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田舎で生まれ育った自分は、進学や就職のために都市部へそして東京圏へと流出した一人
である。もう何十年間も東京圏と地方との間を行き来していて、「このままだと地方の大
部分は人が住まなくなる」ということを薄々感じてきた。私の生まれた田舎は、高齢者ば
かりを通り越して、その高齢者も減り始めている状況である。もちろん若者はすでに希少
価値的存在である。あと20年も待たなくても、その高齢者層もいなくなり、そうなれば、
わずかに残った若者も、もうそこでの生活を続けることは無理だろうなと思っている。
東京で暮らしていると、地方のことはほとんど視野に入らない。東京で暮らしている者に
とっては、東京=日本であり、東京がすべてなのである。
しかし、そういう東京が、いままで存続できてこれたのも、地方からの若者の人口の流入
が続いてきたからだ。これからの時代は、地方の崩壊によって、東京に流入する若者の数
も減少していく。そうなれば、東京圏の高齢化率も一気に急上昇することになるだろう。
そうなれば、東京圏は、高齢者を受け入れる施設の絶対数が極端に不足する事態となり、
まさに高齢者の生き地獄化する。東京圏に住んでいるから安心と言ってはいられないのだ。
東京圏等に住む中高年者は、今から高齢者用施設を求めて、地方に転出することを真剣に
考えたほうがいいのではないかと思う。それが地方消滅への歯止めにもなるのではないか。

人口急減社会への警鐘
・日本は2008年をピークに人口減少に転じ、これから本格的な人口減少社会に突入す
 る。このまま何も手を打たなければ、2010年に1置く2806万人であった日本の
 総人口は、2050年には9708年万人となり、今世紀末の2100年には4959
 万人と、わずか100年足らずで現在の約40%、明治時代の水準まで急減すると推計
 されている。
・少子化にともなう人口減少は、同時進行した「長寿化」により高齢者数が増え続けたこ
 とで、見かけ上隠されてきた。多くの国民の目は、目前の「高齢化」とそのための対策
 に向けられ、慢性疾患のようにじわじわと忍び寄る少子化が、自分たちの街や暮らしに
 どのような影響を与えるかについては、危機感を募らせることも、認識が共有されるこ
 ともなかった。
・私の試算では、すでに全国794市区町村で高齢者が減少しつつある。「人口減少」は
 将来の問題ではなく、今の問題なのだ。
・日本全体の人口が増加していた時期のように、すべての市区町村が人口を増やすことは
 もはや不可能であり、むしろ、すべての市区町村が人口を減らすと考えたほうがよい。
 そのなかで、医療や交通、教育といった生活に必要なサービスをどう維持していくか、
 道路や橋梁、公民館といったインフラをどう補修していくか、地域の産業や雇用をどう
 開発していくか。
・「人口減少」については、いくつかの誤解がある。正確かつ冷静に認識する必要がある。
 ・第一の誤解:本格的な人口減少は、50年、100年先の遠い将来の話ではないか?
        遠い将来のことではない。すでに高齢者を含めて、人口が急減する深刻
        な事態を迎えている。
 ・第二の誤解:人口減少は、日本の人口過密状態を解消するので、むしろ望ましいので
        はないか?
        日本千代が同じ比率で人口減少していくのではなく、地方は急減するが、
        大都市はいま以上に人口集中が進む。最終的には東京圏の人口も減少に
        転じるが、一時的には人口減少により過密が解消されるどころか、大都
        市圏(特に東京圏)の人口は、現在よりも過密になる。
 ・第三の誤解:人口減少は地方の問題であり、東京は大丈夫ではないか?
        東京が人口を維持できるのは、地方から人口流入があるからである。東
        京の出生率は、きわめて低く、人口再生能力に乏しい。地方の人口が消
        滅すれば、東京への人口流入がなくなり、いずれ東京も衰退する。
 ・第四に誤解:日本全体の人口が少なくなるのだから、東京に人口を集中し、生産性を
        向上させたほうがよいのではないか?
        東京への人口集中は、短期的には生産性を向上させても、長期的には衰
        退を招く。東京を持続可能な都市にするためにも、人口の東京一極集中
        を改善する必要がある。また、東京は今後、超高齢化する。
 ・第五の誤解:近年、日本の出生率は改善しているので、このままいけば自然と人口減
        少は止まるのではないか?
        日本は、今後若年女性数が急激に減少するため、出生率が少々上昇して
        も、出生数は減少し続ける。
 ・第六の誤解:少子化対策はもはや手遅れであり、手の打ちようがないのではないか?
        人口減少がもはや避けられないのは事実だが、将来人口をどの程度維持
        するかは、これからの取り組みにかかっている。
 ・第七の誤解:出生率は、政策では左右されないのではないか?
        国際的に見て低水準の少子化対策を抜本的に強化すれば効果は十分期待
        できる。
 ・第八の誤解:「子育て支援」が十分な地域でも、出生率は向上していないのではない
        か?
        日本の出生率低下には、子育て環境の問題だけでなく、晩婚化や若年層
        の所得問題なども大きく影響している。
 ・第九の誤解:海外からの移民を受け入れれば、人口問題は解決できるのではないか?
