所は造らなければいけませんが。
・団塊世代が75歳を超える25年ともなれば、さらに凄まじい福祉需要の爆発が予想
 されます。
・実際に首都圏の介護福祉の現場は大変なことになっている。お客は増える一方なのに、
 人手も予算も、施設も足りないのです。現場では、もう悲鳴を上げる元気もなくなった
 若者たちが苦闘しています。不景気で就職先がないと言われていますが、その実、高齢
 者福祉の分野では慢性的な人手不足が解消される気配もありません。余りに消耗を強い
 られる仕事なので、体力のある若い人たちでも定着できないのです。
・いったいなぜそんなに首都圏の高齢者福祉の現場が需給逼迫しているのか、その原因が
 「住民の加齢による高齢者の絶対数の激増」という単純な事実であることを誰も言わな
 い。景気だの地域間格差だの、関係ないことばかり言っている間に、しかし、時間は全
 国で平等に流れていくのです。

「人口の波」が語る日本の過去半世紀、今後半世紀
・首都圏においてすら、生産年齢人口はもう減り始めている。地方で日本中で高齢者が増
 加しているが、特に高度成長期に若者を集めた首都圏のような地域ほど増加のペースが
 急だ。
・景気対策をしてこの波を乗り切りさえすれば、人口構造がどう成熟化しようとも経済は
 再び成長する、これが日本の経済関係者ほとんどの信念であるようにすら見えます。

「人口減少は生産性向上で補える」という思い込みが対処を遅らせる
・人間をたくさん雇って効率化の難しいサービスを提供しているサービス業が、売上の割
 に一番人件費がかかるので付加価値率が高いのです。エレクトロニクスや自動車は、大
 量に同じ商品を作って売りさばこうというモデルから抜けられていないので、価格競争
 に陥ってしまってマージンが非常に薄い。生き延びるためには人をさらに減らしてコス
 トダウンせざるを得ない。収益率も人件費率も低いので、付加価値率が低いわけです。
・いきら素晴らしい技術があっても、その価値を価格転嫁できない限り付加価値にはなり
 ません。付加価値額が増え付加価値率が高まるかどうかは技術力にではなく、その商品
 が原価よりも高い値段で入れてマージンを取れ人件費を払えるかどうかにかかっていま
 す。時計など典型ですが、手巻きや自動巻きの方が正確無比なクオーツよりも価格が高
 いですね。つまり同じような商品が供給過剰に陥ってはいないことと、顧客側の品質へ
 の評価が高い分を価格転嫁できていること、総じて言えば「ブランド」が高いかどうか
 が、内需そしてGDPが拡大する決め手なのです。
・人件費を削り納入企業を買い叩き、とお互いにコストダウンに邁進しているうちに、お
 互いに売上が減り、日本お企業社会全体の付加価値額が停滞します。叩かれる側、労働
 者や納入企業も他の誰かの顧客であるわけですから、彼ら相手の誰かの売上が下がり、
 巡り巡って、自分の会社の売上にも構造的な打撃が出てくるわけです。
・日本では、08年中の110兆円の金融資産の減少を日本人の個人資産家が座して見て
 いたことに象徴される通り、多くが高齢者である投資家はさらに投資額を増やすことば
 かりに関心があって、豪邸一軒、車一台新たに買いません。内需は縮小の一途です。所
 得が低く消費性向の高い従業員に払う給料を削って、何も消費しない金持ちに配当を回
 す仕組みは、倫理的にもいかがなものかという問題もありますが、それ以前に企業の利
 潤追求の観点からもナンセンスなのです。
・企業が誰のものであろうが、顧客に価値を提供しその対価に利益を挙げることのできる
 企業だけが生き残ります。それがわからずに、株主だの、従業員共同体だの、経営者だ
 の、いずれにせよ供給側に立っている誰かの都合を、顧客側の満足に優先させようとす
 るすべての企業は、市場経済の中で淘汰さえていくだけです。
・労働生産性を上げる方法ですが、分数ですので、分子である付加価値をブランドを向上
 させるなどの努力によって増やすという道もあれば、分母である労働者の数を機械化な
 どを進めることで減らすという方法もあります。しかしブランドを上げて付加価値を上
 げるというのは、お客様次第の面が大きく容易ではありません。そこで日本企業は、労
 働者を減らす方にばかり走るわけです。しまいには、生産性向上イコール労働者削減で
 あると勘違いをする人まで出てくる始末です。