        日本を多民族国家に転換するほどの大胆な受け入れをしなければ、出生
        率の低下はカバーできず現実的な政策ではない。
・私たちは、人口が東京一極に集中する社会を「極点社会」と名づけた。
・今なすべきは、人口の「急減」、ひいては「極点社会」の出現を回避し、人口減少のス
 ピードを抑えること、そして豊かな生活が営める社会へ道筋をつけることである。

極点社会の到来
・人口減少は、出生数減少という「少子化」によってもたらされるものだが、その要因と
 しては、未婚化、晩婚化という「結婚行動」の変化と「出生力(夫婦当たりの出生児
 数)」の低下が挙げられる。婚外子がきわめて少ない我が国の場合は「結婚行動」の変
 化が特に大きな影響を与えている。
・従来の出産ピーク年齢であった25〜29歳の女性の未婚率は、1985年に30%を
 超えた後も上昇を続け、2010年には60%を超えるに至っている。
・仮に、16年後の2030年に出生率が2.1に回復するとしよう。それでも人口減少
 が止まり9900万人で安定するのは、さらに60年後の2090年頃になる。「慣性
 の法則」のように、すでに起きてしまった少子化はこれから数十年間にわたって日本に
 影響を与え続けるのである。これは、人口減少のスピードが特に速い地方ではなおさら
 である。日本の事態の深刻さはここにある。
・言うまでもないが、出生率が2.1を切っている限りは人口減少が止まる目途は立たな
 い。
・大都市圏においても、非正規社員が増加するなど、必ずしも魅力ある雇用が増えている
 わけではない。「円高」による製造業の海外移転、「公共事業減少」による建設業の減
 少、そして、高齢者を含めた「人口減少」による消費の低迷が進み、地方には職がない
 から「仕方なく」流出を余儀なくされているのだ。これは地方の経済雇用基盤そのもの
 が崩壊しつつあることを意味しており、地方「消滅プロセス」に入りつつあることを示
 している。
・地方から大都市圏への「人口移動」の特徴は、移動したのが一貫して「若年層」中心で
 あったことである。将来子どもを生む若年層を「人口再生能力」そのものを大都市圏に
 大幅に流出させることとなったのである。その結果、地方は、加速度的に人口減少が進
 む事態となった。
・一方、大都市圏は「若者流入」で人口増となったが、流入した若年層にとって大都市圏
 は、結婚し子どもを生み育てる環境としては必ずしも望ましいものではなかった。地方
 から大都市圏に流入した若年層の出生率は低くとどまっている。結婚しづらい環境があ
 るだけでなく、地方出身者にとっては親が地方にいるため家族の支援が得にくく、また
 マンションやアパートに住む若者にとっては隣近所のつきあいも希薄であるといったこ
 とが理由と考えられる。
・人口が減り続け、やがて人が住まなくなれば、その地域は消滅する。人口減少により地
 域の社会経済や住民の生存基盤そのものが崩壊し、消滅に至るプロセスは明らかになっ
 ていない。 
・いくら出生率を引き上げても、若年女性の流出によるマイナス効果がそれを上回るため、
 人口減少が止まらないのである。こうした地域は消滅する可能性があるといわざるをえ
 ない。 
・今後、地方は新たな人口減少ステージを迎え、高齢者人口が停滞、減少することとなる
 ため、医療・介護ニーズも横ばいないし減少となり、医療、介護の雇用吸収力も停滞、
 減少する時代を迎えるおそれが高い。
・一方、高齢化は地域によってタイムラグがあり、大都市圏では、これまで流入した人口
 が一気に「高齢化」する時期を迎え、医療ニーズと介護ニーズが大幅増加することが見
 込まれる。特に東京圏は2040年までに現在の横浜市の人口に匹敵する「388万人
 の高齢者」が増え、高齢化率35%の超高齢社会となる。生産年齢人口は6割まで減少
 するうえ、人口10万人当たりの医師数や人口当たりの介護施設定員数も低いため、医
 療、介護における人材不足は「深刻」を通り越し、「絶望的」な状況になる。その結果、
 辛うじて地方を支えていた医療・介護分野の人材が地方から東京圏へ大量に流出する可
 能性が高いのである。 
・実に自治体の約5割は、このままいくと将来急激な人口減少に遭遇するのである。全国
 の傾向を見ると、北海道・東北地方の80%程度、ついで山陰地方の約75%、四国の
 約65%の自治体が「消滅可能性都市」に当てはまる。こうした市町村が8割以上を占
 めるのは、青森県、岩手県、秋田県、山形県、島根県の5県にのぼる。
・こうした「地方消滅」はある時点から一気に顕在化していき、気がついたときにはもう
 手遅れとなっている可能性が高い。なぜなら、人口の「自然減」だけならば通常緩やか
 なスピードで進行していくところが、若者層の人口流出による「社会減」が加わること
 で、人口現象が加速度的に進行していくためである。
・大都市圏ではおおむね「社会増」となっているが、それ以外の地方圏ではほとんどの市
 町村で、最大8割以上といった大幅な「社会減}が見込まれる。このような姿は、まる