・人手をかけブランドを上げることでマージンを増やし、付加価値を増やして生産性を上
 げる。
・日本では生産性向上といえば人員削減のことであると皆が信じ込んでいます。ところが
 お気づきでしょうか。生産年齢人口の減少に応じて機械化や効率化を進め、分母である
 労働者の数を減らしていくと、分子である付加価値額もどうしてもある程度は減ってし
 まうということを。付加価値の少なからぬ部分は人件費だからです。
・車でも住宅でも電気製品でも外食産業でもそうですが、消費者一人当たりが買う量が限
 定されているような多くの商品に関しては、生産年齢人口の減少に応じて消費者の数が
 減っていくのに、生産力は機械化によって維持されてしまいがちだからです。その結果
 売れ残る在庫を、必ず安値で処分(最悪の場合廃棄)しなければならなくなる。そのよ
 うなことを繰り返せば繰り返すほど、マージンは拡大するどころか下がって行きます。
 人件費だって増やしている場合ではないということになり、ベースアップは維持するに
 しても退職者の増加に連動して会社の人件費総額を下げるのは当たり前、ということに
 なります。つまりは、収益率も人件費も低くなって、付加価値額・付加価値率も下がり、
 生産性の上昇はその分阻害されます。ということで、生産年齢人口の現象は、現実の企
 業行動を経由して、不可避的にGDPの減少を招いてしまうのです。
・「戦後最長の好景気」においては、首都圏住民の個人所得総額が大幅に増えたのに、首
 都圏の小売販売額は通販を含めても停滞していましたね。貯蓄が増えただけで、モノ消
 費には回らなかったのです。サービス消費も増えていません。観光産業も外食産業も不
 振、医療福祉産業でも赤字にあえぐ事業者は増えています。 
・最近は若い人にも物欲のない人が増えていますが、増える一方の高齢者はなおさら物質
 面では満たされていて、モノに対するウォンツがない。もっとも強いウォンツは、将来
 健康を損なった場合の医療福祉サービスの享受なので、そういう可能性に備えてお金を
 貯めておくのです。
・高齢者が人生の中のいずれかの時点で、貯めていたお金を医療福祉サービスに使ってく
 れれば、車だの住宅だの電気製品だのが落ち込んだ分は医療福祉サービスが成長したこ
 とになって帳尻が合うのです。ところがよほど重病や障害を抱えることになった一部の
 不幸なめぐり合わせの人を除けば、ほとんどの人は大量の貯蓄や家産を残したまま亡く
 なっていきます。つまり彼らがご存命の間は、少なからぬ部分が消費に回らず貯蓄され
 たままなのです。それでもご当人にしてみれば、どのような健康状態で何歳まで生きる
 か不確実である以上、死ぬ瞬間までは貯蓄を目先の快適や健康維持のために使い切って
 しまうわけにはいかないのです。
・「高齢化や格差拡大で貯蓄率が下がっている」というような報道と、私の話は矛盾して
 いるのではないか、というようなことを問われることがあります。○○率を出すときは
 何を何で割っているのか確認いただきたいのですが、貯蓄率がいくら下がってもゼロ以
 上であれば、これまでに貯めたお金の絶対額が取り崩されて目減りしているということ
 はありません。マイナスになれば貯金の目減りが始まりますが、今の少ない年収の何十
 倍の貯蓄を持っている高齢者も多いので、そうそう貯金そのものが急減するわけではな
 いのです。
・簿価>時価となる減少を俗に「投資が腐る」といいます。金を出している側からいえば
 不良債権や紙くずと化した株の増加ということになるわけですが、生産年齢人口=消費
 者の人口の減少により内需が構造的に縮小している日本では、この「投資が腐る」現象
 があちこちで頻発してきました。
・投資があれば経済は拡大するというマクロ経済お定式?は、この「投資が腐る」という、
 市場経済の現場では当たり前に起きている現象を勘案していないのです。投資額が永遠
 不滅に目減りしないのであればよかったのですが、現実には投資の自家は売上の状況に
 よって柔軟に上下します。そして投資の時価の減少は、その分だけ経済を縮小させるこ
 とになります。投資がなければ経済は拡大しない(投資は成長の必要条件)というのは
 事実です。ですが、投資さえあれば経済は拡大する(投資は成長の十分条件)という
 のはとんでもない間違いです。