 で、東京圏をはじめとする大都市圏に日本全体の人口が吸い寄せられ、地方が消滅して
 いくかのようである。その結果現れるのは、大都市圏という限られた地域に人々が凝集
 し、高密度の中で生活している社会である。これを我々は「極点社会」と名づけた。
・地方が消滅し、三大都市圏、特に東京圏のみが生き残る「極点社会」に持続可能性はあ
 るのか。
・大都市圏のみが存在する「極点社会」の延長線上には、日本全体の人口減少がさらに加
 速化していく事態が想定される。まるで宇宙空間で多くの星が一点に吸い寄せられてい
 く現象のようであり、「人口のブラックホール現象」と呼ぶことができよう。
・「極点社会」における大都市には、集積効果を追求する経済構造が作りだされる可能性
 が高いが、これは逆に大きな経済変動に弱い「単一的構造」ということができる。大震
 災などの大規模災害リスクに対する対応という点でも問題がある。「極点社会」が抱え
 る最大の課題の一つとして、首都圏直下型地震をはじめ、一部地域での大規模災害が日
 本全体を麻痺させかねないということがある。 

求められる国家戦略
・金融政策や経済政策といった「マクロ経済」だけでは不十分である。マクロ政策の推進
 は、経済力が突出した東京圏の力をさらに高め、地方との経済・雇用の格差を拡大する
 方向に働き、「地方消滅」を加速させる恐れすらある。
・今日の人口減少・大都市圏集中の事態を招いた点で国の政策責任は免れないが、だから
 といって、この課題を単純な「国VS地方自治体」の構図に落とし込み、国の権限を地方
 自治体に移譲しさえすれば解決するというものではない。単純に地方へ権限移譲するだ
 けでは、大都市圏への集中を速めることはあっても、それを押しとどめる効果はない。
・これまでの地域政策は、どちらかといえば「ハコもの」などハード面に着目してきた。
 今後は、「人」そのものが政策の基軸となる。
 第一は、「人口の維持・反転」を目指すことである。そのためには、「結婚、妊娠、出
 産、子育て」について一貫した支援を行う必要がある。
 第二は、「人口の再配置」である。大都市圏への人口流入の流れを大きく変える「人口
 の再配置」を目指す政策に取り組む。
 第三は、「人材の養成・獲得」である。日本国内の人材の養成とともに、海外の高度人
 材の獲得に積極的に取り組む必要がある。
・人口の減少、特に現役世代の大幅な減少は、税・保険料の負担の増大として跳ね返って
 くる。社会保障をはじめとした公的支出の効率化を進め、現役世代の負担増をできる限
 り抑制していく必要があることはいうまでもない。
・人口減少問題には、長期的かつ総合的な対応が不可欠である。このため、たとえば20
 年間程度を視野に入れた「長期ビジョン」を策定し、それに基づき、子育て支援だけで
 なく、産業・雇用、国土形成、住宅、地方制度などへの総合的な取り組みを内容とする
 「総合戦略」を推進していくことが求められる。

東京一極集中に歯止めをかける
・日本の人口減少には、人口の社会移動が大きく影響している。少子化対策の視点からも、
 地方から若者が大都市へ流出する「人の流れ」を変えることが必要なのである。
・「極点社会」を回避するためには、どこかで防衛線を引く必要がある。これかでもそう
 した努力は行われてきたが、その多くは中途半端で、かつ生産性の低いものであった。
 たとえば、このままでは集落がなくなるからといって、各集落のインフラを充実させて
 人口減少を押しとどめようとしてきた。しかし、すべての集落に十分なだけの対策を行
 う財政的余裕はない。結局、小粒の対策を総花的に行うことになってしまい、防衛線を
 築くには至らなかった。
・財政や人口制約の点からも、「防衛・反転線」となる都市の数には限りがある。そう考
 えていくと、最後の「踏ん張り所」として、広域ブロック単位の「地方中核都市」が重
 要な意味を持ってくる。地方中核都市に資源や政策を集中的に投入し、地方がそれぞれ
 踏ん張る拠点を設けるのである。とはいえ、地方中核都市が単独もしくは突出して存在
 するような地域構造を目指すわけではない。地方中核都市を拠点としつつ、それに接す
 る各地域の生活経済圏が有機的に結びつき、経済社会面で互いに支え合う「有機的は集
 合体」の構造を目指したい。
・地方中核都市に再生産能力があれば、人材と仕事が集まってくる。東京圏に比べて住環
 境や子育て環境も恵まれているから、若者世代の定住が進み、出生率も上がっていくだ
 ろう。それだけでなく、規模の集積が進めば、その広域ブロック全体のビジネスを支え、
 かつ外貨を稼げるだけの頭脳、マネジメント機能も地方中核都市に期待できる。地方中
 核都市が稼げる場所となれば、周辺の都市にも同様の生活・雇用環境が整い、若者世代
 が定住できるようになるはずだ。  
・地方中核都市より規模の小さい自治体においては、人口減少が進むなかで避けられない
 のが「コンパクトシティ」の考え方だろう。コンパクトな拠点間を交通・情報ネットワ
 ークで結ぶ地域構造を構築することにより、行政や医療・福祉、商業などのサービス業