・日本のように「デフレ」が止まらず、物価も企業の売上もその企業が支払う給与もどん
 どん縮小している国が、「確かに売上も給与も下がってはいるけれども、同じ国の中で
 は物価も同時に下がっているので何も困ったことはない。実質GDPにだって変化はな
 い」と開き直ったとしても、外国から見ればその国の経済規模がどんどん縮小している
 ことに変わりはない。

声高に叫ばれるピントのずれた処方箋たち
・モノづくり技術を際限なく革新して、今後も常に日本の製造業が世界の最先端に君臨し
 続けたとしても、「生産年齢人口減少に伴う内需縮小」という日本お構造問題はまった
 く解決されません。
・出生率をいくら増やしても、数理的・原理的に、今日本で起きている生産年齢人口減少
 を食い止めることはできません。
・日本経済の救世主が、「外国人労働者の受け入れ」です。ところがどっこい、これも、
 どんなにやっても生産年齢人口を実効的なレベルまで増やす効果は見込めない策なので
 す。「するべき」「するべきでない」の話ではなく、「やってもやってもまったく数量
 的な効果が出ない」のです。
・上海の場合ですと出生率はもう0.65、日本で一番出生率の低い東京のさらに3分の
 2以下の水準だというのです。孫世代の人口が祖父母世代の9分の1になってしまう恐
 るべき状況です。
・数の多い今の若者が消費意欲旺盛な30代や40代前半になるその頃までは、中国の内
 需はまだまだいくらでも伸びますし、日本もそのおかげで潤うことでしょう。しかしそ
 の後の中国は、日本をはるかにしのぐスケールで、凄まじいばかりの人口成熟に突入し
 ていくのです。
・インドの生産年齢人口増加は続きそうです。ですが50年後はどうでしょうか。という
 のも、インドの01年時点の人口ピラミッドを見ると、55年(昭和30年)時点の日
 本とそっくりなのです。
・我々は日本を見限って脱出すべきなのではない。日本のこの状況に耐えて、対応する方
 策を見出して、遅れて人口成熟する中国やインドに応用していくべきなのです。アジア
 に低価格大量生産品を売り続けるのではなく、日本で売れる商品を生み出し、日本で儲
 けられる企業を育てることで、高齢化するアジアに将来を示す。これが日本企業の使命
 であり、大いなる可能性なのです。
 
ではどうすればいいのか :高齢富裕層から若者への所得移転を
・第一は高齢富裕層から若い世代への所得移転の促進、第二が女性就労の促進と女性経営
 者、の増加、第三に訪日外国人観光客・短期定住客の増加です。これらの三つには日本
 経済再生に向け真っ先に取り組むべき意義があります。
・1億円以上持っていた個人が世界中に950万人おりまして、そしてなんと、そのうち
 6人に1人、150万人は日本人だったそうです。
・なぜ彼ら富裕層は、この際モノを買えばいいところを、目減りする金融資産をそのまま
 持ち続けていたのか。政府任せにしていないで自分の資産を守るために自らが行動しな
 ければならないという自覚、そのためには今は運用ではなく自ら消費をすべきタイミン
 グだということを判断する能力がなかったからです。
・彼らが中心に保有している日本人の金融資産の1%、14兆円でも企業努力でモノ購入
 に向けさせることができれば、政府の景気対策の何倍もの効果があるのです。
・成功のカギは、@高齢者の個別の好みを先入観を排して発見すること、A高齢者が手を
 出す際に使える「言い訳」を明確に用意することに加え、B多ロット少量生産に伴うコ
 スト増加を消費者に転嫁可能な水準に抑えること、になります。 
・問題は格差ではなく貧困だ、格差解消ではなく貧困解消が大事なのだ。
・どうも格差是正と叫んでいる人の中には、金持ちではないけれどもこの最低限のライン
 から考えればまだはるかに恵まれた生活を送っている人も多数いる。そんな連中にまで
 税金を差し上げる必要はない。他方で、本当に最低限のライン以下に落ち込んでいる人
 もどんどん増えているのに、むしろ支援の手が届いていなかったりする。このような事
 態を何とかするには、「格差解消」という相対的な概念を追求するのではなく、「絶対
 的な貧困の解消」、つまりある絶対的な水準の下に落ち込んでしまった貧窮者の救済を
 もっと明確に進めるべきなのです。 
 
ではどうしればいいのか:女性の就労と経営参加を当たり前に