 の効率性や質の向上を図ることが必要だ。 
・地方都市については、コンパクトシティの形成に向けて、市役所などを中心とする「ま
 ちなか」の機能の再整備と、「まちなか」と周辺部をつなぐ地域公共交通ネットワーク
 の整備を一体的に進めることが求められる。
・「まちなか」から離れた集落地域では、地域を守る砦となる「小さな拠点」として商店
 や診療所など日常生活に不可欠な施設や地域活動を行う場を「歩いて動ける範囲」に集
 約するとともに、これと周辺集落を結ぶデマインドバスなどを充実することにより、人
 口減少下でも持続可能な地域づくりを推進する。 
・人口減少やコンパクト化にともなって、公共施設の跡地などの空き地の発生が予想され
 る。こうした土地を活用し、ゆとりある居住空間や防災空間、市民農園などの農地を整
 備したい。「空き家」を活用して、平日は都市で暮らし、週末は地方で住むような「二
 地域居住」やIターン希望者への住宅提供を進めることもできる。 
・現在、若者にとって魅力のある雇用機会が地方に少ないことが挙げられる。従来は大都
 市の大学に行っても、地方の企業や自治体に就職する「Uターン」や「Jターン」を選
 択する若者が多かったが、近年は地方に戻らない若者(特に女性)が増えている。
・東京圏から地方へ、中高年層の移住をいっそう進めるためには、「地方移住関心層」に
 将来的に移住を考える地域を具体的に意識させ、その地域との紐帯を強めてもらうこと
 も必要である。そのために推進すべきなのが「ふるさと納税」である。東京圏在住者に
 特定地域を意識させ、その地域を支える具体的な行動を促すのにこれ以上の仕組みはな
 い。  
・東京圏をはじめ大都市は、今後急速に高齢化が進み、医療や介護サービスが圧倒的に不
 足するおそれが高い。それら大都市の医療・介護サービスの基盤整備を図ることは当然
 だが、同時に、都会に住む高齢者が地方へ住み替えを選択するケースも増加すると予想
 される。こうした流れは、地方の雇用機会の増加にも有効であり、促進すべきである。
・今後一人暮らしの高齢者が急増することから、こうした高齢者の移動、買い物、見守り、
 除雪等のサービスの確保を図る必要がある。その際には、民間インフラ(コンビニ、宅
 配業者等)の活用も視野に入れるべきである。 
・ローカル経済圏の中心産業の多くが人口減少にともないマイナス成長となるが、その一
 方で、「医療・福祉分野」には可能性がある。このままであれば東京圏に需要が集中す
 る結果となるが、地方中核都市という「防衛・反転線」ができあがったならば、そこで
 需要が生まれるはずだ。
・地域資源を活用して、域外市場へ展開を目指す企業の育成を進めるべきである。そのた
 めには、他の地域にない特色を活かすことが重要である。たとえば、地域固有のブラン
 ドで勝負できる地域資源産業として、農林水産物や加工品、ファッション、観光などの
 分野には相当はポテンシャルがあると考えられる。 
・今後は高齢者の資産が相続によって地域から大都市居住する子供たちへ流出していく傾
 向がさらに強まることが予想される。地域ファンドを創設するなど、地域の金融機能を
 維持するための取り組みも必要である。 
・都市で生活困窮に陥っている若者が農林山漁村において農業法人に就労するならば、農
 林水産業の担い手確保だけでなく、若者の自立支援のうえでも意義が大きい。そうした
 若者に対して、就労支援とともに、地域社会との交流の場を設けることが重要である。
・海外では「和食」に対する関心が高く、農林水産業は輸出が期待できる分野である。こ
 のため、クールジャパン機構を通じた地域特産物の海外への売り込みや「ブランド戦略」
 の推進を図るとともに、農林水産物の輸出手続きの迅速化にも取り組む必要がある。
・世界の森林が減少していくなかで、我が国においては戦後営々と植林してきた森林資源
 がまさに「使いごろ」になっている。森林資源を使うことは「手入れ」を進めることに
 もつながり、国土保全上も大きな効果が出る。そのため、住宅や公共建築物への地域木
 材の利用推進、中高層ビル建築にも使用できる木材である国産材CLTの利用拡大、木
 材の輸出促進に取り組むべきである。また、木質バイオマスのエネルギー利用を推進す
 るなど、木のさまざまな部位をもれなく活用することで、地域資源に立脚した、山村地
 域に雇用を生み出す政策を推進していく必要がある。 
・東京圏は、これまで国内の人材や資源を吸収し続けて日本の成長力のエンジンとなって
 きた。しかし、東京圏は将来の超高齢社会への懸念が大きく、何より出生率低下により
 日本の再生産構造を破壊する元凶になってしまっている。これ以上、地方の若者を吸い
 込むだけの「ブラックホール」となってはいけない。 
・東京圏はこのままだと、相当規模の若者の流入が続くことが見込まれる。しかし、これ
 以上の東京一極集中は、首都圏直下型地震の可能性が高い確率で指摘されている以上、
 「災害リスク」の面からも歯止めをかける必要がある。 
・東京圏は、世界有数の国際都市として、地方中核都市と補完的な関係を構築していくこ
 とを指向すべきである。日本は労働力を補完する観点から、外国人受け入れを進める必
 要がある。ただし、単純労働力としてではなく、高度な技術を持った人材に主眼を置く
 べきである。東京圏はそうした海外の人材は資源を大胆に誘致し、世界の多様性を積極
 的に受け入れるベースとなるのである。 

国民の「希望」をかなえる
・近年の人口動向を見ると、若年女性が都市部に集中し、その結果、都市部では女性が男
 性に比べて多く、逆に地方は男性が多くなっており、それぞれ男女比のバランスがとれ
 ていない。企業においても、職種や職場によっては男女のいずれかに偏っていることも
 多い。このような状況を考慮すると、男女の「出会いと結婚」の機会を提供する意義が
 高まっている。 
・日本では、「晩婚化」にともなう「晩産化」が急速に進んでいる。もちろん何歳で出産
 するかという判断は個人の自由に属することではあるが、医学的には憂慮すべき事態で
 あることも事実である。 
・日本の男女は、国際的に見て、妊娠や出産に関する知識水準が低い。「男女とも加齢に
 ともない子供を作る能力が弱まり、また、妊娠中や分娩時のリスクや出生時のリスクが
 増加する」という事実を早い時期に正確に認識することは、国民が自らのライフプラン
 (結婚、妊娠、出産、子育て)を考えるうえで、非常に重要なことである。
・出産直後(産後3,4ヵ月)は、母親への心身両面にわたるサポートが重要な時期に当
 たる。日本ではこうしたサポートが弱く、その結果、母親が子育てに不安を感じたり、
 孤立する状況も見られる。近くに親族など支援者がいない場合でも、安心して子育てが
 できるような「産後ケア」の態勢を整備する必要がある。  
・都市部を中心として、「待機児童」の問題があり、これをできる限り早期に解決する必
 要がある。地方自治体は、株式会社を含む多様な事業者の参入を進めるとともに、保育
 士の確保に取り組みことが求められる。身近な地域において、保育施設などの「子育て
 拠点」の整備に取り組まなければならない。 
・大都市圏においては、3人以上の多子世帯向けの住宅の数が少なく、住居環境の点でも
 多子出産を選択しづらい状況がある。公的住宅やUR(都市再生機構)住宅において多
 子世帯向け住居を確保するなど、多子世帯の住居支援を検討すべきである。
・一人親家庭の援助も喫緊の課題であろう。一人親になっても子育てが続けられるように、
 また、希望するなら再び結婚し子どもを持つことにチャレンジできるような支援を強化
 する必要もある。地域において、一人親家庭のニーズに即応して、相談から各種支援ま
 で包括的に提供できる仕組みを構築することが重要である。また、母子家庭に対して行
 われているさまざまな支援については、必要に応じて父子家庭にも拡大すべきだろう。
・「ワークライフバランス」の考え方をさらに推し進めたものとして、「ワークライフマ
 ネジメント」という考え方を重視すべきである。仕事と生活の両者を「ゼロ・サム」で
 捉えて、いずれかを犠牲にするような「受け身の発想」ではなく、仕事と生活の「相乗
 効果」によって心身ともに豊かな人生を送っていこうとする考え方である。
・65歳以上が高齢者という基準は、すでに変わりつつある。年金支給開始年齢について
 も、現在段階的に65歳に引き上げていくが、これからさらに引き上げるなど、社会保
 障制度全体における「高齢者」の定義の見直しに取り組むべきである。意欲と能力のあ
 る高齢者が、年齢にかかわりなく働くことができる「生涯現役社会」の実現に向けて、
 高齢者にふさわしい多様かつ柔軟な働き方を用意する必要があるからである。
・若者向けの支援のための新たな政策実施で必要とされる費用は、祖父母による孫世代へ
 の支援をはじめ、高齢者世代から次世代への支援を推進する方針で対応すべきである。
 これまでの日本の税制や社会保障制度が、高齢者に偏りがちであった点は否めない。若
 年世代に比べて高齢者世代が多額の金融資産を有している実態を踏まえ、公的年金等控
 除をはじめ、高齢者を優遇する制度の見直しに着手することが求められる。
・子育ては決して家庭のみで行うものではなく、社会が行うものである。豊かな我が国を
 100年先の子孫に引き継ぐためにも、現行制度の見直しへの不断の努力が必要である
 ことはいうまでもない。 
・「終末期ケア」のあり方についても、真剣に議論すべき時期にあると考えられる。終末
 期ケアに多額の税金が使われることが本当に望ましいのか、再考したい。 
・海外からの大規模移民は、人口減少対策として現実的な政策となりえないと考える。
 まずは出生率が改善しない限り、人口減に歯止めはかからない。出生率の不足分をカバ
 −するには、日本を多民族国家に作り変えるような規模の移民が昼用であり、国民的な
 合意が得られるとはとても考えられない。ただし、仮に今後出生率が向上したとしても、
 数十年間は生産年齢人口の減少が避けられない。国際化や生産性向上を図るためにも、
 高度な技術やノウハウを持つ「高度人材」の受け入れは積極的に推進すべきである。
  