・今の日本では、総人口の3割近い3500万人もの女性が、給料の出ない専業主婦や学
 生や家事手伝いをしています。その中には高齢者の方も多いわけですが、生産年齢人口
 の専業主婦だけを取り出しても1200万人もいらっしゃいます。 
・ところで今退職年代に入りつつある団塊世代のうち、有償労働をしていたのは500万
 人余りです。ということは、生産年齢人口の専業主婦1200万人のうちの4割がとに
 かく1週間に1時間以上お金をもらって働いてくだされば、団塊世代の退職が雇用減・
 所得減という形で日本経済に与えるマイナスインパクトは、なかったことになってしま
 うのです。 
・教育水準が高くて、就職経験が豊富で、能力も高い日本人女性がこれだけいるのに、ど
 うして彼女らを使おうとせずに、先に外国人を連れてこいという発想になるのが。日本
 女性が働くだけで、家計所得が増えて、税収が増えて、年金も安定する。
・一度退職した高齢男性を再雇用しろとおっしゃる方もいらっしゃいましょう。ですが高
 齢男性では内需拡大効果は限定されてしまうのです。孫のためにくらいしかお金を使わ
 ず、後は本当の老後のために蓄えて貯蓄してしまうだけですから。一度退職した高齢者
 男性を再雇用するよりも、現役世代の女性を雇う方があなたの売上も上がるのです。
・日本女性の就労率45%は、世界的にみてもずいぶんと低い水準です。たとえばオラン
 ダでは7割くらいあると聞きます。 
・生産年齢人口増加が続き市場が自動的に拡大していた半世紀、ひたすら生産能力さえ増
 やせば儲かったという体力勝負の時代に、男性中心の軍隊組織で一斉突撃をして成果を
 挙げてきたという成功体験の呪縛から抜け出ない限り、今世紀に生き残る展望は開けて
 きません。 
・日本で一番出生率が低い都道府県はどこでしょう。東京都です。東京は通勤距離が長い
 上に金持ちが多いので、全国の中でも特に専業主婦の率が高い都道府県なのです。逆に
 日本屈指に出生率の高い福井県や島根県、山形県などでは、女性就労率も全国屈指に高
 いのです。
・今の日本に本当に大事なのは、仕事と称して縮小する市場相手に死に物狂いの廉価大量
 生産販売で挑むことではなく、家庭を大事にして再び子供が生まれやすく社会にするこ
 とでしょう。その重要な責務を、女だけに担わせて男は担わないというのは、時代錯誤
 も甚だしい。仕事が大事で家庭が後回しというのは、今世紀の日本ではもはや社会悪の
 レベルに達した考え方です。
  
高齢者の激増に対処するための「船中八策」
・限られた政府のお金を個人を対象とした助成に回す場合には、本当に困窮した人、社会
 的弱者を救済することに集中的に使い、所得に関係なく給付されるような給付金、減税、
 所得控除の類は廃ししていくべきではないでしょうか。  
・親にお金がある子供が、親の力ゆえに不当にアドバンテージを得て有利な地位を得るよ
 うな社会は、国際競争に負けるか、国内の社会秩序を自壊するか、どちらかで滅びる。
・私は能力ある人間が貧困ゆえに抑えつけられることも問題だとは思いますが、彼らが上
 がってこれれない分、それほど能力がないのに地位を得る人間の増えることの方が、さ
 らに一層社会に害悪をなすことだと思っています。能力のない人間が地位保全だけに汲
 々として高い位置に巣くっているのを除去することは、極めて困難ですから。  
・一部自治体がやっているような「親の所得に無関係の一律食費無料化」などというもの
 は、絶対にやるべきではありません。普通に子育てをできるだけの収入のある世帯は、
 人間として生物として、誇りをもって独力で子育てをすべきなのです。
・お年寄りの面倒を若者から徴収した金銭で見るという戦後半世紀固守されてきた方式を、
 今世紀にはあらゆる分野で放棄するしかないという意見です。今後はお年寄りはさらに
 激増、若者は減少という一方的な流れが続きますから、この方式を墨守していては絶対
 にお金は回りません。たとえば年金は個人の納付分だけでなく、政府からの毎年の莫大
 な税金投入によって支えられていますが、これは現役世代の払った税金で今の高齢者の
 面倒を見るということですので、継続は不可能です。  
・そもそも富裕な人間も普通に暮らせるだけの財産のある中流層も、年金受給者であれば
 一律に政府の金銭支援の対象になってきたということ自体がおかしい。