未来日本の縮図・北海道の地域戦略
・地方から大都市圏への人口流出は、将来子どもを産む若年層という「人口再生能力」そ
 のものを大幅に流出させ、地域の出生数に甚大な影響を与えた。
・日本の人口減少対策はこれまで「少子化対策」に主眼が置かれ、「社会増減」は経済雇
 用が変われば収まると考えられてきた。しかし、今や「社会増減」も視野に入れ、少子
 化対策だけでなく、地域からの若者を中心とした人口流出に歯止めをかける「地域構造
 対策」の必要性が高まっている。
・若者が他地域に流出する一方で、高齢者が拠点都市に流入する状況は、全国的に見ても
 県庁所在市をはじめとする地域の中核的都市に共通するものである。
・北海道への移住者の話によると、移住の決め手に、子育て環境、生活環境がよいことを
 挙げる声が多い。首都圏に比べて、自然が豊かで、暮らしやすいと評価されている。し
 かし、移住を検討しても実現しない人が多いことも事実であり、その原因としては、若
 者が働く場所が地方にはないことが挙げられる。若者の雇用問題は、有配偶率の低下の
 大きな要因でもある。 

やがて東京も収縮し、日本は破綻する
・ある経済学者が政府の審議会で「生産性の高い東京に若者を集中させないと、日本の経
 済成長はない」と発言するのを目の前で聞いて、こんなことを言う人間が政策に口を出
 しているでは日本はおしまいだ、と衝撃を受けました。
・多くの人はまだ「ああ、相変わらず少子高齢化が続くんだな」ぐらいの認識なんですね。
 地方政治に関わり、人口減少の怖さを体感している身としては、これは非常にまずいと
 感じました。近未来の日本にどんなに恐ろしいことが起ころうとしているのかを、わか
 りやすく提示する必要があった。 
・少子化の進行のみならず、高齢者も減っていく。その結果、日本の街が、地方の小さな
 自治体から順繰りに「消えて」いく。 
・東京圏の生産年齢人口(15〜64歳)は2000年から減少しています。なのに、
 「もう10年以上も前から、東京の現役世代は減っています」という話をすると、みん
 な仰天する。JR東日本とトヨタの方はこの「異変」に気づいていました。
・今、アベノミクス効果で消費が非常に活性化していると盛んに報道されています。とこ
 ろが経済産業省が発表している小売業販売額統計を見ると、2013年1〜8月の累計
 で、前年同期比0.1%のマイナス。10%くらいを占める燃料価格が明らかに値上が
 りしているにもかかわらず、です。どこからか引っ張り出してきた謎の「成長率」の掲
 げて、「日本経済は好転した」と叫んでいる。
・地方はすでに少子化と高齢者人口の減少も始まっているのです。ここでも「高齢化率」
 ではなく、絶対数の減少が大問題になります。 
・地方の中規模のモデル都市で考えると、地域経済はざっくりといって年金、公共事業、
 それ以外の「自前」の産業がそれぞれ3分の1ずつで回っている・ 
・その年金収入は、65歳以上の絶対人口に比例する。日本全体で見ると、その層はあと
 10年、数にして3割増加して、そこで打ち止めなんです。
・中山間部から、すでに減少のステージに入っている。そうなると、高齢者の年金でもっ
 ていたコンビニが潰れ、ガソリンスタンドが潰れる。
・今でさえ、若者たちを低賃金で「使い捨て」にしているのが、東京という都市でしょう。
 そこにさらに職にあぶれた地方の人たちが、大挙して流入してきたら、どうなるのか。
 そんなところに若者を集めれば、少子化はますます拍車がかかるのは必至。家賃の高さ、
 地域サポートの希薄さ。東京などの大都市は、地方に比べて格段に子育てが難しいので
 すから。  
・2030年から40年までの予測では、首都圏の生産年齢人口は14%減。全国平均の
 15%減とほとんど変わらなくなるのです。 
・本来、田舎で子育てすべき人たちを吸い寄せて地方を消滅させるだけでなく、集まった
 人たちに子どもを産ませず、結果的に国全体の人口をひたすら減少させていく。
・東京は「人間を消費する街」そこにもっと若者を集めろなどと言うのは、日本国を消滅
 させる陰謀です。 
・日本は一度右肩上がり、この問題でいえば人口増を前提にした構造ができあがると、絶
 対にそれを変えようとしません。政も官も民も、上に立つ人がかつての成功体験を刷り
 こまれた面々ばかりだからなのしれませんが。 
・トップが、物事を正しいかどうかではなく、周囲がどう動いているかから発想する。
 「お受験エリート」ばかりになったことを痛感しました。彼らこそ諸悪の根源です。
・山間部も含めたすべての地域に人口減抑制のエネルギーをつぎ込むのではなく、地方中
 核都市に資源を集中し、そこを最後の砦にして再生を図っていくのです。わざわざ東京
 に出て行く必要のない若者を地方に踏みとどまらせる、という構想です。
・地方によっては人口が半分になり3分の1になるかもしれないけれど、それ以上は流出
 しないように防衛線を引く。今よりはるかに縮小するけど、ゼロにはしない。ただ、今
 より後退したところに線を引いて、なんとかそれを死守するというのは、これまた日本
 人の苦手な「負け戦」なんですね。
・ここまで少子化が進んだ以上、減るのを前提として、上手にパイを小さくしていくこと
 を考える必要があります。局面に応じて豊かさが最大限になるよう、有効な対策を講じ
 なければなりません。それをやらずに痛みばかり拡大し、最後はブラックホールに呑み
 込まれて一巻の終わり、というのが最悪のシナリオです。
・国民にも発想の転換が必要なのではないでしょうか。大学を出て大企業に入って残業続
 き、という人生を歩んでほしくない。子孫を残せず、消費されるだけの一生よりも、田
 舎に行って年収200万円ぐらいで農業をやっているほうが、よほど幸せだと思うので
 す。ところがそれをやると、「都落ち」的視線にさらされる。そうした風潮は、あるべ
 き人口移動の妨げになります。

人口減社会への処方箋を探る
・「東北の被災地の姿は、将来の日本だ」と言われます。人口減少問題も、まさにそれが
 当てはまる。 
・津波や原発事故は、もともと地域に存在した課題をより先鋭化させた出来ごとにほかな
 りません。これを機に、構造的な課題のほうも解決する復興をしないと、「震災前の弱
 点を抱えたまま立ちあがった被災地」になってしまう危険性がある。  
・地震や台風の後には被災地を「元に戻す」復興が、これまで幾度となく行われてきまし
 た。そこには、人口は増える、経済は発展する、という前提条件があったのです。しか
 し今回の東北では、初めての人口減少、東京一極集中時代のなかで復興の絵姿を描くこ
 とになります。そんな時に、復興の当事者から「東京の逆を」という言葉が出るという
 のは、非常に心強いですね。そういう芽を育でていけば、30年後に向けた、内容の濃
 い、意味ある復興につながっていくのではないでしょうか。
・百貨店に行きたいなら、東京に行けばいい。なくなったものを憂えるのではなく、東京
 にないまちづくりを真剣に考えていくことこそが必要だ。
・まずは「均衡ある国土の発展」という標語を捨てるところからスタートすべきだと思う
 んです。平等主義的均衡なんて成立しないんですから。
・どうしても易きに流れがちになる。先送りしたあげく、結局従来方針どおりに毛の生え
 たような絵図面になるのが、これまでの多くのパターンでした。
・直近の2010年の出生動向基本調査では、未婚女性の結婚希望率が89.4%、欲し
 い子どもの数は平均2.12人。既婚夫婦の「理想の子ども数」は平均2.42人で、
 「予定子ども数」が2.07人という結果が出ています。つまり、若い日本人は、平均
 すると最低2人は子どもがほしい、と思っているんですね。  
・子育て世代の価値観の変化というものも、しっかり見る必要があると思うのです。昔は
 あまり後先考えずに子どもを産んだのかもしれないけど、今は収入も含めて自らの将来
 を冷静に分析し、「大丈夫かな」と考える、現実的な感覚の人がほとんどです。
・我々が描く最悪のシナリオは、地方から東京への人口流入に歯止めがかからず、やがて
 地方の都市が「消滅」する一方、東京が超過密都市として残る「極点社会」になること
 です。そうならないために不可欠なのは、地方が流出を止める「ダム機能」を持つ、具
 体的には地域に魅力ある拠点都市を設け、そこに人口をつなぎとめることです。
・人口流入が続いているのだからとりあえずノープロブレムだろう、というのはとんでも
 ない思い違いです。たとえば「介護待機老人」が現状で4万3000人います。
 2040年には後期高齢者が倍になり、逆に若年層は4割減る。どんな世界になってい
 るのか、見当もつきません。   
・東京に限っては少子化対策などでは足りず、過密を解決に向かわせるための、高齢者を
 はじめとした「人口の逆流」を真剣に考える必要があります。おそらく東京都だけで解
 決できる課題ではないと思いますが、「本丸」の厳しい状況をしっかり認識して、少し
 でも余力を蓄える方策を考える必要があるように思います。  

競争力の高い地方はどこが違うのか
・日本はやはり結婚、出産、育児に厳しい社会です。社会的な環境の問題が少子化の大き
 な要因になっているのは間違いないでしょう。子どもを持つと、自由が束縛されて嫌だ
 という人も多い。経済的理由によって子どもを持たないという人も多いし、子育てが女
 性まかせになっていて、母親に負担が集中しすぎることから子どもを持ちたくないとい
 う人も多い。 
・希望しながらも社会的、経済的は制約が多くて子どもを持てない人も多い。だとすれば、
 その制約を緩和するのは、政府の仕事ではないでしょうか。子どもには社会の将来を担
 っていくといった公的利益をもたらす性格もありますから、国や自治体が子育てにもっ
 と手厚いサポートをしなければなりません。 
・地方の場合、結婚や出産の抑制には経済的要因や安定した雇用が少ないことが強く影響
 していることが多い。問題は大都市圏です。たとえば東京は出生率が全国で一番低いに
 もかかわらず、切実な問題と感じていないように見えます。若年層が流入していますか
 ら、なんとなく大丈夫と思ってしまうのか。
・大事なのは、企業であり、男性を含めた働き方、そして暮らしを変えることまでが求め
 られているということです。日本はこれまで、仕事のためであれば、家庭生活は犠牲に
 しても仕方がないという面もありました。労働時間にしても、転勤の問題にしてもそう
 です。単身赴任がこれだけ多い国は、世界中でも珍しい。
・男が外で働いて、女が家庭を守るといった性別役割分担の強い国では、出生率が低い。
 男女が共に働き、共に家庭責任を負っていけるように働き方改革、暮らし改革を進めて
 いるところが出生率は高まっている。  
・東京の場合、労働時間の長さに加えて、通勤時間が長すぎるのが問題です。だから、い
 ったん出社した後、子どもが帰ってくる頃に自宅に戻り、もう一度夕方に出勤するとい
 うようなことが不可能になる。 
・1990年代の中頃から、東京と地方との雇用面における差が顕著になってきています。
 第一にグローバル化の影響。地方に人を留める役割を担っていた大規模生産工場が海外
 に移転して雇用が失われた。さらに、景気が低迷して生産量も落ち、製造業が機械化に
 よって就業者を減らしていった。第二に地方では政府が財政的に作り出してきた雇用が
 非常に大きくて、こういったものが減った。公共事業、社会保障給付、それから公務員
 数も削減されました。 
・近年、地方の雇用を作り出しているのは、もっぱら医療や介護の分野です。しかし、す
 でに65歳以上の高齢人口が減少を始めた市町村は全体の2割を超え、今後、高齢者比
 率は上昇しても、高齢者の絶対数は減少する地域が増加しますから、雇用拡大について、
 これからの地域では医療・介護分野に多くを期待することはできない。第三にサービス
 産業などでは、多くの場合、空間的にも時間的にも同時性が働き、たくさんの消費者が
 近くにいないと経営が成り立たないといった特性がある。第三次産業の雇用が全体の7
 割を占めるようになった今日、この影響が強く現れ、集積のメリットを活用して生産性
 の高い魅力ある企業が大都市に集中するようになった。
・これからは、製造業にしろ、サービス産業にしろ、外部依存型ではなく、地域特性を活
 かした内発的自立的な雇用を作り出していけなければならない。製造業でも、大規模生
 産工場は海外移転しましたが、技術力のある工場、あるいは競争力を持っている工場は、
 むしろ雇用を増やしています。
・どこの国でも雇用のある大都市に人口は集中しますが、日本ではこの傾向が強く、とく
 に近年、東京への一極集中が顕著です。雇用機会のあるところに人が移ることは短期的
 には雇用の少ない地方の失業問題を緩和し、地域間所得格差を縮小することに役立つが、
 長期的には過疎化や地方の存続可能性の問題を引き起こることになる。
・個別の企業だけなら、そこに立地しなくてはならない理由はない。あくまでも産業集積
 を作らなければ、地域の再生には結びつかない。  
・フィンランドには「ネウボラ」というワンストップサービス、相談拠点があります。そ
 こへ行くと、子育てに関するあらゆる悩みを聞いてくれて、専門家が弁護士に話をつな
 いでくれたり、保育所を紹介してくれたりする。こうした仕組みの日本版をぜひ作って
 ほしい。  
  
おわりに
・東京は超高齢社会を迎える。現時点ですでに東京都の介護待機者は4.3万人にのぼり、
 今後さらに増えていくことが予想される。この問題の解決は、東京だけでは難しい。居
 住地をどこにするのかは、個人の自由であり、移住は強制できないが、国土全体を俯瞰
 しながら、国民一人ひとりの選択の結果が最適な人口配置となるよう東京と地方が協力
 し、環境を整備していくことが必要である。
・財政を全国の市町村に満遍なく振り分けるのではなく、圏域単位に有望な産業や雇用の
 芽を見出し、若い人たちの雇用の場の開拓に集約して用いるということが必要だ。どの
 ような産業開発雇用創出を行うかは、地域がどのような立地にあり、どのような資源、
 資産を有するかにより異なる。多様な情報やビッグデータを用い、客観的かつ冷静に分
 析したうえで、地域が決めるべきである。
・施設の集約化、多機能化はもちろんのこと、自治体間の連携により、図書館や公民館と
 いったものを相互に分担し、「共同化」していくような取り組みも必要だろう。
・戦後、国民所得の向上とともに日本全国で都市化が進み、地方であっても地縁や血縁は
 薄れてきている。家族のあり方も、三世帯同居のような形態は少なくなり、核家族化が
 進んだ。現在は、「核」ですらない独居世帯が、若年者・高齢者双方で急速に数を増や
 している。出産・育児、介護という問題に対しては、公的なサービスの拡大とともに、
 このように離れてしまった家族を結び、相互に支え合える仕組みを再構築していく必要
 がある。そのためには、「スープの冷めない距離」とはいかなくても、親世帯の住居か
 らせめて車で1時間ぐらいのところに若者がとどまることが必要である。故郷と日常的
 に関係を持つことも「ダム」として拠点都市を整備することが求められる。